説明

レーザ加工装置及び加工方法

【課題】圧延ロールの圧延寿命を延長するとともにロール原単位をも最大化することが可能なレーザ加工方法およびレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】金属鋼帯を圧延するための圧延ロール表面にレーザ光を照射して圧延ロールに加工穴を形成する、圧延ロールのレーザ加工方法において、 Nを正の整数とし、該ロールによる金属鋼帯の規定量の圧延によって生じる摩耗によるロール半径の減少量をδ、該金属鋼帯の圧延により該圧延ロール表面に形成される疲労層厚みをεとして、次式(1)で規定される加工深さhの加工穴を形成する事を特徴とする、圧延ロールのレーザ加工方法、ならびに左記を実現するためのレーザ加工装置。
N×δ+(N−1)×ε < h < N×(δ+ε)・・・式(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体レーザ励起固体レーザ発振器等のレーザ発振器を用いて、金属鋼帯の圧延ロールの表面に微小穴加工を行うレーザ加工装置および加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、[特許文献1]には金属鋼帯の圧延ロール表面にパルスレーザによりディンプル状のダル加工を行う事で、ロールの圧延寿命を大幅に改善する加工技術が開示されている。さらに、[特許文献2]には、半導体レーザ励起固体レーザを用いた圧延ロール表面のディンプル状穴加工装置および方法について開示されている。
【0003】
[特許文献3]には、レーザ発振の立ち上がり部あるいは立ち下がり部に於ける照射を選択的に遮断する事で、加工対象であるプリント基板のエポキシ材などの穴あけ加工において、穴側面の形状をストレートに近く成形する加工技術が開示されている。
【特許文献1】特開平8−155506号公報
【特許文献2】特開2006−136920号公報
【特許文献3】特開2004−82131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
後述する様に、ロール表面にパルスレーザによるディンプル状のダル加工を施し、該ロールの圧延寿命を改善するにあたっては、圧延終了後にロール表面の疲労層除去のために行うロール再研削の量によって決定される、いわゆるロール原単位を含めて考慮する事が、圧延に掛かる圧延ロールコスト低減に重要である。ディンプル穴加工深さが深すぎる場合、圧延終了後のロール表面研削において、必要以上の研削、つまり、疲労層除去以上の研削を行う必要があり、圧延機に使用可能なロール半径の下限に到達するまで、圧延、研削、ディンプル穴加工を繰り返し使用する回数が少なくなり、ロール原単位の悪化を招く。仮に、ディンプル穴加工により圧延寿命が延びロール交換頻度およびロール研削頻度が減ったとしても、一度に研削する研削量が多くなる事でその効果が相殺されてしまい、圧延全体から見た場合のコスト低減に繋がらない。しかるに、上記の[特許文献1]、[特許文献2]にはロール原単位を向上させるために、加工するディンプル穴の深さを制御する技術についての記述が無い。
【0005】
また、上記[特許文献3]に記載の加工技術は、照射するレーザ光のパルス幅を制御し、加工穴深さの制御を行う加工技術ではない。さらに、上記[特許文献3]では、被加工材表面を広範囲にわたりレーザ加工する際に、レーザ光の偏向方向とレーザ光を走査する方向との位置関係が明確に示されていない。パルスレーザの照射中にパルス発振の後半部分で、レーザビームを偏向素子を用いて偏向させ、パルス発振後半部分を遮断する時には、ビームの偏向動作に合わせてレーザ光軸が変化するので、集光レンズによる被加工材表面におけるレーザ集光位置が変化する。
【0006】
さらに、ロール加工に上記を当てはめて考える。ディンプル穴加工は、回転しているロール表面にレーザ光を照射して行う。このため、図6に示すように、偏向によるレーザビームの集光位置の変化方向が例えばロール軸方向に平行である等、ロール周方向(図6に示す矢印方向)と平行でない場合は、ディンプル(加工穴)40がロール軸方向に加工されてしまう。図6はロール表面の加工部を上方から見た図である。加工が進展しているディンプル開口40はロール回転にしたがって矢印の方向に移動している。この時、ロール表面に集光照射されたレーザビームスポットは偏向走査により、照射位置SP1から照射位置SP2へ移動する。
【0007】
図6に示すように、圧延ロール上の照射位置SP2は、穴加工が進展する方向(図6に示す矢印方向)とは直角の向きに進行し、いわば穴加工の脇の部分にある。即ち、穴加工が進展していないロールの研削後の新生面に対し、ロールの表面を高速移動中のビームを偏向により走査する事になる。この様な場合は、不適正なレーザ強度密度での加工を行う事になるため(図6)、該レーザ照射部では溶融物の発生量が増加し、ディンプル周辺にリムを形成してしまう。溶融リムが多く付着したロールにより金属鋼帯の圧延を行うと、金属鋼帯表面に疵を発生させ、良好な金属鋼帯を得る事が出来ないなどの問題が発生する。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、金属鋼帯の圧延ロール表面にパルスレーザを用いてディンプル状穴加工を行う際に、圧延によるロール摩耗および疲労層除去のための研削量を考慮し、ロールの圧延寿命を延長するとともにロール原単位をも最大化するために、該ディンプル状加工穴の加工深さを制御するレーザ加工方法およびレーザ加工装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明によれば、金属鋼帯を圧延するための圧延ロール表面にレーザ光を照射して該圧延ロールに加工穴を形成する、圧延ロールのレーザ加工方法において、Nを正の整数とし、該圧延ロールによって金属鋼帯を規定量圧延することによって摩耗により生じるロール半径の減少量をδ、該金属鋼帯の圧延により該圧延ロール表面に形成される疲労層厚みをεとして、次式(1)で規定される加工深さhの加工穴を形成する事を特徴とする、圧延ロールのレーザ加工方法が提供される。
N×δ+(N−1)×ε < h < N×(δ+ε)・・・式(1)
【0010】
上記レーザ加工方法において、該圧延ロール表面に照射されるレーザ光の照射時間を制御する事により、前記加工穴を形成する際の加工深さの制御を行ってもよい。
【0011】
上記レーザ加工方法において、前記レーザ光としてパルス励起により緩和発振させたレーザ光を用い、該圧延ロール表面に照射されるレーザ光の照射時間を制御する際に、レーザ光を出力するレーザ発振器から発振された緩和発振パルスの波形を積分する事で発振開始からのパルスエネルギーが予め設定した値に達した事を判定し、レーザ光の継続する緩和発振パルスの後半部分を遮断することによりレーザ光の照射時間を制御するようにしてもよい。
【0012】
上記レーザ加工方法において、該圧延ロール表面に照射されるレーザ光の照射時間を制御する際に、前記圧延ロール表面上におけるレーザ光の照射位置がロールの周方向に変化するように、レーザ光を偏向させてレーザ光の遮断状態と非遮断状態を切替えることによりレーザ光の照射時間を制御するようにしてもよい。
【0013】
また、本発明によれば、金属鋼帯を圧延するための圧延ロール表面にレーザ光を照射して該圧延ロールに加工穴を形成する、圧延ロールのレーザ加工装置であって、レーザ光を出力するレーザ発振器と、該レーザ発振器をパルス励起により緩和発振させて出力されたレーザ光を偏向させる偏向素子と、該偏向素子により偏向されたレーザ光を遮断するダンパーと、該レーザ光の緩和発振の開始を検出する検出器と、該検出器の信号を積分する積分器と、該積分器からのトリガー信号に基づいて前記偏向素子を制御する制御系と、を備え、かつ、前記偏向素子は、レーザ光を偏向させた場合に、前記圧延ロール表面上におけるレーザ光の照射位置がロールの周方向に変化するように配置されている事を特徴とする、圧延ロールのレーザ加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の加工方法および加工装置によって、金属鋼帯の圧延ロールの圧延寿命を延長するとともに、圧延後の圧延ロール研削量を最小化し、金属鋼帯の圧延に関するロールコストを大幅に低減する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず、本発明の実施の形態に係る加工方法によって、レーザ光を用いて圧延ロールの表面に加工穴を形成する際の加工穴の深さについて説明する。
【0016】
既述した上記特許文献1および上記特許文献2の加工技術では、ロール表面のディンプル状加工穴の周縁部により圧延に必要な摩擦力を確保するので、圧延の継続によってロール表面が摩耗し、上記ディンプル状加工穴が消失する前に圧延寿命として圧延ロールを交換する。その際、圧延後のロール表層には圧延により、20〜30μm程度(ロール半径値)の疲労層が形成される。たとえディンプル加工穴が残存し、グリップ力が確保され安定圧延が可能な場合でも、疲労層が原因でロール表面にクラックが入り鋼板表面に疵を発生させるなど圧延トラブルを招く恐れがある。そのため、グリップ力が維持されている状態でも、一定量の鋼板の圧延後には、ロール交換を実施する必要がある。圧延に使用したロールの表面は、研削により前記疲労層を除去した後、再度、圧延に使用する。
【0017】
圧延機に使用する圧延ロール径は、圧延機によって使用可能な大きさが決められている。圧延後のロール研削量が少ないほど、ロールの繰り返し圧延使用回数が多くなる。いわゆるロール原単位が低下し、金属鋼帯の製造コストが安く済む。圧延終了時に残存するディンプル状穴深さが、疲労層厚よりも大きい場合、疲労層のみを除去する研削では、ロール表面にディンプルの痕が残存した状態となる。その上に重畳するかたちで、再度、レーザによるディンプル穴加工を行うと、圧延に適した摩擦係数を超えた大きな摩擦係数を持つロールとなってしまい、鋼板の圧延に使用する事ができない。したがって、この場合は研削によるロール半径の削減量を疲労層厚みよりも大きくし、レーザ加工によるディンプル痕が消失する深さ迄ロール研削を行う必要があり、1回当たりの研削量が増加し、ロール原単位は悪化する。
【0018】
これに対して、本発明の実施の形態に係る加工方法では、圧延終了後のロール再研削量を最小化し、ロール原単位を向上させるように、研削によるロール半径の減少量を疲労層厚みεと等しくさせる。このためには、ロール表面に付与するディンプル穴深さとしては、目的の圧延終了時において、圧延によって生じた摩耗によるロール半径の減少量δと研削によるロール半径の減少量εの和(δ+ε)よりも小さい必要がある。一方、圧延終了時に残存するディンプル状の穴深さhが、圧延によって生じた摩耗によるロール半径の減少量δよりも浅い場合は、圧延途中でロールの圧延グリップ力が低下し、圧延が不安定になる。ディンプル穴深さは、圧延によって生じた摩耗によるロール半径の減少量δよりも深い必要がある。
【0019】
したがって、研削済みのロール表面にレーザによるディンプル状穴加工を施し、金蔵鋼帯を圧延し、再度疲労層を除去する一連のサイクルにおいて、ロール原単位の向上に最も有効なディンプル状加工穴の深さは下記の式で規定される範囲である事が望まれる。つまり、ディンプル穴深さhには、次式(2)で表される、疲労層厚みεと同程度の10〜30μm程度の精度が要求される。
δ < h < δ+ε・・・式(2)
【0020】
上記の説明では、圧延終了後のロール表面研削ごとにあらためてレーザによるディンプル状穴加工を行う場合について説明した。しかしながら、圧延後に研削のみを行った後に残存するレーザによるディンプル状穴加工穴深さが、次の圧延によって生じた摩耗によるロール半径の減少量よりも深い場合には、研削後のレーザによるロール表面へのディンプル状穴加工を行わなくても、圧延グリップ力を維持する事が可能である。つまり、ディンプル状穴加工を行わなくても、次の圧延を行うことができる。式を使って、レーザ加工によるディンプル深さhが次式(3)を満足する場合、N回の圧延を続けて行うことができる。
N×δ+(N−1)×ε < h < N×(δ+ε)・・・式(3)
【0021】
ここで、Nは正の整数である。上式(3)の左辺は、N回の圧延により生じるロール摩耗量N×δと、各圧延終了時に行う研削量(N−1)×εの和であり、N回の圧延終了時点(N回目の圧延後における研削を行う前)でのロール半径の減少量を示している。上式(3)の右辺はN回の圧延と研削により生じるロール半径の減少量である。
【0022】
上記の通り、レーザ加工によるディンプル穴深さhが上式(3)を満足する場合は、1度のロール表面へのレーザ加工により、ロール表面の疲労層を除去するためのロール研削のみを繰り返す処置で、N回の圧延を行う事が可能である事を意味し、ロール表面へのレーザ加工頻度を1/Nに減らす事ができる事を示している。この場合、レーザ加工に拘わる工程を省略する事ができ、ロール整備に関するコストの大幅な削減が可能である。
【0023】
この場合においてもレーザディンプル穴深さhには、上式(3)の左辺と右辺の差である圧延による疲労層厚みεと同程度の加工深さの精度が要求される。さらに、圧延ロール表面の摩耗量は、圧下量に応じて変化し、タンデム圧延機においては、一般的に前段ロールの摩耗が大きく、後段ロールの摩耗量は小さい。したがって、上記式(2)で規定される摩耗によるロール半径の減少量δは、タンデム圧延機のスタンド毎に異なり、理想的なディンプル加工深さhは使用するスタンド毎に異なる。通常の5ないし6スタンドのタンデム圧延機において、各スタンド毎の摩耗量は、1圧延単位あたり、10μm程度異なる。
【0024】
従って、各スタンドの圧延寿命を最大化し、かつロール原単位を最も低くするには、10μm程度の精度でのディンプル穴深さを作り分ける加工制御性が要求され、それにより、金属鋼帯圧延のコスト減に大きな効果を発揮する。
【0025】
次に、本発明のレーザ加工方法を実施するにあたって、従来公知の加工装置ではなく、本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置100を用いることによりディンプル穴深さhが上記の目標値に制御可能である理由を以下に説明する。
【0026】
発明者らが従来公知の加工技術を検討した結果によると、圧延ロールを加工するために必要な出力100〜1kWクラスの半導体励起固体レーザにおいて、励起用の半導体レーザをパルス発振駆動して固体レーザを緩和発振させる方式は、緩和発振パルスのばらつきが大きい。図3(a)および図3(b)は同一の励起条件下での緩和発振パルスをフォトダイオードで検出した信号であり、縦軸はフォトダイオードの検出信号レベル(mV)である。図3(a)、(b)に示す緩和発振パルス中のエネルギーは信号波形の面積に比例する。加工に寄与するレーザ強度密度に相当する検出信号強度をS1として、図3(a)、図3(b)の波形についてS1を越える信号を積分したものが、図3(c)のEa、Eb(破線)である。図3(c)から、図3(a)と図3(b)のパルスでは、加工に寄与するレーザエネルギーにほぼ2倍のエネルギー差が生じている事がわかる。
【0027】
一方、加工点でのレーザビームの集光状態が同じであれば、加工されるディンプル穴の除去体積は照射される緩和発振パルス中のエネルギーに比例する。さらに、レーザビームの集光が同一である場合には、ディンプル穴の開口径はほぼ同一となるため、加工深さは照射エネルギーにほぼ比例する結果となる。この事は、図3(a)、図3(b)に示す緩和発振パルスでは、ロールのディンプル穴加工において、ディンプル穴深さが2倍程度ばらつく。つまり、図3(a)、(b)が緩和発振パルスの最大および最小のパルス出力の場合には、ロール表面に加工深さ60μmの深さのディンプル穴加工を施す場合において、加工深さが約40μmから約80μmと40μm程度の深さのばらつきが発生する事を意味している。そして、目標加工深さを得るために必要な加工エネルギーに相当する信号強度の積分値をEoとした場合、図3(c)において、図3(a)の波形ではパルス幅τa、図3(b)の波形ではレーザパルス幅τbでレーザパルスを遮断する必要がある。
【0028】
以上、述べた様に、従来公知の加工技術を用いた場合のように、励起用半導体レーザの駆動時間幅の制御のみでは、前述のロール表面のディンプル穴の加工深さを10μm程度の精度で制御する事は不可能である。そこで、本実施の形態では、以下で説明する本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置100を用いて、本発明の加工方法を実施している。
【0029】
図1に本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置100のレーザ発振側における部分的な構成図を示す。レーザ発振器としては、工業的に広く使用されるようになった半導体レーザ励起固体レーザである半導体レーザ励起YAGレーザ発振器1を使用した。前記YAGレーザ発振器1の励起用半導体レーザの駆動電流は制御器(図示しない)により、ON/OFF制御あるいは2つの電流レベルの切替え制御により概矩形電流として制御される。またYAGレーザ光の偏向素子14として音響光学素子(以下AO素子とする)を用いている。
【0030】
YAGレーザ発振器1より出射されたレーザ光3は伝送ミラー4、5により伝送される。発振器1のリアミラー2の後方にNDフィルター7およびYAGレーザ波長光を透過し励起用半導体レーザ光を遮断する狭帯域の光学フィルター6およびフォトダイオード10が設置されており、YAGレーザパルスの発振を検出する。フォトダイオード10の検出信号はアンプ回路11にて増幅され積分器12に送信される。積分器12では予め設定されたしきい値以上の値を持つ検出信号が積分され、積分値が、予め決定されている値になった時点で終了信号となるトリガー信号を、AO素子14を制御する制御系としてのAO素子のドライバー13に送信し、トリガー信号をもとにドライバー13からAO素子14に駆動電力が供給され、AO素子14を作動させる。AO素子14はレーザ光路中に設置されており、ビームダンパー15はレーザ光路付近に設置されている。
【0031】
AO素子14は通常停止の状態であり、レーザ光の経路(光軸)が図1に示す非遮断状態の位置Lに設定されている。この非遮断状態の位置Lでは、レーザ光は遮断されずに伝送ミラー5を経由して圧延ロール30に到達することができる。AO素子14は、レーザビーム光軸を位置Lから遮断状態である位置L'に偏向させるように切替え可能に構成されている。本実施の形態では、AO素子14は、ドライバー13の駆動信号が入力されている時間のみ駆動され、レーザ光が遮断状態である位置L’に切替えられる。このようにしてAO素子14の駆動によりレーザ光の光軸が位置L'に偏向されると、レーザ光はダンパー15により遮断されるため、圧延ロール30へのレーザ光の照射は中断する。
【0032】
フォトダイオード10からの緩和発振パルスの検出信号を積分するにあたり、しきい値を設定するのは、一定以上の出力強度を持ち加工に寄与する緩和発振パルス部分のエネルギーのみを積算するためである。
【0033】
位置Lで出射されたレーザ光3は、図2に示すレーザ照射側における装置100の部分的な構成図の様に、伝送ミラー21によって伝送され、集光レンズ22に導かれ、集光されて圧延ロール30表面に照射される。ドライエアーなどの加工アシストガスがレーザ光3と同軸に加工ノズル23より噴射される。
【0034】
圧延ロール30は回転装置により一定の回転速度で回転しており、伝送ミラー21および集光レンズ22および加工ノズル23は圧延ロール30の軸方向と平行移動する1軸移動テーブル31により一定速度で移動し、圧延ロール30の表面全体に微細穴加工を行う事ができる。
【0035】
図1および図2にXYZ軸を付記しているが、図1において光軸L、光軸L'の偏向方向はXZ平面である。図1におけるXZ平面内でのビームの偏向は、図2では伝送ミラー12によりXY平面内の偏向に変換されるため、ロール周方向と平行な方向であり、ビームの偏向走査による圧延ロール表面での集光レーザの変動方向もロール周方向と平行な向きである。
【0036】
この時、上記[背景技術]にて説明した様に、ディンプル穴側面での多重反射により、偏向過程でのレーザ光も穴底部に集光されるので、レーザ光軸の偏向走査によって照射中のレーザ光の状態が変化しても、ディンプル穴は良好に加工される。
【0037】
なお、図5は偏向走査によって、圧延ロール表面上におけるレーザ光の照射位置の移動する方向がロール回転と同じ方向である状態を示す模式図である。図5(a)はロール表面の加工部を上方から見た図である。図5(b)は図5(a)の断面図である。加工が進展しているディンプル開口40はロール回転にしたがって矢印の方向に移動している。上述したように偏向によるレーザビーム集光位置の変化方向がロール周方向と平行である場合には、ロール表面には既に穴加工が施されており、しかも穴加工と同じ方向にビーム位置が動く。この時、ロール表面に集光照射されたレーザビームスポットは偏向走査により、照射位置SP1の位置から照射位置SP2の位置へ移動し、レーザ光は偏向走査により光軸が位置Lから位置L'に移動する。
【0038】
偏向走査によりレーザ光の光軸が位置L'に移動される際には、穴の直上の軸からはずれを生じるが、図4(b)に示す様に、すでにパルス発振前半部分の照射により加工が進展した穴側面での多重反射によってビームは集光されながら穴底部に届く。このため、パルス発振後半部分を遮断する過程のビームの出力が加工時よりも低い場合でも、加工に十分なレーザ強度密度が確保され、良好な穴加工が維持されて、加工されるディンプル穴形状に特段の問題は生じない。即ち、ディンプル穴が長穴化することも無く、より良好な加工が行われる。
【0039】
仮に、レーザ光の偏向走査方向が図5と逆の場合、すなわち、ビームの移動方向がロールの回転方向と逆の方向の場合でも、既加工ディンプル開口部は照射ビーム径よりも大きく、側面が傾斜している事もあり、図5と同様にレーザ光は多重反射により穴底部に集光され、穴加工に寄与するため、加工不良とはならない。この場合は、図5の加工に対し、ややディンプル開口が長穴化するだけであり、その後の金属鋼帯に悪影響を及ぼすものではない。
【0040】
図4は、上記のタイミングチャートである。(a)は半導体レーザの駆動電流、(b)はフォトダイオードで検出したYAGレーザの緩和発振パルス波形、(c)は積分器による(b)の積算値であり、(d)はAO素子の駆動波形である。目標加工深さを得るためのパルスエネルギーの積分値をEo、加工に寄与するレーザ強度密度を有するレーザパルスのしきい値に対応する検出レベルをS1とすると、積分器での積分値がEoに達した時点(緩和発振パルスP1部分)で、AO素子が駆動させる。AO素子の駆動信号の継続時間τ3を半導体レーザの駆動電流継続時間τ1と加工に使用する緩和発振パルスのパルス幅τ2の差(τ1−τ2)に対し十分長く設定してある。
【0041】
以上の仕組みにより、図4(b)のYAGレーザパルス列のうち、時間τ2のP1部分のパルス(YAGレーザパルス発振の前半部分)が光軸Lに沿って圧延ロール表面に照射され、図4(b)のP2部分のパルス(YAGレーザパルス発振の後半部分)が光軸L'方向に偏向され、ビームダンパー15にて遮断され、ロール表面に照射されディンプル穴深さを余分に増大させる事はない。
【0042】
積分器の値がEoに達した時点で励起用半導体レーザの駆動電流をOFFし、YAGレーザの緩和発振自体を停止させないのは、励起強度そのものを変動させる事により、YAGレーザ結晶への熱負荷が変動する事を防止し、YAGレーザの発振を安定化させるとともに、YAGレーザビームの品質をも安定化し、加工点でのYAGレーザビームの集光状態を安定化し、加工形状を均一にするためである。本発明では外部機構により、緩和発振パルスのパルス幅を調整するため、YAGレーザへの励起強度は平均的に一定であり、YAGレーザへの熱負荷は時間平均として一定になり、YAGレーザの発振およびビーム品質を安定化する事ができる。
【0043】
なお、上記の例ではAO素子停止時のレーザ光軸をL軸として加工に使用し、AO素子駆動時のレーザ光をL'軸に偏向させビームダンパーで遮断する形式とした。これは最も出力ピークの高い緩和発振パルスの先頭部分を加工に使用する事で、効率の良いディンプル穴加工を行うためである。AO素子の駆動および停止に必要な時間が一般的にμ秒のオーダーで存在するため、仮にAO素子駆動時の光軸をL軸、AO素子停止時のレーザ光軸をL'軸とし、YAGレーザパルス発振の後半部分を加工に使用する構成では、緩和発振の開始を検出してからAO素子を駆動し、レーザ光軸を加工に使用するL軸に偏向走査していては、緩和発振の先頭パルスをロール表面に導光できないからである。
【0044】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0045】
上述した実施形態においては、レーザ発振器1として半導体レーザ励起固体レーザ発振器である半導体レーザ励起YAGレーザ発振器が用いられている場合について説明したが、その他のレーザ発振器が用いられてもよい。
【0046】
上述した実施形態においては、金属鋼帯を圧延する圧延ロール30の表面に加工を行う場合について説明したが、その他の圧延ロールが用いられてもよい。また、例えば薄板連続鋳造用ドラム等のその他の円筒形状金属体表面に微小穴加工を行うようにしてもよい。
【実施例】
【0047】
冷間圧延用の圧延ロールの加工をおこなった。レーザ発振器1の励起用半導体レーザの駆動電流を5kHzで0A(ゼロアンペア)と45AでON/OFF制御する事で、前記半導体レーザ励起YAGレーザ1をパルス発振持続時間約40μsで緩和発振させた。駆動電流の駆動時間は65μsとした。緩和発振パルスの平均エネルギーは40mJであり、フォトダイオードにより検出したパルス波形を精査したところ、緩和発振パルス毎のエネルギーのばらつきは、35mJから55mJの範囲であった。
【0048】
上記のYAGレーザ発振を図1の装置により、式(2)に於いてN=1とし、パルス発振後半部分を遮断する事で、加工対象であるロール表面での各レーザパルス間のエネルギーのばらつきは25mJ±2mJとなった。
【0049】
本発明により加工エネルギーのばらつきを低減した上記緩和発振レーザパルスを図2の構成の装置により圧延ロールに伝送し、集光レンズにより圧延ロール表面に集光し、穴加工をおこなった。圧延ロール全表面に直径200μmのディンプル穴加工をおこなった。ディンプル穴深さhを計測したところ、hの値は50〜60μmであり、ばらつきは10μmであった。
【0050】
上記条件にて加工した圧延ロールを用い、金属鋼帯を6000トン圧延したところ、圧延ロールの半径は摩耗により40μm小さくなり、圧延ロール表面に疲労層が25μm形成された。圧延終了後、圧延ロールを疲労層厚と同じ、半径で25μm研削し、疲労層除去した圧延ロール表面を観察したところ、初期のディンプル加工痕は全く認められず、圧延終了時に残存していたディンプル痕は疲労層とともに完全に除去され、ロール表面は均一な新生面となった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、例えば半導体レーザ励起固体レーザ発振器等のレーザ発振器を用いて、金属鋼帯の圧延ロールの表面に微小穴加工を行うレーザ加工装置に対して特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の加工装置のレーザ発振器周辺(レーザ発振側)の構成を示す部分的な構成図である。
【図2】本発明の加工装置のレーザ照射側における構成を示す部分的な構成図である。
【図3】半導体励起固体レーザの緩和発振パルス波形例(a,b)とその積分波形(c)である。
【図4】本発明の加工方法を示すタイミングチャートである。
【図5】本発明の加工方法を示す加工部付近の模式図である。
【図6】不適切方向へのビーム偏向時の加工部付近のレーザビーム挙動を示す模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1 半導体レーザ励起固体レーザ
2 半導体レーザ励起固体レーザの共振器リアミラー
3 レーザ光
4、5、21 伝送ミラー
6 狭帯域フィルター
7 NDフィルター
10 フォトダイオード(固体レーザ光検出素子)
11 アンプ回路
12 積分器
13 偏向素子駆動回路(AO素子ドライバー)
14 偏向素子(AO素子;音響光学素子)
15 ビームダンパー
16 レーザ発振器周辺部
22 集光レンズ
23 加工ノズル
30 圧延ロール
31 1軸ステージ(1軸移動テーブル)
40 ディンプル穴開口
100 レーザ加工装置
L、L' レーザ光軸(の位置)
SP1、SP2 レーザ集光スポット(レーザ光の照射位置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属鋼帯を圧延するための圧延ロール表面にレーザ光を照射して該圧延ロールに加工穴を形成する、圧延ロールのレーザ加工方法において、
Nを正の整数とし、該圧延ロールによって金属鋼帯を規定量圧延することによって摩耗により生じるロール半径の減少量をδ、該金属鋼帯の圧延により該圧延ロール表面に形成される疲労層厚みをεとして、次式(1)で規定される加工深さhの加工穴を形成する事を特徴とする、圧延ロールのレーザ加工方法。
N×δ+(N−1)×ε < h < N×(δ+ε)・・・式(1)
【請求項2】
該圧延ロール表面に照射されるレーザ光の照射時間を制御する事により、前記加工穴を形成する際の加工深さの制御を行うことを特徴とする、請求項1に記載の圧延ロールのレーザ加工方法。
【請求項3】
前記レーザ光としてパルス励起により緩和発振させたレーザ光を用い、該圧延ロール表面に照射されるレーザ光の照射時間を制御する際に、レーザ光を出力するレーザ発振器から発振された緩和発振パルスの波形を積分する事で発振開始からのパルスエネルギーが予め設定した値に達した事を判定し、レーザ光の継続する緩和発振パルスの後半部分を遮断することによりレーザ光の照射時間を制御することを特徴とする、請求項2に記載の圧延ロールのレーザ加工方法。
【請求項4】
該圧延ロール表面に照射されるレーザ光の照射時間を制御する際に、前記圧延ロール表面上におけるレーザ光の照射位置がロールの周方向に変化するように、レーザ光を偏向させてレーザ光の遮断状態と非遮断状態を切替えることによりレーザ光の照射時間を制御することを特徴とする、請求項2又は3に記載の圧延ロールのレーザ加工方法。
【請求項5】
金属鋼帯を圧延するための圧延ロール表面にレーザ光を照射して該圧延ロールに加工穴を形成する、圧延ロールのレーザ加工装置であって、
レーザ光を出力するレーザ発振器と、該レーザ発振器をパルス励起により緩和発振させて出力されたレーザ光を偏向させる偏向素子と、該偏向素子により偏向されたレーザ光を遮断するダンパーと、該レーザ光の緩和発振の開始を検出する検出器と、該検出器の信号を積分する積分器と、該積分器からのトリガー信号に基づいて前記偏向素子を制御する制御系と、を備え、
かつ、前記偏向素子は、レーザ光を偏向させた場合に、前記圧延ロール表面上におけるレーザ光の照射位置がロールの周方向に変化するように配置されている事を特徴とする、圧延ロールのレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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