レーザ加工装置
【課題】 均一な焼入れ加工を行うことができるレーザ加工装置を提供すること。
【解決手段】 複数の半導体レーザ11と、半導体レーザ11から出射された各レーザビームを一端から入射し、高出力レーザビームとして他端から出射する光ファイバ12と、光ファイバ12から出射された高出力レーザビームを平行ビームにして出射するコリメートレンズ13と、平行ビームの光強度分布を変換した回折光を形成する計算機ホログラム14と、光強度分布が変換された回折光を集光して被加工物に照射する集光レンズ15とからなり、計算機ホログラム14および集光レンズ15により被加工物Wに形成されるレーザビームの強度分布形状が、長軸方向を有し、さらにこの長軸方向に沿ってビーム中心からビーム両端に向けて一次関数的に増加するM字形状にすることで均一な加熱を行う。
【解決手段】 複数の半導体レーザ11と、半導体レーザ11から出射された各レーザビームを一端から入射し、高出力レーザビームとして他端から出射する光ファイバ12と、光ファイバ12から出射された高出力レーザビームを平行ビームにして出射するコリメートレンズ13と、平行ビームの光強度分布を変換した回折光を形成する計算機ホログラム14と、光強度分布が変換された回折光を集光して被加工物に照射する集光レンズ15とからなり、計算機ホログラム14および集光レンズ15により被加工物Wに形成されるレーザビームの強度分布形状が、長軸方向を有し、さらにこの長軸方向に沿ってビーム中心からビーム両端に向けて一次関数的に増加するM字形状にすることで均一な加熱を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ照射による加熱を利用して焼入れを行うレーザ加工装置に関し、さらに詳細には、焼入れする領域の焼入れ深さを均一にすることができるレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、焼入れ加工を行う場合、焼入れする領域の深さ分布をできる限り均一にすることが加工品質上は望ましい。レーザ照射による焼入れ加工では、照射するレーザ光の光強度分布が焼入れ深さの分布に影響を及ぼすことになる。通常のレーザビームは、照射面の光強度がガウス分布をしているため、本来のレーザビームの光強度分布をそのまま維持して焼入れを行うと、焼入れ深さの分布は中央が深い不均一形状になってしまう。
【0003】
そこで、焼入れ深さを均一な分布にするため、計算機ホログラム(Computer Generated Hologram、以下CGHと略す)を用いて、光強度分布を整形した回折像を被加工物に照射する方法が提案されている(非特許文献1参照)。
【0004】
この文献に記載された方法によれば、図7に示すように、焼入れに必要な高出力のレーザビームを簡単に得ることができるCO2レーザ51を光源に用い、CO2レーザ51から出射されたレーザビームの光強度分布をCGH52で変換した後、集光レンズ53でテーブル54に載置された被加工物W(例えば鋼材)に照射する。CO2レーザ51は、波長が10μm程度の赤外光であり、CGH52は金属製(例えば銅)の反射型CGHを用いている。
【0005】
ここで用いるCGHは、周知のGSアルゴリズム(Gerchberg-Saxtonアルゴリズム)によるパターン設計と、マスクメッキ法によるパターン形成とにより作成されるものであり、光強度がガウス分布である入射レーザビームの光強度分布を、任意の光強度分布の回折光に変換して出射するものである。したがって、焼入れに適した光強度分布を求め、その光強度分布を有する回折光が得られるCGHを作成するようにする。具体的には焼入れに適した光強度分布のCGHとして、入射レーザビームを、ビームの中心から両端に向けて一時関数的に増加する分布(M字分布という)を有する回折光に変換するCGHを用いる。そして、このCGHを用いることにより、数値シミュレーション上、被加工物の焼入れ深さの分布が、ガウス分布で照射したときよりも均一な形状になることが開示されている。
【非特許文献1】2007年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集775頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、光源にCO2レーザを用いるとともに、CGHで光強度分布を変換することにより、シミュレーション上は被加工物Wの加工面に照射するレーザビームの光強度分布をM字分布に整形することができる。そこで、このようにして得られたレーザビームを、直接、赤外線カメラに向けて照射し、実際にその光強度分布を観察してみた。
【0007】
図8は、CO2レーザ光源からのレーザビームをCGHと集光レンズとにより光強度分布がM字分布になるようにして集光させたときの光強度分布の計測データである。この光強度分布は、中央が小さく両端が大きい強度分布を示しているものの、全体にわたってスパイク状のピークが多数含まれる波形となっている。したがって、このような光強度分布のレーザビームを用いて加熱した場合に、平均値としては光強度分布がM字分布になって加熱できるとしても、スパイク状のピークによる加熱の影響で不均一な焼入れが行われてしまうこととなっていた。
【0008】
そこで本発明は、均一な焼入れを行うことができるレーザ加工装置を提供することを目的とする。
また、本発明は被加工物に照射するレーザ光の光強度分布がM字分布であり、しかもスパイク状のピークがほとんど含まれていないレーザ加工装置を提供することを目的とする。
また、本発明はガスレーザに代え、小型化が容易な半導体レーザを用いることにより、コンパクトなレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のレーザ加工装置では、高出力が得られるCO2レーザを用いず、代わりに半導体レーザをレーザ光源として用いる。1つの半導体レーザから得られる出力エネルギーだけでは焼入れに必要なエネルギーが得られないため、複数の半導体レーザを用いて焼入れに必要な出力エネルギーを確保するとともに、レーザビームを被加工物に導光する光学系を工夫することにより、均一な加熱を行い、均一な焼入れ加工ができるようにしている。
すなわち、本発明のレーザ加工装置は、被加工物にレーザビームを照射して加熱することにより、焼入れを行うレーザ加工装置であって、複数の半導体レーザと、複数の半導体レーザから出射された各レーザビームを一端から入射し、高出力レーザビームとして他端から出射する光ファイバと、光ファイバから出射された高出力レーザビームを平行ビームにして出射するコリメートレンズと、平行ビームの光強度分布を変換した回折光を形成する計算機ホログラムと、光強度分布が変換された回折光を集光して被加工物に照射する集光レンズとからなり、計算機ホログラムおよび集光レンズにより被加工物に形成されるレーザビームの強度分布形状は、長軸方向を有し、さらにこの長軸方向に沿ってビーム中心からビーム両端に向けて一次関数的に増加するM字形状であるようにしている。
【0010】
ここで、半導体レーザとしては波長が0.8μm〜1.0μm程度の近赤外波長のものが使用される。具体的には、例えば808nm程度の半導体レーザを用いることができる。波長がこの範囲のレーザビームは、光ファイバ内を、ほとんど吸収を受けずに通過させることができる。
【0011】
本発明によれば、複数の半導体レーザのそれぞれから出射されるレーザビームを光ファイバの一端から入射し、光ファイバ内を通過させて他端から出射する。光ファイバ内では、各半導体レーザからのレーザビームがファイバ内で反射されながら進行することにより平均化される結果、光ファイバから出射されるレーザビームは空間的にコヒーレントでない1つの高出力レーザビームとなる。また、光ファイバ内を通過する際に、各半導体レーザからのレーザビームどうしが平均化されることで、スパイク状のピークが打ち消され、スパイク状ピークが含まれないレーザビームとなる。そして、光ファイバから出射された高出力レーザビームを、コリメートレンズによって平行光にしてから、計算機ホログラム(CGH)および集光レンズを通過させる。計算機ホログラム(CGH)から出射され、集光レンズを通過し、被加工物の表面に照射される回折像の光強度分布形状は、長軸方向を有し、この長軸方向に沿ってビーム中心からビーム両端に向けて一次関数的に増加するM字形状になるようにしてあるので、被加工物表面はガウス分布のときよりも、均一な光強度で加熱されるようになる。このようにして均一な加熱が行なわれた後、冷却されることで均一な焼入れが行われるようになる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被加工物の加工面に照射する回折像(レーザビーム)の光強度分布をM字分布にすることができ、しかもスパイク状のピークがほとんど含まれていないレーザビームで加熱することができる。その結果、スパイク状ピークによる加熱の影響がない均一な焼入れ加工を行うことができる。
また、CO2レーザに代えて、半導体レーザを用いることにより小型化が容易になり、コンパクトなレーザ加工装置を実現できる。
【0013】
上記発明において、使用する光ファイバのファイバ径は、少なくとも100μmより大きくする方が好ましい。
ファイバ径を大きくすることで、光ファイバ自体の耐熱性が増し、光ファイバ自体が高出力レーザビームによる過熱によって破損するおそれがなくなる。なお、光ファイバから出射されるビーム径はファイバ径に依存するため、ファイバ径を大きくすると、出射されるビーム径も太くなる。その場合、光ファイバから出射されるレーザビームは、ファイバの出射端の全面に複数の点光源が存在し、それぞれの点光源から出射されたレーザビームがCGHに入射するものとしてCGHを設計することにより、ファイバ径を太くした場合のCGHの設計を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態であるレーザ加工装置の構成を示す図である。ここでは鋼材の焼入れを行う場合を例に説明する。
【0015】
このレーザ加工装置10は、光源装置11と、光ファイバ12と、コリメートレンズ13と、CGH14と、集光レンズ15と、テーブル16からなる。なお、焼入れを行う被加工物W(鋼材)上でレーザビームを加工予定線Lに沿って走査しながら線状に焼入れする場合や、被加工物Wの焼入れ位置を自動的に位置決めする場合には、レーザビームの照射位置を、被加工物Wに対して相対的に移動させるためのテーブル移動機構(不図示)がさらに設けられている。
【0016】
光源装置11は、808nmの波長のレーザビームを発振する複数の半導体レーザ光源11aを内蔵してあり、各光源から出射されるレーザビームが光源装置11内の集光レンズ11bによって光ファイバ12に導光されるようにしてある。
【0017】
光ファイバ12は、光源装置11から出射されるレーザビームを透過するガラス材が使用されるとともに、そのファイバ径が1mmのものを用いてある。この光ファイバ12に入射されるレーザビームは、互いに位相関係がなく、光ファイバ12内を通過したレーザビームはコヒーレントでない高出力レーザビームとして出射端から出射されることになる。
【0018】
コリメートレンズ13は、光ファイバ12から出射される高出力レーザビームを平行光にしてCGH14に入射するようにしてある。
【0019】
CGH14は石英基板で形成され、基板上にフォトリソグラフィ技術と反応性イオンエッチング技術とを用いて、凹凸パターンが加工してある。
一般に、凹凸パターンが形成されたCGH14に平行ビームを照射すると、その凹凸パターンに応じた光強度分布を有する回折像を得ることができる。レーザ加工装置10に用いられるCGH14の基板表面には、均一な深さの焼入れに必要な光強度分布を有する回折像を得るための凹凸パターンを形成する。この凹凸パターンはGSアルゴリズム(Gerchberg-Saxtonアルゴリズム)よりパターン設計される。
【0020】
ここで、均一な深さの焼入れ加工を行うための凹凸パターンの作成手順について説明する。焼入れのためのレーザ照射幅を、例えば4mmと設定する。光源が点光源であると仮定し、点光源から出射したレーザビームをCGH14に照射したときに形成される回折像の光強度分布として、幅4mmで両端の光強度(IH)が最も高く、中央の光強度(IL)が最も低くなるM字分布を採用する。M字分布の最大/最小光強度比(IH/IL)をパラメータとして、光強度比と焼入れ形状(加熱領域の断面形状)との関係を有限要素法による三次元熱解析シミュレーションで算出する。そして、シミュレーションの結果に基づいて、最も均一な焼入れが可能なM字分布の最大/最小光強度比(IH/IL)を決定する。この演算において、例えば、被加工物が炭素鋼(S45C)とし、その熱伝導率が28.3W/m・K、比熱容量が7.2×102J/kg・Kとする。レーザビームの光吸収率を43.5%としたときに、M字分布の最大/最小光強度比(IH/IL)は2.0と決定される。
【0021】
実際にCGH14に入射する光は点光源からではなく、光ファイバ12の出射端の全面から出射される光が合成されたものである。そのため、出射端の全面にわたって点光源があり、それぞれの点光源から出射されるものとして、この影響を組み込むために最大/最小光強度比(IH/IL)が2.0であるM字分布と、光ファイバの出射端の端面形状(直径1mmの円)との畳み込み積分を行う。これにより、光ファイバ12のファイバ径の影響を含めた光強度分布が算出される。その結果、光ファイバ12の影響を考慮した光強度分布は、図2に示すようにM字分布が一次元形状から二次元形状に広がり、点光源と仮定して求めた最大/最小光強度比(IH/IL)が小さくなる(例えば1.3)。
【0022】
続いて、GSアルゴリズムを用いて、算出された光強度分布の回折像が得られる凹凸パターンを設計し、これを石英基板上にフォトリソグラフィ技術と反応性イオンエッチング技術とを用いてパターン形成することでCGH14を作成する。
このような手順で作成するCGH14は、具体的には、直径50mmの表面に、3mm×3mmのサブホログラムパターンとして並べられる。1つのサブホログラムは、512個×512個のピクセルから構成され、各ピクセルの大きさは6μm×6μmとしている。
図3は、作成したCGH14の表面を拡大した図である。表面上に凹凸パターンが形成され、これにより所望の回折像が得られる。
【0023】
集光レンズ15は、CGH14によって光強度分布がM字分布に変換されたレーザビームを、被加工物Wの表面に集光する。上述したCGH14とこの集光レンズ15とにより、M字分布の光強度分布での照射が行われ、均一な加熱を行うことができることになる。
【0024】
次に、焼入れ動作について説明する。まず、被加工物Wを、レーザ加工装置10のテーブル16上に載置し、焼入れを行う領域が集光レンズ15の焦点近傍にくるように、被加工物Wの位置および高さを調整する。
続いて、半導体レーザ11を作動させ、光ファイバ12、コリメートレンズ13、CGH14、集光レンズ15を通過した高出力レーザビームを基板に照射し、照射領域がM字分布の光強度で加熱されるようにする。その結果、均一な加熱がなされ、レーザビームが通過した後、自己冷却により硬化する。照射領域は以上の手順により焼入れが行われる。
なお、被加工物Wに対し、線状あるいは面状に焼入れを行う場合は、移動機構(不図示)でテーブル16を移動することにより、レーザビームを走査しつつ加熱する。
【0025】
(実施例)
半導体レーザ11から出射されるレーザビームを、光ファイバ、コリメートレンズ、CGH、集光レンズを通過させて、そのとき得られる光強度分布を実際に観察した。
測定条件は以下のとおりである。
CGHの素材: 石英基板
レーザ光源:Laserline社製LDL160−1000(最大出力:1kw)
光ファイバの径: 1mm
図4は、観察された光強度分布をグラフ化した図である。また、図5は被加工物の加工面上に照射される回折像である。光強度分布は、直径1mmの光ファイバの出射端全面が光源となる影響で、二次元的に広がるが、長軸方向が形成されるとともに、長軸方向に沿ってビーム中心からビーム両端に向けて一次関数的に増加しており、M字形状(二次元に広がるため、より正確には馬の鞍形状)になっている。また、光ファイバ内を通過中にレーザビームが平均化されることにより、スパイク状のピークはほとんど見られなくなっている。
【0026】
また、図6は、実際に被加工物の加工面上にレーザを照射することにより得られた加工面の焼入れ状態を示す断面図であり、図6(a)はCGHにより光強度分布をM字状にした場合、図6(b)はガウス分布のレーザを照射した場合である。
光強度分布をM字状にした場合の方が、焼入れ深さが明らかに均一な分布にできている。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、焼入れ加工に用いるレーザ加工装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態であるレーザ加工装置の構成を示す図。
【図2】光ファイバの出射端の拡がりによる影響を含んだ光強度分布を説明する図。
【図3】CGHの表面を拡大した図。
【図4】本発明の一実施例で得られた光強度分布をグラフ化した図。
【図5】図4の実施例で加工面上に照射される回折像を示す図。
【図6】図5の回折像を照射することにより得られた加工面の焼入れ状態を示す断面図。
【図7】CO2レーザを光源に用いた従来からのレーザ加工装置の構成を示す図。
【図8】CO2レーザを光源に用いて得られた光強度分布をグラフ化した図。
【符号の説明】
【0029】
10: レーザ加工装置
11: レーザ光源(複数の半導体レーザ)
12: 光ファイバ
13: コリメートレンズ
14: 計算機ホログラム(CGH)
15: 集光レンズ
16: テーブル
W : 被加工物(鋼材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ照射による加熱を利用して焼入れを行うレーザ加工装置に関し、さらに詳細には、焼入れする領域の焼入れ深さを均一にすることができるレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、焼入れ加工を行う場合、焼入れする領域の深さ分布をできる限り均一にすることが加工品質上は望ましい。レーザ照射による焼入れ加工では、照射するレーザ光の光強度分布が焼入れ深さの分布に影響を及ぼすことになる。通常のレーザビームは、照射面の光強度がガウス分布をしているため、本来のレーザビームの光強度分布をそのまま維持して焼入れを行うと、焼入れ深さの分布は中央が深い不均一形状になってしまう。
【0003】
そこで、焼入れ深さを均一な分布にするため、計算機ホログラム(Computer Generated Hologram、以下CGHと略す)を用いて、光強度分布を整形した回折像を被加工物に照射する方法が提案されている(非特許文献1参照)。
【0004】
この文献に記載された方法によれば、図7に示すように、焼入れに必要な高出力のレーザビームを簡単に得ることができるCO2レーザ51を光源に用い、CO2レーザ51から出射されたレーザビームの光強度分布をCGH52で変換した後、集光レンズ53でテーブル54に載置された被加工物W(例えば鋼材)に照射する。CO2レーザ51は、波長が10μm程度の赤外光であり、CGH52は金属製(例えば銅)の反射型CGHを用いている。
【0005】
ここで用いるCGHは、周知のGSアルゴリズム(Gerchberg-Saxtonアルゴリズム)によるパターン設計と、マスクメッキ法によるパターン形成とにより作成されるものであり、光強度がガウス分布である入射レーザビームの光強度分布を、任意の光強度分布の回折光に変換して出射するものである。したがって、焼入れに適した光強度分布を求め、その光強度分布を有する回折光が得られるCGHを作成するようにする。具体的には焼入れに適した光強度分布のCGHとして、入射レーザビームを、ビームの中心から両端に向けて一時関数的に増加する分布(M字分布という)を有する回折光に変換するCGHを用いる。そして、このCGHを用いることにより、数値シミュレーション上、被加工物の焼入れ深さの分布が、ガウス分布で照射したときよりも均一な形状になることが開示されている。
【非特許文献1】2007年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集775頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、光源にCO2レーザを用いるとともに、CGHで光強度分布を変換することにより、シミュレーション上は被加工物Wの加工面に照射するレーザビームの光強度分布をM字分布に整形することができる。そこで、このようにして得られたレーザビームを、直接、赤外線カメラに向けて照射し、実際にその光強度分布を観察してみた。
【0007】
図8は、CO2レーザ光源からのレーザビームをCGHと集光レンズとにより光強度分布がM字分布になるようにして集光させたときの光強度分布の計測データである。この光強度分布は、中央が小さく両端が大きい強度分布を示しているものの、全体にわたってスパイク状のピークが多数含まれる波形となっている。したがって、このような光強度分布のレーザビームを用いて加熱した場合に、平均値としては光強度分布がM字分布になって加熱できるとしても、スパイク状のピークによる加熱の影響で不均一な焼入れが行われてしまうこととなっていた。
【0008】
そこで本発明は、均一な焼入れを行うことができるレーザ加工装置を提供することを目的とする。
また、本発明は被加工物に照射するレーザ光の光強度分布がM字分布であり、しかもスパイク状のピークがほとんど含まれていないレーザ加工装置を提供することを目的とする。
また、本発明はガスレーザに代え、小型化が容易な半導体レーザを用いることにより、コンパクトなレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のレーザ加工装置では、高出力が得られるCO2レーザを用いず、代わりに半導体レーザをレーザ光源として用いる。1つの半導体レーザから得られる出力エネルギーだけでは焼入れに必要なエネルギーが得られないため、複数の半導体レーザを用いて焼入れに必要な出力エネルギーを確保するとともに、レーザビームを被加工物に導光する光学系を工夫することにより、均一な加熱を行い、均一な焼入れ加工ができるようにしている。
すなわち、本発明のレーザ加工装置は、被加工物にレーザビームを照射して加熱することにより、焼入れを行うレーザ加工装置であって、複数の半導体レーザと、複数の半導体レーザから出射された各レーザビームを一端から入射し、高出力レーザビームとして他端から出射する光ファイバと、光ファイバから出射された高出力レーザビームを平行ビームにして出射するコリメートレンズと、平行ビームの光強度分布を変換した回折光を形成する計算機ホログラムと、光強度分布が変換された回折光を集光して被加工物に照射する集光レンズとからなり、計算機ホログラムおよび集光レンズにより被加工物に形成されるレーザビームの強度分布形状は、長軸方向を有し、さらにこの長軸方向に沿ってビーム中心からビーム両端に向けて一次関数的に増加するM字形状であるようにしている。
【0010】
ここで、半導体レーザとしては波長が0.8μm〜1.0μm程度の近赤外波長のものが使用される。具体的には、例えば808nm程度の半導体レーザを用いることができる。波長がこの範囲のレーザビームは、光ファイバ内を、ほとんど吸収を受けずに通過させることができる。
【0011】
本発明によれば、複数の半導体レーザのそれぞれから出射されるレーザビームを光ファイバの一端から入射し、光ファイバ内を通過させて他端から出射する。光ファイバ内では、各半導体レーザからのレーザビームがファイバ内で反射されながら進行することにより平均化される結果、光ファイバから出射されるレーザビームは空間的にコヒーレントでない1つの高出力レーザビームとなる。また、光ファイバ内を通過する際に、各半導体レーザからのレーザビームどうしが平均化されることで、スパイク状のピークが打ち消され、スパイク状ピークが含まれないレーザビームとなる。そして、光ファイバから出射された高出力レーザビームを、コリメートレンズによって平行光にしてから、計算機ホログラム(CGH)および集光レンズを通過させる。計算機ホログラム(CGH)から出射され、集光レンズを通過し、被加工物の表面に照射される回折像の光強度分布形状は、長軸方向を有し、この長軸方向に沿ってビーム中心からビーム両端に向けて一次関数的に増加するM字形状になるようにしてあるので、被加工物表面はガウス分布のときよりも、均一な光強度で加熱されるようになる。このようにして均一な加熱が行なわれた後、冷却されることで均一な焼入れが行われるようになる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被加工物の加工面に照射する回折像(レーザビーム)の光強度分布をM字分布にすることができ、しかもスパイク状のピークがほとんど含まれていないレーザビームで加熱することができる。その結果、スパイク状ピークによる加熱の影響がない均一な焼入れ加工を行うことができる。
また、CO2レーザに代えて、半導体レーザを用いることにより小型化が容易になり、コンパクトなレーザ加工装置を実現できる。
【0013】
上記発明において、使用する光ファイバのファイバ径は、少なくとも100μmより大きくする方が好ましい。
ファイバ径を大きくすることで、光ファイバ自体の耐熱性が増し、光ファイバ自体が高出力レーザビームによる過熱によって破損するおそれがなくなる。なお、光ファイバから出射されるビーム径はファイバ径に依存するため、ファイバ径を大きくすると、出射されるビーム径も太くなる。その場合、光ファイバから出射されるレーザビームは、ファイバの出射端の全面に複数の点光源が存在し、それぞれの点光源から出射されたレーザビームがCGHに入射するものとしてCGHを設計することにより、ファイバ径を太くした場合のCGHの設計を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態であるレーザ加工装置の構成を示す図である。ここでは鋼材の焼入れを行う場合を例に説明する。
【0015】
このレーザ加工装置10は、光源装置11と、光ファイバ12と、コリメートレンズ13と、CGH14と、集光レンズ15と、テーブル16からなる。なお、焼入れを行う被加工物W(鋼材)上でレーザビームを加工予定線Lに沿って走査しながら線状に焼入れする場合や、被加工物Wの焼入れ位置を自動的に位置決めする場合には、レーザビームの照射位置を、被加工物Wに対して相対的に移動させるためのテーブル移動機構(不図示)がさらに設けられている。
【0016】
光源装置11は、808nmの波長のレーザビームを発振する複数の半導体レーザ光源11aを内蔵してあり、各光源から出射されるレーザビームが光源装置11内の集光レンズ11bによって光ファイバ12に導光されるようにしてある。
【0017】
光ファイバ12は、光源装置11から出射されるレーザビームを透過するガラス材が使用されるとともに、そのファイバ径が1mmのものを用いてある。この光ファイバ12に入射されるレーザビームは、互いに位相関係がなく、光ファイバ12内を通過したレーザビームはコヒーレントでない高出力レーザビームとして出射端から出射されることになる。
【0018】
コリメートレンズ13は、光ファイバ12から出射される高出力レーザビームを平行光にしてCGH14に入射するようにしてある。
【0019】
CGH14は石英基板で形成され、基板上にフォトリソグラフィ技術と反応性イオンエッチング技術とを用いて、凹凸パターンが加工してある。
一般に、凹凸パターンが形成されたCGH14に平行ビームを照射すると、その凹凸パターンに応じた光強度分布を有する回折像を得ることができる。レーザ加工装置10に用いられるCGH14の基板表面には、均一な深さの焼入れに必要な光強度分布を有する回折像を得るための凹凸パターンを形成する。この凹凸パターンはGSアルゴリズム(Gerchberg-Saxtonアルゴリズム)よりパターン設計される。
【0020】
ここで、均一な深さの焼入れ加工を行うための凹凸パターンの作成手順について説明する。焼入れのためのレーザ照射幅を、例えば4mmと設定する。光源が点光源であると仮定し、点光源から出射したレーザビームをCGH14に照射したときに形成される回折像の光強度分布として、幅4mmで両端の光強度(IH)が最も高く、中央の光強度(IL)が最も低くなるM字分布を採用する。M字分布の最大/最小光強度比(IH/IL)をパラメータとして、光強度比と焼入れ形状(加熱領域の断面形状)との関係を有限要素法による三次元熱解析シミュレーションで算出する。そして、シミュレーションの結果に基づいて、最も均一な焼入れが可能なM字分布の最大/最小光強度比(IH/IL)を決定する。この演算において、例えば、被加工物が炭素鋼(S45C)とし、その熱伝導率が28.3W/m・K、比熱容量が7.2×102J/kg・Kとする。レーザビームの光吸収率を43.5%としたときに、M字分布の最大/最小光強度比(IH/IL)は2.0と決定される。
【0021】
実際にCGH14に入射する光は点光源からではなく、光ファイバ12の出射端の全面から出射される光が合成されたものである。そのため、出射端の全面にわたって点光源があり、それぞれの点光源から出射されるものとして、この影響を組み込むために最大/最小光強度比(IH/IL)が2.0であるM字分布と、光ファイバの出射端の端面形状(直径1mmの円)との畳み込み積分を行う。これにより、光ファイバ12のファイバ径の影響を含めた光強度分布が算出される。その結果、光ファイバ12の影響を考慮した光強度分布は、図2に示すようにM字分布が一次元形状から二次元形状に広がり、点光源と仮定して求めた最大/最小光強度比(IH/IL)が小さくなる(例えば1.3)。
【0022】
続いて、GSアルゴリズムを用いて、算出された光強度分布の回折像が得られる凹凸パターンを設計し、これを石英基板上にフォトリソグラフィ技術と反応性イオンエッチング技術とを用いてパターン形成することでCGH14を作成する。
このような手順で作成するCGH14は、具体的には、直径50mmの表面に、3mm×3mmのサブホログラムパターンとして並べられる。1つのサブホログラムは、512個×512個のピクセルから構成され、各ピクセルの大きさは6μm×6μmとしている。
図3は、作成したCGH14の表面を拡大した図である。表面上に凹凸パターンが形成され、これにより所望の回折像が得られる。
【0023】
集光レンズ15は、CGH14によって光強度分布がM字分布に変換されたレーザビームを、被加工物Wの表面に集光する。上述したCGH14とこの集光レンズ15とにより、M字分布の光強度分布での照射が行われ、均一な加熱を行うことができることになる。
【0024】
次に、焼入れ動作について説明する。まず、被加工物Wを、レーザ加工装置10のテーブル16上に載置し、焼入れを行う領域が集光レンズ15の焦点近傍にくるように、被加工物Wの位置および高さを調整する。
続いて、半導体レーザ11を作動させ、光ファイバ12、コリメートレンズ13、CGH14、集光レンズ15を通過した高出力レーザビームを基板に照射し、照射領域がM字分布の光強度で加熱されるようにする。その結果、均一な加熱がなされ、レーザビームが通過した後、自己冷却により硬化する。照射領域は以上の手順により焼入れが行われる。
なお、被加工物Wに対し、線状あるいは面状に焼入れを行う場合は、移動機構(不図示)でテーブル16を移動することにより、レーザビームを走査しつつ加熱する。
【0025】
(実施例)
半導体レーザ11から出射されるレーザビームを、光ファイバ、コリメートレンズ、CGH、集光レンズを通過させて、そのとき得られる光強度分布を実際に観察した。
測定条件は以下のとおりである。
CGHの素材: 石英基板
レーザ光源:Laserline社製LDL160−1000(最大出力:1kw)
光ファイバの径: 1mm
図4は、観察された光強度分布をグラフ化した図である。また、図5は被加工物の加工面上に照射される回折像である。光強度分布は、直径1mmの光ファイバの出射端全面が光源となる影響で、二次元的に広がるが、長軸方向が形成されるとともに、長軸方向に沿ってビーム中心からビーム両端に向けて一次関数的に増加しており、M字形状(二次元に広がるため、より正確には馬の鞍形状)になっている。また、光ファイバ内を通過中にレーザビームが平均化されることにより、スパイク状のピークはほとんど見られなくなっている。
【0026】
また、図6は、実際に被加工物の加工面上にレーザを照射することにより得られた加工面の焼入れ状態を示す断面図であり、図6(a)はCGHにより光強度分布をM字状にした場合、図6(b)はガウス分布のレーザを照射した場合である。
光強度分布をM字状にした場合の方が、焼入れ深さが明らかに均一な分布にできている。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、焼入れ加工に用いるレーザ加工装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態であるレーザ加工装置の構成を示す図。
【図2】光ファイバの出射端の拡がりによる影響を含んだ光強度分布を説明する図。
【図3】CGHの表面を拡大した図。
【図4】本発明の一実施例で得られた光強度分布をグラフ化した図。
【図5】図4の実施例で加工面上に照射される回折像を示す図。
【図6】図5の回折像を照射することにより得られた加工面の焼入れ状態を示す断面図。
【図7】CO2レーザを光源に用いた従来からのレーザ加工装置の構成を示す図。
【図8】CO2レーザを光源に用いて得られた光強度分布をグラフ化した図。
【符号の説明】
【0029】
10: レーザ加工装置
11: レーザ光源(複数の半導体レーザ)
12: 光ファイバ
13: コリメートレンズ
14: 計算機ホログラム(CGH)
15: 集光レンズ
16: テーブル
W : 被加工物(鋼材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物にレーザビームを照射して加熱することにより、焼入れを行うレーザ加工装置であって、
複数の半導体レーザと、
前記複数の半導体レーザから出射された各レーザビームを一端から入射し、高出力レーザビームとして他端から出射する光ファイバと、
前記光ファイバから出射された高出力レーザビームを平行ビームにして出射するコリメートレンズと、
前記平行ビームの光強度分布を変換した回折光を形成する計算機ホログラムと、
光強度分布が変換された回折光を集光して被加工物に照射する集光レンズとからなり、
前記計算機ホログラムおよび前記集光レンズにより被加工物に形成されるレーザビームの強度分布形状が、長軸方向を有し、さらにこの長軸方向に沿ってビーム中心からビーム両端に向けて一次関数的に増加するM字形状にしてあることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記光ファイバは、ファイバ径が少なくとも100μmより大きいことを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項1】
被加工物にレーザビームを照射して加熱することにより、焼入れを行うレーザ加工装置であって、
複数の半導体レーザと、
前記複数の半導体レーザから出射された各レーザビームを一端から入射し、高出力レーザビームとして他端から出射する光ファイバと、
前記光ファイバから出射された高出力レーザビームを平行ビームにして出射するコリメートレンズと、
前記平行ビームの光強度分布を変換した回折光を形成する計算機ホログラムと、
光強度分布が変換された回折光を集光して被加工物に照射する集光レンズとからなり、
前記計算機ホログラムおよび前記集光レンズにより被加工物に形成されるレーザビームの強度分布形状が、長軸方向を有し、さらにこの長軸方向に沿ってビーム中心からビーム両端に向けて一次関数的に増加するM字形状にしてあることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記光ファイバは、ファイバ径が少なくとも100μmより大きいことを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【図1】
【図2】
【図7】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図2】
【図7】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【公開番号】特開2010−52023(P2010−52023A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221109(P2008−221109)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物に発表 発行者名 社団法人 精密工学会 刊行物名 「2008年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集」 発行年月日 平成20年 3月 3日 2.刊行物に発表 発行者名 レーザ加工学会 刊行物名 「第70回レーザ加工学会講演論文集」 発行年月日 平成20年 5月
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物に発表 発行者名 社団法人 精密工学会 刊行物名 「2008年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集」 発行年月日 平成20年 3月 3日 2.刊行物に発表 発行者名 レーザ加工学会 刊行物名 「第70回レーザ加工学会講演論文集」 発行年月日 平成20年 5月
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】
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