説明

レーザー加工用フィルム

【課題】加工精度に優れ、加工面の品質向上が可能なレーザー加工用フィルムを提供する。
【解決手段】レーザー光による熱加工に用いられるレーザー加工用フィルムであって、熱分解の際に吸熱反応を生じる添加剤、好ましくは水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ドーソナイト、2水和石膏、水酸化カルシウム等の金属水酸化物からなる難燃剤を、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等の高分子材料100重量部に対し50重量部以上配合することからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光の熱加工による切断に用いられるレーザー加工用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスティックフィルムを切断する方法としては、刃物や金型の使用が主流であった。しかし、刃物等を用いた切断加工では、切断時の衝撃によりプラスティックフィルムから異物が発生するという問題があった。また、切断面で生じる欠け等の異物が脱落するため、切断面の品質が悪いという問題があった。この為、プラスティックフィルムの切断の際の異物の発生の低減及び加工精度の向上の必要性があった。
【0003】
異物の発生を低減させる方法としては、例えば、下記特許文献1に開示されている透明複合シートの製造方法が挙げられる。この公報によれば、繊維布及び熱硬化系の透明樹脂で構成される透明複合シートを切断した後、その切断面を樹脂でコートすることにより、ゴミの発生が抑制可能であることが記載されている。また、透明複合シートの切断方法として、レーザー光の適用が可能であることも開示されている。
【0004】
しかし、前記の方法であると、切断面を樹脂でコートする工程が必要となり、工程数の増加による生産効率の低下を招来する。また、レーザー光を用いた切断であると、レーザー光の熱吸収による発熱に起因して切断面が溶融状態となり、切断面に盛り上がりが形成される。その結果、切断品質が低下するという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2006−219569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、加工精度に優れ、加工面の品質向上が可能なレーザー加工用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく、レーザー加工用フィルムについて検討した。その結果、レーザー加工用フィルムの構成成分の一つに難燃剤を用いることで前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明に係るレーザー加工用フィルムは、前記の課題を解決する為に、レーザー光による熱加工に用いられるレーザー加工用フィルムであって、熱分解の際に吸熱反応を生じる添加剤を含有する高分子材料からなることを特徴とする。
【0009】
高分子材料に対しレーザー光を照射すると、高分子材料がレーザー光のエネルギーを吸収して、その表面温度が急速に上昇し、その融点又は沸点に達して相変化が起こる。このときの発熱により、加工面に熱的ダメージを与えて熱溶融状態となり、その加工精度の低下を招来する。本発明のレーザー加工用フィルムは熱分解の際に吸熱反応を生じる添加剤を含有するため、この添加剤の作用によりレーザー光の照射による発熱を吸収する。これにより、熱加工後の加工面に於いて溶融状態が抑制され、熱ダレの低減が可能になる。その結果、加工面での加工精度の向上が図れる。
【0010】
前記添加剤が金属水酸化物からなる難燃剤であることが好ましい。金属水酸化物からなる難燃剤は、レーザー光の照射による高熱下で吸熱脱水反応を起こすことにより吸熱し、かつ、水分子を放出するので、熱加工後の加工面の温度を低下させ、その結果、加工面での溶融状態を抑制することができる。
【0011】
前記添加剤の含有量が、高分子材料100重量部に対し50重量部以上であることが好ましい。難燃剤の含有量を前記数値範囲内にすることにより、熱ダレの発生を一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、前記に説明した手段により、以下に述べるような効果を奏する。
【0013】
即ち、本発明のレーザー加工用フィルムは難燃剤を含有する高分子材料からなり、レーザー光の照射により生じる発熱を前記難燃剤が吸熱反応により抑制するので、加工面での溶融状態を抑制し、これにより熱ダレの発生を低減する。その結果、加工面の加工精度及び加工品質の向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態に係るレーザー加工用フィルムについて説明する。レーザー加工用フィルムは、熱分解の際に吸熱反応を生じる添加剤を含む高分子材料からなる。
【0015】
前記添加剤としては金属水酸化物からなる難燃剤が好ましい。また、前記金属水酸化物としては特に限定されず、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ドーソナイト、アルミン酸化カルシウム、2水和石膏、水酸化カルシウム等が挙げられる。これらの金属水酸化物のうち、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムが好ましい。これらの金属水酸化物は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。2種類以上の金属水酸化物を併用する場合、各々の金属水酸化物が異なる温度で吸熱脱水反応(分解脱水反応)を開始するので、より高い難燃効果が得られる。その結果、加工面の品質を一層向上させることができる。
【0016】
前記添加剤の含有量は、高分子材料100重量部に対し10重量部以上であることが好ましく、50〜100重量部であることがより好ましい。10重量部未満であると、添加剤の熱分解による吸熱反応が切断面での温度を十分に低下させることができず、熱ダレが生じる場合がある。
【0017】
前記高分子材料としては特に限定されず、従来公知の種々のものを採用することができる。具体的には、例えば、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂や、充填剤を含むポリエチレン系、ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。
【0018】
レーザー加工用フィルムの厚みとしては特に限定されず、適宜必要に応じて設定され得る。
【0019】
また、レーザー加工用フィルムは、単層でもよく、また2以上の層が積層された複層であってもよい。複層の場合は、各層に前記添加剤が含有されていることが好ましい。
【0020】
レーザー加工用フィルムのレーザー加工は、例えば吸着ステージの吸着板上に固定して行われる。所定のレーザー発振器より出力されるレーザー光をレンズにて集光し、レーザー加工用フィルム上に照射する。照射と共に、レーザー照射位置を所定の加工ライン上に沿って移動させ、所定の加工を行う。レーザー加工は、具体的には、切断加工、孔あけ加工、マーキング、溝加工、スクライビング加工、又はトリミング加工等の形状加工である。
【0021】
本発明のレーザー加工用フィルムのレーザー加工に用いられるレーザー光としては特に限定されず、従来公知の種々のものを採用することができる。例えば、ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザー、XeClエキシマレーザー、YAGレーザーの第3高調波若しくは第4高調波、YLF若しくはYVOの固体レーザーの第3高調波若しくは第4高調波、Ti:Sレーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザー又は炭酸ガスレーザー等を使用することができる。これらのレーザー光のうち、発振波長9.3mm又は10.6mmの炭酸ガスレーザーなどは、赤外吸収を利用した発熱現象によるエッチングを可能にし、また高出力による生産性向上の点で特に好ましい。
【0022】
レーザーの加工条件は、レーザー加工用フィルムの種類等に応じて適宜設定され得る。例えば、切断加工の場合、その切断速度はレーザー加工用フィルムの物性に応じて適宜設定され得る。本発明はレーザー光を用いた加工である為、従来の刃物や金型による切断加工と比べて切断速度を速くすることができる。
【0023】
レーザー光の集光径は、レーザー加工用フィルムに施す加工の種類に応じて適宜設定され得る。切断加工の場合、集光径を調節することにより切断幅の制御が可能になる。集光径(切断幅)は、通常50〜500μmが好ましく、100〜300μmがより好ましい。集光径が50μm未満であると、切断速度が小さくなる場合がある。その一方、500μmを超えると、レーザー加工用フィルムからの製品取り出し効率が低下する場合がある。
【0024】
レーザー光のパワー密度は、レーザー加工用フィルムの物性、切断加工の場合にはその切断速度に応じて適宜設定され得る。レーザー加工用フィルムの光吸収率はレーザー光の波長に左右される。レーザー光は発振媒体や結晶を選択することで紫外線から近赤外線まで波長を発振できる。従って、レーザー加工用フィルムの光吸収波長に合わせたレーザー光を使用することにより、低いパワー密度で効率よく加工できる。前記添加剤を含有したレーザー加工用フィルムの場合、50〜700Wが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明について実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
本実施例1では、レーザー加工用フィルムとして、難燃剤である水酸化マグネシウムを10重量部添加したポリプロピレンフィルム(厚さ900μm)を用いた。
【0027】
次に、下記条件下で、ポリプロピレンフィルムのレーザー光による切断加工を行った。結果を下記表1に示す。
【0028】
[レーザー光の照射条件]
使用したレーザー光照射装置は以下の通りである。
【0029】
レーザー光源:炭酸ガスレーザー
レーザー波長:10.6mm
スポット径:150μm
走査速度:6m/min
パワー:40W
【0030】
(実施例2〜5)
実施例2〜5においては、レーザー加工用フィルムに添加する難燃剤の添加量を下記表1に示す通りに変更したこと以外は、前記実施例1と同様にしてレーザー光による切断加工を行った。結果を下記表1に示す。
【0031】
(結果)
下記表1から明らかな通り、難燃剤の添加により熱ダレの発生を防止し、切断面の加工精度の向上が可能であることが確認された。特に、難燃剤が50、70、100重量部の場合、熱ダレ量の発生を一層抑制することができ、極めて良好な切断品質を示すことが確認された。
【0032】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光による熱加工に用いられるレーザー加工用フィルムであって、熱分解の際に吸熱反応を生じる添加剤を含有する高分子材料からなることを特徴とするレーザー加工用フィルム。
【請求項2】
前記添加剤が金属水酸化物からなる難燃剤であることを特徴とする請求項1に記載のレーザー加工用フィルム。
【請求項3】
前記添加剤の含有量が、高分子材料100重量部に対し50重量部以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザー加工用フィルム。

【公開番号】特開2009−167321(P2009−167321A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8243(P2008−8243)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】