説明

レーザ加工装置及び方法

【課題】粉塵の発生にかかわらず、高精度で穴加工を行うことができるようにする。
【解決手段】プリント基板3の加工面17をスキャンエリア22で区切り、そのエリア22毎に位置及び加工方向を設定してレーザビーム15を照射し、穴明け加工を行うレーザ加工手段11,13と、レーザ加工手段11,13による穴明け加工によって発生した粉塵16を吸引するダクト14と、を有するレーザ加工装置において、スキャンエリア22内を加工する際のレーザ加工手段によるレーザビーム15の加工方向(加工のための走査方向)を、前記発生した粉塵の吸引方向と反対方向又は直角方向に設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及び方法に係り、特にレーザビームによって穴明け加工を行うレーザ加工装置、及びこのレーザ加工装置で実施されるレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の回路の高密度化を背景に、基板は高多層化が進んでいる。そのため基板の製造方法の中でもビルドアップ法の普及に伴い、積層していく層間の導通用の穴を形成するためにレーザ加工が広く用いられている。
【0003】
プリント基板へのレーザ穴加工は、主にブラインドホール加工と呼ばれる止まり穴加工が一般に普及しており、この加工法は、穴底になる内層の銅箔とその上層にあるレーザ光が除去する樹脂層がもつレーザ光に対する吸収特性の差を利用している。すなわち、上層の樹脂は照射されるレーザ光により除去されるが、その下の銅はレーザ光を反射し、除去できないために、止まり穴が形成される。
【0004】
この加工法の場合、レーザ光が樹脂層を除去した際に発生した粉塵が集塵装置によりダクトへ吸い込まれている。しかしながら、集塵機により粉塵が吸い込まれる速度より、加工する速度が速いため、ダクト方向へ加工を行っていくと、粉塵が滞留した状態で加工を行うことになる。粉塵が滞留した状態で、加工を行うと、前述したように加工を行うレーザ光の妨げとなり、加工形状悪化を引き起こす。
【0005】
そこで、従来では、集塵装置を大型化し集塵力を上げ、風速を上げるようにしているが、さらに加工速度が上がり、粉塵量が増大した場合、さらなる大型集塵機を必要とすることになる。
【0006】
また、同様の粉塵の問題に対応する技術として、例えば特許文献1に記載された発明が公知である。この発明は、レーザ加工により発生する加工飛散物を効率よく除去、回収し、加工対象物に付着するデブリを削減するため、加工対象物のレーザ光照射領域近傍の雰囲気を外部へ排出する排気孔と、加工対象物のレーザ光照射領域近傍に気体を導入する第1通気孔と、第1通気孔と対向する位置に設けられ加工対象物のレーザ光照射領域近傍の雰囲気を排出する第2通気孔と、を有するレーザ加工ヘッドを備え、加工対象物のレーザ光照射領域より発生する加工飛散物を、レーザ加工ヘッドの底部に設けられた開口部と連通する排気孔及び第2通気孔より排気することを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−237215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1記載の発明では、レーザ加工により発生する加工飛散物を効率よく除去、回収し、加工対象物に付着するデブリを削減すべく、加工対象物のレーザ光照射領域より発生する加工飛散物を、レーザ加工ヘッドの底部に設けられた開口部と連通する排気孔及び第2通気孔より排気するようにしているが、エアーの流れ方向と同じ方向に加工を行うため、粉塵が滞留した状態で加工することになってしまう。そのため、結局、従来と同様に、加工するレーザ光の妨げになり、加工精度の低下を招くことになる。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、粉塵の発生にかかわらず、高精度で穴加工を行うことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、第1の手段は、プリント基板の加工面をスキャンエリアで区切り、そのエリア毎に位置及び加工方向を設定してレーザビームを照射し、穴明け加工を行うレーザ加工手段と、前記レーザ加工手段による穴明け加工によって発生した粉塵を吸引する吸引手段と、を有するレーザ加工装置において、前記スキャンエリア内を加工する際の前記レーザ加工手段の加工方向が、前記発生した粉塵の吸引方向と反対方向又は直角方向に設定されていることを特徴とする。
【0011】
この場合、前記加工方向の設定は、加工プログラムの座標変換によって行われ、穴明け加工は止まり穴加工である。
【0012】
第2の手段は、プリント基板の加工面をスキャンエリアで区切り、そのエリア毎に位置及び加工方向を設定し、レーザ加工手段によってレーザビームを照射し、レーザビーム照射によって発生した粉塵を吸引手段によって吸引しながら穴明け加工を行うレーザ加工方法において、前記発生した粉塵の吸引方向と反対方向又は直角方向に前記レーザビームを移動させながら当該レーザビームを照射し、前記スキャンエリア内を加工する工程を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、粉塵の発生にかかわらず、高精度で穴加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るレーザ加工装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示したレーザ加工装置によって穴加工を行う場合の従来の加工方法と加工状態を示す説明図である。
【図3】図1に示したレーザ加工装置によって穴加工を行う場合の本発明の実施形態における加工方法と加工状態を示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態における加工方向の変更を加工プログラムの座標変換によって行う例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係るレーザ加工装置の概略構成を示す図である。
【0017】
同図において、レーザ加工装置は、Yテーブル1、Xテーブル2、ベッド4、オーバーフレーム5、主軸頭6、光路プレート7、レーザ発振器8、ビーム形成部品群9、第1及び第2ミラー10a,10b、ガルバノスキャナ11、スキャニングミラー12、fθレンズ13及びダクト14を備えている。
【0018】
Yテーブル1は図示を省略したガイド、ボールネジ及びサーボモータによりXテーブル2上を図示Y方向に移動し、位置決め可能である。Yテーブル1はプリント基板3を載置可能な大きさであり、プリント基板3は図示を省略した真空吸着によりYテーブル1上に固定される。Xテーブル2は図示を省略したガイド、ボールネジ及びサーボモータによりベッド4上を図示X方向に移動し、位置決め可能である。
【0019】
オーバーフレーム5はベッド4上に固定された門型の構造で、このオーバーフレーム5の前面には主軸頭6が設けられている。主軸頭6は、図示を省略したガイド、ボールネジ及びサーボモータにより図示のZ軸方向に移動し、位置決め可能である。
【0020】
光路プレート7はオーバーフレーム5の上面に取り付けられ、レーザ発振器8、図示を省略したレンズ、ミラー等の各種ビーム形成部品群9が搭載されている。レーザ発振器8から出射されたレーザビームは、ビーム形成部品群9を通過し、ミラー10a,10bを介して主軸頭6に搭載されたガルバノスキャナ11の先端に取り付けられたスキャニングミラー12へ入射し、ガルバノスキャナ11により偏向されたレーザビームをfθレンズ13に導く。fθレンズ13は、ガルバノスキャナ11から導かれたレーザビームをプリント基板3へ垂直に入射させ、集光させ、プリント基板3へ穴明け加工を行う。ダクト14はプリント基板3へ加工時に発生した粉塵を吸い込む。
【0021】
図2は図1に示したレーザ加工装置によって穴加工を行う場合の従来の加工方法と加工状態を示す説明図である。
【0022】
レーザ加工装置では、前述のようにプリント基板3の加工面17にスキャニング範囲、すなわちスキャンエリア22を設定してプリント基板3に穴加工を施す。穴加工を施すためにプリント基板3の加工面17へレーザビーム15を照射する。この照射により、樹脂層20は除去され、レーザビーム15は銅箔21で反射される。その際、樹脂層20の除去に伴って粉塵16が発生する。樹脂20の除去時に発生した粉塵16はプリント基板3の加工面17上に拡散し、集塵ダクト14に吸い込まれる。粉塵16は集塵ダクト14へ吸い込まれる際、集塵ダクト14内のブロワーがエアーを吸引しているので、その吸引されるエアーの流れに乗って移動し、最終的に集塵ダクト14内にエアーとともに導かれる。なお、符号Fはエアー流れ方向を示す。
【0023】
そのため、加工穴を手前側よりエアー流れ方向Fへ順番に加工していくと、レーザビーム15は粉塵16の上方から基板3へ入射することになる。通常、ダクト14は、作業の都合上、レーザ加工装置の奥側にレイアウトされ、穴加工はレーザ加工装置の操作者から見て手前側から奥側に(レーザビーム15−1から15−2のように)走査させて行われる。この方向にレーザビーム15を走査させ(スキャニングミラー12によって振って)、粉塵16の上方からプリント基板3に入射すると、図2において符号Aで示すようにレーザビーム15−2が粉塵16の影響を受けてしまい、粉塵16がレーザビーム15−2を遮ることになる。レーザビーム15が粉塵16によって遮られると、ビームエネルギーの分布が不均一になり、プリント基板3に入射する加工ビーム形状が悪くなる。この状態で加工すると、加工穴のTOP形状19は異常形状となってしまい、TOP径23aは狙い径に対して大きくなり、BOTTOM径23bは狙い径よりも小さくなってしまう。
【0024】
図3は図1に示したレーザ加工装置によってスキャンエリア22内で基板3に加工を行ったときの本実施形態における加工方法と加工状態を示す説明図である。
【0025】
本実施形態では、穴加工の順序をエアー流れ方向Fと逆の方向へ走査して加工を行うことによって粉塵16が流れる方向と対向する方向へ走査しながら(レーザビーム15−2から15−1のように)加工する。このように走査すると、加工する穴位置には粉塵16が存在せず、下流側に流れていく。そのため、加工位置では粉塵16の影響を受けず加工することができる。
【0026】
このように加工位置に粉塵16が存在しないので、ビームエネルギーの分布は均一になり、プリント基板3に入射する加工ビーム形状が悪くなることはない。そのため加工穴のTOP形状18に異常は見られず、TOP径22a及びBOTTOM径22bは規定範囲内の径を得ることができる。また、加工穴順序をエアー流れ方向Fに対して直角方向へ加工を行うようにしても、これとほぼ同様なきれいな加工穴を形成することができる。
【0027】
図3は、被加工物であるプリント基板3の大きさが一辺500mmで、加工スキャンエリア22が30mm角の例である。被加工物であるプリント基板3への加工穴位置は、そのプリント基板3に形成される回路パターンにより決まるものであり、加工順序とは無関係である。しかしながら、基板全域へ効率よく加工穴位置へのレーザショットを行うには、30mm角のスキャンエリア22を順次あてがうようにXYテーブル2,1を位置決めしていくことが必要であり、XYテーブル2,1の位置決め位置の順序は予め図示しないNC制御装置の加工プログラムによって定められている。
【0028】
本実施形態では、従来、加工方向が粉塵16を吸引するエアー流れ方向の上流側から下流側に向かって加工していたものを、逆にエアー流れ方向の下流側から上流側に向かって加工するようにしたものである。このように加工方向を変更する場合には、前記加工プログラムに対して加工プログラムの座標を変換するプログラムを入れれば、従来の加工方向から本実施形態の加工方向に簡単に変更することができる。
【0029】
図4は、この加工プログラムの座標を変換する方式を示す説明図である。図4において、左側の囲み100が変換前の加工プログラムの座標であり、囲み100内の上の座標から順に位置決め、加工を行うようになっている。この図の下側には実際の位置決め座標とエアーの流れ方向との関係200を示している。左側の囲みの順番で加工を行うと、エアー流れの方向と同じ順に加工を進めていくことになり、このままでは、良好な加工精度を確保できない。
【0030】
そこで、座標変換プログラムでスキャンエリア内において手前からエアー流れ方向へ加工をしようとする穴位置を抽出し、エアー流れ方向と反対方向になるよう、加工順番を変更する。この結果、座標変換プログラムにより、位置決め及び加工の順番は右側の囲み300の順番に変換される。よって、図4下部の座標位置と照らし合わせると、エアーの流れ方向と逆方向に位置決め、加工が行われることになる。
【0031】
また、スキャンエリア4は、1つのエリアの加工が終われば次のエリアに移動する。この移動は、XYテーブル2,1によって行われる。その際、XYテーブル2,1が移動している間に粉塵16は全てダクト14内に吸引されるため、移動方向はエアー流れ方向Fと同方向でも逆方向でもよい。
【0032】
さらに、前述のようにエアー流れ方向Fに対して直角方向へ加工を行ってもきれいな穴加工が可能となるので、この場合には、例えば座標(X1,Y1)、(X2,Y1)、(X3,Y1)を座標(X1,Y1)、(X1,Y2)、(X1,Y3)に変換するような座標変換プログラムを用いればよい。
【0033】
以上のように、本実施形態では、エアー流れ方向Fと逆方向、あるいは直角方向にレーザビーム15を進行させて穴加工が行われるため、加工する穴位置には粉塵16が堆積することがない。その結果、常に清浄な表面で加工を行うことが可能となるので、形状、精度ともに良好な加工穴を得ることができる。
【0034】
また、粉塵16が流れていない箇所を加工することから、粉塵16の影響を受けずにレーザビームによって穴加工を行うことができ、穴品質を確保することが可能となる。また加工点の風速を上げる必要がないことから、集塵装置を大型化する必要がなく、経済的である。
【0035】
なお、特許請求の範囲におけるプリント基板は本実施形態では符号3に、加工面は符号17に、スキャンエリアは符号22に、レーザビームは符号15にレーザ加工手段は、レーザ発振器8、各種ビーム形成部品群9、ミラー10a,10b、主軸頭6に、ガルバノスキャナ11、スキャニングミラー12、及びfθレンズ13に、粉塵は符号16に、吸引手段はダクト14、穴は加工穴18に、それぞれ対応する。
【0036】
さらに、本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0037】
3 プリント基板
6 主軸頭
8 レーザ発振器
9 各種ビーム形成部品群
10a,10b ミラー
11 ガルバノスキャナ
12 スキャニングミラー
13 fθレンズ
14 吸引手段
15,15−1,15−2 レーザビーム
16 粉塵
17 加工面
18 加工穴
22 スキャンエリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント基板の加工面をスキャンエリアで区切り、そのエリア毎に位置及び加工方向を設定してレーザビームを照射し、穴明け加工を行うレーザ加工手段と、
前記レーザ加工手段による穴明け加工によって発生した粉塵を吸引する吸引手段と、
を有するレーザ加工装置において、
前記スキャンエリア内を加工する際の前記レーザ加工手段の加工方向が、前記発生した粉塵の吸引方向と反対方向又は直角方向に設定されていること
を特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
請求項1記載のレーザ加工装置において、
前記加工方向の設定が、加工プログラムの座標変換によって行われること
を特徴とするレーザ加工装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のレーザ加工装置において、
前記穴明け加工が止まり穴加工であること
を特徴とするレーザ加工装置。
【請求項4】
プリント基板の加工面をスキャンエリアで区切り、そのエリア毎に位置及び加工方向を設定し、レーザ加工手段によってレーザビームを照射し、レーザビーム照射によって発生した粉塵を吸引手段によって吸引しながら穴明け加工を行うレーザ加工方法において、
前記発生した粉塵の吸引方向と反対方向又は直角方向に前記レーザビームを移動させながら当該レーザビームを照射し、前記スキャンエリア内を加工する工程を備えていること
を特徴とするレーザ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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