リン酸第二鉄およびその調製の方法
ナノ寸法のLFPカソード材料の合成で使用するための望ましい特性を有する高純度結晶性リン酸第二鉄材料が記載される。本明細書に開示されるように、リン酸第二鉄二水和物材料は、約1.001から約1.05のリンの鉄に対するモル比、約25m2/gから約65m2/gの表面積を有し、また金属または磁性不純物を実質的に含まない。ナノ寸法のLFPカソード材料の合成で使用するための望ましい特性を有する高純度結晶性リン酸第二鉄材料を合成する方法もまた記載される。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の磁気トラップが、磁性不純物を除去するために反応工程の間および/または最終生成物の形成後に使用される。いくつかの実施形態において、合成中間体がリン酸第二鉄材料の純度を改善するために単離され精製される、多段階を使用するリン酸第二鉄の合成法が記載される。いくつかの実施形態において、鉄化合物は、リン酸の水溶液に添加される。溶液pHおよび温度は、鉄化合物の完全溶解を保証するために制御される。溶液のpHおよび温度の制御により、高純度および高結晶相純度を有する所望のリン酸鉄結晶性材料を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バッテリー電極の構造、そこに使用される材料、電気化学セル(特にバッテリー)の電極およびサブアセンブリおよび製造の方法、ならびにそのような電極を使用する電気化学セルおよび製造の方法に関する。
【0002】
(参照による組み込み)
本明細書に引用される特許、公開特許および刊行物はすべて、本明細書に記載された本発明の日付の時点で当業者に公知の最新技術をより完全に記載するために、参照によってそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
(関連出願)
本出願は、2009年9月18日に出願され、「リン酸鉄リチウム合成前駆体としてのリン酸第二鉄二水和物およびその調製の方法」と題される、同時係属中の米国特許仮出願第61/243,846号、および2009年11月30日に出願され、「リン酸第二鉄およびその調製の方法」と題される、同時係属中の米国特許仮出願第61/264,951号の優先権を主張し、その内容は参照によって組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
現代の持ち運び可能な電子装置は、電力源として、再充電可能なリチウム(Li)イオンバッテリーにほとんど独占的に依存している。代表的なリチウムイオンバッテリーにおいて、セルは、正極(またはカソード)に金属酸化物、負極(またはアノード)に炭素/黒鉛、および電解質に有機溶媒中のリチウム塩を含む。より最近では、リン酸金属リチウムが、カソード電気活性材料として使用されている。リン酸鉄リチウムは、現在、二次電池用の安全で信頼できるカソード材料として認められている。これは、市販のリチウムイオンバッテリーにおいて現在使用されているより危険な酸化コバルトリチウムの次世代代替品である。
【0005】
リン酸鉄リチウム(LFP)系カソード材料を使用するリチウムイオンバッテリーは、コードレスの携帯用具および内蔵のUPSデバイスにおいて目下見出される。バッテリーパックは、最近、航空機および再充電可能な電気自動車(REV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)自動車およびバスを包含する輸送に対して実証されている。
【0006】
運送業界でのリチウムイオンバッテリーのさらに広範囲の応用を見出すためには、ナノリン酸塩カソード材料の効率的な製造工程が必要とされる。いくつかの構造形態のリン酸鉄(III)(リン酸第二鉄またはリン酸鉄とも呼ばれる)が、LFP生産工程の原料として使用されている。いくつかの実施形態において、その形態は、関連する3種の結晶相、ストレンジャイト、メタストレンジャイトIおよびメタストレンジャイトIIを有する結晶性リン酸第二鉄二水和物である。現在、第二鉄のリン酸鉄二水和物が、主として食品添加物、セラミック工程の着色剤として、または他の目的で、鉄(II)化合物の一ポット酸化を一般に伴う工程を使用し、いくつかの汎用品バルク供給業者によって生産されている。この方法(または変形法)によって製造されたリン酸鉄は、通常品質が劣り、不純物を含み、したがって、高品質のナノリン酸塩LFPの合成のための前駆体としてはそれほど望ましくない。さらに、リチウムイオンバッテリーのLFPの合成に対して望まれるリン酸鉄(III)の特性は、他の用途に対するものとは非常に異なっていることがある。例えば、栄養サプリメントまたは食品添加物としてのリン酸鉄の使用に対する1つの必要条件は、化学薬品が、鉛、水銀または六価クロムのような有毒レベルの特定の金属汚染物質を含まないということである。対照的に、毒性は、リチウムイオンバッテリー用途に対する前駆体としてのリン酸鉄に対して、重要な必要条件ではない。リン酸第二鉄の純度およびコンシステンシーと同様に、色度は、セラミックの製造に使用される材料に対し所望の特性である。しかし、色純度は、リチウムイオンバッテリー用のLFPカソード材料の合成の主要な関心事ではない。さらに別の例は、リンの鉄に対する比率である。リン酸鉄の動物供給原料用途において、Fe/Pの正確な比率は重要ではないが、より高いFe/P比率が望ましい。したがって、Fe/P比率は注意深く制御されなくてもよく、いくつかの事例において、より高いリン含有率が望まれている。
【0007】
多くの汎用バルク化学品供給業者(Noah Chemical, Strem Chemical, Alpha Aesar Chemicalなど)から市販のリン酸第二鉄は、これらの供給業者からの市販のリン酸第二鉄の化学分析によって示されるように、比較的高いレベルの硫酸または硝酸陰イオン(0.1−2重量%不純物陰イオン)を含んでいる。このことは、リン酸第二鉄を生産するためにこれらの供給業者によって使用される通常の経路が、鉄塩溶液、最も普通には硫酸第一鉄または硝酸第一鉄を含むことを示唆する。高レベルの陰イオン不純物を含むリン酸第二鉄は、不純物が、バッテリー動作に有害な反応に影響されやすくおよび/または電気化学セルの循環を支援しないので、リチウムイオンバッテリーで使用されるリン酸鉄リチウムの製造の原料には適切ではない。
【0008】
リン酸第二鉄を合成するための他の合成法は、出発鉄材料として、酸化鉄(Fe(II)、Fe(III)またはFe(II/III))、水酸化鉄、炭酸鉄またはその組み合わせを使用する。そのような方法において、酸化鉄または炭酸鉄は、希リン酸溶液および酸化剤(必要ならば)と反応し、加熱され結晶性リン酸第二鉄化合物を生成する。リン酸第二鉄製品の品質を改善するそのような最近の試みにもかかわらず、市販のリン酸第二鉄は、リチウムイオンバッテリーにおいて使用するために、まだ最適化されていない。
【0009】
したがって、バッテリー等級LFPの合成ためのリン酸鉄前駆体の望ましい特性が、大抵の場合、他の用途のものと異なる、または矛盾するので、既存の汎用化学品市場は、LFP合成前駆体としてリン酸鉄の非実用的な供給源である。さらに、既存の一ポット法によって合成される市販供給源からのリン酸鉄には、リチウムイオンバッテリーに有害な不純物、例えば、硫酸塩、塩化物、および硝酸塩、がしばしば含まれる。さらに、市販のリン酸鉄材料の異なるバッチは、しばしば一貫しない特性を有する。したがって、バッテリー等級LFPの合成のために、一貫した望ましい特性を有する高純度のリン酸鉄を生産するための、新規の合成法の開発の必要性が残っている。
【発明の概要】
【0010】
ナノ寸法のリン酸鉄リチウムカソード材料の合成で使用される望ましい特性を有する高純度結晶性のリン酸第二鉄材料が記載される。本明細書に開示されたリン酸第二鉄二水和物材料は、約1.001から約1.05のリンの鉄に対するモル比、約30m2/gから約55m2/gの表面積を有し、金属または磁性不純物を実質的に含まない。ナノ寸法のリン酸鉄リチウムカソード材料の合成での使用に望ましい特性を有する高純度結晶性リン酸第二鉄材料を合成する方法も記載される。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の磁気トラップが反応工程の任意の段階の間に使用される。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の磁気トラップが、磁性不純物を除去するために最終生成物の形成後に使用される。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の磁気トラップが、磁性不純物を除去するために反応工程の任意の段階の間に、および最終生成物の形成後に使用される。いくつかの実施形態において、合成中間体が、リン酸第二鉄材料の純度を改善するために単離され精製される、多段階を使用するリン酸第二鉄の合成法が記載される。いくつかの実施形態において、鉄化合物がリン酸の水溶液に添加される。溶液pHおよび温度は、鉄化合物の完全溶解を保証するために制御される。高純度および高い結晶相純度を有する所望のリン酸鉄結晶性材料を、溶液のpHおよび温度の制御によって得ることができる。
【0011】
本明細書において使用される場合、リン酸第二鉄、リン酸鉄、FP、およびリン酸鉄(III)という用語は、同義的に使用される。本明細書において使用される場合、リン酸第一鉄およびリン酸鉄(II)という用語は、同義的に使用される。結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約0.5重量%未満の他のアルカリまたは一般の陰イオンまたは他の塩不純物を含む。他のアルカリまたは一般の陰イオン、または他の塩不純物の非限定的な例は、SO4、NO3、Cl、Na、Caおよび他のアルカリ、またはアルカリイオンを含む。
【0012】
本明細書において使用される場合、材料が100ppm未満の金属または磁性不純物を含む場合、その材料は金属または磁性不純物を実質的に含まない。金属または磁性不純物の例は、鉄金属、炭素鋼、ステンレス鋼、またはマグヘマイト(maghemitite)もしくはマグネタイトなどの酸化鉄を含むが、これらに限定されない。
【0013】
本明細書において使用される場合、高純度のリン酸第二鉄は、各陽イオン不純物が100ppm未満である、低レベルの他の微量金属カチオン(他の遷移金属、アルカリおよびアルカリ土類金属を含む)を含むリン酸鉄(III)を指す。さらに、高純度リン酸第二鉄は、各陰イオン不純物が1000ppm未満である、非常に低レベルの他の微量陰イオン(硝酸、硫酸、過塩素酸などのオキソ陰イオン、およびフッ化物、塩化物、臭化物などのハロゲン化物などを含む)を含む。高純度リン酸第二鉄化合物は、非晶質また結晶性であってもよく、水和されていてもよい。ストレンジャイト、メタストレンジャイトIまたはメタストレンジャイトIIとして知られるリン酸第二鉄の水和された結晶形は、本明細書にさらに記載される。
【0014】
一態様において、結晶性リン酸第二鉄材料であって、
約1000ppm未満の硫酸イオンを含み、
リンの鉄に対するモル比が約1.001から約1.05であり、
リン酸第二鉄材料が約25m2/gから約65m2/gの表面積を有し、
0.8重量%未満の金属または磁性不純物を含むリン酸第二鉄材料が記載される。
【0015】
いくつかの実施形態において、リン酸第二鉄材料は、リン酸第二鉄二水和物を含み、
リン酸第二鉄二水和物は、
約28.3重量%から約29.6重量%の鉄;
約16.0重量%から約16.9重量%のリン;および
約700ppm未満の硫酸イオンを含み、
約30m2/gから約55m2/gの表面積を有する。
【0016】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約100ppm未満の金属または磁性不純物を含む。
【0017】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約10ppm未満の金属不純物を含む。
【0018】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約1ppm未満の磁性不純物を含む。
【0019】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約100ppb未満の磁性不純物を含む。
【0020】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料の脱イオン水20ml中溶液1gは、約1から約5の間のpH値を有している。
【0021】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料の脱イオン水20ml中溶液1gは、約2から約3の間のpH値を有している。
【0022】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約100ppm未満の硫酸イオンを含む。
【0023】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約0.5重量%未満の他のアルカリまたは一般の陰イオンまたは他の塩不純物を含む。
【0024】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約0.02重量%未満の硝酸塩または塩化物を含む。
【0025】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約19.3重量%から約20.8重量%の水を含む。
【0026】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物の結晶相は、ストレンジャイト、メタストレンジャイト(I)、メタストレンジャイト(II)、およびその混合物からなる群から選択される。
【0027】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄二水和物材料は、約30m2/gから約55m2/gの表面積を有する。
【0028】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄二水和物材料の主要な粒径は、約1nmから約100nmの間にある。
【0029】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄二水和物材料の主要な粒径は、約20nmから約40nmの間にある。
【0030】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄二水和物材料の凝集体粒子の中位寸法は、約1μmから約4μmの間にある。
【0031】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄二水和物材料の凝集粒子の中位寸法は、約4μmから約10μmの間にある。
【0032】
別の態様において、
a)鉄(II)塩およびリン酸塩を水溶液に導入し、リン酸第一鉄材料を形成して、リン酸第一鉄を洗浄し不純物を除去するステップ;および
b)酸化剤でステップa)からのリン酸第一鉄を酸化させリン酸第二鉄材料を形成するステップを含む結晶性リン酸第二鉄材料を合成する方法が記載される。
【0033】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄材料は、リン酸第二鉄二水和物を含む。
【0034】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第一鉄材料は、リン酸第一鉄八水和物を含む。
【0035】
先の実施形態のいくつかにおいて、本方法は、ステップa)、ステップb)、ステップb)の後、またはその任意の組み合わせにおいて、金属または磁性不純物を除去するために、1つまたは複数の金属トラップを使用するステップをさらに含む。
【0036】
先の実施形態のいくつかにおいて、磁気トラップは希土類磁石を含む。
【0037】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップa)における鉄(II)塩は、硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、その任意の水和物、またはその混合物を含む。
【0038】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップa)におけるリン酸塩は、リン酸二アンモニウムを含む。
【0039】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップa)は、溶液に水酸化アンモニウムを添加するステップをさらに含む。
【0040】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップa)における結果として得られた溶液のpHは、約4から約5の間にある。
【0041】
先の実施形態のいくつかにおいて、酸化剤は過酸化水素を含む。
【0042】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)は、亜リン酸を添加するステップをさらに含む。
【0043】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)は、約35から約65℃の間の温度で溶液を加熱するステップをさらに含む。
【0044】
先の実施形態のいくつかにおいて、本方法は、c)約85から約100℃の間の温度で溶液を加熱するステップをさらに含む。
【0045】
先の実施形態のいくつかにおいて、本方法は、結果として得られた結晶性リン酸第二鉄二水和物材料を約95%から約99%の純度レベルに洗浄するステップをさらに含む。
【0046】
先の実施形態のいくつかにおいて、合成された結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、
約28.3重量%から約29.6重量%の鉄;
約16.0重量%から約16.9重量%のリン;
および約0.8重量%未満の硫酸イオンを含み、
リンの鉄に対するモル比は、約1.001から約1.05であり;
リン酸第二鉄二水和物材料は、約25m2/gから約65m2/gの表面積を有し;
リン酸第二鉄二水和物材料は、金属または磁性不純物を実質的に含まない。
【0047】
さらに別の態様において、
a)鉄(II)化合物および水溶液中の酸化剤を組み合わせて、非晶質リン酸第二鉄を形成し、非晶質リン酸第二鉄を洗浄して不純物を除去するステップ;および、
b)ステップa)からの非晶質リン酸第一鉄を結晶化し結晶性リン酸第二鉄材料を形成するステップを含み;この場合、1つまたは複数の金属トラップが、ステップa)、ステップb)、ステップb)の後またはその任意の組み合わせにおいて金属または磁性不純物を除去するために使用される、
結晶性リン酸第二鉄材料を合成する方法が記載される。
【0048】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄材料は、リン酸第二鉄二水和物を含む。
【0049】
先の実施形態のいくつかにおいて、磁気トラップは希土類磁石を含む。
【0050】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸鉄(II)は、鉄(II)塩およびリン酸塩を組み合わせることにより形成される。
【0051】
先の実施形態のいくつかにおいて、鉄(II)塩は、硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、その任意の水和物、またはその混合物を含む。
【0052】
先の実施形態のいくつかにおいて、鉄(II)塩は硫酸鉄(II)八水和物を含む。
【0053】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸塩はリン酸二アンモニウムを含む。
【0054】
先の実施形態のいくつかにおいて、酸化剤は過酸化水素を含む。
【0055】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップa)は、約30から約65℃の間の温度で溶液を加熱するステップをさらに含む。
【0056】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)は、リン酸を添加するステップをさらに含む。
【0057】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)は、約85から約100℃の間の温度で溶液を加熱するステップをさらに含む。
【0058】
先の実施形態のいくつかにおいて、本方法は、結果として得られた結晶性リン酸第二鉄材料を洗浄するステップをさらに含む。
【0059】
先の実施形態のいくつかにおいて、合成された結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、
約28.3重量%から約29.6重量%の鉄;
約16.0重量%から約16.9重量%のリン;および
約0.8重量%未満の硫酸イオンを含み、
リンの鉄に対するモル比は約1.001から約1.05であり、
約25m2/gから約65m2/gの表面積を有し、
金属または磁性不純物を実質的に含まない。
【0060】
さらに別の態様において、反応混合物、1種または複数の反応体、1種または複数の中間生成物、およびリン酸第二鉄二水和物生成物を含む結晶性リン酸第二鉄材料の製造方法であって、
反応体、中間生成物、反応混合物、またはリン酸第二鉄二水和物生成物から金属または磁性不純物を除去するために1つまたは複数の磁気トラップを使用するステップを含み;鉄(II)または鉄(III)化合物を含む出発材料を使用する方法が提供される。
【0061】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄材料はリン酸第二鉄二水和物を含む。
【0062】
先の実施形態のいくつかにおいて、本方法は、1つまたは複数の合成のステップを含み、また、1つまたは複数の磁気トラップが、任意の1つの合成ステップの前、間もしくは後に、またはその任意の組み合わせで使用される。
【0063】
先の実施形態のいくつかにおいて、金属トラップは希土類磁石を含む。
【0064】
先の実施形態のいくつかにおいて、磁石トラップは、1から20kGaussの範囲の磁気強度を有している。
【0065】
先の実施形態のいくつかにおいて、磁石トラップは、8から14kGaussの範囲の磁気強度を有している。
【0066】
先の実施形態のいくつかにおいて、本方法は、
a)水溶液中の鉄(II)または鉄(III)化合物、およびリン酸を組み合わせるステップ;
b)鉄(II)または鉄(III)化合物の実質的にすべてがリン酸との反応によって消費されることを保証するために、溶液の均一なpHおよび温度を維持するステップ;および、
c)pHおよび溶液の温度を制御し実質的に純粋な結晶相を有するリン酸第一鉄材料を形成するステップをさらに含み、
1つまたは複数の金属トラップが、ステップa)、ステップb)、ステップc)、ステップc)の後、またはその任意の組み合わせにおいて、金属または磁性不純物を除去するために使用される。
【0067】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄材料はリン酸第二鉄二水和物を含む。
【0068】
先の実施形態のいくつかにおいて、磁気トラップは希土類磁石を含む。
【0069】
先の実施形態のいくつかにおいて、鉄(II)または鉄(III)化合物は、酸化鉄(II)もしくは酸化鉄(III)、水酸化鉄(II)もしくは水酸化鉄(III)、炭酸鉄(II)もしくは炭酸鉄(III)、またはオキシ水酸化鉄(II)(iron (II) oxy-hydrate)もしくはオキシ水酸化鉄(III)を含む。
【0070】
先の実施形態のいくつかにおいて、鉄(II)化合物が使用され、ステップa)は、酸化剤を添加するステップをさらに含む。
【0071】
先の実施形態のいくつかにおいて、酸化剤は、過酸化水素、溶存空気もしくは溶存酸素、または他の穏やかな酸化体を含む。
【0072】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸水溶液は、約1:1から約10:1の水:リン酸比率を有する。
【0073】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸水溶液は、約1:1から約4:1の水:リン酸比率を有する。
【0074】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)の溶液のpH値は、約2未満に維持される。
【0075】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)の溶液のpH値は、約1未満に維持される。
【0076】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)の溶液の温度は、65℃超に維持される。
【0077】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)の溶液の温度は、70℃超に維持される。
【0078】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)の溶液の温度は、75℃超に維持される。
【0079】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)の溶液の温度は、95℃超に維持される。
【0080】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄材料は、100ppm未満の金属または磁性不純物を含む。
【0081】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄材料は、10ppm未満の金属または磁性不純物を含む。
【0082】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄材料は、1ppm未満の金属または磁性不純物を含む。
【0083】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄材料は、100ppb未満の金属または磁性不純物を含む。
【0084】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相は、メタストレンジャイトIである。
【0085】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相は、メタストレンジャイトIIである。
【0086】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相は、ストレンジャイトである。
【0087】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップc)の溶液のpH値は、約1未満に制御される。
【0088】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップc)の溶液の温度は、約85℃未満に制御される。
【0089】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相は、メタストレンジャイトIIである。
【0090】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相は、メタストレンジャイトIIである。
【0091】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップc)の溶液のpH値は、約1から約2の間の範囲で制御される。
【0092】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップc)の溶液の温度は、約85℃未満で制御される。
【0093】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相は、メタストレンジャイトIである。
【0094】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相は、メタストレンジャイトIである。
【0095】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップc)の溶液は、1つまたは複数の高強度磁束トラップに通される。
【0096】
先の実施形態のいくつかにおいて、磁気トラップは、磁界を発生させる、溶液に直接挿入される強い磁石を備える。
【0097】
本主題が以下の図を参照して説明されるが、例証のみの目的で提示され、本発明を限定するようには意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】二相の混合物を示すリン酸鉄試料1のX線回折粉末パターンを示す図である。
【図2】<100nmから>1μmの結晶寸法の広い分布を示すリン酸鉄試料1の高分解能SEM像である。
【図3】1つまたは複数の実施形態によるリン酸第二鉄の結晶相および純度を説明する粉末X線回折パターンを示す図である。
【図4】1つまたは複数の実施形態によるリン酸第二鉄の結晶相および純度を説明する粉末X線回折パターンを示す図である。
【図5】1つまたは複数の実施形態によるリン酸第二鉄のSEM像である。
【図6】1つまたは複数の実施形態によるリン酸第二鉄の結晶相組成の粉末X線回折同定を示す図である。
【図7】1つまたは複数の実施形態による工程によって合成されたリン酸第二鉄のSEM像である。
【図8】1つまたは複数の実施形態によるリン酸第二鉄の結晶相および純度の粉末X線回折同定を示す図である。
【図9】1つまたは複数の実施形態による工程によって製造されたリン酸第二鉄を使用して合成されたカソード粉末の放電速度マップである。
【図10】1つまたは複数の実施形態による工程によって製造されたリン酸第二鉄を使用して合成されたカソード粉末の放電速度マップである。
【図11】1つまたは複数の実施形態によるリン酸第二鉄から製造されたドープしたリン酸鉄リチウムのナノスケール寸法および均一な粒子のモルフォロジである。
【図12】Chemische Fabrik Budenheimから購入したリン酸第二鉄(E53−91)の5ロットの粉末X線回折パターンである。
【図13A】湿式粉砕したリン酸第二鉄から回収した磁性不純物の顕微鏡画像である。
【図13B】湿式粉砕したリン酸第二鉄から回収した磁性不純物の顕微鏡画像である。
【図14】湿式粉砕したリン酸第二鉄から収集した磁性汚染物質のX線回折同定を示す図である。
【図15A】リチウムイオンバッテリーから除去されたポリオレフィンセパレーター膜を貫通している鉄樹枝状結晶の斑点の顕微鏡画像である。図15Aは、正極に面するセパレーター面である。
【図15B】リチウムイオンバッテリーから除去されたポリオレフィンセパレーター膜を貫通している鉄樹枝状結晶の斑点の顕微鏡画像である。図15Bは、負極に面するセパレーターの同一の鉄の斑点である。
【発明を実施するための形態】
【0099】
ナノ寸法のLFPカソード材料の合成で使用される望ましい特性を有する高純度結晶性リン酸第二鉄材料、およびその製造方法が記載される。
【0100】
材料
一態様において、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約28.3重量%から約29.6重量%の鉄含有率を有する。いくつかの実施形態において、鉄含有率は、リン酸第二鉄二水和物の鉄に基づいて約95から99%の理論純度である。より低い鉄含有率(28.3重量%未満)は、バッテリーカソード材料のための前駆体の望ましくない1つまたは複数の特性、つまり、高い含水率、硫酸塩または他の高い不純物量、低い結晶化度に対応し得る。より高い鉄含有率(29.6重量%超)は、バッテリー前駆体材料の望ましくない1つまたは複数の特性、つまり、低い結晶水含有率、低い結晶度、低いリン酸塩含有率、酸化鉄不純物、鉄含有金属不純物、例えば、リン酸第一鉄四水和物のような第一鉄不純物に対応し得る。
【0101】
いくつかの実施形態において、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、金属または磁性不純物を実質的に含まない。金属または磁性不純物の非限定的な例は、鋼鉄、クロム鋼、ステンレス鋼、鉄、酸化鉄(酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化鉄(II、III))、および他の金属または、金属酸化物を含む。リン酸第二鉄二水和物材料が約1000ppm未満、約200ppm未満、または約100ppm未満の金属または磁性不純物を含む場合、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、金属または磁性不純物を実質的に含まない。いくつかの実施形態において、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約100ppm未満の金属または磁性不純物を含む。いくつかの実施形態において、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約10ppm未満の金属または磁性不純物を含む。低レベルの酸化鉄および/または金属鉄不純物を含むリン酸鉄は、バッテリー用途の高純度LFPの製造に対して望ましく、適切である。LFP電池材料中の酸化鉄、および炭素鋼またはステンレス鋼などの金属不純物は、バッテリーにおいて経時的に、電気化学的に不安定で、不可逆的な容量損失、すなわち容量減退を引き起こす場合がある。
【0102】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物は微量の金属不純物を含む。いくつかの実施形態において、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約0.8重量%未満の金属または磁性不純物を含む。いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物は微量の金属不純物を含む。いくつかの実施形態において、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約0.1重量%未満の金属または磁性不純物を含む。アノードへ移行しアノードに堆積し得るCuおよびZnなどの低酸化電位の遷移金属は、リチウムイオンバッテリー寿命を減少させ、容量を減退させることがある。高いレベルのアルカリまたはアルカリ土類金属、例えば、約1,000ppm以上のNa、K、Ca、Mgは、リチウムに置き換わり、カンラン石格子を通るリチウムイオン拡散通路をブロックし得る。
【0103】
リン酸鉄二水和物の鉄含有率が一貫していれば、ナノ寸法LFP(またはドープしたカンラン石)の正確な化学量論および配合によって、前駆体材料からの製造が可能になる。LFPにおいて鉄の酸化状態の可逆変化(Fe2+⇔Fe3+)には、エネルギー貯蔵を生じさせるバッテリー中へのリチウムイオンの可逆的なインターカレーションを伴う。したがって、リチウムイオンバッテリー用の高容量カソード材料を製造するために、合成混合物中の利用可能な鉄含有率と一致する正確な量のリチウムが、望ましい。
【0104】
本明細書に記載されるリン酸鉄中の鉄含有率は、LFPの高い可逆的エネルギー貯蔵容量に寄与する。いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物から製造されたLFPバッテリー材料の具体的なエネルギー容量は、140mAhr/gから165mAhr/gの範囲であってもよい。
【0105】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約16.0重量%から約16.9重量%のリン含有率を有する。いくつかの実施形態において、リン酸塩含有率は、リン酸第二鉄二水和物のリンに基づいて理論純度の96−102%である。より低いリン酸塩含有率は、望まれない1つまたは複数の条件、つまり、酸化鉄不純物、鉄含有金属不純物、高い含水率、高い硫酸塩量、塩化物量、硝酸塩量または他の陰イオン不純物量、第一鉄イオン不純物量、例えば、リン酸第一鉄不純物量に対応し得る。より高いリン酸塩含有率は、望まれない1つまたは複数の条件、つまり、NH4H2PO4、NH4FePO4などのリン酸塩に富む不純物、低い鉄含有率、低い結晶水含有率および低い結晶化度に対応し得る。
【0106】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄原料のリン酸塩が一貫していれば、ナノ寸法LFP(またはドープしたカンラン石)の正確な化学量論および配合によって、前駆体材料からの製造が可能になる。
【0107】
いくつかの実施形態において、リン酸塩モル含有率が、ナノ寸法LFP(またはドープしたカンラン石)中のレドックス活性金属の合計含有率(例えば、Fe、Mn、Co、Ni、V)に等しい、またはわずかに大きい安定したリン酸塩含有率が使用される。ナノ寸法LFPの高いリン酸塩含有率は、特定の条件下で熱暴走を被りやすい金属酸化物に基づく他のリチウム酸化物バッテリーの化学現象より、電気化学的かつ熱的に安定である。リン酸鉄二水和物からの高いリン酸塩含有率は、ナノ寸法LFPまたはドープしたカンラン石の製造(合成)の間の付随的な形成による金属酸化物不純物を最小限に抑えるまたは排除するのを助ける。
【0108】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、低レベルの非リン酸陰イオンを含む。リン酸鉄二水和物の高いリン酸塩含有率は、材料中のそれほど所望されない陰イオンの低い不純物量と相関がある。例えば、硫酸、塩化物、および硝酸陰イオンは、市販の汎用リン酸鉄において時々見られる。これらの陰イオンは、リチウムイオンバッテリーにおいて電気化学的環境下でリン酸塩ほど安定していない。例えば、塩化物陰イオンは、酸化して塩素ガスを生成し得て、これは密封リチウムイオンバッテリーの内部で望まれないガス圧の原因になり得る。カソード中の高い硫酸塩不純物量は、リチウムイオン電池電解質に可溶であり得、バッテリーのアノードに輸送された場合、還元して硫化物を形成し得る。いかなる特定の理論によっても束縛されることを欲しないが、リチウムイオンバッテリーアノードでのスルフィドの堆積が、アノードの安定性および機能を下げ、バッテリー寿命の短縮および/またはエネルギー貯蔵容量の低下をもたらし得ると考えられる。
【0109】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物は、低い硫酸塩、塩化物、および硝酸塩の不純物量を含む。いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物中の硫酸塩含有率は、約0.5重量%未満である。リン酸鉄二水和物材料中のより高い硫酸塩含有率は、LFP粒子の粗化と関連している。
【0110】
本出願人らは、驚いたことに、リン酸鉄中の残渣硫酸塩が、リチウムイオンバッテリーのバッテリー寿命の減少およびバッテリー性能の減退の原因となり得ることを見出した。いくつかの実施形態において、リン酸鉄材料は、1000ppm未満の硫酸イオンを含む。いくつかの実施形態において、リン酸鉄材料は、700ppm未満の硫酸イオンを含む。
【0111】
塩化物または硝酸塩は、リチウムイオンバッテリー中で通常の充電条件下で酸化し得て、バッテリー中に望ましくないガス圧力をもたらし得る。
【0112】
いくつかの実施形態において、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、リンの鉄に対するモル比が約1.001から約1.050である。リン酸鉄の1より大きいリンの鉄に対する比率は、リン酸鉄二水和物の理論比率1と比較して、LFPを合成する前駆体として使用される。1未満のリン酸塩と鉄の比率は、リン酸鉄原料の1つまたは複数の望ましくない特質、つまり、酸化鉄不純物、鉄含有金属不純物、リン酸第一鉄などの第一鉄(Fe2+)不純物を示し得る。
【0113】
リン酸鉄の1未満のリンの鉄に対する比率は、ナノ寸法LFPまたはドープしたカンラン石の合成の間に、2次的な鉄に富む相をもたらし得る。リチウムイオンバッテリーのナノ寸法LFPカソード中の酸化鉄または金属鉄相のいずれかの存在は、バッテリー寿命の減少または容量減退をもたらし得る。
【0114】
いくつかの実施形態において、P/Fe比率は1.050から1.001の範囲にある。いくつかの実施形態において、P/Fe比率は1.03から1.01の範囲にある。
【0115】
1より大きいリンの鉄に対する比率を有するリン酸鉄二水和物は、通常、酸性の性質(通常、pH1から5の範囲で)を有する。特定の理論に束縛されないが、リン酸第二鉄前駆体の過剰リン酸塩は、プロトン化され、前駆体の必要とする電荷中性を与えると考えられる。過剰リン酸塩は、リン酸第二鉄粒子の表面に、もしくは近くに、またはバルク中に存在し得る。リン酸鉄二水和物中の過剰のリン酸塩は、Fe2(HPO4)3−xH2Oなどのバルクリン酸第二鉄水和物への共沈相不純物と記述することができる。しかし、この表記法は、過剰リン酸塩が個別の2次的結晶性不純物にもっぱら見出されることを示唆することを意味しない。それよりむしろ、リン酸鉄二水和物のバルクの非晶質成分として一様に分散されていると考えられる。ナノ寸法LFP(またはドープしたカンラン石)の合成におけるリン酸鉄二水和物の具体的な利点である酸性という特徴が、本明細書に記載される。
【0116】
いくつかの実施形態において、本明細書において記載されるリン酸第二鉄は、弱酸性である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される1gのリン酸第二鉄が脱イオン水20mlに溶解される場合、結果として得られた溶液のpHは、4未満または4に等しい。本明細書に記載される1gのリン酸第二鉄が脱イオン水20mlに溶解される場合、結果として得られた溶液のpHは、約1から約5の間の範囲である。いくつかの実施形態において、この方法によって測定されたリン酸鉄二水和物の結果として得られた溶液のpHは、約2から約3の間にある。いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物は、通常、酸性であり、1より大きいリンの鉄に対する比率を有する。1未満のリン酸塩と鉄の比率を有するリン酸第二鉄は、通常、中性、またはわずかに塩基性である。そのようなリン酸第二鉄のアルカリの性質は、過剰の鉄の部分からの陽電荷を均衡させるために必要とされる酸化物または水酸化物の存在に起因し得る。
【0117】
リン酸鉄二水和物の実際の水含有率は、理論的な水含有率の100%より通常高い。リン酸鉄の比較的高い表面積(本明細書に規定した)および吸湿性の性質により、約0.1重量%から約3重量% の物理吸着水分(弱く結合したまたは吸収した水分)が存在し得る。これは、結晶相中の水和結晶水以外のものである。さらに、リン酸鉄二水和物中に、過剰リン酸塩含有率と過剰水含有率との間に相関があるように見える。材料中の過剰リン酸塩は、粒子表面に見出され、プロトン化されたリン酸塩表面を安定させるために追加の水を吸収し得る。
【0118】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄の水含有率は、約21重量%未満である。より高い水含有率は、鉄および前駆体においてリン酸塩の減少をもたらし得る。前駆体中の水は、ナノ寸法LFP(ドープしたカンラン石)結晶化前の高温乾燥ステップにおいて除去することができる。したがって、リン酸鉄前駆体の水含有率は、合成手順によって製造される最終ナノ寸法LFPのバッテリー性能または具体的なエネルギー密度に寄与しない。
【0119】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物の結晶相は、FePO4−2H2Oの共通の化学式を有するストレンジャイト、メタストレンジャイト(I)およびメタストレンジャイト(II)(ホスホシデライトとも呼ばれる)を含む。これらの鉄相の理論的な水含有率は、19.3重量%である。いくつかの実施形態において、リン酸第二鉄二水和物は、約19.3重量%から約20.8重量%の範囲の水含有率を有する。
【0120】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物は、非晶質(非結晶性)材料の部分を含んでいてもよい。このより高い非晶質の分率は、通常、より高い水含有率と相関している。過剰の水含有率は、より低い鉄およびリン酸塩含有率に対応する。
【0121】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物は、ストレンジャイト、メタストレンジャイト(I)およびメタストレンジャイト(II)、またはこれらの結晶質相のいずれかの混合物を含み得る結晶性材料である。いくつかの実施形態において、リン酸鉄の結晶相はメタストレンジャイト(II)、またはホスホシデライトである。スフェニシダイト(sphenicidite)(NH4)FePO4OH−H2O、および無名の相Fe2(HP04)3−4H2O、藍鉄鉱Fe3(PO4)2−xH2Oなどの少量の他の結晶相(<15重量%)が存在し得る。
【0122】
いくつかの実施形態において、これらの他の結晶相は、約5重量%未満の分率で見出される。いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物は、5重量%未満の非結晶性または非晶質の相を含む。
【0123】
リン酸鉄の結晶度は、恐らくリン酸鉄リチウムの特性に影響する。リン酸鉄前駆体のモルフォロジは、その未加工の前駆体から製造されたナノ寸法LFPの特性にとって重要になり得る。第一に、一次粒径、すなわち、最小の個別構成粒子の微結晶粒度である。第二に、共沈した、より小さい一次個別粒子の凝集体で構成されている二次粒径および密度も重要である。一次粒子の密度および充填率は、ナノ寸法LFPの合成および製造に続く使用に影響する二次凝集体のタップ密度および硬度に影響を与える。第三に、リン酸第二鉄二水和物材料の凝集粒子の寸法はまた、非常に重要である。
【0124】
いくつかの実施形態において、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料の一次粒径は、約1nmから約100nmの間にある。いくつかの実施形態において、リン酸第二鉄二水和物材料の一次粒径は、約20nmから約40nmの間にある。いくつかの実施形態において、リン酸第二鉄二水和物材料の凝集体粒子の寸法は、約1μmから約4μmの間にある。いくつかの実施形態において、リン酸第二鉄二水和物材料の凝集粒子の寸法は、約4μmから約10μmの間にある。
【0125】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物の一次粒径は、約10nmから約100nmの範囲にあり、ナノ寸法LFPの高速での高い容量保持率と相関する。いくつかの実施形態において、約20nmから約40nmの一次粒径は、最大10C(1/10時間の全容量放電)の放電速度で約85%の高い容量保持率と相関する。そのような高速の容量保持率を有するナノ寸法LFP(ドープしたカンラン石)で製造されたバッテリーは、ハイブリッド電気自動車または持ち運び可能なコードレスの工具などの高い電力需要用途に理想的に適している。より小さい結晶粒度のリン酸鉄は、相応してより非晶質(それほど結晶性でない)を有し、ナノ寸法LFP合成に対してそれほど所望されない。はるかに大きい粒度を有する試料は、限られたリチウムイオン輸送速度を示す、相応してより大きい結晶領域を有するナノ寸法リン酸鉄Li材料を生成する。
【0126】
いくつかの実施形態において、乾燥粉末タップ密度測定によって見積もられるように、リン酸鉄二水和物の二次的モルフォロジは、0.5から1の範囲の高い充填密度で相当に密である。いくつかの実施形態において、より効率的に多量に粉末を扱い保管することができるように、タップ密度は0.7から1の範囲にある。
【0127】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物の二次粒子モルフォロジは、十分に結晶化した凝集体、および大きい分率の非晶質リン酸鉄(約5重量%)を含まない個別のナノ寸法結晶で構成される。非晶質のリン酸鉄とは対照的に、結晶は、粉砕工程中により摩耗性であり、他の前駆体材料(例えば炭酸リチウム)を減少させることができ、均質化工程の終点で、より均一な混合物が結果として得られる。また、二次凝集体粒子は、SEM顕微鏡写真で特性評価することができる十分に結晶化した、個別のナノ寸法粒子を含む。そのような二次凝集体粒子は、高エネルギー粉砕工程中で分離することができ、均質化工程段階の完了時に非常に均質の混合物が結果として得られる。
【0128】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物の比表面積は、25から65m2/g(BET)の間にある。いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物の比表面積は、30から55m2/g(BET)の間にある。いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物の比表面積は、30から50m2/g(BET)の間にある。比表面積は、粒子モルフォロジに対応する容易に定量できる特性である。一次粒径、すなわち最小個別結晶粒子は、測定された比表面積を上限とする。また、一次粒子焼結の充填密度および充填度は、最近接包絡面積をある程度減少させる。
【0129】
非晶質(非結晶性)リン酸鉄の非常に高い分率を有する材料は、対応する大きい表面積を有する。非晶質リン酸鉄の高い分率を含むリン酸鉄は、所望の水含有率より高い不正確な化学量論を含む。
【0130】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄前駆体は、約20nmから約40nmの範囲の一次粒径を含み、高度に結晶性であり、高度には焼結されていない個別の一次粒子を含む凝集体で構成されている。そのようなリン酸鉄二水和物は、約30から約50m2/gの範囲の測定比表面積を有すると予想することができよう。本明細書に記載された工程によるこのリン酸鉄二水和物で合成されたナノ寸法LFPは、例えばハイブリッド車駆動条件によって要求される高い電力用途のリチウムイオンバッテリーに使用することができよう。
【0131】
方法
別の態様において、リチウムイオンバッテリーカソード材料用のLFPドープしたカンラン石を製造するためのリン酸鉄二水和物前駆体の合成の方法が記載される。
【0132】
いくつかの実施形態において、金属または磁性不純物を除去するために1つまたは複数の磁気トラップを使用するステップを含む、金属または磁性不純物を実質的に含まない高純度結晶性リン酸第二鉄二水和物材料を合成する方法が記載される。いくつかの実施形態において、本方法は、1つまたは複数の合成ステップを含み、1つまたは複数の磁気トラップが、合成ステップのいずれかの前、間もしくは後に、またはその任意の組み合わせで使用される。いくつかの実施形態において、金属トラップは希土類磁石を含む。
【0133】
いくつかの実施形態において、複数の磁気トラップが、不純物選別の全体的な効果を向上させるために、平行にまたは直列に実施される。いくつかの実施形態において、トラップを含む磁石の強度は、1から20kGaussの範囲にある。いくつかの実施形態において、トラップを含む磁石の強度は、8から14kGaussの範囲にある。
【0134】
1つまたは複数の磁気トラップは、合成の任意のステップで、または合成の多段階で実施することができる。1つまたは複数の磁気トラップはまた、最終生成物、リン酸鉄の形成後、実施することができる。いくつかの実施形態において、酸化鉄または金属鉄不純物の磁気分離および捕捉は、白色もしくは明るいピンク色のストレンジャイトまたはメタストレンジャイト相の結晶化の開始前に実施される。他の実施形態において、汚染物質の磁気分離および捕捉は、結晶化後、および乾燥に先立ち最終生成物が濾過され洗浄される前に生じる。
【0135】
いくつかの実施形態において、金属材料は、リン酸鉄合成の1つまたは複数の合成ステップにおいて使用される。いくつかの特定の実施形態において、酸化鉄または鉄金属などの金属材料は、リン酸鉄の合成の出発材料として使用することができる。これらの特定の実施形態において、1つまたは複数の磁気トラップは、残渣金属材料を除去するために酸化鉄または鉄金属を含む合成ステップ後に使用して、最終生成物、リン酸鉄中の金属不純物のレベルを低下させることができる。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の磁気トラップは、任意の金属または磁気反応体材料を含まない合成法または合成ステップにおいて使用される。いくつかの特定の実施形態において、非磁性体、例えば、硫酸第一鉄または塩化第一鉄が、合成の出発材料として使用され、最終生成物、リン酸鉄中の磁性不純物のレベルを低下させるために、1つまたは複数の磁気トラップが工程中で使用される。
【0136】
合成における金属または磁気反応体の使用は、最終生成物、リン酸鉄中の磁性不純物に寄与し得る。本出願人らは、驚いたことに、任意の金属または磁気反応体材料を含まない合成法においてさえ、1つまたは複数の磁気トラップが、リン酸鉄の金属不純物のレベルを低下させるのになお必要であり得ることを見出した。いかなる特定の理論にも束縛されないが、金属または磁気反応体以外の供給源からの金属不純物はまた、リン酸鉄生成物中の磁性不純物に寄与し得ると考えられる。例えば、磁気または金属不純物は、合成の様々な工程段階の金属設備の使用から結果として生じる金属同士の摩耗により導入され得る。
【0137】
本明細書において記載される実施形態のいずれかによる改良法によって製造されたリン酸鉄は、市販の通常のリン酸第二鉄生成物より極少量の閉じ込められた酸化鉄、水酸化鉄、鉄、鋼鉄またはステンレス鋼汚染物質を含む。いかなる特定の理論にも束縛されないが、磁気トラップの効率的使用は、低レベルの鉄化合物不純物または磁性不純物に寄与すると考えられる。いくつかの実施形態において、強い勾配磁場を通過する溶液に印加される剪断力、および溶液の流速は、磁性不純物のほぼ完全除去を保証するために適切に制御される。いくつかの実施形態において、複数のトラップ(直列または平行の)の思慮深い使用は、低レベルの鉄化合物不純物または磁性不純物に寄与する。いくつかの実施形態において、結果として得られたリン酸第二鉄中の磁性汚染物質は、1ppm未満である。いくつかの実施形態において、結果として得られたリン酸第二鉄中の磁性汚染物質は、100ppb未満である。
【0138】
他の実施形態において、強い磁石は、外部循環ループを必要とせずに混合貯槽および反応貯槽へ直接挿入される。これらの実施形態において、磁石のトラップ効率は、混合タンク内の磁石の適当な空間的配置、および磁極からの磁性汚染物質の剪断力抽出を回避する適当な流体の流速に依存する。
【0139】
リン酸鉄の合成の従来法は、通常特定の鉄(II)化合物の「一ポット」酸化を含んでいる。「一ポット」方式においては、一連の別々の段階で反応を行うのではなく、使用される試薬および材料が1つの容器で一緒に混合され、中間体のいずれをも分離せずに反応させる。しかし、試薬がすべて「一ポット」で混合され、生成物のリン酸鉄は1回だけ洗浄されるので、生成物から完全に反応不純物を除去するのは大抵の場合困難である。その結果、合成されたリン酸鉄は、硫酸塩、塩化物、硝酸塩、金属、金属酸化物および他の磁性材料などの高濃度不純物をしばしば含んでいる。
【0140】
従来法の例において、硫酸第一鉄(II)の水溶液は、強酸の添加を伴って過酸化水素または同様の強い酸化剤で酸化し、水性第二鉄の溶液(式I)を得ることができる。非晶質の沈殿物(式II)のゲル化を阻止するために、リン酸塩および第二鉄の溶液は、急速な撹拌および均質化をしながら混合される。非晶質リン酸第二鉄沈殿物スラリーは、80℃にまたは85〜100℃の間で加熱されて、リン酸第二鉄二水和物(式III)を結晶化する。この従来の「一ポット」法によって、粉末X線回折、XRDによって特性評価される結晶相は、通常、高温晶析工程の間の最終水溶液のpHに応じて、メタストレンジャイトII、またはメタストレンジャイトI、またはストレンジャイトである。最も酸性のpH条件、pH<1.0は、本質的に純粋なメタストレンジャイトI(文献でホスホシデライトとも呼ばれる。)を生成する。1〜2のpH範囲において、準安定性のメタストレンジャイトII相が観察される。より高いpH条件、pH>2では、主な結晶相としてストレンジャイトを生成する。
【化1】
【0141】
通常、従来法またはその変形法の合成のすべてのステップ、例えば、式I、II、およびIIIのステップは、一ポットで行われる。したがって、各ステップから得られた生成物は、独立した精製をしない以降のステップに直接使用される。したがって、その結果、硫酸塩、塩化物、硝酸塩、金属、金属酸化物および他の磁性材料などの、前の反応からの不純物は、次の反応に、および最終生成物としてのリン酸鉄材料に持ち越される。もしリン酸鉄から合成されたリン酸鉄リチウム材料に持ち込まれれば、これらの不純物がバッテリー特性を劣化させる原因になり得る。
【0142】
合成の中間体を完全に洗浄することができる追加のステップを含み、それにより著しく不純物が減少したリン酸鉄二水和物が結果として得られる、リン酸鉄二水和物を合成する新規の二ポット法が本明細書に記載される。
【0143】
二ポットリン酸鉄合成方法A
リン酸鉄二水和物の2ステップ(二ポット)合成を含む方法が、本明細書に記載される。リン酸第一鉄は、第1のステップにおいて沈澱させられ、洗浄され、第2のステップにおいて所望のリン酸第二鉄生成物の固体状態酸化および結晶化が続く。この方法によって製造されたリン酸第二鉄は、上記の、一般に記載される「通常」経路のいくつかの変形法によって製造された材料より優れている。
【0144】
第1のステップにおいて、リン酸塩の水溶液は、第一鉄塩の水溶液に添加される。鉄(II)塩の非限定的な例は、硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、その任意の水和物、またはその混合物を含む。リン酸塩の非限定的な例は、リン酸二アンモニウムを含む。いくつかの実施形態において、スラリーがゲル化するのを阻止するために急速な撹拌をしながら、水溶液のリン酸二アンモニウムは、硫酸第一鉄八水和物の水溶液に添加される(式IV)。いくつかの実施形態において、溶液pHを4〜5超に上げるために、水酸化アンモニウムが溶液に添加され、高収率で藍鉄鉱(リン酸第一鉄八水和物)が得られる。形成された藍鉄鉱は暗青色の沈殿物であり、何らかの可溶性不純物を除去するために完全に洗浄される。可溶性不純物の非限定的な例は、FeSO4または他の任意の可溶性硫酸塩不純物を含む。いくつかの実施形態において、約45〜65℃の高温で溶液を緩やかにエージングすると、粒径を増し、より良好な濾過、およびリン酸第一鉄中間生成物から残留する硫酸アンモニウム不純物のより効率的な洗浄を可能にする。
【化2】
【0145】
第2のステップにおいて、青色のリン酸第一鉄八水和物は、急速な撹拌をして水スラリー中に懸濁される。次いで、酸化剤が添加される。酸化剤の非限定的な例は、過酸化水素を含む。いくつかの実施形態において、リン酸は、濃い過酸化水素または別の強い酸化剤と共にスラリーに添加される(式V)。いくつかの実施形態において、鉄の第二鉄イオンへの酸化速度を上げるために、溶液温度を上げることができ、これは、溶液中のリン酸塩によって迅速に沈澱させられる。いくつかの実施形態において、酸化は、35〜65℃からの溶液温度で効果的に完了する。いくつかの実施形態において、溶液温度は、>80℃または85〜100℃の間に上げ、所望のリン酸第二鉄二水和物相を結晶化させることができる。合成されたリン酸鉄前駆体は、通常、単一の相または同形の相、つまり、メタストレンジャイトII、またはメタストレンジャイトI、またはストレンジャイトの混合物である。その正確な結晶形は、高温晶析工程の間の最終水溶液のpHに依存する。最も酸性のpH条件下、pH<1.0では、文献でホスホシデライトとも呼ばれる本質的に純粋なメタストレンジャイトIを生成する。1〜2のpH範囲において、準安定のメタストレンジャイトII相が観察される。より高いpH条件、pH>2では、結晶相としてストレンジャイトを生成する。
【化3】
【0146】
いくつかの実施形態において、第2のステップにおいて、最終生成物、リン酸鉄二水和物は、再び洗浄され何らかの可溶性不純物を除去する。
【0147】
本明細書に記載される2段階(二ポット tow−pot)工程(方法A)によって製造されたリン酸第二鉄は、リチウムイオンバッテリー用LFPの合成のための前駆体として使用することができ、上記の特性をすべて満たすことができる。
【0148】
いくつかの実施形態において、方法Aによって製造されたリン酸鉄材料は、約28.4重量%を超える鉄含有率、約16.0重量%を超えるリン含有率および1.00を超えるP/Fe比率を有する。
【0149】
いくつかの実施形態において、方法Aによって製造されたリン酸鉄材料は、ICPによって確認されるように、通常<700ppmおよび100ppmもの低さの非常に低レベルの残留硫酸塩不純物を含み、またナトリウムレベルは、微量と同等またはイオン化水レベルである。
【0150】
いくつかの実施形態において、第2のステップの結晶化中の適切なpH制御をすると、方法Aによって製造されたリン酸鉄材料は、単一の結晶相、メタストレンジャイトII(粉末XRD分析によって解析される)を一貫して有する。
【0151】
いくつかの実施形態において、他の結晶化条件(ステップ2のより高いpH)下で、一貫して単一の結晶相、ストレンジャイト(粉末XRD分析によって解析される)であるリン酸鉄を得ることができる。
【0152】
いくつかの実施形態において、方法Aによって製造されたリン酸鉄材料は、Debye−Shearer分析(XRD線幅)によって測定して、約20から約100nmの粒度範囲の一次粒子で構成されている。いくつかの実施形態において、一次粒子は密に充填されているが、光散乱計測によって約2から約4μmの間と推定されるメジアン母集団サイズを有する焼結されていない凝集体である。いくつかの実施形態において、SEM特性評価も使用することができ、一次粒径および凝集体粒子のモルフォロジが均一であることが明らかにされる。いくつかの実施形態において、リン酸第二鉄二水和物材料の凝集粒子の寸法は、約4μmから約10μmの間にある。
【0153】
いくつかの実施形態において、方法Aによって製造されたリン酸鉄材料は、BETによって約30から約55m2/gの範囲の比表面積を有し、二次粒子凝集による一次粒径および最近接包絡面積を裏付けている。
【0154】
いくつかの実施形態において、方法Aによって製造されたリン酸鉄材料は、メタストレンジャイト(II)の場合、約2から約4のpH範囲、およびストレンジャイトリン酸鉄の場合、約3から約5のpH範囲の酸性表面を有する。
【0155】
いくつかの実施形態において、方法Aは、磁性不純物を除去するための磁気トラップの使用をさらに含む。磁気トラップは、第1のステップまたは第2のステップに使用することができる。磁性不純物の非限定的な例は、Fe3O4、鋼鉄、または他の鉄含有合金を含む。特定の具体的な実施形態において、磁気トラップは希土類磁石を含む。特定の具体的な実施形態において、磁性不純物は強い磁界勾配に材料を通すことにより除去される。
【0156】
ツーポットリン酸イオン合成法B
リン酸鉄二水和物を合成する別の2ステップ(二ポット)法が記載される(方法B)。第1のステップにおいて、第一鉄塩の水溶液は、可溶性リン酸塩の存在下で酸化体で酸化され非晶質リン酸鉄を形成する(式VI)。第一鉄塩の非限定的な例は、硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、その任意の水和物、またはその混合物を含む。リン酸塩塩の非限定的な例は、リン酸二アンモニウムを含む。酸化体の非限定的な例は、過酸化水素を含む。第一鉄イオンの第二鉄イオンへの酸化が第1のステップにおいて起こるので、方法Bは方法Aと異なる。いくつかの実施形態において、酸化は、約65℃以下の比較的低温で起こる。酸化の後、黄色からオフホワイト色の非晶質リン酸鉄が沈澱する。いくつかの実施形態において、第1のステップの濾過によって収集された非晶質リン酸鉄粗材料は、非常に高い分率の水(室温で風乾した場合、約30重量%)を含む、非常に小さい粒子、約10nmの粒子で構成される。いくつかの実施形態において、この非晶質の黄色のケーキは、正確な乾燥条件に依存して、H2O:Fe:リン酸塩モル比3〜5:1:1を有する薄い褐色またはわずかにオレンジ色の材料に乾燥される。次いで、方法Bのステップ1からの粗リン酸鉄材料は、洗浄され何らかの残りの可溶性不純物をも除去する。可溶性不純物の非限定的な例は、FeSO4または2SO4(NH4)、または他の任意の可溶性硫酸塩不純物を含む。
【化4】
【0157】
方法Bの第2のステップにおいて、非晶質リン酸第二鉄は結晶化され、結晶性リン酸鉄二水和物(式VII)を形成する。いくつかの実施形態において、非晶質リン酸第二鉄は、高速混合で水性リン酸溶液に懸濁され、溶液pHは、メタストレンジャイトIには約1未満の範囲に、メタストレンジャイトIIには約1から約2の範囲に、またはストレンジャイトには約2から約3の範囲に調節される。いくつかの実施形態において、スラリーは約80℃を超える、または約85から約100℃の間の温度に加熱され、所望のリン酸第二鉄二水和物材料を結晶化する。高い剪断を有する急速撹拌は、高い固体含有率のスラリーのフロキュレーションおよび非常に大きい凝集体粒子の形成を阻止することができる。反対に、予備加熱された溶液へのスラリーの遅いまたは制御された添加速度は、粒子成長速度を高め(新しい凝集体の核形成を抑圧)、凝集体粒径を増加することができる。スラリー添加速度、スラリー加熱移行速度および剪断混合速度の制御によって、凝集体粒径およびタップ密度に対する正確な制御を達成することができる。
【化5】
【0158】
いくつかの実施形態において、方法Aは、磁性不純物を除去するための磁気トラップの使用をさらに含む。磁気トラップは、第1のステップまたは第2のステップにおいて使用することができる。磁性不純物の非限定的な例は、Fe3O4などの酸化鉄、鋼鉄、または他の鉄含有合金を含む。特定の具体的な実施形態において、磁気トラップは希土類磁石を含む。特定の具体的な実施形態において、磁性不純物は、強い磁界勾配に材料を通すことにより除去される。
【0159】
いくつかの実施形態において、第2のステップにおいて、最終生成物、リン酸鉄二水和物は、再び洗浄され何らかの可溶性不純物を除去する。
【0160】
本明細書に記載されるリン酸鉄合成工程(方法Aおよび方法B)の利点の1つは、二ポット工程である。水性鉄溶液からの沈澱は、結晶化(または高温エージング)ステップとは別のステップで起こる。それにより、各方法で、沈澱(方法Aまたは方法Bの第1のステップにおいて)において、第1の、および結晶化(方法Aまたは方法Bの第2のステップにおいて)の後に第2の、2つの洗浄が生じ、それによって、望まれない硫酸塩(または陰イオン)不純物を非常に低レベルに減少させる。本明細書に記載されるリン酸第二鉄合成法の別の利点は、工程が水溶液として出発するということであり、その結果、鉄含有不溶性不純物の濾過または希土類磁石を使用する磁気トラップによって除去することができる。具体的には、本明細書に記載される方法Aまたは方法Bにおいて、硫酸第一鉄(または硝酸第二鉄または塩化第二鉄を含む変形)は、100nmのカートリッジフィルターに通すおよび/または希土類元素磁石に通すことができる。酸化鉄(例えば、Fe3O4)、または鋼鉄または他の鉄含有合金のような不溶性(または、ほとんど不溶性)の不純物は、強い磁界勾配に通すことによって、効果的に捕捉される。結果として得られたリン酸第二鉄粉末は、酸化鉄および鋼鉄の粒子がバッテリー環境において不安定になり得るので、バッテリー用途に対してより望ましい。
【0161】
方法Aまたは方法Bによって合成された結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、リチウムイオンバッテリー用のLFPを合成する前駆体として使用するための望ましい特性を有する。方法Aまたは方法Bによって合成された結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約28.3重量%から約29.6重量%の鉄;約16.0重量%から約16.9重量%のリン;および約0.5重量%未満の硫酸イオンを含む。方法Aまたは方法Bによって合成された結晶性リン酸第二鉄二水和物材料のリンの鉄に対するモル比は、約1.001から約1.05である。そのようなリン酸第二鉄二水和物材料は、約30m2/gから約50m2/gの表面積を有し、金属または磁性不純物を実質的に含まない。
【0162】
さらに別の態様において、リチウムイオンバッテリーカソード材料用のLFPドープしたカンラン石の製造のためのリン酸鉄前駆体の合成の方法が記載される。この点では、鉄化合物が、リン酸の水溶液に添加される。鉄化合物の完全溶解を保証するために、溶液のpHおよび温度が制御される。所望のリン酸鉄結晶性材料は、高純度および高い結晶相純度で得ることができる。反応工程の間または最終生成物の形成後に、1つまたは複数の金属トラップが、鉄、金属、磁性不純物を除去するために用いられる。例示の鉄化合物は、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、水酸化鉄、オキシ水酸化鉄(iron oxy−hydroxide)、および炭酸鉄を含むが、これらに限定されない。例示の鉄化合物はまた、本明細書において記載される2種以上の鉄化合物の任意の混合物を含むことができる。いくつかの実施形態において、鉄出発材料は、低酸化状態(すなわち、Fe(II)、またはFe3O4におけるような混合酸化)にある。鉄の低酸化状態が鉄出発材料中に存在する場合、酸化剤が使用される。
【0163】
安価な酸化鉄、水酸化鉄、オキシ水酸化鉄、または炭酸鉄から出発する、極低レベルの鉄含有不純物を有するリン酸第二鉄の製造の方法が、本明細書に記載される。いくつかの実施形態において、酸化鉄および他の鉄含有出発材料は、反応中に完全に消費される、または最終リン酸第二鉄生成物から<100ppmレベルに効果的に除去される。この方法によって製造された高純度のリン酸第二鉄は、リチウムイオンバッテリー用のリチウム含有材料の製造に適切である。
【0164】
リン酸またはリン酸およびリン酸塩の混合物は、水溶液として導入することができる。リン酸およびリン酸塩は、体積比1:10から1:1まで水で希釈することができる。次いで、酸化鉄、水酸化鉄、もしくはオキシ水酸化鉄、または炭酸鉄は、リン酸塩/リン酸溶液に混合され、濁ったスラリーを結果として与える。酸性リン酸水溶液による鉄オキシ化合物の溶解を容易にするために、温度を上げることができる。その低い溶解性のために、リン酸第二鉄が、非晶質リン酸第二鉄水和物として溶液から沈殿する。
【0165】
いくつかの実施形態において、リン酸溶液は非常に濃厚である。いくつかの実施形態において、水:リン酸の体積希釈は、約1:1から約4:1の間である。リン酸溶液の高い酸性度は、出発酸化鉄(または水酸化物または炭酸塩)材料の完全なまたはほとんど完全な溶解を、室温または室温近くで可能にし得る。濃厚で、高度に酸性の亜リン酸溶液の使用は、鉄化合物出発材料の完全溶解を保証するのを助け、それにより最終生成物(すなわち、リン酸鉄)中の出発材料系鉄の磁性不純物をすべて実質的に除去すると考えられる。他の実施形態において、出発材料が、焼結、熱処理または乾燥されていない、非晶質オキシ水酸化鉄の含湿ケーキの形態をしている場合、鉄出発材料の完全溶解が得られる。例えば、鉄(オキシ/ヒドロキシル水和物としての)の微細な非晶質粒子ケーキは、pH>5、またはpH>7に高めることによって透明な硫酸鉄溶液(Fe(II)、Fe(III)またはその混合物であり得る)から容易に回収される。微細なコロイド性鉄水酸化物懸濁液は、圧搾濾過または遠心機によって回収することができ、結果として得られたケーキ(乾燥の有無に関わらず)は、本明細書において記載されるようなリン酸第二鉄の合成の鉄材料として適切である。これらの実施形態において、鉄化合物は、非常に強い酸性のリン酸溶液中に細かく分散したコロイド懸濁液であり、これは酸化鉄から遊離の鉄への変換を容易にし、ほとんど透明な溶液が結果として得られる。いくつかの実施形態において、溶液は、約95℃未満の温度に穏やかに加熱され、透明な溶液または低い濁り度を有する溶液が得られる。磁気選別トラップの実施は、溶液の固体粒子含有率が最小である場合、最も有効であることが分かる。
【0166】
反応の完了を容易にし保証するために、水性リン酸塩溶液への鉄出発材料の添加中に、溶液の温度およびpHが制御される。溶液のpHは、酸化鉄/水酸化鉄/炭酸鉄原料の完全溶解を促進するために、低いままである。いくつかの実施形態において、溶液のpHは2未満である。いくつかの実施形態において、溶液のpHは1未満である。いくつかの実施形態において、濁っている混合物の温度は、約35℃から約105℃の間になるように制御される。いくつかの実施形態において、濁っている混合物の温度は、約55℃から約75℃の間になるように制御される。特定の理論またはさらなる作用に束縛されないが、高い温度は鉄出発材料の完全溶解を容易にすると考えられる。しかし、過度な高温は、リン酸第二鉄の非常に大きい結晶相の成長を容易にし、汚染物質として酸化鉄を閉じ込めて捕捉し得る。
【0167】
いくつかの実施形態において、鉄出発材料は、第二鉄の、すなわちFe(III)の酸化状態である。いくつかの実施形態において、鉄出発材料は、低酸化状態(すなわち、Fe(II)、またはFe3O4におけるような混合酸化)にある。鉄の低酸化状態が鉄出発材料中に存在する場合、酸化剤、例えば、過酸化水素、溶存空気もしくは溶存酸素、または、他の穏やかな酸化体は、濁っている混合物に添加し、反応工程においてFe(II)をFe(III)に酸化することができる。リン酸第一鉄、Fe(II)の溶解度積は、水溶液中でリン酸第二鉄より高い。そのため、Fe(III)陽イオンは、濁っている溶液中で遊離のリン酸イオンと優先的に錯体を形成し、非晶質リン酸第二鉄水和物懸濁液を形成する。鉄材料の完全な利用および最終生成物の正確な化学量論(P/Feモル比)を保証するために、第一鉄、Fe(II)、は、すべてFe(III)に酸化する必要がある。
【0168】
鉄出発材料の溶解およびFe(II)のFe(III)への酸化後、遊離の第二鉄陽イオンはリン酸塩と錯体を形成し、薄黄色の濁った溶液が結果として得られる。次いで、濁った溶液の温度を上げ、メタストレンジャイトI、メタストレンジャイトII、ストレンジャイトまたはその混合物のいずれかの相形態のリン酸第二鉄二水和物の結晶化を開始させる。いくつかの実施形態において、濁った溶液の温度は、65℃超に上げられる。濁った溶液のpHおよびスラリー温度が溶液の全体にわたって均一になるように制御される場合、結果として得られるリン酸第二鉄の結晶相を制御することができる。これらの実施形態において、純粋な、またはほぼ純粋な結晶相を有する、リン酸第二鉄を得ることができる。
【0169】
いくつかの実施形態において、濁った溶液の温度は、晶析工程を加速するために70℃超に上げられる。いくつかの実施形態において、濁った溶液の温度は、晶析工程を加速するために75℃超に上げられる。いくつかの実施形態において、反応温度は約95℃未満に保たれ、リン酸第二鉄のメタストレンジャイト相が優先的となる。いくつかの実施形態において、反応温度は約85℃未満に保たれ、リン酸第二鉄のメタストレンジャイト相が優先的となる。他のいくつかの実施形態において、反応温度は約95℃に保たれ、リン酸第二鉄のより安定なストレンジャイト相が優先的となる。
【0170】
いくつかの実施形態において、溶液のpHは約1.0であり、純粋なメタストレンジャイトIIリン酸第二鉄未満が生成する。他の実施形態において、溶液のpHは約1から約2の範囲にあり、準安定のメタストレンジャイトI相を有するリン酸第二鉄が生成する。さらに他の実施形態において、溶液のpHは約2を超え、ストレンジャイトがリン酸第二鉄の主な結晶相として観察される。いくつかの実施形態において、溶液の温度は85℃未満になるように制御され、溶液のpHは1以下に維持される。これらの実施形態において、メタストレンジャイトIIリン酸第二鉄の非常に高純度の単一結晶相が得られる。他の実施形態において、溶液の温度は85℃未満になるように制御され、溶液のpHは、約1から約2の間の範囲に維持される。これらの実施形態において、メタストレンジャイトIの非常に高純度の単一結晶相が得られる。さらに他の実施形態において、反応温度は、約85から約105℃の範囲であり、メタストレンジャイトおよびストレンジャイトの混合物が結果として得られる。
【0171】
図12は、市販供給源から購入した5ロットのリン酸第二鉄(E53−91)の粉末X線回折パターンの例証である。標準パターンは、図の下部に示されるように、2つの結晶相、ホスホシデライトおよびストレンジャイトである。X線回折パターンの標準と比較することによって、リン酸鉄(II)の異なる市販ロットが、これらの二相(およびことによると他の成分)の異なる比率を含んでいることが確証される。図12において示されるように、リン酸第二鉄生成物に検出された結晶相における変動は、製品を製造するために使用される実用的工程の反応溶液の温度とpH(市販品におけるロット内変動に寄与し得る)のどちらかが、または両方が、本明細書において記載されるように、制御されていないことを示し得る。
【0172】
本明細書に記載される、改善された合成工程の態様は、任意の検出可能な量の未反応の鉄出発材料が、リン酸第二鉄最終生成物から完全に除去されることである。いくつかの実施形態において、2つのプロトコルが、バッテリー電極材料の使用に適切な、生成するリン酸第二鉄の高純度を保証するために実施される。第一に、鉄出発材料の酸性砕解中に溶液を混合し揺動する、高度に効率的な手段が使用される。例示の効率的な混合手段は、インクおよび他の化合物混合物の分散に使用されるものなどの機械式高剪断混合デバイスを含むが、これらに限定されない。第二に、非常に微細な汚染物質粒子を選別し除去する非常に効率的な手段が使用される。汚染物質を除去する例示の効率的な手段は、磁界トラップを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、粗のリン酸第二鉄溶液が、一連の高強度磁束トラップを経由して外部の高剪断混合貯槽にポンプ注入される、循環ループが使用される。リン酸第二鉄溶液中に残る酸化鉄または水酸化鉄粒子は、それらが棒磁石に隣接している強い磁界勾配を通って移動するとき、磁極に引きつけられる。酸化鉄(水酸化物)は非晶質リン酸鉄生成物より高い強磁性モーメントを有し、磁界トラップによって小さな汚染物質を分離する有効な手段が可能になる。いくつかの実施形態において、リン酸第二鉄溶液の流体の流れは、トラップの本体によって棒磁石の数ミリメートル(<1cm)内に閉じ込められる。いくつかの実施形態において、磁石上を流れる流体の急速な層流力が、汚染物質を磁極から遠ざけ溶液に戻ることがないように、磁気トラップを過ぎて流れる流体の速度が最適化される。他の実施形態において、非磁性汚染物質は、このステップで同様に除去される。
【0173】
いくつかの実施形態において、リン酸中の溶解性鉄の濃厚溶液はさらに希釈され、または、塩基(例えば、水酸化アンモニウム)の添加によって、pHが高められ、所望のリン酸第二鉄相を十分に沈澱させる。これらの実施形態において、溶液温度および最終の溶液pH(希釈物または塩基の添加によって)は、所望の結晶相を有するリン酸第二鉄を得るために注意深く制御される。いくつかの実施形態において、懸濁固体生成物が白色、オフホワイト色または明るいピンク色になるとき、所望の結晶相を有するリン酸第二鉄は単離される。その後、生成物は、濾過または遠心機によって収集され、洗浄されて、過剰リン酸塩、およびもし使用されていればアンモニアを除去することができる。
【0174】
本明細書に記載される合成法の別の態様は、合成の様々な工程段階中の設備の使用から生じる金属同士の摩耗から導入される金属汚染物質は、除去されまたは回避されるということである。図13は、湿式粉砕したリン酸第二鉄から回収した磁性不純物の顕微鏡画像の例証である。図13の画像は、寸法が20μmより幾分大きい輝く金属粒子を示し、XRDによってFe、Cr、Ni線であると同定されるように、鋼鉄、最も確からしくはステンレス鋼に対応する。ICP−AESによる追加の元素分析は、汚染物質中のクロムおよびニッケルのレベルが概算で2:1(Cr:Niモル比)であることを裏付け、汚染物質中のニッケルレベルは概算で2:1(Cr:Niモル比)であり、これは300系ステンレス鋼と一致している。この等級のステンレス鋼は、化学的腐食に対する耐性により、実用的化学処理装置、例えば、高速混合羽根および化学反応器において極めて普通に使用されている。しかし、鋼鉄およびステンレス鋼は、これらの粒子がリチウムイオンバッテリー(ちょうど上記の鉄および酸化鉄のように)中で不安定であるので、バッテリー等級化学物質において、なお望ましくない汚染物質である。また、おそらく設備損耗からの鋼鉄の大きい「ひげ剃り(shaved)」断片は、リチウムイオンバッテリーに使用される非常に薄いポリオレフィンセパレーターを貫通するほど大きい。数十ミクロン長の金属粒子は、薄いポリマーセパレーターを貫通する場合、アノードとカソードを潜在的に短絡させ、バッテリー貯蔵容量を破壊し得る。
【0175】
したがって、活性なバッテリー材料に使用する適切な原料の合成および製造において、鉄、鋼鉄またはステンレス鋼を含む材料の汚染を阻止するためには、設備の金属同士の損耗のすべての源を減少させる、またはなくす必要がある。特定の例として、反応中に溶液を分散させるために使用される高剪断のミキサー羽根またはプロペラは、羽根軸に炭素鋼またはステンレス鋼のボールベアリングを有している。これらのボールベアリングは、金属同士の摩耗により絶えず損耗し、溶液および粉末製品を汚染するミクロン寸法の鉄削リクズを生成する。本明細書に記載される合成工程中に、薬品溶液または試薬と接触し得る金属表面は、可能であれば、セラミックまたはプラスチックと置き換えられる。
【0176】
いくつかの実施形態において、高剪断混合羽根および櫂型混合機シャフトは、プラスチックで被覆され、ベアリングは希土類元素安定化酸化ジルコニウムのような耐摩耗性セラミックで製造されている。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される工程において使用される主要な反応貯槽は、セラミックライニングされ、またはセラミックで被覆されている。セラミック被覆は、例えば、HDPEより効率的な伝熱を可能にし、同時にリン酸第二鉄生成物を汚染する金属削リクズの可能性をなくす。いくつかの実施形態において、濾過ユニットは、プラスチック、または粉末の金属表面との直接的な接触を回避するためにライニングされたプラスチックである。いくつかの実施形態において、濾過ユニットはプレスフィルターまたは遠心分離機である。
【0177】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される方法において使用される耐摩耗性設備は、粉末をブレンドするおよび粉末ケーキを粉砕する設備である。濾過または遠心分離から回収された含湿ケーキを乾燥した後、リン酸鉄材料は、大きい硬質の集合体または塊であり、自由流動する粉体ではない。硬質の集合体は、ジェットミル、微粉砕機(pulverize mill)、高速オーガブレンダー、または同様の従来の粉末破砕設備で細粉に分解される。これらの回転羽根はすべて、金属同士の摩耗が起こる場合がある潜在的な表面を有し、したがって、リン酸第二鉄粉末の潜在的な金属汚染のポイントである。これらの実施形態において、可能であればジルコニアベアリングが使用され、特に設計されたプラスチックまたはプラスチック被覆羽根、およびプラスチックまたは、セラミックライニングされた表面が、粉砕機で使用される。プラスチックライニングは、粉砕機またはブレンド設備の金属内表面と結合した高密度ポリオレフィン(HDPEまたはHDPP)またはポリウレタンのカスタム平板であってもよい。
【0178】
したがって、本明細書の1つまたは複数の実施形態に記載されているように、鋼鉄(炭素鋼、クロム鋼、ステンレス鋼、他の金属)と、化学試薬、出発材料、溶液、スラリー、含湿ケーキ、または乾燥粉末との直接接触は、バッテリー等級リン酸第二鉄の鉄含有金属粒子での汚染を減少させる、またはなくすために回避される。いくつかの実施形態において、そのような接触は、鋼鉄部品をセラミックで被覆する、または鋼鉄部品をプラスチック部品に置き換えることによって回避される。
【0179】
本発明の記載および実施形態を概観すれば、当業者は、本発明を実施する際に、本発明の本質から離れることなく、変形および等価な代替を行い得ることを理解するであろう。したがって、上に明示的に記載された実施形態によって本発明を限定することを意味せず、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0180】
実験項
バッテリー製造に適切として上市されているChemische Fabrik Budenheimから購入した品物番号E53−91のリン酸第二鉄を、国際出願:PCT/US09/31552(2009年1月21日に出願され「リチウムイオンバッテリー用の混合金属カンラン石電極材料」”Mixed Metal Olivine Electrode Materials For Lithium Ion Batteries,”と題され、これは参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。)に記載されている方法によって、ナノリン酸塩(ドープしたリン酸鉄リチウム)の製造において評価した。また、次いで、製造したナノリン酸塩を、異なるバッテリー形態因子(円筒状、角柱状)のリチウムイオンバッテリーについて評価した。これらの評価検討は、リン酸第二鉄の純度および安定性におけるさらなる改善の必要性を示す。特に、市販のリン酸鉄(III)中の酸化鉄または鉄汚染物質の存在は、合成プロトコルのさらなる改善の必要性を説明する。
【0181】
比較例
従来法において、第二鉄イオンの水溶液を硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)水和物または塩化第二鉄から調製する。または、代替として、硫酸第一鉄(II)の水溶液を、強酸の添加と共に、過酸化水素または同様の強い酸化剤で酸化し、第二鉄の水溶液を得ることができる。代替として、鉄金属粉末または金属酸化物を、続いて、濃硫酸、濃硝酸、または濃塩酸中で随意の緩やかな加熱と共に溶解し、第一鉄イオン溶液を得る、最初の鉄供給源として使用することができる。
【0182】
リン酸塩水溶液は、リン酸ナトリウム、リン酸リチウムなどの可溶性リン酸塩から調製することができる。代替として、リン酸、またはリン酸モノアンモニウムもしくはリン酸二アンモニウムを使用することができるが、使用の前に適正量のアルカリ塩基(例えば、NaOH、KOH、NH4OH)で中和してもよい。
【0183】
非晶質の沈殿物のゲル化を阻止するために、急速な撹拌および均質化をしてリン酸塩および第二鉄の溶液を混合する。非晶質リン酸第二鉄沈殿物スラリーを、リン酸第二鉄二水和物を結晶化するために80℃にまたは85〜100℃の間で加熱してもよい。この従来の「ワンポット」法によって、粉末X線回折、XRDによって特性評価する結晶相は、通常、高温晶析工程の間の最終水溶液のpHに応じて、メタストレンジャイトII、またはメタストレンジャイトI、またはストレンジャイトである。最も酸性pH条件、pH<1.0では、文献でホスホシデライトとも呼ばれる、本質的に高純度のメタストレンジャイトIを生成する。1〜2のpH範囲において、準安定のメタストレンジャイトII相が観察される。より高いpH条件、pH>2では、主な結晶相としてストレンジャイトを生成する。
【0184】
通常、従来法またはその変形法の合成ステップはすべて、ワンポットで行われる。したがって、各ステップからの結果として得られた生成物は、独立した精製をしないで以降のステップに直接使用される。したがって、その結果、硫酸塩、塩化物、硝酸塩、金属、金属酸化物および他の磁性材料などの、前の反応からの不純物は、次の反応に、および最終生成物としてのリン酸鉄材料に持ち越される。もしリン酸鉄から合成されたLFP材料に持ち込まれれば、これらの不純物がバッテリー特性を劣化させる原因になり得る。
【0185】
非常に一般的に記載された従来の「ワンポット」法のいくつかの変形法によって製造されたリン酸第二鉄の分析では、通常、リチウムイオンバッテリーカソード製造用の前駆体は、望ましくないいくつかの特性を示す。
【0186】
例えば、硫酸鉄前駆体が従来法において使用された場合、結果として得られたリン酸第二鉄は、ICP、EDSまたはBa沈澱によって確認されるように、例えば、3重量%もの高いレベルの硫酸塩を含むことがある。FP前駆体の望ましくない硫黄含有量は、しばしば粗FP材料の追加洗浄を用いて1重量%未満に減少させることができる。しかし、大規模な洗浄は、非常に大量の廃水を生み、材料にかなりの費用を加え得る。また、恐らく、非常に急速な沈澱の間に材料のバルク中に硫酸塩が閉じ込められる、または捕捉されるので、高硫酸塩材料を1,000ppm未満の硫酸塩に清浄にするのは一般に可能ではない。
【0187】
同様に高いレベルの塩化物または硝酸塩を含むリン酸鉄材料は、鉄塩が塩化第二鉄もしくは塩化第一鉄、または硝酸鉄(III)のいずれかであった、従来法による汎用品市場において見られる。
【0188】
汎用化学品市場に見られる大半のリン酸第二鉄の含有率は、望ましい鉄(<28.4重量%)およびリン酸塩(<16.0重量%)含有率より低い。これは、一般に、より高いレベル陰イオン不純物(SO4、Cl、NO3)により、および/またはより高い水分率による。
【0189】
汎用品リン酸鉄材料は、通常、所望の結晶化度未満であり、これは、より高いレベルの含水率に対応する。
【0190】
いくつかの汎用リン酸鉄化学品は、1未満のP/Fe比率を有していた。いくつかの場合には、0.93もの低いP/Feが検出された。
【0191】
汎用品市場のほとんどのリン酸鉄材料は、約3から約6の間のpHを有し、複数の結晶相を含む。対照的に、本明細書に開示される方法によって製造されたリン酸鉄材料は、高い結晶相純度、一貫した鉄含有率、リン酸塩含有率、水含有率、および鉄とリン酸塩の比率を有する。
【0192】
アメリカ、アジア、およびヨーロッパの様々な供給業者からのリン酸鉄試料を試験した。リン酸第二鉄の多くの汎用品供給業者は、受け入れがたいほど低レベルの鉄および/またはリン酸塩を含むことがわかった。さらに、汎用品市場のほとんどのリン酸第二鉄は、沈澱および結晶化の間におそらく存在する陰イオン塩として、受け入れがたいほど高いレベルの硫酸塩、塩化物または硝酸塩を含んでいる。
【0193】
Budenheimからのリン酸鉄試料(カタログ番号5381、本明細書においてリン酸鉄試料1と呼ぶ)を、評価および試験検討において基準として使用した。Budenheimからのリン酸鉄試料の多くのバッチを分析した。鉄含有率、リン酸塩含有率、および磁性不純物に関して著しい変動が存在した。リン酸鉄の一例に対するXRDパターンを図12に示す。図12に示されたように、試料1は2つの相の混合を示した。
【0194】
試料1は、リン酸第二鉄の液状スラリーの調製、および磁石トラップおよび粒子フィルターに通すことによって、金属および磁性不純物の点検をした。2μmもの大きい単一の一次粒子が見出され、マグヘマイト(maghemitite)、マグネタイトおよびステンレス鋼の磁性不純物が検出された。これらの金属不純物は、リチウムイオンバッテリー中の短絡(カソードとアノードの間で)がバッテリーを使用不可能にするので、受け入れがたい。
【0195】
さらに、試料1は、高分解能SEMによって非常に大きい単結晶を含むことが観察された。1μmもの大きい単一粒子が、ほとんどのロットに検出された。いくつかの実施形態において、バッテリーカソード材料は、30〜50nmの単結晶寸法からなる必要があり、これは、リン酸第二鉄出発材料に最も望ましい微結晶寸法もまた、同じ寸法であることを要求する。さもないと、反応してドープしたカンラン石のカソード材料(他の特許に先に記載されたように)を形成する前に、リン酸第二鉄出発材料の一次粒径を<100nmに減少させるために、長たらしい高エネルギー粉砕ステップが必要となろう。試料1の代表的なSEM像は図13に示され、凝集体粉末において観察された広い範囲の粒径(<100nmから>1μmの結晶寸法)を表す。
【0196】
試料1の非常に大きい一次粒径はまた、比表面積測定に反映されている。分析した試料1の粉末では、比表面積が<18m2/gと測定された。これは、本明細書に記載された工程によって合成された、30〜55m2/gであるリン酸第二鉄材料と対照をなす。
【0197】
実施例1 FePO4−2H2Oの二ポット合成、方法B
硫酸第一鉄(FeSO4−7H2O、227g)を1Lの水に溶解した。リン酸二アンモニウム((ΝΗ4)2ΗΡO4、110g)を0.5Lの水に溶解した。過酸化水素(51g、30重量%)を硫酸第一鉄溶液に添加すると、暗赤色になった。滞留しているstaring鉄およびリン酸塩材料の不溶性材料はすべて、微細メッシュカートリッジフィルターおよび/または希土類磁気トラップのどちらかによって、2つの溶液から除去することができる。特に、ほとんどの鉄塩は、エネルギー貯蔵用途に有害になり得る、微量の不溶性材料を有している。リン酸塩および鉄の溶液は、急速な撹拌をしながら混合する。30〜60分の後、リン酸第二鉄の黄色の沈殿物を濾過した。黄オレンジ色のケーキは、追加のリン酸(58g;85%)H3PO4と共に1.5Lの水中で懸濁し、溶液を加熱して(〜90〜95℃)60〜90分間還流した。ピンク色の結晶性リン酸第二鉄二水和物を濾過し、洗浄し、乾燥した場合154gと秤量された。
【0198】
材料分析は、ICP−AESによるとFe=28.9重量%、P=16.6重量%、SO4<700ppmおよびNa<10ppm、ならびにTGAによるとH2O=19.5〜20重量%である。非常に低いppmレベルの硫酸塩が、リン酸鉄リチウムカソード粉末用の出発材料としての用途に望ましい。硫酸塩は、バッテリー中で不要な副反応を生じることがある。XRDは、材料が、図3に示されるような純粋なメタストレンジャイトI(またはホスホシデライト)であることを示す。
【0199】
実施例2 FePO4−2H2Oの二ポット合成、方法B
硫酸第一鉄(FeSO4−7H2O、278g)を1Lの水に溶解した。リン酸二アンモニウム((NH4)2HPO4、135g)を、0.5Lの水に、リン酸(11.5g、85重量%)および過酸化水素(70g、30重量%)と共に溶解した。滞留している鉄およびリン酸塩材料中の不溶性材料はすべて、微細メッシュカートリッジフィルターおよび/または希土類磁気トラップのどちらかによって、2つの溶液から除去することができる。特に、ほとんどの鉄塩は、エネルギー貯蔵用途に有害になり得る、微量の不溶性材料を有している。リン酸塩および鉄の溶液を急速な撹拌と共に混合した。30分の後、リン酸第二鉄の黄色の沈殿物を濾過した。黄オレンジ色のケーキを、追加のリン酸(58g、85%)H3PO4と共に、1.5Lの水に懸濁し、溶液を加熱し(〜90〜95℃)60〜90分間還流した。ピンク色の結晶性リン酸第二鉄二水和物を濾過、洗浄し、乾燥した場合、198gと秤量された。
【0200】
材料分析は、ICP−AESによって求めたFe=28.0重量%、P=16.6重量%、SO4<300ppm、Na<30ppm、およびTGAによって求めたH2O=20重量%である。XRDは、図4に見られるようなメタストレンジャイトI(またはホスホシデライト)であった。非常に小さい寸法の結晶は、走査型電子顕微鏡写真(図5)で見ることができる。最小の微結晶寸法は、数十ナノメートル程度あり、細長い。細長い微結晶は、長い軸と平行に配列し、より大きい数百nm長の凝集体を形成する。次いで、これらの凝集体は、1〜5μmの平均直径のランダムな集合体に一緒に集合する。
【0201】
実施例3 FePO4−2H2Oの二ポット合成、方法A
硫酸第一鉄(FeSO4−7H2O、200g)を1.5Lの水に溶解した。リン酸二アンモニウム((NH4)2HPO4、66g)を、水酸化アンモニウム(78g、30重量%)と共に0.5Lの水に溶解した。滞留している鉄およびリン酸塩材料中の不溶性材料はすべて、微細メッシュカートリッジフィルターおよび/または希土類磁気トラップのどちらかによって、2つの溶液から除去することができる。特に、ほとんどの鉄塩は、エネルギー貯蔵用途に有害になり得る、微量の不溶性材料を有している。リン酸塩および鉄の溶液を急速な撹拌と共に混合した。30分の後、リン酸第一鉄の青色沈殿物を濾過した。青色のケーキを1.5Lの水に懸濁した。0.5L中の過酸化水素(82g、30重量%)およびリン酸、H3PO4(26g;85%)の溶液を、リン酸第一鉄スラリーにゆっくり添加した。温度は、2時間で〜95〜100℃にゆっくり上げた。ピンク色の結晶性リン酸第二鉄二水和物を濾過し、洗浄し、乾燥した場合、97gと秤量された。
【0202】
材料分析は、ICP−AESによるとFe=28.8重量%、P=16.0重量%、Na<20ppm、SO4<120ppm、およびTGAによるとH2O=20重量%である。非常に低いppmレベルの硫酸塩不純物が、バッテリーカソード材料の合成用材料の用途において強く望まれる。XRDは、メタストレンジャイトIおよび少量のストレンジャイトの混合物であった(図6に示される)。図7は、この方法によって合成されたリン酸第二鉄の粒子モルフォロジを示す。一次(最小の)晶粒は、約10〜100nm程度であり、これは、高度の粉末用途(下記に述べる)のリン酸鉄リチウムカソード材料の合成に対して強く望まれる。これらの晶粒は、合成方法A(実施例1および2)によって製造されたものほど長くない。また、一次結晶は、方法Aから製造されたものより密度の高い球体に凝集される。
【0203】
実施例4 FePO4−2H2O二ポット合成、方法Aの変形
硫酸第一鉄(FeSO4−7H2O、200g)を1.0Lの水に溶解した。リン酸三ナトリウムNa3PO4(85g、99%純度、無水)を1.0Lの水に溶解した。滞留している鉄およびリン酸塩材料中の不溶性材料はすべて、微細メッシュカートリッジフィルターおよび/または希土類磁気トラップのどちらかによって、2つの溶液から除去することができる。特に、ほとんどの鉄塩は、エネルギー貯蔵用途に有害になり得る、微量の不溶性材料を有している。リン酸塩および鉄の溶液を急速な撹拌と共に混合した。60から90分の後、リン酸第一鉄の青色沈殿物を濾過した。青色のケーキを、H3PO4(26g;85重量%)と共に1.5Lの水に懸濁した。過酸化水素(94g、30重量%)を、リン酸第一鉄スラリーにゆっくり添加した。温度は、2時間で〜95〜100℃にゆっくり上げた。ピンク色の結晶性リン酸第二鉄二水和物を濾過し、洗浄し、乾燥した場合、128gと秤量された。
【0204】
材料分析は、ICP−AESによるとFe=28.6重量%、P=16.0重量%、Na<50ppm、SO4<500ppm、TGAによるとH2O=20重量%である。XRDは、図8に示されるように、メタストレンジャイトIであった。
【0205】
実施例5 リチウムおよびリンに富む正極を有するリチウムイオン二次電池の調製
混合金属カンラン石の電気活性材料の詳細な合成は、例えば、米国特許出願第12,357,008号に記載されている。リン酸鉄リチウムカソード材料は、実施例1〜4において合成されたリン酸第二鉄材料を使用し、炭酸リチウム(>99%)および酸化バナジウム(>99.9%)とのリン酸鉄二水和物(実施例1〜4からの)の反応によって合成した。
【0206】
そのリン酸鉄リチウム材料を使用し、電気化学の評価および試験のための正極を調製した。アルミナ箔集電子の電気活性層は、Kynar(登録商標)2801として市販のPVDF−HFPコポリマーおよび導電性カーボン(Super P)を含んでいた。高粘度のペーストを、ダイカスト装置を使用してアルミ箔集電子の片側にキャストし、オーブンで乾燥し、注型溶媒を除去して、カレンダリング設備を使用して高密度化した。
【0207】
正極および 負極としてのリチウム箔を適当な寸法に切断し、微孔性ポリオレフィンセパレーターCelgard(登録商標)2500(Celgard LLC)ではさみ、リチウム箔に対するSwagelok型半電池を形成した。第1充電容量(FCCの)を容量とともにC/5、C/2、1C、2C、5C、10C、20Cの速度で測定した。1時間にわたる完全なバッテリーの放電は、1C(1時間の容量)の放電速度として 定義され、同様に10Cの放電は、1時間で10xバッテリー容量を放電し、または1時間の1/10(6分)で完全に放電する。
【0208】
図9は、実施例5に記載された方法によって製造され、実施例1に記載された方法によって合成されたリン酸第二鉄原料を使用する正極活性物質を含むセルの放電容量対Cレートのプロットである。160mAh/gという非常に高い比容量(mAh/g)は、純粋 な(ドープしていない)LiFePO4の理論最大値の95%である。このカソード材料の高い比貯蔵容量は、10C(135mAh/g)のような非常に高い放電速度でさえ保持される。
【0209】
速度マップはまた、実施例2に記載された工程によって合成したリン酸第二鉄原料を使用して製造したドープしたリン酸鉄リチウムカソード粉末について示される。図10に示されるように、カソード粉末性能は、高い放電速度で非常に優れている。このリチウムセルは、6分の放電(10C)で、低い比容量の90%の保持率を達成した。したがって、リン酸第二鉄合成条件の最適化は、リチウムイオンバッテリー用途の非常に高出力のカソード粉末をもたらす、出発材料リン酸第二鉄の粒子モルフォロジおよび一次粒径の非常に微妙な制御を得ることができる。この場合、実施例2(図5を参照)によって得られた非常に小さいリン酸第二鉄粒子は、非常に高出力の性能を有するドープしたリン酸鉄リチウムの合成を可能にした。実施例2に記載されたリン酸第二鉄から製造された、ドープしたリン酸鉄リチウムのナノスケールの寸法および均一な粒子モルフォロジは、図11に示される。
【0210】
反応温度、溶液pH、反応または熟成時間、およびスラリー濃度を細かく変化させて試験して、およそ100のリン酸第二鉄材料を実施例1から4に記載された合成法によって調製した。一般に、ホスホシデライトまたはメタストレンジャイト相は、溶液pHに応じて少し変動を伴い、85℃付近で結晶化することが観察された。溶液のpHはまた、結晶相、または、先に記載されたRealeおよびScrosati(Chemistry of Materials,2003,vol.15において)のような合成から結果として得られた相に大きい影響を与える。ほとんどの材料を、相純度(XRDによる)、元素の組成物(ICP−AESによる)および粒子モルフォロジ(高分解能顕微鏡法による)について特性評価した。リン酸第二鉄は、実施例5に記載された工程によってドープしたリン酸鉄リチウムカソード粉末にするそれらの材質性状に基づいて選択し、電気化学性能を評価した。一般に、試験したドープしたLiFePO4材料の貯蔵比容量は良好であり、C/5レートで理論容量の85〜95%を達成した。また、容量保持率は、高放電速度でなお非常に優れ、一般に10Cレートで65〜90%であった。
【0211】
実施例6 購入状態のリン酸第二鉄材料の分析評価
表1は、購入状態のリン酸第二鉄材料(E53−91として販売、Chemische Fabrik Budenheim)の分析評価を説明する。
【表1】
【0212】
図12に、Chemische Fabrik Budenheimからのリン酸第二鉄の代表的な5ロットからの粉末X線回折パターンが示される。リン酸第二鉄生成物の主な結晶形(生成物のほぼ90〜100%)は、RealeおよびScrosati(Chem. Materials,2003,15,5051)による帰属によると、メタストレンジャイトIIである。このうち3ロットには、熱力学的により安定な結晶相であるストレンジャイトであると同定された、少量の(最大〜10%)非主要相がある。高分解能スキャンさえ、鉄または酸化鉄不純物相の存在を示さないことは興味深い。
【0213】
市販のリン酸第二鉄を溶媒に懸濁して含湿スラリーを製造し、次いで、強い希土類磁気フィルター(トラップ)に通した。リン酸第二鉄を含有する湿式粉砕したスラリーから収集した磁性不純物を分析した。リン酸第二鉄を含む湿式粉砕したスラリーから回収された磁性不純物の光学顕微鏡像は、図13に示される。寸法が10〜100μmの輝く金属粒子、ならびに灰黒色の粉末は明白である。X線回折解析は、少なくとも3種の汚染物質相ならびに残留する微量のリン酸第二鉄(十分に洗浄されなかった試料、図14参照)を同定している。マルテンサイト(marstentite)、または炭素鋼、ならびにステンレス鋼(Fe、Cr、およびNi)をX線分析で同定した。主な汚染物質は、マグネタイトおよびマグヘマイト(Fe3O4)のどちらかのような、酸化鉄であり、微細な黒色粉末として顕微鏡画像で明らかであった。
【0214】
Chemische Fabrik Budenheimからの商用銘柄リン酸第二鉄を使用して、PCT/US09/31552(2009年1月21日に出願され「リチウムイオンバッテリー用の混合金属カンラン石電極材料」”Mixed Metal Olivine Electrode Materials For Lithium Ion Batteries,”と題され、これは参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。)に記載されている方法によって、ナノリン酸塩(ドープしたリン酸鉄リチウム)を製造した。ポリオレフィンセパレーターを含む、リン酸鉄リチウム、ナノリン酸塩(アルミニウム集電子上の)のカソードおよび硬質炭素アノード(銅集電子上の)で構成されたリチウムイオンバッテリーを組み立て、上記の方法によって製造されたリン酸第二鉄を使用して製造されたカソード材料の性能を試験した。リチウムイオンセルは、通常の電解質(LiPF6を含む有機カルボナート溶媒)で充填し、3.8Vの正電圧(リチウム金属に対して)に活性化した。セルに貯蔵された可逆的エネルギーを測定した後に、バッテリーを再充電し、続いて、名目上3.35Vのセル開放回路電圧で約40℃で2週間保管した。図15において、自己放電貯蔵試験に合格しなかったセルの白色のポリオレフィンセパレーターに見出された、ごく小さい黒色斑点の2つの絵が示されている。図15に示される斑点は、セパレーター(カソードに面する片面およびアノードに面する他の面)の両面のものであり、この斑点が完全にセパレーターを貫通していることを示す。走査電子顕微鏡において、低倍率の電子ビーム下での電子分散型分光法(EDAX)による黒色領域の化学分析は、黒色領域が純粋な金属鉄であると同定する。より高倍率においては、鉄は、ポリオレフィンフィルム中で細孔空間を通して相互に連結する樹枝状フィラメントとして見分けることができる。同様の寸法および外観(図示せず)の他の黒色斑点は、この樹枝状結晶の発生源が恐らくステンレス鋼粒子であることを示す、鉄、クロムおよび微量レベルのニッケルを含むことが見出された。
【0215】
これらの樹枝状鉄フィラメントが、バッテリーの自己放電による電気化学的貯蔵容量の喪失のメカニズムの通りに、遅い漏れ電流の弱い伝導性の経路を形成し、アノードとカソードとの間で通過し得ると考えられる。
【技術分野】
【0001】
本開示は、バッテリー電極の構造、そこに使用される材料、電気化学セル(特にバッテリー)の電極およびサブアセンブリおよび製造の方法、ならびにそのような電極を使用する電気化学セルおよび製造の方法に関する。
【0002】
(参照による組み込み)
本明細書に引用される特許、公開特許および刊行物はすべて、本明細書に記載された本発明の日付の時点で当業者に公知の最新技術をより完全に記載するために、参照によってそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
(関連出願)
本出願は、2009年9月18日に出願され、「リン酸鉄リチウム合成前駆体としてのリン酸第二鉄二水和物およびその調製の方法」と題される、同時係属中の米国特許仮出願第61/243,846号、および2009年11月30日に出願され、「リン酸第二鉄およびその調製の方法」と題される、同時係属中の米国特許仮出願第61/264,951号の優先権を主張し、その内容は参照によって組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
現代の持ち運び可能な電子装置は、電力源として、再充電可能なリチウム(Li)イオンバッテリーにほとんど独占的に依存している。代表的なリチウムイオンバッテリーにおいて、セルは、正極(またはカソード)に金属酸化物、負極(またはアノード)に炭素/黒鉛、および電解質に有機溶媒中のリチウム塩を含む。より最近では、リン酸金属リチウムが、カソード電気活性材料として使用されている。リン酸鉄リチウムは、現在、二次電池用の安全で信頼できるカソード材料として認められている。これは、市販のリチウムイオンバッテリーにおいて現在使用されているより危険な酸化コバルトリチウムの次世代代替品である。
【0005】
リン酸鉄リチウム(LFP)系カソード材料を使用するリチウムイオンバッテリーは、コードレスの携帯用具および内蔵のUPSデバイスにおいて目下見出される。バッテリーパックは、最近、航空機および再充電可能な電気自動車(REV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)自動車およびバスを包含する輸送に対して実証されている。
【0006】
運送業界でのリチウムイオンバッテリーのさらに広範囲の応用を見出すためには、ナノリン酸塩カソード材料の効率的な製造工程が必要とされる。いくつかの構造形態のリン酸鉄(III)(リン酸第二鉄またはリン酸鉄とも呼ばれる)が、LFP生産工程の原料として使用されている。いくつかの実施形態において、その形態は、関連する3種の結晶相、ストレンジャイト、メタストレンジャイトIおよびメタストレンジャイトIIを有する結晶性リン酸第二鉄二水和物である。現在、第二鉄のリン酸鉄二水和物が、主として食品添加物、セラミック工程の着色剤として、または他の目的で、鉄(II)化合物の一ポット酸化を一般に伴う工程を使用し、いくつかの汎用品バルク供給業者によって生産されている。この方法(または変形法)によって製造されたリン酸鉄は、通常品質が劣り、不純物を含み、したがって、高品質のナノリン酸塩LFPの合成のための前駆体としてはそれほど望ましくない。さらに、リチウムイオンバッテリーのLFPの合成に対して望まれるリン酸鉄(III)の特性は、他の用途に対するものとは非常に異なっていることがある。例えば、栄養サプリメントまたは食品添加物としてのリン酸鉄の使用に対する1つの必要条件は、化学薬品が、鉛、水銀または六価クロムのような有毒レベルの特定の金属汚染物質を含まないということである。対照的に、毒性は、リチウムイオンバッテリー用途に対する前駆体としてのリン酸鉄に対して、重要な必要条件ではない。リン酸第二鉄の純度およびコンシステンシーと同様に、色度は、セラミックの製造に使用される材料に対し所望の特性である。しかし、色純度は、リチウムイオンバッテリー用のLFPカソード材料の合成の主要な関心事ではない。さらに別の例は、リンの鉄に対する比率である。リン酸鉄の動物供給原料用途において、Fe/Pの正確な比率は重要ではないが、より高いFe/P比率が望ましい。したがって、Fe/P比率は注意深く制御されなくてもよく、いくつかの事例において、より高いリン含有率が望まれている。
【0007】
多くの汎用バルク化学品供給業者(Noah Chemical, Strem Chemical, Alpha Aesar Chemicalなど)から市販のリン酸第二鉄は、これらの供給業者からの市販のリン酸第二鉄の化学分析によって示されるように、比較的高いレベルの硫酸または硝酸陰イオン(0.1−2重量%不純物陰イオン)を含んでいる。このことは、リン酸第二鉄を生産するためにこれらの供給業者によって使用される通常の経路が、鉄塩溶液、最も普通には硫酸第一鉄または硝酸第一鉄を含むことを示唆する。高レベルの陰イオン不純物を含むリン酸第二鉄は、不純物が、バッテリー動作に有害な反応に影響されやすくおよび/または電気化学セルの循環を支援しないので、リチウムイオンバッテリーで使用されるリン酸鉄リチウムの製造の原料には適切ではない。
【0008】
リン酸第二鉄を合成するための他の合成法は、出発鉄材料として、酸化鉄(Fe(II)、Fe(III)またはFe(II/III))、水酸化鉄、炭酸鉄またはその組み合わせを使用する。そのような方法において、酸化鉄または炭酸鉄は、希リン酸溶液および酸化剤(必要ならば)と反応し、加熱され結晶性リン酸第二鉄化合物を生成する。リン酸第二鉄製品の品質を改善するそのような最近の試みにもかかわらず、市販のリン酸第二鉄は、リチウムイオンバッテリーにおいて使用するために、まだ最適化されていない。
【0009】
したがって、バッテリー等級LFPの合成ためのリン酸鉄前駆体の望ましい特性が、大抵の場合、他の用途のものと異なる、または矛盾するので、既存の汎用化学品市場は、LFP合成前駆体としてリン酸鉄の非実用的な供給源である。さらに、既存の一ポット法によって合成される市販供給源からのリン酸鉄には、リチウムイオンバッテリーに有害な不純物、例えば、硫酸塩、塩化物、および硝酸塩、がしばしば含まれる。さらに、市販のリン酸鉄材料の異なるバッチは、しばしば一貫しない特性を有する。したがって、バッテリー等級LFPの合成のために、一貫した望ましい特性を有する高純度のリン酸鉄を生産するための、新規の合成法の開発の必要性が残っている。
【発明の概要】
【0010】
ナノ寸法のリン酸鉄リチウムカソード材料の合成で使用される望ましい特性を有する高純度結晶性のリン酸第二鉄材料が記載される。本明細書に開示されたリン酸第二鉄二水和物材料は、約1.001から約1.05のリンの鉄に対するモル比、約30m2/gから約55m2/gの表面積を有し、金属または磁性不純物を実質的に含まない。ナノ寸法のリン酸鉄リチウムカソード材料の合成での使用に望ましい特性を有する高純度結晶性リン酸第二鉄材料を合成する方法も記載される。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の磁気トラップが反応工程の任意の段階の間に使用される。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の磁気トラップが、磁性不純物を除去するために最終生成物の形成後に使用される。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の磁気トラップが、磁性不純物を除去するために反応工程の任意の段階の間に、および最終生成物の形成後に使用される。いくつかの実施形態において、合成中間体が、リン酸第二鉄材料の純度を改善するために単離され精製される、多段階を使用するリン酸第二鉄の合成法が記載される。いくつかの実施形態において、鉄化合物がリン酸の水溶液に添加される。溶液pHおよび温度は、鉄化合物の完全溶解を保証するために制御される。高純度および高い結晶相純度を有する所望のリン酸鉄結晶性材料を、溶液のpHおよび温度の制御によって得ることができる。
【0011】
本明細書において使用される場合、リン酸第二鉄、リン酸鉄、FP、およびリン酸鉄(III)という用語は、同義的に使用される。本明細書において使用される場合、リン酸第一鉄およびリン酸鉄(II)という用語は、同義的に使用される。結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約0.5重量%未満の他のアルカリまたは一般の陰イオンまたは他の塩不純物を含む。他のアルカリまたは一般の陰イオン、または他の塩不純物の非限定的な例は、SO4、NO3、Cl、Na、Caおよび他のアルカリ、またはアルカリイオンを含む。
【0012】
本明細書において使用される場合、材料が100ppm未満の金属または磁性不純物を含む場合、その材料は金属または磁性不純物を実質的に含まない。金属または磁性不純物の例は、鉄金属、炭素鋼、ステンレス鋼、またはマグヘマイト(maghemitite)もしくはマグネタイトなどの酸化鉄を含むが、これらに限定されない。
【0013】
本明細書において使用される場合、高純度のリン酸第二鉄は、各陽イオン不純物が100ppm未満である、低レベルの他の微量金属カチオン(他の遷移金属、アルカリおよびアルカリ土類金属を含む)を含むリン酸鉄(III)を指す。さらに、高純度リン酸第二鉄は、各陰イオン不純物が1000ppm未満である、非常に低レベルの他の微量陰イオン(硝酸、硫酸、過塩素酸などのオキソ陰イオン、およびフッ化物、塩化物、臭化物などのハロゲン化物などを含む)を含む。高純度リン酸第二鉄化合物は、非晶質また結晶性であってもよく、水和されていてもよい。ストレンジャイト、メタストレンジャイトIまたはメタストレンジャイトIIとして知られるリン酸第二鉄の水和された結晶形は、本明細書にさらに記載される。
【0014】
一態様において、結晶性リン酸第二鉄材料であって、
約1000ppm未満の硫酸イオンを含み、
リンの鉄に対するモル比が約1.001から約1.05であり、
リン酸第二鉄材料が約25m2/gから約65m2/gの表面積を有し、
0.8重量%未満の金属または磁性不純物を含むリン酸第二鉄材料が記載される。
【0015】
いくつかの実施形態において、リン酸第二鉄材料は、リン酸第二鉄二水和物を含み、
リン酸第二鉄二水和物は、
約28.3重量%から約29.6重量%の鉄;
約16.0重量%から約16.9重量%のリン;および
約700ppm未満の硫酸イオンを含み、
約30m2/gから約55m2/gの表面積を有する。
【0016】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約100ppm未満の金属または磁性不純物を含む。
【0017】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約10ppm未満の金属不純物を含む。
【0018】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約1ppm未満の磁性不純物を含む。
【0019】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約100ppb未満の磁性不純物を含む。
【0020】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料の脱イオン水20ml中溶液1gは、約1から約5の間のpH値を有している。
【0021】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料の脱イオン水20ml中溶液1gは、約2から約3の間のpH値を有している。
【0022】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約100ppm未満の硫酸イオンを含む。
【0023】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約0.5重量%未満の他のアルカリまたは一般の陰イオンまたは他の塩不純物を含む。
【0024】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約0.02重量%未満の硝酸塩または塩化物を含む。
【0025】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約19.3重量%から約20.8重量%の水を含む。
【0026】
先の実施形態のいくつかにおいて、結晶性リン酸第二鉄二水和物の結晶相は、ストレンジャイト、メタストレンジャイト(I)、メタストレンジャイト(II)、およびその混合物からなる群から選択される。
【0027】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄二水和物材料は、約30m2/gから約55m2/gの表面積を有する。
【0028】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄二水和物材料の主要な粒径は、約1nmから約100nmの間にある。
【0029】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄二水和物材料の主要な粒径は、約20nmから約40nmの間にある。
【0030】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄二水和物材料の凝集体粒子の中位寸法は、約1μmから約4μmの間にある。
【0031】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄二水和物材料の凝集粒子の中位寸法は、約4μmから約10μmの間にある。
【0032】
別の態様において、
a)鉄(II)塩およびリン酸塩を水溶液に導入し、リン酸第一鉄材料を形成して、リン酸第一鉄を洗浄し不純物を除去するステップ;および
b)酸化剤でステップa)からのリン酸第一鉄を酸化させリン酸第二鉄材料を形成するステップを含む結晶性リン酸第二鉄材料を合成する方法が記載される。
【0033】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄材料は、リン酸第二鉄二水和物を含む。
【0034】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第一鉄材料は、リン酸第一鉄八水和物を含む。
【0035】
先の実施形態のいくつかにおいて、本方法は、ステップa)、ステップb)、ステップb)の後、またはその任意の組み合わせにおいて、金属または磁性不純物を除去するために、1つまたは複数の金属トラップを使用するステップをさらに含む。
【0036】
先の実施形態のいくつかにおいて、磁気トラップは希土類磁石を含む。
【0037】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップa)における鉄(II)塩は、硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、その任意の水和物、またはその混合物を含む。
【0038】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップa)におけるリン酸塩は、リン酸二アンモニウムを含む。
【0039】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップa)は、溶液に水酸化アンモニウムを添加するステップをさらに含む。
【0040】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップa)における結果として得られた溶液のpHは、約4から約5の間にある。
【0041】
先の実施形態のいくつかにおいて、酸化剤は過酸化水素を含む。
【0042】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)は、亜リン酸を添加するステップをさらに含む。
【0043】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)は、約35から約65℃の間の温度で溶液を加熱するステップをさらに含む。
【0044】
先の実施形態のいくつかにおいて、本方法は、c)約85から約100℃の間の温度で溶液を加熱するステップをさらに含む。
【0045】
先の実施形態のいくつかにおいて、本方法は、結果として得られた結晶性リン酸第二鉄二水和物材料を約95%から約99%の純度レベルに洗浄するステップをさらに含む。
【0046】
先の実施形態のいくつかにおいて、合成された結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、
約28.3重量%から約29.6重量%の鉄;
約16.0重量%から約16.9重量%のリン;
および約0.8重量%未満の硫酸イオンを含み、
リンの鉄に対するモル比は、約1.001から約1.05であり;
リン酸第二鉄二水和物材料は、約25m2/gから約65m2/gの表面積を有し;
リン酸第二鉄二水和物材料は、金属または磁性不純物を実質的に含まない。
【0047】
さらに別の態様において、
a)鉄(II)化合物および水溶液中の酸化剤を組み合わせて、非晶質リン酸第二鉄を形成し、非晶質リン酸第二鉄を洗浄して不純物を除去するステップ;および、
b)ステップa)からの非晶質リン酸第一鉄を結晶化し結晶性リン酸第二鉄材料を形成するステップを含み;この場合、1つまたは複数の金属トラップが、ステップa)、ステップb)、ステップb)の後またはその任意の組み合わせにおいて金属または磁性不純物を除去するために使用される、
結晶性リン酸第二鉄材料を合成する方法が記載される。
【0048】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄材料は、リン酸第二鉄二水和物を含む。
【0049】
先の実施形態のいくつかにおいて、磁気トラップは希土類磁石を含む。
【0050】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸鉄(II)は、鉄(II)塩およびリン酸塩を組み合わせることにより形成される。
【0051】
先の実施形態のいくつかにおいて、鉄(II)塩は、硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、その任意の水和物、またはその混合物を含む。
【0052】
先の実施形態のいくつかにおいて、鉄(II)塩は硫酸鉄(II)八水和物を含む。
【0053】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸塩はリン酸二アンモニウムを含む。
【0054】
先の実施形態のいくつかにおいて、酸化剤は過酸化水素を含む。
【0055】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップa)は、約30から約65℃の間の温度で溶液を加熱するステップをさらに含む。
【0056】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)は、リン酸を添加するステップをさらに含む。
【0057】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)は、約85から約100℃の間の温度で溶液を加熱するステップをさらに含む。
【0058】
先の実施形態のいくつかにおいて、本方法は、結果として得られた結晶性リン酸第二鉄材料を洗浄するステップをさらに含む。
【0059】
先の実施形態のいくつかにおいて、合成された結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、
約28.3重量%から約29.6重量%の鉄;
約16.0重量%から約16.9重量%のリン;および
約0.8重量%未満の硫酸イオンを含み、
リンの鉄に対するモル比は約1.001から約1.05であり、
約25m2/gから約65m2/gの表面積を有し、
金属または磁性不純物を実質的に含まない。
【0060】
さらに別の態様において、反応混合物、1種または複数の反応体、1種または複数の中間生成物、およびリン酸第二鉄二水和物生成物を含む結晶性リン酸第二鉄材料の製造方法であって、
反応体、中間生成物、反応混合物、またはリン酸第二鉄二水和物生成物から金属または磁性不純物を除去するために1つまたは複数の磁気トラップを使用するステップを含み;鉄(II)または鉄(III)化合物を含む出発材料を使用する方法が提供される。
【0061】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄材料はリン酸第二鉄二水和物を含む。
【0062】
先の実施形態のいくつかにおいて、本方法は、1つまたは複数の合成のステップを含み、また、1つまたは複数の磁気トラップが、任意の1つの合成ステップの前、間もしくは後に、またはその任意の組み合わせで使用される。
【0063】
先の実施形態のいくつかにおいて、金属トラップは希土類磁石を含む。
【0064】
先の実施形態のいくつかにおいて、磁石トラップは、1から20kGaussの範囲の磁気強度を有している。
【0065】
先の実施形態のいくつかにおいて、磁石トラップは、8から14kGaussの範囲の磁気強度を有している。
【0066】
先の実施形態のいくつかにおいて、本方法は、
a)水溶液中の鉄(II)または鉄(III)化合物、およびリン酸を組み合わせるステップ;
b)鉄(II)または鉄(III)化合物の実質的にすべてがリン酸との反応によって消費されることを保証するために、溶液の均一なpHおよび温度を維持するステップ;および、
c)pHおよび溶液の温度を制御し実質的に純粋な結晶相を有するリン酸第一鉄材料を形成するステップをさらに含み、
1つまたは複数の金属トラップが、ステップa)、ステップb)、ステップc)、ステップc)の後、またはその任意の組み合わせにおいて、金属または磁性不純物を除去するために使用される。
【0067】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄材料はリン酸第二鉄二水和物を含む。
【0068】
先の実施形態のいくつかにおいて、磁気トラップは希土類磁石を含む。
【0069】
先の実施形態のいくつかにおいて、鉄(II)または鉄(III)化合物は、酸化鉄(II)もしくは酸化鉄(III)、水酸化鉄(II)もしくは水酸化鉄(III)、炭酸鉄(II)もしくは炭酸鉄(III)、またはオキシ水酸化鉄(II)(iron (II) oxy-hydrate)もしくはオキシ水酸化鉄(III)を含む。
【0070】
先の実施形態のいくつかにおいて、鉄(II)化合物が使用され、ステップa)は、酸化剤を添加するステップをさらに含む。
【0071】
先の実施形態のいくつかにおいて、酸化剤は、過酸化水素、溶存空気もしくは溶存酸素、または他の穏やかな酸化体を含む。
【0072】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸水溶液は、約1:1から約10:1の水:リン酸比率を有する。
【0073】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸水溶液は、約1:1から約4:1の水:リン酸比率を有する。
【0074】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)の溶液のpH値は、約2未満に維持される。
【0075】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)の溶液のpH値は、約1未満に維持される。
【0076】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)の溶液の温度は、65℃超に維持される。
【0077】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)の溶液の温度は、70℃超に維持される。
【0078】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)の溶液の温度は、75℃超に維持される。
【0079】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップb)の溶液の温度は、95℃超に維持される。
【0080】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄材料は、100ppm未満の金属または磁性不純物を含む。
【0081】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄材料は、10ppm未満の金属または磁性不純物を含む。
【0082】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄材料は、1ppm未満の金属または磁性不純物を含む。
【0083】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄材料は、100ppb未満の金属または磁性不純物を含む。
【0084】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相は、メタストレンジャイトIである。
【0085】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相は、メタストレンジャイトIIである。
【0086】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相は、ストレンジャイトである。
【0087】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップc)の溶液のpH値は、約1未満に制御される。
【0088】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップc)の溶液の温度は、約85℃未満に制御される。
【0089】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相は、メタストレンジャイトIIである。
【0090】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相は、メタストレンジャイトIIである。
【0091】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップc)の溶液のpH値は、約1から約2の間の範囲で制御される。
【0092】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップc)の溶液の温度は、約85℃未満で制御される。
【0093】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相は、メタストレンジャイトIである。
【0094】
先の実施形態のいくつかにおいて、リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相は、メタストレンジャイトIである。
【0095】
先の実施形態のいくつかにおいて、ステップc)の溶液は、1つまたは複数の高強度磁束トラップに通される。
【0096】
先の実施形態のいくつかにおいて、磁気トラップは、磁界を発生させる、溶液に直接挿入される強い磁石を備える。
【0097】
本主題が以下の図を参照して説明されるが、例証のみの目的で提示され、本発明を限定するようには意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】二相の混合物を示すリン酸鉄試料1のX線回折粉末パターンを示す図である。
【図2】<100nmから>1μmの結晶寸法の広い分布を示すリン酸鉄試料1の高分解能SEM像である。
【図3】1つまたは複数の実施形態によるリン酸第二鉄の結晶相および純度を説明する粉末X線回折パターンを示す図である。
【図4】1つまたは複数の実施形態によるリン酸第二鉄の結晶相および純度を説明する粉末X線回折パターンを示す図である。
【図5】1つまたは複数の実施形態によるリン酸第二鉄のSEM像である。
【図6】1つまたは複数の実施形態によるリン酸第二鉄の結晶相組成の粉末X線回折同定を示す図である。
【図7】1つまたは複数の実施形態による工程によって合成されたリン酸第二鉄のSEM像である。
【図8】1つまたは複数の実施形態によるリン酸第二鉄の結晶相および純度の粉末X線回折同定を示す図である。
【図9】1つまたは複数の実施形態による工程によって製造されたリン酸第二鉄を使用して合成されたカソード粉末の放電速度マップである。
【図10】1つまたは複数の実施形態による工程によって製造されたリン酸第二鉄を使用して合成されたカソード粉末の放電速度マップである。
【図11】1つまたは複数の実施形態によるリン酸第二鉄から製造されたドープしたリン酸鉄リチウムのナノスケール寸法および均一な粒子のモルフォロジである。
【図12】Chemische Fabrik Budenheimから購入したリン酸第二鉄(E53−91)の5ロットの粉末X線回折パターンである。
【図13A】湿式粉砕したリン酸第二鉄から回収した磁性不純物の顕微鏡画像である。
【図13B】湿式粉砕したリン酸第二鉄から回収した磁性不純物の顕微鏡画像である。
【図14】湿式粉砕したリン酸第二鉄から収集した磁性汚染物質のX線回折同定を示す図である。
【図15A】リチウムイオンバッテリーから除去されたポリオレフィンセパレーター膜を貫通している鉄樹枝状結晶の斑点の顕微鏡画像である。図15Aは、正極に面するセパレーター面である。
【図15B】リチウムイオンバッテリーから除去されたポリオレフィンセパレーター膜を貫通している鉄樹枝状結晶の斑点の顕微鏡画像である。図15Bは、負極に面するセパレーターの同一の鉄の斑点である。
【発明を実施するための形態】
【0099】
ナノ寸法のLFPカソード材料の合成で使用される望ましい特性を有する高純度結晶性リン酸第二鉄材料、およびその製造方法が記載される。
【0100】
材料
一態様において、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約28.3重量%から約29.6重量%の鉄含有率を有する。いくつかの実施形態において、鉄含有率は、リン酸第二鉄二水和物の鉄に基づいて約95から99%の理論純度である。より低い鉄含有率(28.3重量%未満)は、バッテリーカソード材料のための前駆体の望ましくない1つまたは複数の特性、つまり、高い含水率、硫酸塩または他の高い不純物量、低い結晶化度に対応し得る。より高い鉄含有率(29.6重量%超)は、バッテリー前駆体材料の望ましくない1つまたは複数の特性、つまり、低い結晶水含有率、低い結晶度、低いリン酸塩含有率、酸化鉄不純物、鉄含有金属不純物、例えば、リン酸第一鉄四水和物のような第一鉄不純物に対応し得る。
【0101】
いくつかの実施形態において、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、金属または磁性不純物を実質的に含まない。金属または磁性不純物の非限定的な例は、鋼鉄、クロム鋼、ステンレス鋼、鉄、酸化鉄(酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化鉄(II、III))、および他の金属または、金属酸化物を含む。リン酸第二鉄二水和物材料が約1000ppm未満、約200ppm未満、または約100ppm未満の金属または磁性不純物を含む場合、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、金属または磁性不純物を実質的に含まない。いくつかの実施形態において、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約100ppm未満の金属または磁性不純物を含む。いくつかの実施形態において、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約10ppm未満の金属または磁性不純物を含む。低レベルの酸化鉄および/または金属鉄不純物を含むリン酸鉄は、バッテリー用途の高純度LFPの製造に対して望ましく、適切である。LFP電池材料中の酸化鉄、および炭素鋼またはステンレス鋼などの金属不純物は、バッテリーにおいて経時的に、電気化学的に不安定で、不可逆的な容量損失、すなわち容量減退を引き起こす場合がある。
【0102】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物は微量の金属不純物を含む。いくつかの実施形態において、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約0.8重量%未満の金属または磁性不純物を含む。いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物は微量の金属不純物を含む。いくつかの実施形態において、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約0.1重量%未満の金属または磁性不純物を含む。アノードへ移行しアノードに堆積し得るCuおよびZnなどの低酸化電位の遷移金属は、リチウムイオンバッテリー寿命を減少させ、容量を減退させることがある。高いレベルのアルカリまたはアルカリ土類金属、例えば、約1,000ppm以上のNa、K、Ca、Mgは、リチウムに置き換わり、カンラン石格子を通るリチウムイオン拡散通路をブロックし得る。
【0103】
リン酸鉄二水和物の鉄含有率が一貫していれば、ナノ寸法LFP(またはドープしたカンラン石)の正確な化学量論および配合によって、前駆体材料からの製造が可能になる。LFPにおいて鉄の酸化状態の可逆変化(Fe2+⇔Fe3+)には、エネルギー貯蔵を生じさせるバッテリー中へのリチウムイオンの可逆的なインターカレーションを伴う。したがって、リチウムイオンバッテリー用の高容量カソード材料を製造するために、合成混合物中の利用可能な鉄含有率と一致する正確な量のリチウムが、望ましい。
【0104】
本明細書に記載されるリン酸鉄中の鉄含有率は、LFPの高い可逆的エネルギー貯蔵容量に寄与する。いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物から製造されたLFPバッテリー材料の具体的なエネルギー容量は、140mAhr/gから165mAhr/gの範囲であってもよい。
【0105】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約16.0重量%から約16.9重量%のリン含有率を有する。いくつかの実施形態において、リン酸塩含有率は、リン酸第二鉄二水和物のリンに基づいて理論純度の96−102%である。より低いリン酸塩含有率は、望まれない1つまたは複数の条件、つまり、酸化鉄不純物、鉄含有金属不純物、高い含水率、高い硫酸塩量、塩化物量、硝酸塩量または他の陰イオン不純物量、第一鉄イオン不純物量、例えば、リン酸第一鉄不純物量に対応し得る。より高いリン酸塩含有率は、望まれない1つまたは複数の条件、つまり、NH4H2PO4、NH4FePO4などのリン酸塩に富む不純物、低い鉄含有率、低い結晶水含有率および低い結晶化度に対応し得る。
【0106】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄原料のリン酸塩が一貫していれば、ナノ寸法LFP(またはドープしたカンラン石)の正確な化学量論および配合によって、前駆体材料からの製造が可能になる。
【0107】
いくつかの実施形態において、リン酸塩モル含有率が、ナノ寸法LFP(またはドープしたカンラン石)中のレドックス活性金属の合計含有率(例えば、Fe、Mn、Co、Ni、V)に等しい、またはわずかに大きい安定したリン酸塩含有率が使用される。ナノ寸法LFPの高いリン酸塩含有率は、特定の条件下で熱暴走を被りやすい金属酸化物に基づく他のリチウム酸化物バッテリーの化学現象より、電気化学的かつ熱的に安定である。リン酸鉄二水和物からの高いリン酸塩含有率は、ナノ寸法LFPまたはドープしたカンラン石の製造(合成)の間の付随的な形成による金属酸化物不純物を最小限に抑えるまたは排除するのを助ける。
【0108】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、低レベルの非リン酸陰イオンを含む。リン酸鉄二水和物の高いリン酸塩含有率は、材料中のそれほど所望されない陰イオンの低い不純物量と相関がある。例えば、硫酸、塩化物、および硝酸陰イオンは、市販の汎用リン酸鉄において時々見られる。これらの陰イオンは、リチウムイオンバッテリーにおいて電気化学的環境下でリン酸塩ほど安定していない。例えば、塩化物陰イオンは、酸化して塩素ガスを生成し得て、これは密封リチウムイオンバッテリーの内部で望まれないガス圧の原因になり得る。カソード中の高い硫酸塩不純物量は、リチウムイオン電池電解質に可溶であり得、バッテリーのアノードに輸送された場合、還元して硫化物を形成し得る。いかなる特定の理論によっても束縛されることを欲しないが、リチウムイオンバッテリーアノードでのスルフィドの堆積が、アノードの安定性および機能を下げ、バッテリー寿命の短縮および/またはエネルギー貯蔵容量の低下をもたらし得ると考えられる。
【0109】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物は、低い硫酸塩、塩化物、および硝酸塩の不純物量を含む。いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物中の硫酸塩含有率は、約0.5重量%未満である。リン酸鉄二水和物材料中のより高い硫酸塩含有率は、LFP粒子の粗化と関連している。
【0110】
本出願人らは、驚いたことに、リン酸鉄中の残渣硫酸塩が、リチウムイオンバッテリーのバッテリー寿命の減少およびバッテリー性能の減退の原因となり得ることを見出した。いくつかの実施形態において、リン酸鉄材料は、1000ppm未満の硫酸イオンを含む。いくつかの実施形態において、リン酸鉄材料は、700ppm未満の硫酸イオンを含む。
【0111】
塩化物または硝酸塩は、リチウムイオンバッテリー中で通常の充電条件下で酸化し得て、バッテリー中に望ましくないガス圧力をもたらし得る。
【0112】
いくつかの実施形態において、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、リンの鉄に対するモル比が約1.001から約1.050である。リン酸鉄の1より大きいリンの鉄に対する比率は、リン酸鉄二水和物の理論比率1と比較して、LFPを合成する前駆体として使用される。1未満のリン酸塩と鉄の比率は、リン酸鉄原料の1つまたは複数の望ましくない特質、つまり、酸化鉄不純物、鉄含有金属不純物、リン酸第一鉄などの第一鉄(Fe2+)不純物を示し得る。
【0113】
リン酸鉄の1未満のリンの鉄に対する比率は、ナノ寸法LFPまたはドープしたカンラン石の合成の間に、2次的な鉄に富む相をもたらし得る。リチウムイオンバッテリーのナノ寸法LFPカソード中の酸化鉄または金属鉄相のいずれかの存在は、バッテリー寿命の減少または容量減退をもたらし得る。
【0114】
いくつかの実施形態において、P/Fe比率は1.050から1.001の範囲にある。いくつかの実施形態において、P/Fe比率は1.03から1.01の範囲にある。
【0115】
1より大きいリンの鉄に対する比率を有するリン酸鉄二水和物は、通常、酸性の性質(通常、pH1から5の範囲で)を有する。特定の理論に束縛されないが、リン酸第二鉄前駆体の過剰リン酸塩は、プロトン化され、前駆体の必要とする電荷中性を与えると考えられる。過剰リン酸塩は、リン酸第二鉄粒子の表面に、もしくは近くに、またはバルク中に存在し得る。リン酸鉄二水和物中の過剰のリン酸塩は、Fe2(HPO4)3−xH2Oなどのバルクリン酸第二鉄水和物への共沈相不純物と記述することができる。しかし、この表記法は、過剰リン酸塩が個別の2次的結晶性不純物にもっぱら見出されることを示唆することを意味しない。それよりむしろ、リン酸鉄二水和物のバルクの非晶質成分として一様に分散されていると考えられる。ナノ寸法LFP(またはドープしたカンラン石)の合成におけるリン酸鉄二水和物の具体的な利点である酸性という特徴が、本明細書に記載される。
【0116】
いくつかの実施形態において、本明細書において記載されるリン酸第二鉄は、弱酸性である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される1gのリン酸第二鉄が脱イオン水20mlに溶解される場合、結果として得られた溶液のpHは、4未満または4に等しい。本明細書に記載される1gのリン酸第二鉄が脱イオン水20mlに溶解される場合、結果として得られた溶液のpHは、約1から約5の間の範囲である。いくつかの実施形態において、この方法によって測定されたリン酸鉄二水和物の結果として得られた溶液のpHは、約2から約3の間にある。いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物は、通常、酸性であり、1より大きいリンの鉄に対する比率を有する。1未満のリン酸塩と鉄の比率を有するリン酸第二鉄は、通常、中性、またはわずかに塩基性である。そのようなリン酸第二鉄のアルカリの性質は、過剰の鉄の部分からの陽電荷を均衡させるために必要とされる酸化物または水酸化物の存在に起因し得る。
【0117】
リン酸鉄二水和物の実際の水含有率は、理論的な水含有率の100%より通常高い。リン酸鉄の比較的高い表面積(本明細書に規定した)および吸湿性の性質により、約0.1重量%から約3重量% の物理吸着水分(弱く結合したまたは吸収した水分)が存在し得る。これは、結晶相中の水和結晶水以外のものである。さらに、リン酸鉄二水和物中に、過剰リン酸塩含有率と過剰水含有率との間に相関があるように見える。材料中の過剰リン酸塩は、粒子表面に見出され、プロトン化されたリン酸塩表面を安定させるために追加の水を吸収し得る。
【0118】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄の水含有率は、約21重量%未満である。より高い水含有率は、鉄および前駆体においてリン酸塩の減少をもたらし得る。前駆体中の水は、ナノ寸法LFP(ドープしたカンラン石)結晶化前の高温乾燥ステップにおいて除去することができる。したがって、リン酸鉄前駆体の水含有率は、合成手順によって製造される最終ナノ寸法LFPのバッテリー性能または具体的なエネルギー密度に寄与しない。
【0119】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物の結晶相は、FePO4−2H2Oの共通の化学式を有するストレンジャイト、メタストレンジャイト(I)およびメタストレンジャイト(II)(ホスホシデライトとも呼ばれる)を含む。これらの鉄相の理論的な水含有率は、19.3重量%である。いくつかの実施形態において、リン酸第二鉄二水和物は、約19.3重量%から約20.8重量%の範囲の水含有率を有する。
【0120】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物は、非晶質(非結晶性)材料の部分を含んでいてもよい。このより高い非晶質の分率は、通常、より高い水含有率と相関している。過剰の水含有率は、より低い鉄およびリン酸塩含有率に対応する。
【0121】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物は、ストレンジャイト、メタストレンジャイト(I)およびメタストレンジャイト(II)、またはこれらの結晶質相のいずれかの混合物を含み得る結晶性材料である。いくつかの実施形態において、リン酸鉄の結晶相はメタストレンジャイト(II)、またはホスホシデライトである。スフェニシダイト(sphenicidite)(NH4)FePO4OH−H2O、および無名の相Fe2(HP04)3−4H2O、藍鉄鉱Fe3(PO4)2−xH2Oなどの少量の他の結晶相(<15重量%)が存在し得る。
【0122】
いくつかの実施形態において、これらの他の結晶相は、約5重量%未満の分率で見出される。いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物は、5重量%未満の非結晶性または非晶質の相を含む。
【0123】
リン酸鉄の結晶度は、恐らくリン酸鉄リチウムの特性に影響する。リン酸鉄前駆体のモルフォロジは、その未加工の前駆体から製造されたナノ寸法LFPの特性にとって重要になり得る。第一に、一次粒径、すなわち、最小の個別構成粒子の微結晶粒度である。第二に、共沈した、より小さい一次個別粒子の凝集体で構成されている二次粒径および密度も重要である。一次粒子の密度および充填率は、ナノ寸法LFPの合成および製造に続く使用に影響する二次凝集体のタップ密度および硬度に影響を与える。第三に、リン酸第二鉄二水和物材料の凝集粒子の寸法はまた、非常に重要である。
【0124】
いくつかの実施形態において、結晶性リン酸第二鉄二水和物材料の一次粒径は、約1nmから約100nmの間にある。いくつかの実施形態において、リン酸第二鉄二水和物材料の一次粒径は、約20nmから約40nmの間にある。いくつかの実施形態において、リン酸第二鉄二水和物材料の凝集体粒子の寸法は、約1μmから約4μmの間にある。いくつかの実施形態において、リン酸第二鉄二水和物材料の凝集粒子の寸法は、約4μmから約10μmの間にある。
【0125】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物の一次粒径は、約10nmから約100nmの範囲にあり、ナノ寸法LFPの高速での高い容量保持率と相関する。いくつかの実施形態において、約20nmから約40nmの一次粒径は、最大10C(1/10時間の全容量放電)の放電速度で約85%の高い容量保持率と相関する。そのような高速の容量保持率を有するナノ寸法LFP(ドープしたカンラン石)で製造されたバッテリーは、ハイブリッド電気自動車または持ち運び可能なコードレスの工具などの高い電力需要用途に理想的に適している。より小さい結晶粒度のリン酸鉄は、相応してより非晶質(それほど結晶性でない)を有し、ナノ寸法LFP合成に対してそれほど所望されない。はるかに大きい粒度を有する試料は、限られたリチウムイオン輸送速度を示す、相応してより大きい結晶領域を有するナノ寸法リン酸鉄Li材料を生成する。
【0126】
いくつかの実施形態において、乾燥粉末タップ密度測定によって見積もられるように、リン酸鉄二水和物の二次的モルフォロジは、0.5から1の範囲の高い充填密度で相当に密である。いくつかの実施形態において、より効率的に多量に粉末を扱い保管することができるように、タップ密度は0.7から1の範囲にある。
【0127】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物の二次粒子モルフォロジは、十分に結晶化した凝集体、および大きい分率の非晶質リン酸鉄(約5重量%)を含まない個別のナノ寸法結晶で構成される。非晶質のリン酸鉄とは対照的に、結晶は、粉砕工程中により摩耗性であり、他の前駆体材料(例えば炭酸リチウム)を減少させることができ、均質化工程の終点で、より均一な混合物が結果として得られる。また、二次凝集体粒子は、SEM顕微鏡写真で特性評価することができる十分に結晶化した、個別のナノ寸法粒子を含む。そのような二次凝集体粒子は、高エネルギー粉砕工程中で分離することができ、均質化工程段階の完了時に非常に均質の混合物が結果として得られる。
【0128】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物の比表面積は、25から65m2/g(BET)の間にある。いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物の比表面積は、30から55m2/g(BET)の間にある。いくつかの実施形態において、リン酸鉄二水和物の比表面積は、30から50m2/g(BET)の間にある。比表面積は、粒子モルフォロジに対応する容易に定量できる特性である。一次粒径、すなわち最小個別結晶粒子は、測定された比表面積を上限とする。また、一次粒子焼結の充填密度および充填度は、最近接包絡面積をある程度減少させる。
【0129】
非晶質(非結晶性)リン酸鉄の非常に高い分率を有する材料は、対応する大きい表面積を有する。非晶質リン酸鉄の高い分率を含むリン酸鉄は、所望の水含有率より高い不正確な化学量論を含む。
【0130】
いくつかの実施形態において、リン酸鉄前駆体は、約20nmから約40nmの範囲の一次粒径を含み、高度に結晶性であり、高度には焼結されていない個別の一次粒子を含む凝集体で構成されている。そのようなリン酸鉄二水和物は、約30から約50m2/gの範囲の測定比表面積を有すると予想することができよう。本明細書に記載された工程によるこのリン酸鉄二水和物で合成されたナノ寸法LFPは、例えばハイブリッド車駆動条件によって要求される高い電力用途のリチウムイオンバッテリーに使用することができよう。
【0131】
方法
別の態様において、リチウムイオンバッテリーカソード材料用のLFPドープしたカンラン石を製造するためのリン酸鉄二水和物前駆体の合成の方法が記載される。
【0132】
いくつかの実施形態において、金属または磁性不純物を除去するために1つまたは複数の磁気トラップを使用するステップを含む、金属または磁性不純物を実質的に含まない高純度結晶性リン酸第二鉄二水和物材料を合成する方法が記載される。いくつかの実施形態において、本方法は、1つまたは複数の合成ステップを含み、1つまたは複数の磁気トラップが、合成ステップのいずれかの前、間もしくは後に、またはその任意の組み合わせで使用される。いくつかの実施形態において、金属トラップは希土類磁石を含む。
【0133】
いくつかの実施形態において、複数の磁気トラップが、不純物選別の全体的な効果を向上させるために、平行にまたは直列に実施される。いくつかの実施形態において、トラップを含む磁石の強度は、1から20kGaussの範囲にある。いくつかの実施形態において、トラップを含む磁石の強度は、8から14kGaussの範囲にある。
【0134】
1つまたは複数の磁気トラップは、合成の任意のステップで、または合成の多段階で実施することができる。1つまたは複数の磁気トラップはまた、最終生成物、リン酸鉄の形成後、実施することができる。いくつかの実施形態において、酸化鉄または金属鉄不純物の磁気分離および捕捉は、白色もしくは明るいピンク色のストレンジャイトまたはメタストレンジャイト相の結晶化の開始前に実施される。他の実施形態において、汚染物質の磁気分離および捕捉は、結晶化後、および乾燥に先立ち最終生成物が濾過され洗浄される前に生じる。
【0135】
いくつかの実施形態において、金属材料は、リン酸鉄合成の1つまたは複数の合成ステップにおいて使用される。いくつかの特定の実施形態において、酸化鉄または鉄金属などの金属材料は、リン酸鉄の合成の出発材料として使用することができる。これらの特定の実施形態において、1つまたは複数の磁気トラップは、残渣金属材料を除去するために酸化鉄または鉄金属を含む合成ステップ後に使用して、最終生成物、リン酸鉄中の金属不純物のレベルを低下させることができる。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の磁気トラップは、任意の金属または磁気反応体材料を含まない合成法または合成ステップにおいて使用される。いくつかの特定の実施形態において、非磁性体、例えば、硫酸第一鉄または塩化第一鉄が、合成の出発材料として使用され、最終生成物、リン酸鉄中の磁性不純物のレベルを低下させるために、1つまたは複数の磁気トラップが工程中で使用される。
【0136】
合成における金属または磁気反応体の使用は、最終生成物、リン酸鉄中の磁性不純物に寄与し得る。本出願人らは、驚いたことに、任意の金属または磁気反応体材料を含まない合成法においてさえ、1つまたは複数の磁気トラップが、リン酸鉄の金属不純物のレベルを低下させるのになお必要であり得ることを見出した。いかなる特定の理論にも束縛されないが、金属または磁気反応体以外の供給源からの金属不純物はまた、リン酸鉄生成物中の磁性不純物に寄与し得ると考えられる。例えば、磁気または金属不純物は、合成の様々な工程段階の金属設備の使用から結果として生じる金属同士の摩耗により導入され得る。
【0137】
本明細書において記載される実施形態のいずれかによる改良法によって製造されたリン酸鉄は、市販の通常のリン酸第二鉄生成物より極少量の閉じ込められた酸化鉄、水酸化鉄、鉄、鋼鉄またはステンレス鋼汚染物質を含む。いかなる特定の理論にも束縛されないが、磁気トラップの効率的使用は、低レベルの鉄化合物不純物または磁性不純物に寄与すると考えられる。いくつかの実施形態において、強い勾配磁場を通過する溶液に印加される剪断力、および溶液の流速は、磁性不純物のほぼ完全除去を保証するために適切に制御される。いくつかの実施形態において、複数のトラップ(直列または平行の)の思慮深い使用は、低レベルの鉄化合物不純物または磁性不純物に寄与する。いくつかの実施形態において、結果として得られたリン酸第二鉄中の磁性汚染物質は、1ppm未満である。いくつかの実施形態において、結果として得られたリン酸第二鉄中の磁性汚染物質は、100ppb未満である。
【0138】
他の実施形態において、強い磁石は、外部循環ループを必要とせずに混合貯槽および反応貯槽へ直接挿入される。これらの実施形態において、磁石のトラップ効率は、混合タンク内の磁石の適当な空間的配置、および磁極からの磁性汚染物質の剪断力抽出を回避する適当な流体の流速に依存する。
【0139】
リン酸鉄の合成の従来法は、通常特定の鉄(II)化合物の「一ポット」酸化を含んでいる。「一ポット」方式においては、一連の別々の段階で反応を行うのではなく、使用される試薬および材料が1つの容器で一緒に混合され、中間体のいずれをも分離せずに反応させる。しかし、試薬がすべて「一ポット」で混合され、生成物のリン酸鉄は1回だけ洗浄されるので、生成物から完全に反応不純物を除去するのは大抵の場合困難である。その結果、合成されたリン酸鉄は、硫酸塩、塩化物、硝酸塩、金属、金属酸化物および他の磁性材料などの高濃度不純物をしばしば含んでいる。
【0140】
従来法の例において、硫酸第一鉄(II)の水溶液は、強酸の添加を伴って過酸化水素または同様の強い酸化剤で酸化し、水性第二鉄の溶液(式I)を得ることができる。非晶質の沈殿物(式II)のゲル化を阻止するために、リン酸塩および第二鉄の溶液は、急速な撹拌および均質化をしながら混合される。非晶質リン酸第二鉄沈殿物スラリーは、80℃にまたは85〜100℃の間で加熱されて、リン酸第二鉄二水和物(式III)を結晶化する。この従来の「一ポット」法によって、粉末X線回折、XRDによって特性評価される結晶相は、通常、高温晶析工程の間の最終水溶液のpHに応じて、メタストレンジャイトII、またはメタストレンジャイトI、またはストレンジャイトである。最も酸性のpH条件、pH<1.0は、本質的に純粋なメタストレンジャイトI(文献でホスホシデライトとも呼ばれる。)を生成する。1〜2のpH範囲において、準安定性のメタストレンジャイトII相が観察される。より高いpH条件、pH>2では、主な結晶相としてストレンジャイトを生成する。
【化1】
【0141】
通常、従来法またはその変形法の合成のすべてのステップ、例えば、式I、II、およびIIIのステップは、一ポットで行われる。したがって、各ステップから得られた生成物は、独立した精製をしない以降のステップに直接使用される。したがって、その結果、硫酸塩、塩化物、硝酸塩、金属、金属酸化物および他の磁性材料などの、前の反応からの不純物は、次の反応に、および最終生成物としてのリン酸鉄材料に持ち越される。もしリン酸鉄から合成されたリン酸鉄リチウム材料に持ち込まれれば、これらの不純物がバッテリー特性を劣化させる原因になり得る。
【0142】
合成の中間体を完全に洗浄することができる追加のステップを含み、それにより著しく不純物が減少したリン酸鉄二水和物が結果として得られる、リン酸鉄二水和物を合成する新規の二ポット法が本明細書に記載される。
【0143】
二ポットリン酸鉄合成方法A
リン酸鉄二水和物の2ステップ(二ポット)合成を含む方法が、本明細書に記載される。リン酸第一鉄は、第1のステップにおいて沈澱させられ、洗浄され、第2のステップにおいて所望のリン酸第二鉄生成物の固体状態酸化および結晶化が続く。この方法によって製造されたリン酸第二鉄は、上記の、一般に記載される「通常」経路のいくつかの変形法によって製造された材料より優れている。
【0144】
第1のステップにおいて、リン酸塩の水溶液は、第一鉄塩の水溶液に添加される。鉄(II)塩の非限定的な例は、硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、その任意の水和物、またはその混合物を含む。リン酸塩の非限定的な例は、リン酸二アンモニウムを含む。いくつかの実施形態において、スラリーがゲル化するのを阻止するために急速な撹拌をしながら、水溶液のリン酸二アンモニウムは、硫酸第一鉄八水和物の水溶液に添加される(式IV)。いくつかの実施形態において、溶液pHを4〜5超に上げるために、水酸化アンモニウムが溶液に添加され、高収率で藍鉄鉱(リン酸第一鉄八水和物)が得られる。形成された藍鉄鉱は暗青色の沈殿物であり、何らかの可溶性不純物を除去するために完全に洗浄される。可溶性不純物の非限定的な例は、FeSO4または他の任意の可溶性硫酸塩不純物を含む。いくつかの実施形態において、約45〜65℃の高温で溶液を緩やかにエージングすると、粒径を増し、より良好な濾過、およびリン酸第一鉄中間生成物から残留する硫酸アンモニウム不純物のより効率的な洗浄を可能にする。
【化2】
【0145】
第2のステップにおいて、青色のリン酸第一鉄八水和物は、急速な撹拌をして水スラリー中に懸濁される。次いで、酸化剤が添加される。酸化剤の非限定的な例は、過酸化水素を含む。いくつかの実施形態において、リン酸は、濃い過酸化水素または別の強い酸化剤と共にスラリーに添加される(式V)。いくつかの実施形態において、鉄の第二鉄イオンへの酸化速度を上げるために、溶液温度を上げることができ、これは、溶液中のリン酸塩によって迅速に沈澱させられる。いくつかの実施形態において、酸化は、35〜65℃からの溶液温度で効果的に完了する。いくつかの実施形態において、溶液温度は、>80℃または85〜100℃の間に上げ、所望のリン酸第二鉄二水和物相を結晶化させることができる。合成されたリン酸鉄前駆体は、通常、単一の相または同形の相、つまり、メタストレンジャイトII、またはメタストレンジャイトI、またはストレンジャイトの混合物である。その正確な結晶形は、高温晶析工程の間の最終水溶液のpHに依存する。最も酸性のpH条件下、pH<1.0では、文献でホスホシデライトとも呼ばれる本質的に純粋なメタストレンジャイトIを生成する。1〜2のpH範囲において、準安定のメタストレンジャイトII相が観察される。より高いpH条件、pH>2では、結晶相としてストレンジャイトを生成する。
【化3】
【0146】
いくつかの実施形態において、第2のステップにおいて、最終生成物、リン酸鉄二水和物は、再び洗浄され何らかの可溶性不純物を除去する。
【0147】
本明細書に記載される2段階(二ポット tow−pot)工程(方法A)によって製造されたリン酸第二鉄は、リチウムイオンバッテリー用LFPの合成のための前駆体として使用することができ、上記の特性をすべて満たすことができる。
【0148】
いくつかの実施形態において、方法Aによって製造されたリン酸鉄材料は、約28.4重量%を超える鉄含有率、約16.0重量%を超えるリン含有率および1.00を超えるP/Fe比率を有する。
【0149】
いくつかの実施形態において、方法Aによって製造されたリン酸鉄材料は、ICPによって確認されるように、通常<700ppmおよび100ppmもの低さの非常に低レベルの残留硫酸塩不純物を含み、またナトリウムレベルは、微量と同等またはイオン化水レベルである。
【0150】
いくつかの実施形態において、第2のステップの結晶化中の適切なpH制御をすると、方法Aによって製造されたリン酸鉄材料は、単一の結晶相、メタストレンジャイトII(粉末XRD分析によって解析される)を一貫して有する。
【0151】
いくつかの実施形態において、他の結晶化条件(ステップ2のより高いpH)下で、一貫して単一の結晶相、ストレンジャイト(粉末XRD分析によって解析される)であるリン酸鉄を得ることができる。
【0152】
いくつかの実施形態において、方法Aによって製造されたリン酸鉄材料は、Debye−Shearer分析(XRD線幅)によって測定して、約20から約100nmの粒度範囲の一次粒子で構成されている。いくつかの実施形態において、一次粒子は密に充填されているが、光散乱計測によって約2から約4μmの間と推定されるメジアン母集団サイズを有する焼結されていない凝集体である。いくつかの実施形態において、SEM特性評価も使用することができ、一次粒径および凝集体粒子のモルフォロジが均一であることが明らかにされる。いくつかの実施形態において、リン酸第二鉄二水和物材料の凝集粒子の寸法は、約4μmから約10μmの間にある。
【0153】
いくつかの実施形態において、方法Aによって製造されたリン酸鉄材料は、BETによって約30から約55m2/gの範囲の比表面積を有し、二次粒子凝集による一次粒径および最近接包絡面積を裏付けている。
【0154】
いくつかの実施形態において、方法Aによって製造されたリン酸鉄材料は、メタストレンジャイト(II)の場合、約2から約4のpH範囲、およびストレンジャイトリン酸鉄の場合、約3から約5のpH範囲の酸性表面を有する。
【0155】
いくつかの実施形態において、方法Aは、磁性不純物を除去するための磁気トラップの使用をさらに含む。磁気トラップは、第1のステップまたは第2のステップに使用することができる。磁性不純物の非限定的な例は、Fe3O4、鋼鉄、または他の鉄含有合金を含む。特定の具体的な実施形態において、磁気トラップは希土類磁石を含む。特定の具体的な実施形態において、磁性不純物は強い磁界勾配に材料を通すことにより除去される。
【0156】
ツーポットリン酸イオン合成法B
リン酸鉄二水和物を合成する別の2ステップ(二ポット)法が記載される(方法B)。第1のステップにおいて、第一鉄塩の水溶液は、可溶性リン酸塩の存在下で酸化体で酸化され非晶質リン酸鉄を形成する(式VI)。第一鉄塩の非限定的な例は、硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、その任意の水和物、またはその混合物を含む。リン酸塩塩の非限定的な例は、リン酸二アンモニウムを含む。酸化体の非限定的な例は、過酸化水素を含む。第一鉄イオンの第二鉄イオンへの酸化が第1のステップにおいて起こるので、方法Bは方法Aと異なる。いくつかの実施形態において、酸化は、約65℃以下の比較的低温で起こる。酸化の後、黄色からオフホワイト色の非晶質リン酸鉄が沈澱する。いくつかの実施形態において、第1のステップの濾過によって収集された非晶質リン酸鉄粗材料は、非常に高い分率の水(室温で風乾した場合、約30重量%)を含む、非常に小さい粒子、約10nmの粒子で構成される。いくつかの実施形態において、この非晶質の黄色のケーキは、正確な乾燥条件に依存して、H2O:Fe:リン酸塩モル比3〜5:1:1を有する薄い褐色またはわずかにオレンジ色の材料に乾燥される。次いで、方法Bのステップ1からの粗リン酸鉄材料は、洗浄され何らかの残りの可溶性不純物をも除去する。可溶性不純物の非限定的な例は、FeSO4または2SO4(NH4)、または他の任意の可溶性硫酸塩不純物を含む。
【化4】
【0157】
方法Bの第2のステップにおいて、非晶質リン酸第二鉄は結晶化され、結晶性リン酸鉄二水和物(式VII)を形成する。いくつかの実施形態において、非晶質リン酸第二鉄は、高速混合で水性リン酸溶液に懸濁され、溶液pHは、メタストレンジャイトIには約1未満の範囲に、メタストレンジャイトIIには約1から約2の範囲に、またはストレンジャイトには約2から約3の範囲に調節される。いくつかの実施形態において、スラリーは約80℃を超える、または約85から約100℃の間の温度に加熱され、所望のリン酸第二鉄二水和物材料を結晶化する。高い剪断を有する急速撹拌は、高い固体含有率のスラリーのフロキュレーションおよび非常に大きい凝集体粒子の形成を阻止することができる。反対に、予備加熱された溶液へのスラリーの遅いまたは制御された添加速度は、粒子成長速度を高め(新しい凝集体の核形成を抑圧)、凝集体粒径を増加することができる。スラリー添加速度、スラリー加熱移行速度および剪断混合速度の制御によって、凝集体粒径およびタップ密度に対する正確な制御を達成することができる。
【化5】
【0158】
いくつかの実施形態において、方法Aは、磁性不純物を除去するための磁気トラップの使用をさらに含む。磁気トラップは、第1のステップまたは第2のステップにおいて使用することができる。磁性不純物の非限定的な例は、Fe3O4などの酸化鉄、鋼鉄、または他の鉄含有合金を含む。特定の具体的な実施形態において、磁気トラップは希土類磁石を含む。特定の具体的な実施形態において、磁性不純物は、強い磁界勾配に材料を通すことにより除去される。
【0159】
いくつかの実施形態において、第2のステップにおいて、最終生成物、リン酸鉄二水和物は、再び洗浄され何らかの可溶性不純物を除去する。
【0160】
本明細書に記載されるリン酸鉄合成工程(方法Aおよび方法B)の利点の1つは、二ポット工程である。水性鉄溶液からの沈澱は、結晶化(または高温エージング)ステップとは別のステップで起こる。それにより、各方法で、沈澱(方法Aまたは方法Bの第1のステップにおいて)において、第1の、および結晶化(方法Aまたは方法Bの第2のステップにおいて)の後に第2の、2つの洗浄が生じ、それによって、望まれない硫酸塩(または陰イオン)不純物を非常に低レベルに減少させる。本明細書に記載されるリン酸第二鉄合成法の別の利点は、工程が水溶液として出発するということであり、その結果、鉄含有不溶性不純物の濾過または希土類磁石を使用する磁気トラップによって除去することができる。具体的には、本明細書に記載される方法Aまたは方法Bにおいて、硫酸第一鉄(または硝酸第二鉄または塩化第二鉄を含む変形)は、100nmのカートリッジフィルターに通すおよび/または希土類元素磁石に通すことができる。酸化鉄(例えば、Fe3O4)、または鋼鉄または他の鉄含有合金のような不溶性(または、ほとんど不溶性)の不純物は、強い磁界勾配に通すことによって、効果的に捕捉される。結果として得られたリン酸第二鉄粉末は、酸化鉄および鋼鉄の粒子がバッテリー環境において不安定になり得るので、バッテリー用途に対してより望ましい。
【0161】
方法Aまたは方法Bによって合成された結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、リチウムイオンバッテリー用のLFPを合成する前駆体として使用するための望ましい特性を有する。方法Aまたは方法Bによって合成された結晶性リン酸第二鉄二水和物材料は、約28.3重量%から約29.6重量%の鉄;約16.0重量%から約16.9重量%のリン;および約0.5重量%未満の硫酸イオンを含む。方法Aまたは方法Bによって合成された結晶性リン酸第二鉄二水和物材料のリンの鉄に対するモル比は、約1.001から約1.05である。そのようなリン酸第二鉄二水和物材料は、約30m2/gから約50m2/gの表面積を有し、金属または磁性不純物を実質的に含まない。
【0162】
さらに別の態様において、リチウムイオンバッテリーカソード材料用のLFPドープしたカンラン石の製造のためのリン酸鉄前駆体の合成の方法が記載される。この点では、鉄化合物が、リン酸の水溶液に添加される。鉄化合物の完全溶解を保証するために、溶液のpHおよび温度が制御される。所望のリン酸鉄結晶性材料は、高純度および高い結晶相純度で得ることができる。反応工程の間または最終生成物の形成後に、1つまたは複数の金属トラップが、鉄、金属、磁性不純物を除去するために用いられる。例示の鉄化合物は、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、水酸化鉄、オキシ水酸化鉄(iron oxy−hydroxide)、および炭酸鉄を含むが、これらに限定されない。例示の鉄化合物はまた、本明細書において記載される2種以上の鉄化合物の任意の混合物を含むことができる。いくつかの実施形態において、鉄出発材料は、低酸化状態(すなわち、Fe(II)、またはFe3O4におけるような混合酸化)にある。鉄の低酸化状態が鉄出発材料中に存在する場合、酸化剤が使用される。
【0163】
安価な酸化鉄、水酸化鉄、オキシ水酸化鉄、または炭酸鉄から出発する、極低レベルの鉄含有不純物を有するリン酸第二鉄の製造の方法が、本明細書に記載される。いくつかの実施形態において、酸化鉄および他の鉄含有出発材料は、反応中に完全に消費される、または最終リン酸第二鉄生成物から<100ppmレベルに効果的に除去される。この方法によって製造された高純度のリン酸第二鉄は、リチウムイオンバッテリー用のリチウム含有材料の製造に適切である。
【0164】
リン酸またはリン酸およびリン酸塩の混合物は、水溶液として導入することができる。リン酸およびリン酸塩は、体積比1:10から1:1まで水で希釈することができる。次いで、酸化鉄、水酸化鉄、もしくはオキシ水酸化鉄、または炭酸鉄は、リン酸塩/リン酸溶液に混合され、濁ったスラリーを結果として与える。酸性リン酸水溶液による鉄オキシ化合物の溶解を容易にするために、温度を上げることができる。その低い溶解性のために、リン酸第二鉄が、非晶質リン酸第二鉄水和物として溶液から沈殿する。
【0165】
いくつかの実施形態において、リン酸溶液は非常に濃厚である。いくつかの実施形態において、水:リン酸の体積希釈は、約1:1から約4:1の間である。リン酸溶液の高い酸性度は、出発酸化鉄(または水酸化物または炭酸塩)材料の完全なまたはほとんど完全な溶解を、室温または室温近くで可能にし得る。濃厚で、高度に酸性の亜リン酸溶液の使用は、鉄化合物出発材料の完全溶解を保証するのを助け、それにより最終生成物(すなわち、リン酸鉄)中の出発材料系鉄の磁性不純物をすべて実質的に除去すると考えられる。他の実施形態において、出発材料が、焼結、熱処理または乾燥されていない、非晶質オキシ水酸化鉄の含湿ケーキの形態をしている場合、鉄出発材料の完全溶解が得られる。例えば、鉄(オキシ/ヒドロキシル水和物としての)の微細な非晶質粒子ケーキは、pH>5、またはpH>7に高めることによって透明な硫酸鉄溶液(Fe(II)、Fe(III)またはその混合物であり得る)から容易に回収される。微細なコロイド性鉄水酸化物懸濁液は、圧搾濾過または遠心機によって回収することができ、結果として得られたケーキ(乾燥の有無に関わらず)は、本明細書において記載されるようなリン酸第二鉄の合成の鉄材料として適切である。これらの実施形態において、鉄化合物は、非常に強い酸性のリン酸溶液中に細かく分散したコロイド懸濁液であり、これは酸化鉄から遊離の鉄への変換を容易にし、ほとんど透明な溶液が結果として得られる。いくつかの実施形態において、溶液は、約95℃未満の温度に穏やかに加熱され、透明な溶液または低い濁り度を有する溶液が得られる。磁気選別トラップの実施は、溶液の固体粒子含有率が最小である場合、最も有効であることが分かる。
【0166】
反応の完了を容易にし保証するために、水性リン酸塩溶液への鉄出発材料の添加中に、溶液の温度およびpHが制御される。溶液のpHは、酸化鉄/水酸化鉄/炭酸鉄原料の完全溶解を促進するために、低いままである。いくつかの実施形態において、溶液のpHは2未満である。いくつかの実施形態において、溶液のpHは1未満である。いくつかの実施形態において、濁っている混合物の温度は、約35℃から約105℃の間になるように制御される。いくつかの実施形態において、濁っている混合物の温度は、約55℃から約75℃の間になるように制御される。特定の理論またはさらなる作用に束縛されないが、高い温度は鉄出発材料の完全溶解を容易にすると考えられる。しかし、過度な高温は、リン酸第二鉄の非常に大きい結晶相の成長を容易にし、汚染物質として酸化鉄を閉じ込めて捕捉し得る。
【0167】
いくつかの実施形態において、鉄出発材料は、第二鉄の、すなわちFe(III)の酸化状態である。いくつかの実施形態において、鉄出発材料は、低酸化状態(すなわち、Fe(II)、またはFe3O4におけるような混合酸化)にある。鉄の低酸化状態が鉄出発材料中に存在する場合、酸化剤、例えば、過酸化水素、溶存空気もしくは溶存酸素、または、他の穏やかな酸化体は、濁っている混合物に添加し、反応工程においてFe(II)をFe(III)に酸化することができる。リン酸第一鉄、Fe(II)の溶解度積は、水溶液中でリン酸第二鉄より高い。そのため、Fe(III)陽イオンは、濁っている溶液中で遊離のリン酸イオンと優先的に錯体を形成し、非晶質リン酸第二鉄水和物懸濁液を形成する。鉄材料の完全な利用および最終生成物の正確な化学量論(P/Feモル比)を保証するために、第一鉄、Fe(II)、は、すべてFe(III)に酸化する必要がある。
【0168】
鉄出発材料の溶解およびFe(II)のFe(III)への酸化後、遊離の第二鉄陽イオンはリン酸塩と錯体を形成し、薄黄色の濁った溶液が結果として得られる。次いで、濁った溶液の温度を上げ、メタストレンジャイトI、メタストレンジャイトII、ストレンジャイトまたはその混合物のいずれかの相形態のリン酸第二鉄二水和物の結晶化を開始させる。いくつかの実施形態において、濁った溶液の温度は、65℃超に上げられる。濁った溶液のpHおよびスラリー温度が溶液の全体にわたって均一になるように制御される場合、結果として得られるリン酸第二鉄の結晶相を制御することができる。これらの実施形態において、純粋な、またはほぼ純粋な結晶相を有する、リン酸第二鉄を得ることができる。
【0169】
いくつかの実施形態において、濁った溶液の温度は、晶析工程を加速するために70℃超に上げられる。いくつかの実施形態において、濁った溶液の温度は、晶析工程を加速するために75℃超に上げられる。いくつかの実施形態において、反応温度は約95℃未満に保たれ、リン酸第二鉄のメタストレンジャイト相が優先的となる。いくつかの実施形態において、反応温度は約85℃未満に保たれ、リン酸第二鉄のメタストレンジャイト相が優先的となる。他のいくつかの実施形態において、反応温度は約95℃に保たれ、リン酸第二鉄のより安定なストレンジャイト相が優先的となる。
【0170】
いくつかの実施形態において、溶液のpHは約1.0であり、純粋なメタストレンジャイトIIリン酸第二鉄未満が生成する。他の実施形態において、溶液のpHは約1から約2の範囲にあり、準安定のメタストレンジャイトI相を有するリン酸第二鉄が生成する。さらに他の実施形態において、溶液のpHは約2を超え、ストレンジャイトがリン酸第二鉄の主な結晶相として観察される。いくつかの実施形態において、溶液の温度は85℃未満になるように制御され、溶液のpHは1以下に維持される。これらの実施形態において、メタストレンジャイトIIリン酸第二鉄の非常に高純度の単一結晶相が得られる。他の実施形態において、溶液の温度は85℃未満になるように制御され、溶液のpHは、約1から約2の間の範囲に維持される。これらの実施形態において、メタストレンジャイトIの非常に高純度の単一結晶相が得られる。さらに他の実施形態において、反応温度は、約85から約105℃の範囲であり、メタストレンジャイトおよびストレンジャイトの混合物が結果として得られる。
【0171】
図12は、市販供給源から購入した5ロットのリン酸第二鉄(E53−91)の粉末X線回折パターンの例証である。標準パターンは、図の下部に示されるように、2つの結晶相、ホスホシデライトおよびストレンジャイトである。X線回折パターンの標準と比較することによって、リン酸鉄(II)の異なる市販ロットが、これらの二相(およびことによると他の成分)の異なる比率を含んでいることが確証される。図12において示されるように、リン酸第二鉄生成物に検出された結晶相における変動は、製品を製造するために使用される実用的工程の反応溶液の温度とpH(市販品におけるロット内変動に寄与し得る)のどちらかが、または両方が、本明細書において記載されるように、制御されていないことを示し得る。
【0172】
本明細書に記載される、改善された合成工程の態様は、任意の検出可能な量の未反応の鉄出発材料が、リン酸第二鉄最終生成物から完全に除去されることである。いくつかの実施形態において、2つのプロトコルが、バッテリー電極材料の使用に適切な、生成するリン酸第二鉄の高純度を保証するために実施される。第一に、鉄出発材料の酸性砕解中に溶液を混合し揺動する、高度に効率的な手段が使用される。例示の効率的な混合手段は、インクおよび他の化合物混合物の分散に使用されるものなどの機械式高剪断混合デバイスを含むが、これらに限定されない。第二に、非常に微細な汚染物質粒子を選別し除去する非常に効率的な手段が使用される。汚染物質を除去する例示の効率的な手段は、磁界トラップを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、粗のリン酸第二鉄溶液が、一連の高強度磁束トラップを経由して外部の高剪断混合貯槽にポンプ注入される、循環ループが使用される。リン酸第二鉄溶液中に残る酸化鉄または水酸化鉄粒子は、それらが棒磁石に隣接している強い磁界勾配を通って移動するとき、磁極に引きつけられる。酸化鉄(水酸化物)は非晶質リン酸鉄生成物より高い強磁性モーメントを有し、磁界トラップによって小さな汚染物質を分離する有効な手段が可能になる。いくつかの実施形態において、リン酸第二鉄溶液の流体の流れは、トラップの本体によって棒磁石の数ミリメートル(<1cm)内に閉じ込められる。いくつかの実施形態において、磁石上を流れる流体の急速な層流力が、汚染物質を磁極から遠ざけ溶液に戻ることがないように、磁気トラップを過ぎて流れる流体の速度が最適化される。他の実施形態において、非磁性汚染物質は、このステップで同様に除去される。
【0173】
いくつかの実施形態において、リン酸中の溶解性鉄の濃厚溶液はさらに希釈され、または、塩基(例えば、水酸化アンモニウム)の添加によって、pHが高められ、所望のリン酸第二鉄相を十分に沈澱させる。これらの実施形態において、溶液温度および最終の溶液pH(希釈物または塩基の添加によって)は、所望の結晶相を有するリン酸第二鉄を得るために注意深く制御される。いくつかの実施形態において、懸濁固体生成物が白色、オフホワイト色または明るいピンク色になるとき、所望の結晶相を有するリン酸第二鉄は単離される。その後、生成物は、濾過または遠心機によって収集され、洗浄されて、過剰リン酸塩、およびもし使用されていればアンモニアを除去することができる。
【0174】
本明細書に記載される合成法の別の態様は、合成の様々な工程段階中の設備の使用から生じる金属同士の摩耗から導入される金属汚染物質は、除去されまたは回避されるということである。図13は、湿式粉砕したリン酸第二鉄から回収した磁性不純物の顕微鏡画像の例証である。図13の画像は、寸法が20μmより幾分大きい輝く金属粒子を示し、XRDによってFe、Cr、Ni線であると同定されるように、鋼鉄、最も確からしくはステンレス鋼に対応する。ICP−AESによる追加の元素分析は、汚染物質中のクロムおよびニッケルのレベルが概算で2:1(Cr:Niモル比)であることを裏付け、汚染物質中のニッケルレベルは概算で2:1(Cr:Niモル比)であり、これは300系ステンレス鋼と一致している。この等級のステンレス鋼は、化学的腐食に対する耐性により、実用的化学処理装置、例えば、高速混合羽根および化学反応器において極めて普通に使用されている。しかし、鋼鉄およびステンレス鋼は、これらの粒子がリチウムイオンバッテリー(ちょうど上記の鉄および酸化鉄のように)中で不安定であるので、バッテリー等級化学物質において、なお望ましくない汚染物質である。また、おそらく設備損耗からの鋼鉄の大きい「ひげ剃り(shaved)」断片は、リチウムイオンバッテリーに使用される非常に薄いポリオレフィンセパレーターを貫通するほど大きい。数十ミクロン長の金属粒子は、薄いポリマーセパレーターを貫通する場合、アノードとカソードを潜在的に短絡させ、バッテリー貯蔵容量を破壊し得る。
【0175】
したがって、活性なバッテリー材料に使用する適切な原料の合成および製造において、鉄、鋼鉄またはステンレス鋼を含む材料の汚染を阻止するためには、設備の金属同士の損耗のすべての源を減少させる、またはなくす必要がある。特定の例として、反応中に溶液を分散させるために使用される高剪断のミキサー羽根またはプロペラは、羽根軸に炭素鋼またはステンレス鋼のボールベアリングを有している。これらのボールベアリングは、金属同士の摩耗により絶えず損耗し、溶液および粉末製品を汚染するミクロン寸法の鉄削リクズを生成する。本明細書に記載される合成工程中に、薬品溶液または試薬と接触し得る金属表面は、可能であれば、セラミックまたはプラスチックと置き換えられる。
【0176】
いくつかの実施形態において、高剪断混合羽根および櫂型混合機シャフトは、プラスチックで被覆され、ベアリングは希土類元素安定化酸化ジルコニウムのような耐摩耗性セラミックで製造されている。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される工程において使用される主要な反応貯槽は、セラミックライニングされ、またはセラミックで被覆されている。セラミック被覆は、例えば、HDPEより効率的な伝熱を可能にし、同時にリン酸第二鉄生成物を汚染する金属削リクズの可能性をなくす。いくつかの実施形態において、濾過ユニットは、プラスチック、または粉末の金属表面との直接的な接触を回避するためにライニングされたプラスチックである。いくつかの実施形態において、濾過ユニットはプレスフィルターまたは遠心分離機である。
【0177】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される方法において使用される耐摩耗性設備は、粉末をブレンドするおよび粉末ケーキを粉砕する設備である。濾過または遠心分離から回収された含湿ケーキを乾燥した後、リン酸鉄材料は、大きい硬質の集合体または塊であり、自由流動する粉体ではない。硬質の集合体は、ジェットミル、微粉砕機(pulverize mill)、高速オーガブレンダー、または同様の従来の粉末破砕設備で細粉に分解される。これらの回転羽根はすべて、金属同士の摩耗が起こる場合がある潜在的な表面を有し、したがって、リン酸第二鉄粉末の潜在的な金属汚染のポイントである。これらの実施形態において、可能であればジルコニアベアリングが使用され、特に設計されたプラスチックまたはプラスチック被覆羽根、およびプラスチックまたは、セラミックライニングされた表面が、粉砕機で使用される。プラスチックライニングは、粉砕機またはブレンド設備の金属内表面と結合した高密度ポリオレフィン(HDPEまたはHDPP)またはポリウレタンのカスタム平板であってもよい。
【0178】
したがって、本明細書の1つまたは複数の実施形態に記載されているように、鋼鉄(炭素鋼、クロム鋼、ステンレス鋼、他の金属)と、化学試薬、出発材料、溶液、スラリー、含湿ケーキ、または乾燥粉末との直接接触は、バッテリー等級リン酸第二鉄の鉄含有金属粒子での汚染を減少させる、またはなくすために回避される。いくつかの実施形態において、そのような接触は、鋼鉄部品をセラミックで被覆する、または鋼鉄部品をプラスチック部品に置き換えることによって回避される。
【0179】
本発明の記載および実施形態を概観すれば、当業者は、本発明を実施する際に、本発明の本質から離れることなく、変形および等価な代替を行い得ることを理解するであろう。したがって、上に明示的に記載された実施形態によって本発明を限定することを意味せず、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0180】
実験項
バッテリー製造に適切として上市されているChemische Fabrik Budenheimから購入した品物番号E53−91のリン酸第二鉄を、国際出願:PCT/US09/31552(2009年1月21日に出願され「リチウムイオンバッテリー用の混合金属カンラン石電極材料」”Mixed Metal Olivine Electrode Materials For Lithium Ion Batteries,”と題され、これは参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。)に記載されている方法によって、ナノリン酸塩(ドープしたリン酸鉄リチウム)の製造において評価した。また、次いで、製造したナノリン酸塩を、異なるバッテリー形態因子(円筒状、角柱状)のリチウムイオンバッテリーについて評価した。これらの評価検討は、リン酸第二鉄の純度および安定性におけるさらなる改善の必要性を示す。特に、市販のリン酸鉄(III)中の酸化鉄または鉄汚染物質の存在は、合成プロトコルのさらなる改善の必要性を説明する。
【0181】
比較例
従来法において、第二鉄イオンの水溶液を硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)水和物または塩化第二鉄から調製する。または、代替として、硫酸第一鉄(II)の水溶液を、強酸の添加と共に、過酸化水素または同様の強い酸化剤で酸化し、第二鉄の水溶液を得ることができる。代替として、鉄金属粉末または金属酸化物を、続いて、濃硫酸、濃硝酸、または濃塩酸中で随意の緩やかな加熱と共に溶解し、第一鉄イオン溶液を得る、最初の鉄供給源として使用することができる。
【0182】
リン酸塩水溶液は、リン酸ナトリウム、リン酸リチウムなどの可溶性リン酸塩から調製することができる。代替として、リン酸、またはリン酸モノアンモニウムもしくはリン酸二アンモニウムを使用することができるが、使用の前に適正量のアルカリ塩基(例えば、NaOH、KOH、NH4OH)で中和してもよい。
【0183】
非晶質の沈殿物のゲル化を阻止するために、急速な撹拌および均質化をしてリン酸塩および第二鉄の溶液を混合する。非晶質リン酸第二鉄沈殿物スラリーを、リン酸第二鉄二水和物を結晶化するために80℃にまたは85〜100℃の間で加熱してもよい。この従来の「ワンポット」法によって、粉末X線回折、XRDによって特性評価する結晶相は、通常、高温晶析工程の間の最終水溶液のpHに応じて、メタストレンジャイトII、またはメタストレンジャイトI、またはストレンジャイトである。最も酸性pH条件、pH<1.0では、文献でホスホシデライトとも呼ばれる、本質的に高純度のメタストレンジャイトIを生成する。1〜2のpH範囲において、準安定のメタストレンジャイトII相が観察される。より高いpH条件、pH>2では、主な結晶相としてストレンジャイトを生成する。
【0184】
通常、従来法またはその変形法の合成ステップはすべて、ワンポットで行われる。したがって、各ステップからの結果として得られた生成物は、独立した精製をしないで以降のステップに直接使用される。したがって、その結果、硫酸塩、塩化物、硝酸塩、金属、金属酸化物および他の磁性材料などの、前の反応からの不純物は、次の反応に、および最終生成物としてのリン酸鉄材料に持ち越される。もしリン酸鉄から合成されたLFP材料に持ち込まれれば、これらの不純物がバッテリー特性を劣化させる原因になり得る。
【0185】
非常に一般的に記載された従来の「ワンポット」法のいくつかの変形法によって製造されたリン酸第二鉄の分析では、通常、リチウムイオンバッテリーカソード製造用の前駆体は、望ましくないいくつかの特性を示す。
【0186】
例えば、硫酸鉄前駆体が従来法において使用された場合、結果として得られたリン酸第二鉄は、ICP、EDSまたはBa沈澱によって確認されるように、例えば、3重量%もの高いレベルの硫酸塩を含むことがある。FP前駆体の望ましくない硫黄含有量は、しばしば粗FP材料の追加洗浄を用いて1重量%未満に減少させることができる。しかし、大規模な洗浄は、非常に大量の廃水を生み、材料にかなりの費用を加え得る。また、恐らく、非常に急速な沈澱の間に材料のバルク中に硫酸塩が閉じ込められる、または捕捉されるので、高硫酸塩材料を1,000ppm未満の硫酸塩に清浄にするのは一般に可能ではない。
【0187】
同様に高いレベルの塩化物または硝酸塩を含むリン酸鉄材料は、鉄塩が塩化第二鉄もしくは塩化第一鉄、または硝酸鉄(III)のいずれかであった、従来法による汎用品市場において見られる。
【0188】
汎用化学品市場に見られる大半のリン酸第二鉄の含有率は、望ましい鉄(<28.4重量%)およびリン酸塩(<16.0重量%)含有率より低い。これは、一般に、より高いレベル陰イオン不純物(SO4、Cl、NO3)により、および/またはより高い水分率による。
【0189】
汎用品リン酸鉄材料は、通常、所望の結晶化度未満であり、これは、より高いレベルの含水率に対応する。
【0190】
いくつかの汎用リン酸鉄化学品は、1未満のP/Fe比率を有していた。いくつかの場合には、0.93もの低いP/Feが検出された。
【0191】
汎用品市場のほとんどのリン酸鉄材料は、約3から約6の間のpHを有し、複数の結晶相を含む。対照的に、本明細書に開示される方法によって製造されたリン酸鉄材料は、高い結晶相純度、一貫した鉄含有率、リン酸塩含有率、水含有率、および鉄とリン酸塩の比率を有する。
【0192】
アメリカ、アジア、およびヨーロッパの様々な供給業者からのリン酸鉄試料を試験した。リン酸第二鉄の多くの汎用品供給業者は、受け入れがたいほど低レベルの鉄および/またはリン酸塩を含むことがわかった。さらに、汎用品市場のほとんどのリン酸第二鉄は、沈澱および結晶化の間におそらく存在する陰イオン塩として、受け入れがたいほど高いレベルの硫酸塩、塩化物または硝酸塩を含んでいる。
【0193】
Budenheimからのリン酸鉄試料(カタログ番号5381、本明細書においてリン酸鉄試料1と呼ぶ)を、評価および試験検討において基準として使用した。Budenheimからのリン酸鉄試料の多くのバッチを分析した。鉄含有率、リン酸塩含有率、および磁性不純物に関して著しい変動が存在した。リン酸鉄の一例に対するXRDパターンを図12に示す。図12に示されたように、試料1は2つの相の混合を示した。
【0194】
試料1は、リン酸第二鉄の液状スラリーの調製、および磁石トラップおよび粒子フィルターに通すことによって、金属および磁性不純物の点検をした。2μmもの大きい単一の一次粒子が見出され、マグヘマイト(maghemitite)、マグネタイトおよびステンレス鋼の磁性不純物が検出された。これらの金属不純物は、リチウムイオンバッテリー中の短絡(カソードとアノードの間で)がバッテリーを使用不可能にするので、受け入れがたい。
【0195】
さらに、試料1は、高分解能SEMによって非常に大きい単結晶を含むことが観察された。1μmもの大きい単一粒子が、ほとんどのロットに検出された。いくつかの実施形態において、バッテリーカソード材料は、30〜50nmの単結晶寸法からなる必要があり、これは、リン酸第二鉄出発材料に最も望ましい微結晶寸法もまた、同じ寸法であることを要求する。さもないと、反応してドープしたカンラン石のカソード材料(他の特許に先に記載されたように)を形成する前に、リン酸第二鉄出発材料の一次粒径を<100nmに減少させるために、長たらしい高エネルギー粉砕ステップが必要となろう。試料1の代表的なSEM像は図13に示され、凝集体粉末において観察された広い範囲の粒径(<100nmから>1μmの結晶寸法)を表す。
【0196】
試料1の非常に大きい一次粒径はまた、比表面積測定に反映されている。分析した試料1の粉末では、比表面積が<18m2/gと測定された。これは、本明細書に記載された工程によって合成された、30〜55m2/gであるリン酸第二鉄材料と対照をなす。
【0197】
実施例1 FePO4−2H2Oの二ポット合成、方法B
硫酸第一鉄(FeSO4−7H2O、227g)を1Lの水に溶解した。リン酸二アンモニウム((ΝΗ4)2ΗΡO4、110g)を0.5Lの水に溶解した。過酸化水素(51g、30重量%)を硫酸第一鉄溶液に添加すると、暗赤色になった。滞留しているstaring鉄およびリン酸塩材料の不溶性材料はすべて、微細メッシュカートリッジフィルターおよび/または希土類磁気トラップのどちらかによって、2つの溶液から除去することができる。特に、ほとんどの鉄塩は、エネルギー貯蔵用途に有害になり得る、微量の不溶性材料を有している。リン酸塩および鉄の溶液は、急速な撹拌をしながら混合する。30〜60分の後、リン酸第二鉄の黄色の沈殿物を濾過した。黄オレンジ色のケーキは、追加のリン酸(58g;85%)H3PO4と共に1.5Lの水中で懸濁し、溶液を加熱して(〜90〜95℃)60〜90分間還流した。ピンク色の結晶性リン酸第二鉄二水和物を濾過し、洗浄し、乾燥した場合154gと秤量された。
【0198】
材料分析は、ICP−AESによるとFe=28.9重量%、P=16.6重量%、SO4<700ppmおよびNa<10ppm、ならびにTGAによるとH2O=19.5〜20重量%である。非常に低いppmレベルの硫酸塩が、リン酸鉄リチウムカソード粉末用の出発材料としての用途に望ましい。硫酸塩は、バッテリー中で不要な副反応を生じることがある。XRDは、材料が、図3に示されるような純粋なメタストレンジャイトI(またはホスホシデライト)であることを示す。
【0199】
実施例2 FePO4−2H2Oの二ポット合成、方法B
硫酸第一鉄(FeSO4−7H2O、278g)を1Lの水に溶解した。リン酸二アンモニウム((NH4)2HPO4、135g)を、0.5Lの水に、リン酸(11.5g、85重量%)および過酸化水素(70g、30重量%)と共に溶解した。滞留している鉄およびリン酸塩材料中の不溶性材料はすべて、微細メッシュカートリッジフィルターおよび/または希土類磁気トラップのどちらかによって、2つの溶液から除去することができる。特に、ほとんどの鉄塩は、エネルギー貯蔵用途に有害になり得る、微量の不溶性材料を有している。リン酸塩および鉄の溶液を急速な撹拌と共に混合した。30分の後、リン酸第二鉄の黄色の沈殿物を濾過した。黄オレンジ色のケーキを、追加のリン酸(58g、85%)H3PO4と共に、1.5Lの水に懸濁し、溶液を加熱し(〜90〜95℃)60〜90分間還流した。ピンク色の結晶性リン酸第二鉄二水和物を濾過、洗浄し、乾燥した場合、198gと秤量された。
【0200】
材料分析は、ICP−AESによって求めたFe=28.0重量%、P=16.6重量%、SO4<300ppm、Na<30ppm、およびTGAによって求めたH2O=20重量%である。XRDは、図4に見られるようなメタストレンジャイトI(またはホスホシデライト)であった。非常に小さい寸法の結晶は、走査型電子顕微鏡写真(図5)で見ることができる。最小の微結晶寸法は、数十ナノメートル程度あり、細長い。細長い微結晶は、長い軸と平行に配列し、より大きい数百nm長の凝集体を形成する。次いで、これらの凝集体は、1〜5μmの平均直径のランダムな集合体に一緒に集合する。
【0201】
実施例3 FePO4−2H2Oの二ポット合成、方法A
硫酸第一鉄(FeSO4−7H2O、200g)を1.5Lの水に溶解した。リン酸二アンモニウム((NH4)2HPO4、66g)を、水酸化アンモニウム(78g、30重量%)と共に0.5Lの水に溶解した。滞留している鉄およびリン酸塩材料中の不溶性材料はすべて、微細メッシュカートリッジフィルターおよび/または希土類磁気トラップのどちらかによって、2つの溶液から除去することができる。特に、ほとんどの鉄塩は、エネルギー貯蔵用途に有害になり得る、微量の不溶性材料を有している。リン酸塩および鉄の溶液を急速な撹拌と共に混合した。30分の後、リン酸第一鉄の青色沈殿物を濾過した。青色のケーキを1.5Lの水に懸濁した。0.5L中の過酸化水素(82g、30重量%)およびリン酸、H3PO4(26g;85%)の溶液を、リン酸第一鉄スラリーにゆっくり添加した。温度は、2時間で〜95〜100℃にゆっくり上げた。ピンク色の結晶性リン酸第二鉄二水和物を濾過し、洗浄し、乾燥した場合、97gと秤量された。
【0202】
材料分析は、ICP−AESによるとFe=28.8重量%、P=16.0重量%、Na<20ppm、SO4<120ppm、およびTGAによるとH2O=20重量%である。非常に低いppmレベルの硫酸塩不純物が、バッテリーカソード材料の合成用材料の用途において強く望まれる。XRDは、メタストレンジャイトIおよび少量のストレンジャイトの混合物であった(図6に示される)。図7は、この方法によって合成されたリン酸第二鉄の粒子モルフォロジを示す。一次(最小の)晶粒は、約10〜100nm程度であり、これは、高度の粉末用途(下記に述べる)のリン酸鉄リチウムカソード材料の合成に対して強く望まれる。これらの晶粒は、合成方法A(実施例1および2)によって製造されたものほど長くない。また、一次結晶は、方法Aから製造されたものより密度の高い球体に凝集される。
【0203】
実施例4 FePO4−2H2O二ポット合成、方法Aの変形
硫酸第一鉄(FeSO4−7H2O、200g)を1.0Lの水に溶解した。リン酸三ナトリウムNa3PO4(85g、99%純度、無水)を1.0Lの水に溶解した。滞留している鉄およびリン酸塩材料中の不溶性材料はすべて、微細メッシュカートリッジフィルターおよび/または希土類磁気トラップのどちらかによって、2つの溶液から除去することができる。特に、ほとんどの鉄塩は、エネルギー貯蔵用途に有害になり得る、微量の不溶性材料を有している。リン酸塩および鉄の溶液を急速な撹拌と共に混合した。60から90分の後、リン酸第一鉄の青色沈殿物を濾過した。青色のケーキを、H3PO4(26g;85重量%)と共に1.5Lの水に懸濁した。過酸化水素(94g、30重量%)を、リン酸第一鉄スラリーにゆっくり添加した。温度は、2時間で〜95〜100℃にゆっくり上げた。ピンク色の結晶性リン酸第二鉄二水和物を濾過し、洗浄し、乾燥した場合、128gと秤量された。
【0204】
材料分析は、ICP−AESによるとFe=28.6重量%、P=16.0重量%、Na<50ppm、SO4<500ppm、TGAによるとH2O=20重量%である。XRDは、図8に示されるように、メタストレンジャイトIであった。
【0205】
実施例5 リチウムおよびリンに富む正極を有するリチウムイオン二次電池の調製
混合金属カンラン石の電気活性材料の詳細な合成は、例えば、米国特許出願第12,357,008号に記載されている。リン酸鉄リチウムカソード材料は、実施例1〜4において合成されたリン酸第二鉄材料を使用し、炭酸リチウム(>99%)および酸化バナジウム(>99.9%)とのリン酸鉄二水和物(実施例1〜4からの)の反応によって合成した。
【0206】
そのリン酸鉄リチウム材料を使用し、電気化学の評価および試験のための正極を調製した。アルミナ箔集電子の電気活性層は、Kynar(登録商標)2801として市販のPVDF−HFPコポリマーおよび導電性カーボン(Super P)を含んでいた。高粘度のペーストを、ダイカスト装置を使用してアルミ箔集電子の片側にキャストし、オーブンで乾燥し、注型溶媒を除去して、カレンダリング設備を使用して高密度化した。
【0207】
正極および 負極としてのリチウム箔を適当な寸法に切断し、微孔性ポリオレフィンセパレーターCelgard(登録商標)2500(Celgard LLC)ではさみ、リチウム箔に対するSwagelok型半電池を形成した。第1充電容量(FCCの)を容量とともにC/5、C/2、1C、2C、5C、10C、20Cの速度で測定した。1時間にわたる完全なバッテリーの放電は、1C(1時間の容量)の放電速度として 定義され、同様に10Cの放電は、1時間で10xバッテリー容量を放電し、または1時間の1/10(6分)で完全に放電する。
【0208】
図9は、実施例5に記載された方法によって製造され、実施例1に記載された方法によって合成されたリン酸第二鉄原料を使用する正極活性物質を含むセルの放電容量対Cレートのプロットである。160mAh/gという非常に高い比容量(mAh/g)は、純粋 な(ドープしていない)LiFePO4の理論最大値の95%である。このカソード材料の高い比貯蔵容量は、10C(135mAh/g)のような非常に高い放電速度でさえ保持される。
【0209】
速度マップはまた、実施例2に記載された工程によって合成したリン酸第二鉄原料を使用して製造したドープしたリン酸鉄リチウムカソード粉末について示される。図10に示されるように、カソード粉末性能は、高い放電速度で非常に優れている。このリチウムセルは、6分の放電(10C)で、低い比容量の90%の保持率を達成した。したがって、リン酸第二鉄合成条件の最適化は、リチウムイオンバッテリー用途の非常に高出力のカソード粉末をもたらす、出発材料リン酸第二鉄の粒子モルフォロジおよび一次粒径の非常に微妙な制御を得ることができる。この場合、実施例2(図5を参照)によって得られた非常に小さいリン酸第二鉄粒子は、非常に高出力の性能を有するドープしたリン酸鉄リチウムの合成を可能にした。実施例2に記載されたリン酸第二鉄から製造された、ドープしたリン酸鉄リチウムのナノスケールの寸法および均一な粒子モルフォロジは、図11に示される。
【0210】
反応温度、溶液pH、反応または熟成時間、およびスラリー濃度を細かく変化させて試験して、およそ100のリン酸第二鉄材料を実施例1から4に記載された合成法によって調製した。一般に、ホスホシデライトまたはメタストレンジャイト相は、溶液pHに応じて少し変動を伴い、85℃付近で結晶化することが観察された。溶液のpHはまた、結晶相、または、先に記載されたRealeおよびScrosati(Chemistry of Materials,2003,vol.15において)のような合成から結果として得られた相に大きい影響を与える。ほとんどの材料を、相純度(XRDによる)、元素の組成物(ICP−AESによる)および粒子モルフォロジ(高分解能顕微鏡法による)について特性評価した。リン酸第二鉄は、実施例5に記載された工程によってドープしたリン酸鉄リチウムカソード粉末にするそれらの材質性状に基づいて選択し、電気化学性能を評価した。一般に、試験したドープしたLiFePO4材料の貯蔵比容量は良好であり、C/5レートで理論容量の85〜95%を達成した。また、容量保持率は、高放電速度でなお非常に優れ、一般に10Cレートで65〜90%であった。
【0211】
実施例6 購入状態のリン酸第二鉄材料の分析評価
表1は、購入状態のリン酸第二鉄材料(E53−91として販売、Chemische Fabrik Budenheim)の分析評価を説明する。
【表1】
【0212】
図12に、Chemische Fabrik Budenheimからのリン酸第二鉄の代表的な5ロットからの粉末X線回折パターンが示される。リン酸第二鉄生成物の主な結晶形(生成物のほぼ90〜100%)は、RealeおよびScrosati(Chem. Materials,2003,15,5051)による帰属によると、メタストレンジャイトIIである。このうち3ロットには、熱力学的により安定な結晶相であるストレンジャイトであると同定された、少量の(最大〜10%)非主要相がある。高分解能スキャンさえ、鉄または酸化鉄不純物相の存在を示さないことは興味深い。
【0213】
市販のリン酸第二鉄を溶媒に懸濁して含湿スラリーを製造し、次いで、強い希土類磁気フィルター(トラップ)に通した。リン酸第二鉄を含有する湿式粉砕したスラリーから収集した磁性不純物を分析した。リン酸第二鉄を含む湿式粉砕したスラリーから回収された磁性不純物の光学顕微鏡像は、図13に示される。寸法が10〜100μmの輝く金属粒子、ならびに灰黒色の粉末は明白である。X線回折解析は、少なくとも3種の汚染物質相ならびに残留する微量のリン酸第二鉄(十分に洗浄されなかった試料、図14参照)を同定している。マルテンサイト(marstentite)、または炭素鋼、ならびにステンレス鋼(Fe、Cr、およびNi)をX線分析で同定した。主な汚染物質は、マグネタイトおよびマグヘマイト(Fe3O4)のどちらかのような、酸化鉄であり、微細な黒色粉末として顕微鏡画像で明らかであった。
【0214】
Chemische Fabrik Budenheimからの商用銘柄リン酸第二鉄を使用して、PCT/US09/31552(2009年1月21日に出願され「リチウムイオンバッテリー用の混合金属カンラン石電極材料」”Mixed Metal Olivine Electrode Materials For Lithium Ion Batteries,”と題され、これは参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。)に記載されている方法によって、ナノリン酸塩(ドープしたリン酸鉄リチウム)を製造した。ポリオレフィンセパレーターを含む、リン酸鉄リチウム、ナノリン酸塩(アルミニウム集電子上の)のカソードおよび硬質炭素アノード(銅集電子上の)で構成されたリチウムイオンバッテリーを組み立て、上記の方法によって製造されたリン酸第二鉄を使用して製造されたカソード材料の性能を試験した。リチウムイオンセルは、通常の電解質(LiPF6を含む有機カルボナート溶媒)で充填し、3.8Vの正電圧(リチウム金属に対して)に活性化した。セルに貯蔵された可逆的エネルギーを測定した後に、バッテリーを再充電し、続いて、名目上3.35Vのセル開放回路電圧で約40℃で2週間保管した。図15において、自己放電貯蔵試験に合格しなかったセルの白色のポリオレフィンセパレーターに見出された、ごく小さい黒色斑点の2つの絵が示されている。図15に示される斑点は、セパレーター(カソードに面する片面およびアノードに面する他の面)の両面のものであり、この斑点が完全にセパレーターを貫通していることを示す。走査電子顕微鏡において、低倍率の電子ビーム下での電子分散型分光法(EDAX)による黒色領域の化学分析は、黒色領域が純粋な金属鉄であると同定する。より高倍率においては、鉄は、ポリオレフィンフィルム中で細孔空間を通して相互に連結する樹枝状フィラメントとして見分けることができる。同様の寸法および外観(図示せず)の他の黒色斑点は、この樹枝状結晶の発生源が恐らくステンレス鋼粒子であることを示す、鉄、クロムおよび微量レベルのニッケルを含むことが見出された。
【0215】
これらの樹枝状鉄フィラメントが、バッテリーの自己放電による電気化学的貯蔵容量の喪失のメカニズムの通りに、遅い漏れ電流の弱い伝導性の経路を形成し、アノードとカソードとの間で通過し得ると考えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性リン酸第二鉄材料であって、
約1000ppm未満の硫酸イオンを含み、
リンの鉄に対するモル比が約1.001から約1.05であり、
リン酸第二鉄材料が約25m2/gから約65m2/gの表面積を有し、
0.8重量%未満の金属または磁性不純物を含むリン酸第二鉄材料。
【請求項2】
リン酸第二鉄材料が、リン酸第二鉄二水和物を含み、リン酸第二鉄二水和物が、
約28.3重量%から約29.6重量%の鉄;
約16.0重量%から約16.9重量%のリン;および
約700ppm未満の硫酸イオンを含み;また、
リン酸第二鉄二水和物材料が、約30m2/gから約55m2/gの表面積を有する、請求項1に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項3】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が約100ppm未満の金属または磁性不純物を含む、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項4】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が約10ppm未満の金属不純物を含む、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項5】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が約1ppm未満の磁性不純物を含む、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項6】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が約100ppb未満の磁性不純物を含む、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項7】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料の脱イオン水20ml中溶液1gが、約1から約5の間のpH値を有する、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項8】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料の脱イオン水20ml中溶液1gが、約2から約3の間のpH値を有する、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項9】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が約100ppm未満の硫酸イオンを含む、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項10】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が約0.5重量%未満の他のアルカリまたは一般の陰イオンまたは他の塩不純物を含む、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項11】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が約0.02重量%未満の硝酸塩または塩化物を含む、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項12】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が約19.3重量%から約20.8重量%の水を含む、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項13】
結晶性リン酸第二鉄二水和物の結晶相が、ストレンジャイト、メタストレンジャイト(I)、メタストレンジャイト(II)、およびその混合物からなる群から選択される、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項14】
リン酸第二鉄二水和物材料が約30m2/gから約55m2/gの表面積を有する、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項15】
リン酸第二鉄二水和物材料の主要な粒径が、約1nmから約100nmの間にある、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項16】
リン酸第二鉄二水和物材料の主要な粒径が、約20nmから約40nmの間にある、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項17】
リン酸第二鉄二水和物材料の凝集体粒子の中位寸法が、約1μmから約4μmの間にある、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項18】
リン酸第二鉄二水和物材料の凝集粒子の中位寸法が、約4μmから約10μmの間にある、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項19】
a)鉄(II)塩およびリン酸塩を水溶液に導入し、リン酸第一鉄材料を形成して、リン酸第一鉄を洗浄し不純物を除去するステップ;および
b)酸化剤でステップa)からのリン酸第一鉄を酸化させリン酸第二鉄材料を形成するステップ
を含む結晶性リン酸第二鉄材料を合成する方法。
【請求項20】
リン酸第二鉄材料がリン酸第二鉄二水和物を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
リン酸第一鉄材料がリン酸第一鉄八水和物を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
ステップa)、ステップb)、ステップb)の後、またはその任意の組み合わせにおいて、金属または磁性不純物を除去するために、1つまたは複数の金属トラップを使用するステップをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
磁気トラップが希土類磁石を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ステップa)における鉄(II)塩が、硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、その任意の水和物、またはその混合物を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
ステップa)におけるリン酸塩がリン酸二アンモニウムを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
ステップa)が溶液に水酸化アンモニウムを添加するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
ステップa)において結果として得られた溶液のpHが約4から約5の間である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
酸化剤が過酸化水素を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
ステップb)が亜リン酸を添加するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項30】
ステップb)が約35から約65℃の間の温度で溶液を加熱するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。。
【請求項31】
c)約85から約100℃の間の温度で溶液を加熱するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項32】
結果として得られた結晶性リン酸第二鉄二水和物材料を約95%から約99%の純度レベルに洗浄するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項33】
合成された結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が、
約28.3重量%から約29.6重量%の鉄;
約16.0重量%から約16.9重量%のリン;および
約0.8重量%未満の硫酸イオンを含み、
リンの鉄に対するモル比が約1.001から約1.05であり;
リン酸第二鉄二水和物材料が約25m2/gから約65m2/gの表面積を有し;また、
リン酸第二鉄二水和物材料が金属または磁性不純物を実質的に含まない、請求項19に記載の方法。
【請求項34】
a)鉄(II)化合物および水溶液中の酸化剤を組み合わせて、非晶質リン酸第二鉄を形成し、非晶質リン酸第二鉄を洗浄して不純物を除去するステップ;および、
b)ステップa)からの非晶質リン酸第一鉄を結晶化し結晶性リン酸第二鉄材料を形成するステップを含み;
この場合、1つまたは複数の金属トラップが、ステップa)、ステップb)、ステップb)の後またはその任意の組み合わせにおいて金属または磁性不純物を除去するために使用される、結晶性リン酸第二鉄材料を合成する方法。
【請求項35】
リン酸第二鉄材料がリン酸第二鉄二水和物を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
磁気トラップが希土類磁石を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
リン酸鉄(II)が鉄(II)塩およびリン酸塩を組み合わせることにより形成される、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
鉄(II)塩が、硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、その任意の水和物、またはその混合物を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
鉄(II)塩が硫酸鉄(II)八水和物を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
リン酸塩がリン酸二アンモニウムを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
酸化剤が過酸化水素を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項42】
ステップa)が約30から約65℃の間の温度で溶液を加熱するステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項43】
ステップb)がリン酸を添加するステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項44】
ステップb)が約85から約100℃の間の温度で溶液を加熱するステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項45】
結果として得られた結晶性リン酸第二鉄材料を洗浄するステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項46】
合成された結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が、
約28.3重量%から約29.6重量%の鉄;
約16.0重量%から約16.9重量%のリン;および
約0.8重量%未満の硫酸イオンを含み、
リンの鉄に対するモル比が約1.001から約1.05であり;
約25m2/gから約65m2/gの表面積を有し;また、
金属または磁性不純物を実質的に含まない、請求項35に記載の方法。
【請求項47】
反応混合物、1種または複数の反応体、1種または複数の中間生成物、およびリン酸第二鉄二水和物生成物を含む結晶性リン酸第二鉄材料の製造方法であって、
反応体、中間生成物、反応混合物、またはリン酸第二鉄二水和物生成物から金属または磁性不純物を除去するために1つまたは複数の磁気トラップを使用するステップを含み;
鉄(II)または鉄(III)化合物を含む出発材料を使用する方法。
【請求項48】
リン酸第二鉄材料がリン酸第二鉄二水和物を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記方法が1つまたは複数の合成のステップを含み、1つまたは複数の磁気トラップが任意の1つの合成ステップの前、間もしくは後に、またはその任意の組み合わせで使用される、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
金属トラップが希土類磁石を含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
磁石トラップが1から20kGaussの範囲の磁気強度を有する、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
磁石トラップが8から14kGaussの範囲の磁気強度を有する、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
a)水溶液中の鉄(II)または鉄(III)化合物、およびリン酸を組み合わせるステップ;
b)鉄(II)または鉄(III)化合物の実質的にすべてがリン酸との反応によって消費されることを保証するために、溶液の均一なpHおよび温度を維持するステップ;および、
c)pHおよび溶液の温度を制御し実質的に純粋な結晶相を有するリン酸第一鉄材料を形成するステップをさらに含み、
1つまたは複数の金属トラップはステップa)、ステップb)、ステップc)、ステップc)の後、またはその任意の組み合わせにおいて、金属または磁性不純物を除去するために使用される、請求項47に記載の方法。
【請求項54】
リン酸第二鉄材料がリン酸第二鉄二水和物を含む、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
磁気トラップが希土類磁石を含む、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
鉄(II)または鉄(III)化合物が、酸化鉄(II)もしくは酸化鉄(III)、水酸化鉄(II)もしくは水酸化鉄(III)、炭酸鉄(II)もしくは炭酸鉄(III)、またはオキシ水酸化鉄(II)もしくはオキシ水酸化鉄(III)を含む、請求項53に記載の方法。
【請求項57】
鉄(II)化合物が使用され、ステップa)が酸化剤を添加するステップをさらに含む、請求項53に記載の方法。
【請求項58】
酸化剤が過酸化水素、溶存空気もしくは溶存酸素、または他の穏やかな酸化体を含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
リン酸水溶液が、約1:1から約10:1の水:リン酸比率を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項60】
リン酸水溶液が、約1:1から約4:1の水:リン酸比率を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項61】
ステップb)において溶液のpH値が約2未満に維持される、請求項53に記載の方法。
【請求項62】
ステップb)において溶液のpH値が約1未満に維持される、請求項53に記載の方法。
【請求項63】
ステップb)において溶液の温度が65℃超に維持される、請求項55に記載の方法。
【請求項64】
ステップb)において溶液の温度が70℃超に維持される、請求項53に記載の方法。
【請求項65】
ステップb)において溶液の温度が75℃超に維持される、請求項53に記載の方法。
【請求項66】
ステップb)において溶液の温度が95℃超に維持される、請求項53に記載の方法。
【請求項67】
リン酸第二鉄材料が100ppm未満の金属または磁性不純物を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項68】
リン酸第二鉄材料が10ppm未満の金属または磁性不純物を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項69】
リン酸第二鉄材料が1ppm未満の金属または磁性不純物を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項70】
リン酸第二鉄材料が100ppb未満の金属または磁性不純物を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項71】
リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相がメタストレンジャイトIである、請求項53に記載の方法。
【請求項72】
リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相がメタストレンジャイトIIである、請求項53に記載の方法。
【請求項73】
リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相がストレンジャイトである、請求項53に記載の方法。
【請求項74】
ステップc)において溶液のpH値が約1未満に制御される、請求項53に記載の方法。
【請求項75】
ステップc)において溶液の温度が約85℃未満に制御される、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相がメタストレンジャイトIIである、請求項74に記載の方法。
【請求項77】
リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相がメタストレンジャイトIIである、請求項74に記載の方法。
【請求項78】
ステップc)において溶液のpH値が約1から約2の間の範囲に制御される、請求項53に記載の方法。
【請求項79】
ステップc)において溶液の温度が約85℃未満に制御される、請求項78に記載の方法。
【請求項80】
リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相がメタストレンジャイトIである、請求項78に記載の方法。
【請求項81】
リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相がメタストレンジャイトIである、請求項79に記載の方法。
【請求項82】
ステップc)において溶液が1つまたは複数の高強度磁束トラップに通される、請求項53に記載の方法。
【請求項83】
磁気トラップが、磁界を発生させるための、溶液に直接挿入される強い磁石を備える、請求項53に記載の方法。
【請求項1】
結晶性リン酸第二鉄材料であって、
約1000ppm未満の硫酸イオンを含み、
リンの鉄に対するモル比が約1.001から約1.05であり、
リン酸第二鉄材料が約25m2/gから約65m2/gの表面積を有し、
0.8重量%未満の金属または磁性不純物を含むリン酸第二鉄材料。
【請求項2】
リン酸第二鉄材料が、リン酸第二鉄二水和物を含み、リン酸第二鉄二水和物が、
約28.3重量%から約29.6重量%の鉄;
約16.0重量%から約16.9重量%のリン;および
約700ppm未満の硫酸イオンを含み;また、
リン酸第二鉄二水和物材料が、約30m2/gから約55m2/gの表面積を有する、請求項1に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項3】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が約100ppm未満の金属または磁性不純物を含む、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項4】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が約10ppm未満の金属不純物を含む、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項5】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が約1ppm未満の磁性不純物を含む、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項6】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が約100ppb未満の磁性不純物を含む、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項7】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料の脱イオン水20ml中溶液1gが、約1から約5の間のpH値を有する、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項8】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料の脱イオン水20ml中溶液1gが、約2から約3の間のpH値を有する、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項9】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が約100ppm未満の硫酸イオンを含む、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項10】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が約0.5重量%未満の他のアルカリまたは一般の陰イオンまたは他の塩不純物を含む、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項11】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が約0.02重量%未満の硝酸塩または塩化物を含む、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項12】
結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が約19.3重量%から約20.8重量%の水を含む、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項13】
結晶性リン酸第二鉄二水和物の結晶相が、ストレンジャイト、メタストレンジャイト(I)、メタストレンジャイト(II)、およびその混合物からなる群から選択される、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項14】
リン酸第二鉄二水和物材料が約30m2/gから約55m2/gの表面積を有する、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項15】
リン酸第二鉄二水和物材料の主要な粒径が、約1nmから約100nmの間にある、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項16】
リン酸第二鉄二水和物材料の主要な粒径が、約20nmから約40nmの間にある、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項17】
リン酸第二鉄二水和物材料の凝集体粒子の中位寸法が、約1μmから約4μmの間にある、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項18】
リン酸第二鉄二水和物材料の凝集粒子の中位寸法が、約4μmから約10μmの間にある、請求項2に記載の結晶性リン酸第二鉄材料。
【請求項19】
a)鉄(II)塩およびリン酸塩を水溶液に導入し、リン酸第一鉄材料を形成して、リン酸第一鉄を洗浄し不純物を除去するステップ;および
b)酸化剤でステップa)からのリン酸第一鉄を酸化させリン酸第二鉄材料を形成するステップ
を含む結晶性リン酸第二鉄材料を合成する方法。
【請求項20】
リン酸第二鉄材料がリン酸第二鉄二水和物を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
リン酸第一鉄材料がリン酸第一鉄八水和物を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
ステップa)、ステップb)、ステップb)の後、またはその任意の組み合わせにおいて、金属または磁性不純物を除去するために、1つまたは複数の金属トラップを使用するステップをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
磁気トラップが希土類磁石を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ステップa)における鉄(II)塩が、硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、その任意の水和物、またはその混合物を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
ステップa)におけるリン酸塩がリン酸二アンモニウムを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
ステップa)が溶液に水酸化アンモニウムを添加するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
ステップa)において結果として得られた溶液のpHが約4から約5の間である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
酸化剤が過酸化水素を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
ステップb)が亜リン酸を添加するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項30】
ステップb)が約35から約65℃の間の温度で溶液を加熱するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。。
【請求項31】
c)約85から約100℃の間の温度で溶液を加熱するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項32】
結果として得られた結晶性リン酸第二鉄二水和物材料を約95%から約99%の純度レベルに洗浄するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項33】
合成された結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が、
約28.3重量%から約29.6重量%の鉄;
約16.0重量%から約16.9重量%のリン;および
約0.8重量%未満の硫酸イオンを含み、
リンの鉄に対するモル比が約1.001から約1.05であり;
リン酸第二鉄二水和物材料が約25m2/gから約65m2/gの表面積を有し;また、
リン酸第二鉄二水和物材料が金属または磁性不純物を実質的に含まない、請求項19に記載の方法。
【請求項34】
a)鉄(II)化合物および水溶液中の酸化剤を組み合わせて、非晶質リン酸第二鉄を形成し、非晶質リン酸第二鉄を洗浄して不純物を除去するステップ;および、
b)ステップa)からの非晶質リン酸第一鉄を結晶化し結晶性リン酸第二鉄材料を形成するステップを含み;
この場合、1つまたは複数の金属トラップが、ステップa)、ステップb)、ステップb)の後またはその任意の組み合わせにおいて金属または磁性不純物を除去するために使用される、結晶性リン酸第二鉄材料を合成する方法。
【請求項35】
リン酸第二鉄材料がリン酸第二鉄二水和物を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
磁気トラップが希土類磁石を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
リン酸鉄(II)が鉄(II)塩およびリン酸塩を組み合わせることにより形成される、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
鉄(II)塩が、硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、その任意の水和物、またはその混合物を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
鉄(II)塩が硫酸鉄(II)八水和物を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
リン酸塩がリン酸二アンモニウムを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
酸化剤が過酸化水素を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項42】
ステップa)が約30から約65℃の間の温度で溶液を加熱するステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項43】
ステップb)がリン酸を添加するステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項44】
ステップb)が約85から約100℃の間の温度で溶液を加熱するステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項45】
結果として得られた結晶性リン酸第二鉄材料を洗浄するステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項46】
合成された結晶性リン酸第二鉄二水和物材料が、
約28.3重量%から約29.6重量%の鉄;
約16.0重量%から約16.9重量%のリン;および
約0.8重量%未満の硫酸イオンを含み、
リンの鉄に対するモル比が約1.001から約1.05であり;
約25m2/gから約65m2/gの表面積を有し;また、
金属または磁性不純物を実質的に含まない、請求項35に記載の方法。
【請求項47】
反応混合物、1種または複数の反応体、1種または複数の中間生成物、およびリン酸第二鉄二水和物生成物を含む結晶性リン酸第二鉄材料の製造方法であって、
反応体、中間生成物、反応混合物、またはリン酸第二鉄二水和物生成物から金属または磁性不純物を除去するために1つまたは複数の磁気トラップを使用するステップを含み;
鉄(II)または鉄(III)化合物を含む出発材料を使用する方法。
【請求項48】
リン酸第二鉄材料がリン酸第二鉄二水和物を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記方法が1つまたは複数の合成のステップを含み、1つまたは複数の磁気トラップが任意の1つの合成ステップの前、間もしくは後に、またはその任意の組み合わせで使用される、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
金属トラップが希土類磁石を含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
磁石トラップが1から20kGaussの範囲の磁気強度を有する、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
磁石トラップが8から14kGaussの範囲の磁気強度を有する、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
a)水溶液中の鉄(II)または鉄(III)化合物、およびリン酸を組み合わせるステップ;
b)鉄(II)または鉄(III)化合物の実質的にすべてがリン酸との反応によって消費されることを保証するために、溶液の均一なpHおよび温度を維持するステップ;および、
c)pHおよび溶液の温度を制御し実質的に純粋な結晶相を有するリン酸第一鉄材料を形成するステップをさらに含み、
1つまたは複数の金属トラップはステップa)、ステップb)、ステップc)、ステップc)の後、またはその任意の組み合わせにおいて、金属または磁性不純物を除去するために使用される、請求項47に記載の方法。
【請求項54】
リン酸第二鉄材料がリン酸第二鉄二水和物を含む、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
磁気トラップが希土類磁石を含む、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
鉄(II)または鉄(III)化合物が、酸化鉄(II)もしくは酸化鉄(III)、水酸化鉄(II)もしくは水酸化鉄(III)、炭酸鉄(II)もしくは炭酸鉄(III)、またはオキシ水酸化鉄(II)もしくはオキシ水酸化鉄(III)を含む、請求項53に記載の方法。
【請求項57】
鉄(II)化合物が使用され、ステップa)が酸化剤を添加するステップをさらに含む、請求項53に記載の方法。
【請求項58】
酸化剤が過酸化水素、溶存空気もしくは溶存酸素、または他の穏やかな酸化体を含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
リン酸水溶液が、約1:1から約10:1の水:リン酸比率を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項60】
リン酸水溶液が、約1:1から約4:1の水:リン酸比率を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項61】
ステップb)において溶液のpH値が約2未満に維持される、請求項53に記載の方法。
【請求項62】
ステップb)において溶液のpH値が約1未満に維持される、請求項53に記載の方法。
【請求項63】
ステップb)において溶液の温度が65℃超に維持される、請求項55に記載の方法。
【請求項64】
ステップb)において溶液の温度が70℃超に維持される、請求項53に記載の方法。
【請求項65】
ステップb)において溶液の温度が75℃超に維持される、請求項53に記載の方法。
【請求項66】
ステップb)において溶液の温度が95℃超に維持される、請求項53に記載の方法。
【請求項67】
リン酸第二鉄材料が100ppm未満の金属または磁性不純物を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項68】
リン酸第二鉄材料が10ppm未満の金属または磁性不純物を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項69】
リン酸第二鉄材料が1ppm未満の金属または磁性不純物を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項70】
リン酸第二鉄材料が100ppb未満の金属または磁性不純物を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項71】
リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相がメタストレンジャイトIである、請求項53に記載の方法。
【請求項72】
リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相がメタストレンジャイトIIである、請求項53に記載の方法。
【請求項73】
リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相がストレンジャイトである、請求項53に記載の方法。
【請求項74】
ステップc)において溶液のpH値が約1未満に制御される、請求項53に記載の方法。
【請求項75】
ステップc)において溶液の温度が約85℃未満に制御される、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相がメタストレンジャイトIIである、請求項74に記載の方法。
【請求項77】
リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相がメタストレンジャイトIIである、請求項74に記載の方法。
【請求項78】
ステップc)において溶液のpH値が約1から約2の間の範囲に制御される、請求項53に記載の方法。
【請求項79】
ステップc)において溶液の温度が約85℃未満に制御される、請求項78に記載の方法。
【請求項80】
リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相がメタストレンジャイトIである、請求項78に記載の方法。
【請求項81】
リン酸第二鉄の実質的に純粋な結晶相がメタストレンジャイトIである、請求項79に記載の方法。
【請求項82】
ステップc)において溶液が1つまたは複数の高強度磁束トラップに通される、請求項53に記載の方法。
【請求項83】
磁気トラップが、磁界を発生させるための、溶液に直接挿入される強い磁石を備える、請求項53に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【公表番号】特表2013−505193(P2013−505193A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529960(P2012−529960)
【出願日】平成22年9月20日(2010.9.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/049480
【国際公開番号】WO2011/035235
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(510327507)エー123 システムズ, インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月20日(2010.9.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/049480
【国際公開番号】WO2011/035235
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(510327507)エー123 システムズ, インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】
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