説明

レーザ照射装置およびレーザ施工方法

【課題】水中に配置されたレーザ照射装置内のレーザ発振器を冷却する冷却水の供給経路が長く、その環境温度が不明な場合、冷却水が供給経路上で昇温してレーザ発振器の冷却性能が不足することが想定される。
【解決手段】
レーザ照射装置1の内部に環境隔離容器内の温度を計測する温度計T1を設置する。温度計T1の計測結果に基づいて供給する冷却水の温度や流量を制御し、レーザ発振器21を適切に冷却することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉水で満たされた原子炉底部等、水深が深い場所で施工を行うレーザ照射装置およびレーザ施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光はその高いエネルギー密度とコヒーレンス性により多分野で利用されており、原子力発電所の原子炉内保全においても検査、予防保全、補修などの手段としてレーザ応用技術が適用されている。その例として、構造物等のき裂を補修するレーザ肉盛り溶接や、炉内構造物などの応力腐食割れを防止するレーザピーニングがある。
【0003】
レーザピーニングはNd:YAG(ネオジウム:ヤグ)レーザを用いる予防保全技術である。レーザ光をレンズなどによって集光し、材料表面に照射することでプラズマを発生させ、プラズマの衝撃波によって材料に圧縮残留応力を与える。応力腐食割れは材料条件、環境条件、応力条件の3つが揃うと発生するが、レーザピーニングによって応力条件(引張残留応力)を除去することにより、溶接部近傍の応力腐食割れを防止することができる。
【0004】
レーザピーニングを原子炉内構造物に適用する場合は、オペレーションフロア上にレーザ発振器を配置して原子炉底部に設置したレーザ照射ヘッドまでレーザ光を伝送する。レーザ光を伝送するための手段としては、中空の導光管内部にミラーを配設して光を伝送するもの、光ファイバを用いて光を伝送するものがある。
【0005】
ミラー伝送方式の場合、施工対象まで伝送できるパルスエネルギーが大きいが、伝送距離が長いと装置が大きくなってしまう。オペレーションフロアから原子炉底部までレーザを伝送する場合、伝送距離は概ね40mに達し、ミラー伝送の装置も大型化してしまい、また導光経路の振動による影響を考慮しなければならない。これに対して光ファイバ伝送方式は、レーザ発振器とレーザ照射ヘッドを光ファイバで接続すればレーザを伝送することができるため、伝送距離が長くても装置が大型化せず、導光経路の振動による影響を受けない。しかし、光ファイバがレーザによって欠損することがあるため、光ファイバの損傷を監視するシステムが必要である。また光ファイバ伝送方式で伝送できるレーザのエネルギー密度はミラー伝送方式に比べて小さい。
【0006】
レーザピーニングを原子炉内構造物に適用する別の手段として、レーザ発振器を収納した水密容器を炉内に配置し、ミラーによってレーザ発振器からレーザ照射ヘッドまでレーザを伝送する装置がある(例えば、特許文献1参照。)。このような構成とすることにより、レーザの伝送距離を短くすることで簡素な装置構成とすることができる。また、伝送可能なレーザのエネルギレベルが高いため、低い照射密度で施工可能であり施工時間を短縮することができる。さらに、位置決め機構が簡素になり短時間で位置決めを行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−227218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このようなレーザピーニング装置に用いるレーザ発振器では、使用環境の温度が性能に影響する。通常は仕様となる温度範囲が定められており、使用環境温度が仕様の温度範囲より高すぎても低すぎても性能が低下する。通常はレーザ発振器自体の発熱によって高温にならないように、冷却水を用いてレーザ発振器を冷却する。一般的には、レーザ発振器の電源装置に冷却水供給装置を搭載し、レーザ発振器に冷却水を供給して冷却する。
【0009】
しかしながら、上述したような装置の場合、オペレーションフロア上の電源装置からレーザ発振器に冷却水を供給する際に供給経路途中の冷却水の温度が炉水の影響を受ける。水面からレーザ発振器までの距離が短ければ炉水による影響を考慮した上で冷却水の温度を設定することも可能ではあるが、炉水の温度が深さによって変わることもあり、5m程度が限度である。原子炉圧力容器は高さが20m以上あり、5mでは十分とはいえない。
【0010】
本発明は、上述した課題を鑑みてなされたものであり、レーザ発振器が水中に配置されるレーザ照射装置であって、レーザ発振器が配置される水深に関わらずにレーザ発振器を適切な温度に保つことが可能なレーザ照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の実施例によるレーザ照射装置は、水中に配置され、レーザを用いた保全・補修を行うレーザ照射装置であって、レーザ発振器を収容し水中に配置される環境隔離容器と、レーザを集光して施工部に照射するレーザ照射ヘッドと、前記レーザ発振器から前記レーザ照射ヘッドまでレーザを伝送する導光部と、前記レーザ発振器に電力を供給する電源装置と、前記レーザ発振器に冷却水供給経路を介して冷却水を供給する冷却水供給装置と、前記環境隔離容器内の温度を計測する温度センサとを備え、前記冷却水供給装置から供給する前記冷却水の温度と流量の少なくとも何れかを前記温度センサの計測結果に基づいて制御することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の実施例によるレーザ施工方法は、環境隔離容器に収容されたレーザ発振器と、このレーザ発振器から出射されたレーザを集光して施工部に照射するレーザ照射ヘッドとを備えるレーザ照射装置を水中に配置し、施工対象物に対してレーザを用いた施工を行うレーザ施工方法であって、前記環境隔離容器内の温度を前記環境隔離容器内に配置した温度センサによって計測し、前記温度センサの計測結果に基づいて前記レーザ発振器に供給する冷却水の温度または流量の少なくとも何れかを制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のレーザ照射装置によれば、冷却水の供給経路が長く、かつ供給経路の環境温度が一定に保たれていないような水中環境においても、レーザ発振器の温度を適切な温度に維持して安定したレーザ出力を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施例によるレーザ照射装置が原子炉圧力容器内に設置された状態の概要を示す縦断面図。
【図2】第1の実施例によるレーザ照射装置の概要を示す縦断面図。
【図3】レーザ発振器の構造を示す縦断面図。
【図4】第2の実施例によるレーザ照射装置の概要を示す縦断面図。
【図5】第3の実施例によるレーザ照射装置の概要を示す縦断面図。
【図6】第4の実施例によるレーザ照射装置の概要を示す縦断面図。
【図7】第5の実施例によるレーザ照射装置の概要を示す縦断面図。
【図8】第6の実施例によるレーザ照射装置の概要を示す縦断面図。
【図9】第7の実施例によるレーザ照射装置の概要を示す縦断面図。
【図10】第8の実施例によるレーザ照射装置が原子炉圧力容器内に設置された状態の概要を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の第1の実施例について、図面を用いて以下説明する。図1は、炉水200で満たされた原子炉圧力容器100に本実施例によるレーザ照射装置1を適用した状態の概要を示す縦断面図である。なお、原子炉圧力容器100は中腹を省略し、底部付近と上端付近とのみを図示している。また、原子炉圧力容器100底部の炉内構造物については、一部を省略して図示している。
【0017】
原子炉圧力容器100底部にはシュラウド101の内側にCRD(Control Rod Drive:制御棒駆動機構)ハウジング102、ICM(In−Core Monitor:炉内検出器)103が設けられている。なお、図1においては、多数設置されるCRDハウジング102、ICM103のうち一部のみを図示している。このCRDハウジング102上にレーザ照射装置1と、レーザ照射装置1の遠隔駆動装置11が設けられている。この遠隔駆動装置11は、レーザ照射装置1をCRDハウジング102の軸方向を回転軸として回転させたり、上下方向に移動させたりする駆動装置である。遠隔駆動装置11はオペレーションフロア104上に設置された遠隔駆動装置制御盤12と遠隔駆動装置用ケーブル13を介して接続されている。
【0018】
レーザ照射装置1は、レーザ発振器を搭載した環境隔離容器2、環境隔離容器2の下部に接続されたミラーボックス3、レーザ光を集光する集光レンズを搭載したレーザ照射ヘッド4、およびミラーボックス3からレーザ照射ヘッド4までレーザ光を伝送するL字型の導光部5から構成されている。環境隔離容器2に搭載されたレーザ発振器は、オペレーションフロア104上の電源装置6とレーザ発振器用ケーブル7を介して接続されている。このレーザ発振器用ケーブル7は、レーザ発振器に電力を供給する電線のほか、レーザ照射装置1に搭載された測定機器類の信号を伝達する配線を含む複合電線である。
【0019】
冷却水供給ホース9はレーザ発振器用の冷却水の供給経路であり、オペレーションフロア104上に設置された冷却水供給装置8から冷却水供給ホース9を介してレーザ発振器へ冷却水が供給される。また、冷却水供給ホース9からレーザ発振器に供給された冷却水は、冷却水回収ホース10を介して冷却水供給装置8に回収される。
【0020】
このレーザ照射装置1は、図1においてはCRDハウジング102にレーザピーニングを実施するものとして図示しているが、設置位置や遠隔駆動装置11の操作により、シュラウド101、ICM103、原子炉圧力容器100底部を貫通するスタブチューブ105等にレーザピーニングを実施することが可能である。
【0021】
図2を用いてレーザ照射装置1の構成について、詳細に説明する。図2はレーザ照射装置1の概要を示す縦断面図である。環境隔離容器2内部にレーザ発振器21が配置されている。このレーザ発振器21には、レーザ発振器用ケーブル7、冷却水供給ホース9、冷却水回収ホース10が接続されている。このうち、冷却水回収ホース10には温度センサT1がとりつけられている。温度センサT1は冷却水回収ホース10内部を流通する冷却水の温度を計測する。また、環境隔離容器2のうちレーザ発振器21と対向する面には、レーザ発振器21で生じる輻射熱を効率よく吸収するための黒色皮膜が形成されている。環境隔離容器2に吸収された輻射熱は炉水200へ放出される。
【0022】
環境隔離容器2の下部はミラーボックス3と接続されている。ミラーボックス3の内部には光軸調整ミラーM1、サンプリングミラーM2、シャッター22、光検出器23が設置されている。
【0023】
ミラーボックス3の一側面は導光部5と接続されており、この接続部分にはウインドウW1が設けられている。導光部5は中空構造であり、L字の屈折部(以下、エルボ部と呼称)にはミラーM3が設置されている。また、導光部5下端はレーザ照射ヘッド4と接続されており、接続部にはウインドウW2が設けられている。
【0024】
レーザ照射ヘッド4はウインドウW2の下方に集光レンズ41が設けられており、さらに下方にはミラーM4が設けられている。レーザ照射ヘッド4下端にはミラーM4で反射したレーザ光をレーザ照射ヘッド4内部から射出するノズル42が設けられており、ノズル42内にはウインドウW3が設けられている。
【0025】
このレーザ照射装置1の内部におけるレーザ光の経路について詳細に説明する。レーザ発振器21から射出されたレーザ光は、L1で示すように、ミラーボックス3内の光軸調節ミラーM1によって反射される。光軸調節ミラーM1で反射したレーザ光は、L2に示すように、サンプリングミラーM2に衝突する。サンプリングミラーM2は反射率が1%未満であり、レーザ光の大半が透過し、レーザ光のごく一部を反射する。反射したレーザ光はL2に示す経路で光検出器23に照射される。光検出器23は照射されたレーザ光の強度を電気信号に変換し、レーザ発振器用ケーブル7を経由して図示しない光強度計測装置に送信する。光強度計測装置によってレーザ光の出力をモニタすることが可能である。なお、光検出器23には、例えばフォトダイオード、ペルチエ素子、太陽電池などを用いる。
【0026】
シャッター22は図示しないシャッター駆動装置からレーザ発振器用ケーブルを経由して伝達される電気信号による駆動指令に応じ、レーザ光の経路の遮断と開放を切り替える。このシャッター22が開放状態の場合、サンプリングミラーM2を透過したレーザ光は、ウインドウW1を通過して導光部5に進入する。
【0027】
導光部5に進入したレーザ光はミラーM3で反射され、ウインドウ2を通過し、レーザ照射ヘッド4に進入する。レーザ照射ヘッド4に進入したレーザ光は、集光レンズ41によって集束され、ミラーM4によって反射され、ノズル22のウインドウW3を通過した後にレーザピーニングの対象物に照射される。
【0028】
レーザ発振器21から射出されたレーザ光は、上述した経路を辿りレーザピーニングの施工対象物に照射される。
【0029】
次に、レーザ発振器21の構造について、図3を用いて詳細に説明する。図3はレーザ発振器21の概要を示す縦断面図である。本実施例で用いるレーザ発振器21はフラッシュランプ励起のQスイッチNd:YAGレーザで、ポンピングチャンバ51内に図示しないフラッシュランプおよびYAGロッドが収納されている。ポンピングチャンバ51と共に、偏光板52、Qスイッチ53、λ/4板54、リアミラー55、およびアウトプットカプラ56に共振器が形成されている。共振器から放出される波長1064nmのレーザ光はSHG(Second Harmonic Generator)57によって第二高調波(波長:532nm)に変換される。ダイクロイックミラー58は波長1064nmと532nmが混在したレーザを波長選択し、第二高調波のみを抽出し、レーザ光L1として取り出し、その際に分離された基本波はダンパー59で吸収され熱に変換される。
【0030】
ポンピングチャンバ51内部には図示しない冷却配管が設けられており、この冷却配管はレーザ発振器21から引き込まれた冷却水供給ホース9、冷却水回収ホース10と接続され、冷却配管内を冷却水が流通するように構成されている。冷却配管内に冷却水を流通させることにより、ポンピングチャンバ51内のフラッシュランプやYAGロッドを冷却する。
【0031】
レーザ発振器21を効率的に発振させるためには、ポンピングチャンバ51を適切な温度範囲で維持することが必要である。しかしながら、原子炉圧力容器100の高さは約20mかそれ以上であり、冷却水供給ホース9は図に示すようにオペレーションフロア104から原子炉圧力容器100の炉底部へ伸びており、その長さは約20m以上に達する。したがって、冷却水は冷却水供給装置8からレーザ発振器21に達するまでに炉水200と熱交換をする。このため、冷却水供給装置8の内部にある時点とレーザ発振器21付近まで移動した時点との冷却水の温度には差が生じる。
【0032】
また、炉水200は水面から原子炉圧力容器100の底部にかけての温度が一様でない。そのためあらかじめ炉水200による冷却水温度への影響を見込んで冷却水供給装置8から供給する冷却水の温度を設定することも困難である。
【0033】
そこで、レーザ発振器21内で冷却水回収ホース10に温度センサT1を設けることにより、レーザ発振器21付近の冷却水の温度を計測し、その計測結果に応じて冷却水供給装置8からポンピングチャンバ51へ送る冷却水の温度と流量の一方または両方を制御する。具体的には、レーザ発振器21に到達した時点の冷却水温度の計測結果から、レーザ発振器21の冷却が不十分と判断される場合は、冷却水供給装置8から供給する冷却水温度を下げる、または冷却水の供給量を増やす、あるいは冷却水温度を下げつつ冷却水供給量を増加させる、といった制御を行う。冷却水供給装置8から供給する冷却水の温度または流量を調節することにより、レーザ発振器21を適切な温度に維持することが可能となる。
【0034】
本実施例のレーザ照射装置によれば、冷却水の供給経路が長く、かつ供給経路の環境温度が一定に保たれていないような水中環境においても、レーザ発振器の温度を適切な温度に維持して安定したレーザ出力を得ることが可能である。
【0035】
なお、本実施例においては温度センサT1を冷却水回収ホース10に設けるものとして説明したが、冷却水供給ホース9に設けるものとしてもよい。レーザ発振器21の発熱量はレーザ発振器21の出力や電源装置6の仕様等から分かるため、レーザ発振器21に供給される冷却水の温度と流量が分かっていればレーザ発振器21の温度を算出することが可能である。従って、算出したレーザ発振器21の温度に基づいて冷却水供給装置8を制御することが可能である。冷却水供給ホース9と冷却水回収ホース10の両方に温度センサを設けることも当然可能である。
【実施例2】
【0036】
第2の実施例によるレーザ照射装置について、図面を用いて以下説明する。なお、第1の実施例と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0037】
図4は本実施例によるレーザ照射装置1の概要を示す縦断面図である。本実施例においては、第1の実施例において中空だった導光部5の内部が、例えばガラスや水晶等の透明な媒質61で構成されている。エルボ部にはレーザ光を全反射させる斜面62が形成されている。これにより、導光部5の内部はプリズムとして形成され、レーザ光は第1の実施例と同様の経路を辿ってレーザ照射ヘッド4から放出される。
【0038】
本実施例によれば、第1の実施例と同様の効果を奏するとともに、導光部5内部のレーザ経路を透明な媒質61で構成することにより、導光部5内への浸水リスクを無くし、また、導光部5内部の気体の対流や密度変化などによるレーザ光の屈折・散乱を無くすことが可能である。
【実施例3】
【0039】
本発明の第3の実施例について、図面を用いて以下説明する。なお、第1の実施例と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0040】
図5は本実施例によるレーザ照射装置1の概要を示す縦断面図である。本実施例では、環境隔離容器2に、電気的に絶縁性能が高い非圧縮性の環境保持液体63が注入されている。環境保持液体63には、液中で放電が生じることがないように電気的に絶縁性能の高い液体、例えば純水、シリコンオイル、屈折率マッチング液などを用いる。レーザ発振器21を構成する光学部品はこの環境保持液体63に直接接するため、屈折率の違いを考慮した設計がなされている。
【0041】
このような構成によれば、環境隔離容器2を環境保持液体63で満たすことにより、環境隔離容器2の境界部に水深による圧力差が発生しなくなり、浸水の耐性を高めることができる。またポンピングチャンバ51を含むレーザ発振器21全体が液体に接することにより、効率的に外部に熱を伝達させ、放熱性を向上することができる。
【0042】
本実施例によれば、第1の実施例と同様の効果を奏するとともに、水深が深く、かつ環境温度が一定に保たれていない水中環境において安定した出力を実現する耐環境レーザ照射装置を供給することができる。
【実施例4】
【0043】
本発明の第4の実施例について、図面を用いて以下説明する。なお、第1の実施例と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0044】
図6は本実施例によるレーザ照射装置1の概要を示す縦断面図である。本実施例においては、環境隔離容器2の内部に気室隔壁64が設けられており、環境隔離容器2の内部空間がレーザ発振器設置空間65と隔離空間66とに分断されている。隔離空間66の内部は、例えば空気やヘリウムといった気体が充填されている。
【0045】
このような構成とすることにより、環境隔離容器2の外部とレーザ発振器21との断熱性を高め、外部環境がレーザ発振器21に与える影響を抑えることができる。断熱性を高めるべく、隔離空間66内に充填した気体の大気圧を下げるか、あるいは気体に代えて断熱材を配置することが可能である。また、気室隔壁64は環境隔離容器2の外径と同心円をなすもので、隔離空間66は連続した一つの空間であるが、環境隔離容器2の半径方向に隔壁を追加して隔離空間66を分割してもよい。
【0046】
本実施例によれば、第1の実施例と同様の効果を奏するとともに、レーザ発振器21と環境隔離容器2の外部環境との断熱性を高め、外部環境がレーザ発振器21に与える影響を抑えることが可能である。
【実施例5】
【0047】
本発明の第5の実施例によるレーザ照射装置について、図面を用いて以下説明する。なお、第1の実施例および第4の実施例と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0048】
図7は本実施例によるレーザ照射装置1の概要を示す縦断面図である。本実施例においては、レーザ発振器21と隔離空間66を連絡する配管67が設けられている。また、冷却水回収ホース10がレーザ発振器21ではなく隔離空間66に接続されている。配管67は、レーザ発振器21内部のポンピングチャンバ51内の図示しない配管と接続されており、冷却水供給ホース9からポンピングチャンバ51へ供給される冷却水が、ポンピングチャンバ51を冷却した後に配管67を介して隔離空間66へ送られる構成とされている。このため、隔離空間66は冷却水で満たされており、冷却水は冷却水回収ホース10から冷却水供給装置7へ回収される。
【0049】
隔離空間66に送られる冷却水の温度は、レーザ発振器21を一定出力で運転している場合は一定である。したがって、隔離空間66内部の温度は一定に保たれる。これにより、環境隔離容器2の外部環境によって隔離空間66が加熱されても、冷却水によって隔離空間66内部を除熱することが可能となり、隔離空間66の昇温を防止することが可能である。
【0050】
本実施例によれば、実施例1と同様の効果を奏するとともに、隔離空間66内部の温度を一定に保つことにより、レーザ発振器設置空間65内部の温度をより安定させることが可能である。
【実施例6】
【0051】
本発明の第6の実施例によるレーザ照射装置について、図面を用いて以下説明する。なお、第1の実施例および第4の実施例と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0052】
図8は本実施例によるレーザ照射装置1の概要を示す縦断面図である。本実施例においては、隔離空間66に環境保持液体63が注入されており、隔離空間66内に温度センサT2が設けられている。また、オペレーションフロア104上に図示しない温度調整機が設置されており、この温度調整機と隔離空間66は環境保持液体供給ホース68および環境保持液体回収ホース69を介して連絡されている。なお本実施例においては、環境保持液体63には、例えば水、シリコンオイル、あるいは水よりも凝固点の低い水溶液等を用いる。
【0053】
温度調整機は環境保持液体回収ホース68を介して環境保持液体63を回収し、温度センサT2の計測結果に基づいて回収した環境保持液体63の温度を調整し、環境保持液体供給ホース68を介して環境保持液体63を隔離空間66へ供給する。このように、温度調整機が環境保持液体63を循環させながら温度を調整することにより、隔離空間66内部の温度を一定に保つことができる。
【0054】
本実施例によれば、第1の実施例と同様の効果を奏するとともに、隔離空間66内部の温度を一定に保つことにより、レーザ発振器設置空間65内部の温度をより安定させることが可能である。
【実施例7】
【0055】
本発明の第7の実施例によるレーザ照射装置について、図面を用いて以下説明する。なお、第1の実施例と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0056】
図9は本実施例によるレーザ照射装置1の縦断面図である。環境隔離容器2およびミラーボックス3の内部が環境保持液体63で満たされている。また、オペレーションフロア104上に図示しない温度調整機が設置されている。この温度調整機と隔離空間66は環境保持液体供給ホース68および環境保持液体回収ホース69を介して連絡されている。また、環境隔離容器2およびミラーボックス3内部の環境保持液体63の温度を計測する温度センサT2が設置されている。なお本実施例においては、環境保持液体63には、例えば純水、シリコンオイル、屈折率マッチング液等の、電気的な絶縁性能が高い非圧縮性流体が好ましい。
【0057】
温度調整機は環境保持液体回収ホース68を介して環境保持液体63を回収し、温度センサT2の計測結果に基づいて回収した環境保持液体63の温度を調整し、環境保持液体供給ホース68を介して環境保持液体63を環境隔離容器2へ供給する。このように、温度調整機が環境保持液体63を循環させながら温度を調整することにより、環境隔離容器63内部の温度を一定に保つことができる。また、環境隔離容器2およびミラーボックス3の内部を非圧縮性の流体で満たすことにより、浸水の耐性を高めることができる。
【0058】
本実施例によれば、第1の実施例と同様の効果を奏すると共に、環境隔離容器2またはミラーボックス3内部の温度を一定に保つことにより、レーザ発振器設置空間65内部の温度をより安定させることが可能である。さらに、環境隔離容器2またはミラーボックス3の浸水の耐性を高めることができる。
【実施例8】
【0059】
本発明の第8の実施例によるレーザ照射装置について、図面を用いて以下説明する。なお、第1の実施例と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0060】
図10は、原子炉圧力容器100内に本実施例によるレーザ照射装置1が設置された状態の概要を示す縦断面図である。
【0061】
本実施例においては、冷却水供給装置8に代えて、炉水200内に配置されたポンプ70が冷却水供給ホース9を介して環境隔離容器2と接続されている。また、冷却水供給ホース9に不純物除去装置71が設置されている。不純物除去装置71は冷却水供給ホース9内を通過する水から不純物を除去するものであり、ろ過用のフィルタとイオン交換樹脂から構成される。また、冷却水回収ホース9に代えて、レーザ発振器21に接続され、一端が炉水200内で開口した冷却水排出ホース72が設けられている。
【0062】
本実施例では、ポンプ70が冷却水供給装置8の役割を果たす。ポンプ70は冷却水供給ホース9を介して炉水を環境隔離容器2へ送出する。温度計T1の計測結果に基づいてポンプ70の出力を制御し、冷却水の流量を制御する。炉水は不純物除去装置71によってろ過されるため、環境隔離容器2内に放射性物質が侵入することはない。レーザ発振器21を冷却した冷却水は、冷却水排出ホース72から原子炉圧力容器100中に排出される。
【0063】
本実施例の構成によれば、実施例1と同様の効果を奏するとともに、レーザ照射装置1の冷却系設備の構成を簡素なものとし、冷却水の供給と回収に用いるホースをオペレーションフロア104から原子炉圧力容器100炉底部まで伸ばす必要がなくなる。
【0064】
以上本発明の実施例について図を参照して説明してきたが、これらの実施例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。例えば、第2の実施例と第8の実施例を組み合わせ、導光路内部が媒質で構成され、冷却水の供給源がポンプである構成とすることが可能である。また、冷却水の供給経路に冷却水供給ホース9等を用いるものとして説明したが、フレキシブルでない金属管を用いる、あるいはこれらを組み合わせることが可能である。また、環境隔離容器等を水密構造とするにあたっては、Oリング、パッキン、ガスケット、接着剤、溶接、ケーブルコネクタ等の様々な手段から好適なものを選択することができる。
【0065】
なお、各実施例においては導光部5がL字形状のものとして説明したが、これはCRDハウジング102に施工する場合に好適な装置形状の一例として示したものであり、導光部5は施工部位や装置の配置スペース等の事情に応じて、好適な形状を選択することが可能である。
【0066】
また、レーザ発振器の冷却水供給経路が長く、供給経路の環境温度が一定に保たれていない水中環境の例として炉水で満たされた原子炉を例として説明したが、本発明は原子炉への適用に限定されるものではない。例えば、船体や橋梁といった構造物への適用が想定され得る。
【0067】
また、各実施例においてはレーザピーニングを行うレーザ照射装置として説明したが、レーザ発振器を水中に配置するレーザ装置を用いたものであればよく、例えば肉盛り溶接による補修等の施工を行うレーザ装置に対しても本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 レーザ照射装置
2 環境隔離容器
3 ミラーボックス
4 レーザ照射ヘッド
5 導光部
6 電源装置
7 レーザ発振器用ケーブル
8 冷却水供給装置
9 冷却水供給ホース
10 冷却水回収ホース
11 遠隔駆動装置
12 遠隔駆動装置制御盤
13 遠隔駆動装置用ケーブル
21 レーザ発振器
22 シャッター
23 光検出器
41 集光レンズ
42 ノズル
51 ポンピングチャンバ
52 偏光板
53 Qスイッチ
54 λ/4板
55 リアミラー
56 アウトプットカプラ
57 SHG
58 ダイクロイックミラー
59 ダンパー
61 媒質
62 斜面
63 環境保持液体
64 気室隔壁
65 レーザ発振器設置空間
66 隔離空間
67 配管
68 環境保持液体供給ホース
69 環境保持液体回収ホース
70 ポンプ
71 不純物除去装置
72 冷却水排出ホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に配置され、レーザを用いた保全・補修を行うレーザ照射装置であって、
レーザ発振器を収容し水中に配置される環境隔離容器と、
レーザを集光して施工部に照射するレーザ照射ヘッドと、
前記レーザ発振器から前記レーザ照射ヘッドまでレーザを伝送する導光部と、
前記レーザ発振器に電力を供給する電源装置と、
前記レーザ発振器に冷却水供給経路を介して冷却水を供給する冷却水供給装置と、
前記環境隔離容器内の温度を計測する温度センサとを備え、
前記冷却水供給装置から供給する前記冷却水の温度と流量の少なくとも何れかを前記温度
センサの計測結果に基づいて制御することを特徴とするレーザ照射装置。
【請求項2】
前記導光部内のレーザが通過する部分の少なくとも一部が透明媒質で構成されることを特徴とする請求項1記載のレーザ照射装置。
【請求項3】
前記環境隔離容器の内部に環境保持液体が注入されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載のレーザ照射装置。
【請求項4】
環境隔離容器内の前記環境保持液体の回収を行い、前記環境隔離容器へ供給する前記環境保持液体の温度を調整する温度調整手段を備えることを特徴とする請求項3記載のレーザ照射装置。
【請求項5】
前記環境隔離容器内部を、前記レーザ発振器が配置され前記レーザの経路を含む第1の空間と、前記第1の空間の外側に位置する第2の空間とに分離する気室隔壁を備えることを特徴とする請求項1または請求項2記載のレーザ照射装置。
【請求項6】
前記第2の空間内が気体雰囲気または真空とされていることを特徴とする請求項5記載のレーザ照射装置。
【請求項7】
前記第2の空間内に断熱材が配置されていることを特徴とする請求項5記載のレーザ照射装置。
【請求項8】
前記第2の空間と前記レーザ発振器を連絡する配管を備え、前記冷却水供給装置から供給される前記冷却水は、前記レーザ発振器を通過した後に前記配管を介して前記第2の空間に供給されることを特徴とする請求項5記載のレーザ照射装置。
【請求項9】
前記第2の空間に注入された環境保持液体を備えることを特徴とする請求項5記載のレーザ照射装置。
【請求項10】
前記第2の空間と連絡し、前記第2の空間への前記環境保持液体の供給及び前記第2の空間内の前記環境保持液体の回収を行い、前記第2の空間へ供給する前記環境保持液体の温度を調整する温度調整機を備えることを特徴とする請求項9記載のレーザ照射装置。
【請求項11】
前記冷却水供給装置は、前記環境隔離容器とともに水中に配置されるポンプと、前記ポンプから前記レーザ発振器への冷却水供給経路に配置され前記冷却水中の不純物を除去する不純物除去装置から構成され、前記ポンプはその周囲の水を冷却水として前記レーザ発振器に供給することを特徴とする請求項1記載のレーザ照射装置。
【請求項12】
環境隔離容器に収容されたレーザ発振器と、このレーザ発振器から出射されたレーザを
集光して施工部に照射するレーザ照射ヘッドとを備えるレーザ照射装置を水中に配置し、
施工対象物に対してレーザを用いた施工を行うレーザ施工方法であって、
前記環境隔離容器内の温度を温度センサによって計測し、前記温度センサの計測結果に
基づいて前記レーザ発振器に供給する冷却水の温度または流量の少なくとも何れかを制御
することを特徴とするレーザ施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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