説明

レーザ加工ヘッド

【課題】レーザピーニング処理において、プラズマ発生時の爆風からミラーを保護し、ミラーの耐久性を高めて、安定したレーザピーニング処理を行えるレーザ加工ヘッドを提供する。
【解決手段】管状部材(コモンレール1)の内面をレーザピーニング処理する際に用いられるレーザ加工装置10において、レーザ光LBを被処理部に照射するミラー21を備えたレーザ加工ヘッド11であって、ミラー21の外周が円筒体22で覆われており、円筒体22は、軸線方向両端部の大径部31と、大径部31よりも外径が小さい中間部32とからなり、中間部32の側面に管状部材1の軸線方向に延びたスリット33を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザピーニング処理に用いられるレーザ加工装置のレーザ加工ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばディーゼルエンジンに用いられるコモンレール等のように、流体による大きな内圧が作用する管状部品においては、殊に径が極端に変化する部位等に応力集中が発生しやすく、流体の圧力変動の結果として生ずる疲労破壊が問題となる。このように応力が集中しクラックが発生しやすい部分の補強のために、従来、レーザピーニング処理を用いることが知られている。
【0003】
レーザピーニング処理は、金属物体の表面に水等の透明媒質を配置させた状態で、その表面へ、高いピークパワー密度を持つパルスレーザビームを照射し、そこから発生するプラズマの膨張反力を利用して、金属物体の表面近傍に非接触処理で残留圧縮応力を付与する技術であり、例えば特許文献1にその方法が開示されている。レーザビームは、狭い部分へも伝送可能であるため、コモンレールのような筒状部品の、分岐穴内面のように極めて狭い空間に対して、効率的に圧縮応力を付与することができる。
【0004】
レーザピーニング処理の方法としては、従来、レーザ光をレンズで集光し、ミラーで反射して所定箇所へ向けてレーザを照射する方法が広く行われていたが、ピークパワーの高いパルスレーザをレンズで集光してミラーに当てるため、ミラーが破損しやすいという問題があった。
【0005】
そのため、集光光学系の耐久性向上を目的とし、例えば特許文献2に、金属材料等からなる放物面ミラーを用いて、レンズで集光することなくレーザを反射させるレーザ加工装置が開示されている。
【0006】
一方、特許文献3には、真空状態の容器内で、レーザ光の照射により放射される溶融金属蒸気からレンズを保護する遮蔽板を備えたレーザ光照射装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−74417号公報
【特許文献2】特許第4697699号公報
【特許文献3】特許第3435247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、例えばコモンレールの内径は9.5mm程度であり、このような管状部材の内部という狭い空間でプラズマを発生させた場合、爆風の衝撃波で、金属製の放物面ミラーでも破損する場合がある。しかも、狭い空間内では、特許文献3に記載されているような遮蔽板を設置することは困難である。
【0009】
本発明の目的は、レーザピーニング処理において、プラズマ発生時の爆風からミラーを保護し、ミラーの耐久性を高めて、安定したレーザピーニング処理を行えるレーザ加工ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するため、本発明は、管状部材の内面をレーザピーニング処理する際に用いられるレーザ加工装置において、レーザ光を被処理部に照射するミラーを備えたレーザ加工ヘッドであって、前記ミラーの外周が円筒体で覆われており、前記円筒体は、軸線方向両端部の大径部と、前記大径部よりも外径が小さい中間部とからなり、前記中間部の側面に前記管状部材の軸線方向に延びたスリットを有することを特徴とする、レーザ加工ヘッドを提供する。
【0011】
前記スリットは、前記レーザ光が照射された際に前記管状部材の内壁で発生する音波が前記スリットに到達する際の球面波のサイズよりも幅が狭いことが好ましい。前記球面波の直径をd、前記スリットの幅をDとし、前記被処理部と前記スリットとの距離Lが、((d/2)−(D/2)1/2)以上であることが好ましい。また、前記大径部の内部に、前記管状部材の軸線方向に水が通過可能な溝が設けられていることが好ましい。さらに、前記大径部の外周にフッ素樹脂加工が施されていることが好ましい。
【0012】
前記ミラーは、放物面ミラーであってもよい。
【0013】
前記円筒体と同軸の基端側にカップリングを有してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レーザピーニング処理中に、爆風によりミラーが損傷するのを防止し、安定してレーザピーニング処理を行える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明にかかるレーザ加工ヘッドを備えたレーザ加工装置を用いたレーザピーニング処理の様子を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態の一例を示す側面図である。
【図3】図2のA−A線から見た断面図である。
【図4】球面波の伝播サイズとスリットとの位置関係を示す説明図である。
【図5】図2のB−B線から見た断面図である。
【図6】カップリング材の例を示す斜視図である。
【図7】図2のC−C線から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、被処理部材である管状部材の一例として、コモンレールの場合について説明する。
【0017】
コモンレールは、ディーゼルエンジンの蓄圧式燃料噴射システムにおいて燃料の軽油を圧送するポンプとインジェクターとの間に位置し、軽油を蓄圧するパイプ状の部品である。図1に示すように、コモンレール1のレール穴2には、垂直に開口する分岐穴3が、レール穴2の長手方向に沿って複数個配設され、分岐穴3を通って各インジェクターに軽油が圧送される。コモンレール1において、レール穴2の内径は9.5mm程度、分岐穴3の内径は1mm程度である。エンジンの作動に伴い軽油が周期的に圧送され、コモンレール1内の軽油の圧力が周期的に変動する。コモンレール1の素材としては、通常、引張強度が600MPa程度以上の鋼材が用いられる。この際、レール穴2および分岐穴3には、周期的に周方向の引張応力に変動が生じて疲労破壊しやすいため、疲労強度を向上させるために、レーザ照射装置を用いてレーザピーニング処理を行い、残留圧縮応力を付与する。
【0018】
レーザ照射装置10は、パルスレーザビームLBを、被処理部材であるコモンレール1の内部まで伝送し、所望する箇所に照射する装置である。レーザ照射装置10は、レーザビーム発振器13から発振されたパルスレーザビームLBを、コモンレール1内の所定の位置に照射するレーザ加工ヘッド11を有し、レーザ加工ヘッド11の位置を回転方向および水平方向に制御する駆動装置12を備えている。
【0019】
レーザビーム発振器13は、レーザピーニング処理に用いられる所定波長のパルスレーザビームLBを発振する装置である。レーザピーニング処理は水中で行われるため、レーザビームの波長は、水中透過性の良いものが好ましい。このようなレーザビームとして、例えば、Nd:YAGレーザの第二高調波(波長532nm)が用いられる。パルスエネルギーは、例えば80mJ/パルス程度とすれば、約400MPa程度の圧縮応力が得られる。また、パルスレーザビームLBと同方向からコモンレール1内に水を供給する給水装置14が設けられている。
【0020】
レーザ加工ヘッド11の先端にはミラー21が取り付けられている。本実施形態では、ミラー21は、被処理部に向けた放物面形状を有する放物面ミラーである。このミラー21によって、パルスレーザビームLBが反射され、被処理部に向けて照射される。
【0021】
図1に示すように、コモンレール1のレール穴2の一方の端部から、レーザ加工ヘッド11が挿入され、他方の端部からパルスレーザビームLBと水が供給される。レール穴2内に供給された水は、レール穴2内を流れ、一部は分岐穴3から排出される。このとき、レーザピーニング処理により発生したダスト等が水とともに外部へ流れ出るため、レール穴2内が浄化されるという効果もある。
【0022】
レーザ加工ヘッド11が接続された駆動軸15は、駆動装置12に接続され、駆動装置12は回転駆動機構および平行駆動機構を備えている。この駆動装置12によって、レーザ加工ヘッド11は、コモンレール1の内部で、レール穴2の長手方向の平行移動と、駆動軸15を中心とした回転運動とが可能となり、位置が制御される。なお、駆動軸15の回転軸は、パルスレーザビームLBの光軸と一致している。
【0023】
レーザピーニング処理は、例えば分岐穴3が設けられた開口周辺部の被処理部に対して、レーザ加工ヘッド11の位置を制御して、パルスレーザビームLBのレーザビーム照射スポットを重畳させながら走査することで行う。レーザピーニング処理は、以下のメカニズムによって、レーザの照射表面近傍に残留圧縮応力を付与する。まず、高いピークパワー密度をもつパルスレーザビームLBの照射により、プラズマが発生する。ここで照射表面の近傍には、給水装置14から供給された水が存在するため、プラズマの膨張が抑えられ、プラズマの圧力が高められる。高圧となったプラズマの反力によって、レーザ照射スポットの表面近傍に塑性変形を与え、この表面近傍に残留圧縮応力を付与することができる。
【0024】
図2は、本発明のレーザ加工ヘッドを示し、図3は、図2のA−A方向から見た断面を示している。レーザ加工ヘッド11は、放物面形状を有するミラー21と、ミラー21の周囲を覆うスリット付き円筒体22を有している。円筒体22は、例えばステンレス製であり、軸線方向両端部の大径部31と、大径部31よりも外径が小さい中間部32を有し、中間部32には、軸線方向に延びた複数のスリット33が形成されている。大径部31は、被加工部材である管状部材の内径、すなわち本実施形態においては、コモンレール1のレール穴2の内径よりも僅かに小さい程度の外径とする。これにより、レーザ加工ヘッド11がレール穴2の長さ方向に沿って移動する際に、駆動軸15の軸線が斜めにずれにくい。さらにレーザ加工ヘッド11が傾かずに軸線方向にガイドされるためには、円筒体22全体が、軸線方向に適宜長さを有することが好ましい。さらに、円筒体22が、レール穴2の内壁を、軸線方向に円滑に移動できるように、大径部31の外周側面に、フッ素樹脂加工を施して摺動性を高めることが好ましい。
【0025】
図4は、被加工物上にレーザ光が当たる様子を、スリット22の長手方向に対して直角な断面から見た拡大図である。図4を参照して、レーザプラズマにより発生する爆風球面波の伝播サイズとスリット22との位置関係について説明する。なお、簡素化のため、レーザ光は集光点Oで点状に集光され、集光点Oで発生するレーザプラズマによる爆風は球面状に伝播するものとする。また、レーザ光は、幅Dを有するスリット22の中央に位置するものとする。
【0026】
被加工物に対するスリット22の位置が、図4の破線の位置すなわち被加工物に極めて近い距離L’(=A’B)の場合、球面波の半径OA’(=(OB+L’1/2)は、L’が小さいことからスリット幅の半分であるOB(=D/2)とほぼ等しく、ほぼ全ての球面波がスリットを通過して、図の上方に存在する図示しないミラーに到達することになる。これではミラーを保護することができない。
【0027】
一方、被加工物に対するスリット22の位置が十分に遠い距離L(=AB)の場合には、球面波の半径OA(=(OB+L1/2)は、距離Lの値を無視することができないため、OA>D/2となり、ミラーに到達する球面波の割合を減少させることができる。実験的に、十分な抑制効果を発揮する位置関係として、球面波半径の半分を遮ることが必要であることが判明した。すなわち、被加工物とスリット22との距離Lは、L+(D/2)=(d/2)が成り立つような距離L(=((d/2)−(D/2)1/2)以上とすればよい。
【0028】
本実施形態において、軸方向両端部の大径部31は、レール穴2の内径よりも僅かに小さい程度であり、スリット33を設けた中間部32が大径部31と同じ外径であれば、コモンレール1の内壁で発生した音波の球状波が、上記の通りスリット33を通過しやすくなる。そのため、スリット33が形成される中間部32の外径は、両端の大径部31よりも段差を付けて小さくし、前述の距離Lを確保する。これにより、コモンレール1の内壁と中間部32との間隔が大きくなり、パルスレーザビームLBの照射時に発生した球状波がスリット33の位置に到達する際のサイズが大きくなるため、音波がスリット33を通過しにくくなる。中間部32のスリット33の幅は、パルスレーザビームLBの照射時に発生した球状波の半分以下であることが好ましく、例えば1mm程度とする。これにより、スリット33は、レーザ光は通過させるが音波を通さないものとなり、ミラー21を爆風から保護する効果が高くなる。また、スリット33のうちの一つとレーザ光軸とを一致させる。なお、このような幅のスリット33は、中間部32の側面全周にわたって設けてもよいし、爆風を受ける例えば図2の上側半分のみに設け、下側は水流を妨げないように広い範囲にわたって開放された幅の広い隙間を設けてもよい。
【0029】
図5は、図2の円筒体22のB−B部の断面図である。図5に示すように、大径部31の内側には、水が流れる溝34が、軸線方向に貫通して形成されている。図5の例では、溝34は、図3に示す中間部32のスリット33に連続して、スリット33と同じ形、同じ数だけ形成されている。この溝34により、円筒体22が軸線方向に移動する際、レーザ加工ヘッド11の反対側からレール穴2に供給される水の流動性を阻害せず、水圧による抵抗を受けにくくする。
【0030】
さらに、レーザ加工ヘッド11の軸のずれを防ぎ直進性を向上させるために、円筒体22の基端側に、円筒体22と同軸のカップリング35が取り付けられる。カップリング35は、レーザ加工ヘッド11の駆動軸15が、レール穴2の軸線に一致して斜めにならずに直進させるために設けられるものであり、軸線方向に適宜長さを有することが好ましい。カップリング35は、例えば図6に示すように、外周面に螺旋状の溝36が設けられた円柱状の市販のものを用いればよい。カップリング35の外径は、レール穴2に供給される水の円滑な流動性を阻害しないように、レール穴2の内径よりも小さいものとする。
【0031】
ミラー21は、図2に示すように、接続部材41を介して駆動軸15の先端に取り付けられる。接続部材41の断面形状は、例えば図7に示すように、径が最も大きい外周の一部42が、レール穴2の内径よりも僅かに小さい程度であり、レール穴2に沿ってレーザ加工ヘッド11をガイドする。そして、外周の数カ所、例えば図示するように4箇所に凹み部43を有し、レール穴2と凹み部43との間に空間を形成して水が円滑に流れるようにする。接続部材41は図7に示す形状には限らない。
【0032】
以上のように、本発明によれば、レーザピーニング処理において発生する爆風からミラー21を保護する円筒体22を設けることにより、ミラー21の耐久性を高めることができる。したがって、長期にわたって安定したレーザピーニング処理を行える。
【0033】
なお、レーザ加工ヘッド11が、放物面ミラーのような集光用ミラーではなく、集光用レンズと平面ミラーとを有する場合にも、本発明は同様に実施可能であり、その場合には、平面ミラーの外周を、上記実施形態と同様に円筒体22で覆う。
【0034】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0035】
例えば、上記では、ミラー21を備えたレーザ加工ヘッド11の挿入側に対して反対側から水を供給することとしたが、レーザ加工ヘッド11と同じ方向から水を供給し、水の流れ方向がミラー21面に対して順方向であってもよい。
【0036】
また、被処理部材である管状部材は、コモンレールに限らない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、狭いスペースでレーザピーニング処理を行う際のレーザ加工ヘッドに適用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 コモンレール
2 レール穴
3 分岐穴
10 レーザ照射装置
11 レーザ加工ヘッド
12 駆動装置
21 ミラー
22 円筒体
31 大径部
32 中間部
33 スリット
34 溝
35 カップリング
LB パルスレーザビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状部材の内面をレーザピーニング処理する際に用いられるレーザ加工装置において、レーザ光を被処理部に照射するミラーを備えたレーザ加工ヘッドであって、
前記ミラーの外周が円筒体で覆われており、
前記円筒体は、軸線方向両端部の大径部と、前記大径部よりも外径が小さい中間部とからなり、前記中間部の側面に前記管状部材の軸線方向に延びたスリットを有することを特徴とする、レーザ加工ヘッド。
【請求項2】
前記スリットは、前記レーザ光が照射された際に前記管状部材の内壁で発生する音波が前記スリットに到達する際の球面波のサイズよりも幅が狭いことを特徴とする、請求項1に記載のレーザ加工ヘッド。
【請求項3】
前記球面波の直径をd、前記スリットの幅をDとし、前記被処理部と前記スリットとの距離Lが、((d/2)−(D/2)1/2)以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載のレーザ加工ヘッド。
【請求項4】
前記大径部の内部に、前記管状部材の軸線方向に水が通過可能な溝が設けられていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のレーザ加工ヘッド。
【請求項5】
前記大径部の外周にフッ素樹脂加工が施されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のレーザ加工ヘッド。
【請求項6】
前記ミラーは、放物面ミラーであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のレーザ加工ヘッド。
【請求項7】
前記円筒体と同軸の基端側にカップリングを有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のレーザ加工ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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