説明

レダクターゼへの3−アミノチロシンの遺伝的組込み

本発明はNHY非天然アミノ酸残基を組込んだレダクターゼ蛋白質と、NHYをレダクターゼに組込むための直交成分システムと、レダクターゼ機能、構造及び活性を調査するための分子プローブとしてNHYアミノ酸残基をレダクターゼで使用する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願とのクロスリファレンス)
本願は米国予備特許出願第61/000,491号(出願日2007年10月25日)及び予備特許出願第61/001,265号(出願日2007年10月30日)の優先権と特典を主張し、その開示内容全体を全目的で本願に援用する。
【0002】
(支援研究開発)
本発明は国立衛生研究所助成番号5R01 GM62159及びGM29595として米国政府助成下に創出された。米国政府は本発明に所定の権利をもつ。
【0003】
(発明の技術分野)
本発明は蛋白質化学、例えば翻訳生化学及び突然変異分析の分野に関する。本発明は3−アミノチロシン残基を組込んだレダクターゼ酵素を作製し、レダクターゼにおける選択されたアミノ酸残基の機能を判定するための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0004】
全生物において、リボヌクレオチドレダクターゼ(RNR)はヌクレオチドから2’−デオキシヌクレオチドへの変換を触媒し、DNA生合成及び修復で使用される前駆体を提供する1−3。ヌクレオチド還元のメカニズムは全RNRで保存されており、過渡的活性部位チイルラジカル(C439・,本明細書の随所で使用する大腸菌RNRナンバリング)の形成を必要とする4,5。しかし、ラジカル開始イベントである活性部位チイルラジカル生成のメカニズムは保存されておらず、RNRの4クラスの分類の基準となる6−9。主要な未解決のメカニズムの問題はクラスI RNRと、恐らく最近同定されたクラスIV RNRにおけるチイルラジカル形成のメカニズムの問題である。
【0005】
大腸菌クラスI RNRは代謝回転中に活性な1:1複合体を形成する2つのホモダイマーサブユニットα2及びβ2から構成される10−12。α2は複合体の実働部分である。このサブユニットはチイルラジカルに介在されるヌクレオチド還元が生じる活性部位と、基質特異性と代謝回転率を調節する複数のアロステリックエフェクター結合部位を含む13。β2はα2の活性部位で過渡的C439・の形成に必要な安定な二核鉄(III)チロシルラジカル(Y122・)14−16補因子を含む4−6。α26,17とβ218,19の構造は解明されており、両方のサブユニットを含む構造も報告されている20。しかし、活性なα2β2複合体の構造は謎のままである。α2とβ2の個々の構造から、UhlinとEklundは形状及び電荷の相補性と残基保存に基づいてα2β2複合体のドッキングモデルを作製した。このモデルによると、β2のY122・はα2のC439から>35Åの位置にあるらしい(図1)21−23。この長距離にわたるラジカル成長には過渡的アミノ酸中間体の関与が必要である24−26。この経路に関与していると提唱されている残基は全クラスのI RNRで広く保存されている。
【0006】
パルス電子−電子二重共鳴分光測定27とメカニズムベースの阻害剤28−32からY122・とC439間の長距離を裏付ける証拠が最近得られている。この試験から得られた距離はドッキングモデルと一致し、β2のY122・がα2のC439の近くになるような大きな立体配座変化は生じないことを証明している32
【0007】
提唱された経路の有効性を試験するために、部位特異的突然変異誘発33,34と相補試験35が実施されている。これらの試験は図1の各残基がRNR機能に重要な役割を果たすことを立証している。しかし、これらの突然変異体には活性がないため、機構調査は不可能である33,34。現時点では、提唱されている経路残基のうちのただ1個であるY356が関与していることは例えば本明細書の他の箇所に詳述する多くの証拠により証明されている。他方、ラジカル成長におけるα2残基Y730及びY731の役割はまだはっきりしていない。突然変異誘発試験はRNR機能におけるそれらの重要性を立証している34,44,45。しかし、β2の残基Y356と同様に、これらの突然変異体(Y730F−α2及びY731F−α2)は不活性であるため、ラジカル成長におけるY730及びY731の役割の機構調査は不可能であった。
【0008】
非天然アミノ酸残基を組込んだレダクターゼ酵素でラジカル成長に関与すると提唱されているアミノ酸残基の部位特異的置換方法及び組成物として、機構情報を提供する突然変異体、例えばラジカル成長における置換アミノ酸の機能を例えばレダクターゼ酵素で調査するために使用可能な突然変異体を作製する方法及び組成物が当分野で必要とされている。本発明はRNR反応メカニズムを解明するための新規ツール及び方法を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は3−アミノチロシン(NHY)残基を組込んだ組換えレダクターゼ酵素と、このようなレダクターゼ酵素を作製するための直交成分システムに関する。これらのツールを使用し、大腸菌RNRでRNRのβ2サブユニットのY122・からサブユニット界面を通って反応速度的にコンピテントなラジカル移動が生じることと、NH730・又はNH731・のラジカルトラップが生じることを実証した。このイベントは基質とエフェクターが大腸菌RNRと結合することにより開始することが判明した。定常状態活性アッセイに自殺型阻害剤であるNADPとの反応結果を加味すると、Y730NHY−α2とY731NHY−α2はヌクレオチド還元でコンピテントであると考えられる。従って、NH730によるC439の酸化には水素原子移動メカニズムが関係していると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、第1の側面において、本発明は3−アミノチロシン(NHY)残基を組込んだ組換えレダクターゼ酵素を提供する。好ましい1態様において、本発明のレダクターゼはクラスI又はクラスIVリボヌクレオチドレダクターゼ等のリボヌクレオチドレダクターゼに由来する。例えば、レダクターゼは大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼ、ヒトリボヌクレオチドレダクターゼ、マウスリボヌクレオチドレダクターゼ、酵母リボヌクレオチドレダクターゼ、単純ヘルペスウイルスリボヌクレオチドレダクターゼ等に由来する組換えレダクターゼとすることができる。例えば、レダクターゼは大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼのα2サブユニットのY730、大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼのα2サブユニットのY731、大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼのβ2サブユニットのY122、又は大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼのβ2サブユニットのY356の1個以上にNHY突然変異を含む大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼとすることができる。
【0011】
1関連側面において、本発明は本発明のレダクターゼを発現する細胞を提供する。本発明の細胞はレダクターゼ酵素の1本以上のポリペプチド鎖をコードするレダクターゼ核酸に由来する組換え核酸と、直交tRNA(O−tRNA)と、直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)を含む。場合により、細胞は3−アミノチロシンを含むことができる。細胞中の直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)はO−tRNAを細胞中の3−アミノチロシンで優先的にアミノアシル化し、レダクターゼをコードする組換え核酸は直交tRNA(O−tRNA)により認識されるセレクターコドンを含む。コードされるレダクターゼは場合によりクラスIもしくはクラスIVリボヌクレオチドレダクターゼ(RNR)及び/又は大腸菌に由来するRNRを含むことができる。
【0012】
更に、本発明はNHY残基を組込んだ高収率のレダクターゼを提供する。例えば、3−アミノチロシン(NHY)残基を組込んだ組換えレダクターゼ酵素、例えば組換えリボヌクレオチドレダクターゼを含む細胞ペースト又は抽出液を作製することができる。細胞ペースト又は抽出液は少なくとも約2及び約4mg/gのレダクターゼ酵素を含有する。本発明の1例において、細胞ペーストは約4〜約6mg/gのレダクターゼ酵素を含有する。
【0013】
別の側面において、本発明はレダクターゼにおける選択されたアミノ酸残基の機構的機能の判定方法を包含する。このような方法は選択されたアミノ酸残基を3−アミノチロシン(NHY)に突然変異させ、選択されたアミノ酸(例えばY残基)に対応する位置にNHYを組込んだ組換え突然変異体レダクターゼを作製する段階と、組換えレダクターゼをレダクターゼの1種以上の基質又はエフェクターと混合する段階と、NHY・の形成を検出する段階を含む。例えば、レダクターゼがRNRである場合には、基質は場合によりCDP、ADP、GDP又はUDPを含むことができ、エフェクターはATPを含むことができる。前記混合の前に場合によりレダクターゼを還元(又は用途によっては酸化)することができる。組換えレダクターゼを還元する段階は場合により、組換えレダクターゼを発現する細胞、細胞ペースト又は細胞培養物から組換えレダクターゼを精製する段階と、得られた精製レダクターゼを還元剤と共にインキュベートする段階を含むことができる。
【0014】
NHYの形成を検出する段階は各種技術のいずれかを使用することができ、レダクターゼにおけるNHY残渣のEPRスペクトルを測定する方法、混合後にストップトフロー分光法を実施してNHY・形成の反応速度を測定する方法、又は混合後に急速凍結クエンチ(RFQ)EPRを実施してNHY・形成の反応速度を測定する方法が挙げられる。
【0015】
当然のことながら、本発明により提供される方法と組成物は単独で使用してもよいし、併用してもよい。
【0016】
キットも本発明の特徴である。例えば、このようなキットはキットコンポーネントを保持するための容器、レダクターゼ酵素(例えば1個以上の3−アミノチロシンを組込んだ本明細書に記載するレダクターゼ酵素のいずれか)を作製(例えば発現及び/又は精製)するための説明書、O−tRNAをコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸、O−RSをコードするポリヌクレオチドを含む核酸、3−アミノチロシン、及び/又はO−tRNA/O−RSの発現と3−アミノチロシンを組込んだレダクターゼ酵素の作製に適した大腸菌宿主細胞株から選択される各種コンポーネントを含むことができる。追加又は代替態様として、本発明のキットは、例えばフリーラジカル成長における選択されたアミノ酸残基の機能をレダクターゼで判定するための説明書及び/又は試薬を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】スキーム1として、NHYの一電子酸化と推定ラジカル開始経路を示す。
【0018】
【図2】KNHY−Z−ドメインのMALDI−TOF MS及びSDS PAGE分析を示す。
【0019】
【図3】Y731NHY−α2の発現を示す。指定通りにIPTGとNHY/DTTの存在下又は不在下で細胞を増殖させ、発現レベルをPAGEにより評価した。
【0020】
【図4】EPR分光法によりモニターしたY730NHY−α2/ATPとwtβ2/CDPの反応を示すスペクトルトレースである。
【0021】
【図5】Y122・及びNH730・シグナル強度のマイクロ波出力依存性を示すグラフである。
【0022】
【図6】NH730・(点線,図4)とNH731・(破線,図15)の比較。
【0023】
【図7】NH730・(丸)とNH731・(四角)のUV−visスペクトルのポイントバイポイント再構成。
【0024】
【図8】NH730・形成のストップトフローによる反応速度測定を示すグラフである。
【0025】
【図9】Y730NHY−α2,β2とdGTPの存在下でインキュベーション後のNADPからのN・の形成を示す二重スペクトルである。
【0026】
【図10】N・(黒)、Y122・(点線)及びNH730・(破線)のスペクトル比較。
【0027】
【図11】NH730・によるC439の酸化機構候補を示す。
【0028】
【図12】大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼのα2サブユニットのアミノ酸Y730及びY731の機構的役割を判定するために使用したストラテジーの模式図である。
【0029】
【図13】Y730NHY−α2の発現。指定通りにIPTGとNHY/DTTの存在下又は不在下に25℃又は37℃で細胞を増殖させ、発現レベルをSDS PAGEにより評価した。全長型α及び短縮型αの蛋白質バンドの位置を矢印で示す。
【0030】
【図14】精製Y730NHY−α2(A)及びY731NHY−β2(B)のSDS PAGE分析を示す。
【0031】
【図15】EPRによりモニターしたY731NHY−α2/ATPとwtβ2/CDPの反応の結果を示す。
【0032】
【図16】NH731・形成のストップトフローによる反応速度測定を示す。
【0033】
【図17】Y731NHY−α2のNADPアッセイの結果を示す。
【0034】
【図18】本発明で利用される各種ヌクレオチド配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は3−アミノチロシン(NHY)残基を組込んだリボヌクレオチドレダクターゼ等のレダクターゼに関する。NHY残基は3−アミノチロシン(NHY)に特異的なアミノアシルtRNAシンテターゼと、O−tRNAと、場合により非天然アミノ酸3−アミノチロシンを含む直交成分システムを使用してレダクターゼに組込むことができる。以下、このような組換えレダクターゼを作製するための方法及び組成物と、高収率のこれらの組換えレダクターゼを含有する組成物について更に詳述する。
【0036】
レダクターゼ(例えば以下に記載するレダクターゼのいずれか1種)に組込むと、NHYはレダクターゼ酵素中においてラジカル成長で置換した天然アミノ酸の機構的役割を分析するためのプローブとして有利に利用することができる(例えば、図1と対応する記載参照)。一般に、これは例えばEPR、急速凍結クエンチEPR、及び/又はストップトフロー分光法により非天然アミノ酸残基中間体NHY・の形成を検出することにより実施することができる。
NHY組込み用直交成分システム
【0037】
例えばNHYの組込み用直交成分は従来記載されている。WO2006/110182A2(発明者Schultzら)「非天然アミノ酸のインビボ組込み用直交翻訳成分(ORTHOGONAL TRANSLATION COMPONENTS FOR THE VIVO INCORPORATION OF UNNATURAL AMINO ACIDS)」参照。一般に、既存シンテターゼの活性部位をランダム又は選択的に突然変異させ、得られた突然変異体シンテターゼライブラリーを選択し、所望のNHY組込み活性についてスクリーニングすることにより、所望のNHY特異性をもつシンテターゼを作製することができる。通例では、NHY組込みについてライブラリーをポジティブスクリーニングした後にネガティブスクリーニングし、tRNAを天然アミノ酸でアミノアシル化するメンバーを除外する。シンテターゼ(例えばNHYに対して特異性をもつシンテターゼ)を得るためにポジティブ選択とネガティブ選択のサイクルを繰返し実施することができる。コグネイトO−tRNAをNHYでアミノアシル化するシンテターゼを同定するためのO−RSのスクリーニングと選択に関する更に詳細については下記実施例に記載する。
【0038】
本発明のレダクターゼ酵素は場合によりNHY非天然アミノ酸以外に他の非天然アミノ酸を含む。一般に、直交成分システムを使用すると、例えば所望のセレクターコドンを対応する核酸に付加することにより、蛋白質の例えば1、2、3、4、5個、又はそれ以上の選択部位に例えば1、2、3、4、5種、又はそれ以上の異なる非天然アミノ酸を導入することが可能である。各々異なる所定のセレクターコドンを認識する例えば1、2、3、4、5組又はそれ以上の異なるコグネイト直交成分を細胞1個に含むことができる(終止コドンと4塩基以上のコドンをセレクターコドンとして使用することができる)。
【0039】
tRNA及び/又はO−RS、非天然アミノ酸、セレクターコドン、並びに1個以上の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質の作製に適した直交翻訳系を作製及び/又はその特異性を改変するための方法に関する詳細は一般に例えば国際公開番号WO2002/086075、発明の名称「直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製するための方法及び組成物(METHODS AND COMPOSITION FOR THE PRODUCTION OF ORTHOGONAL tRNA−AMINOACYL−tRNA SYNTHETASE PAIRS)」;WO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(IN VIVO INCORPORATION OF UNNATURAL AMINO ACIDS)」;WO2004/094593、発明の名称「真核遺伝コードの拡張(EXPANDING THE EUKARYOTIC GENETIC CODE)」;WO2005/019415(出願日2004年7月7日);WO2005/007870(出願日2004年7月7日);及びWO2005/007624(出願日2004年7月7日)に記載されている。これらの各出願の開示内容全体を本願に援用する。各々その開示内容全体を本願に援用するWang and Schultz“Expanding the Genetic Code,”Angewandte Chemie Int.Ed.,44(1):34−66(2005);Deiters et al,Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 15:1521−1524(2005);Chin et al.,J.Am.Chem.Soc.2002,124,9026−9027;及び国際公開WO2006/034332(出願日2005年9月20日)も参照。その他の詳細は米国特許第7,045,337号、第7,083,970号、第7,238,510号、第7,129,333号、第7,262,040号、第7,183,082号、第7,199,222号、及び第7,217,809号に記載されている。
【0040】
レダクターゼ
レダクターゼは還元反応を触媒する酵素である。しかし、大半のレダクターゼは適正な条件下ではレダクターゼとしてもオキシダーゼとして挙動することができる。従って、いずれも例えば1個以上のNHY残基を組込むように本発明に従って改変することができるこの広義の酵素ファミリーを表すためにオキシドレダクターゼなる用語も使用する。一般に、これはレダクターゼをコードする核酸に適切なセレクターコドンを組込み、NHYに特異的な適切なO−RSと、セレクターコドンを認識するコグネイトO−tRNAと、NHYを含む細胞でレダクターゼを発現させることにより実施される。
【0041】
NHY残基を組込むようにこうして改変することができるレダクターゼ酵素の例としては、酵素番号(Enzyme Commission number:EC番号)「EC1」で表されるものが挙げられる。この例としては、EC1.1(供与体のCH−OH基に作用するオキシドレダクターゼ(例えばアルコールオキシドレダクターゼ));EC1.2(供与体のアルデヒド又はオキソ基に作用するオキシドレダクターゼ);供与体のCH−CH基に作用するEC1.3オキシドレダクターゼ(例えばCH−CHオキシドレダクターゼ);EC1.4(供与体のCH−NH2基に作用するオキシドレダクターゼ(アミノ酸オキシドレダクターゼ,モノアミンオキシダーゼ));EC1.5(供与体のCH−NH基に作用するオキシドレダクターゼ);EC1.6(NADH又はNADPHに作用するオキシドレダクターゼ);EC1.7(供与体としての他の窒素化合物に作用するオキシドレダクターゼ)EC1.8(供与体の硫黄基に作用するオキシドレダクターゼ);EC1.9(供与体のヘム基に作用するオキシドレダクターゼ);EC1.10(供与体としてのジフェノール及び関連物質に作用するオキシドレダクターゼ);EC1.11(受容体としての過酸化物に作用するオキシドレダクターゼ(例えばペルオキシダーゼ));EC1.12(供与体としての水素に作用するオキシドレダクターゼ);EC1.13(分子状酸素の取込みにより単一供与体に作用するオキシドレダクターゼ(例えばオキシゲナーゼ));EC1.14(分子状酸素の取込みにより供与体対に作用するオキシドレダクターゼ);EC1.15(受容体としてのスーパーオキシドラジカルに作用するオキシドレダクターゼ);EC1.16(金属イオンを酸化するオキシドレダクターゼ);EC1.17(CH又はCH2基に作用するオキシドレダクターゼ);EC1.18(供与体としての鉄−硫黄蛋白質に作用するオキシドレダクターゼ);EC1.19(供与体としての還元型フラボドキシンに作用するオキシドレダクターゼ);EC1.20(供与体中のリン又はヒ素に作用するオキシドレダクターゼ);EC1.21(X−HとY−Hに作用してX−Y結合を形成するオキシドレダクターゼ);EC1.97(他のオキシドレダクターゼ);EC1.98(Hを還元剤として使用する酵素);及びEC1.99(Oを酸化剤として使用する酵素)が挙げられる。
【0042】
本発明の特に好ましい1態様はEC1.17のレダクターゼ(CH又はCH2基に作用するレダクターゼ)へのNHYの組込みに関し、このようなレダクターゼとしてはキサンチンオキシダーゼと、特にリボヌクレオチドレダクターゼ(RNR)が挙げられる。リボヌクレオチドレダクターゼ(RNR)は全生物でリボヌクレオチド(例えばCDP、ADP、GDP、及びUDP)からデオキシリボヌクレオチドへの還元を触媒することができる。RNRは細胞内dNTP濃度の相対比を維持するので、これらの酵素は核酸代謝、DNA修復、ゲノム維持、及び細胞増殖に中心的な役割を果たす(Sjoberg(1997)“Ribonucleotide reductases−a group of enzymes with different metallosites and a similar reaction mechanism.”Struct Bonding(Berlin)88:139−173;Reichard(1993)“From RNA to DNA,why so many reductases?”Science 260:1773−1777)。(dTDPはチミジル酸シンターゼにより産生される)。RNRがNDPを還元するメカニズムは複雑で高度に制御されたラジカル依存性酸化還元反応を伴う(Stubbe(1990)“Ribonucleotide reductases:amazing and confusing.”J Biol Chem 265:5329−5332;Jordan,et al.(1998)“Ribonucleotide reductases.”Annu Rev Biochem 67:71−98)。一般に、ヘルペスウイルスに由来するもの以外のRNRは個々のゲノムの塩基組成に応じてバランスのとれたプールとしてDNA前駆体を供給するようにデオキシリボヌクレオシド三リン酸とATPによりアロステリック調節される(Hendricks,et al.(1997)“Regulation of T4 phage aerobic ribonucleotide reductase.Simultaneous assay of the four activities.”J Biol Chem 272:2861−2865;Hendricks,et al.(1998)“Allosteric regulation of vaccinia virus ribonucleotide reductase,analyzed by simultaneous monitoring of its four activities.”J Biol Chem 273:29512−29518)。RNR活性の制御に加え、アロステリックメカニズムは基質特異性も制御する(Jordan,et al.(1998)“Ribonucleotide reductases.”Annu Rev Biochem 67:71−98)。
【0043】
RNRは構造的に多様であり、それらが必要とする金属補因子(例えば電子供与体)も同様に構造的及び化学的に多様である。実際には、RNRはその金属補因子に基づいて4分類することができる。クラスI rRNRは二核鉄(III)中心によるOの活性化により安定なチロシルラジカルを蛋白質上に生成する。クラスIレダクターゼは更に酵素調節の相違によりクラスIAとクラスIBに分けられる。クラスIAレダクターゼは真核生物、真正細菌、バクテリオファージ及びウイルスに分布している。クラスIBレダクターゼは真正細菌に存在し、マンガンを使用してラジカルを生成することができる。クラスII RNRはOの有無に関係なく機能することができ、アデノシルコバラミン(AdoCbl)中のC−CO結合の開裂により過渡的な5’−デオキシアデノシルラジカルを生成する。クラスIII RNRは一般に嫌気性であり、S−アデノシルメチオニンの開裂により蛋白質上に安定なグリシルラジカルを生成する。クラスIV RNRはチロシルラジカルの近くにマンガン補因子を含むと提唱されている。
【0044】
クラスI RNRは相互に結合して活性なヘテロダイマーテトラマーを形成することができるRNR1サブユニットとRNR2サブユニットを含む。クラスI RNRの一般的な機構モデルは、1)サブユニットR2の二核鉄中心によるチロシルラジカルの生成と;2)サブユニットR1に結合した基質付近に提唱されたチイルラジカルを生成するラジカル移動と;3)結合したリボヌクレオチドの触媒還元の3段階を含む。アミノ酸又は基質に由来するラジカルが主要な全3段階に関与している。本発明の好ましい態様では、例えばラジカル成長における各天然チロシン残基の機構的機能を解明するためにクラスI RNRのチロシン残基を非天然アミノ酸NHYで有利に置換することができる。本発明により提供される方法を使用して例えば大腸菌クラスI RNRにおいて置換することができるチロシン残基としては、β2サブユニットのY730、Y731、Y122、及び/又はY356に1個以上にNHY突然変異を含むリボヌクレオチドレダクターゼが挙げられる。
【0045】
リボヌクレオチドレダクターゼの構造、メカニズム、及び/又は調節に関する更に詳細は例えばStubbe & van der Donk(1995)“Ribonucleotide reductases:radical enzymes with suicidal tendencies.”Chem Biol 2:793−801;Torrents et al.(2002)“Ribonucleotide reductases:Divergent Evolution of an Ancient Enzyme”Journal of Molecular Evolution 55:138−152;Norlund,et al.(2006)“Ribonucleotide reductases.”Annu Rev Biochem 75:681−706;Kolberg,et al.(2004)“Structure,function,and mechanism of ribonucleotide reductases.”Biochim Biophys Acta 1699:1−34に記載されている。クラスI RNRにおけるラジカル成長メカニズムの解明に関する更に詳細については下記実施例に説明する。
【0046】
NHY残基を組込んだレダクターゼの発現、精製及び単離
本発明の核酸(例えば、セレクターコドンを含み、例えばレダクターゼ酵素の1本以上のポリペプチド鎖をコードするレダクターゼ核酸に由来する核酸)は標準クローニング法に従って作製することができる。核酸を単離、クローニング及び増幅する手順と、細胞及び無細胞系に核酸構築物を供給して発現させる手順は文献に詳細に記載されており、セレクターコドンを含む核酸を提供し、発現させるため、例えばNHY残基を組込んだレダクターゼ蛋白質、例えばクラスI又はクラスIVリボヌクレオチドレダクターゼを作製するために本発明で使用することができる。組換えレダクターゼ酵素は真核生物(例えばヒト、マウス、酵母等)、原核生物、古細菌及びウイルス(例えば単純ヘルペスウイルス)等の各種起源の任意のものに由来することができる。好ましい態様において、本発明の核酸はα2サブユニットのY730、Y731、Y122、及び/又はY356にNHY突然変異を含む組換え大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼをコードすることができる。あるいは、本発明の核酸は本明細書の他の箇所に記載するように、場合によりクラスI〜IVに含まれる任意リボヌクレオチドレダクターゼ又はEC番号1.1〜1.99で表される任意レダクターゼをコードすることができる。
【0047】
核酸クローニング及び発現技術の更に詳細については、Berger and Kimmel,Guide to Molecular Cloning Techniques,Methods in Enzymology volume 152 Academic Press,Inc.,San Diego,CA(Berger);Sambrook et al.,Molecular Cloning−A Laboratory Manual(3rd Ed.),Vol.1−3,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York,2000(「Sambrook」);The Nucleic Acid Protocols Handbook Ralph Rapley(ed)(2000)Cold Spring Harbor,Humana Press Inc(Rapley);Current Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubel et al.,eds.,Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.,(2007年補遺版)(「Ausubel」);PCR Protocols A Guide to Methods and Applications(Innis et al.eds)Academic Press Inc.San Diego,CA(1990)(Innis);Chen et al.(ed)PCR Cloning Protocols,Second Edition(Methods in Molecular Biology,volume 192)Humana Press;Viljoen et al.(2005)Molecular Diagnostic PCR Handbook Springer;及びDemidov and Broude(eds)(2005)DNA Amplification:Current Technologies and Applications.Horizon Bioscience,Wymondham,UKに記載されている。例えば細胞単離及び培養(例えばその後の核酸単離)に関する他の有用な参考文献としては、Freshney(1994)Culture of Animal Cells,a Manual of Basic Technique,third edition,Wiley−Liss,New Yorkとその引用文献;Payne et al.(1992)Plant Cell and Tissue Culture in Liquid Systems John Wiley & Sons,Inc.New York,NY;Gamborg and Phillips(eds)(1995)Plant Cell,Tissue and Organ Culture;Fundamental Methods Springer Lab Manual,Springer−Verlag(Berlin Heidelberg New York)及びAtlas and Parks(eds)The Handbook of Microbiological Media(1993)CRC Press,Boca Raton,FLが挙げられる。
【0048】
レダクターゼ酵素(例えば大腸菌由来リボヌクレオチドレダクターゼ)におけるアミノ酸(例えばチロシンアミノ酸)の機構的役割を評価するには、該当天然アミノ酸をNHY残基で置換した組換えレダクターゼの精製が必要である。例えば本発明の組換えレダクターゼを発現させた細胞に由来する細胞ペースト又は抽出液から高収率の組換えレダクターゼを得ることができる。細胞ペースト又は抽出液は例えばレダクターゼ約2mg/g、又はより好ましくは組換えレダクターゼ4〜6mg/gを含有することができる。種々の蛋白質精製法が当分野で周知であり、少なくとも1個のNHY残基を組込んだレダクターゼ変異体の精製分析に適用することができる。これらの技術及びポリペプチド分析に必要な他の技術としては、R.Scopes,Protein Purification,Springer−Verlag,N.Y.(1982);Deutscher,Methods in Enzymology Vol.182:Guide to Protein Purification,Academic Press,Inc.N.Y.(1990);Sandana(1997)Bioseparation of Proteins,Academic Press,Inc.;Bollag et al.(1996)Protein Methods,2nd Edition Wiley−Liss,NY;Walker(1996)The Protein Protocols Handbook Humana Press,NJ;Harris and Angal(1990)Protein Purification Applications:A Practical Approach IRL Press at Oxford,Oxford,England;Harris and Angal Protein Purification Methods:A Practical Approach IRL Press at Oxford,Oxford,England;Scopes(1993)Protein Purification:Principles and Practice 3rd Edition Springer Verlag,NY;Janson and Ryden(1998)Protein Purification:Principles,High Resolution Methods and Applications,Second Edition Wiley−VCH,NY;及びWalker(1998)Protein Protocols CD−ROM版 Humana Press,NJ;とその引用文献に記載されているものが挙げられる。
【0049】
大腸菌RNR等のレダクターゼ蛋白質の発現及び単離プロトコールに関する更に詳細については下記実施例に記載する。
【0050】
レダクターゼ酵素におけるNHYの検出方法
下記実施例1は例えばNHY残基組込みを検出するため、及び例えばラジカル形成検出用分子プローブとして、レダクターゼ酵素におけるNHY残基の検出について詳細に記載する。使用可能な2種類の一般的な方法として、EPR分光法と、例えばUV−vis分光法を使用するスペクトル分析が挙げられる。これらの方法は広く利用可能であり、アミノ酸残基、ラジカル及び他の該当部分の検出におけるその使用は当業者に周知である。
【0051】
電子常磁性共鳴法(EPR)は電子スピン共鳴法(ESR)及び電子磁気共鳴法(EMR)とも呼ばれ、フリーラジカルと常磁性中心を検出及び同定するために使用することができる1種の分光法である。EPR分光法は不対電子を強い静磁場Bに置き、Bに垂直な低振幅高周波数磁場Bに暴露した場合のマイクロ波放射の吸収を測定する。非常に不安定なフリーラジカルは多くの場合にEPR特性決定のためにスピントラップにより安定化させることができる。実際に、本願に記載するように、所定のRNRレダクターゼ等の金属蛋白質により生成されたフリーラジカル中間体の検出と分析にはEPRスピントラップを有利に適用することができる。
【0052】
これに関連して、EPRで活性な反応中間体(例えばフリーラジカル)の形成と減衰の反応速度を測定するために急速凍結クエンチ(RFQ)EPRを使用することができる。RFQ EPRでは反応を指定時間進行させた後に急速凍結と低温維持により、例えばRNRにより触媒される反応を停止させる。その後、トラップされた種をEPRにより分析する。この方法は本発明の組換えレダクターゼによる例えばNHYラジカル形成の検出に有益に適用することができる。要約すると、RFQ EPRでは、反応体を迅速に混合し、例えばミリ秒から秒のタイムスケールで所定時間反応を実施する。例えば−140℃に維持した液体イソペンタン中に混合物を急速に噴射することにより反応を停止ないしクエンチする。反応のクエンチ後に形成された結晶をEPR管に充填した後、EPRスペクトルを取得し、モニターするラジカルの反応速度と構造を決定する。
【0053】
EPR技術に関する更に詳細については、Weil and Bolton(2007)Electron Paramagnetic Resonance:Elementary Theory and Practical Applications Second Edition,Wiley;及びGraslund,et al.(1996)“Electron Paramagnetic Resonance and Nuclear Magnetic Resonance Studies of Class I Ribonucleotide Reductase.”Annu Rev Biophys Biomolec Struct 25:259−286に記載されている。核磁気共鳴法(NMR)等の他の共鳴法を使用してレダクターゼ蛋白質中のNHY残基を分析することもできる。NMR技術の一般論については、例えばIntroduction to Solid−State NMR Spectroscopy(2004)Melinda J.Duer(Editor),Wiley参照。
【0054】
例えばRNRに触媒される反応中の例えばフリーラジカル形成及び/又は成長の反応速度に関する速度データを取得するために、ストップトフロー分光法等の他の分光法も使用できる。UV−vis分光法と、レダクターゼ蛋白質におけるNHY残基の機構的役割を分析するため、及び/又はレダクターゼ反応速度をモニターするために使用することができる他の分光技術については、例えばTong,et al.(1998)“Characterization of Y122F R2 of Escherichia coli Ribonucleotide Reductase by Time−Resolved Physical Biochemical Methods and X−ray Crystallography.”Biochem 37:5840−5848;Lassman,et al.(2005)“An advanced EPR stopped−flow apparatus based on a dielectric ring resonator.”J Mag Res 172:312−323;Pavia(1996)Introduction to Spectroscopy:A Guide for Students of Organic Chemistry,Harcourt College Pub;Sorrel(1998)Interpreting Spectra of Organic Molecules University Science Books;及びMohan(2007)Molecular Spectroscopy:An Introduction ISBN:978−81−7319−549−5参照。
【0055】
用語定義に関する他の詳細
「レダクターゼ酵素」とは還元反応を触媒する酵素である。このような酵素は両方向の反応を触媒するので、大半のレダクターゼは適正な条件下ではレダクターゼとしてもオキシダーゼとして挙動することができ、従って、構造的に多様な酵素のこの広義のファミリーを表すためにオキシドレダクターゼなる用語も使用する。本発明で使用することができるレダクターゼ酵素の例としては、酵素番号(EC番号)「EC1」で表されるものが挙げられる。レダクターゼのクラスに関する更に詳細については本明細書の他の箇所に記載する。
【0056】
から誘導:本明細書で使用する「から誘導」なる用語は特定分子もしくは生物から単離された成分、あるいは特定分子もしくは生物又は特定分子もしくは生物からの情報を使用して作製された成分を意味する。例えば、第2のポリペプチドから誘導されるポリペプチドは、例えば第2のポリペプチドへの非天然アミノ酸の組込み以外は、第2のポリペプチドのアミノ酸配列と同一又は実質的に同様のアミノ酸配列を含むことができる。ポリペプチドの場合には、誘導種は例えば突然変異誘発により得ることができる。ポリペプチドを誘導するために使用される突然変異誘発は意図的に特異的でも意図的にランダムでもよいし、各々の混合でもよい。第1のポリペプチドから誘導される別のポリペプチドを作製するためのポリペプチドの突然変異誘発は(例えばポリメラーゼの非忠実性に起因する)ランダムなイベントとすることができ、誘導されたポリペプチドの同定は例えば本明細書に記載するような適当なスクリーニング法により実施することができる。ポリペプチドの突然変異誘発は一般にポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの操作を伴う。
【0057】
ある蛋白質又は核酸配列が別の配列から誘導されているか否は分子間の相同性検出により同定することができる。2分子は共通の祖先分子に由来するときに相同である。相同性は通常では配列一致度又は類似度を検出することにより検出される。配列一致度又は類似度を評価することにより相同性を認識するための厳密なカットオフは変動するが、一般には配列類似度が約25%程度であれば相同であると同定する。相同性を同定するにはもっと高い類似度百分率、例えば35%、45%、55%、65%、75%、85% 95%、98%又はそれ以上が有用である。配列類似度/一致度はBLASTP(蛋白質の場合)やBLASTN(核酸の場合)等の公共入手可能なプログラムを使用し、例えばデフォルトパラメータを使用して同定することができる(BLASTPとBLASTNは例えばNCBIから例えばワールドワイドウェブ上でncbi.nlm.nih.gov/blastから広く入手可能である)。
【0058】
直交:本明細書で使用する「直交」なる用語は細胞又は翻訳系に内在する対応分子(tRNA又はRS)に比較した場合に細胞の内在成分と良好に共働しないか又は全く共働しない機能性分子(例えば直交tRNA(O−tRNA)及び/又は直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS))を意味する。直交成分は相互に良好に共働するコグネイト成分として役立つように提供され、例えばO−tRNAが細胞の内在RSの基質として良好に機能しないか又は全く機能せず、O−RSが細胞の内在tRNAと良好に共働しないか又は全く共働しないとしても、細胞中のコグネイトO−tRNAを効率的にアミノアシル化することができるO−RSを提供することができる。直交成分と内在成分の種々の比較効率を評価することができる。例えば、O−tRNAは一般に典型的な生理的条件下で内在RSに対する基質としての活性が不良又は不在であり、例えばO−tRNAは基質としての効率が内在RSに対する内在tRNAの効率の10%未満であり、一般に基質としての効率が5%未満、通常は1%未満になる。同時に、tRNAはO−RSに対する基質として非常に効率的にすることができ、例えばアミノアシル化基質としての効率がその内在RSに対する内在tRNAの効率の少なくとも50%、多くの場合には75%、95%、又は100%以上である。
【0059】
直交アミノアシルtRNAシンテターゼ:本明細書で使用する直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)とは該当翻訳系においてO−tRNAをアミノ酸で優先的にアミノアシル化する酵素である。O−RSが本発明においてO−tRNAに負荷するアミノ酸は3−アミノチロシン(NHY)である。
【0060】
直交tRNA:本明細書で使用する直交tRNA(O−tRNA)とは該当翻訳系に直交性のtRNAである。tRNAは例えば3−アミノチロシンを負荷した状態で存在することもできるし、負荷しない状態で存在することもできる。更に当然のことながら、O−tRNAは場合によりコグネイト直交アミノアシルtRNAシンテターゼにより3−アミノチロシンを負荷(アミノアシル化)される。実際に、当然のことながら、本明細書に記載するO−tRNAは翻訳中にセレクターコドンに応答して成長中のポリペプチドに3−アミノチロシンを挿入するために使用される。
【0061】
コグネイト:「コグネイト」なる用語は共働する成分、例えば直交tRNAと直交アミノアシルtRNAシンテターゼを意味する。これらの成分は相補的であると言うこともできる。
【0062】
優先的にアミノアシル化する:本明細書で直交翻訳系に関して使用する場合に、O−RSはO−RSが発現システムで任意内在tRNAに負荷するよりも効率的にO−tRNAに3−アミノチロシンを負荷するときにコグネイトO−tRNAを「優先的にアミノアシル化する」。即ち、O−tRNAと所与の任意内在tRNAがほぼ等モル比で翻訳系に存在するとき、O−RSは内在tRNAに負荷するよりも高頻度でO−tRNAに負荷する。O−RSにより負荷されるO−tRNAとO−RSにより負荷される内在tRNAの相対比は高いことが好ましく、従って、O−tRNAと内在tRNAが等モル濃度で翻訳系に存在する場合にはO−RSはO−tRNAに排他的、又はほぼ排他的に負荷することが好ましい。O−tRNAとO−RSが等モル濃度で存在する場合にO−RSにより負荷されるO−tRNAと内在tRNAの相対比は1:1を上回り、好ましくは少なくとも約2:1、より好ましくは5:1、更に好ましくは10:1、更に好ましくは20:1、更に好ましくは50:1、更に好ましくは75:1、更に好ましくは95:1、98:1、99:1、100:1、500:1、1,000:1、5,000:1又はそれ以上である。(a)O−RSが内在tRNAに比較してO−tRNAを優先的にアミノアシル化するとき、及び(b)O−RSがO−tRNAを任意天然アミノ酸でアミノアシル化する場合に比較してそのアミノアシル化が3−アミノチロシンに特異的であるときにO−RSは「O−tRNAを3−アミノチロシンで優先的にアミノアシル化する」。例えば、3−アミノチロシンと天然アミノ酸が本明細書に記載する配列表の該当O−RSと本明細書に記載する配列表の該当O−tRNAを含む翻訳系に等モル量で存在するとき、O−RSは天然アミノ酸よりも高頻度で3−アミノチロシンをO−tRNAに負荷する。3−アミノチロシンを負荷されたO−tRNAと天然アミノ酸を負荷されたO−tRNAの相対比は高いことが好ましい。O−RSはO−tRNAに排他的、又はほぼ排他的に3−アミノチロシンを負荷することがより好ましい。天然アミノ酸と3−アミノチロシンの両者が等モル濃度で翻訳系に存在するとき、O−tRNAの3−アミノチロシン負荷とO−tRNAの天然アミノ酸負荷の相対比は1:1を上回り、好ましくは少なくとも約2:1、より好ましくは5:1、更に好ましくは10:1、更に好ましくは20:1、更に好ましくは50:1、更に好ましくは75:1、更に好ましくは95:1、98:1、99:1、100:1、500:1、1,000:1、5,000:1又はそれ以上である。
【0063】
セレクターコドン:「セレクターコドン」なる用語は翻訳プロセスでO−tRNAにより認識され、内在tRNAにより認識されないコドンを意味する。O−tRNAアンチコドンループはmRNA上のセレクターコドンを認識し、負荷されたアミノ酸(例えば3−アミノチロシン)をポリペプチドのこの部位に組込む。セレクターコドンとしては例えば終止コドン(例えばアンバー、オーカー及びオパールコドン)等のナンセンスコドン、4塩基以上のコドン、レアコドン、ノンコーディングコドン、天然又は非天然塩基対から誘導されるコドン及び/又は同等物を挙げることができる。
【0064】
抑圧活性:本明細書で使用する「抑圧活性」なる用語は一般に、読み飛ばさないと翻訳終結又は誤訳(例えばフレームシフト)をもたらすコドン(例えばアンバーコドンや4塩基以上のコドンであるセレクターコドン)の翻訳読み飛ばしを行うtRNA(例えばサプレッサーtRNA)の能力を意味する。サプレッサーtRNAの抑圧活性は第2のサプレッサーtRNA又は対照系(例えばO−RSをもたない対照系)に比較して観測される翻訳読み飛ばし活性の百分率として表すことができる。
【0065】
サプレッサーtRNA:サプレッサーtRNAとは、一般にポリペプチドの翻訳中に終止コドンに応答してアミノ酸の組込み(即ち「読み飛ばし」)を可能にすることにより、所与翻訳系でメッセンジャーRNA(mRNA)の読取りを変更するtRNAである。所定側面において、本発明のセレクターコドンはサプレッサーコドンであり、例えば終止コドン(例えばアンバー、オーカー又はオパールコドン)、4塩基コドン、レアコドン等である。
【0066】
翻訳系:「翻訳系」なる用語は成長中のポリペプチド鎖(蛋白質)にアミノ酸を組込む成分を意味する。翻訳系の成分としては例えばリボソーム、tRNA、シンテターゼ、mRNA等を挙げることができる。本発明のO−tRNA及び/又はO−RSは、例えば非真核細胞(例えば大腸菌等の細菌)、又は真核細胞(例えば酵母細胞、哺乳動物細胞、植物細胞、藻類細胞、真菌細胞、昆虫細胞、及び/又は同等物)でin vitro又はin vivo翻訳系に付加するか又はその一部とすることができる。
【0067】
非天然アミノ酸:本明細書で使用する「非天然アミノ酸」なる用語は20種類の標準天然アミノ酸の1種以外の任意アミノ酸、修飾アミノ酸、及び/又はアミノ酸類似体を意味する。例えば、本発明では非天然アミノ酸3−アミノチロシンを利用する。
(実施例1)
大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼのサブユニットα2への3−アミノチロシンの部位特異的挿入:ラジカル成長におけるY730及びY731の関与の直接証拠
【0068】
大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼ(RNR)は複雑なラジカル反応を使用してデオキシヌクレオチドの生産を触媒する。活性なRNRはα2及びβ2の2つのサブユニットの1:1複合体から構成される。α2はヌクレオシド二リン酸基質とデオキシヌクレオチド/ATPアロステリックエフェクターとに結合し、ヌクレオチド還元部位である。β2はデオキシヌクレオチド形成を開始する安定な二核鉄チロシルラジカル(Y122・)補因子である。このプロセスはβ2のY122・とα2の活性部位のC439間の>35Åにわたる可逆的ラジカル移動を伴うと提唱されている。個々のサブユニットの構造に基づくα2β2のドッキングモデルによると、ラジカル開始はα2のY730とY731を含む過渡的な芳香族アミノ酸ラジカル中間体の経路を介すると思われる。本試験では、3−アミノチロシン(NHY)で部位特異的に置換することにより残基Y730及びY731の機能を検討する。in vivoサプレッサーtRNA/アミノアシルtRNAシンテターゼ法を使用した処、細胞ペースト1g当たり4〜6mgの収率でY730NHY−α2とY731NHY−α2が高い忠実度で生成された。これらの突然変異体をβ2、CDP及びATPの存在下でストップトフローUV−vis及びEPR分光法により試験した。その結果、NHYラジカル(NH730・又はNH731・)が反応速度的にコンピテントに形成されることが判明した。活性アッセイによると、どちらのNHY−α2もデオキシヌクレオチドを形成する。これらの結果からNHY・はC439を酸化できることが明らかであり、α2内のラジカル成長経路には水素原子移動メカニズムが関与しているのではないかと考えられる。確認されたNHY・は代謝回転中の提唱されたラジカル成長経路におけるアミノ酸ラジカル中間体の最初の発見に相当すると思われる。
【0069】
緒言
全生物において、リボヌクレオチドレダクターゼ(RNR)はヌクレオチドから2’−デオキシヌクレオチドへの変換を触媒し、DNA生合成及び修復に必要な前駆体を提供する1−3。ヌクレオチド還元のメカニズムは全RNRで保存されており、過渡的活性部位チイルラジカル(C439・,本明細書の随所で使用する大腸菌RNRナンバリング)の形成を必要とする4,5。しかし、ラジカル開始イベントである活性部位チイルラジカル生成のメカニズムは保存されておらず、RNRの4クラスの分類の基準となる6−9。主要な未解決のメカニズム問題のはクラスI RNRと、恐らく最近同定されたクラスIV RNRにおけるチイルラジカル形成のメカニズムの問題である。本願では、大腸菌RNRのサブユニットの1つへの3−アミノチロシン(NHY)の部位特異的組込みを報告すると共に、これらの突然変異体によりラジカル開始のメカニズムを洞察する。
【0070】
大腸菌クラスI RNRは代謝回転中に活性な1:1複合体を形成する2つのホモダイマーサブユニットα2及びβ2から構成される10−12。α2は複合体の実働部分である。このサブユニットはチイルラジカルに介在されるヌクレオチド還元が生じる活性部位と、基質特異性と代謝回転率を調節する複数のアロステリックエフェクター結合部位を含む13。β2はα2の活性部位で過渡的C439・の形成に必要な安定な二核鉄(III)チロシルラジカル(Y122・)14−16補因子を含む4−6。α26,17とβ218,19の構造は解明されており、両方のサブユニットを含む構造も報告されている20。しかし、活性なα2β2複合体の構造は謎のままである。α2とβ2の個々の構造から、UhlinとEklundは形状及び電荷の相補性と残基保存に基づいてα2β2複合体のドッキングモデルを作製した。このモデルによると、β2のY122・はα2のC439から>35Åの位置にあるらしい(図1)21−23。この長距離にわたるラジカル成長には過渡的アミノ酸中間体の関与が必要である24−26。この経路に関与していると提唱されている残基は全クラスのI RNRで広く保存されている。
【0071】
パルス電子−電子二重共鳴分光測定27とメカニズムベースの阻害剤28−32からY122・とC439間の長距離を裏付ける証拠が最近得られている。この試験から得られた距離はドッキングモデルと一致し、β2のY122・がα2のC439の近くになるような大きな立体配座変化は生じないことを証明している32
【0072】
提唱された経路の有効性を試験するために、部位特異的突然変異誘発33,34と相補試験35が実施されている。これらの試験は図1の各残基がRNR機能に重要な役割を果たすことを立証している。しかし、これらの突然変異体には活性がないため、機構調査は不可能である33,34
【0073】
現時点では、提唱されている経路残基のうちのただ1個であるY356が関与していることは多くの証拠により証明されている。この残基はβ2の無秩序領域内に位置しているので、β2のW48とα2のY731までの距離が長く不明であるため、この残基の関与を立証することは特に重要である(図1)。本発明者らは最近、機構情報を提供する突然変異体を作製するために、発現蛋白質ライゲーション法を使用して非天然アミノ酸を残基356に組込むことができた36,37。1変異体では、Y356をラジカルトラップ3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)で置換した38。基質及び/又はエフェクターの存在下にDOPA356−β2及びα2で試験した処、反応速度的にコンピテントにDOPAラジカル(DOPA・)が形成されることが判明し、まさに残基356はレドックス活性であることが立証された38。本発明者らは残基356からY122への可逆的正孔移動を示すためにDOPAヘテロダイマーDOPA−ββ’(ここでβ’モノマーはC末端22残基を欠失する)も使用した39。しかし、Y356のレドックス活性な役割を証明する最も有力な証拠はフルオロチロシン類似体(FYs,n=2,3又は4)をこの残基に部位特異的に挿入した一連の半合成F356−β2から得られた40,43。これらのF356−β2誘導体はこの残基の還元電位とpKの体系的変調を可能にし、経路内のプロトン共役電子移動の役割を解明する鍵となった21,40。F356−β2の活性アッセイの結果、ラジカル開始、従ってヌクレオチド還元はFYとY間の還元電位差に基づいてオンオフされることが判明した43。更に、FY−β2におけるpKの変調の結果、ラジカル輸送中にこの残基における電子とプロトンの強制カップリングはないことが分かった43。こうして、半合成β2を使用した試験の結果、ラジカル成長における残基356の機能とメカニズムが明らかになった。
【0074】
他方、ラジカル成長におけるα2残基Y730及びY731の役割はまだはっきりしていない。突然変異誘発試験はRNR機能におけるそれらの重要性を立証している34,44,45。しかし、β2の残基Y356と同様に、これらの突然変異体(Y730F−α2及びY731F−α2)は不活性であるため、ラジカル成長におけるY730及びY731の役割の機構調査は不可能であった。更に、これらの残基の位置が決まっているときに発現蛋白質ライゲーションにより非天然アミノ酸をα2に組込むことは実現不能である。そこで、本発明者らは非天然アミノ酸を部位特異的に組込むための代替方法を検討した。
【0075】
本願では、NHYをα2サブユニットの残基Y730及びY731に組込むために、NHYに特異的なMethanococcus jannaschiiアミノアシルtRNAシンテターゼ(NHY−RS)の進化と、適切なM.jannaschiiアンバーサプレッサーtRNAとのそのin vivo併用について報告する46−50。その還元電位(pH7.0で0.64V,図1,スキーム1参照)51がYよりも0.19V低く、DOPAと同様にラジカルトラップとして機能すると考えられることから、NHYをプローブとして選択し、正孔移動における残基Y730及びY731の関与について直接報告する(図1)。更に、NHYはDOPAよりも酸化に対して安定であるため、より実際的なターゲットとなる51,52。この手法を使用し、各NHY−α2を100mgずつ作製した。Y730NHY−α2(又はY731NHY−α2)をβ2、基質及びアロステリックエフェクターと共にインキュベートした結果、反応速度的にコンピテントにNHYラジカル(NHY・)が形成されることがストップトフロー(SF)UV−vis及びEPR分光法により立証された。NHY−α2はデオキシヌクレオチド産生能を維持しているので、確認されたNHY・はヌクレオチド還元でコンピテントな複合体におけるラジカル成長中に発生すると考えられた。これらの結果から、直接水素原子移動がα2内の正孔移動の有効なメカニズムであると予想される。
【0076】
材料と方法
材料。ルリア・ベルターニ(LB)培地、BactoAgar、2YT培地、及び大小直径(100mmと150mm)ペトリ皿プレートはBecton−Dickinsonから入手した。NHY、M9塩、テトラサイクリン(Tet)、カナマイシン(Kan)、アンピシリン(Amp)、L−アラビノース(L−Ara)、クロラムフェニコール(Cm)、L−ロイシン(Leu)、D−ビオチン、チアミンHCl、ATP、シチジン−5’−二リン酸(CDP)、NADPH、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリセロール、ブラッドフォード試薬、Sephadex G−25、フェニルメタンスルホニルフルオリド(PMSF)、硫酸ストレプトマイシン、ヒドロキシ尿素、2’−デオキシシチジン及び2’−デオキシグアニジン−5’−三リン酸(dGTP)はSigma−Aldrichから購入した。イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)、DL−ジチオスレイトール(DTT)及びT4 DNAリガーゼはPromegaから入手した。DH10Bコンピテント細胞とオリゴヌクレオチドはInvitrogenから入手した。部位特異的突然変異誘発はStratagene製品Quickchange Kitを使用して実施した。ウシ腸アルカリホスファターゼ(CAP,20U/μL)はRocheから入手した。KpnI及びXboI制限酵素はNEBから入手した。pTrcベクターはSinskey博士(Department of Biology,M.I.T.)の寄贈品とした。大腸菌チオレドキシン53(TR,40単位/mg)、大腸菌チオレドキシンレダクターゼ54(TRR,1400単位/mg)、及びwtβ255(6200〜7200nmol/min・mg,二量体1個当たりラジカル1〜1.2個)の精製は文献に記載されている。α2、Y730NHY−α2及びY731NHY−α2の濃度はε280nm=189 mM−1cm−1を使用して測定した。グリセロール最少培地ロイシン(GMML)は終濃度で1%(v/v)グリセロール、1×M9塩、0.05%(w/v)NaCl、1mM MgSO、0.1mM CaCl及び0.3mM L−ロイシンを含有する。RNRアッセイバッファーは50mM Hepes,15mM MgSO,1mM EDTA,pH7.6から構成される。
【0077】
LC−MSによるNHYの細胞取込みの定量的アッセイ。取込みアッセイは多少変更した以外は以前に記載した通りに実施した48。DH10B大腸菌細胞を37℃にてGMML中で1mM NHYと0.1mM DTTの存在下に飽和まで増殖させた後、以前に概説した通りに回収し、溶解させた。0.5mL/minで8分間0.1% TFA溶液中5%→25% MeCNの直線勾配を使用してZorbax SB−C18(5μm,4.6×150mm)カラムで粗抽出液のクロマトグラフィーを実施した。これらの条件下で、NHYは〜13% MeCNで溶出する。HPLC−ESI−MS分析には、NHY標準溶液を水溶液として調製した。
【0078】
大腸菌におけるNHY−RSの指向進化。先に詳述したようにポジティブ及びネガティブ選択サイクルを実施した48。要約すると、プラスミドpBK−JYRSは大腸菌GlnRSプロモーターの制御下でTyr結合溝から6.5Å以内の6残基をランダム変異させたM.jannaschii TyrRS変異体のライブラリーをコードし、Kanマーカーを含む46。ポジティブ選択にはプラスミドpREP/YC−J17を使用し56、これは非必須アンバー突然変異Asp112TAGを含むクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子と、MetTAGとGln107TAGの2箇所の非必須アンバー突然変異を含むT7 RNAポリメラーゼ(T7 RNAP)遺伝子をコードする。このプラスミドは更にTyrRSライブラリーにより負荷されないコグネイト突然変異体tRNACUA(mutRNACUA)の遺伝子と、T7 RNAPにより発現誘導されるGFPuv遺伝子と、Tetマーカーも含む。ネガティブ選択にはプラスミドpLWJ17B3を使用し57,58、これはAraプロモーターの制御下でGlnTAG、Asp44TAG及びGly65TAGの3箇所の非必須アンバー突然変異を含む毒性バルナーゼ遺伝子をコードする。このプラスミドは更にmutRNACUA遺伝子とAmpマーカーも含む(表1)。
【0079】
各ポジティブ選択サイクルで、突然変異体TyrRSライブラリーを含むpBK−JYRSプラスミドライブラリーを、プラスミドpREP/YC−J17を含む大腸菌DH10Bコンピテント細胞にエレクトロポレーションにより形質転換した48。細胞をSOC培地に回収し、37℃で1時間増殖させた。次にGMMLで2回洗浄し、Tet 12μg/mL,Kan 25μg/mL,クロラムフェニコール(Cm)60μg/mL,1mM NHY,及び100μM DTTを加えたGMML寒天プレート(150mm)6〜8枚に撒いた。還元環境を維持するために、NHYを含む全溶液又はプレートにDTTを加えた。プレートを37℃で72時間インキュベートした。生存細胞をプレートから掻き取り、GMML液体培地にプールした。次にQiagen Miniprep Kitを使用して細胞からプラスミド単離を実施した。アガロースゲル電気泳動によりpBK−JYRSライブラリー(〜3kb)をpREP/YC−J17(〜10kb)から分離し、Qiagen Gel Extraction Kitを使用してゲルから抽出した。OD260nmを使用してプラスミドDNAを定量した。
【0080】
ネガティブ選択を実施するために、ポジティブ選択から単離したプラスミドDNAを、pLWJ17B3を含む大腸菌DH10Bコンピテント細胞にエレクトロポレーションにより形質転換した48。細胞をSOC培地に回収し、37℃で1時間増殖させ、Amp 100μg/mL,Kan 50μg/mL及び0.2% L−Araを加えたLB寒天プレートに撒いた。プレートを37℃で10〜12時間インキュベートした。生存細胞を回収し、上記のようにプラスミド単離を実施した。
【0081】
合計6サイクル(ポジティブ選択3回とネガティブ選択3回)後、細胞をプレート2組に撒くことにより4回目のポジティブ選択を実施した。一方の組にはポジティブサイクルについて記載したようにNHY/DTTを加え、他方にはDTTのみを加えた。ポジティブ選択プラスミドでT7 RNAPにより発現誘導されるGFPuvから発光する緑色蛍光の差について2組のプレートを試験した(表1)。NHY/DTTを加えたプレートから合計48個のシングルコロニーを選択し、96ウェルプレートでGMML 100μLに接種した。1mM NHYの存在下及び不在下で0、20、40、60、80及び110μg/mLのCmと0.1mM DTTを加えた2組のGMML寒天プレートに得られた各細胞懸濁液から1μLを接種した。プレートを37℃で72〜120時間インキュベートした。候補クローンはNHY/DTTと高濃度のCm(〜100μg/mL)を加えたプレートでは生存し、UV光下で緑色蛍光を発光することができるが、NHYを加えず、Cm濃度の低い(20μg/mL)プレートでは死滅する。Tet 24μg/mLとKan 50μg/mLを加えた2YT培地5mLに候補クローンを接種し、飽和まで増殖させた。次にプラスミドDNAを上記のように単離し、DNAシーケンシングにより分析した。上記方法により選択したNHY−RS遺伝子を含むプラスミドはpBK−NHY−RSである。
【0082】
NHY−Z−ドメインの発現。先に記載したように、プロテインAのC末端にHisタグを付加したZ−ドメイン(Z−ドメイン)を使用してpBK−NHY−RSによるNHY組込み効率を試験した48。残基7にアンバー終止コドンをもつZ−ドメインとmutRNACUAをコードするLEIZ57,59と、pBK−NHY−RSをBL21(DE3)コンピテント細胞に同時形質転換した。全増殖はKan(50μg/mL)とCm(35μg/mL)の存在下に37℃で実施した。シングルコロニーを2YT培地5mLに接種し、飽和まで(〜13時間)増殖させた。この飽和培養液1mLを2YT培地25mLで希釈し、飽和まで一晩(〜11時間)増殖させた。次にこの培養液10mLをGMML培地2×250mLで希釈した。OD600nmが0.65に達したら(9時間)、培養液の一方にNHYとDTT(夫々終濃度1mM及び0.1mM)を添加し、他方にはDTT(0.1mM)のみを添加した。NHY/DTT(又はDTT)の添加から15分後に、IPTGを各培養液に終濃度1mMまで加えた。5時間後に、遠心により細胞を回収した。次にNHYの存在下と不在下で増殖させたZ−ドメインを先に記載したようにNi2+アフィニティークロマトグラフィーにより精製し、SDS PAGEとMALDI−TOF MS分析に付した48。MALDI−TOF MS分析では、透析によりZ−ドメインを水に交換した後、Scripps質量分析センターにて陽イオン化モードで質量スペクトルを得た。
【0083】
pTrc−nrdAのクローニング。ベクターpTrc−nrdAを作製するために、Pfu Turboポリメラーゼを使用してnrdA遺伝子をプライマー1、例えば配列番号1(5’−AT AAT TGG TAC CCA AAA ACA GGT ACG ACA TAC ATG AAT C−3’)とプライマー2、例えば配列番号2(5’−GCT GCA GGT CGA CTC TAG AGG ATC CCC CCT TCT TAT C−3’)で増幅した。これらのプライマーは夫々遺伝子の5’及び3’末端(下線部)にKpnI及びXboI切断部位を含む。Qiagen製品であるPCR Purification Kitを使用してフラグメントを精製した。次に単離したDNAをKpnI及びXboIと共にインキュベートし、得られた産物をアカロースゲルで分離し、Qiagen Gel Extraction Kitで抽出した。同一制限酵素で切断しておいたpTrcに遺伝子フラグメントをライゲーションした。インサート−ベクターを3:1比でインキュベートし、T4 DNAリガーゼを使用して16℃で30分間ライゲーションし、pTrc−nrdAを得た。
【0084】
プラスミドpMJ1−nrdAからの発現について先に記載したようにBL21(DE3)細胞でベクターpTrc−nrdAからwtα2の発現を実施し、培養液1L当たり3gの湿潤細胞ペーストを得た55,62。α2を精製(下記参照)し、>95%純度で湿潤細胞ペースト1g当たり10mgのα2を得、分光RNRアッセイ(下記参照)により比活性を測定した処、2500nmol/min・mgであった。
【0085】
pTrc−nrdA730TAG及びpTrc−nrdA731TAGの作製。Stratagene Quickchange Kitを使用してベクターpMJ1−nrdAのnrdA遺伝子の730又は731位にTAGコドンを挿入した。α2の730位にTAGを組込むためにプライマー3、例えば配列番号3(5’−G GTC AAA ACA CTG TAG TAT CAG AAC ACC CG−3’)とプライマー4、配列番号4(5’−CG GGT GTT CTG ATA CTA CAG TGT TTT GAC C−3’)を使用し、α2の731位にTAGを組込むためにプライマー5、例えば配列番号5(5’−G GTC AAA ACA CTG TAT TAG CAG AAC ACC CG−3’)とプライマー6、例えば配列番号6(5’−CG GGT GTT CTG CTA ATA CAG TGT TTT GAC C−3’)を使用した。MITバイオポリマー研究所にて全長遺伝子を配列決定することにより突然変異を確認した。次にnrdA730TAG及びnrdA731TAG遺伝子をプライマー1及び2で増幅し、wt nrdAについて上述したようにベクターpTrcにライゲーションした。
【0086】
pAC−NHY−RSのクローニング。pACベクターはCmマーカーの代わりにTet選択マーカーを含む点を除き、先に記載したベクターpSupと同様である63。更に、pAC−NHY−RSはglnS’プロモーター及びrrnBターミネーターの制御下のNHY−RS遺伝子と、proKプロモーター及びターミネーターの制御下のmutRNACUA遺伝子6コピーを含む。pAC−NHY−RSを作製するために、NHY−RS遺伝子の夫々3’及び5’のPstI及びNdeI制限部位を使用してpBK−NHY−RSからNHY−RS遺伝子をpACベクターにサブクローニングした。
【0087】
730NHY−α2及びY731NHY−α2の発現。ベクターpTrc−nrdY730TAGがtrp/lac(trc)プロモーター及びrrnBターミネーターの制御下で730位にアンバーコドンをもつnrdA遺伝子と、Ampマーカーを含むpTrc−nrdY730TAG/pAC−NHY−RS発現システムでY730NHY−α2の発現に成功した。大腸菌DH10B細胞をベクターpTrc−nrdY730TAG及びpAC−NHY−RSで形質転換し、Amp(100μg/mL)とTet(25μg/mL)を添加したLB/寒天プレートで37℃にて2日間増殖させた。全液体培養増殖はAmp(100μg/mL)とTet(25μg/mL)を加え、37℃及び200rpmのシェーカー/インキュベーターで実施した。プレートからのシングルコロニーを2YT培地5mLに接種し、飽和まで(〜2日間)増殖させた。次に飽和培養液5mLを2YT培地180mLで希釈し、飽和まで(〜1日間)増殖させた。次にD−ビオチン(1μg/mL)、チアミン(1μg/mL)及び1倍重金属ストック溶液を添加したGMML培地1Lを各々加えた6L三角フラスコ6本の各々にこの培養液25mLを接種した。1000倍重金属ストック溶液は文献64に記載されているように、1L当たり、MoNa・HO 500mg、CoCl 250mg、CuSO・5HO 175mg、MnSO・HO 1g、MgSO・7HO 8.75g、ZnSO・7HO 1.25g、FeCl・4HO 1.25g、CaCl・2HO 2.5g、HBO 1g及び1M HClを含有する。OD600nmが0.6に達したら(12〜18時間)、NHYとDTTを夫々終濃度1mM及び0.1mMまで加えた。15分後にIPTGを終濃度1mMまで加え、増殖を4.5時間続け、この時点で細胞を遠心により回収し、液体Nで凍結させ、−80℃で保存した。典型例では、培養液1L当たり湿潤細胞ペースト1.5gが得られた。ベクターpTrc−nrdA731TAG及びpAC−NHY−RSを使用してY731NHY−α2の発現を同様に実施した。
【0088】
730NHY−α2及びY731NHY−α2の精製。典型例では湿潤細胞ペースト10gからNHY−α2を精製した。全精製段階は4℃で実施した。1mM PMSFと5mM DTTを添加したα2バッファー(50mM Tris,1mM EDTA,pH7.6)5mLに湿潤細胞ペースト1gを再懸濁した。14,000psiのフレンチプレス細胞破砕機に通すことにより細胞を溶解させた。遠心(15,000×g,35分,4℃)により細胞破片の除去後、8%(w/v)硫酸ストレプトマイシンを加えたα2バッファー0.2容量を滴下することによりDNAを沈降させた。混合物を更に15分間撹拌し、沈降したDNAを遠心(15,000×g,35分,4℃)により除去した。次に上清10mL当たり固体(NHSO 3.9gを15分間かけて加えた(66%飽和)。溶液を更に30分間撹拌し、沈降した蛋白質を遠心(15,000×g,45分,4℃)により単離した。ペレットを最少容量のα2バッファーに再懸濁し、Sephadex G−25カラム(1.5×25cm,45mL)を使用して脱塩した。脱塩した蛋白質を予めα2バッファーで平衡化しておいたdATPカラム(1.5×4cm,6mL)に流速0.5mL/分で直接ロードした。カラムをα2バッファー10カラム容量で洗浄した。次に10mM ATP,15mM MgSO及び10mM DTTを加えたα2バッファー3〜4カラム容量でNHY−α2を溶出させた。次にSephadex G−25クロマトグラフィーによりATPを除去した。蛋白質を液体Nの小アリコートで急速凍結させ、−80℃で保存した。典型例では、湿潤細胞ペースト1g当たり4〜6mgの純粋なNHY−α2が得られた。
【0089】
EPR分光法によりモニターしたNHY−α2とβ2、CDP及びATPの反応。各変異体(40μM)を35mM DTTの存在下で室温にて40分間インキュベートとすることにより、予備還元したwt−α2又はNHY−α2を作製した。ヒドロキシ尿素と更にDTTを終濃度15mMまで加え、インキュベーションを室温で更に20分間続けた。次に、予めアッセイバッファー(材料の項参照)で平衡化しておいたSephadex G−25カラム(1.5×25cm,45mL)で各蛋白質を脱塩した。
【0090】
予備還元したNHY−α2及びATPをアッセイバッファー中でwtβ2及びCDPと混合し、夫々終濃度20〜24μM、3mM、20〜24μM及び1mMとした。反応を液体Nで10秒〜12分間手動クエンチした。Department of Chemistry Instrumentation Facilityにて液体Nを充填した石英フィンガーデュワーを取付けたBruker ESP−300 Xバンド分光器でEPRスペクトルを77Kで記録した。EPRパラメータは以下の通りとした:マイクロ波周波数=9.34GHz,出力=30μW,変調振幅=1.5G,変調周波数=100kHz,時間定数=5.12ms,走査時間=41.9s。WinEPR(Bruker)と社内で作成したExcelプログラムを使用し、得られたスペクトルの分析を行った。これらのプログラムは記録したスペクトルからの未反応Y122・シグナルのフラクショナルサブトラクションを容易にし、NHY・−α2のスペクトルを得易くする。各トレースの二重積分強度を比較することによりY・シグナルとNHY・シグナルの比を評価した。CuIIを標準として使用してEPRスピン定量を実施した65
【0091】
ストップトフロー(SF)UV−vis分光法によるβ2、CDP及びATPとのNHY・−α2形成の反応速度測定。Applied Photophysics DXにてSF反応速度測定を実施した。17MV機器にPro−Dataアップグレードを搭載し、図面の説明に示すλでPMT検出を使用した。Lauda RE106循環水浴で温度を25℃に維持した。第1のシリンジ内の予備還元したY730NHY−α2(又はY731NHY−α2)とATPを第2のシリンジからのwtβ2及びCDPと1:1比で混合し、アッセイバッファー中の終濃度を夫々8〜10μM、3mM、8〜10μM及び1mMとした。時分割モードでデータを採取した。図面の時間経過は少なくとも6本の独立したトレースの平均である。Y730NHY・−α2及びY731NHY・−α2吸収プロファイルのポイントバイポイント再構成には、2〜4本のトレースを305〜365nmで5nm間隔で平均した。これらのλで発表されているε65−68に基づいてこの領域のY122・の吸収について吸収変化を補正した後、λに対してプロットした。Y122・のε(ε410nm=3700M−1cm−168を使用し、Y122・1モルの消費によりNHY・1モルがα2で形成されると仮定してY730NHY・−α2(10500M−1cm−1)及びY731NHY・−α2(11000M−1cm−1)のεの計算を行った。OriginPro又はKaleidaGraph Softwareで曲線フィットを行った。
【0092】
RNRの分光及び放射性活性アッセイ。先に記載したように分光及び放射性RNRアッセイを実施した36,43。NHY−α2の濃度は0.2、1又は3μMとし、β2は5倍モル過剰とした。放射性アッセイでは[5−H]−CDP(1190cpm/nmol)を使用した。
【0093】
EPR分光法によりモニターしたNHY−α2とβ2、NADP及びdGTPの反応。2’−アジド−2’−デオキシアデノシン−5’−二リン酸(NADP)はScott Saloweにより従来製造されている62。予備還元したY730NHY−α2(Y731NHY−α2又はwtα2)及びdGTPをアッセイバッファー中でwtβ2及びNADPと混合し、夫々終濃度20μM、1mM、20μM及び50μMとした。20秒後に反応を液体Nで手動クエンチした。EPRデータ取得とCuIIによるスピン定量を上記のように実施した。得られたスペクトルをWinEPR(Bruker)と社内で作成したExcelプログラムで分析した。報告され、今回wtα2/β2反応で再生されたN・シグナルを先ず差し引くことにより、これらの実験で実測された3個のシグナルの逆重畳を行った。次に、未反応Y122・をこのスペクトルから差し引き、NHY・−α2スペクトルを得た。各トレースの二重積分強度を比較することにより3個のシグナルの比を評価した。
【0094】
結果
NHYの毒性と取込み。NHY特異的アミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)の進化には、NHYが大腸菌により取込まれることと、非毒性であることと、内在RSにより蛋白質に組込まれないことが必要である。NHYは全3要件を満たした。DH10B大腸菌細胞を液体GMML培地でNHY(1mM)又はNHYとDTT(夫々1mM及び0.1mM)の存在下に増殖させた処、NHYは全細胞抽出液に認められることがHPLCとESI−MSにより確認された48。DH10B大腸菌細胞を液体GMML培地と寒天プレートでNHY又はNHY/DTTの存在下に増殖させることによりNHYの毒性を評価した。増殖速度はNHYの存在によりさほど影響を受けなかった。他方、DTTの存在下では、細胞はNHY単独の存在下又はNHY/DTTの不在下よりも25〜35%遅い速度で増殖した。
【0095】
NHY特異的RSの進化。シュルツ研究所は非天然アミノ酸を任意標的蛋白質に組込むための堅牢なインビボ法を開発している46−50。この方法では、M.jannaschii TyrRS突然変異体ライブラリーからRSを選択する。mutRNACUAとこのライブラリーのRSの相互作用領域は変動しないので、コグネイトアンバーサプレッサーM.jannaschii tRNAであるmutRNACUAは改変の必要がない69。Y結合溝とその周囲のTyr32,Leu65,Phe108,Gln109,Asp158及びLeu162の6個の残基をランダムに変異させたRSライブラリーでポジティブ選択とネガティブ選択の反復サイクルを実施する。ポジティブ選択はNHY/DTTとコグネイトtRNAの存在下のCAT遺伝子の許容部位におけるアンバー終止コドンの抑圧に基づく(表I)46。生存するクローンは宿主細胞翻訳機構で機能的であり、アンバー終止コドンに応答してNHY又は他のアミノ酸を組込むRSをもつ。ネガティブ選択はNHYの不在下の毒性バルナーゼ遺伝子における3個のアンバーコドンの抑圧不在に基づく(表I)70。生存するクローンはアンバー終止コドンに応答して天然アミノ酸を組込まないRSをもつ。
【0096】
7回の選択サイクル後、アンバー終止コドンを抑圧する能力について48個のコロニーを試験した。pBK−NHY−RSとpREP/YC−J17を含むシングルコロニーを最後のポジティブ選択(7回目)から取出し、NHYの存在下又は不在下で種々の濃度のCm(0〜110μg/mL)を加えたGMML寒天に撒いた。NHY/DTTの存在下で増殖できるならば、CAT遺伝子のアンバーコドンはNHYの組込みにより抑圧されていると判断される。更に、T7 RNAP遺伝子のアンバーコドンも同様に抑圧され、GFPuvの発現を誘導し、その結果、細胞にUV光を照射すると、緑色蛍光を発光する。望ましいコロニーは高濃度のCm(〜100μg/mL)とNHY/DTTの存在下で増殖し、照射すると緑色蛍光を発光するが、NHYの不在下でCm濃度が低い(〜20μg/mL)と死滅するコロニーである。試験した48個のコロニーのうち、2個がこれらの基準を満たしたため、更に続行した。
【0097】
これらのコロニーからのプラスミドのDNAシーケンシングの結果、ランダムに突然変異させた位置に以下の残基:Gln32、Glu65、Gly108、Leu109、Ser158及びTyr162をもつ同一のRSであることが判明した。興味深いことに、残基32はwt M.jannaschii TyrRSではTyrであり、結合したTyrリガンドのヒドロキシル基に対してオルト位のC原子から2Å以内に位置するが、選択したRSではGlnである71,72。wt M.jannaschii TyrRSの結晶構造によると、Glnはo−NH基の受容を可能にし、恐らく、好ましい水素結合相互作用を生じると予想される。これらのクローンから同定されたRSをその後の全実験で使用した。
【0098】
NHY−Z−ドメインの発現。選択したRSによるNHY組込みの効率と忠実度を試験するために、許容可能なLys7残基にアンバー終止コドンをもち、C末端にHisタグを付加したZ−ドメイン蛋白質(Z−ドメイン)をモデルとして使用した57,73。GMML培地でNHY/DTTの存在下に発現させると、精製後に培地1L当たり5mgのZ−ドメインが得られた。SDS PAGE分析(図2,挿入図)の結果、NHYの不在下では、Z−ドメイン蛋白質の発現量は検出レベル未満であることが判明した。精製蛋白質をMALDI−TOF MS分析に付した。従来の試験によると、Z−ドメインはN末端Metの除去後、得られたN末端アミノ酸のアセチル化により翻訳後修飾されることが分かっている57。従って、NHY/DTTの存在下で発現させたZ−ドメインのMALDI−TOF MS分析の結果、MW=7812、7854、7943及び7985Daの4個のピークが判明した(図2)。これらの特徴は夫々KNHY−Z−ドメインから最初のMetを引いたもの(MWexp=7813Da)、そのアセチル化形態(MWexp=7855Da)、全長型KNHY−Z−ドメイン(MWexp=7944Da)及びそのアセチル化形態(MWexp=7986Da)に対応する。重要な点として、KY−Z−ドメインは検出されなかった(全長形態ではMWexp=7929Da)。以上をまとめると、Z−ドメインによる試験の結果、進化型RSはNHYに特異的であり、この標的蛋白質へのその組込みに有効であることが明らかである。
【0099】
NHY−α2の発現と精製。NHY特異的RSを進化させ、NHY挿入の効率と忠実度を確認したので、次にNHY組込みのプラスミド/宿主要件に適合可能なα2の過剰発現システムを追求した。α2産生と残基730へのNHY挿入を最大にするように数種の異なる増殖条件と発現システムを検討した。NHY・の早期トラップとプローブの破壊をもたらす可能性のあるwtβ2とNHY−α2の反応を最小限にするように、嫌気性条件下又はヒドロキシ尿素の存在下の増殖を検討した。前者の場合には、嫌気性クラスIII RNRは大腸菌中で作用するので、wtクラスIβ2は発現されない1,74。後者の場合には、ヒドロキシ尿素の存在により、クラスIβ2の必須Y122・の還元を生じるため、NHY−α2と反応することができない575,76。封入体を最小限にするように温度操作も検討した。
【0100】
(1)pBK−NHY−RS/pBAD−nrdA,(2)pBK−NHY−RS/pMJ1−nrdA及び(3)pAC−NHY−RS/pMJ1−nrdA(表1参照)の3種類の異なる発現システムについて検討した(詳細については下記参照)。システム(1)では、内在α2の1.5倍のレベルの全長型α2の発現が認められた。システム(2)では、短縮型α2しか認められず、システム(3)では、短縮型α2の過剰産生と共に、α2の内在レベルと同等の全長型α2の発現を生じた。発現の失敗又は低レベルの発現は細胞内のmutRNACUAが制限されているため、及び/又はpBAD−nrdA及びpMJ1−nrdAからのα2の発現レベルが低いためであると思われる。
【0101】
pTrcを使用した非天然アミノ酸の発現と大腸菌ニトロレダクターゼへの組込みの成功が最近報告されたことに触発され77、本発明者らはpAC−NHY−RS/pTrc−nrdA発現システムを検討することにした。pTrc−nrdAベクターはtrp/lac(trc)プロモーターの制御下で望ましい残基にアンバー終止コドンをもつα2遺伝子を含む78。重要な点として、pAC−NHYは細胞内のコグネイトtRNA濃度を増加するmutRNACUA6コピーを含む63
【0102】
先ず、pTrc−nrdAからのwtα2の発現を試験した。過剰産生とその後の精製により、湿潤細胞ペースト1g当たり10mgの純粋なα2を得た。この発現レベルはα2及びα2突然変異体を発現させるために当研究所で日常的に使用しているpMJ1からのα2の発現の2〜4倍であった。更に、α2の比活性はpMJ1−nrdAからの活性(2500nmol/min・mg)と同等であった。
【0103】
pAC−NHY−RSとpTrc−nrdAで二重形質転換したDH10B細胞におけるY731NHY−α2の発現を図3に示す。IPTGインデューサーとNHY/DTTの存在下では、アンバー終止コドンは抑圧され、NHY−α2は過剰発現される。NHYの不在下では、短縮型α2のみの過剰産生が認められる。最後に、インデューサーIPTGとNHYの不在下では、α2の過剰発現は生じない。Y730NHY−α2の発現にも同様のプロファイルが得られた(図13)。dATPアフィニティークロマトグラフィーを使用してNHY−α2を精製すると、>90%均質度で培養液1L当たり4〜6mgの目的蛋白質が得られる55,62。突然変異蛋白質は精製処理中にwtα2と同様に挙動した(図14)。
【0104】
EPR分光法によりモニターしたNHY−α2とwtβ2、CDP及びATPの反応。NHY−α2を入手できるため、本発明者らはβ2−α2界面をまたがるラジカル成長におけるY730及びY731の関与を評価することができた。実験デザインはDOPA−β2で従来確立されたラジカルトラップ法に基づく38, 39。この方法では、Yよりも酸化し易い非天然Y類似体で安定なラジカルをトラップする。トラップにβ2、基質及びアロステリックエフェクターが必要な場合には、ラジカル成長中にこの残基がレドックス活性であることを示す直接証拠となる。ラジカル形成が生じない場合には、残基がレドックス活性ではないか又は酸化産物が不安定であると判断できる。本発明者らは、NHYが酸化し易い(E°はpH7でYよりも190mV低い)ためにNHY・が生成され、UV−vis及びEPR法により検出できるのではないかと提唱した51。NHY・の分光特性決定は従来報告されていない。
【0105】
DOPA−β2での自身の試験38に基づき、本発明者らはNHY・がある程度まで蛋白質環境により安定化されるのではないかと予想した。DOPA−β2では、最大量のDOPA・が5秒までに生成され、2.5分間安定であった38,39。そこで、Y730NHY−α2(又はY731NHY−α2)をwtβ2、基質(CDP)及びエフェクター(ATP)と混合し、25℃で種々の時間(10秒〜12分間)インキュベートし、液体Nで手動クエンチした。これらの反応のEPRスペクトルの結果、10秒時点で最大量で存在する新規シグナルが判明した(図4)。CDPとATPの不在下の対照ではY122・しか認められなかった(図4,挿入図)。従って、新規シグナルの形成はDOPA−β2での同様の試験で従来観測されたように、基質とエフェクターにより制御される38
【0106】
実測スペクトルは未反応Y122・と推定NH730・の少なくとも2種の合成である。新規ラジカルの特徴を解明するために、識別可能な十分に特性決定された低磁場特徴をもつY12214のスペクトルを合成シグナルから差し引いた。得られたほぼ等方的なシグナル(図4,破線)は見掛けのgavが2.0043であり、ピーク・トラフ幅が24Gである79。本発明者らはこの新規シグナルをNH730・に帰属させる。
【0107】
10秒時点におけるスピン定量の結果、(出発時のY122・に対して)合計初期スピンの8%が失われていることが判明した。残りのスピンのうち、47%はY122・に帰属し、53%は新規シグナルに帰属する。このシグナルを更に特性決定するために、出力飽和試験を実施した。Y122・はその弛緩特性を劇的に変化させる二核鉄(III)クラスターに隣接している。新規ラジカルが実際にドッキングモデルにより示されるように二核鉄(III)クラスターから>35Åの距離でα2の内側に位置するならば、そのP1/2は著しく低下するであろう。出力依存性試験の結果を図5に示す。データを式180にフィットさせた(式中、Kはサンプルと機器に依存性の倍率であり、Pはマイクロ波出力であり、bは均質(b=3)又は不均質(b=1)なスペクトル広幅化を示し、P1/2はEPRシグナルの半飽和時のマイクロ波出力である)79,81。Y122・では、従来の測定と同様にP1/2は28±4mWであった81,82。新規シグナルの飽和プロファイルによると、P1/2は0.42±0.08であり、二核鉄中心から遠いラジカルに一致する。
【数1】

【0108】
731NHY−α2でも同様の実験を実施した。CDP/ATPの存在下のみに、推定NH731・である新規シグナルも観測される(図15)。Y122・スペクトルを差し引くと、NH730・のスペクトルに類似するが、同一ではないスペクトルが得られる(図6)。NH731・に帰属するほぼ等方的なシグナルは2.0044のgavと22Gのピーク・トラフ幅から構成される。10秒時点では、合計初期スピンの14%が失われている。残りのスピンのうち、45%はNH731・に帰属し、55%はY122・に帰属する。
【0109】
SF UV−vis分光法によりモニターしたNHY・α2形成の反応速度測定。NHY・−α2形成がwtRNRにおけるヌクレオチド還元でコンピテントとなるために十分に速い速度定数で生じるか否かを調べるために予備定常状態実験を実施した。ヌクレオチド還元をモニターした大腸菌RNRの従来の定常状態及び予備定常状態反応速度分析によると、ラジカル成長の前にはゆっくりとした立体配座変化のあることが分かっている83。このゆっくりした物理的段階は成長プロセスで形成される中間体を隠蔽する。CDP/ATPの存在下と、本試験で使用したα2及びβ2の濃度で、この立体配座変化の速度定数は〜4〜17s−1である83。dCDP形成の定常状態速度定数は2s−1のオーダーであり、dCDP形成に伴う活性部位ジスルフィドの再還元、又は再還元に伴う立体配座変化により制限されると考えられる。DOPA−β2、α2及びCDP/ATPによる従来の試験では、DOPA・形成は2つの速い反応速度相(38.0及び6.8s−1)と遅い相(0.7s−1)で生じた。従って、DOPA−β2実験の2つの速い相と、潜在的に第3相84は第1の代謝回転におけるdCDP形成を制限する立体配座変化に関して反応速度的にコンピテントであった83
【0110】
NHY・の濃度変化をモニターするためには、そのスペクトルと消光係数を求める必要がある。本発明者らの当初の予想では、そのUV−visスペクトルはDOPA・のスペクトルに類似するというものであった(315nmでλmax及びε〜12000M−1cm−138,85。310〜365nmのY122・に結び付けられる消光係数は低く(ε〜500〜1900M−1cm−1)、スペクトル逆重畳で使用することができる66,67。そこで、SF分光法を使用し、本発明者らは新規ラジカルのUV−vis特性のポイントバイポイント分析を実施した。第1のシリンジ内のY730NHY−α2(又はY731NHY−α2)とATPを第2のシリンジからのwtβ2及びCDPと混合し、305〜365nmの吸光度を5nm間隔でモニターした。次に各λで1.5秒の吸光度変化をY122・による吸収について補正し66,67、λに対してプロットした。結果を図7に示す通り、NH730・とNH731・は類似するが、異なる吸収プロファイルをもつ。NH730・のUV−visスペクトルは325nmでλmaxをもつ広幅特徴から構成される(ε〜10500M−1cm−1)。NH731・スペクトルは320nmでλmax(ε〜11000M−1cm−1)と、350nmでより明確なショルダーを示す。410nmのY122・のε68と、Y122・1モルの消滅がNHY・1モルの形成につながるという仮定を使用し、NHY・−α2の消光係数を求めた。
【0111】
730NHY−α2についてY122・の消滅(410nm)とNHY・の形成(325nm)の反応速度をモニターするために実施したSF UV−vis実験を図8に示す。410nmでは、325nmでのNHY・の形成で得られた速度定数(13.6±0.1s−1及び2.5±0.1s−1)と同様に、速度定数12.0±0.1s−1及び2.4±0.1s−1の二重指数関数的反応速度が観測された。Y731NHY−α2で同様の実験を実施した処、NH731・の形成(21.0±0.1s−1及び3±0.1s−1,図16)と同時に二重指数関数的にY122・の消滅(17.3±0.2及び2.3±0.1s−1)が生じることが分かった。両者の反応の速度定数と振幅を表2にまとめる。Y730NHY−α2(又はY731NHY−α2)及びβ2で基質とエフェクターの不在下に対照実験を実施した。EPR実験により明らかなように、同一条件下でY122・の消滅又はNHY・の形成は生じなかった。
【0112】
上記のように、NHY−α2で観測された速い速度定数はRNR代謝回転で反応速度的にコンピテントである。従って、これらの突然変異体による試験は、ラジカル成長におけるそれらの関与を証明する最初の直接証拠を提供する。DOPA−β2実験で同時に観測される遅い速度定数はRNR代謝回転の定常状態速度定数と似ている。この遅い相の可能な説明について以下に論じる。
【0113】
最後に、2秒における各ラジカルの量の分析によると、Y730NHY−α2及びY731NHY−α2では、合計初期Y122・の夫々39%と35%が消費されることが明らかである。DOPA−β2とは対照的に、NHY・は安定性が低い。この不安定性を詳細に評価し、その機構的意味を解明するために急速凍結クエンチ法を使用した反応速度分析が必要である。
【0114】
NHY−α2の活性。最近、一連のF356−β2を使用し、本発明者らはその電位がチロシンの電位よりも80〜200mV高いときに残基356のヌクレオチド還元活性と還元電位には相関があることを発見した40,43。DOPAの還元電位はY(pH7)の還元電位よりも260mV低く、DOPA−β238では、デオキシヌクレオチド形成は我々の検出下限を下回る。NHY−α2では、NHYの電位はY(pH7)の電位よりも190mV低い51。このエネルギー障壁がC439へのラジカル移動を停止させ、従って、ヌクレオチド還元を停止させるために十分に大きいか否かを試験するために、NHY−α2で活性アッセイを実施した。
【0115】
CDP形成を間接的(分光分析アッセイ)又は直接的(放射性アッセイ)にモニターすることにより活性を測定した。これらのアッセイを使用して測定した活性を表3にまとめる。その結果、Y730NHY−α2及びY731NHY−α2のヌクレオチド還元活性はwtα2の活性の夫々4%及び7%であることが分かった。観測された活性はNHY−α2に固有であるとも考えられるし、共精製する内在wtα2又はNHYを負荷したtRNACUAの代わりにTyrを負荷したmutRNACUAによるアンバーコドン抑圧の結果として宿主細胞により生成されるwtα2に起因するとも考えられる。
【0116】
これらの2つの仮説を見極めるために、NADPによるアッセイを実施した。NADPはクラスI RNRのメカニズムベースの阻害剤であり、ヌクレオチドとα2の活性部位のシステインに共有結合した中度に安定なNを核とするヌクレオチドラジカル(N・)を生成する28−31,86。このラジカルはC439・を生成してヌクレオチドで反応を開始するNHY・の能力のレポーターとして使用することができる。NADP/dGTPによるwtα2β2の不活性化に関する従来の試験によると、20秒タイムスケールでは、初期Y122・の50〜60%が失われ、等量のN・の形成をもたらすと思われる30,62。従って、NHY−α2で観測される活性がwtα2に相当するならば、合計初期Y122・の〜2%及び〜3.5%が夫々Y730NHY−α2及びY731NHY−α2とN・を形成すると予想される。
【0117】
各NHY−α2(又はwtα2)及びdGTPをwtβ2及びNADPと混合することによりNADPによるアッセイを実施した。20秒後に反応を液体Nで手動クエンチした。Y730NHY−α2に得られたEPRスペクトルを図9に示す。実測スペクトルは少なくとも3個のラジカルY122・、NH730・、及びN・の合成である。スペクトルはスペクトル幅の差とこれらの領域内の固有スペクトル特徴を使用して脱重畳することができる(図10)。そこで、まず3個のシグナルのうちで最も広幅のものを含むN・スペクトルを差し引くことによりデータを分析した。次に得られたスペクトルをY122・成分のフラクショナルサブトラクションに付し、NH730・シグナルを得た。標準EPR定量法を使用してラジカルの各々の濃度を測定した65
【0118】
この定量分析の結果を表4に示す。この結果によると、合計スピンの18%が20秒時点で失われている。残りのスピンのうち、19±2%はN・に帰属し、43%はY122・に帰属し、39%はNH730・に帰属する。20秒後に失われたスピンを考慮すると、合計初期Y122・(即ちt=0)の15±2%がN・形成をもたらす。Y731NHY−α2(図17及び表4)では、合計スピンの25%が20秒後に失われ、20±2%がN・として存在し、41%がY122・として存在し、39%がNH731・として存在する。20秒後に失われるスピンを考慮すると、合計初期Y122・の15±2%がN・の形成をもたらす。従って、どちらの突然変異体でも、観測されるN・の量は定常状態活性が汚染性wtα2に起因する場合に予想される(夫々Y730NHY−α2及びY731NHY−α2)2%又は3.5%N・を上回る。これらの結果はNHY−α2がC439・形成、従ってヌクレオチド還元でコンピテントであることを強く示唆している。

【0119】
【表1】

【0120】
【表2】

【0121】
【表3】

【0122】
【表4】

【0123】
pBAD−nrdAのクローニングとTAGコドンの挿入。ベクターpBAD−JYCUAはシュルツ研究所から入手した(参考文献61,本文)。NcoI及びKpnI制限部位を使用して標準方法によりnrdA遺伝子をpMJ1−nrdAからpBAD−JYCUAにクローニングし、pBAD−nrdAを得た。プライマー3〜6を使用してpTrc−nrdAについて記載したように730位と731位へのTAGコドンの挿入を実施した(方法の項参照)。MITバイオポリマー研究所にて全長遺伝子を配列決定することにより突然変異を確認した。
【0124】
pMJ1−nrdA730TAG及びpMJ1−nrdA731TAGの作製。ベクターpMJ1−nrdAについては以前に報告している(参考文献60,本文)。プライマー3〜6を使用してpTrc−nrdAについて記載したように730位と731位へのTAGコドンの挿入を実施した(方法の項参照)。MITバイオポリマー研究所にて全長遺伝子を配列決定することにより突然変異を確認した。
【0125】
730NHY−α2の発現の試み。NHY・の生成を伴わずにNHYを含むα2の産生を最大にしようとして、wtβ2のY122・を還元するように培地にヒドロキシ尿素を加え、好気性条件下と嫌気性条件下で種々の温度にて増殖条件を試験した。
【0126】
各場合に、DH10B又はBL21(DE3)大腸菌細胞のシングルコロニーを使用し、5mLの2YT小培養液に接種した。飽和後、この培養液をGMML培地2×100mLで100倍に希釈した。OD600nmが〜0.6〜0.8になったら、以下に詳述する変異後、一方のフラスコにNHYとDTTを夫々終濃度1mM及び0.1mMまで加えた。他方の増殖を対照として利用した。15分後に両方の100mL培養液にIPTG(又は発現システム(1)では0.2%(w/v)L−アラビノース−下記参照)を添加することによりNHY−α2の発現を誘導した。規定時間(5〜12時間)後に各フラスコから小アリコートを取出し、NHY/DTTの存在下と不在下でSDS PAGE分析によりα2の発現を評価した。
【0127】
730NHY−α2の発現に及ぼす温度の影響を試験した場合には、小培養液の増殖条件を上記と同一とした。OD600nmが〜0.6〜0.8になったら、温度設定を25又は30℃に変更した。15分後にNHYとDTTを加え、上記のように増殖を続けた。
【0128】
730NHY−α2の発現に及ぼすY122・−β2の影響を試験した場合には、小培養液の増殖条件を上記と同一とした。OD600nmが0.6〜0.8になったら、ヒドロキシ尿素を終濃度65mMまで加えた。15分後にNHYとDTTを夫々終濃度1mM及び0.1mMまで加えた。更に15分後に上記のように誘導を実施した。誘導後1時間毎に培養液に更に15mMヒドロキシ尿素を補充した。
【0129】
730NHY−α2の発現に及ぼすOの影響を試験した場合には、小培養液の増殖条件を上記と同一とした。小培養液が飽和したら、1L三角フラスコで適切な抗生物質を添加した2YT培地250mLで100倍に希釈した。飽和に達したら、適切な抗生物質を添加したファーメンターフラスコで培養液をGMML培地5〜7Lで50倍に希釈した。OD600nmが0.6〜0.8になったら、空気をN2(g)で置換した。15分後にNHYとDTTを夫々終濃度1mM及び0.1mMまで加え、上記のように増殖を続けた。
【0130】
数種類の発現システムを試験した:(1)構成的大腸菌Gln−RSプロモーター及びターミネーターの制御下のNHY−RS遺伝子とKanマーカーをpBK−NHY−RSに組込み、L−Ara誘導プロモーター及びrrnBターミネーターの制御下の適切なアンバーコドンをもつα2遺伝子と、lppプロモーター及びrrnCターミネーターの制御下のmutRNACUA遺伝子と、TetマーカーをベクターpBAD−α2に組込んだpBK−NHY−RS/pBAD−α2発現システムを検討した。(2)T7プロモーター及びターミネーターの制御下のアンバーコドンをもつnrdA遺伝子と、AmpマーカーをベクターpMJ1−nrdAに組込んだpBK−NHY−RS/pMJ1−nrdAベクター組み合わせを試験した。(3)glnS’プロモーター及びrrnBターミネーターの制御下のNHY−RS遺伝子と、proKプロモーター及びターミネーターの制御下のmutRNACUA遺伝子6コピーと、TetマーカーをpAC−NHY−RSに組込んだpAC−NHY−RS/pMJ1−nrdAシステムも試験した(表1)。
【0131】
考察
730NHY−α2及びY731NHY−α2の作製。本試験では、NHYで部位特異的に置換することにより、ラジカル成長における残基Y730及びY731の提唱される役割について評価した。本発明者らはシュルツ研究所により創始46開発47−50され、蛋白質生化学に計り知れない効果があると期待されるインビボサプレッサーtRNA/RS法を使用した。この技術を使用し、本発明者らは湿潤細胞ペースト1g当たり4〜6mgの収率でY730NHY−α2及びY731NHY−α2を作製することができる望ましいtRNA/RS対を進化させた。α2の寸法が大きく(172kDa)、NHYとYの寸法差が小さいため、直接ESI又はMALDI TOF質量分光法によるα2へのNHY組込みの定量的評価は不可能であった。NHY−α2中のYに対するNHYのレベルを評価するためにこの172kDa蛋白質のトリプシン消化産物のLC/MSを使用する分析法が現在開発中である。しかし、モデルZ−ドメイン蛋白質を用いた本発明者らの試験によると、NHYの組込みは効率的で特異的であることが分かっている。更に、NADP及びdCDPアッセイを使用して本発明者らのNHY−α2調製物を評価すると、低レベルのwtα2の存在も予想される。
【0132】
NHYを蛋白質に部位特異的に組込むことができるならば、一般に利用されよう。NHY・のUV−vis及びEPR分光特性の本発明者らの特性決定によると、触媒反応又は金属中心間の電子移動で過渡的Y・を利用すると考えられる酵素のプローブとしてNHYを利用できるはずである。更に、Francisらは最近、NHYを蛍光色素で誘導体化できることを示している87,88。従って、該当プローブを標的蛋白質に部位特異的に結合するためのツールとしてNHYを使用することもできる。
【0133】
新規ラジカルの構造帰属。CDP/ATPの存在下でNHY−α2をβ2と反応させると、新規EPR活性シグナルが観測される。しかし、上記のように、NHY・のUV−visスペクトル特性もEPRスペクトル特性も従来報告されていない。SF UV−vis及びEPR分光測定に、DOPA、カテコール及びo−アミノフェノールラジカルの性質の認識を加味し、本発明者らは新規シグナルをNHY・に帰属させる89,90。先ず、SF法により新規ラジカルのUV−visスペクトルのポイントバイポイント再構成の結果、これらの2種類のアミノ酸の構造類似性に基づいて予想されるDOPA・と類似する吸収スペクトルが明らかになった。第2に、実測EPRシグナルからY122・EPRスペクトルを差し引くと、gavが有機ラジカルに典型的な2.0043±0.0001であるスペクトルが得られる。環プロトンとアミン窒素からの小さい超微細カップリング(<10G)はo−アミノフェノールラジカルについて従来報告されているカップリングと似ている89。第3に、二核鉄(III)クラスターに対する新規ラジカルの位置に関する情報が出力飽和試験により得られた。これらの試験によると、Y122・は二核鉄(III)クラスターに近接する(クラスター内の最近接する鉄までの距離4.6Å)ため、28mWのP1/2で飽和する19。クラスターから>35Åのα2の活性部位を共有結合的に標識するメカニズムベースの阻害剤はP1/2値が0.16mWである82。新規ラジカルはP1/2が0.42±0.08mWであり、二核鉄中心から遠い種に一致する。これらのデータを総合すると、新規ラジカルはNHY・である可能性が高い(図1,スキーム1)91。この帰属を更に裏付けるために、高磁場EPR及びENDOR実験、15N及びHによる同位体標識試験とコンピュータ試験の組合せが進行中である。
【0134】
NHY・−α2形成の反応速度。SF反応速度試験によると、速度定数はY730NHY−α2では12.8及び2.5s−1であり、Y731NHY−α2では19.2及び2.7s−1である。速い速度定数は、シングルターンオーバー条件下でwtβ2におけるラジカル成長に先行することが従来分かっていた律速立体配座変化を意味する83。従って、NHY・の形成はY122・を犠牲にして反応速度的にコンピテントに生じる38。更に、DOPAと同様に、NHYは立体配座プローブとして作用し、この物理的段階の直接検出を可能にし、NHY−α2β2複合体の調節状態について報告する。DOPA356・形成のモニター時には、これらの反応速度試験で観測される遅い速度定数も認められている(各種基質/エフェクター対で0.4〜0.8s−138,84。これらの速度定数はいずれもこれらの実験で使用した蛋白質濃度でのRNRの代謝回転数と同様に同一範囲である。本発明者らの従来の試験によると、定常状態においてジスルフィドの再還元又はこのプロセスに伴う立体配座変化は律速性であると予想された。後者の場合には、この2〜3s−1の速度定数はRNRのある形態がより活性な形態にゆっくりと変換することを意味すると思われる。あるいは、NHYの組込みの結果、迅速に相互変換しないチロシン類似体の2種類の立体配座又はα2自体の2種類の異なる立体配座をもつα2となる可能性もある。NHY・形成の個々の反応速度相は、これらの2種類の立体配座がSF実験のタイムスケールで相互変換しないことを示す。他の反応速度分析により、観測される遅い速度定数の性質を更に決定させることができる。
【0135】
NHY−α2の活性アッセイ。定常状態代謝回転測定によると、どちらの突然変異蛋白質もdNDPを産生することができる。上記のように、この活性はNHY−α2と共精製される内在wtα2又はNHYの代わりにTyrを負荷したtRNACUAによるアンバーコドンの抑圧により生成されるwtα2と結び付けることができる。あるいは、活性はNHY−α2に固有であるとも考えられる。
【0136】
これらの仮説を見極めるために、メカニズムベースの阻害剤NADPによる実験を実施した。その結果、Y730NHY−α2及びY731NHY−α2で15±2%のN・形成が判明した。定常状態代謝回転がwtα2のバックグラウンドレベルに起因したならば、これらの値は夫々予想値2%及び3.5%を上回る。従って、この結果からNHY−α2はヌクレオチド産生でコンピテントであると予想される。これは推定NHY・が活性ラジカル輸送中の中間体であることを意味する。ミリ秒タイムスケールでの詳細な反応速度分析によりこの仮説は更に試験されよう。真実であるならば、これらの知見はdNDP形成でコンピテントなRNR変異体における長距離正孔移動中のアミノ酸ラジカルの最初の発見となろう。
【0137】
酸化メカニズムの意味。ヌクレオチド還元におけるコンピテンスはY730NHY−α2内のラジカル成長に興味深い機構的意味をもつ。NH730・によるC439の酸化には3種類のメカニズムを想定することができる。この反応は(1)段階的プロセス、即ち電子移動後のプロトン移動、(2)直交性プロトン共役電子移動(PCET)又は(3)共直線性PCET(即ち水素原子移動,図11)により生じると考えられる92−94。段階的プロセスの仮説は非極性α2活性部位における高エネルギー負荷中間体の形成に対する負の熱化学的バイアスと、NHY・/NH対によるシステインカチオンラジカルの形成の乗り越えられないエネルギー障壁により排除することができる(図11A)93。直交性PCETにはNHY・(pH7でE°0.64V)によるC439(pH7で溶液還元電位1.33V)の酸化が必要である(図11B)1,51。従って、2番目の仮説には16kcal/mol不利な熱力学的に困難なプロセスが必要になる。他方、水素原子移動メカニズムは熱力学的に利用し易い(図11C)。その実現可能性はR−SH(88〜91kcal/mol)とo−アミノフェノール(計算値78〜83kcal/mol)のホモリティックな結合解離エネルギーの認識に基づく1,95−97。つまり、蛋白質媒体中に摂動がないと仮定するならば、水素原子移動メカニズムに基づくNH730・によるC439の酸化は5〜13kcal/mol「しか」不足しない。従って、Y730NHY−α2におけるヌクレオチド還元活性はNH730・によるC439・形成の水素原子移動メカニズムに熱力学的に有利である。
【0138】
興味深いことに、カテコールの結合解離エネルギー(82〜83kcal/mol)はo−アミノフェノールと同等である95。しかし、DOPA356−β2はヌクレオチド還元で不活性である。DOPA−β2直交PCETの場合、この残基における酸化の機能的メカニズム(即ち図11Bと同様のメカニズム)は効率的なラジカル成長とヌクレオチド還元にレドックス電位を整合させる必要がある。Y730NHY−α2では、レドックス電位が整合していない(〜0.69Vの差)にも拘わらず、ヌクレオチド還元でコンピテンスが認められるが、これは経路においてこの残基で機能すると思われる水素原子移動を介する別の酸化メカニズムによるものと思われる。
【0139】
結論として、本発明者らは非天然アミノ酸NHYに特異的なサプレッサーtRNA/RS対の進化について報告する。NHYの部位特異的挿入は触媒反応でY・sを使用する他のシステムや、該当プローブを標的蛋白質に結合するのに有用であろう。この技術を使用し、本発明者らはY730NHY−α2とY731NHY−α2を作製し、長距離ラジカル成長におけるこれらの残基の関与について試験した。その結果、β2のY122・からサブユニット界面を通って反応速度的にコンピテントなラジカル移動が生じることと、NH730・又はNH731・のトラップが生じることが判明した。このイベントは基質とエフェクターの結合により開始される。定常状態活性アッセイに自殺型阻害剤であるNADPとの反応結果を加味すると、Y730NHY−α2とY731NHY−α2はヌクレオチド還元でコンピテントであると考えられる。従って、NH730によるC439の酸化には水素原子移動メカニズムが関係していると考えられる。NHY−α2の活性の最終的な立証にはメカニズムベースのNNDPによるNHY・の減衰とN・の形成の詳細な反応速度分析が必要である。これらの試験は現在進行中である。
【0140】
支援情報。各種条件下でベクターpBAD−nrdA及びpMJ1−nrdAからY730NHY−α2を発現させる試み、pTrc−nrdAによるY730NHY−α2の発現ゲル、NHY−α2の精製用ゲル、Y731NHY−α2とβ2の反応のSF UV−vis特性決定及び10秒EPRスペクトル、Y731NHY−α2/β2とNADP及びdGTPの反応のCDP/ATP及びEPRスペクトル。この資料はインターネットでhttp://pubs.acs.orgから無料閲覧可能である。
【0141】
図面の説明
図1:α2及びβ2のドッキングモデルから作成した推定ラジカル開始経路。Y356はβ2の無秩序C末端テールに位置するので、どの構造でも見えていない。従って、Y356からβ2−W48とα2−Y731までの距離は不明である。α2側の距離はUhlinとEklundにより決定された構造に基づき、β2側の距離は酸化したβ2の高分解能構造に基づく19
【0142】
図2:KNHY−Z−ドメインのMALDI−TOF MS及びSDS PAGE分析。陽イオン化モードで得られた精製KNHY−Z−ドメインのMALDI−TOF MS。スペクトルの主ピークのm/z[M+H]を示す。これらはKNHY−Z−ドメインのN末端開裂Met形態(exp.7814)とそのアセチル化形態(exp.7856)、全長型KNHY−His−Z−ドメイン(exp.7945)とそのアセチル化形態(exp.7987)に対応する。挿入図はNHYの不在下(レーン2)又は存在下(レーン3)における発現後の精製Z−ドメインのSDSゲルを示す。矢印はKNHY−Z−ドメインバンドを示す。蛋白質ラダーと対応するMWをレーン1に示す。
【0143】
図3:Y731NHY−α2の発現。指定通りにIPTGとNHY/DTTの存在下又は不在下で細胞を増殖させ、SDS PAGEにより発現レベルを評価した。全長型αと短縮型αの蛋白質バンドの位置を矢印で示す。
【0144】
図4:EPR分光法によりモニターしたY730NHY−α2/ATPとwtβ2/CDPの反応。反応成分を25℃で混合し、終濃度20μM Y730NHY−α2β2、1mM CDP、及び3mM ATPとした。10秒後に液体Nで反応をクエンチした後、EPRスペクトル(実線)を77Kで記録した。未反応Y122・(点線,合計スピンの47%)を差し引き、NH730・のスペクトル(破線,合計スピンの53%)を得た。挿入図はCDP/ATPの不在下のY730NHY−α2とwtβ2の反応を示す。
【0145】
図5:Y122・及びNH730・シグナル強度のマイクロ波出力依存性。マイクロ波出力の関数としてY122・とNH730・のEPRスペクトルを記録し、各シグナルの積分強度を出力の平方根に対してプロットした。黒線は式180を使用したデータへのフィットを表し、Y122・(丸)とNH730・(四角)のP1/2は夫々28±4mW(b=1.3±0.2)及び0.42±0.08mW(b=1.2±0.2)となる。
【0146】
図6:NH730・(点線,図4)とNH731・(破線,図15)の比較。
【0147】
図7:NH730・(丸)とNH731・(四角)のUV−visスペクトルのポイントバイポイント再構成。1本のシリンジ内の予備還元したY730NHY−α2とATPを別のシリンジからのwtβ2及びCDPと混合し、夫々終濃度10μM、3mM、10μM、及び1mMとした。Y731NHY−α2では、9μM Y731NHY−α2β2、1mM CDP、及び3mM ATPの終濃度で反応を実施した。5nm間隔で吸収変化をモニターし、各λで2〜4回の時間経過を平均し、このスペクトル範囲で予め決定したεを使用してY122・の吸収について補正した66,67。補正したΔODをε68に変換した後、λに対してプロットした。
【0148】
図8:NH730・形成のSF反応速度。1本のシリンジ内の予備還元したY730NHY−α2(20μM)とCDP(2mM)を別のシリンジからのβ2(20μM)及びATP(3mM)と1:1比で混合した。合計7本のトレースを325nmと410nmで平均し、NH730・形成とY122・消滅をモニターした。黒線はデータへの二重指数関数によるフィットを示す(反応速度パラメータについては表2参照)。
【0149】
図9:Y730NHY−α2、β2及びdGTPの存在下のインキュベーション後のNADPからのN・の形成。反応成分は終濃度で20μM Y730NHY−α2/β2(1.2 Y122・/β2)、1mM NADP及び0.25mM dGTPとした。20秒後に液体Nで凍結クエンチし、そのEPRスペクトルを記録した。(A)実測スペクトル(破線)からN・(点線,合計スピンの19%)を差し引くと、Y122・及びNH730・シグナルを含む黒色トレースが得られる。(B)(A)で得られたスペクトルからY122・(点線,合計スピンの43%)を差し引くと、NH730・のスペクトル(破線,合計スピンの39%)が得られる。各ラジカル種の濃度の定量については表4参照。
【0150】
図10:N・(黒線)、Y122・(点線)、及びNH730・(破線)のスペクトル比較。スペクトルの低磁場側のN・とY122・の識別可能な特徴は図4、9、15及び17の複雑なスペクトルの逆重畳を容易にする。
【0151】
図11:NH730・によるC439の酸化機構候補。(A)段階的電子移動/プロトン移動。初期電子移動イベントはチイルカチオンラジカルと3−アミノチロシネート(NH730)を含む識別可能な中間体を生成する。その後のプロトン移動により中性チイルラジカルとNH730が生じる。この反応は非常に好ましくない(本文参照)。(B)直交性PCET。ETとプロトン移動は共役するが、電子とプロトンは目的地が異なる。C439のプロトンは塩基性残基に直交して移動し、その電子はNH730・に向かって移動し、C439・とNH730を生じる。(C)共直線性PCET。C439からNH730・への水素原子移動。プロトンと電子は起点と終点が同一部分である。
【0152】
図12は大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼのα2サブユニットにおけるアミノ酸Y730及びY730の機構的役割を調べるために使用したストラテジーの模式図である
【0153】
図13:Y730NHY−α2の発現。指定通りにIPTGとNHY/DTTの存在下又は不在下で25℃又は37℃にて細胞を増殖させ、SDS PAGEにより発現レベルを評価した。全長型αと短縮型αの蛋白質バンドの位置を矢印で示す。
【0154】
図14:精製Y730NHY−α2(A)及びY731NHY−α2(B)のSDS PAGE分析。(A)レーン(1)及び(4),MWマーカー。各バンドのMWを示す。レーン(2),精製Y730NHYα2(1.5μg)。レーン(3),精製wtα2(1.5μg)。(B)レーン(1),MWマーカー。各バンドのMWを示す。レーン(2),精製Y731NHY−α2(1.5μg)。
【0155】
図15:EPRによりモニターしたY731NHY−α2/ATPとβ2/CDPの反応。反応成分を25℃で混合し、20μM Y731NHY−α2β2複合体、1mM CDP及び3mM ATPの終濃度とした。10秒後に液体Nで手動凍結させることにより反応をクエンチした後、方法のセクションに記載したように77KでEPRスペクトルを記録した。未反応Y122・(点線,合計スピンの55%)を差し引き、NH730・のスペクトル(破線,合計スピンの45%)を得た。挿入図:CDP/ATPの不在下のY730NHY−α2とwtβ2の反応。
【0156】
図16:NH731・形成の反応速度。1本のシリンジ内の予備還元したY731NHY−α2(18μM)とCDP(2mM)を別のシリンジからのβ2(18μM)及びATP(3mM)と1:1比で混合した。合計6本のトレースを320nmと410nmで平均し、NH731・形成とY122・消滅をモニターした。黒線はデータへの二重指数関数によるフィットを示す。反応速度パラメータについては表2参照。
【0157】
図17:Y731NHY−α2のNADPアッセイ。反応成分は終濃度で20μM Y731NHY−α2β2(1.2Y122・/β2)、1mM NADP及び250μM dGTPとした。20秒後に液体Nで手動凍結クエンチし、そのEPRスペクトルを記録した。(A)実測スペクトル(破線)からN・(点線,合計スピンの20%)を差し引くと、Y122・及びNH731・シグナルを含む黒実線トレースが得られる。(B)(A)で得られたスペクトルからY122・(点線,合計の41%)を差し引くと、NH731・のスペクトル(破線,合計スピンの39%)が得られる。各ラジカル種の濃度の定量については、表4参照。
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84.インテインで作製したwtβ2によるdCDP形成をモニターする急速化学クエンチ試験では、(wtβ2の場合と同様に)突発的なdCDP形成は見られなくなり、〜1s−1の単一速度定数を示す(M.Seyedsayamdost,J.Stubbe,未発表結果)。従って、DOPA−β2で観測される遅い相も代謝回転で反応速度的にコンピテントであり得る。
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【0158】
当然のことながら、本願に記載する実施例と態様は例証のみを目的とし、これらの記載に鑑みて種々の変形又は変更が当業者に想到され、このような変形又は変更も本願の精神及び範囲と特許請求の範囲に含むものとする。
【0159】
以上、明確に理解できるように本発明を多少詳細に記載したが、本発明の真の範囲を逸脱することなく形態や細部に種々の変更が可能であることは以上の開示から当業者に自明である。例えば、上記全技術及び装置は種々の組合せで使用することができる。本願に引用する全刊行物、特許、特許出願、及び/又は他の文献はその開示内容全体を全目的で本願に援用し、各刊行物、特許、特許出願、及び/又は他の文献を全目的で本願に援用すると個々に記載しているものとみなす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0160】
【特許文献1】WO2006/110182
【特許文献2】WO2002/086075
【特許文献3】WO2002/085923
【特許文献4】WO2005/019415
【特許文献5】WO2005/007870
【特許文献6】WO2006/007624
【特許文献7】WO2006/034332
【特許文献8】米国特許第7,045,337号
【特許文献9】米国特許第7,083,970号
【特許文献10】米国特許第7,238,510号
【特許文献11】米国特許第7,129,333号
【特許文献12】米国特許第7,262,040号
【特許文献13】米国特許第7,183,082号
【特許文献14】米国特許第7,199,222号
【特許文献15】米国特許第7,217,809号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−アミノチロシン(NHY)残基を含む組換えレダクターゼ酵素。
【請求項2】
レダクターゼがリボヌクレオチドレダクターゼである請求項1に記載の組換えレダクターゼ。
【請求項3】
レダクターゼがクラスI又はクラスIVリボヌクレオチドレダクターゼである請求項1に記載の組換えレダクターゼ。
【請求項4】
レダクターゼが大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼに由来する請求項1に記載の組換えレダクターゼ。
【請求項5】
組換えレダクターゼがヒトリボヌクレオチドレダクターゼ、マウスリボヌクレオチドレダクターゼ、酵母リボヌクレオチドレダクターゼ又は単純ヘルペスウイルスリボヌクレオチドレダクターゼに由来する組換えリボヌクレオチドレダクターゼである請求項1に記載の組換えレダクターゼ。
【請求項6】
レダクターゼが、
(a)大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼのα2サブユニットのY730
(b)大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼのα2サブユニットのY731
(c)大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼのβ2サブユニットのY122、又は
(d)大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼのβ2サブユニットのY356
の1個以上にNHY突然変異を含む大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼである請求項1に記載の組換えレダクターゼ。
【請求項7】
レダクターゼ酵素の1本以上のポリペプチド鎖をコードするレダクターゼ核酸に由来する組換え核酸を含む細胞であって、組換え核酸がセレクターコドンを含み、
前記細胞が更に直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と、セレクターコドンを認識する直交tRNA(O−tRNA)を含み、O−RSがO−tRNAを3−アミノチロシンで優先的にアミノアシル化する前記細胞。
【請求項8】
核酸がクラスI又はクラスIVリボヌクレオチドレダクターゼのポリペプチド鎖に相同の1本以上のポリペプチド鎖をコードする請求項7に記載の細胞。
【請求項9】
レダクターゼが大腸菌リボヌクレオチドレダクターゼに由来する請求項7に記載の細胞。
【請求項10】
3−アミノチロシンを含む請求項7に記載の細胞。
【請求項11】
3−アミノチロシン(NHY)残基を含む組換えレダクターゼ酵素の細胞ペースト又は抽出液であって、前記細胞ペースト又は抽出液が少なくとも約2及び約4mg/gのレダクターゼ酵素を含有する前記細胞ペースト又は抽出液。
【請求項12】
細胞ペーストが約4〜約6mg/gのレダクターゼ酵素を含有する請求項11に記載の細胞抽出液。
【請求項13】
組換えレダクターゼ酵素がリボヌクレオチドレダクターゼである請求項11に記載の細胞抽出液。
【請求項14】
レダクターゼにおける選択されたアミノ酸残基の機能の判定方法であって、
選択されたアミノ酸残基を3−アミノチロシン(NHY)に突然変異させ、選択されたアミノ酸に対応する位置にNHYを含む組換え突然変異体レダクターゼを作製する段階と;
組換えレダクターゼをレダクターゼの1種以上の基質又はエフェクターと混合する段階と;
NHY・の形成を検出する段階を含む前記方法。
【請求項15】
レダクターゼがリボヌクレオチドレダクターゼである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
選択されたアミノ酸残基がY残基である請求項14に記載の方法。
【請求項17】
基質がCDP、ADP、GDP又はUDPを含み、エフェクターがATPを含む請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記混合の前にレダクターゼを還元する段階を含む請求項14に記載の方法。
【請求項19】
組換えレダクターゼを還元する段階が、組換えレダクターゼを発現する細胞又は細胞培養物から組換えレダクターゼを精製する段階と、得られた精製レダクターゼを還元剤の存在下でインキュベートする段階を含む請求項18に記載の方法。
【請求項20】
NHYの形成を検出する段階がレダクターゼにおけるNHY残渣のEPRスペクトルを測定する段階を含む請求項14に記載の方法。
【請求項21】
NHYの形成を検出する段階が前記混合後にストップトフロー分光法を実施してNHY・形成の反応速度を測定する段階を含む請求項14に記載の方法。
【請求項22】
NHYの形成を検出する段階が前記混合後に急速凍結クエンチEPRを実施してNHY・形成の反応速度を測定する段階を含む請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2011−500089(P2011−500089A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531256(P2010−531256)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/081024
【国際公開番号】WO2009/055616
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(399038620)ザ スクリプス リサーチ インスティチュート (51)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】