説明

レンズ装置

【課題】新たな表示手段を設けることなくフランジバック調整モードであるか否かをユーザが把握できるようにしたレンズ装置を提供する。
【解決手段】所望の被写体にピントを合わせるために駆動されるフォーカスレンズと、焦点距離を変更するために駆動されるズームレンズと、開口径を変化させて撮影光の光量を調節する絞りとを有し、前記フォーカスレンズの位置を調節してフランジバック調整を行うように構成されたレンズ装置において、通常の撮影動作が可能な撮影モードと前記フランジバック調整が可能な調整モードとの間でモード遷移する際、前記絞りの開口径を変化させるようにする。これにより、ユーザはテレビカメラによる撮影映像を確認しているだけでフランジバック調整モードであるか否かを瞬時に把握できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレンズ装置に係り、特にフランジバック調整機構を備えたレンズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、放送用又は業務用等のテレビカメラで用いられるレンズ装置として、カメラ本体に装着した際にレンズ鏡胴後端のフランジ面(取り付け面)から結像面(カメラの撮像素子受光面)までの距離(つまり、フランジバック)を自動又は手動で調整する機構を備えたものが知られている。
【0003】
例えば特許文献1に記載されるレンズ装置には、フランジバック調整モードに移行させるための専用スイッチが設けられており、当該専用スイッチが押されると自動的にフランジバック調整が行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−197261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フランジバック調整が実施されるときのレンズ動作は、通常の撮影時とは異なる動作であるため、フランジバック調整モードに移行している間は通常の撮影動作ができなくなる。その一方で、フランジバック調整モードに移行していることを知らずに通常の撮影時と同じようにレンズ装置が操作されてしまうと、フランジバック調整が適正に実施されなくなってしまう。このため、カメラマン(ユーザ)がフランジバック調整モードであるか否かを把握できるようになっていると便利である。
【0006】
前述の特許文献1に記載されるレンズ装置では、フランジバック調整の動作状態を知らせる表示部が設けられており、フランジバックの調整動作が進行中は表示部を点滅させ、通常操作が不可能なことをカメラマンに警告し、動作が終了した段階で表示部を点灯させ、フランジバック調整済みであることを示すようにしている。
【0007】
しかしながら、フランジバック調整は、レンズ装置をカメラ本体に最初に装着した時など限られた状況で随時必要に応じて行われるものであり、撮影時における通常の操作(ズーム、フォーカス、アイリス等の操作)と比較して作業頻度は低いものである。
【0008】
また、フランジバック調整の動作状態をユーザに知らせるために新たな表示手段を設けることは装置の大型化やコストアップを招く要因となる。特に装置の小型化が要求されているポータブルレンズなどでは、新たな表示手段を設けることなくフランジバック調整モードであるか否かをユーザが把握できるようにすることが望ましい。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、新たな表示手段を設けることなくフランジバック調整モードであるか否かをユーザが把握できるようにしたレンズ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、請求項1に記載のレンズ装置は、所望の被写体にピントを合わせるために駆動されるフォーカスレンズと、焦点距離を変更するために駆動されるズームレンズと、開口径を変化させて撮影光の光量を調節する絞りとを有し、前記フォーカスレンズの位置を調節してフランジバック調整を行うように構成されたレンズ装置において、通常の撮影動作が可能な撮影モードと前記フランジバック調整が可能な調整モードとの間でモード遷移する際、前記絞りの開口径を変化させる絞り制御手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、撮影モードと調整モードとの間でモード遷移する場合には絞りの開口径を変化させるようにしたので、カメラマンはテレビカメラによる撮影映像を確認しているだけでフランジバック調整モードであるか否かを瞬時に把握できる。これにより、新たな表示手段やそのための表示回路を設ける必要がなくなり、レンズ装置の小型化やコストダウンを図ることが可能となる。
【0012】
請求項2に記載のレンズ装置は、請求項1に記載のレンズ装置において、前記絞り制御手段は、前記調整モードから前記撮影モードに遷移する際、前記絞りの開口径を最小値に変化させてから元の状態に戻すことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載のレンズ装置は、請求項1又は2に記載のレンズ装置において、前記絞り制御手段は、前記撮影モードから前記調整モードに遷移する際、前記絞りの開口径を最小値に変化させてから元の状態に戻すことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載のレンズ装置は、請求項2又は3に記載のレンズ装置において、前記絞り制御手段は、前記絞りの開口径を最小値に変化させた後、さらに最大値まで変化させてから元の状態に戻すことを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載のレンズ装置は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のレンズ装置において、前記撮影モードと前記調整モードとの間でモード遷移する際、前記ズームレンズの位置を変化させるズームレンズ制御手段を備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載のレンズ装置は、請求項5に記載のレンズ装置において、前記ズームレンズ制御手段は、前記撮影モードから前記調整モードに遷移する際、前記ズームレンズを広角端及び望遠端のうち、一方の端部に一旦移動させてから他方の端部に移動させることを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載のレンズ装置は、請求項6に記載のレンズ装置において、前記ズームレンズ制御手段は、前記撮影モードから前記調整モードに遷移する際、前記ズームレンズを広角端に一旦移動させてから望遠端に移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、撮影モードと調整モードとの間でモード遷移する場合には絞りの開口径を変化させるようにしたので、カメラマンはテレビカメラによる撮影映像を確認しているだけでフランジバック調整モードであるか否かを瞬時に把握できる。これにより、新たな表示手段やそのための表示回路を設ける必要がなくなり、レンズ装置の小型化やコストダウンを図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るレンズ装置の全体を示した斜視図
【図2】本例のレンズ装置を後方斜め下方から見上げた様子を示した図
【図3】レンズ鏡胴から取り外された状態の駆動ユニットの斜視図
【図4】フランジバック調整に関する動作フローの一例を示したフローチャート図
【図5】フランジバック調整に関する動作フローの他の例を示したフローチャート図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係るレンズ装置の全体を示した斜視図である。図1はレンズ装置を前方斜め上方から見下ろした様子を示している。また、図2は当該レンズ装置を後方斜め下方から見上げた様子を示した図である。これらの図面に示したレンズ装置10は、主に取材などで携帯される放送用又は業務用のテレビカメラ(ビデオカメラ)に装着されるレンズ装置であり、「ポータブルレンズ」、「ハンディータイプ・レンズ」、「ENGレンズ」等に分類されるレンズ装置である。
【0022】
図示のとおり、レンズ装置10は、レンズ鏡胴12と、当該レンズ鏡胴12の側部に設置された駆動ユニット14を備えている。レンズ鏡胴12は、後端部にバヨネット方式のマウント部20を有しており、このマウント部20をカメラ本体(図示せず)のマウント部に係合させることにより、レンズ鏡胴12がカメラ本体に装着されてテレビカメラが構成されるようになっている。
【0023】
レンズ鏡胴12の内部には、周知のように被写体像を結像するための光学系を構成するレンズや絞りが収容されており、レンズとして、レンズ鏡胴12の各種構成部材を支持する鏡胴本体に対して固定されたレンズの他に、光軸方向に移動可能に支持されたフォーカスレンズ群や変倍レンズ群、並びにマスターレンズ群が配置されている。
【0024】
光学系を構成するレンズの種類、枚数、絞りの構造、並びにこれらの配置順や相対的位置関係については、様々な形態が可能である。一例としてリアフォーカス式のズームレンズ装置を説明すると、対物側から順に、固定レンズ、変倍レンズ、前マスターレンズ、フォーカスレンズ、後マスターレンンズの5群のレンズ群が配置され、前マスターレンズの直前に虹彩絞りが配置される。
【0025】
レンズ鏡胴12(鏡胴本体)の外周部には、鏡胴本体に対して回動可能な複数の操作リング(21〜26)が設けられている。本例の場合、その操作リングとして前方側(対物側)からフォーカスリング21、22、変倍レンズ群に連結されたズームリング24、絞りに連結されたアイリスリング26が配置されている。フォーカスリング21、22が回動すると、これと連動してフォーカスレンズ群が光軸方向に移動して光学系全体としての焦点位置(ピントが合う被写体距離)が変化するようになっている。
【0026】
ズームリング24が回動すると、これと連動してズームレンズ群が光軸方向に移動して光学系全体としての焦点距離が変化し、アイリスリング26が回動すると、これと連動して絞りが開閉動作して光学系全体としての絞り値が変化するようになっている。
【0027】
第1フォーカスリング21、第2フォーカスリング22、ズームリング24、アイリスリング26の各々の外周面には、それぞれギア歯21A、22A、24A、26Aが形成されている。これら各操作リングのギア歯21A、22A、24A、26Aは、駆動ユニット14に設けられた対応する連結ギア(駆動対象に対応して設けられた駆動機構の連結ギア)と噛合される。
【0028】
第1フォーカスリング21は回動範囲が規制されておらず、エンドレスに回転させることができるとともに、光軸方向(前後方向)にスライド可能に配設されている。一方、第2フォーカスリング22は、ストッパー部材(不図示)によって回動範囲が規制されている。例えば、第2フォーカスリング22は、約120度の範囲内で回動できるように規制されている。
【0029】
第1フォーカスリング21を光軸方向の後側規定位置に設定すると、当該第1フォーカスリング21と第2フォーカスリング22とが連結され、第1フォーカスリング21と第2フォーカスリング22とが一体的に回動する。この状態で第1フォーカスリング21を回動させる場合には、第2フォーカスリング22の回動可能範囲内でのみ回動可能となる。
【0030】
一方、第1フォーカスリング21を前側規定位置に設定すると、第1フォーカスリング21と第2フォーカスリング22との連結が外れる。これにより、第1フォーカスリング21はエンドレスで回転できるようになる。
【0031】
このようなフォーカスリング(21,22)の構成は、第1フォーカスリング21のスライド移動(光軸方向の位置)によって相対位置指示方式のフォーカス操作と、絶対位置指示方式のフォーカス操作とを切り替えるための構造であり、特開2007−178633号公報において開示されている手段である。第1フォーカスリング21を前側規定位置に設定した場合に相対位置指示方式のフォーカス操作となり、第1フォーカスリング21を後側規定位置に設定した場合に回動範囲が規制された絶対位置指示方式のフォーカス操作となる。
【0032】
また、レンズ鏡胴12の外周部には、鏡胴本体に対して固定された第1固定環28及び第2固定環30が設けられている。第1固定環28は、フォーカスリング22とズームリング24との間に配置され、鏡胴本体と一体形成されている。第2固定環30は、ズームリング24とアイリスリング26との間に配置され、鏡胴本体とは別体の部材で形成されている。図面には示されていないが、アイリスリング26には、絞り値に関する目盛りが記されており、第2固定環30には、アイリスリング26の目盛りに対して読み取り位置を指し示す指標(指標マーク)が記されている。
【0033】
ここでいう「鏡胴本体」とは、レンズ鏡胴12の各種構成部材を支持し、レンズ鏡胴12の骨格となる部材を示す。なお、鏡胴本体と一体的に構成された第1固定環28及び第2固定環30を「固定鏡胴」或いは「固定環」として構成することも可能である。駆動ユニット14は、レンズ鏡胴12の第1固定環28及び第2固定環30の部分に対して、ねじ34、35、36を介して固定される。
【0034】
駆動ユニット14の上面部、後端面及び底面部には各種操作部(符号40〜48)が設けられている。すなわち、駆動ユニット14の上面部には、操作部材として、ズームシーソースイッチ40、アイリスモード切替スイッチ41、オートスイッチ42、リターンスイッチ43が設けられ(図1参照)、駆動ユニット14の後端面には録画スイッチ44が設けられている(図2参照)。
【0035】
ズームシーソースイッチ40は、レンズ鏡胴12の焦点距離を変化させるための操作部材である。ズームシーソースイッチ40は、光軸に略直交する軸を中心として前後に揺動自在であり、前方のテレ側凸部を押圧するとレンズ鏡胴12内の変倍レンズが望遠側(テレ側)に向けて移動し、逆に、後方のワイド凸部を押圧すると広角側(ワイド側)に向けて移動する。テレ/ワイドのいずれの押圧操作においても、ズームシーソースイッチ40の押し込み量(操作量)によって変倍スピードを調整することができ、押し込み量が大きいほど高速になる。なお、ズームシーソースイッチ40は、押圧を解除することで中立位置に復帰する。
【0036】
アイリスモード切替スイッチ41は、アイリス調節を自動で行うオートモードと、手動で行うマニュアルモードとを切り替える手段である。当該切替スイッチ41のツマミを光軸と略平行な方向に沿って前後にスライドさせることにより、オート/マニュアルのいずれか一方のモードを選択的に設定することができる。
【0037】
オートスイッチ42は、アイリス調整をマニュアルモードに設定しているときに、一時的にオートモードとするためのスイッチである。当該オートスイッチを押圧操作している間だけアイリス調節がオートモードになる。
【0038】
リターンスイッチ43は、オンエア中の画面や他のカメラで撮影している画面など他の画面をカメラのビューファインダー(図示しないカメラ本体に設けた画像表示装置)に表示するか否かを切り替えるスイッチである。当該リターンスイッチ43を押圧するごとに、ビューファインダーにおける他画面の表示の有無が切り替えられる。
【0039】
録画スイッチ44は、撮影画像の記録(録画)の開始と終了を指示するスイッチである。当該録画スイッチ44を押圧操作するごとに、録画の開始/終了の指示が切り替わる。録画が開始されると、撮影中の映像がビデオテープやメモリ等の記録媒体に記録(録画)される。
【0040】
また、図2に示すように、本例の駆動ユニット14の底面部分には、フランジバック調整スイッチ46、電動/手動ズーム切替レバー48が設けられている。
【0041】
フランジバック調整スイッチ46は、フランジ焦点距離の調整を行う際に押されるスイッチである。このスイッチ46を長押しすると(例えば、3秒間)、所定の条件を満たしている場合には、フランジバック調整モードとなる。なお、フランジバック調整モードに移行するための条件については後述する。フランジバック調整作業が完了した場合、又は、フランジバック調整モードに移行してから所定時間(例えば、2分間)が経過した場合、フランジバック調整モードが自動的に解除され、通常の撮影動作が可能な撮影モードに復帰する。
【0042】
電動/手動ズーム切替レバー48は、駆動ユニット14のズームシーソースイッチ40による電動ズーム操作と、ズームリング24を手動で回動操作するマニュアルズーム操作とを切り替えるためのレバーである。
【0043】
なお、図2中の符号50はテレビカメラ(不図示)との接続用のケーブルの一部を示したものである。当該レンズ鏡胴12のマウント部20と連結されたカメラ本体(不図示)と、駆動ユニット14とは、ケーブル50によって電気的に接続され、これらの間で電力の供給や各種信号の授受が行われる。符号52は、遠隔制御システムに接続するためのコネクタである。符号54は、グリップベルト(不図示)を取り付けるためのベルト通し穴である。図1の符号55で示したように、駆動ユニット14の前側端部にもベルト通し穴が形成されており、これら前後のベルト通し穴54,55にグリップベルトを通してグリップベルトが取り付けられる。
【0044】
カメラマンは、駆動ユニット14の筐体(ケース)60とグリップベルトの間に右手(親指以外の4本の指)を挿入することによって、駆動ユニット14とともにレンズ鏡胴12を保持することができる。また、このように撮影者(カメラマン)が駆動ユニット14を右手でグリップしたときに、その右手の親指が自然に掛かる位置に録画スイッチ44が配置されている(図2参照)。
【0045】
マウント取付枠16の側面には、スライド式のマクロON/OFFスイッチと、AF/MF切替えスイッチと、ノンロック式のAFプッシュスイッチとが配設されており、これらのスイッチの操作に伴う出力信号は、リード線を介して駆動ユニット14に加えられるようになっている。
【0046】
ここで、マクロON/OFFスイッチは、マクロ撮影モードをON/OFFさせるスイッチである。AF/MF切替えスイッチは、被写体像のコントラストが最大になるように自動的にフォーカスレンズを移動させて焦点調節を行うオートフォーカス(AF)モードと、第1フォーカスリング21を手動で回動操作することによりフォーカスレンズを移動させて焦点調節を行うマニュアルフォーカス(MF)モードとを切り替えるスイッチである。AFプッシュスイッチは、AF/MF切替えスイッチによりMFモードに切り替えられている場合に、キートップが押下(プッシュ)されている期間だけAFモードに切り替えるスイッチである。
【0047】
AF/MF切替えスイッチによりAFモードに切り替えられている場合には、駆動ユニット14は、第1フォーカスリング21、第2フォーカスリング22の操作にかかわらず、自動的にフォーカスレンズを合焦位置に移動させるAF制御を行う。
【0048】
一方、AF/MF切替えスイッチによりMFモードに切り替えられている場合には、第1フォーカスリング21のスライド位置に応じて、フルMFモード(端付き)とAF/MFモード(エンドレス)とが切り替えられるようになっている。
【0049】
なお、駆動ユニット14は、第1フォーカスリング21の前後方向の位置を検出するための光学センサ(不図示)を備えており、当該光学センサからの検出信号により第1フォーカスリング21の光軸方向のスライド位置(第1フォーカスリング21が第2フォーカスリング22に連結しているか否か)を検知することができるようになっている。駆動ユニット14は、第1フォーカスリング21が第2フォーカスリング22に連結している場合にはフルMFモードに切り替え、第1フォーカスリング21が第2フォーカスリング22に連結していない場合にはAF/MFモードに切り替えるようにする。
【0050】
フルMFモードに切り替えられると、第1フォーカスリング21を手動で操作することにより、フォーカスレンズを所望の撮影距離に対応する位置に移動させることができる。また、フルMFモードは、第1フォーカスリング21が第2フォーカスリング22を介して回動範囲が制限されており、操作者は、第1フォーカスリング21が端に到達したときの操作感によってフォーカスレンズが至近端又は無限遠端に到達したことを認識することができる。このような第1フォーカスリング21のみによるフォーカス操作は、本職のカメラマン等が使い慣れた方式である。
【0051】
一方、第1フォーカスリング21が第2フォーカスリング22に連結していないAF/MFモード時には、第1フォーカスリング21を回動させることによりフォーカスレンズを移動させるMFモードと、前述したAFプッシュスイッチの押下によるAFモードとを適宜使い分けてフォーカス制御を行うことができる。
【0052】
なお、AF/MFモード時には第1フォーカスリング21は、第2フォーカスリング22に連結していないため、その回動範囲が規制されずエンドレスで回転できるが、駆動ユニット14は、フォーカスレンズが無限遠端又は至近端の位置まで移動すると、その端を超える移動指令は出力しないようにしている。
【0053】
また、AF/MFモード時にAFプッシュスイッチの押下によりAFモードに一時的に切り替え、その後、AFプッシュスイッチから手を離してMFモードに切り替えると、AFモードによって自動的に合焦したフォーカスレンズの位置を引き継いで、第1フォーカスリング21を操作した分だけフォーカスレンズを変位させることができ、使い勝手が良くなる。
【0054】
レンズ鏡胴12の側面に取り付けられる駆動ユニット14は、金属の筐体(ケース)60によって全体が覆われている。筐体60は、カメラマンが右手でグリップしたときに手のひらに馴染むように、略卵型(レンズ鏡胴12の光軸に沿って卵を横に寝かせた面形状)の形体となっている。筐体60は、概ねレンズ鏡胴12の光軸方向に沿った面を分割面とする2つの枠体パーツ(枠部品)から構成される。すなわち、筐体60は、レンズ鏡胴12側の側面を形成する第1枠体62と、カメラマンの手のひらに触れる外側の側面を形成する第2枠体64とを向かい合わせて連結させる構造(2分割のシェル構造)となっている。
【0055】
第1枠体62はレンズ鏡胴12への固定構造として、レンズ鏡胴12の第1固定環28及び第2固定環30の各部分に対向した位置に延出する第1固定部66及び第2固定部68とが形成されている。第1固定部66及び第2固定部68は、第1固定環28と第2固定環30の各々の外周面(円筒面)に略沿ったR形状を基調する凹面状の連結面を有する。第1固定部66をねじ34により第1固定環28に固定し、第2固定部68をねじ35で固定する。なお、レンズ鏡胴12の下側(図2参照)にも第2固定部68が設けられており、この下側の第2固定部68をねじ36で固定する。かかる構造によりレンズ鏡胴12の側周面に駆動ユニット14の第1枠体62が固定される。
【0056】
当該第1枠体62と別体に構成された第2枠体64は、第1枠体62に対して、互いの周縁部に形成された連結部(不図示)の位置を合わせてビス69で連結される。こうして、第1枠体62と第2枠体64とが連結されることで駆動ユニット14の筐体60が構成されている。
【0057】
筐体60の内部には、フォーカス駆動機構、ズーム駆動機構、アイリス駆動機構、マスター駆動機構の各駆動機構を構成するモータ、ポテンショメータ、ギア列などの動力の伝達に関連する駆動機構部材が収容されている。また、当該筐体60の内部には、第1フォーカスリング21の前後方向の位置を検出するための光学センサが配設されとともに、各駆動機構のモータ制御回路やカメラとの間の信号の授受を担う制御回路等が搭載された回路基板、並びに、駆動機構部材とメイン基板との間を仕切る保護カバー等が配設される。
【0058】
保護カバーは、少なくともその表面が絶縁性を有するものであることが望ましい。また、表面の絶縁性と、モータ等で発生する電気的なノイズのシールド機能とを併せ持つように、例えば、金属薄膜などからなるシールド層の表面を絶縁性のプラスチック樹脂などで覆う構成としてもよい。
【0059】
図3は、駆動ユニット14をレンズ鏡胴12から取り外した状態で当該駆動ユニット14を第1枠体62側から描いた斜視図である。
【0060】
同図のように駆動ユニット14におけるレンズ鏡胴12との連結部90は、レンズ鏡胴12の外周形状に対応して円筒面に沿った凹曲面の連結面92を有する。レンズ鏡胴12の外周部に設けられる各操作リング(21〜26)や固定環(28、30)等は、光学系の光軸(レンズ鏡胴12の中心軸)を中心軸とする円筒面を外面形状の基調としていることに対応し、当該レンズ鏡胴12の側面に設置される駆動ユニット14の連結面92は、光軸を中心軸とした円筒面(の一部)に沿った形状を基調とし、かつ、レンズ鏡胴12のいずれの部材とも所定の隙間を有して接触しない大きさ径寸法を有する円筒面(同一径に限らない)に沿った形状を有している。
【0061】
この第1枠体62における連結面92には、操作リングに対面する部分に開口92A、92B、92Cが形成されており、それらの開口92A、92B、92Cから連結ギア94、95、96の一部が連結面92よりも外部に突出した状態で露出している。
【0062】
駆動ユニット14をレンズ鏡胴12に設置した状態において、各連結ギア94〜96は、操作リングに対応したギア歯21A〜26Aに噛合する。
【0063】
図には示さないが、駆動ユニット14の筐体60内において、各連結ギア94〜96は、それぞれ対応するモータやポテンショメータ等に連結されている。
【0064】
したがって、レンズ鏡胴12内のフォーカスレンズ群、ズーム(変倍)レンズ群、絞りの各々の現在の設定位置が、駆動ユニット14内のポテンショメータにより検出されると共に、フォーカスレンズ群、ズーム(変倍)レンズ群、絞りを駆動ユニット14の筐体60内のモータによって駆動することができるようになっている。
【0065】
なお、本実施の形態では、フォーカスレンズ群、ズーム(変倍)レンズ群、絞りのいずれをも駆動ユニット14により電動駆動可能としているが、本発明の実施に際しては、必ずしもこれら全ての可動要素を駆動ユニット14で駆動させることは要求されない。少なくとも1つの可動要素を駆動することができる駆動ユニットであればよい。ただし、テレビカメラに用いるレンズ装置の場合、少なくとも変倍レンズ群について駆動可能な駆動ユニットであることが望ましい。
【0066】
本実施形態においては、レンズ装置10のマウント部20を図示せぬカメラ本体に装着した後、カメラマンによって所定操作が行われると、レンズ装置10はフランジバック調整モードに移行する。図4は、レンズ装置10におけるフランジバック調整モードに関する動作フローの一例を示したフローチャートである。以下では、図4のフローチャートに従ってフランジバック調整モードについて説明する。なお、ここで説明する各処理は、特に断らない限り、駆動ユニット14(又はレンズ装置10)の各部の動作の制御を統括するCPU(制御回路に相当)において行われるものとする。
【0067】
図4に示したフローチャートでは、前段の4つのステップS10〜S16において、通常の撮影モードからフランジバック調整モードに移行するための条件が成立しているか否かを判断している。
【0068】
具体的には、まず始めに、ズームレンズの動作モードが電動操作可能なモードとなっているか、すなわち、電動/手動ズーム切替レバー48が電動ズーム操作側を選択しているか否かを判断する(ステップS10)。
【0069】
電動/手動ズーム切替レバー48がマニュアルズーム操作側を選択している場合(ステップS10においてNoの場合)には、フランジバック調整モードへの移行条件を満たしていないものとして通常の撮影モードに戻る。
【0070】
一方、電動/手動ズーム切替レバー48が電動ズーム操作側を選択している場合(ステップS10においてYesの場合)には、フォーカスレンズの制御モードがマニュアルフォーカスモードになっているか、すなわち、AF/MF切替えスイッチがMFモード(マニュアルフォーカスモード)を選択しているか否かを判断する(ステップS12)。
【0071】
AF/MF切替えスイッチがAFモード(オートフォーカスモード)を選択している場合(ステップS12においてNoの場合)には、フランジバック調整モードへの移行条件を満たしていないものとして通常の撮影モードに戻る。
【0072】
一方、AF/MF切替えスイッチがMFモードである場合(ステップS12においてYesの場合)には、フランジバック調整スイッチ(Ffスイッチ)48が押されているか(ON状態となっているか)否かを判断する(ステップS14)。
【0073】
フランジバック調整スイッチ48が押されていない場合(ステップS14においてNoの場合)には、フランジバック調整モードへの移行条件を満たしていないものとして通常の撮影モードに戻る。
【0074】
一方、フランジバック調整スイッチ48が押されている場合(ステップS14においてYesの場合)には、フランジバック調整スイッチ48が押されてから3秒以上経過したか否かを判断する(ステップS16)。
【0075】
フランジバック調整スイッチ48が押されてから3秒未満である場合(ステップS16においてNoの場合)には、ステップS14に戻って再度フランジバック調整スイッチ48が押されているか否かを判断する。つまり、フランジバック調整スイッチ48が3秒以上続けて長押しされてない場合には、フランジバック調整モードへの移行条件を満たしていないものとして通常の撮影モードに戻るようになっている。
【0076】
一方、フランジバック調整スイッチ48が押されてから3秒以上経過した場合(ステップS16においてYesの場合)、レンズ装置10はフランジバック調整モードに移行する。
【0077】
本実施形態では、通常の撮影モードからフランジバック調整モードへの移行条件として、 (1) ズームレンズの動作モードが電動操作可能なモードであること、(2)フォーカスレンズの制御モードがマニュアルフォーカスモードであること、(3)フランジバック調整スイッチ48が所定時間(本例では3秒間)以上長押しされていること、の3つの条件を満たすことが必要とされている。
【0078】
なお、本実施形態においては、マニュアルフォーカスモードが選択されている場合、第1フォーカスリング21のスライド位置によって、フルMFモード(端付き)とAF/MFモード(エンドレス)とが切り替えられるようになっているが、フランジバック調整モードへの移行条件としては、これらのマニュアルフォーカスモードのうち何れのモードが選択されていてもよい。
【0079】
レンズ装置10がフランジバック調整モードに移行すると、望遠側と広角側の両方でピントが合うように以下の順序でフランジ焦点距離の調整が行われる。なお、この調整作業が少なくとも開始されるまでには、カメラマンは適当な被写体を選択しているものとする。
【0080】
また、フランジバック調整では被写体深度を浅くするために、絞りは開放されていた方が好ましいが、高輝度被写体の場合にはテレビカメラの映像信号が飽和して適切なピント合わせができなくなるおそれがある。このため本実施形態では、フランジバック調整を行うときに撮影される被写体に応じて、カメラマンが絞りの開口径を手動で調整するようになっている。なお、フランジバック調整が行われるときの被写体距離としては特に限定されるものではないが、例えば3mの被写体距離が好ましく採用される。
【0081】
フランジバック調整モードに移行したら、まず最初に、ズームレンズを広角端(ワイド端)に一旦移動させた後(ステップS18)、広角端に移動したズームレンズを望遠端(テレ端)まで移動させる(ステップS20)。
【0082】
このようにズームレンズを可動可能な全範囲にわたって移動させることによって、テレビカメラによる撮影画像(撮影映像)に大きな画角変化が生じるので、カメラマンはレンズ装置10がフランジバック調整モードに移行したことを瞬時に把握することができる。
【0083】
上記のようにしてズームレンズを望遠端に移動させた後、カメラマンによるピント合わせが完了するまで待機状態となる。具体的には、フランジバンク調整スイッチ48が押されるか否かを判断し(ステップS22)、カメラマンによってフランジバンク調整スイッチ48が押されるまでそのままの状態が維持される。
【0084】
この待機状態の間にカメラマンは、ズームレンズが望遠端に設定されている状態で第1フォーカスリング21を回してピント合わせを行い、ピントが合ったらフランジバック調整スイッチ48を押す。
【0085】
フランジバック調整スイッチ48が押された場合(ステップS22においてYesの場合)、そのときのフォーカスレンズの位置が記憶される(ステップS24)。なお、フォーカス位置はメモリ(不図示)等に記憶される。
【0086】
次に、ズームレンズを望遠端から広角端に移動させる(ステップS26)。そして、前述のステップS22と同様、カメラマンによってフランジバンク調整スイッチ48が押されるまで待機状態となる(ステップS22)。この待機状態の間にカメラマンは、ズームレンズが望遠端に設定されている状態で第1フォーカスリング21を回してピント合わせを行い、ピントが合ったらフランジバック調整スイッチ48を押す。
【0087】
フランジバック調整スイッチ48が押された場合(ステップS28においてYesの場合)、そのときのフォーカスレンズの位置が記憶される(ステップS30)。
【0088】
このように望遠側と広角側の両方でピントが合うように順次調整して、そのときのフォーカスレンズの位置をメモリ等に記憶させた後、ズームレンズを望遠側の元の位置に戻す(ステップS32)。なお、フランジバック調整モードに移行したときのズームレンズの初期位置はメモリ等に記憶されている。
【0089】
最後に、フランジバック調整モードが正常に完了したことをカメラマンに知らせるために、絞りを最小開口径まで一旦クローズさせてから(ステップS34)、クローズ前の元の開口径に絞りを戻す(ステップS36)。このとき、カメラマンがフランジバック調整モードの終了をより確実に把握できるように、絞りを最小開口径から最大開口径(又はその逆)に変化させてから元の開口径に絞りを戻すようにしてもよい。
【0090】
このようにフランジバック調整モードが終了したことをカメラマンに知らせる動作として絞りの開閉動作が行われた後、レンズ装置10はフランジバック調整モードを解除して、通常の撮影モードに復帰する。これにより、通常の撮影操作が可能となる。
【0091】
なお、上述したように、フランジバック調整モードに移行してから所定時間(例えば、2分間)が経過した場合、フランジバック調整モードが自動的に解除されて通常の撮影モードに復帰する。このような場合にも、フランジバック調整が正常に完了した場合と同様、絞りの開閉動作によってカメラマンに通常モードに復帰したことを知らせるようにする態様が好ましい。
【0092】
図5は、レンズ装置10におけるフランジバック調整モードに関する動作フローの他の例を示したフローチャートである。図5中、図4と共通する処理については同一の符号を付して説明を省略する。
【0093】
図5に示した例では、フランジバック調整モードに移行したことをカメラマンに知らせるための動作として、ズームレンズを広角端から望遠端まで移動させるのではなく、絞りを最小開口径に一旦クローズさせてから(ステップS40)、クローズ前の元の開口径に絞りを戻すようにしている(ステップS42)。
【0094】
また図示は省略するが、通常の撮影モードからフランジバック調整モードに移行したことをカメラマンに知らせるための動作として、ズームレンズの移動と絞りの開閉動作を組み合わせるようにしてもよい。フランジバック調整モードから通常の撮影モードに復帰する場合についても同様である。ズームレンズの移動と絞りの開閉動作を組み合わせることによって、仮にどちらか一方の変化が少ない場合でもユーザはモード遷移を見逃さずにモードが変化したことを確実に把握することができる。
【0095】
このように本実施形態によれば、撮影モードと調整モードとの間でモード遷移する場合には絞りの開口径やズームレンズの位置を変化させるようにしたので、カメラマンはテレビカメラによる撮影映像を確認しているだけでフランジバック調整モードであるか否かを瞬時に把握できる。これにより、新たな表示手段やそのための表示回路を設ける必要がなくなり、レンズ装置の小型化やコストダウンを図ることが可能となる。
【符号の説明】
【0096】
10…レンズ装置、12…レンズ鏡胴、14…駆動ユニット、20…マウント部、21…第1フォーカスリング、22…第2フォーカスリング、24…ズームリング、26…アイリスリング、46…フランジバック調整スイッチ、48…電動/手動ズーム切替レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の被写体にピントを合わせるために駆動されるフォーカスレンズと、焦点距離を変更するために駆動されるズームレンズと、開口径を変化させて撮影光の光量を調節する絞りとを有し、前記フォーカスレンズの位置を調節してフランジバック調整を行うように構成されたレンズ装置において、
通常の撮影動作が可能な撮影モードと前記フランジバック調整が可能な調整モードとの間でモード遷移する際、前記絞りの開口径を変化させる絞り制御手段を備えたことを特徴とするレンズ装置。
【請求項2】
前記絞り制御手段は、前記調整モードから前記撮影モードに遷移する際、前記絞りの開口径を最小値に変化させてから元の状態に戻すことを特徴とする請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項3】
前記絞り制御手段は、前記撮影モードから前記調整モードに遷移する際、前記絞りの開口径を最小値に変化させてから元の状態に戻すことを特徴とする請求項1又は2に記載のレンズ装置。
【請求項4】
前記絞り制御手段は、前記絞りの開口径を最小値に変化させた後、さらに最大値まで変化させてから元の状態に戻すことを特徴とする請求項2又は3に記載のレンズ装置。
【請求項5】
前記撮影モードと前記調整モードとの間でモード遷移する際、前記ズームレンズの位置を変化させるズームレンズ制御手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のレンズ装置。
【請求項6】
前記ズームレンズ制御手段は、前記撮影モードから前記調整モードに遷移する際、前記ズームレンズを広角端及び望遠端のうち、一方の端部に一旦移動させてから他方の端部に移動させることを特徴とする請求項5に記載のレンズ装置。
【請求項7】
前記ズームレンズ制御手段は、前記撮影モードから前記調整モードに遷移する際、前記ズームレンズを広角端に一旦移動させてから望遠端に移動させることを特徴とする請求項6に記載のレンズ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−133820(P2011−133820A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295476(P2009−295476)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】