レーザー・レーダー装置および方法
ライダー装置(2、20、84、90)であって、送信器(6、54)、受信器、分析器を有する。後方散乱光において上記遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分の存在について監視、風速補正される。どのように走査によって得た視線速度値を所定の関数へと回帰、風速成分を計算できるのか、どの点を使用すべきであるか、どのように最初の回帰を実行できるのかが概説される。雲高計(82)などの後方散乱プロファイリング手段を取り入れ、さらに風力タービン(902)も説明される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレント・レーザー・レーダー(ライダー)装置、およびそのような装置を動作させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ライダーは、よく知られており、風のプロファイルを測定するために長年にわたって使用されてきている。ライダー装置の基本原理は、レーザービームを空間内のある点または領域へと導き、リターン信号を検出することにある。大気中に存在する小さな自然の粒子および液滴(エアロゾル)によって後方散乱されたドップラーシフト光の測定が、視線風速の測定をもたらすために使用される。レーザービームが走査される場合、複数の風速成分を割り出すことができ、風のベクトルについてより多くの情報を計算することができる。
【0003】
炭酸ガスレーザーに基づく初期のライダーの例が、Vaughan,J Mらの「Laser Doppler velocimetry applied to the measurement of local and global wind」、Wind engineering、Vol.13、no.1、1989に記載されている。より最近では、光ファイバに基づくライダーシステムも開発されている。例えば、KarlssonらのApplied Optics、Vol.39、No.21、2000年7月20日、およびHarrisらのApplied Optics、Vol.40、pp1501〜1506(2001年)を参照されたい。光ファイバに基づくシステムは、伝統的な気体レーザーに基づくシステムに対し、多数の利点を提供する。例えば、光ファイバに基づくシステムは、比較的小型であり、控えめな価格であって典型的にはきわめて信頼性が高い標準的な電気通信用の構成要素を使用して製造することができる。
【0004】
近年の風力の活用の高まりに伴い、長期間にわたって信頼できる風速の測定を行うことが可能な風速計が、いまや必要とされている。そのような日々の風速測定結果を、風力タービン予定地の適性を評価するために使用でき、既存の風力タービンの動力抽出効率を測定するために使用することができ、風力タービン制御システムの一部を構成することさえ可能である。伝統的には、機械的な「カップ式」の風速計が、そのような測定を行うために使用されているが、この装置を地面の上方の風速測定が求められる高さに取り付けることができるよう、柱または塔の建設を必要とすることが多い。これは、とくには多数の予定地について評価が必要とされる場合に、かなりの費用がかかることが明らかである。
【0005】
光ファイバに基づくライダーは、伝統的なカップ式の風速計を置き換える可能性を有しているが、このような置き換えは、長期間にわたって取得されるデータが、公知の機械式のシステムによってもたらされるデータと少なくとも同程度に信頼可能であることが保証されうる場合にのみ生じるであろう。これまでのところ、ライダーに基づく風速計を使用して取得された風速データの長期信頼性についての懸念が、機械的なカップ式風速計に基づく伝統的なシステムの代替としての採用を、妨げている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、大気の風速を測定するためのライダー装置およびそのような装置を動作させる方法であって、長期間にわたって信頼できる測定をもたらす装置および方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、ライダー装置によって取得したデータの優れた分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、光のビームを遠隔プローブボリュームへと合焦させるための送信器と、後方散乱光を検出するための受信器と、上記検出された後方散乱光の周波数のドップラーシフトから、上記遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するための分析器と、を有している大気の風速測定のためのコヒーレント・レーザー・レーダー装置であって、上記分析器が、上記検出された後方散乱光において上記遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分の存在について監視を行うように構成され、および/または上記計算した風速がそのようなドップラー周波数成分について補正されていることを保証するように構成されていることを特徴とする。
【0008】
すでに概説したように、従来技術のコヒーレント・レーザー・レーダー装置は、既知の方向へと正確かつ信頼可能に光のビームを送信する光送信器、および既知の方向からの後方散乱光を実質的に変化することがない感度で一貫して検出できる受信器を備えている点で、本質的には信頼できる。したがって、従来技術のコヒーレント・レーザー・レーダー装置は、理想的な条件においては、対象とする遠隔プローブボリュームについてきわめて正確な風速情報を取得することができる。しかしながら、ある特定の大気の条件のもとでは、そのような従来技術のコヒーレント・レーザー・レーダー装置によって計算された風速値に、かなりの誤差を伴うことがわかっている。とくに、雲底が低くに存在する場合には、対象のプローブボリュームのエアロゾルからの反射に実際に起因する成分ではなく、雲内に見られるより高密度のエアロゾル(水滴)からの反射に起因する成分が、検出される後方散乱信号を支配する可能性があり、あるいは少なくともかなりの成分を占める可能性がある。そのような状況において、従来技術のコヒーレント・レーザー・レーダー装置は、雲からの戻りの影響のために、遠隔プローブボリュームの風速を真に表わしてはいない「偽の」風速の読み取りをもたらす。
【0009】
そこで、本発明は、上記検出された後方散乱光において上記遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱(すなわち、上記遠隔プローブボリュームの外側のエアロゾルから反射される光)から生じるドップラー周波数成分の存在について監視を行うように構成され、および/または上記計算した風速がそのようなドップラー周波数成分について補正されていることを保証するように構成されている分析器が設けられているライダー装置を提供する。したがって、本発明の装置は、雲に起因する偽の読み取りに左右されにくく、あるいは少なくとも計算した風速値が雲からの戻り信号によって影響されていて一定レベルの不正確さが伴っている可能性がある旨の知らせをもたらす。
【0010】
したがって、本発明の装置は、操作者がライダーによって計算された風速値により大きな自信を持つことを保証する。例えば、上述の知らせが、計算された各々の風速値に組み合わせられたエラー出力の形態であってよく、あるいは一定レベルの正確さを有する風速値のみを、ライダーによって出力または記録してもよい。換言すると、装置が、計算した風速に関して正確さの指標をもたらすための手段を有している。したがって、本発明は、従来技術のシステムと異なり、断続的および/または変化する雲底の存在下でも、信頼できる長期の無人の風速測定を行うことができるライダー装置を提供する。
【0011】
受信器によって検出される後方散乱光が、「視線」の風速についての指標をもたらすこと、すなわち戻り光が、送信/受信ビームの方向と平行なエアロゾルの速度成分に相関した量だけドップラーシフトされていることに、留意すべきである。しかしながら、送信器から送信される光ビームおよび受信器によって定められる受信ビームを遠隔プローブボリューム内において走査するための走査手段を設けることによって、種々の風速成分を好都合に割り出すことができる。このような方法でライダーを走査することで、遠隔プローブボリューム内の風ベクトルに複数の既知の角度で交差することができ、これによって真の風速ベクトルを再現し、種々の風速成分を測定することができる。本発明による走査付きライダー装置の実施については、さらに詳しく後述する。
【0012】
さらに、用語「受信ビーム」が当業者にとってよく知られており、そこから戻り光が受信器光学系によって集められて検出器へと渡される方向を指して使用されていることに、留意すべきである。換言すると、受信ビームは光子のビームではなく、単に空間内にある体積(そこから後方散乱光を検出できる)を定める擬似的または仮想的なビームである。また、本明細書において、用語「遠隔プローブボリューム」が、空間内の3D領域であってそこからの風速データが必要とされている3D領域を定めるために使用されていることに、留意すべきである。非走査のビームの場合には、遠隔プローブボリュームが、送信/受信ビームの重なり合いおよび/または焦点によって定められる一方で、走査付きの装置の場合には、遠隔プローブボリュームが、さらに走査パターンによって定められる。例えば、円錐走査の場合には、遠隔プローブボリュームは、走査角度によって定められる半径および送信/受信ビームの焦点の深さによって定められる厚さを有する空気の円板となる。
【0013】
好ましくは、送信器が、可変合焦機構を有しており、遠隔プローブボリュームのレンジを必要に応じて変化させることができるようにしている。受信器も、可変合焦機構を備えることができる。好都合には、装置が、使用時に、受信ビームの焦点が送信ビームの焦点に一致すべく配置されるように構成されている。このように、送信器によって出力される送信ビームおよび受信器によって定められる受信ビームが、どちらも可変の焦点距離を有することができ、これにより、上方へと向けられた装置の場合には、遠隔プローブボリュームの地面からの高さ(すなわち、高度)を必要に応じて変化させることができる。可変合焦機構を、連続可変の焦点をもたらすように構成することができ、あるいは複数の合焦状態のうちの任意の1つをもたらすように構成することができる。
【0014】
好都合には、装置が、複数の測定遠隔プローブボリュームにおける風速を順次に測定するように構成されており、これら複数の測定遠隔プローブボリュームが、第1のレンジ限界よりも小さいレンジにある。ここで、用語「測定遠隔プローブボリューム」とは、風速データが必要とされているプローブボリュームを指しており、すなわち対象となるプローブボリュームを指している。上向きの装置の場合には、測定遠隔プローブボリュームは、興味の対象であるいくつかの高さに位置するであろう。例えば、第1組の測定を、予定または実際の風力タービンブレードの高さ、すなわち地表面から50m、100m、および150mの高さにおいて行うことができる。これに加え、あるいはこれに代え、装置を、各々が第1のレンジ限界よりも小さいレンジにある複数の測定遠隔プローブボリュームにおける風速を並行して測定するように構成することができる。
【0015】
好都合には、送信器が、光のビームを少なくとも1つの基準遠隔プローブボリュームへと合焦させるようにさらに構成されており、この少なくとも1つの基準遠隔プローブボリュームが、上記第1のレンジ限界よりも大きいレンジにある。ここで、用語「基準遠隔プローブボリューム」とは、風速データは必要とされていないが、雲が存在している場合に雲からの戻り信号をもたらすことができるプローブボリュームを指している。基準遠隔プローブボリュームは、典型的には、雲からの戻りの存在が測定遠隔プローブボリュームにおいてなされる測定に測定可能な戻り信号をもたらす高さに位置している。例えば、基準遠隔プローブボリュームは、地表面から300mの高さに位置してよい。必要であれば、基準遠隔プローブボリュームについても風速を計算できることに留意すべきであり、この測定を、例えば雲の速度の指標をもたらすために使用することができる。
【0016】
送信器が上記少なくとも1つの基準遠隔プローブボリュームへと合焦されているときに検出された後方散乱光のドップラー周波数の特徴を、上記複数の測定遠隔プローブボリュームの各々における風速の計算の際に、分析器によって好都合に使用することができる。一例においては、分析器を、上記測定遠隔プローブボリュームおよび基準遠隔プローブボリュームの各々における各々の測定について、検出された後方散乱光の強度をドップラーシフト周波数の関数として備えているドップラースペクトルを生成するように好都合に構成されており、上記風速の計算が、上記測定ドップラースペクトルの各々から少なくとも1つの基準ドップラースペクトルを減算することを備えている。
【0017】
装置を、風速データを連続的に取得するように構成できることに、留意すべきである。したがって、ドップラースペクトルを、各々の測定遠隔プローブボリュームにおいて順に取得することができ、これに続き、あるいはこれに先立って、基準遠隔プローブボリュームにおける測定を行うことができる。次いで、この取得サイクルを、必要とされる限りにおいて繰り返すことができる。レンジを順に大きくしつつデータを取得すると、測定の間に必要となる焦点調節の大きさを小さくできるが、データを、遠隔プローブボリュームから任意の順序で取得してよいことに、注目すべきである。これに代え、あるいはこれに加え、複数のライダー装置または波長多重化ライダーを、種々の高さにおいて並行して複数の測定を行うべく使用してもよい。さらに、装置を、さらに詳しく後述されるとおり、各プローブボリュームにおいて複数の測定を行う(例えば、円錐走査のビームを備える)ように構成することができる。
【0018】
このようにして、上記第1組の遠隔プローブボリュームの各々について計算された風速が、上記検出された後方散乱光において上記第1のレンジ限界よりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分による影響を実質的に受けない装置がもたらされる。換言すると、レンジ限界よりも大きいレンジにおいて取得されたドップラースペクトルが、該第1のレンジ限界よりも小さいレンジについてドップラースペクトルから割り出される風速を補正するために、分析器によって使用される。第1のレンジ限界が、典型的には、測定領域における典型的な大気雲底までのレンジよりも小さいことに、留意すべきである。また、第1のレンジ限界が、装置に備えられた最大のレンジを指しているわけではなく、測定の対象とするレンジの限界を指していることを、強調しておかなければならない。
【0019】
分析器を、上記検出された後方散乱光のドップラーシフト周波数の関数としての強度を、2つ以上の個別の強度ピークの存在について、すなわち異なるドップラー周波数において生じるピークについて監視するように、好都合に構成することができる。
【0020】
好都合には、分析器が、2つ以上の個別の強度ピークが存在する場合に、遠隔プローブボリュームにおける風速を、より低いドップラーシフト周波数にある強度ピークから決定するように構成されている。この方法で、計算される風速において、高速で移動する雲からのドップラー戻りから生じる影響が除去される。この技法は、雲が遠隔プローブボリュームの風よりも高速で移動しているという仮定に依拠しているが、それでも多くの状況において正確な風速データを提供することができる。
【0021】
好都合には、装置が、大気の後方散乱断面をレンジの関数として測定するための大気後方散乱プロファイリング手段(例えば、大気後方散乱プロファイラ)をさらに備えている。したがって、風ドップラーライダーと大気後方散乱プロファイラとを備えるコヒーレント・レーザー・レーダー装置を提供することができる。大気後方散乱プロファイラは、好ましくは、後方散乱をレンジの関数として正確に測定できるパルス式のレーザー・レーダー装置である。大気後方散乱プロファイラの出力ビームは、好ましくは、送信器によって送信される光のビームと同じ、または実質的に同じ経路に沿って案内される。
【0022】
このような後方散乱プロファイリング手段を設けることで、上方へと向けられたライダーシステムにおいて、低い雲底の存在によって持ち込まれる誤差を監視できることが保証される。これは、低い雲底の存在下において、上方向きのライダーの受信器によって検出される後方散乱信号が、遠隔プローブボリュームのエアロゾルからの後方散乱によってではなく、高度に散乱性である雲からの後方散乱によって支配されてしまう可能性がある従来技術のライダーと、対照的である。これは、ライダーが遠隔プローブボリュームからの後方散乱光に対して最大の感度を有しているが、依然として遠隔プローブボリュームの外部からの戻り光に対してもいくらかの感度を有しているがために生じる。したがって、さらに詳しく後述されるように、遠隔プローブボリュームの外部において生じる散乱の量が、遠隔プローブボリュームにおいて生じる散乱の量に比べて有意に大きい場合、全体としての戻り信号が、必ずしも遠隔プローブボリュームのエアロゾルからの後方散乱によって支配されなくなる。したがって、後方散乱プロファイリング手段を取り入れているライダーは、「誤った」風速測定を行う可能性を大幅に低減しており、長期にわたって無人の測定を行うために適した堅牢かつ信頼できるシステムを提供する。
【0023】
好都合には、大気後方散乱プロファイリング手段が、雲高計を有している。雲高計は、公知のパルス式ライダー装置であり、空港などの近くで雲の高さを測定するために長年にわたって使用されてきている。個別のパルス式ライダーを設けることが、簡潔化ならびに後方散乱プロファイルおよび風速の同時測定の可能化のために好ましいが、風速測定をもたらすコヒーレント・レーザー・レーダーをさらに後方散乱プロファイルを測定すべくパルスモードで動作するように構成することも可能であることを、当業者であれば理解できるであろう。
【0024】
代案として、大気後方散乱プロファイラが、検出された後方散乱光の出力を装置から遠隔プローブボリュームまでの距離の関数として割り出すための手段を備えることができる。換言すると、受信器によって集められた後方散乱光の光出力を、特定の高さにおける散乱強度の指標として使用することができる。ライダーの特性が既知であると仮定すると、遠隔プローブボリュームのレンジの関数としての戻りの出力が、後方散乱プロファイルをもたらすことができる。遠隔プローブボリュームの装置からの距離は、例えば装置の焦点を変化させることによって、容易に制御可能である。
【0025】
好都合には、分析器が、上記大気後方散乱プロファイラによって測定された後方散乱プロファイルを取り入れ、この後方散乱プロファイルを使用して、上記計算した風速が上記検出された後方散乱光において上記遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分について補正されていることを保証する(すなわち、計算した風速が遠隔プローブボリュームの風速の特徴を表わすものであるか否かを示唆する)ように構成されている。換言すると、大気後方散乱プロファイリング手段が、レンジの関数として後方散乱断面のプロファイルをもたらす。次いで、この後方散乱/レンジプロファイルが、既知であり、あるいは事前に測定されているコヒーレント・レーザー・レーダーの感度特性と組み合わせて使用されて、受信器によって集められた後方散乱光のうちの遠隔プローブボリュームのエアロゾルからの後方散乱に起因する割合が割り出される。次いで、計算された風速が遠隔プローブボリュームの真の風速の特徴を表わしていると思われるか否かについての知らせが、装置によって提供される。多くの場合においては、単純な「0」(無効な読み取り値−雲からの信号が支配的)または「1」(有効な読み取り値−エアロゾルからの信号が支配的)が充分である。代案として、計算した風速に伴う不正確さについてのさらに詳しい指標を、計算してもよい。
【0026】
結果として、コヒーレント連続波ライダー装置と雲高計などの非コヒーレント・パルス式ライダー装置とを有している風速測定装置が提供される。大気の後方散乱プロファイルが、パルス式ライダー装置によって割り出され、連続波ライダー装置の既知の(例えば、予想または測定された)感度との組み合わせにおいて、連続波ライダー装置によって探知される空間の領域を決定すべく使用される。したがって、雲高計によってもたらされるデータが、遠隔プローブボリュームから生じている後方散乱光の割合を評価できるようにする計算において使用される。
【0027】
コヒーレント送信ビームおよび後方散乱プロファイリング手段のパルス状ビームの波長が類似しているべきであることに、留意しなければならない。この波長の類似は、大気の後方散乱特性が波長依存性であるために必要とされる。しかしながら、波長の微細な相違については、簡単な較正係数を使用して、後方散乱プロファイリング手段の動作波長における後方散乱特性を、コヒーレントビームの動作の波長へと変換することが可能である。したがって、好ましくは、コヒーレントシステムおよびパルス式システムが使用する光の波長の相違は、10倍未満であるべきであり、より好ましくは2倍未満であるべきである。
【0028】
好都合には、送信器によって送信される光のビームを遠隔プローブボリューム内で走査するため、走査手段が設けられる。
【0029】
好都合には、分析器が、遠隔プローブボリューム内の複数の既知の走査位置について視線風速値を割り出し、遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を、上記複数の視線速度値を所定の関数に回帰させることによって計算するように構成されている。すなわち、ドップラースペクトルを、遠隔プローブボリューム内の複数の既知の走査位置についてライダーによって取得することができ、ここから複数の視線速度値が計算される。一様な風が遠隔プローブボリュームを通って流れていると仮定すると、視線速度値を位置に対してプロットしたものを、ある所定の数学的関数に回帰させることができ、遠隔プローブボリューム内の種々の風速成分を抽出することができる。
【0030】
好ましくは、上記所定の関数が正弦波関数であり、走査手段が、送信器によって送信される光のビームおよび受信器によって定められる受信ビームを円錐状に走査するように構成されている。垂直軸を中心として走査を実行する地上設置の上向きライダー装置の場合には、正弦曲線のオフセット(すなわち、DC成分)が、垂直方向の風速成分についての指標をもたらし、正弦波の振幅が、水平方向の速度成分についての指標を与える一方で、正弦曲線の位相が、風の方位成分についての指標をもたらす。分析器が、任意の座標系を使用して動作でき、例えば位置情報を必要に応じて直交座標または極座標にて表現できることに、留意すべきである。
【0031】
分析器を、複数の視線速度値の上記所定の関数への最初の回帰を実行し、この最初の回帰から、複数の視線速度値のうちのどれを遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分の計算に使用すべきであるかを判断するように、構成することができる。好都合には、分析器が、走査の際に取得された1つ以上の視線速度値を、上記少なくとも1つの風速成分の計算から除外するように構成されている。
【0032】
遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分の計算に使用される複数の視線速度値は、上記最初の回帰からの偏差が所定の量よりも小さい視線速度値を備えることができる。換言すると、分析器を、偽の可能性がある点(例えば、上記最初の回帰からの偏差が所定の量よりも大きい点)を上記少なくとも1つの速度成分を割り出す計算から除外するように構成することができる。これら偽の点は、送信/受信ビームの経路内を移動する固体物体(例えば、虫、鳥、車両、航空機、など)から生じうる。
【0033】
好都合には、遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分の計算に使用される複数の視線速度値は、最初の回帰からの偏差が最も大きいN個の視線速度値を除外しており、ここでNが1以上かつ視線速度値の数よりも小さい所定の整数である。換言すると、複数の視線速度値の所定の関数への最初の回帰が実行され、この最初の回帰の結果が、測定された各々の視線速度値について、最良の回帰曲線からの偏差の指標を含んでいる。風速成分を計算するために使用されるそれに続くデータ回帰において、最初の回帰からの偏差が最も大きいN個のデータ点が除外される。Nは1以上であり、好ましくは取得した視線速度値の数よりも小さく、あるいは大幅に小さい。Nについて好ましい値は、ライダーが配置されている環境によって決まるであろうが、1、2、3、4、または5であってよく、あるいは5、10、15、または20よりも大きくてよい。
【0034】
このようにして、計算された風速値の精度が、遠隔プローブボリュームのエアロゾルによって生み出されたものではない後方散乱に起因する時折の偽の視線速度値によって左右されることがない。結果として、分析器が偽の視線速度データ点の存在を割り出して、風速値を計算するときにそのような偽のデータ点を除外する走査付きのライダーシステムを提供できる。
【0035】
好都合には、複数の視線速度値の所定の関数への回帰が、最少自乗和の技法を使用して実行される。いくつかの適切な回帰ルーチンが市販されており、例えばNAG(National Algorithms group)ルーチンを使用することができる。
【0036】
好都合には、装置がモノスタティックである。換言すると、受信器および送信器が、実質的に平行であって重なり合う送信および受信ビームを形成する共通の光学系を共有する。さらには、このようなモノスタティック構成が使用されるとき、送信および受信ビームの焦点が常に一致している。
【0037】
代案として、装置がバイスタティックであってもよい。この場合、送信器および受信器が、個別かつ分離した光学的構成を備えている。このようなバイスタティック・システムにおいては、送信および受信ビームが同じレンジに合焦され、かつこれら2つのビームがそれらの焦点において交差するように、保証することが好ましい。バイスタティック構成の焦点および「スキント(squint)」を同時に変化させるための手段を有している装置が、PCT特許出願第GB03/04408号に記載されている。
【0038】
好都合には、受信器によって集められる後方散乱光が、検出に先立って送信器の光源から抽出された局部発振器信号と混合される。この方法で、ヘテロダイン検出システムがもたらされる。これは、ドップラーシフトのデータを、局部発振器および戻り光(すなわち、後方散乱光)のうなり周波数から容易に抽出できるようにする。
【0039】
好ましくは、送信される光ビームが、赤外旋を備えている。例えば、装置を、半導体レーザーを取り入れ、1.55μmの電気通信の波長で動作するように構成することができる。さらに、本明細書において、用語「光」が、遠紫外から遠赤外までの任意の波長の可視および不可視の放射線を表わすために使用されていることに、留意すべきである。ライダーを、CWまたはパルス式の動作に合わせて構成することができる。
【0040】
好ましくは、送信器および受信器が、光ファイバによって接続された光学部品を備えている。好ましくは、装置が、少なくとも1片の光ファイバを備えている。この種のファイバに基づくシステムは、「規格品」の光学部品を使用して製造することができ、比較的安価であり、堅牢であり、信頼できる。
【0041】
好都合には、装置が、地上に設置されて上方に向けられて動作するように構成されている。換言すると、装置が、実質的に垂直に向けられて、地面の上方のある高さに位置する遠隔プローブボリュームにおける風速を測定するように、構成されている。地上設置の動作とは、ライダーを水に浮かぶ台座上で使用することを含んでよい。
【0042】
このように、光のビームを遠隔プローブボリュームへと送信するための送信器と、後方散乱光を検出するための受信器と、検出された後方散乱光の周波数のドップラーシフトから上記遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するための分析器とを備えており、計算された風速が上記遠隔プローブボリュームの風速の特徴を表わしているか否かを知らせ、および/または計算された風速が上記遠隔プローブボリュームの風速の特徴を表わしていることを保証するための手段が設けられている風速測定のためのコヒーレント・レーダー装置が、本明細書において説明される。
【0043】
したがって、光のビームを遠隔プローブボリュームへと合焦させるための送信器と、後方散乱光を検出するための受信器と、上記受信器によって検出された後方散乱光のドップラーシフト周波数の関数としての強度から上記遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するための分析器とを備えており、上記分析器が、風速の計算において、上記送信ビームが合焦されたレンジよりも大きいレンジに位置するエアロゾル(例えば、雲)からの後方散乱に起因するドップラー周波数成分を除外するように構成されている大気の風速測定のためのコヒーレント・レーザー・レーダー装置を提供できる。
【0044】
さらには、大気の風速測定のためのコヒーレント・レーザー・レーダー装置であって、当該装置からレンジRに位置する少なくとも1つの遠隔プローブボリュームへと光のビームを合焦させるための送信器、後方散乱光を検出するための受信器、および検出された後方散乱光の周波数のドップラーシフトから、対象の遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するための分析器を有しており、検出された後方散乱光について上記レンジRよりも大きいレンジにおける光の散乱に起因するドップラーシフト成分を割り出すためのエラー検出器が設けられていることを特徴とするコヒーレント・レーザー・レーダー装置が説明される。
【0045】
風力タービン、または多数の風力タービンを有している風力発電地帯が、本明細書に記載される形式の少なくとも1つのコヒーレント・レーザー・レーダー装置を備えることができる。好都合には、そのようなコヒーレント・レーザー・レーダー装置が、風力タービンの風上の遠隔プローブボリュームにおける風速を測定するように構成される。コヒーレント・レーザー・レーダー装置によって送信される光ビームが、風力タービンのブレードによって掃引される空間の領域を通過することができる。そのような構成において、分析器を、計算される風速測定結果がタービンブレードからの反射によって影響されることがないように、構成することができる。
【0046】
本発明の第2の態様によれば、(i)コヒーレント・レーザー・レーダー装置によって遠隔プローブボリュームから取得されたドップラー周波数データを取り入れるステップと、(ii)上記コヒーレント・レーザー・レーダー装置の上記遠隔プローブボリュームにおける風速を、上記ドップラー周波数データから計算するステップとを備えている大気の風速を計算するための方法が、ステップ(ii)が、上記遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分の存在について、上記ドップラー周波数データを監視し、および/または上記計算した風速がそのようなドップラー周波数成分について補正されていることを保証するステップを備えていることを特徴とする。このような方法で、コヒーレント・レーザー・レーダー装置の遠隔プローブボリュームにおける風速をドップラー周波数データから計算するステップが、計算された風速が上記遠隔プローブボリュームにおける風速の特徴を表わしているか否かについて知らせをもたらすこと、および/または計算された風速が上記遠隔プローブボリュームにおける風速の特徴を表わしていることを保証することを備えている。
【0047】
好都合には、上記ドップラー周波数データが、複数の遠隔プローブボリュームから取得された複数のドップラースペクトル(すなわち、ドップラー周波数の関数としての受信強度)を備えている。
【0048】
好ましくは、上記複数のドップラースペクトルが、第1のレンジ限界よりも小さいレンジにある1つ以上の測定遠隔プローブボリュームから取得された第1組のドップラースペクトル、および上記第1のレンジ限界よりも大きいレンジにある1つ以上の遠隔プローブボリュームから取得された第2組のドップラースペクトルを備えている。
【0049】
好都合には、ステップ(ii)が、上記第1組のドップラースペクトルの各々から計算される風速が雲からの後方散乱に起因して生じるドップラー周波数成分について補正されていることを保証するために、上記第2組のドップラースペクトルを使用するステップを備えている。さらに、風速の計算方法が、上記第2組のドップラースペクトルを上記第1組のドップラースペクトルの各々から減算するステップを備えることができる。
【0050】
好都合には、この方法が、上記コヒーレント・レーザー・レーダー装置の近傍に位置する大気後方散乱プロファイラによって測定された後方散乱プロファイルを取り入れて、この後方散乱プロファイルを、計算された風速が上記遠隔プローブボリュームにおける風速の特徴を表わしているか否かについての知らせをもたらすために使用する追加のステップを備えている。したがって、後方散乱プロファイルを、上記遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分の存在について上記ドップラー周波数データを監視するために使用することができる。
【0051】
好都合には、上記ドップラー周波数データが、各遠隔プローブボリュームから取得された複数のドップラースペクトルを備えており、これら複数のドップラースペクトルの各々が、上記遠隔プローブボリューム内の既知の走査位置から取得されている。したがって、視線速度値を、上記遠隔プローブボリューム内の各走査位置の各ドップラースペクトルから計算でき、上記遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップが、上記視線速度値の少なくともいくつかを所定の関数に回帰させるステップを備えている。
【0052】
好都合には、コヒーレント・レーザー・レーダー装置によって取得されたデータが、遠隔プローブボリューム内の複数の既知の走査位置において測定された複数の視線風速値を備えており、上記遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップが、上記複数の視線速度値について所定の関数への最初の回帰を実行すること、およびこの最初の回帰から、上記複数の視線速度値のうちのどれを上記遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を計算するステップにおいて使用すべきかを選択することを備えている。
【0053】
上記遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を計算するステップにおいて使用すべく選択される視線速度値は、好都合には、最初の回帰からの偏差が所定の量よりも小さい視線速度値を備えることができる。これに代え、あるいはこれに加えて、上記遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を計算するステップにおいて使用すべく選択される視線速度値は、好都合には、最初の回帰からの偏差が最も大きいN個の視線速度値を除外することができ、ここでNは、1以上かつ視線速度値の数よりも小さい所定の整数である。
【0054】
換言すると、遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を計算するステップにおいて使用すべく選択される少なくともいくつかの視線速度値が、最初の回帰からの偏差が所定の量よりも小さい視線速度値を備えている。あるいは、少なくとも遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を計算するステップにおいて使用すべく選択される視線速度値が、最初の回帰からの偏差が最も大きいN個の視線速度値を除外することができ、ここでNは、1以上かつ視線速度値の数よりも小さい所定の整数である。
【0055】
好都合には、上記ドップラー周波数データが、検出された後方散乱光のドップラーシフトの関数としての強度(すなわち、ドップラースペクトル)を備えることができ、遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップが、上記データを異なるドップラー周波数に位置する2つ以上の個別のピークの存在について分析することを備えており、上記遠隔プローブボリュームにおける視線風速が、より低いドップラーシフト周波数にあるピークから決定される。
【0056】
上記方法のステップ(i)は、少なくとも1つの遠隔プローブボリュームからドップラー周波数データを取得するためにコヒーレント・レーザー・レーダー装置を使用するステップを備えることができ、すなわちこの方法は、データを取得すべくコヒーレント・レーザー・レーダー装置を使用する最初のステップを備えることができる。
【0057】
上述の方法を実行するためのコンピュータプログラムを提供することも可能である。上述の方法を実行するために適したコンピュータプログラムを機械で読み取ることができる形式で備えているコンピュータプログラムキャリヤも、提供可能である。さらに、上述の方法を実行するために適切にプログラムされたコンピュータを、提供することが可能である。
【0058】
本発明の第3の態様によれば、(i)光のビームを遠隔プローブボリュームへと合焦させるステップと、(ii)後方散乱光を検出するステップと、(iii)上記検出された後方散乱光の周波数のドップラーシフトから、上記遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップとを備えているコヒーレント・レーザー・レーダーの動作方法が、ステップ(iii)が、上記検出された後方散乱光において上記遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分の存在について監視し、および/または上記計算した風速がそのようなドップラー周波数成分について補正されていることを保証するステップを備えていることを特徴とする。
【0059】
さらには、(i)コヒーレント・レーザー・レーダー装置によって取得されたデータを取り入れるステップと、(ii)このデータからコヒーレント・レーザー・レーダー装置の遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップとを備えている風速計算方法であって、上記データからコヒーレント・レーザー・レーダー装置の遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップが、計算された風速が上記遠隔プローブボリュームにおける風速の特徴を表わしているか否かについて知らせをもたらすこと、および/または計算された風速が上記遠隔プローブボリュームにおける風速の特徴を表わしていることを保証することを備えている風速計算方法が説明される。
【0060】
次に、本発明を、添付の図面を参照しつつあくまで例として説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
図1を参照すると、風速用ドップラーライダーの動作の基本原理が示されている。コヒーレントライダー装置2が、レーザービーム4を空間内のある領域、すなわちプローブボリューム6へと導くように構成されている。その結果、風によってプローブボリューム6を通過して方向10へと運ばれている大気中のエアロゾル(塵埃、花粉、汚染、塩の結晶、水滴、など)8から後方散乱されたレーザー放射が、ライダー装置2によって検出される。後方散乱されてきた放射のドップラー周波数シフトの測定が、戻り信号を送信ビームをもたらしているレーザーから生成される安定な局部発振器ビームでビート受信(beating)する(ヘテロダインさせる)ことによって、達成される。ドップラーシフトした周波数は、風速に正比例しており、したがってライダーは較正を必要としない。このようなライダー装置の具体的構成についてのさらなる詳細は、ほかでも見つけることができる。例えばKarlssonら、あるいはHarrisら(前出)を参照されたい。
【0062】
コヒーレントライダー装置2は、モノスタティックであり、すなわち共通の送信および受信光学系を有している。組み合わせられた送信/受信ビームの焦点を調節することで、装置のプローブボリューム6へのレンジを制御することができる。個別の送信および受信光学系を有するいわゆるバイスタティックなライダーシステムも知られていることに、留意しなければならない。バイスタティックなシステムにおいては、送信および受信ビームの焦点が、ビームの交差の位置に一致するように構成される。バイスタティックなシステムにおいては、装置のレンジを調節するときに、送信および受信ビームの焦点ならびにシステムの「スキント(squint)」の両者を変化させることが好ましい。本明細書において、用語「受信ビーム」が、検出器へと戻り光を向けている領域を指して使用されていることに、重ねて留意すべきである。換言すると、受信ビームは光子のビームではなく、単にある体積(そこからシステムによって光が受信される)を定める擬似的または仮想的なビームである。
【0063】
図2を参照すると、上方へと向けられた円錐走査の地上設置ライダー20のシステムが、示されている。使用時、この装置が、ある角度範囲の風を捕らえるため、垂直軸24を中心とする連続的な円錐走査22を実行する。これは、さらに詳しく後述するように、水平方向の風の速度および方向を計算可能にする。さらに、レーザーの焦点を調節することで、地上レベルの上方のある高さ(h)の範囲において風をサンプリングできる。
【0064】
以下では、円錐走査のライダーのみを説明するが、真の風速ベクトルを割り出すために多数の他の走査パターン、固定された複数のビームの仕組み、または切り換えされるスターリングビーム(staring beam)の仕組みを使用できることに、留意すべきである。本件出願と同時に係属中である国際公開第2005/008284号に記載されているように、各々の視線速度値に関する指向(または、観察)方向が充分な精度で知られている場合、ランダムまたは擬ランダム走査も容認できる。
【0065】
ドップラー情報を抽出するため、ライダーシステムの検出器の電気出力が、50MHzでデジタル信号としてサンプリングされ、ドップラースペクトルが、512点の高速フーリエ変換(FFT)として取得される。次いで、これら個々のFFTのうちの256点が、各風またはドップラースペクトルを生成すべく平均され、これは測定時間が2.6msであることを意味している。大気が、この時間軸上に有効に凍結され、スペクトルが、プローブボリュームを通過する視線風速の瞬時の空間的変動を表示する。スペクトルは、約6.5%の総デューティサイクルに相当する毎秒約25回の割合で生成される。
【0066】
図3は、取得された風速用ドップラースペクトルの典型的な例を示している。この風速用ドップラースペクトルは、2.6msの取得時間にわたって検出されたとおり、戻り信号のパワースペクトル密度を、ドップラーシフトの周波数の関数として示している。スペクトルのピークが、プローブボリューム内の風速の知覚可能な広がりを示していることを、確認することができる。プローブの全体にわたって空気の流れが完全に一様である場合は、すべての測定結果が、スペクトルのわずか1つまたは2つの「ビン」に位置するであろう。実際には、図3においては、約10個のビンが知覚可能な信号を含んでいる。
【0067】
視線風速が、あらかじめ定められたしきい値を超えるスペクトルのセントロイドを計算するアルゴリズムによって、図3のスペクトルから導き出される。当業者であれば、ピーク認識ルーチンなど、使用することができるいくつかのデータ分析技法の選択肢を、思いつくであろう。次いで、ドップラー周波数シフトが、変換係数λ/2、すなわち0.775ms−1/MHzによる乗算によって、速度へと変換される。この較正係数の抱えるドリフトは、長期間に及んで極めて僅かな程度である(<0.2%)。図3のような狭くて明確なスペクトルにおいては、ピーク認識プロセスによってもたらされる不正確さは、最小限である。空気の流れがより乱れているとき、より大きな誤差が予想されるが、それらは移動平均を計算することによって軽減可能である。
【0068】
図4は、図3に示した種類のスペクトル各々から導き出された多数の視線風速のデータ点を、十字で表わしている。風速データ点は、垂直から30°オフセットさせて毎秒1回転の速度で水平角方向に走査したビームを使用して取得されている。ビームは、その回転につれて種々の角度で風と交差し、空気の円板を巡る風速のマップが形成される。
【0069】
一様な風の流れにおいては、走査角度に対する視線ドップラー速度(VLOS)のプロットが、整流された正弦波の形状をとり、ピークのドップラー値が、風上向きおよび風下向きの測定に相当する。視線ドップラー速度は、走査角度(φ)の関数として、
【数1】
と記述することができ、ここで水平速度(u)および垂直速度(w)は、
u=a/sin30° (2a)
w=c/cos30° (2b)
によって与えられ、bは方位である。
【0070】
円錐走査から得られた視線速度データを、最少自乗和(LSS)回帰ルーチンを使用して上述の式に回帰させることで、水平および垂直方向の風速ならびに風向のデータを、約3秒の間隔で繰り返し取得することができる。
【0071】
方位について考えられる180°の曖昧さは、単純な風向計の読み取りを参照することで容易に解決できることに留意しなければならない。あるいは、ライダーを、例えばHarris(前出)に記載されている種類の音響光学変調器など、局部発振器を送信ビームに対して周波数シフトさせるための手段を備えることによって、方向検出機能を取り入れるように構成することが可能である。この後者の場合には、走査角度に対する視線ドップラー速度を、(整流されていない)正弦曲線に回帰させることができる。
【0072】
しかしながら、時折の偽の風速データ点(例えば、点40)がシステムによって取得されることが、現場での試行から明らかになっている。これらの点は、プローブボリュームを横切る固体物品(例えば、鳥、虫、など)からの反射、および/またはプローブボリュームから離れて位置した高度に散乱性の物体(例えば、固体運動ターゲット)から戻り光によって生じることが明らかになっている。これらのエラー点は、典型的には少数であるけれども、LSSデータ回帰を大きくゆがめ、得られる風速測定の不正確さのレベルを大いに高める。曲線42が、グラフに示されたすべてのデータ点へのLSSデータ回帰を示している。このようなエラーが回帰をゆがめ、このようなライダーシステムを使用する長期にわたる無人の風速測定の信頼性を下げていることを、確認することができる。
【0073】
取得された風速データにおけるこのエラーを少なくするため、最少自乗回帰ルーチンの出力が分析され、最もよく回帰した解から最も遠くに位置する点(「アウトライアー」)が特定される。それらの点の回帰からの偏差d=│Vdata−Vfit│が、LSS回帰ルーチンから取得され、以下のルールのうちの1つに従って疑わしいアウトライアーを除去するために使用することができる。
【0074】
(i)最悪のN個の点(すなわち、dの値が最も大きい点)を取り除く(ここでNは、1回の円錐走査当たりに取得される点の数よりもはるかに少ない数でなければならない)。例えば、74個のデータ点が取得される場合は、偏差が最大である2または3つの点を、データの組から取り除くことができる。すなわち、取り除かれる点の数を、特定の場所に合わせて最適化できる。
【0075】
(ii)d>n×σであるすべての点を取り除く。ここでσは、この回帰におけるすべてのdの値の標準偏差であり、nは、6または10などといった数である。採用されるnの値は、特定の場所および使用されるシステムに応じて決めることができ、経験によって最適化することができる。
【0076】
アウトライアーを取り除いた後、回帰ルーチンが繰り返され、風速データが、この第2の回帰の結果から計算される。曲線44が、アウトライアー点40が特定されて第2の回帰から除外された後の回帰を示している。偽のアウトライアーが存在しないことで無視できる程度の全体的バイアスが導入されることが予想され、実験的に示されている。演算負荷を最小限にするため、2段階の回帰プロセスが好ましいが、代案として3回以上のデータ回帰を実行し、例えば各回帰の後に1つのアウトライアーを除いてもよい。また、リアルタイムのデータ処理が好ましいが、分析をライダーシステムによって事前に取得されたデータを使用して「オフライン」で実行してもよいことを、当業者であれば理解できるであろう。
【0077】
上述の方法でアウトライアーを取り除くことで、時折の鳥や虫との相互作用によって影響されることがなく、あるいは装置の円錐走査経路内の物体の動きによって影響されることがないより弾力的な風速計がもたらされる。したがって、ライダーを、長期にわたる無人の風速の監視に使用することが可能である。
【0078】
ライダーシステムが、上述の種類の偽のエラーのほかに、ある種の天候において不正確なデータをもたらす可能性があることがわかっている。とくに、雲底が低くに存在すると、上方向きのライダーシステムの風速測定の精度に悪影響を及ぼすことがわかっている。
【0079】
図5を参照すると、上方向きのライダーシステムの送信および受信ビーム50が示されている。送信および受信ビームは、地面の上方の高さHaのあるプローブボリューム54に合焦されている。さらに、雲56が、地表面からの高さHcに存在している。ライダーの感度、散乱効率、および送信ビーム出力が、各々曲線58、曲線60、および曲線62によって、地表面からの高さの関数として示されている。
【0080】
プローブボリュームおよび雲からの散乱の量を、より定量的な方法で評価することも可能である。とくに、通常の大気からの全散乱(Sa)および雲からの全散乱(Sc)を、
【数2】
【数3】
として表現することができ、ここでhは、地表面からの高さであり、Δは、感度に3dB(すなわち、係数2)の低下をもたらす焦点からの高さの変化であり、βaおよびβcは、各々通常の大気および雲の散乱係数であり、IT(h)は、高さhを過ぎるときのビームの出力である。
【0081】
図6は、100mの高さに合焦させたシステムに関し、3つの異なる雲高さ(300m、400m、および500m)について、雲領域および雲下領域からの戻り信号の比を、雲対大気の散乱比の関数として示している。雲を貫く光について、50mの減衰長さを仮定した。図5に関して概説したとおり、雲下の大気領域からの戻り信号については、プローブボリュームからの戻り信号が支配的であることを思い出されたい。
【0082】
したがって、Sc/Sa<<1の値においては、エアロゾルからの戻りが支配的であり、雲からの寄与は無視できる。しかしながら、ある特定の状況において雲信号が受信される信号を支配することを、図6から確認することができる。換言すると、Sc/Sa比が1に近づくにつれ、雲信号が受信される信号を支配するという問題が、ますます深刻になる。
【0083】
図5および6は、ライダーがプローブボリュームから戻る信号に対して最も敏感であるが、雲がプローブボリュームからかなりの距離に位置しているにもかかわらず、強力な信号が雲から戻り来る可能性を示している。これは、ある特定の条件のもとで、(選択された高度における風速ではなく)雲の速度が戻り信号を支配するがために、測定される風速が不正確になりうることを意味している。この問題は、ライダーがそのレンジの上限に合焦され、雲底の下方の空気からのエアロゾル後方散乱が少なく、雲底が低い場合に最も深刻になることがわかっている。
【0084】
上述の種類のファイバに基づくライダーを使用する円錐走査の特定の点について取得されたドップラースペクトルに対する低い雲の覆いの影響が、図7に示されている。プローブボリュームからの後方散乱に起因するピーク70のほかに、雲からの強力な後方散乱による第2のピーク72が存在していることを、確認することができる。雲は、一般的には雲の付近の風よりも大きな速度で移動しているため、典型的には、第2のピークはより高い速度に位置する。しかしながら、さらに詳しく後述するように、常にそうなるわけではない。
【0085】
図3に関して上述した種類の自動回帰ルーチンは、第2のピーク72が存在する場合、たいていは誤った風速データを出力してしまう。例えば、第2のピーク72がスペクトルにおいて支配的である場合、回帰ルーチンは、単純に小さい方のピークを無視し、雲の運動の速度を示す出力データをもたらす可能性が高くなる。あるいは、2つのピークが類似した大きさである場合、回帰ルーチンは、典型的には、2つのピークについての「最良の回帰」曲線を見つけようと試み、プローブボリュームの風速と雲底の速度との間の何らかの風速値をもたらすであろう。どちらの場合も、大きくかつ未知であるエラーが、取得される風速データに持ち込まれることになる。無人のシステムの場合、そのようなエラーがいつ存在するのかが不明(すなわち、低い雲底の存在は、典型的には予測不可能に生じる)であり、したがって取得したデータに伴う不正確さの程度が不明である。
【0086】
これまでのところ、リアルタイムでの実際の雲の状況の観測に基づき、有意な雲からの戻り信号が発生したことを特定するため、気象状況が監視されている。あるいは、操作者が、例えば取得したドップラースペクトルを「2つのピーク」の存在についてチェックするなど、風スペクトルの特定の特徴を定期的に監視してもよい。手作業による技法は、容認できる結果をもたらすことができるが、操作者を(「現場」に、あるいは取得したデータをオフラインで分析するために)用意するコストは、ひどく高い。
【0087】
雲からの戻りに関連する問題を克服するために見出された1つの技法は、雲高計を使用して雲の高さを監視することである。図8を参照すると、レーザー雲高計82と上述の種類の風プロファイル測定用ファイバライダー84とを備える風速計80が示されている。雲高計82は、大気の後方散乱の測定を高度の関数としてもたらし、これが、ライダーの各測定について雲信号およびエアロゾル信号の相対強度を計算するために使用される。
【0088】
雲高計は公知であり、例えばVaisala(登録商標)CT25K(Vaisala Oyj、Helsinki、Finlandによって提供されている)、あるいはMesotech CBME40/80(Mesotech International Inc.、Sacramento、U.S.A.によって提供されている)など、いくつかのシステムが市販されている。これらのシステムは、上方向きのパルス状のレーザービームを大気へと送信し、飛行時間の情報を使用して、後方散乱を高度の関数として測定する。通常は、このようなシステムは、取得した後方散乱データを処理して雲の高さについての指標をもたらし、空港などの近傍で使用されている。しかしながら、このような装置によって測定された後方散乱プロファイルを直接抽出して、後述のように風速計の性能を向上させるために使用することができる。
【0089】
雲高計82が、ライダー84と同じ位置に配置され、後方散乱プロファイルの形式である雲高計82の出力が、分析のためにライダーシステムのコンピュータへと供給される。次いで、雲関連の問題の存在の可能性を評価するため、後方散乱プロファイルを使用して計算が実行される。換言すると、所与の合焦高度における高さの関数としてのライダー84の感度が、既知である。したがって、雲およびプローブボリュームからの戻り信号の相対強度を、式3aおよび3bならびに雲高計によって測定された後方散乱プロファイルを使用して、予測することができる。このような方法で、雲からの戻りによって影響された風速データを、取得したデータから取り除き、信頼できる風速測定結果のみを残すことができる。
【0090】
最も簡潔な構成においては、この計算の出力が、雲およびエアロゾルからの戻り信号の相対強度の指標であり、ここから、各々の特定の風速測定結果の妥当性における正確さのレベルを、割り当てることができる。多くの場合においては、単純な「0」(無効−雲からの信号が支配的)または「1」(有効−エアロゾルからの信号が支配的)が充分である。代案として、各々の風測定結果に伴う不正確さの指標を、割り当ててもよい。
【0091】
理想的には、空のうちの同じ区画が調査されるようにするため、雲高計がライダーと同じ円錐走査を実行する。しかしながら、走査なしの上向き雲高計に基づく評価が、典型的には充分な情報をもたらす。さらには、大部分の市販の雲高計システムが、約1μmのレーザー波長を使用して動作する一方で、上述のファイバライダーシステムが、1.55μmで動作する点に、留意すべきである。しかしながら、後方散乱プロファイルは、これら2つの波長において大きくは相違せず、相違が存在しても、適切な構成によって少なくすることが可能である。
【0092】
雲高計の使用は、大気の散乱プロファイルについて曖昧さのない指標をもたらすが、特定の風速測定結果に伴う不正確さの指標を確認するため、ライダーシステムによって得られたドップラースペクトルを分析できることも、明らかになっている。例えば、ドップラースペクトルを分析するために、より複雑なピーク検出技法を使用することができ、高速の雲関連の信号を、データから取り去ることができ、あるいは2つ以上のピークの存在によって、取得されたデータにおいて雲信号が支配的であると見られる旨を知らせるべく、上述の種類の単純な「0」符号を生じさせることができる。
【0093】
雲高計を使用する代わりに、コヒーレントライダーからのデータを、後方散乱プロファイルを割り出すために使用することができる。すでに概説した種類の合焦CWシステムについて、一様な散乱レベルの状況(すなわち、βが高さとともに変化しない)においては、全戻り信号出力が、ライダーの合焦レンジとは事実上無関係である。この近似は、レンジがビームウェストを生成できる最大値に近づいたときにのみ破綻する。したがって、高さの関数としての散乱の指標(すなわち、β)を、ライダーの焦点を変化させたときに観察される信号強度の変化から、評価することができる。したがって、コヒーレントライダーを、異なる高さから風速データの連続を得ることによって、大気の後方散乱プロファイルの指標、とりわけ戻り信号への雲からの寄与を割り出すように、構成することができる。さらに詳しく後述するように、雲底からの戻りも、ライダーのレンジ(例えば、焦点)を変化させたときに実質的に不変であるドップラーシフトを有している。
【0094】
後方散乱プロファイルを割り出すために必要とされるデータは、通常の風速測定動作の際に取得することができ、あるいは個別の後方散乱測定ルーチンを断続的に動作させて取得してもよい。いずれの場合も、戻り信号の全積分出力が、いくつかの異なる高さ(例えば、25m、50m、100m、200m、400m)において取得された一連のスペクトルから評価される。典型的には、そのようなデータの取得は、1分未満の時間しか要さず、必要であれば、適切な統計データを得るべく多数回繰り返すことができる。次いで、得られた戻り出力対高さを、高さについての計器関数の変動を考慮し、ライダーの空間感度曲線(計器関数)との逆重畳によって、後方散乱対高さのプロットに変換できる。
【0095】
この仕組みは、後方散乱が常に正確なレーザー波長にて評価され、測定が空間の最も適切な領域において(例えば、風の測定のためにライダーが走査される同じ円錐において)実行されるという利点を有している。しかしながら、空間分解能は、典型的には、雲高計などのパルス式システムを使用して得られる空間分解能よりも低い。
【0096】
上述のように、望ましくない天候条件のもとで、上方向きのライダーシステムのドップラー信号への寄与には、対象となる高さのプローブボリュームのエアロゾルからの戻り信号を汚染し、あるいは支配さえしてしまうような雲からの戻りが含まれうる。上述のように、「通常の」風プロファイル(すなわち、雲が下方の大気における風よりも高い速度を有している)の条件下では、これが風速を高く評価し過ぎることにつながりうる。測定される風速度における雲信号の影響の重大さは、雲の高さが低いと大きくなり、ライダーのレンジ設定が高くなると大きくなり、所望のプローブボリュームの高さにおいてエアロゾルの密度が低いと大きくなる。
【0097】
雲からの戻りの存在によって持ち込まれる風速の誤差を、そのような雲からの戻りの存在を確認し、その寄与を該当のドップラースペクトルから除去することによって、減らすことができることがわかっている。これは、雲からの戻りが、それらを所望のプローブボリュームにおけるエアロゾルからの戻りから区別できるようにするいくつかの特徴を有することが明らかになっているために、可能である。第1に、雲の速度は、通常は、雲下領域の風の速度よりも高い。さらに、雲からの戻りに関係するドップラーピークのスペクトル幅は、典型的には、雲下領域からの戻りに関係するピークよりも狭い。さらに、雲からの戻りに関係するドップラーピークの高さ(すなわち、戻り信号のピーク強度)が、ライダーのレンジ(すなわち、地面の上方のプローブボリュームの高さ)に明確に依存している一方で、そのようなピークのドップラーシフト(雲の速度に関係している)が、ライダーの合焦高さと実質的に無関係であることも、明らかになっている。
【0098】
図9から図11を参照すると、ライダーが低い雲底の存在下で運転されているときに持ち込まれる測定された風速における誤差を少なくするための技法が説明されている。
【0099】
図9は、地上設置の円錐走査モノスタティックライダーシステムによって20分間にわたって測定された水平方向の風速を示している。線100、102、104、106、および108が、各々300m、150m、100m、50m、および25mの高さにおいて測定された風速を示している。雲底は、これらの測定の継続時間の間、約300mの高さにあることが観測されていた。
【0100】
図3および図4に関して上述したように、各高さにおける各風速値は、走査円錐を巡る種々の点において複数のドップラースペクトル(図3に示した形式)を取得することによって割り出される。次いで、視線風速値が、所定のしきい値を上回る各スペクトルのセントロイドを計算することによって割り出される。スペクトルから抽出された視線速度値を、式(1)および(2)に記載した式へと回帰させることで、水平および垂直方向の風速成分を割り出すことができる。図9は、地面の上方のいくつかの高さについて、このような方法で計算された水平方向の風速成分を示しており、雲底からの戻りを補正する試みはなされていない。図9から、100m(線104)および150m(線102)において測定された風速が、300m(線100)において測定された風速にきわめて類似していることを、確認することができる。
【0101】
図10を参照すると、雲からの戻りによる汚染が風速測定結果にもたらす影響が示されており、そのような汚染を減じるための技法が説明されている。
【0102】
図10aは、150mの測定高さにおける一測定点についてのドップラースペクトルを示している。ドップラースペクトルが、プローブボリューム(すなわち、地面の上方150mの領域)からの戻り信号に対応する幅広いピーク110、および雲底(300mにある)からの戻りに起因して生じる鋭いピーク112を含んでいることを、確認することができる。所定のしきい値の上方のスペクトルのセントロイドを計算する(すなわち、図3に関して説明した技法を使用する)ことによって、図10aのドップラースペクトルから視線風速値を抽出すると、この低い雲底の例においては、150mの高さの所望のプローブボリュームにおける速度を正しく表わしてはいない風速値がもたらされることになる。換言すると、ドップラースペクトルの全体を使用して上述の方法で計算された風速は、低い雲底の存在下においては真の風速を表わすことができない。
【0103】
図10bを参照すると、地面の上方300mの高さの測定点についてのドップラースペクトルが、適切なしきい値工程の適用後について示されている。図10bのスペクトルは、図10aのスペクトルを得るために使用した走査角度と実質的に同じ走査角度において取得されている。図10bに示したスペクトルは、レーザー放射の雲からの後方散乱に起因して生じるただ1つの鋭いピーク114を含んでいる。図10aおよび10bから、図10bの雲ピーク114の高さ(すなわち、ピーク戻り強度)が、図10aの雲戻りピーク112の高さよりも大きいが、両方のピークのドップラーシフトがほぼ同一であることを、確認することができる。
【0104】
図10bのスペクトルが図10aのスペクトルから減算され、図10cに示す変更済みスペクトルが生み出される。図10bのスペクトルが、追加の雑音を変更済みスペクトルへと持ち込むことがないよう、減算工程に先立ってしきい値処理されることに、留意すべきである。視線風速が、所定のしきい値を上回るスペクトルのセントロイドを割り出すことによって、図10cのデータから計算される。図10cの修正済みデータから雲のピークが取り去られており、したがって計算される視線風速値がプローブボリューム(すなわち、地面の上方150m)における真の風速を反映することを、確認することができる。換言すると、風速の測定結果が、雲底からの戻りに起因する有害な影響を取り去るべく補正されている。
【0105】
図10に関して説明したデータ補正技法を、図9の25m、50m、100m、および150mの高さにおける風速データの計算元である視線ドップラースペクトルの各々について繰り返した。雲からの戻りから得られた(すなわち、300mの高さにおける)ドップラースペクトルを、補正プロセスに使用した。スペクトルから抽出された視線速度値を、式(1)および(2)に記載の式へと再び回帰させ、水平および垂直方向の風速成分の割り出しを可能にした。この視線速度の回帰プロセスにおいて、さらに上述のアウトライアー除去技法を適用したことに、留意すべきである。
【0106】
図11が、25m(線128)、50m(線126)、100m(線124)、および150m(線122)の高さにおける「補正済み」の水平方向の風速成分、ならびに300m(線100)における雲速度データを示している。
【0107】
高度による風速の変化が、測定時の実際の風のプロファイルをよりよく描写していることを、図11から確認することができる。とくに、図9において見られた高い高度の風速測定結果(例えば、100m、150m、および300m)の「集まり(bunching)」が、取り除かれている。したがって、この方法は、雲が雲底の下方の風よりも高い速度で移動しているという前提に依拠せずに、風速測定結果から雲の影響を取り除いている。
【0108】
上述の方法のいくつかの変形が、いまや当業者にとって明らかであろう。例えば、
(i)ライダーを、対象とする最大高さ(約150m)における測定の後に、追加の高さ(例えば、300m)においてドップラースペクトルを取得するように構成し、
(ii)(走査を巡る)各方位角について、300mのスペクトルから150mのスペクトルを減算して、雲底からの戻り(存在する場合)に起因する大きな正の成分を有するスペクトルを生成し、
(iii)雲によって占められているビンを特定するため、適切なしきい値処理を加え、
(iv)150m(および、より低い高度)のスペクトルにおいて、雲によって占められているビンに相当するすべてのビンを拒絶することによって、雲成分を取り除き、
(v)この補正済みのスペクトルについてセントロイドの計算を実行し、上述のとおりデータの回帰を行って視線速度値を割り出す
ことが可能であろう。
【0109】
本明細書に含まれた教示を考慮することで、当業者であれば、雲底がライダー風速測定に及ぼす影響を軽減するため、上述の技法に対して適用することができる種々の変更および代案となる方法を、さらに理解できるであろう。
【0110】
上述のデータ分析技法が、上方向きのライダーシステム以外にも適用可能であることに、留意すべきである。これらの技法は、任意の向きの風速測定ライダーシステムに適用可能である。さらに、ドップラースペクトルの処理を、(例えば、ライダーを制御するコンピュータによって)リアルタイムで実行してもよく、あるいは事前に記録されたデータを使用してオフラインで実行してもよいことに、留意すべきである。
【0111】
図12を参照すると、風力タービン92のナセルに取り付けられた風速用ドップラーライダー90が示されている。ライダー90は、向い風の速度の測定を提供するため、タービンのブレードによって掃引される領域を通過して風上へと向けられている。異なる風速成分を測定するため、ライダー90を走査することができ、例えば円錐走査を実行することができる。このような向い風の速度の測定は、タービンの制御のために使用可能であり、あるいは突風による破損からタービンを保護すべく突風警報をもたらすために使用可能である。
【0112】
ライダー90から得られる風速データの信頼性も、上方向きのシステムの場合と同様、誤った風速データ点に悩まされる可能性がある。とくには、固体の物体(鳥、虫、飛行機、など)が、ライダーの視野を横切って移動し、たとえプローブボリュームから長い距離にあっても、強力な戻り信号をもたらす可能性がある。したがって、「アウトライアー」データ点を除去する図4に関して上述した技法は、水平方向に向けられたライダーシステムへと適用される場合も、やはり好都合である。タービンに取り付けられたライダーシステムの場合には、このような技法が、タービンのブレードによる光の反射、風力発電地帯のほかのタービンのブレードからの反射、あるいはライダーの出力光学系に雨滴や塵埃がないようにするために使用されるワイパーシステムからの反射によって生み出されるあらゆる偽のデータ点を取り除くことができるため、とくに好都合である。
【0113】
さらに、低い雲底に関連する諸問題は、水平方向に向けられたシステムにおいてはあまり問題にならない傾向にあるが、霧峰または煙の雲が、類似のエラーを引き起こす可能性がある。そのような場合、雲高計または上述の雲底補正技法を用意することが、やはり好都合であることがわかっている。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】風速用ドップラーライダーの動作の基本原理を説明している。
【図2】動作中の上方向きの円錐走査の風ライダーシステムの概略図を示している。
【図3】円錐走査の1つの位置において取得された典型的なドップラー信号スペクトルを示しており、ここから視線風速値を抽出することができる。
【図4】円錐走査の風速用ドップラーライダーから得られた典型的な風速データを角度の関数として、すべてのデータ点を使用して計算したLSSデータ回帰曲線および選択された一部のデータ点を使用して計算したLSSデータ回帰曲線とともに示している。
【図5】ライダーの感度および低い雲底の後方散乱強度を示している。
【図6】プローブボリュームにおけるエアロゾル散乱からの戻り信号および雲底からの戻り信号の相対出力を示している。
【図7】低い雲底の存在下において風速用ドップラーライダーによって取得される典型的な戻り信号を示している。
【図8】雲高計を取り入れてなる風ライダーシステムの概略図である。
【図9】20分の期間にわたってライダーによって測定された風速データを高度の関数として示している。
【図10a】風速測定結果における雲底による汚染の影響を説明している。
【図10b】風速測定結果における雲底による汚染の影響を説明している。
【図10c】風速測定結果における雲底による汚染の影響を説明している。
【図11】雲底の後方散乱の影響について補正を行った風速測定結果を示している。
【図12】向い風の速度を測定することができるよう風上に向けられて風力タービンに取り付けられた風速用ドップラーライダーを示している。
【符号の説明】
【0115】
2 コヒーレントライダー装置
4 レーザビーム
6、54 プローブボリューム
8 エアロゾル
20 地上設置ライダー
22 円錐走査
24 垂直軸
50 受信ビーム
56 雲
80 風速計
82 雲高計
84、90 ライダー
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレント・レーザー・レーダー(ライダー)装置、およびそのような装置を動作させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ライダーは、よく知られており、風のプロファイルを測定するために長年にわたって使用されてきている。ライダー装置の基本原理は、レーザービームを空間内のある点または領域へと導き、リターン信号を検出することにある。大気中に存在する小さな自然の粒子および液滴(エアロゾル)によって後方散乱されたドップラーシフト光の測定が、視線風速の測定をもたらすために使用される。レーザービームが走査される場合、複数の風速成分を割り出すことができ、風のベクトルについてより多くの情報を計算することができる。
【0003】
炭酸ガスレーザーに基づく初期のライダーの例が、Vaughan,J Mらの「Laser Doppler velocimetry applied to the measurement of local and global wind」、Wind engineering、Vol.13、no.1、1989に記載されている。より最近では、光ファイバに基づくライダーシステムも開発されている。例えば、KarlssonらのApplied Optics、Vol.39、No.21、2000年7月20日、およびHarrisらのApplied Optics、Vol.40、pp1501〜1506(2001年)を参照されたい。光ファイバに基づくシステムは、伝統的な気体レーザーに基づくシステムに対し、多数の利点を提供する。例えば、光ファイバに基づくシステムは、比較的小型であり、控えめな価格であって典型的にはきわめて信頼性が高い標準的な電気通信用の構成要素を使用して製造することができる。
【0004】
近年の風力の活用の高まりに伴い、長期間にわたって信頼できる風速の測定を行うことが可能な風速計が、いまや必要とされている。そのような日々の風速測定結果を、風力タービン予定地の適性を評価するために使用でき、既存の風力タービンの動力抽出効率を測定するために使用することができ、風力タービン制御システムの一部を構成することさえ可能である。伝統的には、機械的な「カップ式」の風速計が、そのような測定を行うために使用されているが、この装置を地面の上方の風速測定が求められる高さに取り付けることができるよう、柱または塔の建設を必要とすることが多い。これは、とくには多数の予定地について評価が必要とされる場合に、かなりの費用がかかることが明らかである。
【0005】
光ファイバに基づくライダーは、伝統的なカップ式の風速計を置き換える可能性を有しているが、このような置き換えは、長期間にわたって取得されるデータが、公知の機械式のシステムによってもたらされるデータと少なくとも同程度に信頼可能であることが保証されうる場合にのみ生じるであろう。これまでのところ、ライダーに基づく風速計を使用して取得された風速データの長期信頼性についての懸念が、機械的なカップ式風速計に基づく伝統的なシステムの代替としての採用を、妨げている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、大気の風速を測定するためのライダー装置およびそのような装置を動作させる方法であって、長期間にわたって信頼できる測定をもたらす装置および方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、ライダー装置によって取得したデータの優れた分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、光のビームを遠隔プローブボリュームへと合焦させるための送信器と、後方散乱光を検出するための受信器と、上記検出された後方散乱光の周波数のドップラーシフトから、上記遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するための分析器と、を有している大気の風速測定のためのコヒーレント・レーザー・レーダー装置であって、上記分析器が、上記検出された後方散乱光において上記遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分の存在について監視を行うように構成され、および/または上記計算した風速がそのようなドップラー周波数成分について補正されていることを保証するように構成されていることを特徴とする。
【0008】
すでに概説したように、従来技術のコヒーレント・レーザー・レーダー装置は、既知の方向へと正確かつ信頼可能に光のビームを送信する光送信器、および既知の方向からの後方散乱光を実質的に変化することがない感度で一貫して検出できる受信器を備えている点で、本質的には信頼できる。したがって、従来技術のコヒーレント・レーザー・レーダー装置は、理想的な条件においては、対象とする遠隔プローブボリュームについてきわめて正確な風速情報を取得することができる。しかしながら、ある特定の大気の条件のもとでは、そのような従来技術のコヒーレント・レーザー・レーダー装置によって計算された風速値に、かなりの誤差を伴うことがわかっている。とくに、雲底が低くに存在する場合には、対象のプローブボリュームのエアロゾルからの反射に実際に起因する成分ではなく、雲内に見られるより高密度のエアロゾル(水滴)からの反射に起因する成分が、検出される後方散乱信号を支配する可能性があり、あるいは少なくともかなりの成分を占める可能性がある。そのような状況において、従来技術のコヒーレント・レーザー・レーダー装置は、雲からの戻りの影響のために、遠隔プローブボリュームの風速を真に表わしてはいない「偽の」風速の読み取りをもたらす。
【0009】
そこで、本発明は、上記検出された後方散乱光において上記遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱(すなわち、上記遠隔プローブボリュームの外側のエアロゾルから反射される光)から生じるドップラー周波数成分の存在について監視を行うように構成され、および/または上記計算した風速がそのようなドップラー周波数成分について補正されていることを保証するように構成されている分析器が設けられているライダー装置を提供する。したがって、本発明の装置は、雲に起因する偽の読み取りに左右されにくく、あるいは少なくとも計算した風速値が雲からの戻り信号によって影響されていて一定レベルの不正確さが伴っている可能性がある旨の知らせをもたらす。
【0010】
したがって、本発明の装置は、操作者がライダーによって計算された風速値により大きな自信を持つことを保証する。例えば、上述の知らせが、計算された各々の風速値に組み合わせられたエラー出力の形態であってよく、あるいは一定レベルの正確さを有する風速値のみを、ライダーによって出力または記録してもよい。換言すると、装置が、計算した風速に関して正確さの指標をもたらすための手段を有している。したがって、本発明は、従来技術のシステムと異なり、断続的および/または変化する雲底の存在下でも、信頼できる長期の無人の風速測定を行うことができるライダー装置を提供する。
【0011】
受信器によって検出される後方散乱光が、「視線」の風速についての指標をもたらすこと、すなわち戻り光が、送信/受信ビームの方向と平行なエアロゾルの速度成分に相関した量だけドップラーシフトされていることに、留意すべきである。しかしながら、送信器から送信される光ビームおよび受信器によって定められる受信ビームを遠隔プローブボリューム内において走査するための走査手段を設けることによって、種々の風速成分を好都合に割り出すことができる。このような方法でライダーを走査することで、遠隔プローブボリューム内の風ベクトルに複数の既知の角度で交差することができ、これによって真の風速ベクトルを再現し、種々の風速成分を測定することができる。本発明による走査付きライダー装置の実施については、さらに詳しく後述する。
【0012】
さらに、用語「受信ビーム」が当業者にとってよく知られており、そこから戻り光が受信器光学系によって集められて検出器へと渡される方向を指して使用されていることに、留意すべきである。換言すると、受信ビームは光子のビームではなく、単に空間内にある体積(そこから後方散乱光を検出できる)を定める擬似的または仮想的なビームである。また、本明細書において、用語「遠隔プローブボリューム」が、空間内の3D領域であってそこからの風速データが必要とされている3D領域を定めるために使用されていることに、留意すべきである。非走査のビームの場合には、遠隔プローブボリュームが、送信/受信ビームの重なり合いおよび/または焦点によって定められる一方で、走査付きの装置の場合には、遠隔プローブボリュームが、さらに走査パターンによって定められる。例えば、円錐走査の場合には、遠隔プローブボリュームは、走査角度によって定められる半径および送信/受信ビームの焦点の深さによって定められる厚さを有する空気の円板となる。
【0013】
好ましくは、送信器が、可変合焦機構を有しており、遠隔プローブボリュームのレンジを必要に応じて変化させることができるようにしている。受信器も、可変合焦機構を備えることができる。好都合には、装置が、使用時に、受信ビームの焦点が送信ビームの焦点に一致すべく配置されるように構成されている。このように、送信器によって出力される送信ビームおよび受信器によって定められる受信ビームが、どちらも可変の焦点距離を有することができ、これにより、上方へと向けられた装置の場合には、遠隔プローブボリュームの地面からの高さ(すなわち、高度)を必要に応じて変化させることができる。可変合焦機構を、連続可変の焦点をもたらすように構成することができ、あるいは複数の合焦状態のうちの任意の1つをもたらすように構成することができる。
【0014】
好都合には、装置が、複数の測定遠隔プローブボリュームにおける風速を順次に測定するように構成されており、これら複数の測定遠隔プローブボリュームが、第1のレンジ限界よりも小さいレンジにある。ここで、用語「測定遠隔プローブボリューム」とは、風速データが必要とされているプローブボリュームを指しており、すなわち対象となるプローブボリュームを指している。上向きの装置の場合には、測定遠隔プローブボリュームは、興味の対象であるいくつかの高さに位置するであろう。例えば、第1組の測定を、予定または実際の風力タービンブレードの高さ、すなわち地表面から50m、100m、および150mの高さにおいて行うことができる。これに加え、あるいはこれに代え、装置を、各々が第1のレンジ限界よりも小さいレンジにある複数の測定遠隔プローブボリュームにおける風速を並行して測定するように構成することができる。
【0015】
好都合には、送信器が、光のビームを少なくとも1つの基準遠隔プローブボリュームへと合焦させるようにさらに構成されており、この少なくとも1つの基準遠隔プローブボリュームが、上記第1のレンジ限界よりも大きいレンジにある。ここで、用語「基準遠隔プローブボリューム」とは、風速データは必要とされていないが、雲が存在している場合に雲からの戻り信号をもたらすことができるプローブボリュームを指している。基準遠隔プローブボリュームは、典型的には、雲からの戻りの存在が測定遠隔プローブボリュームにおいてなされる測定に測定可能な戻り信号をもたらす高さに位置している。例えば、基準遠隔プローブボリュームは、地表面から300mの高さに位置してよい。必要であれば、基準遠隔プローブボリュームについても風速を計算できることに留意すべきであり、この測定を、例えば雲の速度の指標をもたらすために使用することができる。
【0016】
送信器が上記少なくとも1つの基準遠隔プローブボリュームへと合焦されているときに検出された後方散乱光のドップラー周波数の特徴を、上記複数の測定遠隔プローブボリュームの各々における風速の計算の際に、分析器によって好都合に使用することができる。一例においては、分析器を、上記測定遠隔プローブボリュームおよび基準遠隔プローブボリュームの各々における各々の測定について、検出された後方散乱光の強度をドップラーシフト周波数の関数として備えているドップラースペクトルを生成するように好都合に構成されており、上記風速の計算が、上記測定ドップラースペクトルの各々から少なくとも1つの基準ドップラースペクトルを減算することを備えている。
【0017】
装置を、風速データを連続的に取得するように構成できることに、留意すべきである。したがって、ドップラースペクトルを、各々の測定遠隔プローブボリュームにおいて順に取得することができ、これに続き、あるいはこれに先立って、基準遠隔プローブボリュームにおける測定を行うことができる。次いで、この取得サイクルを、必要とされる限りにおいて繰り返すことができる。レンジを順に大きくしつつデータを取得すると、測定の間に必要となる焦点調節の大きさを小さくできるが、データを、遠隔プローブボリュームから任意の順序で取得してよいことに、注目すべきである。これに代え、あるいはこれに加え、複数のライダー装置または波長多重化ライダーを、種々の高さにおいて並行して複数の測定を行うべく使用してもよい。さらに、装置を、さらに詳しく後述されるとおり、各プローブボリュームにおいて複数の測定を行う(例えば、円錐走査のビームを備える)ように構成することができる。
【0018】
このようにして、上記第1組の遠隔プローブボリュームの各々について計算された風速が、上記検出された後方散乱光において上記第1のレンジ限界よりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分による影響を実質的に受けない装置がもたらされる。換言すると、レンジ限界よりも大きいレンジにおいて取得されたドップラースペクトルが、該第1のレンジ限界よりも小さいレンジについてドップラースペクトルから割り出される風速を補正するために、分析器によって使用される。第1のレンジ限界が、典型的には、測定領域における典型的な大気雲底までのレンジよりも小さいことに、留意すべきである。また、第1のレンジ限界が、装置に備えられた最大のレンジを指しているわけではなく、測定の対象とするレンジの限界を指していることを、強調しておかなければならない。
【0019】
分析器を、上記検出された後方散乱光のドップラーシフト周波数の関数としての強度を、2つ以上の個別の強度ピークの存在について、すなわち異なるドップラー周波数において生じるピークについて監視するように、好都合に構成することができる。
【0020】
好都合には、分析器が、2つ以上の個別の強度ピークが存在する場合に、遠隔プローブボリュームにおける風速を、より低いドップラーシフト周波数にある強度ピークから決定するように構成されている。この方法で、計算される風速において、高速で移動する雲からのドップラー戻りから生じる影響が除去される。この技法は、雲が遠隔プローブボリュームの風よりも高速で移動しているという仮定に依拠しているが、それでも多くの状況において正確な風速データを提供することができる。
【0021】
好都合には、装置が、大気の後方散乱断面をレンジの関数として測定するための大気後方散乱プロファイリング手段(例えば、大気後方散乱プロファイラ)をさらに備えている。したがって、風ドップラーライダーと大気後方散乱プロファイラとを備えるコヒーレント・レーザー・レーダー装置を提供することができる。大気後方散乱プロファイラは、好ましくは、後方散乱をレンジの関数として正確に測定できるパルス式のレーザー・レーダー装置である。大気後方散乱プロファイラの出力ビームは、好ましくは、送信器によって送信される光のビームと同じ、または実質的に同じ経路に沿って案内される。
【0022】
このような後方散乱プロファイリング手段を設けることで、上方へと向けられたライダーシステムにおいて、低い雲底の存在によって持ち込まれる誤差を監視できることが保証される。これは、低い雲底の存在下において、上方向きのライダーの受信器によって検出される後方散乱信号が、遠隔プローブボリュームのエアロゾルからの後方散乱によってではなく、高度に散乱性である雲からの後方散乱によって支配されてしまう可能性がある従来技術のライダーと、対照的である。これは、ライダーが遠隔プローブボリュームからの後方散乱光に対して最大の感度を有しているが、依然として遠隔プローブボリュームの外部からの戻り光に対してもいくらかの感度を有しているがために生じる。したがって、さらに詳しく後述されるように、遠隔プローブボリュームの外部において生じる散乱の量が、遠隔プローブボリュームにおいて生じる散乱の量に比べて有意に大きい場合、全体としての戻り信号が、必ずしも遠隔プローブボリュームのエアロゾルからの後方散乱によって支配されなくなる。したがって、後方散乱プロファイリング手段を取り入れているライダーは、「誤った」風速測定を行う可能性を大幅に低減しており、長期にわたって無人の測定を行うために適した堅牢かつ信頼できるシステムを提供する。
【0023】
好都合には、大気後方散乱プロファイリング手段が、雲高計を有している。雲高計は、公知のパルス式ライダー装置であり、空港などの近くで雲の高さを測定するために長年にわたって使用されてきている。個別のパルス式ライダーを設けることが、簡潔化ならびに後方散乱プロファイルおよび風速の同時測定の可能化のために好ましいが、風速測定をもたらすコヒーレント・レーザー・レーダーをさらに後方散乱プロファイルを測定すべくパルスモードで動作するように構成することも可能であることを、当業者であれば理解できるであろう。
【0024】
代案として、大気後方散乱プロファイラが、検出された後方散乱光の出力を装置から遠隔プローブボリュームまでの距離の関数として割り出すための手段を備えることができる。換言すると、受信器によって集められた後方散乱光の光出力を、特定の高さにおける散乱強度の指標として使用することができる。ライダーの特性が既知であると仮定すると、遠隔プローブボリュームのレンジの関数としての戻りの出力が、後方散乱プロファイルをもたらすことができる。遠隔プローブボリュームの装置からの距離は、例えば装置の焦点を変化させることによって、容易に制御可能である。
【0025】
好都合には、分析器が、上記大気後方散乱プロファイラによって測定された後方散乱プロファイルを取り入れ、この後方散乱プロファイルを使用して、上記計算した風速が上記検出された後方散乱光において上記遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分について補正されていることを保証する(すなわち、計算した風速が遠隔プローブボリュームの風速の特徴を表わすものであるか否かを示唆する)ように構成されている。換言すると、大気後方散乱プロファイリング手段が、レンジの関数として後方散乱断面のプロファイルをもたらす。次いで、この後方散乱/レンジプロファイルが、既知であり、あるいは事前に測定されているコヒーレント・レーザー・レーダーの感度特性と組み合わせて使用されて、受信器によって集められた後方散乱光のうちの遠隔プローブボリュームのエアロゾルからの後方散乱に起因する割合が割り出される。次いで、計算された風速が遠隔プローブボリュームの真の風速の特徴を表わしていると思われるか否かについての知らせが、装置によって提供される。多くの場合においては、単純な「0」(無効な読み取り値−雲からの信号が支配的)または「1」(有効な読み取り値−エアロゾルからの信号が支配的)が充分である。代案として、計算した風速に伴う不正確さについてのさらに詳しい指標を、計算してもよい。
【0026】
結果として、コヒーレント連続波ライダー装置と雲高計などの非コヒーレント・パルス式ライダー装置とを有している風速測定装置が提供される。大気の後方散乱プロファイルが、パルス式ライダー装置によって割り出され、連続波ライダー装置の既知の(例えば、予想または測定された)感度との組み合わせにおいて、連続波ライダー装置によって探知される空間の領域を決定すべく使用される。したがって、雲高計によってもたらされるデータが、遠隔プローブボリュームから生じている後方散乱光の割合を評価できるようにする計算において使用される。
【0027】
コヒーレント送信ビームおよび後方散乱プロファイリング手段のパルス状ビームの波長が類似しているべきであることに、留意しなければならない。この波長の類似は、大気の後方散乱特性が波長依存性であるために必要とされる。しかしながら、波長の微細な相違については、簡単な較正係数を使用して、後方散乱プロファイリング手段の動作波長における後方散乱特性を、コヒーレントビームの動作の波長へと変換することが可能である。したがって、好ましくは、コヒーレントシステムおよびパルス式システムが使用する光の波長の相違は、10倍未満であるべきであり、より好ましくは2倍未満であるべきである。
【0028】
好都合には、送信器によって送信される光のビームを遠隔プローブボリューム内で走査するため、走査手段が設けられる。
【0029】
好都合には、分析器が、遠隔プローブボリューム内の複数の既知の走査位置について視線風速値を割り出し、遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を、上記複数の視線速度値を所定の関数に回帰させることによって計算するように構成されている。すなわち、ドップラースペクトルを、遠隔プローブボリューム内の複数の既知の走査位置についてライダーによって取得することができ、ここから複数の視線速度値が計算される。一様な風が遠隔プローブボリュームを通って流れていると仮定すると、視線速度値を位置に対してプロットしたものを、ある所定の数学的関数に回帰させることができ、遠隔プローブボリューム内の種々の風速成分を抽出することができる。
【0030】
好ましくは、上記所定の関数が正弦波関数であり、走査手段が、送信器によって送信される光のビームおよび受信器によって定められる受信ビームを円錐状に走査するように構成されている。垂直軸を中心として走査を実行する地上設置の上向きライダー装置の場合には、正弦曲線のオフセット(すなわち、DC成分)が、垂直方向の風速成分についての指標をもたらし、正弦波の振幅が、水平方向の速度成分についての指標を与える一方で、正弦曲線の位相が、風の方位成分についての指標をもたらす。分析器が、任意の座標系を使用して動作でき、例えば位置情報を必要に応じて直交座標または極座標にて表現できることに、留意すべきである。
【0031】
分析器を、複数の視線速度値の上記所定の関数への最初の回帰を実行し、この最初の回帰から、複数の視線速度値のうちのどれを遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分の計算に使用すべきであるかを判断するように、構成することができる。好都合には、分析器が、走査の際に取得された1つ以上の視線速度値を、上記少なくとも1つの風速成分の計算から除外するように構成されている。
【0032】
遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分の計算に使用される複数の視線速度値は、上記最初の回帰からの偏差が所定の量よりも小さい視線速度値を備えることができる。換言すると、分析器を、偽の可能性がある点(例えば、上記最初の回帰からの偏差が所定の量よりも大きい点)を上記少なくとも1つの速度成分を割り出す計算から除外するように構成することができる。これら偽の点は、送信/受信ビームの経路内を移動する固体物体(例えば、虫、鳥、車両、航空機、など)から生じうる。
【0033】
好都合には、遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分の計算に使用される複数の視線速度値は、最初の回帰からの偏差が最も大きいN個の視線速度値を除外しており、ここでNが1以上かつ視線速度値の数よりも小さい所定の整数である。換言すると、複数の視線速度値の所定の関数への最初の回帰が実行され、この最初の回帰の結果が、測定された各々の視線速度値について、最良の回帰曲線からの偏差の指標を含んでいる。風速成分を計算するために使用されるそれに続くデータ回帰において、最初の回帰からの偏差が最も大きいN個のデータ点が除外される。Nは1以上であり、好ましくは取得した視線速度値の数よりも小さく、あるいは大幅に小さい。Nについて好ましい値は、ライダーが配置されている環境によって決まるであろうが、1、2、3、4、または5であってよく、あるいは5、10、15、または20よりも大きくてよい。
【0034】
このようにして、計算された風速値の精度が、遠隔プローブボリュームのエアロゾルによって生み出されたものではない後方散乱に起因する時折の偽の視線速度値によって左右されることがない。結果として、分析器が偽の視線速度データ点の存在を割り出して、風速値を計算するときにそのような偽のデータ点を除外する走査付きのライダーシステムを提供できる。
【0035】
好都合には、複数の視線速度値の所定の関数への回帰が、最少自乗和の技法を使用して実行される。いくつかの適切な回帰ルーチンが市販されており、例えばNAG(National Algorithms group)ルーチンを使用することができる。
【0036】
好都合には、装置がモノスタティックである。換言すると、受信器および送信器が、実質的に平行であって重なり合う送信および受信ビームを形成する共通の光学系を共有する。さらには、このようなモノスタティック構成が使用されるとき、送信および受信ビームの焦点が常に一致している。
【0037】
代案として、装置がバイスタティックであってもよい。この場合、送信器および受信器が、個別かつ分離した光学的構成を備えている。このようなバイスタティック・システムにおいては、送信および受信ビームが同じレンジに合焦され、かつこれら2つのビームがそれらの焦点において交差するように、保証することが好ましい。バイスタティック構成の焦点および「スキント(squint)」を同時に変化させるための手段を有している装置が、PCT特許出願第GB03/04408号に記載されている。
【0038】
好都合には、受信器によって集められる後方散乱光が、検出に先立って送信器の光源から抽出された局部発振器信号と混合される。この方法で、ヘテロダイン検出システムがもたらされる。これは、ドップラーシフトのデータを、局部発振器および戻り光(すなわち、後方散乱光)のうなり周波数から容易に抽出できるようにする。
【0039】
好ましくは、送信される光ビームが、赤外旋を備えている。例えば、装置を、半導体レーザーを取り入れ、1.55μmの電気通信の波長で動作するように構成することができる。さらに、本明細書において、用語「光」が、遠紫外から遠赤外までの任意の波長の可視および不可視の放射線を表わすために使用されていることに、留意すべきである。ライダーを、CWまたはパルス式の動作に合わせて構成することができる。
【0040】
好ましくは、送信器および受信器が、光ファイバによって接続された光学部品を備えている。好ましくは、装置が、少なくとも1片の光ファイバを備えている。この種のファイバに基づくシステムは、「規格品」の光学部品を使用して製造することができ、比較的安価であり、堅牢であり、信頼できる。
【0041】
好都合には、装置が、地上に設置されて上方に向けられて動作するように構成されている。換言すると、装置が、実質的に垂直に向けられて、地面の上方のある高さに位置する遠隔プローブボリュームにおける風速を測定するように、構成されている。地上設置の動作とは、ライダーを水に浮かぶ台座上で使用することを含んでよい。
【0042】
このように、光のビームを遠隔プローブボリュームへと送信するための送信器と、後方散乱光を検出するための受信器と、検出された後方散乱光の周波数のドップラーシフトから上記遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するための分析器とを備えており、計算された風速が上記遠隔プローブボリュームの風速の特徴を表わしているか否かを知らせ、および/または計算された風速が上記遠隔プローブボリュームの風速の特徴を表わしていることを保証するための手段が設けられている風速測定のためのコヒーレント・レーダー装置が、本明細書において説明される。
【0043】
したがって、光のビームを遠隔プローブボリュームへと合焦させるための送信器と、後方散乱光を検出するための受信器と、上記受信器によって検出された後方散乱光のドップラーシフト周波数の関数としての強度から上記遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するための分析器とを備えており、上記分析器が、風速の計算において、上記送信ビームが合焦されたレンジよりも大きいレンジに位置するエアロゾル(例えば、雲)からの後方散乱に起因するドップラー周波数成分を除外するように構成されている大気の風速測定のためのコヒーレント・レーザー・レーダー装置を提供できる。
【0044】
さらには、大気の風速測定のためのコヒーレント・レーザー・レーダー装置であって、当該装置からレンジRに位置する少なくとも1つの遠隔プローブボリュームへと光のビームを合焦させるための送信器、後方散乱光を検出するための受信器、および検出された後方散乱光の周波数のドップラーシフトから、対象の遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するための分析器を有しており、検出された後方散乱光について上記レンジRよりも大きいレンジにおける光の散乱に起因するドップラーシフト成分を割り出すためのエラー検出器が設けられていることを特徴とするコヒーレント・レーザー・レーダー装置が説明される。
【0045】
風力タービン、または多数の風力タービンを有している風力発電地帯が、本明細書に記載される形式の少なくとも1つのコヒーレント・レーザー・レーダー装置を備えることができる。好都合には、そのようなコヒーレント・レーザー・レーダー装置が、風力タービンの風上の遠隔プローブボリュームにおける風速を測定するように構成される。コヒーレント・レーザー・レーダー装置によって送信される光ビームが、風力タービンのブレードによって掃引される空間の領域を通過することができる。そのような構成において、分析器を、計算される風速測定結果がタービンブレードからの反射によって影響されることがないように、構成することができる。
【0046】
本発明の第2の態様によれば、(i)コヒーレント・レーザー・レーダー装置によって遠隔プローブボリュームから取得されたドップラー周波数データを取り入れるステップと、(ii)上記コヒーレント・レーザー・レーダー装置の上記遠隔プローブボリュームにおける風速を、上記ドップラー周波数データから計算するステップとを備えている大気の風速を計算するための方法が、ステップ(ii)が、上記遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分の存在について、上記ドップラー周波数データを監視し、および/または上記計算した風速がそのようなドップラー周波数成分について補正されていることを保証するステップを備えていることを特徴とする。このような方法で、コヒーレント・レーザー・レーダー装置の遠隔プローブボリュームにおける風速をドップラー周波数データから計算するステップが、計算された風速が上記遠隔プローブボリュームにおける風速の特徴を表わしているか否かについて知らせをもたらすこと、および/または計算された風速が上記遠隔プローブボリュームにおける風速の特徴を表わしていることを保証することを備えている。
【0047】
好都合には、上記ドップラー周波数データが、複数の遠隔プローブボリュームから取得された複数のドップラースペクトル(すなわち、ドップラー周波数の関数としての受信強度)を備えている。
【0048】
好ましくは、上記複数のドップラースペクトルが、第1のレンジ限界よりも小さいレンジにある1つ以上の測定遠隔プローブボリュームから取得された第1組のドップラースペクトル、および上記第1のレンジ限界よりも大きいレンジにある1つ以上の遠隔プローブボリュームから取得された第2組のドップラースペクトルを備えている。
【0049】
好都合には、ステップ(ii)が、上記第1組のドップラースペクトルの各々から計算される風速が雲からの後方散乱に起因して生じるドップラー周波数成分について補正されていることを保証するために、上記第2組のドップラースペクトルを使用するステップを備えている。さらに、風速の計算方法が、上記第2組のドップラースペクトルを上記第1組のドップラースペクトルの各々から減算するステップを備えることができる。
【0050】
好都合には、この方法が、上記コヒーレント・レーザー・レーダー装置の近傍に位置する大気後方散乱プロファイラによって測定された後方散乱プロファイルを取り入れて、この後方散乱プロファイルを、計算された風速が上記遠隔プローブボリュームにおける風速の特徴を表わしているか否かについての知らせをもたらすために使用する追加のステップを備えている。したがって、後方散乱プロファイルを、上記遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分の存在について上記ドップラー周波数データを監視するために使用することができる。
【0051】
好都合には、上記ドップラー周波数データが、各遠隔プローブボリュームから取得された複数のドップラースペクトルを備えており、これら複数のドップラースペクトルの各々が、上記遠隔プローブボリューム内の既知の走査位置から取得されている。したがって、視線速度値を、上記遠隔プローブボリューム内の各走査位置の各ドップラースペクトルから計算でき、上記遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップが、上記視線速度値の少なくともいくつかを所定の関数に回帰させるステップを備えている。
【0052】
好都合には、コヒーレント・レーザー・レーダー装置によって取得されたデータが、遠隔プローブボリューム内の複数の既知の走査位置において測定された複数の視線風速値を備えており、上記遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップが、上記複数の視線速度値について所定の関数への最初の回帰を実行すること、およびこの最初の回帰から、上記複数の視線速度値のうちのどれを上記遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を計算するステップにおいて使用すべきかを選択することを備えている。
【0053】
上記遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を計算するステップにおいて使用すべく選択される視線速度値は、好都合には、最初の回帰からの偏差が所定の量よりも小さい視線速度値を備えることができる。これに代え、あるいはこれに加えて、上記遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を計算するステップにおいて使用すべく選択される視線速度値は、好都合には、最初の回帰からの偏差が最も大きいN個の視線速度値を除外することができ、ここでNは、1以上かつ視線速度値の数よりも小さい所定の整数である。
【0054】
換言すると、遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を計算するステップにおいて使用すべく選択される少なくともいくつかの視線速度値が、最初の回帰からの偏差が所定の量よりも小さい視線速度値を備えている。あるいは、少なくとも遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を計算するステップにおいて使用すべく選択される視線速度値が、最初の回帰からの偏差が最も大きいN個の視線速度値を除外することができ、ここでNは、1以上かつ視線速度値の数よりも小さい所定の整数である。
【0055】
好都合には、上記ドップラー周波数データが、検出された後方散乱光のドップラーシフトの関数としての強度(すなわち、ドップラースペクトル)を備えることができ、遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップが、上記データを異なるドップラー周波数に位置する2つ以上の個別のピークの存在について分析することを備えており、上記遠隔プローブボリュームにおける視線風速が、より低いドップラーシフト周波数にあるピークから決定される。
【0056】
上記方法のステップ(i)は、少なくとも1つの遠隔プローブボリュームからドップラー周波数データを取得するためにコヒーレント・レーザー・レーダー装置を使用するステップを備えることができ、すなわちこの方法は、データを取得すべくコヒーレント・レーザー・レーダー装置を使用する最初のステップを備えることができる。
【0057】
上述の方法を実行するためのコンピュータプログラムを提供することも可能である。上述の方法を実行するために適したコンピュータプログラムを機械で読み取ることができる形式で備えているコンピュータプログラムキャリヤも、提供可能である。さらに、上述の方法を実行するために適切にプログラムされたコンピュータを、提供することが可能である。
【0058】
本発明の第3の態様によれば、(i)光のビームを遠隔プローブボリュームへと合焦させるステップと、(ii)後方散乱光を検出するステップと、(iii)上記検出された後方散乱光の周波数のドップラーシフトから、上記遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップとを備えているコヒーレント・レーザー・レーダーの動作方法が、ステップ(iii)が、上記検出された後方散乱光において上記遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分の存在について監視し、および/または上記計算した風速がそのようなドップラー周波数成分について補正されていることを保証するステップを備えていることを特徴とする。
【0059】
さらには、(i)コヒーレント・レーザー・レーダー装置によって取得されたデータを取り入れるステップと、(ii)このデータからコヒーレント・レーザー・レーダー装置の遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップとを備えている風速計算方法であって、上記データからコヒーレント・レーザー・レーダー装置の遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップが、計算された風速が上記遠隔プローブボリュームにおける風速の特徴を表わしているか否かについて知らせをもたらすこと、および/または計算された風速が上記遠隔プローブボリュームにおける風速の特徴を表わしていることを保証することを備えている風速計算方法が説明される。
【0060】
次に、本発明を、添付の図面を参照しつつあくまで例として説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
図1を参照すると、風速用ドップラーライダーの動作の基本原理が示されている。コヒーレントライダー装置2が、レーザービーム4を空間内のある領域、すなわちプローブボリューム6へと導くように構成されている。その結果、風によってプローブボリューム6を通過して方向10へと運ばれている大気中のエアロゾル(塵埃、花粉、汚染、塩の結晶、水滴、など)8から後方散乱されたレーザー放射が、ライダー装置2によって検出される。後方散乱されてきた放射のドップラー周波数シフトの測定が、戻り信号を送信ビームをもたらしているレーザーから生成される安定な局部発振器ビームでビート受信(beating)する(ヘテロダインさせる)ことによって、達成される。ドップラーシフトした周波数は、風速に正比例しており、したがってライダーは較正を必要としない。このようなライダー装置の具体的構成についてのさらなる詳細は、ほかでも見つけることができる。例えばKarlssonら、あるいはHarrisら(前出)を参照されたい。
【0062】
コヒーレントライダー装置2は、モノスタティックであり、すなわち共通の送信および受信光学系を有している。組み合わせられた送信/受信ビームの焦点を調節することで、装置のプローブボリューム6へのレンジを制御することができる。個別の送信および受信光学系を有するいわゆるバイスタティックなライダーシステムも知られていることに、留意しなければならない。バイスタティックなシステムにおいては、送信および受信ビームの焦点が、ビームの交差の位置に一致するように構成される。バイスタティックなシステムにおいては、装置のレンジを調節するときに、送信および受信ビームの焦点ならびにシステムの「スキント(squint)」の両者を変化させることが好ましい。本明細書において、用語「受信ビーム」が、検出器へと戻り光を向けている領域を指して使用されていることに、重ねて留意すべきである。換言すると、受信ビームは光子のビームではなく、単にある体積(そこからシステムによって光が受信される)を定める擬似的または仮想的なビームである。
【0063】
図2を参照すると、上方へと向けられた円錐走査の地上設置ライダー20のシステムが、示されている。使用時、この装置が、ある角度範囲の風を捕らえるため、垂直軸24を中心とする連続的な円錐走査22を実行する。これは、さらに詳しく後述するように、水平方向の風の速度および方向を計算可能にする。さらに、レーザーの焦点を調節することで、地上レベルの上方のある高さ(h)の範囲において風をサンプリングできる。
【0064】
以下では、円錐走査のライダーのみを説明するが、真の風速ベクトルを割り出すために多数の他の走査パターン、固定された複数のビームの仕組み、または切り換えされるスターリングビーム(staring beam)の仕組みを使用できることに、留意すべきである。本件出願と同時に係属中である国際公開第2005/008284号に記載されているように、各々の視線速度値に関する指向(または、観察)方向が充分な精度で知られている場合、ランダムまたは擬ランダム走査も容認できる。
【0065】
ドップラー情報を抽出するため、ライダーシステムの検出器の電気出力が、50MHzでデジタル信号としてサンプリングされ、ドップラースペクトルが、512点の高速フーリエ変換(FFT)として取得される。次いで、これら個々のFFTのうちの256点が、各風またはドップラースペクトルを生成すべく平均され、これは測定時間が2.6msであることを意味している。大気が、この時間軸上に有効に凍結され、スペクトルが、プローブボリュームを通過する視線風速の瞬時の空間的変動を表示する。スペクトルは、約6.5%の総デューティサイクルに相当する毎秒約25回の割合で生成される。
【0066】
図3は、取得された風速用ドップラースペクトルの典型的な例を示している。この風速用ドップラースペクトルは、2.6msの取得時間にわたって検出されたとおり、戻り信号のパワースペクトル密度を、ドップラーシフトの周波数の関数として示している。スペクトルのピークが、プローブボリューム内の風速の知覚可能な広がりを示していることを、確認することができる。プローブの全体にわたって空気の流れが完全に一様である場合は、すべての測定結果が、スペクトルのわずか1つまたは2つの「ビン」に位置するであろう。実際には、図3においては、約10個のビンが知覚可能な信号を含んでいる。
【0067】
視線風速が、あらかじめ定められたしきい値を超えるスペクトルのセントロイドを計算するアルゴリズムによって、図3のスペクトルから導き出される。当業者であれば、ピーク認識ルーチンなど、使用することができるいくつかのデータ分析技法の選択肢を、思いつくであろう。次いで、ドップラー周波数シフトが、変換係数λ/2、すなわち0.775ms−1/MHzによる乗算によって、速度へと変換される。この較正係数の抱えるドリフトは、長期間に及んで極めて僅かな程度である(<0.2%)。図3のような狭くて明確なスペクトルにおいては、ピーク認識プロセスによってもたらされる不正確さは、最小限である。空気の流れがより乱れているとき、より大きな誤差が予想されるが、それらは移動平均を計算することによって軽減可能である。
【0068】
図4は、図3に示した種類のスペクトル各々から導き出された多数の視線風速のデータ点を、十字で表わしている。風速データ点は、垂直から30°オフセットさせて毎秒1回転の速度で水平角方向に走査したビームを使用して取得されている。ビームは、その回転につれて種々の角度で風と交差し、空気の円板を巡る風速のマップが形成される。
【0069】
一様な風の流れにおいては、走査角度に対する視線ドップラー速度(VLOS)のプロットが、整流された正弦波の形状をとり、ピークのドップラー値が、風上向きおよび風下向きの測定に相当する。視線ドップラー速度は、走査角度(φ)の関数として、
【数1】
と記述することができ、ここで水平速度(u)および垂直速度(w)は、
u=a/sin30° (2a)
w=c/cos30° (2b)
によって与えられ、bは方位である。
【0070】
円錐走査から得られた視線速度データを、最少自乗和(LSS)回帰ルーチンを使用して上述の式に回帰させることで、水平および垂直方向の風速ならびに風向のデータを、約3秒の間隔で繰り返し取得することができる。
【0071】
方位について考えられる180°の曖昧さは、単純な風向計の読み取りを参照することで容易に解決できることに留意しなければならない。あるいは、ライダーを、例えばHarris(前出)に記載されている種類の音響光学変調器など、局部発振器を送信ビームに対して周波数シフトさせるための手段を備えることによって、方向検出機能を取り入れるように構成することが可能である。この後者の場合には、走査角度に対する視線ドップラー速度を、(整流されていない)正弦曲線に回帰させることができる。
【0072】
しかしながら、時折の偽の風速データ点(例えば、点40)がシステムによって取得されることが、現場での試行から明らかになっている。これらの点は、プローブボリュームを横切る固体物品(例えば、鳥、虫、など)からの反射、および/またはプローブボリュームから離れて位置した高度に散乱性の物体(例えば、固体運動ターゲット)から戻り光によって生じることが明らかになっている。これらのエラー点は、典型的には少数であるけれども、LSSデータ回帰を大きくゆがめ、得られる風速測定の不正確さのレベルを大いに高める。曲線42が、グラフに示されたすべてのデータ点へのLSSデータ回帰を示している。このようなエラーが回帰をゆがめ、このようなライダーシステムを使用する長期にわたる無人の風速測定の信頼性を下げていることを、確認することができる。
【0073】
取得された風速データにおけるこのエラーを少なくするため、最少自乗回帰ルーチンの出力が分析され、最もよく回帰した解から最も遠くに位置する点(「アウトライアー」)が特定される。それらの点の回帰からの偏差d=│Vdata−Vfit│が、LSS回帰ルーチンから取得され、以下のルールのうちの1つに従って疑わしいアウトライアーを除去するために使用することができる。
【0074】
(i)最悪のN個の点(すなわち、dの値が最も大きい点)を取り除く(ここでNは、1回の円錐走査当たりに取得される点の数よりもはるかに少ない数でなければならない)。例えば、74個のデータ点が取得される場合は、偏差が最大である2または3つの点を、データの組から取り除くことができる。すなわち、取り除かれる点の数を、特定の場所に合わせて最適化できる。
【0075】
(ii)d>n×σであるすべての点を取り除く。ここでσは、この回帰におけるすべてのdの値の標準偏差であり、nは、6または10などといった数である。採用されるnの値は、特定の場所および使用されるシステムに応じて決めることができ、経験によって最適化することができる。
【0076】
アウトライアーを取り除いた後、回帰ルーチンが繰り返され、風速データが、この第2の回帰の結果から計算される。曲線44が、アウトライアー点40が特定されて第2の回帰から除外された後の回帰を示している。偽のアウトライアーが存在しないことで無視できる程度の全体的バイアスが導入されることが予想され、実験的に示されている。演算負荷を最小限にするため、2段階の回帰プロセスが好ましいが、代案として3回以上のデータ回帰を実行し、例えば各回帰の後に1つのアウトライアーを除いてもよい。また、リアルタイムのデータ処理が好ましいが、分析をライダーシステムによって事前に取得されたデータを使用して「オフライン」で実行してもよいことを、当業者であれば理解できるであろう。
【0077】
上述の方法でアウトライアーを取り除くことで、時折の鳥や虫との相互作用によって影響されることがなく、あるいは装置の円錐走査経路内の物体の動きによって影響されることがないより弾力的な風速計がもたらされる。したがって、ライダーを、長期にわたる無人の風速の監視に使用することが可能である。
【0078】
ライダーシステムが、上述の種類の偽のエラーのほかに、ある種の天候において不正確なデータをもたらす可能性があることがわかっている。とくに、雲底が低くに存在すると、上方向きのライダーシステムの風速測定の精度に悪影響を及ぼすことがわかっている。
【0079】
図5を参照すると、上方向きのライダーシステムの送信および受信ビーム50が示されている。送信および受信ビームは、地面の上方の高さHaのあるプローブボリューム54に合焦されている。さらに、雲56が、地表面からの高さHcに存在している。ライダーの感度、散乱効率、および送信ビーム出力が、各々曲線58、曲線60、および曲線62によって、地表面からの高さの関数として示されている。
【0080】
プローブボリュームおよび雲からの散乱の量を、より定量的な方法で評価することも可能である。とくに、通常の大気からの全散乱(Sa)および雲からの全散乱(Sc)を、
【数2】
【数3】
として表現することができ、ここでhは、地表面からの高さであり、Δは、感度に3dB(すなわち、係数2)の低下をもたらす焦点からの高さの変化であり、βaおよびβcは、各々通常の大気および雲の散乱係数であり、IT(h)は、高さhを過ぎるときのビームの出力である。
【0081】
図6は、100mの高さに合焦させたシステムに関し、3つの異なる雲高さ(300m、400m、および500m)について、雲領域および雲下領域からの戻り信号の比を、雲対大気の散乱比の関数として示している。雲を貫く光について、50mの減衰長さを仮定した。図5に関して概説したとおり、雲下の大気領域からの戻り信号については、プローブボリュームからの戻り信号が支配的であることを思い出されたい。
【0082】
したがって、Sc/Sa<<1の値においては、エアロゾルからの戻りが支配的であり、雲からの寄与は無視できる。しかしながら、ある特定の状況において雲信号が受信される信号を支配することを、図6から確認することができる。換言すると、Sc/Sa比が1に近づくにつれ、雲信号が受信される信号を支配するという問題が、ますます深刻になる。
【0083】
図5および6は、ライダーがプローブボリュームから戻る信号に対して最も敏感であるが、雲がプローブボリュームからかなりの距離に位置しているにもかかわらず、強力な信号が雲から戻り来る可能性を示している。これは、ある特定の条件のもとで、(選択された高度における風速ではなく)雲の速度が戻り信号を支配するがために、測定される風速が不正確になりうることを意味している。この問題は、ライダーがそのレンジの上限に合焦され、雲底の下方の空気からのエアロゾル後方散乱が少なく、雲底が低い場合に最も深刻になることがわかっている。
【0084】
上述の種類のファイバに基づくライダーを使用する円錐走査の特定の点について取得されたドップラースペクトルに対する低い雲の覆いの影響が、図7に示されている。プローブボリュームからの後方散乱に起因するピーク70のほかに、雲からの強力な後方散乱による第2のピーク72が存在していることを、確認することができる。雲は、一般的には雲の付近の風よりも大きな速度で移動しているため、典型的には、第2のピークはより高い速度に位置する。しかしながら、さらに詳しく後述するように、常にそうなるわけではない。
【0085】
図3に関して上述した種類の自動回帰ルーチンは、第2のピーク72が存在する場合、たいていは誤った風速データを出力してしまう。例えば、第2のピーク72がスペクトルにおいて支配的である場合、回帰ルーチンは、単純に小さい方のピークを無視し、雲の運動の速度を示す出力データをもたらす可能性が高くなる。あるいは、2つのピークが類似した大きさである場合、回帰ルーチンは、典型的には、2つのピークについての「最良の回帰」曲線を見つけようと試み、プローブボリュームの風速と雲底の速度との間の何らかの風速値をもたらすであろう。どちらの場合も、大きくかつ未知であるエラーが、取得される風速データに持ち込まれることになる。無人のシステムの場合、そのようなエラーがいつ存在するのかが不明(すなわち、低い雲底の存在は、典型的には予測不可能に生じる)であり、したがって取得したデータに伴う不正確さの程度が不明である。
【0086】
これまでのところ、リアルタイムでの実際の雲の状況の観測に基づき、有意な雲からの戻り信号が発生したことを特定するため、気象状況が監視されている。あるいは、操作者が、例えば取得したドップラースペクトルを「2つのピーク」の存在についてチェックするなど、風スペクトルの特定の特徴を定期的に監視してもよい。手作業による技法は、容認できる結果をもたらすことができるが、操作者を(「現場」に、あるいは取得したデータをオフラインで分析するために)用意するコストは、ひどく高い。
【0087】
雲からの戻りに関連する問題を克服するために見出された1つの技法は、雲高計を使用して雲の高さを監視することである。図8を参照すると、レーザー雲高計82と上述の種類の風プロファイル測定用ファイバライダー84とを備える風速計80が示されている。雲高計82は、大気の後方散乱の測定を高度の関数としてもたらし、これが、ライダーの各測定について雲信号およびエアロゾル信号の相対強度を計算するために使用される。
【0088】
雲高計は公知であり、例えばVaisala(登録商標)CT25K(Vaisala Oyj、Helsinki、Finlandによって提供されている)、あるいはMesotech CBME40/80(Mesotech International Inc.、Sacramento、U.S.A.によって提供されている)など、いくつかのシステムが市販されている。これらのシステムは、上方向きのパルス状のレーザービームを大気へと送信し、飛行時間の情報を使用して、後方散乱を高度の関数として測定する。通常は、このようなシステムは、取得した後方散乱データを処理して雲の高さについての指標をもたらし、空港などの近傍で使用されている。しかしながら、このような装置によって測定された後方散乱プロファイルを直接抽出して、後述のように風速計の性能を向上させるために使用することができる。
【0089】
雲高計82が、ライダー84と同じ位置に配置され、後方散乱プロファイルの形式である雲高計82の出力が、分析のためにライダーシステムのコンピュータへと供給される。次いで、雲関連の問題の存在の可能性を評価するため、後方散乱プロファイルを使用して計算が実行される。換言すると、所与の合焦高度における高さの関数としてのライダー84の感度が、既知である。したがって、雲およびプローブボリュームからの戻り信号の相対強度を、式3aおよび3bならびに雲高計によって測定された後方散乱プロファイルを使用して、予測することができる。このような方法で、雲からの戻りによって影響された風速データを、取得したデータから取り除き、信頼できる風速測定結果のみを残すことができる。
【0090】
最も簡潔な構成においては、この計算の出力が、雲およびエアロゾルからの戻り信号の相対強度の指標であり、ここから、各々の特定の風速測定結果の妥当性における正確さのレベルを、割り当てることができる。多くの場合においては、単純な「0」(無効−雲からの信号が支配的)または「1」(有効−エアロゾルからの信号が支配的)が充分である。代案として、各々の風測定結果に伴う不正確さの指標を、割り当ててもよい。
【0091】
理想的には、空のうちの同じ区画が調査されるようにするため、雲高計がライダーと同じ円錐走査を実行する。しかしながら、走査なしの上向き雲高計に基づく評価が、典型的には充分な情報をもたらす。さらには、大部分の市販の雲高計システムが、約1μmのレーザー波長を使用して動作する一方で、上述のファイバライダーシステムが、1.55μmで動作する点に、留意すべきである。しかしながら、後方散乱プロファイルは、これら2つの波長において大きくは相違せず、相違が存在しても、適切な構成によって少なくすることが可能である。
【0092】
雲高計の使用は、大気の散乱プロファイルについて曖昧さのない指標をもたらすが、特定の風速測定結果に伴う不正確さの指標を確認するため、ライダーシステムによって得られたドップラースペクトルを分析できることも、明らかになっている。例えば、ドップラースペクトルを分析するために、より複雑なピーク検出技法を使用することができ、高速の雲関連の信号を、データから取り去ることができ、あるいは2つ以上のピークの存在によって、取得されたデータにおいて雲信号が支配的であると見られる旨を知らせるべく、上述の種類の単純な「0」符号を生じさせることができる。
【0093】
雲高計を使用する代わりに、コヒーレントライダーからのデータを、後方散乱プロファイルを割り出すために使用することができる。すでに概説した種類の合焦CWシステムについて、一様な散乱レベルの状況(すなわち、βが高さとともに変化しない)においては、全戻り信号出力が、ライダーの合焦レンジとは事実上無関係である。この近似は、レンジがビームウェストを生成できる最大値に近づいたときにのみ破綻する。したがって、高さの関数としての散乱の指標(すなわち、β)を、ライダーの焦点を変化させたときに観察される信号強度の変化から、評価することができる。したがって、コヒーレントライダーを、異なる高さから風速データの連続を得ることによって、大気の後方散乱プロファイルの指標、とりわけ戻り信号への雲からの寄与を割り出すように、構成することができる。さらに詳しく後述するように、雲底からの戻りも、ライダーのレンジ(例えば、焦点)を変化させたときに実質的に不変であるドップラーシフトを有している。
【0094】
後方散乱プロファイルを割り出すために必要とされるデータは、通常の風速測定動作の際に取得することができ、あるいは個別の後方散乱測定ルーチンを断続的に動作させて取得してもよい。いずれの場合も、戻り信号の全積分出力が、いくつかの異なる高さ(例えば、25m、50m、100m、200m、400m)において取得された一連のスペクトルから評価される。典型的には、そのようなデータの取得は、1分未満の時間しか要さず、必要であれば、適切な統計データを得るべく多数回繰り返すことができる。次いで、得られた戻り出力対高さを、高さについての計器関数の変動を考慮し、ライダーの空間感度曲線(計器関数)との逆重畳によって、後方散乱対高さのプロットに変換できる。
【0095】
この仕組みは、後方散乱が常に正確なレーザー波長にて評価され、測定が空間の最も適切な領域において(例えば、風の測定のためにライダーが走査される同じ円錐において)実行されるという利点を有している。しかしながら、空間分解能は、典型的には、雲高計などのパルス式システムを使用して得られる空間分解能よりも低い。
【0096】
上述のように、望ましくない天候条件のもとで、上方向きのライダーシステムのドップラー信号への寄与には、対象となる高さのプローブボリュームのエアロゾルからの戻り信号を汚染し、あるいは支配さえしてしまうような雲からの戻りが含まれうる。上述のように、「通常の」風プロファイル(すなわち、雲が下方の大気における風よりも高い速度を有している)の条件下では、これが風速を高く評価し過ぎることにつながりうる。測定される風速度における雲信号の影響の重大さは、雲の高さが低いと大きくなり、ライダーのレンジ設定が高くなると大きくなり、所望のプローブボリュームの高さにおいてエアロゾルの密度が低いと大きくなる。
【0097】
雲からの戻りの存在によって持ち込まれる風速の誤差を、そのような雲からの戻りの存在を確認し、その寄与を該当のドップラースペクトルから除去することによって、減らすことができることがわかっている。これは、雲からの戻りが、それらを所望のプローブボリュームにおけるエアロゾルからの戻りから区別できるようにするいくつかの特徴を有することが明らかになっているために、可能である。第1に、雲の速度は、通常は、雲下領域の風の速度よりも高い。さらに、雲からの戻りに関係するドップラーピークのスペクトル幅は、典型的には、雲下領域からの戻りに関係するピークよりも狭い。さらに、雲からの戻りに関係するドップラーピークの高さ(すなわち、戻り信号のピーク強度)が、ライダーのレンジ(すなわち、地面の上方のプローブボリュームの高さ)に明確に依存している一方で、そのようなピークのドップラーシフト(雲の速度に関係している)が、ライダーの合焦高さと実質的に無関係であることも、明らかになっている。
【0098】
図9から図11を参照すると、ライダーが低い雲底の存在下で運転されているときに持ち込まれる測定された風速における誤差を少なくするための技法が説明されている。
【0099】
図9は、地上設置の円錐走査モノスタティックライダーシステムによって20分間にわたって測定された水平方向の風速を示している。線100、102、104、106、および108が、各々300m、150m、100m、50m、および25mの高さにおいて測定された風速を示している。雲底は、これらの測定の継続時間の間、約300mの高さにあることが観測されていた。
【0100】
図3および図4に関して上述したように、各高さにおける各風速値は、走査円錐を巡る種々の点において複数のドップラースペクトル(図3に示した形式)を取得することによって割り出される。次いで、視線風速値が、所定のしきい値を上回る各スペクトルのセントロイドを計算することによって割り出される。スペクトルから抽出された視線速度値を、式(1)および(2)に記載した式へと回帰させることで、水平および垂直方向の風速成分を割り出すことができる。図9は、地面の上方のいくつかの高さについて、このような方法で計算された水平方向の風速成分を示しており、雲底からの戻りを補正する試みはなされていない。図9から、100m(線104)および150m(線102)において測定された風速が、300m(線100)において測定された風速にきわめて類似していることを、確認することができる。
【0101】
図10を参照すると、雲からの戻りによる汚染が風速測定結果にもたらす影響が示されており、そのような汚染を減じるための技法が説明されている。
【0102】
図10aは、150mの測定高さにおける一測定点についてのドップラースペクトルを示している。ドップラースペクトルが、プローブボリューム(すなわち、地面の上方150mの領域)からの戻り信号に対応する幅広いピーク110、および雲底(300mにある)からの戻りに起因して生じる鋭いピーク112を含んでいることを、確認することができる。所定のしきい値の上方のスペクトルのセントロイドを計算する(すなわち、図3に関して説明した技法を使用する)ことによって、図10aのドップラースペクトルから視線風速値を抽出すると、この低い雲底の例においては、150mの高さの所望のプローブボリュームにおける速度を正しく表わしてはいない風速値がもたらされることになる。換言すると、ドップラースペクトルの全体を使用して上述の方法で計算された風速は、低い雲底の存在下においては真の風速を表わすことができない。
【0103】
図10bを参照すると、地面の上方300mの高さの測定点についてのドップラースペクトルが、適切なしきい値工程の適用後について示されている。図10bのスペクトルは、図10aのスペクトルを得るために使用した走査角度と実質的に同じ走査角度において取得されている。図10bに示したスペクトルは、レーザー放射の雲からの後方散乱に起因して生じるただ1つの鋭いピーク114を含んでいる。図10aおよび10bから、図10bの雲ピーク114の高さ(すなわち、ピーク戻り強度)が、図10aの雲戻りピーク112の高さよりも大きいが、両方のピークのドップラーシフトがほぼ同一であることを、確認することができる。
【0104】
図10bのスペクトルが図10aのスペクトルから減算され、図10cに示す変更済みスペクトルが生み出される。図10bのスペクトルが、追加の雑音を変更済みスペクトルへと持ち込むことがないよう、減算工程に先立ってしきい値処理されることに、留意すべきである。視線風速が、所定のしきい値を上回るスペクトルのセントロイドを割り出すことによって、図10cのデータから計算される。図10cの修正済みデータから雲のピークが取り去られており、したがって計算される視線風速値がプローブボリューム(すなわち、地面の上方150m)における真の風速を反映することを、確認することができる。換言すると、風速の測定結果が、雲底からの戻りに起因する有害な影響を取り去るべく補正されている。
【0105】
図10に関して説明したデータ補正技法を、図9の25m、50m、100m、および150mの高さにおける風速データの計算元である視線ドップラースペクトルの各々について繰り返した。雲からの戻りから得られた(すなわち、300mの高さにおける)ドップラースペクトルを、補正プロセスに使用した。スペクトルから抽出された視線速度値を、式(1)および(2)に記載の式へと再び回帰させ、水平および垂直方向の風速成分の割り出しを可能にした。この視線速度の回帰プロセスにおいて、さらに上述のアウトライアー除去技法を適用したことに、留意すべきである。
【0106】
図11が、25m(線128)、50m(線126)、100m(線124)、および150m(線122)の高さにおける「補正済み」の水平方向の風速成分、ならびに300m(線100)における雲速度データを示している。
【0107】
高度による風速の変化が、測定時の実際の風のプロファイルをよりよく描写していることを、図11から確認することができる。とくに、図9において見られた高い高度の風速測定結果(例えば、100m、150m、および300m)の「集まり(bunching)」が、取り除かれている。したがって、この方法は、雲が雲底の下方の風よりも高い速度で移動しているという前提に依拠せずに、風速測定結果から雲の影響を取り除いている。
【0108】
上述の方法のいくつかの変形が、いまや当業者にとって明らかであろう。例えば、
(i)ライダーを、対象とする最大高さ(約150m)における測定の後に、追加の高さ(例えば、300m)においてドップラースペクトルを取得するように構成し、
(ii)(走査を巡る)各方位角について、300mのスペクトルから150mのスペクトルを減算して、雲底からの戻り(存在する場合)に起因する大きな正の成分を有するスペクトルを生成し、
(iii)雲によって占められているビンを特定するため、適切なしきい値処理を加え、
(iv)150m(および、より低い高度)のスペクトルにおいて、雲によって占められているビンに相当するすべてのビンを拒絶することによって、雲成分を取り除き、
(v)この補正済みのスペクトルについてセントロイドの計算を実行し、上述のとおりデータの回帰を行って視線速度値を割り出す
ことが可能であろう。
【0109】
本明細書に含まれた教示を考慮することで、当業者であれば、雲底がライダー風速測定に及ぼす影響を軽減するため、上述の技法に対して適用することができる種々の変更および代案となる方法を、さらに理解できるであろう。
【0110】
上述のデータ分析技法が、上方向きのライダーシステム以外にも適用可能であることに、留意すべきである。これらの技法は、任意の向きの風速測定ライダーシステムに適用可能である。さらに、ドップラースペクトルの処理を、(例えば、ライダーを制御するコンピュータによって)リアルタイムで実行してもよく、あるいは事前に記録されたデータを使用してオフラインで実行してもよいことに、留意すべきである。
【0111】
図12を参照すると、風力タービン92のナセルに取り付けられた風速用ドップラーライダー90が示されている。ライダー90は、向い風の速度の測定を提供するため、タービンのブレードによって掃引される領域を通過して風上へと向けられている。異なる風速成分を測定するため、ライダー90を走査することができ、例えば円錐走査を実行することができる。このような向い風の速度の測定は、タービンの制御のために使用可能であり、あるいは突風による破損からタービンを保護すべく突風警報をもたらすために使用可能である。
【0112】
ライダー90から得られる風速データの信頼性も、上方向きのシステムの場合と同様、誤った風速データ点に悩まされる可能性がある。とくには、固体の物体(鳥、虫、飛行機、など)が、ライダーの視野を横切って移動し、たとえプローブボリュームから長い距離にあっても、強力な戻り信号をもたらす可能性がある。したがって、「アウトライアー」データ点を除去する図4に関して上述した技法は、水平方向に向けられたライダーシステムへと適用される場合も、やはり好都合である。タービンに取り付けられたライダーシステムの場合には、このような技法が、タービンのブレードによる光の反射、風力発電地帯のほかのタービンのブレードからの反射、あるいはライダーの出力光学系に雨滴や塵埃がないようにするために使用されるワイパーシステムからの反射によって生み出されるあらゆる偽のデータ点を取り除くことができるため、とくに好都合である。
【0113】
さらに、低い雲底に関連する諸問題は、水平方向に向けられたシステムにおいてはあまり問題にならない傾向にあるが、霧峰または煙の雲が、類似のエラーを引き起こす可能性がある。そのような場合、雲高計または上述の雲底補正技法を用意することが、やはり好都合であることがわかっている。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】風速用ドップラーライダーの動作の基本原理を説明している。
【図2】動作中の上方向きの円錐走査の風ライダーシステムの概略図を示している。
【図3】円錐走査の1つの位置において取得された典型的なドップラー信号スペクトルを示しており、ここから視線風速値を抽出することができる。
【図4】円錐走査の風速用ドップラーライダーから得られた典型的な風速データを角度の関数として、すべてのデータ点を使用して計算したLSSデータ回帰曲線および選択された一部のデータ点を使用して計算したLSSデータ回帰曲線とともに示している。
【図5】ライダーの感度および低い雲底の後方散乱強度を示している。
【図6】プローブボリュームにおけるエアロゾル散乱からの戻り信号および雲底からの戻り信号の相対出力を示している。
【図7】低い雲底の存在下において風速用ドップラーライダーによって取得される典型的な戻り信号を示している。
【図8】雲高計を取り入れてなる風ライダーシステムの概略図である。
【図9】20分の期間にわたってライダーによって測定された風速データを高度の関数として示している。
【図10a】風速測定結果における雲底による汚染の影響を説明している。
【図10b】風速測定結果における雲底による汚染の影響を説明している。
【図10c】風速測定結果における雲底による汚染の影響を説明している。
【図11】雲底の後方散乱の影響について補正を行った風速測定結果を示している。
【図12】向い風の速度を測定することができるよう風上に向けられて風力タービンに取り付けられた風速用ドップラーライダーを示している。
【符号の説明】
【0115】
2 コヒーレントライダー装置
4 レーザビーム
6、54 プローブボリューム
8 エアロゾル
20 地上設置ライダー
22 円錐走査
24 垂直軸
50 受信ビーム
56 雲
80 風速計
82 雲高計
84、90 ライダー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
・光のビームを遠隔プローブボリュームへと合焦させるための送信器と、
・後方散乱光を検出するための受信器と、
・前記検出された後方散乱光の周波数のドップラーシフトから、前記遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するための分析器と、
を備える、大気の風速測定のためのコヒーレント・レーザー・レーダー装置であって、
分析器が、検出された後方散乱光において遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分の存在について監視を行うように構成され、および/または計算した風速がそのようなドップラー周波数成分について補正されていることを保証するように構成されていることを特徴とする、装置。
【請求項2】
送信器が、可変合焦機構を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
複数の測定遠隔プローブボリュームにおいて順次に風速を測定するように構成されており、前記複数の測定遠隔プローブボリュームの各々が、第1のレンジ限界よりも小さいレンジにある、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
送信器が、光のビームを少なくとも1つの基準遠隔プローブボリュームへと合焦させるようにさらに構成されており、前記少なくとも1つの基準遠隔プローブボリュームが、前記第1のレンジ限界よりも大きいレンジにある、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
送信器が、前記少なくとも1つの基準遠隔プローブボリュームへと合焦されているときに検出された後方散乱光のドップラー周波数の特徴が、前記複数の測定遠隔プローブボリュームの各々における風速の計算の際に、分析器によって使用される、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
分析器が、前記測定遠隔プローブボリュームおよび基準プローブボリュームの各々における各々の測定について、検出された後方散乱光の強度をドップラーシフト周波数の関数として備えるドップラースペクトルを生成するように構成されており、風速の計算が、測定ドップラースペクトルの各々から少なくとも1つの基準ドップラースペクトルを減算することを備える、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
分析器が、検出された後方散乱光のドップラーシフト周波数の関数としての強度を、2つ以上の個別の強度ピークの存在について監視するように構成されている、請求項1から6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
2つ以上の個別の強度ピークが存在する場合に、該当の遠隔プローブボリュームにおける風速が、より低いドップラーシフト周波数にある強度ピークから決定される、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
大気の後方散乱断面をレンジの関数として測定するための大気後方散乱プロファイラをさらに備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
分析器が、大気後方散乱プロファイラによって測定された後方散乱プロファイルを取り入れ、前記プロファイルを使用して、計算した風速が検出された後方散乱光において遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分について補正されていることを保証するように構成されている、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
送信器によって送信される光のビームを遠隔プローブボリューム内で走査するため、走査手段が設けられている、請求項1から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
分析器が、遠隔プローブボリューム内の複数の既知の走査位置について、視線風速値を割り出し、該遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を、前記複数の視線風速値を所定の関数に回帰させることによって計算するように構成されている、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
分析器が、計算した視線風速値の各々が、検出された後方散乱光において遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分について補正されていることを保証するように構成されている、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
分析器が、走査の際に取得された1つ以上の視線風速値を、前記少なくとも1つの風速成分の計算から除外するように構成されている、請求項12または13に記載の装置。
【請求項15】
使用時に、受信ビームの焦点が送信ビームの焦点に一致するように配置される、請求項1から14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
装置がモノスタティックである、請求項1から15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
受信器によって集められる後方散乱光が、検出に先立って送信器の光源から抽出された局部発振器信号と混合される、請求項1から16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
少なくとも1片の光ファイバを備える、請求項1から17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
地上に設置され上方に向けられて動作するように構成されている、請求項1から18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
(i)コヒーレント・レーザー・レーダー装置によって遠隔プローブボリュームから取得されたドップラー周波数データを取り入れるステップと、
(ii)コヒーレント・レーザー・レーダー装置の前記遠隔プローブボリュームにおける風速を、ドップラー周波数データから計算するステップと、
を備える、大気の風速を計算するための方法であって、
ステップ(ii)が、
遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分の存在について、前記ドップラー周波数データを監視し、および/または計算した風速がそのようなドップラー周波数成分について補正されていることを保証するステップを備えることを特徴とする、方法。
【請求項21】
前記ドップラー周波数データが、複数の遠隔プローブボリュームから取得された複数のドップラースペクトルを備える、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記複数のドップラースペクトルが、第1のレンジ限界よりも小さいレンジにある1つ以上の測定遠隔プローブボリュームから取得された第1組のドップラースペクトル、および前記第1のレンジ限界よりも大きいレンジにある1つ以上の遠隔プローブボリュームから取得された第2組のドップラースペクトルを備える、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ステップ(ii)が、前記第1組のドップラースペクトルの各々から計算される風速が雲からの後方散乱に起因して生じるドップラー周波数成分について補正されていることを保証するために、前記第2組のドップラースペクトルを使用するステップを備える、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記風速の計算が、前記第2組のドップラースペクトルを前記第1組のドップラースペクトルの各々から減算すステップを備える、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
コヒーレント・レーザー・レーダー装置の近傍に位置する大気後方散乱プロファイラによって測定された後方散乱プロファイルを取り入れて、該後方散乱プロファイルを、遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分の存在について前記ドップラー周波数データを監視するために使用するステップをさらに備える、請求項20から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記ドップラー周波数データが、各々の遠隔プローブボリュームから取得された複数のドップラースペクトルを備えており、前記複数のドップラースペクトルの各々が、前記遠隔プローブボリューム内の既知の走査位置から取得されている、請求項20から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
視線速度値が、前記遠隔プローブ内の各走査位置の各ドップラースペクトルから計算され、遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップが、前記視線速度値の少なくともいくつかを所定の関数に回帰させるステップを備える、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を計算するステップにおいて使用されるべく選択された少なくともいくつかの視線速度値が、最初の回帰からの偏差が所定の量よりも小さい視線速度値を備える、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
少なくとも遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を計算するステップにおいて使用されるべく選択された視線速度値が、最初の回帰からの偏差が最も大きいN個の視線速度値を除外しており、Nが1以上かつ視線速度値の数よりも小さい所定の整数である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
ドップラー周波数データが、検出された後方散乱光の強度をドップラーシフトの関数として備えており、遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップが、前記データを異なるドップラー周波数に位置する2つ以上の個別のピークの存在について分析することを備えており、遠隔プローブボリュームにおける視線風速が、より低いドップラーシフト周波数にあるピークから決定される、請求項20から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
ステップ(i)が、少なくとも1つの遠隔プローブボリュームからドップラー周波数データを取得するためにコヒーレント・レーザー・レーダー装置を使用するステップを備える、請求項20から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
請求項20から31のいずれか一項に記載の方法を実行するためのコンピュータプログラム。
【請求項33】
請求項20から31のいずれか一項に記載の方法を実行するために適したコンピュータプログラムを機械で読み取ることができる形式で備える、コンピュータプログラムキャリヤ。
【請求項34】
請求項20から31のいずれか一項に記載の方法を実行するために適切にプログラムされたコンピュータ。
【請求項35】
(i)光のビームを遠隔プローブボリュームへと合焦させるステップと、
(ii)後方散乱光を検出するステップと、
(iii)検出された後方散乱光の周波数のドップラーシフトから、前記遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップと、
を備える、コヒーレント・レーザー・レーダーの動作方法であって、
ステップ(iii)が、検出された後方散乱光において遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分の存在について監視し、および/または計算した風速がそのようなドップラー周波数成分について補正されていることを保証するステップを備えることを特徴とする、方法。
【請求項1】
・光のビームを遠隔プローブボリュームへと合焦させるための送信器と、
・後方散乱光を検出するための受信器と、
・前記検出された後方散乱光の周波数のドップラーシフトから、前記遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するための分析器と、
を備える、大気の風速測定のためのコヒーレント・レーザー・レーダー装置であって、
分析器が、検出された後方散乱光において遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分の存在について監視を行うように構成され、および/または計算した風速がそのようなドップラー周波数成分について補正されていることを保証するように構成されていることを特徴とする、装置。
【請求項2】
送信器が、可変合焦機構を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
複数の測定遠隔プローブボリュームにおいて順次に風速を測定するように構成されており、前記複数の測定遠隔プローブボリュームの各々が、第1のレンジ限界よりも小さいレンジにある、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
送信器が、光のビームを少なくとも1つの基準遠隔プローブボリュームへと合焦させるようにさらに構成されており、前記少なくとも1つの基準遠隔プローブボリュームが、前記第1のレンジ限界よりも大きいレンジにある、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
送信器が、前記少なくとも1つの基準遠隔プローブボリュームへと合焦されているときに検出された後方散乱光のドップラー周波数の特徴が、前記複数の測定遠隔プローブボリュームの各々における風速の計算の際に、分析器によって使用される、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
分析器が、前記測定遠隔プローブボリュームおよび基準プローブボリュームの各々における各々の測定について、検出された後方散乱光の強度をドップラーシフト周波数の関数として備えるドップラースペクトルを生成するように構成されており、風速の計算が、測定ドップラースペクトルの各々から少なくとも1つの基準ドップラースペクトルを減算することを備える、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
分析器が、検出された後方散乱光のドップラーシフト周波数の関数としての強度を、2つ以上の個別の強度ピークの存在について監視するように構成されている、請求項1から6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
2つ以上の個別の強度ピークが存在する場合に、該当の遠隔プローブボリュームにおける風速が、より低いドップラーシフト周波数にある強度ピークから決定される、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
大気の後方散乱断面をレンジの関数として測定するための大気後方散乱プロファイラをさらに備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
分析器が、大気後方散乱プロファイラによって測定された後方散乱プロファイルを取り入れ、前記プロファイルを使用して、計算した風速が検出された後方散乱光において遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分について補正されていることを保証するように構成されている、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
送信器によって送信される光のビームを遠隔プローブボリューム内で走査するため、走査手段が設けられている、請求項1から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
分析器が、遠隔プローブボリューム内の複数の既知の走査位置について、視線風速値を割り出し、該遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を、前記複数の視線風速値を所定の関数に回帰させることによって計算するように構成されている、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
分析器が、計算した視線風速値の各々が、検出された後方散乱光において遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分について補正されていることを保証するように構成されている、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
分析器が、走査の際に取得された1つ以上の視線風速値を、前記少なくとも1つの風速成分の計算から除外するように構成されている、請求項12または13に記載の装置。
【請求項15】
使用時に、受信ビームの焦点が送信ビームの焦点に一致するように配置される、請求項1から14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
装置がモノスタティックである、請求項1から15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
受信器によって集められる後方散乱光が、検出に先立って送信器の光源から抽出された局部発振器信号と混合される、請求項1から16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
少なくとも1片の光ファイバを備える、請求項1から17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
地上に設置され上方に向けられて動作するように構成されている、請求項1から18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
(i)コヒーレント・レーザー・レーダー装置によって遠隔プローブボリュームから取得されたドップラー周波数データを取り入れるステップと、
(ii)コヒーレント・レーザー・レーダー装置の前記遠隔プローブボリュームにおける風速を、ドップラー周波数データから計算するステップと、
を備える、大気の風速を計算するための方法であって、
ステップ(ii)が、
遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分の存在について、前記ドップラー周波数データを監視し、および/または計算した風速がそのようなドップラー周波数成分について補正されていることを保証するステップを備えることを特徴とする、方法。
【請求項21】
前記ドップラー周波数データが、複数の遠隔プローブボリュームから取得された複数のドップラースペクトルを備える、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記複数のドップラースペクトルが、第1のレンジ限界よりも小さいレンジにある1つ以上の測定遠隔プローブボリュームから取得された第1組のドップラースペクトル、および前記第1のレンジ限界よりも大きいレンジにある1つ以上の遠隔プローブボリュームから取得された第2組のドップラースペクトルを備える、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ステップ(ii)が、前記第1組のドップラースペクトルの各々から計算される風速が雲からの後方散乱に起因して生じるドップラー周波数成分について補正されていることを保証するために、前記第2組のドップラースペクトルを使用するステップを備える、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記風速の計算が、前記第2組のドップラースペクトルを前記第1組のドップラースペクトルの各々から減算すステップを備える、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
コヒーレント・レーザー・レーダー装置の近傍に位置する大気後方散乱プロファイラによって測定された後方散乱プロファイルを取り入れて、該後方散乱プロファイルを、遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分の存在について前記ドップラー周波数データを監視するために使用するステップをさらに備える、請求項20から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記ドップラー周波数データが、各々の遠隔プローブボリュームから取得された複数のドップラースペクトルを備えており、前記複数のドップラースペクトルの各々が、前記遠隔プローブボリューム内の既知の走査位置から取得されている、請求項20から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
視線速度値が、前記遠隔プローブ内の各走査位置の各ドップラースペクトルから計算され、遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップが、前記視線速度値の少なくともいくつかを所定の関数に回帰させるステップを備える、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を計算するステップにおいて使用されるべく選択された少なくともいくつかの視線速度値が、最初の回帰からの偏差が所定の量よりも小さい視線速度値を備える、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
少なくとも遠隔プローブボリュームにおける少なくとも1つの風速成分を計算するステップにおいて使用されるべく選択された視線速度値が、最初の回帰からの偏差が最も大きいN個の視線速度値を除外しており、Nが1以上かつ視線速度値の数よりも小さい所定の整数である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
ドップラー周波数データが、検出された後方散乱光の強度をドップラーシフトの関数として備えており、遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップが、前記データを異なるドップラー周波数に位置する2つ以上の個別のピークの存在について分析することを備えており、遠隔プローブボリュームにおける視線風速が、より低いドップラーシフト周波数にあるピークから決定される、請求項20から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
ステップ(i)が、少なくとも1つの遠隔プローブボリュームからドップラー周波数データを取得するためにコヒーレント・レーザー・レーダー装置を使用するステップを備える、請求項20から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
請求項20から31のいずれか一項に記載の方法を実行するためのコンピュータプログラム。
【請求項33】
請求項20から31のいずれか一項に記載の方法を実行するために適したコンピュータプログラムを機械で読み取ることができる形式で備える、コンピュータプログラムキャリヤ。
【請求項34】
請求項20から31のいずれか一項に記載の方法を実行するために適切にプログラムされたコンピュータ。
【請求項35】
(i)光のビームを遠隔プローブボリュームへと合焦させるステップと、
(ii)後方散乱光を検出するステップと、
(iii)検出された後方散乱光の周波数のドップラーシフトから、前記遠隔プローブボリュームにおける風速を計算するステップと、
を備える、コヒーレント・レーザー・レーダーの動作方法であって、
ステップ(iii)が、検出された後方散乱光において遠隔プローブボリュームのレンジよりも大きいレンジに位置する雲による後方散乱から生じるドップラー周波数成分の存在について監視し、および/または計算した風速がそのようなドップラー周波数成分について補正されていることを保証するステップを備えることを特徴とする、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2007−538245(P2007−538245A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517417(P2007−517417)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【国際出願番号】PCT/GB2005/001943
【国際公開番号】WO2005/114253
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(501352882)キネテイツク・リミテツド (93)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【国際出願番号】PCT/GB2005/001943
【国際公開番号】WO2005/114253
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(501352882)キネテイツク・リミテツド (93)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]