レーダ画像信号処理装置
【課題】位相差分布をスペクトル解析し、地形位相を過不足無く除去して、地表面変化の検出を可能にしたレーダ画像信号処理装置を提供する。
【解決手段】互いに異なる軌道から同一エリアを観測した複数のレーダ画像を格納する格納部、格納された同一エリアを観測した複数のレーダ画像の位相差分布を計算する位相差計算部、位相差分布をスペクトル解析して位相差分布の周波数スペクトルを演算するスペクトル解析手段、閾値、軌道差により生じる地形位相に関する模擬や過去の地形位相スペクトルデータのいずれかとの比較により位相差分布の周波数スペクトルから地形位相スペクトルを求める地形スペクトル演算手段、求めた地形位相スペクトルにスペクトル解析手段での逆変換を行って地形位相を求める逆変換手段、位相差計算部で計算した位相差から求めた地形位相を除去する地形位相除去部、を備える。
【解決手段】互いに異なる軌道から同一エリアを観測した複数のレーダ画像を格納する格納部、格納された同一エリアを観測した複数のレーダ画像の位相差分布を計算する位相差計算部、位相差分布をスペクトル解析して位相差分布の周波数スペクトルを演算するスペクトル解析手段、閾値、軌道差により生じる地形位相に関する模擬や過去の地形位相スペクトルデータのいずれかとの比較により位相差分布の周波数スペクトルから地形位相スペクトルを求める地形スペクトル演算手段、求めた地形位相スペクトルにスペクトル解析手段での逆変換を行って地形位相を求める逆変換手段、位相差計算部で計算した位相差から求めた地形位相を除去する地形位相除去部、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、航空機や衛星などの移動プラットフォームに搭載する合成開口レーダや実開口レーダなどのレーダ画像を用いて、地表面の変化を検出する際に生じる不要な位相を除去するレーダ画像信号処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この発明の対象となるレーダ画像による地表変化検出では、地表面の変化を検出するために、それぞれ異なる時刻に2回観測して得たレーダ画像において、2画像間の位相差を用いて変化を検出する。もしくは、位相差を2次パラメータ(例えば位相の分散の大きさなどを表すことのできる、コヒーレンスなど)に変換して変化を検出する。
【0003】
この位相差には、地表変化で生じた位相に加え、2回の観測において軌道が異なることで生じる位相を含む。軌道の差により生じる位相を、ここでは地形位相と呼称する。図13に、位相差分布のイメージを示す。図13中の線は位相差の等位相線である。2画像間の位相差を用いて変化検出するには、地形変化に無関係の地形位相を除く必要がある。
【0004】
例えば下記非特許文献1に記載の従来の地形位相を除去するレーダ画像信号処理装置では、2画像間の位相差分布をスプライン曲線のフィッティングにより滑らかにし、それを地形位相の推定結果として、2画像間の位相差分布から除去していた。
【0005】
地形位相は、2回の観測で、観測地点(地表)とプラットフォームの距離に差があることから生じる位相である。図14は、地表上の観測地点Pと軌道1、2上のプラットフォームとの位置関係を示している。(x,y,z)は観測地点の座標を表すものであり、例えば緯度・経度・楕円体高のように測地において使われる一般的な座標でもよいし、処理作業者が定めたローカル座標でもよい。また、rP1(x,y,z)、rP2(x,y,z)は、それぞれプラットフォーム1、2と観測地点P(x,y,z)との距離である。
【0006】
距離計算で用いるプラットフォームの位置は、例えば、プラットフォームに搭載したアンテナのビーム中心が観測地点P(x,y,z)を捕らえた位置と定義してもよいし、合成開口レーダにおいて、観測地点P(x,y,z)を画像再生する際の基準点となる合成開口中心の位置と定義してもよいし、単に観測地点P(x,y,z)から軌道に下ろした垂線と軌道の交差点と定義してもよい。このとき、点P(x,y,z)の地形位相は次式となる。
【0007】
【数1】
【0008】
上記式(1)で、jは虚数単位、λはレーダ送信波の波長を表す。なお、図13の地形位相はφPe(x,y,z)の偏角として示している。下記非特許文献1に記載の方法は、式(1)のφPe(x,y,z)の位相項に含まれる{rP2(x,y,z)−rP1(x,y,z)}の分布が滑らかであることと、図13で示したように位相差分布において地形位相が支配的であることを用いて、位相差分布をスプライン曲線のフィッティングにより滑らかにし、それを地形位相の推定結果として、位相差分布から地形位相を除いていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M. Preiss, et al,”A change detection technique for repeat pass Interferometric SAR”,Proc. Radar conference 2003,pp98-102,2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら上記の従来の装置では、フィッティングにより滑らかにする度合いを決定する基準がなく、地形位相の取り残しや、余分に位相をとりすぎる問題があった。
【0011】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、閾値もしくは過去の結果を参照することにより、地形位相を過不足なく除去し、地表面変化の検出を可能にしたレーダ画像信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、観測対象へ電波を照射して得たレーダ画像を処理するレーダ画像信号処理装置であって、互いに異なる軌道から同一エリアを観測した複数のレーダ画像を格納するレーダ画像格納部と、前記レーダ画像格納部に格納されている同一エリアを観測した複数のレーダ画像を読み出し、複数のレーダ画像の位相差分布を計算する位相差計算部と、前記位相差分布をスペクトル解析して位相差分布の周波数スペクトルを演算するスペクトル解析手段と、閾値、軌道差により生じる地形位相に関する模擬の地形位相スペクトルデータ、過去の地形位相スペクトルデータのいずれかとの比較により位相差分布の周波数スペクトルから地形位相スペクトルを求める地形スペクトル演算手段と、求めた地形位相スペクトルに前記スペクトル解析手段での逆変換を行って地形位相を求める逆変換手段と、前記位相差計算部で計算した位相差から求めた地形位相を除去する地形位相除去部と、を備えることを特徴とするレーダ画像信号処理装置にある。
【発明の効果】
【0013】
この発明では、位相差の折り返しによる不連続な部分の影響を受けることなく地形移相を除去して、地表面変化の検出を可能にしたレーダ画像信号処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1の処理を示すフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態2によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態2の処理を示すフローチャートである。
【図5】この発明の実施の形態3によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態3の処理を示すフローチャートである。
【図7】この発明の実施の形態4によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図8】この発明の実施の形態4の処理を示すフローチャートである。
【図9】この発明の実施の形態5における反復回数に対する評価値の変化を示す図である。
【図10】この発明の実施の形態5によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図11】この発明の実施の形態5の処理を示すフローチャートである。
【図12】この発明の実施の形態5における位相差分布の分割を説明するための図である。
【図13】レーダ画像信号処理装置における位相差分布のイメージを示す図である。
【図14】地表上の観測地点と軌道上のプラットフォームとの位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下のこの発明によるレーダ画像信号処理装置を各実施の形態に従って図を用いて説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。なお、以降では、各図中、同一もしくは相当部分は同一符号で示す。図1において、マスター画像格納部1110とスレーブ画像格納部1120は、それぞれ別の時刻に別の軌道から同一エリアを観測したレーダ画像を格納する。これら格納される2枚のレーダ画像は、それぞれの画像中で同一位置の画素同士が同一観測地点を表すように、重ねあわせ処理(レジストレーション)された画像である。
【0016】
なお、観測時刻が早い画像から順にマスター画像格納部1110、スレーブ画像格納部1120に入れてもよいし、逆に遅い画像から順にマスター画像格納部1110、スレーブ画像格納部1120に入れてもよい。また、格納するレーダ画像は位相情報さえ持てばよいので、振幅・位相を併せ持つレーダ画像を入れてもいいし、位相情報のみ持つレーダ画像でもよい。なお、以降では、マスター画像格納部1110に格納した画像をマスター画像、スレーブ画像格納部1120に格納した画像をスレーブ画像と呼ぶ。
【0017】
位相差計算部1200は、マスター画像格納部1110とスレーブ画像格納部1120に格納されたレーダ画像を入力とし、位相差(ひいては位相差分布)を計算し計算結果を出力とする。位相差格納部1300は、位相差計算部1200の出力を格納する。
【0018】
フーリエ変換部1400は、位相差格納部1300に格納された位相差(位相差分布)を入力とし、位相差分布の周波数スペクトルを計算して出力する。閾値による地形スペクトル取得部1500は、フーリエ変換部1400の位相差分布の周波数スペクトル計算結果と地形スペクトル閾値格納部1510に格納された地形スペクトル閾値および、処理開始を指示する取得処理開始信号を入力とし、地形位相のスペクトルを演算して取得し取得結果を出力する。
【0019】
逆フーリエ変換部1600では、閾値による地形スペクトル取得部1500の地形スペクトル(地形位相のスペクトル)を入力とし、地形位相を計算し計算結果を出力する。地形位相格納部1700は、逆フーリエ変換部1600の地形位相の結果を格納する。地形位相除去部1800は位相差格納部1300に格納されたレーダ画像間の位相差と、地形位相格納部1700に格納された地形位相計算結果を入力とし、地形位相を除いた位相差画像を出力する。地形位相を除いた位相差画像格納部1900は、地形位相除去部1800の出力結果を格納する。
【0020】
次に、動作について説明する。図2は実施の形態1の処理を示すフローチャートである。なお、ステップの番号は基本的にブロック図中の実行するブロックの符号に対応する(以降同様)。まず、ステップST1200では、マスター画像とスレーブ画像で、同一の観測地点を表す画素同士の位相値の差ひいては位相差分布を、次式にて計算する。
【0021】
【数2】
【0022】
上記式(2)でφP(x,y,z)は座標(x,y,z)の観測地点を示す画素の位相差、MP(x,y,z)はマスター画像で座標(x,y,z)の観測地点を示す画素値であり、複素数である。同様にSP(x,y,z)は、スレーブ画像で座標(x,y,z)の観測地点を示す画素値であり、複素数である。また、*は複素共役を表す。
【0023】
ステップST1400では、ステップST1200で計算した位相差分布を2次元フーリエ変換して、位相差分布の周波数スペクトルを得る。ただし、この処理はフーリエ変換に限らず、ウェブレット変換など他のスペクトル解析法でもよい。
【0024】
ステップST1500では、地形スペクトル閾値よりも大きいエネルギーを持つ周波数成分を比較により演算して取得する。この閾値は位相差分布全体で一定値としてもよいし、観測地点(x,y,z)毎に別の閾値を設定してもよい。
【0025】
ステップST1600では、ステップST1500で取得した周波数成分を2次元逆フーリエ変換し、地形位相の分布を計算する。この逆フーリエ変換は、ステップST1400でフーリエ変換以外のスペクトル解析法を用いた場合は、その解析法の逆変換である必要がある。
【0026】
ステップST1800では、次式により、2枚の画像間の位相差φP(x,y,z)から、地形位相の計算結果を除去する。
【0027】
【数3】
【0028】
上記式(3)で、φPe(ハット)(x,y,z)は座標(x,y,z)の観測地点を示す画素の地形位相計算結果、φPc(x,y,z)は座標(x,y,z)の観測地点を示す画素の地形位相除去した位相差である。
【0029】
以上のように、スペクトルという物理量に対して閾値を設けて地形位相を決定することで、適用するデータに関わらず共通して閾値を定めることが可能である。
【0030】
実施の形態2.
実施の形態1では地形スペクトル閾値を用いて地形スペクトルを演算取得した。実施の形態2では、地形スペクトル閾値の替わりに、地形データであるDEM(Digital Elevation Model:数値標高モデル)から地形スペクトルを模擬して模擬地形位相スペクトルを生成し、それを地形位相スペクトル演算取得の際に参照することで、地形スペクトルに的を絞ったスペクトル取得が可能となる。
【0031】
図3はこの発明の実施の形態2によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。図3において実施の形態1と同一もしくは相当部分は同一符号で示すし、説明を省略する(以降同様)。図3のDEM・軌道データ格納部2510はDEMデータ、レーダ位置すなわち観測位置の軌道の軌道データを格納する。DEMによる地形スペクトル取得部2500は、DEMデータおよび軌道データと、フーリエ変換部1400の出力結果である位相差分布の周波数スペクトルおよび取得処理開始信号を入力とし、地形位相のスペクトルを演算取得し、取得結果を出力する。
【0032】
次に、動作について説明する。図4は、実施の形態2の処理を示すフローチャートである。ステップST2500では、まず、DEMデータと軌道データを用いて、マスター・スレーブ画像の各画素における地形位相を上記式(1)で計算することで、地形位相をDEM及び軌道データから模擬する。次に、模擬した地形位相をフーリエ変換部1400と同様に2次元フーリエ変換し、模擬地形位相スペクトルを作成する。そして、模擬地形位相スペクトルで大きいエネルギーを持つ周波数と、フーリエ変換部1400の出力結果の大きいエネルギーを持つ周波数を比較し、フーリエ変換部1400の出力結果から、模擬地形位相スペクトルの大きいエネルギーを持つ周波数の近傍にあるものを探索して同様の分布形状のスペクトルを取得し、それを地形スペクトル(地形位相のスペクトル)とする。また近傍にあるものの取得では、例えば、模擬地形位相スペクトルとフーリエ変換部1400の出力結果の大きいエネルギー(ピーク)を持つスペクトル間の距離が、ある閾値以下となるものを取得する、という方法がある。
【0033】
以上のように、画像間の位相差を複素数表記のままでフーリエ変換し、周波数空間で地形位相を推定することにより、位相差の折り返しの影響を受けることなく地形位相除去が可能である。
【0034】
また、DEMデータを参照することで、実施の形態1よりも地形位相に限定したスペクトル取得が可能となる。
【0035】
実施の形態3.
実施の形態3では、実施の形態1の地形スペクトル閾値の替わりに、過去に推定した地形位相スペクトルを、位相差のスペクトルからの地形位相スペクトル取得の際に参照することで、地形スペクトルに的を絞ったスペクトル取得が可能となる。
【0036】
図5はこの発明の実施の形態3によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。類似観測の地形位相格納部3510は、過去に地形位相除去処理した際の地形位相スペクトル取得結果に加え、その取得時の処理で用いたマスター・スレーブ画像取得時の軌道データを2つペアで格納する。軌道データと地形位相スペクトル取得結果のセットは、類似観測の地形位相格納部3510に複数格納される。類似観測地形位相からの地形スペクトル取得部3500は、類似観測の地形位相格納部3510に格納されたデータと、フーリエ変換部1400の出力結果である位相差分布の周波数スペクトル、および取得処理開始信号を入力とし、地形位相のスペクトルを演算取得し、取得結果を出力する。
【0037】
次に、動作について説明する。図6は、実施の形態3の処理を示すフローチャートである。図6のステップST3500は、類似観測の地形位相格納部3510に格納された軌道ペアの中から、マスター画像格納部1110とスレーブ画像格納部1120に格納されたレーダ画像を観測した際の軌道ペアに最も近いものを探索する(レーダ画像と軌道情報はセットで格納されている)。探索結果で得られた最も近い軌道ペアとセットで格納されている、過去の地形位相スペクトル結果を得る。さらに、過去の地形位相スペクトル取得結果を、実施の形態2の模擬地形位相スペクトルの替わるものとして使用する。
【0038】
具体的には、過去の地形位相スペクトル取得結果で大きいエネルギーを持つ周波数の分布と、フーリエ変換部1400出力結果の大きいエネルギー周波数の分布を比較し、フーリエ変換部1400の出力結果から過去の地形位相スペクトル取得結果の大きいエネルギー周波数(ピーク)の近傍にあるものを取得し、それを地形スペクトルとする。
【0039】
以上のように、過去の地形位相スペクトルを参照することで、過不足無く地形位相を除去できる。
【0040】
実施の形態4.
実施の形態1は地形スペクトル閾値を用いて、一度の処理で地形スペクトルを取得した。実施の形態4では、一度、地形位相を除去したものを評価し、評価結果を受けて地形スペクトル閾値を修正し、再度地形位相を除去する。この、地形位相除去、結果の評価、地形スペクトル閾値の修正の流れを繰り返すことで、地形位相除去の取り残しを排除する。
【0041】
図7はこの発明の実施の形態4によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。除去結果評価部4910は、地形位相除去部1800が出力する地形位相除去した位相差を入力とし、その評価結果と、地形位相除去した結果を出力する。閾値更新部4920は、除去結果評価部4910で出力した評価結果を入力とし、地形スペクトル閾値を地形スペクトル閾値格納部1510へ出力して、閾値を再設定する。さらに、閾値更新部4920は閾値による地形スペクトル取得部1500に取得処理開始信号を出す。
【0042】
次に、動作について説明する。図8は、実施の形態4の処理を示すフローチャートである。図8において、ステップST4910は、地形位相除去部1800からの地形位相を除去した位相差画像の結果から評価値を求め、評価値に基づき、地形位相除去処理を終了するか、もしくは地形スペクトル閾値を更新して再計算するかの判断をする。判定に用いる評価値の例を次式に記す。
【0043】
【数4】
【0044】
上記式(4)で、γuはu回目のループ(反復)時の評価値(u=1,2,…)、xmin,xmax,ymin,ymaxはそれぞれ評価領域のx座標最小値、最大値、y座標最小値、最大値を示す。評価領域は、処理するマスター・スレーブ画像が示す領域全体でもよいし、画像の一部の領域でもよい。他にも、例えば次式による評価値を用いてもよい。
【0045】
【数5】
【0046】
これらの計算で得られる評価値は、地形位相を補正した場合の、マスター、スレーブ画像間の相関値に相当するものであり、地形位相が正確に計算できているほど、補正が正確にできるため、値が大きくなる。さらに、実施の形態5で述べる装置では、後述するように、始めに大まかな地形位相を演算取得し、徐々に地形位相の詳細な部分を取得する。このため、評価値は図9に示すように、反復回数uが大きくなるにつれて大きくなるが、その上昇度は小さくなる傾向をもつ。
【0047】
これらの評価値を基にして、この装置の処理を終了するか、地形スペクトル閾値を更新して再計算するかの判定については、例えば評価値γuのuに関する一次微分が小さくなった場合、すなわち例えば次式を満たした場合、を終了と判定する。
【0048】
【数6】
【0049】
上記式(6)で、δγは前もって定めたこの装置の終了判定閾値である。Vはデータに依存する評価値の分散を抑圧するために導入した平均処理の平均回数であり、自然数とする。他にも、式(6)の一次微分γu−v−γu−1−vの替わりに、二次微分γu−v−2γu−1−v+γu−2−vとしてもよい。さらに、軌道や、植生などの地表面の被覆などの観測条件とレーダ装置の緒元などから評価値γuの理論値を求め、評価値γuが理論値に達したときをこの装置の処理終了と判定しても良い。
【0050】
ステップST4920では、地形スペクトル閾値を更新する。この手法では、まず地形スペクトル閾値の初期値(u=1のときの閾値)として、フーリエ変換部1400の出力結果である位相差のスペクトルのエネルギー最大値とする。そして、更新の度に閾値を下げる。下げる方法としては、例えばu番目のループでは、フーリエ変換部1400の出力結果である位相差のスペクトルのu番目に大きいエネルギーと定めてもよいし、更新のたびに一定値ずつ閾値を下げても良い。これらの方法で閾値を下げることで、閾値により取得される周波数スペクトルが増えることから、前述のように、逆フーリエ変換部1600で出力される地形位相の計算結果φPe(ハット)(x,y,z)も徐々に詳細になる。
【0051】
処理結果を評価して、その結果を基に地形スペクトル閾値を更新する構成にすることで、地形位相のスペクトルに合わせて閾値を適切に自動設定できることから、高精度に地形位相を計算できる。
【0052】
実施の形態5.
上記実施の形態1〜4は、画像1枚に相当するサイズの位相差分布を纏めて処理するものであった。実施の形態5では、位相差分布を分割して処理することで、処理の高速化や、正確性の向上が可能となる。
【0053】
図10はこの発明の実施の形態5によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。位相差分割部5310は、位相差格納部1300に格納された位相差分布画像を2枚以上に分割する。ただし、ここでは2枚の場合についてのみ説明する。位相差No1格納部5320、位相差No2格納部5330は、位相差分割部5310で分割した位相差分布画像を一枚ずつ格納する。地形位相No1格納部5610、地形位相No2格納部5620は、それぞれの逆フーリエ変換部1600の出力結果を格納する。地形位相結合部5630は、地形位相No1格納部5610と地形位相No2格納部5620に格納された2つの地形位相を取り出し、結合して一つの地形位相とする。
【0054】
次に、動作について説明する。図11は、実施の形態5の処理を示すフローチャートである。ステップST5310は、位相差分布を複数の分布画像に分割する。図12の(a)(b)では、例として2つに分割する場合を示している。分割の仕方は、図12の(a)のように分割した画像が重ならないようにしてもよいし、図12の(b)のように一部重なるように分割しても良い。また、位相差分布において、等位相差線の縞模様(干渉縞)が切り出した画像内で等間隔になるようにすることで、一枚当たりに含まれる地形位相スペクトルの大きいエネルギーを持つ周波数成分の数を少なくすることができ、処理の高速化が図れる。
【0055】
ステップST5320は、位相差No1格納部5320から位相差No1の画像を取り出す。ステップST5330は、位相差No2の画像を位相差No2格納部5330から取り出す。ステップST5610は地形位相No1を地形位相No1格納部5610に格納する。ステップST5620は地形位相No2を地形位相No2格納部5620に格納する。ステップST5630は、地形位相No1と地形位相No2を取り出し、一つの地形位相に結合する。重なりが無い場合は、例えばそのまま繋げてもよいし、繋げた後に低域通過フィルタに通し、繋ぎ目を滑らかにしても良い。また、重なりがある場合は、重なった部分の位相を平均して用いてもよいし、どちらか一方の画像の重なった部分の位相のみ用いて、重なりが無い場合と同様のつなぎ方をしても良い。
【0056】
なお以上では、実施の形態1のものに関して実行したものについて説明したが、他の実施の形態に関しても実行可能である。
【0057】
以上のように、スペクトルという物理量に対して閾値を設けて地形位相を決定することで、適用するデータに関わらず共通して閾値を定めることが可能である。
【0058】
また、位相差分布を分割して処理することで、一度に処理する位相差分布のサイズが小さくなり、さらに並列処理することができ、一枚当たりに含まれる地形位相スペクトルの大きいエネルギーを持つ周波数成分の数を少なくできるので、処理を高速化し省メモリ化することができる。
【0059】
なお、この発明は上記の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の可能な組み合わせを含むことは云うまでもない。また、フーリエ変換部1400がスペクトル解析手段を構成し、閾値による地形スペクトル取得部1500と地形スペクトル閾値格納部1510、DEMによるスペクトル取得部2500とDEM・軌道データ格納部2510、類似観測地位相からの地形スペクトル取得部3500と類似観測の地形位相格納部3510が地形スペクトル演算手段を構成し、逆フーリエ変換部1600が逆変換手段を構成する。
【符号の説明】
【0060】
1110 マスター画像格納部、1120 スレーブ画像格納部、1200 位相差計算部、1300 位相差格納部、1400 フーリエ変換部、1500 閾値による地形スペクトル取得部、1510 地形スペクトル閾値格納部、1600 逆フーリエ変換部、1700 地形位相格納部、1800 地形位相除去部、1900 地形位相を除いた位相差画像格納部、2500 DEMによるスペクトル取得部、2510 DEM・軌道データ格納部、3500 類似観測地位相からの地形スペクトル取得部、3510 類似観測の地形位相格納部、4910 除去結果評価部、4920 閾値更新部、5310 位相差分割部、5320 位相差No1格納部、5330 位相差No2格納部、5610 地形位相No1格納部、5620 地形位相No2格納部、5630 地形位相結合部。
【技術分野】
【0001】
この発明は、航空機や衛星などの移動プラットフォームに搭載する合成開口レーダや実開口レーダなどのレーダ画像を用いて、地表面の変化を検出する際に生じる不要な位相を除去するレーダ画像信号処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この発明の対象となるレーダ画像による地表変化検出では、地表面の変化を検出するために、それぞれ異なる時刻に2回観測して得たレーダ画像において、2画像間の位相差を用いて変化を検出する。もしくは、位相差を2次パラメータ(例えば位相の分散の大きさなどを表すことのできる、コヒーレンスなど)に変換して変化を検出する。
【0003】
この位相差には、地表変化で生じた位相に加え、2回の観測において軌道が異なることで生じる位相を含む。軌道の差により生じる位相を、ここでは地形位相と呼称する。図13に、位相差分布のイメージを示す。図13中の線は位相差の等位相線である。2画像間の位相差を用いて変化検出するには、地形変化に無関係の地形位相を除く必要がある。
【0004】
例えば下記非特許文献1に記載の従来の地形位相を除去するレーダ画像信号処理装置では、2画像間の位相差分布をスプライン曲線のフィッティングにより滑らかにし、それを地形位相の推定結果として、2画像間の位相差分布から除去していた。
【0005】
地形位相は、2回の観測で、観測地点(地表)とプラットフォームの距離に差があることから生じる位相である。図14は、地表上の観測地点Pと軌道1、2上のプラットフォームとの位置関係を示している。(x,y,z)は観測地点の座標を表すものであり、例えば緯度・経度・楕円体高のように測地において使われる一般的な座標でもよいし、処理作業者が定めたローカル座標でもよい。また、rP1(x,y,z)、rP2(x,y,z)は、それぞれプラットフォーム1、2と観測地点P(x,y,z)との距離である。
【0006】
距離計算で用いるプラットフォームの位置は、例えば、プラットフォームに搭載したアンテナのビーム中心が観測地点P(x,y,z)を捕らえた位置と定義してもよいし、合成開口レーダにおいて、観測地点P(x,y,z)を画像再生する際の基準点となる合成開口中心の位置と定義してもよいし、単に観測地点P(x,y,z)から軌道に下ろした垂線と軌道の交差点と定義してもよい。このとき、点P(x,y,z)の地形位相は次式となる。
【0007】
【数1】
【0008】
上記式(1)で、jは虚数単位、λはレーダ送信波の波長を表す。なお、図13の地形位相はφPe(x,y,z)の偏角として示している。下記非特許文献1に記載の方法は、式(1)のφPe(x,y,z)の位相項に含まれる{rP2(x,y,z)−rP1(x,y,z)}の分布が滑らかであることと、図13で示したように位相差分布において地形位相が支配的であることを用いて、位相差分布をスプライン曲線のフィッティングにより滑らかにし、それを地形位相の推定結果として、位相差分布から地形位相を除いていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M. Preiss, et al,”A change detection technique for repeat pass Interferometric SAR”,Proc. Radar conference 2003,pp98-102,2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら上記の従来の装置では、フィッティングにより滑らかにする度合いを決定する基準がなく、地形位相の取り残しや、余分に位相をとりすぎる問題があった。
【0011】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、閾値もしくは過去の結果を参照することにより、地形位相を過不足なく除去し、地表面変化の検出を可能にしたレーダ画像信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、観測対象へ電波を照射して得たレーダ画像を処理するレーダ画像信号処理装置であって、互いに異なる軌道から同一エリアを観測した複数のレーダ画像を格納するレーダ画像格納部と、前記レーダ画像格納部に格納されている同一エリアを観測した複数のレーダ画像を読み出し、複数のレーダ画像の位相差分布を計算する位相差計算部と、前記位相差分布をスペクトル解析して位相差分布の周波数スペクトルを演算するスペクトル解析手段と、閾値、軌道差により生じる地形位相に関する模擬の地形位相スペクトルデータ、過去の地形位相スペクトルデータのいずれかとの比較により位相差分布の周波数スペクトルから地形位相スペクトルを求める地形スペクトル演算手段と、求めた地形位相スペクトルに前記スペクトル解析手段での逆変換を行って地形位相を求める逆変換手段と、前記位相差計算部で計算した位相差から求めた地形位相を除去する地形位相除去部と、を備えることを特徴とするレーダ画像信号処理装置にある。
【発明の効果】
【0013】
この発明では、位相差の折り返しによる不連続な部分の影響を受けることなく地形移相を除去して、地表面変化の検出を可能にしたレーダ画像信号処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1の処理を示すフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態2によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態2の処理を示すフローチャートである。
【図5】この発明の実施の形態3によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態3の処理を示すフローチャートである。
【図7】この発明の実施の形態4によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図8】この発明の実施の形態4の処理を示すフローチャートである。
【図9】この発明の実施の形態5における反復回数に対する評価値の変化を示す図である。
【図10】この発明の実施の形態5によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図11】この発明の実施の形態5の処理を示すフローチャートである。
【図12】この発明の実施の形態5における位相差分布の分割を説明するための図である。
【図13】レーダ画像信号処理装置における位相差分布のイメージを示す図である。
【図14】地表上の観測地点と軌道上のプラットフォームとの位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下のこの発明によるレーダ画像信号処理装置を各実施の形態に従って図を用いて説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。なお、以降では、各図中、同一もしくは相当部分は同一符号で示す。図1において、マスター画像格納部1110とスレーブ画像格納部1120は、それぞれ別の時刻に別の軌道から同一エリアを観測したレーダ画像を格納する。これら格納される2枚のレーダ画像は、それぞれの画像中で同一位置の画素同士が同一観測地点を表すように、重ねあわせ処理(レジストレーション)された画像である。
【0016】
なお、観測時刻が早い画像から順にマスター画像格納部1110、スレーブ画像格納部1120に入れてもよいし、逆に遅い画像から順にマスター画像格納部1110、スレーブ画像格納部1120に入れてもよい。また、格納するレーダ画像は位相情報さえ持てばよいので、振幅・位相を併せ持つレーダ画像を入れてもいいし、位相情報のみ持つレーダ画像でもよい。なお、以降では、マスター画像格納部1110に格納した画像をマスター画像、スレーブ画像格納部1120に格納した画像をスレーブ画像と呼ぶ。
【0017】
位相差計算部1200は、マスター画像格納部1110とスレーブ画像格納部1120に格納されたレーダ画像を入力とし、位相差(ひいては位相差分布)を計算し計算結果を出力とする。位相差格納部1300は、位相差計算部1200の出力を格納する。
【0018】
フーリエ変換部1400は、位相差格納部1300に格納された位相差(位相差分布)を入力とし、位相差分布の周波数スペクトルを計算して出力する。閾値による地形スペクトル取得部1500は、フーリエ変換部1400の位相差分布の周波数スペクトル計算結果と地形スペクトル閾値格納部1510に格納された地形スペクトル閾値および、処理開始を指示する取得処理開始信号を入力とし、地形位相のスペクトルを演算して取得し取得結果を出力する。
【0019】
逆フーリエ変換部1600では、閾値による地形スペクトル取得部1500の地形スペクトル(地形位相のスペクトル)を入力とし、地形位相を計算し計算結果を出力する。地形位相格納部1700は、逆フーリエ変換部1600の地形位相の結果を格納する。地形位相除去部1800は位相差格納部1300に格納されたレーダ画像間の位相差と、地形位相格納部1700に格納された地形位相計算結果を入力とし、地形位相を除いた位相差画像を出力する。地形位相を除いた位相差画像格納部1900は、地形位相除去部1800の出力結果を格納する。
【0020】
次に、動作について説明する。図2は実施の形態1の処理を示すフローチャートである。なお、ステップの番号は基本的にブロック図中の実行するブロックの符号に対応する(以降同様)。まず、ステップST1200では、マスター画像とスレーブ画像で、同一の観測地点を表す画素同士の位相値の差ひいては位相差分布を、次式にて計算する。
【0021】
【数2】
【0022】
上記式(2)でφP(x,y,z)は座標(x,y,z)の観測地点を示す画素の位相差、MP(x,y,z)はマスター画像で座標(x,y,z)の観測地点を示す画素値であり、複素数である。同様にSP(x,y,z)は、スレーブ画像で座標(x,y,z)の観測地点を示す画素値であり、複素数である。また、*は複素共役を表す。
【0023】
ステップST1400では、ステップST1200で計算した位相差分布を2次元フーリエ変換して、位相差分布の周波数スペクトルを得る。ただし、この処理はフーリエ変換に限らず、ウェブレット変換など他のスペクトル解析法でもよい。
【0024】
ステップST1500では、地形スペクトル閾値よりも大きいエネルギーを持つ周波数成分を比較により演算して取得する。この閾値は位相差分布全体で一定値としてもよいし、観測地点(x,y,z)毎に別の閾値を設定してもよい。
【0025】
ステップST1600では、ステップST1500で取得した周波数成分を2次元逆フーリエ変換し、地形位相の分布を計算する。この逆フーリエ変換は、ステップST1400でフーリエ変換以外のスペクトル解析法を用いた場合は、その解析法の逆変換である必要がある。
【0026】
ステップST1800では、次式により、2枚の画像間の位相差φP(x,y,z)から、地形位相の計算結果を除去する。
【0027】
【数3】
【0028】
上記式(3)で、φPe(ハット)(x,y,z)は座標(x,y,z)の観測地点を示す画素の地形位相計算結果、φPc(x,y,z)は座標(x,y,z)の観測地点を示す画素の地形位相除去した位相差である。
【0029】
以上のように、スペクトルという物理量に対して閾値を設けて地形位相を決定することで、適用するデータに関わらず共通して閾値を定めることが可能である。
【0030】
実施の形態2.
実施の形態1では地形スペクトル閾値を用いて地形スペクトルを演算取得した。実施の形態2では、地形スペクトル閾値の替わりに、地形データであるDEM(Digital Elevation Model:数値標高モデル)から地形スペクトルを模擬して模擬地形位相スペクトルを生成し、それを地形位相スペクトル演算取得の際に参照することで、地形スペクトルに的を絞ったスペクトル取得が可能となる。
【0031】
図3はこの発明の実施の形態2によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。図3において実施の形態1と同一もしくは相当部分は同一符号で示すし、説明を省略する(以降同様)。図3のDEM・軌道データ格納部2510はDEMデータ、レーダ位置すなわち観測位置の軌道の軌道データを格納する。DEMによる地形スペクトル取得部2500は、DEMデータおよび軌道データと、フーリエ変換部1400の出力結果である位相差分布の周波数スペクトルおよび取得処理開始信号を入力とし、地形位相のスペクトルを演算取得し、取得結果を出力する。
【0032】
次に、動作について説明する。図4は、実施の形態2の処理を示すフローチャートである。ステップST2500では、まず、DEMデータと軌道データを用いて、マスター・スレーブ画像の各画素における地形位相を上記式(1)で計算することで、地形位相をDEM及び軌道データから模擬する。次に、模擬した地形位相をフーリエ変換部1400と同様に2次元フーリエ変換し、模擬地形位相スペクトルを作成する。そして、模擬地形位相スペクトルで大きいエネルギーを持つ周波数と、フーリエ変換部1400の出力結果の大きいエネルギーを持つ周波数を比較し、フーリエ変換部1400の出力結果から、模擬地形位相スペクトルの大きいエネルギーを持つ周波数の近傍にあるものを探索して同様の分布形状のスペクトルを取得し、それを地形スペクトル(地形位相のスペクトル)とする。また近傍にあるものの取得では、例えば、模擬地形位相スペクトルとフーリエ変換部1400の出力結果の大きいエネルギー(ピーク)を持つスペクトル間の距離が、ある閾値以下となるものを取得する、という方法がある。
【0033】
以上のように、画像間の位相差を複素数表記のままでフーリエ変換し、周波数空間で地形位相を推定することにより、位相差の折り返しの影響を受けることなく地形位相除去が可能である。
【0034】
また、DEMデータを参照することで、実施の形態1よりも地形位相に限定したスペクトル取得が可能となる。
【0035】
実施の形態3.
実施の形態3では、実施の形態1の地形スペクトル閾値の替わりに、過去に推定した地形位相スペクトルを、位相差のスペクトルからの地形位相スペクトル取得の際に参照することで、地形スペクトルに的を絞ったスペクトル取得が可能となる。
【0036】
図5はこの発明の実施の形態3によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。類似観測の地形位相格納部3510は、過去に地形位相除去処理した際の地形位相スペクトル取得結果に加え、その取得時の処理で用いたマスター・スレーブ画像取得時の軌道データを2つペアで格納する。軌道データと地形位相スペクトル取得結果のセットは、類似観測の地形位相格納部3510に複数格納される。類似観測地形位相からの地形スペクトル取得部3500は、類似観測の地形位相格納部3510に格納されたデータと、フーリエ変換部1400の出力結果である位相差分布の周波数スペクトル、および取得処理開始信号を入力とし、地形位相のスペクトルを演算取得し、取得結果を出力する。
【0037】
次に、動作について説明する。図6は、実施の形態3の処理を示すフローチャートである。図6のステップST3500は、類似観測の地形位相格納部3510に格納された軌道ペアの中から、マスター画像格納部1110とスレーブ画像格納部1120に格納されたレーダ画像を観測した際の軌道ペアに最も近いものを探索する(レーダ画像と軌道情報はセットで格納されている)。探索結果で得られた最も近い軌道ペアとセットで格納されている、過去の地形位相スペクトル結果を得る。さらに、過去の地形位相スペクトル取得結果を、実施の形態2の模擬地形位相スペクトルの替わるものとして使用する。
【0038】
具体的には、過去の地形位相スペクトル取得結果で大きいエネルギーを持つ周波数の分布と、フーリエ変換部1400出力結果の大きいエネルギー周波数の分布を比較し、フーリエ変換部1400の出力結果から過去の地形位相スペクトル取得結果の大きいエネルギー周波数(ピーク)の近傍にあるものを取得し、それを地形スペクトルとする。
【0039】
以上のように、過去の地形位相スペクトルを参照することで、過不足無く地形位相を除去できる。
【0040】
実施の形態4.
実施の形態1は地形スペクトル閾値を用いて、一度の処理で地形スペクトルを取得した。実施の形態4では、一度、地形位相を除去したものを評価し、評価結果を受けて地形スペクトル閾値を修正し、再度地形位相を除去する。この、地形位相除去、結果の評価、地形スペクトル閾値の修正の流れを繰り返すことで、地形位相除去の取り残しを排除する。
【0041】
図7はこの発明の実施の形態4によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。除去結果評価部4910は、地形位相除去部1800が出力する地形位相除去した位相差を入力とし、その評価結果と、地形位相除去した結果を出力する。閾値更新部4920は、除去結果評価部4910で出力した評価結果を入力とし、地形スペクトル閾値を地形スペクトル閾値格納部1510へ出力して、閾値を再設定する。さらに、閾値更新部4920は閾値による地形スペクトル取得部1500に取得処理開始信号を出す。
【0042】
次に、動作について説明する。図8は、実施の形態4の処理を示すフローチャートである。図8において、ステップST4910は、地形位相除去部1800からの地形位相を除去した位相差画像の結果から評価値を求め、評価値に基づき、地形位相除去処理を終了するか、もしくは地形スペクトル閾値を更新して再計算するかの判断をする。判定に用いる評価値の例を次式に記す。
【0043】
【数4】
【0044】
上記式(4)で、γuはu回目のループ(反復)時の評価値(u=1,2,…)、xmin,xmax,ymin,ymaxはそれぞれ評価領域のx座標最小値、最大値、y座標最小値、最大値を示す。評価領域は、処理するマスター・スレーブ画像が示す領域全体でもよいし、画像の一部の領域でもよい。他にも、例えば次式による評価値を用いてもよい。
【0045】
【数5】
【0046】
これらの計算で得られる評価値は、地形位相を補正した場合の、マスター、スレーブ画像間の相関値に相当するものであり、地形位相が正確に計算できているほど、補正が正確にできるため、値が大きくなる。さらに、実施の形態5で述べる装置では、後述するように、始めに大まかな地形位相を演算取得し、徐々に地形位相の詳細な部分を取得する。このため、評価値は図9に示すように、反復回数uが大きくなるにつれて大きくなるが、その上昇度は小さくなる傾向をもつ。
【0047】
これらの評価値を基にして、この装置の処理を終了するか、地形スペクトル閾値を更新して再計算するかの判定については、例えば評価値γuのuに関する一次微分が小さくなった場合、すなわち例えば次式を満たした場合、を終了と判定する。
【0048】
【数6】
【0049】
上記式(6)で、δγは前もって定めたこの装置の終了判定閾値である。Vはデータに依存する評価値の分散を抑圧するために導入した平均処理の平均回数であり、自然数とする。他にも、式(6)の一次微分γu−v−γu−1−vの替わりに、二次微分γu−v−2γu−1−v+γu−2−vとしてもよい。さらに、軌道や、植生などの地表面の被覆などの観測条件とレーダ装置の緒元などから評価値γuの理論値を求め、評価値γuが理論値に達したときをこの装置の処理終了と判定しても良い。
【0050】
ステップST4920では、地形スペクトル閾値を更新する。この手法では、まず地形スペクトル閾値の初期値(u=1のときの閾値)として、フーリエ変換部1400の出力結果である位相差のスペクトルのエネルギー最大値とする。そして、更新の度に閾値を下げる。下げる方法としては、例えばu番目のループでは、フーリエ変換部1400の出力結果である位相差のスペクトルのu番目に大きいエネルギーと定めてもよいし、更新のたびに一定値ずつ閾値を下げても良い。これらの方法で閾値を下げることで、閾値により取得される周波数スペクトルが増えることから、前述のように、逆フーリエ変換部1600で出力される地形位相の計算結果φPe(ハット)(x,y,z)も徐々に詳細になる。
【0051】
処理結果を評価して、その結果を基に地形スペクトル閾値を更新する構成にすることで、地形位相のスペクトルに合わせて閾値を適切に自動設定できることから、高精度に地形位相を計算できる。
【0052】
実施の形態5.
上記実施の形態1〜4は、画像1枚に相当するサイズの位相差分布を纏めて処理するものであった。実施の形態5では、位相差分布を分割して処理することで、処理の高速化や、正確性の向上が可能となる。
【0053】
図10はこの発明の実施の形態5によるレーダ画像信号処理装置の構成を示すブロック図である。位相差分割部5310は、位相差格納部1300に格納された位相差分布画像を2枚以上に分割する。ただし、ここでは2枚の場合についてのみ説明する。位相差No1格納部5320、位相差No2格納部5330は、位相差分割部5310で分割した位相差分布画像を一枚ずつ格納する。地形位相No1格納部5610、地形位相No2格納部5620は、それぞれの逆フーリエ変換部1600の出力結果を格納する。地形位相結合部5630は、地形位相No1格納部5610と地形位相No2格納部5620に格納された2つの地形位相を取り出し、結合して一つの地形位相とする。
【0054】
次に、動作について説明する。図11は、実施の形態5の処理を示すフローチャートである。ステップST5310は、位相差分布を複数の分布画像に分割する。図12の(a)(b)では、例として2つに分割する場合を示している。分割の仕方は、図12の(a)のように分割した画像が重ならないようにしてもよいし、図12の(b)のように一部重なるように分割しても良い。また、位相差分布において、等位相差線の縞模様(干渉縞)が切り出した画像内で等間隔になるようにすることで、一枚当たりに含まれる地形位相スペクトルの大きいエネルギーを持つ周波数成分の数を少なくすることができ、処理の高速化が図れる。
【0055】
ステップST5320は、位相差No1格納部5320から位相差No1の画像を取り出す。ステップST5330は、位相差No2の画像を位相差No2格納部5330から取り出す。ステップST5610は地形位相No1を地形位相No1格納部5610に格納する。ステップST5620は地形位相No2を地形位相No2格納部5620に格納する。ステップST5630は、地形位相No1と地形位相No2を取り出し、一つの地形位相に結合する。重なりが無い場合は、例えばそのまま繋げてもよいし、繋げた後に低域通過フィルタに通し、繋ぎ目を滑らかにしても良い。また、重なりがある場合は、重なった部分の位相を平均して用いてもよいし、どちらか一方の画像の重なった部分の位相のみ用いて、重なりが無い場合と同様のつなぎ方をしても良い。
【0056】
なお以上では、実施の形態1のものに関して実行したものについて説明したが、他の実施の形態に関しても実行可能である。
【0057】
以上のように、スペクトルという物理量に対して閾値を設けて地形位相を決定することで、適用するデータに関わらず共通して閾値を定めることが可能である。
【0058】
また、位相差分布を分割して処理することで、一度に処理する位相差分布のサイズが小さくなり、さらに並列処理することができ、一枚当たりに含まれる地形位相スペクトルの大きいエネルギーを持つ周波数成分の数を少なくできるので、処理を高速化し省メモリ化することができる。
【0059】
なお、この発明は上記の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の可能な組み合わせを含むことは云うまでもない。また、フーリエ変換部1400がスペクトル解析手段を構成し、閾値による地形スペクトル取得部1500と地形スペクトル閾値格納部1510、DEMによるスペクトル取得部2500とDEM・軌道データ格納部2510、類似観測地位相からの地形スペクトル取得部3500と類似観測の地形位相格納部3510が地形スペクトル演算手段を構成し、逆フーリエ変換部1600が逆変換手段を構成する。
【符号の説明】
【0060】
1110 マスター画像格納部、1120 スレーブ画像格納部、1200 位相差計算部、1300 位相差格納部、1400 フーリエ変換部、1500 閾値による地形スペクトル取得部、1510 地形スペクトル閾値格納部、1600 逆フーリエ変換部、1700 地形位相格納部、1800 地形位相除去部、1900 地形位相を除いた位相差画像格納部、2500 DEMによるスペクトル取得部、2510 DEM・軌道データ格納部、3500 類似観測地位相からの地形スペクトル取得部、3510 類似観測の地形位相格納部、4910 除去結果評価部、4920 閾値更新部、5310 位相差分割部、5320 位相差No1格納部、5330 位相差No2格納部、5610 地形位相No1格納部、5620 地形位相No2格納部、5630 地形位相結合部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測対象へ電波を照射して得たレーダ画像を処理するレーダ画像信号処理装置であって、
互いに異なる軌道から同一エリアを観測した複数のレーダ画像を格納するレーダ画像格納部と、
前記レーダ画像格納部に格納されている同一エリアを観測した複数のレーダ画像を読み出し、複数のレーダ画像の位相差分布を計算する位相差計算部と、
前記位相差分布をスペクトル解析して位相差分布の周波数スペクトルを演算するスペクトル解析手段と、
閾値、軌道差により生じる地形位相に関する模擬の地形位相スペクトルデータ、過去の地形位相スペクトルデータのいずれかとの比較により位相差分布の周波数スペクトルから地形位相スペクトルを求める地形スペクトル演算手段と、
求めた地形位相スペクトルに前記スペクトル解析手段での逆変換を行って地形位相を求める逆変換手段と、
前記位相差計算部で計算した位相差から求めた地形位相を除去する地形位相除去部と、
を備えることを特徴とするレーダ画像信号処理装置。
【請求項2】
位相差計算部で得られた位相差分布を複数枚の位相差分布に分割する位相差分割部と、
それぞれ前記分割による増加数分のスペクトル解析手段、地形スペクトル演算手段、逆変換手段と、
前記各逆変換手段において求められた、分割された各位相差分布から計算された地形位相を結合する地形位相結合部と、
をさらに備え、
地形位相除去部が前記地形位相結合部で結合された地形位相により除去を行う、
ことを特徴とする請求項1記載のレーダ画像信号処理装置。
【請求項3】
地形スペクトル演算手段が、
地形位相スペクトル取得に用いる地形スペクトル閾値を格納する地形スペクトル閾値格納部と、
前記地形スペクトル閾値と位相差分布の周波数スペクトルの比較に基づき地形位相スペクトルを求める閾値による地形スペクトル取得部と、
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のレーダ画像信号処理装置。
【請求項4】
地形スペクトル演算手段が、
地形データとレーダ位置の軌道データを格納した地形データ・軌道データ格納部と、
前記地形データと軌道データから模擬の地形位相スペクトルデータを演算し、模擬の地形位相スペクトルデータと位相差分布の周波数スペクトルとの比較に基づき地形位相スペクトルを求める地形データによる地形スペクトル取得部と、
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のレーダ画像信号処理装置。
【請求項5】
地形スペクトル演算手段が、
過去の地形位相スペクトルデータおよびその際の軌道データを格納した類似観測の地形位相格納部と、
処理中のレーダ画像の軌道データに最も近い軌道データにおける過去の地形位相スペクトルデータを前記地形位相格納部から検索し、検索された過去の地形位相スペクトルデータと位相差分布の周波数スペクトルとの比較に基づき地形位相スペクトルを求める類似観測地形位相からの地形スペクトル取得部と、
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のレーダ画像信号処理装置。
【請求項6】
前記地形位相除去部で得られた位相差の地形位相除去結果から所定の評価値を演算する除去結果評価部と、
前記評価値に基づき地形スペクトル閾値格納部の地形位相スペクトル閾値を更新する閾値更新部と、
を含むことを特徴とする請求項3に記載のレーダ画像信号処理装置。
【請求項1】
観測対象へ電波を照射して得たレーダ画像を処理するレーダ画像信号処理装置であって、
互いに異なる軌道から同一エリアを観測した複数のレーダ画像を格納するレーダ画像格納部と、
前記レーダ画像格納部に格納されている同一エリアを観測した複数のレーダ画像を読み出し、複数のレーダ画像の位相差分布を計算する位相差計算部と、
前記位相差分布をスペクトル解析して位相差分布の周波数スペクトルを演算するスペクトル解析手段と、
閾値、軌道差により生じる地形位相に関する模擬の地形位相スペクトルデータ、過去の地形位相スペクトルデータのいずれかとの比較により位相差分布の周波数スペクトルから地形位相スペクトルを求める地形スペクトル演算手段と、
求めた地形位相スペクトルに前記スペクトル解析手段での逆変換を行って地形位相を求める逆変換手段と、
前記位相差計算部で計算した位相差から求めた地形位相を除去する地形位相除去部と、
を備えることを特徴とするレーダ画像信号処理装置。
【請求項2】
位相差計算部で得られた位相差分布を複数枚の位相差分布に分割する位相差分割部と、
それぞれ前記分割による増加数分のスペクトル解析手段、地形スペクトル演算手段、逆変換手段と、
前記各逆変換手段において求められた、分割された各位相差分布から計算された地形位相を結合する地形位相結合部と、
をさらに備え、
地形位相除去部が前記地形位相結合部で結合された地形位相により除去を行う、
ことを特徴とする請求項1記載のレーダ画像信号処理装置。
【請求項3】
地形スペクトル演算手段が、
地形位相スペクトル取得に用いる地形スペクトル閾値を格納する地形スペクトル閾値格納部と、
前記地形スペクトル閾値と位相差分布の周波数スペクトルの比較に基づき地形位相スペクトルを求める閾値による地形スペクトル取得部と、
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のレーダ画像信号処理装置。
【請求項4】
地形スペクトル演算手段が、
地形データとレーダ位置の軌道データを格納した地形データ・軌道データ格納部と、
前記地形データと軌道データから模擬の地形位相スペクトルデータを演算し、模擬の地形位相スペクトルデータと位相差分布の周波数スペクトルとの比較に基づき地形位相スペクトルを求める地形データによる地形スペクトル取得部と、
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のレーダ画像信号処理装置。
【請求項5】
地形スペクトル演算手段が、
過去の地形位相スペクトルデータおよびその際の軌道データを格納した類似観測の地形位相格納部と、
処理中のレーダ画像の軌道データに最も近い軌道データにおける過去の地形位相スペクトルデータを前記地形位相格納部から検索し、検索された過去の地形位相スペクトルデータと位相差分布の周波数スペクトルとの比較に基づき地形位相スペクトルを求める類似観測地形位相からの地形スペクトル取得部と、
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のレーダ画像信号処理装置。
【請求項6】
前記地形位相除去部で得られた位相差の地形位相除去結果から所定の評価値を演算する除去結果評価部と、
前記評価値に基づき地形スペクトル閾値格納部の地形位相スペクトル閾値を更新する閾値更新部と、
を含むことを特徴とする請求項3に記載のレーダ画像信号処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−175330(P2010−175330A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16798(P2009−16798)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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