レ−ダ装置
【課題】レーダ装置において、所定間隔離間した送信アンテナ対に送信信号を伝送する伝送経路対や、伝送経路対に送信信号を分配するスイッチを備えた構成であっても、探知性能の低下を防止する。
【解決手段】レーダ装置は、前記所定周波数より低い周波数のレ−ダ信号を出力する発振器と、前記発振器が出力するレ−ダ信号を、送信アンテナ対への伝送経路対に分配するスイッチと、伝送経路対にそれぞれ接続され、前記レ−ダ信号の周波数を前記所定周波数に変換してから送信アンテナ対に出力する逓倍器対を有するので、スイッチや伝送経路を通過する送信信号の周波数を小さくすることで、スイッチの挿入損失や伝送経路の伝送損失を抑えることができ、送信信号の強度低下による探知性能低下を防止できる。
【解決手段】レーダ装置は、前記所定周波数より低い周波数のレ−ダ信号を出力する発振器と、前記発振器が出力するレ−ダ信号を、送信アンテナ対への伝送経路対に分配するスイッチと、伝送経路対にそれぞれ接続され、前記レ−ダ信号の周波数を前記所定周波数に変換してから送信アンテナ対に出力する逓倍器対を有するので、スイッチや伝送経路を通過する送信信号の周波数を小さくすることで、スイッチの挿入損失や伝送経路の伝送損失を抑えることができ、送信信号の強度低下による探知性能低下を防止できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定周波数のレ−ダ信号を送信する送信アンテナ対と、物標により反射された前記レ−ダ信号を受信信号として受信する受信アンテナ群とを有し、送信アンテナ対がそれぞれ送信を行ったときに得られる受信アンテナ群による受信信号を処理することにより、物標が位置する方位角を検出するレ−ダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用のレ−ダ装置のスキャン方式として、電子スキャン式が知られている。電子スキャン式では、レ−ダ装置は、送信アンテナからレ−ダ信号を送信し、所定間隔で配列された複数の受信アンテナにより、物標に反射されたレ−ダ信号を受信信号として受信する。そして、レ−ダ装置は、到来方向に応じて位相と振幅が異なる複数の受信信号を用いて、物標が位置する方位角を検出する。
【0003】
図1は、従来の電子スキャン式レ−ダ装置の構成例を示す。レ−ダ装置2では、制御部6が出力する変調信号に従って、電圧制御発振器(VCO)8がFM−CW(Frequency Modulated-Continuous Wave)方式で周波数変調されたレ−ダ信号を出力する。分配器10は、このレ−ダ信号を送信用のレ−ダ信号(以下、送信信号という)STと、受信信号の処理に用いるロ−カル信号としてのレーダ信号(以下、単にローカル信号という)SLとに電力分配する。送信信号STは増幅器12_1により増幅され、送信アンテナAT_1から送信される。この信号が物標により反射されると、一定間隔で配列された受信アンテナAR_1、AR_2、AR_3、AR_4により受信信号SR_1、SR_2、SR_3、SR_4として受信される。受信信号SR_n(以下では、既述した複数の構成要素に言及するとき、添え字を「_n」で表す)はそれぞれ増幅器14_1、14_2、14_3、14_4により増幅されて、ミキサ16_1、16_2、16_3、16_4に入力される。
【0004】
一方、分配器10により電力分配されたロ−カル信号SLは、増幅器12_2により増幅されてミキサ16_nに入力される。ミキサ16_nは、それぞれロ−カル信号SLと受信信号SR_nとを混合し、ロ−カル信号SLと受信信号SR_nとの周波数差、つまり送信信号STと受信信号SR_nとの周波数差を周波数とする周波数差信号(以下、ビ−ト信号という)SB_1、SB_2、SB_3、SB_4を出力する。ビ−ト信号SB_nは、それぞれA/D変換器18_1、18_2、18_3、18_4によりサンプリングされてディジタルデ−タに変換されると、制御部6に取り込まれる。
【0005】
制御部6は、CPU、ROM、RAMを備えた周知のマイクロコンピュ−タを中心に構成され、更に、A/D変換器18_nを介して取り込んだデ−タについて、高速フ−リエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理を実行するための演算処理装置(例えばDSP:Digital Signal Processor)を備える。ここでは、制御部6は、ビ−ト信号SB_nに対しDBF(Digital Beam Forming)処理を行うことで、物標が位置する方位角を検出する。
【0006】
DBF処理では、一定間隔で配列された複数の受信アンテナAR_nによる受信信号SR_nを合成すると、その利得は受信アンテナAR_nの指向性が一致する方位角において最大となることを利用し、かかる方位角を受信信号の到来方向、つまり物標が位置する方位角として逆算する。すなわち、制御部6は、受信信号SR_nから生成されたビ−ト信号SB_nの合成振幅を方位角の関数として求め、その合成振幅の最大値に対応する方位角を算出する。
【0007】
ここにおいて、受信アンテナの数が多いほど、すなわち、合成されるビ−ト信号の数が多いほど、その合成振幅の変化曲線が急峻となるので、合成振幅の最大値に対応する方位角が精度良く求まる。そのためには、多数の受信アンテナを配列することが望ましい。
【0008】
しかし一方で、車載用のレ−ダ装置においては、設置スペ−スと製造コストの制約上、小型化が要望される。このため、受信アンテナを多数配列する代わりに、複数の送信アンテナを設けることで、装置規模を拡大させることなく、多数の受信アンテナを配列した構成と等価な構成を実現する方法が提案されている。かかるレ−ダ装置の構成例を図2に示す。
【0009】
図2に示すレ−ダ装置2は、分配器10により分配された送信信号STをさらに電力分配する分配器20と、この分配器20により分配された送信信号STをそれぞれ増幅する増幅器22_1、22_2と、増幅された送信信号STを送信する1対の送信アンテナAT_1、AT_2を有する点において、図1の構成例と異なる。
【0010】
この構成例では、送信アンテナAT_1、AT_2は、受信アンテナAR_nの配列の両端に位置することで一定間隔離間している。よって、その間隔と物標が位置する方位角に応じて、両送信アンテナから物標までの経路長に差が生じる。このため、送信アンテナAT_1からの送信信号が物標に反射されて受信アンテナAR_nにそれぞれ受信されるときの往復経路長と、送信アンテナAT_2からの送信信号が物標に反射されて受信アンテナAR_nにそれぞれ受信されるときの往復経路長はいずれも異なる。よって、送信アンテナAT_1、AT_2のそれぞれと、受信アンテナAR_nのそれぞれとの組合せにおいては、いずれも振幅と位相とが異なる複数の受信信号SR_nが得られる。
【0011】
その結果、図3(A)に示す、送信を行う送信アンテナAT_1(黒塗りで示す)と受信アンテナAR_nとの位置関係と、図3(B)に示す、送信を行う送信アンテナAT_2(黒塗りで示す)と受信アンテナAR_nとの位置関係とをそれぞれ送信を行う送信アンテナの位置を重ねて組み合わせると、図3(C)に示す、倍の数の受信アンテナを配列した構成と等価な構成が得られる。すなわち、2つの送信アンテナと4つの受信アンテナにより、1つの送信アンテナと8つの受信アンテナからなる構成と等価な構成が実現できる。
【0012】
ところで、図2のレ−ダ装置2では、分配器20により電力分配されることで送信信号STの強度が低下するので、分配された送信信号STの強度を増幅器22_1、22_2が所期の強度まで増幅する。しかし、電力分配による強度の低下分を補うためには、有る程度大きい増幅度が必要となる。すると、同時にノイズも増幅され、良好なS/N比の送信信号STが得られない。そこで、分配器20の代わりに、送信信号STを交互に送信アンテナ対AT_1、AT_2に出力するスイッチを用いることで、かかる事態を回避する方法が、さらに提案されている。
【0013】
図4は、かかる方法の一例におけるレ−ダ装置の構成を示す。このレ−ダ装置2は、送信信号STを電力分配する分配器20の代わりに、送信信号STを送信アンテナAT_1、AT_2に対応する伝送経路P_1、P_2に交互に出力するスイッチSW_1を有する点において、図2の構成例と異なる。ここで、スイッチSW_1は、制御部6により切替制御される。
【0014】
図5は、さらに別の例におけるレ−ダ装置の構成を示す。このレ−ダ装置2は、受信アンテナAR_nによる受信信号SR_nを順次切り替えて1つのミキサ16に入力するスイッチSW_2をさらに備え、ミキサ16が出力するビ−ト信号SBは、1つのA/D変換器18でディジタルデ−タ化される点において、図4の構成と異なる。ここで、スイッチSW_2は、制御部6により切替制御される。この構成は、スイッチSW_2を設けることでミキサとA/D変換器の数を減らし、レ−ダ装置2の回路規模をより小型化している。
【0015】
また、さらに別の例が、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載されたレ−ダ装置は、配列された複数の受信アンテナ群の両端に1対の送信アンテナを設け、それぞれから時分割でレ−ダ信号を送信する構成を有する。
【特許文献1】特開2004−198312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述の図2、図4、図5、または特許文献1の例では、一定の間隔離間した複数の送信アンテナに対し、分配された送信信号を伝送する伝送経路P_1、P_2が必須の構成となる。ここで、車載用のレ−ダ装置においては、法規制により使用可能な電波の周波数帯域がミリ波帯に含まれる76.0〜77.0GHzの高周波帯域に限定される。すると、かかるミリ波帯の送信信号が伝送経路P_1、P_2を伝送されるときに、伝送経路の導体抵抗、つまり、表皮効果による伝送経路の表面抵抗と内部インダクタンスとの和が、送信信号の周波数に応じて大きくなる。さらに、伝送経路P_1、P_2をマイクロストリップラインのように誘電体上に形成する場合には、誘電体損失も生じる。そのため、送信信号STが送信アンテナ対まで伝送されるときに、送信信号STの強度が伝送損失により低下する。
【0017】
また、VCO8から出力された送信信号STを伝送経路P_1、P_2に分配するスイッチSW_1が、通過する信号の周波数に応じて挿入損失が大きくなるような場合には、スイッチSW1を通過することによっても送信信号STの強度が低下する。
【0018】
そして、このように送信信号STの強度が低下すると、レ−ダ装置としての探知性能が低下するという問題が生じる。
【0019】
そこで、本発明の目的は、所定間隔離間した送信アンテナ対に送信信号を伝送する伝送経路対や、伝送経路対に送信信号を分配するスイッチを備えた構成であっても、探知性能の低下を防止できるレ−ダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面によるレ−ダ装置は、所定周波数のレ−ダ信号を送信する所定間隔離間した送信アンテナ対と、物標により反射された前記レーダ信号を受信信号として受信する受信アンテナ群とを有し、前記送信アンテナ対から交互に前記レーダ信号を送信して得られる受信信号を用いて前記物標が位置する方位角を検出するレ−ダ装置であって、前記所定周波数より低い周波数のレ−ダ信号を出力する発振器と、前記発振器が出力するレ−ダ信号を、第1の前記送信アンテナへの第1の伝送経路と、第2の前記送信アンテナへの第2の伝送経路とに分配するスイッチと、前記第1の伝送経路に接続され、前記レ−ダ信号の周波数を前記所定周波数に変換してから前記第1の送信アンテナに出力する第1の逓倍器と、前記第2の伝送経路に接続され、前記レ−ダ信号の周波数を前記所定周波数に変換してから前記第2の送信アンテナに出力する第2の逓倍器とを有することを特徴とする。
【0021】
上記側面の好ましい態様では、前記所定の周波数はミリ波帯、前記発振器が出力するレ−ダ信号の周波数はミリ波帯より低いマイクロ波帯である。なお、一般にミリ波帯は30GHz〜300GHzの帯域、マイクロ波帯は1GHz〜1000GHzの帯域をいうが、以下の説明で単にマイクロ波帯というときは、30GHz〜300GHzのミリ波帯より低い帯域、つまり1GHz〜30GHzの帯域を意味するものとする。
【発明の効果】
【0022】
上記側面によるレ−ダ装置は、前記所定周波数(ミリ波帯)より低い周波数(マイクロ波帯)のレ−ダ信号を出力する発振器と、第1の前記送信アンテナへの第1の伝送経路と、第2の前記送信アンテナへの第2の伝送経路とに分配するスイッチと、前記第1の伝送経路に接続され、前記レ−ダ信号の周波数を前記所定周波数に変換してから前記第1の送信アンテナに出力する第1の逓倍器と、前記第2の伝送経路に接続され、前記レ−ダ信号の周波数を前記所定周波数に変換してから前記第2の送信アンテナに出力する第2の逓倍器とを有する。よって、前記スイッチが、これを通過するレーダ信号の周波数が高いほど挿入損失が大きいスイッチであっても、所定周波数(ミリ波帯)より低い周波数(マイクロ波帯)のレ−ダ信号としてスイッチを通過させることにより、所定周波数のレ−ダ信号のままスイッチを通過させる場合より挿入損失を小さく抑えることができる。さらに、レ−ダ信号が第1、第2の伝送経路を伝送されるときには、その周波数に応じて伝送損失が大きくなるが、送信信号の周波数を低くして第1、第2の伝送経路を伝送させることで、伝送損失を小さく抑えることができる。このように、スイッチと伝送経路を経て送信アンテナまで伝送されるレーダ信号の強度低下を防ぐことができるので、レーダ装置の検出精度の低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0024】
図6は、本実施形態におけるレ−ダ装置の、第1の構成例を説明する図である。このレ−ダ装置2は、次の点において、図4で示した従来の構成と異なる。
【0025】
第1の構成例では、VCO8の発振周波数が、図4に示した従来例の1/N(Nは自然数。ここでは、N=4)に設定される。また、伝送経路P_1、P_2の終端には、スイッチSW_1により分配された送信信号STの周波数をN倍して送信アンテナAT_1、AT_2に出力する逓倍器30_1、30_2が接続される。さらに、ロ−カル信号SLの伝送経路P_4には、ローカル信号SLの周波数を同じくN倍してミキサ16_nに出力する逓倍器30_3が接続される。
【0026】
ここでは、VCO8、分配器10、増幅器12_n、スイッチSW_1、逓倍器30_n、増幅器22_nがモジュール化されて送信用MMIC(Microwave Monolithic IC)により構成され、増幅器14_n、ミキサ16_n、A/D変換器18_nがモジュール化されて受信用MMICにより構成される。そして、各モジュールは、大電力用材料(GaAs、SiGeなど)と小電力用材料(Si)の組合せにより構成される。
【0027】
第1の構成例では、スイッチSW_1は、ダイオードを用いたスイッチ回路により構成され、制御部6により切替制御される。スイッチSW_1は1つの入力端子と3つの出力端子を有し、出力端子の1つは伝送経路P_1に、他の1つは伝送経路P_2に、残りの1つは伝送経路P_3に接続される。ここで、伝送経路P_3への出力は、伝送経路P_1、P_2への出力の中間に位置しており、伝送経路P_3を抵抗Rに接続することにより、伝送経路P_1(またはP_2)に出力される送信信号STの輻射波は伝送経路P_3において抵抗Rに吸収されるため、輻射波が伝送経路P_2(またはP_1)に入り込むことでノイズを生じさせることを防止できる。これにより、スイッチSW_1のアイソレ−ションを向上させることができる。
また、スイッチSW_1を通過する信号の周波数に対する挿入損失を図7(A)を用いて示すと、通過する信号の周波数(横軸)が増大するのに対し、通過する信号の挿入損失(縦軸)は増大する。よって、第1の構成例によれば、ミリ波帯の送信信号STの代わりにマイクロ波帯の送信信号STがスイッチSW_1を通過することで、スイッチSW_1の挿入損失による送信信号STの強度の低下をミリ波帯のときより小さく抑えることができる。
【0028】
そして、送信信号STの周波数が逓倍器30_1、30_2によりミリ波帯の所定周波数(例えば76.5GHz)まで逓倍されてから、送信信号STが送信アンテナAT_1、AT_2から送信される。このような構成により、スイッチSW_1により送信信号STを択一的に切り替えて交互に出力しても、送信信号STの強度低下を回避でき、かつ所期の周波数の送信信号STを送信できる。
【0029】
また、送信信号STの周波数が大きくなると、表皮効果における伝送経路P_1、P_2、またはP_3の表面抵抗は周波数の平方根に比例して大きくなり、内部インダクタンスは周波数に比例して大きくなるので、これらの和である導体抵抗は周波数に応じて大きくなる。さらに、伝送経路P_1、P_2、またはP_3をマイクロストリップラインのように誘電体上に形成する場合には、誘電体損失も生じる。このことは、図7(B)において示される。図7(B)では、伝送される信号の周波数(横軸)の増大に応じて、異なるタイプの伝送経路の伝送損失(縦軸)がいずれも増大することが示される。
【0030】
この点においても、第1の構成例では、ミリ波帯の送信信号STの代わりにマイクロ波帯の送信信号STを伝送させ、送信される直前にこれをミリ波帯まで逓倍して送信アンテナAT_1、AT_2から送信し、あるいは、ミリ波帯まで逓倍してミキサミキサ16_nに入力するので、伝送経路P_1、P_2における伝送損失をミリ波帯のときより小さく抑えることができる。よって、送信アンテナAT_1、AT_2が一定間隔離間していることにより、伝送経路P_1、P_2を有る程度の長さとする場合であっても、伝送経路P_1、P_2を伝送される送信信号STの強度低下を回避できる。また、VCO8からスイッチSW_1までの伝送経路においても同様に伝送損失を抑えることができ、送信信号の強度低下が回避される。さらに、ミキサミキサ16_nに入力するローカル信号SLの強度低下も回避される。よって、レーダ装置として探知精度の低下を防ぐことができる。
【0031】
なお、第1の構成例では、送信アンテナAT_1、AT_2が配列された受信アンテナAR_nの両端に配置されることで、図3で示したように倍の数の受信アンテナを備えた場合と等価の構成を実現できる。しかし、送信アンテナAT_1、AT_2の間隔はこれに限定されなくてもよい。送信アンテナAT_1、AT_2から送信されたレーダ信号が物標により反射され受信アンテナAR_nに受信されるまでの往復経路長がそれぞれ異なり、よって、位相と振幅がそれぞれ異なる受信信号が全ての送信アンテナと受信アンテナとの組合せにおいて得られるように送信アンテナAT_1、AT_2が離間していれば、限られた受信アンテナ数でそれ以上の受信アンテナ数を備えた場合と等価な構成を実現できる。いずれにしても、送信アンテナAT_1、AT_2の間隔に応じてある程度の長さの伝送経路P_1、P_2を必要とする場合に、上記の作用効果を奏することができる。
【0032】
ここで、第1の構成例における各部の動作を説明する。VCO8は、制御部6からFM−CW方式の三角波状の変調信号が入力されると、これに従って、時間に対して周波数が直線的に漸増、漸減するよう変調されたミリ波帯より低い帯域のマイクロ波帯のレ−ダ信号を生成する。例えば、図4で示した従来の構成で、VCO8の発振周波数が、レ−ダ信号の中心周波数76.5GHz、周波数変動幅100MHzとなるように設定されていたとすると、この第1の構成例では、VCO8の発振周波数は、レ−ダ信号の中心周波数が約19.1(=76.5/4)GHz、周波数変動幅100MHzとなるように設定される。
【0033】
このレ−ダ信号は、分配器10により送信信号STとロ−カル信号SLとに電力分配されると、送信信号STは増幅器12_1により増幅されてスイッチSW_1に入力される。
【0034】
スイッチSW_1は、制御部6からの制御信号に応答して、送信信号STの出力先を、伝送経路P_1、P_2とに交互に時分割で切り替える。こうしてスイッチSW_1から交互に出力される送信信号STは、伝送経路P_1、P_2を介して逓倍器30_1、30_2に入力される。逓倍器30_nは、それぞれ入力された送信信号STの周波数をミリ波帯の所定周波数76.5GHzまで逓倍して出力する。すると、周波数が逓倍された送信信号STは、増幅器22_1、22_2により増幅され、送信アンテナAT_1、AT_2から送信される。
【0035】
このように、制御部6がスイッチSW_1の出力先を交互に切り替えることで、ミリ波帯の所定周波数の送信信号STが送信アンテナAT_1、AT_2から交互に送信される。
【0036】
一方、分配器10により電力分配されたロ−カル信号SLは、伝送経路P_4により伝送され、増幅器12_2による増幅を経て、逓倍器30_3に入力される。そして、逓倍器30_3は、入力されたロ−カル信号STの周波数を、送信信号STと同じ周波数76.5GHzまで逓倍してミキサ16_nに出力する。
【0037】
送信信号として送信されたレ−ダ信号が物標により反射されると、受信信号SR_nとして受信アンテナAR_nにより受信される。受信信号SR_nは、増幅器14_nにより増幅され、ミキサ16_nに入力される。
【0038】
ミキサ16_nは、送信信号STと同じ周波数のロ−カル信号SLと受信信号SR_nとを混合して、送信信号STと受信信号SR_nのそれぞれとの周波数差信号(ビ−ト信号)SB_nを生成する。
【0039】
図8は、各信号の時間(横軸)に対する周波数(縦軸)の変化を示す。送信信号STは上述したように三角波状の変調信号に従い周波数変調される。よって、図8(A)に実線で示すように、送信信号STの周波数は時間に対し直線的に漸次上昇または下降する。そして、受信信号SR_nは、図8(A)に点線で示すように、レ−ダ信号が物標との距離を往復する時間ΔTだけ遅延し、物標との相対速度に応じた周波数ΔDだけドップラシフトする。
【0040】
このような受信信号SRと送信信号STとを混合すると、図8(B)に示すように、両者の周波数差に対応した周波数を有するビ−ト信号SB_nが生成される。送信信号STの周波数が上昇する時(以下、周波数上昇期間という)のビ−ト信号の周波数(以下「アップビ−ト周波数」という)fuと、送信信号STの周波数が下降する時(以下、周波数下降期間という)のビ−ト信号の周波数(以下「ダウンビ−ト周波数」という)fdとから、次の式(1)により物標の相対距離Rdが、式(2)により相対速度Rvが求められる。ここでは、Cは電波伝搬速度(光速)、fmは送信信号STの変調周波数、ΔFは送信信号STの周波数変動幅、foは送信信号STの中心周波数である。
【0041】
(1) Rd=C・(fu+fd)/(8・ΔF・fm)
(2) Rv=C・(fd−fu)/(4・fo)
このようなビ−ト信号SB_nは、ミキサ16_nから、送信信号STの変調周期毎に、A/D変換器18_nを介して制御部6に入力される。
【0042】
制御部6は、送信信号STの変調周期毎に、ビ−ト信号SB_nをFFT処理する。すると、ビ−ト信号SB_nのそれぞれからは、アップ/ダウンビ−ト周波数ごとに、位相と振幅とが検出される。そして、制御部6は、アップ/ダウンビ−ト周波数ごとに、ビ−ト信号SB_nを用いてDBF処理を行う。
【0043】
ここで、図9を用いて、DBF処理について説明する。受信アンテナAR_nの間隔(dとする)に比して十分遠方にある物標から到来する受信信号SR_nは、受信アンテナAR_nに平行に入射するとみなされる。ここで、受信アンテナAR_nが配列された受信面H1の垂直方向に対し方位角θから受信信号SR_nが入射したとすると、隣接する受信アンテナAR_n間での受信信号SR_nの間には、アンテナ間隔dに応じた位相差φ(=2π・d・sin(θ)/λ、但しλは受信信号SR_nの波長)が生じる。
【0044】
ここで、受信面H1においては、受信信号SR_nは位相差φを有するので、受信信号SR_nの振幅は互いに打ち消しあう部分が生じる。しかし、受信信号SR_nの到来方向に対する垂直面(受信面H1に対し角度θの面)H2においては、すべての受信信号SR_nは同位相となる(以下、面H2を同位相面という)。よって、同位相面H2上では、受信信号SR_nは互いに振幅を強め合い、その合成振幅は最大となる。このことは、同位相面H2の角度θが、受信アンテナAR_nの受信利得が最大となる(つまり指向性が一致する)方位角に対応することを意味し、かかる同位相面の角度θを算出することで、受信信号SR_nの到来方向、つまり物標が位置する方位角が求められる。
【0045】
このことを利用し、制御部6は、まず、周波数上昇期間において受信信号SR_nから得られたアップビ−ト周波数のビ−ト信号SB_nの合成振幅を求める。ここで、各受信アンテナAR_nでのビート信号SB_nの振幅をE_nとすると、ビート信号SB_1を基準としたときのSB_n(n=2、3、4)の位相φnは、φn=2π・d・(n−1)・sin(θ)/λであるので、すべてのビ−ト信号SB_n(n=1、2、3、4)の合成振幅Eは式(3)で得られる。
【0046】
【数1】
【0047】
ところで、式(3)ではφi=2π・d・(i−1)・sin(θ)/λであることから、合成振幅Eはθの関数として表される。よって、制御部6は、かかる関数において合成振幅Eの最大値に対応するθを算出する。すると、その算出結果が、周波数上昇期間における、物標が位置する方位角に対応する。
【0048】
制御部6は、同様の処理を周波数下降期間においてダウンビ−ト周波数のビ−ト信号SB_nに対しても行う。すると、周波数下降期間における、物標が位置する方位角が求められる。
【0049】
このような処理が、周波数上昇期間と周波数下降期間ごとに行われる。すると、周波数上昇期間と周波数下降期間ごとに、方位角方向と周波数方向とにおけるビ−ト信号SB_nの強度分布が得られる。
【0050】
次に、制御部6は、方位角方向における強度分布がピ−クを形成する周波数を、アップ/ダウンビ−ト周波数として検出する。このとき、対応づけられた両ピ−クの方位角が、物標が位置する方位角として検出される。
【0051】
また、制御部6は、周波数上昇期間と周波数下降期間の間で、強度または方位角が一致するピ−ク同士を対応付けることにより、アップ/ダウンビ−ト周波数を特定し、上述の式(1)、(2)に従って物標の相対距離と相対速度を算出する。
【0052】
なお、レ−ダ装置2は、図10に示すように、伝送経路P_4により伝送されるロ−カル信号SLを交互に複数の伝送経路T_1、T_2、T_3、T_4に出力するスイッチSW_3と、スイッチSW_3を通過したロ−カル信号SLの周波数を逓倍してからミキサに入力する逓倍器32_1、32_2、32_3、32_4とを設ける構成としてもよい。そして、スイッチSW_3からの出力タイミングは制御部6により制御され、ロ−カル信号SLは時分割で逓倍器32_nに入力される。
【0053】
ここでは、マイクロ波帯のロ−カル信号SLがスイッチSW_3を通過した後に、その周波数が逓倍器32_nによりミリ波帯の所定周波数まで逓倍される。よって、スイッチSW_3による挿入損失は、ミリ波帯のままでロ−カル信号SLが通過する場合より小さく抑えられる。また、伝送経路P_4、T_nにおける損失も、ミリ波帯のままでロ−カル信号SLが通過する場合より小さく抑えられる。よって、ミキサ16_nは、十分な強度のロ−カル信号SLを用いて、ビ−ト信号SB_nを生成することができる。
【0054】
図11は、本実施形態におけるレ−ダ装置2の、第2の構成例を説明する図である。このレ−ダ装置2は、次の点において、図6で示した第1の構成例におけるレ−ダ装置2と異なる。
【0055】
すなわち、レ−ダ装置2は、複数のA/D変換器18_nの代わりに1つのA/D変換器18と、ミキサ16_nから出力されるビ−ト信号SB_nを、制御部6からの指示に従って交互にA/D変換器18に入力するスイッチSW_2を有する。かかる構成とすることで、複数のA/D変換器18_nを有する第1の構成例より、回路規模を小さくできる。よって、低コスト化できる。
【0056】
なお、ミキサ16_nが出力するビ−ト信号SB_nの周波数は、ミリ波帯の送信信号STと受信信号SR_nとの周波数差であるので、ある程度低い周波数帯となる。このため、ビ−ト信号SB_nがスイッチSW_2を通過する際の挿入損失は小さく抑えられ、ビ−ト信号SB_nの信号強度は制御部6での信号処理に支障ない程度に確保される。
【0057】
なお、このレ−ダ装置2は、図12に示すように、ロ−カル信号SLを交互に複数の伝送経路T_nに出力するスイッチSW_3と、スイッチSW_3を通過したロ−カル信号SLの周波数を逓倍してからミキサに入力する逓倍器32_nとをさらに設ける構成としてもよい。この場合、スイッチSW_3の入出力タイミングは制御部6により制御され、ロ−カル信号SLは、時分割でミキサに入力される。
【0058】
ここでは、図10に示した第1の構成例の変形例と同様、マイクロ波帯のロ−カル信号SLがスイッチSW_3を通過した後に、その周波数が逓倍器32_nによりミリ波帯の所定周波数まで逓倍されるので、スイッチSW_3による挿入損失は、ミリ波帯のままでロ−カル信号SLが通過する場合より小さく抑えられる。また、伝送経路P_4、T_nによる損失も、ミリ波帯のままでロ−カル信号SLが通過する場合より小さく抑えられる。よって、ミキサ16_nは、十分な強度のロ−カル信号SLを用いて、ビ−ト信号SB_nを生成することができる。
【0059】
図13は、本実施形態におけるレ−ダ装置が車載用レ−ダ装置として使用される使用状況を説明する図である。レ−ダ装置2は、車両100の前部フロントグリル内に搭載され、送信信号ST、受信信号SR_nを、車両100のバンパ−やフロントグリルに設けられるレド−ムを透過して送受信することにより、車両100前方(矢印F)における先行車両や障害物といった物標が位置する方位角や、物標との相対速度、相対距離を検出する。そして、上述したようにして制御部6が検出した物標が位置する方位角、物標との相対距離、相対速度といった物標情報は、車両100の車両制御装置(ECU:Electronic Control Unit)200に出力される。
【0060】
車両ECU200は、これらの検出結果に基づいて、車両100のスロットル、ブレ−キといったアクチュエ−タを制御して先行車両に追従走行するよう車両の速度を加減し、追従走行制御を行う。また、車両ECU200は、先行車両や障害物との距離が一定以上接近し衝突の蓋然性が大きくなるような場合に、運転者への通知を出力したり、エアバッグなどの安全装置を作動させたりして、衝突対応動作を行う。
【0061】
なお、レーダ装置2は、車両100の前方監視だけでなく、側方や後方を監視するためのレーダ装置として、車両100の側面部や後部に設置してもよい。
【0062】
また、上述の構成例では、4つの受信アンテナAR_1、AR_2、AR_3、AR_4を備えたレ−ダ装置2を例としたが、受信アンテナ数は、これに限られない。
【0063】
さらに、VCO8が出力するレ−ダ信号の周波数帯は上述の例に限られず、必ずしもマイクロ波帯でなくてもよい。また、これに対応して、逓倍器32_nが逓倍する率も、上述の例に限られず、必ずしもミリ波帯まで逓倍しなくてもよい。スイッチや伝送経路を通過するときの信号の周波数を低くし、その後にこれを逓倍する構成であれば、スイッチの挿入損失による送信信号の強度低下、または、伝送損失による送信信号の強度低下を防ぐという作用効果を奏することができる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態におけるレーダ装置によれば、所定間隔離間した送信アンテナ対に送信信号を伝送する伝送経路や、伝送経路に送信信号を分配するスイッチを用いても、探知性能の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】従来の電子スキャン式レ−ダ装置の構成例を示す図である。
【図2】図1と異なる従来の電子スキャン式レ−ダ装置の構成例を示す図である。
【図3】送信アンテナ対と受信アンテナ群の位置関係を説明する図である。
【図4】図2と異なる従来の電子スキャン式レ−ダ装置の構成例を示す図である。
【図5】図4と異なる従来の電子スキャン式レ−ダ装置の構成例を示す図である。
【図6】本実施形態におけるレ−ダ装置の、第1の構成例を説明する図である。
【図7】スイッチの挿入損失、伝送経路の伝送損失について説明する図である。
【図8】送受信信号の時間に対する周波数の変化を示す図である。
【図9】DBF処理について説明する図である。
【図10】第1の構成例の変形例を説明する図である。
【図11】本実施形態におけるレ−ダ装置の、第2の構成例を説明する図である。
【図12】第2の構成例の変形例を説明する図である。
【図13】レ−ダ装置が車載用レ−ダ装置として使用される使用状況を説明する図である。
【符号の説明】
【0066】
2:レーダ装置、AT_n:送信アンテナ、AR_n:受信アンテナ、6:制御部、8:VCO、SW_n:スイッチ、P_n、T_n:伝送経路、30_n、32_n:逓倍器
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定周波数のレ−ダ信号を送信する送信アンテナ対と、物標により反射された前記レ−ダ信号を受信信号として受信する受信アンテナ群とを有し、送信アンテナ対がそれぞれ送信を行ったときに得られる受信アンテナ群による受信信号を処理することにより、物標が位置する方位角を検出するレ−ダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用のレ−ダ装置のスキャン方式として、電子スキャン式が知られている。電子スキャン式では、レ−ダ装置は、送信アンテナからレ−ダ信号を送信し、所定間隔で配列された複数の受信アンテナにより、物標に反射されたレ−ダ信号を受信信号として受信する。そして、レ−ダ装置は、到来方向に応じて位相と振幅が異なる複数の受信信号を用いて、物標が位置する方位角を検出する。
【0003】
図1は、従来の電子スキャン式レ−ダ装置の構成例を示す。レ−ダ装置2では、制御部6が出力する変調信号に従って、電圧制御発振器(VCO)8がFM−CW(Frequency Modulated-Continuous Wave)方式で周波数変調されたレ−ダ信号を出力する。分配器10は、このレ−ダ信号を送信用のレ−ダ信号(以下、送信信号という)STと、受信信号の処理に用いるロ−カル信号としてのレーダ信号(以下、単にローカル信号という)SLとに電力分配する。送信信号STは増幅器12_1により増幅され、送信アンテナAT_1から送信される。この信号が物標により反射されると、一定間隔で配列された受信アンテナAR_1、AR_2、AR_3、AR_4により受信信号SR_1、SR_2、SR_3、SR_4として受信される。受信信号SR_n(以下では、既述した複数の構成要素に言及するとき、添え字を「_n」で表す)はそれぞれ増幅器14_1、14_2、14_3、14_4により増幅されて、ミキサ16_1、16_2、16_3、16_4に入力される。
【0004】
一方、分配器10により電力分配されたロ−カル信号SLは、増幅器12_2により増幅されてミキサ16_nに入力される。ミキサ16_nは、それぞれロ−カル信号SLと受信信号SR_nとを混合し、ロ−カル信号SLと受信信号SR_nとの周波数差、つまり送信信号STと受信信号SR_nとの周波数差を周波数とする周波数差信号(以下、ビ−ト信号という)SB_1、SB_2、SB_3、SB_4を出力する。ビ−ト信号SB_nは、それぞれA/D変換器18_1、18_2、18_3、18_4によりサンプリングされてディジタルデ−タに変換されると、制御部6に取り込まれる。
【0005】
制御部6は、CPU、ROM、RAMを備えた周知のマイクロコンピュ−タを中心に構成され、更に、A/D変換器18_nを介して取り込んだデ−タについて、高速フ−リエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理を実行するための演算処理装置(例えばDSP:Digital Signal Processor)を備える。ここでは、制御部6は、ビ−ト信号SB_nに対しDBF(Digital Beam Forming)処理を行うことで、物標が位置する方位角を検出する。
【0006】
DBF処理では、一定間隔で配列された複数の受信アンテナAR_nによる受信信号SR_nを合成すると、その利得は受信アンテナAR_nの指向性が一致する方位角において最大となることを利用し、かかる方位角を受信信号の到来方向、つまり物標が位置する方位角として逆算する。すなわち、制御部6は、受信信号SR_nから生成されたビ−ト信号SB_nの合成振幅を方位角の関数として求め、その合成振幅の最大値に対応する方位角を算出する。
【0007】
ここにおいて、受信アンテナの数が多いほど、すなわち、合成されるビ−ト信号の数が多いほど、その合成振幅の変化曲線が急峻となるので、合成振幅の最大値に対応する方位角が精度良く求まる。そのためには、多数の受信アンテナを配列することが望ましい。
【0008】
しかし一方で、車載用のレ−ダ装置においては、設置スペ−スと製造コストの制約上、小型化が要望される。このため、受信アンテナを多数配列する代わりに、複数の送信アンテナを設けることで、装置規模を拡大させることなく、多数の受信アンテナを配列した構成と等価な構成を実現する方法が提案されている。かかるレ−ダ装置の構成例を図2に示す。
【0009】
図2に示すレ−ダ装置2は、分配器10により分配された送信信号STをさらに電力分配する分配器20と、この分配器20により分配された送信信号STをそれぞれ増幅する増幅器22_1、22_2と、増幅された送信信号STを送信する1対の送信アンテナAT_1、AT_2を有する点において、図1の構成例と異なる。
【0010】
この構成例では、送信アンテナAT_1、AT_2は、受信アンテナAR_nの配列の両端に位置することで一定間隔離間している。よって、その間隔と物標が位置する方位角に応じて、両送信アンテナから物標までの経路長に差が生じる。このため、送信アンテナAT_1からの送信信号が物標に反射されて受信アンテナAR_nにそれぞれ受信されるときの往復経路長と、送信アンテナAT_2からの送信信号が物標に反射されて受信アンテナAR_nにそれぞれ受信されるときの往復経路長はいずれも異なる。よって、送信アンテナAT_1、AT_2のそれぞれと、受信アンテナAR_nのそれぞれとの組合せにおいては、いずれも振幅と位相とが異なる複数の受信信号SR_nが得られる。
【0011】
その結果、図3(A)に示す、送信を行う送信アンテナAT_1(黒塗りで示す)と受信アンテナAR_nとの位置関係と、図3(B)に示す、送信を行う送信アンテナAT_2(黒塗りで示す)と受信アンテナAR_nとの位置関係とをそれぞれ送信を行う送信アンテナの位置を重ねて組み合わせると、図3(C)に示す、倍の数の受信アンテナを配列した構成と等価な構成が得られる。すなわち、2つの送信アンテナと4つの受信アンテナにより、1つの送信アンテナと8つの受信アンテナからなる構成と等価な構成が実現できる。
【0012】
ところで、図2のレ−ダ装置2では、分配器20により電力分配されることで送信信号STの強度が低下するので、分配された送信信号STの強度を増幅器22_1、22_2が所期の強度まで増幅する。しかし、電力分配による強度の低下分を補うためには、有る程度大きい増幅度が必要となる。すると、同時にノイズも増幅され、良好なS/N比の送信信号STが得られない。そこで、分配器20の代わりに、送信信号STを交互に送信アンテナ対AT_1、AT_2に出力するスイッチを用いることで、かかる事態を回避する方法が、さらに提案されている。
【0013】
図4は、かかる方法の一例におけるレ−ダ装置の構成を示す。このレ−ダ装置2は、送信信号STを電力分配する分配器20の代わりに、送信信号STを送信アンテナAT_1、AT_2に対応する伝送経路P_1、P_2に交互に出力するスイッチSW_1を有する点において、図2の構成例と異なる。ここで、スイッチSW_1は、制御部6により切替制御される。
【0014】
図5は、さらに別の例におけるレ−ダ装置の構成を示す。このレ−ダ装置2は、受信アンテナAR_nによる受信信号SR_nを順次切り替えて1つのミキサ16に入力するスイッチSW_2をさらに備え、ミキサ16が出力するビ−ト信号SBは、1つのA/D変換器18でディジタルデ−タ化される点において、図4の構成と異なる。ここで、スイッチSW_2は、制御部6により切替制御される。この構成は、スイッチSW_2を設けることでミキサとA/D変換器の数を減らし、レ−ダ装置2の回路規模をより小型化している。
【0015】
また、さらに別の例が、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載されたレ−ダ装置は、配列された複数の受信アンテナ群の両端に1対の送信アンテナを設け、それぞれから時分割でレ−ダ信号を送信する構成を有する。
【特許文献1】特開2004−198312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述の図2、図4、図5、または特許文献1の例では、一定の間隔離間した複数の送信アンテナに対し、分配された送信信号を伝送する伝送経路P_1、P_2が必須の構成となる。ここで、車載用のレ−ダ装置においては、法規制により使用可能な電波の周波数帯域がミリ波帯に含まれる76.0〜77.0GHzの高周波帯域に限定される。すると、かかるミリ波帯の送信信号が伝送経路P_1、P_2を伝送されるときに、伝送経路の導体抵抗、つまり、表皮効果による伝送経路の表面抵抗と内部インダクタンスとの和が、送信信号の周波数に応じて大きくなる。さらに、伝送経路P_1、P_2をマイクロストリップラインのように誘電体上に形成する場合には、誘電体損失も生じる。そのため、送信信号STが送信アンテナ対まで伝送されるときに、送信信号STの強度が伝送損失により低下する。
【0017】
また、VCO8から出力された送信信号STを伝送経路P_1、P_2に分配するスイッチSW_1が、通過する信号の周波数に応じて挿入損失が大きくなるような場合には、スイッチSW1を通過することによっても送信信号STの強度が低下する。
【0018】
そして、このように送信信号STの強度が低下すると、レ−ダ装置としての探知性能が低下するという問題が生じる。
【0019】
そこで、本発明の目的は、所定間隔離間した送信アンテナ対に送信信号を伝送する伝送経路対や、伝送経路対に送信信号を分配するスイッチを備えた構成であっても、探知性能の低下を防止できるレ−ダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面によるレ−ダ装置は、所定周波数のレ−ダ信号を送信する所定間隔離間した送信アンテナ対と、物標により反射された前記レーダ信号を受信信号として受信する受信アンテナ群とを有し、前記送信アンテナ対から交互に前記レーダ信号を送信して得られる受信信号を用いて前記物標が位置する方位角を検出するレ−ダ装置であって、前記所定周波数より低い周波数のレ−ダ信号を出力する発振器と、前記発振器が出力するレ−ダ信号を、第1の前記送信アンテナへの第1の伝送経路と、第2の前記送信アンテナへの第2の伝送経路とに分配するスイッチと、前記第1の伝送経路に接続され、前記レ−ダ信号の周波数を前記所定周波数に変換してから前記第1の送信アンテナに出力する第1の逓倍器と、前記第2の伝送経路に接続され、前記レ−ダ信号の周波数を前記所定周波数に変換してから前記第2の送信アンテナに出力する第2の逓倍器とを有することを特徴とする。
【0021】
上記側面の好ましい態様では、前記所定の周波数はミリ波帯、前記発振器が出力するレ−ダ信号の周波数はミリ波帯より低いマイクロ波帯である。なお、一般にミリ波帯は30GHz〜300GHzの帯域、マイクロ波帯は1GHz〜1000GHzの帯域をいうが、以下の説明で単にマイクロ波帯というときは、30GHz〜300GHzのミリ波帯より低い帯域、つまり1GHz〜30GHzの帯域を意味するものとする。
【発明の効果】
【0022】
上記側面によるレ−ダ装置は、前記所定周波数(ミリ波帯)より低い周波数(マイクロ波帯)のレ−ダ信号を出力する発振器と、第1の前記送信アンテナへの第1の伝送経路と、第2の前記送信アンテナへの第2の伝送経路とに分配するスイッチと、前記第1の伝送経路に接続され、前記レ−ダ信号の周波数を前記所定周波数に変換してから前記第1の送信アンテナに出力する第1の逓倍器と、前記第2の伝送経路に接続され、前記レ−ダ信号の周波数を前記所定周波数に変換してから前記第2の送信アンテナに出力する第2の逓倍器とを有する。よって、前記スイッチが、これを通過するレーダ信号の周波数が高いほど挿入損失が大きいスイッチであっても、所定周波数(ミリ波帯)より低い周波数(マイクロ波帯)のレ−ダ信号としてスイッチを通過させることにより、所定周波数のレ−ダ信号のままスイッチを通過させる場合より挿入損失を小さく抑えることができる。さらに、レ−ダ信号が第1、第2の伝送経路を伝送されるときには、その周波数に応じて伝送損失が大きくなるが、送信信号の周波数を低くして第1、第2の伝送経路を伝送させることで、伝送損失を小さく抑えることができる。このように、スイッチと伝送経路を経て送信アンテナまで伝送されるレーダ信号の強度低下を防ぐことができるので、レーダ装置の検出精度の低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0024】
図6は、本実施形態におけるレ−ダ装置の、第1の構成例を説明する図である。このレ−ダ装置2は、次の点において、図4で示した従来の構成と異なる。
【0025】
第1の構成例では、VCO8の発振周波数が、図4に示した従来例の1/N(Nは自然数。ここでは、N=4)に設定される。また、伝送経路P_1、P_2の終端には、スイッチSW_1により分配された送信信号STの周波数をN倍して送信アンテナAT_1、AT_2に出力する逓倍器30_1、30_2が接続される。さらに、ロ−カル信号SLの伝送経路P_4には、ローカル信号SLの周波数を同じくN倍してミキサ16_nに出力する逓倍器30_3が接続される。
【0026】
ここでは、VCO8、分配器10、増幅器12_n、スイッチSW_1、逓倍器30_n、増幅器22_nがモジュール化されて送信用MMIC(Microwave Monolithic IC)により構成され、増幅器14_n、ミキサ16_n、A/D変換器18_nがモジュール化されて受信用MMICにより構成される。そして、各モジュールは、大電力用材料(GaAs、SiGeなど)と小電力用材料(Si)の組合せにより構成される。
【0027】
第1の構成例では、スイッチSW_1は、ダイオードを用いたスイッチ回路により構成され、制御部6により切替制御される。スイッチSW_1は1つの入力端子と3つの出力端子を有し、出力端子の1つは伝送経路P_1に、他の1つは伝送経路P_2に、残りの1つは伝送経路P_3に接続される。ここで、伝送経路P_3への出力は、伝送経路P_1、P_2への出力の中間に位置しており、伝送経路P_3を抵抗Rに接続することにより、伝送経路P_1(またはP_2)に出力される送信信号STの輻射波は伝送経路P_3において抵抗Rに吸収されるため、輻射波が伝送経路P_2(またはP_1)に入り込むことでノイズを生じさせることを防止できる。これにより、スイッチSW_1のアイソレ−ションを向上させることができる。
また、スイッチSW_1を通過する信号の周波数に対する挿入損失を図7(A)を用いて示すと、通過する信号の周波数(横軸)が増大するのに対し、通過する信号の挿入損失(縦軸)は増大する。よって、第1の構成例によれば、ミリ波帯の送信信号STの代わりにマイクロ波帯の送信信号STがスイッチSW_1を通過することで、スイッチSW_1の挿入損失による送信信号STの強度の低下をミリ波帯のときより小さく抑えることができる。
【0028】
そして、送信信号STの周波数が逓倍器30_1、30_2によりミリ波帯の所定周波数(例えば76.5GHz)まで逓倍されてから、送信信号STが送信アンテナAT_1、AT_2から送信される。このような構成により、スイッチSW_1により送信信号STを択一的に切り替えて交互に出力しても、送信信号STの強度低下を回避でき、かつ所期の周波数の送信信号STを送信できる。
【0029】
また、送信信号STの周波数が大きくなると、表皮効果における伝送経路P_1、P_2、またはP_3の表面抵抗は周波数の平方根に比例して大きくなり、内部インダクタンスは周波数に比例して大きくなるので、これらの和である導体抵抗は周波数に応じて大きくなる。さらに、伝送経路P_1、P_2、またはP_3をマイクロストリップラインのように誘電体上に形成する場合には、誘電体損失も生じる。このことは、図7(B)において示される。図7(B)では、伝送される信号の周波数(横軸)の増大に応じて、異なるタイプの伝送経路の伝送損失(縦軸)がいずれも増大することが示される。
【0030】
この点においても、第1の構成例では、ミリ波帯の送信信号STの代わりにマイクロ波帯の送信信号STを伝送させ、送信される直前にこれをミリ波帯まで逓倍して送信アンテナAT_1、AT_2から送信し、あるいは、ミリ波帯まで逓倍してミキサミキサ16_nに入力するので、伝送経路P_1、P_2における伝送損失をミリ波帯のときより小さく抑えることができる。よって、送信アンテナAT_1、AT_2が一定間隔離間していることにより、伝送経路P_1、P_2を有る程度の長さとする場合であっても、伝送経路P_1、P_2を伝送される送信信号STの強度低下を回避できる。また、VCO8からスイッチSW_1までの伝送経路においても同様に伝送損失を抑えることができ、送信信号の強度低下が回避される。さらに、ミキサミキサ16_nに入力するローカル信号SLの強度低下も回避される。よって、レーダ装置として探知精度の低下を防ぐことができる。
【0031】
なお、第1の構成例では、送信アンテナAT_1、AT_2が配列された受信アンテナAR_nの両端に配置されることで、図3で示したように倍の数の受信アンテナを備えた場合と等価の構成を実現できる。しかし、送信アンテナAT_1、AT_2の間隔はこれに限定されなくてもよい。送信アンテナAT_1、AT_2から送信されたレーダ信号が物標により反射され受信アンテナAR_nに受信されるまでの往復経路長がそれぞれ異なり、よって、位相と振幅がそれぞれ異なる受信信号が全ての送信アンテナと受信アンテナとの組合せにおいて得られるように送信アンテナAT_1、AT_2が離間していれば、限られた受信アンテナ数でそれ以上の受信アンテナ数を備えた場合と等価な構成を実現できる。いずれにしても、送信アンテナAT_1、AT_2の間隔に応じてある程度の長さの伝送経路P_1、P_2を必要とする場合に、上記の作用効果を奏することができる。
【0032】
ここで、第1の構成例における各部の動作を説明する。VCO8は、制御部6からFM−CW方式の三角波状の変調信号が入力されると、これに従って、時間に対して周波数が直線的に漸増、漸減するよう変調されたミリ波帯より低い帯域のマイクロ波帯のレ−ダ信号を生成する。例えば、図4で示した従来の構成で、VCO8の発振周波数が、レ−ダ信号の中心周波数76.5GHz、周波数変動幅100MHzとなるように設定されていたとすると、この第1の構成例では、VCO8の発振周波数は、レ−ダ信号の中心周波数が約19.1(=76.5/4)GHz、周波数変動幅100MHzとなるように設定される。
【0033】
このレ−ダ信号は、分配器10により送信信号STとロ−カル信号SLとに電力分配されると、送信信号STは増幅器12_1により増幅されてスイッチSW_1に入力される。
【0034】
スイッチSW_1は、制御部6からの制御信号に応答して、送信信号STの出力先を、伝送経路P_1、P_2とに交互に時分割で切り替える。こうしてスイッチSW_1から交互に出力される送信信号STは、伝送経路P_1、P_2を介して逓倍器30_1、30_2に入力される。逓倍器30_nは、それぞれ入力された送信信号STの周波数をミリ波帯の所定周波数76.5GHzまで逓倍して出力する。すると、周波数が逓倍された送信信号STは、増幅器22_1、22_2により増幅され、送信アンテナAT_1、AT_2から送信される。
【0035】
このように、制御部6がスイッチSW_1の出力先を交互に切り替えることで、ミリ波帯の所定周波数の送信信号STが送信アンテナAT_1、AT_2から交互に送信される。
【0036】
一方、分配器10により電力分配されたロ−カル信号SLは、伝送経路P_4により伝送され、増幅器12_2による増幅を経て、逓倍器30_3に入力される。そして、逓倍器30_3は、入力されたロ−カル信号STの周波数を、送信信号STと同じ周波数76.5GHzまで逓倍してミキサ16_nに出力する。
【0037】
送信信号として送信されたレ−ダ信号が物標により反射されると、受信信号SR_nとして受信アンテナAR_nにより受信される。受信信号SR_nは、増幅器14_nにより増幅され、ミキサ16_nに入力される。
【0038】
ミキサ16_nは、送信信号STと同じ周波数のロ−カル信号SLと受信信号SR_nとを混合して、送信信号STと受信信号SR_nのそれぞれとの周波数差信号(ビ−ト信号)SB_nを生成する。
【0039】
図8は、各信号の時間(横軸)に対する周波数(縦軸)の変化を示す。送信信号STは上述したように三角波状の変調信号に従い周波数変調される。よって、図8(A)に実線で示すように、送信信号STの周波数は時間に対し直線的に漸次上昇または下降する。そして、受信信号SR_nは、図8(A)に点線で示すように、レ−ダ信号が物標との距離を往復する時間ΔTだけ遅延し、物標との相対速度に応じた周波数ΔDだけドップラシフトする。
【0040】
このような受信信号SRと送信信号STとを混合すると、図8(B)に示すように、両者の周波数差に対応した周波数を有するビ−ト信号SB_nが生成される。送信信号STの周波数が上昇する時(以下、周波数上昇期間という)のビ−ト信号の周波数(以下「アップビ−ト周波数」という)fuと、送信信号STの周波数が下降する時(以下、周波数下降期間という)のビ−ト信号の周波数(以下「ダウンビ−ト周波数」という)fdとから、次の式(1)により物標の相対距離Rdが、式(2)により相対速度Rvが求められる。ここでは、Cは電波伝搬速度(光速)、fmは送信信号STの変調周波数、ΔFは送信信号STの周波数変動幅、foは送信信号STの中心周波数である。
【0041】
(1) Rd=C・(fu+fd)/(8・ΔF・fm)
(2) Rv=C・(fd−fu)/(4・fo)
このようなビ−ト信号SB_nは、ミキサ16_nから、送信信号STの変調周期毎に、A/D変換器18_nを介して制御部6に入力される。
【0042】
制御部6は、送信信号STの変調周期毎に、ビ−ト信号SB_nをFFT処理する。すると、ビ−ト信号SB_nのそれぞれからは、アップ/ダウンビ−ト周波数ごとに、位相と振幅とが検出される。そして、制御部6は、アップ/ダウンビ−ト周波数ごとに、ビ−ト信号SB_nを用いてDBF処理を行う。
【0043】
ここで、図9を用いて、DBF処理について説明する。受信アンテナAR_nの間隔(dとする)に比して十分遠方にある物標から到来する受信信号SR_nは、受信アンテナAR_nに平行に入射するとみなされる。ここで、受信アンテナAR_nが配列された受信面H1の垂直方向に対し方位角θから受信信号SR_nが入射したとすると、隣接する受信アンテナAR_n間での受信信号SR_nの間には、アンテナ間隔dに応じた位相差φ(=2π・d・sin(θ)/λ、但しλは受信信号SR_nの波長)が生じる。
【0044】
ここで、受信面H1においては、受信信号SR_nは位相差φを有するので、受信信号SR_nの振幅は互いに打ち消しあう部分が生じる。しかし、受信信号SR_nの到来方向に対する垂直面(受信面H1に対し角度θの面)H2においては、すべての受信信号SR_nは同位相となる(以下、面H2を同位相面という)。よって、同位相面H2上では、受信信号SR_nは互いに振幅を強め合い、その合成振幅は最大となる。このことは、同位相面H2の角度θが、受信アンテナAR_nの受信利得が最大となる(つまり指向性が一致する)方位角に対応することを意味し、かかる同位相面の角度θを算出することで、受信信号SR_nの到来方向、つまり物標が位置する方位角が求められる。
【0045】
このことを利用し、制御部6は、まず、周波数上昇期間において受信信号SR_nから得られたアップビ−ト周波数のビ−ト信号SB_nの合成振幅を求める。ここで、各受信アンテナAR_nでのビート信号SB_nの振幅をE_nとすると、ビート信号SB_1を基準としたときのSB_n(n=2、3、4)の位相φnは、φn=2π・d・(n−1)・sin(θ)/λであるので、すべてのビ−ト信号SB_n(n=1、2、3、4)の合成振幅Eは式(3)で得られる。
【0046】
【数1】
【0047】
ところで、式(3)ではφi=2π・d・(i−1)・sin(θ)/λであることから、合成振幅Eはθの関数として表される。よって、制御部6は、かかる関数において合成振幅Eの最大値に対応するθを算出する。すると、その算出結果が、周波数上昇期間における、物標が位置する方位角に対応する。
【0048】
制御部6は、同様の処理を周波数下降期間においてダウンビ−ト周波数のビ−ト信号SB_nに対しても行う。すると、周波数下降期間における、物標が位置する方位角が求められる。
【0049】
このような処理が、周波数上昇期間と周波数下降期間ごとに行われる。すると、周波数上昇期間と周波数下降期間ごとに、方位角方向と周波数方向とにおけるビ−ト信号SB_nの強度分布が得られる。
【0050】
次に、制御部6は、方位角方向における強度分布がピ−クを形成する周波数を、アップ/ダウンビ−ト周波数として検出する。このとき、対応づけられた両ピ−クの方位角が、物標が位置する方位角として検出される。
【0051】
また、制御部6は、周波数上昇期間と周波数下降期間の間で、強度または方位角が一致するピ−ク同士を対応付けることにより、アップ/ダウンビ−ト周波数を特定し、上述の式(1)、(2)に従って物標の相対距離と相対速度を算出する。
【0052】
なお、レ−ダ装置2は、図10に示すように、伝送経路P_4により伝送されるロ−カル信号SLを交互に複数の伝送経路T_1、T_2、T_3、T_4に出力するスイッチSW_3と、スイッチSW_3を通過したロ−カル信号SLの周波数を逓倍してからミキサに入力する逓倍器32_1、32_2、32_3、32_4とを設ける構成としてもよい。そして、スイッチSW_3からの出力タイミングは制御部6により制御され、ロ−カル信号SLは時分割で逓倍器32_nに入力される。
【0053】
ここでは、マイクロ波帯のロ−カル信号SLがスイッチSW_3を通過した後に、その周波数が逓倍器32_nによりミリ波帯の所定周波数まで逓倍される。よって、スイッチSW_3による挿入損失は、ミリ波帯のままでロ−カル信号SLが通過する場合より小さく抑えられる。また、伝送経路P_4、T_nにおける損失も、ミリ波帯のままでロ−カル信号SLが通過する場合より小さく抑えられる。よって、ミキサ16_nは、十分な強度のロ−カル信号SLを用いて、ビ−ト信号SB_nを生成することができる。
【0054】
図11は、本実施形態におけるレ−ダ装置2の、第2の構成例を説明する図である。このレ−ダ装置2は、次の点において、図6で示した第1の構成例におけるレ−ダ装置2と異なる。
【0055】
すなわち、レ−ダ装置2は、複数のA/D変換器18_nの代わりに1つのA/D変換器18と、ミキサ16_nから出力されるビ−ト信号SB_nを、制御部6からの指示に従って交互にA/D変換器18に入力するスイッチSW_2を有する。かかる構成とすることで、複数のA/D変換器18_nを有する第1の構成例より、回路規模を小さくできる。よって、低コスト化できる。
【0056】
なお、ミキサ16_nが出力するビ−ト信号SB_nの周波数は、ミリ波帯の送信信号STと受信信号SR_nとの周波数差であるので、ある程度低い周波数帯となる。このため、ビ−ト信号SB_nがスイッチSW_2を通過する際の挿入損失は小さく抑えられ、ビ−ト信号SB_nの信号強度は制御部6での信号処理に支障ない程度に確保される。
【0057】
なお、このレ−ダ装置2は、図12に示すように、ロ−カル信号SLを交互に複数の伝送経路T_nに出力するスイッチSW_3と、スイッチSW_3を通過したロ−カル信号SLの周波数を逓倍してからミキサに入力する逓倍器32_nとをさらに設ける構成としてもよい。この場合、スイッチSW_3の入出力タイミングは制御部6により制御され、ロ−カル信号SLは、時分割でミキサに入力される。
【0058】
ここでは、図10に示した第1の構成例の変形例と同様、マイクロ波帯のロ−カル信号SLがスイッチSW_3を通過した後に、その周波数が逓倍器32_nによりミリ波帯の所定周波数まで逓倍されるので、スイッチSW_3による挿入損失は、ミリ波帯のままでロ−カル信号SLが通過する場合より小さく抑えられる。また、伝送経路P_4、T_nによる損失も、ミリ波帯のままでロ−カル信号SLが通過する場合より小さく抑えられる。よって、ミキサ16_nは、十分な強度のロ−カル信号SLを用いて、ビ−ト信号SB_nを生成することができる。
【0059】
図13は、本実施形態におけるレ−ダ装置が車載用レ−ダ装置として使用される使用状況を説明する図である。レ−ダ装置2は、車両100の前部フロントグリル内に搭載され、送信信号ST、受信信号SR_nを、車両100のバンパ−やフロントグリルに設けられるレド−ムを透過して送受信することにより、車両100前方(矢印F)における先行車両や障害物といった物標が位置する方位角や、物標との相対速度、相対距離を検出する。そして、上述したようにして制御部6が検出した物標が位置する方位角、物標との相対距離、相対速度といった物標情報は、車両100の車両制御装置(ECU:Electronic Control Unit)200に出力される。
【0060】
車両ECU200は、これらの検出結果に基づいて、車両100のスロットル、ブレ−キといったアクチュエ−タを制御して先行車両に追従走行するよう車両の速度を加減し、追従走行制御を行う。また、車両ECU200は、先行車両や障害物との距離が一定以上接近し衝突の蓋然性が大きくなるような場合に、運転者への通知を出力したり、エアバッグなどの安全装置を作動させたりして、衝突対応動作を行う。
【0061】
なお、レーダ装置2は、車両100の前方監視だけでなく、側方や後方を監視するためのレーダ装置として、車両100の側面部や後部に設置してもよい。
【0062】
また、上述の構成例では、4つの受信アンテナAR_1、AR_2、AR_3、AR_4を備えたレ−ダ装置2を例としたが、受信アンテナ数は、これに限られない。
【0063】
さらに、VCO8が出力するレ−ダ信号の周波数帯は上述の例に限られず、必ずしもマイクロ波帯でなくてもよい。また、これに対応して、逓倍器32_nが逓倍する率も、上述の例に限られず、必ずしもミリ波帯まで逓倍しなくてもよい。スイッチや伝送経路を通過するときの信号の周波数を低くし、その後にこれを逓倍する構成であれば、スイッチの挿入損失による送信信号の強度低下、または、伝送損失による送信信号の強度低下を防ぐという作用効果を奏することができる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態におけるレーダ装置によれば、所定間隔離間した送信アンテナ対に送信信号を伝送する伝送経路や、伝送経路に送信信号を分配するスイッチを用いても、探知性能の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】従来の電子スキャン式レ−ダ装置の構成例を示す図である。
【図2】図1と異なる従来の電子スキャン式レ−ダ装置の構成例を示す図である。
【図3】送信アンテナ対と受信アンテナ群の位置関係を説明する図である。
【図4】図2と異なる従来の電子スキャン式レ−ダ装置の構成例を示す図である。
【図5】図4と異なる従来の電子スキャン式レ−ダ装置の構成例を示す図である。
【図6】本実施形態におけるレ−ダ装置の、第1の構成例を説明する図である。
【図7】スイッチの挿入損失、伝送経路の伝送損失について説明する図である。
【図8】送受信信号の時間に対する周波数の変化を示す図である。
【図9】DBF処理について説明する図である。
【図10】第1の構成例の変形例を説明する図である。
【図11】本実施形態におけるレ−ダ装置の、第2の構成例を説明する図である。
【図12】第2の構成例の変形例を説明する図である。
【図13】レ−ダ装置が車載用レ−ダ装置として使用される使用状況を説明する図である。
【符号の説明】
【0066】
2:レーダ装置、AT_n:送信アンテナ、AR_n:受信アンテナ、6:制御部、8:VCO、SW_n:スイッチ、P_n、T_n:伝送経路、30_n、32_n:逓倍器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周波数のレ−ダ信号を送信する所定間隔離間した送信アンテナ対と、物標により反射された前記レーダ信号を受信信号として受信する受信アンテナ群とを有し、前記送信アンテナ対から交互に前記レーダ信号を送信して得られる受信信号を用いて前記物標が位置する方位角を検出するレ−ダ装置において、
前記所定周波数より低い周波数のレ−ダ信号を出力する発振器と、
前記発振器が出力するレ−ダ信号を、第1の前記送信アンテナへの第1の伝送経路と、第2の前記送信アンテナへの第2の伝送経路とに分配するスイッチと、
前記第1の伝送経路に接続され、前記レ−ダ信号の周波数を前記所定周波数に変換してから前記第1の送信アンテナに出力する第1の逓倍器と、前記第2の伝送経路に接続され、前記レ−ダ信号の周波数を前記所定周波数に変換してから前記第2の送信アンテナに出力する第2の逓倍器とを有することを特徴とするレ−ダ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記スイッチは、これを通過するレ−ダ信号の周波数が第1の周波数のときは第1の挿入損失、前記第1の周波数より大きい第2の周波数のときは前記第の挿入損失より大きい第2の挿入損失を当該レ−ダ信号に与えることを特徴とするレ−ダ装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記所定周波数のレーダ信号と前記受信信号との周波数差信号を出力するミキサと、
前記発振器が出力するレ−ダ信号を前記ミキサへの第3の伝送経路に分配する分配器と、
前記第3の伝送経路に接続され、前記レーダ信号を前記所定周波数に変換してから前記ミキサに出力する第3の逓倍器とをさらに有し、
前記周波数差信号を用いて前記物標との相対距離または相対速度をさらに検出することを特徴とするレ−ダ装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記所定周波数はミリ波帯であり、前記発振器が出力するレ−ダ信号の周波数はミリ波帯より低いマイクロ波帯であることを特徴とするレ−ダ装置。
【請求項1】
所定周波数のレ−ダ信号を送信する所定間隔離間した送信アンテナ対と、物標により反射された前記レーダ信号を受信信号として受信する受信アンテナ群とを有し、前記送信アンテナ対から交互に前記レーダ信号を送信して得られる受信信号を用いて前記物標が位置する方位角を検出するレ−ダ装置において、
前記所定周波数より低い周波数のレ−ダ信号を出力する発振器と、
前記発振器が出力するレ−ダ信号を、第1の前記送信アンテナへの第1の伝送経路と、第2の前記送信アンテナへの第2の伝送経路とに分配するスイッチと、
前記第1の伝送経路に接続され、前記レ−ダ信号の周波数を前記所定周波数に変換してから前記第1の送信アンテナに出力する第1の逓倍器と、前記第2の伝送経路に接続され、前記レ−ダ信号の周波数を前記所定周波数に変換してから前記第2の送信アンテナに出力する第2の逓倍器とを有することを特徴とするレ−ダ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記スイッチは、これを通過するレ−ダ信号の周波数が第1の周波数のときは第1の挿入損失、前記第1の周波数より大きい第2の周波数のときは前記第の挿入損失より大きい第2の挿入損失を当該レ−ダ信号に与えることを特徴とするレ−ダ装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記所定周波数のレーダ信号と前記受信信号との周波数差信号を出力するミキサと、
前記発振器が出力するレ−ダ信号を前記ミキサへの第3の伝送経路に分配する分配器と、
前記第3の伝送経路に接続され、前記レーダ信号を前記所定周波数に変換してから前記ミキサに出力する第3の逓倍器とをさらに有し、
前記周波数差信号を用いて前記物標との相対距離または相対速度をさらに検出することを特徴とするレ−ダ装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記所定周波数はミリ波帯であり、前記発振器が出力するレ−ダ信号の周波数はミリ波帯より低いマイクロ波帯であることを特徴とするレ−ダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−162521(P2009−162521A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339712(P2007−339712)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
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