説明

レーザー溶着用継手及びそれを用いたパイプ形状品の接続方法

【課題】パイプ形状品の肉厚が厚くなる場合に、レーザー強度を高くしたり、レーザー照射時間を長くしなくても、十分な溶着強度及び耐圧強度が得られる継手形状を考案し、提供すること。
【解決手段】パイプ形状品をレーザー溶着により接合するための継手であって、レーザー光を透過する樹脂部材からなり、パイプ形状品が挿入される部分において、その肉厚が薄いレーザー光を透過させる部分と、肉厚が厚い補強部分とを含む継手。補強部分が継手のパイプ形状品挿入部分に複数の円周環状リブとして形成され、当該複数の円周環状リブの間に円周環状に肉薄のレーザー光透過部分が形成されている継手。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光を照射して樹脂部材からなるパイプ形状品と樹脂部材からなる継手を溶着させるパイプ形状品のレーザー溶着用継手およびその継手を用いたレーザー溶着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本件出願人は、樹脂部材からなるパイプを接合する方法として、レーザー光に対して吸収性を有する樹脂部材からなるパイプ形状品を、レーザー光に対して透過性を有する樹脂部材からなる継手に挿入し、該継手側からレーザー光を照射して両者をレーザー溶着することを特徴とするパイプ形状品の接合方法を提案している(特許文献1)。
【0003】
このレーザー溶着方法によれば、従来の熱溶着の場合に垂れ、強い溶剤による環境安全性問題、コストの問題、さらに薄肉パイプの融着の困難性を解決でき、また、溶剤接着剤の場合に比べて高い接合強度で接合することができるので、ガスパイプ用等に好適に利用でき、また、機械的な接合方法と比べて、機密性が高くできる点で優れている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−090628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の継手は、パイプ形状品がレーザー光を透過させる薄肉の部材の場合には有効である。しかし、中圧用ガスパイプは耐圧強度を高くするため、パイプの厚みを大きくする必要があり、同様に継手も厚みが大きくなるが、そうするとレーザーの透過率が極端に低下するため、従来のレーザー強度では、パワーが足りないため、溶着に長時間を要するし、溶着強度も不十分になってしまうという問題が出てきた。
【0006】
そこで、本発明は、従来のレーザー強度でも十分な溶着強度及び耐圧強度が得られる継手、そのような継手を用いたパイプ形状品の継手接続方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、レーザー溶着法を用いて、接合される、樹脂パイプ用の継ぎ手であって、複数のリブ部を有し、樹脂継ぎ手のレーザー光が透過され溶着される溶着部の肉厚みが、樹脂パイプの肉厚みより薄く、配管と接合された後の耐圧強度が配管以上の強度がある継ぎ手形状製品を提供する。具体的には、本発明は下記を提供する。
【0008】
(1)パイプ形状品をレーザー溶着により接合するための継手であって、レーザー光を透過する樹脂部材からなり、パイプ形状品が挿入される部分に肉厚が薄いレーザー光を透過させる部分と肉厚が厚い補強部分を繰り返して形成した部分を含むことを特徴とする継手。
【0009】
(2)補強部分が継手のパイプ形状品挿入部分に複数の円周環状リブとして形成され、当該複数の円周環状リブの間に円周環状に肉薄のレーザー光透過部分が形成されていることを特徴とする、上記(1)に記載の継手。
【0010】
(3)前記複数の円周環状リブの外径が少なくとも部分的に継手のパイプ形状品挿入端部に向って小さくされて、パイプ形状品挿入部分に可撓性が付与されていることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の継手。
【0011】
(4)パイプ形状品挿入部分の内側奥に、パイプ形状品の端面と当接する受け部が設けられており、パイプ形状品の端面と受け部の当接面がレーザー溶着により接合される溶着部となることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の継手。
【0012】
(5)複数の円周環状リブの肉厚とレーザー光透過部分の肉厚の比が3:2〜3:1の範囲内であることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の継手。
【0013】
(6)継手のパイプ形状品挿入部分の長さが、パイプ形状品挿入部分の内径の70〜120%であることを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の継手。
【0014】
(7)継手のパイプ形状品挿入部分の挿入端側に、円周環状リブ及びその間のレーザー光透過部分からなる部分が存在しない部分が、パイプ形状品の外径の10〜50%の長さで存在することを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の継手。
【0015】
(8)複数の円周環状リブの肉厚が挿入されるパイプ形状品の肉厚の30〜200%の肉厚であり、レーザー光透過部分の肉厚がパイプ形状品の肉厚の30〜70%の肉厚であることを特徴とする、上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の継手。
【0016】
(9)円周環状リブ及びレーザー光透過部分の幅が、それぞれ、パイプ形状品の肉厚の20〜100%であることを特徴とする、上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の継手。
【0017】
(10)パイプ形状品の肉厚が、パイプ形状品の外径の1/11〜1/25の寸法であることを特徴とする、上記(8)又は(9)に記載の継手。
【0018】
(11)レーザー光透過部分の肉厚がパイプ形状品の肉厚より薄く、継手とパイプ形状品を溶着した後の継手部分の耐圧強度がパイプ形状品の耐圧強度以上であることを特徴とする、上記(1)〜(10)のいずれか1項に記載の継手。
【0019】
(12)上記(1)〜(11)のいずれか1項に記載の継手のパイプ形状品挿入部分に、パイプ形状品を挿入し、レーザー光透過部分を介してレーザー光を透過させて、継手とパイプ形状品を溶着することを特徴とするパイプ形状品の継手による接続方法。
【0020】
(13)上記(1)〜(11)のいずれか1項に記載の継手を用いてパイプ形状品をレーザー溶着して得られるパイプ形状品。
【0021】
(14)上記(12)に記載の方法を用いて継手でパイプ形状品をレーザー溶着して得られるパイプ形状品。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
代表的なレーザー光透過性樹脂の例として樹脂1(PA12)の肉厚とレーザー光透過率の関係を下記表1に示す。また樹脂1の肉厚とレーザー光透過率と関係を図1に示す。
【表1】

【0023】
表1及び図1に見られるように、樹脂の肉厚の厚みが増すと、レーザー光透過率は急激に減少する。したがって、耐圧強度を高めるためにパイプの肉厚を大きくする必要があるが、同様に継手も肉厚が大きくなるが、そうするとレーザー光の透過率が極端に低下するために、従来のレーザー強度ではパワーが不足して、溶着に長時間を要するし、溶着強度も不十分になってしまうという問題が発生する。本発明は、このような問題に対処するものであり、その要点は、継手のパイプ形状品が挿入される部分に、肉厚が薄いレーザー光を透過させる部分と肉厚が厚い補強部分を繰り返して形成した部分を含むように構成することにある。
【0024】
図2は、典型的な継手の縦断面図である。レーザー光透過性の樹脂で作成した継手1にレーザー不光透過性の樹脂で作成したパイプ2を挿入し、継手1の外側からレーザー光を照射し、継手1の樹脂を透過したレーザー光をパイプ2の樹脂で吸収させ、その熱で樹脂を溶融させて、継手1とパイプ2を溶着させる。継手1の肉厚はパイプ2の肉厚と同じでなければ同等の耐圧強度が得られない。図2は継手の中央部から端部にかけて肉厚が薄くなっているが、同じ厚さでも構わない。
【0025】
継手の肉厚を厚くすると上記のようにレーザー光が透過しづらくなるので、レーザー光が透過する部分の肉厚を薄くして、尚且つ耐圧強度が維持される形状を模索した。図3に、そのような試作継手の図2の右上部分に相当する部分を拡大した図を示す(A,B,C)。
【0026】
図3Aは本発明の実施例である。継手のパイプ2の挿入部分11にレーザー光を透過させる円環状の溝12を形成し、円環状の溝12の間に補強部分として円環状リブ13を形成した。このように、継手のパイプ2の挿入部分11にレーザー光透過部分(円環状溝12の下方部分)と補強部分(円環状リブ13)を複数形成することで、継手としてレーザー光は透過するが、耐圧強度に優れた継手を形成することができた。
【0027】
本発明の継手では、継手のレーザー光透過部分の肉厚が補強部分の肉厚より小さいことを特徴とする。より特定的には、継手のレーザー光透過部分の肉厚は、パイプ2の肉厚より小さくすることで、本発明の効果は得られる。レーザー光透過部分の肉厚をパイプの肉厚より小さくしながら、補強部分を設けることで、レーザー光透過性と耐圧強度を両立させることが本発明の目的であり、効果である。レーザー光透過部分(円環状溝12)の肉厚はパイプ2の肉厚の30〜70%が好ましく、より好ましくは40〜60%であり、最適には50%付近である。レーザー光透過部分の肉厚が小さすぎると補強部分が存在しても継手の耐圧強度が低下し、レーザー光透過部分の肉厚が大きすぎるとレーザー光透過性が低下する。
【0028】
継手の補強部分の肉厚はパイプの肉厚より大きいことで本発明の効果は得られる。継手部分の耐圧強度をパイプの耐圧強度と同等にするためには、継手の少なくとも補強部分の肉厚はパイプの肉厚より大きい必要がある。補強部分(円環状リブ13)の肉厚はパイプ2の肉厚の30〜200%が好ましく、より好ましくは70〜150%であり、複数の補強部分のうち少なくとも50%以上、好ましくは、80%以上が補強部分の肉厚がパイプの肉厚より大きいことが望ましい。継手の補強部分の肉厚が小さいと補強の効果がなく、補強部分の肉厚が大きくても無駄であるか、むしろ補強部分自体が脆弱になる。
【0029】
なお、パイプの肉厚は、一般的には、パイプの外径の1/11〜1/25の寸法にされることが好ましいが、各種規格により決定され、限定されない。
【0030】
レーザー光透過部分の幅は、パイプの肉厚の20〜100%が好ましい。補強部分の幅も、パイプの肉厚の20〜100%が好ましい。いずれもパイプの肉厚の40〜60%がより好ましい。レーザー光透過部分の幅が大きいと、補強部による補強効果が小さくなる。補強部分の幅が小さいと補強効果が小さくなり、補強部分の幅が大きいとレーザー光溶着部分が減少して溶着強度が低下する。
【0031】
レーザー光透過部分(円環状溝)及び補強部分(円環状リブ)の数は、限定されず、複数であればよい。レーザー光透過部分と補強部分が存在する部分の合計長さは、限定されないが、継手のパイプ挿入部分の長さの50%以上が好ましく、50〜90%がより好ましく、60〜80%がさらに好ましい。レーザー光透過部分と補強部分が存在する部分の合計長さが短いと十分な溶着強度が得られない。なお、レーザー溶着はレーザー光透過部分(円環状溝)のすべての部分について行なう必要はない。
【0032】
継手のパイプ挿入部分の長さは、パイプ外径の70〜120%が好ましい。継手のパイプ挿入部分の長さが小さいと継手部分の強度が小さくなり、継手のパイプ挿入部分の長さが大きすぎると、余分な作業を要しさらに剛直になり可撓性を阻害するなどの不都合がある。
【0033】
レーザー光透過部分及び補強部分の形状は特に限定されないが、円環状の溝及びリブが好ましい。円環状の溝及びリブは、完全な円環状ではなく、螺旋状などでもよい。また、円環状の溝及びリブの断面形状も特に限定されず、たとえば、溝の隅部にアール(R)をつけ、応力集中を分散する形状を付加してもよい。
【0034】
補強部分あるいは円環状リブのパイプ挿入部直径方向の大きさ(円環状リブの外径寸法又は最大寸法という。)は、継手の中央部分からパイプ挿入端部へ向って、少なくとも部分的に漸次小さくすることで、継手に応力分散、可撓性、靭性を付与することができて、好ましい。円環状リブの外径寸法が漸次小さくなる部分は、継手のパイプ挿入部分の全部である必要はない。円環状リブの外径寸法は、継手の中央部分付近では必要に応じて一定であり、次いで端部に向って漸次小さくなり、その後再び必要に応じて一定でよい(図3A参照)。さらに、継手のパイプ挿入部分のうち端部付近は円環状リブを形成しなくてもよい。端部付近では円環状リブの外径が円環状溝部分の外径に近い寸法になるので、補強効果が小さいので省略することができるし、継手の内圧からの応力分散、外力に対する可撓性、靭性の観点からも望ましい。継手の端部付近の補強部分を形成しない部分の肉厚はレーザー光透過部分の肉厚と同様であることが好ましく、その部分の長さは、パイプ外径の10〜50%が好ましい。この寸法が大きすぎると、レーザー光透過部分と補強部分を形成する部分の長さが不足して、継手でパイプを接続した場合に耐圧強度が不足するおそれがある。
【0035】
継手のパイプ挿入部分の内径は、パイプの外径と同じか僅かに小さく、隙間がないことが好ましい。
【0036】
継手のパイプ挿入部分の内側の中央部分には、パイプの先端が当接する受け部14を設けることが好ましい。受け部14に対してパイプ2の先端と面接触させて、レーザー光を接触面に垂直な方向からレーザー光を照射してその部分でも溶着することで、溶着強度を顕著に向上させる効果がある。
【0037】
図2では二方継手を示したが、三方継手その他の継手でも本発明は同様に適用できることは明らかである。
【0038】
このような図3Aの形状の継手の実施例として、外径50mm、肉厚5mmのポリアミド樹脂製パイプを接続するための継手を作成した。継手の形状は図2及び図3Aに示すとおりであり、継手のパイプ挿入部分の長さは65mm、レーザー光透過部分(円環状溝部分)12の外径は55mm(肉厚2.5mm)、幅は3mm、溝部分12の個数は合計9個、補強部分(円環状リブ)13の幅は3mm、外径は継手の中央部では65mm(肉厚5mm)、中央から3個目から7個目まで外径を次第に小さくし、最後の2個の外径は60mm(肉厚2.5mm)、リブ13の個数は合計9個、円環状リブが存在しない端部部分15の外径は55mm(肉厚2.5mm)、長さは15mmとした。パイプの先端部は45度に面取りし、対応して継手の受け部14も45度に傾斜している。図3Aと対称的に左側にも同様の形状を作成した。
【0039】
この継手の両側の端部から、外径50mm、内径40mm(肉厚5mm)のポリアミド樹脂製パイプを挿入し、円環状溝部分12を介してレーザー光透過部分にレーザー光16( 半導体レーザー;波長915nm;照射量16J/mm,ビーム径3mm)を走査してレーザー溶着した。また受け部14にもレーザー光を照射してパイプ先端と溶着させた。レーザー光透過部分(円環状溝部分)12の継手の肉厚が小さいので、レーザー光のパワーが小さくて済み、レーザー光の照射時間も短くて済む。
【0040】
得られた継手で接続したパイプに水圧をかけて耐圧試験を行ったところ、パイプの部分で破壊したり、継手の部分で破壊したり、破壊箇所は一定せず、パイプ本体と継手接続部分の耐圧強度が同等であることを示した。
【0041】
パイプあるいは継手部分の耐圧強度は、パイプの径に対する肉厚の比あるいは同様に対応する継手部分の相対的な径及び肉厚で決まるので、上記の外径50mm、肉厚5mmのパイプを用いた実験の結果は、同じ相対寸法の大径のパイプと継手にも、全く同様に適用できる。したがって、たとえば、外径168mm、肉厚15mmのパイプと、対応する継手の場合にも、図3の形状の継手を用いた場合には、上記と同様に、耐圧強度はパイプ本体と継手部分とで同等であることが実証されたことになる。
【0042】
レーザー光の透過性に関しては、同じ肉厚のパイプに使用する継手として、パイプの肉厚と同じぐらいの肉厚の継手と比べて、本発明のパイプの肉厚より実質的に薄いレーザー透過部分を有する継手の方が、レーザー光透過性に優れることは明らかである。図1あるいは表1が参照される。
【0043】
したがって、本発明の効果は明らかであり、上記の実験により実証された。
【0044】
本発明の継手は、レーザー透過部分のみが薄肉であることで、パイプと同じかそれより厚い肉厚の溶着部分だけを有する継手に比較して、透過損失が少なく、レーザー溶着に必要なエネルギーが低く済み、レーザーパワー能力が小さいもので済み、溶着機器設備も安価ですみ、レーザーパワー同じであれば溶着速度が向上し、 溶着時間が短縮され、厚肉による溶着強度のバラツキ少なく、溶着部の信頼度が増加し、溶着部の薄肉部分の不足強度は溶着部周辺のリブ゛形状で強度が担保されるなどの、有利な効果をもたらす。
【0045】
また、軽量、薄肉であることから、継ぎ手成形時のヒケ、ソリ等の変形がすくなく寸法精度が良く、また成形サイクルも向上する。また、接合された円筒管の軸線方向に対して、直行方向の、曲げ変形に対して、継ぎ手形状が可とう性のある形状であるので、曲げに対してたわみ量が大きく、土中の土圧や外的荷重、地震等の繰り返し大変形に対して有利である等の利点を有する。
【0046】
図3のB及びCは、継手のパイプ挿入部分の肉厚を薄くして、レーザー光透過性を高める形状であり、Bは継手の内側を削って肉厚を薄くした形状であり、Cは継手の内側と外側の両方を削って肉厚を薄くした形状である。前記と同様に、外径50mm、肉厚5mmのパイプ用にこれらの形状の継手を実際に作成した。継手のパイプ挿入部分の肉厚は2.5mmとした。この継手とパイプをレーザー溶着し、耐圧試験をしたところ、継手部分の耐圧強度が不足して常に継手部分がパイプの耐圧強度より低い圧力で破壊された。
【0047】
本発明における継手は、レーザー光に対して透過性を有する樹脂部材からなる。
レーザー光に対して透過性を有する樹脂としては、熱可塑性を有し、パイプ形状品用継手に成形可能で、レーザー光に対して透過性を示すものであれば特に限定されない。例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、あるいはエチレン、プロピレンなどの共重合体などのポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、あるいはスチレン、塩化ビニル、メチルメタクリレート、塩化ビニリデンなどの共重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルフォン、ポリイミドなどの縮合系のエンジニアリングプラスチック等の樹脂を挙げることができる。なお、必要に応じて、ガラス繊維やカーボン繊維等の補強繊維を添加したものを用いてもよい。
【0048】
ここで、レーザー光に対して透過性を有するとは、たとえば一部のレーザー光の吸収があっても、残りのレーザー光が透過し、その部分の樹脂が溶融しない透過性をいう。
【0049】
特に、耐薬品性・靭性が必要な自動車用パイプや可燃性ガス供給および/又は輸送用パイプ用などの継手には、ポリアミド樹脂または、ポリアミド樹脂を主成分とするポリアミド樹脂組成物が好適に用いられる。
【0050】
前記ポリアミド樹脂としては、ジアミンと二塩基酸とからなるか、またはラクタムもしくはアミノカルボン酸からなるか、またはこれらの2種以上の共重合体からなるものが挙げられる。
【0051】
ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンや、メタキシリレンジアミン等の芳香族・環状構造を有するジアミンが挙げられる。
【0052】
ジカルボン酸としては、アジピン酸、ヘプタンジカルボン酸、オクタンジカルボン酸、ノナンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジアミンやテレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族・環状構造を有するジカルボン酸が挙げられる。
【0053】
ラクタムとしては、炭素数6〜12のラクタム類であり、また、アミノカルボン酸としては炭素数6〜12のアミノカルボン酸である。6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、α−ピロリドン、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、ε−エナントラクタム等が挙げられる。
【0054】
特に、パイプ用継手としては、加工温度範囲が広く、熱的に安定な押出加工性に優れた材料が好ましく、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612などの比較的融点の低いホモポリマーや、ポリアミド6/66、ポリアミド6/12、ポリアミド11/12などのコポリマーが好適に使用される。特に粘度や吸水性の点でポリアミド11、ポリアミド12が望ましい。
【0055】
また、上記ポリアミド樹脂は、他のポリアミド樹脂またはその他のポリマーとの混合物であってもよい。混合物中のポリアミド樹脂の含有率は、50重量%以上が好ましい。
【0056】
混合するポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド912、ポリアミド1010、ポリアミド1212、ポリアミド6/66共重合、ポリアミド6/12共重合、ポリアミド11/12共重合等を挙げることができる。また、その他のポリマーとしては、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネ−ト、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を挙げることができる。
【0057】
上記樹脂には、無機または有機充填材、耐熱剤、耐候剤、結晶核剤、結晶化促進剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤等の機能性付与剤を添加してもよい。
【0058】
また、上記樹脂にレーザー光に対して透過性を示す着色材を添加してもよい。例えば、アンスラキノン系染料、ペリレン系、ペリノン系、複素環系、ジスアゾ系、モノアゾ系等の有機系染料をあげることができる。また、これらの染料を混合させて用いてもよい。
【0059】
本発明において用いられるパイプ形状品は、レーザー光に対して透過性又は吸収性を有する樹脂部材からなる。
【0060】
少なくともパイプ形状品がレーザー光に対して透過性の樹脂部材からなる場合には、継手とパイプ形状品の間にレーザー光に対して吸収性の樹脂部材を介在させる。前記したレーザー光に対して吸収性の樹脂部材は、樹脂と樹脂に分散したレーザー光に対して吸収性を有する添加剤とからなる。
【0061】
ここで、レーザー光に対して吸収性とは、レーザー光を受けた部分がレーザー光を吸収し、その部分が溶融するような吸収性をいう。
【0062】
パイプ形状品に用いられる樹脂としては、熱可塑性を有し、ガスパイプ等のパイプ形状品に成形可能であれば特に限定されない。例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、あるいはエチレン、プロピレンなどの共重合体などのポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、あるいはスチレン、塩化ビニル、メチルメタクリレート、塩化ビニリデンなどの共重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルフォン、ポリイミドなどの縮合系のエンジニアリングプラスチック等の樹脂に、レーザー光に対して吸収性を有する着色材を混入したものを挙げることができる。なお、必要に応じて、ガラス繊維やカーボン繊維等の補強繊維を添加したものを用いてもよい。具体的には、前記継手との接着性を考慮して、前記継手に用いられる樹脂と同種の樹脂を用いることが好ましい。
【0063】
また、上記以外の成分、たとえば、無機または有機充填剤、耐熱剤、耐候剤、結晶核剤、結晶化促進剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤等の機能性付与剤を添加してもよい。
【0064】
また、レーザー光に対して吸収性を有する添加剤としてはそのような性質を有するものであればどのようなものでも利用可能であるが、具体的には、カーボンブラック、複合酸化物系顔料等の無機系着色材、フタロシアニン系顔料、ポリメチン系顔料等の有機系着色材が用いられる。
【0065】
パイプ形状品がレーザー光に対して吸収性の樹脂部材からなる場合は、照射されるレーザー光に対して好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下の透過率を有することが望ましい。透過率が10%を超えて大きくなると、照射されたレーザー光が透過することによりパイプ形状品に吸収されるレーザー光のエネルギーが減少するとともに、レーザー光のエネルギーのロスが生じるようになるためである。
【0066】
本発明においては、継手とパイプ形状品の間に第三部材を介在させることができる。
パイプ形状品がレーザー光に対して透過性の樹脂部材からなる場合には、第三部材は、レーザー光に対して吸収性とする。この場合、第三部材は、レーザー光に対して吸収性の添加剤を含有していればよく、樹脂と樹脂に分散したレーザー光に対して吸収性の添加剤とからなっていてもよい。パイプ形状品がレーザー光に対して吸収性の場合には、第三部材は、樹脂および/又はレーザー光に対して吸収性の添加剤とからなる。
【0067】
第三部材が樹脂を含む場合、樹脂は、継手及び/又はパイプ形状品と同じ樹脂を用いるか、継手及びパイプ形状品と相溶性を有する樹脂を用いる。
【0068】
なお、継手又はパイプ形状品と相溶性を有するとは、第三部材の樹脂と継手又はパイプ形状品の樹脂の溶解度パラメーターの差が小さい、具体的には、1.4以下、好ましくは、1.2以下、より好ましくは、1.0以下であり、両者の分子鎖が混ざり合うことが可能であることをいう。
【0069】
ここで溶解度パラメーター(Sp)値はFedorsの方法(R.F.Fedors,Poly.Eng.and Sci.,14(2),147(1974)などの文献を参照)によりポリマーの骨格より算出される。
【0070】
第三部材の形状としては、フィルム、シート、塗膜、粉末又はペーストとすることができる。継手とパイプ形状品の間に第三部材を介在させる方法としては、塗料を塗布する場合や、フィルムやシートを挟み込む方法などを採用できる。塗布する場合、継手及びパイプ形状品の片方でも両方でも良い。また、フィルムやシートを挟み込む場合、単純に挟み込むこともできるが、継手又はパイプ形状品にあらかじめインサート成形や二色成形により貼り付けても良い。
【0071】
第三部材の厚みは、工法や吸収性を有する添加剤の濃度により変わるが、通常1〜2000μm、好ましくは、5〜1000μmである。第三部材の厚みが2000μmを超えると、第三部材の全体を加熱溶融させることが著しく困難となり、またたとえ第三部材の全体を加熱溶融させることができたとしても、レーザ光の照射時間等、エネルギー的に非効率となる。一方、第三部材の厚みが1μm未満になると、第三部材を介して継手及びパイプ形状品を接合させるという第三部材本来の作用効果を期待できなくなるので好ましくない。
【0072】
また、第三部材には、無機または有機充填剤、耐熱剤、耐候剤、結晶核剤、結晶化促進剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤等の機能性付与剤を添加してもよい。
【0073】
第三部材におけるレーザー光に対して吸収性を有する添加剤としては、カーボンブラック、複合酸化物系顔料等の無機系着色材、フタロシアニン系顔料、ポリメチン系顔料等の有機系着色材が用いられる。
【0074】
第三部材が樹脂とレーザー光に対して吸収性の添加剤からなる場合は、照射されるレーザー光に対して好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下の透過率を有することが望ましい。透過率が10%を超えて大きくなると、照射されたレーザー光が透過することにより第三部材に吸収されるレーザー光のエネルギーが減少するとともに、レーザー光のエネルギーのロスが生じるようになるためである。
【0075】
本発明のレーザー溶着法によってパイプ形状品と継手を接合することにより、より高い接合強度を実現できる効果を得ることができるが、レーザー溶着法自体によれば、垂れとコストの問題、さらに薄肉パイプの融着の困難性を解決できる効果を有する。特に、樹脂がポリエチレン(PE)の場合には高分子量で高粘度の材料が製造しやすため、垂れが発生しにくいが、ポリアミド(PA)の場合は、工業的に粘度上昇に限界があり、また吸水による更なる粘度低下の問題もあり、垂れが発生しやすいので、このレーザー溶着法が適している。
【0076】
レーザー溶着に用いられるレーザー光としては、ガラス:ネオジム3+レーザー、YAG:ネオジム3+レーザー、ルビーレーザー、ヘリウム−ネオンレーザー、クリプトンレーザー、アルゴンレーザー、H2レーザー、N2レーザー、半導体レーザー等のレーザー光をあげることができる。より好ましいレーザーとしては、半導体レーザーである。
【0077】
レーザー光の波長は、接合される樹脂材料により異なるため一概に決定できないが、400nm以上であることが好ましい。波長が400nmより短いと、樹脂が著しく劣化する。
【0078】
また、レーザー光の照射量は下記の式で表され、走査速度とレーザー光の出力により調整できる。レーザー光の照射量が低いと樹脂材料の接合面を互いに溶融させることが困難となり、照射量が高いと樹脂材料が蒸発したり、変質し強度が低下する問題が生じるようになる。
【0079】
レーザー照射量(J/mm)=レーザー出力(W)/走査速度(mm/sec)
【0080】
本発明の継手を用いて、パイプ形状品を接続する場合、継手のパイプ形状品挿入部分にパイプ形状品を挿入し、継手の外側から継手のレーザー光透過部分を介してパイプ形状品にレーザー光を照射して、レーザー光不透過性(レーザー光吸収性)であるパイプ形状品の側の発熱を利用して継手とパイプ形状品をレーザー溶着する。レーザー光は、円環状溝の部分に照射して、その下にある継手のレーザー光透過部分を通過させることで、レーザー溶着を行なう。パイプ形状品を接続する場合、レーザー光透過部分(円環状溝)のすべての部分にレーザー光を照射する必要はない。所望の溶着強度が得られればよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、可燃性ガス供給または輸送パイプ他内圧を持つ樹脂パイプの継手に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】樹脂の厚みとレーザー光の透過率との関係を示すグラフである。
【図2】継手の概略形状を示す縦断面図である。
【図3】本発明の実施例の継手の特徴部分を拡大して示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0083】
1 継手
2 パイプ
11 継手の本体
12 レーザー光透過部分(円環状溝)
13 補強部(円環状リブ)
14 パイプ先端受け部
15 リブなし部分
16 レーザー光
21、22 継手本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプ形状品をレーザー溶着により接合するための継手であって、レーザー光を透過する樹脂部材からなり、パイプ形状品が挿入される部分に肉厚が薄いレーザー光を透過させる部分と肉厚が厚い補強部分を繰り返して形成した部分を含むことを特徴とする継手。
【請求項2】
補強部分が継手のパイプ形状品挿入部分に複数の円周環状リブとして形成され、当該複数の円周環状リブの間に円周環状に肉薄のレーザー光透過部分が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の継手。
【請求項3】
前記複数の円周環状リブの外径が少なくとも部分的に継手のパイプ形状品挿入端部に向って小さくされて、パイプ形状品挿入部分に可撓性が付与されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の継手。
【請求項4】
パイプ形状品挿入部分の内側奥に、パイプ形状品の端面と当接する受け部が設けられており、パイプ形状品の端面と受け部の当接面がレーザー溶着により接合される溶着部となることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の継手。
【請求項5】
複数の円周環状リブの肉厚とレーザー光透過部分の肉厚の比が3:2〜3:1の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の継手。
【請求項6】
継手のパイプ形状品挿入部分の長さが、パイプ形状品挿入部分の内径の70〜120%であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の継手。
【請求項7】
継手のパイプ形状品挿入部分の挿入端側に、円周環状リブ及びその間のレーザー光透過部分からなる部分が存在しない部分が、パイプ形状品の外径の10〜50%の長さで存在することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の継手。
【請求項8】
複数の円周環状リブの肉厚が挿入されるパイプ形状品の肉厚の30〜200%の肉厚であり、レーザー光透過部分の肉厚がパイプ形状品の肉厚の30〜70%の肉厚であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の継手。
【請求項9】
円周環状リブ及びレーザー光透過部分の幅が、それぞれ、パイプ形状品の肉厚の20〜100%であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の継手。
【請求項10】
パイプ形状品の肉厚が、パイプ形状品の外径の1/11〜1/25の寸法であることを特徴とする、請求項8又は9に記載の継手。
【請求項11】
レーザー光透過部分の肉厚がパイプ形状品の肉厚より薄く、継手とパイプ形状品を溶着した後の継手部分の耐圧強度がパイプ形状品の耐圧強度以上であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の継手。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の継手のパイプ形状品挿入部分に、パイプ形状品を挿入し、レーザー光透過部分を介してレーザー光を透過させて、継手とパイプ形状品を溶着することを特徴とするパイプ形状品の継手による接続方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の継手を用いてパイプ形状品をレーザー溶着して得られた、継手で接続されたパイプ形状品。
【請求項14】
請求項12に記載の方法を用いて継手でパイプ形状品をレーザー溶着して得られた、継手で接続されたパイプ形状品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−249090(P2008−249090A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94276(P2007−94276)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】