説明

リン酸エステル系重合体の製造方法

【課題】工業的規模で安全かつ容易に高品質なリン酸エステル系重合体を製造でき、且つ、水硬性粉体等の粉末、特にコンクリートの分散剤原料として好適なリン酸エステル系重合体が得られる、リン酸エステル系重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】特定の有機ヒドロキシ化合物(1)とリン酸化剤(2)とを特定比率で用い、有機ヒドロキシ化合物(1)を含む反応系にリン酸化剤(2)を添加する際に、リン酸化剤(2)の反応系への添加開始から添加終了まで反応系の温度を0℃〜100℃に維持する工程(I)と、該工程(I)により得たリン酸エステルと重合禁止剤とを含有する重合性フォスフェート組成物を所定温度に加温した状態で用いて重合反応を行い、リン酸エステル系重合体を得る工程(II)とを有する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸エステル系重合体の製造方法、更に該製造方法によって得られた、無機粉体などの分散剤の原料等として好適な、リン酸エステル系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸モノエステル、リン酸ジエステル等のリン酸エステルは界面活性剤、金属結合材、繊維の帯電防止剤等様々な分野で用いられている。これらリン酸エステル類は、一般に五酸化リン等のリン酸無水物とリン酸、ポリリン等と有機ヒドロキシ化合物との縮合反応により工業的に製造されている。この反応により、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、リン酸トリエステル、リン酸ピロエステル等が生成し、これら生成比は、五酸化リン等のリン酸無水物とリン酸、ポリリン酸等と有機ヒドロキシ化合物との仕込み比によって異なる。また、リン酸エステルの中でも、メタアクリロイル基等を有する重合性リン酸エステルは、重合性等が優れており、従来、繊維処理剤、塗料、歯科材料等で用いられている(特許文献1)。
【0003】
また、特許文献2には、ポリオキシアルキレン基を有する特定の単量体1とリン酸モノエステル系単量体2とリン酸ジエステル系単量体3とを、pHを7以下にして共重合させて得られた水硬性組成物用分散剤として好適なリン酸エステル系重合体が開示されている。なお、特許文献3にも所定のリン酸化剤を用いたリン酸エステル系重合体の製造方法が開示されているが、該公報は紫外線等により硬化した重合体を得る技術に関するものであり、水溶液等、液状で得られる重合体を対象とするものではない。
【特許文献1】特開平11-80175号公報
【特許文献2】特開2006-052381号公報
【特許文献3】特開2003-146992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、工業的規模で安全かつ容易に、しかも、高品質の、例えば、臭いや色相の良好なリン酸エステル系重合体を製造でき、且つ、水硬性粉体等の粉末を含む組成物、特にコンクリートの分散剤原料として好適なリン酸エステル系重合体が得られる、リン酸エステル系重合体の製造方法を提供することにある。
【0005】
また、重合性フォスフェートは、経時により、あるいは保存中の加温によりエステルの転移反応が起こり、製造時の組成(モノエステル体、ジエステル体、トリエステル体の組成)が変動する場合がある。重合性フォスフェートは、反応性のモノマーであることからも、冷暗所や屋内に保存して組成変動や重合を抑えることが好ましい。
【0006】
本発明の他の目的は、リン酸エステル系重合体の組成の安定化と同時に該重合体製造時のハンドリング性の改善や収率の向上を図り、重合体の性能にぶれが生じることを抑制し、例えば重合体の分散性能が安定的に高く発現できるリン酸エステル系重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の工程(I)及び(II)を有するリン酸エステル系重合体の製造方法に関する。
工程(I):下記一般式(1)で表される有機ヒドロキシ化合物(1)を含む反応系にリン酸化剤(2)及び重合禁止剤を添加して、有機ヒドロキシ化合物(1)とリン酸化剤(2)とを反応させて重合性フォスフェートを製造する工程であって、有機ヒドロキシ化合物(1)とリン酸化剤(2)とを下記式(I)が2.0〜4.0となる条件で用い、且つリン酸化剤(2)の反応系への添加開始から添加終了まで反応系の温度を0℃〜100℃に維持する工程
【0008】
【化3】

【0009】
〔式中、R1は、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基、Aは炭素数2〜12のアルキレン基、nは平均で0.1〜20の数を表す。〕
【0010】
【数2】

【0011】
工程(II):工程(I)で得られた重合性フォスフェート及び重合禁止剤を含有する重合性フォスフェート組成物を40℃〜100℃の温度に加温した状態で反応系に添加して、重合性フォスフェートの重合、または重合性フォスフェートと該重合性フォスフェートと共重合可能な単量体との重合を行い、リン酸エステル系重合体を製造する工程。
【0012】
また、本発明は、上記本発明の製造方法により得られるリン酸エステル系重合体を含有するリン酸エステル系重合体組成物、及び該リン酸エステル系重合体組成物からなる粉末用分散剤に関する。
【0013】
また、本発明は、分子内に不飽和炭素結合を有する重合性フォスフェートと重合禁止剤とを含有する重合性フォスフェート組成物を40〜100℃の温度に加温して反応系に添加して重合反応を行う、リン酸エステル系重合体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、工業的規模で安全かつ容易にしかも、高品質の、例えば、臭いや色相の良好なリン酸エステル系重合体を製造でき、且つ、水硬性粉体等、特にコンクリートの分散剤原料として分散性能が安定的に高く発現可能なリン酸エステル系重合体が得られる、リン酸エステル系重合体の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、リン酸エステル系重合体の組成の安定化と同時に該重合体製造時のハンドリング性の改善や収率の向上が達成され、例えば重合体の分散性能が安定的に高く発現できるリン酸エステル系重合体が得られる、リン酸エステル系重合体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<工程(I)>
本発明における工程(I)は、下記一般式(1)で表される有機ヒドロキシ化合物(1)を含む反応系にリン酸化剤(2)及び重合禁止剤を添加して、有機ヒドロキシ化合物(1)とリン酸化剤(2)とを反応させて重合性フォスフェートを製造する工程であって、有機ヒドロキシ化合物(1)とリン酸化剤(2)とを下記式(I)が2.0〜4.0となる条件で用い、且つリン酸化剤(2)の反応系への添加開始から添加終了まで反応系の温度を0℃〜100℃に維持する工程である。
【0017】
【化4】

【0018】
〔式中、R1は、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基、Aは炭素数2〜12のアルキレン基、nは平均で0.1〜20の数を表す。〕
【0019】
【数3】

【0020】
本発明では、式(I)においては、リン酸化剤(2)を、便宜的にP25・n(H2O)として換算してとり扱うものとする。
【0021】
また、式(I)で定義されたリン酸化剤のモル数とは、原料として反応系に導入されるリン酸化剤(2)に由来するP25単位の量(モル)を示す。
【0022】
また、水のモル数とは、原料として、反応系に導入されるリン酸化剤に由来する水(H2O)の量(モル)を示す。即ち、水には、ポリリン酸を(P25・xH2O)と、オルトリン酸を〔1/2(P25・3H2O)〕として表した場合の水を含めた反応系内に存在する全ての水が含まれることになる。
【0023】
本発明に用いられる一般式(1)で表される有機ヒドロキシ化合物(1)において、R1は水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を示し、好ましくは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基、より好ましくは水素原子またはメチル基、特に好ましくはメチル基である。Aは炭素数2〜12のアルキレン基(トリメチレン等のポリメチレン基を含む)を示し、炭素数2〜3のアルキレン基が好ましい。nはアルキレンオキサイドの平均付加モル数であり、平均で0.1〜20の数であり、0.5〜15が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜5が更に好ましい。有機ヒドロキシ化合物(1)は、メタクリル酸またはアクリル酸のアルキレンオキサイド付加物(アルキレンオキサイドは2〜12の炭素原子を有し、アルキレンオキサイド平均付加モル数は0.1〜20である)が好ましい。
【0024】
本発明に用いられるリン酸化剤(2)は、五酸化リン、リン酸及びポリリン酸からなる群から選ばれた少なくとも一種が好ましい。リン酸としては、オルトリン酸が挙げられ、75%リン酸水溶液等の市販されている水溶液状のものを含む。また、ポリリン酸としては、オルトリン酸の縮合物(例えばオルトリン酸の縮合物であり、116%強リン酸として市販されているもの等)等が挙げられ、これらは単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。これらの組み合わせは、前述の式(I)を満たす範囲で任意に仕込み量を変えることができるが、具体的には、オルトリン酸と五酸化リン(無水リン酸)との組合せ、又は、オルトリン酸とポリリン酸と五酸化リン(無水リン酸)との組合せ、特にオルトリン酸と五酸化リン(無水リン酸)との組合せが好ましい。
【0025】
また、五酸化リンの溶け残りを防ぐ為に、五酸化リン中の水分含量は5重量%以下が好ましい。なお、オキシ塩化リン等の他のリン酸化剤を使用してもよい。ここで、前記特許文献3には、2−ヒドロキシエチルアクリレートをリン酸化するに際して五酸化リンと水を用いることが記載されているが、本発明のような有機ヒドロキシ化合物(1)がエステル結合を有している場合には、系中への水の添加は少ない方が好ましい。何故ならば、水が五酸化リンと反応してポリリン酸を経由して有機ヒドロキシ化合物(1)と反応する間、発熱による反応系内の温度上昇が起こり、反応系内に残存する水によって有機ヒドロキシ化合物(1)のエステル結合が加水分解されることを十分に抑制できるからである。一般的に有機ヒドロキシ化合物(1)のエステル結合の加水分解を抑制する為には、低温が要求され、特許文献3の実施例や比較例でも無水リン酸(五酸化リン)懸濁液の系中への滴下は0〜30℃で行われている。しかしながら、工業的な規模で製造を行うには、より温度条件の高い方が設備への負荷やコスト面で有利である。本発明では、水溶液として使用できるリン酸化剤、例えば後述の実施例のような75%リン酸水溶液を使用すること、すなわち五酸化リンと水溶液として使用できるリン酸化剤とを組み合わせることで、全体としての水の使用量を低減しつつ、有効量のリン酸化剤を供給でき、五酸化リンの投入温度が比較的高い温度である50℃〜100℃、特に70℃〜100℃でもエステル結合の加水分解が抑制されるため、前述のリン酸化剤の組合せが好ましい。
【0026】
本発明において、有機ヒドロキシ化合物(1)とリン酸化剤(2)とは、上記式(I)が2.0〜4.0となる量で用いられる。この比がこの範囲にあることでリン酸化剤(2)の量が適正となり、効率よく重合性モノフォスフェートを得ることができる。
【0027】
本発明は、有機ヒドロキシ化合物(1)を含む反応系にリン酸化剤(2)を添加する工程を有する。リン酸化剤(2)、特に五酸化リンを反応系に添加する際の反応系の温度は、反応速度向上とエステル体の収率の向上、及び得られる重合性フォスフェート化合物を用いた重合体の臭いの観点から、添加開始から添加終了まで0℃〜100℃で行うことが必要であり、更にその温度は、20℃〜90℃が好ましく、40℃〜80℃がより好ましく、40〜75℃が更に好ましい。
【0028】
また、有機ヒドロキシ化合物(1)を含む反応系へのリン酸化剤(2)、特に五酸化リンの添加に要する時間(添加開始から添加終了までの時間)は20時間以内とすることが好ましく、0.1時間〜20時間、更に0.5時間〜10時間、特に1時間〜6時間とすることが好ましい。また反応に供されるリン酸化剤(2)の全量を、連続的または断続的に徐々に反応系に添加することが好ましい。
【0029】
リン酸化剤、特に五酸化リンを添加する工程では、着色の抑制や有機ヒドロキシ化合物(1)の重合を抑制することが重要である。そのためには、1.5kW/m3以上の攪拌動力下で反応を行うことが好ましい。かかる攪拌動力を達成する攪拌翼としては、ファウドラー翼、パドル翼、タービン翼、プロペラ翼、アンカー翼等が好ましく、これらの翼の組み合わせで2枚以上用いても良い。また攪拌剪断力を向上させる為に、反応槽内に邪魔板を設置することが好ましい。
【0030】
リン酸化剤(2)の添加終了後の温度に関しては、特に拘らないが、0℃〜100℃で行うことが好ましい。つまり、リン酸化剤(2)の反応系への添加開始から、有機ヒドロキシ化合物(1)とリン酸化剤(2)の反応終了まで、反応系の温度を0℃〜100℃、更に20℃〜90℃、特に30℃〜85℃、更に60〜85℃の範囲に維持することが好ましい。又反応時間は、0.1〜20時間が好ましく、より好ましくは、0.5〜10時間、さらに好ましくは1〜5時間である。
【0031】
リン酸化反応終了後は、生成したリン酸の縮合物(ピロリン酸結合を有する有機化合物やリン酸)を加水分解により低減しても良い。
【0032】
本発明に於いては、反応時または保存時の重合の抑制や組成物の安定化を図る為に、反応時に重合禁止剤を添加する。また場合によっては、反応終了後にさらに添加して保存に備えるのが好ましい。
【0033】
重合禁止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、キノン芳香族系化合物及びニトロソアミン系化合物からなる群から選ばれる1種以上の重合禁止剤を用いることができる。より具体的には、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、4-メトキシ-1-ナフトール、β−ベンゾキノン、メチル−p−ベンゾキノン、tert−ブチル−ベンゾキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5−tert−ブチル−ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2,5−ビス(1,1−ジメチルブチル)ハイドロキノン、tert−ブチル−ハイドロキノン、p−ベンゾキノン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン・アルミニウム塩、2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ハイドロキノン及びフェノチアジンから選ばれる1種以上が好ましい。好ましくはキノン芳香族系化合物であり、より好ましいものとしては、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、メチルハイドロキノンから選ばれる1種以上であり、特に好ましくは、ハイドロキノンモノメチルエーテルある。これらの重合禁止剤の添加量は、仕込み総量に対し0.0001〜5重量%が好ましく、0.0005〜3重量%がより好ましく、0.01〜2重量%がより好ましく、0.03〜1重量%がより好ましく、0.05〜0.5重量%がさらに好ましい。
【0034】
本発明において、反応終了後の反応系中に残存する未反応の有機ヒドロキシ化合物(1)の含量は特に規定はないが、目的生成物の純度向上の観点から、残存量は少ない方が好ましい。
【0035】
本発明の工程(I)により得られた重合性フォスフェートは、通常、モノエステル体、ジエステル体の混合物として得られ、重合性リン酸フォスフェート組成物として用いることができる。該組成物は、繊維処理剤、塗料、歯科材料等の原料として有用であるが、水硬性粉体用の分散剤、特に高い減水性を発現するコンクリート分散剤用の原料として好適である。
【0036】
<工程(II)>
本発明における工程(II)は、工程(I)で得られた重合性フォスフェート及び重合禁止剤を含有する重合性フォスフェート組成物を40℃〜100℃の温度に加温した状態で反応系に添加して、重合性フォスフェートの重合、または重合性フォスフェートと該重合性フォスフェートと共重合可能な単量体との重合を行い、リン酸エステル系重合体を製造する工程である。
【0037】
上述のように、重合性フォスフェート組成物は、工程(I)で得られた分子内に不飽和結合を有する重合性フォスフェートと重合禁止剤とを含有するものである。また、重合性フォスフェート組成物は、該重合性フォスフェートと共重合可能な単量体、その他の成分を含有していてもよい。ここで、工程(II)で用いられる重合禁止剤としては、工程(I)で挙げたものを使用することができる。なお、工程(I)と工程(II)で用いられる重合禁止剤の種類は異なっていても良いが、同じものを用いることがより好ましい。
【0038】
通常、工程(I)で添加された重合禁止剤は工程(I)で一部または全部消費されるため、工程(II)を行う前に、重合性フォスフェート組成物中の重合禁止剤の残存量を確認することが好ましい。その後、上記の範囲内となるように工程(I)で得られた反応生成物に対して重合禁止剤を添加することによって、工程(II)で用いられる重合性フォスフェートと特定量の重合禁止剤とを含有する重合性フォスフェート組成物を調製することが好ましい。すなわち、工程(II)を行う前に、後述するように消費された重合禁止剤を補充するような添加工程を有することが好ましい。
【0039】
そして、このようにして得られた重合性フォスフェート組成物を、40〜100℃の温度に加温した状態で用いて次の重合反応に移る。得られたポリマーの分散性能の観点からも、このような方法は好ましい。
【0040】
従来の方法では、重合性のモノマーを反応前に保存するに際し、重合を抑止するために積極的に冷却することが好ましいが、冷却された高粘度の低温段階から加熱することにより、作業効率が悪くなる。これに対し、本発明では、反応前に低粘度かつ高流動性の時間を長くできるため、その状態を維持したまま反応に供することによっても、重合体の品質の低下が起こらない。工程(II)で用いられる重合性フォスフェート組成物は、重合禁止剤を0.0001〜10重量%含有することが好ましい。特に、重合禁止剤を多量に、例えば0.01〜10重量%、好ましくは0.03〜5重量%、より好ましくは0.05〜3重量%、更に好ましくは0.1〜2重量%含有するように配合することで、より優れた品質保持効果が得られる。
【0041】
重合性のモノマーの加温温度は、40℃〜100℃、好ましくは40℃〜90℃、より好ましくは40℃〜80℃、更に好ましくは40℃〜70℃、特に好ましくは40℃〜60℃が好ましい。反応系に導入する前から加温を開始し、反応系への導入が完了するまでこの温度を維持する。
【0042】
また、40℃〜100℃に加温した重合性フォスフェート組成物を反応系に添加するのに要する時間(所定時間)は、好ましくは0.1〜48時間、より好ましくは0.5〜35時間、さらに好ましくは、1〜30時間、特に好ましくは1〜24時間である。
【0043】
40℃〜100℃に加温した状態の重合性フォスフェート組成物の粘度は、1000mPa・S以下、特に好ましくは、500mPa・S以下であることが、工程(II)における作業性、収率の向上、及び組成の安定性の観点から好ましい。尚、粘度の測定は、日本工業規格K6833に準じて行う。
【0044】
なお、工程(II)では、工程(I)で得られた重合性フォスフェート及び重合禁止剤を含有する重合性フォスフェート組成物を40℃〜100℃で処理した後に重合することができる。処理温度は好ましくは40℃〜90℃、より好ましくは40℃〜80℃、更に好ましくは40℃〜70℃、特に好ましくは40℃〜60℃であり、通常はこのような温度環境下に重合性フォスフェート組成物を放置すればよい。処理時間は、好ましくは0.1〜48時間、より好ましくは0.5〜35時間、さらに好ましくは、1〜30時間、特に好ましくは1〜24時間である。このような処理を行った場合は、その温度を維持したまま加温状態の重合性フォスフェート組成物として用いて工程(II)における反応系に添加することができる。
【0045】
本発明では、重合性フォスフェートの単一重合体の他、重合性フォスフェートと共重合可能な他の単量体との共重合体を得ることができる。重合性フォスフェートは、2−メタクリロイルオキシエチルフォスフェート及び2−アククリロイルオキシエチルフォスフェートから選ばれる1種以上が好ましい。また、重合性フォスフェートと重合可能な単量体としては、下記一般式(A)で表される単量体〔以下、単量体Aという〕が好ましい。
【0046】
【化5】

【0047】
〔式中、R1a、R2aは、それぞれ水素原子または炭素数1〜5のアルキル基、好ましくはメチル基、R3aは水素原子または-(CH2)q(CO)pO(AO)r4a、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基またはオキシスチレン基、pは0または1の数、qは0〜2の数、rはAOの平均付加モル数であり、3〜300の数、R4aは水素原子または炭素数1〜18のアルキル基を表す。〕
【0048】
単量体Aにおいて、一般式(A)中のR1a、R2aは、それぞれ水素原子またはメチル基、特にメチル基であることが好ましい。R3aは水素原子または-(CH2)q(CO)pO(AO)r4aであり、水素原子が好ましい。一般式(A)の(R1a) (R3a)C=C(R2a) CH2)q−が形成する不飽和基として、ビニル基、アリル基、メタリル基等が挙げられる。
【0049】
pが0の場合はAOは(CH2)qとエーテル結合、pが1の場合はエステル結合である。qは0〜2であり、好ましくは0または1であり、更に好ましくは0である。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基またはオキシスチレン基であり、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基が好ましく、エチレンオキシ基(以下、EO基)を含むことがより好ましく、EO基が70モル%以上、更に80モル%以上、更に90モル%以上、特に全AOがEO基であることが好ましい。rはAOの平均付加モル数であり、3〜300の数であり、好ましくは5〜250、特に好ましくは3〜200である。また、平均r個の繰り返し単位中にAOが異なるもので、ランダム付加またはブロック付加またはこれらの混在を含むものであっても良い。例えばAOは、EO基以外にもプロピレンオキシ基等を含むこともできる。
【0050】
重合体を水硬性組成物用分散剤として用いる場合、例えばコンクリートの粘性を更に低くする観点から、一般式(A)中のrは3〜300が好ましく、3〜150がより好ましく、特に3〜120が好ましい。
【0051】
4aは水素原子または炭素数1〜18のアルキル基であり、更に1〜12、更に1〜4、更に1、2のアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。
【0052】
単量体Aとしては、メトキシポリエチレングリコール、メトキシポリプロピレングリコール、メトキシポリブチレングリコール、メトキシポリスチレングリコール、エトキシポリエチレンポリプロピレングリコール等の片末端アルキル封鎖ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸、マレイン酸との(ハーフ)エステル化物や、(メタ)アリルアルコールとのエーテル化物、及び(メタ)アクリル酸、マレイン酸、(メタ)アリルアルコールへの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物付加物が好ましく用いられる。
【0053】
より好ましくはアルコキシ、特にはメトキシポリエチレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物である。具体的には、ω−メトキシポリオキシアルキレンメタクリル酸エステル、ω−メトキシポリオキシアルキレンアクリル酸エステル等を挙げることができ、ω−メトキシポリオキシアルキレンメタクリル酸エステルがより好ましい。
【0054】
また、単量体A以外の他の単量体として、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸系単量体、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のジカルボン酸系単量体、またはこれらの無水物もしくは塩(例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、水酸基が置換されていてもよいモノ、ジ、トリアルキル(炭素数2〜8)アンモニウム塩)もしくはエステルを用いることもできるが、好ましくは(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、更に好ましくは(メタ)アクリル酸またはこれらのアルカリ金属塩を挙げることができる。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及び/またはメタクリル酸の意味である。その他にも、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、これら何れかのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、またはアミン塩も挙げることができる。更に、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、2−(メタ)アクリルアミド−2−メタスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−エタンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−プロパンスルホン酸、スチレン、スチレンスルホン酸などを挙げることができる。
【0055】
具体的な重合条件としては、例えば、水溶媒系に重合禁止剤の存在下、必要に応じてキレート剤と連鎖移動剤等を添加した後に、所定温度に加温された状態の重合性フォスフェート組成物を滴下重合反応することによってリン酸エステル系重合体を製造することができる。
【0056】
また、重合反応の際は、連鎖移動剤の存在下で重合することが好ましく、単量体Aを用いる場合には、連鎖移動剤を、重合性フォスフェート中のリン酸モノエステル体及びリン酸ジエステル、並びに単量体Aとの合計モル数に対して4モル%以上、更に6モル%以上、特に8モル%以上使用することがより好ましい。この比率の上限は、100モル%以下、更に60モル%以下、更に30モル%以下、更に15モル%以下が好ましい。連鎖移動剤としては、チオール系連鎖移動剤、ハロゲン化炭化水素系連鎖移動剤等が挙げられ、チオール系連鎖移動剤が好ましい。チオール系連鎖移動剤としては、−SH基を有するものが好ましく、特に一般式HS−R−Eg(ただし、式中Rは炭素原子数1〜4の炭化水素由来の基を表し、Eは−OH、−COOM、−COOR'または−SO3M基を表し、Mは水素原子、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表し、R'は炭素原子数1〜10のアルキル基を表わし、gは1〜2の整数を表す。)で表されるものが好ましく、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル等が挙げられ、共重合反応での連鎖移動効果の観点から、メルカプトプロピオン酸、メルカプトエタノールが好ましく、メルカプトプロピオン酸が更に好ましい。これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0057】
上記製造方法は水系溶媒(水もしくは水と有機溶媒)を用いた溶液重合法で行うことが好ましく、水系の重合開始剤としては、過硫酸のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩あるいは過酸化水素、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジハイドレート等の水溶性アゾ化合物が使用される。また、重合開始剤と併用して、亜硫酸水素ナトリウム、アミン化合物などの促進剤を使用することもできる。
【0058】
また、重合反応の際は、重合性フォスフェート組成物は、40〜100℃での温度を維持して反応系に導入するが、重合反応の際は、単量体溶液の均一性、ゲル化防止の観点から、反応系(好ましくは反応開始時から反応終了時までの反応系)のpHが好ましくは7以下である。更にpHが0.1〜6が、更に0.2〜4.5であることが好ましい。また、重合性フォスフェート組成物もpH7以下として用いることが好ましい。このpHは、20℃で測定したものである。
【0059】
また、工程(II)における反応温度(反応系の温度)は、好ましくは40〜100℃、より好ましくは50℃〜100℃、更に好ましくは60℃〜95℃の範囲であり、反応時間は好ましくは0.1時間〜10時間、更に好ましくは、0.5〜5時間である。必要に応じ、反応終了後にアルカリ剤(水酸化ナトリウム)で中和し、本発明に係るリン酸エステル系重合体を得る。
【0060】
本発明の製造方法は、上記本発明のリン酸エステル系重合体を含有する水硬性組成物等の粉末用分散剤の製造方法として好適である。
【0061】
なお、分子内に不飽和炭素結合を有する重合性フォスフェートと重合禁止剤とを含有する重合性フォスフェート組成物を、40〜100℃の温度に加温して反応系に添加して重合反応を行う、フォスフェート重合体の製造方法は、上記工程(II)に準じて行うことができる。
【実施例】
【0062】
以下の実施例及び比較例において組成分析のために採用したガスクロマトグラフィー条件、及び31P-NMRの条件等を示す。
31P-NMR条件>
測定機器:Mercury 400, 500Ωヘルツ
溶媒:重メタノール
測定温度:室温
測定条件:逆ゲート付きデカップリング法(inverse-gated decoupling method)
観測データポイント 10336
パルス幅 (5.833μsec)35°パルス
測定範囲 6459.9Hz
積算回数 128
【0063】
1H-NMR条件>
・測定機器:Mercury−400(バリアン)
・溶媒:重水/重メタノール混液
・測定条件:パルス幅 45°パルス
測定範囲 6410.3Hz
積算回数 8
【0064】
<ガスクロマトグラフィー条件>
・サンプル;ジアゾメタンによりメチル化
・カラム;Ultra ALLOY、15m×0.25mmid×0.15μmdf
・キャリアガス;He、スプリット比50:1
・カラム温度;40℃(5min)→10℃/min→300℃/15min
・注入口温度;300℃
・検出器温度;300℃
【0065】
また、以下の実施例及び比較例において重合体の分子量測定のために採用したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)のの条件を示す。
<GPC測定条件>
カラム:G4000PWXL+G2500PWXL(東ソー)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=9/1
流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出器:RI
サンプルサイズ:0.2mg/ml
標準物質:ポリエチレングリコール換算
【0066】
実施例1
〔I〕重合性フォスフェートの製造〔工程(I)〕
冷却水に浸した1000ml容量の反応容器に、2-ヒドロキシエチルメタクリレート371.5gと75%リン酸50.5g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.1gを仕込み0.5時間撹拌し、五酸化リン178gを反応系内の温度が50℃を超さないように添加終了まで45〜50℃で1時間で仕込んだ。前記(I)で定義される比率は3.0である。その後、80℃に昇温して5時間反応し、高速液体クロマトグラフィーにより2-ヒドロキシエチルメタクリレートが1%以下になったのを確認して冷却した。得られた生成物の粘度は室温(25℃)で2350mPa・sであった。また、この生成物中の重合禁止剤であるハイドロキノンモノメチルエーテルを1H-NMRで測定した結果0.03重量%含まれていた。
【0067】
〔II〕リン酸エステル系重合体の製造〔工程(II)〕
上記で得られた、2−メタクリロイルオキシエチルフォスフェートを含有する生成物にハイドロキノンモノメチルエーテルを0.6g(0.1重量%、対重合性フォスフェート重量)添加して重合性フォスフェートと重合禁止剤とを含有する重合性フォスフェート組成物とし、80℃の恒温槽に24時間保存した。保存後の組成物中の、重合性フォスフェートのモノエステル体、ジエステル体及びトリエステル体、並びにエチレングリコールジエステル体の組成比を表1に示す(尚、組成比は、モノエステル体、ジエステル体、トリエステル体、エチレングリコールジエステル体の合計を100%(重量比)に換算した値である)。また、この組成物中の重合禁止剤であるハイドロキノンモノメチルエーテルを1H-NMRで測定した結果0.06重量%含まれていた。
【0068】
次に予め用意をしておいた1000ml容4つ口フラスコに水246gを仕込み、攪拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。次に、上記の重合性フォスフェート組成物27.9gを80℃の温度(180mPa・s)でビーカーに秤量した後に、ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイドの付加モル数23)55gとメルカプトプロピオン2.2gとをイオン交換水55gに混合溶解した中に添加した。上記の重合性フォスフェート組成物27.9gのうち、27.5gを仕込んだ(仕込み時の粘度は180mPa・sであった)。この調整溶液と過硫酸アンモニウム3.76gを水45gに溶解したものを、それぞれ1.5時間かけて滴下した。なお、反応中のpHは1.4であった。1時間の熟成後、過硫酸アンモニウム1.88gを水15gに溶解したものを30分かけて滴下し、その後、2時間、80℃で熟成した。反応液のpHは1.3であった。熟成終了後に20%水酸化ナトリウム溶液でpH5.5に調整し、リン酸エステル系重合体(重合体溶液)を得た。得られた重合体の分子量をGPCで測定したところ、重量平均分子量29,000であった。
【0069】
実施例2
〔II〕リン酸エステル系重合体の製造〔工程(II)〕
実施例1で得られた、2−メタクリロイルオキシエチルフォスフェートを含有する生成物にハイドロキノンモノメチルエーテルを0.6g(0.1重量%、対重合性フォスフェート重量)添加して重合性フォスフェートと重合禁止剤とを含有する重合性フォスフェート組成物とし、80℃の恒温槽に1時間保存した。尚、保存後の組成物中の、重合性フォスフェートのモノエステル体、ジエステル体及びトリエステル体、並びにエチレングリコールジエステル体の組成比を表1に示す(尚、組成比は、モノエステル体、ジエステル体、トリエステル体、エチレングリコールジエステル体の合計を100%(重量比)に換算した値である)。また、保存後の組成物中の重合禁止剤であるハイドロキノンモノメチルエーテルを1H-NMRで測定した結果0.09重量%含まれていた。その後、次の重合工程に移行し、重合性フォスフェート組成物27.0gを仕込んだ(仕込み時の粘度は190mPa・sであった)以外は、実施例1と同様の重合条件で重合体を得た。得られた重合体の分子量をGPCで測定したところ、重量平均分子量29,000であった。
【0070】
比較例1
〔I〕重合性フォスフェートの製造〔工程(I)〕
冷却水に浸した1000ml容量の反応容器に、2-ヒドロキシエチルメタクリレート371.5gと75%リン酸50.5g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.1gを仕込み0.5時間撹拌し、五酸化リン(有効分98.5%)178gを反応系内の温度が添加終了まで100℃〜105℃の範囲で1時間で仕込んだ。前記(I)で定義される比率は3.0である。その後、80℃に降温し、5時間反応し、高速液体クロマトグラフィーにより2-ヒドロキシエチルメタクリレートが1%以下になったのを確認して冷却した。得られた生成物の粘度は室温(25℃)で2350mPa・sであった。また、この生成物中の重合禁止剤であるハイドロキノンモノメチルエーテルを1H-NMRで測定した結果0.02重量%含まれていた。
【0071】
〔II〕リン酸エステル系重合体の製造〔工程(II)〕
上記で得られた生成物にハイドロキノンモノメチルエーテルを0.6g(0.1重量%、対重合性フォスフェート(生成物))添加して重合性フォスフェートと重合禁止剤とを含有する重合性フォスフェート組成物とし、80℃の恒温槽に24時間保存した。保存後の組成物中の、重合性フォスフェートのモノエステル体、ジエステル体及びトリエステル体、並びにエチレングリコールジエステル体の組成比を表1に示す(尚、組成比は、モノエステル体、ジエステル体、トリエステル体、エチレングリコールジエステル体の合計を100%(重量比)に換算した値である)。また、保存後の組成物中の重合禁止剤であるハイドロキノンモノメチルエーテルを1H-NMRで測定した結果0.05重量%含まれていた。その後、次の重合工程に移行し、重合性フォスフェート組成物27.2gを仕込んだ(仕込み時の粘度は180mPa・sであった)以外は、実施例1と同様の重合条件で重合体を得た。得られた重合体の分子量をGPCで測定したところ重量平均分子量27,000であった。
【0072】
実施例3
〔II〕リン酸エステル系重合体の製造
実施例1の工程(I)で得られた生成物を、ハイドロキノンモノメチルエーテルを添加せずに80℃の恒温槽に24時間保存した。尚、保存後の該組成物中の、重合性フォスフェートのモノエステル体、ジエステル体及びトリエステル体、並びにエチレングリコールジエステル体の組成比を表1に示す(尚、組成比は、モノエステル体、ジエステル体、トリエステル体、エチレングリコールジエステル体の合計を100%(重量比)に換算した値である)。また、保存後の組成物中の重合禁止剤であるハイドロキノンモノメチルエーテルを1H-NMRで測定した結果0.01重量%含まれていた。その後、次の重合工程に移行し、重合性フォスフェート組成物27.4gを仕込んだ(仕込み時の粘度は180mPa・sであった)以外は、実施例1と同様の重合条件で重合体を得た。得られた重合体の分子量をGPCで測定したところ、重量平均分子量28,000であった。
【0073】
【表1】

【0074】
表中、「臭い評価」は、パネラー3人にて、得られた重合体溶液の臭いを官能評価し、異臭が僅かなものを「○」、異臭が比較的強いものを「△」、異臭が強いものを「×」として評価し、3人の評価結果の内、2人以上のパネラーの同一の結果を示したものである。
【0075】
試験例1
〔I〕重合性フォスフェート組成物の調製及び処理
冷却水に浸した1000ml容量の反応容器に、2-ヒドロキシエチルメタクリレート371.5gと75%リン酸50.5g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.1gを仕込み0.5時間撹拌し、五酸化リン(有効分98.5%)178gを反応系内の温度が60℃を超さないように添加終了まで55〜60℃で1時間で仕込んだ。前記(I)で定義される比率は3.0である。その後、80℃に昇温して5時間反応し、高速液体クロマトグラフィーにより2-ヒドロキシエチルメタクリレートが1%以下になったのを確認して冷却した。該生成物中、重合性フォスフェートのモノエステル体、ジエステル体及びトリエステル体、並びにエチレングリコールジエステル体の合計濃度は73.0重量%であった。尚、この生成物中の重合禁止剤であるハイドロキノンモノメチルエーテルを1H-NMRで測定した結果0.03重量%含まれていた。
【0076】
試験例1−1
得られた生成物にハイドロキノンモノメチルエーテル(表2中、MEHQと表示)を0.6g(0.1重量%、対重合性フォスフェート重量)添加して重合性フォスフェートと重合禁止剤とを含有する組成物とし、80℃の恒温槽に24時間保存した。保存後の組成物について、前記条件で31P-NMRとガスクロマトグラフィーを用いて分析を行い、組成比を算出した。また、この組成物中の重合禁止剤であるハイドロキノンモノメチルエーテルを1H-NMRで測定した結果0.06重量%含まれていた。
【0077】
試験例1−2
また、得られた反応生成物にハイドロキノンモノメチルエーテルを添加しないで保存した組成物についても同様に保存後の組成比を算出した。また、この組成物中の重合禁止剤であるハイドロキノンモノメチルエーテルを1H-NMRで測定した結果0.01重量%含まれていた。
【0078】
尚、組成比は、モノエステル体、ジエステル体、トリエステル体、エチレングリコールジエステル体の合計を100%(重量比)に換算した値である。
【0079】
試験例2
〔I〕重合性フォスフェート組成物の調製及び処理
冷却水に浸した1000ml容量の反応容器に、2-ヒドロキシエチルメタクリレート371.5gと75%リン酸50.5g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.1gを仕込み0.5時間撹拌し、五酸化リン(有効分98.5%)178gを反応系内の温度が60℃を超さないように添加終了まで55〜60℃で1時間で仕込んだ。前記(I)で定義される比率は3.0である。その後、80℃に昇温して5時間反応し、高速液体クロマトグラフィーにより2-ヒドロキシエチルメタクリレートが1%以下になったのを確認して冷却した。該生成物中、重合性フォスフェートのモノエステル体、ジエステル体及びトリエステル体、並びにエチレングリコールジエステル体の合計濃度は73.0重量%であった。尚、この生成物中の重合禁止剤であるハイドロキノンモノメチルエーテルを1H-NMRで測定した結果0.03重量%含まれていた。
【0080】
試験例2−1
得られた生成物にハイドロキノン(表2中、HQと表示)を0.6g(0.1重量%、対重合性フォスフェート重量)添加して重合性フォスフェートと重合禁止剤とを含有する組成物とし、80℃の恒温槽に24時間保存した。保存後の組成物について、前記条件で31P-NMRとガスクロマトグラフィーを用いて分析を行い、組成比を算出した。また、この組成物中の重合禁止剤であるハイドロキノンとハイドロキノンモノメチルエーテルを1H-NMRで測定した結果、合計0.07重量%含まれていた。
【0081】
試験例2−2
また、得られた生成物にハイドロキノンを添加しないで保存した組成物についても同様に保存後の組成比を算出した。結果を表2に示す。この組成物中の重合禁止剤を1H-NMRで測定した結果、最初に添加したハイドロキノンモノメチルエーテルが0.01重量%含まれていた。
【0082】
尚、組成比は、モノエステル体、ジエステル体、トリエステル体、エチレングリコールジエステル体の合計を100%(重量比)に換算した値である。
【0083】
【表2】

【0084】
得られた生成物にハイドロキノンを添加した試験例1−1及び2−1とハイドロキノンを添加しない試験例1−2及び2−2と比べると、試験例1−1及び2−1の方が、モノエステル体の含有量が多くなった。これは、ハイドロキノンを添加することで、分解を抑制した結果と推察される。そして、重合性フォスフェートの保存中の組成変化を抑制することができ、該重合性フォスフェートを用いた重合体の例えば無機粉体への分散性能が安定的に発現できると考えられる。
【0085】
実施例4
1000ml容4つ口フラスコに水246gを仕込み、攪拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。次に予め用意をしておいた1000ml容4つ口フラスコに水246gを仕込み、攪拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。次に、保存処理後そのままの温度を維持した表2の試験例1−1の重合性フォスフェート組成物(MEHQ添加品)27.9gをビーカーに秤量した後、ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイドの付加モル数23)55gとメルカプトプロピオン2.2gとをイオン交換水55gに混合溶解した中に添加した。上記の重合性フォスフェート組成物27.9gのうち27.1gを仕込んだ(仕込み時の粘度は180mPa・sであった)。この調製溶液と、過硫酸アンモニウム3.76gを水45gに溶解したものを、それぞれ1.5時間かけて滴下した。なお、反応中のpHは1.3であった。1時間の熟成後、過硫酸アンモニウム1.88gを水15gに溶解したものを30分かけて滴下し、その後、2時間、80℃で熟成した。熟成終了後に20%水酸化ナトリウム溶液でpH5.5に調整し、共重合体を得た。得られた共重合体の分子量をGPCで測定したところ、重量平均分子量29,000であった。
【0086】
なお、保存処理後そのままの温度を維持した表2の試験例1−2の重合性フォスフェート組成物(MEHQ無添加品)を用いて共重合体を製造したところ、重量平均分子量は27,000であった。その際、重合性フォスフェート組成物27.9gのうち27.1gを仕込んだ(仕込み時の粘度は180mPa・sであった)以外は、同上の重合条件で重合体を得た。
【0087】
実施例5
冷却水に浸した1000ml容量の反応容器に、2-ヒドロキシエチルメタクリレート371.5gと75%リン酸50.5g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.1gを仕込み0.5時間撹拌し、五酸化リン178gを反応系内の温度が60℃を超さないように添加終了まで55〜60℃で5時間で仕込んだ。前記(I)で定義される比率は3.0である。その後、80℃に昇温して3時間反応した。得られた生成物中の加水分解により生成するメタクリル酸含量を高速液体クロマトグラフィーにより定量を行った結果、0.4%であった。以下、実施例1の工程(II)と同様にして、リン酸エステル系重合体を得た。得られた重合体の分子量をGPCで測定したところ、重量平均分子量28,000であった。
【0088】
実施例6
冷却水に浸した1000ml容量の反応容器に、2-ヒドロキシエチルメタクリレート371.5gと水22.7g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.1gを仕込み0.5時間撹拌し、五酸化リン(有効分98.5%)210gを反応系内の温度が60℃を超さないように添加終了まで5時間で仕込んだ。前記(I)で定義される比率は3.0である。その後、80℃に昇温して3時間反応した。得られた生成物中の加水分解により生成するメタクリル酸含量を高速液体クロマトグラフィーにより定量を行った結果、6.5%であった。以下、実施例1の工程(II)と同様にして、リン酸エステル系重合体を得た。得られた重合体の分子量をGPCで測定したところ、重量平均分子量26,000であった。
【0089】
実施例7
撹拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水366gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。次に、実施例1の工程(II)で用いた重合性フォスフェート組成物(ハイドロキノンモノメチルエーテル添加後、80℃で24時間保存したもの)72.6gを80℃の温度(粘度180mPa・s)でビーカーに秤量した後に、ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数23)450g(有効分60.8%、水分35%)と3−メルカプトプロピオン酸4.5gを混合溶解した中にさらに添加し混合した。上記の重合性フォスフェート組成物72.6gのうち71.6gを仕込んだ。この調整溶液と過硫酸アンモニウム.8.4gを水48gに溶解したものの2者を、それぞれ1.5時間かけて滴下した。なお、反応液のpHは1.4であった。1時間の熟成後、過硫酸アンモニウム1.8gを水10gに溶解したものを30分かけて滴下し、その後1.5時間同温度(80℃)で熟成した。反応液のpHは1.3であった。熟成終了後に32%水酸化ナトリウム水溶液でpH5.5に調整し、リン酸エステル系重合体を得た。得られた重合体の分子量をGPCで測定したところ、重量平均分子量35,000であった。
【0090】
比較例2
撹拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水366gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。次に、実施例1の工程(II)で用いた重合性フォスフェート組成物(ハイドロキノンモノメチルエーテル添加後、80℃で24時間保存したもの)を25℃の温度(粘度2350mPa・s)まで冷却して72.6gをビーカーに秤量した後に、ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数23)450g(有効分60.8%、水分35%)と3−メルカプトプロピオン酸4.5gを混合溶解した中にさらに添加し混合した。上記の重合性フォスフェート組成物72.6gのうち、仕込めた量は50.1gであった。この調整溶液と過硫酸アンモニウム.8.4gを水48gに溶解したものの2者を、それぞれ1.5時間かけて滴下した。なお、反応液のpHは1.4であった。1時間の熟成後、過硫酸アンモニウム1.8gを水10gに溶解したものを30分かけて滴下し、その後1.5時間同温度(80℃)で熟成した。反応液のpHは1.3であった。熟成終了後に32%水酸化ナトリウム水溶液でpH5.5に調整し、リン酸エステル系重合体を得た。得られた重合体の分子量をGPCで測定したところ、重量平均分子量27,000であった。
【0091】
試験例3及び比較試験例3
実施例1、実施例7、比較例2で得られた共重合体を用いて、表3の配合のモルタルに対する試験を行った。結果は表4に示す。評価は、分散性及び粘性を、以下の方法で行った。
【0092】
(1)モルタル配合
【0093】
【表3】

【0094】
表3中の使用材料は以下のものである。
C:(太平洋セメント株式会社製普通ポルトランドセメントと住友大阪セメント株式会社製普通ポルトランドセメントの1:1混合物)
W:イオン交換水
S:千葉県君津産山砂(3.5mm通過品)
W/C:水(W)とセメント(C)の重量百分率(重量%)
【0095】
(2)モルタルの調製
容器(1Lステンレスビーカー:内径120mm)に、表2に示す配合の約1/2量のSを投入し、次いでCを投入、さらに残りのSを投入し、撹拌機としてEYELA製Z−2310(東京理化器械、撹拌棒:高さ50mm、内径5mm×6本/長さ110mm)を用い、200rpmで空練り25秒後、予め混合しておいた重合体と水の混合溶液を5秒かけて投入し、投入後30秒間で壁面や撹拌棒の間の材料を掻き落し、水を投入後3分間混練し、モルタルを調製した。なお、必要に応じて消泡剤を添加し、連行空気量が2%以下となるように調整した。
【0096】
(3)評価
(3−1)分散性
上部開口径が70mm、下部開口径が100mm、高さ60mmのコーンを使用し、モルタルフロー値が200mmとなるのに必要な共重合体の添加量(対セメント重量%、表中は%で示す)により20℃での分散性を評価した。なお、このモルタルフロー値の200mmは、モルタルフロー値の最大値と、該最大値を与える線分の1/2の長さで直交する方向で測定したモルタルフロー値との平均値である。添加量が小さい程、分散性が強いことを現す。
【0097】
(3−2)粘性
図1に示すトルク試験機に記録計を接続し、モルタルのトルクを測定する。予め、図2に示すポリエチレングリコール(Mw20,000)で作成したトルク−粘度の関係式より、モルタルのトルクから粘性を算出した。ポリエチレングリコールのトルク−粘度関係式作成時に、モニター出力60W、出力信号DC0−5Vにより、記録計からトルク出力電圧値(mV)が記録される。
【0098】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】試験例で粘性の測定に用いたトルク試験機と記録計の概略図
【図2】試験例で粘性の算出に用いたポリエチレングリコール(Mw20,000)によるトルク−粘度の関係式

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(I)及び(II)を有するリン酸エステル系重合体の製造方法。
工程(I):下記一般式(1)で表される有機ヒドロキシ化合物(1)を含む反応系にリン酸化剤(2)及び重合禁止剤を添加して、有機ヒドロキシ化合物(1)とリン酸化剤(2)とを反応させて重合性フォスフェートを製造する工程であって、有機ヒドロキシ化合物(1)とリン酸化剤(2)とを下記式(I)が2.0〜4.0となる条件で用い、且つリン酸化剤(2)の反応系への添加開始から添加終了まで反応系の温度を0℃〜100℃に維持する工程
【化1】


〔式中、R1は、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基、Aは炭素数2〜12のアルキレン基、nは平均で0.1〜20の数を表す。〕
【数1】


工程(II):工程(I)で得られた重合性フォスフェート及び重合禁止剤を含有する重合性フォスフェート組成物を40℃〜100℃の温度に加温した状態で反応系に添加して、重合性フォスフェートの重合、または重合性フォスフェートと該重合性フォスフェートと共重合可能な単量体との重合を行い、リン酸エステル系重合体を製造する工程。
【請求項2】
工程(II)において、工程(I)で得られた重合性フォスフェート及び重合禁止剤を含有する重合性フォスフェート組成物を40℃〜100℃で処理した後に重合する、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
工程(II)において、重合性フォスフェートの重合、または重合性フォスフェート及び該重合性フォスフェートと共重合可能な単量体との重合を、pH7以下で行う、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
工程(I)におけるリン酸化剤(2)の反応系への添加開始から添加終了までを20時間以内にする、請求項1〜3の何れか1項記載の製造方法。
【請求項5】
工程(I)で用いられる有機ヒドロキシ化合物(1)が、メタクリル酸またはアクリル酸のアルキレンオキサイド付加物(アルキレンオキサイドは2〜12の炭素原子を有し、アルキレンオキサイド平均付加モル数は0.1〜20である)である、請求項1〜4の何れか1項記載の製造方法。
【請求項6】
工程(I)で用いられるリン酸化剤(2)が、五酸化リン、リン酸及びポリリン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜5の何れか1項記載の製造方法。
【請求項7】
工程(I)及び/または工程(II)で用いられる重合禁止剤が、キノン芳香族系化合物及びニトロソアミン系化合物から選ばれる1種以上である請求項1〜6の何れか1項記載の製造方法。
【請求項8】
工程(II)で用いられる重合性フォスフェートが、2−メタクリロイルオキシエチルフォスフェート及び2−アククリロイルオキシエチルフォスフェートから選ばれる1種以上である請求項1〜7の何れか1項記載の製造方法。
【請求項9】
工程(II)で用いられる重合性フォスフェート組成物が、重合禁止剤を0.0001〜10重量%含有する請求項1〜8の何れか1項記載の製造方法。
【請求項10】
工程(II)で用いられる重合性フォスフェートと重合可能な単量体が、下記一般式(A)で表される単量体である請求項1〜9の何れか1項記載の製造方法。
【化2】


〔式中、R1a、R2aは、それぞれ水素原子または炭素数1〜5の炭化水素基、R3aは水素原子または-(CH2)q(CO)pO(AO)r4a、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基またはオキシスチレン基、pは0または1の数、qは0〜2の数、rはAOの平均付加モル数であり、3〜300の数、R4aは水素原子または炭素数1〜18のアルキル基を表す。〕
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の製造方法により得られるリン酸エステル系重合体を含有するリン酸エステル系重合体組成物。
【請求項12】
請求項11記載のリン酸エステル系重合体組成物からなる粉末用分散剤。
【請求項13】
分子内に不飽和炭素結合を有する重合性フォスフェートと重合禁止剤とを含有する重合性フォスフェート組成物を40〜100℃の温度に加温して反応系に添加して重合反応を行う、リン酸エステル系重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−211236(P2007−211236A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347260(P2006−347260)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】