説明

レンズ駆動装置および光ピックアップ装置

【課題】 駆動機構の構成が極めて簡素で、且つ、発熱の惧れがなく、さらに、低振動、低消費電力、低騒音を実現できるレンズ駆動装置を提供する。
【解決手段】 駆動源として高分子アクチュエータ120を用いる。高分子アクチュエータ120は、ゲル電極層とゲル電解質層が積層して構成されており、両ゲル電極間に電位を印加することにより、イオンの局在が生じ、電気的引力または斥力が発生する。この力によって、フィルム面に垂直な方向に変形する。高分子アクチュエータ120の両端はハウジング400のフィルム装着部421に固着されている。高分子アクチュエータ120上には、ガイドシャフト223に変位可能に支持されたレンズホルダー221の底面が固着されている。電位の印加によって高分子アクチュエータ120が湾曲すると、レンズホルダー221が光軸方向に駆動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ駆動装置および光ピックアップ装置に関し、特に、収差補正またはチルト補正の際に用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
ディスクの厚み誤差や半導体レーザの波長変動等によって、光ピックアップ装置からディスク上に収束される収束光上に球面収差等の波面収差が生じる。この問題は、青紫レーザ光を用いた次世代DVD(Digital Versatile Disc)等、使用レーザ光の短波長化が進むにつれて、より顕著となる。
【0003】
かかる問題の解決手法として、これまで種々の手法が検討・提案されている。
【0004】
たとえば、以下の特許文献1では、半導体レーザから対物レンズまでの間の光路中に収差補正用レンズを配し、このレンズをモータにて光軸方向に駆動するようにしている。また、特許文献2では、かかる収差補正用レンズを、コイルとマグネットによるボイスコイル駆動アクチュエータにて駆動するようにしている。
【0005】
収差補正用レンズを光軸方向に駆動すると、対物レンズに入射するレーザ光の広がり角が変更され、収束光上の収差発生状態が変わる。ディスク上における収束光の収差を打ち消すよう、収差補正レンズを駆動制御することにより、収差補正を行うことができる。
【特許文献1】特開2003−91847号公報
【特許文献2】特開2003−16660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来技術によれば、モータ、リードスクリュー等の機構部、あるいは、コイル、マグネット等の機構部が必要となるため、駆動機構の構成が複雑、且つ、大掛かりなものになるとの問題が生じる。また、モータ等からの発熱・振動等がピックアップ装置の性能に悪影響を与える惧れもある。
【0007】
そこで、本発明は、駆動機構の構成が極めて簡素で、且つ、発熱の惧れがなく、さらに、低振動、低消費電力、低騒音を実現できるレンズ駆動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係るレンズ駆動装置は、所定方向に変位可能にレンズを支持するレンズ支持手段と、サーボ電圧の印加によって前記レンズ支持手段に駆動力を付与する駆動手段とを備え、さらに、前記駆動手段は、前記サーボ電圧の印加によりイオンが移動および局在することによって発生する電気的引力または斥力により変形する構造体と、当該構造体の変形を、駆動力として前記レンズ支持手段に伝達する伝達手段とを有することを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、前記第1の発明に係るレンズ駆動装置において、前記構造体は、前記イオンが移動および局在することによって発生する電気的引力または斥力により平面に垂直な方向に湾曲するフィルム状構造体によって構成され、前記伝達手段は、前記フィルム状構造体の湾曲方向が前記レンズの駆動方向に沿うよう前記フィルム状構造体をベースに配置するとともに、前記フィルム状構造体の両端を前記ベースに固着し、さらに、湾曲中央部分を前記レンズ支持手段の駆動力被伝達部に固着するようにして構成されていることを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、前記第1の発明に係るレンズ駆動装置において、前記構造体は、前記イオンが移動および局在することによって発生する電気的引力または斥力により長手方向の寸法が変位する構造体によって構成され、前記伝達手段は、前記構造体の長手方向の一端が固着されるシリンダーと、当該シリンダーに沿って摺動するとともに前記構造体の長手方向の他端が固着された可動体とを備えるアクチュエータをベースに固着し、さらに、前記可動部を前記レンズ支持手段の駆動力被伝達部に固着するようにして構成されていることを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、前記第1乃至第3の何れかの発明に係るレンズ駆動装置において、前記構造体は、前記イオンの局在により電気的引力または斥力を発生する変形可能なゲル電極層と、前記イオンを保持するゲル電解質層とを具備することを特徴とする。
【0012】
第5の発明は、前記第1乃至第4の何れかの発明に係るレンズ駆動装置において、前記レンズ支持手段は、記録媒体上に収束される収束光の収差を補正するためのレンズを収差補正方向に変位可能に支持することを特徴とする。
【0013】
第6の発明は、レンズを支持するレンズ支持手段と、サーボ電圧の印加によって前記レンズ支持手段に駆動力を付与する駆動手段とを備え、前記駆動手段は、前記サーボ電圧の印加によりイオンが移動および局在することによって発生する電気的引力または斥力により変形する構造体と、当該構造体の変形を、駆動力として前記レンズ支持手段に伝達する伝達手段とを有することを特徴とする。
【0014】
第7の発明は、前記第6の発明に係るレンズ駆動装置において、前記レンズ支持手段は、記録媒体上に光を収束するための対物レンズを変位可能に支持するとともに、サーボ電圧の印加によって対物レンズを駆動する対物レンズ駆動アクチュエータであることを特徴とする。
【0015】
第8の発明は、前記第7の発明に係るレンズ駆動装置において、前記構造体は、前記イオンが移動および局在することによって発生する電気的引力または斥力により平面に垂直な方向に湾曲する一対のフィルム状構造体によって構成され、前記伝達手段は、前記フィルム状構造体の湾曲方向が前記対物レンズのチルト補正方向に沿うよう前記一対のフィルム状構造体をそれぞれベースに配置するとともに、前記フィルム状構造体の両端を前記ベースに固着し、さらに、湾曲中央部分を前記対物レンズ駆動アクチュエータの基部に固着するようにして構成されていることを特徴とする。
【0016】
第9の発明は、前記第8の発明に係るレンズ駆動装置において、前記一対のフィルム状構造体は、それぞれその両端部がベースに懸架され、その上に前記対物レンズ駆動アクチュエータが載置されていることを特徴とする。
【0017】
第10の発明は、上記第1乃至第9のうち何れか一項に記載のレンズ駆動装置を内蔵した光ピックアップ装置である。
【0018】
本発明の特徴は、以下に示す実施形態の説明により更に明らかとなろう。
【0019】
なお、本発明における「構造体」は、実施形態において「高分子フィルム」として示されている。
【0020】
また、上記第2の発明は「実施例2」として具体化され、上記第3の発明は「実施例1」として具体化され、上記第7乃至第9の発明は「実施例3」として具体化されている。
【0021】
但し、以下の実施形態は、本発明の一つの実施形態を例示するものであって、本発明ないし各構成要件の用語の意義を何ら制限するものではない。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、サーボ電圧の印加によってそれ自身の形状寸法が変位する構造体を駆動手段として用いるものであるため、モータ、リードスクリュー、コイル、マグネット等のアクチュエータが不要となり、レンズ駆動機構を単純・簡素なものとすることができる。
【0023】
また、この構造体は、発熱や機械的振動が殆ど生じないため、駆動手段からの熱や振動によってピックアップ装置の特性が悪化するといった問題が生じることもない。さらに、この構造体は、消費電力が小さく、また、駆動時に騒音が殆ど生じないためレンズ駆動装置の低消費電力化、低騒音化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態につき図面を参照して説明する。
【0025】
図1に、駆動源となる高分子フィルムの断面構造を示す。図示の如く、高分子フィルムは、ゲル電極層、ゲル電解質層が積層された構造となっている。なお、高分子フィルムの平面形状は、同図左右方向を長手方向とする細長い長方形となっている。
【0026】
以下に、まず、ゲル電極層およびゲル電解質層の構造および特性について説明する。
【0027】
一般に、ゲルは、高分子鎖の網目構造が大きな、弾性力のある高分子であり、その高分子鎖の網目構造の中に液体分子などを保持できる特性がある。ここで、高分子鎖に電荷があり、網目構造中に逆電荷を有する液体分子(イオン)があれば、当該イオンがゲル中で安定に保持されたイオン含有ゲルは、ゲル電解質となる。また、このゲル電解質の高分子の網目構造の中に、導電性を有する微粒子であるカーボン系微粒子を混合することにより、当該ゲル電解質はゲル電極となり、つまり、ゲル自体が電極のような導電性を有することとなる。
【0028】
なお、ゲル電解質やゲル電極の形成に適する代表的な高分子として、ポリビリニデンフルオライドーヘキサフルオロプロピレン共重合体がある。また、高分子中の含有イオンには、常温・常圧中で安定なイオン性液体が適しており、その代表的なものとして、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド、および、1−(4−アクリロイルオキシブチル)−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロフォスフェイトがある。さらに、ゲル電解質への導電性付与に適したカーボン系微粒子素材として、カーボンナノチューブ、グラファイト、フラーレンがある。
【0029】
図1に示す高分子フィルムの積層構造は、何れもゲル電極、ゲル電解質、ゲル電極の順に、キャストと乾燥を繰り返すことにより作成される。また、電圧は両ゲル電極層に印加される。
【0030】
高分子フィルムの両電極層に電圧が印加されると、ゲル電解質層内に保持されているイオンが、その極性により一方のゲル電極層内の、特にカーボン微粒子表面近傍に移動して局在するため、表面電荷と周囲の荷電高分子との電気的引力または斥力により、隣接するカーボン微粒子どうしの距離が増減する。その結果、当該ゲル電極層が伸縮する。一方、他方のゲル電極層内からはイオンがゲル電解質側に移動するため、内在するカーボン微粒子表面の電荷が減少し、微粒子周囲の荷電高分子との電気的引力または斥力により、やはり隣接するカーボン微粒子どうしの距離が増減する。その結果、当該ゲル電極層は、やはり伸縮する。ただし、その伸縮挙動は他方のゲル電極層の伸縮挙動と逆になる。
【0031】
つまり、高分子フィルムの両電極層に電圧が印加されると、一方のゲル電極層が伸び、他方のゲル電極層が縮み、その結果、高分子フィルム全体が屈曲することとなる。この際、ゲル電極層もゲル電極層の伸縮に伴い屈曲するが、伸縮することはない。
【0032】
図1に示す高分子フィルムは、かかるゲル電極層の特性を利用して構成されたものである。
【0033】
図1に示された2つの積層パターンのうち、(1)のパターンでは、各ゲル電極層の伸縮に応じて、高分子フィルム全体が円弧形状に変形(湾曲)し、これにより、高分子フィルムは、その中央部が、上下方向(パターン(1)上に付された矢印方向)に変位する。
【0034】
(2)のパターンは、上下両面のゲル電極層をそれぞれ2つに分割して形成し、逆極性の電位を印加するように配線したものである。このパターンでは、電位を印加すると、高分子フィルムは全体として蛇腹のような形状(パターン(2)上に付された波形状)に変形する。その結果、高分子フィルムは、長手方向および上下方向に伸縮する。
【0035】
図1には、高分子フィルムの構成に加えて、各層に電位を印加するための回路構成を重ねて示してある。印加する電位を増減すると、これに応じて、高分子フィルムの変位量が変化する。以下に示すレンズ駆動装置では、印加される電位の大きさを調整することで、高分子フィルムの変位量を変化させ、これにより、レンズの駆動量が調整される。
【0036】
なお、ゲル電極層およびゲル電解質層からなる積層構造および素材の製造プロセスについては、たとえば、(社)計測自動制御学会 第5回 システムインテグレーション部門 講演論文集 657−658ページおよびSciense 300,2072(2003)にも記載されている。
【実施例1】
【0037】
図2に、本実施例にて用いられる高分子アクチュエータ(シリンダタイプ)の構成を示す。図示の如く、高分子アクチュエータ100は、高分子フィルム101、シリンダー102、摺動部材103、シリンダキャップ104から構成されている。
【0038】
高分子フィルム101は、電位を印加することによって長手方向の外形寸法が変化する導電性高分子フィルムであり、本実施例では、上記図1に示すパターンのうち、パターン(2)の高分子フィルムが用いられている。かかる高分子フィルム101の両端部には接合治具が配されており、両面部のゲル電極層の一方に電位を供給するための電位供給端子を兼ねるものとなっている。
【0039】
シリンダー102は、円筒形の筒とその底部を閉塞する底蓋から構成されており、このうち底蓋には、高分子フィルム101の端部に配された接合治具(電位供給端子)が接合される接合部(端子)が配されている。
【0040】
摺動部材103は、所定の厚みを有する円形状の板体からなっており、かかる摺動部材103の裏面側には、高分子フィルム101の端部に配された接合治具が接合される接合部(図示せず)が配され、また、上面側には、円柱状の可動部103aが形成されている。なお、摺動部材103の外径は、シリンダー102の内径よりもやや小さくなっている。
【0041】
シリンダキャップ104は、シリンダー102の上部を閉塞するキャップであって、その上面に、可動部103が挿入される軸受け104aが形成されている。
【0042】
高分子アクチュエータのアセンブル時には、まず、高分子フィルム101の一端に配された接合治具(電位供給端子)をシリンダー102の底蓋に配された接合部(端子)に接合し、他端に配された接合治具を摺動部材103の裏面に配された接合部に接合する。そして、底蓋を、シリンダー102の筒の底部に固着した後、摺動部材103をシリンダー102内に収容し、さらに、可動部103aを軸受け104aに挿入しながら、シリンダキャップ104をシリンダー102の上部に固着する。
【0043】
このようにしてアセンブルされた高分子アクチュエータ100の構成を図3に示す。
【0044】
かかる導電性アクチュエータ100に接合治具(電位供給端子)を介して電位を印加すると、シリンダー102内に収容された高分子フィルム101が、印加電位の大きさに応じた寸法に伸縮する。これにより、摺動部材103が軸受け104aに案内されながらシリンダー102内を変位し、その上面に形成された可動部103aが上下方向に駆動される。
【0045】
図4ないし図6は、かかる高分子アクチュエータ100を駆動源として用いたレンズ駆動装置の構成例を示すものである。なお、当該レンズ駆動装置は、光ピックアップ装置内に配された収差補正用レンズを駆動するものである。
【0046】
図4は、当該レンズ駆動装置の要部構成を示す図(分解斜視図)である。
【0047】
図示の如く、当該レンズ駆動装置においては、一対の収差補正用レンズ(可動レンズ301、固定レンズ302)のうち、可動レンズ301を保持して駆動するためのレンズホルダー201が準備されている。かかるレンズホルダー201には、開口が形成されており、この開口に可動レンズ301が装着される。また、レンズホルダー201には、孔202が形成されており、この孔202に、高分子アクチュエータ100の可動部103aが嵌入固着される。さらに、レンズホルダー201の端部にはガイド溝203が形成されており、このガイド溝203にガイドシャフト204が挿入されることにより、レンズホルダー201が、ガイドシャフト104aに移動方向に変位可能に支持される。
【0048】
図5は、図4に示す各部材をアセンブルした状態を示す図である。
【0049】
同図に示す状態において、高分子アクチュエータ100に電圧を印加し、可動部103aを駆動すると、レンズホルダー201が、ガイドシャフト204に案内されて、同図の矢印方向に変位される。これにより、可動レンズ301が光軸方向に変位し、可動レンズ301と固定レンズ302間の距離が変動する。
【0050】
ここで、可動レンズ301と固定レンズ302は、一方が凹レンズ、他方が凸レンズとなっている。よって、高分子アクチュエータ100の駆動によって両レンズ間の距離が変動すると、これら2つのレンズを透過した後のレーザ光の広がり角が、かかる距離変動に応じて変化するようになる。
【0051】
図6は、当該レンズ駆動装置を光ピックアップ装置のハウジング400に装着した状態を示すものである。
【0052】
図示の如く、高分子アクチュエータ100は、ハウジング400の凹部に配されたシリンダー装着部401に装着され、また、ガイドシャフト204は、当該凹部に配されたガイドシャフト装着部402に装着されている。さらに、固定レンズ302は、可動レンズ301に対向するようにして、ハウジング400の凹部に装着されている。
【0053】
さらに、ハウジング400の凹部には、半導体レーザ303と、ビームスプリッタ304と、ミラー305と、収束レンズ306と、光検出器を保持する基板307が装着されている。この他、ハウジング400上には、対物レンズをフォーカス方向およびトラッキング方向に駆動する対物レンズ駆動アクチュエータ(図示せず)が装着されている。
【0054】
半導体レーザ303から出射されたレーザ光はビームスプリッタ304を透過した後、固定レンズ302と可動レンズ301によって広がり角が調整される。しかる後、ミラー305によって上方に反射され、対物レンズ駆動アクチュエータ(図示せず)の対物レンズによってディスク上に収束される。
【0055】
ディスクから反射されたレーザ光は、上記光路を逆行し、ビームスプリッタ304に入射される。そして、ビームスプリッタ304によって反射された光は、収束レンズ306によって、基板307に配備された光検出器上に収束される。
【0056】
記録または再生動作時には、高分子アクチュエータ100に、収差補正用のサーボ信号(電位信号)が印加され、可動レンズ301が光軸方向に変位される。これにより、対物レンズに入射されるレーザ光の広がり角が変更され、ディスク上における収束光の収差が補正される。
【0057】
本実施例によれば、駆動源として高分子アクチュエータ100を用いたことにより、モータ、リードスクリュー、コイル、マグネット等の大掛かりなアクチュエータが不要となり、図6に示すように、レンズ駆動機構を極めてシンプルな構成とすることができる。
【0058】
また、この高分子アクチュエータ100内に収容される高分子フィルムは、発熱や機械的振動が殆ど生じないため、駆動源からの熱や振動によってピックアップ装置の特性が悪化するといった問題が生じることはなく、さらに、この高分子フィルムは、消費電力が小さく、また、駆動時に騒音が殆ど生じないため、レンズ駆動装置ないし光ピックアップ装置の低消費電力化、低騒音化を図ることができる。
【実施例2】
【0059】
図7に、本実施例に係るレンズ駆動装置の要部構成を示す。なお、本実施例に係るレンズ駆動装置は、上記実施例1と同様、光ピックアップ装置内に配された収差補正用レンズを駆動するものである。
【0060】
図示の如く、かかるレンズ駆動装置においては、駆動源として、フィルムタイプの高分子アクチュエータ120が用いられている。かかる高分子アクチュエータ120は、電位を印加すると、フィルム面に垂直な方向に全体が円弧形状に変形(湾曲)する導電性高分子フィルムにより構成されており、上記図1に示すパターンのうち、パターン(1)の高分子フィルムが用いることができる。
【0061】
なお、かかる高分子アクチュエータ120の一方の端部には、高分子フィルムの導電性高分子材料層と固体電解質層に電位を供給するための接合端子121が配備されている。また、高分子アクチュエータ120は中央部が階段状に幅広になっており、この幅広部122に可動レンズ301に光を導くための開口が形成されている。
【0062】
図7に示す如く、本実施例に係るレンズ駆動装置においては、可動レンズ301を保持して駆動するためのレンズホルダー221が準備されている。レンズホルダー221は、その側面が、高分子アクチュエータ120の幅広部122の側面に固着されている。レンズホルダー221には、その中央部近傍に開口が形成されており、この開口に可動レンズ301が装着されている。また、レンズホルダー211には、対角線方向に2つの孔222が形成されており、これら孔222に、それぞれガイドシャフト223が挿入されることにより、レンズホルダー221が、同図中の矢印方向に変位可能に支持される。
【0063】
図8は、当該レンズ駆動装置を光ピックアップ装置のハウジング400に装着した状態を示すものである。
【0064】
図示の如く、ハウジング400の凹部には、一対のフィルム装着部421が配されている。このうち、一方のフィルム装着部421の溝内には、高分子アクチュエータ120の端部に配備された接合端子121と電気的に接合する接合端子が配備されている。高分子アクチュエータ120は、両側端部が、フィルム装着部421の溝に挿入された状態で、フィルム装着部411に固着されている。
【0065】
ガイドシャフト223は、上記図7を参照して説明したように、レンズホルダー221の孔222に挿入され、凹部に配されたガイドシャフト装着部422に装着される。さらに、可動レンズ301に対向するようにして、固定レンズ302がハウジング400の凹部に装着されている。その他の構成は、上記実施例1における図6と同様である。
【0066】
同図に示す状態において、高分子アクチュエータ120に電圧を印加し、高分子アクチュエータ120をフィルム面に垂直な方向に変形(湾曲)させると、レンズホルダー221が、ガイドシャフト223に案内されて変位される。これにより、可動レンズ301が光軸方向に変位し、可動レンズ301と固定レンズ302間の距離が変動する。上記の如く、可動レンズ301と固定レンズ302は、一方が凹レンズ、他方が凸レンズとなっているため、このようにして両レンズ間の距離が変動すると、これら2つのレンズを透過した後のレーザ光の広がり角は、かかる距離変動に応じて変化するようになる。
【0067】
記録または再生動作時には、高分子アクチュエータ120に、収差補正用のサーボ信号(電位信号)が印加され、可動レンズ301が光軸方向に変位される。これにより、対物レンズに入射されるレーザ光の広がり角が変更され、ディスク上における収束光の収差が補正される。
【0068】
本実施例によれば、上記実施例1と同様、レンズ駆動機構を極めてシンプルな構成とすることができる。また、駆動源からの熱や振動によってピックアップ装置の特性が悪化するといった問題が生じることはなく、さらに、低消費電力化、低騒音化を図ることができる。
【実施例3】
【0069】
上記実施例1および2に係るレンズ駆動装置は、光ピックアップ装置内に配された収差補正用レンズを駆動するものであったが、本実施例に係るレンズ駆動装置は、対物レンズをチルト方向に駆動するものである。
【0070】
図9に、本実施例に係るレンズ駆動装置の構成例を示す。
【0071】
図示の如く、本実施例では、一対の高分子アクチュエータ130が互いに平行となるように配置され、この高分子アクチュエータ130上に、対物レンズ駆動アクチュエータ500が載置された状態で装着される。
【0072】
ここで、高分子アクチュエータ130は、電位を印加すると、フィルム面に垂直な方向に全体が円弧形状に変形(湾曲)する導電性高分子フィルムにより構成されており、上記図1に示すパターンのうち、パターン(1)の高分子フィルムを用いることができる。
【0073】
高分子アクチュエータ130は、対物レンズ駆動アクチュエータ500を載置し得るだけの物理的強度と、変形により対物レンズ駆動アクチュエータを変位させ得るだけの駆動力特性を有するものとして構成されている必要がある。
【0074】
なお、一対の高分子アクチュエータ130は、同一のものを2つ準備してもよく、逆極性の同一電位を印加すると同一ストロークだけ逆方向に変形(湾曲)する。それぞれの高分子アクチュエータ130に対し、極性を反転させながら、サーボ信号(電位)を印加する。これにより、対物レンズ駆動アクチュエータ500の中央部が、高分子アクチュエータ130の変形に応じてそれぞれ逆方向に変位し、これにより、対物レンズ502がチルト方向にローリングするようになる。
【0075】
なお、一対の高分子アクチュエータ130は、たとえば、上記ハウジング400上に懸架されるようにして、ハウジング400上に配された支持部(図示せず)に装着される。その後、対物レンズ駆動アクチュエータ500のベースに形成された一対の鍔部501を、それぞれ対応する高分子アクチュエータ130の中央部に載置して、鍔部501が高分子アクチュエータ130上に固着される。
【0076】
記録または再生動作時には、高分子アクチュエータ130に、チルト補正用のサーボ信号(電位信号)が印加され、対物レンズ駆動アクチュエータ500がチルト方向にローリングされる。これにより、対物レンズ502によって収束される収束光の光軸が傾き、ディスク上における光軸のチルトエラーが補正される。
【0077】
本実施例によれば、図9に示す如く、チルト補正のためのレンズ駆動機構を極めてシンプルな構成とすることができる。また、チルト駆動時に高分子アクチュエータ130から熱や振動が発生することがないため、駆動源からの熱や振動によってピックアップ装置の特性が悪化するといった問題が生じることもない。さらに、高分子アクチュエータ130は消費電力が小さく騒音も殆どないため、ピックアップ装置の低消費電力化、低騒音化を図ることもできる。
【0078】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、他に種々の変更が可能であることは言うまでもない。本発明の実施形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施の形態に係る高分子フィルムの構造を示す図
【図2】実施例1に係る高分子アクチュエータの構成を示す図
【図3】実施例1に係る高分子アクチュエータの構成を示す図
【図4】実施例1に係るレンズ駆動装置の要部構成を示す図
【図5】実施例1に係るレンズ駆動装置の要部構成を示す図
【図6】当該レンズ駆動装置を光ピックアップに装着した状態を示す図
【図7】実施例2に係るレンズ駆動装置の要部構成を示す図
【図8】当該レンズ駆動装置を光ピックアップに装着した状態を示す図
【図9】実施例3に係るレンズ駆動装置の要部構成を示す図
【符号の説明】
【0080】
100 高分子アクチュエータ(シリンダタイプ)
101 高分子フィルム
102 シリンダー
103 摺動部材
103a 可動部
110 高分子アクチュエータ(フィルムタイプ)
120 高分子アクチュエータ(フィルムタイプ)
130 高分子アクチュエータ(フィルムタイプ)
201 レンズホルダー
202 孔
203 ガイド溝
204 ガイドシャフト
301 可動レンズ
401 シリンダー装着部
402 ガイドシャフト装着部
221 レンズホルダー
222 孔
223 ガイドシャフト
421 フィルム装着部
422 ガイドシャフト装着部
500 対物レンズ駆動アクチュエータ
501 鍔部
502 対物レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に変位可能にレンズを支持するレンズ支持手段と、サーボ電圧の印加によって前記レンズ支持手段に駆動力を付与する駆動手段とを備え、
前記駆動手段は;
前記サーボ電圧の印加によりイオンが移動および局在することによって発生する電気的引力または斥力により変形する構造体と、
当該構造体の変形を、駆動力として前記レンズ支持手段に伝達する伝達手段と、
を有することを特徴とするレンズ駆動装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記構造体は、前記イオンが移動および局在することによって発生する電気的引力または斥力により平面に垂直な方向に湾曲するフィルム状構造体によって構成され、
前記伝達手段は、前記フィルム状構造体の湾曲方向が前記レンズの駆動方向に沿うよう前記フィルム状構造体をベースに配置するとともに、前記フィルム状構造体の両端を前記ベースに固着し、さらに、湾曲中央部分を前記レンズ支持手段の駆動力被伝達部に固着するようにして構成されている、
ことを特徴とするレンズ駆動装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記構造体は、前記イオンが移動および局在することによって発生する電気的引力または斥力により長手方向の寸法が変位する構造体によって構成され、
前記伝達手段は、前記構造体の長手方向の一端が固着されるシリンダーと、当該シリンダーに沿って摺動するとともに前記構造体の長手方向の他端が固着された可動体とを備えるアクチュエータをベースに固着し、さらに、前記可動部を前記レンズ支持手段の駆動力被伝達部に固着するようにして構成されている、
ことを特徴とするレンズ駆動装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかにおいて、
前記構造体は、前記イオンの局在により電気的引力または斥力を発生する変形可能なゲル電極層と、前記イオンを保持するゲル電解質層とを具備する、
ことを特徴とするレンズ駆動装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかにおいて、
前記レンズ支持手段は、記録媒体上に収束される収束光の収差を補正するためのレンズを収差補正方向に変位可能に支持する、
ことを特徴とするレンズ駆動装置。
【請求項6】
レンズを支持するレンズ支持手段と、サーボ電圧の印加によって前記レンズ支持手段に駆動力を付与する駆動手段とを備え、
前記駆動手段は;
前記サーボ電圧の印加によりイオンが移動および局在することによって発生する電気的引力または斥力により変形する構造体と、
当該構造体の変形を、駆動力として前記レンズ支持手段に伝達する伝達手段と、
を有することを特徴とするレンズ駆動装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記レンズ支持手段は、記録媒体上に光を収束するための対物レンズを変位可能に支持するとともに、サーボ電圧の印加によって対物レンズを駆動する対物レンズ駆動アクチュエータである、
ことを特徴とするレンズ駆動装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記構造体は、前記イオンが移動および局在することによって発生する電気的引力または斥力により平面に垂直な方向に湾曲する一対のフィルム状構造体によって構成され、
前記伝達手段は、前記フィルム状構造体の湾曲方向が前記対物レンズのチルト補正方向に沿うよう前記一対のフィルム状構造体をそれぞれベースに配置するとともに、前記フィルム状構造体の両端を前記ベースに固着し、さらに、湾曲中央部分を前記対物レンズ駆動アクチュエータの基部に固着するようにして構成されている、
ことを特徴とするレンズ駆動装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記一対のフィルム状構造体は、それぞれその両端部がベースに懸架され、その上に前記対物レンズ駆動アクチュエータが載置されている、
ことを特徴とするレンズ駆動装置。
【請求項10】
上記請求項1乃至9のうち何れか一項に記載のレンズ駆動装置を内蔵した光ピックアップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−302458(P2006−302458A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125968(P2005−125968)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】