説明

レトロフォーカス型超広角レンズ

【課題】Fno4.5、画角90°程度、バックフォーカスが焦点距離の2倍以上で諸収差を良好に補正でき、製造が容易なレトロフォーカス型超広角レンズを提案すること。
【解決手段】レトロフォーカス型超広角レンズは、屈折力が正の第1レンズ群GR1と第2レンズ群GR2を有し、第1レンズ群GR1は負レンズ群GR1nと正レンズ群GR1pを有し、負レンズ群GR1nは1枚のレンズ凸面に非球面を施した4枚の負のメニスカスレンズ1〜4で構成され、正レンズ群GR1pは像面側に凸の正レンズと物体側に凹の負レンズが接合された負の屈折力の接合面を有する屈折力正の接合レンズ5、7で構成され、第2レンズ群GR2は、絞り8、正レンズ9又は負レンズ9a、負レンズと正レンズの接合レンズ10、2枚の正レンズ11、12で構成され、条件式−0.58<Fgr1n/F<−0.36(全系の焦点距離F、負レンズ群GR1nの焦点距離Fgr1n)を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中判一眼レフカメラ用交換レンズに関し、特にバックフォーカスが長く、諸収差が良好に補正され、製造が容易なレトロフォーカス型超広角レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、一眼レフカメラ用広角レンズでは、バックフォーカスを十分に確保する必要があるので、物体側から負・正の屈折力配置の所謂レトロフォーカス型が採用されている。この種の広角レンズとしては、画角(2W)が90°以上の銀塩カメラ用レトロフォーカス型超広角レンズも知られている。
【0003】
近年、電荷結合素子(CCD)などの撮像素子を用いたデジタルスチルカメラが流行し、フィルムバックが交換可能な中判一眼レフカメラにおいては、フィルムバックに銀塩フィルムに代えてCCDを搭載した所謂デジタルバックが用いられ、既存の銀塩カメラシステムをそのままデジタルスチルカメラに兼用し得るという利点がある。
【0004】
ところが、このような撮像素子の撮像面の大きさは、現在のところ特に中判カメラにあっては、銀塩フィルムのフォーマットサイズより小さいものが殆どであって、銀塩カメラ用のレンズをデジタルバック用に兼用した場合には撮影画角が狭くなるため、CCDサイズを考慮したさらに超広角のレンズが要求されている。
【0005】
しかしながら、レトロフォーカスレンズにおいて、広画角と長いバックフォーカスを確保することは、より強い非対称性を持つことになり、負の歪曲収差、倍率色収差など諸収差の補正が困難となる。
【0006】
本願人は、かかる問題点を解決するために、特許文献1において、画角106゜程度、バックフォーカスが焦点距離の2.4倍以上確保され、諸収差が良好に補正されたレトロフォーカス型超広角レンズを提案している。
【特許文献1】特開2004−102100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示のレトロフォーカス型超広角レンズを用いれば、歪曲収差などを良好に補正することができる。しかしながら、レンズ凹面に非球面を施してあり、しかも、基準球面の曲率半径に対するサグ量が大きく、接線角も大きい。このような形状のレンズ面は、場合によっては、製造上困難なことがある。
【0008】
本発明の課題は、Fナンバー4.5、画角90°程度、バックフォーカスが焦点距離の2倍以上確保され、諸収差が良好に補正され、製造が容易なフローティング方式のレトロフォーカス型超広角レンズを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明のレトロフォーカス型超広角レンズは、
物体側より順に配列した、屈折力が正の第1レンズ群と、屈折力が正の第2レンズ群とを有し、
前記第1レンズ群は物体側から順に配列した負レンズ群と正レンズ群とを有し、
前記負レンズ群は4枚の負のメニスカスレンズを備え、これらのメニスカスレンズのいずれか1枚のレンズの凸面に非球面が施されており、
前記正レンズ群は屈折力が正の少なくとも1枚の接合レンズを備え、当該接合レンズは、像面側に凸面を向けた正レンズと物体側に凹面を向けた負レンズとが接合された負の屈折力の接合面を備えており、
前記第2レンズ群は、物体側から順に配列された、絞り、正レンズまたは負レンズ1枚、負レンズと正レンズの接合レンズ1枚、正レンズ2枚で構成され、
全系の焦点距離をF、前記第1レンズ群の前記負レンズ群の焦点距離をFgr1nとした場合に、次の条件式(1)を満足することを特徴としている。
−0.58<Fgr1n/F<−0.36 (1)
【0010】
ここで、前記負レンズ群のメニスカスレンズに施した非球面は、光軸からの高さをY、サグ量をXとし、基準球面をR、非球面係数をA0、A2、A4、A6、A8、A10とした場合に、次の非球面関数で規定され、非球面係数A0が以下の条件式(2)を満足することを特徴としている。
【0011】
【数1】

【0012】
A0>1 (2)
【0013】
また、前記第2レンズ群を構成する正レンズのうちのいずれかに使用するガラス材のd線アッベ数Vaは、次の条件式(3)を満足することを特徴としている。
Va<62 (3)
【0014】
さらに、負レンズ群を構成する負のメニスカスレンズ4枚のうちのいずれかに使用するガラス材のd線アッベ数Vbは、次の条件式(4)を満足することを特徴としている。
Vb>62 (4)
【0015】
さらにまた、正レンズ群内の接合レンズを構成する負レンズのうちのいずれかに使用するガラス材のd線アッベ数Vcは、次の条件式(5)を満足することを特徴としている。
Vc<26 (5)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、Fナンバ4.5程度、画角90°程度、バックフォーカスが焦点距離の2倍以上であり、諸収差を良好に補正でき、しかも、製造が容易なレトロフォーカス型超広角レンズを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したレトロフォーカス型超広角レンズについて詳細に説明する。
【0018】
本実施の形態に係るレトロフォーカス型超広角レンズは、Fナンバが4.5程度、画角が90°程度、バックフォーカスが焦点距離の2倍以上であり、そのレンズ構成は、例えば、図1、3および5に実施例1、2および3として示す通りである。
【0019】
すなわち、レトロフォーカス型超広角レンズは、物体側より順に配列した、屈折力が正の第1レンズ群GR1と、屈折力が正の第2レンズ群GR2とを有している。第1レンズ群GR1は、物体側から順に配列した第1レンズ群内の負レンズ群GR1nと第1レンズ群内の正レンズ群GR1pから構成されている。
【0020】
負レンズ群GR1nは、4枚の負のメニスカスレンズ1〜4から構成され、これらのうち1枚のレンズの凸面に非球面が施されている。本実施の形態では、物体側から2枚目のメニスカスレンズ2における物体側に凸のレンズ面である第3面R3に非球面が施されている。
【0021】
正レンズ群GR1pは、像面側に凸面を向けた正レンズと物体側に凹面を向けた負レンズとが接合された負の屈折力の接合面を有する屈折力が正の少なくとも1枚の接合レンズから構成される。例えば、フレア絞り6を挟み配列された2枚の接合レンズ5、7から構成され、各接合レンズ5、7は、それぞれ、像面側に凸面を向けた正レンズ5a、7aと物体側に凹面を向けた負レンズ5b、7bとが接合された負の屈折力の接合面を有する屈折力が正の接合レンズである。
【0022】
第2レンズ群GR2は、物体側から順に配列された、絞り、正レンズまたは負レンズ1枚、負レンズと正レンズの接合レンズ1枚、および、正レンズ2枚から構成される。例えば、絞り8、正レンズ9または負レンズ9a、接合レンズ10および正レンズ11、12から構成される。
【0023】
本実施の形態のレトロフォーカス型超広角レンズでは、第1レンズ群GR1が正の屈折力を有していると共に、物体側に4枚の負のメニスカスレンズ1〜4で構成される負レンズ群GR1nが配列されている。屈折面で発生する収差を抑制するために、入射光線に対して最小偏角となるように物体側にある負レンズ1〜3を物体側に凸面を向けたメニスカス形状としてある。また、超広角、長いバックフォーカスを得るために、強い発散性を有する必要性があるので、画角が大きく影響する歪曲収差などの収差の発生が大きいが、これを小さくするために、4枚の負のメニスカスレンズ1〜4の屈折力で分担している。
【0024】
また、非球面が、物体側から2枚目の負のメニスカスレンズ2における物体側に向いた凸面である第3面R3に施されている。この非球面を光軸から周辺に向かい曲率半径が小さくなるような形状にすることにより、負の歪曲収差を補正することができる。また、凸面に施した非球面の基準球面の曲率半径を、反対側の凹面に施した場合の基準球面の曲率半径より大きくすれば、曲率半径に対するサグ量の増大や接線角の増大を低減することができ、製造上の問題を回避することができる。
【0025】
ここで、非球面を施すレンズは、各画角の光束が細く、その光軸からの高さが十分に分離(交わらない)しているところ、すなわち、第1レンズ群GR1内の物体側に位置する負レンズ群GR1nを構成する負のメニスカスレンズ1〜4を選ぶと、収差の画角変動の補正に効果が高い。本実施の形態では、非球面加工の難易度を考慮して、少し径が小さくなる物体側から2枚目の負のメニスカスレンズ2を非球面としている。
【0026】
次に、本実施の形態のレトロフォーカス型超広角レンズでは、絞り8より物体側に、屈折力が負の接合面で、その向きが物体側に凹面を有する接合レンズ5又は7を配置することにより、画角が影響する倍率色収差の補正を行っている。第1レンズ群GR1内の物体側に位置する負レンズ群GR1nを構成する4枚の負メニスカスレンズ1〜4の1枚のレンズ4を物体側に凹面を向けて配置することによっても同様の効果を得ている。
【0027】
次に、本実施の形態に係るレトロフォーカス型超広角レンズは次の条件式(1)〜(5)を満足するように設定されている。
【0028】
まず、全系の焦点距離をF、第1レンズ群内の負レンズ群の焦点距離をFgr1nとした場合に次の条件式(1)を満足するようにしてある。
−0.58<Fgr1n/F<−0.36 (1)
【0029】
この条件式(1)は、第1レンズ群GR1内の負レンズ群GR1nの屈折力を規定するものである。下限値を下回ると、発散作用が強まるので長いバックフォーカスを確保できるが、各面の屈折作用が強くなるので、負の歪曲収差の発生が過大となり、レンズ面の非球面化や後続のレンズ群での補正が困難になってしまう。さらに、負レンズ2の凹面の曲率半径が小さくなるに従い、反対側の凸面側に施す非球面の形状もサグ量が増大し接線角が増大するので、製造が困難になってしまう。上限値を超えると、発散作用が弱くなるので収差補正には有利になるが、長いバックフォーカスを確保することができず、前玉径が増大するという問題が発生する。
【0030】
次に、負レンズ群GR1nの負のメニスカスレンズ2に施した非球面は、光軸からの高さYとそのときのサグ量Xの関係を示す非球面関数によって規定される。A0ないしA10は非球面係数であり、非球面係数A0が条件式(2)を満足している。
【0031】
【数1】


【0032】
A0>1 (2)
【0033】
この条件式(2)は非球面の形状を規定するものである。物体側の負レンズで発生する歪曲収差を凸面に施した非球面で補正するには、光軸から周辺に向かい曲率半径が小さくなるような形状にすることが必要である。非球面係数A0を「1」より大きな値とすることにより、換言すると、光軸を短軸とする楕円面を基準とする非球面を採用することにより、歪曲収差の補正を良好に行うことができる。
【0034】
次に、第2レンズ群を構成する正レンズのうちのいずれかに使用するガラス材のd線アッベ数Vaが次の条件式(3)を満足している。
Va>62 (3)
【0035】
また、負レンズ群を構成する負のメニスカスレンズ4枚のうちのいずれかに使用するガラス材のd線アッベ数Vbが次の条件式(4)を満足している。
Vb>62 (4)
【0036】
さらに、正レンズ群内の接合レンズを構成する負レンズのうちのいずれかに使用するガラス材のd線アッベ数Vcが次の条件式(5)を満足している。
Vc<26 (5)
【0037】
これらの条件式(3)、(4)および(5)は、絞り8より像面側の正レンズ9と、絞り8より物体側の負レンズ9aに使用するガラス材を規定するものである。各条件式を満足する部分分散の高いガラス材を使用することにより、短波長光線(青色光)の下方への偏角が増加し、倍率色収差を効率良く補正することができる。
【実施例1】
【0038】
図1は本発明を適用した実施例1に係るレトロフォーカス型超広角レンズのレンズ構成図であり、図2は撮影距離∞の場合の各収差を示す収差図である。表1には実施例1のレンズデータ、非球面係数および各条件式(1)〜(5)の値を示してある。表1における各符号の意味は次の通りである。これらの符号の意味は、実施例2、3のレンズデータを示す表2および表3においても同様である。
F:焦点距離
FB:バックフォーカス
Fno:Fナンバー
2W:全画角
I:物体側から数えたレンズ面の面番号
R(I):第I面の曲率半径
D(I):第I面後の面間距離
N(I):第I面後の屈折率
V(I):第I面後のアッベ数
【0039】
また、非球面は前述の非球面関数によって規定されており、実施例2、3においても同様である。
【0040】
【表1】

【実施例2】
【0041】
図3は本発明を適用した実施例2に係るレトロフォーカス型超広角レンズのレンズ構成図であり、図4はその撮影距離∞の場合の各収差を示す収差図である。表2には実施例1のレンズデータを示してある。
【0042】
【表2】

【実施例3】
【0043】
図5は本発明を適用した実施例3に係るレトロフォーカス型超広角レンズのレンズ構成図であり、図6はその撮影距離が無限大の場合の各収差を示す収差図である。表3には実施例3のレンズデータを示してある。
【0044】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施例1のレンズ構成図である。
【図2】実施例1の撮影距離∞の収差図である。
【図3】本発明の実施例2のレンズ構成図である。
【図4】実施例2の撮影距離∞の収差図である。
【図5】本発明の実施例3のレンズ構成図である。
【図6】実施例3の撮影距離∞の収差図である。
【符号の説明】
【0046】
GR1 第1レンズ群
GR2 第2レンズ群
GR1n 第1レンズ群内の負レンズ群
GR1p 第1レンズ群内の正レンズ群
1〜4 負のメニスカスレンズ
5 接合レンズ
6 フレア絞り
7 接合レンズ
8 絞り
9 正レンズ
9a 負レンズ
10 接合レンズ
11、12 正レンズ
R(I) 第I面の曲率半径
D(I) 第I面後の面間隔
SA 球面収差
DIST 歪曲収差(%)
AS 非点収差
S サジタル
M メリディオナル
ΔY 像高比 0割(軸上)5割 7割 10割の横収差
d d線
g g線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側より順に配列した、屈折力が正の第1レンズ群と、屈折力が正の第2レンズ群とを有し、
前記第1レンズ群は物体側から順に配列した負レンズ群と正レンズ群とを有し、
前記負レンズ群は4枚の負のメニスカスレンズを備え、これらのメニスカスレンズのいずれか1枚のレンズの凸面に非球面が施されており、
前記正レンズ群は屈折力が正の少なくとも1枚の接合レンズを備え、当該接合レンズは、像面側に凸面を向けた正レンズと物体側に凹面を向けた負レンズとが接合された負の屈折力の接合面を備えており、
前記第2レンズ群は、物体側から順に配列された、絞り、正レンズまたは負レンズ1枚、負レンズと正レンズの接合レンズ1枚、正レンズ2枚で構成され、
全系の焦点距離をF、前記第1レンズ群の前記負レンズ群の焦点距離をFgr1nとした場合に、次の条件式(1)を満足することを特徴とするレトロフォーカス型超広角レンズ。
−0.58<Fgr1n/F<−0.36 (1)
【請求項2】
請求項1において、
前記負レンズ群のメニスカスレンズに施した非球面は、光軸からの高さをY、サグ量をXとし、基準球面をR、非球面係数をA0、A2、A4、A6、A8、A10とした場合に、次の非球面関数で規定され、非球面係数A0が以下の条件式(2)を満足することを特徴とするレトロフォーカス型超広角レンズ。
【数1】


A0>1 (2)
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第2レンズ群を構成する正レンズのうちのいずれかに使用するガラス材のd線アッベ数Vaは、次の条件式(3)を満足することを特徴とするレトロフォーカス型超広角レンズ。
Va>62 (3)
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれかの項において、
負レンズ群を構成する負のメニスカスレンズ4枚のうちのいずれかに使用するガラス材のd線アッベ数Vbは、次の条件式(4)を満足することを特徴とするレトロフォーカス型超広角レンズ。
Vb>62 (4)
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれかの項において、
正レンズ群内の接合レンズを構成する負レンズのうちのいずれかに使用するガラス材のd線アッベ数Vcは、次の条件式(5)を満足することを特徴とするレトロフォーカス型超広角レンズ。
Vc<26 (5)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−225804(P2007−225804A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45706(P2006−45706)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(506321355)マミヤ・デジタル・イメージング株式会社 (2)
【Fターム(参考)】