説明

レーザー加工装置

【課題】加工進行方向に直交する方向にもレーザービームを走査させる必要がある被加工領域へのレーザー加工時間を従来よりも短縮する。
【解決手段】ワーク1を被加工領域5の長手方向に沿って移動させながら、被加工領域5の下面にレーザービームを照射してワーク1の機能層3を除去する装置において、ガルバノミラー34による集光点位置の移動速度をワーク1の移動速度よりも高速にするとともに、レーザービームの集光点位置の移動軌跡を加工進行方向X1における移動距離が割り出し方向Yにおける移動距離よりも長くなるように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー加工装置に係り、特に、太陽電池モジュール等のガラス基板上に機能層を有するワークに加工を施すレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池パネルは、太陽電池膜をカバーガラスと呼ばれるガラス基板上に積層して太陽電池モジュールを形成し、この太陽電池モジュールの裏面側である太陽電池膜側に太陽電池モジュールを覆うように接着シートを介して裏面カバーシートを接着し、さらに裏面カバーシートの外縁を覆うように太陽電池モジュールを封止するシール材が設けられた構造が知られている。ガラス基板に積層される太陽電池膜は、透明電極膜、半導体膜、金属電極膜等の複数の膜が積層されて構成されている。また、このような太陽電池パネルの製造工程においては、太陽電池モジュールを得た後に、ガラス基板から太陽電池膜の外縁をレーザー加工等の手段で除去し、ガラス基板における太陽電池膜の積層面側の外縁にシール材の付け代を形成することが行われている(特許文献1)。このシール材の付け代をガラス基板の片面である太陽電池膜の積層面に形成することにより、ガラス基板の表面側にシール材を回り込ませる必要がなくなり、外観性や受光量が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3727877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザー加工により太陽電池膜を除去して上記付け代を形成する場合には、付け代に対応する太陽電池膜が除去される被加工領域の長手方向を加工進行方向としてレーザービームを照射する。しかしながらこの場合の被加工領域は、レーザービームを加工進行方向に沿って直線的に走査させても十分に加工されない幅を有している。そこで従来では、レーザービームを加工進行方向に沿って走査しながら幅方向に繰り返し往復走査する動作を組み合わせて集光点位置の移動軌跡をジグザグ状にすることにより、幅方向もカバーして被加工領域全体を加工する方式が採用されている。しかしながらこのような方式でレーザービームを照射すると、集光点位置の軌跡を方向転換させるための加減速の回数が多くなって加工時間が長くなり、生産性が低減するといった不満があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、レーザービーム照射による加工時間を従来よりも短縮することができて生産性の向上が図られるレーザー加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレーザー加工装置は、ガラス基板に機能層が積層されたワークを保持する保持テーブルと、該保持テーブルに保持されたワークにレーザービームを照射するレーザービーム照射ユニットと、該保持テーブルと該レーザービーム照射ユニットとを相対的に加工進行方向へ移動させる移動機構と、を有するレーザー加工装置であって、前記保持テーブルは、ワーク外縁よりも小さい上面でワークのガラス基板を下側から支持することによって、ワーク外縁に位置する加工すべき被加工領域のガラス基板の下面を露出させるワーク保持部と、該ワーク保持部を鉛直方向を回転軸として回転させるワーク保持部回転機構と、を有し、前記被加工領域は、前記加工進行方向における長さが該加工進行方向に直交する割り出し方向における長さよりも長く、前記レーザービーム照射ユニットは、レーザービームを発振する発振器と、該発振器から発振されたレーザービームを、前記被加工領域に向けて集光し、該被加工領域の前記機能層を前記ガラス基板から除去する集光レンズと、前記移動機構によって前記保持テーブルと該レーザービーム照射ユニットとが相対的に移動している際に、前記集光レンズの集光点位置を前記加工進行方向と前記割り出し方向とに該移動機構の移動速度よりも高速に移動させる集光点移動機構と、該集光点移動機構による前記集光点位置の移動軌跡を、前記加工進行方向における移動距離が前記割り出し方向における移動距離よりも長くなるように設定する制御部と、を有することを特徴とする。
【0007】
本発明のレーザー加工装置によると、保持テーブルに保持したワークに対し、保持テーブルとレーザービーム照射ユニットとを相対的に加工進行方向に移動させながらレーザービーム照射ユニットからレーザービームを照射して被加工領域に集光させることにより、該被加工領域の機能層がレーザー加工によりガラス基板から除去される。本発明では、レーザービームの加工進行方向に沿った方向への走査と加工進行方向に直交する割り出し方向への走査との組み合わせで被加工領域の全域がレーザー加工されるものであって、制御部により、レーザービームの集光点位置の移動軌跡を、加工進行方向における移動距離が割り出し方向における移動距離よりも長くなるように設定される。
【0008】
本発明で言う移動軌跡とは、図15の矢印aで示すように、被加工領域に対するレーザービームの集光点位置を集光点移動機構によって移動させる際に、1回の加減速を行うことによって被加工領域に連続する集光点によって描かれる1本の直線状の軌跡を言う。このような移動軌跡aにおいては、加工進行方向X1の成分xと、割り出し方向Yの成分yとに分解した際のこれら成分x,yの距離が、加工進行方向における移動距離および割り出し方向における移動距離となる。
【0009】
ここで、被加工領域に描かれる移動軌跡は、機能層を除去するために方向や距離が異なる複数の種類が組み合わされることになる。本発明では、それら複数の種類全ての移動軌跡を図15に示したように加工進行方向の成分と割り出し方向の成分とに分解し、加工進行方向の成分の中で最も長い成分の距離と、割り出し方向の成分の中で最も長い成分の距離とを比較して、加工進行方向側の成分の距離の方が割り出し方向側の成分の距離よりも長くなるようにすることを、本発明で言う「レーザービームの集光点位置の移動軌跡を加工進行方向における移動距離が割り出し方向における移動距離よりも長くなるように設定する」ことと定義する。
【0010】
このような設定により、被加工領域の全体をカバーするために要するレーザービームの方向転換のための加減速の回数を従来より減らすことができ、よってレーザー加工に要する時間を短縮させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レーザービーム照射による加工時間を従来よりも短縮することができて生産性の向上が図られるレーザー加工装置が提供されるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るワークの(a)平面図、(b)断面図である。
【図2】一実施形態に係るレーザー加工装置によりレーザー加工が施された後のワークを示す(a)平面図、(b)断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るレーザー加工装置の斜視図である。
【図4】同レーザー加工装置が具備する保持テーブルの移動機構を示す斜視図である。
【図5】同レーザー加工装置の断面図である。
【図6】保持テーブルのワーク保持部にワークが保持された状態を下方から見た下面図である。
【図7】同レーザー加工装置によってワークにレーザー加工を施す動作を示す断面図である。
【図8】レーザービーム照射ユニットのガルバノミラーの作用を示す図である。
【図9】本実施形態で被加工領域をレーザー加工するレーザービームの集光点位置の移動軌跡を示す図である。
【図10】図9に示した3種類の移動軌跡を加工進行方向成分と割り出し方向成分に分解した図である。
【図11】図9に示した3種類の移動軌跡の、加工進行方向成分の距離と割り出し方向成分の距離を比較する図である。
【図12】従来のレーザービームの集光点位置の移動軌跡の一例を示す図である。
【図13】図12に示した従来の移動軌跡を加工進行方向成分と割り出し方向成分に分解した図である。
【図14】図12に示した従来の移動軌跡の、加工進行方向成分の距離と割り出し方向成分の距離を比較する図である。
【図15】本発明でのレーザービームの集光点位置の移動軌跡、および移動軌跡の長短の定義を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
(1)ワーク
はじめに、図1に示す本実施形態のワーク1を説明する。このワーク1は長方形状のガラス基板2の片面全面に厚さが例えば2〜3μm程度の機能層3が積層されたもので、具体的には例えばガラス基板であるカバーガラスの裏面に機能層として太陽電池膜が積層された太陽電池モジュール等が挙げられる。本発明でのワーク1は太陽電池モジュールに限られず、ガラス基板2に機能層3が積層されたものであって被加工領域をレーザー加工して機能層3の一部がガラス基板2から除去されるものであれば、ワークとされる。
【0014】
本実施形態では、図2に示すように、ガラス基板2から機能層3の四辺の外縁を一定の幅だけレーザー加工により除去するものとする。機能層3の除去領域である被加工領域5の幅は、例えば15mm程度とされる。図3はそのようなレーザー加工をワーク1に施す一実施形態のレーザー加工装置10を示しており、以下該装置10について説明する。
【0015】
(2)レーザー加工装置
(2−1)構成
図3に示すレーザー加工装置10は、基台11上に水平に配設される矩形板状のワーク保持部22に保持したワーク1を、ワーク1の下方に設けたレーザービーム照射ユニット30に対してX方向に移動させながら、ワーク1の外縁の機能層3を除去すべき被加工領域5にレーザー加工を施すものである。ワーク1はガラス基板2側がワーク保持部22に吸着して保持され、X方向に移動させられる。ワーク保持部22のY方向両側には、一対のレーザービーム照射ユニット30における加工ヘッド32の先端部が基台11上の開口部12から突出している。各レーザービーム照射ユニット30には、レーザー加工によってワーク1から剥離して除去される加工屑を吸引する吸引機構40がそれぞれ併設されている。
【0016】
吸引機構40は、基台11から上方に突出しており、上部がレーザービーム照射ユニット30の加工ヘッド32側に延びる略L宇状の菅体からなるもので、先端の吸引口41が加工ヘッド32の上方において該加工ヘッド32に対向している。吸引機構40の内部の吸引路は図示せぬ吸引源に連通して接続されており、レーザー加工で生じ飛散する加工屑は吸引機構40に吸引されて加工屑がワーク1に付着することが防止されるようになっている。
【0017】
基台11の上面には、ワーク保持部22の移動経路に沿ってX方向に延びる長方形状の開口部13が形成されている。この開口部13は、ワーク保持部22の移動に伴い伸縮する蛇腹状の防塵カバー14で被覆されている。防塵カバー14の下方には、図4に示すようなワーク保持部22を含む保持テーブル20(図5参照)をX方向に移動させる移動機構50が設けられている。また、図5に示すように、基台11内には、移動機構50を挟んで一対の上記レーザービーム照射ユニット30が配設されている。
【0018】
図4に示すように、移動機構50は、X方向に延在する支持台51と、支持台51上に配設された互いに平行なX方向に延びる一対のガイドレール52と、一対のガイドレール52にスライド可能に支持されたX軸テーブル53と、X軸テーブル53をガイドレール52に沿ってX方向に移動させる駆動手段54とを有している。駆動手段54は、X軸テーブル53の裏面側に螺合して連結されたボールねじ55およびこのボールねじ55を回転駆動するモータ56からなるもので、モータ56によってボールねじ55が回転駆動されるとボールねじ55の回転方向に応じてX軸テーブル53がガイドレール52に沿ってX方向に移動するようになっている。
【0019】
図4および図5に示すように、上記保持テーブル20は、X軸テーブル53上に設けられたワーク保持部回転機構21と、このワーク保持部回転機構21によりZ方向を回転軸として回転駆動される上記ワーク保持部22とから構成される。ワーク保持部22は負圧によってワーク1を吸引して保持する形式のもので、矩形状の枠体23の上面に多孔質材料からなる吸着部24が嵌合されており、吸着部24は図示せぬ吸引源に連通して接続されている。ワーク保持部22の上面22aはワーク1の外縁よりも小さく形成されており、ワーク1は、被加工領域5をワーク保持部22から外側にはみ出させた状態で吸着部24にガラス基板2側が合わせられ、かつ機能層3側が上方に露出する状態にワーク保持部22によって下側から水平に支持され、吸着部24に負圧作用で吸着し保持される。このようにワーク保持部22に保持されたワーク1においては、図6に示すように、外縁の被加工領域5のガラス基板2の下面がワーク保持部22の外縁から外側にはみ出して露出する状態となる。
【0020】
ワーク1のレーザー加工時には、機能層3が除去されるワーク1の外縁の被加工領域5は、ワーク保持部回転機構21によりワーク保持部22が回転させられて、短辺側および長辺側のいずれの被加工領域5も図3〜図5でX方向となる加工進行方向と平行に設定される。したがってワーク1の被加工領域5は、加工進行方向における長さが該加工進行方向に直交する割り出し方向(図3〜図5でY方向)における長さよりも長い状態とされる。X方向と平行にされた被加工領域5は、レーザービーム照射ユニット30の加工ヘッド32に対向させられ、該被加工領域5に下側の加工ヘッド32からレーザービームが照射される。
【0021】
次に、図5および図7(図7では上記吸引機構40の図示を省略している)により上記レーザービーム照射ユニット30を説明する。なお、これら図において一点鎖線は加工ヘッド32の移動範囲を示し、二点鎖線はレーザービームの光路を示している。
【0022】
図5に示すように、基台11の内部は、Y方向に間隔をおいて並設された隔壁15aによって、上記移動機構50の収容部16と上記レーザービーム照射ユニット30の収容部17とに仕切られている。各隔壁15aには、Y方向外側に突設する下側支持板18が形成されている。レーザービーム照射ユニット30は、下側支持板18の下方に配設されたレーザービームを発振する発振器31と、下側支持板18の上方に配設されて発振器31から発振されたレーザービームを上方のワーク1に向けて照射する上記加工ヘッド32とを有している。また、基台11における隔壁15aに対向する側壁15bの内面には、発振器31で発振されたレーザービームを加工ヘッド32に案内するミラー35,36が取り付けられている。
【0023】
加工ヘッド32内には、レーザービームを集光する集光レンズ33と、ミラー35,36によって案内されたレーザービームを集光レンズ33に向けて反射するガルバノミラー(集光点移動機構)34とが収容されている。集光レンズ33は上下動可能に支持されており、レーザービームの集光点は、集光レンズ33を上下動させることによってワーク1のガラス基板2と機能層3との境界面4に合うよう調整される。
【0024】
ガルバノミラー34は、図示しない駆動手段によって、図8(a)に示すようにX方向に延びる回転軸Xa軸を回転軸として矢印F1(図7にも図示)方向にチルト揺動可能、かつ図8(b)に示すようにガルバノミラー34自身の幅方向中央を縦方向に貫くZa軸を回転軸として矢印F2方向にパン揺動可能に構成されている。ガルバノミラー34を矢印F1方向にチルト揺動させるとレーザービームの集光点位置がY方向である割り出し方向に移動し、矢印F2方向にパン揺動させるとレーザービームの集光点位置がX方向に移動するようになっている。
【0025】
図5および図7に示すように、下側支持板18上には、加工ヘッド32をY方向に移動させるヘッド移動手段60が設けられている。ヘッド移動手段60は、加工ヘッド32のY方向の位置合わせをするものであり、ワーク保持部22に保持されるワーク1の外縁の被加工領域5の幅すなわちY方向の長さに応じて加工ヘッド32はヘッド移動手段60によりY方向に移動させられる。ヘッド移動手段60は、下側支持板18上に固定されたガイド台61にY方向に移動可能に支持されたガイド62と、このガイド62に螺合して連結されたY方向に延びるボールねじ63およびボールねじ63を回転駆動するモータ64とからなりガイド62をガイド台61に沿ってY方向に移動させる駆動手段65とを有している。加工ヘッド32はガイド62上に固定され、Yガイド62とともにY方向に移動してY方向の位置合わせが行われる。
【0026】
また、上記吸引機構40も、ヘッド移動手段60と同様構成の吸引機構移動手段70によってY方向の位置合わせが行われるようになっている。吸引機構移動手段70は、図5に示すように、上記側壁15bの上端部に形成されたY方向外側に突設する上側支持板19上に固定されたガイド台71にY方向に移動可能に支持されたガイド72と、このガイド72に螺合して連結されたY方向に延びるボールねじ73およびボールねじ73を回転駆動するモータ74とからなりガイド72をガイド台71に沿ってY方向に移動させる駆動手段75とを有している。吸引機構40はガイド72上に固定され、ガイド72とともにY方向に移動してY方向の位置合わせが行われる。
【0027】
以上の構成を有する本実施形態のレーザー加工装置10は、図3に示す制御部80によってワーク1に対するレーザー加工の動作が制御される。以下、制御部80によるレーザー加工の動作例を説明する。
【0028】
(2−2)レーザー加工の動作
レーザー加工装置10の基本的な動作としては、上記のようにして保持テーブル20のワーク保持部22にワーク1を保持した後、ワーク保持部回転機構21により保持テーブル20を回転させてワーク1の短辺側または長辺側の対向する二辺に沿った被加工領域5をX方向と平行に設定し、該被加工領域5に対応させてレーザービーム照射ユニット30の加工ヘッド32および吸引機構40のY方向を位置合わせする。そして移動機構50により保持テーブル20とともにワーク1をX方向に移動させながら、これら被加工領域5に各レーザービーム照射ユニット30の加工ヘッド32からワーク1に向けてレーザービームを同時に照射することにより、X方向に沿った被加工領域5の全域をレーザー加工して機能層3を除去する。レーザー加工の加工進行方向は、ワーク1の移動方向と逆向きのX方向となる。
【0029】
レーザービームの集光点は、上記のようにガラス基板2と機能層3との境界面4に設定され、これにより境界面4が加熱されて機能層3は境界面4側から熱膨張して吹き飛ばされ、ガラス基板2から剥離する。このようにして被加工領域5の機能層3はガラス基板2から除去されて加工屑となり、この加工屑は、稼働している吸引機構40によって吸引される。図7でガラス基板2上の鎖線部分は、機能層3の除去部分を示している。
【0030】
一方向に延びる二辺の被加工領域5にレーザー加工を施して該被加工領域5の機能層3を除去したら、次いでワーク保持部回転機構21によって保持テーブル20を90度回転させ、他方向に延びる残りの二辺の被加工領域5をX方向と平行に設定する。そして上記と同様に保持テーブル20とともにワーク1をX方向に移動させながら、これら被加工領域5に各レーザービーム照射ユニット30の加工ヘッド32からワーク1に向けてレーザービームを同時に照射することにより、X方向に沿った残りの被加工領域5の全域をレーザー加工して機能層3を除去する。以上により、ワーク1の四辺の外縁の被加工領域5の機能層3が除去される。
【0031】
さて、上記レーザー加工においては、被加工領域5に対してレーザービームの集光点を加工進行方向に沿って直線的に移動させるだけでは幅がカバーされないため、レーザービームの集光点を加工進行方向に沿って直線的に移動させながらガルバノミラー34をチルト揺動させてレーザービームの集光点位置の移動軌跡をY方向である割り出し方向に移動させ、被加工領域5の幅全域がレーザー加工されるようにする制御がなされる。さらに本実施形態では、これに加えて、ガルバノミラー34の1回の揺動で被加工領域5を走査する直線状の集光点位置の移動軌跡を、本発明で定義される「加工進行方向における移動距離が割り出し方向における移動距離よりも長くなる」ように制御する。このようにレーザービームの集光点位置の移動軌跡を制御するにあたっては、ガルバノミラー34のパン揺動を加えるとともに、被加工領域5に対するレーザービームの集光点位置の、ガルバノミラー34のチルト揺動による割り出し方向への移動速度およびパン揺動による加工進行方向への移動速度を、移動機構50によって加工進行方向に移動させられるワーク1の移動速度よりも高速に設定する。
【0032】
上記のようにレーザービームの集光点位置の移動軌跡を加工進行方向における移動距離が割り出し方向における移動距離よりも長くなるようにするには、例えば図9の矢印で示す移動軌跡の組み合わせが好ましい一例である。この移動軌跡は、被加工領域5を加工進行方向X1に一定の距離ずつ複数のブロック(B1,B2,B3…)に区画し、1つのブロックにおいて次の1〜6の順に集光点位置を移動させることを繰り返して描かれる。1つのブロックは、加工進行方向X1と平行な方向が割り出し方向Yよりも長い略平行四辺形状である。
【0033】
1.割り出し方向Yの一端側においてブロックの始端からブロックの終端にわたり加工進行方向X1に沿って移動する(矢印a1−1)。
2.割り出し方向Yの中央に移動しながら加工進行方向X1と逆方向に移動してブロックの始端に戻る(矢印a2−1)
3.割り出し方向Yの中央においてブロックの始端から終端にわたり加工進行方向X1に沿って移動する(矢印a1−2:a1−1と平行で同距離)。
4.割り出し方向Yの他端側に移動しながら加工進行方向X1と逆方向に移動してブロックの始端に戻る(矢印a2−2:a2−1と平行で同距離)。
5.割り出し方向Yの他端側においてブロックの始端から終端にわたり加工進行方向X1に沿って移動する(矢印a1−3:a1−1と平行で同距離)。
6.割り出し方向Yの他端側の終端から割り出し方向Yの一端側の終端に移動する(矢印a3)。
【0034】
1つのブロックに対する上記1〜6の移動軌跡を、ワーク1の移動に伴ってブロックB1,B2,B3…の順に繰り返し行うことにより、被加工領域5の全長にわたりレーザー加工が施される。
【0035】
この場合の移動軌跡は、方向および距離から、移動軌跡a1−1,a1−2,a1−3と、移動軌跡a2−1,a2−2と、移動軌跡a3の3種類に分けられる。これら3種類の移動軌跡をそれぞれa1,a2,a3として加工進行方向X1の成分と割り出し方向Yの成分に分解すると、図10に示すようになる。すなわち、移動軌跡a1,a2,a3における加工進行方向成分はそれぞれx1,x2,x3であり、割り出し方向成分はそれぞれy1(割り出し方向には移動していないのでy1の距離はゼロである),y2,y3である。
【0036】
移動軌跡a1,a2,a3においては、図11に示すように、加工進行方向X1における成分の距離が最も長いのは移動軌跡a1の距離x1であり、割り出し方向成分の距離が最も長いのは移動軌跡a3の距離y3である。そしてこれら距離x1、距離y3を比較すると距離x1の方が長いのは明らかであり、すなわち各ブロックに照射するレーザービームの集光点位置の移動軌跡は、本発明の特徴のように加工進行方向X1における移動距離が割り出し方向Yにおける移動距離よりも長くなるように設定されていると言える。
【0037】
一方、図12は、レーザービームの集光点位置の移動軌跡が全体としてジグザグ状に描かれる従来のレーザー加工の形態を示している。この形態では、加工進行方向X1に移動しながら割り出し方向Yに往復移動する2種類の移動軌跡c1,c2が交互に描かれるものである。これら移動軌跡c1,c2は方向が異なるものの、図13に示すように加工進行方向X1の成分xcの距離は互いに同じであり、割り出し方向Yの成分ycの距離も互いに同じである。そしてこれら各方向X1,Yの成分xcとycの距離を比較すると、図14に示すように、割り出し方向成分の距離ycの方が加工進行方向成分の距離xcよりも長いと判断される。したがって、レーザービームの集光点位置の移動軌跡は、加工進行方向X1における移動距離が割り出し方向Yにおける移動距離よりも短く、本発明とは逆で異なっている。
【0038】
図9に示した本発明の実施形態による移動軌跡によれば、図12に示す従来のジグザグ状の移動軌跡と比べると、加工進行方向X1の一定距離すなわち各ブロックB1,B2,B3…におけるレーザービーム走査の方向転換すなわちガルバノミラー34の揺動の回数が少なく、方向転換のための加減速の回数が低減したものとなる。よって被加工領域5の全長においても加減速の回数が従来よりも低減したものとなり、その結果、レーザー加工に要する時間が短縮し、生産性の向上が図られる。
【0039】
なお、集光点位置の移動軌跡は、移動機構50によるワーク1の移動速度、ガルバノミラー34の揺動によるレーザービームの走査可能範囲と走査速度、レーザービームの発振周波数等の要素により変更してくるが、本実施形態ではこれら要素を考慮するとともに、被加工領域5が、加工進行方向における長さが該加工進行方向に直交する割り出し方向における長さよりも長いといった条件を満たすことを条件として、制御部80により、レーザービームの集光点位置の移動軌跡を加工進行方向における移動距離が割り出し方向における移動距離よりも長くなるように制御される。
【符号の説明】
【0040】
1…ワーク
2…ガラス基板
3…機能層
5…被加工領域
10…レーザー加工装置
20…保持テーブル
21…ワーク保持部回転機構
22…ワーク保持部
22a…ワーク保持部の上面
30…レーザービーム照射ユニット
31…発振器
33…集光レンズ
34…ガルバノミラー(集光点移動機構)
50…移動機構
X1…加工進行方向
Y…割り出し方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板に機能層が積層されたワークを保持する保持テーブルと、該保持テーブルに保持されたワークにレーザービームを照射するレーザービーム照射ユニットと、該保持テーブルと該レーザービーム照射ユニットとを相対的に加工進行方向へ移動させる移動機構と、を有するレーザー加工装置であって、
前記保持テーブルは、
ワーク外縁よりも小さい上面でワークのガラス基板を下側から支持することによって、ワーク外縁に位置する加工すべき被加工領域のガラス基板の下面を露出させるワーク保持部と、
該ワーク保持部を鉛直方向を回転軸として回転させるワーク保持部回転機構と、を有し、
前記被加工領域は、前記加工進行方向における長さが該加工進行方向に直交する割り出し方向における長さよりも長く、
前記レーザービーム照射ユニットは、
レーザービームを発振する発振器と、
該発振器から発振されたレーザービームを、前記被加工領域に向けて集光し、該被加工領域の前記機能層を前記ガラス基板から除去する集光レンズと、
前記移動機構によって前記保持テーブルと該レーザービーム照射ユニットとが相対的に移動している際に、前記集光レンズの集光点位置を前記加工進行方向と前記割り出し方向とに該移動機構の移動速度よりも高速に移動させる集光点移動機構と、
該集光点移動機構による前記集光点位置の移動軌跡を、前記加工進行方向における移動距離が前記割り出し方向における移動距離よりも長くなるように設定する制御部と、を有すること
を特徴とするレーザー加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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