説明

レジノイド砥石の研削性調整方法および装置

【課題】一般に市販されているレジノイド砥石の研削面近傍の研削性を研削機上に取り付けたまま調整することができ、それによって1つのレジノイド砥石で複数種のワークを研削することを可能にするレジノイド砥石の研削性調整方法および装置を提供する。
【解決手段】照射時間が10分以内でかつ照射エネルギーが1kW・h/m〜100kW・h/mとなる光Pをレジノイド砥石Gの研削面GPに対して照射し、研削面GP近傍における結合剤による砥粒の被覆率を減少させることで研削性を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に市販されているレジノイド砥石の研削性(切れ味)を調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂からなる結合剤によって、砥粒を結合・保持してなるレジノイド砥石が知られている。
【0003】
砥石メーカーから所定の研削性を有するレジノイド砥石を購入したユーザは、その使用に際し、研削内容に応じてレジノイド砥石の研削性を調整したい場合がある。また、1つの砥石で複数種のワークを研削するために、レジノイド砥石の研削性を調整したいという要望もある。
【0004】
レジノイド砥石の研削性を調整する方法としては、焼成による調整の他に、砥石の研削面に対して光学的処理を施す方法が存在する。
【0005】
例えば、特許文献1には、砥石の研削面に対して紫外線レーザーを照射することにより、結合剤を除去し、砥粒の突き出し量を調整する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2に開示されているように、目詰まりを防止すべく、研削中に砥石の研削面に対して光学的処理を施す方法が提案されている。特許文献2に記載の方法によれば、砥粒、結合剤および二酸化チタンの粉末の混合物を成形・焼成してなる砥石の研削面に対し、紫外線が照射されるとともに水溶性の研削液が供給される。これにより、二酸化チタンの光触媒作用による結合剤の酸化が生じ、酸化した結合剤が砥粒とともに徐々に剥離する。つまり、当該方法によれば、研削中に砥石が自然にドレッシングされ、砥石の目詰まりが防止される。
【特許文献1】特開平9−285962号公報
【特許文献2】特開2003−334762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、レーザー(照射エネルギーは一般に1MW・h/m以上)によって砥石研削面の結合剤を昇華させて除去し、砥粒の突き出し量を調整するものであり、その影響は研削面の表面にしか及ばない。それゆえ、当該方法によって所定の研削性が得られたとしても、その研削性を長続きさせることができなかった。また、レーザーを照射するための装置は一般に高コストであるため、ユーザが気軽に使用できる方法ではなかった。
【0008】
また、特許文献2に記載の方法によれば、砥粒、結合剤および二酸化チタンの粉末の混合物を成形・焼成してなるレジノイド砥石、つまり特殊なレジノイド砥石を使用しなければならず、ユーザ側の発意のみで気軽に実施できる方法ではなかった。また、ワークの材質によっては、ワークと二酸化チタンが反応してしまい、研削加工に悪影響を及ぼす場合があった。
【0009】
また、購入したレジノイド砥石に対し、ユーザ側で焼成処理を施すことも考えられ得る。しかしながら、焼成処理するにはレジノイド砥石を焼成炉に投入する必要がある。それゆえ、機上に取り付けられていたレジノイド砥石の研削性を調整する場合であれば、その砥石を一旦研削機から取り外し、焼成処理が終わった段階で再度研削機に取り付けるという煩雑な作業をする必要がある。さらに、焼成炉によって一旦レジノイド砥石を焼成した場合は、その影響が砥石全体に及んでしまう。それゆえ、あるワークに対する研削が終わって別種のワークを研削する際に、砥石の研削性を元に戻したい状況が生じても戻すことができないという問題がある。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、一般に市販されているレジノイド砥石の研削面近傍の研削性を研削機上に取り付けたまま調整することができ、それによって1つのレジノイド砥石で複数種のワークを研削することを可能にするレジノイド砥石の研削性調整方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明は、(1)照射時間が10分以内でかつ照射エネルギーが1kW・h/m〜100kW・h/mとなる光をレジノイド砥石の研削面に対して照射し、当該研削面近傍における結合剤による砥粒の被覆率を減少させることで研削性を調整することを特徴とするレジノイド砥石の研削性調整方法を提供するものである。
【0012】
本発明は、上記構成(1)において、(2)前記光として波長が100nm〜400nmの紫外線を用い、前記研削面近傍における結合剤の分子鎖を切断することによって、前記被覆率を減少させるとともに、前記研削面近傍における結合剤の結合度を低下させることを特徴とするレジノイド砥石の研削性調整方法を提供するものである。
【0013】
本発明は、上記構成(1)において、(3)前記光として波長が0.7μm〜1mmの赤外線を用い、前記研削面近傍における結合剤の重合を促進させることによって、前記被覆率を減少させるとともに、前記研削面近傍における結合剤の結合度を上昇させることを特徴とするレジノイド砥石の研削性調整方法を提供するものである。
【0014】
本発明は、(4)レジノイド砥石の研削面に対して、照射時間が10分以内でかつ照射エネルギーが1kW・h/m〜100kW・h/mとなる光を照射し得る光照射装置と、前記光照射装置の照射口前方に配置され、前記光照射装置から照射された光を平行光にする光学素子と、前記光照射装置を駆動制御する制御装置と、を含んでなることを特徴とするレジノイド砥石の研削性調整装置を提供するものである。
【0015】
本発明は、上記構成(4)において、(5)前記光照射装置は、照射時間が10分以内でかつ照射エネルギーが1kW・h/m〜100kW・h/mとなる紫外線を照射し得る紫外線照射装置と、照射時間が10分以内でかつ照射エネルギーが1kW・h/m〜100kW・h/mとなる赤外線を照射し得る赤外線照射装置とからなり、前記光学素子は、前記紫外線照射装置の照射口前方に配置された紫外線用光学素子と、前記赤外線照射装置の照射口前方に配置された赤外線用光学素子とからなり、前記制御装置は、前記紫外線照射装置および前記赤外線照射装置のいずれか一方を駆動制御するようになっていることを特徴とするレジノイド砥石の研削性調整装置を提供するものである。
【0016】
本発明は、上記構成(4)において、(6)前記光照射装置が照射した光の前記研削面からの反射光を受けて、当該反射光の波長をモニタリングするモニタリング装置をさらに含んでおり、前記制御装置は、前記モニタリング装置によってモニタリングされた前記反射光の波長に応じて、前記光照射装置を駆動制御するようになっていることを特徴とするレジノイド砥石の研削性調整装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るレジノイド砥石の研削性調整方法によれば、照射エネルギーが1kW・h/m〜100kW・h/mとなる高エネルギーの光がレジノイド砥石の研削面に対して照射されるため、結合剤が変質・後退し、レジノイド砥石の研削面近傍における結合剤による砥粒の被覆率が低下する。これにより、レジノイド砥石の研削面近傍の研削性を調整することができる。
【0018】
また、本発明によれば、照射エネルギーが1kW・h/m〜100kW・h/mとなる光をレジノイド砥石の研削面に対して照射するだけであるため、レジノイド砥石は研削機上に取り付けられたままでもよい。
【0019】
また、本発明によれば、照射する光の波長、照射エネルギー(照射強度、照射時間)所定範囲内で適宜選択することにより、一般に市販されている全てのレジノイド砥石の研削面近傍の研削性を調整することができる。
【0020】
また、本発明によれば、レジノイド砥石の研削面だけでなく、研削面近傍(研削面から所定深さまで)の研削性が調整されるため、調整によって得られた研削性がすぐに失われることがない。また、本発明によれば、研削性が調整される深さが、照射する光の照射エネルギー(照射、照射時間)を所定範囲内で調整することによって適宜調節され得るため、調整によって得られた研削性の持続性を適宜調整することができる。
【0021】
また、本発明によれば、レジノイド砥石全体の研削性ではなく、研削面近傍の研削性のみを調整することができる。これは、研削性が調整された部分が磨耗等により消失されれば、また元の研削性が復活することを意味する。それゆえ、本発明によれば、1つのレジノイド砥石で複数種のワークを研削することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の好ましい一実施形態につき説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施形態にかかるレジノイド砥石の研削性調整装置1は、波長が100nm〜400nmであり、かつ照射エネルギーが1kW・h/m〜100kW・h/mとなる紫外線Pを照射し得る紫外線照射装置2を備えている。
【0024】
また、レジノイド砥石の研削性調整装置1は、紫外線照射装置2の照射口21の前方に配置された光学素子4を備えている。光学素子4は、紫外線照射装置2によって照射された紫外線Pを平行光にする。
【0025】
また、レジノイド砥石の研削性調整装置1は、紫外線照射装置2が照射した紫外線Pの研削面GPからの反射光P1の波長をモニタリングするモニタリング装置7と、反射光P1をモニタリング装置7に向かわせるプリズム71とを備えている。モニタリング装置7は、反射光P1の波長に応じた反射光信号Sを生成する。
【0026】
レジノイド砥石の研削性調整装置1はさらに、紫外線照射装置2を駆動制御する制御装置6を備えている。制御装置6は、オペレータの操作に基づいて、紫外線照射装置2から照射される紫外線Pの照射エネルギー(照射強度、照射時間)や波長を調整する。また、制御装置6は、モニタリング装置7からの反射光信号Sを受信し、当該信号Sの値に応じて、紫外線照射装置2による紫外線Pの照射を制御(本実施形態では停止)する。
【0027】
上記のように構成されたレジノイド砥石の研削性調整装置1は、次のように使用される。
まず、レジノイド砥石の研削性調整装置1は、図1に示す如く、調整対象であるレジノイド砥石Gの近傍に配置される。この際、紫外線照射装置2は、照射した紫外線Pがレジノイド砥石Gの研削面GPに当たるように向けられる。また、プリズム71は、紫外線照射装置2による紫外線Pの研削面GPからの反射光P1を受光し得る位置に配置される。なお、レジノイド砥石Gは、研削機(不図示)に取り付けられていて、回転可能になっている。
【0028】
次に、レジノイド砥石Gの用途や結合剤の種類に応じて、照射される紫外線Pの照射エネルギー(照射強度、照射時間)と波長がオペレータにより設定される。このとき、光の照射時間は10分以内、照射エネルギーは1kW・h/m〜100kW・h/mとなる範囲内で設定される。
【0029】
そして、所定回転数で回転せしめられたレジノイド砥石Gの研削面GPに対し、設定された照射エネルギー(照射強度、照射時間)および波長の紫外線Pが紫外線照射装置2によって照射される。制御装置6が受信するモニタリング装置7からの反射光信号Sの値に応じて、紫外線照射装置2による紫外線Pの照射が停止される。
【0030】
紫外線Pの照射が停止されると、照射箇所が重ならないように、紫外線照射装置2はレジノイド砥石Gの軸方向に移動せしめられる。そして、同様に、紫外線照射装置2によって紫外線Pが照射され、最終的に研削面GPの全面に対して紫外線Pが照射される。
【0031】
レジノイド砥石の研削性調整装置1によれば、紫外線照射装置2によって、照射時間が10分以内でかつ照射エネルギーが1kW・h/m〜100kW・h/mとなる高エネルギーの紫外線Pがレジノイド砥石Gの研削面GPに対して照射される。この紫外線Pの作用により、レジノイド砥石Gの研削面GP近傍における結合剤の分子鎖が切断される。結合剤の分子鎖が切断されると、図2に示す如く、結合剤Bが後退して結合剤B内に気孔Hが生じ、結合剤Bによる砥粒Aの被覆率が低下する。この被覆率の低下は、研削面GPにおいて露出している砥粒Aに関しては、その突き出し量が増加することを意味し、研削面GPより内側に埋没している砥粒Aに関しては、結合剤Bによる保持強度が低下することを意味する。これにより、レジノイド砥石Gの研削面GP近傍の研削性が調整される。
【0032】
また、レジノイド砥石の研削性調整装置1によれば、光学素子4によって紫外線Pが平行光になっている。そのため、研削面GPと紫外線照射装置2との距離(照射距離)が砥石Gの回転ぶれによってばらつく場合でも、研削面GPに対して均等に紫外線Pを照射することができる。その結果、研削性の調整を研削面GPに関して均等に行なうことができる。
【0033】
また、上述したように、紫外線Pが照射された部分の結合剤Bは分子鎖が切断されて分子量が低下する。それゆえ、紫外線Pが照射された部分によって吸収される光の波長が変化し、紫外線Pの研削面GPからの反射光の波長が変化する。レジノイド砥石の研削性調整装置1によれば、この反射光の波長がモニタリング装置7によってモニタリングされるため、当該波長の変化に基づいて紫外線Pによる作用の進行具合を把握しながら、紫外線Pの照射を停止することができる。
【0034】
また、レジノイド砥石の研削性調整装置1によれば、照射時間が10分以内でかつ照射エネルギーが1kW・h/m〜100kW・h/mとなる紫外線Pをレジノイド砥石Gの研削面GPに対して照射するだけであるため、レジノイド砥石Gは研削機上に取り付けられたままでもよい。
【0035】
また、レジノイド砥石の研削性調整装置1は、制御装置6を操作することにより、紫外線Pの波長、照射エネルギー(照射強度、照射時間)を適宜選択することができる。これにより、一般に市販されている全てのレジノイド砥石の研削面近傍の研削性を調整することができる。
【0036】
また、レジノイド砥石の研削性調整装置1によれば、レジノイド砥石Gの研削面GPだけでなく、研削面GP近傍(研削面から所定深さまで)の研削性が調整されるため、調整によって得られた研削性がすぐに失われるということがない。また、研削性が調整される深さが、紫外線Pの照射エネルギー(照射強度、照射時間)を調整することで適宜調節され得るため、調整によって得られた研削性の持続性を適宜調整することができる。
【0037】
また、レジノイド砥石の研削性調整装置1によれば、レジノイド砥石G全体の研削性ではなく、研削面GP近傍の研削性のみを調整することができる。これは、研削性が調整された部分が磨耗等により消失されれば、また元の研削性が復活することを意味する。それゆえ、1つのレジノイド砥石で複数種のワークを研削することが可能になる。
【0038】
[実施例]
以下、図面を参照しつつ実施例を説明することにより、本発明をさらに具体的に説明する。
【0039】
まず、図3に示す如く、紫外線発生装置2aと、紫外線発生装置2aによって生成された紫外線を導く光ファイバ2bとからなる紫外線照射装置2を、研削機10に取り付けられたレジノイド砥石Gの斜め下方に配置した。レジノイド砥石Gとしては、市販の「GC#600J11B80W(205.0×19.0×50.80)」を用いた。
【0040】
次いで、レジノイド砥石Gを3000rpmで回転させ、回転する砥石Gの研削面GPに対して紫外線Pを1000秒(単位面積当たり約12.5秒)照射することにより、照射エネルギーが22.3kW・h/mとなる紫外線Pを照射した。このとき、紫外線Pのビーム径は8mmであり、光ファイバ2bの照射口21と研削面GPとの距離は1mmとした。
【0041】
その後、照射箇所が重ならないように紫外線照射装置2を移動させ、同様に紫外線照射を行い、研削面GP全面の処理を行った。
【0042】
次に、上記実施例によって得られたレジノイド砥石Gの種々の特性を確認すべく、以下に示す試験1〜4を行なった。
【0043】
[試験1]
まず、実施例にかかるレジノイド砥石Gの研削面GPについて調査した。紫外線照射前後の研削面GPの拡大写真を図4に示す。また、紫外線照射前後の研削面GPのSEM写真を図5に示す。また、紫外線照射前後の研削面GPをレーザー顕微鏡で解析した結果を図6に示す。
【0044】
紫外線Pを照射している間、研削面GPを観察していると、照射開始後約100秒で研削面GPが変色し始めた。また、図4〜図6より、砥粒の突き出し量が顕著に増加していることがわかる。つまり、照射時間が10分以内でかつ照射エネルギーが22.3kW・h/mの紫外線Pを研削面GPに照射することにより、研削面GPの結合剤が後退して砥粒の被覆率が低下し、研削面GPにおいて露出している砥粒の突き出し量が増加することが確認された。
【0045】
[試験2]
次に、紫外線Pを照射しなかったレジノイド砥石(未処理の砥石)と、実施例にかかるレジノイド砥石G(紫外線処理した砥石)と、200℃のマッフル炉中に1時間保持して焼成処理したレジノイド砥石(焼成処理した砥石)の3種類を、平面研削盤の主軸に取り付け、表1に示される加工条件でステンレス鋼のプランジ研削を行った。砥石は、クロス送りはせず縦送りのみにし(図7参照)、折り返し点で1μmの切り込みを与え、工作物の同一箇所をアップ、ダウンカットを繰り返しながら加工した(図8参照)。そして、このとき得られた、切込み量と背分力の関係を図9に示した。
【表1】

【0046】
図9より、未処理の砥石の場合には、パス回数が増加するにつれて研削抵抗が急激に上昇した後下がり、一定の値を示した。これに対して、紫外線処理および焼成処理をした砥石の場合には、常に一定の研削抵抗を示した。つまり、照射時間が10分以内でかつ照射エネルギーが22.3kW・h/mの紫外線Pを研削面GPに照射することにより、研削抵抗特性が調整されることが確認された。
【0047】
[試験3]
次に、[試験2]と同様に、未処理の砥石、紫外線処理した砥石、焼成処理した砥石の3種類を準備し、これらを平面研削盤の主軸に取り付け、表2に示される加工条件でプランジ研削を行った。砥石は折り返し点で1μmの切り込みを与え、ワークの同一箇所をアップ、ダウンカットを繰り返しながら合計1000μmの加工を行った。ここで、砥石の摩耗量は、かつぎ量やワークおよび砥石の熱膨張などの誤差を無視し、砥石移動量からワークの研削量を差し引いて計算した(図10参照)。そして、このとき得られた各砥石に関する研削比と表面粗さを図11に示した。
【表2】

【0048】
図11より、表面粗さは未処理の砥石、紫外線処理した砥石、焼成処理した砥石の順に大きくなっていることがわかる。また、図11より、SUS304をワークに用いた場合の研削比は未処理の砥石と紫外線処理した砥石とであまり変化がないが、A1050をワークに用いた場合の研削比は未処理と比べて紫外線処理した砥石ではかなり下がっていることがわかる。つまり、照射時間が10分以内でかつ照射エネルギーが22.3kW・h/mの紫外線Pを研削面GPに照射することにより、ワークの表面粗さおよび研削比が調整されることが確認された。
【0049】
[試験4]
次に、[試験2]と同様に、未処理の砥石、紫外線処理した砥石、焼成処理した砥石の3種類を準備し、各砥石研削面を徐々にドレスした後、それらの砥石を用いて研削を行った。そして、ドレス量と、最大切込み量が15μmになった時の最大研削抵抗値(背分力)との関係を図12に示した。また、紫外線の照射時間が500秒(照射エネルギー11.2kW・h/m)、200秒(照射エネルギー4.5kW・h/m)の砥石を準備し、それらの砥石をそのまま(ドレッシングせずに)用いて研削を行なった。そして、同様に、最大切り込み量が15μmになったときの最大研削抵抗値(背分力)を図12にプロットした。
【0050】
図12より、ドレス量が200μmになると、未処理の砥石の状態に復帰していることがわかる。また、図12から推定すると、紫外線照射時間500秒の場合影響深さ約100μm、200秒の場合影響深さ約50μmと推定される。つまり、照射エネルギーが22.3kW・h/mの紫外線Pを研削面GPに照射することにより、研削面GPから所定深さまでの研削性が調整されるとともに、その研削性が調整された部分が磨耗等により消失されれば、また元の研削性が復活することが確認された。さらに、紫外線の照射エネルギーを変更することにより、研削性が調整される深さを適宜変化させ得ることが確認された。
【0051】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は次のように変形して実施することができる。
【0052】
レジノイド砥石の研削性調整装置1では、紫外線照射装置2から照射した紫外線Pを平行光にする光学素子4が設けられているが、本発明にかかる研削性調整方法を実施するにあたっては、光学素子4が無くてもよい。また、モニタリング装置7についても、本発明にかかる研削性調整方法を実施するにあたっては、無くてもよい。
【0053】
実施例においては、照射エネルギーが22.3kW・h/mの紫外線を用いたがこれに限定されない。例えば、照射エネルギーは1kW・h/m〜100kW・h/mの範囲であればよい。照射エネルギーが1kW・h/mを下回ると、照射強度が低すぎて砥粒被覆率を低下させるという作用が生じない。反対に、照射エネルギーが100kW・h/mを超えると、照射エネルギーが強すぎて結合剤が昇華してしまう。
【0054】
また、紫外線の波長は、短すぎると照射エネルギーを上げにくいため、100nm〜400nmの範囲が好適である。
【0055】
また、照射する光は紫外線に限定されず、赤外線や可視光線であってもよい。赤外線を照射した場合、赤外線照射を受けた部分の結合剤の重合が促進されることによって当該部分の結合剤が後退し、それによって砥粒の被覆率が減少し、紫外線照射と同様の効果が生じる。
【0056】
[試験5]
ここで、結合剤の重合を促進させて砥粒の被覆率を減少させ得ることを確認するために、赤外線照射と同等と考えられる熱風吹付け処理を行なったときの試験結果について説明する。
熱風吹付け処理は、スポットヒータ(株式会社ハイベック社製SHI−1CHT)によって約500℃の熱風を、市販のレジノイド砥石「GC#600J11B80W(205.0×19.0×50.80)」の研削面に対して吹き付けることによって行なった。このとき、スポットヒータの熱風吹出し口を砥石の研削面から約5mm離すとともに、砥石を15rpmでゆっくりと回転させて、40分間熱風吹付けを行なった。そして、[試験2]と同様に、未処理の砥石、紫外線処理した砥石、焼成処理した砥石および上記熱風吹付け処理を行なった砥石の4種類を、平面研削盤の主軸に取り付け、表3に示される加工条件でステンレス鋼のプランジ研削を行った。プランジ研削は、[試験2]と同様に行なった。そして、このとき得られた、切込み量と研削抵抗背分力の関係を図13に示し、研削抵抗主成分と背分力との比(以下、分力比と称する)を図14に示した。
【表3】

【0057】
図13からわかるように、熱風吹付け処理を行なった砥石の場合、紫外線処理および焼成処理をした砥石の場合と同様に、常に一定の研削抵抗を示した。また、特に、熱風吹付け処理を行なった砥石の研削抵抗が低くなった。つまり、研削面GPをスポット的に加熱することにより、研削抵抗特性が調整されることが確認された。
また、図14より、未処理の砥石の場合は分力比が大きく、加工時の摩擦が増大していることがわかる。これに対し、紫外線処理をした砥石、焼成処理をした砥石、熱風吹付け処理を行なった砥石の順に、分力比は小さな値となった。これは、研削面GPを加熱すると、結合剤の重合が促進されることにより結合剤が後退して砥粒被覆率が減少するだけでなく、結合剤の結合度が上昇して硬く脆くなったためと考えられる。
【0058】
紫外線を照射した場合は、照射部分の結合剤の分子鎖が切断されるため、砥粒被覆率が減少するとともに結合度が低下するという作用が生じる。これに対し、赤外線を照射した場合は、上述したように、照射部分の結合剤の重合が促進されるため、砥粒被覆率が減少するとともに結合度が上昇するという作用が生じる。つまり、両者共に砥粒被覆率を減少させる作用を有する一方、紫外線を照射した場合は照射された部分が軟らかくなり、赤外線を照射した場合は照射された部分が硬くなる。それゆえ、軟らかいワークを研削する砥石の研削性を調整する場合には紫外線を選択し、硬いワークを研削する砥石の研削性を調整する場合には赤外線を選択するといったように、ワークの硬さに応じて、紫外線または赤外線を適宜選択することができる。
【0059】
また、紫外線照射は親水化処理であり、赤外線照射は疎水化処理であるため、疎水性の砥粒を用いた砥石に対しては紫外線照射の方が効果が大きく、親水性の砥粒を用いた砥石に対しては赤外線照射の方が効果が大きい。つまり、研削性調整対象の砥石に用いられている砥粒が疎水性であるか親水性であるかに応じて、紫外線または赤外線を適宜選択することもできる。
【0060】
紫外線または赤外線を適宜選択したい場合、図15に示す如く、紫外線照射装置2と赤外線照射装置3を併設し、いずれか一方を選択して使用可能なレジノイド砥石の研削性調整装置11を構成すれば好適である。なお、この場合、赤外線照射装置3に対し、赤外線照射装置3から照射された赤外線Rを平行光にする光学素子4と、赤外線Rの研削面GPからの反射光R1の波長をモニタリングするモニタリング装置7と、反射光R1をモニタリング装置7に向かわせるプリズム71とが設けられる。
【0061】
また、実施例においては、レジノイド砥石「GC#600J11B80W(205.0×19.0×50.80)」を用いたが、これに限定されるものではなく、全てのレジノイド砥石の研削性調整を調整することができる。また、実施例においては、レジノイド砥石の研削面全面に対して研削性調整を施したが、研削面に対して部分的に研削性調整を施すこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明にかかるレジノイド砥石の研削性調整装置の一例を示す図である。
【図2】図1の研削性調整装置による作用を説明するための図である。
【図3】実施例における研削性調整装置を示す図である。
【図4】紫外線照射前後の砥石研削面の拡大写真である。
【図5】紫外線照射前後の砥石研削面のSEM写真である。
【図6】紫外線照射前後の砥石研削面をレーザー顕微鏡で解析した結果を示す図である。
【図7】試験2における研削内容を説明するための図である。
【図8】試験2における研削内容を説明するための図である。
【図9】試験2において得られた切込み量と背分力の関係を示す図である。
【図10】試験3における磨耗量測定方法を説明するための図である。
【図11】試験3において得られた研削比と表面粗さを示す図である。
【図12】試験4において得られたドレス量と最大切込み量が15μmになった時の最大研削抵抗値との関係を示す図である。
【図13】試験5において得られた切込み量と研削抵抗背分力の関係を示す図である。
【図14】試験5において得られた分力比を示す図である。
【図15】変形例にかかるレジノイド砥石の研削性調整装置を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
G レジノイド砥石
GP 研削面
P 紫外線
P1 紫外線の反射光
1 レジノイド砥石の研削性調整装置
2 紫外線照射装置
21 照射口
4 光学素子
6 制御装置
7 モニタリング装置
71 プリズム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射時間が10分以内でかつ照射エネルギーが1kW・h/m〜100kW・h/mとなる光をレジノイド砥石の研削面に対して照射し、当該研削面近傍における結合剤による砥粒の被覆率を減少させることで研削性を調整することを特徴とするレジノイド砥石の研削性調整方法。
【請求項2】
前記光として波長が100nm〜400nmの紫外線を用い、前記研削面近傍における結合剤の分子鎖を切断することによって、前記被覆率を減少させるとともに、前記研削面近傍における結合剤の結合度を低下させることを特徴とする請求項1に記載のレジノイド砥石の研削性調整方法。
【請求項3】
前記光として波長が0.7μm〜1mmの赤外線を用い、前記研削面近傍における結合剤の重合を促進させることによって、前記被覆率を減少させるとともに、前記研削面近傍における結合剤の結合度を上昇させることを特徴とする請求項1に記載のレジノイド砥石の研削性調整方法。
【請求項4】
レジノイド砥石の研削面に対して、照射時間が10分以内でかつ照射エネルギーが1kW・h/m〜100kW・h/mとなる光を照射し得る光照射装置と、
前記光照射装置の照射口前方に配置され、前記光照射装置から照射された光を平行光にする光学素子と、
前記光照射装置を駆動制御する制御装置と、を含んでなることを特徴とするレジノイド砥石の研削性調整装置。
【請求項5】
前記光照射装置は、照射時間が10分以内でかつ照射エネルギーが1kW・h/m〜100kW・h/mとなる紫外線を照射し得る紫外線照射装置と、照射時間が10分以内でかつ照射エネルギーが1kW・h/m〜100kW・h/mとなる赤外線を照射し得る赤外線照射装置とからなり、
前記光学素子は、前記紫外線照射装置の照射口前方に配置された紫外線用光学素子と、前記赤外線照射装置の照射口前方に配置された赤外線用光学素子とからなり、
前記制御装置は、前記紫外線照射装置および前記赤外線照射装置のいずれか一方を駆動制御するようになっていることを特徴とする請求項4に記載のレジノイド砥石の研削性調整装置。
【請求項6】
前記光照射装置が照射した光の前記研削面からの反射光を受けて、当該反射光の波長をモニタリングするモニタリング装置をさらに含んでおり、
前記制御装置は、前記モニタリング装置によってモニタリングされた前記反射光の波長に応じて、前記光照射装置を駆動制御するようになっていることを特徴とする請求項4または5に記載のレジノイド砥石の研削性調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−52085(P2010−52085A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218909(P2008−218909)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月3日 社団法人精密工学会発行の「2008年度精密工学会春季大会 学術講演会 講演論文集」に発表
【出願人】(598031268)株式会社クリスタル光学 (11)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】