説明

リード線付き電子部品およびリード線の絶縁被覆方法

【課題】リードとの密着性が良好で、割れが生じにくく、しかも、高度の耐熱性を有する絶縁被膜で被覆されたリード線を備える電子部品を提供すること。
【解決手段】分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを含むサスペンジョン型電着塗料により形成された絶縁被膜であって、JIS C3003に準拠した温度指数評価法での耐熱指数がC種を示す絶縁被膜にて被覆されたリード線を備える電子部品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリード線付き電子部品に関し、詳しくは、高耐熱性で高い耐電圧性能の絶縁被膜で被覆されたリード線を備える電子部品、及び、リード線の絶縁被覆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リード線付き電子部品では、リード線と素子を接続した上で、リード線間の接触による短絡を防止するなどの目的でリード線に絶縁被覆がされることが多い。例えば、特許文献1は、サーミスタのリード線の絶縁について説明している。図1に示すように、サーミスタ10は、サーミスタ素子11に設けられた端子電極12上にリード線13が接続されており、サーミスタ素子11およびリード線13の一部は外装樹脂14で被覆されている。リード線13は、さらに他の外装樹脂15で覆われている。特許文献1では他の外装樹脂15としてポリエチレン系樹脂、またはシリコン樹脂などを用いることができるとしており、さらに、絶縁チューブを用いてもよいと記載している。
【特許文献1】特開2000−294407号公報
【特許文献2】特開2005−162954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、サーミスタなどの電子部品は、車載用などの苛酷な環境でも用いられることが多くなっており、かつ、高密度実装に対応できるように、小型軽量化が要求されるようになってきた。そのような要求に応えるためには、電子部品のリード線についても、均一な膜厚で、ピンホールなどの欠陥が発生することなく、しかも耐熱性を有する絶縁被膜で被覆することが求められる。
特許文献2には、絶縁保護すべき部材上に剥がれや割れが生じにくい高絶縁性被膜を形成できる電着塗料組成物として、シロキサン結合を有する特定のブロック共重合ポリイミドを樹脂成分として含有する溶液タイプの電着塗料組成物が開示されている。この電着塗料組成物は、部材との密着性や被膜の可撓性に優れるだけでなく、耐熱性や耐電圧性も良好な電着被膜(絶縁層)を形成できると記載されている。
【0004】
しかしながら、リード線上に、薄膜から厚膜にいたる広範囲で、均一な被膜厚さが得られ、絶縁性が高く、かつ耐熱性を備える被覆を、生産性の高い製造方法で実現するためには、さらなる改良が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドは、これを比較的大きな粒径の析出粒子として分散させたサスペンジョン型塗料組成物に塗料化できることを見出した。さらに、得られたサスペンジョン型塗料組成物は、膜性状の均一性が高い電着被膜を形成することができ、金属細線上に形成された電着被膜は極めて高いレベルの耐熱性及び耐電圧性を有しており、しかも、1.5μmから50μmという幅広い膜厚範囲で極めて均一な電着被膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]絶縁被膜によって被覆されたリード線を備える電子部品であって、
該被膜が、分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを含み、
該ブロック共重合ポリイミドが、ジアミン成分の1つとして、分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミンを含み、
該分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミンが、ビス(4−アミノフェノキシ)ジメチルシラン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、及び下記の一般式(I)で表される化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である、リード線付き電子部品。
【化1】

(式中、4つのRは、それぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基又は1個乃至3個のアルキル基若しくはアルコキシル基で置換されたフェニル基を表し、l及びmはそれぞれ独立して1〜4の整数を表し、nは1〜20の整数を表す。)
[2]該被膜が、該ブロック共重合ポリイミドからなるポリイミド粒子を含むサスペンジョン型電着塗料組成物を該リード線上に電着させることで形成された絶縁被膜である上記[1]のリード線付き電子部品。
[3]該被膜が、JIS C3003に準拠した温度指数評価法での温度指数が200℃以上を示す絶縁被膜である上記[1]または[2]のリード線付き電子部品。
[4]該被膜の、層厚みが10μmのときのAC耐電圧が1kV以上、層厚みが20μmのときのAC耐電圧が2kV以上、層厚みが30μmのときのAC耐電圧が3kV以上を示す絶縁被膜である上記[1]または[2]のリード線付き電子部品。
[5]該一般式(I)中の4つのRが、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜7のシクロアルキル基、フェニル基又は1個乃至3個の炭素数1〜6のアルキル基若しくは炭素数1〜6のアルコキシル基で置換されたフェニル基を表す、上記[1]または[2]のリード線付き電子部品。
[6]該アニオン性基が、カルボキシル基若しくはその塩、及び/又は、スルホン酸基若しくはその塩である上記[1]または[2]のリード線付き電子部品。
[7]該ブロック共重合ポリイミドが、ジアミン成分の1つとして、芳香族ジアミノカルボン酸を含む上記[1]または[2]のリード線付き電子部品。
[8]全ジアミン成分中、該分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミンの割合が5〜90モル%、該芳香族ジアミノカルボン酸の割合が10〜70モル%(ただし、両者の合計は100モル%以下であり、第3のジアミン成分を含んでいてもよい)である上記[7]のリード線付き電子部品。
[9]該電子部品が、素子および該素子と該リード線との接続部を覆う外装材料をさらに有し、該リード線の絶縁被膜が該外装材料にその一端を覆われるか、または、該被膜が該外装材料に連結して形成されていることを特徴とする上記[1]または[2]のリード線付き電子部品。
[10]該電子部品が、ラジアル型のリード線を備える電子部品である上記[1]〜[9]のいずれか1のリード線付き電子部品。
[11]該電子部品が、ラジアル型のリード線を備えるサーミスタである上記[1]〜[9]のいずれか1のリード線付き電子部品。
[12]電子部品のリード線の絶縁被覆方法であって、
リード線上に、ブロック共重合ポリイミドからなるポリイミド粒子を含むサスペンジョン型電着塗料組成物を電着して絶縁被膜を形成する工程を含み、
該ブロック共重合ポリイミドは、分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有し、かつ、ジアミン成分の1つとして、分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミンを含み、
該分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミンが、ビス(4−アミノフェノキシ)ジメチルシラン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、及び下記の一般式(I)で表される化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である、ことを特徴とするリード線の絶縁被覆方法。
【化2】

(式中、4つのRは、それぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基又は1個乃至3個のアルキル基若しくはアルコキシル基で置換されたフェニル基を表し、l及びmはそれぞれ独立して1〜4の整数を表し、nは1〜20の整数を表す。)
[13]該サスペンジョン型電着塗料組成物は、粒子径が0.5〜5μm、粒子径の標準偏差が0.3〜3μmで分散されているポリイミド粒子を含む組成物である上記[12]のリード線の絶縁被覆方法。
[14]該リード線が取り付けられた電子部品を該サスペンジョン型電着塗料組成物中に浸漬し、該リード線上に電着により形成された該絶縁被膜を形成することを特徴とする上記[12]のリード線の絶縁被覆方法。
[15]該リード線を該電子部品の素子に接続するに先立って、予めリード線だけを該サスペンジョン型電着塗料組成物中に浸漬して、該リード線上に該絶縁被膜を形成することを特徴とする上記[12]のリード線の絶縁被覆方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のリード線付き電子部品は、リード線が非常に均一な電着被膜で絶縁被覆されており、しかも、高温雰囲気でも、絶縁被膜相互の融着が生じることなく、安定な電気絶縁性を確保することができる。また、本発明により、電子部品のリード線の絶縁被覆を簡便、かつ短時間で行うことができ、また、塗料のロスも極めて少ないことにより、生産性の向上および生産コストの低減に有効である。
【0008】
本発明のリード線付き電子部品は、金属細線の表面に、JIS C3003に準拠した温度指数評価法での耐熱種がC種を示す極めて高い耐熱性の絶縁被膜が強固密着し、しかも、該絶縁被膜の割れが生じ難いものとなることから、高耐熱性かつ高信頼性を実現することができる。
【0009】
また、本発明のリード線付き電子部品は、リード線の表面に、層厚みが10μmのときのAC耐電圧が1kV以上を示し、層厚みが20μmのときのAC耐電圧が2kV以上、層厚みが30μmのときのAC耐電圧が3kV以上を示す極めて高い耐電圧性の絶縁被膜が強固密着し、しかも、絶縁被膜の割れが生じ難いものとなることから、高絶縁性かつ高信頼性を実現することができる。
【0010】
また、本発明のリード線付き電子部品は、リード線の表面に、上記の極めて高い耐熱性及び耐電圧性を有する絶縁被膜が強固に密着し、しかも、該絶縁被膜の割れが生じ難いので、絶縁被膜によって絶縁保護及び耐熱保護のみならず、外傷に対する保護が図られた、高信頼性のリード線付き電子部品を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を一実施の形態により、図面を参照して説明する。
リード線付き電子部品としては、サーミスタ、トランス、抵抗器、コンデンサ、インダクタ、圧電素子、水晶振動子、発光素子(LED)、レーザーダイオード、冷陰極蛍光ランプ(CCFL)、ダイオード等が挙げられる。本発明はこれらのいずれの電子部品にも適用することができる。
【0012】
本発明において、リード線の金属素材は特に限定されない。したがって、ニッケル線、コバール線、鉄ニッケル線、Ni合金線、Niめっき線、銅被覆ニッケル鋼線(ジュメット線)、銅覆鉄線(CP線)、銅被覆硬銅線、リン青銅線、SUS線等のいずれであってもよい。なかでも、ばね性がなく、応力を受けると容易に変形する軟質のリード線を用いる場合には、本発明によるリード線の絶縁被覆がより有効である。リード線の形状、サイズについては特に限定されないが、通常は、断面円形で約0.1〜1mm前後の直径の金属細線(単線)が用いられる。なお、本発明のリード線被覆方法は電着により被膜形成するものであるため、コーナーのカバーリング性に優れている。したがって、矩形や平板状の金属部材からなるリード線であってもよい。
【0013】
リード線配置として、電子部品の両端にリード線が突き出た形態のアキシャル型と、同一方向に略平行に複数本のリード線が突き出たラジアル型とがある。本発明はいずれのリード線配置の電子部品にも適用できるが、特に、リード線間の接触による短絡や、リード線間の電流もれなどの可能性がより高いラジアル型のリード線付き電子部品に用いることが効果的である。以下の説明では、それらの一例として、ラジアル型のリード線を有するサーミスタを用いて説明する。
【0014】
図2は、本発明のリード線付き電子部品の一実施形態としてサーミスタについて説明する透視図である。サーミスタ20は、チップ状のサーミスタ素子21の両面に、Au、Ag、Cu、Ptなどの金属で形成された端子電極22を有している。対向する端子電極22に、一対のリード線23が接続され、素子21およびリード線との接続部は外装材料24で被覆されている。リード線23の外装材料から延出する部分には、一定の長さでサスペンジョン型塗料組成物を用いて絶縁被膜25が形成される。
【0015】
外装材料24の種類については、特に限定されない。一般によく用いられる電気絶縁性樹脂組成物を用いることができる。具体的には、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、フェーノール樹脂、ポリイミド樹脂などを用いることができる。また、これら樹脂組成物の形態は、液状であってもよいし、粉体や固形であってもよい。外装樹脂の形成方法としては、液状樹脂の浸漬塗布形成、粉体樹脂の溶融付着、固形樹脂を用いたトランスファー成型などを用いることができる。また、低融点ガラスを用いて溶融封止してもよい。
【0016】
本発明のリード線付き電子部品に属するサーミスタ20は、リード線23に形成された絶縁被膜25を特徴としている。絶縁被膜25は、分子骨格(すなわち、ポリイミドの主鎖)中にシロキサン結合(−Si−O−)を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを含むサスペンジョン型電着塗料組成物を用いて形成される。
【0017】
本発明でいう「分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを含む電着被膜」とは、具体的には「分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを比較的大きな粒径の析出粒子として分散させたサスペンジョン型電着塗料組成物を電着して得られる電着被膜」のことであり、ここで「サスペンジョン型電着塗料組成物」とは、電気泳動法光散乱法(レーザードップラー法)での粒径分析装置ELS−Z2(大塚電子株式会社製)を用いて測定し、測定結果をキュムラント解析法にて解析したポリイミド粒子の粒子径が0.1〜10μm、粒子径の標準偏差が0.1〜8μmで分散されているサスペンジョン型電着塗料組成物である。
【0018】
なお、「分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミド」における「ブロック共重合ポリイミド」とは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを加熱してイミドオリゴマーを生成させ(第1段階反応)、次いでこれに上記テトラカルボン酸二無水物と同一若しくは異なるテトラカルボン酸二無水物又は/及び上記のジアミンとは異なるジアミンを加えて反応(第2段階反応)することによって、アミック酸間で起こる交換反応に起因するランダム共重合化を防止して得られる、共重合ポリイミドのことを意味する。
【0019】
本発明における「分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミド」において、主鎖中のシロキサン結合はテトラカルボン酸二無水物成分由来のシロキサン結合であっても、ジアミン成分由来のシロキサン結合であってもよいが、好ましくはジアミン成分由来のシロキサン結合であり、通常、ジアミン成分の少なくとも1部に、分子骨格中にシロキサン結合(−Si−O−)を有するジアミン化合物(以下、「シロキサン結合含有ジアミン」とも呼ぶことがある。)を用いて得られたブロック共重合ポリイミドである。
【0020】
また、上記のシロキサン結合含有ジアミンは、テトラカルボン酸二無水物との間でイミド化し得るものであれば特に制限はなく、例えば、ビス(4−アミノフェノキシ)ジメチルシラン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、及び一般式(I):
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、4つのRは、それぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、又は1個乃至3個のアルキル基若しくはアルコキシル基で置換されたフェニル基を表し、l及びmはそれぞれ独立して1〜4の整数を表し、nは1〜20の整数を表す。)で表される化合物が挙げられる。当該一般式(I)で表される化合物は、式中nが1又は2の単一化合物、及びポリシロキサンジアミンを含む。
【0023】
式(I)中の4つのRにおいて、アルキル基、シクロアルキル基の炭素数は1〜6が好ましく、1〜2がより好ましい。また、1個乃至3個のアルキル基若しくはアルコキシル基で置換されたフェニル基における、1個乃至3個のアルキル基若しくはアルコキシル基は、それが2又は3個の場合、互いに同一であっても異なってもよい。また、アルキル基、アルコキシル基は、それぞれ、炭素数が1〜6が好ましく、1〜2がより好ましい。
【0024】
かかる一般式(I)で表される化合物は、式中の4つのRが同一のアルキル基(特にメチル基)又はフェニル基であるのが好ましく、また、式中l及びmが2〜3、nが5〜15であるポリシロキサンジアミンが好ましい。
【0025】
なお、ポリシロキサンジアミンの好ましい例としては、ビス(γ−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン(式(I)中、l及びmが3、4つのRがメチル基のもの。)、ビス(γ−アミノプロピル)ポリジフェニルシロキサン(式(I)中、l及びmが3、4つのRがフェニル基のもの。)が挙げられる。
【0026】
本発明において、シロキサン結合含有ジアミンは、いずれか一種の化合物の単独であっても、2種以上の化合物の併用であってもよい。また、市販品を使用してもよく、信越化学工業(株)、東レ・ダウコーニング(株)、チッソ(株)から販売されているものをそのまま使用できる。具体的には、信越化学工業(株)製のKF−8010(ビス(γ−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン:アミノ基当量約450)、X−22−161A(ビス(γ−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン:アミノ基当量約840)等が挙げられ、これらは特に好ましいものである。
【0027】
本発明における「分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミド」において、アニオン性基とは、電着組成物の溶媒(後述)中でアニオンになる基であり、好ましくはカルボキシル基若しくはその塩、及び/又は、スルホン酸基若しくはその塩である。アニオン性基は、シロキサン含有ジアミンやテトラカルボン酸二無水物成分が有していてもよいが、アニオン性基を有するジアミンをジアミン成分の1つとして用いることが好ましい。ポリイミドの耐熱性、被電着物との密着性、重合度向上のためこのようなアニオン性基含有ジアミンは、芳香族ジアミンであることが好ましい。すなわち、芳香族ジアミノカルボン酸及び/又は芳香族ジアミノスルホン酸が好ましい。芳香族ジアミノカルボン酸としては、例えば、3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノフェニル酢酸、2,5−ジアミノテレフタル酸、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,5−ジアミノパラトルイル酸、3,5−ジアミノ−2−ナフタレンカルボン酸、1,4−ジアミノ−2−ナフタレンカルボン酸等が挙げられ、芳香族ジアミノスルホン酸としては、2,5−ジアミノベンゼンスルホン酸、4,4’−ジアミノ−2,2’−スチルベンジスルホン酸、o−トリジンジスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、3,5−ジアミノ安息香酸が特に好ましい。このようなアニオン性基含有芳香族ジアミンは、単独で用いることもできるし、複数種類を組み合わせて用いることもできる。なお、シロキサン結合含有ジアミンがアニオン性基を有している場合には、ジアミン成分は、シロキサン結合含有ジアミンのみであってもかまわない。
【0028】
ジアミン成分として、上記したシロキサン結合含有ジアミン及びジアミノカルボン酸に加え、さらに他のジアミンが含まれていてもよい。このようなジアミンとしては、ポリイミドの耐熱性、被電着物への密着性、重合度向上のため通常は芳香族ジアミンが用いられる。このような芳香族ジアミンの例として、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチル−1,1’−ビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,6−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノ−4−メチルピリジン、4,4’−(9−フルオレニリデン)ジアニリン、α,α−ビス(4-アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼンを挙げることができ、中でも、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンがより好ましい。
【0029】
全ジアミン成分中、シロキサン結合含有ジアミンの割合は5〜90モル%が好ましく、より好ましくは15〜50モル%である。シロキサン結合含有ジアミン単位が5モル%未満の場合、ポリイミドの電着被膜は伸び率が劣り、十分な可とう性が得られにくいため、剥がれや割れを生じ易くなるため、好ましくない。また、芳香族ジアミノカルボン酸又はその塩の割合が10〜70モル%であることが好ましい(ただし、シロキサン結合含有ジアミンと芳香族ジアミノカルボン酸又はその塩の合計は100モル%以下であり、また、上記の通り第3のジアミン成分を含んでいてもよい)。
【0030】
一方、ポリイミド中のテトラカルボン酸二無水物成分としては、ポリイミドの耐熱性、ポリシロキサンジアミンの相溶性の点から芳香族テトラカルボン酸二無水物が通常使用され、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらの中でもポリイミドの耐熱性、被電着物への密着性、ポリシロキサンジアミンの相溶性、重合速度等の観点から3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が特に好ましいものとして挙げられる。これら例示のテトラカルボン酸二無水物は、何れか一種の化合物を単独で使用しても、二種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0031】
本発明において、「分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミド」は、水溶性極性溶媒に可溶な(例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に、5重量%以上、好ましくは10重量%以上の濃度で溶解する溶解性を示す。)ブロック共重合ポリイミドである。ブロック共重合ポリイミド及びその製造方法は、既に公知であり(例えば、国際公開1999/19771号パンフレット)、本発明で用いるポリイミドも、上記ジアミン成分及びテトラカルボン酸二無水物を用い、公知の方法を適用して製造することができる。重合反応には水溶性極性溶媒が用いられ、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトン(γBL)、アニソール、テトラメチル尿素、及びスルホランから選ばれる1種又は2種以上が挙げられ、なかでも、NMPが好ましい。かかる水溶性極性溶媒中に、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを、ほぼ等モル(好ましくはモル比で1:0.95〜1.05)加え、触媒存在下で加熱して脱水イミド化反応することにより直接ポリイミド溶液を製造する。触媒は、ラクトンと塩基又はクロトン酸と塩基から成る2成分系の複合触媒である。ラクトンとしてはγ−バレロラクトンが好ましく、塩基としてはピリジン又はN−メチルモルホリンが好ましい。ラクトン又はクロトン酸と塩基の混合比は、1:1〜5(モル当量)、好ましくは、1:1〜2(モル当量)である。水が存在すると、酸−塩基の複塩として、触媒作用を示し、イミド化が完了し、水が反応系外に出る(好ましくは、トルエンの存在下で重縮合反応を行い、生成する水はトルエンと共に反応系外に除かれる)と触媒作用を失う。この触媒の使用量は、テトラカルボン酸二無水物に対し通常1/100〜1/5モル、好ましくは1/50〜1/10モルである。上記イミド化反応に供するテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの混合比率(酸/ジアミン)は、上記の通りモル比で1:0.95〜1.05程度が好ましい。また、反応開始時における反応混合物全体中の酸二無水物の濃度は4〜16重量%程度が好ましく、ラクトン又はクロトン酸の濃度は0.2〜0.6重量%程度が好ましく、塩基の濃度は0.3〜0.9重量%程度が好ましく、トルエンの濃度は6〜15重量%程度が好ましい。反応温度は、150℃〜220℃が好ましい。また、反応時間は特に限定されず、製造しようとするポリイミドの分子量等により異なるが、通常180〜900分間程度である。また、反応は撹拌下で行うことが好ましい。
【0032】
水溶性極性溶媒中、上記2成分系の酸触媒の存在下で酸二無水物とジアミンとを加熱してイミドオリゴマーを生成させ、次いでこれに酸二無水物又は/及びジアミンを加えて第2段階の反応をさせることによりポリイミドを生成することができる。この方法によりアミック酸間で起こる交換反応に起因するランダム共重合化を防止することができる。その結果、ブロック共重合ポリイミドが製造できる。このときの固形分濃度は10〜40重量%が好ましく、より好ましくは20〜30重量%である。
【0033】
ポリイミドは固有対数粘度(25℃)が20wt%NMP溶液時で5,000〜50,000mPasであるものが好ましく、5,000〜15,000mPasがより好ましい。
【0034】
また、樹脂成分として用いられるブロック共重合ポリイミドの重量平均分子量(Mw)はポリスチレン換算で20,000〜150,000が好ましく、特に45,000〜90,000が好ましい。当該ポリイミドの重量平均分子量が20,000未満の場合、電着被膜の耐熱性が低下する傾向となり、また被膜表面が荒れてしまい、耐電圧特性が低下する傾向となる。また、重量平均分子量が150,000より大きくなると、ポリイミド樹脂が水に対して撥水性を帯び電着液(塗料)製造工程でゲル化を引き起こし易くなる。
【0035】
また、数平均分子量(Mn)については、ポリスチレン換算で10,000〜70,000が好ましく、より好ましくは20,000〜40,000である。数平均分子量が10,000未満の場合、電着効率が低下する傾向となり、また、耐熱性、耐電圧性が低下する場合もある。ここで、ポリイミドの分子量はGPCにより測定される、ポリスチレン換算の分子量であり、GPC装置として東ソー(株)製HLC−8220を用い、カラムにSCkgel Super−H−RCを使用して、測定した値である。
【0036】
本発明で使用するサスペンジョン型電着塗料組成物において、ブロック共重合ポリイミドからなる粒子の平均粒子径は0.1〜10μmであるのが好ましく、0.5〜5μmがより好ましい。平均粒子径が0.1μm未満であるとクーロン効率の低下および過電圧による耐電圧性能の低下をもたらす。また、10μmを超えるとクーロン効率の制御および粒子が大きくなることによるリーク電流の増大により耐電圧性能の低下を引き起こす。そのため、クーロン効率の制御および耐電圧性能の維持のバランスのとれた粒子径範囲として0.5〜5μmが好ましい。
【0037】
本発明で使用するサスペンジョン型電着塗料組成物の製造は、具体的には、次のようにして行う。先ず、上記の重合反応を経て得られたブロック共重合ポリイミドを含む重合反応後組成物(すなわち、ブロック共重合ポリイミドと水溶性極性溶媒とを含み、ブロック共重合ポリイミドの含有量が15〜25重量%の組成物)を加熱溶融する。ここでの加熱温度は通常100〜180℃程度、好ましくは120〜160℃程度である。加熱温度が100℃未満では、ブロック共重合ポリイミドが溶解せず、他の溶媒と分散しにくい傾向となり、180℃を超えると、加水分解を起こし、分子量が低下する傾向となる。
【0038】
次に、加熱溶融後の組成物に塩基性化合物を添加、攪拌してブロック共重合ポリイミドを中和した後、組成物を40℃以下に冷却し、さらにブロック共重合ポリイミドの貧溶媒及び水を添加し、混合攪拌して、サスペンジョンを調製する。
【0039】
かかる塗料組成物の製造工程において、ブロック共重合ポリイミドを中和した後の組成物の冷却後温度が40℃を超える場合、中和剤によりポリイミドが分解する傾向となる。組成物の冷却温度はより好ましくは30℃以下である。なお、組成物の冷却温度が低すぎると、再び固化が始まる傾向となるため、冷却温度の下限は20℃以上が好ましい。
【0040】
上記塩基性化合物は、ブロック共重合ポリイミドが有するアニオン性基を中和し得るものであれば特に制限なく使用できるが、塩基性含窒素化合物が好ましく、例えば、N,N−ジメチルアミノエタノール、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、N−ジメチルベンジルアミン、アンモニア等の第1級アミン、第2級アミン又は第3級アミンが挙げられる。また、ピロ−ル、イミダゾール、オキサゾール、ピラゾール、イソキサゾール、チアゾール、イソチアゾール等の含窒素五員複素環化合物やピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン等の含窒素六員複素環化合物等の含窒素複素環式化合物が挙げられる。なお、脂肪族アミンは臭気が強いものが多いので、低臭気である点から含窒素複素環式化合物が好ましい。また、塗料の毒性を考慮した場合、含窒素複素環式化合物の中でも毒性が低いピペリジン、モルホリンが好ましい。当該塩基性化合物の使用量はポリイミド中の酸性基が水溶液中に安定に溶解または分散する程度でよく、通常、理論中和量の30〜200モル%程度である。
【0041】
また、上記ブロック共重合ポリイミドの貧溶媒は、例えば、フェニル基、フルフリル基若しくはナフチル基を有するアルコール又はケトン類が挙げられ、具体的には、アセトフェノン、ベンジルアルコール、4−メチルベンジルアルコール、4−メトキシベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、フェノキシ−2−エタノール、シンナミルアルコール、フルフリルアルコール、ナフチルカルビノール等が挙げられる。また、脂肪族アルコール系溶媒は毒性が低い点で好ましく、エーテル基を有する脂肪族アルコール系溶媒が特に好ましい。例えば、脂肪族アルコール系溶媒としては、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール類、プロピレングリコール類が使用できる。エチレングリコール類、プロピレングリコール類としては、例えば、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(1−メトキシ−2−プロパノール)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等が挙げられる。これら貧溶媒は1種又は2種以上を使用できる。
【0042】
かかる貧溶媒の配合量は組成物全量に対し10〜40重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましい。また、上記水の量は組成物全量に対し10〜30重量%が好ましく、15〜30重量%がより好ましい。
【0043】
なお、上記のブロック共重合ポリイミドの貧溶媒や水以外に、組成物の粘度、電気伝導度を調整する目的で、水溶性極性溶媒や油溶性溶媒を適量添加してもよい。ここで、水溶性極性溶媒の具体例としては、ブロック共重合ポリイミドの重合反応に使用する水溶性極性溶媒と同じものが挙げられ、油溶性溶媒としてはN−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。なお、油溶性溶媒を添加する場合、その量は組成物全量に対し15重量%以下である。
【0044】
本発明で使用するサスペンジョン型電着塗料組成物の固形分濃度は1〜15重量%が好ましく、より好ましくは5〜10重量%である。また、水溶性極性溶媒の含有量は組成物全量に対し25〜60重量%が好ましく、より好ましくは35〜55重量%である。
【0045】
本発明で使用するサスペンジョン型電着塗料組成物に分散されているブロック共重合ポリイミドは、粒子径が0.1〜10μm、粒子径の標準偏差が0.1〜8μmであることが好ましい。さらに、粒子径の平均0.5〜5μm、粒子径の標準偏差が0.3〜3μmであることがより好ましい。また、サスペンジョン型電着塗料組成物の固有対数粘度は5〜100mPasであることが好ましい。
このサスペンジョン型電着塗料組成物を用いることにより、外径0.1〜1mmの金属リード線の周囲に、1.5μmから50μm、より好ましくは、3μm〜30μmの均一な厚みの絶縁被膜を形成することができる。
例えば、本発明で使用するサスペンジョン型電着塗料組成物を用いて、φ1.0mm、長さ20cmの銅線を使用して電着を行うと、1クーロン当たり15〜250μmのポリイミド被膜を形成することができる。
【0046】
本発明のリード線付き電子部品では、上記の分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを樹脂成分として含有するサスペンジョン型電着塗料組成物を電着して電着被膜を形成する。これにより、該電着被膜はリード線に対して強固に密着し、かつ、割れが生じ難く可撓性に優れる。しかも、極めて高い耐熱性を有し、JIS C3003に準拠した温度指数評価法での温度指数が200℃以上(すなわち、耐熱区分がC種以上)の絶縁被膜が形成される。また、該電着被膜は極めて高い耐電圧性を有し、層厚みが10μmのときのAC耐電圧が1kV以上、層厚みが20μmのときのAC耐電圧が2kV以上、層厚みが30μmのときのAC耐電圧が3kV以上を示す絶縁被膜となる。このような高度の耐熱性及び高度の耐電圧性は、上記のサスペンジョン型電着塗料組成物が、被膜の成長過程での電気伝導度が高く、金属細線(リード線)表面に膜性状の均一性の高い被膜を成長させるためであると考えられる。
【0047】
上述のように本発明で使用するサスペンジョン型電着塗料組成物は、1.5μmから50μm、より好ましくは、3μm〜30μmの均一な厚さの、絶縁性に優れ、かつ耐熱性を有する薄膜を形成することが可能である。
また、上記サスペンジョン型電着塗料組成物は、ブロック共重合ポリイミドの分散粒子(析出粒子)が金属リード線の表面に堆積(付着)しやすいため、従来のポリイミド系電着組成物では困難であった20μmを超える厚みの電着被膜を成長させることができる。厚みが20μmを超える被膜を形成することで、該絶縁被膜によって絶縁保護及び耐熱保護のみならず、外傷保護が図られた、絶縁被覆されたリード線付き電子部品を実現することができる。すなわち、本発明のリード線付き電子部品によれば、金属細線の表面に、上記の極めて高い耐熱性及び耐電圧性を有する厚みが20μmを超える厚膜の絶縁被膜が強固に密着し、しかも、該絶縁被膜の割れが生じ難いものとなる。この結果、本発明により、用途に応じて、約1.5μmから約50μm、より好ましくは、3μm〜30μmという広範囲の膜厚の絶縁被膜によって絶縁保護及び耐熱保護のみならず、外傷保護が図られた、高性能、高信頼性のリード線付き電子部品を実現することができる。
【0048】
特許文献2に記載の電着塗料組成物は、分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを樹脂成分として含有する点で、本発明で使用する上記のサスペンジョン型電着塗料組成物と類似している。しかし、先述したように、特許文献2に記載の電着塗料組成物は、溶液型の組成物であり、JIS C3003に準拠した温度指数評価法による耐熱区分が最高でF種の電着被膜(絶縁被膜)しか形成できず、また、層厚みが10μmのときのAC耐電圧は最高でも0.3kV程度しか示さない。また、電着条件を種々変更しても、厚みが20μmを超える電着被膜(絶縁被膜)を形成することは困難である。
【0049】
本発明のリード線付き電子部品は、リード線(被電着物)を、上記のサスペンジョン型電着塗料組成物に浸漬し、該リード線を陽極として電流を通じて該金属細線上にブロック共重合ポリイミド被膜を成長させる電着作業を行い、得られた被膜を加熱乾燥(焼付け)することで得られる。
【0050】
電着は、定電流法又は定電圧法で行うことができ、例えば、定電流法の場合、電流値:1.0〜200mA、直流電圧:5〜200V(好ましくは30〜120V)の条件が挙げられる。また、電着時間は電着条件、形成すべき電着被膜の厚み等によっても異なるが、一般的には10〜120秒の範囲から選択され、好ましくは30〜60秒である。また、電着の際の組成物温度は通常10〜50℃、好ましくは10〜40℃、より好ましくは20〜30℃である。電着電圧が5Vより低いと電着によって被膜を形成させることが困難となる傾向があり、200Vよりも大きくなると被着物からの酸素の発生が激しくなり、均一な被膜が形成できなくなる。また、電着時間が10秒よりも短いと、電着電圧を高めに設定しても被膜が成長しにくいためにピンホールが発生しやすく、電着被膜の耐電圧性能が著しく低下している。また、120秒を超えると、被膜の厚さが必要以上に厚くなるだけで経済性に欠ける。また、組成物温度が10℃よりも低いと電着によって被膜形成をさせることが困難になり、50℃よりも高くなると温度管理が必要となり生産コストを上げる原因になる。
【0051】
焼付けは70〜110℃で10〜60分の第一段階の焼付け処理を行った後、160〜180℃で10〜60分の第二段階の焼付け処理を行い、さらに200〜220℃で30〜60分の第三段階の焼付け処理を行うのが好ましい。このような3段階の焼付け処理を行うことで、リード線(被電着物)に対して高い密着力で密着した十分に乾燥されたポリイミドの被膜を形成することが出来る。
【0052】
リード線を被覆する場合、上記サスペンジョン型電着塗料組成物の電着、焼付け作業は、たとえば、図3に示すような装置で行うことができる。すなわち、金属細線用ロール30に巻き線された金属細線31を引き出し、交流電源(図示せず)の陽極側に接続した状態で、サスペンジョン型電着塗料組成物33で満たされた電着槽32中を通過させる。電着槽32中には、陰極板34が配置され、金属細線31の通過時に上記の電圧の印加により、陽極である金属細線31と陰極板34間の電位差により、ポリイミドが金属細線31上に略均一に析出する。電着槽32に続いて、金属細線31は乾燥装置35内を通過する。該乾燥装置35内で、金属細線31上に析出したポリイミド中の水が蒸発する。乾燥装置35を通過した後、焼付け炉36を通過させポリイミドからなる被膜(絶縁被膜)を形成し、絶縁被覆された導線をロール37で巻き取っていく。かかる装置によって、電着塗料組成物の電着、焼付け作業を行うことで、絶縁被覆線を連続的に製造することができる。
なお、この方法により金属細線31上には、全長にわたって絶縁被膜が形成される。したがって、図2に示すリード線付き電子部品を作製する際には、図2の絶縁被膜25が形成された金属細線31を切断後、両端部の絶縁被膜を除去し、露出された金属面を端子電極22に接続すればよい。端子電極22と金属細線31との接続に際しては、溶接、導電性ペーストの使用、半田付けなどの方法を用いることができる。ただし、低融点ガラスフリットとAu粉末を含む導電性ペーストは、加熱温度が電着された絶縁被膜25の分解温度を超えるため、この製造方法を用いることは好ましくない。なお、予め、絶縁被膜25が必要とされる部分以外をテープ等でマスキングした状態で電着塗装すれば、被膜除去工程を省略することができる。この方法によると、予め、電着被膜による絶縁被膜25が形成されたリード線23が素子21に接続されるため、外装材料24による被覆が絶縁被膜25を覆う構造となり、電気絶縁性がより確実となり、湿度等の侵入も抑えられるため、高い絶縁信頼性を確保できる。
【0053】
また、予め、絶縁被覆されたリード線付き電子部品を個別に電着塗装してもよい。図4は、その電着処理方法を説明する図である。リード線43が接続され、外装材料44で被覆された素子41をサスペンジョン型電着塗料組成物47が収容されている電着槽46に浸漬する。浸漬する深さは電着被膜による被覆を行うリード線43の長さにより決められる。電着槽46には陰極板48が設けられている。一部がサスペンジョン型電着塗料組成物47中に浸漬されているリード線43を、交流電源(図示せず)の陽極側に接続し、陰極板48との間に電圧を印加させる。この方法により、外装材料44に連結した形態で、リード線43の絶縁被覆が行われる。なお、この方法では、電着前に外装材料44が形成されているため、外装材料44として、電着被膜の熱分解温度以上の処理温度が必要な材料を用いることもできる。具体的には、軟化点が600℃弱の低融点ガラス管を溶融させて封止することもできる。
【0054】
本発明で使用する、分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを樹脂成分として含有するサスペンジョン型電着塗料組成物の電着被膜は、金属細線に強固に密着し、かつ、可撓性に優れている。そのため、作製されたリード線付き電子部品は、製造工程や、実装時の絶縁被膜(電着被膜)の剥がれや割れが起こりにくく、優れた加工耐性を有する。
【0055】
本発明のリード線付き電子部品において、電着被膜(絶縁被膜)の厚みは、リード線付き電子部品の種類および用途、金属細線の種類等によっても異なり、特に限定はされないが、概ね、1.5〜50μmの範囲内で選択される。すなわち、本発明では、厚みが30μmを超える電着被膜(絶縁被膜)を形成できるが、被膜厚の均一性、生産性の観点から、通常、厚みの上限は50μm程度が好ましい。本発明のリード線付き電子部品は、3μm前後のきわめて薄い膜厚で、均一かつ高い絶縁性を確保できることに加えて、20μmを超える厚膜であっても、均一な膜厚で高絶縁性、高信頼性を実現できる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
[実施例1]
[サスペンジョン型電着塗料組成物の調製]
ステンレス製の碇型攪拌機を取り付けた2リットルのセパラブル三つ口フラスコに水分分離トラップを備えた玉付冷却管を取り付けた。該フラスコに3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物58.84g(200ミリモル)、ビス−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン43.25g(100ミリモル)、γ−バレロラクトン4.0g(40ミリモル)、ピリジン6.3g(80ミリモル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)531gおよびトルエン50gを仕込み、室温、窒素雰囲気下、180rpmで10分攪拌した後、180℃に昇温して2時間攪拌した。反応中、トルエン−水の共沸分を除いた。ついで、室温に冷却し、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物64.45g(200ミリモル)、KF−8010(信越化学工業(株)製)を83.00g(100ミリモル)、3,5−ジアミノ安息香酸30.43g(200ミリモル)、NMP531gおよびトルエン50gを添加し、180℃、180rpmで攪拌しながら、8時間反応させた。還流物を系外に除くことにより、20重量%濃度のポリイミド溶液(20%ポリイミドワニス)を得た。得られたポリイミドの数平均分子量及び重量平均分子量は、それぞれ24,000及び68,000であった。
【0057】
得られたポリイミドワニスをガラス板上にバーコーターを用いてウエット膜厚50μmにて塗布した。その後、温風乾燥機にて90℃/30分、180℃/30分、220℃/30分で乾燥させた後、ガラス板より剥離させ、JIS C2151に準拠して機械的伸び率を測定したところ、伸び率21.8%のポリイミド被膜が得られた。また熱分解温度は420℃であった。
【0058】
先に得られた20%ポリイミドワニス100gを窒素雰囲気下160℃で1時間攪拌し、その後、30℃まで急冷し、NMP59.4gとピペリジン2.2g(中和率200モル%)を加え激しく攪拌した。その後、プロピレングリコールモノメチルエーテル129gを加えながら攪拌し、水67gを滴下してサスペンジョン型電着塗料組成物を調製した。粒径分析装置ELS−Z2(大塚電子(株)製)を用いて、該電着塗料組成物における分散粒子の粒径および標準偏差を測定したところ、粒径0.7μm、標準偏差0.5μmの析出粒子(固形粒子)を有するサスペンジョンが形成されていた。なお、固形分濃度6.0%、pH8.7、電気伝導度7.3mS/mの黒濁液であった。また、固有対数粘度は、50mPasであった。
【0059】
金属細線上に形成される本発明の絶縁被膜について、電着被膜厚と絶縁性能の関係を評価するため以下の実験を行った。
[リード線の絶縁被覆]
上記電着塗料組成物を使用し、陰極板−被着体(金属細線)間距離を50mm、電着電圧を30Vとし、電着電流を0.01〜200mAの範囲内、電着時間を10〜60秒の範囲内で変更し、φ1.0mm、長さ20cmの円形銅線外周に電着を行い、電着後の銅線を電着浴から取り出し、水洗後、90℃×30分間、さらに170℃×30分間、さらに220℃×30分間焼き付けることで、種々の厚みの電着被膜(絶縁被膜)を有する円形絶縁銅線(1電着条件当たりのサンプル数=5)を得た。そして、得られた円形絶縁銅線につき、下記の試験方法で、電着液の電着性(被膜形成性)、電着被膜の厚さ、AC耐電圧及び耐熱寿命を評価した。その結果を表1に示す。
【0060】
1.被膜の均一性
JIS C3003に準拠して、ピンホールの有無を調査した。
【0061】
2.電着被膜の厚さ(μm)
マイクロメータ(最小目盛:0.001mm)を用いて計測した。サンプル1個当たり5箇所の厚さを測定し、平均値をそのサンプルの測定結果とした。表1は5個のサンプルにおける最大厚みと最小厚みを示す。
【0062】
3.電着被膜のAC耐電圧(kV)
JIS C3003に準拠して、B法金属箔法により、AC破壊電圧を測定した。すなわち、1cmのスズ箔をリード線付き電子部品に巻き付け、導体−すず箔間にて測定した。そして、各板に交流電圧発生装置を接続し、1秒間当たり100Vの速度で電圧を上昇させて、短絡(漏れ電流値10mA以上)した電圧を破壊電圧とした。
【0063】
4.電着被膜の耐熱寿命
実施例1の方法で、1.0mmφの銅線に電着被膜厚さ21〜23μmの試料を作製した。この試料についてJIS C3003に記載の温度指数評価法に準拠してリード線付き電子部品の耐熱性(電着被膜の耐熱寿命)を評価した。すなわち、実施例1の方法に従って、約21〜23μm厚の電着被膜が形成された銅線の試料各2本を用いて2個撚りし、試験片を得た。この試験片を290〜320℃の範囲内の10℃間隔の温度(290℃、300℃、310℃、320℃)に設定したオーブンで熱処理し、それぞれについて、500V×1秒の電圧印加で破壊に至るまでの時間を計測した。温度指数は290℃、300℃、310℃、320℃の各温度での測定結果をアレニウスプロットした耐熱寿命グラフより算出した。実施例1に従って銅線上に形成された電着被膜は、寿命20,000時間に相当する耐熱温度(すなわち、温度指数)が240℃であり、耐熱区分は200℃以上であるC種に相当するものであった。
【0064】
【表1】

【0065】
[比較例1]
実施例1で得られたブロック共重合ポリイミド(樹脂成分)を20重量%含有する半固形状の組成物100gを160℃に加熱溶融した後、NMP70gを加え、アニソール55g、シクロヘキサノン45g及びN−メチルモルホリン2.6g(中和率200モル%)を加え、攪拌しながら水30gを滴下して、固形分濃度6.6%、pH7.8の電着塗料組成物を得た。粒径分析装置ELS−Z2(大塚電子(株)製)を用いて、電着塗料組成物における分散粒子の粒径および標準偏差を測定したが、粒径が0.1μm以上の析出粒子は観察されておらず、溶液状態であった。そしてこの溶液型電着塗料組成物を使用して、極間距離を50mm、電着電圧を30Vとし、電着電流を0.01〜200mAの範囲内、電着時間を10〜60秒の範囲内で、種々変更して、実施例1で使用したと同じく、直径1.0mmで円形の銅線に電着を行った。電着後、実施例1と同様の方法で、種々の厚みの電着被膜(絶縁被膜)を有する円形絶縁銅線を得た(1電着条件当たりのサンプル数=5)。そして、上述の試験方法で、溶液型電着塗料組成物の電着性(被膜形成性)、電着被膜の厚さおよびAC耐電圧を評価した。7種類の膜厚について各5個のサンプルを評価した結果を表2に示す。また、比較例1でも、1mmφの銅線上に形成された約21〜23μm厚の電着被膜について上記の方法で耐熱寿命を測定したところ、温度指数は180℃で、耐熱区分はH種であった。
【0066】
【表2】

【0067】
[比較例2]
比較例1で調製した電着液組成物を使用し、電着電圧を250Vに変更した以外は、比較例1と同様にして、電着を行い、種々の厚みの電着被膜(絶縁被膜)を有する円形絶縁銅線(断面が円形の絶縁銅線)を得た(1電着条件当たりのサンプル数=5)。
【0068】
[評価]
表3および図5に、実施例1および比較例1、2で得られた円形絶縁銅線(直径1mm)上の、電着被膜の厚み(横軸)とAC耐電圧(縦軸)の関係の特性線を対比して示した。図5中、実施例1のデータは(●)でプロットされ、比較例1および2のデータは、それぞれ(■)および(▲)でプロットされている。図5から、サスペンジョン型塗料組成物を電着して得た実施例1の絶縁被覆銅線は、約8μ程度の薄膜から約44μmの厚膜の範囲で、被膜厚さ(μm)に比例してAC耐電圧(kV)が上昇する関係を示している。これらの膜厚範囲で、従来の溶液型電着塗料組成物を用いた場合に比較例1,2に比べて高いAC耐電圧を確保できることが示された。
これに対し、溶液型電着液組成物を用いた比較例1、2の場合、得られた約7μmから約25μmの被膜厚さでは、AC耐電圧が実施例1よりも低くなっていた。例えば、実施例1で22μmの膜厚のとき、AC耐電圧は4kVであるのに対して、比較例1では21μmの膜厚で2.6kVであり、比較例2では、25μmの膜厚にもかかわらず2.2kVという結果であった。
すなわち、本発明の方法を用いてサスペンジョン型電着塗料組成物を用いて金属細線上に形成される絶縁被膜は、従来の溶液型電着塗料組成物を用いて形成された絶縁被膜と比較して、広い膜厚範囲で、高いAC耐電圧を示すことが確認できた。
【0069】
【表3】

【0070】
電着により形成される被膜の膜厚は、通電量に依存する。実施例1では、表1の試験No.2に示されるように、通電量が1.39クーロン(C)の時、形成された膜厚は26〜28μmである。一方、比較例1では、表2の試験No.3に示されるように、略同等の通電量(1.27C)の時、得られた膜厚は12〜14μmであった。つまり、同等の通電量にも拘わらず、本発明の実施例1は、従来技術に属する比較例1の2倍以上の厚さの電着被膜を得ることができる。いかえれば、本発明により同一の絶縁被膜厚を得るためには、従来の半分以下の通電量でよいため、生産性の向上、生産コストの低減を実現することができる。
【0071】
[サーミスタのリード線への電着被膜の形成]
[実施例2]
両面にAuからなる端子電極が対向して形成された負特性のサーミスタ素子に、Au粉末を含む導電性ペーストを用いて、0.4mmφのジュメット線からなるリード線を接続した。リード線が接続されたサーミスタ素子に、低融点ガラス(軟化点570℃)製のガラス管(外径1.35mm、内径1.05mm、長さ3.0mm)を装着後、750℃で3分間加熱溶融し、ガラス封止することでサーミスタを作製した。作製したリード線付きサーミスタを、図4に示すように、リード線部分が30mmの長さで浸漬される深さで、サスペンジョン型電着塗料組成物中に浸漬した。
陰極板−被着体(リード線)間距離を50mm、電着電圧を30Vとし、φ0.4mm、長さ30mmのリード線の外周に電着被膜を形成した。この時、通電量を0.1Cに制御することで、リード線上に、厚み23〜25μmの電着被膜(絶縁被膜)が形成された。電着時の、電着電流は0.01〜200mAの範囲内であり、電着時間は0.5〜10秒の範囲内であった。電着後のサーミスタを電着浴から取り出し、水洗後、90℃×30分間、さらに170℃×30分間、さらに220℃×30分間焼き付けを行った。このようにしてリード線に絶縁被膜が形成されたサーミスタ試料(n=13)につき、下記の試験方法でAC耐電圧を評価した。
【0072】
[AC耐電圧測定法(水中法)]
図6に示すように、予め、電極68が設置された水槽66に水67を充満した。そこに、絶縁被膜62が形成された部分のリード線のみが水67に浸かるように、サーミスタ60を配置した。なお、予め、絶縁被膜62からジュメット線が露出する境界付近を絶縁テープ64でマスクし、外装材料61とリード線63との境界部分を絶縁テープ65でマスクした。テープによるマスキングは、これらの付近で、ジュメット線が直接、水67と接触することによる測定エラーを防止するためである。この構成において、絶縁被膜62が水67と接触している長さを28mmとした。この状態で、電極68とリード線63間にAC電源69から交流電圧を印加し、絶縁破壊が生じる電圧値を求めた。
【0073】
[AC耐電圧の測定結果]
上記水中法により測定した実施例2のサーミスタ試料(n=10)のAC耐電圧は:平均値(1.67kV)、最大値(2.81kV)、最小値(1.13kV)であった。なお、上記水中法による測定の信頼性を検証するため、JIS C3003に規定された金属粒法を用いてAC耐電圧を測定したところ、ほぼ同等の平均値(1.93kV)が得られた。
絶縁被膜にピンホール等の欠陥が存在する場合には、水中法によるAC耐電圧測定値は0.1kVにも満たないことから、本発明の一実施形態のサーミスタは、25μm弱の薄い絶縁被膜にも拘わらず、極めて優れた耐電圧性能を有する絶縁被膜で被覆されたリード線を有することが示された。
【0074】
[比較例3]
比較例1で作製した溶液型電着液組成物を用い、実施例2で作製したリード線付きサーミスタのリード線上に、実施例2と同様の方法にて、絶縁被膜を作製し、その特性を評価した。
[リード線の絶縁被覆]
陰極板−被着体(リード線)間距離を50mm、電着電圧を160Vとし、φ0.4mm、長さ30mmのリード線外周に電着被膜を形成した。通電量を0.2Cとして、リード線上に、厚み22〜24μmの電着被膜(絶縁被膜)を形成した。このとき、電着電流は0.01〜200mAの範囲内であり、電着時間は0.5〜120秒の範囲内であった。電着後のサーミスタを電着浴から取り出し、水洗後、90℃×30分間、さらに170℃×30分間、さらに220℃×30分間焼き付けを行った。
【0075】
[AC耐電圧の測定結果]
このようにしてリード線に絶縁被膜が形成されたサーミスタ試料(n=13)につき、実施例2と同一の試験方法でAC耐電圧を評価した。
その結果、水中法により測定した比較例3のサーミスタ試料(n=10)のAC耐電圧は:平均値(0.87kV)、最大値(1.91kV)、最小値(0.27kV)であった。
【0076】
実施例2と比較例3の結果を表4で対比する。
【0077】
【表4】

【0078】
表4に示すように、本発明の方法によりサスペンジョン型電着塗料組成物を用いてサーミスタのリード線上に形成される絶縁被膜は、従来の溶液型電着塗料組成物を用いて形成された絶縁被膜と比較すると、a)約1/2の通電量で同等の膜厚が得られること、b)同一の膜厚の場合、平均で約2倍のAC耐電圧を有すること、c)AC耐電圧のばらつきが小さいこと、などの優れた性能を有することが確認できた。
以上説明したように、本発明により、膜厚が均一で、かつ優れた電気絶縁性を備える被膜で被覆されたリード線を有する電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は従来のリード線付き電子部品の一実施形態を示す透視図である。
【図2】図2は本発明の一実施形態のリード線付き電子部品を示す透視図である。
【図3】図3はサスペンジョン型電着液組成物を用いて、リード線に絶縁被覆を施す電着工程の一実施形態を示す装置の模式図である。
【図4】図4はサスペンジョン型電着液組成物を用いて、リード線に絶縁被覆を施す電着工程の一実施形態を示す装置の模式図である。
【図5】図5は電着被膜(絶縁被膜)の厚みとAC耐電圧の関係を示す図である。
【図6】図6は水中法によるリード線のAC耐電圧測定方法を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0080】
10 サーミスタ
11 サーミスタ素子
12 端子電極
13 リード線
14 外装樹脂
15 他の外装樹脂
20 サーミスタ
21 サーミスタ素子
22 端子電極
23 リード線
24 外装材料
25 絶縁被膜
31 金属細線
32 電着槽
33 サスペンジョン型電着塗料組成物
34 陰極板
35 乾燥装置
36 焼付け炉
30,37 ロール
41 素子
43 リード線
44 外装材料
46 電着槽
47 サスペンジョン型電着塗料組成物
48 陰極板
60 サーミスタ
61 外装材料
62 絶縁被膜
63 リード線
64,65 絶縁テープ
66 水槽
67 水
68 電極
69 AC電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被膜によって被覆されたリード線を備える電子部品であって、
前記被膜が、分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを含み、
前記ブロック共重合ポリイミドが、ジアミン成分の1つとして、分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミンを含み、
前記分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミンが、ビス(4−アミノフェノキシ)ジメチルシラン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、及び下記の一般式(I)で表される化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である、リード線付き電子部品。
【化1】

(式中、4つのRは、それぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基又は1個乃至3個のアルキル基若しくはアルコキシル基で置換されたフェニル基を表し、l及びmはそれぞれ独立して1〜4の整数を表し、nは1〜20の整数を表す。)
【請求項2】
前記被膜が、前記ブロック共重合ポリイミドからなるポリイミド粒子を含むサスペンジョン型電着塗料組成物を前記リード線上に電着させることで形成された絶縁被膜である請求項1記載のリード線付き電子部品。
【請求項3】
前記被膜が、JIS C3003に準拠した温度指数評価法での温度指数が200℃以上を示す絶縁被膜である請求項1または2記載のリード線付き電子部品。
【請求項4】
前記被膜の、層厚みが10μmのときのAC耐電圧が1kV以上、層厚みが20μmのときのAC耐電圧が2kV以上、層厚みが30μmのときのAC耐電圧が3kV以上を示す絶縁被膜である請求項1または2記載のリード線付き電子部品。
【請求項5】
前記一般式(I)中の4つのRが、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜7のシクロアルキル基、フェニル基又は1個乃至3個の炭素数1〜6のアルキル基若しくは炭素数1〜6のアルコキシル基で置換されたフェニル基を表す、請求項1または2記載のリード線付き電子部品。
【請求項6】
前記アニオン性基が、カルボキシル基若しくはその塩、及び/又は、スルホン酸基若しくはその塩である請求項1または2記載のリード線付き電子部品。
【請求項7】
前記ブロック共重合ポリイミドが、ジアミン成分の1つとして、芳香族ジアミノカルボン酸を含む請求項1または2記載のリード線付き電子部品。
【請求項8】
全ジアミン成分中、前記分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミンの割合が5〜90モル%、前記芳香族ジアミノカルボン酸の割合が10〜70モル%(ただし、両者の合計は100モル%以下であり、第3のジアミン成分を含んでいてもよい)である請求項7記載のリード線付き電子部品。
【請求項9】
前記電子部品が、素子および前記素子と前記リード線との接続部を覆う外装材料をさらに有し、前記リード線の絶縁被膜が前記外装材料にその一端を覆われるか、または、前記被膜が前記外装材料に連結して形成されていることを特徴とする請求項1または2記載のリード線付き電子部品。
【請求項10】
前記電子部品が、ラジアル型のリード線を備える電子部品である請求項1〜9のいずれか1項に記載のリード線付き電子部品。
【請求項11】
前記電子部品が、ラジアル型のリード線を備えるサーミスタである請求項1〜9のいずれか1項に記載のリード線付き電子部品。
【請求項12】
電子部品のリード線の絶縁被覆方法であって、
リード線上に、ブロック共重合ポリイミドからなるポリイミド粒子を含むサスペンジョン型電着塗料組成物を電着して絶縁被膜を形成する工程を含み、
前記ブロック共重合ポリイミドは、分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有し、かつ、ジアミン成分の1つとして、分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミンを含み、
前記分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミンが、ビス(4−アミノフェノキシ)ジメチルシラン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、及び下記の一般式(I)で表される化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である、
ことを特徴とするリード線の絶縁被覆方法。
【化2】

(式中、4つのRは、それぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基又は1個乃至3個のアルキル基若しくはアルコキシル基で置換されたフェニル基を表し、l及びmはそれぞれ独立して1〜4の整数を表し、nは1〜20の整数を表す。)
【請求項13】
前記サスペンジョン型電着塗料組成物は、粒子径が0.5〜5μm、粒子径の標準偏差が0.3〜3μmで分散されているポリイミド粒子を含む組成物である請求項12記載のリード線の絶縁被覆方法。
【請求項14】
前記リード線が取り付けられた電子部品を前記サスペンジョン型電着塗料組成物中に浸漬し、前記リード線上に電着により形成された前記絶縁被膜を形成することを特徴とする請求項12記載のリード線の絶縁被覆方法。
【請求項15】
前記リード線を前記電子部品の素子に接続するに先立って、予めリード線だけを前記サスペンジョン型電着塗料組成物中に浸漬して、前記リード線上に前記絶縁被膜を形成することを特徴とする請求項12記載のリード線の絶縁被覆方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−108813(P2010−108813A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281012(P2008−281012)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】