説明

レーザシステム用の設計作製フッ化物被覆素子

【課題】 200nm未満のレーザシステムに用いられる素子において、表面/界面の粗さおよび不均一性を増加させずに、193nmで高反射率を達成する。
【解決手段】 基体20;各々が、高屈折率フッ化物材料の少なくとも1つの層40および低屈折率フッ化物材料30の少なくとも1つ層を含む、1つ以上の周期のフッ化物コーティング材料;および非晶質シリカ、非晶質FドープトSiO2、非晶質Al23ドープトSiO2、および非晶質NドープトSiO2からなる群より選択される少なくとも1つの層の非晶質SiO2材料50を含む素子。高屈折率フッ化物材料は1.65から1.75の範囲の屈折率を有し、低屈折率フッ化物材料は1.35から1.45の範囲の屈折率を有する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、米国法典第35編第110条第(e)項の下で、その内容に依存し、ここに引用する、2007年2月27日に出願された米国仮特許出願第60/904132号の恩恵を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、レーザシステムに使用するための、フッ化物被覆表面および多層のフッ化物材料コーティングを有する素子に関する。本発明は、特に、フッ化物材料の多層コーティングを有する表面、例えば、193nmのレーザに使用するための高反射ミラーに関する。
【背景技術】
【0003】
ArFエキシマレーザは、マイクロリソグラフィー業界にとって最適な照射源である。この業界では、エキシマレーザ源によりよい性能が常に求められる。その結果、エキシマレーザ光学部品、例えば、高繰返し率で動作する193nmの波長のエキシマレーザに用いられる高反射ミラーに、多大な要望が常に課せられる。これらの高反射ミラーは、一般に、少なくとも1種類の高屈折率材料および1種類の低屈折率材料を用いて製造される。そのようなミラーに使用できる非常に数少ない材料の中で、GdF3およびLaF3が高屈折率材料として考えられ、MgF2およびAlF3が、200nm未満の波長に用いられる低屈折率材料として考えられる[非特許文献1から5を参照]。現在、ArFレーザオプティクス用途のための大きなバンドギャップのフッ化物薄膜に新たな研究の関心が寄せられている。プラズマイオン支援蒸着(PIAD)、イオン支援蒸着(IAD)およびイオンビームスパッタリング(IBS)などのエネルギーを用いた蒸着プロセス(energetic deposition process)は、フッ化物材料の性質のために、フッ化物材料には制限される。その結果、当該産業は、フッ素の枯渇(fluorine depletion)を導入しないフッ化物膜蒸着のための熱抵抗蒸発を甘受してきた。しかしながら、熱抵抗蒸発を膜蒸着法として用いる場合、それにより得られるフッ化物膜の充填密度は低く(すなわち、膜は多孔質であり)、膜構造は不均一である。多孔質構造は、環境からの汚染を含み得、散乱損失を増加させるので、これらのいずれも望ましくない。フッ化物膜構造を改善するために、基体の温度および蒸着速度を含む様々な研究法が適用されてきた。最近、基体の結晶方位の影響が考慮されてきたが、著しい改善は報告されていない[非特許文献6およびY. Taki等の“OPTICAL ELEMENT EQUIPPED WITH LANTHANUM FLUORIDE FILM”と題する特許文献1を参照]。
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/227670A1号
【非特許文献1】D. Ristau et al., “Ultraviolet optical and microstructural properties of MgF2 and LaF3 coating deposited by ion-beam sputtering and boat and electron-beam evaporation”, Applied Optics 41, 3196-3204 (2002)
【非特許文献2】R. Thielsch et al., “Development of mechanical stress in fluoride multi-layers for UV-applications”, Proc. SPIE 5250, 127-136 (2004)
【非特許文献3】C. C. Lee et al., “Characterization of AlF3 thin films at 193nm by thermal evaporation“, Applied Optics 44, 7333-7338 (2005)
【非特許文献4】R. Thielsch et al, “Optical, structural and mechanical properties of gadolinium tri-fluoride thin films grown on amorphous substrates”, Proc. SPIE 5963, 59630O1-12 (2005)
【非特許文献5】Jue Wang and Robert L. Maier, “Nano-structure of GdF3 thin film evaluated by variable angle spectroscopic ellipsometry”, Proc. SPIE 6321, p6321071-10(2006)
【非特許文献6】Y. Taki and K. Muramatsu, “Hetero-epitaxial growth and optical properties of LaF3 on CaF2”, Thin Solid Films 420-421, 30-37 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
193nmで高反射率を得るために、多周期の高屈折率層および低屈折率層(一周期は、1つの高屈折率層と1つの低屈折率層に相当する)が要求されるという事実から、別の問題が生じる。しかしながら、層の数と全体の厚さが増加するにつれ、表面/界面の粗さおよび不均一性が増加する。多層フッ化物膜構造の制御は、193nmで高反射率を達成するために重要である。マイクロリソグラフィーにおける使用に加え、ArFエキシマレーザに、例えば、最小侵襲性の脳、心臓および眼の外科手術;超精密機械加工および測定;大規模集積電子素子;および通信用構成要素などの他の非リソグラフィー用途がある分野にも、フッ化物被覆ミラーが求められる。200nm未満、特に193nmのリソグラフィーに用いられる現行のフッ化物被覆素子、例えば、ミラーに存在する問題を考えると、これらの問題を克服したフッ化物被覆素子があることが望ましい。ミラー以外に、ビームスプリッタ、プリズム、レンズ、出力カプラおよび200nm未満のレーザシステムに用いられる同様の素子にも、本発明を適用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、200nm未満のレーザシステムに使用するための素子であって、基体;各々が、高屈折率フッ化物材料の少なくとも1つの層および低屈折率フッ化物材料の少なくとも1つ層を含む、1つ以上の周期のフッ化物コーティング材料;および非晶質シリカ、非晶質FドープトSiO2、非晶質Al23ドープトSiO2、および非晶質NドープトSiO2からなる群より選択される少なくとも1つの層の非晶質SiO2材料を含む素子に関する。本発明によれば、この非晶質SiO2材料は、フッ化物コーティング材料の各周期の後、または複数の周期のフッ化物コーティング材料からなる積層体の後に挿入して差し支えない。必要に応じて、1層の非晶質SiO2材料を、最初の周期のフッ化物コーティング材料を施す前に基体に施しても差し支えない。これらフッ化物コーティング材料は、高屈折率および低屈折率を持つ金属フッ化物材料であり、これらの材料は、基体または非晶質SiO2被覆基体に交互の層として施される。ある実施の形態において、高屈折率フッ化物材料は1.65から1.75の範囲の屈折率を有し、低屈折率フッ化物材料は1.35から1.45の範囲の屈折率を有する。前記素子に使用できる基体は、ガラスおよびガラスセラミック基体;金属基体、例えば、制限するものではなく、アルミニウム、チタン、並びにArFおよびF2レーザに見られるような200nmのレーザ雰囲気において劣化抵抗性であることが知られている当該技術分野において公知の他の金属;ArFおよびF2レーザに見られるような200nmのレーザ雰囲気において耐劣化性の他の材料、例えば、窒化ケイ素(Si34)である。非晶質SiO2材料としては、非晶質SiO2自体、およびフッ素(F)がドープされたシリカ材料、Al23がドープされたシリカ材料、および窒素(N)、フッ素(F)およびAl23がドープされたシリカ材料などのドープト非晶質SiO2が挙げられる。各周期のフッ化物コーティングは50nmから90nmの範囲の厚さを有し、その周期内で、高屈折率材料は20nmから40nmの範囲のコーティングを有し、低屈折率材料は30nmから50nmの範囲の厚さを有する。コーティングの前(随意的な)、または1周期または複数周期の積層体の後に基体に施されたSiO2層は、5nmから75nmの範囲の厚さを有する。全周期のフッ化物コーティングの堆積後に素子に施されるSiO2の最終層は、10nmから150nmの範囲の厚さを有する。
【0006】
本発明はさらに、フッ化物被覆素子、特に、200nm未満のレーザシステムに使用するための高反射フッ化物被覆ミラーを調製する方法に関する。この方法は、基体を提供する工程;この基体を、エネルギーを用いた蒸着技法を用いて1つ以上の周期のフッ化物コーティング材料で被覆する工程であって、各周期が、少なくとも1層の高屈折率フッ化物材料および少なくとも1層の低屈折率フッ化物材料を有するものである工程;および非晶質SiO2材料自体およびドープト非晶質SiO2材料を含む非晶質SiO2材料を用いた被覆工程を少なくとも有する。この方法のある実施の形態において、各フッ化物被覆周期後にSiO2が層として施される。この方法の別の実施の形態において、複数のフッ化物コーティング材料の周期の積層後にSiO2層が施される。この方法の別の実施の形態において、フッ化物コーティング材料の最初の周期を施す前に、SiO2層が基体に施される。本発明を実施するのに使用できるエネルギーを用いた蒸着技法としては、PIAD(プラズマイオン支援蒸着)、IAD(イオン支援蒸着)、およびIBS(イオンビームスパッタリング)が挙げられる。
【0007】
ここに用いるように、「フッ化物被覆ミラー」および「フッ化物ミラー」という用語は、アルカリ土類金属フッ化物単結晶材料(CaF2、BaF2、SrF2の単結晶)、ガラス材料(例えば、SiO2、HPSF(登録商標)(コーニング社(Corning Incorporated))、BK7(商標)およびSF10(商標)(ショット・ガラス社(Schott Glass)))、金属材料(例えば、アルミニウム、チタン)および他の材料(例えば、Si、Si34)などの基体にフッ化物コーティングが施されているミラーを含む。フッ化物コーティングに施されたときの「周期」という用語は、1つの高屈折率層および1つの低屈折率層を意味する。ここに用いたような「積層体」という用語は、基体と本発明のSiO2膜との間または2つのSiO2膜の間にある、基体上に被覆されたフッ化物材料の2つ以上の周期を意味する。
【0008】
200nm未満の波長のレーザシステム、例えば、193nmで動作するArFレーザシステムにおいて、散乱および汚染が、フッ化物ミラーおよびフッ化物強化ミラーの性能を低下させる主要因である。フッ化物膜の構造を改善し、散乱損失を減少させるために最新式のエネルギーを用いた蒸着プロセスを用いた場合、フッ素枯渇により193nmで著しい吸収が生じる。フッ化物強化酸化物ミラーおよびフッ化物強化Alミラーを含む、標準的なフッ化物ミラーに関連する問題の中に、以下のことがある:
(1) 193nmでは97%を超える反射率を得ることが難しい、
(2) その反射率は環境に敏感である、
(3) フッ化物膜の多孔質構造は汚染を含み、193nmでの吸収をもたらす、
(4) レーザ耐久性が低い。
本発明はこれらの問題を、ミラーブランク(基体)を被覆するために用いられる、高屈折率材料および低屈折率材料の周期またはその積層体の間に非晶質シリカ(SiO2)層を挿入することにより克服する。一般に、本発明は、フッ化物積層体中に周期的に挿入されたPIAD平滑化SiO2層の使用、および最上層、表層または最終層としてのSiO2の使用に関する。本発明は、より詳しくは、
(1) 不均一なフッ化物膜構造体の成長をなくすための非晶質SiO2層の挿入、
(2) 非晶質SiO2層の表面を平滑にするためのPIADの使用、
(3) 平滑化されたSiO2表面上のフッ化物膜の連続的成長、および
(4) 約10-5だけフッ化物曝露表面積を減少させ、それゆえ、設計作製フッ化物ミラーを封止するための、表層としての緻密な平滑化SiO2の使用、
に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[1] フッ化物単層の表面粗さ
標準的なフッ化物ミラーは、多層のフッ化物材料、特に、高屈折率材料および低屈折率材料の交互の層を含む。フッ化物膜成長機構を、例としてGdF3単層を用いて調査した。その結果は、その層が不均一構造であり、粗い表面であることを示している。図1は、CaF2(111)上に成長したGdF3膜の屈折率(193nmでの)深さプロファイルを示している。屈折率は膜の充填密度に比例している。一般に、GdF3膜について、高屈折率は緻密な膜に由来し、一方で、低屈折率は多孔質の膜構造に対応する。図1から分かるように、GdF3膜の形成の始めに、緻密な薄層が基体上に形成されて、1.738の屈折率が生じる。膜厚が増加するにつれ、円柱状の多結晶質微小構造の成長機構により、結晶粒の間に間隙が生じるであろう。その結果、層厚が蓄積するにつれて、膜密度が減少する。膜の成長の終わりに、屈折率はさらに1.62まで低下し、これは、15.8%の平均気孔率に相当する。1.35の屈折率は、図1における3.5nmの表面粗さの層を表す。高屈折率フッ化物材料は1.65から1.75の範囲の屈折率nを有し、低屈折率フッ化物材料は1.35から1.45の範囲の屈折率を有する。
【0010】
図2Aおよび2Bは、それぞれ、GdF3層の1μ×1μおよび5μ×5μの走査面積に亘るAFM(原子間力顕微鏡)画像を示している。図2Aおよび2Bに示された粒径および気孔径は、300nmから350nmに及ぶ。これらのAFM画像は、CaF2(111)表面上でのGdF3膜の成長のナノポーラスモルホロジーを明らかに示している。図2Aの1μ×1μの画像から分かるように、蓄積した緻密な粒の間にいくつか間隙があり、これが多孔質構造の形成につながる。AFM走査サイズを図2Bに示すように5μ×5μに増加させることによって、多孔質網状構造が、膜成長平面上で明らかである。偏光モデル化により予測されるように、GdF3膜の不均一性は、成長中の膜の気孔率変化の結果である。内部表面積の比較的大きい、無作為に分布した多孔質構造は、ある程度互いに繋がって、環境の汚染を含むであろう。
【0011】
図3は、研究室の周囲曝露(空気曝露)の関数としての193nmでのGdF3膜の吸収度を示している。空気への曝露時間が経つにつれて、膜の吸光度が増加する。要約すると、フッ化物膜は、一般に、不均一かつ多孔質である。層厚が増加するにつれ、膜の表面粗さが増加する。多孔質の膜構造と粗い表面は、193nmの波長での高い吸光度および散乱損失の原因である。
【0012】
[2] 標準的なフッ化物ミラーの表面および界面
我々の実験結果に基づいて、標準的なフッ化物ミラーの表面粗さRmは、式(1)により表すことができる:
【数1】

【0013】
ここで、αおよびβは、フッ化物材料および蒸着プロセスに関連するパラメータであり、Rsは基体の表面粗さであり、pは積層周期である。積層周期は、低屈折率層と高屈折率層の組合せとして定義される。パラメータαは、GdF3/MgF2、LaF3/MgF2、GdF3/AlF3およびLaF3/AlF3などの周期に用いられる高屈折率と低屈折率のフッ化物層、各材料についての堆積速度および基体温度に関連する。パラメータβは、基体材料の性質および表面の仕上げ条件により決定される。標準的なフッ化物ミラーを用いて、例えば、法線入射角、すなわち、0°で、フッ化物ミラーは、式(2)により表されるような高屈折率層と低屈折率層の積層体を含む:
【数2】

【0014】
ここで、HおよびLは、それぞれ、1/4波長高屈折率GdF3および1/4波長低屈折率AlF3に対応し、pは積層周期である。このミラーの概略が図4に示されている[注記:全ての図面において、基体には20が付され、Hには30が付され、Lには40が付され、SiO2層2Mには50が付されている。]。
【0015】
図5は、積層周期の関数としての標準的なフッ化物ミラーの表面粗さを示すグラフである。表面粗さは、式(1)に表される積層周期に線形に比例している。すなわち、標準的なミラーが周期をより多く含むほど、表面粗さは粗くなる。図6は、積層周期の関数としての標準的なフッ化物ミラーの表面と界面の散乱損失を示している。一般に、最終的なミラー製品において高い屈折率を達成するために、多数の積層周期(p>16)が必要とされる。図6から分かるように、散乱損失は、積層周期が小さいときには、ゆっくりと増加する。しかしながら、図6は、曲線の傾斜は、積層周期の数が増加するにつれて増加することを示している。言い換えれば、より多くの積層周期が標準的なフッ化物ミラーに加わるために、散乱損失は、加わる反射率の増加率よりも速く増加する。その結果、散乱損失を考慮した場合、最高の反射率を提供する最適な数の積層周期がある。
【0016】
図7は、積層周期の関数としての標準的なフッ化物ミラーの反射率を示している。設計の計算(設計曲線には80が付されている)によれば、積層周期の関数としての反射率は、以下の3つの区画に分割できる:
1. 速い増加領域(6周期まで)、
2. 遅い増領域(16周期を超えて)、および
3. 速い増加から遅い増加への移行領域。
【0017】
これもまた3つの区画を持つ達成可能な反射率(82が付されている)が、比較のために、同じ図面にプロットされている。達成可能な反射率の速い増加領域は、設計反射率のものとほぼ同じである。達成可能な反射率の移行区画は設計のものに非常に似ているが、積層周期の数が、その区画の高い側に位置したときに、わずかに分離する。達成できる屈折率と設計屈折率との間の主な差は、周期数が16より大きい領域にある。設計の屈折率に示されるような反射率の遅い増加の代わりに、散乱損失のために、達成可能な反射率について、反射率の遅い減少が、高周期領域に現れる。その結果、高反射率のフッ化物ミラーをうまく作製するために、表面と界面の粗さをなくす必要がある。上述したように、フッ素枯渇を生成せずに、緻密で平滑なフッ化物膜を製造するために、エネルギーを用いた蒸着技法は使用できない。本発明は、フッ化物膜を伸ばして高反射率を達成するために、SiO2系の酸化物層を利用した高屈折率フッ化物ミラーを説明する。
【0018】
[3] エネルギーを用いた蒸着により平滑化された非晶質SiO2
本発明によれば、非晶質であるが緻密で滑らかなSiO2膜が、エネルギーを用いた蒸着によりフッ化物積層体中に挿入される。緻密で滑らかなSiO2膜は、PIAD、IADおよびIBSにより蒸着できる。ここで、PIAD蒸着SiO2が例として用いられる。図8Aは、SiO2基体上のPIAD平滑化SiO2膜のAFM画像である。被覆していない基体の表面粗さは0.35nmである。200nmのSiO2膜を蒸着した後、その表面粗さは0.29nmまで減少した。その結果は、平滑化されたSiO2膜は、被覆されていない基体の粗さを減少させることを示している。図8Bは、被覆された基体の表面の平滑性を改善、すなわち、減少させるためにどのようにSiO2膜を使用できるかを示している。本発明によれば、フッ化物膜をプラズマイオン直接衝撃から保護し、フッ化物膜の蓄積した粗い構造を伸ばすために、少なくとも1つのPIAD蒸着SiO2層が標準的なフッ化物ミラー中に挿入された。フッ化物積層体は、平滑化されたSiO2膜層上に連続して蒸着できる。好ましい実施の形態において、最終層はSiO2膜層である。図8Bにおいて、表面粗さは、SiO2膜を施した後に、0.29nmである。SiO2膜を施す前は、表面粗さは0.35nmであった。
【0019】
[4] 表面と界面が設計作製されたフッ化物ミラー
表面と界面が設計作製されたフッ化物ミラーは、式(3)により表すことができる:
【数3】

【0020】
ここで、2Mは半波長SiO2層を表し、HおよびLは、それぞれ、高屈折率層および低屈折率層であり、i,j・・・は積層周期である。式(3)によれば、SiO2層は、各i,j,・・・k積層周期毎に、標準的なフッ化物ミラー中に挿入される。図9は、式(3)により表される、表面と界面が設計作製されたフッ化物ミラーの概略を示している。表1は、21の積層周期に関する、標準的なフッ化物ミラーと表面/界面の設計作製されたフッ化物ミラーの比較を列記しており、ここで、設計作製ミラーについて、3nmの表面と界面の粗さが用いられている。
【表1】

【0021】
標準的なミラーの設計された反射率(99.96%)は、設計作製されたミラーのもの(99.57%)よりも高いが、標準的なミラーの散乱損失は、設計作製されたミラーのものより4.9倍も大きい。最終的な達成可能な反射率は、標準的なミラーと設計作製されたミラーについて、それぞれ、94.27%および98.41%である。本発明のある実施の形態において、設計作製されたミラーの最上層は、式(3)により示されるように、緻密なSiO2層で終わる。SiO2のこの最上層は、図2Aおよび2BのAFM画像に示されるように、多孔質構造体を封止し、平滑にする。さらに、ここに記載したように緻密なSiO2膜を施した結果として、多孔質フッ化物構造体中に浸透する環境の汚染の虞がなくなる。このことは、図3に示したGdF3単層のデータにより表されるように、多孔度のために容易に汚染され得る標準的なフッ化物ミラーと、本発明の表面/界面の設計作製されたミラーとのさらなる差である。
【0022】
[5] 表面/界面が設計作製されたフッ化物強化酸化物ミラー
本発明は、別の実施の形態において、フッ化物強化積層体が、式(4):
【数4】

【0023】
または式(5):
【数5】

【0024】
においてPIAD蒸着SiO2層を挿入することにより平滑化される、フッ化物強化酸化物ミラーにも関し、ここで、H0およびL0は、それぞれ、1/4波長高屈折率Al23および1/4波長低屈折率SiO2に対応し、2Mは半波長SiO2層を表し、HおよびLは、それぞれ、高屈折率層および低屈折率層である。表面と界面が設計作製されたフッ化物強化酸化物ミラーの概略が図10に示されており、ここで、H0には32が付され、L0には42が付され、H、Lおよび2Mには、先に示されたように番号が付されている。
【0025】
[6] 表面/界面が設計作製されたフッ化物強化アルミニウムミラー
本発明は、別の実施の形態において、フッ化物強化積層体が、式(6):
【数6】

【0026】
または式(7):
【数7】

【0027】
においてPIAD蒸着SiO2層を挿入することにより平滑化される、フッ化物強化アルミニウムミラーにも関し、ここで、Aは、アルミニウム(Al)層の厚さであり、2Mは半波長SiO2層を表し、HおよびLは、それぞれ、高屈折率層および低屈折率層である。表面と界面が設計作製されたフッ化物強化Alミラーの概略が図11に示されており、ここで、アルミニウム層(Al)には70が付され、H、Lおよび2Mには、先に示されたように番号が付されている。
【0028】
本発明の特徴を要約すると、
・ Hは、任意の高屈折率フッ化物材料、例えば、GdF3、LaF3、および当該技術分野において公知の他の高屈折率金属フッ化物材料であって差し支えない。
・ Lは、任意の低屈折率フッ化物材料、例えば、AlF3、MgF2、CaF2および当該技術分野において公知の他の低屈折率金属フッ化物材料であって差し支えない。
・ SiO2系層は、SiO2または改質SiO2、例えば、FドープトSiO2、NドープトSiO2、およびAl23ドープトSiO2であってよい。
・ 本発明を実施するのに使用できるエネルギーを用いた平滑化技法は、PIAD(プラズマイオン支援蒸着)、IAD(イオン支援蒸着)、IBS(イオンビームスパッタリング)、および酸化物材料の蒸着に有用である当該技術分野において公知の同様のエネルギーを用いた技法であってよい。
・ 式(3)〜(7)におけるHおよびLの層の順序を変えても差し支えない。例えば、式(3)における順序を、

【0029】
から
【数8】

【0030】
または
【数9】

【0031】
に変えてもよい。
・ 式(4)〜(7)も同様に変えてもよい。
【0032】
・ 式(3)〜(7)において光学的厚さを変更することにより、本発明を、193nmでの大きい入射角でのS偏光ミラーまたはP偏光ミラーに適用することができる。一般に、高屈折率材料の厚さは20から35nmの範囲にあり、低屈折率材料の厚さは30から45nmの範囲にある。本発明によれば、周期または周期の積層後の挿入されたSiO2膜の厚さは、一般に、5から75nmの範囲にある。その厚さは、193nmでの大きい入射角でS偏光ミラーまたはP偏光ミラーに適用するために、高屈折率材料について22から39nmに、低屈折率材料について36から54nmに変えることができる。
式(3)〜(7)において光学的厚さを変更することにより、本発明を、他の深紫外線レーザ波長、例えば、157nm、198.5nmなどの200nm未満の波長で動作する200nm未満のレーザシステムに適用することができる。
【0033】
本発明を、限られた数の実施の形態に関して説明してきたが、この開示の恩恵を受けた当業者には、ここに開示した本発明の範囲から逸脱しない他の実施の形態も考えられることが認識されるであろう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲のみにより制限される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】CaF2(111)上に成長したGdF3膜の屈折率深さプロファイルを示すグラフ
【図2A】CaF2(111)単結晶上に成長したGdF3単層のAFM画像
【図2B】CaF2(111)単結晶上に成長したGdF3単層のAFM画像
【図3】空気への曝露時間の関数としての193nmでのGdF3膜の吸収度を示すグラフ
【図4】基体上に被覆された高屈折率材料と低屈折率を有する標準的なフッ化物ミラーを示す概略図
【図5】積層周期の関数としての標準的なフッ化物ミラーの表面粗さを示すグラフ
【図6】積層周期の関数としての標準的なフッ化物ミラーの散乱損失を示すグラフ
【図7】積層周期の関数としての標準的なフッ化物ミラーの反射率を示すグラフ
【図8A】PIADで平滑にされたSiO2膜を示すAFM画像
【図8B】被覆されていないSiO2膜を示すAFM画像
【図9】設計作製されたフッ化物ミラーの表面および界面を示す概略図
【図10】設計作製されたフッ化物強化酸化物ミラーの表面および界面を示す概略図
【図11】設計作製されたフッ化物強化Alミラーの表面および界面を示す概略図
【符号の説明】
【0035】
20 基体
30 高屈折率層
40 低屈折率層
50 半波長SiO2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
200nm未満のレーザシステムに使用するための素子であって、
基体、
各々が、少なくとも一層の高屈折率フッ化物材料および少なくとも一層の低屈折率フッ化物材料を含む、1つまたは複数の周期のフッ化物コーティング材料、および
前記フッ化物コーティング材料の周期の少なくとも1つの最上面に施された、シリカ、FドープトSiO2、NドープトSiO2およびAl23ドープトSiO2からなる群より選択される非晶質SiO2系材料の少なくとも1つの層、
を備え、
前記高屈折率フッ化物材料が1.65から1.75の範囲の屈折率を有し、前記低屈折率フッ化物材料が1.35から1.45の範囲の屈折率を有し、
前記フッ化物コーティング材料の各周期の厚さが50nmから90nmの範囲にあり、該コーティング材料の各周期内にある前記高屈折率フッ化物材料の層の厚さが20nmから40nmの範囲にあり、前記コーティング材料の各周期内にある前記低屈折率フッ化物材料の層の厚さが30nmから50nmの範囲にあり、
必要に応じて、前記基体と前記フッ化物コーティング材料の最初の周期との間に非晶質SiO2材料のコーティングを備え、この必要に応じての非晶質SiO2材料が、該基体に施されたときに、前記非晶質SiO2系材料の少なくとも1つの層に加えられていることを特徴とする素子。
【請求項2】
前記フッ化物コーティング材料の周期の数が1より多く、前記非晶質SiO2系材料の少なくとも1つの層が、1より多い周期の数の少なくとも2つの周期の間に挿入されており、
前記素子に施された最後のコーティング材料が、シリカ、FドープトSiO2、NドープトSiO2およびAl23ドープトSiO2からなる群より選択されるSiO2材料の層であることを特徴とする請求項1記載の素子。
【請求項3】
前記基体と前記フッ化物コーティング材料の最初の周期との間に施された前記必要に応じてのSiO2材料のコーティングの厚さが5nmから75nmの範囲にあることを特徴とする請求項1記載の素子。
【請求項4】
前記高屈折率フッ化物材料と前記低屈折率フッ化物材料の周期の間に挿入された前記SiO2系材料の層の厚さが5nmから75nmの範囲にあることを特徴とする請求項2記載の素子。
【請求項5】
前記素子に施された最後のコーティング材料が、10nmから150nmの範囲の厚さを持つSiO2材料の層であり、該材料が、シリカ、FドープトSiO2、NドープトSiO2およびAl23ドープトSiO2からなる群より選択されることを特徴とする請求項2記載の素子。
【請求項6】
前記素子が、反射ミラー、ビームスプリッタ、プリズム、レンズ、および出力カプラからなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載の素子。
【請求項7】
前記高屈折率フッ化物材料がGdF3およびLaF3からなる群より選択され、
前記低屈折率フッ化物材料がMgF2、CaF2およびAlF3からなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載の素子。
【請求項8】
200nm未満のレーザシステムに使用するための反射ミラー素子であって、
基体、
各々が、少なくとも一層の高屈折率フッ化物材料および少なくとも一層の低屈折率フッ化物材料を含む、複数の周期のフッ化物コーティング材料、および
前記フッ化物コーティング材料の周期の間または前記複数の周期の積層体の間に挿入された、シリカ、FドープトSiO2、NドープトSiO2およびAl23ドープトSiO2からなる群より選択される非晶質SiO2系材料の複数の層、
を備え、
必要に応じて、前記基体と前記高屈折率フッ化物材料および前記低屈折率フッ化物材料の最初の周期との間に非晶質SiO2材料のコーティングを備え、
前記基体と前記フッ化物コーティング材料の最初の周期との間のSiO2系材料の層の厚さおよび前記複数の周期の間の厚さが5nmから75nmの範囲にあり、
前記ミラー素子の最後のコーティング材料が、非晶質SiO2材料の層であり、該層が10nmから150nmの範囲の厚さを有することを特徴とする反射ミラー素子。
【請求項9】
200nm未満のレーザシステムに使用するのに適したフッ化物被覆素子を製造する方法であって、
基体を提供し、
エネルギーを用いた蒸着技法を用いて、前記基体を1つまたは複数の周期のフッ化物コーティング材料で被覆し、
さらに、エネルギーを用いた蒸着技法を用いて、非晶質SiO2材料で被覆し、それによって、200nm未満のレーザシステムに使用するのに適したフッ化物被覆素子を形成する、
各工程を有してなり、
前記基体を1つまたは複数の周期のフッ化物コーティング材料で被覆する工程が、各周期が、一層の高屈折率フッ化物材料および一層の低屈折率フッ化物材料を含むような被覆を意味し、
必要に応じて、前記フッ化物コーティング材料の最初の周期を施す前に、前記基体を一層の非晶質SiO2材料で被覆する工程をさらに含み、該非晶質SiO2材料が、シリカ、FドープトSiO2、NドープトSiO2およびAl23ドープトSiO2からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項10】
複数のフッ化物コーティング材料による被覆が完了した後に、前記素子を非晶質シリカの最終層で被覆する工程をさらに含むことを特徴とする請求項9記載の方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図2A】
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【図2B】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2008−287219(P2008−287219A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−47585(P2008−47585)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【復代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
【Fターム(参考)】