説明

リン含有化合物の分解方法、リン酸トリメチルの製造方法、リン酸の製造方法、リン含有化合物のリサイクル方法、およびリサイクル装置

【課題】本発明の目的は、リン含有化合物を単一構造のリン酸エステル(すなわち単一化合物)に分解する方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、リン含有化合物を超臨界または亜臨界の状態にあるメタノールで分解する、リン含有化合物の分解方法に係わる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン含有化合物の分解方法、ならびにそれに関連するリン酸トリメチルの製造方法、リン酸の製造方法、リン含有化合物のリサイクル方法、およびリサイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リンは各種の産業分野において広く使用されている。しかし、その原料となるリン鉱石は産出国が限定されていることから、その安定的な供給を担保するために、リン資源のリサイクルが注目されている。たとえば、リン含有化合物を含んだ汚泥を微生物により分解しポリリン酸として回収する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−239298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1が提案するような方法により回収されるポリリン酸は、分子量分布が均一でないなど諸特性にばらつきがあることから、用途が限られるなどリサイクルには困難な一面を有する。このため、リン含有化合物をリサイクルするに際し、さらにリサイクルが容易な単一化合物(たとえば単一構造のリン酸エステルなど)として回収することが望まれている。
【0005】
リン含有化合物を含む汚泥等の廃棄物からリンを含む単一化合物を回収するためには、リン含有化合物の分解条件を極めて高度に制御することが必要であると考えられる。しかしながら、廃棄物に含まれるリン含有化合物自体、様々な種類のものが存在することから、従来公知の酸およびアルカリを用いた分解方法や微生物を用いた分解方法を採用するに際し、その分解条件のみを高度に制御するだけで単一化合物を回収することには限界があった。このため、リン含有化合物の分解方法として従来知られていない全く新規な分解方法を採用することが必要とされた。
【0006】
本発明は、このような状況下に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、リン含有化合物を単一構造のリン酸エステル(すなわち単一化合物)に分解する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記のような課題を解決するためには、酸やアルカリを用いたり、微生物を用いたりする従来公知の分解反応とは異質の分解反応を採用しなければならないと考え、種々の分解反応を検討したところ、超臨界流体を用いた分解反応を採用することが最も有効ではないかとの知見を得た。しかしながら、超臨界流体としては種々のものが知られており、反応速度を制御したり、分解生成物の立体障害を制御する上で、最適の超臨界流体を選択することが必要であるとの更なる知見が得られた。本発明は、このような知見に基づき、鋭意検討を重ねることにより完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、リン含有化合物を超臨界または亜臨界の状態にあるメタノールで分解する、リン含有化合物の分解方法に係わる。また、本発明は、リン含有化合物を超臨界または亜臨界の状態にあるメタノールで分解することによってリン酸トリメチルを製造する、リン酸トリメチルの製造方法にも係わる。さらに、本発明は、上記のようなリン酸トリメチルの製造方法により製造されたリン酸トリメチルを加水分解することによってリン酸を製造する、リン酸の製造方法にも係わる。ここで、該リン含有化合物としては、廃棄物に含まれるものであることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、上記のようなリン酸トリメチルの製造方法により製造されたリン酸トリメチルを再利用する、リン含有化合物のリサイクル方法にも係わる。
【0010】
さらに、本発明は、リン含有化合物を含む廃棄物とメタノールとを充填する反応容器と、該反応容器中の該メタノールを超臨界または亜臨界の状態にするための加熱装置と、を備えたリサイクル装置にも係わる。ここで、該リサイクル装置は、上記廃棄物の残渣と生成物であるリン酸トリメチルとを分別する分別機構を備えたものであることが好ましく、また上記廃棄物と反応せずに残ったメタノールを蒸留して回収する循環機構を備えたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係わるリン含有化合物の分解方法は、リン成分を単一化合物(リン酸トリメチル)として回収することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<リン含有化合物の分解方法>
本発明のリン含有化合物の分解方法は、リン含有化合物を超臨界または亜臨界の状態にあるメタノールで分解することを特徴とする。これにより、分解対象のリン含有化合物は、単一化合物のリン酸トリメチルとして回収される。
【0013】
従来、リン含有化合物をリサイクルするに際し、リン含有化合物を超臨界流体を用いて分解するという試みは全くなされていなかった。恐らくこれは、超臨界流体として最もポピュラーな超臨界水は、臨界温度が647.3Kと高く、また臨界圧力も22.04MPaと極めて高圧であるため、これを用いてリサイクルを行なうにはエネルギ的に不利であると考えられたためであると思われる。また、エネルギ的な負荷が超臨界水より低減される他の超臨界流体を用いてリン含有化合物を分解する場合、立体化学的な観点から単一構造のリン酸エステル化合物を得ることは困難であった。
【0014】
現に、アルコール類の超臨界流体としては、メタノール以外にもエタノールやイソプロピルアルコール等が知られているが、メタノール以外のアルコール類の超臨界流体を用いても、単一化合物のリン酸エステルを得ることはできない。その詳細なメカニズムは未だ解明されていないが、恐らくメタノール以外のアルコールを用いる場合は、超臨界流体がリン含有化合物に作用する際に、生成するリン酸エステルのエステル部分の立体構造が障害となり、単一構造のリン酸エステルが生成することを困難にしているものと考えられる。また、このような立体障害により、反応速度が遅くなったり、反応自体が進行しにくくなるという問題も存在した。
【0015】
したがって、リン含有化合物を超臨界または亜臨界の状態にあるメタノールで分解することよって、リン酸トリメチルの単一化合物として回収できることは、超臨界または亜臨界の状態にあるメタノールの特異的な作用を本発明者が見出したことによりはじめて可能となったものであり、本発明の大きな特徴である。
【0016】
ここで、本明細書において、超臨界の状態にあるメタノール(以下、「超臨界メタノール」ともいう)とは、臨界温度(512.6K)および臨界圧力(8.09MPa)を超えた状態のメタノールをいう。このような超臨界メタノールは、他の超臨界流体と同様に気体の拡散性と液体の溶解性を兼備した性能を示すものである。
【0017】
また、本明細書において、亜臨界の状態にあるメタノール(以下、「亜臨界メタノール」ともいう)とは、メタノールの沸点(64.7℃、338K)以上臨界温度未満および三重点の圧力以上臨界圧力未満のメタノールをいい、超臨界メタノールに類似した性能を示す。
【0018】
また、本明細書において、リン含有化合物とは、少なくともリン(P)を含む限り、あらゆる化合物が含まれる。たとえば、このようなリン含有化合物としては、ポリリン酸やポリリン酸メラミンのような高分子化合物をはじめ、各種リン酸エステルのような有機低分子化合物、各種リン酸塩のような無機化合物、およびこれらの混合物などが挙げられ、特に限定されるものではない。また、このようなリン含有化合物は、廃棄物に含まれる状態のもの(すなわち、廃棄物に含まれるもの(含リン廃棄物)であっても差し支えない。このような廃棄物としては、どのような状態でリンおよびリン含有化合物が含まれていてもよく、各種排水、各種廃棄物、各種汚泥等が含まれる。
【0019】
なお、本明細書におけるリン含有化合物は、上記のように特に限定されるものではないが、分解生成物(すなわちリン酸トリメチル)は含まないものとする。ただし、リン酸トリメチル以外のリン含有化合物を含む限り、混合物中の一成分としてリン酸トリメチルが含まれる場合を除外するものではない。
【0020】
本発明の分解方法は、上記のように、リン成分を単一化合物のリン酸トリメチルとして回収できることを特徴としており、これにより回収物の単離を蒸留等により極めて容易に行なうことができるという優れた効果を示し、また同時に回収物の再利用を容易化したものである。すなわち、たとえば分解回収物がリン酸トリメチルではなくリン酸(超臨界メタノールではなく超臨界水により分解した場合、分解回収物はリン酸になる)である場合、リン酸は粘性が高く濾過による不純物除去が困難となるばかりか、150℃で無水物、200℃でピロリン酸、300℃以上でポリリン酸に変化するため、蒸留が困難であり、また酸性を示すことから設備にも負荷がかかる等の理由で、高純度品が得られないというデメリットを有する。これに対し、リン酸トリメチルには、このようなデメリットが存在せず、また多数のリン酸エステル中において、リン含有率が22%と高く、リンの回収効率が高いというメリットを有している。このように、リン酸トリメチルは、リン酸や他のリン酸エステルに比し多くの利点を有しており、これは超臨界流体として超臨界水や超臨界状態の他のアルコールを用いるのではなく、超臨界メタノールを用いることによりもたらされるメリットに他ならない。
【0021】
さらに、本発明の分解方法のように、メタノールを超臨界状態または亜臨界状態にすることは、水を超臨界状態または亜臨界状態にすることに比しエネルギ的にも有利となる。
【0022】
このような本発明の分解方法は、リン含有化合物とメタノールとを混合し、密閉状態として64.7〜400℃に加熱することにより実行することができる。加熱温度は、240〜300℃とすることがより好ましい。64.7℃未満では、単一化合物のリン酸トリメチルとして回収することが困難であり、400℃を超えると加熱エネルギが多くなり不経済となるばかりか、設備にも不要な負荷がかかり、熱分解による副反応が生じる可能性もあるため好ましくない。
【0023】
また、本発明の分解方法は、8.09〜15.0MPaの圧力で行なうことが好ましく、8.09〜12.0MPaの圧力で行なうことがより好ましい。通常このような圧力条件は、上記のような密閉状態とすることにより得られる。8.09MPa未満では、単一構造のリン酸トリメチルとして回収することが困難であり、15.0MPaを超えると設備への負荷が大きくなる上、高圧により副反応が生じる可能性があるため好ましくない。
【0024】
さらに、本発明の分解方法は、0.01〜30時間の分解時間で行なうことが好ましく、0.1〜3.0時間の分解時間で行なうことがより好ましい。0.01時間未満では、反応が十分に進行せず、回収率が低くなる可能性があるため好ましくなく、30時間を超えると使用するエネルギが多くなり不経済である上、副反応が生じる可能性があるため好ましくない。
【0025】
なお、本発明の分解方法において、リン含有化合物とメタノールとの配合比は特に限定されないが、リン含有化合物を完全にリン酸トリメチルに分解するためには、リン含有化合物1gあたり、1〜1000mlのメタノールを用いることが好ましく、200〜500mlのメタノールを用いることがより好ましい。1ml未満では、反応が不十分となり回収率が低下するため好ましくなく、1000mlを超えるとメタノールの使用量が多くなり、不経済となるため好ましくない。
【0026】
このような本発明の分解方法を実行する装置としては、リン含有化合物とメタノールとを充填する反応容器と、該反応容器中の該メタノールを超臨界または亜臨界の状態にするための加熱装置とを備えていることが好ましい。該反応容器は、加熱によりメタノールを超臨界または亜臨界の状態とすることができるように密閉性に優れた耐熱耐圧構造とすることが好ましい。このような反応容器としては、たとえばステンレス製反応管を挙げることができ、素材的には、たとえばSUS316、SUS630、チタニウム、インコネル625等を挙げることができる。なお、このような反応容器は、流通式、半回分式、またはバッチ式のいずれの方式のものも採用することができる。
【0027】
また、該加熱装置としては、該反応容器を加熱することができる装置であれば特に限定はなく、その加熱装置には、たとえば防爆恒温槽、耐熱耐圧容器等を用いることができる。
【0028】
<リン酸トリメチルの製造方法>
本発明のリン酸トリメチルの製造方法は、リン含有化合物を超臨界または亜臨界の状態にあるメタノールで分解することによってリン酸トリメチルを製造することを特徴とする。ここで、「リン含有化合物」、「超臨界状態にあるメタノール」、および「亜臨界状態にあるメタノール」は、それぞれ上記の分解方法において述べたとおりである。
【0029】
本発明のリン含有化合物の分解方法は、上記の通り、リン含有化合物を超臨界メタノールまたは亜臨界メタノールで分解することにより、分解対象のリン含有化合物をリン酸トリメチルの単一化合物として回収することを特徴とするものである。本発明のリン酸トリメチルの製造方法は、上記分解方法における回収物を製造物として捉えたものであり、よってリン含有化合物を超臨界メタノールまたは亜臨界メタノールで分解する方法自体は、既に上記において述べたとおりである。
【0030】
ここで、かかる製造方法における出発物質であるリン含有化合物としては、廃棄物に含まれるものを用いることが好ましい。これにより、リン資源の有効利用に資することができるからである。なお、廃棄物(含リン廃棄物)の詳細は、上記の分解方法において述べたとおりである。
【0031】
<リン含有化合物のリサイクル方法>
本発明のリン含有化合物のリサイクル方法は、リン含有化合物を廃棄物に含まれるものとし、そのリン含有化合物から上記のリン酸トリメチルの製造方法により製造されたリン酸トリメチルを再利用することを特徴とするものである。ここで、「再利用する」とは、リン酸トリメチルを出発物質として種々のリン含有化合物等を製造するケミカルリサイクルを意味する。
【0032】
上記の通り、本発明のリン含有化合物の分解方法では、リン酸トリメチルを単一化合物として回収することができるため、これを分離精製する手間が大幅に削減され、特にリン含有化合物が廃棄物に含まれるものである場合は極めて効率的にその廃棄物(リン含有化合物)をリサイクルすることができるという優れた効果を示す。すなわち、リン酸トリメチルはリン酸と異なり、沸点が190℃であるため、容易に分離精製することができるだけではなく、高純度品を得ることができるという利点を有する。
【0033】
なお、リン酸トリメチルを出発物質として新たに製造されるリン含有化合物としては、たとえば後述のリン酸等を挙げることができる。したがって、本発明のリサイクル方法の好適な態様を挙げると、廃棄物に含まれるリン含有化合物からリン酸を製造する方法を挙げることができる。
【0034】
具体的には、該廃棄物からリン酸トリメチルを得、このリン酸トリメチルを出発原料として高純度リン酸を生成するケミカルリサイクルが挙げられる。従来、高純度リン酸を得るためには、高純度黄リンを加水分解する方法以外に実用的な他の方法が存在しなかったため、本発明のリン酸トリメチルを出発原料として高純度リン酸が得られるようになったことは、本発明の重要な効果のひとつである。
【0035】
なお、このようにして得られる高純度リン酸は、半導体デバイスの製造プロセスや、液晶デバイスの製造プロセス等において用いられる清浄剤の原料として極めて有効である。また、本発明のリン酸トリメチル自体、ポリエステル樹脂のポリマー化における安定化効果を示す(特に着色防止剤として使用される)。
【0036】
<リン酸の製造方法>
本発明のリン酸の製造方法は、上記のようなリン酸トリメチルの製造方法により製造されたリン酸トリメチルを加水分解することによってリン酸を製造することを特徴とするものである。ここで、加水分解の条件としては、従来公知の条件を特に限定することなく採用することができる。たとえば、リン酸トリメチルに対して、水を加え、加熱(たとえば温度120〜180℃、圧力3〜30kg/cm2)することにより、高純度リン酸(たとえば不純物金属が10ppb以下であるリン酸)を製造することができる。
【0037】
このように本発明のリン酸の製造方法は、上記の分解方法により単一化合物として回収されたリン酸トリメチルを出発原料とするものであるため、出発原料を分離精製する手間が大幅に削減され、以って極めて効率良くリン酸を製造することができるという優れた効果を示す。特に、リン含有化合物として廃棄物に含まれるものを使用すると、そのような廃棄物から極めて高純度のリン酸が得られるという、ケミカルリサイクルによるリン酸の製造方法が構築される。
【0038】
本発明のリン酸の製造方法により製造されたリン酸は、極めて高純度であるため、上記のように半導体デバイスの製造プロセスや、液晶デバイスの製造プロセス等において用いられる清浄剤の原料として極めて有効である。
【0039】
<リサイクル装置>
本発明のリサイクル装置は、リン含有化合物を含む廃棄物とメタノールとを充填する反応容器と、該反応容器中の該メタノールを超臨界または亜臨界の状態にするための加熱装置と、を備えたことを特徴とするものである。
【0040】
既に述べたように、本発明のリン含有化合物の分解方法は、リン含有化合物を超臨界メタノールまたは亜臨界メタノールで分解することにより、リン酸トリメチルの単一化合物として回収するものであり、したがってこの回収物(リン酸トリメチル)はリン含有化合物をリサイクルするものであるから、この分解方法は正しくリン含有化合物のリサイクル方法として捉えることができる。したがって、本発明のリサイクル装置は、上記の分解方法を実行するために用いられる装置と実質的に同一であり、上記で既に説明した通りの構造を有するものである。
【0041】
そして、このような本発明のリサイクル装置は、該廃棄物の残渣と生成物であるリン酸トリメチルとを分別する分別機構を備えたものであることが好ましく、また上記廃棄物と反応せずに残ったメタノールを蒸留して回収する循環機構を備えたものであることが好ましい。
【0042】
ここで、上記分別機構としては、具体的には、たとえば加熱機構を有する蒸留釜で、廃棄物の残渣とリン酸トリメチルが混在するものを減圧下で蒸留させる機構であり、加熱機構の熱源として、超臨界メタノール分解の加熱に使用した熱エネルギを再利用する機構を有するもの等を挙げることができる。また、上記循環機構としては、具体的には、たとえば超臨界メタノール分解の加熱に使用した熱エネルギを再利用する加熱機構を有する蒸留釜で蒸留精製したメタノールを貯留するタンクを有し、そのタンクを高所に設置することで大掛かりな送液ポンプを使うことなく、送液管を通し、大気圧で送液できる機構を用い、再度超臨界メタノール分解の際にそれを利用する循環機構等を挙げることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
リン含有化合物としてポリリン酸メラミン(商品名「Melapur200」、Ciba社製)2.07mgと、メタノール0.7mlとを内容積1mlの反応容器(ステンレス(SUS316)製チューブ型反応管)に充填し密閉した。そして、290℃に予熱した加熱装置(防爆恒温槽)にこの反応容器を入れ、該反応容器中の内圧を8.09MPa以上とすることによりメタノールを超臨界状態とし、2時間保持した。
【0045】
その後、反応容器を室温まで冷却し、内容物をガラス瓶に取り出したところ、20℃、0.1MPaの条件下において、その内容物は無色透明の均一液体であり、固形分は全く認められなかった。その液体をガスクロマトグラフ質量分析装置(商品名「Agilent 6890N」、アジレント・テクノロジー社製)を用いて分析したところ、リン含有成分としてはリン酸トリメチルのみが検出された。すなわち、リン含有化合物を超臨界メタノールで分解することによりリン酸トリメチルが製造されたことを確認した。
【0046】
<実施例2〜9および比較例1〜3>
リン含有化合物として表1記載のリン含有化合物(表1中カッコ内の数値は使用量を示す)を用い、かつ表1記載の流体および分解条件を採用することを除き、実施例1と同様にしてリン含有化合物を分解した。実施例1〜7が超臨界メタノールによる分解を示し、実施例8〜9が亜臨界メタノールによる分解を示す。これに対し、比較例1は、超臨界状態でも亜臨界状態でもないメタノールによる分解を示し、比較例2および3は、それぞれ超臨界状態のエタノールおよび超臨界状態のイソプロピルアルコール(IPA)による分解を示す。
【0047】
その結果、実施例2〜9においては、分解生成物(実施例1と同様に無色透明の均一液体)を実施例1と同様にガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて分析したところ、リン含有成分としてはリン酸トリメチルのみが検出された。したがって、リン含有化合物を超臨界メタノールまたは亜臨界メタノールで分解することによりリン酸トリメチルが製造されたことが確認できた。
【0048】
一方、比較例1〜3は、超臨界メタノールまたは亜臨界メタノールによる分解ではないため、分解生成物は無色透明の均一液体とはならず、液体とともに多量の固形分を含んでいた。これは、リン含有化合物が完全に分解されなかったことおよび分解生成物中のリン含有成分としてリン酸トリメチル以外のリン成分が含まれていることを示すと考えられる。以上の結果から、リン含有化合物を超臨界または亜臨界の状態にあるメタノールで分解することの優位性を確認することができた。
【0049】
【表1】

【0050】
以上の実施例および比較例で用いたリン含有化合物の詳細は以下の通りである。
実施例2:商品名「FR CROS486」、ブンデンハイム社製
実施例3:商品名「アデカスタブFP2200」、ADEKA社製
実施例4:商品名「PX−200」(下記式(1)参照)、大八化学工業社製
実施例5:商品名「CR−741」(下記式(2)参照)、大八化学工業社製
実施例6:商品名「CR−733s」(下記式(3)参照)、大八化学工業社製
実施例7:実施例1と同じ
実施例8:実施例4と同じ
実施例9:実施例4と同じ
比較例1:実施例1と同じ
比較例2:実施例1と同じ
比較例3:実施例1と同じ
【0051】
【化1】

【0052】
【化2】

【0053】
【化3】

【0054】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0055】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有化合物を超臨界または亜臨界の状態にあるメタノールで分解する、リン含有化合物の分解方法。
【請求項2】
リン含有化合物を超臨界または亜臨界の状態にあるメタノールで分解することによってリン酸トリメチルを製造する、リン酸トリメチルの製造方法。
【請求項3】
請求項2記載のリン酸トリメチルの製造方法により製造されたリン酸トリメチルを加水分解することによってリン酸を製造する、リン酸の製造方法。
【請求項4】
前記リン含有化合物は、廃棄物に含まれるものである、請求項2記載のリン酸トリメチルの製造方法。
【請求項5】
前記リン含有化合物は、廃棄物に含まれるものである、請求項3記載のリン酸の製造方法。
【請求項6】
請求項4記載のリン酸トリメチルの製造方法により製造されたリン酸トリメチルを再利用する、リン含有化合物のリサイクル方法。
【請求項7】
リン含有化合物を含む廃棄物とメタノールとを充填する反応容器と、
前記反応容器中の前記メタノールを超臨界または亜臨界の状態にするための加熱装置と、を備えたリサイクル装置。
【請求項8】
前記廃棄物の残渣と生成物であるリン酸トリメチルとを分別する分別機構を備えた、請求項7記載のリサイクル装置。
【請求項9】
前記廃棄物と反応せずに残ったメタノールを蒸留して回収する循環機構を備えた、請求項7または8に記載のリサイクル装置。

【公開番号】特開2012−193126(P2012−193126A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56498(P2011−56498)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】