説明

リン含有フェノール樹脂、該樹脂の製造方法、該樹脂を用いたリン含有エポキシ樹脂組成物および該組成物の硬化物

【課題】リン酸化合物の析出の少ない有用なリン含有フェノール樹脂、および該樹脂を必須成分として用いエポキシ樹脂を配合してなるリン含有エポキシ樹脂組成物およびその硬化物を提供する。
【解決手段】下記化学式(3)で示される化合物


と、エポキシ樹脂類を反応して得られる、リン含有量が2重量%〜9重量%のリン含有フェノール樹脂であって、化学式(3)で示される化合物の出発物質であるベンゾキノンのゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定されるクロマトグラム上のピーク面積(A)と(A)の成分より高分子側のピーク面積(B)およびピーク面積(A)とピーク面積(B)の合計面積(C)において、ピーク面積(B)を合計面積(C)で除した値が8面積%以下であることを特徴とするリン含有フェノール樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子部品に用いられる封止材、成形材、注型材、接着剤、電気絶縁塗料材料などとして有用な、リン化合物の析出の少ないリン含有フェノール樹脂、およびその製造方法と、該樹脂を必須成分として用いエポキシ樹脂を配合してなるリン含有エポキシ樹脂組成物およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は接着性、耐熱性、成形性に優れていることから電子部品、電気機器、自動車部品、FRP、スポーツ用品などに広範囲に使用されている。特に、電子部品、電気機器に使用される銅張積層板や封止材には火災の防止、遅延などといった安全性の観点から難燃性が要求され、従来からこれらの特性を有する臭素化エポキシ樹脂などが使用されている。エポキシ樹脂にハロゲン、特に臭素を導入することにより難燃性が付与されること、エポキシ基は高い反応性を有し、優れた硬化性が得られることから臭素化エポキシ樹脂は有用な電子、電気材料として位置づけられている。
【0003】
しかし最近の電子機器を見ると、軽量化、小型化、回路の微細化の傾向が強くなってきている。このような要求下において、比重の大きいハロゲン化物は最近の軽量化傾向の観点からは好ましくなく、また、高温で長期にわたって使用した場合、ハロゲン化物の解離が起こり、これによって微細な配線を腐食するおそれがある。さらに使用済みの電子部品、電気機器の燃焼の際にハロゲン化物などの有害化合物を発生し、環境安全性の視点からもハロゲンの利用が問題視されるようになってきた。
【0004】
最近ではその代替材料として、水酸化アルミニウムなどの無機材料、リン化合物、窒素化合物などの検討が数多くなされ、特にそのなかでも近年、リン化合物を用いた難燃化処方が検討されている。エポキシ樹脂を難燃化するリン化合物としてはリン酸エステルや赤リンなどが開示されているが、リン酸エステルは加水分解反応が起こるため、赤リンは高温・多湿雰囲気においてリン酸が発生し、耐マイグレーション性に影響を与えるため、長期信頼性に問題があった。そのため、高温多湿雰囲気下においてもリン酸が遊離しない分子構造を有する非特許文献1〜2および特許文献1で開示されている化学式(3)で示される化合物を用いた難燃化が検討されている。
【0005】
【化1】

【0006】
化学式(3)で示される化合物を用いて難燃性を賦与する方法について、硬化剤として硬化性樹脂組成物に添加する方法が特許文献2〜特許文献4に開示されており、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤に対して化学式(3)で示される化合物を所定量添加して得られる硬化性樹脂組成物およびその硬化物は難燃性を有すると記載されている。特許文献5には、エポキシ樹脂に配合することにより難燃性、耐熱性が向上することが記載されている。しかしながら、この化学式(3)で示される化合物は結晶性が極めて強く、溶剤にはほとんど溶解しない為、エポキシ樹脂を均一に硬化させるためには、結晶が析出しない分量を超えて配合することができず、難燃性を賦与するための主たる成分としては不足し、難燃性を補助する程度にしか使用できないという問題が特許文献5に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−126293号公報
【特許文献2】特開2000−212391号公報
【特許文献3】特許3108412号公報
【特許文献4】特開2001−040181号公報
【特許文献5】特開2002−249540号公報
【特許文献6】特開2003−040969号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】I.G.M.Campbell and I.D.R. Stevens, Chemical Communications, 第505−506頁(1966年)
【非特許文献2】(Zh. Obshch.Khim.), 42(11), 第2415−2418頁(1972)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者らは難燃性を付与するため主たる成分として化学式(3)で示される化合物をエポキシ樹脂に配合しても化学式(3)で示される化合物の結晶が析出しない樹脂組成物について種々検討した結果、本発明を完成したもので、本発明の目的は難燃性付与について充分な量の化学式(3)で示される化合物をエポキシ樹脂に配合しうるリン含有フェノール樹脂、該樹脂の製造方法および該樹脂を用いたリン含有エポキシ樹脂組成物およびその硬化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明者らは化学式(3)で示される化合物の合成方法に遡り鋭意研究を重ねた結果、従来技術では得られない結晶性が低く純度は高い化学式(3)で示される化合物を得る製造方法を見出し、この製造方法により得られる化学式(3)で示される化合物とエポキシ樹脂の反応によって課題であった結晶性が著しく低いリン含有フェノール樹脂を得ることが出来た。
【0011】
すなわち、本願発明の要旨は下記化学式(1)で示される化合物
【0012】
【化2】

と下記化学式(2)で示される化合物
【0013】
【化3】

とを反応して得られる下記化学式(3)で示される化合物
【0014】
【化4】

と、エポキシ樹脂類を反応して得られる、リン含有量が2重量%〜9重量%のリン含有フェノール樹脂であって、前記化学式(1)で示される化合物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、下記条件で測定されるクロマトグラム上のピーク面積(A)と(A)の成分より高分子側のピーク面積(B)およびピーク面積(A)とピーク面積(B)の合計面積(C)において、ピーク面積(B)を合計面積(C)で除した値が8面積%以下であることを特徴とするリン含有フェノール樹脂である。
【0015】
(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定条件)
分析カラムとして、排除限界分子量400,000、理論段数16,000、長さ30cmと排除限界分子量60,000、理論段数16,000、長さ30cm及び排除限界分子量10,000、理論段数16,000、長さ30cmとを直列に用い、カラム室の温度を40℃とし、検出器として吸光度検出器を使用し、測定波長は400nmとし、溶離液としてテトラヒドロフランを1ml/minの流速とし、サンプルは、化学式(1)で示される化合物のテトラヒドロフランの1%溶液を調製して測定する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、リン含有フェノール樹脂において結晶性がなく溶剤溶解性に優れているという効果を奏するだけではなく、収率・色相・外観ともに良好で均一なリン含有フェノール樹脂を得ることが出来た。また、本発明のリン含有フェノール樹脂を用いた硬化性樹脂組成物は難燃性を有し、耐熱性も高かった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の合成例1で用いた化学式(1)で示される化合物のゲルパーミエーションクロマトグラフィーのクロマトグラムである。ピーク面積(B)をピーク面積(A)と(B)の合計面積(C)で除した値は13.2面積%である。
【図2】本発明の合成例1で用いた化学式(1)で示される化合物のゲルパーミエーションクロマトグラフィーのクロマトグラムである。ピーク面積(B)をピーク面積(A)と(B)の合計面積(C)で除した値は3.9面積%である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
化学式(1)で示される化合物は前述の通り安定な化合物ではなく、室温などの通常の状態で保管しても経時変化を起こし、分子量の大きな化合物に転化する。一般に市販されているものを上記の分析方法にて高分子成分を定量すると、全ピーク面積に対しておおよそ12面積%から15面積%含有しており、また、高分子成分を除去しても長期の保存により8面積%を越えることがある。この高分子成分が式(3)で示されるリン含有フェノール化合物を製造する工程で副反応などを引き起こし、得られるリン含有フェノール化合物の純度低下を起こすことを見出したのである。したがって本発明者らは式(1)で示される化合物に含まれる高分子化合物の含有量を特定量以下にした化合物を反応に用いることにより、式(3)で示されるリン含有フェノール化合物を高純度でかつ高収率で得られることを見いだした。得られたリン含有フェノール化合物とエポキシ樹脂を反応して得られる本発明のリン含有フェノール樹脂は硬化不良や硬化時間の遅延など生産性に影響を及ぼさないことを見出したものである。
【0019】
本発明で用いる化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物は、化学式(1)で示される化合物と化学式(2)で示される化合物を反応して得られるが、化学式(1)で示される化合物に含まれる高分子成分は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて特定の条件下で測定される全ピーク面積に対して8面積%以下である。化学式(1)で示される化合物に含まれる高分子成分を除去したものを使用して、化学式(2)で示される化合物を反応することによって化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物を、高純度かつ高収率で得ることができ、さらにこのリン含有フェノール化合物をエポキシ樹脂と反応して得られるリン含有フェノール樹脂の色相および外観、すなわち結晶の析出による濁りおよび微小なゲル状物質による濁り、硬化物の耐熱性等を著しく改善することが可能になる。
【0020】
化学式(1)で示される化合物に含まれる高分子成分の含有量は、8面積%以下、好ましくは、6面積%以下であり、さらに好ましくは、4面積%以下である。この化合物の含有量が8面積%を越える化学式(1)で示される化合物と化学式(2)で示される化合物とを反応して得られる化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物とエポキシ樹脂を反応して得られるリン含有フェノール樹脂は色相が悪化し、またそのリン含有フェノール樹脂を必須成分してエポキシ樹脂を配合して得られるリン含有エポキシ樹脂組成物とその硬化物も色相が悪化し、さらには微細なゲル状の物質に由来する濁りを生じてしまう。また、エポキシ樹脂と硬化してなる硬化物の耐熱性が低下するなどの問題がある。
【0021】
本発明で用いられる化学式(1)で示される化合物は、製造後の抽出、洗浄、再結晶、蒸留、昇華などの精製操作により前記高分子成分の含有量を低減することができる。経時変化などにより含有量が8面積%を越えた場合でも、抽出、洗浄、再結晶、蒸留、昇華などの精製操作によりこの含有量を8面積%以下とすることができる。特に、容易な精製方法として、化学式(1)に示される化合物と前記高分子成分との溶剤に対する溶解性の差を利用して、前記高分子成分を濾過などにより、濾別する方法が容易な方法である。
【0022】
化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物の製造方法を具体的に例示する。化学式(1)で示される化合物および化学式(2)で示される化合物を溶媒に別々の容器で溶解し、化学式(1)で示される化合物の溶液をフィルターにより高分子成分を濾過により除去しながら直接化学式(2)で示される化合物の溶液に10分から10時間、好ましくは10分から5時間、さらに好ましくは10分から3時間かけて滴下し、逐次反応することで、前記高分子成分を新たに発生することなく化学式(1)で示される化合物を反応系に供給することができる。
【0023】
化学式(1)で示される化合物に含有する高分子成分が溶解し、濾別されずに通過する事を抑えるため、溶解温度および濾過温度は60℃以下、好ましくは、40℃以下とすることが望ましい。化学式(2)で示される化合物の溶液を60℃から150℃で保持した状態で化学式(1)で示される化合物の濾過された溶液を滴下することでこの反応は逐次進行し、60℃以上好ましくは80℃以上、さらに好ましくは、100℃以上で保持することにより反応し、化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物を得ることができる。
【0024】
化学式(1)、化学式(2)で示される化合物を溶解する際に用いるカルボニル基を含有しない溶媒とは、化学式(1),化学式(2),化学式(3)で示される化合物に対して不活性なもので、沸点35℃〜150℃、誘電率10以下、より好ましくは5以下のものが好ましい。具体的にはトルエン、キシレン、n−ヘキサンなどの炭化水素類、ジオキサンなどのエーテル類などが挙げられる。これらの溶媒はここに挙げたものに限定されるものではなく、2種類以上使用してもよい。ケトン類などのカルボニル基を有するものは式(2)で示される化合物と反応する可能性があるため好ましくない。
【0025】
また、化学式(1)で示される化合物を溶解する溶媒と化学式(2)で示される化合物を溶解する溶媒がそれぞれ異なっていてもよい。ただし、いずれにしても化学式(1)で示される化合物と高分子成分との溶解性の差が重要であり、それをコントロールするのに特に重要な要素は化学式(1)で示される化合物を溶解する溶媒種の選択と溶解温度である。さらに、高分子成分の含有量を特定量以下にする手段は濾過に限られるものではなく、再結晶、昇華などの精製法を利用してもよい。
【0026】
反応終了後は化学式(3)で示される化合物が析出しているため、固液分離装置により化学式(3)で示される化合物を分離する。この際、溶媒中に化学式(1)又は化学式(2)で示される化合物が微量溶解しているため、分離した化学式(3)で示される化合物を溶媒で洗浄することによって純度を更に向上することが出来る。また、イオン性不純物に対しては水洗することでイオン性不純物を低減することが出来る。
【0027】
高純度、高収率で得られた化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物とエポキシ樹脂を反応してリン含有フェノール樹脂を得る際に用いるエポキシ樹脂類は、1分子中に2個のグリシジル基を持ったものが望ましい。1分子中に3つ以上のグリシジル基を有するエポキシ樹脂を用いてリン含有フェノール樹脂を得る場合、配合によっては反応の途中でゲル化する可能性があるのでその処方には充分な検討を要するが、使用することは可能である。具体的にはエポトートYDC−1312、エポトートZX−1027(東都化成株式会社製 ヒドロキノン型エポキシ樹脂)、エポトートZX−1251(東都化成株式会社製 ビフェノール型エポキシ樹脂)、エポトートYD−127、エポトートYD−128、エポトートYD−8125、エポトートYD−825GS、エポトートYD−011、エポトートYD−900、エポトートYD−901(東都化成株式会社製 BPA型エポキシ樹脂)、エポトートYDF−170、エポトートYDF−8170、エポトートYDF−870GS、エポトートYDF−2001(東都化成株式会社製 BPF型エポキシ樹脂)、エポトートYDPN−638(東都化成株式会社製 フェノールノボラック型エポキシ樹脂)、エポトートYDCN−701(東都化成株式会社製 クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)、エポトートZX−1201(東都化成株式会社製 ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂)、NC−3000(日本化薬株式会社製 ビフェニルアラルキルフェノール型エポキシ樹脂)、EPPN−501H、EPPN−502H(日本化薬株式会社製 多官能エポキシ樹脂)エポトートZX−1355(東都化成株式会社製ナフタレンジオール型エポキシ樹脂)、エポトートESN−155、エポトートESN−185V、エポトートESN−175(東都化成株式会社製 β−ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂)、エポトートESN−355、エポトートESN−375(東都化成株式会社製 ナフタレンジオールアラルキル型エポキシ樹脂)、エポトートESN−475V、エポトートESN−485(東都化成株式会社製 α−ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂)等の多価フェノール樹脂等のフェノール化合物とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、エポトートYH−434、エポトートYH−434GS(東都化成株式会社製 ジアミノジフェニルメタンテトラグリシジルアミン)等のアミン化合物とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、エポトートYD−171(東都化成株式会社製 ダイマー酸型エポキシ樹脂)等のカルボン酸類とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、エポトート FX−289B、エポトートFX−305(東都化成株式会社製 リン含有エポキシ樹脂)、フェノトートERF−001(東都化成株式会社製 リン含有フェノキシ樹脂)等のエポキシ樹脂をリン含有フェノール化合物などの変性剤と反応して得られるリン含有エポキシ樹脂類などが挙げられるが、公知慣用であればこれらに限定されるものではなく単独で使用してもよく、あるいは2種類以上使用しても良い。
【0028】
高純度、高収率で得られた化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物とエポキシ樹脂を反応してリン含有フェノール樹脂を得る際に、化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物以外のフェノール類をその特性を損なわない範囲で併用してもよい。ここで用いるフェノール類は、1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を持ったものが望ましい。1分子中に1個のフェノール性水酸基を持ち、他に活性な官能基を持たないものを用いると、耐熱性、難燃性に影響を及ぼすおそれがある。フェノール類の具体例としてはビスフェノールA、ビスフェノールFなどに代表されるビスフェノール類、ビフェノール、ナフタレンジオール、ヒドロキノン、レゾルシノール、カテコールなどのフェノール類、フェノールノボラックなどに代表されるノボラック樹脂およびレゾール樹脂、キシリレン骨格を有するアラルキル樹脂、および(化学式(2)で示される化合物とナフトキノンの反応物)などが挙げられるが、公知慣用であればこれらに限定されるものではなく単独で使用してもよく、あるいは2種類以上使用しても良い。
【0029】
高純度、高収率で得られた化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物とエポキシ樹脂類とを反応して得られるリン含有フェノール樹脂の合成方法としては、通常の多官能フェノール類とエポキシ樹脂類との反応と同様に、式(3)で示されるリン含有フェノール化合物とエポキシ樹脂類を仕込み、溶融加熱して撹拌下反応をおこなう。反応温度は100℃〜200℃である。この反応が遅い場合は必要に応じて触媒を使用して生産性の改善を図ることができる。また、反応時の粘度が高い場合は必要に応じて溶媒を用いることができる。
【0030】
具体的な触媒としてはベンジルジメチルアミンなどの第3級アミン類、テトラメチルアンモニウムクロリド等の第4級アンモニウム塩類、トリフェニルホスフィン、トリス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィンなどのホスフィン類、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド等のホスホニウム塩類、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類等各種触媒を使用できる。また、反応溶媒の具体例はベンゼン、トルエン、キシレン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどが挙げられるがこれらに限定されるものではなく、単独で使用してもよいし2種類以上使用してもよい。
【0031】
本発明のリン含有フェノール樹脂のリン含有量は好ましくは2重量%〜9重量%、より好ましくは2.5重量%〜8.5重量%である。リン含有フェノール樹脂中のリン含有量が2重量%以下になると、難燃性を維持できないおそれがある。また、リン含有量が9重量%を越える場合はリン含有フェノール化合物が多く残存するため、これを配合し、溶液とした場合は、式(3)で示されるリン含有フェノール化合物が析出するおそれがある。したがって、リン含有量は2重量%〜9重量%に調整することが望ましい。
【0032】
本発明のリン含有フェノール樹脂を必須成分とし、エポキシ樹脂を配合してなる硬化性樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂は、少なくとも1分子中に2個以上のグリシジル基を持ったものが望ましい。具体的にはエポトートYDC−1312、エポトートZX−1027(東都化成株式会社製 ヒドロキノン型エポキシ樹脂)、エポトートZX−1251(東都化成株式会社製 ビフェノール型エポキシ樹脂)、エポトートYD−127、エポトートYD−128、エポトートYD−8125、エポトートYD−825GS、エポトートYD−011、エポトートYD−900、エポトートYD−901(東都化成株式会社製 BPA型エポキシ樹脂)、エポトートYDF−170、エポトートYDF−8170、エポトートYDF−870GS、エポトートYDF−2001(東都化成株式会社製 BPF型エポキシ樹脂)、エポトートYDPN−638(東都化成株式会社製 フェノールノボラック型エポキシ樹脂)、エポトート YDCN−701(東都化成株式会社製 クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)、エポトートZX−1201(東都化成株式会社製 ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂)、NC−3000(日本化薬株式会社製 ビフェニルアラルキルフェノール型エポキシ樹脂)、EPPN−501H、EPPN−502H(日本化薬株式会社製 多官能エポキシ樹脂)エポトートZX−1355(東都化成株式会社製 ナフタレンジオール型エポキシ樹脂)、エポトート ESN−155、エポトートESN−185V、エポトートESN−175(東都化成株式会社製 β−ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂)、エポトートESN−355、エポトート ESN−375(東都化成株式会社製 ジナフトールアラルキル型エポキシ樹脂)、エポトートESN−475V、エポトートESN−485(東都化成株式会社製 α−ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂)等の多価フェノール樹脂等のフェノール化合物とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、エポトートYH−434、エポトートYH−434GS(東都化成株式会社製 ジアミノジフェニルメタンテトラグリシジルアミン)等のアミン化合物とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、エポトートYD−171(東都化成株式会社製 ダイマー酸型エポキシ樹脂)等のカルボン酸類とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、エポトートFX−289B、エポトートFX−305(東都化成株式会社製 リン含有エポキシ樹脂)、フェノトートERF−001(東都化成株式会社製 リン含有フェノキシ樹脂)等のエポキシ樹脂をリン含有フェノール化合物などの変性剤と反応して得られるリン含有エポキシ樹脂類などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく2種類以上併用しても良い。
【0033】
本発明のリン含有フェノール樹脂を必須成分とし、エポキシ樹脂を配合してなる硬化性樹脂組成物は必要に応じてエポキシ樹脂をリン含有フェノール化合物に対して過剰に配合し、過剰となったエポキシ基と反応せしめるための硬化剤を使用してもよい。硬化剤としては、各種フェノール樹脂類や酸無水物類、アミン類、ヒドラジッド類、酸性ポリエステル類、アミノトリアジン類、その他公知慣用で使用されるエポキシ樹脂用硬化剤を使用することができ、これらの硬化剤は1種類だけ使用しても単独で使用してもよいし2種類以上使用しても良い。
【0034】
本発明のリン含有フェノール樹脂を必須成分とし、エポキシ樹脂等を配合してなる硬化性樹脂組成物には必要に応じて第3級アミン、第4級アンモニウム塩、ホスフィン類、イミダゾール類等の硬化促進剤を配合することができる。
本発明のリン含有フェノール樹脂を必須成分とし、エポキシ樹脂等を配合してなる硬化性樹脂組成物には、粘度調整用として有機溶剤も用いることができる。用いることができる有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類等が挙げられ、これらの溶剤のうち1種類だけ使用しても2種類以上使用しても良く、エポキシ樹脂濃度として30〜80重量%の範囲で配合することができる。
本発明のリン含有フェノール化合物を必須成分とし、エポキシ樹脂を配合してなる硬化性樹脂組成物には必要に応じて充填材を配合することも出来る。具体的には水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、焼成タルク、クレー、カオリン、酸化チタン、ガラス粉末、微粉末シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、シリカバルーン等の無機フィラーが挙げられるが、顔料等を配合しても良い。これらについては公知慣用のものを使用でき、単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。一般的には無機充填材を用いる理由として、耐衝撃性の向上が挙げられる。
【0035】
また、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物を用いた場合、難燃助剤として作用し、リン含有量が少なくても難燃性を確保することができる。特に配合量が10%以上の場合、耐衝撃性の効果が高い。しかしながら、配合量が150%を越えると積層板用途として必要な項目である接着性が低下する。また、ガラス繊維、パルプ繊維、合成繊維、セラミック繊維等の繊維質充填材や微粒子ゴム、熱可塑性エラストマーなどの有機充填材を上記樹脂組成物に含有することもできる。これも同様にこれらに限定されるものではなく、公知慣用のものを使用でき、単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0036】
上記のような硬化性樹脂組成物にて得られる電子回路基板用材料としては、樹脂シート、樹脂付き金属箔、プリプレグ、積層板が挙げられる。樹脂シートを製造する方法としては、特に限定するものではないが、例えばポリエステルフィルム、ポリイミドフィルムなどの硬化性樹脂組成物に溶解しないキャリアフィルムに、上記のようなリン含有エポキシ樹脂組成物を好ましくは5〜100μmの厚みに塗布した後、100〜200℃で1〜40分加熱乾燥してシート状に成型する。一般にキャスティング法と呼ばれる方法で樹脂シートが形成されるものである。このときリン含有エポキシ樹脂組成物を塗布するシートにはあらかじめ離型剤にて表面処理を施しておくと、成型された樹脂シートを容易に剥離することが出来る。ここで樹脂シートの厚みは5〜80μmに形成することが好ましい。
【0037】
次に、上記のような硬化性樹脂組成物にて得られる樹脂付き金属箔について説明する。金属箔としては、銅、アルミニウム、真鍮、ニッケル等の単独、合金、複合の金属箔を用いることができる。厚みとして9〜70μmの金属箔を用いることが好ましい。リン含有フェノール樹脂を含んでなる難燃性樹脂組成物及び金属箔から樹脂付き金属箔を製造する方法としては、特に限定するものではなく、例えば上記金属箔の一面に、上記硬化性樹脂組成物を溶剤で粘度調整した樹脂ワニスをロールコーター等を用いて塗布した後、加熱乾燥して樹脂成分を半硬化(Bステージ化)して樹脂層を形成することにより得られるものである。樹脂成分を半硬化するにあたっては、例えば100〜200℃で1〜40分間加熱乾燥することができる。ここで、樹脂付き金属箔の樹脂部分の厚みは5〜110μmに形成することが望ましい。
【0038】
次に、上記のような硬化性樹脂組成物を用いて得れられるプリプレグについて説明する。シート状基材としては、ガラス等の無機繊維や、ポリエステル等、ポリアミン、ポリアクリル、ポリイミド、ケブラー等の有機質繊維の織布又は不織布を用いることができるがこれに限定されるものではない。硬化性樹脂組成物及び基材からプリプレグを製造する方法としては、特に限定するものではなく、例えば上記基材を、上記エポキシ樹脂組成物を溶剤で粘度調整した樹脂ワニスに浸漬して含浸した後、加熱乾燥して樹脂成分を半硬化(Bステージ化)して得られるものであり、例えば100〜200℃で1〜40分間加熱乾燥することができる。ここで、プリプレグ中の樹脂量は、全体に対して30〜80重量%とすることが好ましい。
【0039】
次に、上記のような樹脂シート、樹脂付き金属箔、プリプレグ等を用いて積層板を製造する方法を説明する。プリプレグを用いて積層板を形成する場合は、プリプレグを一又は複数枚積層し、片側又は両側に金属箔を配置して積層物を構成し、この積層物を加熱・加圧して積層一体化する。ここで金属箔としては、銅、アルミニウム、真鍮、ニッケル等の単独、合金、複合の金属箔を用いることができる。積層物を加熱加圧する条件としては、硬化性樹脂組成物が硬化する条件で適宜調整して加熱加圧すればよいが、加圧時の圧力があまり低いと、得られる積層板の内部に気泡が残留し、電気的特性が低下する場合があるため、成形性を満足する条件で加圧することが好ましい。
【0040】
例えば温度を160〜220℃、圧力を0.5から5MPa、加熱加圧時間を40〜240分間にそれぞれ設定することができる。更にこのようにして得られた単層の積層板を内層材として、多層板を作製することができる。この場合、まず積層板にアディティブ法やサブトラクティブ法等にて回路形成を施し、形成された回路表面を酸溶液で処理して黒化処理を施して、内層材を得る。この内層材の、片側又は両側の回路形成面に、樹脂シート、樹脂付き金属箔、又はプリプレグにて絶縁層を形成すると共に、絶縁層の表面に導体層を形成して、多層板を形成するものである。
【0041】
樹脂シートにて絶縁層を形成する場合は、複数枚の内層材の回路形成面に樹脂シートを配置して積層物を形成する。あるいは内層材の回路形成面と金属箔の間に樹脂シートを配置して積層物を形成する。そしてこの積層物を加熱加圧して一体成形することにより、樹脂シートの硬化物を絶縁層として形成すると共に、内層材の多層化を形成する。あるいは内層材と導体層である金属箔を樹脂シートの硬化物を絶縁層として形成するものである。ここで、金属箔としては、内層材として用いられる積層板に用いたものと同様のものを用いることもできる。
【0042】
また加熱加圧成形は、内層材の形成と同様の条件にて行うことができる。積層板に樹脂を塗布して絶縁層を形成する場合は、内層材の最外層の回路形成面樹脂をリン含有エポキシ樹脂組成物またはリン含有エポキシ樹脂を含んでなる難燃性エポキシ樹脂組成物を好ましくは5〜100μmの厚みに塗布した後、100〜200℃で1〜90分加熱乾燥してシート状に成形する。一般にキャスティング法と呼ばれる方法で形成されるものである。乾燥後の厚みは5〜80μmに形成することが望ましい。このようにして形成された多層積層板の表面に、更にアディティブ法やサブトラクティブ法にてバイアホール形成や回路形成をほどこして、プリント配線板を形成することができる。
【0043】
また更にこのプリント配線板を内層材として上記の工法を繰り返すことにより、更に多層の多層板を形成することができるものである。また樹脂付き金属箔にて絶縁層を形成する場合は、内層材の回路形成面に、樹脂付き金属箔を、樹脂付き金属箔の樹脂層が内層材の回路形成面と対向するように重ねて配置して、積層物を形成する。そしてこの積層物を加熱加圧して一体成形することにより、樹脂付き金属箔の樹脂層の硬化物を絶縁層として形成すると共に、その外側の金属箔を導体層として形成するものである。ここで加熱加圧成形は、内層材の形成と同様の条件にて行うことができる。
【0044】
またプリプレグにて絶縁層を形成する場合は、内層材の回路形成面に、プリプレグを一枚又は複数枚を積層したものを配置し、更にその外側に金属箔を配置して積層物を形成する。そしてこの積層物を加熱加圧して一体成形することにより、プリプレグの硬化物を絶縁層として形成すると共に、その外側の金属箔を導体層として形成するものである。ここで、金属箔としては、内層板として用いられる積層板に用いたものと同様のものを用いることもできる。また加熱加圧成形は、内層材の形成と同様の条件にて行うことができる。このようにして形成された多層積層板の表面に、更にアディティブ法やサブトラクティブ法にてバイアホール形成や回路形成をほどこして、プリント配線板を形成することができる。また更にこのプリント配線板を内層材として上記の工法を繰り返すことにより、更に多層の多層板を形成することができる。
【実施例】
【0045】
実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。化学式(1)に含有する高分子成分の含有量は東ソー株式会社製GPC−8220ゲルパーミエーションクロマトグラフに分析カラムとして東ソー株式会社製TSK−GEL SuperH4000、SuperH3000、SuperH2000の順に連結し使用した。カラム室の温度は40℃で、検出器として吸光度検出器を使用し、波長は400nmにて測定した。また、溶離液はテトラヒドロフランを1ml/minの流速にて用い、サンプルは、化学式(1)で示される物質のテトラヒドロフラン1%溶液を調製して測定した。
なお、濾液などの溶液を測定する場合、溶液を任意の量はかりとり、p−ベンゾキノンの成分がおおよそ1重量%程度となるようにテトラヒドロフランを加えて試料とした。また、調製した試料は調製後速やかに分析をおこなった。インジェクションボリュームは、検出器が飽和せず、かつ、ブロードなピークであっても定量性を損なわない量に調整して測定した。この装置におけるインジェクションボリュームは200μlとした。
【0046】
また、反応により得られた化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物中の、化学式(3)で示される化合物の純度についてはHPLCを用いて測定し、全ピークの面積に対して化学式(3)で示される化合物のピーク面積を百分率で示した。Hewlett Packerd社製Agilent1100seriesの装置を使用し、Imtakt社製Cadenza CD−C18のCD005カラムを使用した。溶離液として水/酢酸/酢酸アンモニウム=790/10/2(重量部)の緩衝溶液とテトラヒドロフラン/アセトニトリル=1/1(体積比)の混合溶液を用い、混合溶液30%でサンプル測定を開始し、8分に混合溶液が80%となるようにグラジエントをおこなった。以後は混合溶液を100%として、開始より24分が経過した時点で測定を終了した。流速は1ml/minとし、紫外可視検出器により波長266nmで測定をおこなった。インジェクションボリュームは、検出器が飽和せず、かつ、微小なピークであっても定量性を損なわない量に調整して測定し、この装置におけるインジェクションボリュームは5μlとした。
【0047】
化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物の外観は、エチレングリコールに溶解し、6重量%の溶液としたものをAPHA比色法(JIS K6901)によって判断した。化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物の収率は配合した化学式(2)で示される化合物を基に理論量を100%として収量から計算した。
【0048】
一般式(3)で示されるフェノール化合物とエポキシ樹脂とを反応して得られるリン含有フェノール樹脂中に含まれる一般式(3)で示されるフェノール化合物の含有率は、以下の手順に従い測定した。東ソー株式会社製GPC−8220ゲルパーミエーションクロマトグラフに分析カラムとして東ソー株式会社製TSK−GEL SuperH4000、SuperH3000、SuperH2000の順に連結し使用した。カラム室の温度は40℃で、検出器として屈折率(RI)検出器を使用し、測定した。また、溶離液はテトラヒドロフランを1ml/minの流速にて用い、サンプルは、リン含有フェノール樹脂のテトラヒドロフラン1%溶液を調製して測定した。
【0049】
積層板評価として、化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物とエポキシ樹脂とを反応して得られるリン含有フェノール樹脂、エポキシ樹脂、硬化促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製 2E4MZ)を2−メトキシエタノール、メチルエチルケトンの溶剤で溶解し、60℃1時間のエージング処理を経た上でリン含有エポキシ樹脂組成物を得た。また、このリン含有エポキシ樹脂組成物をガラスクロス(日東紡績株式会社製WEA 7628 107 XS13)に含浸し、150℃の熱風循環式オーブンを用いて7分間乾燥をおこない、半硬化状態のプリプレグを得た。これを4枚積層し、銅箔(三井金属鉱山株式会社製3EC−III)ではさみ、真空ホットプレス機を用いて170℃×70分、2MPaの圧力をかけて硬化をおこなった。難燃性試験はUL−94規格にしたがいおこなった。
【0050】
合成例1
攪拌装置、温度計、冷却管、窒素導入口、原料仕込み口を備えた5つ口のガラス製セパラブルフラスコに、化学式(2)で示される化合物であるHCA(三光株式会社製 3,4,5,6,−ジベンゾ−1,2−オキサフォスファン−2−オキシド)を60.00重量部とトルエンを140重量部仕込み、窒素雰囲気下で攪拌し、80℃で加熱溶解した。また、別のフラスコに化学式(1)で示される化合物であるPBQ(Yancheng Fengyang Chemical Industry Co.,Ltd.社製 p−ベンゾキノン)を30.30重量部とトルエンを270重量部配合し、20℃で溶解した。溶解前のPBQ粉末を用いて1%溶液を調製し、ピーク面積(B)を定量した結果、13.2面積%であった。このベンゾキノンのトルエン溶液は1μmの孔径を持つメンブレンフィルターで濾過したうえでHCAトルエン溶液に2時間かけて仕込み、その後30分間80℃で反応をおこなった。このときPBQの濾過溶液を用いてPBQがテトラヒドロフランの1%溶液となるように調製し、ピーク面積(B)を定量した結果3.9面積%であった。30分が経過した後、トルエンの還流温度まで昇温し、そのまま90分間反応をおこなった。
【0051】
反応終了後徐冷し、70℃で濾過をおこなった。これをトルエンで洗浄、乾燥してリン含有フェノール化合物の白色粉末を得た。色相はAPHA50だった。また、得られたリン含有フェノール化合物のHPLC純度は98.5%、収率は93.5%であった。図1にPBQ粉末のゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いたクロマトグラムを示す。図2にPBQを溶液濾過した溶液のゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いたクロマトグラムを示す。得られた化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物をAとした。
【0052】
合成例2
PBQを10μmの孔径を持つメンブレンフィルターで濾過した以外は合成例1と同様の操作をおこない、リン含有フェノール化合物の白色粉末を得た。色相はAPHA120だった。PBQの濾過溶液を用いてPBQがテトラヒドロフランの1%溶液となるように調製しピーク面積(B)を定量した結果、4.4面積%であった。また、得られたリン含有フェノール化合物のHPLC純度は98.6%、収率は93.0%であった。得られた化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物をBとした。
【0053】
合成例3
PBQを20μmの孔径を持つメンブレンフィルターで濾過した以外は合成例1と同様の操作をおこない、リン含有フェノール化合物の淡褐色粉末を得た。色相はAPHA200だった。PBQの濾過溶液を用いてPBQがテトラヒドロフランの1%溶液となるように調製しピーク面積(B)を定量した結果、6.9面積%であった。また、得られたリン含有フェノール化合物のHPLC純度は98.4%、収率は93.4%であった。得られた化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物をCとした。
【0054】
合成例4
攪拌装置、温度計、冷却管、窒素導入口、原料仕込み口を備えた5つ口のガラス製セパラブルフラスコに、HCAを60.00重量部とトルエンを410重量部仕込み、窒素雰囲気下で攪拌し、80℃で溶解した。ピーク面積(B)が13.2面積%のPBQ30.30重量部を仕込み、30分が経過した後、トルエンの還流温度まで昇温し、そのまま90分間反応をおこない、以後は合成例1と同様の操作をおこなってリン含有フェノール化合物の褐色粉末を得た。色相はAPHA450だった。また、得られたリン含有フェノール化合物のHPLC純度は92.4%、収率は93.8%であった。外観は褐色粉末であり黒色の塊状粒子が含まれていた。得られた化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物をDとした。
【0055】
合成例5
攪拌装置、温度計、冷却管、窒素導入口、原料仕込み口を備えた5つ口のガラス製セパラブルフラスコに、HCAを60.0重量部とトルエンを410重量部仕込み、窒素雰囲気下で攪拌し、80℃で溶解した。PBQ27.0重量部を精製することなく仕込み、30分が経過した後、トルエンの還流温度まで昇温し、そのまま90分間反応をおこない、以後は合成例1と同様の操作をおこなってリン含有フェノール化合物の褐色粉末を得た。得られたリン含有フェノール化合物をメチルセルソルブにて再結晶をおこない、白色粉末を得た。得られた化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物をEとした。得られたリン含有フェノール化合物のHPLC純度は99.8%であり、収率は52.0%であった。
【0056】
実施例1
合成例1と同様の装置に合成例1で得られた化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物Aを73.0重量部、エポキシ樹脂としてエポトートYDF−170(東都化成株式会社製ビスフェノールF型エポキシ樹脂)を27.0重量部、反応溶媒としてシクロヘキサノンを100.0重量部を加え140℃で1時間脱水をおこなった。ついで反応触媒としてトリフェニルホスフィン(北興化学工業株式会社製)0.03重量部を仕込み、シクロヘキサノンの還流温度にて6時間反応をおこない、冷却したのちシクロヘキサノンを加えて樹脂分が50重量%になるように調整した。得られたリン含有フェノール樹脂溶液の外観はガードナー法による評価で2であり、濁りはみられなかった。また、シクロヘキサノンを加熱除去して得られたリン含有フェノール樹脂のリン含有量は7.0重量%であった。ゲルパーミエーションクロマトグラフによる化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物の含有率は、19.1面積%であった。これをフェノール樹脂Fとした。
【0057】
実施例2
合成例2で得られた化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物Bを用いた以外は実施例1と同様の手順でおこなった。得られたリン含有フェノール樹脂溶液の外観はガードナー法による評価で3であり、濁りはみられなかった。また、シクロヘキサノンを加熱除去して得られたリン含有フェノール樹脂のリン含有量は7.0重量%であった。ゲルパーミエーションクロマトグラフによる化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物の含有率は、18.9面積%であった。これをフェノール樹脂Gとした。
【0058】
実施例3
合成例3で得られた化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物Cを用いた以外は実施例1と同様の手順でおこなった。得られたリン含有フェノール樹脂溶液の外観はガードナー法による評価で6であり、濁りはみられなかった。また、シクロヘキサノンを加熱除去して得られたリン含有フェノール樹脂のリン含有量は7.0重量%であった。ゲルパーミエーションクロマトグラフによる化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物の含有率は、20.9面積%であった。これをフェノール樹脂Hとした。
【0059】
比較例1
合成例4で得られた化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物Dを用いた以外は実施例1と同様の手順でおこなった。得られたリン含有フェノール樹脂溶液の外観はガードナー法による評価で18以上であり、濁りもみられた。また、シクロヘキサノンを加熱除去して得られたリン含有フェノール樹脂のリン含有量は7.0重量%であった。ゲルパーミエーションクロマトグラフによる化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物の含有率は、22.1面積%であった。これをフェノール樹脂Iとした。
【0060】
比較例2
合成例5で得られた化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物Eを用いた以外は実施例1と同様の手順でおこなった。得られたリン含有フェノール樹脂溶液の外観はガードナー法による評価で2であり、化学式(3)で示される化合物による濁りがみられた。また、シクロヘキサノンを加熱除去して得られたリン含有フェノール樹脂のリン含有量は7.0重量%であった。ゲルパーミエーションクロマトグラフによる化学式(3)で示されるリン含有フェノール化合物の含有率は、19.8面積%であった。これをフェノール樹脂Jとした。
【0061】
実施例4
エポキシ樹脂としてエポトートYDF−170、硬化剤として実施例1で得られたフェノール樹脂溶液F、2−エチル−4−メチルイミダゾールを表3に示された所定量配合し、メチルエチルケトン/メチルセルソルブ=1/1(重量部)溶液で所定の樹脂分となるように配合した。得られたエポキシ樹脂組成物溶液にガラスクロスを含浸し、これを150℃の熱風循環式オーブンで8分間加熱乾燥して半硬化状態のプリプレグを得た。これを4枚積層し、真空ホットプレスを用いて170℃、70分の条件で硬化して積層板を得た。
【0062】
比較例3、比較例4
硬化剤として比較例1、比較例2で得られたフェノール樹脂I、Jを用いた他は実施例4と同様の手順で積層板を得た。結果を表3にまとめる。
【0063】
表1に合成例1〜5により得られたリン含有フェノール化合物の溶解色、純度、収率を示す。また、表2には実施例1〜3および比較例1,2で得られたフェノール樹脂のシクロヘキサノン溶液における外観を示す。表3には実施例4と比較例3,4のエポキシ樹脂組成物の硬化反応性、得られた積層板の外観およびガラス転移温度を示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
表1に示すように化学式1の化合物の高分子体含有率を低くすることによって、得られる化学式3で示されるフェノール化合物の純度が高く、収率も高いことがわかる。
【0068】
表2に化学式3で示されるフェノール化合物とエポキシ樹脂とを反応して得られるリン含有フェノール樹脂の合成結果について示す。この結果、化学式1の化合物の高分子体含有率を低くして得られる化学式3で示されるフェノール化合物を用いることによってフェノール樹脂の色相を改善することができた。また、高分子量成分を多く含んだ化学式1の化合物を用いて化学式3で示されるフェノール化合物を得た場合は、フェノール樹脂溶液にゲル状の物質による濁りが目視により確認された。この濁りは樹脂溶液が均一ではないことを示しており、おもに電子材料分野での微細配線化の要求に応えられない可能性が高い。なお、再結晶をおこなった化学式3で示されるフェノール化合物Eを用いた場合には化学式3で示されるフェノール化合物Eの結晶による濁りが存在し、均一に硬化できないという問題がある。更に化学式3で示されるフェノール化合物Eの収率は著しく低いため経済的ではない。
【0069】
表3に、得られたリン含有フェノール樹脂とエポキシ樹脂、硬化促進剤(2E4MZ)、溶剤とを配合したエポキシ樹脂ワニスの結果を示した。その結果、実施例4のエポキシ樹脂ワニスは濁りが無いが、比較例3,4は使用したフェノール樹脂に由来する濁りがあった。また、エポキシ樹脂ワニスの濁りのある比較例3,4に比較して濁りの無い実施例4はガラス転移温度が高く、均一な硬化物が得られることがわかる。
【0070】
以上のことから本発明は、結晶化を著しく低減させたリン含有フェノール樹脂及び該フェノール樹脂を用いた濁りの無いエポキシ樹脂組成物、更には均一な硬化物を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係るリン含有フェノール樹脂は、電子部品に用いられる封止材、成形材、注型材、接着剤、電気絶縁塗料材料などとして有用な難燃性リン含有フェノール樹脂として利用することが出来ると共に、これをエポキシ樹脂に配合することによって電子回路基板に用いられる銅張積層板、フィルム材、樹脂付き銅箔などを製造するエポキシ樹脂組成物とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で示される化合物
【化1】

と下記化学式(2)で示される化合物
【化2】

とを反応して得られる下記化学式(3)で示される化合物
【化3】

と、エポキシ樹脂類を反応して得られる、リン含有量が2重量%〜9重量%のリン含有フェノール樹脂であって、前記化学式(1)で示される化合物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、下記条件で測定されるクロマトグラム上のピーク面積(A)と(A)の成分より高分子側のピーク面積(B)およびピーク面積(A)とピーク面積(B)の合計面積(C)において、ピーク面積(B)を合計面積(C)で除した値が8面積%以下であることを特徴とするリン含有フェノール樹脂。
(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定条件)
分析カラムとして、排除限界分子量400,000、理論段数16,000、長さ30cmと排除限界分子量60,000、理論段数16,000、長さ30cm及び排除限界分子量10,000、理論段数16,000、長さ30cmとを直列に用い、カラム室の温度を40℃とし、検出器として吸光度検出器を使用し、測定波長は400nmとし、溶離液としてテトラヒドロフランを1ml/minの流速とし、サンプルは、化学式(1)で示される化合物のテトラヒドロフランの1%溶液を調製して測定。
【請求項2】
化学式(1)で示される化合物をカルボニル基を含まない溶媒に溶解し、濾過することで、ピーク面積(B)を合計面積(C)で除した値が8面積%以下とすることを特徴とする請求項1記載のリン含有フェノール樹脂の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のリン含有フェノール樹脂を必須成分とし、エポキシ樹脂を配合してなるリン含有エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3記載のリン含有エポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−275414(P2010−275414A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129006(P2009−129006)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】