説明

レーダ装置及び測角方法

【課題】ディジタルビームフォーミングを行うレーダ装置において、測角精度に優れたレーダ装置を提供する。
【解決手段】マルチビーム形成器(2)7は、メモリ3に保持されている受信信号から同時並列に角度方向に並べた複数の測角用受信ビームパターンB1〜BNを形成し、各ビームに対応した角度毎に受信信号を出力する。平均値減算器は、角度毎に着目する角度の前後の予め定めたサンプル数の角度の振幅値の平均値を算出し、着目する角度の振幅値から減算する。最小値検出器は、平均値減算後の各角度の振幅値の中の最小の振幅値を検出する。TH比較器(2)は、検出された振幅値と予め定めたスレッシュホールドTH2とを比較して、TH2よりも小さい場合に目標信号と判定し、そのビームの角度を測角値として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置に関し、特にディジタルビームフォーミングを行うレーダ装置及び測角方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、一般にアンテナから空間に電波を発射して、目標からの反射信号を受信することにより、目標の存在を探知し、その位置、運動状況などを観測するものである。従来のレーダ装置は、電波を空間に送受信する場合の利得特性であるビームパターンとしてペンシルビームパターンやコセカント2乗パターンなどを用途に応じて採用されていた。
【0003】
また、従来のレーダ装置における一般的な測角方式としては、例えば振幅比較測角方式やモノパルス測角方式が提案されている。
図5は振幅比較測角方式とモノパルス測角方式の原理を示す図である。
振幅比較方式は、図5(a)に示すように隣接する2つの鋭い指向特性をもつペンシルビームを形成して、2つのペンシルビームの振幅値の比と角度の関係を予めテーブルとして保持しておく。そして、目標が探知されたときに目標を挟み込むように形成された2つのペンシルビームの受信信号の振幅値の比を測定し、保持しているテーブルから測角値を得る方式である。また、モノパルス測角方式は、図5(b)に示すようにΣパターンとΔパターンの2種類のビームパターンを形成して、ΣパターンとΔパターンの振幅値の比と角度の関係を予めテーブルとして保持しておく。そして、目標信号が検出されたときに各ビームパターンの振幅値の比を測定し、保持しているテーブルから測角値を得る方式である。
【0004】
図6は振幅比較測角方式を採用したレーダ装置の構成例を示す図である。空中線素子1−1〜1−Lと、ビーム制御器2と、メモリ3と、♯1ビーム形成器16と、信号処理器5と、TH比較器(1)6と、♯2ビーム形成器17と、信号処理器8と、振幅比較測角処理器18とで構成されている。ビーム制御器2において空中線素子1−1〜Lへの制御信号を発生し出力する。各空中線素子は制御信号に基づいて位相と振幅を制御し送受信を行う。各空中線素子からのディジタル受信信号は一旦メモリに保持される。♯1ビーム形成器16と♯2ビーム形成器17はそれぞれ隣接するペンシルビームパターンを形成する。各ビームにより得られる受信信号は信号処理器5、6においてS/N改善やクラッタ抑圧のためにパルス圧縮や積分など信号処理を行い、振幅値をTH比較器(1)6に出力する。TH比較器(1)6は、入力される受信信号の振幅値と予め定めたスレッシュホールド値TH1を比較し、振幅値がTH1よりも大きい場合は目標信号と判定する。このとき、振幅比較測角処理器18は♯1ビームの振幅値と♯2ビームの振幅値の比を求め、予め保持する振幅比対角度のテーブルを参照して測角値を求め出力する。
【0005】
図7はモノパルス測角方式を採用したレーダ装置の構成例を示す図である。振幅比角測角方式の図6における♯1ビーム形成器16、♯2ビーム形成器17、振幅比角測角処理器18の代わりにΣビーム形成器19、Δビーム形成器20、モノパルス測角処理器21を有しており、それら以外は振幅比較測角方式の図6と構成、動作は同一である。Σビーム形成器19とΔビーム形成器20はそれぞれΣビームパターンとΔビームパターンを形成する。モノパルス測角処理器21はΣビームの振幅値とΔビームの振幅値の比を求め、予め保持する振幅比対角度のテーブルを参照して測角値を求め出力する。
【0006】
また、レーダ装置の測角方式としてモノパルス測角方式でΔパターンのナル点を検出する方式も提案されている(特許文献1参照)。これはΣパターンのビーム幅と比較して、Δパターンのビーム幅はナル点付近で振幅値が急峻に変化する特性を示すことを利用した方式である。
【0007】
図8はこの方式のレーダ装置の構成を示す図である。2つの空中線素子1−1、1−2と、送信器23と、デュプレクサ24と、ミクサ25、26と、振幅検波器27、28と、TH比較器29、30と、ナンドゲート31と、アンドゲート32とで構成されている。このレーダ装置では、送信器23から出力されるパルス変調波信号がデュープレックス24、ハイブリッド22を経て空中線1−1、1−2より放射される。また、目標からの反射波は、空中線1−1、1−2よりハイブリッド22に入力され和信号、差信号に分解され和信号はミクサ25へ、差信号はミクサ26へそれぞれ入力される。和信号及び差信号はミクサ25、26で中間周波信号に変換され、それぞれ振幅検波器27、28に入力され、振幅検波器27、28からそれぞれΣビームとΔビームの受信信号として出力される。Σビームの受信信号とΔビームの受信信号はそれぞれTH比較器29、TH比較器30においてそれぞれのスレッシュホールド値TH3、TH4と比較され2値化される。Δビームの出力はさらにインバータ31によって反転され、アンドゲート32によってΣビームの2値化出力とアンド論理がとられる。
【0008】
図9は前記レーダ装置の各部の出力波形を示す図であり、(a)はアンテナのビームパターン、(b)はTH比較器29の出力、(c)はTH比較器30の出力、(d)はインバータ31の出力、(e)はアンドゲートの出力である。アンドゲートの出力(e)の幅からわかるように、このレーダ装置の測角精度等はΔパターンのナル付近における特性とTH比較器30のスレッシュホールド値TH4で決定される。
【特許文献1】特開昭56−1267827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
レーダ装置の主要性能の一つとして測角精度があげられるが、これはレーダに対して目標が方位方向あるいは仰角方向等に対して何度に存在するかという位置の計測精度である。測角精度はレーダ装置における重要な性能であり、たとえば航空管制において測角誤差が小さいほど安全性が高まるため常に性能向上が要求される。しかし、上述の振幅比角測角方式やモノパルス測角方式ではビーム幅を狭くできないと測角精度が向上できないが、ビーム幅はアンテナサイズ、素子数、周波数等で決まり制約がある。
【0010】
また、2つ以上の目標が接近して存在する場合にそれぞれを別の目標と認識する角度分解能も重要な性能であるが、角度ごとの受信信号の振幅値をスレッシュホールド値THと比較して目標を検出する方式ではビーム幅の程度まで接近した複数目標をそれぞれ分解することは困難である。このため、2つ以上の目標が接近して存在する場合には、互いの受信信号が重畳し、測角精度が低下する。
【0011】
更に、従来のモノパルス測角方式のΔパターンのナル点を利用する方式は、ディジタルビームフォーミングによるものでなく、ナル点付近の幅はやはり広くなるのみならず、ナル点による2値化信号も比較器により所定スレッシュホールドレベルで出力するものであり、より狭いナル点の中心の特性が利用できないから角度分解能に限界があり改善が不十分である。更に、ディジタルビームフォーミングにより複数の受信ビームパターンを同時に形成してより狭いナル点により測角を実現できるものではない。
【0012】
[発明の目的]
本発明の目的は、測角精度に優れたディジタルビームフォーミングによるレーダ装置及び測角方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、接近する複数の目標を検出可能な角度分解能の優れたレーダ装置及び測角方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、ディジタルビームフォーミングにより形成したアンテナビームパターンの幅のより狭いナル点の特性により目標を検出するレーダ装置及び測角方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のレーダ装置は、ディジタルビームフォーミングを行うレーダ装置において、複数の空中線素子の受信信号を保持するメモリと、前記メモリに保持されている受信信号から同時並列に角度方向に並べた測角用の幅の狭いナル点を有する複数の測角用受信ビームパターンを形成し、前記測角用受信ビームパターンの角度毎に受信信号を出力する測角用マルチビーム形成手段(例えば、図1の7)と、大きな振幅値を含む連続する角度毎の受信信号の中から最も小さい振幅値を検出し、当該振幅値の受信信号を出力する測角用受信ビームパターンの角度を測角値として出力する目標測角手段(例えば、図1の8ないし11、図2の8、15、10、11)と、を有することを特徴とし、前記目標測角手段は、着目する受信信号に対しその前後の受信信号を含む所定数の振幅値の平均値を算出し、着目する受信信号の振幅値から減算する平均値減算器(例えば、図1の9)と、平均値を減算後の各角度の振幅値の中の最小の振幅値の受信信号を検出する最小値検出器(例えば、図1の10)と、を有し、又は前記測角出力手段は、角度毎の受信信号から所定の閾値との比較により目標信号の存在する角度範囲を特定する目標範囲検出器(例えば、図2の15)と、前記角度範囲で最も小さい振幅値の受信信号を検出する最小値検出器(例えば、図2の10)と、を有することを特徴とし、更に、前記測角出力手段は、前記最小値検出器の出力の振幅値が特定の閾値以下の場合に前記測角値を出力する比較器(例えば、図1、2の11)を有することを特徴とする。
【0014】
また、前記メモリに保持されている受信信号から同時並列に角度方向に並べた複数の探知用受信ビームパターンを形成し、前記各探知用ビームパターンに対応する角度毎に受信信号を出力する探知用マルチビーム形成手段(例えば、図1の4)と、前記角度毎に出力された受信信号のうち大きい振幅値を有する受信信号を目標信号として検出し、目標信号を検出した探知用受信ビームパターンの角度に基づいて前記測角用マルチビーム形成手段が形成する複数の測角用受信ビームパターンの角度範囲を決定する目標探知手段(例えば、図1の5、6)と、を有することを特徴とする。
【0015】
更に、前記目標測角手段の測角値の出力時に、目標信号を推定した推定目標信号を出力する目標信号推定手段(例えば、図1の12、13)と、前記メモリに保持されている受信信号から前記推定目標信号を減算し、検出した目標の信号成分を除去する減算器(例えば、図1の14)と、を有することを特徴とし、前記目標信号推定手段は、目標信号を検出した場合に、その角度に探知用受信ビームパターンを形成するビーム形成器(例えば、図1の12)と、前記ビーム形成器の出力の振幅値から目標信号の信号成分として推定目標信号を発生させる推定目標信号発生器(例えば、図1の13)と、を有し、また、前記推定目標信号を減算後にメモリに保持された受信信号に対し、前記測角用マルチビーム形成手段による前記測角用受信ビームパターンの形成と前記目標測角手段による前記測角を繰り返すことを特性とする。
【0016】
より具体的には、本発明のレーダ装置は、ディジタルビームフォーミングを行うレーダ装置であって、各素子毎に位相と振幅を制御し、送受信を行い、受信信号をA/D変換してディジタル受信信号として出力する空中線素子と、各空中線素子に対して所望のビームパターンを形成するための制御信号を発生し出力するビーム制御器と、各空中線素子から出力されるディジタル受信信号及び各処理後の受信信号を保持するメモリと、メモリに保持されている受信信号から同時並列に角度方向に並べた複数の探知用受信ビームパターンを形成し各ビームに対応した角度毎に受信信号を出力するマルチビーム形成器(1)と、探知用受信ビームパターンの受信信号に対して、S/N改善やクラッタ抑圧のためにパルス圧縮や積分などの信号処理を行い各角度の振幅値を出力する信号処理器と、信号処理後の受信信号に対して、振幅値とスレッシュホールドTH1を比較してTH1より大きい振幅値を有する受信信号を目標信号として検出するTH比較器(1)と、メモリに保持されている受信信号から同時並列に角度方向に並べた複数の測角用受信ビームパターンを密に形成し、各ビームに対応した角度毎に受信信号を出力するマルチビーム形成器(2)と、測角用受信ビームパターンの受信信号に対して、S/N改善やクラッタ抑圧のためにパルス圧縮や積分などの信号処理を行い各角度の振幅値を出力する信号処理器と、角度毎に着目する角度の前後の予め定めたサンプル数の角度の振幅値の平均値を算出し、着目する角度の振幅値から減算する平均値減算器と、平均値減算後の各角度の振幅値の中の最小の振幅値を検出する最小値検出器と、検出された振幅値と予め定めたスレッシュホールドTH2とを比較して、TH2よりも小さい場合に目標信号と判定し、そのビームの角度を測角値として出力するTH比較器(2)と、目標が存在すると判定された角度に、探知用受信ビームパターンを形成するビーム形成器と、ビーム形成器の出力振幅値から検出した目標のビーム形成と信号処理前の信号成分として推定受信信号を発生させる推定目標信号発生器と、メモリに保持されている受信信号から推定受信信号を減算することにより検出した目標の信号成分を除去する減算器と、を有することを特徴とする(図1)。
【0017】
本発明の測角方法は、ディジタルビームフォーミングを行うレーダ装置の測角方法において、メモリに複数の空中線素子の受信信号を保持するステップと、前記メモリに保持されている受信信号から同時並列に角度方向に並べた測角用の幅の狭いナル点を有する複数の測角用受信ビームパターンを形成し、前記測角用受信ビームパターンの角度毎に受信信号を出力するステップと、大きな振幅値を含む連続する角度毎の受信信号の中から最も小さい振幅値を検出し、当該振幅値の受信信号を出力する測角用受信ビームパターンの角度を測角値として出力するステップと、を含み、前記測角値を出力するステップは、着目する受信信号に対しその前後の受信信号を含む所定数の振幅値の平均値を算出し、着目する受信信号の振幅値から減算するステップと、平均値を減算後の各角度の振幅値の中の最小の振幅値の受信信号を検出するステップと、を含み、又は、角度毎の受信信号から所定の閾値との比較により目標信号の存在する角度範囲を特定するステップと、前記角度範囲で最も小さい振幅値の受信信号を検出するステップと、を含むことを特徴とする。また、前記最も小さい振幅値の受信信号を検出するステップは、前記最も小さい振幅値の受信信号の振幅値が特定の閾値以下の場合に前記測角値を出力するステップを含むことを特徴とする。
【0018】
更に、前記メモリに保持されている受信信号から同時並列に角度方向に並べた複数の探知用受信ビームパターンを形成し、前記各探知用ビームパターンに対応する角度毎に受信信号を出力するステップと、前記角度毎に出力された受信信号のうち大きい振幅値を有する受信信号を目標信号として検出し、目標信号を検出した探知用受信ビームパターンの角度に基づいて前記複数の測角用受信ビームパターンの角度範囲を決定するステップと、を含み、前記測角値の出力時に、目標信号を推定した推定目標信号を出力するステップと、前記メモリに保持されている受信信号から前記推定目標信号を減算し、検出した目標の信号成分を除去するステップと、を含むことを特徴とする。
【0019】
また、前記推定目標信号を出力するステップは、目標信号を検出した場合に、その角度に探知用受信ビームパターンを形成するステップと、当該探知用受信ビームパターンの出力の振幅値から目標信号の信号成分として推定目標信号を発生させるステップと、を含み、また、前記推定目標信号を減算後にメモリに保持された受信信号に対し、前記測角用受信ビームパターンの形成による前記測角の処理を繰り返すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、ディジタルビームフォーミングによりナル点付近で急峻に変化して幅が狭くなるようにした複数の測角用受信ビームパターンを角度方向に同時並列に形成して、振幅値が低下するナル点で角度を計測するように構成したことにより高い測角精度で目標信号を検出することが可能である。
【0021】
また、検出した目標信号に基づきビーム形成前の信号成分を推定受信信号として逆算により発生させてメモリに保存された受信信号から減算することを繰り返すように構成したことにより、複数の目標信号の1つ1つを確実に検出することが可能である。
【0022】
また、最初に複数の探知用受信ビームパターンを形成し目標信号の存在する角度方向を検出した後に、当該角度方向に複数の測角用受信ビームパターンを密に形成するように構成したことにより、目標信号の存在する角度方向にでのみ測角用受信ビームパターンによる測角処理を行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明の一実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
[構成の説明]
図1は本発明によるレーダ装置の実施の形態の構成を示す図である。図1に示すレーダ装置は、空中線素子1−1〜L、ビーム制御器2、メモリ3、マルチビーム形成器(1)4、信号処理器5、TH比較器(1)6、マルチビーム形成器(2)7、信号処理器8、平均値減算器9、最小値検出器10、TH比較器(2)11、ビーム形成器12、推定目標信号発生器13、減算器14を備えている。
【0024】
[動作の説明]
図2は本実施の形態の各部の特性を示す図である。図1、2を参照して本実施の形態の動作例を説明する。
ビーム制御器2は各空中線素子1−1〜Lに対して、所望のビームパターンを形成するための制御信号を発生し出力する。
【0025】
各空中線素子1−1〜Lは各素子毎に制御信号に基づいて位相と振幅を制御し、パルス変調波の送受信を行い、受信信号をA/D変換してディジタル受信信号としてメモリ3へ出力する。
【0026】
メモリ3は各空中線素子1−1〜Lから出力されるディジタル受信信号を保持するとともに、マルチビーム形成器(1)4とマルチビーム形成器(2)7へ受信信号を出力する。また、後述するように目標信号が検出された場合は、保持されている受信信号を減算器14へ出力する。また、出力した受信信号から推定目標信号を減算した後の受信信号を減算器14から入力し保持する。
【0027】
マルチビーム形成器(1)4は、メモリ3に保持されている受信信号に対し図2(a)に示すように同時並列に角度方向に順次並べた複数の探知用受信ビームパターンA1〜AMを形成し、各探知用受信ビームパターンに対応した角度毎の受信信号を信号処理器5へ出力する。
【0028】
信号処理器5は、探知用受信ビームパターンの各受信信号に対して、S/N改善やクラッタ抑圧のためパルス圧縮や積分などの信号処理を行う。
【0029】
TH比較器(1)6は、信号処理器5からの信号処理後の受信信号に対して、その振幅値と所定の閾値(スレッシュホールド)TH1とを比較してTH1より大きい振幅値を有する受信信号を目標信号として検出し、目標信号が検出された探知用受信ビームパターンのビームの角度(値)をマルチビーム形成器(2)7へ出力する。
【0030】
マルチビーム形成器(2)7は、TH比較器(1)6より入力した角度を含む予め定めた幅の角度範囲に対して、図2(b)に示すようにメモリ3に保持されている受信信号から同時並列に角度方向に測角の角度毎の複数の測角用受信ビームパターンを密に形成し、角度毎(測角用受信ビームパターン毎)に受信信号を出力する。
【0031】
信号処理器8は、測角用受信ビームパターンの各受信信号に対して、S/N改善やクラッタ抑圧のためパルス圧縮や積分などの信号処理を行う。
【0032】
平均値減算器9は、角度毎に着目する角度の前後を含めた予め定めた数(サンプル数)の測角用受信ビームパターンによる受信信号の振幅値の平均値を算出し、着目する角度の振幅値から減算する。受信信号の振幅値の平均値は図2(d)に示すようになり、着目する角度の振幅値からの減算結果は図2(e)に示すように測角用受信ビームパターンのヌル点で最小の振幅値を示す。
【0033】
最小値検出器10は、平均値を減算後の各角度の振幅値の中の最小の振幅値の受信信号を検出し、その振幅値をTH比較器11へ出力する。
【0034】
TH比較器(2)11は、検出された振幅値と予め定めたスレッシュホールドTH2とを比較して、TH2よりも小さい場合に目標信号と判定し、そのビームの角度(測角用受信ビームパターンのヌル点の角度)を測角値(目標角度)として出力する。
【0035】
ビーム形成器12は、メモリ3に保持されている受信信号から目標信号が判定されたビームの角度(目標角度)に対し、図2(a)に示す探知用受信ビームパターンと同様のビーム幅でそのピークが前記ビームの角度に一致する図2(f)に示す探知用受信ビームパターンを形成(ビーム形成)する。
【0036】
推定目標信号発生器13は、ビーム形成器12の出力の振幅値から、検出した目標のビーム形成前および信号処理前の信号成分として推定受信信号を計算して発生し、減算器14へ出力する。
【0037】
ここで、前記ビーム形成器12のビーム形成の式を、
A=W・X
W=[W1,W2,・・・,WL] :各空中線素子に制御信号として与えられるウェイト
X=[X1,X2,・・・,XL] :各空中線素子の受信信号の振幅値(は転置を表す)
とすると、
推定目標信号発生器13の推定目標信号の計算式は次式となる。
X=K・A・Wは共役転置を表す)
K:信号処理の利得を補正する係数
【0038】
減算器14は、メモリ3に保持されている受信信号から推定受信信号を減算することにより検出した目標の信号成分を除去する。
【0039】
メモリ3に保持されている受信信号に複数の目標信号が含まれている場合、前記目標の信号成分が除去された後、マルチビーム形成器(2)7の測角用受信ビームパターンによる受信信号から、例えば、次に大きい振幅値を含む連続する角度毎の受信信号について、本発明の目標測角手段を構成する信号処理器8、平均値減算器9、最小値検出器10及びTH比較器(2)11により前記角度(値)を出力するように上述と同様の処理を行う。また、他の処理方法として、所定値以上等、大きい振幅値を含む連続する角度毎の受信信号について、角度方向に順次選択して前記角度(値)を出力する。これらの選択処理は、信号処理器8、平均値減算器9、最小値検出器10及びTH比較器(2)11の何れかに又はその段間に選択回路を設けることにより実施可能である。具体的には、TH比較器(2)11のスレッシュホールド値TH2(図2(e))を順次上げる。平均値減算器9で出力される平均値に対する同様な閾値判定をする。平均値減算器9の複数の最小の振幅値や、複数の平均値の相互比較を行う等により実現可能である。
【0040】
また、探知用受信ビームパターンによる目標信号の探知において、複数の異なる探知用受信ビームパターンで目標信号が検出される場合も同様であり、本発明の目標探知手段を構成する信号処理器5、TH比較器(1)6において最も大きい振幅の受信信号が検出される探知用受信ビームパターンの順に角度(値)を出力するか、所定値以上等、大きい振幅値の受信信号を角度方向に順次選択して角度を出力する。この場合も例えばTH比較器(1)6のスレッシュホールド値TH1を可変する等により実現可能である。
【0041】
以上の処理を1回のビーム走査毎に、目標が探知されなくなるまで繰り返し行うことにより、多数の空中線素子に対する位相、振幅の精密な制御が可能なディジタルビームフォーミングによりアンテナパターン(測角用受信ビームパターン)の極めて狭いナル点を利用した高精度の測角精度を実現すると同時に、2つ以上の目標が接近して存在する場合においても、順次測角精度が低下することなく高い角度分解能によりそれぞれを検出することが可能である。
【0042】
次に、本発明の以上説明したレーダ装置の測角方法の全体的な処理手順を以下説明する。
図3は本発明の測角方法の処理フローを示す図である。
まず、複数の空中線素子を介してパルス変調波を送受信し(s1)、メモリ3に保持する(s2)。次にメモリに保持された受信信号から同時並列に角度方向に並べた複数の探知用受信ビームパターンを形成し、前記各探知用受信ビームパターンに対応する角度毎に受信信号を出力する(s3)。前記角度毎に出力された受信信号のうち大きい振幅値を有する受信信号を検出すると(s4)、これを目標信号として検出した探知用受信ビームパターンの角度に基づく角度範囲に測角用の幅の狭いナル点を有する複数の測角用受信ビームパターンを密に形成する(s5)。
【0043】
次に、複数の測角用受信ビームパターンによる受信信号から大きな振幅値を含む連続する角度毎の受信信号を検出すると(s6)、その中から、ある受信信号に対しその前後の受信信号を含む所定数の振幅値の平均値を算出し、着目する受信信号の振幅値から減算し、平均値を減算後の各角度の振幅値の中の最小の振幅値の受信信号を検出し、当該振幅値の受信信号を出力する測角用受信ビームパターンの角度を目標の測角値として出力する(s7)。
【0044】
そして前記測角値の出力時に、目標信号を検出した角度に探知用受信ビームパターンを形成し(s8)、その受信信号により目標信号を推定した推定目標信号を発生し(s9)、前記メモリに保持されている受信信号から前記推定目標信号を減算し(s10)、次の目標信号を検出するステップs6に移行する。
【0045】
また、以上の処理動作において、ステップs6で大きな振幅値の受信信号が検出されなくなると、探知用受信ビームパターンによる受信信号の検出のステップs4に移行し、同ステップs4でも大きな振幅値の受信信号が検出されなくなると、パルス変調波の送受信のステップs1に移行する。
【0046】
以上の実施の形態においては、探知用受信ビームパターンを形成するマルチビーム形成器4を用いることにより目標信号の存在する角度範囲を予め特定する構成例を説明したが、本発明はかかる構成に限られるものではなく、図1のマルチビーム形成器4、信号処理器5及びTH比較器6を省略した構成とすることが可能である。これは平均値減算器9で算出される平均値は上述のように目標の存在する角度の前後の測角用受信ビームパターンによる計算結果において大きい振幅値として現れ、これにより目標信号の存在範囲がより狭い角度範囲で特定可能であるからである。また、上述の平均値減算器の使用はこれに限られるものではなく、所定の閾値が設定された比較器等の使用により実現可能であり目標の角度範囲の特定も可能である。
【0047】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の本実施の形態として、図1に示す実施の形態においてマルチビーム形成器(1)4、信号処理器5、TH比較器(1)6を省略するとともに、平均値減算器9の代わりに比較器を使用する目標範囲検出器15を加えた簡略化した構成例を説明する。
【0048】
図4は第2の実施の形態の構成を示す図である。図4における目標範囲検出器15以外の構成の動作は、図1の各構成及び動作と同様であるから、第2の実施の形態の構成、動作について目標範囲検出器15以下の処理動作について説明する。
【0049】
目標範囲検出器15は各測角用受信ビームパターンの出力とスレッシュホールドTH5を比較して目標が存在する範囲の角度を検出する。具体的にはTH5以上(特定の閾値以上)の振幅値が連続して複数検出される角度範囲を検出し、最小値検出器10はその角度範囲の中で最小値の振幅の受信信号を検出してTH比較器(2)11へ出力する。TH比較器(2)11は前記最小値の振幅の受信信号をスレッシュホールドTH2と比較してTH2以下であればその受信信号の測角用受信ビームパターンの角度を目標の角度と判定し、測角値として出力する。
【0050】
本実施の形態は、測角用受信ビームパターンで探知処理も行うことにより構成が簡略化されるものであり、探知対象とする目標のS/Nが十分大であり、探知用受信ビームパターンよりも利得が低い測角用受信ビームパターンでも探知可能な条件で有効である。
【0051】
第2の実施の形態においても、測角値の出力後に目標信号推定手段を構成するビーム形成器12により探知用受信ビームパターンを形成し、その受信信号の振幅値により推定目標信号発生器13で推定目標信号を発生し、メモリ3に保持された受信信号から減算し、減算後の受信信号をメモリ3に保持し、新たな受信信号に対し測角用受信ビームパターンの形成による測角処理の動作を繰り返すとい点は前述の実施の形態と同様である。
【0052】
第2の実施の形態の測角方法のフローは、図3においてステップs3、s4を省略し、ステップs7をスレッシュホールド値による処理に変更したものであることは明らかであり、前述の測角方法で探知用受信ビームパターンにより予め測角の角度範囲を特定する処理を省略したものと同様である。
【0053】
以上の実施の形態では、目標測角手段の構成に比較器(2)を設けて受信信号の振幅値を所定の閾値との比較し、前記振幅値が該閾値より小さい場合により当該受信信号を出力する測角用受信ビームパターンの角度を測角値として出力する例を示したが、測角値は最小検出器10の検出結果により直接出力するように構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態の構成を示す図である。
【図2】本実施の形態の各部の特性を示す図である。
【図3】本発明の測角方法の処理フローを示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態の構成を示す図である。
【図5】振幅比較測角方式とモノパルス測角方式の原理を示す図である。
【図6】振幅比較測角方式を採用した従来技術のレーダ装置の構成例を示す図である。
【図7】モノパルス測角方式を採用した従来技術のレーダ装置の構成例を示す図である。
【図8】Δパターンのナル点を検出する方式の従来技術のレーダ装置の構成例を示す図である。
【図9】図8に示す従来技術の動作を説明するための図である。
【符号の説明】
【0055】
1−1〜L 空中線素子
2 ビーム制御器
3 メモリ
4 マルチビーム形成器(1)
5 信号処理器
6 TH比較器(1)
7 マルチビーム形成器(2)
8 信号処理器
9 平均値減算器
10 最小値検出器
11 TH比較器(2)
12 ビーム形成器
13 推定目標信号発生器
14 減算器
15 目標範囲検出器
16 ♯1ビーム形成器
17 ♯2ビーム形成器
18 振幅比較測角処理器
19 Σビーム形成器
20 Δビーム形成器
21 モノパルス測角処理器
22 ハイブリッド
23 送信器
24 デュプレクサ
25、26 ミクサ
27、28 振幅検波器
29 TH比較器(3)
30 TH比較器(4)
31 インバータ
32 アンドゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディジタルビームフォーミングを行うレーダ装置において、
複数の空中線素子の受信信号を保持するメモリと、
前記メモリに保持されている受信信号から同時並列に角度方向に並べた測角用の幅の狭いナル点を有する複数の測角用受信ビームパターンを形成し、前記測角用受信ビームパターンの角度毎に受信信号を出力する測角用マルチビーム形成手段と、
大きな振幅値を含む連続する角度毎の受信信号の中から最も小さい振幅値を検出し、当該振幅値の受信信号を出力する測角用受信ビームパターンの角度を測角値として出力する目標測角手段と、
を有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記目標測角手段は、着目する受信信号に対しその前後の受信信号を含む所定数の振幅値の平均値を算出し、着目する受信信号の振幅値から減算する平均値減算器と、平均値を減算後の各角度の振幅値の中の最小の振幅値の受信信号を検出する最小値検出器と、を有することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記測角出力手段は、角度毎の受信信号から所定の閾値との比較により目標信号の存在する角度範囲を特定する目標範囲検出器と、前記角度範囲で最も小さい振幅値の受信信号を検出する最小値検出器と、を有することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記測角出力手段は、前記最小値検出器の出力の振幅値が特定の閾値以下の場合に前記測角値を出力する比較器を有することを特徴とする請求項2又は3記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記メモリに保持されている受信信号から同時並列に角度方向に並べた複数の探知用受信ビームパターンを形成し、前記各探知用ビームパターンに対応する角度毎に受信信号を出力する探知用マルチビーム形成手段と、
前記角度毎に出力された受信信号のうち大きい振幅値を有する受信信号を目標信号として検出し、目標信号を検出した探知用受信ビームパターンの角度に基づいて前記測角用マルチビーム形成手段が形成する複数の測角用受信ビームパターンの角度範囲を決定する目標探知手段と、
を有することを特徴とする請求項1ないし4の何れかの請求項記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記目標測角手段の測角値の出力時に、目標信号を推定した推定目標信号を出力する目標信号推定手段と、前記メモリに保持されている受信信号から前記推定目標信号を減算し、検出した目標の信号成分を除去する減算器と、を有することを特徴とする請求項1ないし5の何れかの請求項記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記目標信号推定手段は、目標信号を検出した場合に、その角度に探知用受信ビームパターンを形成するビーム形成器と、
前記ビーム形成器の出力の振幅値から目標信号の信号成分として推定目標信号を発生させる推定目標信号発生器と、
を有することを特徴とする請求項6記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記ビーム形成器のビーム形成の式は、
A=W・X
W=[W1,W2,・・・,WL] :各空中線素子に制御信号として与えられるウェイト
X=[X1,X2,・・・,XL] :各空中線素子の受信信号の振幅値(は転置を表す)
とし、
前記推定目標信号発生器は、
X=K・A・Wは共役転置を表す)
K:信号処理の利得を補正する係数
の計算式により前記推定目標信号を算出することを特徴とする請求項7記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記推定目標信号を減算後にメモリに保持された受信信号に対し、前記測角用マルチビーム形成手段による前記測角用受信ビームパターンの形成と前記目標測角手段による前記測角を繰り返すことを特徴とする請求項1ないし8の何れかの請求項記載のレーダ装置
【請求項10】
ディジタルビームフォーミングを行うレーダ装置の測角方法において、
メモリに複数の空中線素子の受信信号を保持するステップと、
前記メモリに保持されている受信信号から同時並列に角度方向に並べた測角用の幅の狭いナル点を有する複数の測角用受信ビームパターンを形成し、前記測角用受信ビームパターンの角度毎に受信信号を出力するステップと、
大きな振幅値を含む連続する角度毎の受信信号の中から最も小さい振幅値を検出し、当該振幅値の受信信号を出力する測角用受信ビームパターンの角度を測角値として出力するステップと、
を含むことを特徴とする測角方法。
【請求項11】
前記測角値を出力するステップは、
着目する受信信号に対しその前後の受信信号を含む所定数の振幅値の平均値を算出し、着目する受信信号の振幅値から減算するステップと、
平均値を減算後の各角度の振幅値の中の最小の振幅値の受信信号を検出するステップと、
を含むことを特徴とする請求項10記載の測角方法。
【請求項12】
前記測角値を出力するステップは、
角度毎の受信信号から所定の閾値との比較により目標信号の存在する角度範囲を特定するステップと、
前記角度範囲で最も小さい振幅値の受信信号を検出するステップと、
を含むことを特徴とする請求項11記載の測角方法。
【請求項13】
前記最も小さい振幅値の受信信号を検出するステップは、
前記最も小さい振幅値の受信信号の振幅値が特定の閾値以下の場合に前記測角値を出力するステップ
を含むことを特徴とする請求項11又は12記載の測角方法。
【請求項14】
前記メモリに保持されている受信信号から同時並列に角度方向に並べた複数の探知用受信ビームパターンを形成し、前記各探知用ビームパターンに対応する角度毎に受信信号を出力するステップと、
前記角度毎に出力された受信信号のうち大きい振幅値を有する受信信号を目標信号として検出し、目標信号を検出した探知用受信ビームパターンの角度に基づいて前記複数の測角用受信ビームパターンの角度範囲を決定するステップと、
を含むことを特徴とする請求項10ないし13の何れかの請求項記載の測角方法。
【請求項15】
前記測角値の出力時に、目標信号を推定した推定目標信号を出力するステップと、前記メモリに保持されている受信信号から前記推定目標信号を減算し、検出した目標の信号成分を除去するステップと、を含むことを特徴とする請求項10ないし14の何れかの請求項記載の測角方法。
【請求項16】
前記推定目標信号を出力するステップは、
目標信号を検出した場合に、その角度に探知用受信ビームパターンを形成するステップと、
当該探知用受信ビームパターンの出力の振幅値から目標信号の信号成分として推定目標信号を発生させるステップと、
を含むことを特徴とする請求項15記載の測角方法。
【請求項17】
当該探知用受信ビームパターンのビーム形成の式は、
A=W・X
W=[W1,W2,・・・,WL] :各空中線素子に制御信号として与えられるウェイト
X=[X1,X2,・・・,XL] :各空中線素子の受信信号の振幅値(は転置を表す)
とし、
推定目標信号を発生させる計算式は、
X=K・A・Wは共役転置を表す)
K:信号処理の利得を補正する係数
であることを特徴とする請求項16記載の測角方法。
【請求項18】
前記推定目標信号を減算後にメモリに保持された受信信号に対し、前記測角用受信ビームパターンの形成による前記測角の処理を繰り返すことを特徴とする請求項10ないし17の何れかの請求項記載の測角方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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