説明

レーザー溶着用樹脂組成物、レーザー溶着用成形体および複合成形体

【課題】レーザー溶着用樹脂組成物からなるレーザー溶着用成形体において、そのレーザー透過率を向上させる。
【解決手段】芳香族ポリサルホン樹脂とフィラーとが20〜99:80〜1の質量比で含まれるレーザー溶着用樹脂組成物であって、フィラーが単繊維径10〜50μmのガラス繊維であり、芳香族ポリサルホン樹脂およびガラス繊維の合計100質量部に対して、結晶性樹脂0〜10質量部が配合されている。これにより、フィラーが含まれていても、レーザー溶着に必要なレーザー透過率を保持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー溶着用樹脂組成物、レーザー溶着用成形体および複合成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、2つの熱可塑性樹脂成形体を一体化して複合成形体を得る際に、これらの熱可塑性樹脂成形体同士をレーザー溶着法で安定的かつ高強度に接合するためには、透過側被溶着物(熱可塑性樹脂成形体)にある一定以上のレーザー透過率が要求されることが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
また、機械的特性や耐熱性に優れた結晶性樹脂(ポリフェニレンスルフィド樹脂)に、補強を目的としてフィラーを添加することが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−214931号公報
【特許文献2】特開昭62−142092号公報
【特許文献3】特開2005−15792号公報(段落〔0002〕〔0039〕の欄)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、レーザー溶着に際して、結晶性樹脂やフィラーはレーザー溶着用成形体のレーザー透過率を低下させる原因となるので、レーザー溶着用成形体の用途によっては、必ずしも十分なレーザー透過率を達成することができないという課題がある。
【0006】
また、熱可塑性樹脂成形体同士をレーザー溶着するとき、特に透過側被溶着物の厚みが2mmを超える場合、厚みの増加に伴ってレーザー溶着用成形体のレーザー透過率が低下する。その結果、溶着部への入熱量が減少し、必然的に溶着強度が不足する。そうかと言って、こうした入熱量の減少分を補填すべくレーザー出力を増加させると、レーザー光が溶着部に達する前に透過側被溶着物がレーザー光を吸収して、変色による外観低下や発煙・発火が生じてしまう不都合がある。
【0007】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、フィラーや結晶性樹脂が含まれていてもレーザー溶着に必要なレーザー透過率を保持することができ、ひいては、レーザー出力の増加に起因する透過側被溶着物の変色による外観低下や発煙・発火を未然に阻止することが可能なレーザー溶着用樹脂組成物、レーザー溶着用成形体および複合成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明者は、レーザー溶着用成形体のレーザー透過率を向上させるべく、レーザー溶着用樹脂組成物にフィラーとして含まれるガラス繊維の径や屈折率を規定するとともに、レーザー透過率低下の原因となる結晶性樹脂の配合に上限を定めることに着目し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、請求項1に記載の発明は、芳香族ポリサルホン樹脂とフィラーとが20〜99:80〜1の質量比で含まれるレーザー溶着用樹脂組成物であって、前記フィラーが単繊維径10〜50μmのガラス繊維であり、前記芳香族ポリサルホン樹脂および前記ガラス繊維の合計100質量部に対して、結晶性樹脂0〜10質量部が配合されているレーザー溶着用樹脂組成物としたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記ガラス繊維の屈折率が、1.4〜1.8であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の構成に加え、前記芳香族ポリサルホン樹脂および前記ガラス繊維の合計100質量部に対して、滑剤0.01〜1質量部が添加されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載のレーザー溶着用樹脂組成物からなるレーザー溶着用成形体であって、その厚みが0.5〜6mmであるレーザー溶着用成形体としたことを特徴とする。
【0013】
さらに、請求項5に記載の発明は、透過側被溶着物と吸収側被溶着物とを接触させ、前記透過側被溶着物と前記吸収側被溶着物との界面に前記透過側被溶着物を通じてレーザー光を照射して前記透過側被溶着物と前記吸収側被溶着物とをレーザー溶着することによって得られる複合成形体であって、請求項1乃至3のいずれかに記載のレーザー溶着用樹脂組成物からなるレーザー溶着用成形体を前記透過側被溶着物として用いた複合成形体としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レーザー溶着用樹脂組成物にフィラーとして含まれるガラス繊維の径や屈折率を規定するとともに、結晶性樹脂の配合に上限を定めたことから、フィラーや結晶性樹脂が含まれていても、レーザー溶着に必要なレーザー透過率を保持することができる。
【0015】
したがって、レーザー出力を増加させなくても、透過側被溶着物と吸収側被溶着物との溶着部への入熱量を確保することができる。そのため、レーザー出力の増加に起因する透過側被溶着物の変色による外観低下や発煙・発火を未然に阻止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1に係る複合成形体を示す図であって、(a)はその斜視図、(b)はその拡大断面図である。
【図2】レーザー透過率の測定方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0018】
図1には、本発明の実施の形態1を示す。
【0019】
この実施の形態1に係る複合成形体1は、図1に示すように、透過側被溶着物2と吸収側被溶着物3とが、両者の界面Sでレーザー溶着によって一体に接合されたものである。
【0020】
複合成形体1を製造する際には、透過側被溶着物2と吸収側被溶着物3とを接触させ、両者の界面Sに透過側被溶着物2を通じてレーザー光を照射して透過側被溶着物2と吸収側被溶着物3とをレーザー溶着する。
【0021】
透過側被溶着物2は、レーザー溶着用成形体から構成されており、このレーザー溶着用成形体の厚みは0.5〜6mm(好ましくは、1〜3mm)である。この厚みが0.5mm未満だと、機械的強度や取扱い性に問題が生じるばかりか、成形時の流動性が低下するため、大型部品を成形しにくくなる。逆に、この厚みが6mmを超えると、レーザー溶着用成形体のレーザー透過率が低下するため、溶着に必要なレーザーエネルギーに満たなくなってしまう。
【0022】
このレーザー溶着用成形体は、芳香族ポリサルホン樹脂(ポリエーテルスルホン)、ガラス繊維(フィラー)および滑剤からなるレーザー溶着用樹脂組成物から、射出成形、圧縮成形、押出成形法、中空成形などの成形方法によって成形することができる。
【0023】
芳香族ポリサルホン樹脂とは、アリーレン単位、エーテル結合およびサルホン結合の三者が必須の繰り返し構造単位であって、アリーレン単位がエーテルおよびサルホン結合とともに無秩序にまたは秩序正しく位置するポリアリーレン化合物であり、その屈折率は1.65程度である。
【0024】
この芳香族ポリサルホン樹脂は、340℃、せん断速度1000s-1で測定した溶融粘度が200〜1000Pa・s(好ましくは200〜700Pa・s、さらに好ましくは300〜500Pa・s)の芳香族ポリサルホン樹脂である。芳香族ポリサルホン樹脂の溶融粘度が200Pa・s未満では、レーザー溶着用成形体の強度が低下することがある。逆に、芳香族ポリサルホン樹脂の溶融粘度が1000Pa・sを超えると、樹脂組成物の成形時の流動性が悪化する恐れがある。
【0025】
この芳香族ポリサルホン樹脂の構造単位としては、下記一般式(I)、(II)、(III)のものを例示することができる。
【化1】


(式(I)中、R1は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜10のアルケニル基、フェニル基またはハロゲン原子を表し、pは0〜4の整数である。同一または異なる核上の各R1は相互に異なっていても良い。各pは相互に異なっていても良い。)
【化2】


(式(II)中、R1とpの定義は、式(I)における定義と同じである。)
【化3】


(式(III)中、R1とpの定義は、式(I)における定義と同じである。qは1〜3の整数である。)
【0026】
芳香族ポリサルホン樹脂が、構造単位(I)からなる場合、構造単位(I)中のpは0であることが好ましく、中でも、この構造単位(I)を80モル%以上含むものであることがさらに好ましい。また、芳香族ポリサルホン樹脂が、構造単位(I)および構造単位(II)からなる場合、(I)/(II)のモル比率は、通常0.5〜50、好ましくは0.5〜9、さらに好ましくは0.5〜4である。また、構造単位(I)および構造単位(III)からなる場合、構造単位(III)中のqは1または2であることが好ましく、(I)/(III)のモル比率は、通常0.1〜20、好ましくは0.1〜9、さらに好ましくは0.5〜4である。
【0027】
中でも、構造単位(I)からなるものや、構造単位(I)および構造単位(II)からなるものが好ましく、構造単位(I)からなるものがさらに好ましい。
【0028】
この芳香族ポリサルホン樹脂の製造方法としては、公知の方法を採用することができる。また、市販されている芳香族ポリサルホン樹脂の例としては、構造単位(I)からなるものとしては、住友化学(株)製の「スミカエクセルPES3600P、スミカエクセルPES4100P」などが挙げられる。また、構造単位(I)および構造単位(II)からなるものとしては、Amoco Polymer 社製の「UDEL P−1700」が挙げられる。また、その末端構造は、各々の樹脂の製法に従って決まるものであり、例えば、−Cl、−OH、−OR(Rはアルキル基)などが挙げられる。
【0029】
ガラス繊維は、単繊維径が10〜50μm(好ましくは17〜50μm、さらに好ましくは23〜50μm)、屈折率が1.4〜1.8(好ましくは、芳香族ポリサルホン樹脂の屈折率1.65程度との差が0.2以内の値)のものである。ガラス繊維の単繊維径が10μm未満の場合、レーザー透過率が低下し、逆に、ガラス繊維の単繊維径が50μmを超えると、レーザー溶着用成形体の強度が低下する。
【0030】
芳香族ポリサルホン樹脂とガラス繊維との配合割合は、質量比で20〜99:80〜1(好ましくは、50〜88:50〜12)である。芳香族ポリサルホン樹脂に対してガラス繊維が多いと、レーザー透過率が低下し、逆に、芳香族ポリサルホン樹脂に対してガラス繊維が少な過ぎると、所望の強度を得ることが難しい。
【0031】
滑剤は、プロピレングリコール脂肪酸エステル系化合物、ソルビタン脂肪酸エステル系化合物、グリセリン脂肪酸エステル系化合物から選ばれた1種以上のものである。
【0032】
滑剤の添加量は、芳香族ポリサルホン樹脂およびガラス繊維の合計100質量部に対して、0.01〜1質量部(好ましくは、0.05〜1質量部)である。滑剤の添加量が少ない場合、造粒・成形時における着色防止などの効果が十分でなく、逆に、滑剤の添加量が1質量部を越えると、発煙が発生したり、金型表面の汚染が見られたり、レーザー溶着用成形体が白濁したり、衝撃強度などの物性が低下したりする可能性が生じるため好ましくない。
【0033】
また、吸収側被溶着物3は、透過側被溶着物2に、カーボンブラック、炭素繊維、レーザー吸収性染料などのレーザー吸収性物質を添加したレーザー溶着用成形体から構成されている。
【0034】
このように、透過側被溶着物2や吸収側被溶着物3を構成するレーザー溶着用成形体の材料であるレーザー溶着用樹脂組成物においては、ガラス繊維の径が規定されているため、これより細いガラス繊維を同量になるように多く使った場合と比べて、レーザー光の散乱を低減することができる。その結果、レーザー溶着用成形体のレーザー透過率を向上させることが可能となる。
【0035】
また、このレーザー溶着用樹脂組成物においては、ガラス繊維の屈折率が芳香族ポリサルホン樹脂の屈折率に近い値に規定されているため、レーザー光の直進性を高めることができる。その結果、レーザー溶着用成形体のレーザー透過率を向上させることが可能となる。
【0036】
したがって、透過側被溶着物2と吸収側被溶着物3とのレーザー溶着に際して、レーザー出力を増加させなくても、透過側被溶着物2と吸収側被溶着物3との溶着部への入熱量を確保することができる。そのため、レーザー出力の増加に起因する透過側被溶着物2の変色による外観低下や発煙・発火を未然に阻止することが可能となる。その結果、複合成形体1を製造する際に、複合成形体1の歩留まりを増大させるとともに、作業安全性を高めることができる。
[発明のその他の実施の形態]
【0037】
なお、上述した実施の形態1では、芳香族ポリサルホン樹脂、ガラス繊維および滑剤の三成分からなるレーザー溶着用樹脂組成物について説明したが、これに結晶性樹脂を少量(具体的には、芳香族ポリサルホン樹脂およびガラス繊維の合計100質量部に対して、10質量部以下)配合しても構わない。この場合、レーザー透過率低下の原因となる結晶性樹脂が含まれているとはいえ、その配合量が少ないので、レーザー溶着用成形体のレーザー透過率が大幅に低下する事態を回避することができる。
【0038】
また、上述した実施の形態1では、レーザー溶着用樹脂組成物の一成分としてガラス繊維が含まれている場合について説明した。しかし、ガラス繊維以外のフィラー(例えば、アルミニウム繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、ホウ酸アルミニウムウィスカーなどの繊維状または針状の補強剤、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、クレー、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、アルミナ、ガラスフレーク、ガラスビーズなどの無機充填剤)を添加することもできる。
【0039】
さらに、上述した実施の形態1では、レーザー溶着用樹脂組成物の一成分として滑剤が含まれている場合について説明した。しかし、滑剤以外の添加剤(例えば、フッ素樹脂や金属石鹸類などの離型剤、酸化チタンなど顔料、染料などの着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤など)をレーザー溶着用樹脂組成物の成分として加えてもよい。フェノール系化合物、イオウ系化合物、リン系化合物などの熱安定剤が、芳香族ポリサルホン樹脂およびガラス繊維の合計100質量部に対して、0.01〜1質量部添加されていると、造粒・成形時における着色や透過率低下を防止することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
【0041】
住友化学(株)製の芳香族ポリサルホン樹脂「スミカエクセルPES 3600P」(ガラス転移温度Tg=225℃)80質量部と、オーウェンス・コーニング・ジャパン(株)製のガラス繊維「CS03JAPx−1」(単繊維径10μm、屈折率1.56)20質量部とを混合し、この混合物100質量部に対して、熱安定剤として和光純薬工業(株)製のリン酸トリフェニル0.2質量部を添加した後、(株)池貝製の2軸押出機「PCM−30」を用いて溶融混錬することにより、レーザー溶着用樹脂組成物からなるペレットを作製した。このときの溶融混錬条件としては、この2軸押出機のシリンダー設定温度を330℃とし、スクリュー回転速度を150rpmとした。ここでいうシリンダー設定温度とは、シリンダーの最下流部からシリンダー長の約2/3の部分までに設けられた加熱機器の設定温度の平均値を意味する。表1に組成表を示す。
<実施例2>
【0042】
オーウェンス・コーニング・ジャパン(株)製のガラス繊維「CS03MAFT692」(単繊維径13μm、屈折率1.56)を代用したことを除き、上述した実施例1と同様にして、レーザー溶着用樹脂組成物からなるペレットを作製した。表1に組成表を示す。
<実施例3>
【0043】
日本電気硝子(株)製のガラス繊維「ECS03T−747」(単繊維径17μm、屈折率1.5)を代用したことを除き、上述した実施例1と同様にして、レーザー溶着用樹脂組成物からなるペレットを作製した。表1に組成表を示す。
<実施例4>
【0044】
オーウェンス・コーニング・ジャパン(株)製のガラス繊維「CS03TAFT692」(単繊維径23μm、屈折率1.56)を代用したことを除き、上述した実施例1と同様にして、レーザー溶着用樹脂組成物からなるペレットを作製した。表1に組成表を示す。
<実施例5>
【0045】
住友化学(株)製の芳香族ポリサルホン樹脂「スミカエクセルPES 3600P」(ガラス転移温度Tg=225℃)70質量部と、オーウェンス・コーニング・ジャパン(株)製のガラス繊維「CS03JAPx−1」(単繊維径10μm、屈折率1.56)30質量部とを混合し、この混合物100質量部に対して、熱安定剤として和光純薬工業(株)製のリン酸トリフェニル0.2質量部を添加した後、(株)池貝製の2軸押出機「PCM−30」を用いて溶融混錬することにより、レーザー溶着用樹脂組成物からなるペレットを作製した。このときの溶融混錬条件としては、この2軸押出機のシリンダー設定温度を330℃とし、スクリュー回転速度を150rpmとした。ここでいうシリンダー設定温度とは、シリンダーの最下流部からシリンダー長の約2/3の部分までに設けられた加熱機器の設定温度の平均値を意味する。表1に組成表を示す。
<実施例6>
【0046】
オーウェンス・コーニング・ジャパン(株)製のガラス繊維「CS03MAFT692」(単繊維径13μm、屈折率1.56)を代用したことを除き、上述した実施例5と同様にして、レーザー溶着用樹脂組成物からなるペレットを作製した。表1に組成表を示す。
<実施例7>
【0047】
日本電気硝子(株)製のガラス繊維「ECS03T−747」(単繊維径17μm、屈折率1.5)を代用したことを除き、上述した実施例5と同様にして、レーザー溶着用樹脂組成物からなるペレットを作製した。表1に組成表を示す。
<実施例8>
【0048】
オーウェンス・コーニング・ジャパン(株)製のガラス繊維「CS03TAFT692」(単繊維径23μm、屈折率1.56)を代用したことを除き、上述した実施例5と同様にして、レーザー溶着用樹脂組成物からなるペレットを作製した。表1に組成表を示す。
<実施例9>
【0049】
芳香族ポリサルホン樹脂とガラス繊維との混合物100質量部に対して、さらに、滑剤としてトリステアリン酸グリセロール0.1質量部を添加したことを除き、上述した実施例8と同様にして、レーザー溶着用樹脂組成物からなるペレットを作製した。表1に組成表を示す。
<比較例1>
【0050】
オーウェンス・コーニング・ジャパン(株)製のガラス繊維「03DE FT791A」(単繊維径6μm、屈折率1.56)を代用したことを除き、上述した実施例1と同様にして、レーザー溶着用樹脂組成物からなるペレットを作製した。表1に組成表を示す。
<比較例2>
【0051】
オーウェンス・コーニング・ジャパン(株)製のガラス繊維「03DE FT791A」(単繊維径6μm、屈折率1.56)を代用したことを除き、上述した実施例5と同様にして、レーザー溶着用樹脂組成物からなるペレットを作製した。表1に組成表を示す。
【表1】


<レーザー溶着用成形体のレーザー透過率の測定>
【0052】
レーザー溶着用成形体の厚み、ガラス繊維の単繊維径および滑剤の有無がレーザー溶着用成形体のレーザー透過率に与える影響を調べるため、実施例1〜9および比較例1、2についてそれぞれ、日精樹脂工業(株)製の電動成形機「ES400」を用いて、3種類の厚み(1mm、3mm、5mm)を有する平板(64mm×64mm)のサンプル(レーザー溶着用成形体)を射出成形によって成形し、以下の手順により、各サンプルのレーザー透過率を測定した。
【0053】
まず、図2(a)に示すように、(株)ファインディバイス製のレーザー発振装置5を用いて、波長940nmのレーザー光Bを出力5Wで発振し、オフィール社(Ophir Optronics)製のパワーメーター6でエネルギーE1を測定した。次に、図2(b)に示すように、レーザー発振装置5とパワーメーター6との間にサンプル7をレーザー光Bの進行方向に対して垂直になるように保持し、この状態で、レーザー発振装置5から同じ波長のレーザー光Bを同じ出力で発振し、パワーメーター6でエネルギーE2を測定した。そして、エネルギーE1に対するエネルギーE2の比率を求めることにより、サンプル7のレーザー透過率(単位:%)を算出した。
【0054】
その結果をまとめて表2に示す。
【表2】

【0055】
表2において、実施例1〜4と比較例1とを比べれば明らかなように、芳香族ポリサルホン樹脂とガラス繊維との混合比が80質量部:20質量部である場合、サンプルの厚みを問わず、ガラス繊維の単繊維径が大きいほどレーザー溶着用成形体のレーザー透過率が向上することが判明した。また、芳香族ポリサルホン樹脂とガラス繊維との混合比が70質量部:30質量部である場合も、実施例5〜8と比較例2とを比べれば明らかなように、サンプルの厚みを問わず、ガラス繊維の単繊維径が大きいほどレーザー溶着用成形体のレーザー透過率が向上することが判明した。
【0056】
さらに、実施例8と実施例9との比較から、レーザー溶着用樹脂組成物に滑剤が添加されていると、レーザー溶着用成形体のレーザー透過率が向上することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係るレーザー溶着用成形体は、例えば、コネクター、ソケット、リレー部品、コイルボビン、光ピックアップ、発振子、プリント配線板、コンピューター関連部品、等の電気・電子部品;ICトレー、ウエハーキャリヤー、等の半導体製造プロセス関連部品;VTR、テレビジョン受像機、アイロン、エアコン、ステレオ、掃除機、冷蔵庫、炊飯器、照明器具、等の家庭電気製品部品;ランプリフレクター、ランプホルダー、等の照明器具部品;コンパクトディスク、レーザーディスク(登録商標)、スピーカー、等の音響製品部品;光ケーブル用フェルール、電話機部品、ファクシミリ部品、モデム、等の通信機器部品;分離爪、ヒータホルダー、等の複写機関連部品;インペラー、ファン、歯車、ギヤ、軸受け、モーター部品及びケース、等の機械部品;自動車用機構部品、エンジン部品、電池部品、エンジンルーム内部品、電装部品、内装部品、エアインテークマニホールド、インタークーラーインレット、エキゾーストパイプカバー等の吸排気系部品、等の自動車部品;マイクロ波調理用鍋、耐熱食器、等の調理用器具;床材、壁材などの断熱、防音用材料、梁、柱などの支持材料、屋根材、等の建築資材または土木建築用材料;航空機部品、宇宙機部品、原子炉などの放射線施設部材、海洋施設部材、洗浄用治具、光学機器部品、バルブ類、パイプ類、ノズル類、フィルター類、膜、医療用機器部品及び医療用材料、センサー類部品、サニタリー備品、スポーツ用品、レジャー用品その他に広く適用することができる。
【0058】
また、本発明に係る複合成形体は、厚みが2mmを超えるような大型成形体としての使用が好適であり、その例として、内部に液体を通じたり保持したりするための部材、特に燃料タンクや電池部品などの自動車部品その他を挙げることができる。
【符号の説明】
【0059】
1……複合成形体
2……透過側被溶着物
3……吸収側被溶着物
5……レーザー発振装置
6……パワーメーター
7……サンプル
S……界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリサルホン樹脂とフィラーとが20〜99:80〜1の質量比で含まれるレーザー溶着用樹脂組成物であって、
前記フィラーが単繊維径10〜50μmのガラス繊維であり、
前記芳香族ポリサルホン樹脂および前記ガラス繊維の合計100質量部に対して、結晶性樹脂0〜10質量部が配合されていることを特徴とするレーザー溶着用樹脂組成物。
【請求項2】
前記ガラス繊維の屈折率が、1.4〜1.8であることを特徴とする請求項1に記載のレーザー溶着用樹脂組成物。
【請求項3】
前記芳香族ポリサルホン樹脂および前記ガラス繊維の合計100質量部に対して、滑剤0.01〜1質量部が添加されていることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザー溶着用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のレーザー溶着用樹脂組成物からなるレーザー溶着用成形体であって、その厚みが0.5〜6mmであることを特徴とするレーザー溶着用成形体。
【請求項5】
透過側被溶着物と吸収側被溶着物とを接触させ、前記透過側被溶着物と前記吸収側被溶着物との界面に前記透過側被溶着物を通じてレーザー光を照射して前記透過側被溶着物と前記吸収側被溶着物とをレーザー溶着することによって得られる複合成形体であって、
請求項1乃至3のいずれかに記載のレーザー溶着用樹脂組成物からなるレーザー溶着用成形体を前記透過側被溶着物として用いたことを特徴とする複合成形体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−208017(P2011−208017A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77289(P2010−77289)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】