説明

ルミネセントマーキング物質

【課題】本発明の目的は、量子ドットをベースとするルミネセントマーキング物質を提供することにある。
【解決手段】本発明のルミネセントマーキング物質は、少なくとも1種のルミネセント物質と、そのルミネセント物質を対象物へと送達する少なくとも1種のビヒクルとを含むものであるが、ここでそのルミネセント物質には半導性のナノ粒子(量子ドット)が含まれている。いくつかの実施態様においては、そのマーキング物質がトナー組成物であり、そのビヒクルがトナー粒子であって、量子ドットはそのトナー粒子の中に組み入れられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載されているのは、ルミネセントマーキング物質、対象物の上に読み取り可能な情報を埋め込むための方法、およびデバイスを用いてその埋め込まれた情報を読み取るための方法である。その情報は、情報をエンコードするための各種の色および/または形を使用する画像の中に一体化させるか、あるいは、テキスト、絵、グリフ、およびドットのようなその他の画像形成の形態とすることができる。情報は、たとえば量子ナノ粒子サイズ物質すなわち量子ドットを含むトナー組成物のようなルミネセントマーキング物質を使用して形成させることができる。
【背景技術】
【0002】
本明細書に記載された各種の実施態様には、多くの利点が伴う。たとえば、そのルミネセント物質が通常の室内光(周辺光)条件で、無色である場合には、その機械で読み取り可能、または暗号化された情報は目には見えない。その情報は、たとえばそのルミネセント物質を発光させるUV光線の照射に暴露されるまでは、隠されている。また別な利点は、既存のフォトコピアを用いたのではその情報をコピーすることが不可能であることである。さらなる利点は、情報を暗号化するためにドットを使用した場合には、暗号化させることが可能な情報量が顕著に増えるが、その理由は、同一のページの上に印刷することができるドットの数が、グリフの場合と比較するとはるかに多く、さらに、ドットのサイズも、発光(ルミネセント)技術を用いると反射技術の場合よりもはるかに小さくすることができるからである。
【0003】
特許文献1には、蛍光性化合物、溶媒、およびエネルギー活性化合物、ならびに場合によっては非蛍光性着色剤を含む、インクジェット印刷に好適なインキ組成物の記載がある。そのエネルギー活性化合物は、エネルギーに暴露されると、1種または複数の活性化学種を発生させ、それが蛍光性化合物と反応して、その蛍光性化合物の1種または複数の特性を変化させる。その蛍光性化合物は着色物であっても、無色物であってもよい。
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0220298号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
公知の組成物およびプロセスはそれらの意図した目的には適切ではあるものの、対象物の上に機械読み取りが可能な認証情報を埋め込んだり、復旧させるためのさらなるシステムおよびプロセスが依然として求められている。さらに、文書の上に、人の目には検出不能であるが機械読み取りは可能なエンコードされた情報を配することを可能とするシステムおよびプロセスが必要とされている。さらに、機械読み取りが可能な情報をエンコードして、それにより、より大量のそのような情報を保存し、その保存された情報中に組み込まれる重複決定の量を増やすことが可能なシステムが必要とされている。そこで、本発明は、前述の目的の1つ以上を達成するルミネセントマーキング物質を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のルミネセントマーキング物質は、少なくとも1種のルミネセント物質と、そのルミネセント物質を対象物へと送達する少なくとも1種のビヒクルとを含むものであるが、ここでそのルミネセント物質には半導性のナノ粒子(量子ドット)が含まれている。いくつかの実施態様においては、そのマーキング物質がトナー組成物であり、そのビヒクルがトナー粒子であって、量子ドットはそのトナー粒子の中に組み入れられている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
提供されるのは、ルミネセント物質と、そのルミネセント物質を対象物へと送達するビヒクルとを含むルミネセントマーキング物質であるが、ここでそのルミネセント物質には、約2〜約50nmの平均粒径を有する量子ドットが含まれる。そのマーキング物質は各種適切な形態、たとえば固体または液体の形態を有していてよく、たとえば、液体インキ、固体インキ、トナーなどを含んでいてもよい。
【0008】
そのルミネセント量子ドットは、各種適切な方法で発光させることができる。ルミネセント量子ドットを、活性化放射線たとえば紫外光線に暴露させた結果として発光させるのが望ましい。ルミネセンスとは、活性化放射線に暴露させたときに、肉眼、または機械たとえば分光光度計または分光蛍光計によって見ることが可能な各種の波長の光を発光または反射することを指しており、そのためルミネセンスは、発光または反射された可視光線または機械で検出可能な光線のすべての強度をカバーするものとする。
【0009】
最初に、情報フォーマットについて説明する。各種適切または所望の読み取り可能な情報フォーマットを選択して、各種読み取り可能な画像たとえばテキスト、絵、記号などの中に組み入れることができる。機械読み取りが可能な画像、たとえば一次元記号表示法たとえばバーコード、二次元記号表示法たとえばスタックドバーコード、マトリックスコード、PDF417のようなコードなどもまた好適である。「画像」は、肉眼に見えるかまたは見えない、各種の形態のマーキングまたは複数のマーキングが含まれていることを意味している。
【0010】
いくつかの実施態様においては、慣用される顔料と共に量子ドットを、トナー、インキなどの中に組み入れると、可視光線の下では普通に見える通常のテキストおよび画像が印刷されるが、活性化放射線たとえばUV光線に暴露させるとカスタマイズされた一連の波長で発光させることが可能となる。量子ドットは、量子ドットの粒径にほぼ比例する狭い帯域の波長の光を発光するので、カストマーごとに高度にカスタマイズされた波長の組を配することが可能となり、それによって、グリフやドットなどのような暗号化されたコードを使用しなくても、高度な認証文書を印刷することが可能となる。
【0011】
たとえば、シアントナーの中に組み入れるために、利用可能な8種の量子ドットの内の3種を選択すれば、56種の可能なルミネセンス波長の組合せが得られる。たとえば、利用可能な量子ドットを開発したり、発光波長を調節したりすれば、この使用可能な組合せの範囲は広げることが可能である。したがって、このシアントナーを使用して印刷したすべてのテキストまたは画像は、そのシアントナーに特有の(56種の可能性からの)ルミネセント「バーコード」を担持することとなり、その結果、たとえば、このトナーを用いて印刷した文書の認証が確立されて、さらなるセキュリティ暗号化、たとえばグリフまたはドットを印刷する必要がない。それぞれの波長の組合せを、他とは区別して検出することが可能であるので、分光光度計のような機械を使用してその文書を認証することが可能である。
【0012】
さらに、図1にも見られるように、量子ドットをマゼンタおよびイエロートナーの中に組み入れれば、カスタマイズされる組合せの数は175,616(56)通りの組合せ数に増える。カラー・イメージの中でシアン、マゼンタ、およびイエロートナーを各種組み合わせて使用すれば、ルミネセント発光波長さらにはルミネセント強度の両方を用いてエンコードされたユニークな「バーコード」のほとんど無限の配列が可能となり、それは使用された原色の比率によって決められる。
【0013】
たとえば、図1から判るように、会社がそのロゴを特定のパントン(Pantone)カラーを使用して印刷するような場合、それぞれのパントン(Pantone)原色(たとえば、シアン(100)、マゼンタ(110)、およびイエロー(120))に少なくとも1組の量子ドットを注入するとすれば、その会社のロゴの所望のパントン(Pantone)カラーを発生させるのに必要な、パントン(Pantone)原色の組合せ(数と濃度の両方)は、パントン(Pantone)カラーそのものに特有で、デバイスたとえば分光蛍光計またはフィルターの組合せなどを使用して検出可能な、ユニークなルミネセント「バーコード」(130)を作り出すであろう。
【0014】
いくつかの実施態様においては、それに加えるかまたはそれの代わりに、量子ドットを無色のマーキング物質に添加することも可能で、その場合、得られる画像は周辺光では目には見えないが、UV光線のような活性化放射線に暴露させると発光するであろう。その画像は通常のテキストであっても、あるいはグリフ、ドットなどのような暗号化された情報であってもよい。
【0015】
いくつかの実施態様においては、少なくとも1種のマーキング物質を用いて基材の上に情報が埋め込まれるが、この場合、その少なくとも1種のマーキング物質のそれぞれには2組以上の量子ドットが含まれ、ここでそれぞれの組の量子ドットにおける量子ドットのサイズは、他の組の量子ドットにおける量子ドットのサイズとは異なっていて、そのために、活性化放射線に暴露させた場合にそれぞれの組の量子ドットにより発光または反射される光の波長を、他の組の量子ドットから発光または反射される光の波長からは、機械により区別することができる。
【0016】
それによって、基材の上に埋め込まれた少なくとも2組の量子ドットを含む単一のマーキング物質は、活性化放射線に暴露されると、少なくとも2種の機械で区別可能な波長の光を発光または反射することができる。これらのカスタマイズ可能な波長の組合せを、カストマーに割り当てて、認証、情報のエンコードなどのためのユニークな識別子として使用することができる。その情報は、光の波長における違いを検出することが可能な各種の読み取り機たとえば分光光度計によって読み取ることができる。次いで、読み取り機によって読み取られた波長をカストマーに割り当てられたカスタマイズされた波長と比較して、画像、コードなどを認証することができる。
【0017】
いくつかの実施態様においては、2種以上のルミネセントマーキング物質を使用して基材の上に情報が埋め込まれるが、この場合、そのルミネセントマーキング物質のそれぞれが、少なくとも1種のルミネセント物質を含む。さらに、その2種以上のルミネセントマーキング物質のそれぞれにおけるルミネセント物質から発光される光の波長が、他の2種以上のルミネセントマーキング物質におけるルミネセント物質から発光される光の波長とは異なっているために、その2種以上のルミネセントマーキング物質の一つのルミネセントマーキング物質によって発光される光の波長は、その2種以上のルミネセントマーキング物質の他のルミネセントマーキング物質により発光または反射される波長と、機械により区別することができる。
【0018】
したがって、ルミネセントマーキング物質たとえばシアン、マゼンタ、イエロー、およびブラックトナーの組合せを使用して、活性化放射線に暴露させて、カスタマイズ可能な光の波長の組合せを作り出すことができる。これらのカスタマイズ可能な光の波長の組合せを、カストマーに割り当てて、認証または情報のエンコードなどのためのユニークな識別子として使用することができる。その認証情報は、光の波長における違いを検出することが可能な各種の読み取り機たとえば分光光度計によって読み取ることができる。吸収、発光または反射分光光度法をベースとした、異なった光の波長および強度を検出することが可能な各種の読み取り機を使用すればよい。次いで、読み取り機によって読み取られた波長をカストマーに割り当てられたカスタマイズされた波長と比較して、画像、コードなどを認証することができる。
【0019】
いくつかの実施態様においては、その画像フォーマットがセルフクロッキンググリフコードからなる。一つの実施態様においては、このコードには、文書エンコーディングスキームにおいて、0および1ビットを表す印刷されたグリフが含まれる。それらのグリフは互いに実質的に均一な距離で印刷されるために、それぞれのグリフの中心は、隣接する(一つまたは複数の)グリフの中心からは実質的に一定の距離となる。そのマーキングは肉眼で見たところでは、テクスチュア表示のグレー領域に見えるであろう。それらのマーキングは、極めて高密度、たとえば、約3,600データビット/平方インチ以上で印刷することが可能であって、300ピクセル/インチのスキャナーを用いてスキャンすることができる。データは、マークの形状または回転方向によってエンコードされる。クロッキングは、そのデータそのものから取り出すことが可能であって、データの外側のマークと同期させる必要はない。それぞれのデータビット位置にマークを設置することによって、レジストレーションマークを使用しなくても、データの読み取りプロセスを同期させることがより容易となる。それぞれの記号によって表すことが可能なビットの数は、そのコードの中の記号の総数に関係し、一つの記号によって表されるビットの数が「n」である場合、コード中で可能なグリフの総数は、2個の個別のグリフとなる。8個の個別なグリフが可能であるコードにおいては、それぞれの記号が3ビットを表すことが可能であり、他も同様である。データは、グリフの形状、グリフの回転、またはその他所望の変化形でエンコードすることができる。
【0020】
いくつかの実施態様においては、そのグリフが楕円形のマークであって、2種の異なった形状が可能な単純なコードにおいては、それらのグリフが、垂直方向から約+45度(たとえば、「/」)または−45度(たとえば「\」)のいずれかに回転させた楕円形のマークである。直交配向させたマークを使用すれば、場合によっては、データビット1とデータビット0との間で区別の程度を大きくすることが可能となる。マークは水平や垂直にするよりは約45度傾けるのがよいが、その理由は以下のとおりである。(a)隣接するマークが接触する傾向が少ない、(b)目は、垂直や水平の線に対するよりは斜めの線に対する方が、感度が低い、(c)印刷およびスキャンにおける不均等性は、水平(バンディング)または垂直(光検出器アレイの応答性変動)となりやすい等である。一つの実施態様においては、2種のグリフがそれぞれ同数の近接「ON]ピクセルを有する細長いマルチピクセル記号であるが、垂直方向からのそれらの回転が互いに異なるようにすることができる。これらの特殊なグリフは相互に容易に区別することが可能であるが、その理由は、たとえ顕著なゆがみや画像の劣化が存在していたとしても、それらは劣化して共通した形状になるまでの傾向は有していないからである。
【0021】
いくつかの実施態様においては、画像が、少なくとも2個の異なった着色マークからなる。それらのマークは形状が同じであっても、異なっていてもよい。それらの異なったカラーは、たとえば分光光度計のような読み取り機によって別途に検出することができる。吸収、発光または反射分光光度法をベースとした、異なったカラーを検出することが可能な、各種の読み取り機を使用すればよい。読み取り機は、異なったカラーが異なったデータを表していると認識して、たとえば一つの発光カラー(たとえばレッド)として0を、他の発光カラー(たとえばブルー)として1を認識して、それによりその画像をバイナリーコードに暗号化することができる。たとえば少なくともレッドとブルー、少なくともレッドとグリーン、少なくともグリーンとブルーなど、各種の2種以上の区別可能なカラーを使用することができる。
【0022】
それらのマークは、先に述べたように、グリフであってよいし、あるいはドットなどであってもよい。ドットとは、たとえば各種の形状の各種のマークを指していて、たとえば円または長方形のマークが挙げられる。
【0023】
ドットを使用する場合には、読み取りが生じる条件下において異なったカラーを示すかおよび/または発光するドットによって、0および1を与える。たとえば、周辺光条件下で見ることが可能な2種の異なった着色マーキング物質を使用してもよい。さらに、周辺光下では目に見えても見えなくてもよいが、たとえばUV光線の照射に暴露すると2種の異なったカラーを発光するようなルミネセントマーキング物質もまた使用することができる。
【0024】
たとえば着色ドットのような着色マークを使用する利点は、慣用されるグリフを用いた場合には、暗号化された情報の量が、グリフのサイズによって限定されてしまうという点にある。グリフは典型的には、基材の表面上で四辺形を占拠する。同じ四辺形が、グリフの幅にほぼ等しい直径を有する着色ドットによって占拠されるとすると、画像を形成する際に解像度を変化させることも必要とせずに、少なくとも4個または5個のドットを、そのグリフによって占拠されたのと同一のスペースに含ませる可能性がある。同一のデバイスを使用して基材の上に形成されたグリフと比較すると、基材の上で画像を形成するデバイスの解像度を上げることなく、情報のビット数は少なくとも4倍に増加する。その結果、グリフに代えて着色ドットを使用して作成した文書では情報量が顕著に増加する。それらのドットをさらに小さくすることによって、情報処理能力におけるさらなるゲインを実現することができる。それらのドットは、約0.1ミクロン〜約1,000ミクロン、たとえば約10ミクロン〜約100ミクロン、および約40ミクロン〜約100ミクロンの範囲のサイズとするのがよい。
【0025】
グリフおよびドットには、量子ドットを含むルミネセントマーキング物質を用いてそれらを印刷すれば、さらに多くの情報を含ませることができる。2組以上の量子ドットを含むルミネセントマーキング物質を使用することによって、それぞれのグリフまたはドットをよりカスタマイズさせることが可能となり、それにより、より多くの情報を含むことができるようになる。たとえば、活性化放射線に暴露させたときにそれぞれの量子ドットの組が異なった波長の光を発光または反射するような、3組の量子ドットを含むルミネセントマーキング物質を用いて印刷したドットは、少なくとも別の1組の量子ドットを含む他のドットと区別することが可能であるので、区別可能なドットはほとんど無限の可能性を有している。
【0026】
グリフおよびドットは、各種適切または所望の方法によってデコードすることができる。たとえば、グリフの場合、たとえばファクシミリ伝送、フォトコピーのスキャンなどによって画像のゆがみや劣化が起きた場合であってさえも、グリフのビットマップ画像を処理することが可能である。
【0027】
その暗号化された情報は、ルミネセント物質によって発光または反射された光の波長のユニークな組合せなどのいずれであっても、他の画像の上に印刷したり、他の画像が存在しない基材の空白の部分の上に印刷したりすることができる。暗号化された情報を形成させるためにルミネセントマーキング物質が使用される、特に暗号化された情報を形成させるために無色のルミネセントマーキング物質が使用されるような実施態様においては、その暗号化された情報を、もっぱら基材の画像部分の上に位置させてもよい。たとえば、その画像がテキストからなっている場合には、その暗号化された情報を、テキストの文字の上に重ね合わせて印刷してもよい。この方法では、その暗号化された情報は通常の室内光においては(たとえばインキが原因の基材の光沢差または暗色化によって、非画像領域において無色のインキの痕跡がひょっとすると見えて気づかれるということもなく)観察者からは完全に隠されていて、ルミネセント物質のルミネセンスを起こしうるたとえばUV光線の照射の下でのみ、出現することになるであろう。
【0028】
いくつかの実施態様においては、ルミネセントマーキング物質を使用してその画像を形成させる。ルミネセントマーキング物質は、各種可視性の着色剤を一切含まずに、通常の室内光/周辺光条件においては無色のマーキング物質となるように製造することもできるし、あるいは可視性の着色剤を含んでいて、ルミネセンスによって、たとえばカラーまたは明度におけるような外観における目に見える変化が起きるようにしてもよい。無色のルミネセントマーキング物質を使用して暗号化された情報を形成させることの利点は、その情報が周辺光中では目には見えないようにすることが可能であり、たとえばそのルミネセントマーキング物質が発光するようなUV光線の照射に暴露させたときだけに、目に見えたり機械読み取りが可能となったりする点にある。この方法では、権限を与えられた人以外の人間は、その中に暗号化された情報が存在していることにも気づかない可能性が強いので、偽造の防止または検出においては価値のあるツールとなるであろう。もう一つの利点は、その暗号化された情報を、慣用されている暗号化された情報の場合のようなグレーとは異なった外観とすることができる点にある。さらなる利点は、その暗号化された情報を、ルミネセント性を再現させることが不可能な既存のフォトコピアを用いてコピーすることができない点にある。
【0029】
いくつかの実施態様においては、単一のルミネセントマーキング物質を使用して画像を形成させてもよい。その単一のルミネセントマーキング物質が、実質的に着色剤を含まず、通常の周辺光の下ではその基材の上では実質的に目に見えないが、少なくとも1種のルミネセント物質を含んでいて、その少なくとも1種のルミネセント物質のルミネセンス効果をもたらす放射線に暴露させると、そのルミネセントマーキング物質が目に見えるカラーを示すようにすることができる。ルミネセント物質に加えて着色剤も含んでいるような、ルミネセントマーキング物質を採用することも可能である。
【0030】
いくつかの実施態様においては、少なくとも1種のルミネセントマーキング物質には2種以上のルミネセント物質を含んでいてもよいが、この場合、活性化放射線に暴露させたときに、その少なくとも1種のマーキング物質中の2種以上のルミネセント物質の一つのルミネセント物質によって発光または反射される光の波長を、その少なくとも1種のルミネセントマーキング物質の中の2種以上のルミネセント物質の他のルミネセント物質によって発光または反射される光の波長と、少なくとも機械により区別することができるようにする。そうすることによって、その少なくとも1種のマーキング物質によって発光または反射される光の波長を高度にカスタマイズすることが可能となり、そのカスタマイズされた光の波長を、情報の認証、エンコードなどにおける用途に対して、ユニークな識別子としてカストマーに割り当てることができる。
【0031】
ルミネセントマーキング物質を使用して画像を形成させた場合、読み取り機には、そのルミネセントマーキング物質のルミネセンスを起こさせる放射線源、たとえばUV光源を備えておく。それにより、その読み取り機が情報を検出し、読み取ることができる。
【0032】
さらなる実施態様においては、少なくとも1種のルミネセントマーキング物質が、少なくとも2種のルミネセントマーキング物質からなり、第一のルミネセントマーキング物質は第一のルミネセント物質を含んでいて、第一のルミネセント物質のルミネセンス効果を起こさせる放射線に暴露させると、その第一のルミネセントマーキング物質が目に見える第一のカラーを示し、そして、第二のルミネセントマーキング物質は第二のルミネセント物質を含んでいて、第二のルミネセント物質のルミネセンス効果を起こさせる放射線に暴露させると、第二のルミネセントマーキング物質が目に見える第一のカラーとは別の目に見える第二のカラーを示す。第一および第二のルミネセント物質は、同一の放射線に暴露されたときに発光するのが望ましいが、これが必須という訳ではない。
【0033】
いくつかの実施態様においては、少なくとも2種の異なったルミネセントマーキング物質が、読み取り機たとえば分光計によって別々に検出されることが可能な異なったカラーを発光する。このようにすると、異なった発光カラーを使用することにより、画像フォーマットでバイナリーコードを暗号化することが可能となる。
【0034】
ルミネセンスによって異なった外観、たとえば異なったカラーまたは異なった明度を示す、少なくとも2種の異なったルミネセントマーキング物質を使用することにより得られるさらなる利点には、目には見えないグリフを形成するという性能が含まれ、そのために、慣用されるグリフを用いて得られるグレー領域と比較して、より優れた外観を有する画像を形成することができる。
【0035】
少なくとも2種の異なったルミネセントマーキング物質を採用することによる一つの利点は、着色剤がそのルミネセントマーキング物質の一方または両方に含まれているか含まれていないかには関係なく、情報を暗号化および保存する能力を著しく増大させることが可能となることである。たとえば、2種の異なったカラーを発光するルミネセントマーキング物質を用いて形成させたグリフにより、暗号化のための二つのメカニズムを使用できるようになる。第一は、先に説明したような、グリフの配向(たとえば、左または右)である。第二は、先に説明したような、グリフの2種の異なったカラーである。このことは、基材の同一表面上により多くの情報を暗号化するためのメカニズムとして使用可能な、四つの異なった状態を与える。慣用される単色グリフを用いた場合、第一のメカニズム(グリフの配向)だけを使用するので、二つの状態しか得られない。
【0036】
さらに、異なった着色または異なったカラー発光するグリフもしくはドットを用いて情報を保存する場合、暗号化することが可能とされる情報量の顕著な増大を実現させることができる。このことは、保存可能な情報量に関してのみならず、損傷を受けた文書の中の情報を復旧するという点においても、有用である。すなわち、損傷を受けた文書から情報を復旧する際には、現行の暗号化技術の場合と比較して、復旧可能な文書の割合が顕著に高いが、その理由はたとえば、ドットおよび/またはグリフを使用すると、全体として、より多くの情報量を暗号化によって保存できるようになり、そのために文書の中に書き込まれた重複情報(過剰保護)の量を、慣用される単色グリフと比較すると増やすことができるからである。異なった着色または異なったカラー発光するグリフもしくはドットを使用すると、恒久的な着色であるか目には見えないルミネセントであるかとは関係なく、暗号化された情報の量が増大し、そのために、損傷を受けたデータをより大きな割合で復旧するこが可能となる。この割合は、グリフを使用するときに比べてドットを使用したときの方が大きくなるが、これもまた、同一の解像度では、グリフによって占拠された同じスペースに、より多くのドットを存在させることが可能であるという事実のためである。
【0037】
慣用されるマーキング物質を用いて画像を印刷した場合、その印刷された文書の少なくとも一部は、比較的均質なテクスチュア表示のグレースケール画像と見えるようなものとして、恒久的に印刷される。大量の暗号化された情報が存在していると、印刷された文書全体が、暗号化された情報で覆われて、バックグラウンドを形成し、その上に肉眼で読み取られるように意図した画像または情報が形成される。本明細書の実施態様におけるルミネセントマーキング物質を使用することによって、たとえば、画像を形成するために使用されたルミネセントマーキング物質のルミネセンス効果を起こさせる波長の放射線を用いてその暗号化された情報の一部または全部を照射することにより、変化を起こさせることによって、目に見えるようにするかあるいは見えないようにすることが可能なパターンの中に画像を形成させることが可能となる。したがって、その画像パターンまたはカーペットは、機械の読み取りが必要でない限り、あるいは必要となるまでは、目には見えないようにすることができ、それによって、その文書の外観がさらに改良される。
【0038】
テキスト、画像、コード(グリフまたはドットも含む)を形成させるには、インキおよびトナーも含めて各種の慣用されるマーキング物質を使用すればよい。好適なマーキング物質の例としては以下のものが挙げられる。インキたとえばリソグラフィーもしくはフレキソグラフィーインキ、水性インキたとえばインクジェット印刷プロセスで使用するのに適したもの、静電画像形成プロセスにおいて使用するのに好適な液状および乾燥トナー物質、固体ホットメルトインキたとえばインクジェット印刷プロセスにおいて使用するのに好適なものなどである。そのような慣用されるマーキング物質には、典型的にはその中に、着色剤たとえば、顔料、染料、顔料混合物、染料混合物、または顔料と染料との混合物と共に少なくとも1種のビヒクルが含まれる。着色マーキング物質の中に(非ルミネセント)着色剤を、各種所望の量、マーキング物質の重量を基準にして、たとえば約0.5%〜約90%、たとえば約1%〜約75%または約1%〜約50%の量で存在させてもよい。
【0039】
着色剤には、顔料、染料、顔料と染料との混合物、顔料混合物、染料混合物などが含まれる。
【0040】
いくつかの実施態様においては、少なくとも1種のルミネセントマーキング物質を用いて画像が形成される。そのルミネセントマーキング物質には、選択された基材の上で画像を発生させ、ルミネセント物質を含むのに適した各種の物質が含まれていてよい。好適なルミネセントマーキング物質の例としては以下のものが挙げられる。インキたとえばリソグラフィーもしくはフレキソグラフィーインキ、水性インキたとえばインクジェット印刷プロセスで使用するのに適したもの、静電画像形成プロセスにおいて使用するのに好適な液状および乾燥トナー物質、固体ホットメルトインキたとえばインクジェット印刷プロセスにおいて使用するのに好適なものなどである。
【0041】
そのルミネセントマーキング物質には典型的には、少なくとも1組の量子ドットを含む少なくとも1種のマーキング物質ビヒクルが含まれ、所定の組の内には同じまたは異なったサイズの量子ドットを含んでいる。量子ドットは、そのルミネセントマーキング物質の中に各種所望の量で存在させてよいが、適切な放射線(たとえば、UV光線)条件下で、所望のカラーおよび強度を付与するのに有効な数または濃度で存在しているのが望ましい。たとえば、マーキング物質中に量子ドットを、ルミネセントマーキング物質の約0.001重量%〜約20重量%、たとえば約0.01重量%〜約20重量%または約0.1重量%〜約10重量%の量で存在させる。
【0042】
量子ドット物質は、ルミネセント無機半導体ナノ粒子物質である。量子ドットが発光するのは、電子およびホールの量子閉じこめ(quantum confinement)のためである。量子ドットの利点は、それらを調節することが可能であることで、一つだけの物質しか使用せず、同一の合成過程によって、それらのサイズの関数として各種所望の波長(色)を発光させることが可能となる。たとえば、約2nm〜約10nmのナノ粒子サイズ範囲においては、スペクトルの可視領域からすべてのカラー範囲を得ることができる。さらに、量子ドットは、有機染料と比較すると、改良された耐疲労性を有している。量子ドットのまた別な利点は、それらの放射帯域が狭いことであって、それによって、カスタマイズしたカラーを設計するための、選択可能な波長の数が増加する。典型的には約50nm未満、たとえば約20nm未満または約15未満と、それらのサイズが小さいために、ナノ粒子を含むマーキング物質は、容易にジェット吐出させることができる。
【0043】
いくつかの実施態様においては、本明細書において使用される量子ドットは、官能化された量子ドットである。表面官能化した量子ドットは、マーキング物質のビヒクルとより良好な相溶性を有する可能性がある。マーキング物質のビヒクルとの相溶性のために、ドットの表面上に存在させるのに適した官能基としては、たとえば長さが約1個〜約50個の炭素原子、たとえば約3個〜約30個の炭素原子または約10個〜約20個の炭素原子の長鎖の直鎖状または分岐状アルキル基が挙げられる。
【0044】
ルミネセントマーキング物質にはさらに、場合によっては、上述のような量で、各種の着色剤が含まれていてもよい。さらに、ルミネセントマーキング物質には、ワックスおよび/またはその他の慣用される添加剤たとえば、流動助剤、電荷添加剤、乾燥助剤などが含まれていてもよい。
【0045】
ルミネセント物質を着色マーキング物質の中に加える場合、そのルミネセント物質は、活性化放射線に暴露させたときに、その印刷された画像の外観が明らかに変化するようにするべきである。周辺光の中では、その印刷された画像は、その着色マーキング物質の中の着色剤が目的とする色を示すであろう。しかしながら、放射線に暴露させると、マーキング物質中のルミネセント物質のルミネセンスが、その印刷された画像の外観を視覚的に変化させる。
【0046】
上述の特徴は、権限を与えられていない人間が暗号化された情報をデコードすることが困難となる点で、有用となりうる。たとえば、非ルミネセンスの「ダミー」画像記号をその印刷された画像の中にちりばめておいてもよい。それらの記号は読み取りの際には発光しないので、読み取り機がそれらの記号を読み取ることはない。その代わりに、読み取り機はルミネセント記号のみを読み取るので、その暗号化された情報を正しくデコードすることとなろう。誰かが、周辺光条件で印刷された記号を読み取ることでその情報をデコードしようと試みたとしても、その暗号化された情報を正しくデコードすることは不可能である。さらに、誰かがその文書および/または画像をコピーしても、画像を正しく再生することが出来ないが、その理由は、活性化放射線に暴露させたときに、画像の中の特定のものだけが発光するということが判らないからである。
【0047】
その中に着色剤を含んでいないマーキング物質の中にルミネセント物質を加えた場合には、その印刷された画像は、周辺光の中では、観察者に見えたり認識されたりすることはない。放射線に暴露させると、そのルミネセント物質がルミネセンス発光することにより、そのインキが見えるようになる。したがって、その画像をフォトコピーすることは不可能であるが、その理由は、そのルミネセント物質は既存のコピー条件下では発光せず、そのためにコピーに表示されないからである。さらに、コピー機には、ルミネセント物質を有するマーキング物質がまったく含まれていないので、コピーが発光することはない。そのような特性は、ルミネセント性を有するような偽複写物を作ることが不可能であるために、認証として使用できるという点において有利である。
【0048】
ルミネセント、またはルミネセントマーキング物質とは、たとえば、活性化放射線への暴露、たとえば約10nm〜約800nm、たとえば約150nm〜約400nm(UV光線範囲)または約180nm〜約380nmの波長を有する照射をすると発光する、物質の性能を指している。したがって、活性化放射線は、紫外(UV)、可視または赤外領域にあるものであってよいが、UV領域(約180nm〜約400nm)の活性化放射線を使用するのが最も一般的である。ルミネセンスは、活性化放射線に暴露させると瞬間的に起きてもよいし、あるいは各種の活性化相を克服した後で起きてもよい。ルミネセントインキによって示されるルミネセンスは可逆性ではあるが、変色または画像出現の変化の検出が可能な時間、たとえば約1ナノ秒〜約1時間、たとえば約100マイクロ秒〜約30分間または約10マイクロ秒〜約5分間の時間枠では続いていなければならない。
【0049】
好適な半導性ナノ粒子(量子ドット)としては、たとえば、CdS、CdSe、PbS、InP、CdTe、PbSe、PbTe、GaAsおよび関連化合物が挙げられる。
【0050】
ルミネセント物質として量子ドットを使用する利点は、その暗号化された画像を、個別のユーザーに容易にカスタマイズすることが可能な点である。先に説明したように、少なくとも2種の、異なって着色されるかまたは異なったカラーを発光させるマーキング物質からなる画像を使用することは、情報を電子的なバイナリーフォーマットに保存して隠す一つの方法を表していて、それは、目的としたユーザーおよび適切な電子的読み取り機による以外では、コピーすることも読み取ることもできない(それらは人の目には見えない)。もしも、同一の暗号化技術を全部のカストマーに提供したとすると、結果として、同一の保護技術を保有するカストマーは全員、他のカストマーによって保護された文書を読み取ることができることになってしまう。セキュリティ印刷の観点から、こういうことは受け入れられない。そのような画像のカスタマイゼーションは、それぞれのカストマーに異なったエンコーディング/デコーディングならびに画像スクランブルキーを提供することによって可能となるが、これはソフトウェアによる解決法である。ルミネセント物質として量子ナノ粒子を使用することによって、カスタマイズされた画像および文書を提供するための材料的な解決法が得られ、キーの変更を必要としない。
【0051】
したがって、カスタマイズされ、暗号化された文書は、異なったユーザーには画像の中で発光するカラーを変化させることによって得られる。したがって、異なったユーザーは、彼らのカスタマイズされた画像のための異なったカラーのセットを有することが可能となり、彼らの電子式読み取り機は、彼らの特定のカラー(波長)のセットのみ検出できるように設定される。その結果、たとえ文書が悪意を有する者の手に渡ったとしても、そのユーザーが、発光したカラーを検出し、読み取るのに必要な調整された読み取り機を有していないであろうから、その権限を与えられていないユーザーによって読み取られたり、認証されたりすることは不可能である。量子ドットは典型的には、極めて狭い発光スペクトルを有しているので、極めて多数のカストマーに対して、カスタマイゼーションを行うことが可能である。このようにすれば、暗号化キーを変更する必要ない。しかしながら、材料およびソフトウェアのカスタマイゼーションを共同して使用する場合には、その結果は、偽造することがほとんど不可能な保護方法とすることができるが、これは数層の保護を有しているからである。
【0052】
保護方法を材料面から解決しようとすると、全スペクトル範囲にわたって、ルミネセント成分から発光されるカラーをチューニングできる必要がある。量子ドットを用いた場合、合成プロセスや物質そのものを変化させなくても、量子ドットのサイズを変化させることによって、どのようなカラーにもチューニングすることができる。量子ドットのサイズを約1nm〜約50nm、約1nm〜約20nm、または約2nm〜約10nmに変化させることによって、可視スペクトル領域のどのようなカラーも得ることができる。
【0053】
量子ドットを含むマーキング物質は、極めて特殊な発光スペクトルを有するように製造することができる。たとえば、マーキング物質が、約30nm以下、たとえば約25nm以下または約20nm以下の、狭い半値全幅発光範囲ピークを有する発光レンジを有するように製造してもよい。このことによって、発光されるカラー波長を特別にチューニングし、極めて特定な互いに近い波長での発光を検出するように読み取り機を設定することが可能となる。たとえば、ルミネセントマーキング物質によって発光され、読み取り機によって検出される異なった波長は、たとえば約20nm〜約100nm、たとえば約30nm〜約100nmの差であってよい。量子ドットがこれらの性質を有しているので、本明細書に記載されたセキュリティマーキングのカスタマイゼーションが可能となる。
【0054】
異なったキーが使用され、画像が破壊された場合であっても、一つのユーザーからの電子式読み取り機では他のユーザーによって暗号化された文書は依然として読み取ることができないが、それは、発光されるカラーに関する情報を持っていないからである。したがって、特定の発光波長のみを認識できるようにチューニングされた読み取り機によって、検出が実施される。
【0055】
異なったルミネセント有機染料を使用することによって、同様の結果を達成することが可能ではあるが、有機染料を用いた場合には、極めて限定された数の発光波長しか達成できない。有機ルミネセント染料を用いて発光カラーを変化させようとすると、有機化合物を変化させるか、またはそのコア分子を適切な官能基で置換させてやる必要がある。このことは、場合によっては長い合成経路であるために、達成することは一段と困難である。
【0056】
マーキング物質のビヒクルとしては、各種のインキまたはトナービヒクルを適切に使用することができるが、そのようなものとしては、相変化固体インキビヒクル、放射線硬化性インキビヒクル、トナーポリマーバインダ、たとえばポリエステルもしくはポリアクリレートなどが挙げられる。
【0057】
マーキング物質にはトナーを含んでいてもよいが、そうなると、ビヒクルにはトナー粒子の樹脂が含まれていてもよい。トナーの中に組み入れる場合、量子ドットは、トナー粒子そのものの中に含まれていてもよいし、あるいはそれらが外部添加剤としてトナー粒子に添加されてもよい。しかしながら、量子ドットをトナー粒子の中に組み入れることによって、より均一な結果を得ることができる。
【0058】
この実施態様においては、その樹脂ビヒクルは、トナーを形成させるために使用されるいかなる樹脂であってもよい。
【0059】
量子ドットナノ粒子を、マーキング物質のビヒクルの中に、各種適切な方法によって分散させればよい。
【0060】
マーキング物質のビヒクルには、ワックスが含まれていてもよいが、そのようなワックスとしては、たとえばパラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ポリオレフィンワックスたとえばポリエチレンもしくはポリプロピレンワックス、エステルワックス、脂肪酸およびその他のワックス状物質、脂肪酸アミド含有物質、スルホンアミド物質、各種の天然原料から製造される樹脂状物質(たとえば、トール油ロジンおよびロジンエステル)、ならびに合成ワックスなどが挙げられる。ワックスは、マーキング物質の約5%〜約25重量%の量で存在させるのがよい。
【0061】
ルミネセントマーキング物質を使用した場合に、基材の上へ機械読み取りが可能な情報を埋め込み、そして復旧させるためのシステムには、少なくとも1種のルミネセントマーキング物質を含む画像形成デバイス(ここでその画像形成デバイスが、機械読み取りが可能な情報を代表するデータを受け取り、受像基材の上に、少なくとも1種のルミネセントマーキング物質を用いて、機械読み取りが可能な画像フォーマットで、そのデータに対応する画像を形成させる)と、文書読み取りデバイス(少なくとも1種のルミネセントマーキング物質のルミネセンスを起こさせる放射線を発する放射線発生ユニットを含む)と、読み取り機(少なくとも1種のルミネセントマーキング物質が発光している間に、その受像基材の上の画像のデータを検出する)とが含まれる。
【0062】
さらに、そのシステムには、たとえば情報を、その情報を代表するデータおよび/または機械読み取りが可能な画像フォーマットへと変換させ、そのデータを画像形成デバイスによって受け取らせるため、および/または読み取り機によって検出されたデータを変換して暗号化された情報を復旧させるための、一つまたは複数のプロセッサを含んでいてもよい。
【0063】
その画像形成デバイスとしては、インクジェットデバイス、電子写真(xerographic)デバイス、またはマーキング物質を用いて画像を形成するためのその他のデバイスを使用すればよい。
【0064】
インクジェットデバイスにおいては、いくつかの実施態様が可能である。たとえば、いくつかの実施態様においては、そのインクジェットデバイスが、ルミネセントマーキング物質のみをジェット吐出するように作られていてもよい。たとえば、ルミネセントインキ専用の別個のインクジェットヘッドが備えられていてもよい。そのデバイスには、慣用されるマーキングインキを用いて基材の上に画像を提供するための、さらなる印字ヘッドが別途に含まれていてもよい。他の実施態様においては、そのインクジェットヘッドに、慣用されるインキのためおよびルミネセントインキのために別なチャンネルが含まれていて、それによって、画像とコードとを同時に印刷できるようになっていてもよい。
【0065】
ルミネセントマーキング物質は各種所望の基材に適用することができる。
【実施例】
【0066】
<ラテックスAの調製>
量子ドット含有ポリマー粒子の水中エマルションを以下のようにして調整する。80.7gのXP−777樹脂、53.8gのXP−777−B2樹脂、15.5gのカルナウバワックス、0.5gの「レーク・プラシッド・ブルー(Lake Placid Blue)」エビドッツ(EviDots)CdSe/ZnSコア−シェル量子ドット(発光490nm、エビデント・テクノロジーズ・インコーポレーテッド(Evident Technologies,Inc.)製)、および0.5gの「キャッツキル・グリーン(Catskill Green)」エビドッツ(EviDots)CdSe/ZnSコア−シェル量子ドット(発光540nm、これもまたエビデント・テクノロジーズ・インコーポレーテッド(Evident Technologies,Inc.)製)を、70℃で、1101gの酢酸エチル中に溶解させる。別途に、1.9gのダウファックス(Dowfax)2A−1溶液および3.0gの濃水酸化アンモニウムを、70℃で、850.7gの脱イオン水中に溶解させる。次いで、その酢酸エチル溶液を、連続的に高剪断ホモジナイズ化条件下(10,000rpm、アイカ・ウルトラ−ツラックス(IKA Ultra−Turrax)T50)でその水溶液に徐々に注ぎ込む。さらに30分間ホモジナイズ化をさせてから、その反応混合物を80℃で2時間かけて蒸留する。得られたエマルションを一夜撹拌し、25ミクロンの篩を通し、3000rpmで15分間遠心分離にかける。その上澄みをデカントさせると、約590gのほとんど無色で、強い青/緑蛍光性のラテックスが得られるが、このものは、平均粒径130nm〜300nm、固形分15%〜30%を有している。
【0067】
<トナーの調製>
339.0gのラテックスA(上述)、372.0gの脱イオン水、および1.87gのダウファックス(Dowfax)2A−1溶液をガラス反応器の中で合わせ、0.3N硝酸を用いてそのpHを調節して3.3とする。その混合物を、2.2gの10重量%Al(SOおよび19.8gの脱イオン水を1分間かけて添加しながら、ホモジナイズ化(アイカ・ウルトラ−ツラックス(IKA Ultra−Turrax)T50、4000rpm)させる。その反応器の内容物をさらに5分間ホモジナイズ化をさせてから、495rpmで撹拌しながら、30分かけて室温から約45℃まで加熱すると、その時点で粒径が5ミクロンに達する。次いで、さらに131.8gのラテックスAおよび0.72gのダウファックス(Dowfax)2A−1溶液からなる溶液をその反応器に加え、0.3N硝酸を用いてそのpHを再調節して3.3とし、撹拌速度を落として350rpm〜450rpmとする。反応器温度を、約30分の時間の間0.1℃/分で上昇させると、その時点で粒径が6ミクロンに達する。次いで、その溶液のpHを調節して7.5とし、撹拌速度を落として175rpm〜225rpmとする。次いで、反応器温度を約40分かけて70℃まで上げ、5滴のダウファックス(Dowfax)2A−1溶液を添加する。その反応混合物を70℃〜75℃で3時間維持すると、約6ミクロンの粒径を有するトナー粒子が得られる。
【0068】
室温にまで冷却した後で、その混合物を、20ミクロンの金属製篩を通し、濾過し、乾燥させる。そのトナーを、40分かけて脱イオン水の中に再懸濁させ、再濾過し、40℃、pH4.0で40分かけて水中に再懸濁させ、再濾過し、最後に水中に再懸濁させる。その懸濁液を濾過して凍結乾燥させると、ほとんど無色で、明るい青緑色の蛍光性粒子が得られるが、そのもののサイズは約6ミクロン、サイズ分布は1.1〜1.4の間、円形度は0.90〜0.99である。得られた粒子について、適切な活性化放射線下で蛍光分光光度法によって分析すると、その電磁スペクトルの青〜緑の範囲で蛍光を示し、そのルミネセンス極大ピークは490nmおよび540nmにある。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】特定のパントン(Pantone)カラーに対応する、カスタマイズされたルミネセント「バーコード」の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルミネセントマーキング物質であって、
少なくとも1種のルミネセント物質と、
前記少なくとも1種のルミネセント物質を対象物に送達する、少なくとも1種のビヒクルと、を含み、
前記少なくとも1種のルミネセント物質が量子ドットを含むことを特徴とするルミネセントマーキング物質。
【請求項2】
基材の上に情報を埋め込むための方法であって、
情報を少なくとも1種のルミネセント物質に割り当てる工程と、
前記少なくとも1種のルミネセント物質と少なくとも1種のマーキング物質とを組み合わせることにより、少なくとも1種のルミネセントマーキング物質を形成させる工程と、
前記少なくとも1種のルミネセントマーキング物質を用いて基材の上に画像を作成する工程と、を含み、
前記少なくとも1種のルミネセント物質が量子ドットを含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
基材の上に読み取り可能な情報を埋め込むためおよび復旧させるためのシステムであって、
少なくとも1種のルミネセントマーキング物質を含む画像形成デバイスであって、前記画像形成デバイスが、読み取り可能な情報を代表するデータを受け取り、受像基材の上に、前記少なくとも1種のルミネセントマーキング物質を用いて前記データに対応する画像を形成させる画像形成デバイスと、
文書読み取りデバイスであって、前記少なくとも1種のルミネセントマーキング物質のルミネセンスを起こさせる放射線を発する放射線発生ユニットと、
前記少なくとも1種のルミネセントマーキング物質が発光している間に、前記受像基材の上の画像のデータを検出する読み取り機を含む文書読み取りデバイスと、を備え、
前記少なくとも1種のルミネセントマーキング物質が、少なくとも1種のルミネセント物質と、前記少なくとも1種のルミネセント物質を対象物に送達する少なくとも1種のビヒクルとを含み、
前記少なくとも1種のルミネセント物質が量子ドットを含むことを特徴とするシステム。

【図1】
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【公開番号】特開2009−46672(P2009−46672A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204177(P2008−204177)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】