説明

レーザー加工装置

【課題】加工中においてもレーザー光の光軸位置を測定でき、レーザー光による加工を安定して行うことが可能なレーザー加工装置を提供する。
【解決手段】レーザー光を照射してワークに加工を施すレーザー加工装置10であって、レーザー光を発振するレーザー発振器11と、レーザー光を反射してレーザ光の進行方向を変更するミラー部材21、22、23、24と、レーザー光のビーム径を調整するレンズ部材15、17と、レーザー光の進行方向を変更するレーザー光制御部30と、レーザー光が通過するレーザー経路の周囲に配設された複数の温度センサからなる測温ユニット40と、測温ユニット40に備えられた複数の温度センサの測定値から、レーザー経路におけるレーザー光の光軸位置を検出する光軸位置検出手段51と、を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光をワークに照射し、ワークに対して加工を施すレーザー加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前述のレーザー加工装置としては、例えば特許文献1、2に開示されているように、レーザー光を発振するレーザー発振器と、レーザー発振器から発振されたレーザー光を反射させてレーザー光の進路を変更するミラー部材と、レーザー光のビーム径を調整するレンズ部材と、ワークに対してレーザー光を照射する加工ヘッドと、を備えたものが提供されている。
【0003】
このようなレーザー加工装置においては、レーザー発振器から加工ヘッドまでレーザー光を伝送させる必要がある。そこで、レーザー加工を安定して行うためには、レーザー光が通過するレーザー経路において、レーザー光の光軸が適正な位置となるように、ミラー部材、レンズ部材等の位置を調整する必要がある。
従来、レーザー光の光軸位置を確認する場合には、レーザー光が通過するレーザー経路に石膏ボードや耐火煉瓦等を配設し、この石膏ボードや耐火煉瓦等にレーザー光を照射し、焼き付き、燃焼及び赤熱位置等を確認していた。このようにしてレーザー光の光軸位置を確認し、光軸位置にズレが認められた場合には、ミラー部材やレンズ部材の位置を調整し、再度、石膏ボードや耐火煉瓦等によって光軸位置の確認を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−256477号公報
【特許文献2】特開平02−150085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述のように石膏ボードや耐火煉瓦等を用いて光軸位置を確認する作業においては、レーザー加工を停止した状態でしか行うことができない。このため、レーザー加工を実施している間に発生する光軸位置の変動については全く対応できず、ワークに不良等が発生した後でなければ光軸位置の変動を検知することができなかった。よって、長時間にわたってワークを安定して加工することは困難であった。
【0006】
また、ミラー部材やレンズ部材の位置の調整を行った後に、再度、石膏ボードや耐火煉瓦等によって光軸位置の確認を行うことになるため、光軸位置の調整作業及び確認作業に多くの労力が必要となる。また、光軸位置の調整作業及び確認作業が煩雑であるため、専門知識を得た技術者のみしか実施することができないといった問題があった。
さらに、石膏ボードや耐火煉瓦等にレーザー光を照射し、焼き付き、燃焼及び赤熱位置を確認することから、レーザー加工装置内において、ミスト、ゴミ、煙等が発生することになり、これらミスト、ゴミ、煙等がレンズ部材やミラー部材等に付着してしまい、レンズ部材やミラー部材の部材が劣化してしまうおそれがあった。
【0007】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであって、加工中においてもレーザー光の光軸位置を測定でき、レーザー光による加工を安定して行うことが可能なレーザー加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、本発明に係るレーザー加工装置は、レーザー光を照射してワークに加工を施すレーザー加工装置であって、前記レーザー光を発振するレーザー発振器と、前記レーザー光を反射してレーザ光の進行方向を変更するミラー部材と、前記レーザー光のビーム径を調整するレンズ部材と、通過するレーザー光の進行方向を変更するレーザー光制御部と、前記レーザー光が通過するレーザー経路の周囲に配設された複数の温度センサからなる測温ユニットと、前記測温ユニットに備えられた複数の温度センサの測定値から、前記レーザー経路における前記レーザー光の光軸位置を検出する光軸位置検出手段と、を備えていることを特徴としている。
【0009】
この構成のレーザー加工装置によれば、レーザー光が通過するレーザー経路の周囲に複数の温度センサが配設されてなる測温ユニットと、この測温ユニットに備えられた複数の温度センサの測定値から、前記レーザー経路におけるレーザー光の光軸位置を検出する光軸位置検出手段と、を備えているので、レーザー加工を実施している状態でも、レーザー光の光軸位置を検出することができる。すなわち、測温ユニットが配設されたレーザー経路においてレーザー光の光軸位置に変動が生じた場合、レーザー光の光軸が近接する位置では温度が上昇し、レーザー光の光軸が離間する位置では温度が低下することになる。よって、複数の温度センサの温度変化を解析することによって、レーザー光の光軸位置の変動を検出することが可能となるのである。また、この測温ユニットにおいては、レーザー経路の周囲に複数の温度センサが配設されているので、レーザー光の進行を妨げることがなく、レーザー加工に影響を与えることがない。
【0010】
ここで、前記測温ユニットが、前記レーザー光制御部の前記レーザー光の入口と出口とに、それぞれ配設されていることが好ましい。
レーザー光制御部は、レーザー光の進行方向を変化させ、レーザー光を加工ヘッド側に伝送するか否かを制御するものである。このレーザー光制御部に対してレーザー光が入射する際に光軸位置が変動していた場合には、上述の制御を精度良く行うことができなくなってしまう。また、レーザー光制御部から放出されるレーザー光の方向によって、レーザー光を加工ヘッド側に伝送するか否かが制御されることから、レーザー光が適正方向に偏向されていることを確認することが重要となる。よって、レーザー光制御部のレーザー光の入口と出口とに測温ユニットを配設することによって、レーザー光を精度良く制御することが可能となり、レーザー加工を安定して行うことができる。
また、前記レーザー光の入口と出口とでそれぞれ光軸位置を検出することにより、レーザー光制御部に対するレーザー光の進行方向を確認することができる。
【0011】
前記ミラー部材及び前記レンズ部材の少なくとも一方に、前記測温ユニットが配設されていることが好ましい。
この場合、レーザー光が反射されるミラー部材やレーザー光が透過されるレンズ部材においても、光軸位置の変化を検出することが可能となり、例えば、レーザー発振器から加工ヘッドまでの距離が長くてもレーザー光を安定してワークに照射することが可能となり、加工品質をさらに向上させることができる。
【0012】
また、前記測温ユニットにおいては、前記温度センサが、前記レーザー経路の上下左右にそれぞれ配設されていることが好ましい。
この場合、レーザー光の光軸位置の変動を、上下方向と左右方向とで検出することが可能となる。よって、光軸位置の変動を、簡単にかつ精度良く検出することができる。
【0013】
さらに、前記ミラー部材、前記レンズ部材および前記レーザー光制御部のうち前記測温ユニットが取り付けられた部材は、温度調整装置によって一定温度に温度調整されていることが好ましい。
これは、レーザー光のエネルギー密度が高く、局所的であるという特徴によるものである。温度センサに近い位置にビームがある場合、ビームのエネルギーが強大であるため、ビームのエネルギーにより温度が極端に上昇する。一方、温度センサから遠い位置にビームがある場合は、測温データにはほとんど影響を及ぼさず、調節された温度で安定する。
温調する場合の温度範囲はT=10〜50℃の範囲内であることが望ましい。Tが低すぎると、多大なエネルギーを要して経済的でなく、また温調部への結露等による悪影響が懸念される。Tが高すぎると、やはり経済的に不利であり、またレーザー入射位置が温度センサに近づいた場合と遠ざかった場合との温度差が小さくなり、レーザー位置の同定精度が落ちることになる。
温度調節の手法については、特に限定はなく、例えば水、油等の液体や気体等の流体を利用したものや、電気的手法を利用したものであってもよい。
【0014】
さらに、前記光軸位置検出手段によって検出された前記レーザー光の光軸位置に基づいて、前記ミラー部材を移動させ、光軸位置の調整を行う光軸位置調整手段を備えていることが好ましい。
光軸位置検出手段によって前記レーザー光の光軸位置の変動が確認された場合には、そのレーザー経路の前段側(レーザー発振器側)のミラー部材の位置、角度を調整することによって、レーザー光の光軸位置を所定の位置に修正させることが可能となる。そこで、光軸位置調整手段を備えることによって、レーザー加工中において、光軸位置の検出のみでなく、光軸位置の調整も行うことができ、レーザー加工をさらに安定して行うことが可能となる。
【0015】
また、前記測温ユニットに備えられた複数の温度センサの測定値から、前記レーザー光のビーム径を検出するビーム径検出手段を備えていることが好ましい。
レーザー光のビーム径が大きくなった場合には、レーザー経路の周囲に配設された温度センサの全てにレーザー光が近接していくことになり、全ての温度センサで温度上昇が観測されることになる。一方、レーザー光のビーム径が小さくなった場合には、レーザー経路の周囲に配設された温度センサの全てからレーザー光が離間していくことになり、全ての温度センサで温度降下が観測されることになる。このようにして、測温ユニットによってレーザー光のビーム径を検出することが可能となる。
【0016】
さらに、前記ビーム径検出手段によって検出された前記レーザー光のビーム径に基づいて、前記レンズ部材を制御し、ビーム径の調整を行うビーム径調整手段を備えていることが好ましい。
この場合、レンズ部材を制御することによってビーム径を調整することができる。また、レーザー加工中において、ビーム径の検出のみでなく、ビーム径の調整も行うことができ、レーザー加工をさらに安定して行うことが可能となる。
【0017】
また、前記測温ユニットの測定値に基づいて、前記測温ユニットが配設された部材の交換時期を判断する寿命判断手段を備えていることが好ましい。
レーザー光制御部、ミラー部材及びレンズ部材等が劣化した場合、その部材自体の温度が上昇することになる。そこで、測温ユニットによる温度データが一定の閾値を超えた場合には、その部材が劣化したと判断することが可能となる。このように、寿命判断手段によって部材の交換時期を判断することにより、突発的な故障を防止することができ、レーザー加工をさらに安定して行うことができる。
【0018】
さらに、前記レーザー光制御部の前記レーザー光の入口と出口とに設けられた前記測温ユニットによって前記レーザー光の光軸位置を検出し、前記レーザー光の入口と出口の光軸位置からレーザー光の進行方向を算出し、前記ミラー部材及び前記レーザー光制御部を移動させて、前記レーザー光の進行方向を調整するレーザー光進行方向調整手段を備えていることが好ましい。
この場合、レーザー光進行方向調整手段によって、レーザー光制御部に対するレーザー光の進行方向が調整されるので、レーザー光制御部においてレーザー光の制御を精度良く行うことができ、加工品質を大幅に向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、加工中においてもレーザー光の光軸位置を測定でき、レーザー光による加工を安定して行うことが可能なレーザー加工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態であるレーザー加工装置の説明図である。
【図2】測温ユニットの説明図である。
【図3】図2に示す測温ユニットによる光軸位置の検出方法を示す説明図である。
【図4】制御器による光軸位置及びレーザー光進行方向の調整作業の一例を示すフロー図である。
【図5】実施例において使用されたレーザー制御部の斜視説明図である。
【図6】実施例における測温ユニットの説明図である。
【図7】実施例1の光軸位置(測定点)を示す図である。
【図8】実施例1の測温結果を示すグラフである。
【図9】実施例2の光軸位置(測定点)を示す図である。
【図10】実施例2の測温結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態について添付した図面を参照して説明する。
本実施形態であるレーザー加工装置10は、例えば円筒状のなすスリーブ印刷版において、その外周面に凸版を形成する際に用いられるものである。
図1に示すレーザー加工装置10は、赤外線領域の波長のレーザー光を発振するレーザー発振器11と、このレーザー発振器11から発振されたレーザ光を遮断するシャッター部12と、レーザ光を反射してレーザー光の進路を変更する第1ミラー部材21と、レーザー光のビーム径を縮小させるコンパウンダー15と、ビーム径が縮小されたレーザー光を反射してレーザー光の進路を変更する第2ミラー部材22と、屈折率を変化させて通過するレーザー光の進行方向を変更するレーザー光制御部30と、レーザー光制御部30を通過したレーザー光を反射してレーザー光の進路を変更する第3ミラー部材23と、レーザー光のビーム径を拡大するエクスパウンダー17と、ビーム径が拡大されたレーザー光を反射してレーザー光の進路を変更する第4ミラー部材24と、レーザー光をワークWに対して照射する加工ヘッド18と、を備えている。
【0022】
レーザー発振器11は、炭酸ガスが充填された光共振器を備えており、この光共振器内の光を炭酸ガス中において誘導放出によって増幅し、レーザー光を発振する構成とされている。この炭酸ガスを用いたレーザー発振器11からは、波長が10.6μm程度の赤外線領域のレーザー光が発振されることになる。なお、このレーザー発振器11は、安定してレーザー光を発振するために、常時、レーザー光を発振した状態とされている。
【0023】
シャッター部材12は、レーザー発振器11から発振されるレーザー光を遮断するように移動可能とされている。このシャッター部材12がレーザー光の経路上に移動されると、レーザー光が、シャッター部材12によって反射されてビーム吸収器13へと照射されるように構成されている。ビーム吸収器13は、照射されたレーザー光のエネルギーを熱に変換し、冷却することによって吸収するものである。
【0024】
第1ミラー部材21は、レーザー発振器11から発振されたレーザー光を反射して、レーザー光をコンパウンダー15へと伝送する。なお、この第1ミラー部材21には、位置及び角度を調整する駆動部21aが設けられている。
コンパウンダー15は、レーザー光の進行方向に対して複数のレンズが積層するように配設されており、レーザー光のビーム径を縮小するものである。なお、本実施形態では、約20mmのビーム径を約5mmまで縮小する構成とされている。
第2ミラー部材22は、コンパウンダー15を通過したレーザー光を反射して、レーザー光をレーザー光制御部30へと伝送する。なお、この第2ミラー部材22には、位置及び角度を調整する駆動部22aが設けられている。
【0025】
レーザー光制御部30は、音響波によって屈折率を変化させて通過するレーザー光の進行方向を変更することができ、かつ、レーザー光の強度を変調可能な音響光学素子(Acosto−Optic Modurator:AOM/Acosto−Optic Deflector:AOD)を備えている。
このレーザー光制御部30では、レーザー光の進行方向を偏向させることによって、レーザー光による加工のON/OFF制御を行う。また、レーザー光の強度を変調させて、レーザー光によるワークWの加工深さを調整することになる。
さらに、このレーザー光制御部30は、回転移動可能な回転駆動テーブル31を備えている。また、レーザー光制御部30の内部には水路(図示なし)が設けられており、この水路に通す水の温度を所定温度(例えば21℃)に保持するための温度調整装置32が設けられている。
【0026】
第3ミラー部材23は、レーザー光制御部30を通過したレーザー光を反射するものである。ここで、レーザー光制御部30においてレーザー光が偏向された場合、図1の点線で示すように、第3ミラー部材23に反射されたレーザー光は、ビーム吸収器16へと照射されるように構成されている。一方、レーザー光制御部30においてレーザー光が偏向されない場合には、図1の実線で示すように、レーザー光はエクスパウンダー17へと伝送される。なお、この第3ミラー部材23には、位置及び角度を調整する駆動部23aが設けられている。
【0027】
エクスパウンダー17は、レーザー光の進行方向に対して複数のレンズが積層するように配設されており、レーザー光のビーム径を拡大するものである。なお、本実施形態では、約5mmのビーム径を約20mmまで拡大する構成とされている。
第4ミラー部材24は、エクスパウンダー17を通過したレーザー光を反射して、レーザー光を加工ヘッド18へと伝送する。なお、この第4ミラー部材24には、位置及び角度を調整する駆動部24aが設けられている。
加工ヘッド18は、ワークWに対してレーザー光を照射して、ワークWの加工を行うものである。
【0028】
そして、本実施形態においては、レーザー光制御部30のレーザー光の入口及び出口に、測温ユニット40(40A、40B)がそれぞれ配設されている。この測温ユニット40(40A、40B)は、図2に示すように、レーザー光制御部30のレーザー光の入口(出口)の上部に第1温度センサ41(41A、41B)が、下部に第2温度センサ42(42A、42B)が、右側に第3温度センサ43(43A、43B)が、左側に第4温度センサ44(44A、44B)が、それぞれ配設されて構成されている。ここで、レーザー光の光軸が位置すべき基準位置の上下に一対の温度センサ(第1温度センサ41、第2温度センサ42)が設けられ、前記基準位置の左右に一対の温度センサ(第3温度センサ43、第4温度センサ44)が配設されているのである。
【0029】
測温ユニット40A、40Bは、光軸位置を検出するとともにレーザー光のビーム径を検出する検出部51と、この検出結果に基づいて第1ミラー部材21、第2ミラー部材22の位置、角度、及び、コンパウンダー15の調整を行う調整部52と、を備えた制御器50に接続されている。また、調整部52は、レーザー光制御部30に設けられた回転駆動テーブル31の制御を行う構成とされている。
【0030】
ここで、本実施形態である測温ユニット40では、第1温度センサ41、第2温度センサ42、第3温度センサ43及び第4温度センサ44の4つの温度センサによって、レーザー光の光軸位置を検出することになる。
例えば、図3において、光軸が、基準位置(中心O)から(+X,+Y)の位置に変動した場合、レーザー光の光軸が近接する第1温度センサ41及び第3温度センサ43によって測定される温度が上昇し、レーザー光の光軸が離間する第2温度センサ42及び第4温度センサ44によって測定される温度が降下することになる。
光軸が、基準位置(中心O)から(+X,−Y)の位置に変動した場合、レーザー光の光軸が近接する第2温度センサ42及び第3温度センサ43によって測定される温度が上昇し、レーザー光の光軸が離間する第1温度センサ41及び第4温度センサ44によって測定される温度が降下することになる。
光軸が、基準位置(中心O)から(−X,−Y)の位置に変動した場合、レーザー光の光軸が近接する第2温度センサ42及び第4温度センサ44によって測定される温度が上昇し、レーザー光の光軸が離間する第1温度センサ41及び第3温度センサ43によって測定される温度が降下することになる。
光軸が、基準位置(中心O)から(−X,+Y)の位置に変動した場合、レーザー光の光軸が近接する第1温度センサ41及び第4温度センサ44によって測定される温度が上昇し、レーザー光の光軸が離間する第2温度センサ42及び第3温度センサ43によって測定される温度が降下することになる。
【0031】
さらに、それぞれの温度センサ(第1温度センサ41、第2温度センサ42、第3温度センサ43及び第4温度センサ44)の温度上昇、温度降下の度合いから、光軸位置を把握することが可能となる。
ここで、本実施形態では、レーザー光制御部30に、温度を所定温度(例えば21℃)に保持するための温度調整装置32が設けられているので、レーザー光の光軸が離間する温度センサによって測定される温度は、温度調整装置32によって保持される所定温度(例えば21℃)に収束することになる。よって、この所定温度を基準として前記温度センサ(第1温度センサ41、第2温度センサ42、第3温度センサ43及び第4温度センサ44)の温度上昇度合いから、光軸位置を正確に把握することができるのである。
【0032】
このようにして、測温ユニット40A、40B及び検出部51によって光軸位置が基準位置からズレたことを検出した場合には、調整部52から第2ミラー部材22、第1ミラー部材21の駆動部22a、21aに対して制御信号を発信し、これら第2ミラー部材22、第1ミラー部材21の位置、角度を変更して、光軸位置を調整することになる。
【0033】
さらに、本実施形態では、レーザー光制御部30のレーザー光の入口及び出口にそれぞれ測温ユニット40A、40Bが配設されていることから、それぞれの測温ユニット40A、40Bで検出された光軸位置から、レーザー光制御部30に対するレーザー光の進行方向を算出することが可能となる。そして、レーザー光の進行方向にズレが生じていた場合には、調整部52から第2ミラー部材22、第1ミラー部材21の駆動部22a、21a及び回転駆動テーブル31に対して制御信号を発信し、これら第2ミラー部材22、第1ミラー部材21の位置、角度、レーザー光制御部30の角度を調整し、レーザー光制御部30に対するレーザー光の進行方向を調整することになる。
【0034】
ここで、図4のフロー図を用いて、調整部52が行うレーザー光の光軸位置及びレーザー光の進行方向の調整作業について説明する。
レーザー光制御部30のレーザー光の入口側の測温ユニット40Aによって光軸位置を検出する(S1)。ここで、光軸位置が所定位置からずれていた場合には、第2ミラー部材22の駆動部22aに対して制御信号を発信し、第2ミラー部材22の位置、角度を変更して光軸位置を調整する(S2)。そして、再度、測温ユニット40Aによって光軸位置を検出する(S1)。測温ユニット40Aによって検出される光軸位置が所定位置に調整されたことが確認されたら、レーザー光の出口側の測温ユニット40Bによって光軸位置を検出する(S3)。光軸位置にズレが生じていた場合には、回転駆動テーブル31に対して制御信号を発信し、レーザー光制御部30を回転移動させる(S4)。そして、再度、レーザー光の入口側の測温ユニット40Aによって光軸位置を検出する(S1)。これらの作業を繰り返すことによって、レーザー光制御部30に対するレーザー光の進行方向及び光軸位置が調整されることになる。
【0035】
また、光軸位置が基準位置に調整された状態で、ビーム径が拡大した場合には、第1温度センサ41、第2温度センサ42、第3温度センサ43及び第4温度センサ44の測温データが全て上昇することになる。一方、ビーム径が縮小した場合には、第1温度センサ41、第2温度センサ42、第3温度センサ43及び第4温度センサ44の測温データが全て降下することになる。このようにして、レーザー光のビーム径を検出することが可能となる。
そして、ビーム径を検出し、ビーム径が基準値から変動していた場合には、コンパウンダー15を調整し、ビーム径の調整を行うことになる。
【0036】
さらに、第1温度センサ41、第2温度センサ42、第3温度センサ43及び第4温度センサ44の測温データが、ある閾値を超えるように上昇した場合には、この測温ユニット40が配設されたレーザー光制御部30が劣化したと判断される。すなわち、前述の検出部51においては、このレーザー光制御部30の寿命を判断することが可能である。
【0037】
また、レーザー光制御部30の前段側(レーザー発振器11側)には、レーザー光の一部を反射するとともに残りのレーザー光を透過する部分反射板61と、この部分反射板61で反射された反射光の強度を測定する強度測定部62が設けられている。この強度測定部62は、制御器50の検出部51に接続され、調整部52からレーザー発振器11に対して、レーザー出力を調整する制御信号を発信する構成とされている。
【0038】
以上のような構成とされた本実施形態であるレーザー加工装置10によれば、レーザー光が通過するレーザー経路の周囲に、複数の温度センサ(第1温度センサ41、第2温度センサ42、第3温度センサ43及び第4温度センサ44)が配設されてなる測温ユニット40と、この測温ユニット40の測定値からレーザー経路におけるレーザー光の光軸位置を検出する検出部51と、を備えているので、レーザー光の進行を妨げることなく、レーザー加工を実施している状態でも、レーザー光の光軸位置を検出することができる。
【0039】
また、この測温ユニット40が、レーザー光制御部30のレーザー光の入口と出口とにそれぞれ配設されているので、レーザー光制御部30に対するレーザー光の光軸位置が安定することになり、また、レーザー光制御部30に対するレーザー光の進行方向についても検出及び調整を行うことが可能である。よって、レーザー光制御部30におけるレーザー光の制御(偏向/変調)を精度良く行うことができ、ワークWの加工を安定して行うことができる。
【0040】
また、測温ユニット40においては、レーザー経路の上部に第1温度センサ41が、下部に第2温度センサ42が、右側に第3温度センサ43が、左側に第4温度センサ44が、それぞれ配設されて構成されているので、レーザー光の光軸位置を、直交座標上で表現することが可能となる。
また、検出部51によって検出されたレーザー光の光軸位置に基づいて、第2ミラー部材22、第1ミラー部材21の位置、角度を変更して光軸位置を調整する調整部52を備えているので、レーザー加工中において、光軸位置の検出のみでなく、光軸位置の調整を行うことができ、レーザー加工をさらに安定して行うことが可能となる。
【0041】
また、検出部51においては、測温ユニット40の複数の温度センサ(第1温度センサ41、第2温度センサ42、第3温度センサ43及び第4温度センサ44)の測定値から、レーザー光のビーム径を検出することができる。
さらに、検出部51で検出されたレーザー光のビーム径に基づいて、コンパウンダー15の制御を行ってビーム径を調整する調整部52を備えているので、レーザー加工中にビーム径が変動した場合でも、ビーム径を制御でき、レーザー加工をさらに安定して行うことが可能となる。
【0042】
また、検出部51においては、測温ユニット40の複数の温度センサ(第1温度センサ41、第2温度センサ42、第3温度センサ43及び第4温度センサ44)の測定値から、測温ユニット40が配設された部材(本実施形態では、レーザー光制御部30)の劣化を判断することが可能な構成とされているので、加工中の突発的な故障を防止することができ、レーザー加工を安定して行うことができる。
【0043】
さらに、本実施形態では、レーザー光制御部30の前段側(レーザー発振器11側)に、レーザー光の一部を反射するとともに残りのレーザー光を透過する部分反射板61と、この部分反射板61で反射された反射光の強度を測定する強度測定部62が設けられているので、ワークWの加工中においてもレーザー光の強度を測定することができる。また、測定されたレーザー光の強度に基づいてレーザー発振器11の出力を調整する構成とされていることから、レーザー光制御部30へと入射されるレーザー光の強度を安定させることができ、ワークWの加工を安定して行うことができる。
【0044】
また、本実施形態においては、レーザー光制御部の温度を所定値(例えば21℃)に保持するための温度調整装置32が設けられているので、測温ユニット40においてレーザー光が離間した位置の温度センサの測定値が、所定値(例えば21℃)に収束することになる。このため、温度センサの測温データから光軸位置を精度良く算出することができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、レーザー光制御部に測温ユニットを配設したものとして説明したが、これに限定されることはなく、ミラー部材や、コンパウンダー及びエクスパウンダー等のレンズ部材に、測温ユニットを配設してもよい。この場合、レーザー光が反射されるミラー部材やレーザー光が透過されるレンズ部材においても、光軸位置の変化を検出することが可能となり、例えば、レーザー発振器から加工ヘッドまでの距離が長くてもレーザー光を安定してワークに照射することが可能となり、加工品質をさらに向上させることができる。
【0046】
さらに、レーザー光制御部の前段側(レーザー発振器側)に、レーザー光の一部を反射するとともに残りのレーザー光を透過する部分反射板と、この部分反射板で反射された反射光の強度を測定する強度測定部と、を備えたものとして説明したが、これら部分反射板及び強度測定部を備えていなくてもよい。
また、ミラー部材の数、レンズ部材の数、レーザー発振器の配置等は、本実施形態に限定されることはなく、適宜設計変更することが可能である。
【0047】
また、本実施形態では、レーザー光制御部30に測温ユニット40を配設し、制御器50の調整部52によって、第1ミラー部材21、第2ミラー部材22、回転駆動テーブル31、コンパウンダー15を制御するものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の箇所に測温ユニット40を配設して、制御器50の調整部52によって、例えば第3ミラー部材23、第4ミラー部材24及びエクスパウンダー17等を制御するものとしてもよい。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明のレーザー加工装置によって、レーザー光の光軸位置を検出する方法について具体的に説明する。
この実施例においては、図5に示すレーザー光制御部130(AOM)の入側部分に、測温ユニット140を配設し、この測温ユニット140を用いてレーザー光の光軸位置を検出した。
【0049】
このレーザー光制御部130は、図5に示すように、幅Wが50mm、奥行Lが70mm、高さHが30mmの箱型をなしている。さらにレーザ光制御部130は、より高い精度でのレーザー光の位置検出を行う必要があることから、内部に水路133が設けられており、この水路133に対して冷却水を供給することにより、その温度を21±0.5℃の範囲に調整可能な構成とした。
【0050】
そして、このレーザー光制御部130のレーザー光入側に、幅W2が30mm、高さH2が10mmの矩形状をなす入射窓部145が備えられた測温ユニット140を配設した。ここで、この測定ユニット140に、図6に示すように、入射窓部145の中心位置Oの上方に位置する第1温度センサ141、中心位置Oの下方側に位置する第2温度センサ142、中心位置Oの幅方向一方側(図6において右側)に位置する第3温度センサ143、中心位置Oの幅方向他方側(図6において左側)に位置する第4温度センサ144、をそれぞれ配設した。なお、本実施例では、これらの第1、第2、第3、第4温度センサ141、142、143、144は、入射窓部145の周縁からそれぞれ5mm離間した位置に配設した。
【0051】
実施例1として、図7に示すように、中心位置Oに沿って幅方向にレーザー光の光軸位置を変化させて、第1、第2、第3、第4温度センサ141、142、143、144の測温データを採取した。測温結果を表1及び図8に示す。なお、表1においては、中心位置Oを中心として、幅方向をX方向(幅方向一方側を+、他方側を−)、上下方向をY方向(上方向を+、下方向を−)として、測定点を直交座標で表した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、全ての測定点において第1温度センサ141、第2温度センサ142の温度データは同一であった。これは、レーザー光の光軸位置が中心位置Oに沿って幅方向に移動していることから、各測定点において、光軸位置と第1温度センサ141との距離、及び、光軸位置と第2温度センサ142と距離が同一であるためである。
一方、第3温度センサ143、第4温度センサ144については、レーザー光の光軸が近接すると、急激に温度が上昇するように、測定点毎に変化した。
【0054】
次に、実施例2として、図9に示すように、中心位置Oよりも上方位置に沿って幅方向にレーザー光の光軸位置を変化させて、第1、第2、第3、第4温度センサ141、142、143、144の測温データを採取した。測温結果を表2及び図10に示す。なお、表2においては、中心位置Oを中心として、幅方向をX方向(幅方向一方側を+、他方側を−)、上下方向をY方向(上方向を+、下方向を−)として、測定点を直交座標で表した。
【0055】
【表2】

【0056】
表2に示すように、全ての測定点において、光軸から離間していた第2温度センサ142では、21℃で一定であった。一方、光軸に近接していた第1温度センサ141では、幅方向に移動することで測温データが大きく変化した。
また、幅方向に配設された第3温度センサ143、第4温度センサ144については、レーザー光の光軸が近接すると、急激に温度が上昇するように、測定点毎に変化した。
【0057】
これら実施例1、2の測温結果から、第1、第2、第3、第4温度センサ141、142、143、144の測温データからレーザー光の光軸位置を推定可能であることが確認された。
実機にて利用する場合には、レーザー光の通過孔を格子状に区画しておき、光軸位置の座標データと第1、第2、第3、第4温度センサ141、142、143、144の測温データとの関係を予めデータベース化しておくことで、連続稼働中であってもレーザー光の光軸位置を精度良く推定することが可能となる。
【0058】
なお、測温ユニット140の周辺温度が変化すると、光軸位置の座標データと第1、第2、第3、第4温度センサ141、142、143、144の測温データとの関係が変化することになるので、レーザー光制御部130等の温調を精度良く行う必要がある。あるいは、測温ユニット140の周辺温度に対応するように、複数のデータベースを予め準備しておいてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 レーザー加工装置
11 レーザー発振器
15 コンパウンダー(レンズ部材)
17 エクスパウンダー(レンズ部材)
21 第1ミラー部材(ミラー部材)
22 第2ミラー部材(ミラー部材)
23 第3ミラー部材(ミラー部材)
24 第4ミラー部材(ミラー部材)
30、130 レーザー光制御部
31 回転駆動テーブル
40、40A、40B、140 測温ユニット
41、41A、41B、141 第1温度センサ(温度センサ)
42、42A、42B、142 第2温度センサ(温度センサ)
43、43A、43B、143 第3温度センサ(温度センサ)
44、44A、44B、144 第4温度センサ(温度センサ)
51 検出部(光軸位置検出手段/ビーム径検出手段/寿命判断手段)
52 調整部(光軸位置調整手段/ビーム径調整手段/レーザー光進行方向調整手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を照射してワークに加工を施すレーザー加工装置であって、
前記レーザー光を発振するレーザー発振器と、
前記レーザー光を反射してレーザ光の進行方向を変更するミラー部材と、
前記レーザー光のビーム径を調整するレンズ部材と、
通過するレーザー光の進行方向を変更するレーザー光制御部と、
前記レーザー光が通過するレーザー経路の周囲に配設された複数の温度センサからなる測温ユニットと、
前記測温ユニットに備えられた複数の温度センサの測定値から、前記レーザー経路における前記レーザー光の光軸位置を検出する光軸位置検出手段と、
を備えていることを特徴とするレーザー加工装置。
【請求項2】
前記測温ユニットが、前記レーザー光制御部の前記レーザー光の入口と出口とに、それぞれ配設されていることを特徴とする請求項1に記載のレーザー加工装置。
【請求項3】
前記ミラー部材及び前記レンズ部材の少なくとも一方に、前記測温ユニットが配設されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザー加工装置。
【請求項4】
前記測温ユニットにおいては、前記温度センサが、前記レーザー経路の上下左右にそれぞれ配設されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のレーザー加工装置。
【請求項5】
前記ミラー部材、前記レンズ部材および前記レーザー光制御部のうち前記測温ユニットが取り付けられた部材は、温度調整装置によって一定温度に温度調整されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のレーザー加工装置。
【請求項6】
前記光軸位置検出手段によって検出された前記レーザー光の光軸位置に基づいて、前記ミラー部材を移動させ、光軸位置の調整を行う光軸位置調整手段を備えていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のレーザー加工装置。
【請求項7】
前記測温ユニットに備えられた複数の温度センサの測定値から、前記レーザー光のビーム径を検出するビーム径検出手段を備えていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のレーザー加工装置。
【請求項8】
前記ビーム径検出手段によって検出された前記レーザー光のビーム径に基づいて、前記レンズ部材を制御し、ビーム径の調整を行うビーム径調整手段を備えていることを特徴とする請求項7に記載のレーザー加工装置。
【請求項9】
前記測温ユニットの測定値に基づいて、前記測定ユニットが配設された部材の交換時期を判断する寿命判断手段を備えていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のレーザー加工装置。
【請求項10】
前記レーザー光制御部の前記レーザー光の入口と出口とに設けられた前記測温ユニットによって前記レーザー光の光軸位置を検出し、前記レーザー光の入口と出口の光軸位置からレーザー光の進行方向を算出し、前記ミラー部材及び前記レーザー光制御部を移動させて、前記レーザー光の進行方向を調整するレーザー光進行方向調整手段を備えていることを特徴とする請求項2から請求項9のいずれか一項に記載のレーザー加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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