説明

レーザマーカ及びレーザマーキングシステム

【課題】レーザマーカにおいてタクトタイムをあまり低下させることなく湾曲部の内回り現象をなくし、印字品質を向上させること。
【解決手段】印字すべきパターンとして、あらかじめ線分毎に始点,終点と線種情報とをメモリ部21に記憶させておく。マーキング時にはメモリ部21より順次データを読み出し、直線であれば設定されたスキャン速度でスキャニングを行う。円弧の場合にはスキャン速度を低下させると共に、低下させたスキャン速度に応じたレーザパワーとなるようにレーザ光源の出力レベルを低下させてマーキングを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いて対象物の表面に文字等のマーキングを行うレーザマーカ及びレーザマーキングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザマーカは、炭酸ガスレーザ又はYAGレーザのような比較的高い出力が得られるレーザから発せられたレーザ光で樹脂や金属物等の対象物の表面を加熱し、表面を局部的に変色又は変形させることにより文字等をマーキングする装置である。
【0003】
従来のレーザマーカは、例えば特許文献1に示されるように、2方向に偏向自在のガルバノミラーを用いてレーザ光をX方向及びY方向に同時に偏向制御することにより、描画したい文字又は線画に沿ってレーザ光の照射スポットを移動させてマーキングするベクタースキャンと呼ばれる方法が多く用いられている。
【0004】
ガルバノミラーを用いてレーザ光を偏向させるレーザマーカにおいては、対象物の表面にレーザ光をスキャニングさせるときに、スキャン速度が遅かったり、レーザ光を走査する湾曲部の曲率半径が十分大きければ、所望の文字や線画(以下、単に文字等という)を正しくマーキングすることができる。例えば図11(a)は、スキャン速度が遅い場合や文字のサイズが大きい場合に、所望の文字、この場合は「DOC」を所望の大きさで正常にマーキングした状態を示している。
【0005】
しかしながら図11(b)に示すように、これと同一の大きさの文字をマーキングする際にスキャン速度を速くしすぎると、スキャニングしたときに湾曲部では所望の図形よりレーザ光が内側を移動してしまう現象が生じる。これは内回り現象と呼ばれており、この現象が生じると所望の形状の文字等が印字できなくなるという問題があった。
【0006】
又スキャン速度が十分遅い場合であっても、文字のサイズが小さく湾曲部分の曲率半径が小さい場合、ガルバノメータの応答速度の遅れによりスキャニングの振幅が小さくなるため、文字等が内回りして所望の大きさの文字等より小さくなるという欠点があった。例えば図11(c)に示すように、小さいサイズの文字を印字しようとしても、実際には図11(d)に示すように内回り現象が生じ、これより小さい形状の円弧となってしまうという欠点があった。
【0007】
このため従来のレーザマーカでは、全ての文字等のスキャン速度を内回り現象が起こらない速度まで遅くしていた。
【0008】
又特許文献2では、マーキングする一線分の描画毎にウエイト時間停止し、追従の遅れを補い、線分によって曲線を印字するようにしたレーザマーカが提案されている。
【特許文献1】特開2008−68309号公報
【特許文献2】特開2004−148322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかるに従来のレーザマーカにおいて、全ての文字のスキャン速度を内回り現象が生じない程度に遅くすれば、描画にかかる所要時間(タクトタイムともいう)が長くなるという欠点があった。特許文献2においてもウエイト時間を考慮するとスキャン速度を遅くすることと同等であり、同様の欠点があった。
【0010】
この問題はスキャナの指令値に対してガルバノミラーの実際の応答が遅れをもっているため、スキャナ指令値に対してスキャナの振幅が小さくなってしまっていることが原因である。このようなスキャナの応答性の遅れは、本質的にガルバノミラーの慣性に基づいて物理的に発生しているものであり、ミラーサイズ、材質等を見直すことによってある程度は抑えることはできても、解消することは困難である。
【0011】
本発明はこのような従来の問題点に着目してなされたものであって、タクトタイムをできるだけ低下させることなく、湾曲部の内回り現象を低減して印字品質を向上させるようにしたレーザマーカ及びレーザマーキングシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題を解決するために、本発明のレーザマーカは、レーザ光を用いて加工対象の表面にマーキングを行うレーザマーカであって、レーザ光を発生させるレーザ光源と、前記レーザ光源で得られるレーザ光を印字対象物の面上で少なくとも2次元で走査する走査手段と、マーキングすべきパターンについて、該パターンを構成する線分が直線か曲線かを示す線種、及びマーキングの位置情報を含むパターンテーブルを保持するメモリ部と、前記メモリ部に保持された線分が直線のときに、第1のスキャン速度でスキャニングするように前記走査手段を制御し、前記メモリ部に保持された線分が曲線のときに、前記第1のスキャン速度以下の第2のスキャン速度で走査するように制御すると共に、前記レーザ光源の出力レベルをスキャン速度の低下に合わせて低下させるよう制御する制御手段と、を具備するものである。
【0013】
ここで前記制御手段は、曲線の線分の走査時に、前記第1のスキャン速度にあらかじめ設定された減速率を乗じた第2のスキャン速度で走査するように前記走査手段を制御するようにしてもよい。
【0014】
ここで前記メモリ部は、線種が直線のときの第1のスキャン速度と、マーキングすべきパターンの線分の線種が曲線のときにその曲率を示すパラメータを保持するものであり、前記制御手段は、曲線の線分の走査時に、そのパラメータに合わせて算出された前記第2のスキャン速度により前記走査手段を制御するようにしてもよい。
【0015】
ここで前記メモリ部は、線種が直線のときの第1のスキャン速度と、スキャニングの縮退を許容するレベルと、マーキングすべきパターンの線分の線種が曲線のときにその曲率を示すパラメータを保持するものであり、前記制御手段は、曲線の線分の走査時に、前記第1のスキャン速度と、縮退を許容するレベルと、前記曲線の線分のパラメータとに基づいて、前記第2のスキャン速度を算出するようにしてもよい。
【0016】
ここで前記レーザ光源は、レーザ光をパルス発振するレーザ光源であり、前記制御手段は、曲線の線分の走査時に前記レーザ光源のパルス発振周波数と当該レーザ光源から出力されるレーザパワーのピーク値を前記第2のスキャン速度に合わせて変化させることにより、前記レーザパワーのピーク値とマーキングのライン長当たりのパルス発振数とを夫々直線の線分の走査時と略同一になるよう制御するようにしてもよい。
【0017】
ここで前記制御手段は、曲線の線分の走査時に前記レーザ光源のパルス発振におけるデューティ比を前記第2のスキャン速度に合わせて変化させることにより、前記レーザパワーのピーク値を夫々直線の線分の走査時と略同一になるよう制御するようにしてもよい。
【0018】
ここで前記レーザ光源は、Qスイッチ又はシャッターを利用したパルスレーザ、又は変調制御が可能な半導体レーザを光源としたパルスレーザであってもよい。
【0019】
ここで前記レーザ光源は、Qスイッチ又はシャッターを利用したパルスレーザ、又は変調制御が可能な半導体レーザを光源としたパルスレーザであり、前記制御手段は、前記Qスイッチの開閉によるレーザ光のエネルギー蓄積量を制御することにより、前記レーザパワーのピーク値を夫々直線の線分の走査時と略同一になるよう制御するようにしてもよい。
【0020】
ここで前記レーザ光源は、連続してレーザ光を発振する連続発振レーザ光源としてもよい。
【0021】
この課題を解決するために、本発明のレーザマーキングシステムは、前述のレーザマーカと、前記レーザマーカのメモリ部にパターンテーブルを入力する入力装置と、を具備するものである。
【発明の効果】
【0022】
このような特徴を有する本発明によれば、湾曲部の内回り現象を低減しレーザマーキングの印字品質を向上させることができる。又請求項3,4の発明によれば、湾曲部の印字品質と印字速度とはトレードオフの関係にあるので、ユーザが任意にいずれかを重視して高印字品質でのマーキングや印字速度を優先させたマーキングを選択することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態によるレーザマーキングシステム100の構成を示すブロック図である。本図に示すようにレーザマーキングシステム100は、ユーザが設定データを入力するための入力装置10、レーザ制御部20、レーザ出力部30を含んで構成されている。レーザ制御部20とレーザ出力部30はレーザマーカを構成している。以下、各部について詳細に説明する。
【0024】
(入力装置10)
入力装置10は、レーザマーキングシステム100の動作に関する様々な設定データをユーザが入力するための入力装置である。入力装置10はキーボード、タッチパネルを操作部とする専用の入力装置であってもよく、あらかじめデータ設定用のアプリケーションプログラムが動作するパーソナルコンピュータ等を用いてもよい。入力装置10には、入力した設定データを確認したり、レーザ制御部20の状態等を表示するための表示部が設けられている。ユーザは、レーザマーキングシステム100の動作条件や印字パターンなどを入力装置10より設定データとして入力し、この設定データは入力装置10からレーザ制御部20へ出力される。本実施の形態では、ユーザが印字パターンに加えてスキャン速度、レーザパワーやその補正レベルを入力装置10より入力するものとする。
【0025】
(レーザ制御部20)
レーザ制御部20は、レーザ出力部30の動作を制御する制御装置であり、メモリ部21、制御部22、励起光発生部23及び電源24によって構成される。メモリ部21は、入力装置10から入力された文字等の印字パターンのデータやその他の制御データを保持する記憶手段であり、例えばROM、RAMなどの半導体メモリが用いられる。
【0026】
制御部22は、メモリ部21内のデータに基づいて、励起光発生部23及びレーザ出力部30を制御する制御部であり、例えばマイクロプロセッサ及びそのプログラムを保持するROM、ワーキングメモリとなるRAMが用いられる。制御部22はレーザ光Lを2次元スキャンするための走査信号を生成し、レーザ出力部30に供給する。また、制御部22はレーザパワーを制御するための強度信号も生成し、励起光発生部23へ供給する。
【0027】
励起光発生部23は、定電圧の電源24から所定電圧が印加され、制御部22からの強度信号に基づいて励起光を生成するものである。励起光発生部23は、複数の半導体レーザを用いたレーザダイオードアレーと、そのレーザ光を集束するレンズによって構成され、光ファイバ25を介してレーザ出力部30に励起光を供給するものである。制御部22は、励起光発生部23に対して強度信号として励起光のレベルを切り替える制御信号を与える。強度信号は、HIGH/LOWの二値信号であってパルス幅変調された信号である。制御部22は強度信号の周波数及びパルス幅によって励起光の励起パワーを制御することができ、レーザ出力部30のレーザ光Lの強度(レーザパワー)を制御することができる。
【0028】
(レーザ出力部30)
レーザ出力部30はレーザ光を2次元スキャニングさせることができるレーザ照射装置であり、レーザ発振部31、ミラー32、ガルバノミラー33a,33b、ガルバノモータ34a,34b及び集光レンズ35、スキャナ駆動回路36を含んで構成されている。レーザ発振部31はレーザ制御部20から与えられる励起光によりレーザ発振するレーザ光源である。レーザ光は、ミラー32、ガルバノミラー33a,33bを介して集光レンズ35によってワークWに向けて照射される。ガルバノミラー33a,33b、ガルバノモータ34a,34b及びスキャナ駆動回路36は、レーザ光をその光軸に垂直な面内で移動させる2次元の走査部37を構成している。集光レンズ35にはfθレンズが用いられる。以下、各部についてより詳細に説明する。
【0029】
図2は、図1のレーザ発振部31の一構成例を示した図である。レーザ発振部31は、励起光をレーザ媒質に照射し、その誘導放出光を共振器内で増幅して、レーザ光を生成するレーザ発振装置である。光ファイバ25を介して、励起光発生部23から入力された励起光は、入射レンズ41によってレーザ媒質43内に集光され、レーザ媒質43から誘導放射光が放出される。この誘導放射光は、対向配置された入射ミラー42及び出力ミラー46で反射され、レーザ媒質43に再び入射される。
【0030】
入射ミラー42は、入射レンズ41側からの入射光を透過させ、レーザ媒質43側からの入射光を全反射させるハーフミラーである。出力ミラー46は、レーザ光の大部分を反射させるとともに、一部を透過させるハーフミラーであり、出力ミラー46の透過光は、図1に示すミラー32へ入射される。対向配置された入射ミラー42及び出力ミラー46は、レーザ光を往復させる外部共振器47を形成しており、この外部共振器47の光軸上にレーザ媒質43、Qスイッチ44及びアパチャ45が順に配置されている。
【0031】
Qスイッチ44は、レーザ光を回折させる音響光学素子(AOM:Acoustic Optical Modulator)であり、制御部22によって回折状態が制御される。アパチャ45は、外部共振器46から外れたレーザ光を遮断する絞りである。Qスイッチ44及びアパチャ45を用いることにより、レーザを発振させたり停止させることができる。即ち、レーザ光の光軸が外部共振器47の外となるようにQスイッチがレーザ光を回折させれば、アパーチャ45によってレーザ光が遮断され、レーザ発振が停止する。
【0032】
ここでレーザ発振部31は固体レーザに限られず、例えば炭酸ガス(CO2)、ヘリウム−ネオン、アルゴン、窒素等の気体をレーザ媒質として用いる気体レーザを利用することもできる。例えば、炭酸ガスレーザを用いたレーザ発振部31は、その内部に炭酸ガス(CO2)が充填され、レーザ制御部20から与えられる強度信号に基づいて、レーザ発振部31内の炭酸ガスを励起し、レーザ発振させる。
【0033】
走査部37の一対のガルバノミラー33a及び33bは、レーザ光を反射させる全反射ミラーであり、ガルバノモータ34a,34bの回転軸にそれぞれ取り付けられている。ガルバノモータ34a,34bには、例えばステッピングモータが用いられ、スキャナ駆動回路36からの駆動信号に基づいて、ガルバノミラー33a,33bが干渉しない範囲において、その回転角を自在に変化させることができる。
【0034】
ミラー32で反射されたレーザ光は、2つのガルバノミラー33a及び33bによって、レーザ光Lの光軸に直交する面内において2次元走査される。ここでワークWへ照射されるレーザ光Lの光軸をZ軸とし、これに直交する2軸をX軸及びY軸とすれば、ガルバノミラー33aがレーザ光LをX軸方向に走査させるX軸スキャナとなり、ガルバノミラー33bがレーザ光LをY軸方向に走査させるX軸スキャナとなる。
【0035】
(レーザマーキングシステムの動作)
次に本実施の形態によるレーザマーキングシステムの動作について説明する。まずユーザは入力装置10を通じてワークWにマーキングする文字等を入力する。ここでは同一サイズの文字「A」,「B」,「C」,「D」を線分を組み合わせて4つの印字パターンを入力し、ワーク上でのマーキング位置も入力する。こうして4文字を一連に構成して、印字ブロック「ABCD」とする。入力装置10より入力された印字パターンがレーザ制御部20のメモリ部21に線分毎にテーブルとして保持される。図3はこのテーブルの一例を示す図である。各印字パターンは線分と線種及び位置情報が保持される。即ち、線種が直線の場合には、位置情報として始点と終点が記録され、線種が円弧である場合には、位置情報として始点,終点及び半径が記録される。例えば印字パターン「A」は線分No.1〜No.3の3つの直線によって構成され、印字パターン「B」は線分No.1の直線と線分No.2,No.3の円弧によって構成される。
【0036】
更にユーザはこの印字ブロックの全体のスキャン速度及び印字パワーを設定する。ここで設定するスキャン速度は線種が直線のスキャン速度であり、第1のスキャン速度という。図3の例では3000mm/sを設定したことを示している。又印字パワーとしては例えば80%を設定する。又このとき図示していないQスイッチ44のスイッチング周波数Qswを設定しておくこともできる。スイッチング周波数Qswは例えば40kHzのように設定する。これに加えて線種が円弧の場合のスキャン速度の減速率を設定する。後述するようにスキャン速度又はその減速率の設定には種々の方法があるが、ここではユーザが任意に減速率、例えば−50%を入力しておく。こうして印字ブロック「ABCD」に対応する1つのテーブルをメモリ部21に設定する。
【0037】
次にこの印字ブロックをワークWに印字する処理について、図4のフローチャートを参照しつつ説明する。まず印字を開始すると、ステップS1において、印字データがメモリ部21より読み出され、最初の印字パターンの線種の線分データが直線かどうかが判断される。線種が直線データであれば、ステップS2において、制御部22より設定された第1のスキャン速度での操作信号をスキャナ駆動回路36に出力し、設定されたスイッチング周波数の信号がレーザ出力部30に出力される。この場合にはレーザ発振部31がパルス発振し、パルスの断続とスキャニングによって一定間隔のドットを連続させた直線が始点から終点位置まで描画される。
【0038】
描画が終了するとステップS3に進み、全ての線分の印字が終了したかどうかを判別する。全ての印字が終了していなければ、ステップS1に戻って同様の処理を繰り返す。こうして図3の印字パターン「A」の線分No.1〜No.3と印字パターン「B」の線分No.1がマーキングされる。
【0039】
さてステップS1において描画する線分データが円弧であれば、ステップS4に進んで設定されたスキャン速度に対して減速した第2のスキャン速度を設定する。例えば図3のようにユーザが円弧の減速率を−50%に設定していたとすると、線種が円弧の場合に全て−50%のスキャン速度、即ち1500mm/sを設定する。
【0040】
こうしてスキャン速度を設定すると、ステップS5においてこれに対応したレーザパワーを設定する。ここでレーザパワーに対するパラメータとして励起光発生部23より供給する励起光のパワーがある。このパワーのレベルは制御部22より励起光発生部23のレーザダイオードを駆動する電流やPWM変調のデューティ比を変化させることによって制御することができる。又図2に示すQスイッチのスイッチング波形を制御し、スイッチングの周波数とQスイッチを閉じているエネルギーの蓄積時間を変化させることによって制御することができる。このレーザパワーの設定の詳細については後述する。
【0041】
こうして決定されたスキャン速度及びレーザパワーに基づいてステップS6で線分のデータに応じたXYのスキャン走査を行い、ワークW上にマーキングを行う。そしてその線分の走査が終了すると、ステップS3に戻って全ての線分の印字が完了したかどうかを判別する。印字が完了していなければステップS1に戻って同様の処理を繰り返す。これにより印字パターン「B」の線分No.2, 3、印字パターン「C」の線分No.1が減速されて印字される。以下同様のマーキングによって図3に示す印字ブロックテーブルの全ての印字処理を終える。
【0042】
さてステップS4におけるスキャン速度の種々の決定方法(1)〜(4)について、更に詳細に説明する。
(1)ユーザによる設定
このスキャン速度の設定は、前述したようにユーザが固定値となる減速率を設定する方法である。減速率が大きくなれば印字品質は向上するが、印字時間が長くなる。このためユーザは印字速度と印字品質とを考慮して、任意の減速率を設定することができる。
【0043】
(2)デフォルト値の設定
これは線種が円弧の場合に減速率をあらかじめ決めておき、半径にかかわらず常にこの値を採用することによって、ユーザの設定を不要として入力操作を簡略化できるようにしたものである。デフォルト値としては例えば−50%など値があらかじめ不揮発性のメモリに設定されている。
【0044】
(3)計算式による設定
ユーザがあらかじめ選択した減速率やデフォルト値をそのまま適用することに代えて、線分の半径に応じて減速率を設定することが考えられる。この計算式による設定では、半径に応じて最適な減速率を所定の関数を用いて設定する。例えばスキャン速度の減速率ΔVは線分の半径Rの関数として次式のように決定する。
ΔV=f(R) ・・・(1)
この関数は半径が小さくなれば減速率を大きく、半径が大きくなれば減速率を小さくするように減速率を算出するものとする。又この関数をあらかじめ計算しておき、半径に応じた減速率を参照テーブルに保持しておきてもよい。
【0045】
(4)ユーザ設定の自動調整
ユーザがあらかじめ複数の補正レベルを選択しておき、それに基づいてスキャン速度を決定するようにしてもよい。例えば補正レベル0〜3をユーザが内回りによる縮退を許容できる最大速度に対応させて以下のように設定する。
補正レベル0 補正無し
補正レベル1 1000mm/s
補正レベル2 2000mm/s
補正レベル3 3000mm/s
そして基準倍率を次式で設定する。
基準倍率(1/mm)=縮退無しの最大速度/第1のスキャン速度 ・・・(2)
最終倍率=基準倍率×円弧の直径 ・・・(3)
第2のスキャン速度=最終倍率×第1のスキャン速度 ・・・(4)
【0046】
例えばユーザが設定した第1のスキャン速度を3000mm/s、補正レベル2とする。このとき印字する円弧の直径が0.5mmの場合には、式(2)より基準倍率は0.66倍となる。円弧の直径0.5mmであるので、式(3)により最終倍率は0.33となる。従ってこの円弧部分のスキャン速度は式(4)により約1000mm/sに決定する。但し、円弧の直径が大きく式(4)によって算出されたスキャン速度が第1のスキャン速度を超える場合には、そのまま第1のスキャン速度3000mm/sに決定する。
【0047】
もし円弧の直径が1mmであれば、式(3)より最終倍率も0.66となり、約2000mm/sがスキャン速度となる。又円弧の直径が3mmであれば、式(3)より最終倍率は1.98となり、3000mm/sがスキャン速度となる。
【0048】
ここで縮退の程度とスキャン速度の関係を図5に示す。縮退100%とは縮退のない状態を示しており、以下数値が小さくなるにつれて縮退により文字が内回りする程度を示す。円弧の直径が小さく且つスキャン速度が速くなれば縮退率が低下している。ここで補正レベル2とは直径1mmの円弧を基準として許容される縮退率に対応する速度を設定したものである。それ以外の円弧については許容される縮退率となるスキャン速度が設定されるが、ユーザが設定した第1のスキャン速度3000mm/sを超えない値とする。
【0049】
ここでスキャン速度の決定方法(1)及び(2)はマーキングする円弧の半径にかかわらず一定の減速率によりスキャン速度を決定するものである。第1のスキャン速度に減速率を乗じて算出されたスキャン速度を第2のスキャン速度という。この減速率の設定に代えて第2のスキャン速度を直接入力してもよい。この場合にはメモリ部21のパターンテーブルに円弧の半径を記録しておかなくても足りる。
【0050】
又決定方法(3)及び(4)は円弧の半径に基づいて第1のスキャン速度と同一又はこれ以下の第2のスキャン速度を設定するものであり、この場合にはパターンテーブルに円弧の半径の情報が必須となる。
【0051】
次にステップS5における第2のスキャン速度に対応した種々のレーザパワーのパラメータ設定(1),(2)について、比較例と共に更に詳細に説明する。
【0052】
(1)第1の比較例
第1の比較例は図6A(a)に示すように、スキャン速度を直線印字の時間帯T1,T3に対し曲線印字の時間帯T2の間に低下させた場合、これに応じて励起光のパワーを低下させる方法である。この例では図6A(c)に示すように、Qスイッチのスイッチング周波数Qswは常に一定で40kHzとし、デューティ比も常に一定とする。円弧部分を印字する時間帯T2において励起光発生部23のPWM制御によって励起光のパワーのみを80%から40%に低下させた場合に、図6A(d)にレーザパワーの変化、図6Bに印字パターン「D」の印字例を示す。図示のように円弧部分のスキャン速度が遅いにもかかわらずQスイッチの制御波形は同一であるため、円弧部分でドットが詰まってしまい、ドット間隔が密となる。このため例え励起光のパワーを低下させていたとしても、文字のドット間隔が場所や文字によって異なるため、印字品質が低下してしまうこととなる。
【0053】
(2)第2の比較例
第2の比較例は図7A(a)に示すように、スキャン速度を直線印字の時間帯T1,T3に対し円弧部分を印字するT2の間に低下させる場合に、これに応じてQスイッチのスイッチング周波数を低下させる方法である。この例では図7A(c)に示すように、Qスイッチのスイッチング周波数Qswは時間帯T1,T3では40kHz、時間帯T2では20kHzとする。励起パワーは図7A(b)に示すように一定とする。この場合にはスイッチング周波数をスキャン速度の低下に合わせて低下させているため、図7A(d)にレーザパワー、図7Bに印字パターン「D」の印字例を示すように、ドット間隔は直線と円弧部分とで同一となる。しかしQスイッチを閉じている間、即ち図7(c)の時間t1, t2などHレベルの間はエネルギーの蓄積時間である。時間帯T2ではこのエネルギー蓄積時間t2が時間帯T1,T3でのエネルギー蓄積時間t1に比べて長くなるため、Qスイッチが開かれたときのピークパワーが図7A(d)に示すように大きくなり、円弧部分での印字のレベルが深くなったり、ドットの形状が大きくなったりする。この場合も直線部分と円弧部分とで印字品質が異なり、印字品質が低下するという欠点がある。
【0054】
次に本実施の形態で用いている第1,第2の設定例について説明する。
(1)第1の設定例
第1の設定例では図8A(a)に示すようにスキャン速度を直線印字の時間帯T1,T3に対し曲線印字の時間帯T2の間に低下させる場合、これに応じてQスイッチのスイッチング周波数を低下させるものとする。この例では図8A(c)に示すように、スイッチング周波数は時間帯T1,T3では40kHz、時間帯T2では20kHzとする。これに伴い時間帯T2ではレーザ光源のパルス発振周波数も20kHzとなる。これに加えて時間帯T1,T3のQスイッチのスイッチング波形のHレベルとなっているエネルギー蓄積時間t1と時間帯T2のエネルギー蓄積時間t3が同一となるように、デューティ比を変化させる。尚図7A(b)に示すように励起光のパワーについては常に一定とする。こうすれば図7A(d)に示すように、各ドットのエネルギー蓄積時間は直線部分と円弧部分とで同一となるため、ピークパワーも同一となり、同一のドットの深さ及び間隔で印字することができる。又円弧部分ではスキャン速度を低下させているため、内回り現象も解決する。
【0055】
(2)第2の設定例
第2の設定例は図9A(a)に示すようにスキャン速度を直線印字の時間帯T1,T3に対し曲線印字の時間帯T2の間に低下させる場合、図9A(c)に示すようにスキャン速度に応じてスイッチング波形を変化させるものである。時間帯T1,T2,T3の間のQスイッチのスイッチング周波数は常に一定で40kHzとする。直線部分の時間帯T1,T3では、Qスイッチのスイッチング波形のHレベルとなっているエネルギー蓄積時間t1は一定である。一方時間帯T2では、図9A(c)に示すようにエネルギー蓄積時間t4, t5を交互に変化させる。エネルギー蓄積時間t5の後半はQスイッチを徐々に開放する。このようにエネルギーをあらかじめ開放すれば、印字には寄与しなくなる。一方エネルギー蓄積時間t4の直後の立下りによってQスイッチを急激に開放することにより、印字に寄与することができる。ここで印字に寄与する発振の周波数をパルス発振周波数とすると、図9A(d)に示すように、時間帯T2ではパルス発振周波数は20kHzとなる。即ち、時間帯T2全体でエネルギー蓄積時間t4のパルス数、即ち印字に寄与するパルス数及びそのピークパワーは図8A(d)に示す第1の設定例の場合と同様であり、同一の効果が得られる。
【0056】
このようにレーザ光をパルス発振するレーザ光源の場合には、曲線の線分の走査時にパルス発振周波数とデューティ比又は印字に寄与するパルス発振間隔とをスキャン速度に合わせて低下させ、ピークパワーとマーキングのライン長当たりのパルス発振とが直線の線分の走査時と同一になるように制御することによって、タクトタイムをあまり長くすることなく印字品質を保持することができる。
【0057】
(第2の実施の形態)
次に本発明の第2の実施の形態について図10のフローチャートを参照しつつ説明する。前述した第1の実施の形態では、描画線分データが直線でなければ、全てステップS4において第2のスキャン速度を設定している。第2の実施の形態では、線分データが直線でなければステップS11に進んで円弧の半径が閾値Rthを超えているかどうかを判別する。この閾値Rth以下であればステップS12に進んで設定した第1のスキャン速度が閾値Sthを超えているかどうかを判別する。円弧の場合の半径が十分大きい場合、又は設定された第1のスキャン速度が十分に低い場合には内回りが生じることがない。このような場合にはスキャン速度を低下させてスキャニングする必要がないため、図10のステップS2に進み、直線データと同様にスキャニングする。半径が小さい場合、及び第1のスキャン速度が閾値Sthを超えている場合に、ステップS4に進んで前述した処理を行う。こうすればタクトタイムをあまり低下させることなく、マーキングを行うことができる。
【0058】
尚前述した各実施の形態では、レーザ発振部31としてQスイッチを用いたパルスレーザについて説明しているが、シャッターを用いたパルスレーザであってもよい。またこのようなパルス発振型のレーザだけでなく、レーザ強度の変調制御が可能な半導体レーザを用いてもよい。更に連続して一定のレーザ光を出射することができるレーザ光源を用いることができる。この場合には円弧の走査時にレーザ光源のレーザパワーを第2のスキャン速度に合わせて低下させることによって内回りを除き、印字品質を保つことができる。
【0059】
又前述した各実施の形態ではレーザ発振部としてパルスレーザを用いているが、光ファイバのループを用いた光ファイバレーザとすることもできる。この場合には光ファイバアンプ部のレーザダイオードとシード光発光部のレーザダイオードとが独立しており、パワーアンプ用のレーザダイオードをオンとし、励起を開始してからシード用のレーザダイオードをオンとしてシード光を投入するまでの時間を制御することによりパルスのエネルギーを制御することができる。
【0060】
又前述した各実施の形態では直線以外の線種を円弧としているが、楕円弧やその他の種々の曲線、円を含む曲線であればよい。この場合には最も低い曲率半径をその曲線の半径としてもよく、曲率に関するパラメータであればよい。
【0061】
更に前述した各実施の形態では2次元のレーザマーカについて説明しているが、本発明は湾曲したワークの表面に印字する3次元レーザマーカについてもそのまま適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるレーザマーカの全体構成を示すブロック図
【図2】本実施の形態によるレーザマーカのレーザ発振部の構成を示す図
【図3】本実施の形態によるレーザマーカのメモリ部に保持されるデータテーブルの一例を示す図
【図4】本実施の形態によるレーザマーカの印字処理を示すフローチャート
【図5】本実施の形態のスキャン速度と縮退の関係を示すグラフである。
【図6A】比較例1によるスキャン速度、励起パワー、Qスイッチの制御波形及びレーザパワーを示すグラフである。
【図6B】比較例1による印字例を示す図である。
【図7A】比較例2によるスキャン速度、励起パワー、Qスイッチの制御波形及びレーザパワーを示すグラフである。
【図7B】比較例2による印字例を示す図である。
【図8A】設定例1によるスキャン速度、励起パワー、Qスイッチの制御波形及びレーザパワーを示すグラフである。
【図8B】設定例1による印字例を示す図である。
【図9A】設定例2によるスキャン速度、励起パワー、Qスイッチの制御波形及びレーザパワーを示すグラフである。
【図9B】設定例2による印字例を示す図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態によるレーザマーカの印字処理を示すフローチャートである。
【図11】従来のレーザマーカの印字例を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
100 レーザマーキングシステム
10 入力装置
20 レーザ制御部
21 メモリ部
22 制御部
23 励起光発生部
24 電源
30 レーザ出力部
31 レーザ発振部
32 ミラー
33a,33b ガルバノミラー
34a,34b ガルバノモータ
35 集光レンズ
36 スキャナ駆動回路
37 走査部
41 入射レンズ
42 入射ミラー
43 レーザ媒質
44 Qスイッチ
45 アパチャ
46 出力ミラー
47 外部共振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を用いて加工対象の表面にマーキングを行うレーザマーカであって、
レーザ光を発生させるレーザ光源と、
前記レーザ光源で得られるレーザ光を印字対象物の面上で少なくとも2次元で走査する走査手段と、
マーキングすべきパターンについて、該パターンを構成する線分が直線か曲線かを示す線種、及びマーキングの位置情報を含むパターンテーブルを保持するメモリ部と、
前記メモリ部に保持された線分が直線のときに、第1のスキャン速度でスキャニングするように前記走査手段を制御し、前記メモリ部に保持された線分が曲線のときに、前記第1のスキャン速度以下の第2のスキャン速度で走査するように制御すると共に、前記レーザ光源の出力レベルをスキャン速度の低下に合わせて低下させるよう制御する制御手段と、を具備するレーザマーカ。
【請求項2】
前記制御手段は、曲線の線分の走査時に、前記第1のスキャン速度にあらかじめ設定された減速率を乗じた第2のスキャン速度で走査するように前記走査手段を制御する請求項1記載のレーザマーカ。
【請求項3】
前記メモリ部は、線種が直線のときの第1のスキャン速度と、マーキングすべきパターンの線分の線種が曲線のときにその曲率を示すパラメータを保持するものであり、
前記制御手段は、曲線の線分の走査時に、そのパラメータに合わせて算出された前記第2のスキャン速度により前記走査手段を制御する請求項1記載のレーザマーカ。
【請求項4】
前記メモリ部は、線種が直線のときの第1のスキャン速度と、スキャニングの縮退を許容するレベルと、マーキングすべきパターンの線分の線種が曲線のときにその曲率を示すパラメータを保持するものであり、
前記制御手段は、曲線の線分の走査時に、前記第1のスキャン速度と、縮退を許容するレベルと、前記曲線の線分のパラメータとに基づいて、前記第2のスキャン速度を算出する請求項1記載のレーザマーカ。
【請求項5】
前記レーザ光源は、レーザ光をパルス発振するレーザ光源であり、
前記制御手段は、曲線の線分の走査時に前記レーザ光源のパルス発振周波数と当該レーザ光源から出力されるレーザパワーのピーク値を前記第2のスキャン速度に合わせて変化させることにより、前記レーザパワーのピーク値とマーキングのライン長当たりのパルス発振数とを夫々直線の線分の走査時と略同一になるよう制御する請求項1〜4のいずれか1項記載のレーザマーカ。
【請求項6】
前記制御手段は、曲線の線分の走査時に前記レーザ光源のパルス発振におけるデューティ比を前記第2のスキャン速度に合わせて変化させることにより、前記レーザパワーのピーク値を夫々直線の線分の走査時と略同一になるよう制御する請求項5記載のレーザマーカ。
【請求項7】
前記レーザ光源は、Qスイッチ又はシャッターを利用したパルスレーザ、又は変調制御が可能な半導体レーザを光源としたパルスレーザである請求項5又は6記載のレーザマーカ。
【請求項8】
前記レーザ光源は、Qスイッチ又はシャッターを利用したパルスレーザ、又は変調制御が可能な半導体レーザを光源としたパルスレーザであり、
前記制御手段は、前記Qスイッチの開閉によるレーザ光のエネルギー蓄積量を制御することにより、前記レーザパワーのピーク値を夫々直線の線分の走査時と略同一になるよう制御する請求項5記載のレーザマーカ。
【請求項9】
前記レーザ光源は、連続してレーザ光を発振する連続発振レーザ光源である請求項1〜4のいずれか1項記載のレーザマーカ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載のレーザマーカと、
前記レーザマーカのメモリ部にパターンテーブルを入力する入力装置と、を具備するレーザマーキングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−125489(P2010−125489A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303308(P2008−303308)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000129253)株式会社キーエンス (681)
【Fターム(参考)】