説明

レーザ・アーク複合溶接ヘッド

【課題】溶接方向に対して溶接母材の変形や歪み、傾き、板厚の変化が生じた場合でも、レーザ集光ヘッドとアークトーチとの距離、レーザ集光ヘッド及びアークトーチと溶接母材との距離を常に一定に保つことにより、安定したレーザ・アーク複合溶接を行うことができるレーザ・アーク複合溶接ヘッドを提供する。
【解決手段】溶接線方向に略平行に配置され、溶接母材Wの板面上で溶接線方向に沿うように転動する少なくとも2つ以上の倣いローラ4を回動自在に支持するローラ支持フレーム5と、ローラ支持フレーム5を溶接線方向に沿って揺動可能に支持する可動フレーム7と、可動フレーム7を鉛直方向に案内支持する精密直線ガイド9と、ローラ支持フレーム5を溶接母材Wの板面方向に所定の荷重で付勢するスプリング8とを含んでいる。レーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2は、溶接線上に配置されるようローラ支持フレーム5に取付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接とアーク溶接とを併用して溶接を行なうレーザ・アーク複合溶接ヘッドに関し、特に、溶接線方向に対して溶接母材の変形や歪み、傾き、板厚の変化が生じても、レーザ集光ヘッドとアーク溶接トーチとの距離、レーザ集光ヘッド及びアーク溶接トーチと溶接母材との距離を常に一定に保つことができるレーザ・アーク複合溶接ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
YAGレーザ、炭酸ガスレーザ、半導体レーザ、ファイバーレーザ及びディスクレーザ等を利用したレーザ溶接は、高エネルギー密度の熱源であるため、例えば、2m/分を超える高速溶接が可能である。その反面、レーザ照射部のビームスポットが小さいため、溶融金属量が少なく、ギャップを埋めながら溶接することが困難である。したがって、レーザ溶接においては、溶接母材の継手部分のギャップ管理が必要であった。
【0003】
アーク溶接は、溶接母材と電極との間、あるいは、溶接母材と溶接ワイヤとの間でアークを発生させ、その熱によって溶接母材を溶融し、溶接箇所の周囲を例えば、ArガスやHeガス等のシールドガスで保護して溶接する。
【0004】
アーク溶接の一つであるTIG溶接は、例えば、厚さ3mm以上の中厚板の溶接を行う場合、溶接開先を形成し、溶融部にフィラワイヤ(溶加材)を送給し、多数パスの積層を行い、溶接開先を埋めることにより溶接を行う。このため、溶接母材の板厚が厚い場合には、非常に多くの溶接時間を要する。
【0005】
そこで、近年、中厚板の高能率溶接法として、レーザ照射とアーク溶接とを併用するレーザ・アーク複合溶接が提案されている。レーザ・アーク複合溶接は、レーザ照射による深い溶込みで、アークの広がりのある熱源によって継手部分を幅広く溶融し、両熱源の複合効果等を利用するため、厚板の溶接及び高速溶接に有効である(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−224836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図6及び図7は、従来のレーザ・アーク複合溶接ヘッドによる溶接母材を溶接している状態を示す側面図である。
【0008】
図6(a)に示すように、レーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2は、中心軸を傾斜させて溶接母材W上に配設されている。また、溶接母材Wの板面上で溶接方向(矢印方向)に沿うように回動する1個の倣いローラ4がローラ支持フレーム5により回動自在に支持されている。そして、レーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2が本体フレーム(図示せず)を介してローラ支持フレーム5に取付けられている。
【0009】
レーザ集光ヘッド1は、レーザ集光ヘッド1の先端と、レーザ集光ヘッド1の中心軸と溶接母材Wとの交点間距離D(以下、「距離D」と記す。)が確保されて配置されている。また、アーク溶接トーチ2は、シールドガスノズル2の先端のコンタクトチップ30と、アーク溶接トーチの中心軸と溶接母材Wとの交点間距離D(以下、距離「D」と記す。)が確保されて配置されている。
【0010】
さらに、レーザ集光ヘッド1とアーク溶接トーチ2とは、レーザ集光ヘッド1の中心軸と溶接母材Wとの交点と、アーク溶接トーチ2の中心軸と溶接母材Wとの交点との距離DLA(以下、「距離DLA」と記す。)が確保されて配置されている。このように、従来のレーザ・アーク複合溶接ヘッドは、1個の倣いローラ4とレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2との位置関係が固定されたものである。
【0011】
レーザ・アーク複合溶接において、上記距離D、距離D及び距離DLAは、溶接性に影響する極めて重要なパラメータである。この3つのパラメータのうち、距離DLAは、この距離DLAが短い場合はレーザ光とアークの干渉のため、スパッタの増加等の溶接不安定性が増す一方、距離DLAが長い場合はレーザ光とアークが分離し、複合溶接としてのメリットが得られないという理由から適切な距離が確保されている。
【0012】
しかしながら、1個の倣いローラ4とレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2との位置関係が固定されていると、溶接方向に対して溶接母材Wの変形や歪み、傾き、板厚の変化が生じると、上記3つのパラメータにずれが生じる。
【0013】
その具体例について、図6(a)、(b)を参照して説明する。図6(a)において、溶接母材Wを平坦な状態で突合せ溶接する場合は、上記3つのパラメータである、距離D、距離D及び距離DLAは変化しない。しかし、図6(b)において、溶接母材Wが例えば、15度傾斜した状態で突合せ溶接する場合、平坦な状態で突合せ溶接する場合の距離D、距離D及び距離DLAがΔD、ΔD及びΔDLAだけ変化する。
【0014】
すなわち、溶接時に、溶接方向に対して溶接母材Wの変形や歪み、傾き、板厚の変化が生じると、溶接性に影響する上記3つのパラメータを一定に保つことができなくなり、レーザ・アーク複合溶接を安定して行うことができないという問題があった。
【0015】
上記距離D、距離D及び距離DLAが変化すると新たな問題が生じる。その具体例について図6を参照して説明する。距離Dが変化すると、レーザ光10が溶接母材Wの表面で反射することがあり、その反射光がアーク溶接トーチ2のシールドガスノズル3に照射され、シールドガスノズル3が早期に焼損する恐れがある。
【0016】
また、図7において、レーザ集光ヘッド1には、通常、スパッタ等から集光レンズ光学系を保護するため、レーザ集光ヘッド1の先端部の一方向からレーザ光10の光軸に対して略直角方向へ噴出するクロスジェット用の空気300が噴出されている。
【0017】
距離DLA及びレーザ集光ヘッド1の角度が変化すると、クロスジェット用の空気300の噴出流によってレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の先端部近傍領域に負圧部が生じ、この負圧部にシールドガスノズル3から流出するシールドガス20が誘引され、シールドガス20に空気が混入してしまい、アーク溶接の溶接欠陥が発生する恐れがある。
【0018】
このように、従来のレーザ・アーク複合溶接ヘッドにおいては、溶接方向に対して溶接母材Wの変形や歪み、傾き、板厚の変化が生じた場合、距離D、距離D及び距離DLAを一定に保つことができなくなるので、レーザ・アーク複合溶接の溶接性の悪化のみならず、アーク溶接トーチ2のシールドガスノズル3が早期に損傷する恐れや、アーク溶接の溶接欠陥の恐れがあるという問題があった。
【0019】
したがって、本発明は、上記問題点を解決することを課題としてなされたものであり、その目的とするところは、溶接方向に対して溶接母材の変形や歪み、傾き、板厚の変化が生じた場合でも、レーザ集光ヘッドとアーク溶接トーチとの距離、レーザ集光ヘッド及びアーク溶接トーチと溶接母材との距離を常に一定に保つことにより、安定したレーザ・アーク複合溶接を行うことができるとともに、アーク溶接トーチの損傷やアーク溶接の溶接欠陥を防止することができるレーザ・アーク複合溶接ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のレーザ・アーク複合溶接ヘッドは、レーザ光を集光して溶接母材に照射する集光レンズ光学系を有するレーザ集光ヘッドと、アーク溶接トーチとを並設し、レーザ溶接とアーク溶接とを併用して溶接するレーザ・アーク複合溶接ヘッドである。溶接線と所定の間隔をもって配置され、前記溶接母材の板面上で溶接線方向に沿うように転動する少なくとも2つの倣い手段と、倣い手段を回動自在に支持する倣い支持手段と、倣い支持手段を溶接線方向に沿って揺動可能に支持する支持手段と、倣い支持手段を溶接母材の板面方向に所定の荷重で付勢する付勢手段とを含んでいる。レーザ集光ヘッド及びアーク溶接トーチは、溶接線上に配置されるよう倣い支持手段にそれぞれ取付けられている。
【0021】
支持手段を鉛直方向に案内支持する直動手段をさらに備えてもよい。
【0022】
溶接線を挟んで倣い手段と対向に配置された第2の倣い手段及び該第2の倣い手段を回動自在に支持する第2の倣い支持手段をさらに備え、第2の倣い支持手段を溶接線方向に沿って揺動可能に支持する第2の支持手段と、第2の支持手段を鉛直方向に案内支持する第2の直動手段と、第2の倣い支持手段を溶接母材の板面方向に所定の荷重で付勢する第2の付勢手段とを含み、倣い支持手段と第2の支持手段を連結部材により連結することが好ましい。
【0023】
また、本発明のレーザ・アーク複合溶接ヘッドは、レーザ光を集光して溶接母材に照射する集光レンズ光学系を有するレーザ集光ヘッドと、アーク溶接トーチとを並設し、レーザ溶接とアーク溶接とを併用して溶接するレーザ・アーク複合溶接ヘッドである。溶接線と所定の間隔をもって配置され、溶接母材の板面上で溶接線方向に沿うように転動する少なくとも2つの倣い手段と、倣い手段を回動自在に支持する第1の倣い支持手段と、溶接線を挟んで倣い手段と対向に配置された第2の倣い手段及び該第2の倣い手段を回動自在に支持する第2の倣い支持手段をさらに備え、第1の倣い支持手段と第2の倣い支持手段は、その上端部を連結部材により連結されており、第1の倣い支持手段及び第2の倣い支持手段を溶接母材の板面方向に所定の荷重で付勢する付勢手段と、該第1の倣い支持手段及び第2の倣い支持手段の上端面と、付勢手段を介して配置された天板と、さらに、第1の倣い支持手段と第2の倣い支持手段における、溶接線方向に対する前後左右の傾動を許容する可動部材を前記連結部材と天板の間に配置し、レーザ集光ヘッド及びアーク溶接トーチは、溶接線上に配置されるよう前記第1の倣い支持手段又は第2の倣い支持手段のいずれか一方にそれぞれ取付けられている。
【0024】
レーザ集光ヘッド及びアーク溶接トーチは、溶接線方向に対する水平位置、溶接母材の板面に対する高さ及び溶接母材の板面に対する角度を調整する位置調整機構が具備されていることが好ましい。
【0025】
アーク溶接トーチのシールドガスノズルのハウジングは、電極を中心に回転可能に支持されているとともに、該シールドガスノズルのハウジングを回転させる回転機構を具備してもよい。
【0026】
レーザ集光ヘッドの先端部には、該レーザ集光ヘッドの先端部の一方向からレーザ光の光軸に対して略直角方向に噴出するクロスジェット用の空気を、アーク溶接トーチのシールドガスノズルから流出するシールドガスと干渉しないように案内する案内手段が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、溶接方向に対して溶接母材の変形や歪み、傾き、板厚の変化が生じても、倣いローラを板面の変化に倣わせながら追従させることができるので、レーザ集光ヘッドとアーク溶接トーチとの距離、レーザ集光ヘッド及びアーク溶接トーチと溶接母材との距離を常に一定に保つことができる。その結果、安定したレーザ・アーク複合溶接を行うことができる。さらに、アーク溶接トーチのシールドガスノズルのハウジングが電極を中心に回転する構成、及び、クロスジェット用の空気の噴流をシールドガスノズルから流出するシールドガスと干渉しないように案内する案内手段をレーザ集光ヘッドの先端部に設けた構成を具備しているので、アーク溶接トーチの早期の損傷やアーク溶接の溶接欠陥をも防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るレーザ・アーク複合溶接ヘッドの第1実施形態を示した斜視図及び側面図である。
【図2】本発明に係るレーザ・アーク複合溶接ヘッドの第2実施形態を示した斜視図及び側面図である。
【図3】本発明に係るレーザ・アーク複合溶接ヘッドの第3実施形態を示した側面図である。
【図4】アーク溶接トーチのシールドガスノズルを回転させる回転機構を設け、レーザ集光ヘッドの先端部にクロスジェット用空気の案内板を設けた側面図である。
【図5】第2実施形態のレーザ・アーク複合溶接ヘッドの変形例を示した側面図である。
【図6】従来のレーザ・アーク複合溶接ヘッドによる溶接母材を溶接している状態を示す側面図である。
【図7】シールドガスノズルの損傷及びクロスジェット用の空気によるシールドガスの干渉を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るレーザ・アーク複合溶接ヘッドの実施の形態について、添付図面に従って説明する。
【0030】
実施の形態1
1.レーザ・アーク複合溶接ヘッドの構成
図1は、本発明に係るレーザ・アーク複合溶接ヘッドの第1実施形態を示した構成図である。図1に示すように、本実施の形態のレーザ・アーク複合溶接ヘッドT(以下、「複合溶接ヘッドT」と記す。)は、多関節ロボットによって溶接を行う場合に、多関節ロボットのロボットアーム200の先端に装着されて溶接を行うものである。
【0031】
複合溶接ヘッドTは、レーザ集光ヘッド1と、アーク溶接トーチ2と、倣いローラ4及びローラ支持フレーム5と、回転軸6と、可動フレーム7と、スプリング8と、精密直線ガイド9と、本体フレーム100とを含む。
【0032】
レーザ集光ヘッド1から照射されるレーザとしては、例えば、YAGレーザが選択される。YAGレーザは、ビームスポット径を小さくすることが可能であるため、より精密な溶接を行うことができるので好ましい。そして、レーザ発振器(図示せず)から発生したレーザ光を光ファイバによって伝送し、複数枚の集光レンズ及び保護ガラスからなる集光レンズ光学系により、レーザ光10を溶接母材W1、W2の表面部分に集光させる。
【0033】
なお、本実施の形態では、レーザ集光ヘッド1から照射されるレーザとしてYAGレーザで構成しているが、これに限らず、炭酸ガスレーザ、半導体レーザ、ファイバーレーザ及びディスクレーザを用いることも可能である。
【0034】
レーザ集光ヘッド1は、レーザ光10を集光して溶接母材W1、W2に照射する集光レンズ光学系を有しており、溶接線上に配置される。レーザ集光ヘッド1は、位置調整ネジ80a及び摺動ブロック80bからなる水平位置調整機構80に固着されており、位置調整ネジ80aを時計回り方向又は反時計回り方向に回すことにより、摺動ブロック80bが右方向又は左方向に移動するのに伴い、レーザ集光ヘッド1が水平方向に移動する。
【0035】
また、レーザ集光ヘッド1は、ベースブロック81a、摺動ラック部材81b及び高さ調整ネジ81cからなる高さ調整機構81に取付けられている。高さ調整ネジ81cを時計回り方向又は反時計回り方向に回すことにより、摺動ラック部材81bが上下方向に移動するのに伴い、レーザ集光ヘッド1が上下方向に移動する。
【0036】
さらに、レーザ集光ヘッド1は、円盤状のベース板82に取付けられているとともに、該ベース板82は回転軸(図示せず)を介してローラ支持フレーム5に回動可能に支持されている。また、ベース板82の上部側面には、角度調整機構90が設けられており、角度調整機構90のつまみを時計回り方向に回すことにより、ベース板80が所望の角度で固定される。その結果、レーザ集光ヘッド1を所望の角度にセットできる(なお、図1(b)は、角度調整機構90を省略している。)。
【0037】
アーク溶接トーチ2としては、例えば、溶接ワイヤWRと溶接母材W1、W2間にアークを発生させて溶接する消耗電極を使用するMIG溶接トーチやMAG溶接トーチが用いられる。そして、アーク溶接トーチ2から発生するアーク放電35をレーザ光10の集光部に合わせる。(なお、図において、ワイヤ供給機構等の機器を省略している。)
【0038】
アーク溶接トーチ2は、溶接線上にレーザ集光ヘッド1とほぼ直列となるように配置される。アーク溶接トーチ2側にもレーザ集光ヘッド1側と同様の上記調整機構を具備しており、アーク溶接トーチ2を所望の位置及び角度に調整することができる。
【0039】
上記構成により、水平位置調整機構80、高さ調整機構81及び角度調整機構90を適宜調整することで、レーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2における3つのパラメータ、距離D、距離D及び距離DLAが所望の値に調整することができる。また、高さ調整機構81を具備することにより、溶接母材Wに対するレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の高さを可変することができ、例えば、溶接ビードを2層以上重ねる「多パス溶接」にも適用することができる。
【0040】
倣いローラ4は、溶接線方向に略平行となるよう直列に2個配置され、溶接母材W1の板面上で溶接線方向に沿うように転動するよう、下向きコの字型のローラ支持フレーム5に回転軸40を介して回動自在に取付けられている。
【0041】
ローラ支持フレーム5の横梁部分には、回転軸6が水平方向に貫通して取付けられている。一方、断面T字状の可動フレーム7の側面には、ベアリング(図示せず)が圧入嵌合されており、ローラ支持フレーム5の回転軸6を軸支している。これにより、可動フレーム7は、ローラ支持フレーム5を溶接線方向に沿って揺動可能に支持される。
【0042】
スプリング8は、可動フレーム7の上端部と本体フレーム100の上端部裏面側との間に固着され、ローラ支持フレーム5をスプリング8の反発力で下方に付勢している。すなわち、倣いローラ4を溶接母材W1の板面に向けて所定の荷重で付勢している。倣いローラ4に対する付勢力は、スプリング8を変更することで適宜の付勢力を得ることができるが、本実施の形態の複合溶接ヘッドTにおける倣いローラ4に対する付勢力は、倣いローラ4が溶接母材W上から離反しない程度の付勢力でよい。
【0043】
可動フレーム7と本体フレーム100との間には、レーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2、ローラ支持フレーム5からなるユニットを鉛直方向(矢印方向)へ移動可能に案内支持する一対のリニアレール9aと、これらのリニアレール9a上を走行するリニアガイド9bからなる精密直線ガイド9が設けられている。
【0044】
図1(a)に示すように、一対のリニアレール9aは、本体フレーム100の一の側面に所定の間隔をもって、鉛直方向(矢印方向)に延びて平行に配置されている。一方、図1(b)に示すように、リニアガイド9bは、固定フレーム100の一の側面と対向する可動フレーム7の側面にそれぞれ取り付け固定され、各リニアガイド9bがリニアレール9a上に移動可能に支持されている。
【0045】
これにより、可動フレーム7に支持されているレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2、ローラ支持フレーム5からなるユニットは、鉛直方向(矢印方向)への移動が可能となる。
【0046】
このように、本実施の形態の複合溶接ヘッドTは、ローラ支持フレーム5が溶接線方向に沿って揺動可能に支持されている構成、倣いローラ4を溶接母材Wの板面に向けて所定の荷重で付勢する構成、並びに、ローラ支持フレーム5が鉛直方向へ移動可能な構成を具備することにより、溶接線方向に対して溶接母材Wの変形や歪み、傾き、板厚の変化が生じても、倣いローラ4を板面の変化に倣わせながら追従させることができる。その結果、[発明が解決しようとする課題]で説明した3つのパラメータである、距離D、距離D及び距離DLAを一定に保つことができる。
【0047】
2.レーザ・アーク複合溶接ヘッドの動作
次に、本実施の形態の複合溶接ヘッドTによる溶接について図1を参照して説明する。本動作例では、溶接線方向の前方にレーザ集光ヘッド1を配置し、後方にアーク溶接トーチ2を配置したレーザ先行型の溶接法で説明する。
【0048】
先ず、多関節ロボットを作動させて複合溶接ヘッドTを溶接開始位置に戴置する。この時、2個の倣いローラ4は、溶接線の近傍に略平行となるよう溶接母材W1上に戴置される。そして、該倣いローラ4は、スプリング8の反発力で溶接母材W1の板面方向に所定の荷重で付勢した状態で溶接母材W1上に当接する。
【0049】
そして、水平位置調整機構80、高さ調整機構81及び角度調整機構90を適宜調整し、上記3つのパラメータ、距離D、距離D及び距離DLAが所望の値となるようレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2をセットする。
【0050】
次に、多関節ロボットの制御装置(図示せず)に溶接開始信号が入力すると、レーザ・アーク複合溶接が開始され、溶接母材W1、W2との突合せ部分に溶接ビードBwが形成される。
【0051】
ロボットアーム200の先端に接続された複合溶接ヘッドTは、ロボット本体内のティーチング装置に予めティーチングされた溶接経路に従ってX軸方向(溶接線方向)に移動する。この時、複合溶接ヘッドTの倣いローラ4は、スプリング8の反発力により溶接母材W1の板面上を付勢し、溶接線方向を沿うように十分に倣った状態で転動する。
【0052】
一方、複合溶接ヘッドTの溶接進行方向に対して、例えば、溶接母材W1、W2の板面が溶接進行方向に向かって漸次傾きが増大するときは、ローラ支持フレーム5が回転軸6の仮想中心点を軸にして時計回り方向に傾き、溶接母材Wに対するレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の傾きを補正する。
【0053】
さらに、ローラ支持フレーム5が精密直線ガイド9を介して鉛直方向に押し上がることによりスプリング8が縮む。そして、溶接母材W1の板面上を転動する倣いローラ4は、スプリング8の付勢力に抗して溶接母材W1の傾きの変化に倣いつつ溶接母材W1上を転動するので、溶接母材Wに対するレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の高さを補正することができる。
【0054】
同様に、複合溶接ヘッドTの溶接進行方向に対して、例えば、溶接母材W1、W2の板面が溶接進行方向に向かって漸次傾きが減少するときは、ローラ支持フレーム5が回転軸6の仮想中心点を軸にして反時計回り方向に傾き、溶接母材Wに対するレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の傾きを補正する。
【0055】
さらに、ローラ支持フレーム5が精密直線ガイド9を介して鉛直方向に下降することによりスプリング8が伸び、該スプリング8の反発力により溶接母材W1の板面上を転動する倣いローラ4を付勢する。これにより、溶接母材Wに対するレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の高さを補正することができる。
【0056】
その後、複合溶接ヘッドTが溶接終了位置に到達すると、レーザ・アーク複合溶接が終了する。
【0057】
なお、本実施の形態の複合溶接ヘッドTでは、精密直線ガイド9を設けて、複合溶接ヘッドTの鉛直方向の動きを許容する構成を説明したが、これに限らず、スプリング8のみでローラ支持フレーム5を付勢する機構と複合溶接ヘッドTの鉛直方向の動きを許容する機構とを兼用してもよい。
【0058】
実施の形態2
図2は、本発明に係る複合溶接ヘッドの第2実施形態を示した構成図である。図2に示すように、本実施の形態の複合溶接ヘッドTは、倣いローラの数及び倣いローラを支持するローラ支持フレームの構成等が異なっている。なお、図2において、第1実施形態と同一の要素には、上記第1実施形態と同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0059】
複合溶接ヘッドTは、4個の倣いローラ4を有している。一方の倣いローラ4は、溶接母材W1の板面上で溶接線方向に沿うように転動するよう、第1のローラ支持フレーム5aに回転軸40を介して回動自在に取付けられている。また、他方の倣いローラ4は、上記一方の倣いローラ4と対向する位置に配置され、溶接母材W2の板面上で溶接線方向に沿うように転動するよう、第2のローラ支持フレーム5bに回転軸40を介して回動自在に取付けられている。
【0060】
図2(a)に示すように、第1のローラ支持フレーム5aの内側側面と第2のローラ支持フレーム5bの内側側面との間には、ステー75が固着されており、第1のローラ支持フレーム5aと第2のローラ支持フレーム5bとが一体的に形成されている。図2(b)に示すように、第1のローラ支持フレーム5a及び第2のローラ支持フレーム5bの上端面には、断面形状が下向きコの字型の天井プレート101が覆設されている。
【0061】
また、ステー75の上端面と天井プレート101の裏面との間には、ボールジョイント85が取付けられており、第1のローラ支持フレーム5a及び第2のローラ支持フレーム5bからなるユニットが、X軸方向に対しても、Y軸方向に対しても左右に傾動可能となるよう構成されている。つまり、ボールジョイント85により、第1のローラ支持フレーム5a及び第2のローラ支持フレーム5bからなるユニットの、溶接線方向に対する前後左右の傾動が許容される。
【0062】
さらに、第1のローラ支持フレーム5a及び第2のローラ支持フレーム5bの上端面と、天井プレート101の裏面との間隙には、側面形状が略山型状の板バネ51がそれぞれ固着されている。これにより、各板バネ51には予め荷重がかけられた状態となっている。
【0063】
その結果、板バネ51の反発力によって該板バネ51の弓状部分が、第1のローラ支持フレーム5a及び第2のローラ支持フレーム5bの上端面を下方に付勢する。すなわち、一方の倣いローラ4及び他方の倣いローラ4を溶接母材W1、W2の板面に向けて所定の荷重で付勢するよう構成されている。
【0064】
さらに、天井プレート101における垂直に折り曲げられた部分の裏面と、第1のローラ支持フレーム5a及び第2のローラ支持フレーム5bの上部外側側面との間隙には、ガイドブッシュ52がそれぞれ取付けられている。各ガイドブッシュ52は、第1のローラ支持フレーム5a及び第2のローラ支持フレーム5bからなるユニットのZ軸周りの動きを規制するよう作用する。また、X軸周りの回転に対し、該ユニットが初期位置に戻ろうとする反力として作用する。
【0065】
第1のローラ支持フレーム5aにおける内側側面のステー75と干渉しない部位には、レーザ集光ヘッド1、水平位置調整機構80及び高さ調整機構81からなるユニットが、角度調整機構90が設けられたベース板82を介して回動可能に支持されている。アーク溶接トーチ2もレーザ集光ヘッド1と同様に、角度調整機構90が設けられたベース板82を介して回動可能に支持されている。(なお、図2(b)は、角度調整機構90を省略している。)。
【0066】
本実施の形態の複合溶接ヘッドTは、上述のように構成されているので、例えば、複合溶接ヘッドTの溶接進行方向に対して、溶接母材W1、W2の板面が溶接進行方向に向かって漸次傾きが増大する場合、第1のローラ支持フレーム5a及び第2のローラ支持フレーム5bからなるユニットは、ボールジョイント85の作用により、Y軸方向に対して右方向に傾き、溶接母材Wに対するレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の傾きを補正する。
【0067】
さらに、第1のローラ支持フレーム5a及び第2のローラ支持フレーム5bからなるユニットがY軸方向に対して右方向に傾くことにより、第1のローラ支持フレーム5a及び第2のローラ支持フレーム5bの溶接進行方向側の上端部と、天井プレート101の裏面との間隙が小さくなり、板バネ51の対応する弓状部分が弾性変形する。
【0068】
該板バネ51が弾性変形することで、溶接進行方向に対する溶接母材Wの傾きの変化に倣いつつ4個の倣いローラ4が溶接母材W1、W2上を転動するので、溶接母材Wに対するレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の高さも補正することができる。
【0069】
また、図2(b)において、例えば、溶接母材W1よりも溶接母材W2の板厚が厚く、これらを溶接すると仮定した場合、第1のローラ支持フレーム5a及び第2のローラ支持フレーム5bからなるユニットは、X軸方向に対して左方向に傾き、溶接母材Wに対するレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の傾きを補正する。
【0070】
さらに、第1のローラ支持フレーム5a及び第2のローラ支持フレーム5bからなるユニットがX軸方向に対して左方向に傾くことにより、第2のローラ支持フレーム5bの上端面と、天井プレート101の裏面との間隙が小さくなり、対応する板バネ51全体が弾性変形する。一方、第1のローラ支持フレーム5aの上端面と天井プレート101の裏面との間隙が大きくなり、対応する板バネ51の反発力で溶接母材W1の板面上を転動する倣いローラ4を付勢する。
【0071】
これにより、板厚の異なる溶接母材同士の溶接であっても、溶接母材W1上を倣う倣いローラ4と、溶接母材W2上を倣う倣いローラ4とがそれぞれの溶接母材W1、W2の板面に対して付勢しながら十分に倣った状態で転動する。その結果、溶接母材Wに対するレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の高さを補正することができる。
【0072】
このように、本実施の形態の複合溶接ヘッドTは、第1実施形態の複合溶接ヘッドTと同様に、3つのパラメータである、距離D、距離D及び距離DLAを一定に保つことができる。
【0073】
また、溶接母材W1上を倣う一方の倣いローラ4と、溶接母材W2上を倣う他方の倣いローラ4が独立して溶接母材W1、W2に対して付勢しながら十分に倣った状態で転動するので、板厚の異なる溶接母材同士の溶接であっても、常にレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の狙い位置を溶接線に一致させることができる。
【0074】
さらに、板バネ51で、倣いローラ4の溶接母材Wへの付勢と、溶接母材Wに対するレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の高さの補正を兼用しているので、第1実施形態の複合溶接ヘッドTに比べて構造を簡単にすることができる。
【0075】
なお、本実施の形態の複合溶接ヘッドTにおいて、図5に示すように、天井プレート101の上面に複合溶接ヘッドTの鉛直方向(矢印方向)の動きを許容する機構を設けてもよい。
【0076】
図5において、天井プレート101の上面に固着されたL字状の支持部材104と、ロボットアーム200の先端部に接続される逆L字状の可動支持部材105との間には、複合溶接ヘッドTの鉛直方向(矢印方向)の動きを許容する一対のリニアレール901a、並びに、リニアレール901a上を走行するリニアガイド901bからなる精密直線ガイド901が設けられている。さらに、支持部材104と可動支持部材105との各水平部材間には、スプリング801が固着されている。
【0077】
一対のリニアレール901aは、可動支持部材105の一の側面に所定の間隔をもって、鉛直方向(矢印方向)に延びて平行に配置されている。一方、リニアガイド901bは、可動支持部材105の一の側面と対向する支持部材104の一の側面にそれぞれ取り付け固定され、各リニアガイド901bがリニアレール901a上に移動可能に支持されている。
【0078】
これにより、溶接母材W1上を倣う倣いローラ4と、溶接母材W2上を倣う倣いローラ4とがそれぞれの溶接母材W1、W2の板面に対して付勢しながら十分に倣った状態で転動させることができ、溶接母材Wに対するレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の高さを補正する機能をさらに高めることができる。
【0079】
なお、本実施の形態の複合溶接ヘッドTでは、ステー75の上端面と天井プレート101の裏面との間にボールジョイント85を取り付けた例を説明した。このボールジョイント85に代えて、例えば、ジンバルを取り付け、第1のローラ支持フレーム5a及び第2のローラ支持フレーム5bからなるユニットの、溶接線方向に対する前後左右の傾動を許容する構成としてもよい。ジンバルを取り付けることにより、天井プレート101の形状を単純な平板状に形成することができる。
【0080】
実施の形態3
図3は、本発明に係る複合溶接ヘッドの第3実施形態を示した構成図である。図3に示すように、本実施の形態の複合溶接装置Tは、第1実施形態の複合溶接ヘッドTの構成に加えて、天井プレート102及び側面プレート103と、倣いローラ4及び第2のローラ支持フレーム5bと、第2の可動フレーム700と、スプリング800と、第2の精密直線ガイド900とを具備している。なお、図3において、第1実施形態と同一の要素には、上記第1実施形態と同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0081】
天井プレート102は、ローラ支持フレーム5の上端側面に水平に固着されている。側面プレート103は、天井プレート102に対して鉛直方向となるよう該天井プレート102の他端側近傍に固着されている。
【0082】
倣いローラ4は、溶接線方向に略平行となるよう直列に2個配置され、溶接母材W2の板面上で溶接線方向に沿うように転動するよう、第2のローラ支持フレーム5bに回転軸40を介して回動自在に取付けられている。
【0083】
第2のローラ支持フレーム5bには、回転軸600が水平方向に貫通して取付けられている。一方、断面T字状の第2の可動フレーム700の側面には、ベアリング(図示せず)が圧入嵌合されており、第2のローラ支持フレーム5bの回転軸600を軸支している。これにより、第2の可動フレーム700は、第2のローラ支持フレーム5bを溶接線方向に沿って揺動可能に支持される。
【0084】
スプリング800は、第2の可動フレーム700の上端部と天井プレート102の上端部裏面側との間に固着され、第2のローラ支持フレーム5bをスプリング800の反発力で下方に付勢している。すなわち、倣いローラ4を溶接母材W2の板面に向けて所定の荷重で付勢している。
【0085】
第2の可動フレーム700と側面プレート103との間には、第2のローラ支持フレーム5b及び第2の可動フレーム700からなるユニットを鉛直方向(矢印方向)へ移動可能に案内支持する一対のリニアレール900aと、これらのリニアレール900a上を走行するリニアガイド900bからなる精密直線ガイド900が設けられている。
【0086】
一対のリニアレール900aは、側面プレート103の一の側面に所定の間隔をもって、鉛直方向(矢印方向)に延びて平行に配置されている。一方、リニアガイド900bは、側面プレート103の一の側面と対向する第2の可動フレーム700の側面にそれぞれ取り付け固定され、各リニアガイド900bがリニアレール900a上に移動可能に支持されている。
【0087】
これにより、第2の可動フレーム700に支持されている第2のローラ支持フレーム5bは、鉛直方向(矢印方向)への移動が可能となる。なお、第2のローラ支持フレーム5bに支持されている倣いローラ4の溶接母材への倣い動作は、第1実施形態で説明した動作説明と同様であるので説明を省略する。
【0088】
このように、本実施の形態の複合溶接ヘッドTは、ローラ支持フレーム5に支持されている一方の倣いローラ4が、溶接線方向に対して溶接母材W1の変形や歪み、傾き、板厚の変化が生じても、板面の変化に倣わせながら追従する。また、第2のローラ支持フレーム5bに支持されている他方の倣いローラ4が、溶接線方向に対して溶接母材W2の変形や歪み、傾き、板厚の変化が生じても、板面の変化に倣わせながら追従する。
【0089】
すなわち、一方の倣いローラ4と他方の倣いローラ4が独立して溶接母材W1、W2の板面の変化に倣わせながら追従する構成としてある。この構成については、第2実施形態の複合溶接ヘッドTと同様であるが、本実施の形態の複合溶接ヘッドTは、ローラ支持フレーム5及び第2のローラ支持フレーム5bのそれぞれが、溶接母材W1、W2に対するレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の傾きの補正と高さの補正を行うので、本実施の形態の複合溶接ヘッドTの方が機能的に優れている。
【0090】
これにより、第1実施形態及び第2実施形態の複合溶接ヘッドTと同様に、3つのパラメータである、距離D、距離D及び距離DLAを一定に保つことができる。また、目違いの発生及び板厚の変化等があっても、常にレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の狙い位置を溶接線に一致させることができる。
【0091】
なお、上記第1実施形態及び第2実施形態での動作説明では、溶接母材Wの板面が溶接進行方向に向かって漸次傾きが増大した場合と、溶接母材Wの板面が溶接進行方向に向かって漸次傾きが減少した場合について、溶接母材Wに対するレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の傾き及び高さを補正する例を説明したが、溶接母材Wの変形や歪み、板厚が変化した場合も同様に、溶接母材Wに対するレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の傾き及び高さを補正することができる。
【0092】
また、上記第1実施形態〜第3実施形態では、倣いローラ4は、溶接線方向に略平行となるよう直列に2個配置した構成としているが、必ずしも溶接線方向に平行となるよう直列に配置することはなく、溶接線からある程度の距離だけ離れていれば、溶接線方向の前方の倣いローラ4と、後方の倣いローラ4とをオフセットさせて配置してもよい。
【0093】
さらに、上記第1実施形態〜第3実施形態では、円盤状の倣いローラ4を用いて溶接母材W上を倣わせる例を説明したが、本実施の形態に限定するものではなく、そろばん玉状やベアリング状であってもよい。また、倣いローラ4の形状をボール状とすることで、例えば、曲線の溶接やウイービング溶接にも対応することができる。
【0094】
3.アーク溶接トーチの損傷及び溶接欠陥を防止する構成
図4は、本発明に係る複合溶接ヘッドにおける、アーク溶接トーチの損傷及びアーク溶接の溶接不良を防止する構成を示した側面図である。
【0095】
図4において、レーザ集光ヘッド1から照射されたレーザ光10が溶接母材Wの表面で反射した場合、その反射光がアーク溶接トーチ2のシールドガスノズル3に照射されることにより、シールドガスノズル3が早期に焼損する恐れがある。これを防止するため、本実施の形態では、アーク溶接トーチ2のシールドガスノズル3のハウジングが電極を中心に回転駆動するよう構成した。
【0096】
アーク溶接トーチ2のシールドガスノズル3は、固定側ハウジングに配設されたベアリング(共に図示せず)により支持されている。また、シールドガスノズル3の中央外周部にはギア56が固着されており、該ギア56と、アーク溶接トーチ2の外部に配設された、モータ50の先端部に取付けられているピニオンギア55とが噛合されている。これにより、モータ50が駆動すると、シールドガスノズル3のハウジングが電極を中心に回転する。
【0097】
このように、アーク溶接トーチ2のシールドガスノズル3のハウジングを、電極を中心に回転駆動するよう構成したので、仮に、レーザ光10の反射光がシールドガスノズル3を照射しても、所定部位のみ集中して照射されることを防止できるので、シールドガスノズル3が早期に焼損するリスクを回避することができる。
【0098】
なお、シールドガスノズル3のハウジングを回転させるために本実施の形態では、歯車機構を用いて回転力を伝達する構成としているが、これに限らず、ベルトドライブにより回転力を伝達することも可能である。
【0099】
次に、アーク溶接の溶接不良を防止する構成を説明する。レーザ集光ヘッド1には、通常、スパッタ等から集光レンズ光学系を保護するためのクロスジェット用の空気が、該レーザ集光ヘッド1の先端部の一方向からレーザ光10の光軸に対して略直角方向に噴出している。
【0100】
このクロスジェット用の空気の噴流300は、アーク溶接トーチ2のシールドガスノズル3から流出するシールドガス20の噴流を乱してアーク溶接の溶接性を悪化させる恐れがあるため、クロスジェット用の空気の噴流300を上方に案内する案内板12をレーザ集光ヘッド1の先端部に設けた。
【0101】
この案内板12を設けることにより、クロスジェット用の空気の噴流300が上方に案内されるので、レーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2の先端部近傍領域に負圧部が生じず、シールドガスノズル3から流出するシールドガス20が乱されなくなる。その結果、シールドガス20に空気が混入することを防止でき、アーク溶接の溶接欠陥のリスクを回避できる。
【0102】
なお、クロスジェット用の空気の噴流300を上方に案内できるものであれば、本実施の形態の案内板12に限らず、クロスジェット用の空気の噴流300を上方に排出するダクトをレーザ集光ヘッド1の側方に設けてもよい。
【0103】
なお、今回、開示した実施の形態では、溶接線方向の前方にレーザ集光ヘッド1を配置し、後方にアーク溶接トーチ2を配置したレーザ先行型の溶接法で説明したが、これに限らず、溶接線方向の前方にアーク溶接トーチ2を配置し、後方にレーザ集光ヘッド1を配置したアーク先行型の溶接法にも適用できる。また、今回開示した実施の形態では、溶接線上にレーザ集光ヘッド1及びアーク溶接トーチ2がほぼ直列となるよう配置した例を説明したが、この「ほぼ直列」とは、レーザとアークの両熱源の複合効果が得られる範囲内で、レーザとアーク溶接トーチ2の狙い位置の両方またはどちらか一方をオフセットさせて配置することも含まれる。
【0104】
さらに、今回、開示した実施の形態では、複合溶接ヘッドTを多関節ロボットのロボットアーム200の先端に装着した例を説明したが、これに限らず、複合溶接接ヘッドTを例えば、門型走行台車に装着し、門型自走式溶接装置として構成してもよい。また、例えば、複合溶接ヘッドTを移動台車、回転治具及びX−Yテーブル等に装着することも可能である。
【0105】
今回、開示した実施の形態は例示であってこれに制限されるものではない。本発明は、上記で説明した範囲ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のレーザ・アーク複合溶接ヘッドは、船舶、海洋構造物、貯蔵槽及び中高層ビル等の大型構造物に使用される溶接用鋼材のほか、圧力容器等の溶接に有用である。
【符号の説明】
【0107】
1 レーザ集光ヘッド
2 アーク溶接トーチ
3 シールドガスノズル
4 倣いローラ
5 ローラ支持フレーム
6 回転軸
7 可動フレーム
8 スプリング
9 精密直線ガイド
T レーザ・アーク複合溶接ヘッド
W 溶接母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を集光して溶接母材に照射する集光レンズ光学系を有するレーザ集光ヘッドと、アーク溶接トーチとを並設し、レーザ溶接とアーク溶接とを併用して溶接するレーザ・アーク複合溶接ヘッドであって、
溶接線と所定の間隔をもって配置され、前記溶接母材の板面上で溶接線方向に沿うように転動する少なくとも2つの倣い手段と、
前記倣い手段を回動自在に支持する倣い支持手段と、
前記倣い支持手段を前記溶接線方向に沿って揺動可能に支持する支持手段と、
前記倣い支持手段を前記溶接母材の板面方向に所定の荷重で付勢する付勢手段とを含み、
前記レーザ集光ヘッド及びアーク溶接トーチは、溶接線上に配置されるよう前記倣い支持手段にそれぞれ取付けられている、ことを特徴とするレーザ・アーク複合溶接ヘッド。
【請求項2】
前記支持手段を鉛直方向に案内支持する直動手段をさらに備える、ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ・アーク複合溶接ヘッド。
【請求項3】
前記溶接線を挟んで前記倣い手段と対向に配置された第2の倣い手段及び該第2の倣い手段を回動自在に支持する第2の倣い支持手段をさらに備え、
前記第2の倣い支持手段を前記溶接線方向に沿って揺動可能に支持する第2の支持手段と、
前記第2の支持手段を鉛直方向に案内支持する第2の直動手段と、
前記第2の倣い支持手段を前記溶接母材の板面方向に所定の荷重で付勢する第2の付勢手段とを含み、
前記倣い支持手段と前記第2の支持手段を連結部材により連結した、ことを特徴とする請求項2に記載のレーザ・アーク複合溶接ヘッド。
【請求項4】
レーザ光を集光して溶接母材に照射する集光レンズ光学系を有するレーザ集光ヘッドと、アーク溶接トーチとを並設し、レーザ溶接とアーク溶接とを併用して溶接するレーザ・アーク複合溶接ヘッドであって、
溶接線と所定の間隔をもって配置され、前記溶接母材の板面上で溶接線方向に沿うように転動する少なくとも2つの倣い手段と、
前記倣い手段を回動自在に支持する第1の倣い支持手段と、
前記溶接線を挟んで前記倣い手段と対向に配置された第2の倣い手段及び該第2の倣い手段を回動自在に支持する第2の倣い支持手段をさらに備え、
前記第1の倣い支持手段と第2の倣い支持手段は、その上端部を連結部材により連結されており、
前記第1の倣い支持手段及び第2の倣い支持手段を前記溶接母材の板面方向に所定の荷重で付勢する付勢手段と、
該第1の倣い支持手段及び第2の倣い支持手段の上端面と、前記付勢手段を介して配置された天板と、
さらに、前記第1の倣い支持手段と第2の倣い支持手段における、溶接線方向に対する前後左右の傾動を許容する可動部材を前記連結部材と天板の間に配置し、
前記レーザ集光ヘッド及びアーク溶接トーチは、溶接線上に配置されるよう前記第1の倣い支持手段又は第2の倣い支持手段のいずれか一方にそれぞれ取付けられている、ことを特徴とするレーザ・アーク複合溶接ヘッド。
【請求項5】
前記レーザ集光ヘッド及びアーク溶接トーチは、溶接線方向に対する水平位置、溶接母材の板面に対する高さ及び溶接母材の板面に対する角度を調整する位置調整機構が具備されている、ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のレーザ・アーク複合溶接ヘッド。
【請求項6】
前記アーク溶接トーチのシールドガスノズルのハウジングは、電極を中心に回転可能に支持されているとともに、該シールドガスノズルのハウジングを回転させる回転機構を具備する、ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のレーザ・アーク複合溶接ヘッド。
【請求項7】
前記レーザ集光ヘッドの先端部には、該レーザ集光ヘッドの先端部の一方向からレーザ光の光軸に対して略直角方向に噴出するクロスジェット用の空気を、アーク溶接トーチのシールドガスノズルから流出するシールドガスと干渉しないように案内する案内手段が設けられている、ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のレーザ・アーク複合溶接ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−284696(P2010−284696A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141120(P2009−141120)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】