説明

レーザ加工装置、レーザ加工方法

【課題】薄膜太陽電池のLaser Edge Deletionにおいて、積層膜を確実に除去して仕上がりを美麗にする。
【解決手段】TCO膜7、a−Si及びμc−Siを含むシリコン膜の発電層8、並びに裏面電極膜9を積層した多重積層型の薄膜太陽電池に対し、μc−Siが吸収する波長帯(500nmないし900nm)に属する半導体レーザ光2を発電層8に照射することで発電層8及び裏面電極膜9を除去するとともに、TCO膜7が吸収する波長帯(1030nmないし1100nm)に属する固体レーザ光1をTCO膜7に照射することで残りのTCO膜7を除去することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池の製造過程におけるLED(Laser Edge Deletion)の方法、及びそのための加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日主流となっている薄膜太陽電池は、基板に透明性導電膜、シリコン系発電層(吸収層)及び裏面電極膜を製膜、積層して作製される。図2に示すように、これら積層膜7、8、9は、裏面側からラミネートフィルム11が貼着されることで密封されるが、そのラミネート工程に先んじて、基板10の外周縁部に位置する積層膜7、8、9を除去する必要がある(例えば、下記特許文献を参照)。
【0003】
レーザスクライブによって行うこの積層膜の除去処理が、LEDである。LEDでは、通常、Nd:YAG、Nd:YVO4、Yb:Glass、Yb:YAGといった固体レーザを使用する。この種の固体レーザ光は、波長が1030nmないし1100nmの範疇にあり、透明性導電膜として用いられるTCO(Transparent Conductive Oxide)膜を除去するのに向いている。
【0004】
だが、一方で、発電層であるシリコン膜を除去するのには向いていない。アモルファスシリコン(a−Si)の吸収波長帯は300nmないし700nm、微結晶シリコン(μc−Si)の吸収波長帯は500nmないし900nmであり、何れも上記の固体レーザ光を吸収し難いためである。
【0005】
それ故、積層膜を十分に除去しきれず、仕上がりにおいて外観を明らかに乱すことがあった。
【0006】
積層膜の除去を確実ならしめるべく、固体レーザの出力を大幅に高めることも考えられるものの、コストの騰貴を招くことから、決して好ましいとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−074071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、薄膜太陽電池のLEDにおいて、積層膜を確実に除去して仕上がりを美麗にすることを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、透明性導電膜、アモルファスシリコン及び結晶シリコン(単結晶シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコンを包括する概念である)を含む発電層、裏面電極膜を積層した多重積層型の薄膜太陽電池に対し、その透明性導電膜、発電層、裏面電極膜を除去する加工を施すLEDにおいて、透明性導電膜が吸収する波長帯に属する第一のレーザ光を透明性導電膜に照射することで透明性導電膜を除去するとともに、発電層が吸収する波長帯に属し前記第一のレーザ光よりも波長の短い第二のレーザ光を発電層に照射することで発電層及び裏面電極膜を除去することとした。
【0010】
本発明に係るLEDを実施するためのレーザ加工装置は、透明性導電膜が吸収する波長帯に属し透明性導電膜を除去できる第一のレーザ光を出力するレーザ光源、及び発電層が吸収する波長帯に属し発電層を除去できる前記第一のレーザ光よりも波長の短い第二のレーザ光を出力するレーザ光源と、前記薄膜太陽電池を支持する支持体と、前記第一のレーザ光及び前記第二のレーザ光をそれぞれ導いて前記支持体に支持させた薄膜太陽電池に向けて照射させる光学系とを具備するものとする。
【0011】
前記第一のレーザ光は、透明性導電膜の除去を重視した、980nm以上の波長のレーザ光とすることが望ましい。
【0012】
前記第二のレーザ光は、発電層の除去を重視した、900nm以下の波長のレーザ光とすることが望ましい。このとき、前記第二のレーザ光として、結晶シリコンが吸収する波長帯に属するレーザ光を採用し、これを結晶シリコンに照射することで、アモルファスシリコン諸共発電層を除去するようにしてもよい。
【0013】
前記薄膜太陽電池が、透明性基板に透明性導電膜、発電層、裏面電極膜をこの順に積層したものである場合には、前記第二のレーザ光を前記透明性基板側から当該透明性基板及び透明性導電膜を透過させて発電層に照射し、かつ前記第一のレーザ光を透明性基板側から当該透明性基板を透過させて透明性導電膜に照射することができる。
【0014】
先に前記第二のレーザ光を発電層に照射して発電層及び裏面電極膜を除去し、その後に前記第一のレーザ光を発電層及び裏面電極膜を除去した箇所の透明性導電膜に照射して透明性導電膜を除去するようにすれば、発電層及び裏面電極膜、並びに透明性導電膜を十分に除去して残渣の少ない加工を実現することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、薄膜太陽電池のLEDにおいて、積層膜を確実に除去して仕上がりを美麗にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態のレーザ加工装置の概略構成を示す斜視図。
【図2】同レーザ加工装置による加工の対象となる薄膜太陽電池を示す斜視図。
【図3】同レーザ加工装置による加工の対象となる薄膜太陽電池を示す側断面図。
【図4】本発明の変形例の概略構成を示す斜視図。
【図5】本発明の変形例の概略構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。本実施形態のレーザ加工装置は、基板10に透明性導電膜7、発電層8、裏面電極膜9を積層した多重積層型の薄膜太陽電池に対して、その基板10の外周縁部に位置する、換言すれば基板10の四辺に臨む帯状の領域にある積層膜7、8、9を除去するLEDを実施するものである。
【0018】
図3に、多重積層型薄膜太陽電池の構造を例示している。この薄膜太陽電池は、透明性基板10たるガラス基板10に、透明性導電膜たるTCO膜7、発電層8たるアモルファスシリコン(p型a−Si、真性a−Si、n型a−Si)81及び微結晶シリコン(p型μc−Si、真性μc−Si、n型μc−Si)82、並びに裏面電極膜たるメタル膜9をこの順に製膜、積層してなる。
【0019】
図1に示すように、本実施形態のレーザ加工装置は、第一のレーザ光を出力するレーザ光源1及び第二のレーザ光を出力するレーザ光源3と、薄膜太陽電池を支持する支持体5と、第一のレーザ光及び第二のレーザ光をそれぞれ導いて支持体5に支持させた薄膜太陽電池に向けて照射させる光学系2、4とを具備する。因みに、支持体5に支持させた基板10の搬送方向、または加工ノズル21、41の基板10に対する移動の方向を、図中白抜き矢印にて示している。
【0020】
第一のレーザ光は、980nm以上の波長帯に属し、TCO膜7を除去できるものとする。その光源1としては、Nd:YAG(波長1064nm)、Nd:YVO4(波長1064nm)、Yb:Glass(波長1030ないし1100nm)、Yb:YAG(波長1030nm)等の固体レーザ(ディスクレーザやファイバレーザであることがある)を挙げることができる。これらの固体レーザ光源1は、市場に多く流通しており、また、TCO膜7のスクライブのために必要十分な程度の高出力を確保することが容易である。
【0021】
翻って、第二のレーザ光は、第一のレーザ光よりも短い900nm以下の波長帯に属し、アモルファスシリコン81及び微結晶シリコン82を含むシリコン膜の発電層8を除去できるものとする。その光源3としては、各種の半導体レーザ(ダイオードレーザ)、または、上に述べた波長1000nm以上の固体レーザの第二高調波等を挙げることができる。本実施形態では、第二のレーザ光として、波長800nmの半導体レーザを採用している。因みに、第一のレーザ光となる固体レーザの励起光源を、第二のレーザ光の光源3としても用いることを妨げない。
【0022】
光学系2、4は、レーザ光を加工対象となる基板10の薄膜7、8、9に向けて出射する加工ノズル21、41と、レーザ光源1、3が出力するレーザ光を加工ノズル21、41まで導く各種光学要素(光ファイバ、ミラー、レンズ等)22、42とを包含する。本実施形態では、第一のレーザ光を出射する加工ノズル21と第二のレーザ光を出射する加工ノズル42とを別体とし、さらに、第一のレーザ光の照射位置と第二のレーザ光の照射位置とを離間させている。
【0023】
加工ノズル21は、投影形状を細径に絞ってパワー密度を上げた近赤外レーザ光を以てTCO膜7を除去する都合上、レーザ光軸を振り動かすことのできるガルバノスキャナを付設し、基板10の外周縁部のTCO膜7を帯状に除去できるようにしている。
【0024】
加工ノズル41は、投影形状が細長い方形(1cm×150μm程度)状をなす半導体レーザ光を出射する。このレーザ光を、種々のレンズやミラー等の光学要素を用いて基板10の外周縁部の加工巾(発電層8のシリコン膜を除去する巾)に適した投影寸法に成形した上で、発電層8に照射する。加工ノズル41の側では、ガルバノスキャナは必要ではない。
【0025】
光学系22、42は、典型的には、レーザ光源1、3と加工ノズル21、41とを接続する光ファイバである。無論、レーザ光源1、3から加工ノズル21、41へと至る光路上にどのような光学要素を配するかは任意であり、一意には限定されない。
【0026】
LED処理の際には、基板10を加工ノズル21、41に対して相対的に変位させる。そのために、例えば、支持体5として、基板10を平面的に(X−Y両方向に)移動させることのできるX−Yステージを採用する。但し、X−Yステージ以外の態様の可動機構を支持体5に実装してもよいし、支持体5を不動としてその替わりに加工ノズル21、41を支持体5に対して移動させるようにしても構わない。
【0027】
図1に示しているように、各加工ノズル21、41はそれぞれ、積層膜7、8、9を製膜した面を上に向けた状態で支持させた基板10の下方から、上向きにレーザ光を発射する。但し、これとは逆に、積層膜7、8、9を製膜した面を下に向けた状態で基板10を支持し、かつ各加工ノズル21、41を基板10の上方に配設して、下向きにレーザ光を発射する態様をとることも考えられる。
【0028】
加工ノズル41から出射した第二のレーザ光は、ガラス基板10及びTCO膜7を透過して、発電層8に照射される。特に、本実施形態では、アモルファスシリコン81の上に微結晶シリコン82を積層した多重積層型太陽電池を加工対象としており、この第二のレーザ光の焦点を、微結晶シリコン82の層に近づけるようにしている。微結晶シリコン82の吸収帯は500nmから900nm、アモルファスシリコン81の吸収帯は300nmから700nmであり、第二のレーザ光の波長はアモルファスシリコン81の吸収帯にはない。しかしながら、第二のレーザ光を微結晶シリコン82に吸収させることで、熱現象により、アモルファスシリコン81、微結晶シリコン82及びメタル膜9を諸共に吹き飛ばして除去することが可能である。
【0029】
本実施形態によれば、透明性導電膜7が吸収する波長帯に属し透明性導電膜7を除去できる第一のレーザ光を出力するレーザ光源1、及び発電層8が吸収する波長帯に属し発電層8を除去できる前記第一のレーザ光よりも波長の短い第二のレーザ光を出力するレーザ光源2と、前記薄膜太陽電池を支持する支持体5と、前記第一のレーザ光及び前記第二のレーザ光をそれぞれ導いて前記支持体5に支持させた薄膜太陽電池に向けて照射させる光学系2、4とを具備するレーザ加工装置を構成し、発電層8に第二のレーザ光を照射してこれを除去し、透明性導電膜7に第一のレーザ光を照射してこれを除去することとしたため、積層膜7、8、9に固体レーザ光を照射する従来の手法と比較して積層膜7、8、9を十分に除去でき、仕上がりが美麗となる。さらには、従来の手法と比較してタクトアップを実現することが可能であり、消費電力の削減にも奏効する。
【0030】
前記第一のレーザ光が980nm以上の波長のレーザ光であることから、高出力化が容易であり、透明性導電膜7を効果的に除去することができる。また、このような第一のレーザ光は、発電層8に悪影響を及ぼしにくい。
【0031】
前記第二のレーザ光が900nm以下の波長のレーザ光であることから、発電層8及び裏面電極膜9を効果的に除去することができる。
【0032】
前記第二のレーザ光が、結晶シリコン82が吸収する波長帯に属するレーザ光であることから、アモルファスシリコン81がよく吸収する波長帯のレーザ(グリーンレーザ等)を用いる場合よりもコスト面で有利となる。
【0033】
前記薄膜太陽電池が、透明性基板10に透明性導電膜7、発電層8、裏面電極膜9をこの順に積層したものであり、前記光学系2、4が、前記第二のレーザ光を前記透明性基板10側から当該透明性基板10及び透明性導電膜7を透過させて発電層8に照射し、かつ前記第一のレーザ光を透明性基板10側から当該透明性基板10を透過させて透明性導電膜7に照射するものであるため、基板10上の残渣や再付着物を減少させることができる。
【0034】
前記光学系2、4が、先に前記第二のレーザ光を発電層8に照射して発電層8及び裏面電極膜9を除去し、その後に前記第一のレーザ光を発電層8及び裏面電極膜9を除去した箇所の透明性導電膜7に照射して透明性導電膜7を除去するものであるため、発電層8を除去して露出させた透明性導電膜7のみに第一のレーザ光を照射して、これを余さず確実に除くことが可能となっている。
【0035】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。上記実施形態では、第一のレーザ光と第二のレーザ光とを別々の加工ノズル21、41から出射するとともに、基板10上の別々の照射位置に照射していた。即ち、第一のレーザ光を、基板10における、既に第二のレーザ光の照射を受けて発電層8及びメタル膜9が除去された領域に照射していた。これに対し、図4に示すように、第一のレーザ光の基板10に対する照射位置と、第二のレーザ光の基板10に対する照射位置とを重ね合わせてもよい。
【0036】
あるいは、図5に示すように、第一のレーザ光を導く光学系6と、第二のレーザ光を導く光学系とを一部共通化することも考えられる。即ち、加工ノズル61を単一とし、レーザ光源1、2から当該加工ノズル61までの光路上で(加工ノズル61に接続している同一の光ファイバ62に入射させる等して)第一のレーザ光と第二のレーザ光とを重畳してもよい。これにより、第一のレーザ光の基板10に対する照射位置と、第二のレーザ光の基板10に対する照射位置とが必然的に重なり合う。加工ノズル61には、やはりガルバノスキャナを付設し、重畳したレーザ光が基板10上の積層膜7、8、9を除去すべき帯状の領域を走査できるようにする。
【0037】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、太陽電池パネルの製造工程における、薄膜のレーザスクライブまたはアブレーションを実施する加工装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…第一のレーザ光源
2、4、6…光学系
3…第二のレーザ光源
5…支持体
7…透明導電膜
8…発電層
9…裏面電極膜
10…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明性導電膜、アモルファスシリコン及び結晶シリコンを含む発電層、裏面電極膜を積層した多重積層型の薄膜太陽電池に対し、その透明性導電膜、発電層、裏面電極膜を除去する加工を施すためのレーザ加工装置であって、
透明性導電膜が吸収する波長帯に属し透明性導電膜を除去できる第一のレーザ光を出力するレーザ光源、及び発電層が吸収する波長帯に属し発電層を除去できる前記第一のレーザ光よりも波長の短い第二のレーザ光を出力するレーザ光源と、
前記薄膜太陽電池を支持する支持体と、
前記第一のレーザ光及び前記第二のレーザ光をそれぞれ導いて前記支持体に支持させた薄膜太陽電池に向けて照射させる光学系と
を具備するレーザ加工装置。
【請求項2】
前記第一のレーザ光は、980nm以上の波長のレーザ光である請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記第二のレーザ光は、900nm以下の波長のレーザ光である請求項1または2記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記第二のレーザ光は、結晶シリコンが吸収する波長帯に属するレーザ光である請求項3記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記薄膜太陽電池は、透明性基板に透明性導電膜、発電層、裏面電極膜をこの順に積層したものであり、
前記光学系は、前記第二のレーザ光を前記透明性基板側から当該透明性基板及び透明性導電膜を透過させて発電層に照射し、かつ前記第一のレーザ光を透明性基板側から当該透明性基板を透過させて透明性導電膜に照射する請求項1、2、3または4記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記光学系は、先に前記第二のレーザ光を発電層に照射して発電層及び裏面電極膜を除去し、その後に前記第一のレーザ光を発電層及び裏面電極膜を除去した箇所の透明性導電膜に照射して透明性導電膜を除去する請求項1、2、3、4または5記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
透明性導電膜、アモルファスシリコン及び結晶シリコンを含む発電層、裏面電極膜を積層した多重積層型の薄膜太陽電池に対し、その透明性導電膜、発電層、裏面電極膜を除去する加工を施すレーザ加工方法であって、
透明性導電膜が吸収する波長帯に属する第一のレーザ光を透明性導電膜に照射することで透明性導電膜を除去するとともに、
発電層が吸収する波長帯に属し前記第一のレーザ光よりも波長の短い第二のレーザ光を発電層に照射することで発電層及び裏面電極膜を除去する
ことを特徴とするレーザ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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