説明

レーザ走査型蛍光顕微鏡および蛍光観察方法

【課題】レーザ光を走査することにより取得される蛍光画像の空間分解能を変化させることなく、瞬時に取得する蛍光画像の焦点深度を調節する。
【解決手段】レーザ光源8と、該レーザ光源8からのレーザ光を走査するスキャナ9と、該スキャナ9により走査されたレーザ光を標本Aに照射し、標本Aにおいて発生した蛍光を集光する対物レンズ10と、標本Aを面照明する面照明光源18と、レーザ光の照射により発生した蛍光をレーザ光の光路から分岐させる蛍光分岐部11と、該蛍光分岐部11で分岐された蛍光を検出する光検出器14と、対物レンズ10とスキャナ9との間において蛍光を分岐する光路分岐部21と、該光路分岐部21において分岐された蛍光を撮影する撮像素子26と、該撮像素子26と光路分岐部21との間の対物レンズ10の瞳位置と光学的に共役な位置に配置された可変絞り23とを備えるレーザ走査型蛍光顕微鏡1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ走査型蛍光顕微鏡および蛍光観察方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ光を走査するスキャナと、対物レンズの間の光路に配置したビームスプリッタによって、対物レンズによって集光された蛍光を分岐し、分岐された光路にCCDカメラを配置した共焦点レーザ顕微鏡が知られている。この共焦点レーザ顕微鏡は、スキャナを介して戻る蛍光を共焦点ピンホールに通過させることによって、対物レンズの焦点位置近傍の空間分解能の高い共焦点画像を取得する一方、CCDカメラによって2次元的な非共焦点画像を瞬時に取得するようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−148584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CCDカメラによる撮影は、一般に対物レンズの倍率(開口数)に応じた焦点深度があるために、厚さ方向を含めた標本の全体像を把握するのに有利である。しかしながら、例えば、10μm程度の厚さのある生細胞の観察に際し、倍率40倍、開口数1.2の水浸対物レンズを用いてCCDで蛍光観察する場合、焦点深度は約0.5μmとなる。したがって、生細胞の厚さに対して焦点深度が浅すぎるため、生細胞の表面から内部の構造までを一度に観察することができない。
【0005】
従来の共焦点レーザ顕微鏡は、空間分解能の高い(被写界深度の低い)共焦点画像と、それよりも空間分解能の低い(被写界深度の高い)非共焦点画像とを取得することができるものの、CCDカメラにより取得される非共焦点画像の焦点深度をより深く設定するために、例えば対物レンズに可変開口絞りを設けてこの開口絞りを絞ると、レーザ光のビーム径も絞られてしまうために共焦点画像の分解能が低くなるという不都合がある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、レーザ光を走査することにより取得される蛍光画像の空間分解能を変化させることなく、瞬時に取得する蛍光画像の焦点深度を調節することができるレーザ走査型蛍光顕微鏡および蛍光観察方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、レーザ光源と、該レーザ光源からのレーザ光を走査するスキャナと、該スキャナにより走査されたレーザ光を標本に照射し、標本において発生した蛍光を集光する対物レンズと、前記標本を面照明する面照明光源と、前記対物レンズにより集光された蛍光を検出する光検出器と、前記対物レンズと前記スキャナとの間において蛍光を分岐する光路分岐部と、該光路分岐部において分岐された蛍光を撮影する撮像素子と、該撮像素子と前記光路分岐部との間の前記対物レンズの瞳位置と光学的に共役な位置に配置された可変絞りとを備えるレーザ走査型蛍光顕微鏡を提供する。
【0008】
本発明によれば、レーザ光源から出射されスキャナで走査されたレーザ光が標本に照射されることにより、標本内に存在する蛍光物質が励起されて蛍光が発生し、発生した蛍光が対物レンズにより集光され、光検出器により検出される。スキャナによる走査位置と光検出器により検出された蛍光の強度とを対応づけて記憶しておくことにより蛍光画像が取得される。この場合には、対物レンズの開口数を十分に大きく確保しておくことにより、焦点深度が小さく、空間分解能の高い蛍光画像を得ることができる。
【0009】
一方、面照明光源により標本が面照明されると、標本の広い範囲において一度に蛍光物質が励起され、蛍光が発生する。発生した蛍光は対物レンズによって集光され、対物レンズとスキャナとの間において光路分岐部により分岐される。光路分岐部によりスキャナへの光路とは別の光路に分岐された蛍光は、可変絞りを通過した後に撮像素子により撮影される。これにより、瞬時に広い視野範囲の蛍光画像が取得される。
【0010】
この場合において、本発明によれば、瞬時に取得される広い視野範囲の蛍光画像の焦点深度を深くする場合には、光路分岐部と撮像素子との間に配置されている可変絞りを絞る。これにより、撮像素子に入射する蛍光の開口数を小さくすることができ、蛍光画像の焦点深度が深くなる。したがって、このようにすることで、瞬時に取得される広い視野範囲の蛍光画像には、標本の厚さ方向の広い範囲から発生する蛍光が撮影されるので、蛍光発生部位の所在を瞬時に確認することができる。
【0011】
そして、この場合に、可変絞りが、光路分岐部と撮像素子との間に配置されているので、光路分岐部において別の光路に分岐された蛍光から取得する蛍光画像については、可変絞りの影響を受けることがなく、高い空間分解能を保持することができる。
【0012】
上記発明においては、前記レーザ光源と前記スキャナとの間の光路において蛍光を分岐する蛍光分岐部と、該蛍光分岐部と前記光検出器との間の前記対物レンズの焦点位置と光学的に共役な位置に配置された共焦点ピンホールとを備えることとしてもよい。
このようにすることで、対物レンズにより集光されて、スキャナを介して戻り、共焦点ピンホールを通過した蛍光を光検出器により検出することができる。スキャナを介して戻る光路における対物レンズと光学的に共役な位置に共焦点ピンホールを配置することで、空間分解能の高い共焦点蛍光画像を取得することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記対物レンズと前記光路分岐部との間の光路において蛍光を分岐する蛍光分岐部を備え、前記光検出器が、前記蛍光分岐部によって分岐された蛍光を検出することとしてもよい。
このようにすることで、対物レンズにより集光され、蛍光分岐部において分岐された蛍光がスキャナに戻る前に光検出器により検出される。例えば、レーザ光源として極短(フェムト秒)パルスレーザ光源を使用した場合等には、共焦点ピンホールを介すことなく空間分解能の高い多光子蛍光画像を取得することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記対物レンズと前記光路分岐部との間の前記対物レンズに向かう光路に前記面照明光源からの照明光を合流させる面照明光合流部を備えていてもよい。
このようにすることで、面照明光源から出射された面照明光が、面照明合流部によってレーザ光と同一の光路に合流させられる。これにより、面照明光を照射して瞬時に得られる広い視野範囲の落射蛍光画像と、レーザ光を走査して得られる空間分解能の高い蛍光画像とを同時に得ることができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記標本を挟んで前記対物レンズとは反対側から前記面照明光源からの照明光を標本に照射するコンデンサレンズを備えていてもよい。
このようにすることで、面照明光源からの面照明光をコンデンサレンズによって集光して対物レンズとは反対側から標本を照明し、標本を透過する方向に発せられる蛍光を対物レンズによって集光することにより、透過蛍光画像を得ることができる。
【0016】
また、上記発明においては、光刺激用レーザ光源と、該光刺激用レーザ光源からの光刺激用レーザ光の標本における照射位置を調節する刺激位置調節部と、該刺激位置調節部により位置調節された光刺激用レーザ光を前記スキャナと前記対物レンズとの間の該対物レンズに向かう光路に合流させる刺激光合流部とを備えていてもよい。
【0017】
このようにすることで、光刺激用レーザ光源から発せられた光刺激用レーザ光が、刺激位置調節部によりその照射位置を調節されて、刺激光合流部によってスキャナと対物レンズとの間の光路に合流される。これにより、刺激位置調節部により調節された照射位置に光刺激用レーザ光を照射して刺激を与え、その反応を蛍光画像取得用のレーザ光または面照明光を照射して得られる蛍光画像によって観察することができる。
【0018】
また、上記発明においては、前記光刺激用レーザ光源からの光刺激用レーザ光の光束径を調節する光束径調節部を備えていてもよい。
このようにすることで、光束径調節部の作動により標本に照射される光刺激用レーザ光のNAを調節して焦点深度を調節することができる。すなわち、焦点深度の深い蛍光画像を取得した場合に、深さ方向のどの位置から発生した蛍光であるのかを判別できないので、光刺激用レーザ光の焦点深度を深くして、蛍光画像の焦点深度をカバーする範囲に刺激を与えることができる。また、焦点深度の浅い蛍光画像を取得して、刺激を与えたい部位の深さ方向位置を厳密に特定できる場合には、光束径調節部により光刺激用レーザ光のNAを大きくして焦点深度を浅くし、狭い範囲に刺激を与えることができる。
【0019】
また、上記発明においては、前記撮像素子により取得された標本の蛍光画像を表示する表示部と、該表示部に表示された蛍光画像内の領域を指定する領域指定部と、該領域指定部により指定された領域の蛍光画像を取得するように前記スキャナを制御する制御部とを備えていてもよい。
このようにすることで、撮像素子により瞬時に取得された標本の蛍光画像を表示部により表示し、領域指定部によって表示された蛍光画像内の領域を指定すると、制御部がスキャナを制御して、指定された領域の分解能の高い蛍光画像を取得することができる。
【0020】
また、上記発明においては、前記可変絞りの絞り量に基づいて前記撮像素子の感度を調節する感度調節部を備えていてもよい。
このようにすることで、焦点深度の深い蛍光画像を取得するために可変絞りを絞ると撮像素子に入射する蛍光量が低減するため、感度調節部により撮像素子の感度を高くして、取得される蛍光画像が暗くならないようにすることができる。また、可変絞りを開けて、撮像素子に入射する蛍光量を増大させたときには、感度調節部により撮像素子の感度を低下させて、取得される蛍光画像が明るくなり過ぎないようにすることができる。
【0021】
また、上記発明においては、前記対物レンズを切り替える対物切替部を備え、該対物切替部により切り替えられた対物レンズの種類および/または前記可変絞りの絞り量に基づいて前記撮像素子の感度を調節する感度調節部を備えていてもよい。
このようにすることで、対物切替部の作動により対物レンズを切り替えた場合に、対物レンズの種類によって、対物レンズの開口数が異なるため、可変絞りの絞り量に基づく撮像素子の感度調節とは独立して、対物レンズの種類により撮像素子の感度調節を行って、蛍光画像が明るくなり過ぎたり暗くなり過ぎたりしないようにすることができる。
【0022】
また、本発明は、対物レンズを介して標本にスポット状のレーザ光を照射し、該レーザ光の前記標本上における照射位置を走査し、前記標本において発生し前記対物レンズにより集光された蛍光を検出し、検出された蛍光と走査位置とに基づいて蛍光画像を生成する画像生成ステップと、前記標本に対して面照明光を照射して、該標本において発生した蛍光を前記対物レンズにより集光し、集光された蛍光を前記レーザ光の光路から分岐した後に撮影する撮影ステップと、前記対物レンズにより集光された蛍光の絞り量を、前記レーザ光の光路から分岐した後の前記対物レンズの瞳位置と光学的に共役な位置において調節する絞り調節ステップとを含む蛍光観察方法を提供する。
【0023】
本発明によれば、画像生成ステップにおいて、スポット状のレーザ光を標本上において走査して、各位置において発生した蛍光を対物レンズによって集光して検出することにより、空間分解能の高い蛍光画像を取得することができる。撮影ステップにおいて、面照明光を標本に照射して、標本上の比較的広い範囲において発生した蛍光を対物レンズにより集光して撮影することにより、画像生成ステップにおいて取得される蛍光画像よりも空間分解能の低い蛍光画像を瞬時に取得することができる。そして、絞り調節ステップにおいて、蛍光の絞り量を調節することにより、撮影ステップにおいて取得される蛍光画像の焦点深度を調節することができる。この場合に、蛍光の絞り量をレーザ光の光路から分岐した後の対物レンズの瞳位置と光学的に共役な位置において調節することにより、画像生成ステップにより取得される蛍光画像の空間分解能に影響を与えることなく、撮影ステップにおいて取得される蛍光画像の焦点深度を調節することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、レーザ光を走査することにより取得される蛍光画像の空間分解能を変化させることなく、瞬時に取得する蛍光画像の焦点深度を調節することができるレーザ走査型蛍光顕微鏡および蛍光観察方法を提供することを目的としている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーザ走査型蛍光顕微鏡を示す全体構成図である。
【図2】図1のレーザ走査型蛍光顕微鏡の第1の変形例を示す全体構成図である。
【図3】図1のレーザ走査型蛍光顕微鏡の第2の変形例を示す全体構成図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るレーザ走査型蛍光顕微鏡を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の第1の実施形態に係るレーザ走査型蛍光顕微鏡1および蛍光観察方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ走査型蛍光顕微鏡1は、図1に示されるように、ステージ2に載置された標本Aを観察する装置であって、LSM観察光学系3と、CCD観察光学系4と、これらを制御する制御部5と、モニタ6および入力部7とを備えている。ステージ2は、載置した標本Aを3次元方向に移動可能に設けられている。
【0027】
LSM観察光学系3は、レーザ光を出射するレーザ光源8と、該レーザ光源8から出射されたレーザ光を2次元的に走査するスキャナ9と、該スキャナ9により走査されたレーザ光を標本A上に集光し、標本Aにおいて発生した蛍光を集光する対物レンズ10と、該対物レンズ10により集光されスキャナ9を介して戻る蛍光をレーザ光の光路から分岐するダイクロイックミラー11と、該ダイクロイックミラー11により分岐された蛍光を集光する集光レンズ12と、該集光レンズ12の焦点位置に配置された共焦点ピンホール13と、該共焦点ピンホール13を通過した蛍光を検出する光検出器(PMT:光電子増倍管)14とを備えている。図中、符号15は瞳投影レンズ、符号16は結像レンズ、符号17はバリアフィルタである。
【0028】
CCD観察光学系4は、白色光を発生する水銀ランプのような面照明光源18と、該面照明光源18から発せられた白色光から所定の波長範囲の励起光を選択する励起フィルタ19と、該励起フィルタ19により選択された励起光を結像レンズ16と対物レンズ10との間の光路に合流させるダイクロイックミラー20と、励起光を照射して標本Aにおいて発生し対物レンズ10により集光された蛍光を、結像レンズ16と瞳投影レンズ15との間でスキャナ9への光路から分岐するダイクロイックミラー21と、該ダイクロイックミラー21により分岐された光路内に配置された瞳投影レンズ22と、可変絞り23と、測光フィルタ24と、結像レンズ25と、CCDカメラ26とを備えている。
【0029】
図中、符号27は、コンデンサレンズであって、面照明光源18からの白色光を略平行光に変換するようになっている。
励起フィルタ19は、例えば、異なる通過波長帯域を有する複数種のフィルタを択一的に光路に配置可能なフィルタターレットである。
【0030】
可変絞り23は、結像レンズ16および瞳投影レンズ22によってリレーされた対物レンズ10の瞳位置と光学的に共役な位置に配置されており、その位置を通過する蛍光の光束径を無段階で調節することができるようになっている。
測光フィルタ24も、例えば、フィルタターレットであり、瞳投影レンズ22により集光された蛍光の内から、CCDカメラ26によって撮影させる蛍光の波長帯域を選択することができるようになっている。
【0031】
制御部5は、スキャナ9を制御して、レーザ光の走査範囲、走査位置および走査速度を調節するようになっている。また、制御部5は、可変絞り23の開口径を制御して、蛍光の光束径を調節し、CCDカメラ26に入射させる蛍光の入射NA(開口数)を調節するようになっている。さらに、制御部5は、励起フィルタ19および測光フィルタ24を制御して、標本Aに照射する面照明光の波長範囲を調節し、CCDカメラ26により撮像する蛍光の波長範囲を調節するようになっている。
【0032】
また、制御部5は、光検出器14により検出した蛍光の強度を受けて、スキャナ9によるレーザ光の照射位置と対応づけて記憶することにより、LSM蛍光画像を生成するようになっている。また、制御部5は、CCDカメラ26により瞬時に取得された画像情報に基づいてCCD蛍光画像を生成するようになっている。
【0033】
モニタ6は、制御部5により生成されたLSM蛍光画像およびCCD蛍光画像を表示するとともに、GUI用の表示を行うようになっている。入力部7は、モニタ6上のGUI表示に従って種々の観察条件を入力したり、例えば、モニタ6に表示されているCCD蛍光画像中においてLSM蛍光画像を取得したい範囲をカーソルによって指定したりすることができるようになっている。
【0034】
このように構成された本実施形態に係るレーザ走査型蛍光顕微鏡1を用いた蛍光観察方法について以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ走査型蛍光顕微鏡1を用いて標本Aの蛍光観察を行うには、観察者が入力部7から観察条件を入力する。観察条件としては、まず、面照明光として照射する励起光の波長範囲およびCCDカメラ26により取得される蛍光の波長範囲を挙げることができる。
【0035】
入力部7から観察条件が入力されると、制御部5は、入力された観察条件に従って、励起フィルタ19および測光フィルタ24を制御し、通過波長帯域および撮影波長範囲を設定する。また、制御部5は初期状態において可変絞り23を、所定の開口径、例えば、対物レンズ10の瞳径より十分に小さな最小開口径に設定する。
【0036】
各種設定が行われた後に、制御部5は面照明光源を作動させて白色光を出射させる。これにより、励起フィルタ19によって選択された波長帯域の励起光がダイクロイックミラー20により反射され対物レンズ10を介して標本Aの比較的広い範囲に照射される。
【0037】
標本Aにおいては、励起光が照射された領域に存在する蛍光物質が励起されることにより蛍光が発生する。発生した蛍光は対物レンズ10によって集光され、結像レンズ16によって集光され、ダイクロイックミラー21を透過させられる。ダイクロイックミラー21を透過させられることにより、後述するレーザ光源8からのレーザ光の光路から分岐させられ、瞳投影レンズ22により集光される。
【0038】
そして、瞳投影レンズ22により集光された蛍光は、対物レンズ10の瞳位置と光学的に共役な位置に配置されている可変絞り23を通過して、測光フィルタ24により波長範囲が選択された後に、結像レンズ25によって集光されCCDカメラ26によって撮影される。
CCDカメラ26によって瞬時に取得された標本Aの比較的広い視野範囲にわたる蛍光画像情報は、制御部5に送られて、CCD蛍光画像として生成され(撮影ステップ)、モニタ6に表示される。
【0039】
観察者は、モニタ6上に表示された標本Aの比較的広い範囲にわたるCCD蛍光画像を確認して、特に詳細に観察したい部位を探す。可変絞り23が最小開口径に絞られているので、CCD蛍光画像は暗く、かつコントラストが低くなっている。すなわち、可変絞り23が対物レンズ10の瞳径より十分に小さく絞られることにより、CCD蛍光画像の焦点深度が深くなり、対物レンズ10の焦点位置を中心とした深さ方向に比較的広い範囲から発生した蛍光が重なり合ったコントラストの低いCCD蛍光画像が取得される。制御部5は必要により、CCDカメラ26の感度を増大させ、あるいは、蛍光画像情報に乗算するゲインを増大させる。
【0040】
この場合において、観察者は、必要により、入力部7を操作して可変絞り23の開口径を対物レンズ10の瞳径より小さい範囲で調節する。可変絞り23の開口径を大きくしていくと、CCDカメラ26への入射NAが増大していくので、CCD蛍光画像は明るく、かつコントラストが高くなっていく反面、焦点深度が小さくなっていく。観察者は、可変絞り23の開口径を適宜調節することにより、コントラストと焦点深度とのトレードオフにより、対物レンズ10の光軸に交差する方向における蛍光の発生位置が特定できるような開口径に設定する(絞り調節ステップ)。
【0041】
すなわち、可変絞り23の開口径を対物レンズ10の瞳径より小さく絞ることにより、焦点深度の深いCCD蛍光画像を得ることができ、対物レンズ10の焦点面とは深さ方向に異なる部位において蛍光が発生していてもこれをCCD蛍光画像に含めることができる。したがって、観察者は、モニタ6上に表示されたCCD蛍光画像において蛍光が発生している箇所を特定して、入力部7の操作により、その位置にLSM蛍光画像の取得範囲を設定する。
【0042】
制御部5は、入力部7から入力された取得範囲においてレーザ光が走査されるように、スキャナ9の走査位置および走査範囲を設定し、レーザ光源8からレーザ光を出射させる。レーザ光源8から出射されたレーザ光は、スキャナ9によって2次元的に走査され、瞳投影レンズ15、ダイクロイックミラー21、結像レンズ16および対物レンズ10を介して標本A上に集光される。これにより、レーザ光は、標本A上における上記取得範囲内において走査される。
【0043】
レーザ光が照射されることにより標本Aにおいて蛍光が発生すると、該蛍光は対物レンズ10により集光され、結像レンズ16、ダイクロイックミラー21、瞳投影レンズ15およびスキャナ9を介してレーザ光と同一光路を戻り、ダイクロイックミラー11によって分岐される。そして、分岐された蛍光は、バリアフィルタ17によってレーザ光成分が除去された後に、集光レンズ12によって集光され、その焦点位置に配置されている共焦点ピンホール13を通過したもののみが光検出器14によって検出される。
【0044】
制御部5は、スキャナ9によるレーザ光の照射位置と、各照射位置における光検出器14により検出された蛍光の強度とを対応付けて記憶しておき、各蛍光の強度を照射位置の情報に従って並べることによりLSM蛍光画像を生成することができる。これにより、対物レンズ10の焦点面に広がる光軸方向に高い空間分解能を有するLSM蛍光画像を取得することができる(画像生成ステップ)。
【0045】
観察者は、モニタ6に表示されたLSM蛍光画像において所望の蛍光領域が確認できない場合には、ステージ2を上下方向に作動させて、標本A内における対物レンズ10の焦点面を上下方向に移動させることにより蛍光領域を探索することができる。
【0046】
このように、本実施形態に係るレーザ走査型蛍光顕微鏡1および蛍光観察方法によれば、CCD蛍光画像によって広い視野範囲にわたる標本Aの観察を瞬時に行うとともに、LSM蛍光画像によって、標本Aの特定部位の詳細かつ空間分解能の高い観察を行うことができる。この場合に、対物レンズ10により集光された蛍光をスキャナ9に戻す前に分岐した光路に可変絞り23を配置しているので、LSM蛍光画像の空間分解能を低下させることなく、CCD蛍光画像の焦点深度を調節することができる。
【0047】
特に、CCD蛍光画像の焦点深度を深くすることにより、深さ方向のいずれかの位置において発生した蛍光をCCD蛍光画像に含めることができる。したがって、ステージ2を上下方向に移動させて蛍光強度の高い領域を探索することなく、一度に全体的な観察を行うことができる。例えば、標本Aが生細胞である場合には、焦点深度を深くして生細胞の大部分の領域を全体的に一度に観察することができる。これにより、細胞周期の進行を観察し、細胞の変化が発生した時点で、高NAのLSM蛍光画像によって、対物レンズ10の焦点面に広がるスライス画像や、光軸方向に焦点位置をずらしながら複数枚のスライス画像を撮影して得られる積層画像を取得して詳細観察を行うことができる。
【0048】
なお、本実施形態においては、LSM観察光学系3として、対物レンズ10により集光した蛍光をディスキャンする共焦点観察光学系を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、図2に示されるように、レーザ光源8としてパルスレーザ光源を用い、対物レンズ10により集光した蛍光を対物レンズ10の後段において、ダイクロイックミラー28によりすぐに光路から分岐して光検出器14により検出する多光子励起方式のLSM観察光学系3’を採用してもよい。この場合においても、上記と同様に、LSM蛍光画像の空間分解能を損なうことなく、CCD蛍光画像の焦点深度を調節することができる。
【0049】
また、本実施形態においては、面照明光源18からの励起光を標本Aに一方向から照射し、その照射方向に戻る蛍光を観察する、いわゆる落射照明方式のレーザ走査型蛍光顕微鏡1を例示したが、これに代えて、図3に示されるように、透過照明方式のレーザ走査型蛍光顕微鏡1’を採用してもよい。
すなわち、標本Aを挟んで対物レンズ10とは反対側、図3では下側に面照明光源18を配置して、標本Aに下側から励起光を照射し、それによって発生した蛍光のうち、上方に発せられた蛍光を対物レンズ10によって集光し検出するようになっている。
【0050】
このようにすることで、落射照明方式の場合のダイクロイックミラー20をなくすことができ、さらに簡易に構成することができる。図3に示されるミラー29としては、特別は波長特性を備えさせる必要がなく、安価に構成することができる。
【0051】
また、可変絞り23の絞り量に基づいてCCDカメラ26の感度を調節する感度調節部(図示略)を備えていてもよい。このようにすることで、焦点深度の深い蛍光画像を取得するために可変絞り23を絞るとCCDカメラ26に入射する蛍光量が低減するため、感度調節部によりCCDカメラ26の感度を高くして、取得される蛍光画像が暗くならないようにすることができる。また、可変絞り23を開けて、CCDカメラ26に入射する蛍光量を増大させたときには、感度調節部によりCCDカメラ26の感度を低下させて、取得される蛍光画像が明るくなり過ぎないようにすることができる。
【0052】
また、対物レンズ10を切り替える対物切替部(図示略)を備え、該対物切替部により切り替えられた対物レンズ10の種類および/または可変絞り23の絞り量に基づいてCCDカメラ26の感度を調節する感度調節部を備えていてもよい。
【0053】
次に、本発明の第2の実施形態に係るレーザ走査型蛍光顕微鏡30および蛍光観察方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態の説明において、上述した第1の実施形態に係るレーザ走査型蛍光顕微鏡1と構成を共通とする箇所には同一符号を付して説明を省略する。
【0054】
本実施形態に係るレーザ走査型蛍光顕微鏡30は、図4に示されるように、光刺激光学系31を備えている。光刺激光学系31は、光刺激用のレーザ光源32と、該レーザ光源32から発せられたレーザ光の光軸方向に直交する方向の位置を調節するスキャナ33と、該スキャナ33により位置調節されたレーザ光を、LSM観察光学系3の光路に合流させるダイクロイックミラー34とを備えている。図中符号35は、光刺激用のレーザ光の光束径を調節する光束径調節部、符号36はミラーである。
【0055】
光束径調節部35は、例えば、光軸方向に配列された複数のレンズを備え、そのレンズの少なくとも1つを光軸方向に移動させることで、光束径を変更するビームエキスパンダによって構成されている。光刺激用のレーザ光の光束径を調節することにより、対物レンズ10を介して標本Aに入射される光刺激用のレーザ光の入射NAを調節することができる。
【0056】
このように構成された本実施形態に係るレーザ走査型蛍光顕微鏡30によれば、可変絞り23を絞ることにより得られた焦点深度の深いCCD蛍光画像によって高輝度の蛍光が発生している領域を特定することができた場合に、その特定された位置に、光束径調節部35によって入射NAを小さくして焦点深度を深くした光刺激用のレーザ光を入射させて、蛍光が発生している部位に確実に光刺激を与えることができる。すなわち、CCD蛍光画像上で光刺激用のレーザ光の照射位置を特定するだけで、深さ方向の照射位置を特定することなく、所望の領域に光刺激を与えることができるという利点がある。そして、光刺激を与える前後の反応を、CCD蛍光画像およびLSM蛍光画像の両方で観察することができる。
【符号の説明】
【0057】
A 標本
1,30 レーザ走査型蛍光顕微鏡
5 制御部
6 モニタ(表示部)
7 入力部(領域指定部)
8 レーザ光源
9 スキャナ
10 対物レンズ
11 ダイクロイックミラー(蛍光分岐部)
13 共焦点ピンホール
14 光検出器
15 光路分岐部
18 面照明光源
20 面照明光合流部
21 ダイクロイックミラー(光路分岐部)
23 可変絞り
26 CCDカメラ(撮像素子)
27 コンデンサレンズ
32 光刺激用レーザ光源
33 スキャナ(刺激位置調節部)
34 ダイクロイックミラー(刺激光合流部)
35 光束径調節部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源と、
該レーザ光源からのレーザ光を走査するスキャナと、
該スキャナにより走査されたレーザ光を標本に照射し、標本において発生した蛍光を集光する対物レンズと、
前記標本を面照明する面照明光源と、
前記レーザ光の照射により発生した蛍光を前記レーザ光の光路から分岐させる蛍光分岐部と、
該蛍光分岐部によって分岐された蛍光を検出する光検出器と、
前記対物レンズと前記スキャナとの間の光路において蛍光を分岐する光路分岐部と、
該光路分岐部において分岐された蛍光を撮影する撮像素子と、
該撮像素子と前記光路分岐部との間の前記対物レンズの瞳位置と光学的に共役な位置に配置された可変絞りとを備えるレーザ走査型蛍光顕微鏡。
【請求項2】
前記蛍光分岐部は前記レーザ光源と前記スキャナとの間の光路において前記蛍光を分岐し、
該蛍光分岐部と前記光検出器との間の前記対物レンズの焦点位置と光学的に共役な位置に配置された共焦点ピンホールとを備える請求項1に記載のレーザ走査型蛍光顕微鏡。
【請求項3】
前記対物レンズと前記光路分岐部との間の光路において蛍光を分岐する蛍光分岐部を備え、
前記光検出器が、前記蛍光分岐部によって分岐された蛍光を検出する請求項1に記載のレーザ走査型蛍光顕微鏡。
【請求項4】
前記対物レンズと前記光路分岐部との間の前記対物レンズに向かう光路に前記面照明光源からの照明光を合流させる面照明光合流部を備える請求項1に記載のレーザ走査型蛍光顕微鏡。
【請求項5】
前記標本を挟んで前記対物レンズとは反対側から前記面照明光源からの照明光を標本に照射するコンデンサレンズを備える請求項1に記載のレーザ走査型蛍光顕微鏡。
【請求項6】
光刺激用レーザ光源と、該光刺激用レーザ光源からの光刺激用レーザ光の標本における照射位置を調節する刺激位置調節部と、該刺激位置調節部により位置調節された光刺激用レーザ光を前記スキャナと前記対物レンズとの間の該対物レンズに向かう光路に合流させる刺激光合流部とを備える請求項1に記載のレーザ走査型蛍光顕微鏡。
【請求項7】
前記光刺激用レーザ光源からの光刺激用レーザ光の光束径を調節する光束径調節部を備える請求項6に記載のレーザ走査型蛍光顕微鏡。
【請求項8】
前記撮像素子により取得された標本の蛍光画像を表示する表示部と、
該表示部に表示された蛍光画像内の領域を指定する領域指定部と、
該領域指定部により指定された領域の蛍光画像を取得するように前記スキャナを制御する制御部とを備える請求項1に記載のレーザ走査型蛍光顕微鏡。
【請求項9】
前記可変絞りの絞り量に基づいて前記撮像素子の感度を調節する感度調節部を備える請求項1に記載のレーザ走査型蛍光顕微鏡。
【請求項10】
前記対物レンズを切り替える対物切替部を備え、該対物切替部により切り替えられた対物レンズの種類および/または前記可変絞りの絞り量に基づいて前記撮像素子の感度を調節する感度調節部を備える請求項1に記載のレーザ走査型蛍光顕微鏡。
【請求項11】
対物レンズを介して標本にスポット状のレーザ光を照射し、該レーザ光の前記標本上における照射位置を走査し、前記標本において発生し前記対物レンズにより集光された蛍光を検出し、検出された蛍光と走査位置とに基づいて蛍光画像を生成する画像生成ステップと、
前記標本に対して面照明光を照射して、該標本において発生した蛍光を前記対物レンズにより集光し、集光された蛍光を前記レーザ光の光路から分岐した後に撮影する撮影ステップと、
前記対物レンズにより集光された蛍光の絞り量を、前記レーザ光の光路から分岐した後の前記対物レンズの瞳位置と光学的に共役な位置において調節する絞り調節ステップとを含む蛍光観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−286566(P2010−286566A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138589(P2009−138589)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】