説明

リン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法

【課題】リチウム二次電池の正極活物質として有用なリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】ナシコン構造を有するリン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料からなるリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法であって、リチウム源、バナジウム源、リン源及び必要により添加されるMe源(MeはV以外の原子番号11以上の金属元素又は遷移金属元素を示す。)とを混合処理する第1工程、次に得られた混合物を加熱処理する第2工程、次に得られた加熱処理品をメディアミルにより湿式粉砕した粉砕処理品と導電性炭素材料源を含むスラリーを調製する第3工程、次に得られたスラリーを噴霧乾燥して反応前駆体を得る第4工程、次にこの反応前駆体を不活性ガス雰囲気中又は還元雰囲気中で700℃以上1300℃以下で焼成する第5工程を、有することを特徴とするリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の正極活物質として有用なリン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料からなるリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯機器,ノート型パソコン,電気自動車,ハイブリッド自動車向けの電池としてリチウムイオン電池が活用されている。リチウムイオン電池は一般に高容量,高エネルギー密度に優れているとされ,現在その正極にはLiCoOが主に使用されているが,Coの資源問題からLiMnO,LiNiOなどの開発も盛んに行われている。
現在,さらなる代替材料としてLiFePOが着目され各機関で研究開発が進んでいる。Feは資源的に優れ,これを用いたLiFePOはエネルギー密度がやや低いものの,高温特性に優れていることから電動車両向けのリチウムイオン電池用正極材料として期待されている。
しかし,LiFePOは動作電圧がやや低く,Feに代わりにVを用いたナシコン(NASICON;Na Super Ionic Conductor)構造を有するリン酸バナジウムリチウム(Li(PO)が着目されている。
【0003】
リン酸バナジウムリチウムの製造方法としては、例えば、リチウム源、バナジウム源及びリン源を粉砕混合し、得られる均一混合物をピレット状に成形し、次いでこの成形品を焼成する方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。また、下記特許文献3には酸化バナジウム(V)を水酸化リチウムを含む水溶液に溶解し、さらにリン源と炭素及び/又は不揮発性有機化合物を添加し、得られる原料溶液を乾燥して前駆体を得、この前駆体を不活性雰囲気にて熱処理してLi(POと導電性炭素材料との複合体を得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2001−500665号公報
【特許文献2】特表2002−530835号公報
【特許文献3】特開2008−052970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Li(POは、理論容量が197mAhg−1という高いものであることが知られている。
しかしながら、従来のLi(POを正極活物質として用いたリチウム二次電池は、放電容量が低く、Li(POを正極活物質として用いたリチウム二次電池において、更なる放電容量の向上が望まれている。
【0006】
従って、本発明の目的は、リチウム二次電池の正極活物質として有用で、リチウム二次電池の正極活物質として用いたときに、リチウム二次電池に高い放電容量等の優れた電池性能を付与することができるリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の工程を経て得られるリン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料からなるリン酸バナジウムリチウム炭素複合体を正極活物質とするリチウム二次電池は、特に放電容量が高く、更にサイクル特性に優れたものになることを見出し本発明を完成するに到った。
【0008】
即ち、本発明はナシコン構造を有するリン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料からなるリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法であって、
リチウム源、バナジウム源、リン源及び必要により添加されるMe源(MeはV以外の原子番号11以上の金属元素又は遷移金属元素を示す。)とを混合処理する第1工程、次に得られた混合物を加熱処理する第2工程、次に得られた加熱処理品をメディアミルにより湿式粉砕した粉砕処理品と導電性炭素材料源を含むスラリーを調製する第3工程、次に得られたスラリーを噴霧乾燥して反応前駆体を得る第4工程、次にこの反応前駆体を不活性ガス雰囲気中又は還元雰囲気中で700℃以上1300℃以下で焼成する第5工程を、有することを特徴とするリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、工業的に有利な方法でリチウム二次電池の正極活物質として有用なリン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料からなるリン酸バナジウムリチウム炭素複合体を提供することができる。また、本発明の製造方法で得られるリン酸バナジウムリチウム炭素複合体を正極活物質とするリチウム二次電池は、特に放電容量が高く、サイクル特性に優れたものになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1の第2工程で得られた加熱処理品の粉末X線回折図。
【図2】実施例1の第4工程で得られた反応前駆体のSEM写真。
【図3】実施例1で得られたリン酸バナジウムリチウム炭素複合体試料のSEM写真。
【図4】実施例1〜2及び比較例1〜2及び参考例1で得られたリン酸バナジウムリチウム炭素複合体試料の粉末X線回折図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明の製造方法で得られるリン酸バナジウムリチウム炭素複合体は、ナシコン構造を有するリン酸バナジウムリチウム(以下、単に「リン酸バナジウムリチウム」と呼ぶ。)と導電性炭素材料からなるものである。
本発明において、前記リン酸バナジウムリチウムは、下記一般式(1)
Li(PO (1)
(式中、xは2.5以上3.5以下、yは1.8以上2.2以下を示す。)で表わされるもの、或いは前記一般式(1)で表わされるリン酸バナジウムリチウムに、必要によりMe元素(Meは、V以外の原子番号11以上の金属元素又は遷移金属元素を示す。)をドープして含有させたリン酸バナジウムリチウムを含む。
【0012】
本発明の前記リン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法は、リチウム源、バナジウム源、リン源及び必要により添加されるMe源(Meは、V以外の原子番号11以上の金属元素又は遷移金属元素を示す。)とを混合処理する第1工程、次に得られた混合物を加熱処理する第2工程、次に得られた加熱処理品をメディアミルによって湿式粉砕した粉砕処理品と導電性炭素材料源を含むスラリーを調製する第3工程、次に得られたスラリーを噴霧乾燥して反応前駆体を得る第4工程、次にこの反応前駆体を不活性ガス雰囲気中又は還元雰囲気中で700℃以上1300℃以下で焼成する第5工程を有することを特徴とするものである。
【0013】
本発明に係る第1工程は、リチウム源、バナジウム源、リン源及び必要により添加されるMe源とを混合処理して各原料が均一混合された均一混合物を得る工程である。
【0014】
前記リチウム源としは、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、硝酸リチウム或いはシュウ酸リチウム等の有機酸リチウム等を用いることが出来、これらは含水物であっても無水物であってもよい。この中、炭酸リチウムが長期保存安定性に優れ,微細で且つ高純度なものが工業的に入手可能であり、また他の原料との反応性にも優れている観点から好ましく用いられる。リチウム源の好ましい物性は、平均粒子径が100μm以下、好ましくは5〜50μmであることが、均一混合が容易に可能になる観点で好ましい。
【0015】
前記バナジウム源としては、五酸化バナジウム、三酸化バナジウム、バナジン酸アンモニウム、オキシシュウ酸バナジウム等を用いることが出来る。この中、五酸化バナジウムが取り扱いが容易で、また、微細で且つ高純度なものが工業的に入手可能であり、他の原料との反応性にも優れている観点から好ましく用いられる。バナジウム源の好ましい物性は、平均粒子径が100μm以下、好ましくは5〜50μmであることが、均一混合が容易に可能になる観点で好ましい。
【0016】
前記リン源としては、リン酸、ポリリン酸、無水リン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸アンモニウム等を用いることができる。この中、リン酸二水素アンモニウム又はリン酸が好ましく用いられる。
【0017】
リン酸二水素アンモニウムは取り扱いが容易であり、また、微細で且つ高純度なものが工業的に入手可能であり、他の原料との反応性にも優れている観点から好ましく用いられる。また、リン源としてリン酸二水素アンモニウムのような固体状のものを使用する場合は、平均粒子径が100μm以下、好ましくは5〜50μmであることが、均一混合が容易に可能になる観点で好ましい。
【0018】
一方、リン酸は高純度なものが工業的に入手可能であり、また他の原料との反応性にも優れている観点から好ましく用いられる。通常、工業的に入手可能なリン酸は水溶液であるが、本発明では、リン酸は水溶液の状態で用いることができる。水溶液の濃度は特に制限されるものではないが35質量%以上の高濃度のものを使用することが、取り扱いと水分除去に必要なエネルギーが少なくすむことから工業的に有利である。
また、リン源としてリン酸水溶液を用いる場合は、第1工程は、リチウム源、バナジウム源及びリン酸を混合処理した後、次いで100℃以上300℃未満、好ましくは150℃以上250℃以下で乾燥する乾燥工程を設けることが好ましい。この乾燥工程によりリン酸水溶液から水分を除去し、またリン酸とリチウム源及びバナジウム源との予備反応を促すため、後述する第2工程の加熱処理を効率よく行うことができる。乾燥処理の時間は、1時間以上、好ましくは2〜10時間である。乾燥を行う雰囲気は、特に制限はなく大気中、不活性ガス中或いは真空等の雰囲気で行うことができる。
【0019】
本発明において、Me源はリン酸バナジウムリチウムの結晶構造を安定化し、サイクル特性等の電池性能をいっそう向上させることを目的として、必要により添加され、Me元素として前記一般式(1)で示されるリン酸バナジウムリチウムにドープして含有させるものである。本発明において、Me元素は、前記一般式(1)で示されるリン酸バナジウムリチウムのLiサイト又は/及びVサイトに置換されて存在する。
Me源中のMeはV以外の原子番号11以上の金属元素又は遷移金属元素を示し、好ましいMeとしては、Mg、Ca、Al、Mn、Co、Ni、Fe、Ti、Zr、Bi、Cr、Nb、Mo、Cu等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いられる。
用いることができるMe源としては、Meを含む酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、硝酸塩、炭酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
また、Me源として固体状のものを使用する場合は、平均粒子径が100μm以下、好ましくは0.1〜50μmであることが、均一混合が容易に可能になる観点で好ましい。
【0020】
前記したリチウム源、バナジウム源、リン源及び必要により添加されるMe源は製造履歴は問わないが、高純度のリン酸バナジウムリチウム炭素複合体を製造するために、可及的に不純物含有量が少ないものであることが好ましい。
【0021】
第1工程に係る操作は、まず、前記の原料のリチウム源、バナジウム源、リン源及び必要により添加されるMe源を所定量混合する。
【0022】
Me源を添加しない場合は、バナジウム源の添加量が、バナジウム源中のV原子とリン源中のP原子のモル比(V/P)で0.50〜0.80、好ましくは0.60〜0.73であることが最終生成物として単相のリン酸バナジウムリチウムが得られやすくなり,また、放電容量が比較的高いものになる観点から好ましい。また、リチウム源の添加量は、リチウム源中のLi原子とリン源中のP原子のモル比(Li/P)で0.70〜1.30、好ましくは0.83〜1.17であることが最終生成物として単相のリン酸バナジウムリチウムが得られやすくなり,また、放電容量が比較的高いものになる観点から好ましい。
また、Me源を添加する場合には、ドープさせるMe元素の種類にもよるが、多くの場合、バナジウム源中のVとMe源中のMe原子の合計(V+Me=M)とリン源中のP原子のモル比(M/P)で0.5〜0.80、好ましくは0.60〜0.73で、Me/Vのモル比が0より大きく0.45以下、好ましくは0より大きく0.1以下となるようにMe源を添加することが好ましい。
【0023】
リチウム源、バナジウム源、リン源及び必要により添加されるMe源を混合する手段は、特に制限されるものではなく、上記各原料が均一に分散した混合物となるように、湿式法或いは乾式法による強力な剪断力が作用する機械的手段にて行われる。湿式法は、ボールミル、ディスパーミル、ホモジナイザー、振動ミル、サンドグラインドミル、アトライター及び強力撹拌機等の装置にて行うことができる。一方、乾式法では、ハイスピードミキサー、スーパーミキサー、ターボスフェアミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー及びリボンブレンダー、V型混合機等の装置を用いることができる。なお、これら均一混合操作は、例示した機械的手段に限定されるものではない。また、所望によりジェットミル等で粉砕処理して粒度調整を行っても差し支えない。
【0024】
なお、本発明において、リチウム源、バナジウム源、リン源及び必要により添加されるMe源として固体状のものを使用するときの混合処理は、製造工程が簡素化でき、安定した組成の均一混合物が容易に得られる観点から乾式で行うことが好ましい。
【0025】
本発明に係る第2工程は、前記第1工程で得られた各原料が均一混合された均一混合物を所定の温度範囲で加熱処理した加熱処理品を得る工程である。
【0026】
第2工程で得られる加熱処理品の組成は、例えばMe源を添加しない場合で、X線的に同定可能なものについてみると、少なくともX線回折分析において、メタリン酸リチウム(LiPO)とVの回折ピークが主ピークとして確認される。また、それ以外に、4価と5価のバナジン酸リチウム(Li1027,LiV)、或いはその他の化合物等が混在したものになるが、本発明の効果を損なわない限りは、これらの化合物が混在していても差し支えない。
【0027】
本発明者らは、この加熱処理品は、粉砕可能な柔らかい粒子であるため、後述する第3工程で該加熱処理品を5μm以下、好ましくは1μm以下にまで粉砕処理することが可能であり、この微粒な粉砕処理品を含有した反応前駆体は反応性が極めて高いものであること。このためこの微粒な粉砕処理品を含有する反応前駆体を用い、後述する第5工程で焼成を行うことにより、粉末X線回折的に単相のリン酸バナジウムリチウムと導電性炭素複合体からなるリン酸バナジウムリチウム炭素複合体を得ることができ、該リン酸バナジウムリチウム炭素複合体を正極活物質として用いたリチウム二次電池は、放電容量が高く、サイクル特性に優れたものになることを見出した。
【0028】
更に、第2工程を経て得られる加熱処理品は、第3工程を経て第4工程で噴霧乾燥に付されるが、噴霧乾燥の際に、噴霧乾燥装置への加熱処理品の付着による組成のズレがない反応前駆体を得ることができるという利点も有する。
【0029】
第2工程に係る加熱処理の温度は、250℃以上700℃未満、好ましくは300℃以上650℃以下である。この理由は、加熱処理の温度が250℃より小さくなると、反応性の良い反応前駆体が得られにくくなり、また、噴霧乾燥の際に、噴霧乾燥装置への加熱処理品の付着の問題や、これによる組成変化の問題が生じやくなる。一方、加熱処理の温度が700℃以上になるとリン源の溶融により焼結が進み後工程の粉砕が困難になる傾向があり、また、リン源に由来する白煙が発生し作業環境の問題が生じる可能性があるからである
加熱処理の時間は本製造方法において臨界的ではない。一般に1時間以上、特に2〜10時間加熱処理すれば、満足すべき加熱処理品を得ることができる。加熱処理の雰囲気も本製造方法において臨界的ではなく、例えば大気雰囲気中、不活性ガス雰囲気中、還元雰囲気中、真空中の何れであってもよい。
【0030】
前記第2工程で得られる加熱処理品は、粒子径が1mmを超える粗大粒子が含まれるため、後述する第3工程を行うに当たって、予め乾式で粉砕処理を行うことにより、第3工程の湿式粉砕処理を効率よく行うことができる。この乾式での粉砕処理は、加熱処理品の平均粒子径が0.5mm以下となるまで行うことが好ましい。この乾式での粉砕処理は、例えば、ジョークラッシヤー、ロールクラッシャー、ハンマーミル等の機械的手段により行うことができる。
【0031】
本発明に係る第3工程は、得られた加熱処理品をメディアミルにより湿式粉砕した粉砕処理品と導電性炭素材料源が高分散したスラリー(C)を調製する工程である。
【0032】
本発明に係る第3工程は、大別して(イ)加熱処理品を含むスラリー(A)を調製する工程、(ロ)メディアミルによる湿式粉砕処理したスラリー(B)を調製する工程、(ハ)導電性炭素材料源を混合する工程、を含んでいる。
【0033】
第3工程に係る操作は、まず、(イ)加熱処理品を含むスラリー(A)を調製するため加熱処理品を分散媒に分散させたスラリーを調製する。
【0034】
分散媒としては、水や、水に水溶性有機溶媒が配合されてなる水溶液を用いることが好ましい。スラリーにおける加熱処理品の濃度は5〜30重量%、好ましくは10〜20重量%であることが、メディアミルを用いた粉砕を効率的に行い得る観点から好ましい。
【0035】
次いで、加熱処理品を含むスラリー(A)は、(ロ)メディアミルによる湿式粉砕処理に付される。この方法を採用することで、加熱処理品をより微細に粉砕することができるので、一層優れた反応性を有する反応前駆体を得ることができる。
【0036】
メディアミルとしては、ビーズミル、ボールミル、ペイントシェーカー、アトライタ、サンドミル等を用いることができる。特にビーズミルを用いることが好ましい。その場合、運転条件やビーズの種類及び大きさは、装置のサイズや処理量に応じて適切に選択すればよい。
【0037】
メディアミルを用いた処理を一層効率的に行う観点から、スラリー(A)に、分散剤を加えてもよい。使用する分散剤は、分散媒の種類に応じて適切なものを選択すればよい。分散媒が例えば水である場合には、分散剤として各種の界面活性剤、ポリカルボン酸アンモニウム塩等を用いることができる。スラリーにおける分散剤の濃度は0.01〜10重量%、特に0.1〜5重量%とすることが、十分な分散効果の点で好ましい。
【0038】
メディアミルを用いた粉砕処理は、レーザー散乱・回折法により求められる粉砕処理品の平均粒子径が5μm以下、好ましくは1μm以下、特に0.2〜1μmとなるまで行うことが、反応性に優れた反応前駆体を得ることができ、電池特性のロット内バラツキを抑えられる観点から好ましい。かくすることにより、粉砕処理品を含むスラリー(B)を調製することができる。
【0039】
(ハ)導電性炭素材料源を混合する工程は、(ロ)メディアミルによる湿式粉砕処理を行う前であっても後であってもよい。即ち、スラリー(A)に導電性炭素材料源を添加し混合処理を行ってもよいし、或いはスラリー(B)に導電性炭素材料源を添加し混合処理を行ってもよい。
【0040】
使用できる導電性炭素材料源としては、例えば、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び土状黒鉛等の天然黒鉛や、人工黒鉛のような黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類;炭素繊維等の炭素材料が挙げられる。また、その他導電性炭素材料源として第5工程での焼成により、炭素が析出するような有機化合物も用いることができる。炭素が析出するような有機化合物としては、例えば、軟ピッチから硬ピッチまでのコールタールピッチ;乾留液化油等の石炭系重質油、常圧残油、減圧残油の直流重質油、原油、ナフサ等の熱分解時に副生するエチレンタール等の分解系重質油の石油系重質油;アセナフチレン、デカシクレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素;フェナジン、ビフェニル、テルフェニル等のポリフェニレン;ポリ塩化ビニル;ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール等の水溶性ポリマー、及びこれらの不溶化処理品;含窒素性のポリアクリロニトリル;ポリピロール等の有機高分子;含硫黄性のポリチオフェン、ポリスチレン等の有機高分子;でんぷん、セルロース、リグニン、マンナン、ポリガラクトウロン酸、キチン、キトサン、サッカロース、スクロース等の糖類などの天然高分子;ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド等の熱可塑性樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂等の熱硬化性樹脂の1種又は2種以上が挙げられる。
本製造方法では、導電性炭素材料源は、1種であっても又は2種以上の併用であってもよい。これらのうち、カーボンブラック、ケッチェンブラックが、微粒なものを工業的に容易に入手でき、また、得られるリン酸バナジウムリチウム炭素複合体を正極活物質として用いたリチウム二次電池は放電容量が高くなる観点においても好ましい。
【0041】
導電性炭素材料源の添加量は、生成されるリン酸バナジウムリチウムに対してC原子換算で0.1〜20質量%となるように添加することが好ましい。 焼成前に比べて焼成後では導電性炭素材料に含まれるC原子の量が減少する傾向がある。そのため、第3工程において、加熱処理品100質量部に対する導電性炭素材料源の配合量が、C原子換算で0.5〜40質量部、好ましくは5〜30質量部であると、リン酸バナジウムリチウム炭素複合体中のリン酸バナジウムリチウ100質量部に対する導電性炭素材料の配合量が、C原子換算で0.1〜20質量部、好ましくは1〜15質量部となり易い。加熱処理品100質量部に対する導電性炭素材料源の配合量が、上記範囲内にあることにより、リン酸バナジウムリチウム炭素複合体をリチウム二次電池の正極活物質として用いた場合に、十分な導電性を付与することができるため、リチウム二次電池の内部抵抗を低くすることができ、且つ、質量或いは体積当たりの放電容量が高くなる。一方、加熱処理品100質量部に対する導電性炭素材料源の配合量が、上記範囲未満だと、リン酸バナジウムリチウム炭素複合体をリチウム二次電池の正極活物質として用いた場合に、十分に導電性を付与することができなくなるため、リチウム二次電池の内部抵抗が高くなり易く、また、上記範囲を超えると、質量或いは体積当たりの放電容量が低くなり易い。
【0042】
本製造方法では、導電性炭素材料源として、前記炭素材料を用いる場合は、特に(ロ)メディアミルによる湿式粉砕処理後のスラリー(C)に、(ハ)導電性炭素材料源を混合する工程を設けることが、粉砕装置への負担を低減でき、また、得られるリン酸バナジウムリチウム炭素複合体を正極活物質として用いたリチウム二次電池は放電容量が高くなる観点においても好ましい。
【0043】
本製造方法で使用できる炭素材料の平均粒子径は、1μm以下、好ましくは0.1μm以下、特に好ましくは0.01〜0.1μmである。また、炭素材料が繊維状である場合、該炭素材料の平均繊維径は、1μm以下、好ましくは0.1μm以下、特に好ましくは0.01〜0.1μmである。炭素材料の平均粒子径又は平均繊維径が上記範囲内にあることにより、リン酸バナジウムリチウムの粒子に、導電性炭素材料を高分散させ易くなる。なお、本発明において、導電性炭素材料の平均粒子径又は平均繊維径は、走査型電子顕微鏡写真(SEM)から求められる平均粒子径又は平均繊維径であり、走査型電子顕微鏡写真中から、任意に抽出した20個の粒子の粒子径又は繊維の繊維径の平均値である。
【0044】
前記炭素材料を用いた混合操作は、好ましくは加熱処理品を粉砕処理したスラリー(B)に炭素材料を所定量添加し攪拌することにより行われる。本発明において、この混合処理の際に、アルコールをスラリー(B)へ添加して、アルコールの存在下に炭素材料の混合処理を行うと、炭素材料を短時間でスラリー(B)中へ高分散させることができることから、有利に混合処理を行うことができる。
【0045】
用いることができるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールの1種又は2種以上で用いられ、この中、特にエタノールが炭素材料を高分散させる効果が高い点で好ましく用いられる。
【0046】
アルコールの添加量は、炭素材料100質量部に対して、2〜30質量部、好ましくは5〜20質量部であり、この範囲でアルコールをスラリーへ添加することにより、容易に炭素材料が高分散したスラリー(C)を調製することができる。
【0047】
なお、第5工程での焼成により、炭素が析出するような有機化合物を導電性炭素材料源として用いる場合は、粉砕処理に用いる分散媒に溶解可能なものを用いることが好ましく、粉砕処理前のスラリー(A)に該有機化合物を添加してもよいし、スラリー(B)に該有機化合物を添加してもよい。何れの方法を採用するかは、用いる装置等を考慮して工業的に有利な方法を適宜選択すればよい。
【0048】
かくすることにより、粉砕処理品と導電性炭素材料源が高分散したスラリー(C)を得ることができ、該スラリー(C)を第4工程に付して、反応前駆体を得る。
【0049】
本発明に係る第4工程は、第3工程で得られた粉砕処理品と導電性炭素材料源が高分散したスラリー(C)を噴霧乾燥して、優れた反応性を有する粉砕処理品と導電性炭素材料源からなる反応前駆体を得る工程である。
【0050】
スラリー(C)の乾燥方法には噴霧乾燥法以外の方法も知られているが、本製造方法においては噴霧乾燥法を選択することが有利であるとの知見に基づき、この乾燥方法を採用している。詳細には、噴霧乾燥法を用いると、微細な粉砕処理品と微細な導電性炭素材料源を均一に含有し、原料粒子が密に詰まった状態の造粒物が得られることから、この造粒物を本発明では、反応前駆体とし、該反応前駆体を用いて後述する第5工程で焼成を行うことにより、粉末X線回折的には単相のリン酸バナジウムリチウムと、導電性炭素材料との複合体を得ることができる。
【0051】
噴霧乾燥法においては、所定手段によってスラリー(C)を霧化し、それによって生じた微細な液滴を乾燥させることで反応前駆体を得る。スラリー(C)の霧化には、例えば回転円盤を用いる方法と、圧力ノズルを用いる方法がある。本工程においてはいずれの方法を用いることもできる。
【0052】
噴霧乾燥法においては、霧化されたスラリーの液滴の大きさと、それに含まれる粉砕処理品の原料粒子の大きさとの関係が、安定した乾燥や、得られる反応前駆体の性状に影響を与える。詳細には、液滴の大きさに対して粉砕処理品の原料粒子の大きさが小さすぎると、液滴が不安定になり、乾燥を首尾よく行いづらくなる。この観点から、スラリー中の粉砕処理品の粒子の大きさが前述の範囲であることを条件として、霧化された液滴の大きさは、0.5〜30μm、特に1〜20μmであることが好ましい。噴霧乾燥装置へのスラリー(C)の供給量は、この観点を考慮して決定することが望ましい。
【0053】
噴霧乾燥法により得られる反応前駆体は、次工程により焼成に付されが、得られるリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の平均粒子径等の粉体特性は、反応前駆体の特性を概ね引き継ぐようになる。このため、噴霧乾燥は、反応前駆体の二次粒子が走査型電子顕微鏡(SEM)観察により求められる粒子径で0.5〜30μm、特に1〜20μmとなるように行われることが、目的とするリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の粒子径の制御の点から好ましい。
なお、噴霧乾燥装置における乾燥温度は、熱風入口温度が200〜250℃、好ましくは210〜240℃に調整して、粉体の温度が100〜150℃、好ましくは105〜130℃となるように調整することが粉体の吸湿を防ぎ粉体の回収が容易になることから好ましい。
【0054】
このようにして得られた反応前駆体は、次に不活性ガス雰囲気中又は還元雰囲気中で700℃以上1300℃以下で焼成する第5工程に付して、目的とするリン酸バナジウムリチウム炭素複合体を得る。
【0055】
本発明に係る第5工程は、前記第4工程で得られた反応前駆体を所定の温度範囲で焼成して、粉末X線回折的に単相のリン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料からなるリン酸バナジウムリチウム炭素複合体を得る工程である。
【0056】
第5工程に係る焼成温度は700℃以上1300℃以下、好ましくは800℃以上1000℃以下である。この理由は、焼成温度が700℃より小さくなると焼成が不十分で最終生成物が単一相とならない可能性が高く、一方、焼成温度が1300℃より大きくなると残存炭素分のバラツキが大きくなり、最終製品の品質特性に影響するからである。
【0057】
焼成雰囲気は、バナジウムの酸化を防ぎ,かつリン源の溶融を防ぐという理由から不活性ガス雰囲気又は還元雰囲気中で行う。
【0058】
焼成時間は本製造方法において臨界的ではない。一般に1時間以上、特に2〜12時間焼成すれば、粉末X線回折的に単相のリン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料からなる複合体を得ることができる。
【0059】
このようにして得られるリチウムバナジウムリチウム炭素複合体は、必要に応じて複数回の焼成工程に付してもよい。
焼成後は得られるリチウムバナジウム炭素複合体に対して、必要に応じて解砕処理及び/又は粉砕処理し、更に分級を行ってもよい。
【0060】
かくして得られるリン酸バナジウムリチウム炭素複合体は、粉末X線回折的に単相のリン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料からなるリチウムバナジウムリチウム炭素複合体であり、好ましい物性としては、平均粒子径が10μm以下、好ましくは0.01μm以上10μm以下の一次粒子が多数集合して、平均粒子径が1μm以上50μm以下、好ましくは2〜20μmの二次粒子を形成する凝集状のリン酸バナジウムリチウムに、平均粒子径が1μm以下、好ましくは0.01〜0.1μmの導電性炭素材料が含有されているものであることが、リチウム二次電池の正極活物質として用いたときに高い放電容量が得られる点で好ましい。
また、更にリン酸バナジウムリチウム炭素複合体のBET比表面積が15〜50m/g、好ましくは20〜45m/gであると塗料化した際のペースト特性が良好であり,リン酸バナジウムリチウムに導電性炭素材料がよく分散した状態で複合体を形成するため良好な電子伝導性を示すことから好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
{実施例1}
<第1工程>
リン酸二水素アンモニウム(平均粒子径15μm)1,981kgと炭酸リチウム(平均粒子径10μm)554.2gと五酸化バナジウム(平均粒子径12μm)909.4gをヘンシェルミキサー内にて十分に混合して混合物を得た。
<第2工程>
得られた混合物を大気雰囲気で600℃で3時間加熱処理した。冷却後、得られた加熱処理品をロールクラッシャーと振動篩を用いて0.5mm以下に粉砕した。得られた加熱処理品を線源としてCuKα線を用いて粉末X線回折測定を行ったところ、該加熱処理品は、メタリン酸リチウム(LiPO)に由来する回折ピーク(2θ=18.7°、2θ=27.3°)、Vに由来する回折ピーク(2θ=26.2°、2θ=31.3°)及び未同定の結晶性の化合物の回折ピークも確認されたことから、得られた加熱処理品はLiPO、V及び未同定の結晶性化合物が混在する混合物であることが確認できた。また、加熱処理品の粉末X線回折図を図1に示す。
<第3工程>
この粉砕処理品にイオン交換水を加えて20wt%のスラリー(A)を調製した。湿式粉砕装置に直径0.5mmのジルコニアボールを仕込み、スラリー(A)中の粉砕処理品の平均粒子径(D50)が1.0μm以下になるまでビーズミルにより5時間、湿式法による粉砕を行ってスラリー(B)を調製した。
この操作の後スラリー(B)にケッチェンブラック(平均粒子径0.04μm)204gとエタノール20gを加えてデスパ攪拌翼を用いて攪拌混合してスラリー(C)を調製した。
<第4工程>
次いで、熱風入り口の温度を230℃に設定した噴霧乾燥装置に、50g/分の供給速度でスラリー(C)を供給し、反応前駆体を得た。なお、反応前駆体をSEM観察した結果、反応前駆体は二次粒子の粒子径が2〜30μmのものであった。得られた反応前駆体の電子顕微鏡写真(SEM)を図2に示す。
<第5工程>
得られた反応前駆体をムライト製匣鉢に入れ,窒素雰囲気下900℃で12時間焼成した。焼成品をアルミナ製乳鉢内で0.5mm以下に粗粉砕し,更にジェットミルにより解砕してリン酸バナジウムリチウム炭素複合体試料を得た。
得られたリン酸バナジウムリチウム炭素複合体試料の電子顕微鏡写真(SEM像)を図3に示す。
【0062】
{実施例2}
<第1工程>
リン酸二水素アンモニウム(平均粒子径15μm)1,981kgと炭酸リチウム(平均粒子径10μm)554.2gと五酸化バナジウム(平均粒子径12μm)909.4gをヘンシェルミキサー内にて十分混合して混合物を得た。
<第2工程>
得られた混合物を大気雰囲気で600℃で3時間加熱処理した。得られた加熱処理品をロールクラッシャーと振動篩を用いて0.5mm以下に粉砕した。得られた加熱処理品を線源としてCuKα線を用いて粉末X線回折測定を行ったところ、該加熱処理品は、メタリン酸リチウム(LiPO)に由来する回折ピーク(2θ=18.7°、2θ=27.3°)、Vに由来する回折ピーク(2θ=26.2°、2θ=31.1°)及び未同定の結晶性の化合物の回折ピークも確認されたことから、得られた加熱処理品はLiPO、V及び未同定の結晶性化合物が混在する混合物であることが確認できた。
<第3工程>
この粉砕処理品にイオン交換水を加えて20wt%のスラリー(A)を調製した。湿式粉砕装置に直径0.5mmのジルコニアボールを仕込み、スラリー中の粉砕処理品の平均粒子径(D50)が1.0μm以下になるまでビーズミルにより、5時間、湿式法による粉砕を行いスラリー(B)を調製した。
この操作の後スラリー(B)にケッチェンブラック(平均粒子径0.04μm)204gとエタノール20gを加えて攪拌混合してスラリー(C)を調製した。
<第4工程>
次いで、熱風入り口の温度を230℃に設定した噴霧乾燥装置に、50g/分の供給速度でスラリー(C)を供給し、反応前駆体を得た。なお、反応前駆体をSEM観察した結果、反応前駆体は二次粒子の粒子径が2〜30μmのものであった。
<第5工程>
得られた反応前駆体をムライト製匣鉢に入れ,窒素雰囲気下900℃で12時間焼成した。熱処理品をアルミナ製乳鉢内で0.5mm以下に粗粉砕し,リン酸バナジウムリチウム炭素複合体試料を得た。
【0063】
{比較例1}
2Lビーカーにイオン交換水1Lを入れ,これに水酸化リチウム125.9g(Li:3mol)を加えて溶解した。この溶液に五酸化バナジウム181.9g(V:2mol)加えて1h攪拌した。この液にグルコース(ブドウ糖)36.0g(0.2mol)と85%リン酸345.9g(P:3mol)を加えて1時間攪拌して混合液を得た。
次いで、熱風入り口の温度を230℃に設定した噴霧乾燥装置に、50g/分の供給速度で混合液を供給し、反応前駆体を得た。なお、反応前駆体をSEM観察した結果、反応前駆体は二次粒子の粒子径が2〜30μmのものであった。
得られた反応前駆体をムライト製匣鉢に入れ,窒素雰囲気下600で1間焼成した。熱処理品を0.5mm以下に粗砕し,リン酸バナジウムリチウム炭素複合体試料を得た。
【0064】
{比較例2}
2Lビーカーにイオン交換水1Lを入れ,これに水酸化リチウム125.9gを加えて溶解した。この溶液に五酸化バナジウム181.9g加えて1h攪拌した。この液にケッチェンブラック(平均粒子径0.04μm)10gと85%リン酸345.9gを加えて混合液を調製した。ボールミル用ポッドに直径2mmのアルミナボールを仕込み、24時間、湿式法により混合処理してスラリー(C)を調製した。
次いで、熱風入り口の温度を230℃に設定した噴霧乾燥装置に、50g/分の供給速度でスラリー(C)を供給し、反応前駆体を得た。なお、反応前駆体をSEM観察した結果、反応前駆体は二次粒子の粒子径が2〜30μmのものであった。
得られた前駆体化合物を窒素雰囲気下600℃で1時間焼成して、リン酸バナジウムリチウム炭素複合体試料を得た。
【0065】
{参考例1}
10Lビーカーにイオン交換水3Lを入れ,これに85%リン酸1,729gを加えて攪拌し,これに炭酸リチウム(平均粒子径10μm)554.2gを加えてリン酸リチウム溶液とした。攪拌下において五酸化バナジウム(平均粒子径12μm) 909.4gを加えて1時間攪拌してスラリーを得た。このスラリーにケッチェンブラック(平均粒子径0.04μm)204gとエタノール20gを加えて攪拌混合してスラリー(C)を調製した。
次いで、熱風入り口の温度を230℃に設定した噴霧乾燥装置に、50g/分の供給速度でスラリー(C)を供給し、反応前駆体を得た。なお、反応前駆体をSEM観察した結果、反応前駆体は二次粒子の粒子径が2〜30μmのものであった。
得られた反応前駆体をムライト製匣鉢に入れ,窒素雰囲気下900℃で12時間焼成した。熱処理品を0.5mm以下に粗砕し,ジェットミルにより解砕してリン酸バナジウムリチウム炭素複合体試料を得た。
【0066】
【表1】

注)粉砕処理品の平均粒子径はレーザー散乱・回折法(日機装製、形式9320−X100型)により求めた。
【0067】
<リン酸バナジウムリチウム炭素複合体の物性評価>
実施例1〜2、比較例1〜2及び参考例1で得られたリン酸バナジウムリチウム炭素複合体について、リン酸バナジウムリチウム炭素複合体の平均粒子径、BET比表面積及び導電性炭素材料の含有量を測定し、また、粉末X線回折測定を行った。得られた結果を表2に示す。また、実施例1〜2、比較例1〜2及び参考例1で得られたリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の粉末X線回折図を図4に示す。なお、リン酸バナジウムリチウムの平均二次粒子径はレーザー散乱・回折法(日機装製、形式9320−X100型)により測定した。また、導電性炭素材料の含有量は炭素原子含有量を、TOC全有機炭素計(島津製作所製TOC−5000A)にて測定することによりC原子の含有量として求めた。
【0068】
【表2】

【0069】
<電池性能の評価>
<電池性能試験>
(I)リチウム二次電池の作製;
上記のように製造した実施例1〜2及び比較例1〜2及び参考例1のリン酸バナジウムリチウム炭素複合体91質量%、黒鉛粉末6質量%、ポリフッ化ビニリデン3質量%を混合して正極剤とし、これをN−メチル−2−ピロリジノンに分散させて混練ペーストを調製した。得られた混練ペーストをアルミ箔に塗布したのち乾燥、プレスして直径15mmの円盤に打ち抜いて正極板を得た。
この正極板を用いて、セパレーター、負極、正極、集電板、取り付け金具、外部端子、電解液等の各部材を使用してリチウム二次電池を製作した。このうち、負極は金属リチウム箔を用い、電解液にはエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートの1:1混練液1リットルにLiPF61モルを溶解したものを使用した。
【0070】
(2)電池の性能評価
作製したリチウム二次電池を室温で下記条件で作動させ、下記の電池性能を評価した。
<サイクル特性の評価>
正極に対して定電流電圧(CCCV)充電により1.0Cで5時間かけて、4.4Vまで充電した後、放電レート0.2Cで2.7Vまで放電させる充放電を行い、これらの操作を1サイクルとして1サイクル毎に放電容量を測定した。このサイクルを20サイクル繰り返し、1サイクル目と20サイクル目のそれぞれの放電容量から、下記式により容量維持率を算出した。なお、1サイクル目の放電容量を初期放電容量とした。
【数1】

【0071】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、工業的に有利な方法でリチウム二次電池の正極活物質として有用なリン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料からなるリン酸バナジウムリチウム炭素複合体を提供することができる。また、本発明の製造方法で得られるリン酸バナジウムリチウム炭素複合体を正極活物質とするリチウム二次電池は、特に放電容量が高いものになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナシコン構造を有するリン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料からなるリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法であって、
リチウム源、バナジウム源、リン源及び必要により添加されるMe源(MeはV以外の原子番号11以上の金属元素又は遷移金属元素を示す。)とを混合処理する第1工程、次に得られた混合物を加熱処理する第2工程、次に得られた加熱処理品をメディアミルにより湿式粉砕した粉砕処理品と導電性炭素材料源を含むスラリーを調製する第3工程、次に得られたスラリーを噴霧乾燥して反応前駆体を得る第4工程、次にこの反応前駆体を不活性ガス雰囲気中又は還元雰囲気中で700℃以上1300℃以下で焼成する第5工程を、有することを特徴とするリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法。
【請求項2】
第2工程の加熱処理の温度が250℃以上700℃未満であることを特徴とする請求項1記載のリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法。
【請求項3】
導電性炭素材料源の添加量が生成されるリン酸バナジウムリチウムに対してC原子換算で0.1〜20質量%であることを特徴とする請求項1記載のリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法。
【請求項4】
第3工程の粉砕処理品の平均粒子径が1μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3記載のリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法。
【請求項5】
第3工程は、第2工程で得られた加熱処理品をメディアミルにて湿式粉砕した粉砕処理品を含むスラリーを調製する工程、次にこの粉砕処理品を含むスラリーに導電性炭素材料源を添加し混合処理する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至4記載のリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法。
【請求項6】
導電性炭素材料源が炭素材料であることを特徴とする請求項5記載のリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法。
【請求項7】
導電性炭素材料源がカーボンブラック及びケッチェンブラックから選ばれることを特徴とする請求項5記載のリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法。
【請求項8】
導電性炭素材料源として炭素材料を用いた場合において、粉砕処理品を含むスラリーと前記炭素材料との混合処理はエタノールを含む溶媒中で行うことを特徴とする請求項5記載のリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法。
【請求項9】
リン源がリン酸二水素アンモニウムであることを特徴とする請求項1乃至8記載のリン酸バナジウムリチウム炭素複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−36050(P2012−36050A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178883(P2010−178883)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】