説明

レシチン及びLC−PUFA

本発明は、一般に、食料品における異臭の発生の予防及び/又は遮断に関する。特に、本発明は、長鎖多価不飽和脂肪酸を含有する脂質原料ミックス及び食料品の配合、並びに魚臭い異臭などの異臭の形成に対してそのような製品を安定化するための組成物及びプロセスを対象とする。本発明の一実施形態は、LC−PUFA含有油及びレシチンを含む組成物であり、レシチンのLC−PUFAに対する重量比は、少なくとも約25:75である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、一般に、食料品における異臭の発生の予防に関する。特に、本発明は、長鎖多価不飽和脂肪酸を含有する脂質原料ミックス及び食料品の配合、並びに魚臭い異臭などの異臭の形成に対してそのような製品を安定化するための組成物及びプロセスを対象とする。
【0002】
ヒト、特に乳児の食事における長鎖多価不飽和脂肪酸(LC−PUFA)の重要性は、今や十分に立証されている(例えば、国際公開第96/40106号パンフレット参照)。LC−PUFAの一般的な食物源は、内臓肉、魚、卵及びヒトの母乳である。しかし、今日では、食事はLC−PUFAが欠乏していることが多く、LC−PUFAの供給源で食事を補う必要性が生じる。
【0003】
LC−PUFA補充の供給源には、卵黄リン脂質、並びに魚及び海洋微生物から抽出したトリグリセリド油が含まれる。乳児用調整粉乳にLC−PUFAを補うための卵黄リン脂質及び/又は海洋性トリグリセリド油の使用は、例えば、米国特許第4,670,285号明細書及び国際公開第96/10922号パンフレットで教示されている。乳児用調整粉乳にLC−PUFAを補うための微生物トリグリセリド油の使用は、米国特許第5,374,657号、同第5,397,591号及び同第5,550,156号明細書で教示されている。乳児用調整粉乳にLC−PUFAを補うための別の供給源は、ヒト胎盤からの脂質抽出物であり、欧州特許第0140805号明細書で教示されている。
【0004】
リン脂質(ガム質)は、既に食品(乳児用調整粉乳を含む)に添加されており、これらのリン脂質は、一般に、比較的安価であるため、植物由来のリン脂質である。しかし、添加されているリン脂質のレベルは、一般に、特に乳児用調整粉乳において、脂肪ブレンドの0.5重量%未満であり、リン脂質は、該製品の物理的性質を向上させるために添加される。例えば、リン脂質は、乳化剤又は湿潤剤として添加することができる。
【0005】
その不飽和の程度が原因で、LC−PUFAは、酸化分解を起こしやすい。処理及び貯蔵によりLC−PUFAの二重結合を保護することは、乳児用調整粉乳、離乳食、及びそのような材料を含有する他の栄養補助食品の調製及び配送において、重大な問題である。
【0006】
欧州特許第0404058号明細書は、酸化分解を減少させるために、LC−PUFA含有混合物の調製の間に、酸化防止剤としてα−トコフェロール及び/又はアスコルビルパルミテートを添加することについて記載している。LC−PUFA含有材料は、150〜300ppmの最終濃度を生じる量で、酸化防止剤を含有する混合物に添加され、その混合物は、一般に、モノ及びジグリセリド乳化剤を含有する。米国特許第5,855,944号明細書は、シリカを用いて油を処理すること、油を蒸気脱臭すること、次いで、食品用のレシチン、α−トコフェロール、及びアスコルビルパルミテートの混合物を、合計でその混合物の1000〜4000ppmの量で油に添加することにより、LC−PUFA含有海産物油を安定化させるプロセスについて記載している。
【0007】
国際公開第00/54575号パンフレット及び国際公開第97/35488号パンフレットは、脂質ミックスに最大で16%のレシチンを添加することが、酸化分解に対して安定化効果を有することについて記載している。
【0008】
しかし、今まで、魚臭の発生の減少に関して進展はなかった。最終的な食料品における非常に不快な魚臭い異臭の発生の阻害は、消費者にとって非常に重大である。前駆体LC−PUFAの濃度が実質的に低下していなくても、ppb量の魚臭い異臭化合物の形成は、強く魚臭い異臭を生成するのに十分である。
【0009】
LC−PUFAを含有する脂質プレミックス及び最終製品における魚臭い異臭の形成を安価及び効果的に阻害する方法が依然として求められている。
【0010】
したがって、LC−PUFAを含む脂質プレミックスにおける魚臭い異臭の形成を効果的及び安価に予防、阻害又は遮断するための方法を当分野に提供することが、本発明の目的であった。
【0011】
この目的は、請求項1に記載の組成物、請求項10に記載の製品、並びに請求項11及び12に記載の使用により達成される。
【0012】
本発明者らは、少なくとも約25:75の、レシチンのLC−PUFAに対する重量/重量比で、LC−PUFA含有脂肪混合物にレシチンを添加することが、本発明のこの目的を達成することを見出して驚いた。
【0013】
重要なことに、本発明のこの組成物は、LC−PUFAからの魚臭の発生を予防しただけではなく、LC−PUFAからの魚臭の発生を遮断することもできた。
【0014】
例えば、酸化LC−PUFAを含み、したがって魚臭を示す組成物にレシチンを添加すると、レシチンの添加後に魚臭が消滅した。
【0015】
理論により制限されることを望むことなく、本発明者らは、この効果の根底にある化学的メカニズムは、LC−PUFA酸化時に発生した匂いのあるアルデヒド及びケトンがリン脂質に共有結合していることであると考える。
【0016】
本発明の一実施形態は、LC−PUFA含有油及びレシチンを含む組成物であり、レシチンのLC−PUFAに対する重量比は、少なくとも約25:75である。本発明の好ましい実施形態では、レシチンのLC−PUFAに対する重量比は、少なくとも約30:70、35:65、40:60、45:55、50:50、55:45、60:40、65:35、70:30、75:25、80:20、85:15、90:10又は95:5である。
【0017】
LC−PUFA含有油は、たとえ脱臭されていなくてもよく、及び/又は部分的に酸化していてもよく、及び/又は既に魚臭を示していてもよい。
【0018】
特に好ましい実施形態では、レシチンのLC−PUFAに対する重量比は、少なくとも約55:45、さらにより好ましくは約60:40〜95:5の間、最も好ましくは約65:35と85:15の間である。
【0019】
LC−PUFA含有脂肪又は油の供給源は、本発明にとって重要ではない。当技術分野で知られている任意のそのような供給源を採用することができる。当業者は、一般に、不飽和脂肪酸の供給源を知っている。DHAの一般的な供給源は、例えば、魚油、又はクリプテコディニウム・コーニー(Cryptecodinum cohnii)などの微生物からの油である。欧州特許第0515460号明細書は、例えば、培養した渦鞭毛虫のバイオマスに存在するDHAに富んだ油を得る方法について開示している。国際公開第02/072742号パンフレットは、DHA、ARA、DHGLA及びEPAに富んだ油について開示している。ARAの一般的な供給源は、例えば、卵レシチン又は発酵プロセスのバイオマス(モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina))であり、後者は、欧州特許第0568608号明細書に開示されているプロセスに従って得ることができる。非常に純粋な調製物が所望されるならば、LC−PUFA含有脂肪又は油を合成的に調製することが有利である。しかし、一般に、LC−PUFA含有油は、海産物油、微生物により生成された油、単細胞植物により生成された油、多細胞植物により生成された油若しくは動物由来の油、又はそれらの混合物からなる群から選択することが好ましい。
【0020】
魚臭の形成を予防、阻害及び/又は遮断するレシチンの能力は、LC−PUFA含有油が魚油である場合、最も有益であることができる。
【0021】
該組成物は、魚臭の発生を回避又は遮断することが所望されている場合、任意の組成物であることができる。例えば、該組成物は、局所使用のための薬剤又はクリームでもよい。しかし、好ましくは、該組成物は食品組成物である。
【0022】
本発明の組成物は、不飽和脂肪酸、好ましくは多価不飽和脂肪酸が豊富でもよい。PUFA(多価不飽和脂肪酸)としては、ω−3脂肪酸及びω−6脂肪酸を含めることができる。本発明で使用するPUFAの一般的な例は、ドコサヘキサエン酸(DHA)、アラキドン酸(ARA)、リノール酸、α−リノレン酸、エイコサペンタエン酸及びエルカ酸である。
【0023】
本発明の特に好ましい実施形態では、該組成物は、長鎖多価不飽和脂肪酸が豊富でもよい。PUFAは、炭素鎖が18固以上のC原子を含む場合、LC−PUFAとみなされる。
【0024】
本発明の組成物は、C18、C20及び/又はC22ω−6多価不飽和脂肪酸が豊富でもよい。本発明の組成物中のω−6脂肪酸及びω−3脂肪酸の重量比は、好ましくは1:2〜8:1の間、より好ましくは4:1〜8:1の間である。
【0025】
多価不飽和脂肪酸は、少なくとも部分的に遊離脂肪酸の形態で存在してもよい。多価不飽和脂肪酸は、少なくとも部分的に、モノ、ジ及び/又はトリグリセリド形態でも存在することができる。このグリセリド形態は、PUFAの安定性に寄与し、したがって、魚臭の発生の回避を促進する。
【0026】
本発明の組成物が酸化防止剤をさらに含むならば、さらに有利なことがある。酸化防止剤の種類は重要ではないが、該組成物が食料品又は薬物である場合、食品用の酸化防止剤が必要である。該組成物が局所適用用製品である場合、食品用の酸化防止剤が少なくとも強く好ましい。酸化防止剤は、製品価値の喪失につながると考えられる、LC−PUFAの酸化の回避を促進することができる。さらに、酸化防止剤は、魚臭の形成の阻害を促進することができる。魚臭発生の回避に関する特定の有益な特性を有する酸化防止剤として、柑橘類果実、特にレモンの抽出物を挙げることができる。好適な酸化防止剤のさらなる例は、アスコルビン酸;グルタチオン;リポ酸;尿酸;カロテノイド、例えば、リコペン、カロテン;トコフェロール;ユビキノン;ヒドロキノン;ポリフェノール酸化防止剤、例えば、リスベラトロール、フラボノイド;アスコルビルパルミテート;ガレート(galate);BHA;BHT;TBHQ;亜硫酸塩;レチノール;カロテノイド;フラボノイド;茶抽出物;ローズマリー抽出物;亜硝酸塩;EDTA、クエン酸、フィチン酸;それらの誘導体及び/又は混合物からなる群から選択することができる。
【0027】
本発明の枠組みで使用することができる酸化防止剤の量は、特に制限されておらず、使用する酸化防止剤の種類に左右されるであろう。当業者は、適切な量を求めることができるであろう。しかし、一般に、酸化防止剤が、該組成物全体に対して約0.001重量%〜1%重量%、好ましくは約0.01重量%〜0.5重量%の量で該組成物に添加されると好ましい。
【0028】
本発明の組成物は、脂質原料ミックスでもよい。この場合、長鎖多価不飽和脂肪酸は、該組成物の約1〜75重量%、好ましくは該組成物の約3〜50重量%、最も好ましくは該組成物の約5〜35重量%を占めることができる。
【0029】
該組成物は、炭水化物源、タンパク質源、及び/又はさらなる脂肪源もさらに含むことができる。
【0030】
本発明の、例えば、脂質原料ミックスの一般的な実施形態は、40℃で1カ月の貯蔵後に魚臭の発生が知覚されないことを特徴とする。
【0031】
本発明は、本発明の組成物を含む製品にも関する。
【0032】
そのような製品は、LC−PUFA含有原料、特に海産物油、微生物により生成された油、単細胞植物により生成された油、多細胞植物により生成された油若しくは動物由来の油、栄養学的に完全な配合物、酪農製品、チルド若しくは保存性飲料、ミネラルウォーター若しくは精製水、液体飲料、スープ、栄養補助食品(dietary supplement)、食事代替品、栄養バー、菓子、乳製品若しくは発酵乳製品、ヨーグルト、粉ミルク、経腸栄養製品、乳児用調整粉乳、乳児用栄養製品、穀類製品若しくは発酵穀類ベースの製品、アイスクリーム、チョコレート、コーヒー、調理用製品、例えば、マヨネーズ、トマトピューレ若しくはサラダドレッシングなど、ヘルスケア製品、化粧品、医薬品、又はペットフードでもよい。
【0033】
該製品が原料ではなく、すぐに消費できる製品である場合、該製品は、炭水化物源、タンパク質源、及び/又はさらなる脂肪源もさらに含んでもよいことが多い。
【0034】
最終製品は、該製品の意図した目的に対応する量のLC−PUFAを含むことができる。しかし、一般的な食品組成物は、重量パーセントで、0.01〜0.5%、好ましくは0.015〜0.4%、最も好ましくは0.02〜0.2%、例えば、0.06%のLC−PUFAを含むことがある。
【0035】
該製品が栄養組成物であるならば、該製品は、好ましくは、例えば、多量及び微量栄養素、機能性食品成分などの、他の構成要素を含む。該製品は、例えば、さらなる脂質を含んでもよい。使用することができる一般的な脂質源としては、乳脂肪、ベニバナ油、卵黄脂質、カノーラ油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、パームオレイン、ダイズ油、ヒマワリ油が含まれる。6〜12個の炭素原子(C6〜C12)のアシル鎖を有する脂肪酸を含むトリグリセリドとして本明細書で定義する、中鎖トリグリセリド(MCT)も含むことができる。
【0036】
一般に、脂肪酸は、好ましくはトリグリセリドの形態で存在する。しかし、脂肪酸は、遊離脂肪酸、グリセロール以外のアルコールのエステルの形態で、又はリン脂質の形態でも存在することができる。
【0037】
最終栄養組成物中では、脂質は、栄養組成物の総エネルギーの30〜50%、好ましくは35〜45%を供給することができる。
【0038】
タンパク質又は炭水化物源として、一般に、栄養組成物中の成分として好適な、任意のタンパク質源及び/又は炭水化物源を使用することができる。
【0039】
使用することができる食物タンパク質は、任意の好適な食物タンパク質、例えば、動物性タンパク質(乳タンパク質、肉タンパク質及び卵タンパク質など)、植物性タンパク質(ダイズタンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、及びエンドウマメタンパク質などの)、遊離アミノ酸の混合物、又はそれらの組合せであることができる。カゼイン及び乳清タンパク質などの乳タンパク質が特に好ましい。タンパク質は、無処置、加水分解タンパク質、部分的加水分解タンパク質、遊離アミノ酸又はこれらの混合物でもよい。タンパク質源は、好ましくは、該組成物のエネルギーの約7〜25%、より好ましくは7〜15%、最も好ましくは8〜13%を供給する。
【0040】
栄養組成物が炭水化物源を含むならば、栄養組成物での使用に好適な任意の炭水化物、例えば、マルトデキストリン、マルトース、スクロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、コーンシロップ、コーンシロップ固形物、米シロップ固形物、穀物デンプン、米デンプン、トウモロコシデンプンなどのデンプン、及びそれらの混合物などの可消化炭水化物を使用することができる。例えば、栄養組成物が完全な栄養組成物であるならば、炭水化物源は、好ましくは、栄養組成物のエネルギーの好ましくは約30%〜約70%、好ましくは40〜60%を供給する。
【0041】
所望であれば、本発明による栄養組成物中に食物繊維(難消化性炭水化物)も存在することができる。多数の種類の食物繊維が使用可能である。ほんの少し挙げるだけでも、例えば、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、フコオリゴ糖、マンノオリゴ糖などのオリゴ糖を添加することができる。
【0042】
該組成物は、特定のヒトの栄養必要量を満たすように設計されたさらなる成分を含むことができるか、又はさらなる利益又は機能性を提供することができる。例えば、該組成物は、好ましくは「栄養学的に完全」であり、すなわち、健康的な人生を長期間維持するために適切な栄養分を含有する。好ましくは、該組成物は、ビタミン及びミネラルを含む。微量元素も補うことができる。
【0043】
必要であれば、該製品は、モノ及びジグリセリドのクエン酸エステルなどの乳化剤及び安定剤を含有することができる。乳化剤は、モノ及びジグリセリド、モノ/ジグリセリドの酢酸エステル、モノ/ジグリセリドの乳酸エステル、モノ/ジグリセリドのジアセチル酒石酸エステル、モノグリセリドのコハク酸エステル、ソルビタンエステル、スクロースエステル、ポリグリセロールエステル、ステアロイル乳酸カルシウム並びにそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0044】
該製品は、場合により、ラクトフェリン、ヌクレオチド及び/又はヌクレオシドなどの、有益な効果を有する他の物質を含有することができる。
【0045】
栄養組成物は、好ましくはビフィドバクテリウム属、ラクトバシラス属、ストレプトコッカス(Strepotsococcus)属、及びこれらの混合物から選択するプロバイオティック微生物をさらに含むことができる。
【0046】
本発明は、少なくとも約25:75の、レシチンのLC−PUFAに対する重量/重量比、又は好ましくは上で例示した重量比で、LC−PUFA含有油組成物にレシチンを添加するステップを含む、LC−PUFA含有油組成物からの魚臭の形成を阻害及び/又は遮断するための方法にさらに関する。
【0047】
それ故、本発明の一実施形態は、LC−PUFA含有油からの魚臭の形成を予防、阻害及び/又は遮断するための本発明の組成物の使用である。
【0048】
本発明は、一般に、魚臭の形成を少なくとも部分的に予防、阻害及び/又は遮断するための、LC−PUFA含有油を含む組成物中でのレシチンの使用に関する。
【0049】
好ましくは、レシチンは、少なくとも約30:70、35:65、40:60、45:55、50:50、55:45、60:40、65:35、70:30、75:25、80:20、85:15、90:10又は95:5の、レシチンのLC−PUFAに対する重量比で使用する。
【0050】
レシチンは、当業者に知られている。
【0051】
市販のレシチンは、油中のリン脂質の混合物であることがある。レシチンは、種子の抽出油を脱ガムすることにより得ることができる。レシチンは、様々なリン脂質の混合物であり、その組成は、レシチンの供給源によって異なる。任意のレシチンが本発明に適している。一般的なレシチン供給源は、当業者に知られている。レシチンの主要な供給源の例は、ダイズ油、ヒマワリ油、及び/又は卵黄である。合成的に調製したレシチンも使用することができる。
【0052】
ダイズ及びヒマワリからのレシチン中の主なリン脂質は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジン酸である。それらは、それぞれPC、PI、PE、及びPAと省略されることが多い。
【0053】
レシチンの効能を改良するため、すなわち、レシチンを添加する製品にとって好適にするために、レシチンを改良することができる。そのような改良の1つは、例えばホスホリパーゼA2による酵素加水分解であり、その結果、リン脂質の少なくとも一部が、ホスホリパーゼにより少なくとも1つの脂肪酸を除去される。
【0054】
本発明の開示内の「レシチン」という用語は、少なくとも部分的に改良されたそのようなレシチンを含むことを意味する。
【0055】
特に満足のいく結果は、重量/重量基準でLC−PUFA含有油と少なくとも同じ量で、レシチンを該組成物中で使用するならば達成され、好ましくは、使用するレシチンの該組成物中のLC−PUFAに対する重量比は、少なくとも約55:45、より好ましくは少なくとも約60:40〜95:5、最も好ましくは65:35と85:15の間である。
【0056】
本発明の使用では、レシチンは、魚臭の発生に対するレシチンの効果をさらに支持するために、酸化防止剤と組み合わせて有利に使用することができる。好ましくは、酸化防止剤は、アスコルビン酸;グルタチオン;リポ酸;尿酸;カロテノイド、例えば、リコペン、カロテン;トコフェロール;ユビキノン;ヒドロキノン;ポリフェノール酸化防止剤、例えば、リスベラトロール、フラボノイド;アスコルビルパルミテート;ガレート;BHA;BHT;TBHQ;亜硫酸塩;レチノール;カロテノイド;フラボノイド;茶抽出物;ローズマリー抽出物;亜硝酸塩;EDTA、クエン酸、フィチン酸;それらの誘導体及び/又は混合物からなる群から選択し、並びに/或いは、約0.001重量%〜1%重量%、好ましくは約0.01重量%〜0.5重量%の量で該組成物に添加する。
【0057】
当業者が理解するように、元々開示した本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に記載した本発明の任意の特徴を自由に組み合わせることが可能である。
【0058】
本発明のさらなる特徴及び利点は、以下の実施例及び図から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】1カ月の貯蔵時間後(40℃、〜50%の空気ヘッドスペース)の、選択した揮発性風味化合物(1−ペンテン−3−オン、トランス−トランス−2,4−ヘプタジエナール及びトランス−2−ペンテノール)の形成を示す図である。
【図2】1カ月の貯蔵時間後(40℃、〜50%の空気ヘッドスペース)の、1−ペンテン−3−オンの形成を倍尺で示す図である。
【図3】魚油−レシチンミックス中の魚臭の知覚を示す図である。
【実施例】
【0060】
材料:
−液体ダイズレシチン、Topcithin NGM、Sugro Remis(アイテム:001957)ロット600665
−魚油NIF、ex Nestrade/Sofinol、Remis(アイテム:000199)ロット601201
【0061】
レシチン/魚油ミックスの調製:
以下の50gの重量基準の混合物を新たに調製した。
1)99%の魚油+1%のレシチン
2)98%の魚油+2%のレシチン
3)95%の魚油+5%のレシチン
4)90%の魚油+10%のレシチン
5)85%の魚油+15%のレシチン
6)80%の魚油+20%のレシチン
7)70%の魚油+30%のレシチン
8)60%の魚油+40%のレシチン
9)50%の魚油+50%のレシチン
10)40%の魚油+60%のレシチン
11)30%の魚油+70%のレシチン
12)20%の魚油+80%のレシチン
13)100%の魚油
14)100%のレシチン
15)対照100%の魚油(−25℃)
16)対照100%のレシチン(−25℃)
【0062】
Teflonのシールキャップを有する100ml茶色のガラスのPyrexフラスコ中で混合物を調製した。40℃水浴中で、脂質試料を予熱し、手動で注意深く回転/混合して、均質化した。
【0063】
貯蔵:40℃(オーブン)で1カ月、2〜3日毎に試料を数秒間回転/混合した(凍結試料以外)
【0064】
官能試験(技術的嗅覚試験)
7人の熟練の食味検査員により嗅覚試験を実施した。図示尺度の魚臭強度の指標(0=魚臭くない、10=非常に魚臭い)を用いた臭気比較試験で、魚臭くない対照(−25℃/1カ月貯蔵した100%レシチン)及び非常に魚臭い対照(40℃/1カ月貯蔵した100%魚油)と試料を比較した。
【0065】
SPME−GC/MSによる揮発性風味化合物の分析
固相マイクロ抽出(SPME)−ガスクロマトグラフィー(GC)/質量分析(MS)分析方法を以下の通り実施した。
【0066】
風味化合物の分析例
20mlクリンプトップバイアル中に1.0gの脂質試料を計量し、磁気撹拌子を加える。50μlの内部標準エチル吉草酸溶液(100ml水中に45μlエチル吉草酸)及び50μlの内部標準4−メチルオクタン酸溶液(250ml水中に75μlのメチルオクタン酸)を添加し、その後、バイアルを閉じた。次いで、約870rpmの速度範囲の接点温度計を備えた電磁ホットプレートスターラーを使用して、バイアルを65℃のウォーターバス中に入れる。30分の平衡時間後、隔壁(20mmの深さゲージ)を突き通すことにより、及び繊維を試料溶液の上のヘッドスペースに完全に曝すことにより、繊維集成装置(SPME Fiber Assemply、2cm、ホルダー中に装着した50/30μm DVB/CAR/PDMS StableFlex、両方ともSUPELCO Bellefonte、USA製)を挿入する。30分の吸着時間後、繊維を引き込み、繊維集成装置中に除去し、バイアルから取り出す。直ちにGC注入器(30mmの深さゲージ)中に繊維集成装置を導入し、同時に繊維を曝露することにより、分離を開始する。5分後、繊維を引き込み、注入器から除去する。ヘリウムをキャリヤーガスとして、及び40℃〜250℃の温度勾配を使用する、FFAP毛管カラム(50m、0.2mm内径、0.3μmコーティング、Agilent Technologies USA)でのガスクロマトグラフィーにより、風味化合物を分離する。質量分析法により、分離した化合物を検出し、同定する。知られている量の内部標準エチル吉草酸(中性化合物)及び4−メチルオクタン酸(酸性化合物)との関連で、風味化合物に対する反応を算出することにより、相対的定量化を実施する。SPME分析(磁気撹拌なし)のための自動試料調製システム(Gerstel/Agilent)に同じ方法を適用した。
【0067】
結果
SPME−GC/MSによる揮発性風味化合物の分析
図1及び2は、1カ月の貯蔵時間後(40℃、〜50%の空気ヘッドスペース)の、選択した揮発性風味化合物の形成を示すグラフを示す。より高い用量のレシチン(レシチン中に75重量%以下のLC−PUFAの範囲)で、SPME−GC/MSによる分析により、魚油分解産物の形成は実質的に検出されなかった。
より高い魚油濃度で、例えば、以下の選択した臭気化合物を形成した。
・1−ペンテン−3−オン、強く魚臭い、閾値(油、鼻):0.0007mg/kg[4]、LOD(検出限界、SPME−GC/MS)〜0.005mg/kg。
・tr2、tr4−ヘプタジエナール、脂肪様、閾値(油、鼻):10mg/kg[4]、LOD(検出限界、SPME−GC/MS)〜0.005mg/kg。
・tr2−ペンテナール、刺激性、リンゴ、閾値(油、鼻):2.3mg/kg[4]、LOD(検出限界、SPME−GC/MS)〜0.005mg/kg。
【0068】
高濃度の魚油を含有する試料中で、非常に魚臭い化合物1−ペンテン−3−オンのみが閾値を上回る濃度で検出された。
【0069】
【表1】

【0070】
官能試験(臭気)
レシチン中に0〜40%の魚油の濃度範囲内では、有意な魚臭は知覚されなかったが、40%を上回る魚油濃度に関しては、魚臭形成の増大が検出された。
SPME−GC/MS法の感度が閾値の濃度を分析するのに不十分であっても、魚臭(閾値(油、鼻):0.0007mg/kg)の検出は、強く魚臭い化合物1−ペンテン−3−オン(検出限界〜0.005mg/kg)の検出にかなり良好に適合する。
【0071】
図3は、官能試験の結果を示す。
【0072】
LC−PUFA含有試料からの魚臭の形成の阻害におけるダイズレシチン添加の効率を明確に示した。魚油含有脂質試料における魚臭い異味の形成をモニタリングするために、1−ペンテン−3−オンを首尾よく適用した。しかし、魚臭い異臭は、ダイズレシチンの香りにより実質的に遮蔽されていないと考えられる。
【0073】
理論により制限されることを望むことなく、本発明者らは、現在、魚臭の阻害に関するメカニズムの仮説が、ケトン及びアルデヒド(例えば1−ペンテン−3−オン)とリン脂質(例えばホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン)のアミノ基との反応が原因のシッフ塩基の形成に基づいていると仮定する。形成した誘導体は揮発性ではなく、おそらく、この理由のため、魚臭い異臭が検出できない。
【0074】
これらの結果はパイロットプラント試験により確認し、33カ月の貯蔵後(20℃、ガス処理)でも、生成したラクトゲン粉末の異味の形成を示さなかった。ダイズレシチン(Topcithin 200)/魚油の混合物のレシチン化(粉末に対して0.45%のミックス)により、魚油添加を実施した。
【0075】
以下の表は、このパイロットプラント試験の結果を示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表は、少なくとも50:50又はさらに良好には30:70の魚油/レシチン比で魚油に液体ダイズレシチンを添加するならば、空気中で40℃で1カ月、及びガス処理をして20℃で33カ月の貯蔵という課題に直面しても、脂質ミックス及び乳児用調整粉乳において、魚臭(dish odour)の発生を実質的に観察できなかったことを示す。理論により制限されることを望むことなく、本発明者らは、現在、レシチンが豊富な試料において魚臭い風味が実質的に観察されなかったため、レシチンが魚臭い異臭化合物をおそらく最も化学結合させる(メイラード型の反応)と推定する。
【0078】
上記のレシチン−LC−PUFA系にさらなる試験を課した。今回は、既に酸化した魚油を使用した。酸化魚油は、強力な魚臭を有する。
【0079】
以下の化合物を使用した。
−酸化魚油(Sofinolバッチ8009、ロット800072、40℃で1カ月処理、空気)、臭気:強く魚臭い、強力な脂質酸化
−液体レシチン(Epikuron 135 F IP(納品日2008年1月21日)、約50%のアセトン不溶性物質(〜40〜50%のリン脂質)を含有する)
【0080】
2種の混合物を調製し、40℃でさらに1カ月維持した
【0081】
混合物A)50%の液体レシチン及び50%の酸化魚油:初期の臭気−強く魚臭い、酸化している、40℃で1カ月後の臭気−わずかに魚臭い
混合物B)70%の液体レシチン及び30%の酸化魚油:初期の臭気−強く魚臭い、酸化している、40℃で1カ月後の臭気−魚臭くない
【0082】
混合物A)約63部リン脂質及び37部LC−PUFAの比に相当する
混合物B)約43部リン脂質及び57部LC−PUFAの比に相当する
【0083】
これらのデータは、十分に脱臭されていない魚油でも、レシチンと組み合わせて使用することができることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシチンのLC−PUFAに対する重量比が少なくとも約25:75である、LC−PUFA含有油及びレシチンを含む組成物。
【請求項2】
前記LC−PUFA含有油が、海産物油、微生物により生成された油、単細胞植物により生成された油、多細胞植物により生成された油若しくは動物由来の油、又はそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくは魚油である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
レシチンのLC−PUFAに対する重量比が、少なくとも約55:45;好ましくは約60:40〜95:5の間、より好ましくは約65:35と85:15の間である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項4】
炭水化物源、及びタンパク質源を場合によりさらに含む食品組成物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
多価不飽和脂肪酸、好ましくは長鎖多価不飽和脂肪酸、さらにより好ましくはC18、C20及び/又はC22ω−6多価不飽和脂肪酸が豊富である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記多価不飽和脂肪酸が、少なくとも部分的にモノ、ジ及び/又はトリグリセリドの形態で存在する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
例えば、アスコルビン酸;グルタチオン;リポ酸;尿酸;カロテノイド、例えば、リコペン、カロテン;トコフェロール;ユビキノン;ヒドロキノン;ポリフェノール酸化防止剤、例えば、リスベラトロール、フラボノイド;アスコルビルパルミテート;ガレート(galates);BHA;BHT;TBHQ;亜硫酸塩;レチノール;カロテノイド;フラボノイド;茶抽出物;ローズマリー抽出物;亜硝酸塩;EDTA、クエン酸、フィチン酸;それらの誘導体及び/又は混合物からなる群から選択される酸化防止剤をさらに含み、並びに/或いは、酸化防止剤が、約0.001重量%〜1%重量%、好ましくは約0.01重量%〜0.5重量%の量で組成物に添加される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
長鎖多価不飽和脂肪酸が、組成物の約1〜75重量%、好ましくは組成物の約3〜50重量%、最も好ましくは組成物の約5〜35重量%を占める、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
40℃で1カ月の貯蔵後に、魚臭の発生が知覚されないことを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
好ましくは、LC−PUFA含有原料、特に海産物油、微生物により生成された油、単細胞植物により生成された油、多細胞植物により生成された油若しくは動物由来の油、栄養学的に完全な配合物、酪農製品、チルド若しくは保存性飲料、ミネラルウォーター若しくは精製水、液体飲料、スープ、栄養補助食品、食事代替品、栄養バー、菓子、乳製品若しくは発酵乳製品、ヨーグルト、粉ミルク、経腸栄養製品、乳児用調整粉乳、乳児用栄養製品、穀類製品若しくは発酵穀類製品、アイスクリーム、チョコレート、コーヒー、例えば、マヨネーズ、トマトピューレ若しくはサラダドレッシングのような調理用製品、ヘルスケア製品、化粧品、医薬品、又はペットフードである、請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物を含む製品。
【請求項11】
LC−PUFA含有油からの魚臭の形成を予防、阻害及び/又は遮断するための、請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項12】
魚臭の形成を少なくとも部分的に予防、阻害及び/又は遮断するための、LC−PUFA含有油を含む組成物中でのレシチンの使用。
【請求項13】
レシチンが、重量/重量基準でLC−PUFA含有油と少なくとも同じ量で、レシチンが該組成物中で使用され、好ましくは組成物中のレシチンのLC−PUFAに対する重量比が、少なくとも約55:45、さらにより好ましくは組成物中のレシチンのLC−PUFAに対する重量比が少なくとも約60:40〜95:5、最も好ましくは65:35と85:15の間である、請求項20に記載の使用。
【請求項14】
レシチンが酸化防止剤と組み合わせて組成物中で使用され、前記酸化防止剤が好ましくは、アスコルビン酸;グルタチオン;リポ酸;尿酸;カロテノイド、例えば、リコペン、カロテン;トコフェロール;ユビキノン;ヒドロキノン;ポリフェノール酸化防止剤、例えば、リスベラトロール、フラボノイド;アスコルビルパルミテート;ガレート(galate);BHA;BHT;TBHQ;亜硫酸塩;レチノール;カロテノイド;フラボノイド;茶抽出物;ローズマリー抽出物;亜硝酸塩;EDTA、クエン酸、フィチン酸;それらの誘導体及び/又は混合物からなる群から選択される、請求項19〜23のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記酸化防止剤が、約0.001重量%〜1%重量%、好ましくは約0.01重量%〜0.5重量%の量で組成物に添加される、請求項24〜25のいずれか一項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−535526(P2010−535526A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520522(P2010−520522)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際出願番号】PCT/EP2008/059731
【国際公開番号】WO2009/021822
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
2.PYREX
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】