説明

レーザー彫刻可能なフレキソ印刷原版

【課題】 印刷不良を生じずかつ解像度に優れた印刷版を製造できるレーザー彫刻用印刷原版を提供する。
【解決手段】
少なくとも、(A)乳化重合で合成された親水性共重合体、(B)合成ゴム、(C)光重合性化合物、及び(D)光重合開始剤を含有する感光性樹脂組成物を光照射し、架橋硬化させることによって得られるレーザー彫刻用印刷原版であって、親水性共重合体(A)がその重量100質量部に対して、反応性乳化剤を1〜20質量部、非反応性乳化剤を1質量部未満用いて乳化重合されたものであることを特徴とするレーザー彫刻可能なフレキソ印刷原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザー彫刻可能なフレキソ印刷原版に関するものである。
【背景技術】
【0002】
包装材や建装材などの印刷に使用されるフレキソ印刷版は、原画フィルムを感光性樹脂層上に置き、原画フィルムを通して露光することにより、架橋反応を起こさせた後、非露光部の未架橋樹脂を現像液で現像・除去することでレリーフ像を形成する製版方法が用いられてきた。しかし、近年のデジタル技術の発達により、コンピューター上で処理された情報を印刷版上に直接出力してレリーフとなる凹凸パターンを得る方法が普及しつつある。中でも、レーザーによる彫刻製版を行うレーザー彫刻は、原画フィルムを必要とせず、現像工程も不要であるため、極めて効率的であり、また環境に優しい方法である。
レーザー彫刻用の印刷原版としては、フレキソ版への技術応用が進んでおり、レーザー彫刻可能なフレキソ版原版、あるいはレーザー彫刻によって得られたフレキソ版が特許文献1に開示されている。
【0003】
レーザー彫刻による印刷版の製造工程では、画像データに基づいてレーザー光線を印刷原版に照射して照射部分の像形成材料を分解・除去することにより版表面に凹凸が形成される。この際、レーザー照射部の像形成材料の分解により粘稠性の樹脂カスが生じ、その一部は印刷版全体に飛び散る。これらの樹脂カスは、印刷版に残しておくと問題を生じるため、レーザー照射中にレーザー装置近傍に設けた集塵機で吸引することにより及び/又はレーザー照射後に印刷版を洗浄することにより印刷版から除去される。
【0004】
しかしながら、この印刷原版は合成ゴムを主成分とするため原版自身の粘着性が高く、レーザー照射により生じた樹脂カスがレーザー照射中の吸引やレーザー照射後の洗浄でも除去されずに版に付着したまま残りやすい。樹脂カスが印刷版のレーザー非照射部分(凸部分)に付着したまま残ると、この部分は印刷時にインクが付与される部分であるので、印刷不良を招く。また、樹脂カスが印刷版のレーザー照射部分(凹部分)の底面に付着したまま残ると網点の深度が低下し、凹部分の側面に付着したまま残ると網点の再現性が低下し、いずれも解像度の低下を招く問題があった。
上記樹脂カス付着の課題に対しては、シリカ微粉末などの無色透明の充填剤を配合する方法(特許文献2参照)により印刷原版の機械的特性を向上させ、結果として粘着性や微細部の溶融を減少させる技術が提案されている。しかしながら、シリカ微粉末などの充填剤を配合する方法は、印刷原版の粘着性を十分に低下させるためには多量の充填剤が必要となり、印刷原版の成型性や版物性を著しく損なうという問題があった。
一方、乳化重合で合成された親水性共重合体、合成ゴム、光重合性化合物、及び光重合開始剤を含有する感光性樹脂組成物を感光性樹脂層に用いた原画フィルム方式の 感光性樹脂印刷原版(特許文献3)が開示されているが、原画フィルム方式の感光性樹脂印刷原版としては優れた性能であったが、レーザー彫刻用印刷原版としてはレーザー彫刻カスの付着が多く、実用的なものではなかった。
【特許文献1】特許第2846954号公報
【特許文献2】特表2004−533343号公報
【特許文献3】特開2002−162731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は樹脂カスの粘着が原因となる印刷不良を生じず、かつ解像度に優れた印刷版を製造できるレーザー彫刻可能な印刷原版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、(1)少なくとも、少なくとも、(A)乳化重合で合成された親水性共重合体(B)合成ゴム(C)光重合性化合物、及び(D)光重合開始剤を含有する感光性樹脂組成物を光照射し、架橋硬化させることによって得られるレーザー彫刻用印刷原版であって、親水性共重合体(A)がその重量100質量部に対して、反応性乳化剤を1〜20質量部、非反応性乳化剤を1質量部未満用いて乳化重合されたものであることを特徴とするレーザー彫刻可能なフレキソ印刷原版、(2)(C)光重合性化合物が少なくとも1つが1分子中に3つ以上のエチレン性不飽和基を有する多官能エチレン性不飽和モノマーを含み、その配合割合が組成物全体に対して5〜25質量%であることを特徴とする(1)のレーザー彫刻可能なフレキソ印刷原版、(3)(C)光重合性化合物が少なくとも(A)合成ゴムと同じ骨格を有し数平均分子量が1000〜5000である光重合性オリゴマー及び1分子中に3つ以上のエチレン性不飽和基を有する多官能エチレン性不飽和モノマーを含んでいることを特徴とする(1)又は(2)に記載のレーザー彫刻可能なフレキソ印刷原版、(4)(B)の合成ゴムが(A)と同じ骨格構造を有する合成ゴムであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかのレーザー彫刻可能なフレキソ印刷原版とすることで課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0007】
本発明のレーザー彫刻可能な印刷原版を用いることにより、印刷版製造時のレーザー照射により生じる彫刻カスの版への付着・融着を抑制することができる。本発明から得られる印刷原版を使用すれば、樹脂カスの付着が少ない印刷版を提供することができ、これらが原因となる印刷不良を生ずることがなく、しかも解像度に優れた印刷版を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の 本発明の光照射で架橋硬化させることによって得られるレーザー彫刻用印刷原版は、(1)少なくとも、少なくとも、(A)乳化重合で合成された親水性共重合体、(B)合成ゴム、(C)光重合性化合物、及び(D)光重合開始剤を含有する感光性樹脂組成物を光照射し、架橋硬化させることによって得られるレーザー彫刻用印刷原版であって、親水性共重合体(A)がその重量100質量部に対して、反応性乳化剤を1〜20質量部、非反応性乳化剤を1質量部未満用いて乳化重合されたものであることを特徴とするレーザー彫刻可能なフレキソ印刷原版、(2)(C)光重合性化合物が少なくとも1つが1分子中に3つ以上のエチレン性不飽和基を有する多官能エチレン性不飽和モノマーを含み、その配合割合が組成物全体に対して1〜20質量%であることを特徴とする(1)のレーザー彫刻可能なフレキソ印刷原版、(3)(C)光重合性化合物が少なくとも(A)合成ゴムと同じ骨格を有し数平均分子量が1000〜5000である光重合性オリゴマー及び1分子中に3つ以上のエチレン性不飽和基を有する多官能モノマーを含んでいることを特徴とする(1)又は(2)に記載のレーザー彫刻可能なフレキソ印刷原版、(4)(B)の合成ゴムが(A)と同じ骨格構造を有する合成ゴムであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかのレーザー彫刻可能なフレキソ印刷原版である。
【0009】
本発明者らは、特定の(A)乳化重合で合成された親水性共重合体、(B)合成ゴムをポリマー成分とする感光性樹脂組成物に対して、(C)光重合性化合物として1分子中に3つ以上のエチレン性不飽和基を有する多官能モノマーをある一定の割合で含むことにより、レーザー彫刻性に適した架橋状態(網目)に導くことができ、樹脂カスの粘着が原因となる印刷不良を生じず、かつ解像度に優れた印刷版を製造できることを見出した。
【0010】
本発明の光硬化とは合成ゴム系感光性樹脂組成物をシート状に成形し、このシート状成形物を表面より高さ5cmの距離から8mW/cmの紫外線露光機(光源:フィリップス社製10R)により表裏10分露光し、架橋硬化させるものである。
【0011】
本発明は(C)光重合性化合物として、1分子中に3つ以上のエチレン性不飽和モノマーを含み、さらに光重合性オリゴマーを併用することが好ましい。本発明は、特定の(C)光重合性化合物を選択することで優れたレーザー彫刻性能を達成するものであり、さらに(A)と同じ骨格構造を有する光重合性オリゴマーを併用することによって、(A)成分と(B)成分の相溶性が改善し、層分離や(A)成分の微粒子が粗大化することなくレーザー彫刻性能に優れた感光性樹脂印刷原版を製造することができる。
【0012】
1分子中に3つ以上のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和モノマーとしてはトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、多価アルコールのトリグリシジルエーテルに不飽和カルボン酸や不飽和アルコールなどのエチレン性不飽和結合と活性水素を持つ化合物を付加反応させて得られるトリメチロールプロパンのトリグリシジールエーテルトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。その中でもトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0013】
エチレン性不飽和モノマーとしては、硬さや物性を調整するために1分子中に2つ以下のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和モノマーを併用しても良い。特に光架橋後の物性として伸度を向上させたい場合には、1分子中に1つ未満のエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和モノマーを併用することが好ましい。
【0014】
(C)光重合性化合物の1分子中に3つ以上のエチレン性不飽和基を有するエチレン性不飽和多官能モノマーの配合割合は5〜25質量%好ましく、特に好ましい範囲は10〜20質量%である。
レーザー彫刻性能と印刷適性に優れた版硬度を得るために、エチレン性不飽和モノマーとして多官能モノマーと単官能モノマーを併用することが好ましく、単官能モノマーの配合含有率は全エチレン性不飽和モノマーに対して20〜40質量%が好ましい。
【0015】
エチレン性不飽和多官能モノマーの割合が1質量%以下の場合は架橋密度が不十分であり、印刷原版の粘着性を抑えることができなくなり、レーザー照射時に発生する樹脂カスの発生、付着、成長を抑制することができなくなる。反対に、多官能モノマーの割合が20質量%以上では高い架橋密度を有するため、レーザー彫刻性は良好であるが、硬度が高くなりすぎて充分な弾性が得難くなり、印刷時でのベタ部のインキのりが低下する。
【0016】
本発明に使用する光重合性オリゴマーは、(A)成分と同じ骨格構造を持つ共役ジエン系重合体の末端および/または側鎖にエチレン性不飽和基が結合した光重合性オリゴマーであることが好ましい。光重合性オリゴマーが(A)成分と同じ骨格構造をもつことで、相溶性が向上がみられ、光架橋後の優れたレーザー彫刻性能が得られる。光重合性オリゴマーの数平均分子量は1000〜5000であり、好ましくは数平均分子量が1500〜4000である。光重合性オリゴマーの数平均分子量が1000未満では24時間浸漬後の溶剤膨潤率はすぐれているが、(A)成分との相溶性の面や硬度が硬くなりすぎるために好ましくない。一方、数平均分子量5000を越えた場合には24時間浸漬後の溶剤膨潤率が10%を超えるために樹脂カス付着が多くなる。
本発明の光重合性オリゴマー配合割合は5〜30質量%であり、(A)成分との相溶性の面より10〜20質量%が好ましい。光重合性オリゴマーの配合割合が20質量%を超えると架橋密度が不足するために樹脂カス付着が多くなるので好ましくない。配合割合が5質量%以下では光重合性化合物との充分な相溶性が得難くなり、不均一な樹脂組成物となるので好ましくない。
【0017】
光重合性オリゴマーとして用いる共役ジエン系エチレン性重合体を構成する共役ジエン系重合体は、共役ジエン不飽和化合物の単独重合体または共役ジエン不飽和化合物とモノエチレン性不飽和化合物との共重合体によって構成される。かかる共役ジエン不飽和化合物の単独重合体または共役ジエン不飽和化合物とモノエチレン性不飽和化合物との共重合体としては、ブタジエン重合体、イソプレン重合体、クロロプレン重合体、スチレン−クロロプレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−イソプレン共重合体、メタクリル酸メチル−イソプレン共重合体等が挙げられる。これらのうちゴム弾性と光硬化性の点で、ブタジエン重合体、イソプレン重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体が好ましく、特に好ましくはブタジエン重合体、イソプレン重合体である。
【0018】
光重合性オリゴマーとして用いる共役ジエン系重合体の末端および/または側鎖エチレン性不飽和基を導入する方法は特に限定されないが、例えば、(1)過酸化水素を重合開始剤として得られた水酸基末端共役ジエン系重合体の末端の水酸基に(メタ)アクリル酸等のモノエチレン性不飽和カルボン酸を脱水反応によりエステル結合させる、若しくは、(メタ)アクリル酸メチルや(メタ)アクリル酸エチル等のモノエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルをエステル交換反応によりエステル結合させる方法、(2)共役ジエン化合物と少なくとも一部に不飽和カルボン酸(エステル)を含むエチレン性不飽和化合物を共重合して得られた共役ジエン系重合体にアリルアルコール、ビニルアルコール等のエチレン性不飽和アルコールを反応させる方法、等が挙げられる。
【0019】
次に本発明に用いるエチレン性不飽和モノマーとは、紫外線によって架橋可能な化合物である。本発明に用いるエチレン性不飽和モノマーとしては、少なくとも1分子中に3つ以上のエチレン性不飽和結合を有する多官能エチレン性不飽和モノマーを用いることが好ましい。こうすることで、架橋状態(網目)を密にでき、レーザー彫刻性を向上させることができる。
エチレン性不飽和モノマーの配合比率は、5〜30質量%であり、好ましい範囲は10〜20質量%である。
又、3つ以上のエチレン性不飽和結合を有する多官能エチレン性不飽和モノマーの配合比率は、5〜25質量%好ましく、特に好ましい範囲は10〜20質量%である。
レーザー彫刻性能と印刷適性に優れた版硬度を得るために、エチレン性不飽和モノマーとして多官能モノマーと単官能モノマーを併用することが好ましく、単官能モノマーの配合含有率は全エチレン性不飽和モノマーに対して20〜40質量%が好ましい。
【0020】
3つ以上のエチレン性不飽和結合を有する多官能エチレン性不飽和モノマーとしてはトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルに不飽和カルボン酸や不飽和アルコールなどのエチレン性不飽和結合と活性水素を持つ化合物を付加反応させて得られる多価(メタ)アクリレートなどが挙げられる。その中でもトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。
3つ以上のエチレン性不飽和結合を有する多官能エチレン性不飽和モノマー以外のエチレン性不飽和モノマーとして、レーザー彫刻性能に影響しない範囲で2つのエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和モノマーや1つのエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和モノマーを配合してもかまわない。
2つのエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和モノマーとしてはジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートのようなポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートのようなポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
1つのエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート、クロロエチル(メタ)アクリレート、クロロプロピル(メタ)アクリレート等のハロゲン化アルキル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレートなどのフェノキシアルキル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングレコール(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキレングリコール(メタ)アクリレート、などが挙げられる。その中でもアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、特にラウリル(メタ)アクリレートやステアリル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0021】
本発明で使用される親水性共重合体(A)とは、少なくとも親水性の不飽和単量体を用いて乳化重合して得られる。親水性の不飽和単量体には、酸性官能基含有不飽和単量体が好ましい。具体的には一塩基酸単量体として、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、およびこれらの一塩基酸単量体のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩である。二塩基酸単量体としては、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸およびこれらの二塩基酸単量体のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が挙げられる。好ましい親水性の不飽和単量体としてはアクリル酸及びメタクリル酸である。
【0022】
親水性共重合体(A)の共重合に用いられる酸性官能基含有不飽和単量体以外の不飽和単量体としては、共役ジエン、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基を有するエチレン系モノカルボン酸アルキルエステル単量体等があげられる。
【0023】
より具体的には、共役ジエンとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレン、2−クロル−1,3−ブタジエン、シクロペンタジエン等が例示できるが、レーザー彫刻性能から1,3−ブタジエンが好ましい。
【0024】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等が例示できるが、レーザー彫刻性能からスチレンが好ましい。
【0025】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチル−ヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等が例示できるが、その中でもプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレートがレーザー彫刻性能から好ましい。
【0026】
水酸基を有するエチレン系モノカルボン酸アルキルエステル単量体としては例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸1−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸1−ヒドロキシプロピル、ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0027】
これらの単量体は単独で用いてもよいし、二種以上混合して用いてもよい。共役ジエンとその他の共重合可能な単量体の量比はレーザー彫刻性能から50/50から80/20が好ましく、50/50の範囲を超えるとフレキソ印刷用版としてゴム弾性を悪化させるため好ましくない。
【0028】
親水性共重合体(A)は乳化重合で重合され、重合時に使用される乳化剤(界面活性剤)には、少なくとも反応性乳化剤を用いることが必須である。本発明において用いることのできる反応性乳化剤とは、分子構造中にラジカル重合性の二重結合、親水性官能基および疎水性基をそれぞれ有し、且つ一般の乳化剤と同様に、乳化、分散、および湿潤機能を持つもので、親水性共重合体を乳化重合するときに、反応性乳化剤を除いた不飽和単量体100質量部に対して、単独で0.1部以上用いることで粒径が5〜500nmの重合物が合成できる乳化(界面活性)剤である。分子構造中のラジカル重合性の二重結合の構造例としてはビニル基、アクリロイル基、あるいはメタアクリロイル基などが上げられる。分子構造中の親水性官能基の例としては硫酸基、硝酸基、燐酸基、ホウ酸基、カルボキシル基等のアニオン性基、またはアミノ基等のカチオン性基、またはポリオキシエチレン、ポリオキシメチレン、ポリオキシプロピレン等のポリオキシアルキレン鎖構造等や水酸基等が上げられる。分子構造中の疎水性基としてはアルキル基、フェニル基等が上げられる。この反応性乳化剤はその構造に含まれる親水性官能基の構造種類によりアニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤等を含む。また、分子構造中のラジカル重合性の二重結合、親水性官能基および疎水性基は複数の種類の構造、官能基を有することも可能である。
【0029】
このような反応性(乳化)界面活性剤の例を下記[化1]〜[化4]に示す。
【0030】
【化1】

【0031】
【化2】

【0032】
【化3】

【0033】
【化4】

【0034】
本発明において反応性乳化剤として使用できるもののうち一般的に市販されているものを以下に示すと、アニオン界面活性剤としては、アデカリアソープSE(旭電化工業)、アクアロンHSやBCやKH(第一工業製薬)、ラテムルS(花王)、アントックスMS(日本乳化剤)、アデカリアソープSDXやPP(旭電化工業)、ハイテノールA(第一工業製薬)、エレミノールRS(三洋化成工業)、スピノマー(東洋曹達工業)など、非イオン界面活性剤としては、アクアロンRNやノイゲンN(第一工業製薬)、アデカリアソープNE(旭電化工業)などを例示できるが、これらに限定されるものではない。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。本発明において反応性乳化剤の量は、親水性共重合体(a)100質量部に対して、1〜20質量部の範囲である。反応性乳化剤の量が1質量部以上の場合に充分な画像再現性が得られ、20質量部以下の時に良好な耐印刷性が達成される。
【0035】
本発明おいて、必要に応じて用いられる非反応性乳化剤とは、脂肪酸せっけん、ロジン酸せっけん、スルホン酸塩、サルフェート、リン酸エステル、ポリリン酸エステル、サリコジン酸アシル、等のアニオン界面活性剤、ニトリル化油脂誘導体、油脂誘導体、脂肪酸誘導体、α−オレフィン誘導体等のカチオン界面活性剤、アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、プロポキシレート、脂肪族アルカノールアミド、アルキルポリグリコシド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン界面活性剤が例示される。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
親水性共重合体(A)の乳化重合方法としては、重合可能な温度に調製された反応系にあらかじめ所定量の水、乳化剤、その他添加剤を仕込み、この系に重合開始剤および不飽和単量体、乳化剤、調整剤等を回分操作あるいは連続操作で反応系内に添加するのが一般できである。また必要に応じて反応系には所定量のドラテックス、開始剤、不飽和単量体、その他の調整剤をあらかじめ仕込んで置くことも通常良く用いられる方法である。また不飽和単量体、乳化剤、その他の添加剤、調整剤を反応系へ添加する方法を工夫することによって、合成される親水性共重合体粒子の層構造を段階的に変える事も可能である。この場合、各層の構造を代表する物性としては、親水性、ガラス転移点、分子量、架橋密度などが上げられる。また、この層構造の段階数は特に制限されない。
【0037】
本発明に用いられる親水性共重合体(A)の重合には、既知の連鎖移動剤を用いることができる。例をあげれば、硫黄元素を含む連鎖移動剤として、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、等のアルカンチオール、メルカプトエタノール、メルカプトプロパノール等のチオアルキルアルコール、チオグリコール酸、チオプロピオン酸等のチオアルキルカルボン酸、チオグリコール酸オクチルエステル、チオプロピオン酸オクチルエステル等のチオカルボン酸アルキルエステル、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド等のスルフィドがあげられる。その他に、連鎖移動剤の例としては、ターピノーレン、ジペンテン、t−テルピネンおよび四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素をあげることができる。これらの中で、アルカンチオールは連鎖移動速度が大であり、また得られる重合物の物性バランスが良いので好ましい。これらの連鎖移動剤は、単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの連鎖移動剤は単量体に混合して反応系に供給するか、単独で所定の時期に所定量添加される。これらの連鎖移動剤の使用量は、親水性共重合体(D)の重合に用いられる不飽和単量体全量のうち、好ましくは0.1〜10重量%であり、この範囲以下では感光性樹脂の混合を行うときの加工性が悪化し、この範囲の以上では分子量を著しく低下させるため好ましくない。
【0038】
本発明に用いられる親水性共重合体(A)の重合には必要に応じて重合反応抑制剤が用いることができる。重合反応抑制剤とは、乳化重合系に添加することにより、ラジカル重合速度を低下させる化合物である。より具体的には、重合速度遅延剤、重合禁止剤、ラジカル再開始反応性が低い連鎖移動剤、およびラジカル再開始反応性が低い単量体である。重合反応抑制剤は、重合反応速度の調整およびラテックス物性の調整に用いられる。これらの重合反応抑制剤は回分操作あるいは連続操作で反応系に添加される。これらの中でも、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(α−メチルスチレンダイマー)が反応性の点で特に好ましい。これらの重合反応抑制剤は、単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの重合反応抑制剤の使用量は、親水性共重合体(A)の重合に用いられる不飽和単量体全量のうち、10重量%以下が好ましい。これ以上では重合速度を著しく低下させるため好ましくない。
【0039】
前記ラジカル重合開始剤は、熱または還元性物質の存在下ラジカル分解して単量体の付加重合を開始させるものであり、無機系開始剤および有機系開始剤のいずれも使用できる。このようなものとしては、例えば水溶性又は油溶性のペルオキソ二硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物等、具体的にはペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、2,2−アゾビスブチロニトリル、クメンハイドロパーオキサイドなどがある。また、酸性亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸やその塩、エリソルビン酸やその塩、ロンガリットなどの還元剤を重合開始剤に組み合わせて用いる、いわゆるレドックス重合法を採用することもできる。これらの中で特にペルオキソ二硫酸塩が重合開始剤として好適である。
【0040】
本発明で使用する(B)合成ゴムとしては、熱可塑性ブロック共重合体、1,2―ポリブタジエン、ポリウレタン系エラストマー等がある。また、これらの合成ゴムは所望により(メタ)アクリルやカルボキシなどで変性されていてもよい。これらのうち、熱可塑性ブロック共重合体が好ましく、特にモノビニル置換芳香族炭化水素モノマーと共役ジエンモノマーを重合して得られるものがより好ましい。また、モノビニル置換芳香族炭化水素モノマ−としては、スチレン,α−メチルスチレン,p−メチルスチレンが、また共役ジエンモノマ−としてはブタジエン,イソプレンが用いられ、代表特にスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体やスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体などが好ましい。又、(B)の合成ゴムの骨格構造としては(A)乳化重合で合成された親水性共重合体及び(C)光重合性化合物と同じ骨格構造を有する合成ゴムであることが好ましく、同じ骨格構造を持つことで優れた相溶性が得られ、紫外線照射による光硬化工程において均一な光架橋構造が得られる。
(B)合成ゴムの配合比率はポリマー成分中に50質量%未満が好ましく、さらに好ましくは30〜49質量%の範囲である。
【0041】
合成ゴムの共役ジエンセグメント中のビニル結合単位はレリーフの再現性向上に寄与するが、同時にフレキソ版表面の粘着性を高める原因にもなる。この両特性のバランスをとる観点でビニルセグメントの平均比率は5〜40%が好ましく、さらに好ましい範囲としては10〜35%である。モノビニル置換芳香族炭化水素及び共役ジエンの平均含有量や、合成ゴム中のビニル結合単位の平均比率は、IRスペクトルやNMRで求められる。合成ゴム(B)の量は、フレキソ印刷用感光性樹脂組成物100質量部に対して10〜40質量部が好ましい。少なすぎると、極性のあるインキの膨潤率が増加したり、物性(伸長率(伸び))が低下するため好ましくない。
【0042】
本発明の(D)光重合開始剤は、(C)光重合性化合物の光重合・架橋反応の触媒としての役割を有する。本発明で使用する(D)光重合開始剤としては、光照射によって重合性の炭素−炭素不飽和基を重合させることができるものであればあらゆるものが使用できるが、特に、光吸収によって、自己分解や水素引き抜きによってラジカルを生成する機能を有するものが好ましく使用される。具体的には、例えば、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン類、アントラキノン類、ベンジル類、アセトフェノン類、ジアセチル類などが使用できる。
【0043】
本発明の樹脂組成物には、上述の三つの成分(A)〜(D)以外に親水性ポリマー、可塑剤、及び/又は重合禁止剤などの任意成分を所望により配合することもできる。
【0044】
親水性ポリマーは、製造された印刷版を使用してフレキソ印刷を行う際に印刷版と水性インキとの親和性を改善し、印刷性を向上させる効果を有する。本発明の樹脂組成物で使用することができる親水性重合体は、−COOH、−COOM(Mは1価、2価、或いは3価の金属イオンまたは置換または無置換のアンモニウムイオン)、−OH、−NH2、−SO3H、リン酸エステル基などの親水基を有するものが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸またはその塩類の重合体、(メタ)アクリル酸またはその塩類とアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体、(メタ)アクリル酸またはその塩類とスチレンとの共重合体、(メタ)アクリル酸またはその塩類と酢酸ビニルとの共重合体、(メタ)アクリル酸またはその塩類とアクリロニトリルとの共重合体、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、−COOM基を有するポリウレタン、−COOM基を有するポリウレアウレタン、−COOM基を有するポリアミド酸およびこれらの塩類または誘導体が挙げられる。
【0045】
可塑剤は、樹脂組成物の流動性を改善する効果、及び製造される印刷原版の硬度を調節する効果を有する。本発明の樹脂組成物で使用することができる可塑剤は、(A)合成ゴムと相溶性が良好なものが好ましく、室温で液状のポリエン化合物やエステル結合を有する化合物であることがより好ましい。室温で液状のポリエン化合物としては、液状のポリブタジエン、ポリイソプレン、さらにそれらの末端基あるいは側鎖を変性したマレイン化物、エポキシ化物などがある。エステル結合を有する化合物としては、フタル酸エステル、リン酸エステル、セバシン酸エステル、アジピン酸エステル、分子量1000〜3000のポリエステルが挙げられる。本発明の樹脂組成物中の可塑剤の配合割合は30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。可塑剤の配合割合が上記上限を超えると、印刷版の機械的特性や溶剤耐性が著しく低下してしまい、耐刷性が低下するおそれがある。
【0046】
重合禁止剤は、樹脂組成物の熱安定性を増大させる効果を有する。本発明の樹脂組成物で使用することができる重合禁止剤は従来公知のものであることができ、例えばフェノール類、ハイドロキノン類、カテコール類などを挙げることができる。本発明の樹脂組成物中の重合禁止剤の配合割合は0.001〜3質量%であることが好ましく、0.001〜2質量%であることがさらに好ましい。
【0047】
また、これら以外の任意成分として、着色剤、酸化防止剤などを本発明の効果を損わない範囲で添加することもできる。
【0048】
次に、本発明のレーザー彫刻可能な印刷原版について説明する。本発明の印刷原版は、上述のようにして調製された本発明の樹脂組成物をシート状又は円筒状に成形し、次いでこの成型物に光を照射して架橋硬化させることによって得られるものである。
【0049】
本発明の樹脂組成物をシート状又は円筒状に成形する方法としては、従来公知の樹脂成形方法を使用することができ、例えば本発明の樹脂組成物を適当な支持体上に又は印刷機のシリンダー上に塗布してヒートプレス機などで加圧する方法を挙げることができる。支持体としては、可撓性を有しかつ寸法安定性に優れた材料が好ましく用いられ、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、或いはポリカーボネートを挙げることができる。支持体の厚みは印刷原版の機械的特性、形状安定性等の点から50〜250μm、好ましくは100〜200μmであることが好ましい。また、必要により、支持体と樹脂層との接着を向上させるために、この種の目的で従来から使用されている公知の接着剤を表面に設けてもよい。加圧条件は20〜200kg/cm2程度であることが好ましく、加圧の際の温度条件は室温〜150℃程度であることが好ましい。形成される成形物の厚さは、製造する印刷原版のサイズ、性質などにより適宜決定すれば良く、特に限定されないが、通常は0.1〜10mm程度である。
【0050】
次いで、成形した樹脂組成物に光を照射して樹脂組成物中の(B)光重合性化合物を重合架橋させ、これにより成形物を硬化させて印刷原版とする。硬化に用いられる光源としては高圧水銀灯、超高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ等が挙げられ、その他公知の方法で硬化を行うことができる。硬化に用いる光源は、1種類でも構わないが、波長の異なる2種類以上の光源を用いて硬化させることにより、樹脂の硬化性が向上することがあるので、2種類以上の光源を用いることも差し支えない。
【0051】
かくして得られた印刷原版は、レーザー彫刻装置の版装着ドラムの表面に取付けられ、像に従ったレーザー照射により照射部分の原版が分解されて凹部分を形成し、印刷版が製造される。本発明の樹脂組成物から得られる印刷原版は、一定範囲内の膨潤率を有する印刷原版の使用により、樹脂カスの発生や付着を抑制することができ、印刷不良がなく、解像度に優れた印刷版を提供することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
参考例1
実施例1〜3に用いる親水性共重合体を以下の通りに合成した。
撹拌装置と温度調節用ジャケットを取り付けた耐圧反応容器に水125質量部、表1に示す反応性乳化剤仕込量の75%を初期仕込みし、内温を80℃に昇温し、スチレン10質量部、ブタジエン60質量部、ブチルアクリレート23質量部、メタアクリル酸5質量部、アクリル酸2質量部からなる単量体混合物とt−ドデシルメルカプタン2質量部の油性混合液と、水28質量部、ペルオキソ二硫酸ナトリウム1.2質量部、水酸化ナトリウム0.2質量部、表1に示す反応性乳化剤仕込量の25%からなる水溶液をそれぞれ5時間および6時間かけて一定の流速で添加した。ついで、80℃の温度をそのまま1時間保って、重合反応を完了した後、冷却した。更に、生成した共重合体ラテックスを水酸化ナトリウムでpHを7に調整した後スチームストリッピング法により未反応の単量体を除去し、200メッシュの金網で濾過し、最終的にはろ液の固形分濃度が40重量%になるように調整して実施例1に用いる親水性共重合体溶液を得た。得られた乳化重合した溶液を60℃で乾燥し親水性共重合体を得た。
【0054】
参考例2〜4
実施例2に用いる親水性共重合体として、表1に示した反応性乳化剤組成を参考例1と同様にして実施例2〜4に用いる親水性共重合体溶液を得た。
【0055】
参考例5
実施例8に用いる親水性共重合体として、表1に示したポリマー組成を参考例1に準じて実施例8に用いる親水性共重合体溶液を得た。
【0056】
実施例1
参考例1で得た(A)成分の親水性共重合体30質量部と、(B)成分としてスチレンブタジエンブロック共重合体(クレイトンD−KX405:シェル化学製)20質量部を、加圧ニーダーを用いて140℃で10分混合後に、 可塑剤として液状ポリブタジエン(B−2000:日本石油化学製)5質量部を加え、さらに(C)光重合性化合物として、トリメチロールプロパントリアクリレート19質量部、オリゴブタジエンアクリレート(共栄社化学製ABU−3:分子量約2700)15質量部、(D)光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール1質量部、および、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.5質量部を10分かけて少しずつ加えて、加え終えてさらに10分間混練し、感光性樹脂組成物を得た。この組成物を取り出し、合成ゴム含有のウレタン架橋系接着剤が15μコートされた厚さ125のポリエチレンテレフタレートフィルム(以下PETと略す)と、厚さ2μのポリビニルアルコール(PVA)層がコートされた厚さ125μのPETの間でサンドイッチしてプレス機を用いて130℃で厚み1.7mmの板状に成形した。このシート状成形物を表面より高さ5cmの距離から8mW/cmの紫外線露光機(光源:フィリップス社製10R)により表裏10分露光して架橋硬化させ、厚さ1.7mmのレーザー彫刻用印刷原版を得た。
【0057】
実施例2及び3
参考例2及び3で得た親水性共重合体35質量部を用いて実施例1と同様にして厚み1.7mmの板状に成形し、厚さ1.7mmのレーザー彫刻用印刷原版を得た。
【0058】
実施例4〜7、9
参考例1で得た(A)成分の親水性共重合体を用いて、表1及び表2の配合組成物で実施例1と同様にして厚み1.7mmの板状に成形し、厚さ1.7mmのレーザー彫刻用印刷原版を得た。なお、実施例7では(B)合成ゴム成分としてスチレン・ポリブタジエン共重合体の代わりにポリブタジエン(日本合成ゴム製BR01)を用いた。
【0059】
実施例8
参考例5で得た(A)成分の親水性共重合体を用いて、表1の配合組成物で実施例1と同様にして厚み1.7mmの板状に成形し、厚さ1.7mmのレーザー彫刻用印刷原版を得た。
【0060】
実施例10
参考例6で得た(A)成分の親水性共重合体を用いて、表1の配合組成物で実施例1と同様にして厚み1.7mmの板状に成形し、厚さ1.7mmのレーザー彫刻用印刷原版を得た。
【0061】
実施例1〜10及び比較例1〜5で得られた厚さ1.7mmのレーザー彫刻用印刷原版印刷原版を作製した。作成したレーザー彫刻用印刷原版をレーザー彫刻装置の版装着ドラムに両面テープで巻き付け、下記の条件でレーザー彫刻を行った。レーザー彫刻開始と同時に、レーザーガン近傍に設置されている集塵機を作動させ、連続的に彫刻した樹脂カスを装置外に排出させた。レーザー彫刻後、装着ドラムから取り外した版を水現像版専用洗出し機(東洋紡積製CRS600で現像液は1%洗濯石鹸水溶液、水温は40℃)で2分間水洗いして、版表面に付着した少量の樹脂カスを除去し、乾燥して印刷版を得た。
【0062】
レーザー彫刻装置はLuescher Flexo社製の300W炭酸ガスレーザーを搭載したFlexPose ! directを用いた。本装置の仕様はレーザー波長10.6μm、ビーム直径30μm、版装着ドラム直径は300mm、加工速度は1.5時間/0.5m2であった。レーザー彫刻の条件は、以下のとおりである。なお、(1)〜(3)は装置固有の条件である。(4)〜(7)は任意に条件設定が可能であり、それぞれの条件は本装置の標準条件を採用した。
(1)解像度:2540dpi
(2)レーザーピッチ:10μm
(3)ドラム回転数:982cm/秒
(4)トップパワー:9%
(5)ボトムパワー:100%
(6)ショルダー幅:0.30mm
(7)レリーフ深度:0.60mm
(8)評価画像:150lpi、0〜100%まで1%刻みの網点
【0063】
得られた印刷版について以下の評価項目を調査した。評価結果を表1に示す。
(1)樹脂カスの付着具合
10倍の拡大ルーペを使用して、印刷版表面への樹脂カスの付着具合を目視により検査し、以下の4段階で示した。
◎:ほとんど付着なし ○:少し付着あり △:かなり付着あり ×:付着激しい
(2)網点の形状
100倍の顕微鏡を用いて網点(150IPiで面積率10%)の形状を顕微鏡で観察した。網点の形状は、円錐状のものが印刷適正、印刷耐性に優れる。
・ :円錐状 △:一部不鮮明 ×:不鮮明
(3)印刷性評価
フレキソ印刷機を用いて印刷を実施し、印刷版表面へのインキのり性を目視により観察した。また、得られた印刷物の画像再現性を10倍の拡大ルーペを使用して目視により確認した。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
表1及び2の評価結果から(A)親水性共重合体及び合成ゴムを含むレーザー彫刻用印刷原版を用いた実施例1〜10では、印刷版表面への樹脂カスの付着が少なく、微小網点の再現性に優れた印刷版が得られていることがわかる。特に(C)成分として分子中に3つ以上のエチレン性不飽和基を有する多官能エチレン性不飽和モノマーを10〜20質量%を含有する場合に特に優れたレーザー彫刻性能であることが分かる。これに対し、反応性乳化剤を用いなかった親水性重合体を用いた比較例1、分子中に3つ以上のエチレン性不飽和基を有する多官能エチレン性不飽和モノマーは配合量が適正な範囲外の比較例2〜5では、印刷版の表面に多量の樹脂カスが付着されたまま残っており、微小網点の再現性も実施例1〜10と比べて劣る。以上の結果から、本発明の印刷原版を使用すればレーザー照射により生ずる樹脂カスの発生、付着、成長を効果的に抑制することができ、印刷不良を生ずることがなく、しかも解像度に優れた印刷版を製造することができることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のレーザー彫刻可能なフレキソ印刷原版は、印刷版作製の際のレーザー照射により生ずる樹脂カスが版表面に付着したまま残ることが非常に少ない。従って、特にフレキソ印刷分野において、印刷版を作成する際のレーザー彫刻用印刷原版として好適に使用することができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、(A)乳化重合で合成された親水性共重合体、(B)合成ゴム、(C)光重合性化合物、及び(D)光重合開始剤を含有する感光性樹脂組成物を光照射し、架橋硬化させることによって得られるレーザー彫刻用印刷原版であって、親水性共重合体(A)がその重量100質量部に対して、反応性乳化剤を1〜20質量部、非反応性乳化剤を1質量部未満用いて乳化重合されたものであることを特徴とするレーザー彫刻可能なフレキソ印刷原版。
【請求項2】
(C)光重合性化合物が少なくとも1つが1分子中に3つ以上のエチレン性不飽和基を有する多官能エチレン性不飽和モノマーを含み、その配合割合が組成物全体に対して5〜25質量%であることを特徴とする請求項1に記載のレーザー彫刻可能なフレキソ印刷原版。
【請求項3】
(C)光重合性化合物が少なくとも(A)合成ゴムと同じ骨格を有し数平均分子量が1000〜5000である光重合性オリゴマー及び1分子中に3つ以上のエチレン性不飽和基を有する多官能エチレン性不飽和モノマーを含んでいることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザー彫刻可能なフレキソ印刷原版。
【請求項4】
(B)の合成ゴムが(A)乳化重合で合成された親水性共重合体及び(C)光重合性化合物と同じ骨格構造を有する合成ゴムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のレーザー彫刻可能なフレキソ印刷原版。



【公開番号】特開2009−241420(P2009−241420A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91004(P2008−91004)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】