説明

リン酸塩吸収の低減方法

フィチン酸またはフィチン酸塩を含む食餌を消費し、高リン血症を患っている、または、そのリスクがあるヒト対象またはヒト以外の動物対象のリン酸塩吸収を低減する方法を開示する。この方法は、対象の血清リン酸塩濃度を低減または維持するのに有効な量の抗腸アルカリホスファターゼ抗体を、対象に経口投与するステップを具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年10月26日に出願された米国仮出願番号60/854,550の優先権を主張し、参照することによってその全体を本明細書に組み込む。
【0002】
連邦政府の支援を受けた研究または開発に関する宣言
適用なし。
【背景技術】
【0003】
リン(燐)は、人の栄養における必須の要素であり、生化学、細胞の完全性(integrity)および身体の生理学的プロセスにおいて、必須の構造的役割および機能的役割を果たしている。動物性物質または植物性物質を含む食物において、リンは、胃腸管から容易に吸収される無機リン(Pi)として(例えば、リン酸(PO3−)として酸素と結合した5価の形態で)みることができる。さらに、リン酸は、タンパク質、核酸、脂質および糖などの生体巨大分子の成分としてみることができる。植物性物質には、多くの植物組織(例えば、ブラン(bran)や種子)において、リン酸(フィチン態リン酸)の主な保存形態であるフィチン酸(C[OPO(OH))が豊富であり、植物におけるリン酸の70から80%となる。フィチン酸またはその塩(フィチン酸塩)は、通常、単胃性動物によっては吸収されず、排泄物として排泄される。フィチン酸/フィチン酸塩は、成体の1日の食事によるリン酸摂取の約25%にのぼる。
【0004】
成体の約85%のリン酸は骨や歯などの石灰化した細胞外マトリックス中にあるので、リン酸は骨塩の必須成分である。約15%のリン酸塩は、細胞内(例えば、柔組織)にあり、約0.1%が細胞外の流体にみられる(Tenenhouse等,Vitamin D,第2版、Elserier,2005)。細胞性リン酸は、細胞膜の構造体を構成するリン脂質の形状で使用されている。リン酸塩は、DNAおよびRNAなどの核酸の必須な構成成分であり、エネルギの保存および分子輸送に重要なアデノシン三リン酸(ATP)、および、細胞のシグナル伝達分子として重要なサイクリックアデノシン一リン酸などのヌクレオチドの必須な構成成分でもある。細胞内リン酸塩のその他の生理学的機能は、(1)多数のタンパク質酵素、ホルモンおよび細胞シグナル伝達分子を活性化するためのリン酸化、(2)生理学的緩衝剤としての酸−塩基のバランスの維持、(3)赤血球中でのリン酸塩含有分子、2,3−ジホスホグリセリン酸塩(2,3−DPG)の維持、を含む。平均的なヒトは、約700乃至1000gのリン酸を有しており(Lau L.,リン酸塩障害。Saunders;1986:398−470)、約1gから3gのリン酸をPO3−の形状で消費し、排出する。
【0005】
ヒトは、少なくとも3つの経路、胃腸管、腎臓および骨によってリン酸塩のホメオスタシスを維持している。胃腸管は、リン酸塩の吸収および排出/再吸収を行う器官として、リン酸塩のホメオスタシスに関係している。骨は、種々の生理学的シグナルに応答して、移動(mobilize)することができるリン酸塩の貯蔵場所として機能する。摂食によるリン酸塩の胃腸管での吸収は効率が非常に良く、吸収の主な部位は、十二指腸および空腸である(Delmez JA et al.,Am J Kidney Dis,1992,19:303−317)。摂食によるリン酸塩の可変量(摂取量の10%から80%)は、食物が植物性由来(ほとんど吸収しづらいリン酸塩)または度物組織由来(ほとんど消化可能)であるかに応じて、排泄物として排泄される。食物中の無機リン酸塩は、2つの経路、すなわち刷子縁膜を介して活性化経細胞(transcellular)経路、および、細胞間のタイトジャンクションを介した傍細胞経路(paracellular)で吸収される(Cross et al.,Miner Electrolyte Metab 1990,16:115−124,およびWalton J et al.,Clin Sci 1979,56:407−412)。ラット研究に基づいたいくつかのレポートは、結腸のリン酸塩輸送は、拡散性傍細胞経路を主に介して仲介されることを示している(Hu et al.,Miner Electrolyte Metab,1997,23:7−12およびPeters et al.,Res Exp Med(Berl),1988,188:139−149)。ラットに基づいたその他のレポートは、経細胞活性化輸送が、小腸に亘ってリン酸塩吸収の主な経路であることを示唆している(Eto et al.,Drug Metab Pharmacokinet、2006,21:217−221)。
【0006】
腎臓は、リン酸塩をろ過、再吸収および排泄する器官として、リン酸塩のホメオスタシスに関係している。腎臓は、リン酸塩のホメオスタシスを維持する主な調節器官である。健康な成人では、毎日の腎臓のリン酸塩排出は、毎日の胃腸のリン酸塩吸収量に等しい。しかしながら、リン酸塩欠損状態では、腎臓は、尿のリン酸排出を実質的にゼロに低減する(Knox F et al.,Am.J.Physiol.1977,233:F261−F268)。腎臓のリン酸塩再吸収は、近位尿細管(proximal tubule)で主に行われる。リン酸塩の部分的な排出は、0.1%乃至20%の間で変化し、このように、強力な恒常性機構を示す。慢性腎臓病などによる重度の腎臓欠陥では、高リン血症が、腎臓のリン酸塩排出が不十分であることにより生じる。
【0007】
リン酸塩ホメオスタシスの主な調節因子は、血清リン酸塩および甲状腺ホルモン(PTH)である。血清リン酸塩レベルの上昇は、リン酸塩の尿排出を促進する。PTHは、小管のリン酸塩再吸収を低減し、尿への可溶性リン酸塩の排出を増加させる。リン酸塩ホメオスタシスに影響を与えるその他の因子は、限定するものではないが、年齢、食物(すなわち、消化されたリン酸塩および/または消化されたリン酸塩の化学的形態の量)、疾患、薬剤および日内変動を含む。
【0008】
特に、活性形態の1,25−ジヒドロキシビタミンD(カルシトリオールとも呼ばれる)など、ビタミンDは、リン酸塩の腸吸収を直接刺激することによって、リン酸塩のホメオスタシスに影響を与えることができる。さらに、ビタミンDは、カルシウムおよびリン酸塩をプラズマに移動させることで、骨吸収を促進する(Albaaj F & Hutchison A,Drugs 2003,63:577−596)。
【0009】
リン酸塩ホメオスタシスの異常の例は、1又はそれ以上の次に挙げる3つの機構によって生じる可能性のある高リン血症である。第1の機構は、過剰なリン酸塩吸収である。第2の機構は、リン酸塩排出の低下である。第3の機構は、リン酸塩が細胞内空間から細胞外空間へと移行することである。重度の高リン血症は、麻痺、痙攣および心停止を引き起こす可能性がある。高リン酸酸塩血症は、死の危険性の高い、5mg/dlより高い血清リン酸塩濃度で生じる(Block G et al.,J. Am.Soc.Nephrol.2004,15:2208−2218)。正常な生理学的な血清リン酸塩濃度は、一般的に、約2.4mg/dlから約4.5mg/dl血清リン酸塩濃度であると考えられている(Block G & Port F,Am.J.Kidney Dis.2000,35:1226−1237)。
【0010】
腎臓機能が悪化した患者は、腎臓によるリン酸塩の排出が低下することによって、高リン血症になる可能性がある。高リン血症は、腎臓への血管供給が低減した場合、または、糸球体が損傷し、血液からリン酸塩をろ過するのを停止した場合、高リン血症が起こる。このように、高リン血症は、腎臓病の予見可能な結果であり、ほとんどの腎臓病患者は、高リン血症になるか、または、高リン血症が進行する。このような腎臓病の例は、限定するものではないが、末期腎臓病、急性腎不全、慢性腎不全、多嚢胞症腎臓病、慢性腎臓病、急性腎尿細管壊死(例えば、腎動脈狭窄症)、腎機能を低減する感染症(例えば、敗血症または急性腎盂腎炎などの腎臓感染)、腎臓移植拒絶反応、および、尿管閉塞を含む。
【0011】
慢性腎臓病に関連した高リン血症は、特に、長期に亘る場合、カルシウムおよびリン酸塩のホメオスタシスに関して重度の病態生理学異常となる。このような病態生理学的異常は、限定するものではないが、上皮小体機能亢進症、骨疾患(例えば、腎性骨異栄養症(renal osteodystrophy))および関節部、肺、目および血管の石灰化を含む。慢性腎臓病の患者の高リン血症は、死の危険性と独立的に関連しているが、高リン血症が死の危険性を増加する厳密な機構は未解明である。腎不全を患う人にとって、正常範囲内の血清リン酸塩の上昇は、腎不全の進行と関連しており、心血管障害の危険性が上昇する。骨代謝および慢性腎臓病に関する米国国立腎臓財団の腎臓病結果品質の初期治療ガイドライン(The National Kidney Foundation Kidney Disease Outcomes Quality Initiative Clinical Practice Guidelines)は、血清リン酸塩を5.5mg/dl、リン酸カルシウム(CaXP)性生物を55mg/dl、インタクト(intact)副甲状腺ホルモン(iPTH)を150pg/mlから300pg/mlの間に維持することを推奨している。病因論は十分に示されていないが、高濃度カルシウム−リン酸塩生成物が、柔組織石灰化および心血管疾患の原因とされている。心血管の疾患は、透析患者のほぼ半数が死に到る。
【0012】
多くの腎不全患者は、活性化ビタミンDが不足しているので、カルシウムのホメオスタシスを維持し、および/または、低カルシウム血症および/または二次的な上皮小体機能亢進症を治療または予防するために、1α、25−ジヒドロキシビタミンDなど、ビタミンDの活性形態で摂取する必要がある。まず、ビタミンDは、肝臓で代謝されて25ヒドロキシビタミンD(カルシジオールとも呼ばれる)となり、続いて、腎臓で、1α、25−ジヒドロキシビタミンDとなる。1α、25−ジヒドロキシビタミンDは、25ヒドロキシビタミンDよりも反応性がかなり高い。機能不全の腎臓は、25−ジヒドロキシビタミンDを1α、25−ジヒドロキシビタミンDに変換できない。低濃度の1α、25−ジヒドロキシビタミンDは副甲状腺を刺激し、より多くのPTHを分泌し、これに上皮小体の過形成および二次的上皮小体機能亢進症が続く。慢性腎臓病を患う人の二次的上皮小体機能亢進症の標準的な治療は、活性化ビタミンDまたはその類似体を含む。同様に、末期腎臓病または腎不全の約70%の人は、いくつかの形態のビタミンDを摂取する。上述したように、ビタミンDは、リン酸塩の腸吸収を刺激する。従って、1α、25−ジヒドロキシビタミンDなどのビタミンDを摂取する腎臓病患者は、高リン血症の影響を受けやすく、リン酸塩の吸収の上昇と、付随したリン酸塩排出の低下の組み合わせによって高リン血症が悪化する可能性がある。
【0013】
血清リン酸塩濃度を低下させる治療効果は、限定するものではないが、透析、透析リン酸塩摂取量の低減、ニコチンアミドの投与、不溶性リン酸塩結合剤の経口投与を含む。不溶性リン酸塩結合剤の例は、限定するものではないが、アルミニウム化合物(例えば、Amphojel(登録商標)アルミニウムヒドロキシドゲル)、カルシウム化合物(例えば、カルシウムカーボネート、PhosLo(登録商標)酢酸カルシウムタブレットなどの酢酸塩、クエン酸塩、アルギン酸塩およびケト酸塩)、陰イオン交換ポリマ(例えば、米国特許第5,985,938号、第5,980,881号、第6,180,094号、第6,423,754号、および、PCT公開公報WO95/05184に記載のアミン機能化ポリマ、塩化物形態のDowex(登録商標)陰イオン交換樹脂、RenaGel(登録商標)、および、グアニジニウム塩酸塩に結合するポリマ)ランタンカーボネート4水和物(FosrenalTM)などの無機化合物、クエン酸塩および酢酸塩からなる鉄の塩(ferric salt)およびランタンベースの多孔性セラミック材料(RenaZorbTM)を含む。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、一側面において、フィチン酸またはフィチン酸塩を含む食餌を消費し、高リン血症を患っている、または、そのリスクがあるヒト対象またはヒト以外の動物対象のリン酸塩吸収を低減する方法に関する。この方法は、対象の血清リン酸塩濃度を低減または維持するのに有効な量の抗腸アルカリホスファターゼ抗体を、対象に経口投与するステップを具える。この方法は、更に、血清リン酸塩濃度の減少または安定化を観察するステップを具える。例えば、抗体処置の前後で血清リン酸塩濃度を測定し比較することができる。
【0015】
本明細書に開示される方法は、高リン血症を減弱または予防するために使用することができる。いくつかの実施例においては、血清リン酸塩濃度は、許容される正常範囲の約150%、125%、120%、115%、110%または105%の最大生理学的血清リン酸塩濃度、または、それ以下に低減または維持される。いくつかの実施例においては、血清リン酸濃度は、正常範囲に低減または維持される。ヒト対象に関して、正常血清リン酸塩最大高濃度は、5.0mg/dlである。好ましい実施例においては、血清リン酸塩濃度は、ヒト対象において、5.5mg/dlまたはそれ未満、あるいは、5.0mg/dlまたはそれ未満に低減または維持される。
【0016】
いくつかの実施例においては、対象(例えばヒト対象)は、腎臓病を患っているか、ビタミンD化合物(例えば、1α,25−ジヒドロキシビタミンD)を摂取しているか、またはその両方であり、ここで、ビタミンD化合物は、食餌中のフィチン態リン酸塩(phytic phosphate)を吸収可能とする。いくつかの実施例においては、対象は、ビタミンD化合物(例えば、1α,25−ジヒドロキシビタミンD)を摂取するヒト腎臓病患者であり、5.0mg/dlまたは5.5mg/dl以上の血清リン酸塩濃度を有する。腎臓病の例は、末期腎臓病、急性腎不全、多嚢胞性腎臓病、慢性腎臓病、急性腎尿細管壊死、腎機能を低下させる感染症(例えば、敗血症または急性腎盂腎炎など腎臓感染症)、腎臓移植拒絶反応または尿管閉塞を含む。
【0017】
いくつかの実施例においては、この方法に使用される抗体は、IgY抗体である。いくつかの実施例において、抗体は、例えばニワトリなど、特に鳥類の卵(例えば、卵黄)から得られる。
【0018】
いくつかの実施例においては、配列番号1に規定されるヒト腸アルカリホスファターゼのアミノ酸72−79、アミノ酸83−90、アミノ酸123−130、アミノ酸181−188、アミノ酸226−233、アミノ酸260−267、アミノ酸271−278、アミノ酸312−319、アミノ酸363−370、アミノ酸383−390またはアミノ酸446−453内のエピトープに結合する抗体である。
【0019】
いくつかの実施例においては、抗腸アルカリホスファターゼ抗体は、リン酸塩結合剤に付随して投与される。いくつかの実施例においては、抗腸アルカリホスファターゼ抗体は、食物と共に投与されるか、フィチン態リン酸塩など、食餌リン酸塩を有する食物の消化に近い時間(すなわち、一時間前後)である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、ヒト腸アルカリホスファターゼのアミノ酸配列(配列番号1)および抗体を産生するのに使用されるフラグメント(丸で囲まれたペプチド)を示す。影付のアミノ酸は、ヒト、マウス、ラット、犬、ウシおよびニワトリで保存されていることを示す(N末端およびC末端で同一性がないのは、犬の配列にはこれらの部分が欠けているからである)。小さなフォントは、ニワトリでは保存されていないアミノ酸を示す。下線を引いたアミノ酸は表面にあるもの、または、結晶構造に基づいて重要であることを示す。*は、グリコシレーションサイトを示す。
【0021】
【図2−1】図2は、抗腸アルカリホスファターゼ抗体がインビトロで腸アルカリホスファターゼ活性の活性を阻害したことを示す。パネルA−Iは、抗腸アルカリホスファターゼ抗体の効果は、Caco−2細胞の腸アルカリホスファターゼの活性に関して、それぞれ、ペプチド1,5,6,28,3,9,10,25および29を用いて得られる。パネルJおよびKは、Caco−2細胞の腸アルカリホスファターゼの活性に関して、ペプチド5および6の注射の前に得られた卵黄抗体の効果を示す。パネルG、HおよびIの反応は、pH=9で行われ、他のパネルの反応はpH=7.4で行われる。x軸は、抗体希釈度を示し、y軸は、実験例2に示されるように、OD405の増加量を示す。パネルAおよびBのL−PHE(L−フェニルアラニン、5mM)は、腸アルカリホスファターゼの周知の阻害剤であり、コントロールとして使用した。
【図2−2】図2は、抗腸アルカリホスファターゼ抗体がインビトロで腸アルカリホスファターゼ活性の活性を阻害したことを示す。パネルA−Iは、抗腸アルカリホスファターゼ抗体の効果は、Caco−2細胞の腸アルカリホスファターゼの活性に関して、それぞれ、ペプチド1,5,6,28,3,9,10,25および29を用いて得られる。パネルJおよびKは、Caco−2細胞の腸アルカリホスファターゼの活性に関して、ペプチド5および6の注射の前に得られた卵黄抗体の効果を示す。パネルG、HおよびIの反応は、pH=9で行われ、他のパネルの反応はpH=7.4で行われる。x軸は、抗体希釈度を示し、y軸は、実験例2に示されるように、OD405の増加量を示す。パネルAおよびBのL−PHE(L−フェニルアラニン、5mM)は、腸アルカリホスファターゼの周知の阻害剤であり、コントロールとして使用した。
【図2−3】図2は、抗腸アルカリホスファターゼ抗体がインビトロで腸アルカリホスファターゼ活性の活性を阻害したことを示す。パネルA−Iは、抗腸アルカリホスファターゼ抗体の効果は、Caco−2細胞の腸アルカリホスファターゼの活性に関して、それぞれ、ペプチド1,5,6,28,3,9,10,25および29を用いて得られる。パネルJおよびKは、Caco−2細胞の腸アルカリホスファターゼの活性に関して、ペプチド5および6の注射の前に得られた卵黄抗体の効果を示す。パネルG、HおよびIの反応は、pH=9で行われ、他のパネルの反応はpH=7.4で行われる。x軸は、抗体希釈度を示し、y軸は、実験例2に示されるように、OD405の増加量を示す。パネルAおよびBのL−PHE(L−フェニルアラニン、5mM)は、腸アルカリホスファターゼの周知の阻害剤であり、コントロールとして使用した。
【0022】
【図3A】図3Aは、種々の抗腸アルカリホスファターゼ抗体をプローブとしたCaco−2細胞腸アルカリホスファターゼのウェスタンブロットを示す。分子量は、ウェスタンブロット画像の左側に示す。「Ref」は、販売されている抗ヒト腸アルカリホスファターゼ抗体を示す。「Ab#」は、表1に示されるように、特定の腸アルカリホスファターゼペプチドを用いて生成した抗体を示す。「Pre#」は、特定のペプチドを注射する前に得た卵黄抗体を示す。
【図3B】図3Bは、種々の抗腸アルカリホスファターゼ抗体をプローブとしたCaco−2細胞腸アルカリホスファターゼのウェスタンブロットを示す。分子量は、ウェスタンブロット画像の左側に示す。「Ref」は、販売されている抗ヒト腸アルカリホスファターゼ抗体を示す。「Ab#」は、表1に示されるように、特定の腸アルカリホスファターゼペプチドを用いて生成した抗体を示す。「Pre#」は、特定のペプチドを注射する前に得た卵黄抗体を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、抗腸アルカリホスファターゼ抗体が、動物の血液プール内に吸収されるフィチン態リン酸酸塩の量を低減することによって、血中リン酸塩濃度を低下することができることを発明者らが見出したことに部分的に基づいている。特に、動物にフィチン態リン酸塩を含む食餌を与え、容易に吸収可能な無機リン酸塩が不足している場合に、動物の血中リン酸塩濃度が低下し、ビタミンDを食餌に加えることで、低下した血中リン酸塩濃度が上昇する動物モデルにおいて、発明者らは、抗腸アルカリホスファターゼ抗体を、動物に投与するすることで、ビタミンDによって生じた上昇した血中リン酸塩濃度を低減することができたことを見出した。本発明は、フィチン酸またはフィチン酸塩を含む食品を摂取しており、カルシウムホメオスタシスを維持するために、または、ビタミンD化合物が食品中のフィチン態リン酸塩を容易に吸収できるようにする目的のために、ビタミンD化合物(例えば、1α、25−ジヒドロキシビタミンD)を摂取する必要がある腎臓病患者など、ヒト対象およびヒト以外の動物対象でのリン酸塩吸収を低減する新規なツールを提供する。
【0024】
本明細書に開示される発明者らの研究は、先行技術のいくつかの証拠が逆のことを示唆しているのにもかかわらず、抗腸アルカリホスファターゼ抗体が、ビタミンDによって上昇した血中リン酸塩濃度を低減するのに有効であることを示した。第1に、先行技術が示唆していることは、無機リン酸塩欠乏食餌にビタミンDを加えると、ビタミンDが腸アルカリホスファターゼ活性を増大させたラットと、ビタミンDが腸アルカリホスファターゼ活性に効果がなかったニワトリと、の双方で、血中リン酸塩濃度が上昇するので、腸アルカリホスファターゼと独立した機構が、血中リン酸塩濃度を上昇させるという理由であるということである(Biehl and Baker,J Nutr 1997,127:2054−2059;および、Pileggi et al,Arch.Biochem.Biophys.1995,58:194−204)。第2に、腸アルカリホスファターゼは、腸刷子縁膜と関連している(Nakano et al.,Arch Histol Cytol2001,64:483−491)。 先行技術が示唆するのは、腸内腔(ルーメン)内の分解性酵素による分解から粘膜表面を保護するために、低分子量の溶質のみを透過させ、大きな巨大分子(例えば、抗体/タンパク質)を透過させない粘膜層で腸刷子縁膜がコーティングされているので、抗腸アルカリホスファターゼ抗体は、インビボで腸アルカリホスファターゼ活性を阻害するのに有効ではないということである(Atuma et al,Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2001,280:922;および、M.Mantle and A.Allen,1989,Gastrointestinal mucus,pp202−229 Gastrointestinal Secretions,J.S.Davison,ed.,Butterworth and Co.,Great Britain)。さらに、経口投与される特定の抗体は、胃の酸性環境に耐え、活性を維持することができるかどうかは、不確かである。上述の先行技術の証拠にもかかわらず、発明者らは、ここでは、抗腸アルカリホスファターゼ抗体が、ビタミンDによって上昇した血中リン酸塩濃度を低減するために使用可能であることを示している。理論に拘束されることを意図しなければ、本発明者は、抗腸アルカリホスファターゼ抗体は、腸アルカリホスファターゼによるリン酸塩吸収を低減し、リン酸塩の放出を触媒するように、酵素とその基質(フィチン酸/フィチン酸塩)との間の相互作用を妨害すると考えている。
【0025】
特段の指定がない場合、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明の属する分野の当業者が一般的に理解するものと同一の意味を有する。本明細書に記載されるものと同様または均等である方法および材料を、本発明の実施又は検査に使用することができるが、好適な方法および材料をこれから記載する。
【0026】
実施例の記載および本発明の特許請求の範囲において、次の用語は、以下に記載される定義に従って使用される。
【0027】
本明細書で使用されるように、「抗体」は、特定の抗原と免疫学的に反応するイミュノグロブリン分子を含み、ポリクロナール抗体およびモノクロナール抗体の双方を含む。この用語は、さらに、キメラ抗体(例えば、ヒト化マウス抗体)およびヘテロコンジュゲート抗体(例えば、二重特異抗体)などの一般的な工学処理をした形態を含む。この用語は、二価(bivalent)または二重特異性(bispecific)分子、ダイアボディ(diabodies)、トリアボディ(triabodies)、および、テトラボディ(tetrabodies)を具える。二価および二重特異性分子は、例えば、Kostelny et al.,J Immunol 1992,148:1547;Pack and Pluckthun,Biochemistry 1992,31:1579;Zhu et al.,Protein Sci 1997,6:781;Hu et al.,Cancer Res.1996,56:3055;Adams et al.,Cancer Res.1993,53:4026;および、McCartney et al.,Protein Eng.1995,8:301に記載されている。用語「抗体」は、さらに、抗体結合能力を有するフラグメントなど(例えば、Fab’、F(ab)、Fab、FvおよびrIgG)抗体の抗原結合形体を具える。この用語は、リコンビナント一本鎖Fvフラグメント(scFv)を意味する。さらに、用語「抗体」は、抗体をより安定にするために、共有結合した安定化基を有する抗体を包含する。親和定数Kdが10−4Mまたはそれ未満の抗体を本発明に使用することができる。好ましくは、親和定数Kdが10−5M以下または10−6以下の抗体を使用する。より好ましくは、親和定数Kdが10−7M以下、10−8M以下または10−9M以下の抗体を使用する。
【0028】
本明細書で使用されるように、用語「高リン血症(hyperphosphatemia)」は、対象の症状を示すために広く使用されており、血清リン酸塩は、医学的に許容される正常範囲よりも高い濃度を示す。
【0029】
本明細書で使用されるように、用語「減弱」または「予防」は、治療効果または予防効果を得ることを意味する。治療効果は、治療した潜在的障害の改善または完治(eradication)を意味する。例えば、高リン血症の対象において、治療効果は、潜在的な高リン血症の改善または完治を含む。さらに、治療効果は、潜在的な障害に関連した1又はそれ以上の病態生理学的な症状の改善または完治を具え、潜在的な疾患を依然として患っているものの、対象では改善がみられるものを具える。例えば、腎不全および/または高リン血症で苦しんでいる患者では、治療効果は、患者の血清リン酸塩濃度を低下させるだけでなく、異所性石灰化および腎不全および/または高リン血症を伴う他の障害に関して、患者における改善を意味する。予防効果に関して、本発明による抗体は、高リン血症を発症する危険のある患者、または、高リン血症の診断がなされていない場合であっても1又はそれ以上の高リン血症の病態生理学的徴候を示す患者に投与される。例えば、本発明による抗体は、高リン血症と診断されていない慢性腎臓病を患う患者に投与することができる。予防効果は、高リン血症の予防または遅延を含む。
【0030】
本明細書で使用されるように、有効量の抗体は、高リン血症を患う患者の血清リン酸塩よりも低濃度の量であり、これは、高リン血症を患っている患者またはその危険性のある患者で血清リン酸塩が上昇するのを予防するか、または、食物からのリン酸塩の吸収を低下させ、このことは、例えば、排泄リン酸塩の上昇、あるいは、血清リン酸塩濃度の低下または安定化によって測定可能である。
【0031】
本明細書で使用されるように、「腎臓病」は、リン酸塩のろ過機能の低下となる腎臓病を含む腎臓機能に影響を及ぼす疾患または障害、ならびに、腎臓に供給される血液および腎臓における機能的欠陥および構造的欠陥に影響を与える疾患を具える。腎臓病の例は、限定するものではないが、末期腎臓病、急性腎不全、慢性腎不全、多嚢胞性腎臓病、慢性腎臓病(例えば、腎不全および末期腎不全について明示している米国国立腎臓財団の腎臓病結果品質の初期治療ガイドラインの下で分類された慢性腎臓病のI、II、III、IVまたはVステージ)、急性腎尿細管壊死(acute tubular necrosis)(例えば、腎臓動脈狭窄)、腎機能を低下させる感染症(例えば、敗血症または急性腎盂腎炎などの腎臓感染症)、腎臓移植の拒絶反応、尿管閉塞を具える。
【0032】
本明細書で使用されるように、「ビタミンD」は、ビタミンD、ビタミンD、ビタミンDなどと命名された有機化合物を広く意味し、カルシウムおよびリン酸塩のホメオスタシスに影響を与える代謝物およびホルモン形態を意味する。ビタミンDの例は、限定するものではないが、ビタミンD(エルゴカルシフェロール)、25−ヒドロキシビタミンD、1α,25−ジヒドロキシビタミンD、ビタミンD(コレカルシフェロール)、25−ヒドロキシビタミンD、1α,25−ジヒドロキシビタミンD、上記のいずれかの類似体、または、細胞内ビタミンDレセプタを実質的に占有することができる類似体、参照することで本明細書に組み込むBouillon et al.,Endocrine Reviews 1995,16:200−257に記載されたもの、を含む。ビタミンDの化合物は、現在購入可能または臨床試験中のものであり、限定するものではないが、19−nor−1α,25ジヒドロキシビタミンD(パリカルシトール)、1α−ジヒドロキシビタミンD(ドキセルカルシフェロール)、1α−ジヒドロキシビタミンD(アルファカルシドール)、Leo Pharmaceuticalからの試験検査中の薬(EB1089(セオカルシトール)、KH1060(20−epi−22−oxa−24a,26a,27a−trihomo−1α,25ジヒドロキシビタミンD)、MC1288およびMC903(カルシポートリオール))、ロシュ製薬の薬(1,25−ジヒドロキシ−16−ene−D、1,25−ジヒドロキシ−16−ene−23−yne−D、および、25−ジヒドロキシ−16−ene−23−yne−D)、中外製薬の薬(22−オキサカルシトリオール(22−oxa−1α,25−ジヒドロキシ−D))、イリノイ州立大学の1αヒドロキシD、シェリング社の医化学研究所の薬(ZK161422およびZK157202)を具える。
【0033】
一側面においては、本発明は、高リン血症を発症する危険性のある、または、発症している、ヒト対象またはヒト以外の動物対象でリン酸塩の吸収を低減する方法に関連しており、対象は、フィチン酸またはフィチン酸塩を含む食餌を消費し、高リン血症を発症するリスクがある。この方法は、対象の血清リン酸塩濃度を減少または維持するのに有効な量の抗腸アルカリホスファターゼ抗体を対象に経口投与するステップを具える。この方法は更に、血清リン酸塩濃度の低下または安定化を観察するステップを具える。例えば、抗体治療前後の血清リン酸塩濃度を測定し比較することができる。
【0034】
ここで開示される方法は、高リン血症を減弱又は予防するために使用することができる。いくつかの実施例においては、血清リン酸塩濃度を、許容される正常範囲の生理学的血清リン酸塩の最大濃度の約150%、125%、120%、115%、110%または105%の濃度またはそれ以下に低減するか、維持される。いくつかの実施例においては、血清リン酸塩濃度は、正常範囲内に低減または維持される。ヒト対象に関して、正常血清リン酸塩の最大高濃度は、5.0mg/dlである。好適な実施例においては、血清理リン酸塩濃度は、ヒト対象において、5.5mg/dlまたはそれ以下、あるいは、5.0mg/dlまたはそれ以下に低減されるか、維持される。
【0035】
高リン血症の発症する危険性のある患者、または、既に発症している患者は、限定するものではないが、ビタミンD化合物の過剰摂取によるビタミンD中毒;リン酸含有の下剤または浣腸の過剰使用など、過剰なリン酸塩摂取;本明細書で記載されるように、急性または慢性の腎不全などの腎臓病または機能不全;第一次上皮小体機能亢進症;PTH分泌を低下させ、末梢性PTH耐性(peripheral PTH resistance)を生じさせる種々の種類の偽性副甲状腺機能低下症(1a、1b、1cおよび2)または重度の低マグネシウム血症など、PTHに耐性のある尿細管の徴候などPTH耐性状態;および/または、横紋筋融解症、腫瘍崩壊症、インスリン欠乏または急性アシドーシスなど、細胞内リン酸塩が細胞外空間に移行する症状、を含む。
【0036】
いくつかの実施例においては、本発明の方法は、腎臓病を患っているか、ビタミンD化合物(例えば、1α,25−ジヒドロキシビタミンD)を摂取しているか、またはその両方であるヒト対象またはヒト以外の対象でリン酸塩の吸収を低下させるために使用される。
【0037】
様々な種に由来する腸アルカリホスファターゼのアミノ酸配列が知られている。例えば、ヒト腸アルカリホスファターゼのアミノ酸配列(配列番号1)、マウス腸アルカリホスファターゼ(配列番号2)、ラットのタイプI腸アルカリホスファターゼ(配列番号3)、ラットのタイプII腸アルカリホスファターゼ(配列番号4)は、それぞれ、NCBI GenBank Accession番号AAA51073、AAA37873、AAF36717およびNP_073171から得ることができる。列挙した異なる腸アルカリホスファターゼ間の同一性の割合は、高い(76.5%以上)。
【0038】
いくつかの実施例においては、次に挙げる腸アルカリホスファターゼフラグメント内のエピトープに結合する抗体を使用して、本発明を実施することができる:ヒト腸アルカリホスファターゼ(配列番号1)のアミノ酸72−79、83−90、123−130、181−188、226−233、260−267、271−278、312−319、363−370、383−390または446−453;上記ヒト腸アルカリホスファターゼフラグメントに対応するマウス腸アルカリホスファターゼ(配列番号2)のフラグメント;上記ヒト腸アルカリホスファターゼフラグメントに対応するラットのタイプI腸アルカリホスファターゼ(配列番号3)のフラグメント;または、上記ヒト腸アルカリホスファターゼフラグメントに対応するラットのタイプII腸アルカリホスファターゼ(配列番号4)。対応するフラグメントは、当分野の当業者に周知なアライメントプログラムによって容易に同定することができる。例えば、Altschul et al.に記載されるように(Nucleic Acids Res.25,3389−3402,1997)、Gapped BLASTを使用してもよい。Gapped BLASTはNCBIのウェブサイトから入手可能である。Gapped BLASTプログラムを使用するとき、プログラムのデフォルトのパラメータを使用してもよい。
【0039】
好ましい実施例においては、次に挙げるヒト腸アルカリホスファターゼ(配列番号1)フラグメントの1つにあるエピトープに結合する抗体を使用して本発明を実施することができる。アミノ酸72−79、181−188、226−233、260−267、271−278、383−390または446−453。別の好適な実施例においては、次に挙げるヒト腸アルカリホスファターゼ(配列番号1)フラグメントの1つにあるエピトープに結合する抗体を使用して本発明を実施することができる:アミノ酸83−90、181−188、226−233または260−267。
【0040】
IgY抗体または腸アルカリホスファターゼフラグメント内のエピトープに結合する抗体など、抗腸アルカリフォスファターゼ抗体を作成することは、明らかに当分野の当業者の能力の範囲内である。いくつかの実施例にこの方法で使用される抗体は、特に、ニワトリの卵など鳥類の卵など、卵(例えば黄身)に由来する。参照することでその全体を本明細書に組み込む、Polson,A.,M.B.von Wechmar and M.H.van Regenmortelの方法「Isolation of Viral IgY Antibodies from Yolks of Immunized Hens」Immunological Communications 9:475−493(1980)を使用して、卵黄抗体の製剤を生成できる。産卵する雌鳥に、腸アルカリホスファターゼまたはその免疫フラグメントを播種することができる。好ましくは、適切なアジュバントを、免疫処置を促進するために播種とともに投与することができる。この目的に有用なアジュバントは、完全なFreund(フロイント)のアジュバントなど、油中水滴エマルジョンアジュバントである。腸アルカリホスファターゼまたはその免疫原フラグメントは、雌鳥に、雌鳥が産んだ卵の卵黄に受動的に移行する抗腸アルカリホスファターゼ抗体を産生させる。抗体を含む黄身または全卵が収集され、ホモジナイズされてエマルジョンが形成される。得られたエマルジョンを乾燥して、抗体を含む粉末を得ることができる。この粉末は、次いで、経口投与に適した様態に製剤化することができ、ヒト対象またはヒト以外の動物対象に経口投与することができる。この製剤を食品または食物サプリメントとして経口投与してもよい。
【0041】
イソタイプクラスまたはサブクラスの抗体(例えば、IgY、IgG、IgM、IgD、IgA、IgE、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)ならびにそのフラグメント(上記抗体の酵素消化または化学消化によって生成される)、および、合成手段による上記抗体の製剤、または、上記抗体またはそのフラグメントをコードしている遺伝子配列の発現による上記抗体の製剤、が含まれる。IgYの一実施例においては、鳥類動物(例えば、ニワトリ、キジ、アヒル、七面鳥、ガチョウなど)の卵黄の抗体を、本発明を実施するために使用する(参照することで全体を組み込む、米国特許第5,080,895号、第5,989,584号、および、第6,213,930号参照)。EGGsract(登録商標)IgY精製システム(Promega);Madison、WI)、または、Eggcellent(登録商標)ニワトリIgY精製(Pierce Biotechnology社;Rockford,IL)など、商業的に入手可能な卵抗体精製キットを使用して抗体を精製できる。抗体を、親和精製のための標準的手段を用いて、ペプチドまたはタンパク質フラグメントに対する親和力に基づいて精製することができる。代替としては、抗体を含む卵、卵黄または乾燥卵黄粉末を、経口摂取のために食品と直接混ぜて、ピル、タブレットまたはカプセルに容易に導入することができる。抗体などをコーディングする遺伝子を、確立した分子クローニング技術またはファージ提示法を介して上記抗体などを使用して同定することができ、単独または組み合わせて使用可能な、上記抗体の全または部分モノクロナール形態を得ることができる。
【0042】
本発明による抗腸アルカリホスファターゼ抗体を含む組成物は、例えば、1日に1回、2回または3回で投与されてもよい。処方される量の一部が、食物または飲料の消費の前に消化され、他の部分は、食品または飲料とともに消化され、さらに他の部分は、食物または飲料の消化後近辺で消費されるように、投与は、数回に分けられてもよい。活性成分を、食品の上に、または、食品中に散在または分散させた;飲料中に溶解したまたは懸濁した;タブレット、カプセルおよび粉末など医薬固形製剤、または、エリキシル剤、シロップおよび懸濁液など液状製剤中にある;粒子または粉末として経口経路で投与することができる。いくつかの実施例においては、食物と同時に、または、食物中のリン酸塩を有する食物の消費に近接した時間で(約1時間前後以内)抗体を投与する。いくつかの実施例においては、抗体をリン酸塩結合剤とともに投与する。
【0043】
本発明による例示的な医薬組成物は、選択可能な付加的な安定剤または薬学的に許容される賦形剤と共に、IgYおよび選択可能な卵成分、または、IgYおよび選択可能な卵黄成分を具える。液体が部分的にまたは大半が除去された全卵、卵黄、または、卵黄を乳化して、選択的に、カプセル化用化合物またはリオプロテクタント(lyoprotectant)とともに混合し、粉末を形成するようにスプレードライまたはフリーズドライを行ってもよい。
【0044】
例えば、大量の液体を除去するために卵黄抗体を部分的に精製することができる。Camenisch C et al.,FASEB J.1999,13:81−88;Akita E & Nakai S,J.Immunol.Methods 1993、160:207−214参照。この文献は、参照することによって、全体が記載されているように、本明細書に組み込まれ、米国特許出願公開第2004/0087522も、参照することで、全体が記載されるように、本明細書に組み込まれる。
【0045】
カプセルまたはタブレットは、放出調節製剤(controlled−release formulation)を含み、この放出調節製剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース中の活性化合物の分散剤として提供されるか、または、活性因子の放出速度を変化させるものとして周知な物質に関連している。固形製剤は、周知な製薬技術を用いて所定時間に亘り、継続的な医薬品の放出を提供するように、徐放性製剤として製造可能である。圧縮錠剤は、不快な味を遮断し、周辺空気からタブレットを保護するために糖でコーティング、またはフィルムコーティング可能であり、胃腸管での選択的に分解されるように腸溶性にコーティングできる。固形および液状の経口投与形態の双方は、患者の許容性を向上させるために、着色剤および香料を含めることができる。
【0046】
安定化剤は、熱や酸など、変性条件下で、抗体の結合能力を維持する保護因子である。この安定剤は、標的抗原を有する抗体の相互作用を阻害せず、所望の生物学的効果も得られる。例示的な安定化剤は、卵白、アルブミンまたはサッカライド化合物を具える。好ましくは、サッカライド化合物は、全卵白液の約5%乃至30%(重量%)であり、より好ましくは、10%乃至20%(重量%)である。液体懸濁液中に抗体をサッカライド化合物とともに混合し、次いで、この懸濁液を乾燥し、タンパク質とサッカライドを含む固体を得た。安定化剤として有用なサッカライド化合物は、モノサッカライド、ジサッカライド、ポリサッカライド、アルキル化モノサッカライド、アルキル化ジサッカライド、アルキル化ポリサッカライド、モノサッカライドアルコールおよびアルキル化モノサッカライドアルコールを具える。好ましくは、このようなサッカライド化合物は、5または6の炭素のモノサッカライドユニットから構成される、または、基づいている。モノサッカライドは、nが3以上の式(CHO)を有する単糖残基である。モノサッカライドの例は、限定するものではないが、グルコース、リボース、フルクトース、ガラクトース、タロース(talose)、アラビノース、フコース、マンノース、キシロースおよびエリスロースを含む。α異性体、β異性体、D異性体およびL異性体など全ての異性体形態におけるモノサッカライドは活性を有する。ジサッカライドは、グリコシド結合によって結合された2つのモノサッカライド残基を有する分子である。本発明で使用できるジサッカライドの例は、限定するものではないが、トレハロース、マルトース、スクロース、ラクトース、マルトースおよびラクツロースを含む。ポリサッカライドは、直線状の未分岐鎖または分岐鎖の状態で、3又はそれ以上のモノサッカライドが結合された分子である。スターチ(デンプン)、グリコーゲンおよびセルロースは、数百または数千のモノサッカライド残基を有するポリサッカライドの例である。スターチは、直線状の未分岐鎖(アミロース)または高度に分岐した鎖(アミロペクチン)を含む。グリコーゲンは、分岐鎖を含み、セルロースは、直線状の未分岐鎖を含む。アルキル化モノサッカライド、アルキル化ジサッカライドおよびアルキル化ポリサッカライドは、アルキル基によって少なくとも1つの水素基が置換された、モノサッカライド、ジサッカライドおよびポリサッカライドである。モノサッカライドアルコールは、3又はそれ以上のヒドロキシル基を含むアクリルポリマである。これらは、モノサッカライドのケトン基またはアルデヒド基を、ヒドロキシル基に変換することで形成される。モノサッカライドアルコールの例は、限定するものではないが、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ラクチトール、イソマルト、マルチトールおよび水素添加デンプン加水分解物である。アルキル化モノサッカライドアルコールは、少なくとも1つの水素基がアルキル基で置換されたモノサッカライドアルコールである。
【0047】
抗体は、抗体の効力または安定性を向上するためにマトリックス(ポリマ性または非ポリマ性)物質に結合可能であり、次いで、投与される。
【0048】
本発明は、以下の非限定的な例を検討することで、より完全に理解されるであろう。
【0049】
実験例1:ビタミンDにより上昇した血清リン酸塩濃度の低減
【0050】
材料および方法
抗体生成に使用される動物:単冠白色レグホーンの産卵性雌鳥を抗体生成に使用した(ペプチド抗原当たり3羽の雌鳥)。各ペプチド抗原(配列に関して表1参照、配列および他の特徴に関して図1参照)を、標準グルタルアルデヒド法を用いて、ペプチドをウシガンマグロブリンに接合することによって調製した。いくつかの実験において、全酵素を購入することができ、コンジュゲートせずに使用できる。全酵素(表2)を用いた調製において、ワクチンの調製および注射のスケジュールは、コンジュゲートペプチドに記載されたものと同一であった(下記参照)。

表1.卵抗体を生成するのに使用されるペプチドのアミノ酸配列。アミノ酸配列は、動物種間の腸アルカリホスファターゼの予測される保存領域に基づいている。対象となる領域は、親水性表面、活性部位の入口、ダイマーインターフェースおよび金属結合ドメインを含む。


表2.卵抗体を作成するためのワクチンとして使用される商業的に入手可能なリン酸塩酵素

【0051】
コンジュゲートの調製:運搬体タンパク質に対するペプチドのコンジュゲートに関する処置および運搬体タンパク質の性質は、大幅に変更可能であり(多数のコンジュゲート用キットは、Pierce Scientificから得ることができる)、この実験例に記載される研究に使用される方法は、運搬体タンパク質ウシガンマグロブリン(BgG)との所望のペプチドのコンジュゲートに関するグルタルアルデヒド法の使用を含む。0.8mlの0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH=7)中のBgG(4mg)を4mgの所望のペプチドと混合した(下記表1参照)。0.52mlの0.02Mグルタルアルデヒド(0.1M酢酸ナトリウム緩衝液中)をペプチド運搬体タンパク質混合液に滴下した(発泡しないように)。この混合液を2時間撹拌した。次いで、20mgグリシンを加えて反応を止めた。この混合液を1時間放置し、次いで、リン酸塩緩衝食塩水(pH=7)に対して一晩透析した(MW=6000−8000)。透析したコンジュゲートを使用するまで−80℃で凍結した。
【0052】
ワクチンの調製および使用:各雌鳥用のワクチンを調製するために、0.5mgのコンジュゲートを0.5mlPBSの終濃度に希釈し、0.5mlのフロイントの完全アジュバント(最初の注射)または不完全アジュバント(追加免疫(booster)ワクチン)と混合し、氷水の上にドリップする場合、ビーズを保持することができる油中水型乳化剤を形成した。次いで、雌鳥の4つの部位(両脚および両胸(breast))に、0.25mlのワクチンエマルジョンを筋肉内注射した。不完全アジュバントの追加免疫注射は7日後であった。表1に示されているペプチドの各々をBgGと別々にコンジュゲートして、3羽の産卵する雌鳥に注射した。
【0053】
抗体サンプルの調製:抗体のピークは、21日で得られたので、卵を21日目から110日目にかけて回収した。おおよそ30日目のロットにおいて、各雌鳥からの黄身を全卵から分離して、混合して凍結乾燥した。抗体を含む乾燥卵黄粉末を、動物給餌実験に使用するまで室温で保存した。各雌鳥からの卵のサンプルを採取し、黄身を分離して、IgYは、Polson et al.,Immunol.Commun.1980,9:475−493に記載された方法を用いてポリエチレン精製した。
【0054】
動物モデル:無機リン酸塩の食餌供給源は、大半が、動物組織および製品(牛乳および卵)からの無機(mineral)リン酸塩またはリン酸塩である。これらのPi源は、単胃性動物によって容易に吸収される。リンの摂取に調整(intervention)を必要とする場合の疾患では、患者は、通常、食物を避け、Pi結合剤を摂取する必要がある。これは、Piの吸収を低減するのに有用な戦略である一方、代替の食物(例えば、植物性食品)を摂取する患者は、末期腎臓病などの疾患の治療中、吸収用のPiのプールとなる別のリン酸塩供給源に晒される。フィチン態リン(PP)は、植物性食品における全てのリンの70−80%を示す。PPは、消化して、排出部とともに排出される場合、単胃性動物には、通常、吸収されない。
【0055】
この実験例に使用される動物モデルはニワトリであり、ニワトリは、Pi欠乏食餌を与えられ、血清リン酸塩濃度が低くなる。1α−ヒドロキシビタミンDを、Pi欠乏食餌を与えたニワトリに供給することで、血清リン酸塩濃度が上昇した。従って、このモデルは、抗腸アルカリホスファターゼ抗体が1α−ヒドロキシビタミンDによって生じるフィチン開始点から上昇した血清リン酸塩濃度を低減させるのに有効であるかを試験するために使用することができる。
【0056】
動物実験:この実験で使用したニワトリモデルは、腸アルカリホスファターゼペプチドおよび製品化された酵素を除いて、Biehl and Baker,J.Nutr.1997,127:2054−2059によって記載されている。この実験に使用したネガティブコントロールは、Pi欠乏食餌(Pi=無機リン酸塩、牛乳や卵など、大半が、動物組織や製品からの無機(mineral)リン酸塩またはリン酸塩である)であり、ここで、使用される食餌のリンは、フィチン酸リン酸塩だった。以下の結果に示されるように、この食餌処置は、低血漿リンとなる。ポジティブコントロールは、1α−ヒドロキシビタミンD(20μg/kg食餌、Sigma)を追加した点を除き、ネガティブコントロールの食餌と同一とした。下記の結果に示されるように、この食餌処置は、ネガティブコントロールと比較して、フィチン態リンの遊離を介して、血中リン濃度を上昇させた。残りの食餌処置の全ては、抗体(上述した1gの乾燥卵黄粉末)を加えたポジティブコントロールとした(ペプチドに対して17、完全な酵素に対して5)。ネガティブコントロールおよびポジティブコントロールを、アジュバント注射した雌鳥から得た1g/kg乾燥卵黄粉末の食餌に加えた。これらの卵黄粉末は特定の抗体はなかった。
【0057】
合計で24の処置を使用した(ネガティブコントロール、ポジティブコントロール、17の抗ペプチド抗体の各々を加えたポジティブコントロール、5の抗リン酸塩酵素抗体の各々を加えたポジティブコントロール)。6羽の1日齢の単冠白色レグホーンの雛を食餌処置の各々に分配した。10日間、雛に食餌処置を与え、体重を測定し、Roche/Hitachi分析器(モリブデン酸アンモニウムとリン酸塩の反応に基づき、還元(reduction)なしで、リン酸アンモニウムを形成する)を用いて、血漿リン濃度を測定するために血液サンプルを採取した。雛を安楽死させ、各雛の右側頸骨を回収し、乾燥し、エーテル抽出して灰化して、脂肪フリーの乾燥骨の骨石灰化量を決定した。
【0058】
予め計画していた相違点の比較は、抗体がポジティブコントロールに対してエンドポイントを低下させるか否かを試験することだったので、統計分析として、t検定を用いて、測定されたパラメータとポジティブコントロールの比較を行った。*p<0.1または**p<0.05の場合に有意性があるとして値を作成する。
【0059】
結果
【0060】
腸アルカリホスファターゼの多数の部位に関する抗体は、活性ビタミンD(表3)によって生じる血漿リンの上昇を阻害することに有効だった。酵素表面および触媒部位の入口に対する抗体は、有効であると考えられる(表3)。

表3.活性ビタミンDの存在下で、抗腸アルカリホスファターゼ抗体に与えられたニワトリの血漿リン

1日齢のレグホーンの雛(n=6)に、1α−ヒドロキシビタミンD(活性ビタミンD、20μg/kg食餌)のみ、または、1α−ヒドロキシビタミンDと腸アルカリホスファターゼのペプチドに対する卵抗体(1g/kgの乾燥卵黄抗体粉末の食餌)、を加えたフィチン態リン含有Pi欠乏食餌を与えた。食餌を与えて10日後に血漿リンを測定した。
活性ビタミンD食餌(1α−ヒドロキシビタミンD)を与えたニワトリは、Pi欠乏食餌(p=0.0004)のニワトリと比べて血漿リンが上昇する。
*または**上記ペプチドに対する抗体を加えた活性ビタミンD食餌を与えたニワトリ(1α−ヒドロキシビタミンD)は、活性ビタミンDのみの処置と比べて、p<0.1または**p<0.05で、血漿リンが低下した。
【0061】
ニワトリ腸アルカリホスファアターゼおよびフィターゼではないE.coliアルカリホスファターゼ、子牛腸アルカリホスファターゼまたはヒト胎盤アルカリホスファターゼは、ビタミンDによって上昇した血漿リン濃度を低減するのに有効だった(表4)。

表4.活性ビタミンDの存在下で、抗腸アルカリホスファターゼ(IAP)抗体を与えたニワトリの血漿リン

1日齢のレグホーンの雛(n=6)に、1α−ヒドロキシビタミンDのみ(活性ビタミンD、20μg/kg食餌)、または、1α−ヒドロキシビタミンDとホスファターゼ酵素に対する卵抗体(1g/kgの乾燥卵黄抗体粉末の食餌)、を加えたフィチン態リン含有Pi欠乏食餌を与えた。食餌を与えて10日後に血漿リンを測定した。
活性ビタミンD食餌(1α−ヒドロキシビタミンD)を与えたニワトリは、Pi欠乏食餌を与えたニワトリと比べて、血漿リンが上昇した(p=0.0004)。
**上記ホスファターゼに対する抗体を加えた活性ビタミンD食餌(1α−ヒドロキシビタミンD)を与えた雛は、活性ビタミンDのみの処置と比べて、p<0.05で、血漿リンが低減した。
【0062】
さらに、この実験において、骨灰を測定した。1α−ヒドロキシビタミンDの添加は、ネガティブコントロールのPi欠乏食餌を与えたニワトリのものと比べた場合、骨灰を8%上昇させた(それぞれ、37.4%と34.6%)。ペプチドまたはホスファターゼに対する抗体で、1α−ヒドロキシビタミンDに関連した骨灰の上昇を阻止するものはなかった。このことは、骨石灰化に悪影響を与えずに、血中リン濃度が抗体で低減可能なことを示している。
【0063】
この実験例で提示されたデータは、腸アルカリホスファターゼおよび選択したアルカリホスファターゼペプチドに対する抗体が、動物の血液プール内への上昇したフィチン態リンの流量を低減するために使用可能であることを示している。従って、これらの抗体を使用して、ビタミンDを摂取している腎臓病患者などの患者のリン酸塩吸収を低減させることができる。
【0064】
実験例2:抗腸アルカリホスファターゼ抗体は結合して、腸アルカリホスファターゼの活性を阻害する。
【0065】
材料および方法
抗体:抗腸アルカリホスファターゼ抗体の産生は、種々の腸アルカリホスファターゼペプチドを用いて、上記実験例1に記載されている。
【0066】
腸アルカリホスファターゼ(IAP)アッセイ:Caco−2 C2BBel(#CRL−2102、ATCC、直腸結腸腺癌細胞系)からの細胞抽出物を、100%コンフルーエントに達した培養細胞から得た。細胞をアッセイ用緩衝液(19mM、トリスHCl、2.68mM KCl、137mM NaClおよび0.1%のTritonX−100)に再懸濁し、0.5mg/mlのプロテアーゼ阻害剤(Complete,Roche)の存在下でソニケーションすることで、溶解した。凍結乾燥してPEG沈殿させた抗体(卵黄)を0.9%食塩水で溶解した。0、2、1、0.2、0.04、0.08、0.0016および0.00032mg/mlで、200μlの抗体をそれぞれ、50μlの細胞抽出物、pH7.4またはpH9.0で、0.5mM MgClを含む450μlのアッセイ用緩衝液、0.2Mのトリス緩衝液に溶解した300μlの1.0mg/mlp−ニトロフェニルリン酸塩と、混合した。0、15、30、45、60、90、120、180分間、酵素反応を37℃で行った。各時間点で、405nmの光学的密度を測定した。抗体を含む培養に関してOD405の上昇を計算した。
【0067】
ウェスタンブロット:ヒト腸のタンパク質を10%アクリルアミドゲルに充填して、一時間、120Vで作動させた。次いで、12時間、4℃で、20Vを使用して、タンパク質をニトロセルロース膜に転写して、一次抗体の1/1000希釈に晒した(#5は1/500希釈)。3時間後、膜を数回洗浄して、1/5000希釈の二次抗体(セイヨウワサビのコンジュゲートペルオキシダーゼ)で90分間インキュベートした。Amersham社のECLキットを用いて信号を検出した。
【0068】
結果
【0069】
ペプチド1、3、5、6、9、10、25、28および29を用いて作製された抗腸アルカリホスファターゼ抗体を、腸アルカリホスファターゼの活性の効果に関して、インビトロで試験した。図2に示されるように、試験した全ての抗体は、Caco−2細胞の腸アルカリホスファターゼの活性をブロックすることができ、ペプチド5および6の免疫前(preimmune)コントロールは、ホスファターゼの活性の効果があった。さらに、ウェスタンブロット分析は、実験例1に記載される腸アルカリホスファターゼペプチドを用いて作製された抗体は、酵素を認識し、免疫前のコントロールは認識しなかった(図3)。
【0070】
実験例3:アデニン誘導尿毒症動物の血清リン酸塩濃度の低減
この実験例に使用された動物モデルは、アデニン誘導尿毒症ラットモデルである(例えば、Yokazawa et al.,Nephron 1986,44:230−234;Katsumata et al.,Kid Intl 2003,64:441−450;およびLevi R et al.,J Am Soc Nephrol 2006,17:107−112、各々は、ここで参照することでその全体を組み込む)。
【0071】
ラット(例えば、約175−250gの雄のSprague Dawleyラット、1群あたり最大10匹のラット)に、数週間に亘り(例えば、3乃至5週間またはそれ以上)、コントロール食餌または尿毒症誘導アデニン食餌(例えば、0.75%アデニン含有)を与えた。一実施例においては、食餌は、フィチン態リン酸塩、または、無機リン酸塩とフィチン態リン酸塩との両方、を含むことができる。アデニン食餌を与えられたラットは、4.4mmol/Lより高い血清リン酸塩濃度の抗リン酸塩血症を発症する。これらのラットは、さらに、ビタミンD(1α−ヒドロキシビタミンD、および、1α,25−ジヒドロキシビタミンD)不足となる。実験例1に示されるものなどの、抗腸アルカリホスファターゼ抗体の量を増大させながら、アデニン食餌を与えたラットの毎日の経口投与処置によって、投与量に相関して血清リン酸塩濃度が低減する。これらの抗体がアデニン処置の最初の4週間およびその後に与えられる場合、これらの抗腸アルカリホスファターゼ抗体は、上記ラットの抗リン酸塩血症の発症を予防、遅延、または、後退(reverse)させる。
【0072】
他の群において、アデニン食餌を与えられたラットに、活性ビタミンD欠乏を予防または改善するために、ビタミンD形態(例えば、25−ヒドロキシビタミンDまたはその誘導体、あるいは、1α,25−ジヒドロキシビタミンDなど、活性ビタミンD剤)で給餌した。一実施例においては、食餌は、フィチン態リン酸塩、または、無機リン酸塩とフィチン態リン酸塩との両方、を含むことができる。ビタミンD処置によって、ラットは高リン血症になりやすく、一旦発症すると、上記ラットの高リン血症は悪化する。実験例1に記載されたものなど、抗腸アルカリホスファターゼ抗体の投与量を増加させながら、ビタミンD(例えば、1α,25−ジヒドロキシビタミンD)を経口摂取させている上記ラットを処置することで、投与量に相関して上記ラットの血清リン酸塩濃度が低下する。後退を、アデニン処置の最初の4週間内およびその後に与えた場合、上記抗腸アルカリホスファターゼ抗体は、高リン血症の発症または悪化を予防または遅延する。
【0073】
同様の実験を、犬、豚および猿など、その他のアデニン誘導尿毒症動物を用いて行った。
【0074】
実験例4:5/6腎摘出ラットの血清リン酸塩濃度の低減
5/6腎摘出に関して(例えば、Cozzolino M et al.,Kidney Int.2003,64:1653−61参照)、左側腎動脈のいくつかの分岐を縛り、右側の腎臓を摘出した。5/6腎摘出したラット(例えば、雄のSprague Dawleryラット、約175−250g、1群あたり最大10ラット)に高リン酸塩食餌(例えば、0.9%リン酸塩)を与える。これらのラットは、手術後数週間で(4乃至8週間)尿毒症になり、腎不全、高リン血症および活性ビタミンD(1α−ヒドロキシビタミンDおよび1α,25−ジヒドロキシビタミンD)不足を発症する。実験例1に記載されたものなど、抗腸アルカリホスファターゼ抗体の量を増やしながら、高リン酸塩食餌を与えた上記5/6腎摘出ラットに毎日の経口投与処置することによって、上記ラットにおいて、投与量に相関して血清リン酸塩濃度が低減した。実験例1に記載された抗体など、抗体を、手術後最初の数週間内、および、その後に与える場合、これらの抗体は、上記ラットの高リン酸塩血漿の発症を予防または遅延する。
【0075】
その他の群において、高リン酸塩食餌を与えられた5/6腎摘出ラットに、活性ビタミンD不足を予防または改善するために、ビタミンDの形態(例えば、1α−ヒドロキシビタミンDまたはその誘導体、あるいは、1α,25−ジヒドロキシビタミンDなど活性ビタミンD剤)を与えた。しかしながら、この処置によって、ラットはより高リン血症の感受性が高くなり、一度発症した上記ラットでは、高リン血症が悪化した。実験例1に記載したものなど、抗腸アルカリホスファターゼの投与量を増やしながら、ビタミンD(例えば、1α,25−ジヒドロキシビタミンD)を経口摂取している上記ラットを処置することで、血清リン酸塩濃度が低減する。抗体が、手術の最初の数週間内またはその後で与えられる場合、上記抗腸アルカリホスファターゼ抗体は、上記ラットで、高リン酸塩血漿の発症または悪化を予防または遅らせる。
【0076】
本発明は、上述の実験例に限定することを意図せず、添付の特許請求の範囲内となる修正や変形など全てを包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィチン酸またはフィチン酸塩を含む食餌をとっていて、高リン血症を発症しているか、その危険性がある、ヒト対象又はヒト以外の動物対象のリン酸塩吸収を低減する方法において、当該方法が、
前記対象の血清リン酸塩濃度を低減又は維持するのに有効な量の抗腸アルカリホスファターゼ抗体を前記対象に経口投与するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記対象が腎臓病を患っていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記腎臓病が、末期腎臓病、急性腎不全、慢性腎不全、多嚢胞性腎臓病、慢性腎臓病、急性腎尿細管壊死、腎機能を低減させる感染症、および、尿管閉塞から選択されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記対象が、ビタミンD化合物を摂取していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抗体が、配列番号1のアミノ酸72−79、83−90、123−130、181−188、226−233、260−267、271−278、312−319、363−370、383−390、または446−453内のヒト腸アルカリホスファターゼのエピトープに結合することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記抗体が少なくとも10−7Mの親和力でエピトープに結合することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体がIgY抗体であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体が鳥類の卵から得られることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記抗体がリン酸塩結合剤とともに投与されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記対象がヒト対象であり、前記抗体が、抗ヒト腸アルカリホスファターゼ抗体であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記抗腸ホスファターゼ抗体が投与された後、前記血清リン酸塩濃度を測定するステップと、前記濃度を、前記抗腸ホスファターゼ抗体が投与される前の濃度と比較するステップと、更に具えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
腎臓病を患っていて、ビタミンD化合物を摂取し、フィチン酸またはフィチン酸塩を含む食餌をとっている、ヒト対象のリン酸塩吸収を低減する方法であって、前記ビタミンD化合物は食餌の前記フィチン態リン酸塩を吸収可能にする、方法において、
前記対象の血清リン酸塩濃度を低減又は維持するのに有効な量の、抗ヒト腸アルカリホスファターゼ抗体を前記ヒト対象に経口投与するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項13】
前記腎臓病が、末期腎臓病、急性腎不全、慢性腎不全、多嚢胞性腎臓病、慢性腎臓病、急性腎尿細管壊死、腎機能を低下させる感染症、および、尿管閉塞から選択されることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体が、配列番号1のアミノ酸72−79、83−90、123−130、181−188、226−233、260−267、271−278、312−319、363−370、383−390、または446−453内のヒト腸アルカリホスファターゼのエピトープに結合することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記抗体が少なくとも10−7Mの親和力でエピトープに結合することを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体がIgY抗体であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体が鳥類の卵から得られることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体がリン酸塩結合剤とともに投与されることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記抗腸フォスファターゼ抗体が投与された後、前記血清リン酸塩濃度を測定するステップと、前記濃度を前記腸ホスファターゼ抗体が投与される前の濃度と比較するステップと、を更に具えることを特徴とする請求項12に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2−1】
image rotate

【図2−2】
image rotate

【図2−3】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate


【公表番号】特表2010−508282(P2010−508282A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534818(P2009−534818)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【国際出願番号】PCT/US2007/082244
【国際公開番号】WO2008/051977
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(500484146)ウィスコンシン・アラムナイ・リサーチ・ファウンデイション (10)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【出願人】(509113405)アオヴァテクノロジーズ,インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】