説明

レーザ溶接による溶接継手構造およびレーザ溶接方法

【課題】レーザ溶接に際してそのレーザ光の光軸と被溶接面とがほぼ平行となるような関係にあっても、被溶接物側にわずかな改良を加えるだけでレーザ溶接を行えるようにした溶接継手構造を提供する。
【解決手段】 パネル5とレインフォース6のうちレーザ光Lbの照射方向と平行もしくは微小鋭角をなす縦壁面5aおよびフランジ部6aにレーザ溶接を施した溶接継手の構造である。縦壁面5aとフランジ部6aに、両者が重合していて且つレーザ光Lbの照射方向とほぼ面直角をなす棚状面7a,8aを含むエンボス部7,8を予め膨出形成し、このエンボス部7,8の棚状面7a,8aをレーザ光照射面としてレーザ溶接を施してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接による溶接継手構造およびレーザ溶接方法に関し、特に比較的長焦点のレーザ光(レーザビーム)をミラーにより反射させ、そのミラーの角度を可変制御することによりレーザ光を瞬時に移動させて次なる溶接を施すようにしたリモートレーザ(スキャナーレーザ)溶接法と称される溶接法に好適な溶接継手構造と溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
量産工程で使用されるレーザ溶接設備は、例えば溶接母機として多自由度の溶接ロボットを用い、その溶接ロボットの先端にレーザ加工ヘッド(溶接トーチ)を持たせる一方、ファイバーケーブルで伝達可能なYAGレーザ等を用いて加工ヘッドから溶接部位に対しレーザ光を照射するようにしたものが主流を占めているが、例えば溶接ポイントが広範囲に点在する場合には加工ヘッドの移動に時間がかかるほか、狭い溝等のように加工ヘッドが干渉するような部位の溶接には対応できないことになる。
【0003】
そこで、近年に至り、比較的長焦点のレーザ光を複数のミラーにより反射させ、そのミラーの角度を可変制御することによりレーザ光を瞬時に次の溶接点まで移動させて次なる溶接を施すとともに、各溶接点ごとに焦点距離の調整をも可能にしたリモートレーザ(スキャナーレーザ)溶接法と称される技術が特許文献1等で提案されている。
【特許文献1】特開2003−145285号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなリモートレーザ溶接法では、レーザ光を次の溶接点まで瞬時に移動できる利点がある反面、一般的なレーザ溶接法と同様に溶接対象となる面がその移動したレーザ光の光軸とほぼ平行となるような場合には溶接を行うことができず、被溶接面がレーザ光の光軸に対してほぼ面直角となるようにワーク側の姿勢を大きく変更する必要がある。したがって、リモートレーザ溶接法本来の利点を活かすことができず、なおも改善の余地を残している。
【0005】
本発明は以上のような課題に着目してなされたものであり、とりわけレーザ溶接に際してそのレーザ光の光軸と被溶接面とがほぼ平行となるような関係にあっても、被溶接物側にわずかな改良を加えるだけでレーザ溶接を行えるようにした溶接継手構造と溶接方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、被溶接物のうちレーザ光の照射方向と平行もしくは微小鋭角をなす壁面同士に重合部にレーザ溶接を施した溶接継手の構造であって、上記壁面同士に重合部に、レーザ光の照射方向とほぼ面直角をなす棚状面を含む突起部を予め膨出形成し、この突起部の棚状面をレーザ光照射面としてレーザ溶接を施したことを特徴とする。
【0007】
この場合、請求項2に記載のように、上記棚状面同士の合わせ面では、互いに重合している壁面同士が接近離間する方向にスライド可能となっていることが被溶接物の組付精度のばらつきを吸収上で望ましい。
【0008】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の技術をレーザ溶接方法として捉えたものであって、被溶接物のうちレーザ光の照射方向と平行もしくは微小鋭角をなす壁面同士の重合部にレーザ溶接を施す方法として、レーザ溶接に先立って、上記壁面同士の重合部に、レーザ光の照射方向とほぼ面直角をなす棚状面を含む突起部を予め膨出形成し、この突起部の棚状面をレーザ光照射面としてレーザ溶接を施すことを特徴とする。
【0009】
この場合、請求項6に記載のように、上記壁面同士の重合部に複数の突起部が設定されていて、少なくとも二枚のミラーによりレーザ光を反射させて突起部の棚状面にレーザ光を照射することにより溶接を施す一方で、ミラーの角度を変化させることにより次の溶接位置である突起部の棚状面に瞬時にレーザ光を移動させて次なる溶接を行うリモートレーザ溶接法であることが望ましい。
【0010】
したがって、請求項1,5に記載の発明では、レーザ溶接に際し、レーザ光の光軸が被溶接物の壁面に対しほぼ平行となるようなことが明らかな場合、被溶接物の壁面に、前加工として例えばビード状もしくはエンボス状の突起部を予め膨出形成しておくものとする。こうすることにより、少なくとも突起部の棚状面はレーザ光の光軸に対しほぼ面直角となり、たとえリモートレーザ溶接法による溶接であっても確実に溶接することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1,5に記載の発明によれば、溶接対象となる被溶接物の壁面そのものはレーザ光の光軸に対してほぼ平行であっても、突起部の棚状面はレーザ光の光軸に対してほぼ面直角な関係となるので、仮にリモートレーザ溶接法による溶接を前提としたとしても、被溶接物の姿勢変更を行うことなしに良好な溶接品質のもとで確実に溶接することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1〜3は本発明のより具体的な実施の形態を示す図であり、特に図1はリモートレーザ溶接法の概略構成を、図2は図1の要部拡大図として溶接対象となるパネルの詳細をそれぞれ示している。
【0013】
リモートレーザ溶接法は、図1に示すように、レーザ発振器1から発振されたレーザ光Lbをミラー内蔵型の導管2にて二つの可動式のミラー3,4に導き、これらのミラー3,4の角度を可変制御することにより、最終的に被溶接物たるパネルWの所定の溶接部位にレーザ光Lbを導いて溶接を施すものである。なお、各ミラー3,4は一軸または二軸の可変自由度を有しているものであり、これらのミラー3,4の可変自由度は溶接部位の瞬時の移動のほか、特定の溶接部位でのレーザ光照射位置の連続的な移動に使用される。また、ミラーの前段に配置される図示外のレンズをレーザ光軸に沿って移動させることにより、焦点距離の調整も併せて可能となっている。
【0014】
図2は、被溶接物として予め略L字状に曲折形成された下側のパネル5の内隅部に対し、同じく被溶接物として全周にフランジ部6a,6bを有する閉断面(ボックス断面)構造の補強部材たるレインフォース6を、そのフランジ部6a,6bを溶接部としてリモートレーザ溶接法により溶接接合し、もってレーザ溶接継手とした場合の例を示している。
【0015】
図2に示すように、パネル5に対してその上方からレーザ光Lbが所定の角度で照射されることを前提として、パネル5のほぼ鉛直な縦壁面5aとレインフォース6側の同じくほぼ鉛直な縦壁面であるフランジ部6aとを溶接接合しようとする場合、レーザ光Lbの光軸と縦壁面5aおよびフランジ部6aが共にほぼ平行な関係(両者が微小鋭角をなすような関係をも含む)にあるために、そのままではレーザ溶接を施すことが困難となる。
【0016】
そこで、図3に示すように、パネル5の縦壁面5aに突起部として断面が三角形状をなす複数のエンボス部7,7‥をプレス加工により予め膨出成形しておく一方、レインフォース6側のフランジ部6aについても同様に、縦壁面5a側のエンボス部7に合致し得る突起部として断面が三角形状をなす複数のエンボス部8,8‥をプレス加工により予め膨出成形しておき、レーザ溶接に先立ってそれらのエンボス7,8部同士を互いに合致させるものとする。
【0017】
このように、パネル5の内隅部にレインフォース6を押し当てて、パネル5側の縦壁面5aとレインフォース6側のフランジ部6aを重合させながら、双方のエンボス部7,8同士を合致させることで、パネル5とレインフォース6の相対位置決めがなされることになる。
【0018】
ここで、縦壁面5aおよびフランジ部6aに予め膨出成形されることになるエンボス部7,8は、レーザ光Lbの光軸に対して面直角もしくはほぼ面直角となる面を有していることが絶対条件であり、本実施の形態では各エンボス部7,8のうち上側の面7a,8aを棚状面としてそれらの棚状面7a,8a同士を重合させてあるとともに、棚状面7a,8aを上記レーザ光Lbの光軸とほぼ面直角となるように設定してある。
【0019】
したがって、図2,3の状態をもってパネル5とレインフォース6との相対位置決めを行ったならば、パネル5の縦壁面5a側およびレインフォース6のフランジ部6a側の各エンボス部7,8の棚状面7a,8aをレーザ光照射面として、それらの棚状面7a,8a同士の重合部にそれぞれレーザ光Lbを照射してレーザ溶接を施すものとする。なお、レーザ溶接によってできた溶接ビード部を符号Beで示す。すなわち、上記のリモートレーザ溶接法により、各エンボス部7,8同士の重合部にレーザ光Lbを順次移動させて、その都度レーザ溶接を施す。
【0020】
この場合において、図2に示すようにパネル5とレインフォース6とがそのレインフォース6の長手方向で相対的にスライド可能であれば、製造誤差あるいは組付誤差等によりパネル5とレインフォース6との相対位置が例えば図4の所定量aだけばらついたとしても、各エンボス部7,8における棚上面7a,8a同士の重合状態を維持することができ、その結果として上記のばらつきaを吸収することが可能となる。
【0021】
なお、パネル5の一般部5bとレインフォース6のフランジ部6bとの重合部での溶接は、レーザ光Lbを直接フランジ部6bに照射することにより溶接することが可能である。
【0022】
図5〜7は本発明の第2の実施の形態を示し、パネル15の両側に曲折形成された一対の縦壁面15a,15a間に上記と同様に閉断面(ボックス断面)構造のレインフォース16を架橋的に配置して、そのレインフォース16の両端の縦壁面であるフランジ部16aを被溶接面としてそれぞれ縦壁面15aに溶接接合する場合の例を示している。
【0023】
本実施の形態では、レインフォース16の全長寸法がパネル15側の一対の縦壁面15a,15a同士のなすスパンと合致するように予め設定されているため、先の実施の形態のようにパネル15側の縦壁面15aやレインフォース16側の縦壁面であるフランジ部16aに予め突起部たるエンボス部を膨出成形してしまうと、レインフォース16を一対の縦壁面15a,15a間にセットすることが困難となる。
【0024】
そこで、本実施の形態では、レーザ溶接に先立ってかしめ加工装置10を併用するものとし、図5に示すようにパネル15とレインフォース16との相対位置決めがなされたならば、パネル15側の縦壁面15aとレインフォース16側のフランジ部16aとの重合部の複数箇所にかしめ加工装置10にてかしめ加工を施し、図7に示すように縦壁面15aおよびフランジ部16aの双方に突起部として複数の断面矩形状のかしめエンボス部17,18を膨出成形する。これらのかしめエンボス部17,18は、かしめ加工装置10に付帯していて且つ凹凸の関係にある図示外のダイとパンチとをもって同時に塑性加工を施すことにより成形されたものであるから、両者は完全に密着嵌合しており、これらの複数のかしめエンボス部17,18をもって縦壁面15aとフランジ部16aとが、ひいてはパネル15とレインフォース16が予め仮止めされていることになる。
【0025】
同時に、縦壁面15aおよびフランジ部16aに予め膨出成形されることになるかしめエンボス部17,18は、レーザ光Lbの光軸に対してほぼ面直角となる面を有していることが絶対条件であり、本実施の形態では各かしめエンボス部17,18のうち上側の面を棚状面17a,18aとしてそれらの棚状面17a,18a同士を重合させてあるとともに、棚状面17a,18aを上記レーザ光Lbの光軸とほぼ面直角となるように設定してある。
【0026】
したがって、かしめ加工を終えた段階で図7のように各かしめエンボス部17,18同士の重合部にレーザ光Lbを照射してリモートレーザ溶接法にてレーザ溶接を施すことにより、パネル15とレインフォース16とを確実に溶接接合することが可能となる。
【0027】
この場合、かしめエンボス部17,18をもってパネル15とレインフォース16とが予め仮止めされているので、それ自体で両者の相対位置決め精度もしくは形状凍結性を維持することができ、レーザ溶接に際してパネル15等を拘束するための治具等を一切必要としない。
【0028】
その上、かしめエンボス部17,18同士の重合部では、両者を同時成形したものであるが故にそれら両者の密着性が優れており、かしめエンボス部17,18同士の重合部に隙間がない状態で良好な溶接が行えることになる。
【0029】
なお、上記かしめエンボス部17,18の形状は一例に過ぎず、例えば円筒状のものであってもよく、要は図7ようなレーザ光Lbの照射角度でもレーザ溶接が可能なように、レーザ光Lbの光軸に対してほぼ面直角となるような棚状面17a,18aが確保されていればよい。
【0030】
このように本実施の形態によれば、レーザ光Lbの照射方向がパネル15の縦壁面15aおよびレインフォース16側のフランジ部16aとほぼ平行となるような関係にあっても、それらの縦壁面15aおよびフランジ部16aを被溶接面として良好なレーザ溶接が行える。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に用いられるリモートレーザ溶接法の概略を示す説明図。
【図2】本発明に係るレーザ溶接継手の具体的な実施の形態を示す要部斜視図。
【図3】図3のA−A線に沿う拡大断面図。
【図4】図3の変形例を示す拡大断面図。
【図5】本発明の別の実施の形態を示す溶接前の要部斜視図。
【図6】図5の状態でレーザ溶接を施した後の溶接継手の構造を示す要部斜視図。
【図7】図6のB−B線に沿う拡大断面図。
【符号の説明】
【0032】
3,4…ミラー
5…パネル(被溶接物)
5a…縦壁面
6…レインフォース(被溶接物)
6a…フランジ部(縦壁面)
7,8…エンボス部(突起部)
7a,8a…棚状面
10…かしめ加工装置
15…パネル(被溶接物)
15a…縦壁面
16…レインフォース(被溶接物)
16a…フランジ部(縦壁面)
17,18…かしめエンボス部(突起部)
17a,18a…棚状面
Lb…レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接物のうちレーザ光の照射方向と平行もしくは微小鋭角をなす壁面同士の重合部にレーザ溶接を施した溶接継手の構造であって、
上記壁面同士の重合部に、レーザ光の照射方向とほぼ面直角をなす棚状面を含む突起部を予め膨出形成し、
この突起部の棚状面をレーザ光照射面としてレーザ溶接を施したことを特徴とするレーザ溶接による溶接継手構造。
【請求項2】
上記棚状面同士の合わせ面では、互いに重合している壁面同士が接近離間する方向にスライド可能となっていることを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接による溶接継手構造。
【請求項3】
上記壁面同士の重合部には複数の突起部が膨出形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザ溶接による溶接継手構造。
【請求項4】
上記突起部によって被溶接物の壁面同士の相対位置決めがなされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のレーザ溶接による溶接継手構造。
【請求項5】
被溶接物のうちレーザ光の照射方向と平行もしくは微小鋭角をなす壁面同士の重合部にレーザ溶接を施す方法であって、
レーザ溶接に先立って、上記壁面同士の重合部に、レーザ光の照射方向とほぼ面直角をなす棚状面を含む突起部を予め膨出形成し、
この突起部の棚状面をレーザ光照射面としてレーザ溶接を施すことを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項6】
上記壁面同士の重合部に複数の突起部が設定されていて、
少なくとも二枚のミラーによりレーザ光を反射させて突起部の棚状面にレーザ光を照射することにより溶接を施す一方で、ミラーの角度を変化させることにより次の溶接位置である突起部の棚状面に瞬時にレーザ光を移動させて次なる溶接を行うリモートレーザ溶接法であることを特徴とする請求項5に記載のレーザ溶接方法。
【請求項7】
レーザ溶接に先立って突起部を膨出形成することにより、その突起部をもって被溶接物の壁面同士が予め仮止めされていることを特徴とする請求項6に記載のレーザ溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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