説明

リン脂質結合型アラキドン酸増加剤

【課題】生体内のリン脂質結合型アラキドン酸を特異的に増加させることができる、飲食品又は医薬組成物として使用可能な組成物を提供する。
【解決手段】プラスマローゲンを有効成分として含むことを特徴とするリン脂質結合型アラキドン酸増加剤によって解決することができる。特には、コリン型プラスミローゲンを有効成分として含むことを特徴とするリン脂質結合型アラキドン酸増加剤によって、血液及びリンパ液中のリン脂質結合型アラキドン酸の濃度を上昇させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体内のアラキドン酸含有リン脂質を増加させることができる、リン脂質結合型アラキドン酸増加剤に関する。本発明によれば、経口摂取により、血液又はリンパ液中のリン脂質結合型アラキドン酸を増加させることができる。
【背景技術】
【0002】
アラキドン酸(C20:4)(炭素数20、不飽和結合4個)は広義の必須脂肪酸であり、生体内では主に細胞膜を構成するリン脂質に結合した形態で脳、肝臓、皮膚など体内のあらゆる組織に存在する。リン脂質中のアラキドン酸はホスホリパーゼによって遊離してエイコサノイドに変換され、種々の生理作用に関与することが知られているが、アラキドン酸は乳児の発育、胃炎の症状改善、免疫機能、学習能力、記憶力、認知応答力などにも効果があるといわれ、その利用が期待されている。
一方、プラスマローゲンとはsn−1位にビニルエーテル結合を持ち、sn−2位には脂肪酸が結合しているグリセロリン脂質のサブクラスである。プラスマローゲンは抗酸化能を持ち、加齢や酸化ストレスが関与する疾病と関係しているといわれており、神経変性疾患やアルツハイマー病の予防などへの利用が検討されている(特許文献1及び特許文献2)。
【0003】
ここで、体内のアラキドン酸を増加させる目的で、アラキドン酸を含むトリグリセリドやリン脂質を経口摂取させる方法が種々検討されている。
例えば、アラキドン酸をトリグリセリドとして摂取させる方法では、微生物由来のアラキドン酸高含有油脂を植物油とエステル交換する方法(特許文献3)やアラキドン酸を含有する油脂と卵黄、乳等から得られるアラキドン酸を含有するリン脂質を摂取させる方法(特許文献4)、アラキドン酸等の高度不飽和脂肪酸を含有する油脂をリン脂質と共に摂取させる方法(特許文献5)等が提案されている。
【0004】
また、アラキドン酸等の長鎖高度不飽和脂肪酸は、トリグリセリドとして摂取するよりリン脂質として摂取した方が効果的な場合があることが知られている。このような観点から、動物の脳又は鶏卵から得られたアラキドン酸及びドコサヘキサエン酸を含むリン脂質を摂取させる方法(特許文献6)や新鮮な家畜の内臓からアラキドン酸が豊富なリン脂質を調製し、それを配合してなる食品組成物(特許文献7)、必須脂肪酸の豊富な餌を与えて育てた鶏から得た卵黄リン脂質を利用した食事療法組成物(特許文献8)等が開示されている。
【0005】
一方、プラスマローゲンの投与に関しては、プラスマローゲンが抗酸化能を持つことから、プラスマローゲンを生体組織の脂質の過酸化を抑制する抗酸化剤として利用する方法(特許文献9)や酸化安定性に優れた高度不飽和脂肪酸供給組成物として利用する方法(特許文献10)が開示されている。
しかし、特許文献3、5に開示されているアラキドン酸の由来として微生物由来のアラキドン酸含有油脂を用いる方法は、この微生物由来の油脂が極めて特殊な油脂であるため、広く食品に応用することはできなかった。
また、特許文献4、6、8に記載されている魚油や卵黄リン脂質、乳リン脂質をアラキドン酸の由来として用いる場合、アラキドン酸含量は全脂肪酸組成中の数%程度に過ぎず、生体内のアラキドン酸を増加させる効果は不十分であった。
【0006】
【特許文献1】米国特許第5759585号明細書
【特許文献2】特開2004−26803号公報
【特許文献3】特表2007−528191号公報
【特許文献4】特表平10−508193号公報
【特許文献5】国際公開第2005/054415号パンフレット
【特許文献6】特表2000−516261号公報
【特許文献7】特開1999−035587号公報
【特許文献8】特開1997−502360号公報
【特許文献9】特開2003−012520号公報
【特許文献10】特開2003−003190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献6、7に記載の、動物の脳や内臓から得られるリン脂質はプラスマローゲンを含む可能性が考えられるが、特許文献6は得られたリン脂質が生体内のメラトニン分泌を調節する機能を開示したものであり、特許文献7は得られたリン脂質がアラキドン酸を多く含有することを開示しただけのものであり、共に、プラスマローゲンが生体内のアラキドン酸を増加させることを開示したものではなかった。
また、特許文献9、10はプラスマローゲンの抗酸化能を利用した発明であり、生体内のアラキドン酸を増加させることを開示したものではなかった。
このように、従来、生体内のアラキドン酸含量、特にリン脂質の形態で存在するアラキドン酸含量を増加させることのできる組成物は見出されていなかった。
【0008】
本発明者らは、プラスマローゲンの吸収過程について検討を進めた結果、プラスマローゲンが小腸で吸収される際、プラスマローゲンに結合した脂肪酸の種類のいかんにかかわらず、アラキドン酸がプラスマローゲンに選択的に再エステル化されてリンパ中に放出されること、その結果、プラスマローゲンを投与することによって、リンパ液や血液中のリン脂質の脂肪酸組成において、アラキドン酸の含有率が飛躍的に増加することを見出した。加えて、極性基の異なるプラスマローゲンのうち、コリン型プラスマローゲンを投与することにより、血液中のアラキドン酸の濃度が顕著に上昇し、更に、リンパ液中のアラキドン酸の濃度が特異的に上昇することを見出した。
本発明は、上記知見に基づくものであり、プラスマローゲンを有効成分とし、生体内のリン脂質結合型アラキドン酸を特異的に増加させることができる、リン脂質結合型アラキドン酸増加剤を提供するものである。
本明細書において、「リン脂質結合型アラキドン酸」とは、リン脂質に結合したアラキドン酸を意味し、特には、プラスマローゲンに含まれるアラキドン酸を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明は、プラスマローゲンを有効成分として含むことを特徴とするリン脂質結合型アラキドン酸増加剤に関する。
本発明によるリン脂質結合型アラキドン酸増加剤の好ましい態様においては、前記プラスマローゲンがコリン型プラスマローゲンである。
また、本発明はプラスマローゲンを有効成分として含むことを特徴とする、リン脂質結合型アラキドン酸を上昇させる飲食品にも関する。
本発明によるリン脂質結合型アラキドン酸を上昇させる飲食品の好ましい態様においては、前記プラスマローゲンがコリン型プラスマローゲンである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤は、生体内、特にリンパ液や血液中のリン脂質中の、アラキドン酸含量を増加させることが可能である。従って、前記のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤は、リン脂質結合型アラキドン酸の増加によって予防又は治療可能な疾患を、効果的に予防又は治療することができる。特に、コリン型プラスマローゲンを含むリン脂質結合型アラキドン酸増加剤は、リンパ液中のアラキドン酸含量を特異的に上昇させることが可能であり、リンパ液中のリン脂質結合型アラキドン酸の増加によって予防又は治療可能な疾患を、効果的に予防又は治療することができる。
更に本発明による飲食品は、毎日の飲食により、生体内、特にリンパ液や血液中のリン脂質中の、アラキドン酸含量を増加させることが可能である。従って、飲食品の摂取のみで、リン脂質結合型アラキドン酸の低下又は消失に起因する疾患の予防又は治療に有用である。また、本発明の飲食品に使用されるプラスマローゲンは、広範な飲食品に使用することが可能であり、風味良好な飲食品を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[1]リン脂質結合型アラキドン酸増加剤
本発明の、リン脂質結合型アラキドン酸増加剤は、一般式(I)
【化1】

[式中、Rは、炭素数1から20のアルキル基であり、Rは、炭素数6〜26の脂肪酸残基であり、Xは、コリン、エタノールアミン、セリン、イノシトールから選択される極性基である]
で表されるプラスマローゲンを有効成分として含む。
前記炭素数1から20のアルキル基としては、具体的には、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等を挙げることができる。
また、前記炭素数6〜26の脂肪酸残基としては、具体的には、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸等を挙げることができる。
【0012】
本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤においては、前記のどの脂肪酸であっても本発明の効果を有するが、アラキドン酸含量が高いほど本発明の高い効果が得られることから、アラキドン酸含量が5%以上、好ましくは10%以上のプラスマローゲンを使用することが好ましい。
【0013】
本発明に用いることのできるプラスマローゲンは、グリセリンをアルケニルグリセロールエーテルに変換し、エステル化やリン酸化を行い、化学合成することも可能であり、化学合成したプラスマローゲンを用いることも可能であるが、入手の容易性や生産性から、天然物から抽出及び分離したものが好ましい。
上記プラスマローゲンを分離及び抽出する天然物としては、各種動物、植物、微生物、例えば、経口投与する際の安全性や入手し易さから牛肉、豚肉、鶏肉などの畜産物及びその副産物、マグロ、サケ、ホタテ、カキ、ホヤ等の水産物及びその副産物などが挙げられる。特に、コリン型プラスマローゲンを、抽出及び生成する場合には、コリン型プラスマローゲンの含有量が高い畜産物あるいは水産物の心臓や骨格筋を使用することが好ましい。本明細書において、「コリン型プラスマローゲン」とは、一般式(I)において、Xがコリンのプラスマローゲンを意味する。
【0014】
本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤では、これら各種動物、植物、微生物から、溶剤抽出などによって抽出された、プラスマローゲン含有脂質、更には、必要に応じて、該プラスマローゲン含有脂質を液々抽出やカラムクロマトグラフィー、酵素処理などでプラスマローゲンを濃縮、精製した、プラスマローゲン含有リン脂質や、また、上記プラスマローゲン含有脂質やプラスマローゲン含有リン脂質から、更にプラスマローゲンを濃縮、精製した精製プラスマローゲンを使用することができる。
上記各種動物、植物、微生物等の組織からのプラスマローゲン含有脂質の抽出方法としては、Folch法(Folch et al.:J. Biol. Chem., 226, 497-505, 1957)、Bligh & Dyer法(Bligh et al.:Can. J. Biochem. Physiol., 37, 911-917, 1959)、あるいは安全性の高い有機溶媒であるヘキサンや低級アルコールを用いた混合溶媒を用いる方法(Hara et al.:Anal. Biochem., 90(1):420-6,1978、特開2005-179340)などがある。また、抽出効率を高めるために、上記動物組織を脱水処理したものを用いてもよい。
また、上記コリン型プラスマローゲン含有脂質は、アセトン沈殿法(山川民夫監修:生化学実験講座3,脂質の化学(日本生化学会編),p.19−20,1963,東京化学同人)、カラムクロマトグラフィー法(James et al.:Lipids, 23, 1146-1149, 1988)等により、トリグリセリドや部分グリセリドを除去し、プラスマローゲンを含むリン脂質画分のみを分離精製することができる。
更に、上記プラスマローゲン含有脂質は、弱アルカリ処理(Frosolono et al:Chem. Phys. Lipids. 10, 203-14, 1973)、あるいは哺乳動物膵臓由来リパーゼ又は微生物由来のホスホリパーゼA1処理によるジアシル型リン脂質の分解(Woelk et al. : Z Physiol. Chem. 354, 1265-70, 1973)の方法を用いて、プラズマローゲンを濃縮することができる。
【0015】
本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤におけるプラスマローゲン含有量は、好ましくは5〜100%、より好ましくは30〜100%、更に好ましくは50〜100%である。
本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤では、特にリン脂質結合型アラキドン酸の増加効果が高いことから、上記プラスマローゲンはコリン型プラスマローゲンを多く含有することが好ましい。本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤における、プラスマローゲン中のコリン型プラスマローゲンの比率は、好ましくは50〜100%、より好ましくは70〜100%、より好ましくは80〜100%、最も好ましくは90〜100%である。
【0016】
また、本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤は、前記のように、好ましくはコリン型プラスマローゲンを有効成分として含有する。この場合、コリン型プラスマローゲン含有量は、好ましくは5〜100%、より好ましくは30〜100%、更に好ましくは50〜100%である。また、コリン型プラスマローゲンを有効成分として含有する本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤は、エタノールアミン型プラスマローゲン又は他の極性基を有するプラスマローゲンを含むこともできるが、プラスマローゲンの全量に対するコリン型プラスマローゲンの比率は、コリン型プラスマローゲンが60%以上であり、好ましくは、80%以上であり、より好ましくは、90%以上であり、最も好ましくは95%以上である。
【0017】
なお、上記プラスマローゲン含有脂質や上記プラスマローゲン含有リン脂質のプラスマローゲン以外のその他の成分はジアシル型リン脂質、糖脂質、スフィンゴ脂質、中性脂質などからなる。
【0018】
本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤では、上記以外のその他の成分を含有することができる。該その他の成分としては、例えば、食用油脂、水、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、ローカストビーンガム、カラギーナン、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等の増粘安定剤、食塩、塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、ベータカロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、着香料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤等の食品素材や食品添加物を挙げることができる。また、各種ビタミンやコエンザイムQ、植物ステロール、乳脂坊球皮膜等の機能素材を含有させることも可能である。
これらのその他の成分の含有量は、本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤中、合計で好ましくは80質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは20質量%以下とする。
【0019】
本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤は、乳児の発育、胃炎の症状改善、免疫機能、学習能力、記憶力、認知応答力を改善することが可能である。アラキドン酸が低下、消失する疾患としては、肝機能障害、胎児や乳児の正常な発育の阻害、皮膚異常、免疫機能の低下などを挙げることができ、本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤は、これらの疾患の治療及び予防に有用である。
また、本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤は、広範な各種飲食品や医薬組成物に配合・添加することができ、その摂取量としては、成人の場合、プラスマローゲンとして1日あたり、好ましくは100mg〜40g、より好ましくは200mg〜20gを摂取することが望ましい。
【0020】
また、本発明の経口投与剤は、通常、経口で用いるものであるが、消化管から吸収させるために、カテーテルなどを用いて、直接、胃や十二指腸などに投与することも可能である。
【0021】
[2]飲食品
本発明の飲食品は、プラスマローゲン、好ましくはコリン型プラスマローゲンを有効成分として含有する。また、本発明の飲食品は、前記のプラスマローゲン、好ましくはコリン型プラスマローゲンを有効成分として含有するリン脂質結合型アラキドン酸増加剤を含有することもできる。
本発明の飲食品における、プラスマローゲンの含有量は、使用する飲食品により異なるが、成人の場合、プラスマローゲンとして1日当たり100mg〜40g、より好ましくは200mg〜20g摂取できる量の生体内のアラキドン酸増加剤を飲食物中に含有できれば良い。具体的には、飲食品中0.1〜100質量%であることが好ましい。
【0022】
なお、本発明でいうところの飲食品としては、特に限定されるものではなく、例えば味噌、醤油、めんつゆ、たれ、だし、パスタソース、ドレッシング、マヨネーズ、トマトケチャップ、ウスターソース、とんかつソース、ふりかけ等の調味料、お吸い物の素、カレールウ、ホワイトソース、お茶漬けの素、スープの素等の即席調理食品、味噌汁、お吸い物、コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類、焼肉、ハム、ソーセージ等の畜産加工品、かまぼこ、干物、塩辛、佃煮、珍味等の水産加工品、漬物等の野菜加工品、ポテトチップス、煎餅等のスナック類、食パン、菓子パン、クッキー等のベーカリー食品類、煮物、揚げ物、焼き物、カレー、シチュー、グラタン、ごはん、おかゆ、おにぎり等の調理食品、パスタ、うどん、ラーメン等の麺類食品、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド、風味ファットスプレッド等の油脂加工食品、フラワーペースト、餡等の製菓製パン用素材、パン用ミックス粉、ケーキ用ミックス粉、フライ食品用ミックス粉等のミックス粉、チョコレート、キャンディ、ゼリー、アイスクリーム、ガム等の菓子類、饅頭、カステラ等の和菓子類、コーヒー、コーヒー牛乳、紅茶、ミルクティー、豆乳、栄養ドリンク、野菜飲料、食酢飲料、ジュース、コーラ、ミネラルウォーター、スポーツドリンク等の飲料、ビール、ワイン、カクテル、サワー等のアルコール飲料類、牛乳、ヨーグルト、チーズ等の乳や乳製品等があげられる。
【0023】
本発明のプラスマローゲンを含有する飲食品は、プラスマローゲンを原料として含むこと以外は、公知の飲食品の製造方法を用いて製造することができる。
本発明の飲食品は、プラスマローゲンを含有することにより、生体内においてリン脂質結合型アラキドン酸含量を増加させることが可能であり、機能性食品又は健康食品(飲料も含む)として用いることができる。また動物には、飼料として与えることができる。コリン型プラスマローゲンを有効成分として含有する本発明の飲食品を、機能性食品又は健康食品として使用する場合、前記のように、例えば、畜産物あるいは水産物の心臓や骨格筋から分離及び生成したコリン型プラスマローゲンを含むことが好ましい。
【0024】
[3]医薬組成物
医薬組成物は、プラスマローゲンを有効成分として含有するため、生体内のリン脂質結合型アラキドン酸を増加させることが可能である。前記のプラスマローゲンを有効成分として含有するリン脂質結合型アラキドン酸増加剤を使用することもできる。
医薬組成物における、本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤の含有量は、使用する医薬組成物により異なるが、成人の場合、プラスマローゲンとして1日当たり100mg〜40g、より好ましくは200mg〜20g摂取できる量の生体内のプラスマローゲン増加剤を医薬組成物中に含有できれば良い。具体的には、プラスマローゲン量は医薬組成物中、0.1〜100質量%であることが好ましく、0.5〜99質量%であることが好ましく、1〜80質量%であることが最も好ましい。
【0025】
医薬組成物は、プラスマローゲンを単独で、あるいは、好ましくは薬剤学的又は獣医学的に許容することができる通常の担体又は希釈剤とともに、アラキドン酸の低下又は消失に起因する疾患の治療及び/又は予防が必要な対象[例えば、動物、好ましくは哺乳動物(特にヒト)]に有効量で投与することができる。
医薬組成物は、リン脂質結合型アラキドン酸の濃度を上昇させることのできる物質を含むこともできる。
【0026】
医薬組成物の投与剤型としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼剤などの非経口剤を挙げることができるが、経口剤が好ましい。
経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ブドウ糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリデン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
【0027】
医薬組成物を用いる場合の投与量は、例えば、使用する有効成分の種類、病気の種類、患者の年齢、性別、体重、生上の程度、又は投与方法に応じて適宜決定することができ、経口的に又は非経口的に投与することが可能である。
更に、投与形態も医薬品に限定されるものではなく、種々の形態、例えば、機能性食品や健康食品(飲料も含む)、又は飼料として飲食物の形態で与えることも可能である。
【0028】
本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤を含有する医薬組成物の製造方法は、前記にプラスマローゲンを有効成分として含むこと以外は、公知の医薬品の製造方法を用いて製造する ことができる。
【0029】
アラキドン酸を増加させることで、早期出生による低体重、視覚障害、精神遅滞、及び、胃炎を予防又は治療することが可能である。本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤、飲食品、又は医薬組成物を生体内に投与、特には経口投与することにより、生体内特にリンパ液や血液中のリン脂質結合型アラキドン酸を増加させることが可能である。すなわち、プラスマローゲンを有効成分として含有する本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤、飲食品、又は医薬組成物を生体内に投与、特には経口投与することにより、生体内においてリン脂質結合型アラキドン酸を増加させる方法を提供することが可能である。
【0030】
本発明の飲食品や医薬組成物を経口摂取する場合の摂取量は、前記のとおり、例えば成人の場合、プラスマローゲンとして1日当たり100mg〜40g、より好ましくは200mg〜20g摂取できる量の生体内のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤を医薬組成物中に含有できる量である。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0032】
〔製造例1〕
凍結乾燥したブタ脳1.4kgを、ヘキサン/エタノール混合溶剤(6:4)で脂質を抽出した。得られた粗脂質は溶剤蒸留後、ヘキサン/エタノール混合溶剤(8:2)に溶解し、あらかじめヘキサン/エタノール混合溶剤(8:2)で平衡化したシリカゲルカラム(400g)にアプライした。引き続きシリカゲルカラムに、ヘキサン/エタノール混合溶剤(8:2)4Lで中性脂質を溶出後、エタノール8Lで溶出させ、プラスマローゲン含有リン脂質〔エタノールアミン型グリセロリン脂質(以下EPという)90%以上含有〕24gを得た。全脂肪酸組成中のアラキドン酸は9.8%であった。全脂肪酸組成を表1に記載した。
また、プラスマローゲン濃度は54%であり、脂肪酸組成中のアラキドン酸は19.75%であった。全脂肪酸組成を表2に記載した。
【0033】
〔製造例2〕
凍結乾燥したウシ心臓3.6kgを、ヘキサン/エタノール混合溶剤(6:4)で脂質を抽出した。得られた粗脂質は溶剤蒸留後、ヘキサン/エタノール混合溶剤(8:2)に溶解し、あらかじめヘキサン/エタノール混合溶剤(8:2)で平衡化したシリカゲルカラム(400g)にアプライした。引き続きシリカゲルカラムに、ヘキサン/エタノール混合溶剤(8:2)4Lで中性脂質を溶出後、次いでエタノール8Lでエタノールアミン型グリセロリン脂質を溶出、更にエタノール/水混合溶剤(8:2)11Lで溶出させ、プラスマローゲン含有リン脂質〔コリン型グリセロリン脂質(以下CPという)90%以上含有〕8.0gを得た。全脂肪酸組成中のアラキドン酸は4.3%であった。全脂肪酸組成を表1に記載した。なお、参考のため、卵黄から抽出したエタノールアミン型グリセロリン脂質の全脂肪酸組成についても表1に記載した。
また、プラスマローゲン濃度は59%であり、脂肪酸組成中のアラキドン酸は16.47%であった。全脂肪酸組成を表2に記載した。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
〔実施例1〜2、比較例1〜2〕
6週齢のWistar−ST系雄ラットをステンレスケージに個別に入れて飼育し、飼料及び水(水道水)を自由に摂取させた。毎朝同一時刻に体重及び摂食量を計測した。試験飼料は毎日、飲水は3日毎に交換した。なお、飼育室を、室温23±1℃、湿度60%前後、明暗周期を12時間(明期8:00〜20:00、暗期20:00〜8:00)に設定した。
AIN93Gに準じた精製飼料(基本食)で5日間飼育した後、基本食(比較例1)、基本食の大豆油の50%を、卵黄から精製したコリン型グリセロリン脂質(卵黄PC:比較例2)、製造例1のエタノールアミン型グリセロリン脂質(ブタ脳PE:実施例1)、製造例2のコリン型グリセロリン脂質(ウシ心臓PC:実施例2)に置き換えて飼育した。なお、基本食(コントロール食)及びエルシン酸を添加したAIN93Gに準じた精製飼料(試験食)の各組成を下記の表3に記載した。
試験飼料又はコントロール食を10日間飼育した後、ペントバルビタール麻酔下において腹部大動脈血を採取した。採取した腹部大動脈血(10mL)は、遠心分離して血球成分と血漿を分け、血漿200μLに1% KCl溶液800μL加えた後、メタノール2.5mL、クロロホルム1.25mLを加え混合、遠心分離してクロロホルム層採取し、残った上清に再度クロロホルム1mLを加えて振とうし、同様に遠心分離して下層を採取して先程の下層と合わせ血清脂質を得た。
抽出した血清脂質は、湿式灰化後、リンを測定することによってリン脂質含量(表4)を算出した。また、リン脂質中のアラキドン酸含量及びプラスマローゲン中のアラキドン酸含量はLC/MSにより測定した。
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
上記表4からわかるとおり、本発明のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤を投与した実施例1、実施例2では、コントロール(比較例1)に比べ、血清中のリン脂質結合型アラキドン酸含量が有意に増加していることがわかる。
特に実施例1(1.58倍)よりも実施例2(2.94倍)の効果が高いことから、エタノールアミン型グリセロリン脂質に比べコリン型グリセロリン脂質が、血清中のリン脂質結合型アラキドン酸増加剤として有用であることがわかる。
なお、プラスマローゲン中のアラキドン酸含量は比較例とほぼ同等であるにもかかわらず、血清中のプラスマローゲン結合型アラキドン酸含量が飛躍的に増加していることから、プラスマローゲンが小腸で吸収されてから血液中に放出されるまでの間に、アラキドン酸がプラスマローゲンに選択的に再エステル化されていること示された。
【0040】
〔実施例3、4〕
カプセル剤として経口投与した場合を想定し、十二指腸に脂質投与用、胸管にリンパ液採取用カテーテルを留置したWistar−ST系雄ラット(10週齢)に、製造例1で得たエタノールアミン型リン脂質(実施例3)、製造例2で得たコリン型リン脂質(実施例4)を、タウロコール酸ナトリウムで10%エマルジョンとし、それぞれを1.0mL経腸投与した。投与開始から4時間、経時的に胸管リンパ液を全量採取し、リンパ液からリン脂質を抽出後、吸収されたプラスマローゲンの脂肪酸組成をLC/MSにて測定、投与したエマルジョン中のプラスマローゲンと比較し、その結果を表5に記載した。表5の結果からわかるとおり、投与エマルジョン中のC20:4(アラキドン酸)含量に比べ、リンパ液中のC20:4(アラキドン酸)含量が飛躍的に増加していることから、リンパ液中には、アラキドン酸結合型プラスマローゲンが選択的に放出されることが示された。
また、リンパ液から抽出したリン脂質中のアラキドン酸結合型プラスマローゲンの含量についても、LC/MSにて測定し、表6に記載した。表6の結果から、エタノールアミン型グリセロリン脂質に比べコリン型グリセロリン脂質が、リンパ液中のアラキドン酸結合型プラスマローゲンを特異的に増加させることがわかる。
【0041】
【表5】

【0042】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスマローゲンを有効成分として含むことを特徴とするリン脂質結合型アラキドン酸増加剤。
【請求項2】
前記プラスマローゲンがコリン型プラスマローゲンであることを特徴とする請求項1に記載の、リン脂質結合型アラキドン酸増加剤。
【請求項3】
プラスマローゲンを有効成分として含むことを特徴とする、リン脂質結合型アラキドン酸を上昇させる飲食品。
【請求項4】
前記プラスマローゲンがコリン型プラスマローゲンであることを特徴とする請求項3に記載の飲食品。

【公開番号】特開2009−269864(P2009−269864A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122389(P2008−122389)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 文部科学省 委託事業「さっぽろバイオクラスター構想“Bio−S”」委託研究,産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】