説明

リン酸第二鉄含水物粒子粉末及びその製造法、オリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末及びその製造法、並びに非水電解質二次電池。

【課題】 非水電解質二次電池正極活物質用オリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の前駆体として好適な、微細で、不純物が極めて少ない、リン酸第二鉄含水物粒子粉末を得る。
【解決手段】 オリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の前駆体であり、結晶構造がストレング石構造およびメタストレング石構造のうち少なくとも一種であり、Na含有量が100ppm以下であり、リン/鉄のモル比が0.9〜1.1であることを特徴とするリン酸第二鉄含水物粒子粉末である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
オリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の前駆体として好適な結晶性リン酸第二鉄含水物粒子粉末とその製造法ならびに、その前駆体を用いた非水電解質二次電池正極用オリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の製造法を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境への配慮から電気自動車、ハイブリッド自動車の開発及び実用化がなされ、小型、軽量で高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池が注目されている。しかし、リチウムイオン二次電池はCo、Ni等の希少金属含有化合物を正極材料として使用する場合が多く、リチウムイオン二次電池が広く普及するためには、コスト面、供給安定面で大きな課題である。また正極材料に起因するリチウムイオン二次電池の発火・爆発事故等が報告されており、安全性の問題が指摘されている。このような背景より、希少金属を含まない安全なリチウムイオン二次電地用正極材料の開発が期待されている。
【0003】
このような状況の中、3.5V級のリチウムイオン二次電池用正極活物質としてオリビン型リン酸鉄リチウムが注目されている。オリビン型リン酸鉄リチウムは結晶構造中でP原子とO原子が共有結合により強く結合しているため、結晶構造が極めて安定で発火・爆発等の危険性が極めて低い正極材料である。また酸化還元反応に寄与する遷移金属原子がCoやNiではなくFeであるため、コスト面や供給安定面で大きな改善を期待できる材料である。
【0004】
1997年、Pahdi等によりリン酸鉄リチウムが対Li/Liで3.4Vの酸化還元電位を示すことを報告されて以来、数多くの研究成果が報告されている。リン酸鉄リチウムの製造法に関しては、固相法(WO2005−041327)、水熱法(特表2007−511458)、超臨界法(特開2004−095386)、常圧湿式法(WO2007−000251)などが現在までに報告されている。
【0005】
さまざまな製法がある中で、固相法は比較的簡便にオリビン型リン酸鉄リチウムを合成できる製法である。固相法の中でも、鉄原料として二価の鉄化合物を用いる方法と、三価の鉄化合物を用いる方法が開示されている。
【0006】
特許文献1において、2価の鉄化合物原料としてシュウ酸鉄を用いる方法が開示されている。シュウ酸鉄を原料とした場合、安価な正極材料を目指したオリビン型リン酸鉄リチウムのFe原料としては高価すぎるというコスト面での課題がある。
【0007】
特許文献2において、2価の鉄化合物原料としてリン酸第一鉄八水和物(Fe(PO)・8HO) を用いる方法が開示されている。ここでは微細でNa含有量の少ないリン酸第一鉄八水和物に関する発明を開示しているにも関わらず、0.1%以上1%以下のNaイオンを含有すると報告している。このようなリン酸第一鉄八水和物を原料とした固相反応では、Naを多く含んだオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末しか得られない。Naは電池特性を下げる働きしか示さないため、リチウムイオン二次電池用正極材料としては更なるNa含有量の低減が望まれる。
【0008】
特許文献3、特許文献4及び特許文献5において、3価の鉄化合物原料としてリン酸第二鉄二水和物を用いたオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の製造方法が開示されている。この製法は、原料中でFeとPが原子レベルで均一に存在しており、組成比もリン酸第二鉄二水和物中のP/Feモル比を管理していれば組成ずれを起こす心配もなく、工業的生産に適したオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の製造法である。
【0009】
しかしながら、主たる原料であるリン酸第二鉄含水物を工業的に安価に短時間で製造する方法は未だ確立されていない。またリン酸第二鉄含水物中の不純物量はオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の不純物量を左右する重要な因子でありながら、低減する方法はいまだ知られていない。
【0010】
市販されているAldrich製リン酸第二鉄二水和物粉末について粉末X線回折およびICP分析を行った結果、結晶相はアモルファス相であり、10000ppmを超えるNaが検出された。
【0011】
非特許文献1において、高温高圧下の水熱反応で、結晶構造がストレング石構造であるリン酸第二鉄二水和物を合成している。この製法は高温高圧下で行うために、生成するリン酸第二鉄二水和物粒子はミクロンオーダーからサブミリオーダーの一次粒子をもつ大きな結晶性粒子である。
【0012】
一次粒子の大きな結晶性リン酸第二鉄含水物粒子粉末から合成したオリビン型リン酸鉄リチウムは、ミクロンオーダーの一次粒子を持つ粉末になり、サブミクロンオーダーの微細なオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を合成する原料としては適していない。
【0013】
また非特許文献2において、常圧下湿式反応で、リン酸第二鉄二水和物を合成している。この文献の方法では、不純物量に言及しておらず、その低減方法についても記載されていない。更に、この方法は反応濃度が0.01M以下と極めて薄いため、工業的に安価にリン酸第二鉄含水物を製造することができない。
【0014】
また、かさ高いオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末は、電極に塗布した際に塗膜中の正極密度が上がりにくく、体積エネルギー密度の点で不利である。よって、非水電解質リチウムイオン二次電池正極用のオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末は、微細な一次粒子が凝集した凝集粒子であることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−032241号公報
【特許文献2】特開2003−292307号公報
【特許文献3】国際公開第01/53198号パンフレット
【特許文献4】特表2004−509447号公報
【特許文献5】特表2004−509058号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Yanning Song et al. , Inorganic Chemistry, American chemicalSociety, 2002, Vol.41, No.22, p.5778-5786
【非特許文献2】Charles Delacourt et al. , Chemistry of Materials, American chemicalSociety, 2003, Vol. 15, No. 26, p.5051-5058
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで本発明は、非水電解質二次電池正極活物質用オリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の前駆体として好適な、微細で、不純物が極めて少ない、リン酸第二鉄含水物粒子粉末およびその製造法を確立することを技術的課題とする。また本発明の製造法により合成されたリン酸第二鉄含水物粒子粉末を用いて、微細で不純物の極めて少ないオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を製造する方法を確立することを技術的課題とする。
【0018】
さらに、本発明は不純物が極めて少ない微細な一次粒子が密に凝集しているリン酸第二鉄含水物粒子粉末およびその製造法を確立することを技術的課題とする。また、本発明の製造法により合成された、凝集したリン酸第二鉄含水物粒子粉末を用いて、不純物が極めて少ない、微細な一次粒子が凝集したオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記技術的課題は、次の通り本発明によって達成できる。
【0020】
即ち、本発明は、オリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の前駆体であり、Na含有量が100ppm以下であり、リン/鉄のモル比が0.9〜1.1であるリン酸第二鉄含水物粒子粉末である(本発明1)。
【0021】
また、本発明は、本発明1に記載のリン酸第二鉄含水物粒子粉末であって、結晶構造がストレング石構造およびメタストレング石構造のうち少なくとも一種であるリン酸第二鉄含水物粒子粉末である(本発明2)。
【0022】
また、本発明は、本発明1または2に記載のリン酸第二鉄含水物粒子粉末であって、板状の一次粒子が凝集することによって形成される二次粒子であり、平均二次粒子径が5〜20μmであるリン酸第二鉄含水物粒子粉末である(本発明3)。
【0023】
また、本発明は、本発明1〜3のいずれかに記載のリン酸第二鉄含水物粒子粉末であって、タップ密度が0.7〜1.5g/ccであるリン酸第二鉄含水物粒子粉末である(本発明4)。
【0024】
また、本発明は、酸化鉄粒子粉末又は含水酸化鉄粒子粉末とリン化合物とを溶液中で反応し、リン酸第二鉄含水物粒子粉末を製造する方法において、BET比表面積が50m/g以上の酸化鉄粒子粉末又は含水酸化鉄粒子粉末を鉄原料として用い、かつ、60〜100℃の温度領域で反応を行う本発明1〜4のいずれかに記載のリン酸第二鉄含水物粒子粉末の製造法である(本発明5)。
【0025】
また、本発明は、溶液中の鉄濃度基準での反応濃度が0.1〜3.0mol/Lの範囲であり、かつ、仕込みに使用するリン化合物の添加量が、リンイオンが鉄イオンに対してモルパーセント換算で100〜1000%であり、反応溶液のpHが3以下である本発明5に記載のリン酸第二鉄含水物粒子粉末の製造法である(本発明6)。
【0026】
また、本発明は、本発明1〜4のいずれかに記載のリン酸第二鉄含水物粒子粉末とリチウム化合物と有機化合物とを混合し、不活性雰囲気下または還元雰囲気下300〜800℃で熱処理するオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の製造法である(本発明7)。
【0027】
また、本発明は、本発明7に記載のオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の製造法によって得られる非水電解質二次電池用オリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末である(本発明8)。
【0028】
また、本発明は、本発明8に記載のオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を使用した非水電解質二次電池である(本発明9)。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末の製造法は、オートクレーブなどの高圧容器を必要とせず、安価にリン酸第二鉄含水物粒子粉末を製造することができる。また得られるリン酸第二鉄含水物粒子粉末は、微細で不純物が極めて少なくP/Fe比のずれが小さい高純度結晶性リン酸第二鉄含水物粒子粉末である。このような粉末を前駆体として用いることにより、微細で不純物の極めて少ないオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を安価かつ簡便に製造することができる。
【0030】
さらには、本発明において得られるリン酸第二鉄含水物粒子粉末は、微細な一次粒子が凝集したリン酸第二鉄含水物粒子の凝集体であってタップ密度が高い高純度結晶性リン酸第二鉄含水物粒子粉末である。このような粉末を前駆体として用いることにより、微細な一次粒子が凝集したオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を安価かつ簡便に製造することができる。
【0031】
本発明に係るオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末は、前記前駆体を用いることで微細で不純物が少なく、しかも二次電池としたときに高い放電容量が得られるので、非水電解質二次電池の正極活物質として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1−1で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末の電子顕微鏡写真(SEM)
【図2】実施例1−1で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末の粉末X線回折図
【図3】実施例2−1で得られたリン酸鉄リチウム粒子粉末の電子顕微鏡写真(SEM)
【図4】実施例1−4で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末の電子顕微鏡写真(SEM)
【図5】比較例1−1で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末の電子顕微鏡写真(SEM)
【図6】比較例1−2で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末の電子顕微鏡写真(SEM)
【図7】比較例1−3で用いたAldrich社製非晶質リン酸第二鉄二水和物粒子粉末の電子顕微鏡写真(SEM)
【図8】実施例1−5で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末の電子顕微鏡写真(SEM)
【図9】実施例1−5で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末の粉末X線回折図
【図10】実施例2−5で得られたリン酸鉄リチウム粒子粉末の電子顕微鏡写真(SEM)
【図11】実施例2−5で得られたリン酸鉄リチウム粒子粉末の粉末X線回折図
【図12】実施例1−6で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末の電子顕微鏡写真(SEM)
【図13】実施例1−6で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末の粉末X線回折図
【図14】実施例2−6で得られたリン酸鉄リチウム粒子粉末の電子顕微鏡写真(SEM)
【図15】実施例1−7で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末の電子顕微鏡写真(SEM)
【図16】実施例2−7で得られたリン酸鉄リチウム粒子粉末の電子顕微鏡写真(SEM)
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0034】
まず、本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末について述べる。
【0035】
本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末の組成は、FePO・nHO(0<n≦2)で表され(nは水和水の量を示す。)、二水和物が最も安定である。ただし水和水の量は乾燥温度により変化するものであり、オリビン型リン酸鉄リチウムの前駆体として用いる上で、水和水の量は問題にはならない。
【0036】
また、本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末はP/Feモル比が0.9〜1.1である。P/Feモル比のずれはそのままオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末のP/Feモル比のずれに反映されるため、理論組成である1.0付近に管理されていることが要求される。より好ましいP/Feモル比は0.95〜1.05である。
【0037】
また、本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末の結晶構造は、ストレング石構造(JCPDSカードNo.33−0667)およびメタストレング石構造(JCPDSカードNo.33−0666)から選ばれる一種以上である。これらの結晶構造はP/Fe理論モル比が1.0である。
【0038】
また、本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末は、BET比表面積が10〜50m/g以下の範囲にあることが好ましい。BET比表面積が50m/gより大きい粉末は合成が困難であり、BET比表面積が10m/g未満の粉末はオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の前駆体としては大きすぎる。より好ましいBET比表面積は10〜40m/gである。
【0039】
本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末の平均一次粒子径は、50〜1000nmの範囲にあることが好ましい。平均一次粒子径が1000nmを超える粉末はオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の前駆体としては大きすぎ、50nm未満の粉末は合成が困難である。より好ましい平均一次粒子径は150〜500nmである。
【0040】
本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末の平均二次粒子径は、3〜20μmの範囲にあることが好ましい。平均二次粒子径が3μmより小さいリン酸第二鉄含水物粒子粉末を前駆体として用いた場合には、タップ密度の高いオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を合成することができない。また、平均二次粒子径が20μmより大きいリン酸第二鉄含水物粒子粉末を前駆体として用いた場合には、得られるオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末が大きくなりすぎる。
【0041】
本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末は、タップ密度が0.4〜1.5g/ccであることが好ましい。タップ密度が0.4g/ccより小さい場合には、かさ高い粉末となり、電極に塗布した際に、塗膜中の正極材密度が上がりにくい。また、タップ密度が1.5g/ccより大きい粉末は合成が困難である。タップ密度はより大きいことが好ましく、0.7〜1.5g/ccがより好ましく、更により好ましくは0.75〜1.45g/ccである。
【0042】
本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末は、Na含有量が100ppm以下と極めて少ない。Na含有量が100ppmを超える場合には、該リン酸第二鉄含水物粒子粉末を用いて得られるオリビン型リン酸鉄リチウムのNa含有量が多くなり好ましくない。また、原料に由来する未反応の酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末の残留が極めて少ないことが好ましい。より好ましいNa含有量は70ppm以下、更により好ましくは1〜50ppmである。
【0043】
また、本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末は、硫黄化合物イオン、窒素化合物イオンを実質的に含んでいない原料を使用しているため、そのようなイオンを吸着または含有しておらず、焼成時にSOやNOなどの有害ガスが発生することがない。
【0044】
次に、本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末の製造法について述べる。
【0045】
本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末は、BET比表面積が50m/g以上の微細な酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末とリン化合物とを溶液中で60〜100℃の温度領域で攪拌しながら反応することにより得ることができる。
【0046】
BET比表面積が50m/g未満の酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末を用いた場合、数μmオーダーの大きなリン酸第二鉄含水物粒子粉末しか得られない。その上、未反応の酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末が残留しやすく、P/Feモル比が理論組成である1.0から大きくずれる原因となる。BET比表面積が50m/g以上の酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末を用いることによって初めて、微細でP/Feモル比のずれのないリン酸第二鉄含水物粒子粉末を得ることができる。より好ましくはBET比表面積が80〜150m/gの酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末を用いるのがよい。
【0047】
本発明に用いる酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末としては、特にBET比表面積の大きい微細なゲータイト粉末(α−FeOOH)を用いるのがより好ましい。
【0048】
含水酸化鉄粒子粉末は一般に紡錘状・針状・棒状の形状をとりやすい。本発明に用いる含水酸化鉄粒子粉末の一次粒子径は平均長軸径が50〜200nmであることが好ましい。
【0049】
Naがリン酸第二鉄含水物粒子粉末に混入する要因の多くは、原料である酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末およびリン化合物に由来する。酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末中に含まれるNa含有量は製法や反応条件により大きく異なる。もちろん原料中のNaが少ない方が、リン酸第二鉄含水物粒子粉末中へのNaの混入する可能性も少なくなるが原料を精製するのでは工業的に安価にリン酸第二鉄含水物粒子粉末を製造することが出来ない。また、本発明では、鉄原料は酸性溶液中で溶解された後、リン酸第二鉄含水物粒子として析出するため、Naはろ液中に溶出して除去することができるので、酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末中のNa含有量は限定されるものではないが、1000〜3000ppm程度が好ましい。
【0050】
リン化合物の添加量は、リンイオンが酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末に含まれる鉄イオンに対して、モルパーセント換算で100〜1000%の範囲が好ましく、より好ましくは100〜600%の範囲である。リン化合物として、好ましくは、オルトリン酸、メタリン酸、五酸化リン等が使用できる。
【0051】
溶液中での反応温度は60℃〜100℃であることが好ましい。60℃未満の場合、非晶質物質が不純物相として副生し、P/Feモル比が1.0より小さくなる。100℃を超える場合には耐圧容器が必要となるなど、工業的とは言い難い。より好ましくは60〜80℃の温度領域で反応することにより、微細な粒子を得ることができる。
【0052】
溶液中での反応pHはpH3以下であることが好ましい。pH3を超える場合、酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末が十分に反応せず、生成物のP/Feモル比が1.0より小さくなる。反応溶液のpH調整には、硫酸、塩酸、硝酸等の酸性溶液を用いることもできる。また反応時のpHはNa含有量及び不純物アニオンの含有量に影響する。本発明の方法はNaはろ液中に溶出して除去できるため、これによりリン酸第二鉄含水物粒子粉末のNa含有量を100ppm以下とすることが出来るが、反応溶液のpHを更に制御することにより、Na含有量を低減させることが出来る。pHが酸性側から中性に近づくにつれ、Na含有量が増える傾向にある。逆に中性側から酸性に向かうにつれ、pH調整に用いた酸性溶液中に含まれるアニオンイオンである硫酸イオン、塩化物イオン、硝酸イオン等の不純物が残りやすくなる。よってNa含有量が少なく、不純物アニオンも少ないpH領域としてpH1.5〜2.5の範囲が最も好ましい。
【0053】
溶液の鉄濃度基準での反応濃度は0.1〜3.0mol/Lの範囲であることが好ましい。反応濃度が0.1mol/Lより低い場合、工業的にリン酸第二鉄含水物粒子粉末を得るには好ましくなく、反応濃度が3.0mol/Lを超える場合には、反応スラリーの粘度が高く、均一攪拌が困難である。より好ましい反応濃度は、鉄濃度基準で0.1〜1.0mol/Lである。
【0054】
均一な反応のためには、反応器内が均一攪拌されていなければならない。その上で、攪拌速度は凝集粒子径を制御するために適宜調整することができる。攪拌速度は攪拌羽根の形状や大きさによって変化するが、本発明においては周速を1.0〜4.0m/s、攪拌回転数を1〜1000rpmとして攪拌することが好ましい。
【0055】
原料となる酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末は硫酸鉄からの共沈反応などによって比較的容易に得ることができる。
【0056】
酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末は、溶液中での反応前に、ヘンシェルミキサー、らいかい機、ハイスピードミキサー、万能攪拌機、ボールミル等の乾式および湿式混合機を用いて粉砕もしくは解砕を行い、リン化合物を含む水溶液と混合する。
【0057】
反応終了後、通風乾燥機、凍結真空乾燥機、スプレー乾燥機、フィルタープレス、バキュームフィルター、フィルターシックナー等を用いて余分な水分を除去することができる。
【0058】
本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末の結晶構造はストレング石構造(JCPDSカードNo.33−0667)およびメタストレング石構造(JCPDSカードNo.33−0666)から選ばれる一種以上である。ストレング石構造とメタストレング石構造の割合は、原料混合比、反応温度、反応pH、反応濃度など、複数の因子により影響され変化する。その割合を厳密に評価することは容易ではないが、簡便にその割合を評価する方法として、粉末X線回折測定法を用いて、ストレング石構造リン酸第二鉄含水物粒子粉末に由来する(122)面回折ピーク強度とメタストレング石構造リン酸第二鉄含水物粒子粉末に由来する(110)面回折ピーク強度を比較することにより、その割合を評価することとする。
【0059】
ストレング石構造由来の(122)面回折ピーク強度/メタストレング石構造に由来する(110)面回折ピーク強度を「(122)/(110)ピーク強度比」と定義し、指標として用いるとき、本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末の(122)/(110)ピーク強度比は0.01〜10の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.01〜3である。
【0060】
本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末において、(122)/(110)ピーク強度比が1以上のとき、ストレング石構造が第一相であるとする。ストレング石構造を第一相とする粒子は一次粒子形状が粒状になりやすい。ストレング石構造が第一相である粒子を得るためには、リン化合物の添加量が、リンイオンが酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末に含まれる鉄イオンに対して、モルパーセント換算で100〜120%の範囲が好ましい。
【0061】
また、本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末において、ストレング石構造を第一相とする場合には、反応中に強い剪断力をかけることによって、リン酸第二鉄含水物粒子粉末を微細な粒子にすることが好ましい。
【0062】
本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末を微粒子とするためには、周速を2.5〜3.2m/s、攪拌回転数を800〜1000rpmとして攪拌することが好ましい。
【0063】
本発明に係るストレング石構造が第一相である微細なリン酸第二鉄含水物粒子の二次粒子(凝集体)の平均二次粒子径は、3〜10μmの範囲にあることが好ましい。より好ましい平均二次粒子径は5〜8μmである。
【0064】
一方、本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末において、(122)/(110)ピーク強度比が1より小さいとき、メタストレング石構造が第一相であるとする。メタストレング石構造を第一相とする粒子は一次粒子形状が薄板状になりやすい。メタストレング石構造が第一相である粒子を得るためには、リン化合物の添加量が、リンイオンが酸化鉄粒子粉末または含水酸化鉄粒子粉末に含まれる鉄イオンに対して、モルパーセント換算で120〜1000%の範囲が好ましく、より好ましくは200〜600%の範囲である。
【0065】
また、本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末において、メタストレング石構造を第一相とする場合には、反応中にかける剪断力を抑えて、板状の一次粒子が密に凝集して二次粒子を構成するリン酸第二鉄含水物粒子の凝集体とすることが好ましい。
【0066】
本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末を微粉の少ない凝集粒子とするためには、周速を1.0〜1.5m/s、攪拌回転数を150〜350rpmとして攪拌することが好ましい。
【0067】
本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末を、板状の一次粒子が凝集して二次粒子を構成するリン酸第二鉄含水物粒子の凝集体とすることで、タップ密度の高いリン酸第二鉄含水物粒子粉末を得ることができる。
【0068】
本発明に係るメタストレング石構造が第一相であって、板状の一次粒子が凝集したリン酸第二鉄含水物粒子の二次粒子(凝集体)の平均二次粒子径は、5〜20μmの範囲にあることが好ましい。より好ましい平均二次粒子径は8〜18μmである。
【0069】
本発明に係るメタストレング石構造が第一相である薄板状の一次粒子が密に凝集して二次粒子を構成するリン酸第二鉄含水物粒子の凝集体粉体は、タップ密度が0.7〜1.5g/ccであることが好ましい。タップ密度はより大きいことが好ましく、0.7〜1.45g/ccがより好ましく、更により好ましくは0.75〜1.45g/ccである。
【0070】
次に、本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末を用いたオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の製造法について述べる。
【0071】
本発明に係るオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の製造法は、本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末とリチウム化合物及び有機化合物を、乾式もしくは湿式で均一に粉砕・混合し、還元雰囲気または不活性雰囲気下300〜800℃で熱処理することを特徴とする。
【0072】
乾式もしくは湿式で均一に粉砕・混合する際、ボールミル、バイブレーションミル、遊星型ボールミル、ペイントシェーカー、高速回転羽根型ミル、ジェットミルなど、均一に粉砕・混合できるものであれば装置に制限はない。
【0073】
リチウム化合物の添加量は、リン酸第二鉄含水物粒子粉末に含まれる鉄イオンに対して、モルパーセント換算で100〜120%の範囲が好ましい。リチウム化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム等が好ましい。
【0074】
本発明に係るオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の製造法において、有機化合物を添加する目的は、有機化合物が焼成時に示す還元作用と、焼成後に生じる導電性炭素質物質をオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末表面に付着させることである。
【0075】
不活性雰囲気下で焼成する場合、還元剤としての有機化合物の添加は必須である。用いられる有機化合物は、単糖類、二糖類、三糖類、多糖類などの糖類や、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸などの脂肪酸類、ポリエチレンやポリビニルアルコールなどの樹脂類など、焼成時に還元性を示す有機化合物であれば特に制限はない。
【0076】
還元雰囲気下で焼成する場合、還元剤としての有機化合物の添加は必ずしも必要ではない。しかし、導電性が悪いことが知られているオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を非水電解質二次電池の正極材料として用いる場合、導電性炭素質物質を粉末表面に付着させることは電池特性を向上させるために有効である。
【0077】
導電性炭素質物質をオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末表面に付着させる目的で、有機化合物としてカーボンブラックやケッチェンブラック、カーボンファイバーなど、導電性炭素質物質をあらかじめ混合してから不活性雰囲気または還元雰囲気下で焼成しても良い。
【0078】
還元剤としての有機化合物と、導電剤としての導電性炭素質物質の両方を混合してから焼成してもよい。
【0079】
有機化合物は、本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末とリチウム化合物の合計重量に対し、5wt%〜20wt%添加することが好ましい。
【0080】
焼成は、ガス流通式箱型マッフル炉、ガス流通式回転炉、流動熱処理炉等で熱処理することができる。不活性雰囲気としては窒素、ヘリウム、アルゴン等、還元雰囲気としては水素、一酸化炭素等が挙げられる。
【0081】
加熱焼成温度は、300℃〜800℃が好ましい。300℃未満の場合には鉄イオンの還元反応が十分に進まず、オリビン型リン酸鉄リチウム以外の結晶相が残存し、800℃を超える場合には別の結晶相が出現するので好ましくない。
【0082】
次に、本発明に係るオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末について述べる。
【0083】
本発明に係るオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末は、BET比表面積が10〜100m/gであることが好ましい。
【0084】
本発明に係るオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末は、炭素を1〜10wt%含有するものであることが好ましい。
【0085】
本発明に係るオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末は、Na含有量が100ppm以下であることが好ましい。
【0086】
本発明に係るオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末は、平均一次粒子径が50〜300nmであることが好ましい。
【0087】
本発明に係るオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末は、平均二次粒子径が5〜20μmであることが好ましい。より好ましい平均二次粒子径は8〜18μmである。
【0088】
本発明に係るオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末は、タップ密度が0.7〜1.5g/ccであることが好ましい。より好ましいタップ密度は0.75〜1.45g/ccであり、更により好ましくは0.8〜1.45g/ccである。
【0089】
次に、本発明に係るオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末からなる正極活物質を用いた正極について述べる。
【0090】
本発明に係るオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を用いて正極を製造する場合には、常法に従って、導電剤と結着剤とを添加混合する。導電剤としてはアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等が好ましく、結着剤としてはポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が好ましい。
【0091】
本発明に係るオリビン型複合酸化物粒子粉末を用いて製造される二次電池は、前記正極、負極及び電解質から構成される。
【0092】
負極活物質としては、リチウム金属、リチウム/アルミニウム合金、リチウム/スズ合金、グラファイトや黒鉛等を用いることができる。
【0093】
また、電解液の溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルの組み合わせ以外に、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル等のカーボネート類や、ジメトキシエタン等のエーテル類の少なくとも1種類を含む有機溶媒を用いることができる。
【0094】
さらに、電解質としては、六フッ化リン酸リチウム以外に、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム等のリチウム塩の少なくとも1種類を上記溶媒に溶解して用いることができる。
【0095】
本発明に係るオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を用いて製造した非水電解質二次電池は、C/10の充放電レートで、初期放電容量150〜165mAh/gの優れた充放電特性を発揮することができる。
【実施例】
【0096】
次に、本発明を以下の実施例を用いて更に詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されない。以下の実施例における評価方法を示す。
【0097】
比表面積は試料を窒素ガス下で110℃、45分間乾燥脱気した後、MONOSORB(ユアサアイオニクス(株)製)を用いて、BET1点連続法により求めた比表面積である。
【0098】
炭素量は、炭素硫黄分析装置(株式会社堀場製作所製EMIA−820)を用いて測定した。
【0099】
Na含有量およびP/Feモル比は、試料を溶解して発光プラズマ分析装置ICAP−6500(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて測定した。
【0100】
粒子の結晶構造はX線回折装置RINT2500(理学電機製)を用い、Cu−Kα、40kV、300mAにより測定した。また、結晶子サイズは、測定したX線回折パターンから、解析プログラム「RIETAN-2000」を用いたRietveld解析により算出した。
【0101】
平均一次粒子径は、日立超高分解能電解放出形走査電子顕微鏡S−4800により測定した50点の平均値から算出した。
【0102】
平均二次粒子径は、レーザー回折・散乱型粒度分布計であるHELOS[(株)日本レーザー製]を用い、メジアン径D50を測定した。
【0103】
タップ密度は、タップデンサー(KYT−3000、セイシン企業社製)を用いて、500回タップした後の粉末密度を測定した。
【0104】
オリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を用いてコインセルによる初期充放電特性およびレート特性評価を行った。
【0105】
まず、正極活物質としてオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を88重量%、導電材としてアセチレンブラックを4重量%、バインダーとしてN−メチルピロリドンに溶解したポリフッ化ビニリデン8重量%とを混合した後、Al金属箔に塗布し120℃にて乾燥した。このシートを16mmφに打ち抜いた後、5t/cm2で圧着し、電極厚みを50μmとした物を正極に用いた。負極は16mmφに打ち抜いた金属リチウムとし、電解液は1mol/LのLiPF6を溶解したECとDMCを体積比1:2で混合した溶液を用いてCR2032型コインセルを作成した。
【0106】
初期充放電特性は25℃の恒温で測定し、充電を4.3Vまで、放電を2.0Vまで行った。レート特性は、170mAh/gを理論容量とし、0.1C、5.0Cで測定を行った。
【0107】
<実施例1−1>
BET比表面積が98.5m/gの含水酸化鉄粒子の25%スラリー1147gを加熱式混合攪拌機に入れ、攪拌しながらオルトリン酸溶液をP/Feのモル比が1.1になるように投入し、容積が10Lとなるようイオン交換水で混合スラリーの液量を調整して鉄濃度基準での反応濃度を0.3mol/Lとした。その後、攪拌羽根を周速2.8m/s、900rpmの回転数で回転させて高速攪拌しながら60℃に加熱し、混合攪拌機内の温度を60℃に保持させた状態で16時間反応させた。反応後、取り出したスラリーを、プレスフィルターを用いて3倍量の水で水洗を行った後、110℃で12時間通風式乾燥機で乾燥処理を行い、乾燥粉末555gを得た。
【0108】
粉末X線回折測定を行ったところ、ストレング石構造(strengite)と一致する化合物を主相とし、メタストレング石構造(phosphosiderite)と一致する化合物を第2相とするリン酸第二鉄含水物粒子粉末であることが分かった。得られた粉末の(122)/(110)ピーク強度比は1.98であった。また、不純物相は確認されなかった。
【0109】
得られた粉末のBET比表面積は20.3m/gであり、Na含有量は14ppmであった。また、得られた粉末のP/Feモル比は1.01であり、理論組成に極めて近いP/Feモル比のリン酸第二鉄含水物粒子粉末が得られたことが確認できた。
【0110】
得られた粉末の走査型電子顕微鏡撮影を行ったところ、平均一次粒子径が200nmの多面体微粒子であり、二次粒子形状は不定形であった。
【0111】
レーザー回折法による粒子径測定の結果は平均二次粒子径6.4μmであり、タップ密度は0.51g/ccであった。
得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真を図1に、粉末X線回折図を図2に示す。
【0112】
<実施例2−1>
実施例1−1で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末35gと水酸化リチウム一水和物8.15g、スクロース4.32gおよびエタノール120mLをジルコニア製遊星ボールミルポットに入れた後、φ3mmのジルコニアビーズ450gを加えて、300rpmで2時間湿式混合・粉砕処理を行った。粉砕処理後のスラリーをヌッチェで固液分離した後、80℃で6時間乾燥機で乾燥を行った。
【0113】
得られた乾燥物を乳鉢でほぐした後、窒素雰囲気下、725℃で3時間焼成し、75μmの篩を通すことによってオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を得た。
【0114】
得られた焼成物のBET比表面積は31.8m/g、タップ密度0.75g/cc、炭素含有量は2.70wt%であり、Na含有量は70ppmであった。走査型電子顕微鏡で観察した結果、平均一次粒子径は100nmと微細であった。また、リートベルト解析により求めた結晶子サイズは220nm前後であった。そして、二次粒子形状は不定形であった。得られたリン酸鉄リチウム粒子粉末の走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。
【0115】
<実施例1−2>
湿式反応温度を60℃から80℃へ変更した以外は実施例1−1と同様に反応を行い、生成物を得た。
【0116】
粉末X線回折測定を行ったところ、ストレング石構造と一致する化合物を主相とし、メタストレング石構造と一致する化合物を第2相としたリン酸第二鉄含水物粒子粉末であることが分かった。得られた粉末の(122)/(110)ピーク強度比は1.07であった。また、不純物相は確認されなかった。
【0117】
得られた粉末のBET比表面積は13.8m/gであり、Na含有量は16ppmであった。また、得られた粉末のP/Feモル比は0.98であり、理論組成に極めて近いP/Feモル比のリン酸第二鉄含水物粒子粉末が得られたことが確認できた。
【0118】
得られた粉末の走査型電子顕微鏡撮影を行ったところ、平均一次粒子径が300nmの多面体微粒子であり、二次粒子形状は不定形であった。
【0119】
レーザー回折法による粒子径測定の結果は平均二次粒子径5.0μmであり、タップ密度は0.66g/ccであった。
【0120】
<実施例2−2>
実施例1−2で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末35gと水酸化リチウム一水和物8.15gとスクロース4.32gおよびエタノール120mLをジルコニア製遊星ボールミルポットに入れた後、φ5mmのジルコニアビーズ300gを加えて、300rpmで4時間湿式混合・粉砕処理を行った。粉砕処理後のスラリーをヌッチェで固液分離した後、80℃で6時間乾燥機で乾燥を行った。
【0121】
得られた乾燥物を乳鉢でほぐした後、窒素雰囲気下、725℃で3時間焼成し、75μmの篩を通すことによってオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を得た。
【0122】
得られた焼成物のBET比表面積は28.3m/g、タップ密度0.9g/cc、炭素含有量は2.31wt%であり、Na含有量は75ppmであった。走査型電子顕微鏡で観察した結果、平均一次粒子径は120nmと微細であった。また、リートベルト解析により求めた結晶子サイズは240nm前後であった。そして、二次粒子形状は不定形であった。
【0123】
<実施例1−3>
BET比表面積が120.0m/gの含水酸化鉄粒子の25%スラリーを、φ5mmのジルコニアボールを用いて12時間解こうを行った。次に、このスラリー1147gを加熱式混合攪拌機に入れ、攪拌しながらオルトリン酸溶液をP/Feのモル比が1.02になるように投入し、容積が10Lとなるようイオン交換水で混合スラリーの液量を調整して鉄濃度基準での反応濃度を0.3mol/Lとした。その後、攪拌羽根を周速2.8m/s、900rpmの回転数で回転させて高速攪拌しながら70℃に加熱し、混合攪拌機内の温度を70℃に保持させた状態で18時間反応させた。反応後、取り出したスラリーを、プレスフィルターを用いて3倍量の水で水洗を行った後、110℃で12時間通風式乾燥機で乾燥処理を行い、乾燥粉末555gを得た。
【0124】
粉末X線回折測定を行ったところ、ストレング石構造と一致する化合物を主相とし、メタストレング石構造と一致する化合物を第2相としたリン酸第二鉄含水物粒子粉末であることが分かった。得られた粉末の(122)/(110)ピーク強度比は1.28であった。また、不純物相は確認されなかった。
【0125】
得られた粉末のBET比表面積は17.5m/gであり、Na含有量は15ppmであった。また、得られた粉末のP/Feモル比は1.00であり、理論組成通りのリン酸第二鉄含水物粒子粉末が得られたことが確認できた。
【0126】
得られた粉末の走査型電子顕微鏡撮影を行ったところ、平均一次粒子径が250nmの多面体微粒子であり、二次粒子形状は不定形であった。
【0127】
レーザー回折法による粒子径測定の結果は平均二次粒子径5.3μmであり、タップ密度は0.60g/ccであった。
【0128】
<実施例2−3>
実施例1−3で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末10gと水酸化リチウム一水和物2.30g、スクロース1.23gおよびエタノール120mLをポリプロピレン製ポットに入れた後、φ5mmのジルコニアビーズ850gを加えて、200rpmで24時間湿式混合・粉砕処理を行った。粉砕処理後のスラリーをヌッチェで固液分離した後、80℃で6時間乾燥機で乾燥を行った。
【0129】
得られた乾燥物を乳鉢でほぐした後、窒素雰囲気下、725℃で3時間焼成し、オリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を得た。
【0130】
得られた焼成物のBET比表面積は23.1m/g、タップ密度0.85g/cc、炭素含有量は3.46wt%であり、Na含有量は75ppmであった。走査型電子顕微鏡で観察した結果、平均一次粒子径は130nmと微細であった。また、リートベルト解析により求めた結晶子サイズは250nm前後であった。そして、二次粒子形状は不定形であった。
【0131】
<実施例1−4>
BET比表面積が120.0m/gの含水酸化鉄粒子の25%スラリー3057gを加熱式混合攪拌機に入れ、攪拌しながらオルトリン酸溶液をP/Feのモル比が1.1になるように投入し、容積が10Lとなるようイオン交換水で混合スラリーの液量を調整して鉄濃度基準での反応濃度を0.8mol/Lとした。その後、攪拌羽根を周速2.8m/s、900rpmの回転数で回転させて高速攪拌しながら70℃に加熱し、混合攪拌機内の温度を70℃に保持させた状態で19時間反応させた。反応後、取り出したスラリーを、プレスフィルターを用いて3倍量の水で水洗を行った後、110℃で12時間通風式乾燥機で乾燥処理を行い、乾燥粉末1490gを得た。
【0132】
粉末X線回折測定を行ったところ、メタストレング石構造と一致する化合物を主相とし、ストレング石構造と一致する化合物を第2相としたリン酸第二鉄含水物粒子粉末であることが分かった。得られた粉末の(122)/(110)ピーク強度比は0.53であった。また、不純物相は確認されなかった。
【0133】
得られた粉末のBET比表面積は32.4m/gであり、Na含有量は16ppmであった。また、得られた粉末のP/Feモル比は1.01であり、理論組成に極めて近いP/Feモル比のリン酸第二鉄含水物粒子粉末が得られたことが確認できた。
【0134】
得られた粉末の走査型電子顕微鏡撮影を行ったところ、平均一次粒子径が200nmの板状微粒子であり、二次粒子形状は不定形であった。
【0135】
レーザー回折法による粒子径測定の結果は平均二次粒子径5.7μmであり、タップ密度は0.45g/ccであった。
得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真を図4に示す。
【0136】
<実施例2−4>
実施例1−4で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末10gと水酸化リチウム一水和物2.30g、スクロース1.23g、およびエタノール120mLをポリプロピレン製ポットに入れた後、φ5mmのジルコニアビーズ850gを加えて、200rpmで24時間湿式混合・粉砕処理を行った。粉砕処理後のスラリーをヌッチェで固液分離した後、80℃で6時間乾燥機で乾燥を行った。
【0137】
得られた乾燥物を乳鉢でほぐした後、窒素雰囲気下、725℃で3時間焼成し、オリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を得た。
【0138】
得られた焼成物のBET比表面積は29.0m/g、タップ密度0.77g/cc、炭素含有量は2.92wt%であり、Na含有量は70ppmであった。走査型電子顕微鏡で観察した結果、平均一次粒子径が100nmと微細であった。また、リートベルト解析により求めた結晶子サイズは230nm前後であった。そして、二次粒子形状は不定形であった。
【0139】
<比較例1−1>
湿式反応温度を60℃から50℃へ変更した以外は実施例1−1と同様に反応を行い、生成物を得た。
【0140】
粉末X線回折測定を行ったところ、ストレング石構造と一致する化合物を主相とし、メタストレング石構造と一致する化合物を第2相とする以外に、アモルファス相を不純物相として含むリン酸第二鉄含水物粒子粉末であった。得られた粉末の(122)/(110)ピーク強度比は1.20であった。
【0141】
得られた粉末のBET比表面積は36.0m/gであり、Na含有量は63ppmであった。また、得られた粉末のP/Feモル比は0.83であり、理論組成から17%程度ずれていることが分かった。
【0142】
得られた粉末の走査型電子顕微鏡撮影を行ったところ、平均一次粒子径が200nm前後の粒状微粒子と板面径が1μm前後の薄い不定形板状粒子が存在することが確認された。レーザー回折法による粒子径測定の結果は平均二次粒子径7.0μmであり、タップ密度は0.48g/ccであった。得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。
【0143】
<比較例2−1>
比較例1−1で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末35gと水酸化リチウム一水和物8.15g、スクロース4.32gおよびエタノール120mLをジルコニア製遊星ボールミルポットに入れた後、3mmのジルコニアビーズ450gを加えて、300rpmで6時間湿式混合・粉砕処理を行った。粉砕処理後のスラリーをヌッチェで固液分離した後、80℃で6時間乾燥機で乾燥を行った。
【0144】
得られた乾燥物を乳鉢でほぐした後、窒素雰囲気下、725℃で3時間焼成し、オリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を得た。
【0145】
得られた焼成物のBET比表面積は35.2m/g、タップ密度0.75g/cc、炭素含有量は2.9wt%であり、Na含有量は120ppmであった。走査型電子顕微鏡で観察した結果、平均一次粒子径は100nmと微細であった。また、リートベルト解析により求めた結晶子サイズは200nm前後であった。
【0146】
<比較例1−2>
BET比表面積が32.0m/gの含水酸化鉄粒子の5.8%スラリー1056gを加熱式混合攪拌機に入れ、攪拌しながらオルトリン酸溶液をP/Feのモル比が1.1になるように投入し、容積が10Lとなるようイオン交換水で混合スラリーの液量を調整して鉄濃度基準での反応濃度を0.3mol/Lとした。その後、攪拌羽根を周速2.8m/s、900rpmの回転数で回転させて高速攪拌しながら80℃に加熱し、混合攪拌機内の温度を80℃に保持させた状態で16時間反応させた。反応後、取り出したスラリーを、プレスフィルターを用いて3倍量の水で水洗を行った後、110℃で12時間通風式乾燥機で乾燥処理を行い、乾燥粉末550gを得た。
【0147】
粉末X線回折測定を行ったところ、ストレング石構造と一致する化合物を主相とし、メタストレング石構造と一致する化合物を第2相とする以外に、未反応の含水酸化鉄を不純物相として含むリン酸第二鉄含水物粒子粉末であった。得られた粉末の(122)/(110)ピーク強度比は12.1であった。
【0148】
得られた粉末のBET比表面積は5.0m/gであり、Na含有量は120ppmであった。また、得られた粉末のP/Feモル比は0.72であり、理論組成から28%程度ずれていることが分かった。
【0149】
得られた粉末の走査型電子顕微鏡撮影を行ったところ、八面体状で平均一次粒子径が1μm以上の大粒子とその周囲に付着する未反応の含水酸化鉄粒子が確認された。レーザー回折法による粒子径測定の結果は平均二次粒子径2.1μmであり、タップ密度は1.038g/ccであった。得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真を図6に示す。
【0150】
得られた粉末はP/Feがずれているため、このままオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の原料として用いると焼成後に異相が発生し容量を低下させる。また平均一次粒子径が1μm以上の大粒子であり、サブミクロンオーダーのオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の前駆体としては大きすぎたため、焼成は行わなかった。
【0151】
<比較例1−3>
リン酸第二鉄含水物粒子粉末として、市販されているAldrich製リン酸第二鉄二水和物粉末を用いた。
【0152】
Aldrich製リン酸第二鉄二水和物粉末のBET比表面積は30.4m/gであり、Na含有量は10000ppmを超えていた。また、P/Feモル比は0.99であり、理論組成からのずれがほとんどないことが確認できた。
【0153】
Aldrich製リン酸第二鉄二水和物粉末の粉末X線回折を測定したところ、非晶質であることが確認できた。Aldrich製リン酸第二鉄二水和物粉末の走査型電子顕微鏡写真を図7に示す。
【0154】
<比較例2−3>
このAldrich製リン酸第二鉄二水和物粉末を用いた以外は実施例2−1と同様の条件で焼成を行い、焼成物を得た。
【0155】
焼成物の粉末X線回折を測定したところ、オリビン型リン酸鉄リチウム相以外に、マリカイト(NaFePO)相が不純物相として検出された。これは明らかに前駆体であるリン酸第二鉄二水和物中に含まれたNa不純物が多すぎることが原因である。また、実施例2−1と同条件での焼成にも関わらず、FeやLiPO等の不純物相も検出された。得られた焼成物のBET比表面積は17.5m/g、タップ密度0.75g/ccで、含有炭素量は1.6wt%であり、Na含有量は10000ppmを超えていた。走査型電子顕微鏡で観察した結果、平均一次粒子径は80nmと微細であった。また、リートベルト解析により求めた結晶子サイズは150nm前後であった。
【0156】
実施例1−1〜1−4および比較例1−1〜1−3で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末の合成条件を表1に、諸特性を表2に示す。
【0157】
【表1】

【0158】
【表2】

【0159】
<実施例1−5>
BET比表面積が90.5m/gの含水酸化鉄粒子の6%スラリー1176gを加熱式混合攪拌機に入れ、攪拌しながらオルトリン酸溶液をP/Feのモル比が3.0になるように投入し、容積が1.5Lとなるようイオン交換水で混合スラリーの液量を調整して鉄濃度基準での反応濃度を0.5mol/Lとした。その後、攪拌羽根を周速1.5m/s、300rpmの回転数で回転させて低速攪拌しながら85℃に加熱し、混合攪拌機内の温度を85℃に保持させた状態で4時間反応させた。反応後、取り出したスラリーを、ヌッチェを用いて3倍量の水で水洗を行った後、110℃で12時間通風式乾燥機で乾燥処理を行い、乾燥粉末140gを得た。
【0160】
粉末X線回折測定を行ったところ、ほぼメタストレング石構造(phosphosiderite)と一致する化合物からなり、わずかにストレング石構造(strengite)と一致する化合物を含むリン酸第二鉄含水物粒子粉末であることが分かった。得られた粉末の(122)/(110)ピーク強度比は0.06であった。また、不純物相は確認されなかった。
【0161】
得られた粉末のBET比表面積は31.5m/gであり、Na含有量は10ppm以下で検出できなかった。また、得られた粉末のP/Feモル比は0.98であり、理論組成に極めて近いP/Feモル比のリン酸第二鉄含水物粒子粉末が得られたことが確認できた。
【0162】
得られた粉末の走査型電子顕微鏡撮影を行ったところ、薄板状の一次粒子が密に凝集した丸みをおびた正方柱状の二次粒子になっていた。走査型電子顕微鏡写真より一次粒子サイズ測定を試みたが、一次粒子の板面が凝集粒子の中心方向に成長しているため板面方向の測定は困難であった。厚み方向は測定できたが、50nm以下の極めて薄い板状粒子に成長していた。
【0163】
レーザー回折法による粒子径測定の結果は平均二次粒子径15.7μmであり、タップ密度は0.93g/ccであった。得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真を図8に、粉末X線回折図を図9に示す。
【0164】
<実施例2−5>
実施例1−5で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末35gと水酸化リチウム一水和物8.15g、スクロース4.32gを乳鉢で混合した後、窒素雰囲気下、725℃で5時間焼成し、75μmの篩を通すことによってオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を得た。
【0165】
得られた焼成物のBET比表面積は39.6m/g、タップ密度1.14g/cc、炭素含有量は3.24%であり、Na含有量は60ppmであった。リートベルト解析によりもとめた結晶子サイズは170nmであり、二次粒子形状は前駆体であるリン酸第二鉄含水物粒子の凝集体形状をほぼ維持していた。得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真を図10に、粉末X線回折図を図11に示す。
【0166】
<実施例1−6>
BET比表面積が90.5m/gの含水酸化鉄粒子の6%スラリー1412gを加熱式混合攪拌機に入れ、攪拌しながらオルトリン酸溶液をP/Feのモル比が2.0になるように投入し、容積が1.5Lとなるようイオン交換水で混合スラリーの液量を調整して鉄濃度基準での反応濃度を0.6mol/Lとした。その後、攪拌羽根を周速1.5m/s、300rpmの回転数で回転させて低速攪拌しながら85℃に加熱し、混合攪拌機内の温度を85℃に保持させた状態で4時間反応させた。反応後、取り出したスラリーを、プレスフィルターを用いて3倍量の水で水洗を行った後、110℃で12時間通風式乾燥機で乾燥処理を行い、乾燥粉末168gを得た。
【0167】
粉末X線回折測定を行ったところ、メタストレング石構造(phosphosiderite)と一致する化合物を主相とし、ストレング石構造(strengite)と一致する化合物を第2相としたリン酸第二鉄含水物粒子粉末であることが分かった。得られた粉末の(122)/(110)ピーク強度比は0.25であった。また、不純物相は確認されなかった。
【0168】
得られた粉末のBET比表面積は23.7m/gであり、Na含有量は10ppm以下で検出できなかった。また、得られた粉末のP/Feモル比は0.96であり、理論組成に極めて近いP/Feモル比のリン酸第二鉄含水物粒子粉末が得られたことが確認できた。
【0169】
得られた粉末の走査型電子顕微鏡撮影を行ったところ、薄板状の一次粒子が密に凝集した丸みをおびた正方柱状の二次粒子になっていた。走査型電子顕微鏡写真より一次粒子サイズを測定しようと試みたが、一次粒子の板面が凝集粒子の中心方向に成長しているため測定が困難であった。厚み方向は測定できたが、50nm以下の極めて薄い板状粒子に成長していた。
【0170】
レーザー回折法による粒子径測定の結果は平均二次粒子径9.8μmであり、タップ密度は0.80g/ccであった。得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真を図12に、粉末X線回折図を図13に示す。
【0171】
<実施例2−6>
実施例1−6で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末35gと水酸化リチウム一水和物8.15g、スクロース4.32gを乳鉢で混合した後、窒素雰囲気下、725℃で5時間焼成し、75μmの篩を通すことによってオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を得た。
【0172】
得られた焼成物のBET比表面積は31.2m/g、タップ密度1.04g/cc、炭素含有量は3.02%であり、Na含有量は60ppmであった。リートベルト解析によりもとめた結晶子サイズは300nmであり、二次粒子形状は前駆体であるリン酸第二鉄含水物粒子の凝集体形状をほぼ維持していた。得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真を図14に示す。
【0173】
<実施例1−7>
BET比表面積が90.5m/gの含水酸化鉄粒子の4%スラリー1059gを加熱式混合攪拌機に入れ、攪拌しながらオルトリン酸溶液をP/Feのモル比が3.0になるように投入し、容積が1.5Lとなるようイオン交換水で混合スラリーの液量を調整して鉄濃度基準での反応濃度を0.3mol/Lとした。その後、攪拌羽根を周速1.5m/s、300rpmの回転数で回転させて低速攪拌しながら85℃に加熱し、混合攪拌機内の温度を85℃に保持させた状態で4時間反応させた。反応後、取り出したスラリーを、ヌッチェを用いて3倍量の水で水洗を行った後、110℃で12時間通風式乾燥機で乾燥処理を行い、乾燥粉末84gを得た。
【0174】
粉末X線回折測定を行ったところ、メタストレング石構造(phosphosiderite)と一致する化合物を主相とし、ストレング石構造(strengite)と一致する化合物を第2相としたリン酸第二鉄含水物粒子粉末であることが分かった。得られた粉末の(122)/(110)ピーク強度比は0.23であった。また、不純物相は確認されなかった。
【0175】
得られた粉末のBET比表面積は21.1m/gであり、Na含有量は10ppm以下で検出できなかった。また、得られた粉末のP/Feモル比は0.97であり、理論組成に極めて近いP/Feモル比のリン酸第二鉄含水物粒子粉末が得られたことが確認できた。
【0176】
得られた粉末の走査型電子顕微鏡撮影を行ったところ、薄板状の一次粒子が密に凝集した丸みをおびた正方柱状の二次粒子になっていた。走査型電子顕微鏡写真より一次粒子サイズを測定しようと試みたが、一次粒子の板面が凝集粒子の中心方向に成長しているため測定が困難であった。厚み方向は測定できたが、50nm以下の極めて薄い板状粒子に成長していた。
【0177】
レーザー回折法による粒子径測定の結果は平均二次粒子径13.3μmであり、タップ密度は0.95g/ccであった。得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真を図15に示す。
【0178】
<実施例2−7>
実施例1−7で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末35gと水酸化リチウム一水和物8.15g、スクロース4.32gを乳鉢で混合した後、窒素雰囲気下、725℃で5時間焼成し、75μmの篩を通すことによってオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を得た。
【0179】
得られた焼成物のBET比表面積は34.5m/g、タップ密度1.16g/cc、炭素含有量は3.21%であり、Na含有量は65ppmであった。リートベルト解析によりもとめた結晶子サイズは200nmであり、二次粒子形状は前駆体であるリン酸第二鉄含水物粒子の凝集体形状をほぼ維持していた。得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真を図16に示す。
【0180】
<実施例1−8>
BET比表面積が90.5m/gの含水酸化鉄粒子の6%スラリー7842gを加熱式混合攪拌機に入れ、攪拌しながらオルトリン酸溶液をP/Feのモル比が3.0になるように投入し、容積が10Lとなるようイオン交換水で混合スラリーの液量を調整して鉄濃度基準での反応濃度を0.5mol/Lとした。その後、攪拌羽根を周速1.2m/s、200rpmの回転数で回転させて低速攪拌しながら85℃に加熱し、混合攪拌機内の温度を85℃に保持させた状態で4時間反応させた。反応後、取り出したスラリーを、プレスフィルターを用いて3倍量の水で水洗を行った後、110℃で12時間通風式乾燥機で乾燥処理を行い、乾燥粉末934gを得た。
【0181】
粉末X線回折測定を行ったところ、ほぼメタストレング石構造(phosphosiderite)と一致する化合物のみからなっており、わずかにストレング石構造(strengite)と一致する化合物を含むリン酸第二鉄含水物粒子粉末であることが分かった。得られた粉末の(122)/(110)ピーク強度比は0.07であった。また、不純物相は確認されなかった。
【0182】
得られた粉末のBET比表面積は28.1m/gであり、Na含有量は10ppm以下で検出できなかった。また、得られた粉末のP/Feモル比は1.01であり、理論組成に極めて近いP/Feモル比のリン酸第二鉄含水物粒子粉末が得られたことが確認できた。
【0183】
得られた粉末の走査型電子顕微鏡撮影を行ったところ、薄板状の一次粒子が密に凝集した丸みをおびた正方柱状の二次粒子になっていた。走査型電子顕微鏡写真より一次粒子サイズ測定を試みたが、一次粒子の板面が凝集粒子の中心方向に成長しているため板面方向の測定は困難であった。厚み方向は測定できたが、50nm以下の極めて薄い板状粒子に成長していた。
【0184】
レーザー回折法による粒子径測定の結果は平均二次粒子径10.6μmであり、タップ密度は0.83g/ccであった。
【0185】
<実施例2−8>
実施例1−8で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末35gと水酸化リチウム一水和物8.15g、スクロース4.32gを乳鉢で混合した後、窒素雰囲気下、725℃で5時間焼成し、75μmの篩を通すことによってオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を得た。
【0186】
得られた焼成物のBET比表面積は36.7m/g、タップ密1.06、炭素含有量は3.26%であり、Na含有量は60ppmであった。リートベルト解析によりもとめた結晶子サイズは200nmであり、二次粒子形状は前駆体であるリン酸第二鉄含水物粒子の凝集体形状をほぼ維持していた。
【0187】
実施例1−5〜1−8で得られたリン酸第二鉄含水物粒子粉末の合成条件を表3に、諸特性を表4に示す。
【0188】
【表3】

【0189】
【表4】

【0190】
次に、実施例2−1〜2−8および比較例2−1、比較例2−3で得られたオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の諸特性及びコインセルによる初期充放電特性評価を行った結果を表5に示す。
【0191】
【表5】

【0192】
以上の結果から、本発明に係るオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末は充放電容量が大きく、充放電時のレート特性が優れ、非水電解質二次電池用活物質として有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末は、安価な原料で簡便に製造できる上、得られる粉末は微細で不純物が極めて少ないため、非水電解質二次電池用オリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の前駆体として好適である。さらに、本発明に係るリン酸第二鉄含水物粒子粉末は、微細な一次粒子が凝集した二次粒子であるため、非水電解質二次電池用オリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の前駆体として好適である。また本発明で得られるリン酸第二鉄含水物粒子粉末を原料とすることにより、優れた電池性能を発揮する非水電解質二次電池用正極活物質が製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の前駆体であり、Na含有量が100ppm以下であり、リン/鉄のモル比が0.9〜1.1であるリン酸第二鉄含水物粒子粉末。
【請求項2】
リン酸第二鉄含水物粒子粉末の結晶構造がストレング石構造およびメタストレング石構造のうち少なくとも一種である請求項1に記載のリン酸第二鉄含水物粒子粉末。
【請求項3】
リン酸第二鉄含水物粒子粉末が板状の一次粒子が凝集することによって形成される二次粒子であり、平均二次粒子径が5〜20μmである請求項1または2に記載のリン酸第二鉄含水物粒子粉末。
【請求項4】
タップ密度が0.7〜1.5g/ccである請求項1〜3のいずれかに記載のリン酸第二鉄含水物粒子粉末。
【請求項5】
酸化鉄粒子粉末又は含水酸化鉄粒子粉末とリン化合物とを溶液中で反応して請求項1〜4のいずれかに記載のリン酸第二鉄含水物粒子粉末を製造する方法において、BET比表面積が50m/g以上の酸化鉄粒子粉末又は含水酸化鉄粒子粉末を鉄原料として用い、かつ、60〜100℃の温度領域で反応を行うことを特徴とするリン酸第二鉄含水物粒子粉末の製造法。
【請求項6】
溶液中の鉄濃度基準での反応濃度が0.1〜3.0mol/Lの範囲であり、かつ、仕込みに使用するリン化合物の添加量が、リンイオンが鉄イオンに対してモルパーセント換算で100〜1000%であり、反応溶液のpHが3以下である請求項5に記載のリン酸第二鉄含水物粒子粉末の製造法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のリン酸第二鉄含水物粒子粉末とリチウム化合物と有機化合物とを混合し、不活性雰囲気下または還元雰囲気下300〜800℃で熱処理するオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の製造法。
【請求項8】
請求項7に記載のオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末の製造法によって得られる非水電解質二次電池用オリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末。
【請求項9】
請求項8に記載のオリビン型リン酸鉄リチウム粒子粉末を使用した非水電解質二次電池。

【図2】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−12279(P2012−12279A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201001(P2010−201001)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】