説明

レーザ溶接方法

【課題】溶接の歩留まりを向上でき、かつ接合体の反りを抑えることができる金属材の接合方法を提供する。
【解決手段】このレーザ溶接方法では、枠部材14の端部14aに比べてヒートマスが十分に大きい外板11の平坦部11a側からレーザビーム35を照射する。このため、平坦部11aにはレーザビーム35による十分な入熱が生じ、レーザビーム35の照射位置37が端部14aの位置から多少ずれたとしても、平坦部11aに入熱した熱が端部14aに伝達して好適な溶接部22が形成される。したがって、このレーザ溶接方法では、レーザビーム35の照射位置37の許容範囲を拡大でき、溶接の歩留まりの向上を図ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材の溶接形態として、一方の金属材の端部と他方の金属材の平坦部とを重ね合わせて溶接する隅肉溶接がある。例えば特許文献1に記載の鉄道車両構体では、側構体の入口枠を構成する外板に対し、窓ブロックの外板端部をレーザによって連続的に隅肉溶接している。
【特許文献1】特許第4040648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、従来の一般的な隅肉溶接では、一方の金属材の端部にレーザビームを照射し、金属材の重ね合わせ部分に沿って非貫通の溶接部を形成している。しかしながら、この従来の手法では、レーザビームの照射位置が端部の位置よりも外側にずれると溶接部が形成されず、照射位置が端部の位置よりも内側にずれると、ヒートマスの小さい端部が溶接中に切断され、不完全な溶接部が形成されてしまうおそれがあった。
【0004】
そのため、レーザビームの照射位置の許容範囲が狭く、溶接の歩留まりの向上を図ることが困難であった。また、非貫通の溶接部を形成しているため、熱歪みによって2つの金属材の内部応力に差が生じ、溶接後の接合体に反りが生じてしまうという問題もあった。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、溶接の歩留まりを向上でき、かつ接合体の反りを抑えることができる金属材の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のため、本発明に係るレーザ溶接方法は、一方の金属材の端部を他方の金属材の平坦部に重ね合わせ、平坦部側からレーザビームを照射して平坦部及び端部を貫通する溶接部を形成することにより、重ね合わせ部分を隅肉溶接することを特徴としている。
【0007】
このレーザ溶接方法では、金属材の端部に比べてヒートマスが十分に大きい金属材の平坦部側からレーザビームを照射する。このため、平坦部にはレーザビームによる十分な入熱が生じ、レーザビームの照射位置が端部の位置から多少ずれたとしても、平坦部に入熱した熱が端部に伝達して好適な溶接部が形成される。したがって、このレーザ溶接方法では、レーザビームの照射位置の許容範囲を拡大でき、溶接の歩留まりの向上を図ることが可能となる。また、溶接部を平坦部側から端部側まで貫通させるので、非貫通の溶接部を形成する場合とは異なり、熱歪みによる2つの金属材の内部応力が互いに相殺されるため、接合体の反りを抑えることができる。
【0008】
また、平坦部において、レーザビームの照射位置にフィラーワイヤを供給することが好ましい。こうすると、金属材の隙間に対する許容範囲が広くなるため、より簡単に好適な溶接部を形成できる。
【0009】
また、端部において、レーザビームの照射位置の対向部位にシールドガスを供給することが好ましい。これにより、溶接部の表面の酸化を防止できる。
【0010】
端部を囲む閉空間を形成する載置治具に金属材を載置した状態でレーザビームの照射を行うことが好ましい。これにより、溶接部の表面の酸化を一層確実に防止できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るレーザ溶接方法では、溶接の歩留まりを向上でき、かつ接合体の反りを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るレーザ溶接方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係るレーザ溶接方法の一実施形態を用いて製造された接合体を用いた鉄道車両構体を示す斜視図である。同図に示すように、鉄道車両構体1は、その内部に乗客を収容する空間を有する略箱型の形状をなしており、車両の底部に位置する台枠2と、車両の両側に位置し、窓部及びドア部を交互に備える側構体3と、車両の前後に位置する妻構体4と、車両の上部に位置する屋根構体5とによって構成されている。
【0014】
具体的には、台枠2は略矩形状を有し、車両構体1の底部に配置されている。台枠2の周縁には、両側に位置する側構体3と、車両の前側及び後側に位置する妻構体4とが台枠2を囲むように立設されている。アーチ状の屋根構体5は、側構体3と妻構体4とから構成された空間を閉じるように配置されている。
【0015】
側構体3は、例えば外板11(図2参照)と外板11の内側に配置された骨材とによって構成されている。側構体3には、窓用開口12が4箇所に設けられている。また、窓用開口12,12間には、ドア用開口13が3箇所に設けられている。窓用開口12は、窓の大きさに対応した矩形の枠部材14によって画成されており、ドア用開口13は、ドアの大きさに対応した矩形の枠部材15によって画成されている。
【0016】
次に、外板11と枠部材14との接合体の構造について説明する。図2は、接合体21の要部を示す断面図である。
【0017】
同図に示すように、接合体21では、外板11の平坦部11aに対し、枠部材14の端部14aが車両の外側面となるように重ね合わされている。重ね合わせ部分Pは、窓用開口12を縁取るように形成されている。重ね合わせ部分Pには、レーザ溶接によって形成した溶接部22が形成されている。溶接部22は、外板11の平坦部11a及び枠部材14の端部14aを貫通するように形成されており、重ね合わせ部分Pの隅肉溶接が実現されている。
【0018】
このような接合体21を形成する場合、図3に示すように、外板11の平坦部11aが上面となるようにして、枠部材14の端部14aを外板11の平坦部11aに重ね合わせる。枠部材14と外板11との重ね合わせにあたっては、載置治具31を用いる。
【0019】
載置治具31は、例えば金属製の定盤である。載置治具31の載置面32には、枠部材14と外板11との重ね合わせ部分Pに対応した長さの凹部33が設けられている。載置面32において、凹部を挟んだ一方の領域32aの高さは、他方の領域32bの高さよりも枠部材14の板厚の分だけ高くなっている。これにより、一方の領域32aに外板11を載置し、他方の領域32bに枠部材14を載置すると、外板11、枠部材14、及び載置治具31の凹部33によって枠部材14の端部14aを囲む閉空間Sが形成される。
【0020】
枠部材14と外板11とを載置治具31に載置した後、加工ヘッド34を重ね合わせ部分Pの上方に配置し、外板11の平坦部11a側からレーザビーム35を照射する。これにより、平坦部11aへの入熱を端部14aに伝達させ、平坦部11a及び端部14aを貫通する溶接部22を形成する。
【0021】
レーザビーム35の照射時には、例えば枠部材14及び外板と同材質のフィラーワイヤ36を照射位置37に向けて供給する。また、図示しないガス供給装置を導入することにより、閉空間S内にシールドガスを流通させる。レーザビーム35を重ね合わせ部分Pに沿って走査し、重ね合わせ部分Pの全てに溶接部22を形成すると、外板11と枠部材14との接合体21が完成する。
【0022】
以上説明したように、このレーザ溶接方法では、枠部材14の端部14aに比べてヒートマスが十分に大きい外板11の平坦部11a側からレーザビーム35を照射する。このため、平坦部11aにはレーザビーム35による十分な入熱が生じ、レーザビーム35の照射位置37が端部14aの位置から多少ずれたとしても、平坦部11aに入熱した熱が端部14aに伝達して好適な溶接部22が形成される。
【0023】
したがって、このレーザ溶接方法では、レーザビーム35の照射位置37の許容範囲を拡大でき、溶接の歩留まりの向上を図ることが可能となる。なお、本実施形態におけるレーザビーム35の照射位置37の許容範囲は、レーザビーム35の有効径をφとした場合、端部14aを中心として外側に3φ程度、内側に5φ程度となる(図3参照)。
【0024】
また、このレーザ溶接方法では、溶接部22を平坦部11a側から端部14a側まで貫通させている。このため、非貫通の溶接部22によって隅肉溶接を行う場合とは異なり、外板11の内部応力と枠部材14と内部応力とが互いに相殺されるため、レーザ溶接時の熱歪みによる接合体21の反りを抑えることができる。
【0025】
また、このレーザ溶接方法では、平坦部11aにおいて、レーザビーム35の照射位置37にフィラーワイヤ36を供給している。これにより、外板11と枠部材14との間の隙間に対する許容範囲が広くなるため、より簡単に好適な溶接部22を形成できる。
【0026】
また、このレーザ溶接方法では、端部14aを囲む閉空間Sを形成する載置治具31に外板11及び枠部材14を載置し、閉空間S内にシールドガスを流通させながらレーザビーム35の照射を行っている。このように、レーザ溶接中に端部14aを閉空間Sで囲むことにより、端部14aに形成される溶接部22の表面に形成される酸化膜を200nm以下に抑えることができる。これにより、車両の外側面に露出する溶接部22において、光の緩衝による色ムラが抑えられて金属光沢が維持されるため、車両の美観も保たれる。
【0027】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上述した実施形態では、溶接する金属材として外板11及び枠部材14を例示しているが、本発明は、レーザ溶接を用いた隅肉溶接であれば、例えば妻構体4における外板とアーチケタとの溶接、屋根構体5における歩み板と屋根板との溶接、或いは外板と機器箱のフランジとの溶接など、様々な箇所に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るレーザ溶接方法の一実施形態を用いて製造された接合体を用いた鉄道車両構体を示す斜視図である。
【図2】外板と枠部材との接合体の要部を示す断面図である。
【図3】外板と枠部材とのレーザ溶接方法を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
11…外板(金属材)、11a…平坦部、14…枠部材(金属材)、14a…端部、22…溶接部、31…載置治具、35…レーザビーム、36…フィラーワイヤ、37…照射位置、P…重ね合わせ部分、S…閉空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の金属材の端部を他方の金属材の平坦部に重ね合わせ、前記平坦部側からレーザビームを照射して前記平坦部及び前記端部を貫通する溶接部を形成することにより、前記重ね合わせ部分を隅肉溶接することを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項2】
前記平坦部において、前記レーザビームの照射位置にフィラーワイヤを供給することを特徴とする請求項1記載のレーザ溶接方法。
【請求項3】
前記端部において、前記レーザビームの照射位置の対向部位にアシストガスを供給することを特徴とする請求項1又は2記載のレーザ溶接方法。
【請求項4】
前記端部を囲む閉空間を形成する載置治具に前記金属材を載置した状態で前記レーザビームの照射を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のレーザ溶接方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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