説明

レーダ装置

【課題】 物標の方位を検出可能で且つ構成が簡易で小型化の可能なレーダ装置を提供する。
【解決手段】 受信器14,16は、受信アンテナ14a,16aからの受信信号を、送信信号と混合してビート信号B1,B2を発生させるミキサ14a,16aを備え、信号処理部20は、各受信器14,16からのビート信号B1,B2をフーリエ変換することにより、ビート信号B1,B2の位相を個々に求め、その位相差から方位を求めるように構成されている。つまり、従来のモノパルス方式のレーダ装置とは異なり、一対の受信アンテナからの各受信信号を混合してなる高周波の和信号,及び差信号を発生させることなく、方位を検出するようにされている。従って、受信器14,16において小型化の困難な高周波回路部分を必要最小限の構成とすることができ、当該レーダ装置2を小型化できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、移動体の衝突防止等に使用され、レーダ波の送受信により、移動体の外部に存在する物標の方位を検出するレーダ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、この種のレーダ装置として、モノパルス方式のレーダ装置が知られている。このモノパルス方式のレーダ装置では、例えば、特開昭57−154077号公報に開示されているように、当該レーダ装置から送信され、物標により反射されたレーダを、近接配置された一対の受信アンテナにて受信し、各受信アンテナからの受信信号をマジックT等の高周波回路部品を用いて混合することにより、高周波の和信号,及び差信号を発生させ、この和信号,差信号から両アンテナからの受信信号の振幅差や位相差を検出し、その振幅差あるいは位相差から方位を求めるようにされている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、この装置では、受信信号を高周波のまま処理して、その和信号,差信号を発生させなければならないため、小型化の困難な高周波回路部品を用いて装置を構成しなければならず、従って、回路構成が複雑になるだけでなく、装置を小型化できないという問題があった。
【0004】本発明は、上記問題点を解決するために、物標の方位を検出可能で且つ構成が簡易で小型化の可能なレーダ装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するためになされた本発明である、請求項1に記載のレーダ装置においては、送信手段がレーダ波を連続波として送信すると、受信手段では、物標に反射したレーダ波を少なくとも2つのアンテナにて受信し、混合手段が、アンテナからの受信信号に送信信号を混合してビート信号を発生する。
【0006】そして、信号処理手段では、まず、解析手段が、このビート信号をフーリエ変換することにより、ビート信号の周波数スペクトルを求める。すると、ピーク検出手段が、解析手段の解析結果から周波数スペクトルのピークを検出し、その周波数を特定すると共に、検出値特定手段が、同様に解析手段の解析結果から、ピークとなる周波数成分の位相あるいは振幅の少なくとも一方を比較値として特定し、方位算出手段が、各ビート信号毎に特定された検出値の差に基づき物標の方位を算出する。
【0007】ところで、受信信号の位相差および振幅差に基づき、物標の方位は次のようにして算出される。即ち、図23に示すように、方位θにある物標Mに反射した波長λのレーダ波が、間隔Dにて配設された2つのアンテナA1,A2にて同時に受信される場合を考えると、各アンテナA1,A2にて受信されるレーダ波の経路長の差d、及びこの経路長の差dに基づく位相差△φは、次の(1)(2)式にて表される。
【0008】
d=Dsinθ≒Dθ ・・・(1)
△φ=2π(d/λ) ・・・(2)
但し、角度θは十分に小さいものとする。この関係に基づき(3)式が導かれ、その結果、位相差△φから物標の方位θが算出できるのである。
【0009】
θ≒△φ・λ/(2π・D) ・・・(3)
また、各アンテナA1,A2の受信レベル、即ち受信信号の振幅は異なるため、振幅差からも方位を求めることができるのである。このように、本発明では、異なる受信手段からの各受信信号を、混合してなる高周波の和信号及び差信号を生成することなく、物標の方位を検出するようにされている。
【0010】従って、本発明のレーダ装置によれば、受信信号は、高周波のまま処理されることなく、直ちに送信信号と混合されて中間周波のビート信号に変換されるため、従来のモノパルス方式のレーダ装置に比べて、高周波回路を削減することができ、装置構成を簡易なものとすることができると共に、装置の小型化、低廉価を図ることができる。
【0011】なお、本発明のレーダ装置は、連続波を送受信し、その送信信号と受信信号とを混合してなるビート信号を発生させ、このビート信号を用いて物標の検出を行っており、即ち、周知のCWレーダ装置の送受信系の構成を含んだものとなっている。
【0012】従って、本発明のレーダ装置によれば、物標の方位を検出できるだけでなく、CWレーダ装置における周知の方法を用いることにより、容易に物標との相対速度や距離を求めることができる。次に、請求項2に記載のレーダ装置においては、送信手段が、複数の周波数成分を含んだ送信信号を発生し、受信手段が、ビート信号を上記送信信号の周波数成分毎に分離する分離手段を備えており、解析手段,ピーク検出手段,検出値特定手段は、ビート信号毎、且つ送信信号の周波数成分毎に検出値を特定し、方位算出手段は、送信信号の同一周波数成分についてビート信号毎に特定される検出値の差に基づき、物標の方位を算出するようにされている。
【0013】つまり、本発明のレーダ装置は、複数の周波数成分を含んだ連続波を送受信し、その送信信号と受信信号とを混合してなるビート信号を発生させ、このビート信号を用いて物標の検出を行っており、即ち、周知の多周波CWレーダ装置の送受信系の構成を含んだものとなっている。
【0014】従って、本発明のレーダ装置によれば、物標の方位を検出できるだけでなく、多周波CWレーダ装置における周知の方法を用いることにより、容易に物標との相対速度や距離を求めることができる。また次に、請求項3に記載のレーダ装置においては、送信手段が、上昇部及び下降部からなる三角波状の変調信号により周波数変調された送信信号を発生し、受信手段は、ビート信号を送信信号の上昇部及び下降部毎に分離する分離手段を備えており、解析手段,ピーク検出手段,検出値特定手段は、ビート信号毎、且つ送信信号の上昇部及び下降部毎に検出値を特定し、方位算出手段は、送信信号の上昇部或は下降部のいずれか一方についてビート信号毎に特定される検出値の差に基づき、物標の方位を算出するようにされている。
【0015】つまり、本発明のレーダ装置は、連続的に周波数変調された連続波を送受信し、その送信信号と受信信号とを混合してなるビート信号を発生させ、このビート信号を用いて物標の検出を行っており、即ち周知のFMCWレーダ装置の送受信系の構成を含んだものとなっている。
【0016】従って、本発明のレーダ装置によれば、物標の方位を検出できるだけでなく、FMCWレーダ装置における周知の方法を用いることにより、容易に物標との相対速度や距離を求めることができる。また、本発明のレーダ装置によれば、送信手段から送信される連続波は、連続的に周波数変調されているため、物標との相対速度がどのような状態にあっても、物標の方位を確実に検出できる。
【0017】即ち、CWレーダ装置、多周波CWレーダ装置等のように、送信手段から一定周波数の連続波が送信される場合、物標との相対速度がゼロの時には、反射波、即ち受信信号がドップラシフトを受けないため、送信信号と受信信号の周波数が一致し、その結果、ビート信号が発生しないため、物標の検出が不能となるのであるが、本発明によれば、送信される連続波は、連続的に周波数変調されているため、物標との相対速度がゼロの時であっても、送信信号より受信信号が遅延することにより、送信信号と受信信号との間に周波数差が生じて、確実にビート信号が発生するため、物標の方位を確実に検出できるのである。
【0018】次に、請求項4に記載のレーダ装置においては、送信手段によって送信され物標に反射して戻ってきたレーダ波を、一列に並んだ少なくとも3つのアンテナにて受信すると、混合手段が、これらアンテナからの受信信号毎にビート信号を生成する。そして、ビート信号選択手段は、混合手段が生成するビート信号の中から、任意の隣接する2つのアンテナからの受信信号に基づく一対のビート信号を選択し、その選択されたビート信号を信号処理手段に供給する。
【0019】従って、本発明のレーダ装置によれば、各アンテナの受信ビームの重なり合う範囲に物標がある場合にその方位検出が可能であるため、各隣接する2つのアンテナの受信ビームの重なり合う範囲が互いに異なるようにアンテナを配置することにより、広い範囲に渡って方位検出を行うことができる。
【0020】しかも、本発明によれば、アンテナ数が増加しても、信号処理手段には、常に一対のビート信号しか供給されないので、信号処理手段の構成を簡易化することができる。また、受信手段に、ビート信号の帯域制限や増幅を行う回路を設ける場合、アンテナの数によらず、2つだけ設ければよいため、受信手段を小型化でき、延いては当該レーダ装置を小型化できる。
【0021】次に、請求項5に記載のレーダ装置においては、送信手段によって送信され物標に反射して戻ってきたレーダ波を、一列に並んだ少なくとも3つのアンテナにて受信すると、受信信号選択手段が、これらアンテナからの受信信号の中から、任意の隣接する2つのアンテナから得られる一対の受信信号を選択して出力する。そして、混合手段は、受信信号選択手段から出力される一対の受信信号について、夫々ビート信号を生成し、そのビート信号を信号処理手段に供給する。
【0022】従って、本発明のレーダ装置によれば、請求項4に記載のレーダ装置と同様に広い範囲に渡って方位検出を行うことができ、しかも信号処理手段の構成を簡易化することができる。更に、本発明のレーダ装置によれば、受信手段では、アンテナの数によらず、2つの受信信号についてのみビート信号を生成すればよいため、高周波回路部品にて構成される混合手段の部品点数を削減でき、受信手段(延いては当該レーダ装置)をより小型化できる。
【0023】次に、請求項6に記載のレーダ装置においては、混合手段が、信号多重化手段,ミキサ,信号分離手段,信号再生手段からなり、混合手段に入力される複数の受信信号は、信号多重化手段にて時分割で多重化され、この多重化された受信信号は、ミキサにて送信信号と混合された後、信号多重化手段と同期して動作する信号分離手段にて再度分離される。そして、信号分離手段により分離された断続的な波形を有する信号は、信号再生手段により、連続的な波形のビート信号に再生される。即ち、複数の受信信号がミキサを共用してビート信号を生成するようにされている。
【0024】従って、本発明のレーダ装置によれば、受信手段を、信号処理手段に供給すべきビート信号より少ない数のミキサで構成することができ、当該レーダ装置をより簡易かつ小型に構成できる。ところで、信号処理手段において、ビート信号に対してフーリエ変換等の解析処理を施すには、ビート信号をサンプリングしてA/D変換する必要があり、A/D変換時に、測定範囲外(サンプリング周波数の1/2以上)の高周波の信号成分が解析すべき信号成分を乱すことのないように、ビート信号の周波数帯域を制限する必要がある。このため、通常、受信手段にビート信号の周波数帯域を制限する帯域制限手段が設けられる。
【0025】しかし、このような帯域制限手段は、ビート信号の位相を変化させてしまい、しかも、ビート信号に対応した各帯域制限手段毎に位相の変化の仕方がばらつくため、ビート信号間の位相差を算出した場合に、オフセットが生じることになる。
【0026】そこで請求項7に記載のレーダ装置においては、ビート信号に対応して設けられた帯域制限手段毎に、その帯域制限手段に対応するビート信号或は所定の基準信号のいずれかを供給する信号切換手段が設けられ、この信号切換手段により帯域制限手段に基準信号が供給されている時に、校正値記憶手段が、信号処理手段にて求められる検出値を校正値として記憶する。即ち、どの帯域制限手段にも、同じ基準信号が入力されるので、その出力から帯域制限手段間の位相のばらつきが検出される。その後、帯域制限手段にビート信号が供給される通常の動作時には、方位算出手段が、ビート信号毎に特定される検出値を、校正値記憶手段が記憶する校正値により校正し、この校正された検出値を用いて物標の方位を算出するようにされている。
【0027】従って、本発明のレーダ装置によれば、帯域制限手段によって生じる位相差のオフセットを校正値によって相殺させることにより、位相差を正確に検出することができるので、物標の方位を正確に求めることができる。なお、校正値を検出するために用いられる基準信号として、例えば、請求項8に記載のように、混合手段が出力するビート信号のいずれか一つを用いてもよい。この場合、簡単な構成で、位相差の校正値を検出することができる。
【0028】また、請求項9に記載のように、ビート信号とほぼ等しい周波数成分を有する信号を生成する信号生成手段を設け、この信号生成手段が生成する信号を基準信号として用いてもよい。この場合、任意の周波数成分を含んだ基準信号を生成できるため、ビート信号が受信され得る全ての周波数範囲に渡って精密な校正値が得られ、信頼性の高い方位検出結果を得ることができる。
【0029】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施例を図面と共に説明する。図1は、本発明が適用された実施例の障害物検出用レーダ装置の全体構成を表すブロック図である。
【0030】図1に示すように、本実施例のレーダ装置2は、変調信号Smに応じて所定の周波数に変調されたレーダ波を送信する送信器12、送信器12から放射され、障害物に反射されたレーダ波を受信する一対の受信器14,16からなる送受信部10と、送信器12に変調信号Smを供給すると共に、受信器14,16から出力される中間周波のビート信号B1,B2に基づき、障害物を検出するための処理を実行する信号処理部20とにより構成されている。
【0031】そして、本実施例では、レーダ装置により自動車前方の障害物を検出するために、送受信部10が自動車の前面に取り付けられ、信号処理部20が、車室内又は車室近傍の所定位置に取り付けられている。ここで、まず送信器12は、送信信号として、ミリ波帯の高周波信号を生成する電圧制御発振器(VCO)12bと、変調信号Smを電圧制御発振器12bの調整レベルに変換して電圧制御発振器12bに供給する変調器(MOD)12aと、電圧制御発振器12bからの送信信号を電力分配して各受信器14,16に供給されるローカル信号を生成する電力分配器(COUP)12c,12dと、送信信号に応じてレーダ波を放射する送信アンテナ12eとにより構成されている。
【0032】また、受信器14は、レーダ波を受信する受信アンテナ14aと、受信アンテナ14aからの受信信号に電力分配器12dからのローカル信号を混合するミキサ14bと、ミキサ14bの出力を増幅する前置増幅器14cと、前置増幅器14cの出力から不要な高周波成分を除去し、送信信号及び受信信号の周波数の差成分であるビート信号B1を抽出するローパスフィルタ14dと、ビート信号B1を必要な信号レベルに増幅する後置増幅器14eと、により構成されている。なお、受信器16は、受信器14と全く同様の構成(14a〜14eが16a〜16eに対応)をしており、電力分配器12cからローカル信号の供給を受け、ビート信号B2を出力する。そして、受信器14を受信チャネルCH1、受信器16を受信チャネルCH2と呼ぶ。
【0033】一方、信号処理部20は、起動信号C1により起動され、三角波状の変調信号Smを発生する三角波発生器22と、起動信号C2により起動され、受信器14,16からのビート信号B1,B2をデジタルデータD1,D2に変換するA/D変換器24a,24bと、CPU26a,ROM26b,RAM26cを中心に構成され、起動信号C1,C2を送出して三角波発生器22及びA/D変換器24a,24bを動作させると共に、A/D変換器24a,24bを介して得られるデジタルデータD1,D2に基づき障害物との距離、相対速度、及び障害物の方位の検出を行う障害物検出処理(後述する)を実行する周知のマイクロコンピュータ26と、マイクロコンピュータ26の指令に基づき高速フーリエ変換(FFT)の演算を実行する演算処理装置28と、により構成されている。
【0034】なお、A/D変換器24a,24bは、起動信号C2により動作を開始すると、所定時間間隔毎にビート信号B1,B2をA/D変換して、RAM26cの所定領域に書き込むと共に、所定回数のA/D変換を終了すると、RAM26c上に設定された終了フラグ(図示せず)をセットして、動作を停止するように構成されている。
【0035】そして、起動信号C1により、三角波発生器22が起動され、変調器12aを介して電圧制御発振器12bに変調信号Smが入力されると、電圧制御発振器12bは、変調信号Smの三角波状の波形の上り勾配に応じて所定の割合で周波数が増大(以後、この区間を上昇部と呼ぶ)し、それに引き続く下り勾配に応じて周波数が減少(以後、この区間を下降部と呼ぶ)するように変調された送信信号を出力する。
【0036】図2は、送信信号の変調状態を表す説明図である。図2に示すように、変調信号Smにより、送信信号の周波数は、1/fmの期間に△Fだけ増減するように変調され、その変化の中心周波数はf0である。なお、100ms間隔で周波数が変調されているのは、後述する障害物検出処理が100ms周期で実行され、その処理の中で起動信号C1が生成されるからである。
【0037】この送信信号に応じたレーダ波が送信器12から送出され、障害物に反射したレーダ波が、受信器14,16にて受信される。そして、受信器14,16では、受信アンテナ14a,16aから出力される受信信号と、送信器12からの送信信号とが混合されることにより、ビート信号B1,B2が生成される。なお、受信信号は、レーダ波が障害物まで間を往復する時間だけ送信信号に対して遅延し、且つ、障害物との間に相対速度がある場合には、これに応じてドップラシフトを受ける。このため、ビート信号B1,B2は、この遅延成分frとドップラ成分fdとを含んだものとなる。
【0038】そして、図4に示すように、A/D変換器24aによりビート信号B1をA/D変換してなるデジタルデータD1は、RAM26c上のデータブロックDB1,DB2に順次格納され、一方、A/D変換器24bによりビート信号B2をA/D変換してなるデジタルデータD2は、同様に、データブロックDB3,DB4に格納される。ところで、A/D変換器24a,24bは、三角波発生器22の起動と共に起動され、変調信号Smが出力されている間に、所定回数のA/D変換を行うようにされているため、前半数のデータが格納されるデータブロックDB1,DB3には、送信信号の上昇部に対応した上昇部データが格納され、後半数のデータが格納されるデータブロックDB2,DB4には、送信信号の下降部に対応した下降部データが格納されることになる。
【0039】このようにして各データブロックDB1〜DB4に格納されたデータは、マイクロコンピュータ26及び演算処理装置28にて処理され、障害物の検出のために使用される。次に、マイクロコンピュータ26のCPU26aにて実行される障害物検出処理を、図3に示すフローチャートを参照して説明する。なお、この障害物検出処理は、前述したように100ms周期で起動される。
【0040】図3に示すように、本処理が起動されると、まず、ステップ110にて、起動信号C1を出力して三角波発生器22を起動し、続くステップ120にて、RAM26c上の終了フラグをクリアすると共に、起動信号C2を出力してA/D変換器24a,24bを起動する。
【0041】これにより、三角波発生器22からの変調信号Smを受けた送信器12により、周波数変調されたレーダ波が送信されると共に、障害物により反射したレーダ波を受信することにより受信器14,16から出力されるビート信号B1,B2が、A/D変換器24a,24bを介してデジタルデータD1,D2に変換されRAM26cに書き込まれる。
【0042】続くステップ130では、RAM26c上の終了フラグを調べることにより、A/D変換が終了したか否かを判断する。そして、終了フラグがセットされていなければ、A/D変換は終了していないものとして、同ステップ130を繰り返し実行することで待機し、一方、終了フラグがセットされていれば、A/D変換は終了したものとしてステップ140に移行する。
【0043】ステップ140では、RAM26c上のデータブロックDB1〜DB4のいずれか一つを順次選択し、そのデータブロックDBi(i=1〜4)のデータを演算処理装置28に入力してFFTの演算を実行させる。なお、演算処理装置28に入力されるデータは、FFTの演算により表れるサイドローブを抑制するために、ハニング窓や三角窓等を用いた周知のウィンドウ処理が施される。そして、この演算結果として得られる周波数スペクトルデータは、各周波数毎の複素ベクトルとして得られる。
【0044】ステップ150では、複素ベクトルの絶対値、即ちその複素ベクトルが示す周波数成分の振幅に基づき、周波数スペクトルのピークを検出して、その周波数をビート周波数として特定し、ステップ160に進む。なお、ピークの検出方法としては、例えば、周波数に対する振幅の変化量を順次求め、その前後にて変化量の符号が反転する周波数にピークがあるものとして、その周波数を特定すればよい。
【0045】ステップ160では、ステップ150にて特定された周波数成分の位相を算出する。この位相は、複素ベクトルが実数軸となす角度に等しいため、複素ベクトルから簡単に求められる。続くステップ170では、未処理のデータブロックDBiがあるか否かを判断し、未処理のものがあれば、ステップ140に戻って、その未処理のデータブロックDBiについて、ステップ140〜160の処理を実行し、一方、未処理のものがなければ、ステップ180に移行する。
【0046】上述のステップ140〜170の処理の結果、各データブロックDB1〜DB4に格納されたデータに基づき、受信チャネルCH1からのビート信号B1の上昇部におけるビート周波数f11、同じく下降部におけるビート周波数f12、受信チャネルCH2からのビート信号B2の上昇部におけるビート周波数f21、同じく下降部におけるビート周波数f22が求められると共に、これら周波数成分の位相φ11,φ12,φ21,φ22が求められることになる。
【0047】なお、図5は、ステップ140の演算結果として得られる複素ベクトルに基づき、各ビート信号B1,B2に含まれる周波数成分の振幅及び位相を、各データブロックDB1〜DB4毎、即ち、各受信チャネルCH1,CH2の上昇部データ及び下降部データ毎に算出してグラフ化したものである。ここでは簡単のため、障害物が一つだけの場合を表しており、各データブロックDB1〜DB4にて、周波数スペクトルのピークは一つずつ検出される。そして、各受信チャネルCH1,CH2のピーク周波数は、上昇部及び下降部毎に夫々略等しい(f11≒f21,f12≒f22)ものとなる。
【0048】次にステップ180では、上昇部、及び下降部毎に、各受信チャネルCH1,CH2間のビート周波数成分の位相差△φj(j=1,2)を(4)式にて算出する。
△φj=φ1j−φ2j ・・・(4)
ここで、上昇部における位相差△φ1、及び下降部における位相差△φ2が求められるが、これら二つの値の絶対値は、図5(b)に示すように、通常、略等しく(|△φ1|≒|△φ2|)なる。なお、これら二つの値が所定以上離れている場合には、何等かの異常が発生したものとして、処理を中止し、別途エラー処理を実行するようにしてもよい。
【0049】続くステップ190では、ステップ180にて算出された位相差△φ1,φ2から、適宜、いずれか一方を方位算出用の位相差△φとして選択し、この選択された位相差△φに基づき、障害物の方位θを算出する。なお、方位θは、理論上は(3)式にて算出されるが、実際にビート信号B1,B2から求められる位相差△φは、受信器14,16内部の経路差が加わるため、図6に示すように、通常は、△φ=0の時に、θ=0とはならない。このため、予め実測する等して、受信器14,16内部の経路差を補正データとして求めておき、この補正データにより、求められた位相差△φを補正後、(3)式を用いて方位θを算出するか、あるいは、同様に予め実測する等して作成した位相差△φと方位θとの対応表を用いることにより、位相差△φから方位θを直接求めるようにしてもよい。
【0050】続くステップ200では、各受信チャネルCHi(i=1,2)毎に、上昇部、及び下降部のビート周波数fi1,fi2から、次の(5)式を用いて障害物との距離Riを算出する。
Ri=(c/(8・△F・fm))・(fi1+fi2) ・・・(5)
また、ステップ210では、同様に、次の(6)式を用いて障害物との相対速度Viを算出し、本処理を終了する。
【0051】
Vi=(c/(4・f0))・(fi1−fi2) ・・・(6)
なお、ステップ200,210では、各受信チャネルCH1,CH2毎に、夫々距離R1,R2と相対速度R1,R2とが算出されることになるが、これらの値は、いずれも略等しく(R1≒R2,V1≒V2)なるので、適宜いずれか一方を、当該障害物検出処理による検出値としての距離R,相対速度Vとして選択する。なお、これら二つの値が所定以上離れている場合には、ステップ180の処理と同様に、何等かの異常が発生したものとして、処理を中止し別途エラー処理を実行するようにしてもよい。
【0052】このようにして算出された障害物との距離R、相対速度V、及び障害物の方位θは、別途実行される判断処理において、危険の有無を判断するため等に使用され、危険ありと判断された場合には、例えば、図示しない警報器を鳴動させて運転者に危険を知らせるといった処理が行われる。
【0053】ここで図4は、上述の障害物検出処理の概要を表す機能ブロック図である。即ち、上述の障害物検出処理を機能ブロックにて表すと、図4に示すように、RAM26cに格納された各データブロックDB1〜DB4毎、即ち、各受信チャネルCH1,CH2の上昇部データ及び下降部データ毎に、FFTの演算を実行する周波数解析部(上述のステップ140に相当)と、周波数スペクトルのピークを検出しビート周波数を特定するピーク検出部(同ステップ150)と、ピーク検出部により検出された周波数成分の位相を特定する位相特定部(同ステップ160)とを備えている。
【0054】そして、上昇部データ(データブロックDB1,DB3)から検出されるビート周波数成分の位相φ11,φ21、下降部データ(データブロックDB2,DB3)から検出されるビート周波数成分の位相φ12,φ22毎に、夫々位相差△φj(=φ1j−φ2j)を算出する位相差算出部(同ステップ180)と、これら位相差△φjに基づき、方位θを算出する方位算出部(同ステップ190)とを備えている。
【0055】更に、各受信チャネルCHi毎に、上昇部及び下降部のビート周波数fi1,fi2から、距離Ri及び相対速度Viを算出する距離算出部(同ステップ200)及び速度算出部(同ステップ210)を備えている。なお、各受信チャネルCH1,CH2毎に設けられた、周波数解析部,ピーク検出部,距離算出部,速度算出部を含む距離・速度算出ブロックFB1,FB2は、周知のFMCWレーダ装置の受信系と全く同等のものであり、即ち、本実施例のレーダ装置2は、障害物との距離R及び相対速度Vの検出が可能なFMCWレーダ装置の受信系を2つ備え、更に、障害物の方位θを検出するために、位相特定部,位相差算出部,方位算出部からなる方位算出ブロックFB3を追加した構成となっている。
【0056】以上説明したように、本実施例の障害物検出用レーダ装置2においては、受信器14,16として、受信アンテナ14a,16aからの受信信号を送信信号と混合してビート信号B1,B2を発生させるものを用い、信号処理部20では、各受信器14,16、即ち受信チャネルCH1,CH2毎に得られるビート信号B1,B2を、上昇部,下降部毎に、ビート周波数fij及び位相φijを求め、受信チャネルCH1,CH2間での位相差△φj(=φ1j−φ2j)から方位θを算出するようにされている。
【0057】つまり、本実施例では、従来のモノパルス方式のレーダ装置とは異なり、2つの受信アンテナから得られる2つの受信信号を、高周波のまま混合することで生成される和信号、差信号を用いることなく、障害物の方位θを検出可能なように構成されている。
【0058】従って、本実施例の障害物検出用レーダ装置2によれば、受信アンテナ14a,16aからの受信信号を、高周波のまま処理することなく、直ちに送信信号と混合して中間周波のビート信号B1,B2に変換しているので、小型化の困難な受信器14,16の高周波回路部分を必要最小限の構成とすることができ、当該レーダ装置2を小型化できる。
【0059】また、本実施例のレーダ装置2によれば、周波数変調された連続波を送受信し、送信信号と受信信号とを混合して得られるビート信号から障害物との距離Rや相対速度Vを求めるFMCW方式の受信系が2つ併置されていると共に、2つの受信アンテナ14a,16aにて受信されるレーダ波の経路差dに基づく位相差△φから方位θを検出するモノパルス方式の原理にて方位θを検出するように構成されているので、障害物との距離R,相対速度V、及び障害物の方位θの全てを精度よく求めることができ、障害物の位置や状態を高精度に検出できる。
【0060】なお、上記実施例では、一つの障害物を検出可能な装置について説明したが、複数の障害物を同時に検出可能な装置としてもよい。この場合、周波数スペクトルのピークは、障害物の数だけ表れるため、ステップ150及び160では、全てのピークについて、その周波数を特定し位相を算出すると共に、ステップ170とステップ180との間に、同一の障害物による上昇部のピークと下降部のピークとを互いに組み合わせるためのペアリング処理を追加し、更に、ステップ180〜210までの処理をペアリングされたデータ毎に行うようにすればよい。
【0061】なお、ペアリング処理とは、同一の障害物に基づくピークであっても、障害物との間に相対速度が有る場合、上昇部と下降部とにおいて検出されるピークの周波数(ビート周波数)は互いに異なったものとなるため、これを正しく組み合わせるために必要な処理であり、この処理の詳細は、例えば、本願出願人が既に出願している特願平7−9059号等に詳述されているので、ここではその説明を省略する。
【0062】また、上記実施例では、FFTの演算結果から、ビート周波数成分の位相φ11,φ12,φ21,φ22を求め、上昇部及び下降部毎に算出される、受信チャネルCH1,CH2間の位相差△φj(=φ1j−φ2j)に基づき方位θを算出するように構成されているが、FFTの演算結果から、ビート周波数成分の振幅P11,P12,P21,P22(図5(a)を参照)を求め、上昇部及び下降部毎に、受信チャネルCH1,CH2間の振幅差△Pj(=P1j−P2j)に基づき方位θを算出するように構成してもよい。
【0063】この場合、障害物検出処理のステップ160にてビート周波数成分の振幅Pijを特定し、ステップ180にて振幅差△Pjを算出し、ステップ190にて振幅差△Pjに基づき、方位θを算出するように変更すればよい。なお、振幅差△Pjは、送信器12の送信出力や、受信器14,16を構成する増幅器14c,14e,16c,16e等の特性の相違等の影響を受け、この振幅差△Pjから単純な数式にて方位θを算出することが困難であるため、位相差△φjから方位θを求める場合と同様に、予め実測する等して作成した振幅差△Pjと方位θとの対応表を用いて求めるようにすればよい。
【0064】また、このように、振幅Pijから方位θを算出する場合、位相φijを算出する必要がないだけでなく、振幅Pijはピーク検出時に算出されるものであるため、処理量を削減できる。なお、このように、振幅差△Pjから方位θを算出する場合の機能ブロックの構成は、位相特定部,位相差算出部を備えた方位算出ブロックFB3を、図7に示すような、振幅特定部,振幅差算出部を備えた方位算出ブロックFB3aに変更したものとなる。
【0065】また更に、方位θの算出は、位相差△φj、振幅差△Pjの両方から求めるようにしてもよい。この場合、例えば、位相差△φjと振幅差△Pjとを変数として作成された3次元的なマップにより方位θを求めたり、また、位相差△φj及び振幅差△Pjの各方法による算出値の平均値を方位θとして求めたり、あるいは、各方法による算出値が所定以上離れている場合には、エラーとする処理を行うことにより、より信頼性の高い検出を行うことができる。
【0066】更に、上記実施例では、各受信チャネルCH1,CH2毎に、障害物との距離R1,R2、相対速度V1,V2を求め、また、上昇部,下降部毎に、方位θを検出するための位相差△φ1,△φ2を求めているが、いずれも、いずれか一方だけを求めるようにしてもよい。この場合、受信チャネルCH2の下降部データに対するFFT,ピーク検出,位相特定、及び受信チャネルCH2のビート周波数f21,f22を用いた距離算出及び速度算出、更には、φ12の位相特定、下降部データの位相差△φ2(=φ12−φ22)算出を省略することができ、処理を大幅に削減できる。
【0067】次に、第2実施例について説明する。図8は、第2実施例の障害物検出用レーダ装置の全体構成を表すブロック図である。図8に示すように、本実施例の障害物検出用レーダ装置4は、送信器32及び2つの受信器34,36からなる送受信部30と信号処理部40とにより構成されている。このうち、送信器32は、入力される変調信号Smが第1実施例と異なるだけで、第1実施例と全く同様の構成(12a〜12eが、32a〜32eに夫々対応)をしているので詳細な説明は省略する。
【0068】なお、本実施例において使用される変調信号Smは、Highレベル,Low レベルの2値レベルを有するものであり、送信信号は、変調信号SmがLow レベルの時に周波数faに変調され、Highレベルの時に周波数が△f(<<fa)だけ異なる周波数fbに変調される。そして、送信信号が各周波数fa,fbに変調されている区間を、夫々、第1周波数部、第2周波数部と呼ぶ。
【0069】次に、受信器34は、第1実施例の受信器14と同様に、受信アンテナ34a,ミキサ34b,前置増幅器34c,ローパスフィルタ34d,後置増幅器34e(夫々14a〜14eに対応)を備え、更に、ローパスフィルタ34d及び後置増幅器34eと全く同様に構成されたローパスフィルタ34g及び後置増幅器34hと、前置増幅器34cとローパスフィルタ34d,34gとの間に設けられ、変調信号SmがLow レベルの時に、前置増幅器34cからの信号をローパスフィルタ34dに供給して後置増幅器34eから第1周波数部のビート信号B1aを出力させ、変調信号SmがHighレベルの時に、前置増幅器34cからの信号をローパスフィルタ34gに供給して後置増幅器34hから第2周波数部のビート信号B1bを出力させるスイッチ34fとを備えている。
【0070】なお、受信器36は、受信器34と全く同様の構成(34a〜34hが36a〜36hに対応)をしており、第1周波数部のビート信号B2aが後置増幅器36eから出力され、第2周波数部のビート信号B2bが後置増幅器36hから出力される。そして、受信器34を、受信チャネルCH1、受信器16を受信チャネルCH2と呼ぶ。
【0071】一方、信号処理部40は、起動信号C1により起動され、方形波状、即ち、2値レベルの変調信号Smを発生する方形波発生器42と、起動信号C2により起動され、各受信器34,36からのビート信号B1a,B1b,B2a,B2bを、デジタルデータD1a,D1b,D2a,D2bに夫々変換するA/D変換器44a〜44dと、CPU46a,ROM46b,RAM46cを中心に構成され、起動信号C1,C2を送出して方形波発生器42及びA/D変換器44a〜44dを動作させると共に、A/D変換器44a〜44dを介して得られるデジタルデータD1a,D1b,D2a,D2bに基づき障害物との距離、相対速度、及び障害物の方位の検出を行う障害物検出処理を実行する周知のマイクロコンピュータ46と、マイクロコンピュータ46の指令に基づきFFTの演算を実行する演算処理装置48と、により構成されている。
【0072】また、A/D変換器44a〜44dは、起動信号C2により起動されると、最初は、A/D変換器44a,44cが動作して所定回数のA/D変換を行い、その後、引続きA/D変換器44b,44dが動作して所定回数のA/D変換を行い、これらの処理が終了すると、RAM46c上に設定された終了フラグ(図しせず)をセットして、動作を停止するように構成されている。
【0073】そして、起動信号C1により、方形波発生器42が起動され、変調器32aを介して電圧制御発振器32bに変調信号Smが入力されると、変調信号SmのLow レベルの期間は周波数faの送信信号を出力し、それに引き続くHighレベルの期間は周波数fbの送信信号を出力する。
【0074】この送信信号に応じたレーダ波が送信器32から送出され、障害物に反射したレーダ波が、受信器34,36にて受信される。そして、受信器34,36では、受信アンテナ34a,36aからの受信信号と、送信器32からの送信信号とが混合されることにより、ビート信号が生成され、しかもこのビート信号は、第1周波数部と第2周波数部とに分離されて出力される。なお、受信信号は、障害物のと間に相対速度がある場合に、ドップラシフトを受けるため、ビート信号は、このドップラ成分fdを含んだものとなる。
【0075】そして、図9に示すように、A/D変換器44a〜44dにより、ビート信号B1a,B1b,B2a,B2bを変換してなるデジタルデータD1a,D1b,D2a,D2bは、RAM46c上のデータブロックDB1〜DB4に夫々格納される。このようにして各データブロックDB1〜DB4に格納されたデータは、マイクロコンピュータ46及び演算処理装置48にて処理され、障害物の検出のために使用される。
【0076】ところで、マイクロコンピュータ46のCPU46aにて実行される障害物検出処理の流れは、各ステップにおける処理内容が一部異なる以外は、図3に示すフローチャートと同様である。従って、以下では、処理の異なる部分についてのみ説明する。
【0077】まず、ステップ110にて方形波発生器42を起動させた後、続くステップ120〜ステップ170では、第1実施例の場合と全く同様に処理が行われる。但し、本実施例では、データブロックDB4は処理されず、データブロックDB1〜DB3のみが処理され、その結果、受信チャネルCH1の第1周波数部、第2周波数部、及び受信チャネルCH2の第1周波数部について夫々ビート周波数f1a,f1b,f2a、及び位相φ1a,φ1b,φ2aが算出される。なお、ここで算出されるビート周波数f1a,f1b,f2aは、いずれも障害物との相対速度に基づくドップラ周波数fdに等しい。
【0078】続くステップ180では、第1周波数部についてのみ、各受信チャネルCH1,CH2間のビート周波数成分の位相差△φa(=φ1a−φ2a)を算出する。続くステップ190では、位相差△φaを方位算出用の位相差△φとして、第1実施例と全く同様に、方位θを算出する。
【0079】続くステップ200では、距離Rを算出するが、受信チャネルCH1についてのみ、第1周波数部の位相φ1aと第2周波数部の位相φ1bとの位相差△φr(φ1a−φ1b)を求め、この位相差△φrに基づき、(7)式を用いて算出する。
R=c・△φr/(4π・△f) ・・・(7)
続くステップ210では、受信チャネルCH1の第1周波数部のビート周波数f1a(=fd)に基づき、(8)式を用いて障害物との相対速度Vを算出する。
【0080】
V=(c/(4・fa))・f1a ・・・(8)
このようにして算出された障害物との距離R,相対速度V,及び障害物の方位θは、第1実施例と同様に、別途実行される判断処理において、危険の有無を判断するため等に使用される。
【0081】ここで図9は、本実施例における障害物検出処理の概要を表す機能ブロック図である。即ち、図9に示すように、データブロックDB1〜DB3毎に、周波数解析部(上述のステップ140に相当)、ピーク検出部(同ステップ150)、位相特定部(同ステップ160)を備えると共に、第1周波数部における各受信チャネルCH1,CH2間の位相差△φa(=φ1a−φ2a)を算出する位相差算出部(同ステップ180)と、位相差算出部の算出結果に基づき、方位を算出する方位算出部(同ステップ190)と、受信チャネルCH1における第1周波数部及び第2周波数部間の位相差△φr(=φ1a−φ1b)から距離Rを算出する距離算出部(同ステップ200)と、受信チャネルCH1の第1周波数部のビート周波数f1aから相対速度Vを算出する速度算出部(同ステップ210)を備えている。
【0082】なお、受信チャネルCH1に対して設けられた、周波数解析部,ピーク検出部,位相特定部,距離算出部,速度算出部からなる距離・速度算出ブロックFB4は、周知の2周波CWレーダ装置の受信系と全く同等のものであり、即ち、本実施例のレーダ装置4は、障害物との距離及び相対速度の検出が可能な2周波CWレーダ装置の受信系(距離・速度算出ブロックFB4)に、更に、2周波CWレーダの受信系に含まれる第1周波数部のビート周波数及び位相を求める構成と、障害物の方位θを検出可能とするために設けられた位相差算出部,方位算出部とからなる方位算出ブロックFB5を追加した構成となっている。
【0083】以上説明したように、本実施例の障害物検出用レーダ装置4においては、受信器34,36として、受信アンテナ34a,36aからの受信信号を送信信号と混合し、更にこれを第1周波数部、第2周波数部毎に振り分けることにより、ビート信号B1a,B1b,B2a,B2bを発生させるものを用い、信号処理部40では、これらビート信号からビート周波数及び位相を個々に求め、その第1周波数部における受信チャネルCH1,CH2間の位相差△φa(=φ1a−φ2a)から方位θを算出するようにされており、即ち、第1実施例と同様に、受信信号の和信号、差信号を用いることなく、障害物の方位θを検出可能なようにされている。
【0084】従って、本実施例のレーダ装置4によれば、第1実施例と同様に、小型化の困難な受信器34,36の高周波回路部分を必要最小限の構成とすることができ、当該レーダ装置4を小型化できる。また、本実施例のレーダ装置4によれば、送信信号は、僅かに周波数の異なる2種類の周波数fa,fbしか使用しないため、当該レーダ装置4により占有される周波数帯が狭く、従って、外来ノイズの影響を受けにくい装置を構成できる。
【0085】なお、本実施例においては、受信チャネルCH2の第2周波数部のデータを使用していないので、A/D変換器44d、及び受信器36のローパスフィルタ36g,後置増幅器36h,スイッチ36fを省略した構成としてもよい。また、本実施例では、位相差△φaから方位を算出するようにされているが、第1実施例において説明したように、各受信チャネルCH1,CH2間におけるビート周波数成分の振幅差から方位θを算出したり、位相差及び振幅差の両方から方位θを算出するようにしてもよい。
【0086】更に、本実施例では、受信チャネルCH2の第2周波数部については、処理を行わないように構成され、距離R及び相対速度Vの算出は、受信チャネルCH1のみで行い、方位θの算出は、第1周波数部のみで行うようにされているが、受信チャネルCH2の第2周波数部についてもビート周波数f2b及び位相φ2bを求めるように構成し、距離R及び相対速度Vの算出を各受信チャネルCH1,CH2の双方にて行い、また、方位θの算出も第1周波数部及び第2周波数部の双方にて行うようにしてもよい。
【0087】この場合、距離R,相対速度V,方位θは、いずれも2種類の値が算出されるため、例えば、これらの値を比較判定する処理を追加することにより、算出値の信頼性を向上させることができる。次に、第3実施例について説明する。
【0088】図10は、第3実施例の障害物検出用レーダ装置の全体構成を表すブロック図である。なお、本実施例のレーダ装置2aは、第1実施例のレーダ装置2において、各受信器14,16を構成する前置増幅器14c,16c、ローパスフィルタ14d,16d、後置増幅器14e,16e(以下、まとめてIF(中間周波)処理部と呼ぶ)での位相のばらつきに起因して、各受信チャネルCH1,CH2から供給されるビート信号間に生じる位相差の誤差(オフセット)を、校正可能にするための構成を追加したものである。
【0089】即ち、本実施例のレーダ装置2aは、図10R>0に示すように、第1実施例のレーダ装置2において、送受信部10に、受信チャネルCH1のミキサ14bの出力を前置増幅器14cに供給/遮断するスイッチW11と、受信チャネルCH2のミキサ16bの出力を受信チャネルCH1の前置増幅器14cに供給/遮断するスイッチW12とを設け、マイクロコンピュータ26に、スイッチW11,W12の設定状態を、スイッチW11を閉成かつスイッチW12を開放した第一状態、又はスイッチW11を開放かつスイッチW12を閉成した第二状態のいずれかに切り換える切換信号C3を出力させるようにした以外は、第1実施例のレーダ装置2と全く同様に構成されている。
【0090】そして、各スイッチW11,W12が第一状態に設定されている場合、各ミキサ14b,16bの出力は、各自の受信チャネルの前置増幅器14c,16cに夫々供給され、一方、各スイッチW1,W2が第二状態に設定されている場合、受信チャネルCH2のミキサ16bの出力が、両受信チャネルCH1,CH2の前置増幅器14c,16cに供給される。
【0091】ここで、マイクロコンピュータ26のCPU26aにて実行される位相差校正処理を、図11に示すフローチャートを参照して説明する。なお、スイッチW11,W12は、電源投入直後に行われる初期化処理によって、第一状態に設定されているものとする。
【0092】図11に示すように、本処理が起動されると、まず、ステップ310にて、切換信号C3を出力して、スイッチW11,W12の設定状態を第二状態に切り換える。続くステップ320〜390は、第1実施例にて説明した障害物検出処理のステップ110〜180と全く同様であり、即ち、レーダ波を送信して、受信器14,16から出力されるビート信号B1,B2のA/D変換値に基づき、FFT演算を実行し、その演算結果から各ビート信号B1,B2のピーク周波数を検出して、その周波数成分の位相を特定し、この特定された位相に基づいて各受信チャネルCH1,CH2から得られるビート信号B1,B2間の位相差を算出する。
【0093】続く、ステップ400では、ステップ390にて算出された位相差を校正値としてRAM26cの所定エリアに記憶し、ステップ410にて、切換信号C3を出力して、スイッチW11,W12の設定状態を第一状態に切り換えた後、本処理を終了する。
【0094】即ち、本処理の実行時には、各受信チャネルCH1,CH2のIF処理回路に同じ信号が入力されているので、ここで求められる位相差(校正値)とは、ビート信号B1,B2の位相を変化させるIF処理回路(主にローパスフィルタ14d,16d)の位相特性のばらつきを反映したものとなる。
【0095】ここで、図12(a)は、位相差校正処理の実行タイミングを表す説明図である。図示するように、本処理では、障害物検出処理と全く同様に変調波Smを発生させ、反射したレーダ波を受信して処理を行っているので、周期的に実行される障害物検出処理を止めて、代わりに本処理を実行することになり、本実施例では、1分毎に本処理を実行する。
【0096】なお、一回の位相差校正処理では、処理時に偶然に存在する物標の状態に応じて、ある特定周波数での位相差校正値が得られるだけであり、これに対してIF処理回路の位相特性は、周波数に応じて変化するため、このような特定周波数について測定したものだけを用いて、全ての場合について校正を行ったのでは、正確な測定を行うことができない。
【0097】そこで、本実施例では、例えば0〜100KHzの範囲のビート信号について検出を行う場合、図1212(b)に示すように、この周波数範囲を20分割して、各区間毎に校正値を記憶するようにされている。このように、区間毎に校正値を記憶する場合、例えば、全ての区間の校正値が蓄積されるまでの間は、連続してこの位相差校正処理を行い、全区間の校正値が蓄積された後で、正常の障害物検出処理を開始させると共に、周期的に位相差校正処理を行い、適宜蓄積された校正値の内容を更新するようにすればよい。
【0098】なお、図12(b)は、区間毎の位相差校正値が時間によって蓄積されている様子を表している。そして、上述のようにして得られた校正値は、障害物検出処理の際に、ステップ180にて算出されるビート周波数成分の位相差△φjを校正するために使用される。具体的には、あるビート周波数を有する周波数成分の位相差△φjが算出された場合、位相差校正処理により蓄積された校正値の中から、そのビート周波数に対応する校正値△φoを選択して、算出された位相差△φjから選択された校正値△φoを差し引く(△φj−△φo)ことにより校正を行う。そして、この校正された位相差(△φj−△φo)を用いて、ステップ190の障害物の方位θを算出する処理を行う。
【0099】以上説明したように、本実施例のレーダ装置においては、各受信チャネルCH1,CH2のIF処理回路に同じ信号を入力できるように構成されており、IF回路に同じ信号を入力した時に求められる位相差を校正値として求め、この校正値により通常の障害物検出処理の時に算出される位相差を校正するようにされている。
【0100】従って、本実施例のレーダ装置によれば、IF処理回路毎に位相特性のばらつきが存在することによって生じるビート信号間の位相差のオフセットを、校正値により相殺することができ、正確な位相差を求めることができるので、延いては正確な方位検出を行うことができる。
【0101】しかも、検出すべきビート信号の周波数範囲を複数区間に分割し、各区間毎に校正値を求めるようにされているので、安定した方位検出を行うことができる。次に、第4実施例について説明する。図13は、第4実施例の障害物検出用レーダ装置の全体構成を表すブロック図である。なお本実施例では、第3実施例と同様に、IF処理部に起因してビート信号間に生じる位相差の誤差を校正可能にしたものである。
【0102】図13に示すように、本実施例のレーダ装置2bは、第1実施例のレーダ装置2において、各受信器14,16に、前置増幅器14c,16cからの出力、或は基準信号Sfのいずれか一方をローパスフィルタ14d,16dに供給するスイッチW21,W22を設け、信号処理部20に基準信号Sfを生成する基準信号発生器29を設けると共に、マイクロコンピュータ26に、スイッチW21,W22の設定状態を、いずれもが前置増幅器14c,16cの出力をローパスフィルタ14d,16dに供給する第一状態、又はいずれもが基準信号Sfをローパスフィルタ14d,16dに供給する第二状態のいずれかに切り換える切換信号C3と、基準信号発生器29を起動する起動信号C4とを出力させるようにした以外は、第1実施例のレーダ装置2と全く同様に構成されている。
【0103】なお、基準信号発生器29は、例えば第3実施例と同様に0〜100KHzの範囲のビート信号について検出を行う場合であれば、周波数を20分割して、各区間を代表する周波数成分を全て含んだ基準信号Sfを生成するように構成されている。
【0104】ここで、マイクロコンピュータ26のCPU26aにて実行される位相差校正処理を、図14に示すフローチャートを参照して説明する。なお、スイッチW21,W22は、電源投入直後に行われる初期化処理によって、第一状態に設定されているものとする。
【0105】図14に示すように、本処理が起動されると、まず、ステップ510にて、切換信号C3を出力して、スイッチW21,W22の設定状態を第二状態に切り替え、続くステップ520では、起動信号C4を出力して、基準信号発生器29に基準信号Sfを出力させる。
【0106】続くステップ530〜590は、第1実施例にて説明した障害物検出処理のステップ120〜180と全く同様であり、受信器14,16から出力されるビート信号B1,B2のA/D変換値に基づき、FFT演算を実行し、その演算結果から各ビート信号B1,B2のピーク周波数を検出して、その周波数成分の位相を特定し、この特定された位相に基づいて各受信チャネルCH1,CH2から得られるビート信号B1,B2間の位相差を算出する。
【0107】続く、ステップ600では、ステップ590にて算出された位相差を校正値としてRAM26cの所定エリアに記憶し、ステップ610にて、切換信号C3を出力して、スイッチW21,W22の設定状態を第一状態に切り換えた後、本処理を終了する。
【0108】即ち、本処理の実行時には、各受信チャネルCH1,CH2のIF処理回路には、同じ基準信号Sfが入力されているので、第3実施例と同様に、ここで求められる位相差(校正値)とは、IF処理回路の位相特性のばらつきを反映したものとなる。
【0109】しかも、基準信号Sfは、検出すべきビート信号の全周波数範囲を分割した各区間を代表する全ての周波数成分が含まれているため、1回の測定で、全ての区間について位相差の校正値が求められることになる。また、本実施例における位相差校正処理は、障害物検出処理が使用する三角波発生器22とは、別途設けられた基準信号発生器29により、レーダ波を送出することなく装置内部のみで基準信号Sfを発生させているので、例えば、図15に示すように、障害物検出処理の合間に実行させることが可能である。
【0110】以上説明したように、本実施例のレーダ装置2bによれば、各受信チャネルCH1,CH2のIF処理回路に同じ基準信号を入力できるようにされているので、第3実施例と同様の効果を得ることができる。しかも、本実施例のレーダ装置2bによれば、所望の周波数成分を含んだ基準信号Sfを発生させることができるので、検出すべきビート信号の全周波数範囲を分割した各区間の校正値を、短時間で確実に蓄積することができる。
【0111】なお、本実施例では、基準信号発生器29を、ビート信号の全周波数範囲を分割した各区間を代表する全ての周波数成分を含んだ基準信号Sfを生成するように構成したが、各区間に対応した単一の周波数成分を含む基準信号Sfを順番に発生させるように構成してもよい。この場合、第3実施例と同様に、全区間について構成値が蓄積されるまでは、この位相差構成処理を繰り返し行うようにすればよい。
【0112】また、本実施例では、前置増幅器14c,16cとローパスフィルタ14d,16dとの間にスイッチSW21,SW22を設けたが、第3実施例と同様にミキサ14b,16bと前置増幅器14c,16cとの間に設けてもよい。逆に第3実施例では、スイッチSW11,SW12を、本実施例と同様に、前置増幅器14c,16cとローパスフィルタ14d,16dとの間に設けてもよい。これは、IF処理回路の中でビート信号の位相に最も大きな影響を与えるのは、ローパスフィルタ14d,16dであるため、前置増幅器14c,16cを位相差校正処理の対象にしなくても大きな影響はないからである。
【0113】次に、第5実施例について説明する。本実施例は、第1実施例のレーダ装置2とは、受信器の構成が異なるだけであるため、ここでは、この受信器の構成についてのみ説明する。以下第6〜8実施例も同様である。
【0114】本実施例の受信器は、図16に示すように、1列に配列された3つの受信アンテナ54a,56a,58aと、両脇に配置された受信アンテナ54a,58aからの受信信号のいずれか一方を選択して出力するスイッチWaとを備え、スイッチWaから出力される受信信号を、ミキサ55b,前置増幅器55c,ローパスフィルタ55d,後置増幅器55eにより処理してビート信号B1として出力し、一方、まん中に配置されたアンテナ56aからの受信信号を、ミキサ56b,前置増幅器56c,ローパスフィルタ56d,後置増幅器56eにより処理してビート信号B2として出力するように構成されている。
【0115】なお、スイッチWaは、信号処理部20のマイクロコンピュータ26が出力するエリア選択信号Caにより制御され、図17に示すように、障害物検出処理を1回行う毎に切り換えられ、受信アンテナ54a又は58aからの受信信号を交互にミキサ55bに供給するようにされている。
【0116】また、各受信アンテナ54a,56a,58aは、隣接する2つの受信アンテナの受信ビームが重ね合わされた領域、即ちビート信号B1,B2に基づいて方位を検出可能な領域(以下、方位検出領域と呼ぶ)が、互いに接するように配置されている。
【0117】これにより、受信アンテナ54a,56aによる方位検出領域と、受信アンテナ56a,58aによる方位検出領域とで、物標の方位検出が可能となり、即ち、2つのアンテナで構成されている場合の2倍の方位検出領域を有することになる。
【0118】以上説明したように、本実施例によれば、受信器が、3つの受信アンテナ54a〜58aを備え、隣接する2つの受信アンテナ54a,56a又は56a,58a毎に、障害物検出処理を行うことができるので、障害物を検出可能な範囲を拡大することができ、特に、障害物の方位まで検出可能な方位検出領域を2倍に拡大することができる。
【0119】しかも、受信アンテナ数分のビート信号を出力するのではなく、任意の隣接する2つの受信アンテナ54a,56a又は56a,58aからの受信信号に基づくビート信号を2つだけ出力するようにされているので、信号処理部の構成を複雑化することがない。
【0120】なお、本実施例では、受信アンテナが3つの場合について説明したが、4つ以上であってもよい。例えば、図18に示すように、4つの受信アンテナ64a〜67aを有する場合には、受信アンテナ64aを1番目として配列順に番号を割り当てた場合に、奇数番目に位置する受信アンテナ64a,66aからの受信信号のいずれか一つを選択して出力するスイッチWa1と、偶数番目に位置する受信アンテナ65a,67aからの受信信号のいずれか一つを選択して出力するスイッチWa2と、を設け、スイッチWa1から出力される受信信号を、ミキサ68b,前置増幅器68c,ローパスフィルタ68d,後置増幅器68eにより処理してビート信号B1として出力し、スイッチWa2から出力される受信信号を、ミキサ69b,前置増幅器69c,ローパスフィルタ69d,後置増幅器69eにより処理してビート信号B2として出力するように構成されている。
【0121】この場合、スイッチWa1,Wa2により、受信アンテナ64a,65a、受信アンテナ65a,66a、受信アンテナ66a,67aのいずれかの組からの受信信号が選択されるように、エリア選択信号Ca1,Ca2を設定すればよい。
【0122】また、4つの受信アンテナから隣接する2つの受信アンテナからの受信信号を選択するスイッチ部の構成は、図19に示すように、5個の二者択一スイッチWa1,Wa4,Wa5,Wa7,Wa8と、3個の二分配スイッチWa2,Wa3,Wa6とにより構成してもよい。
【0123】この場合、高周波信号の配線を交差させることなく構成することができる。なお、スイッチWa1〜Wa8は、2つのエリア選択信号Ca1,Ca2(及びその反転信号)により次のように制御することができる。即ち、表1に示すように、エリア選択信号Ca1をスイッチWa1,Wa5,Wa8、エリア選択信号Ca1の反転信号をスイッチWa2,Wa6、エリア選択信号Ca2をスイッチWa4,Wa7、エリア選択信号Ca2の反転信号をWa3に接続する。但し、スイッチWa5,Wa6は、エリア選択信号Ca2とその反転信号とを接続してもよい。
【0124】そして、受信アンテナ64a,65aの組(A)を選択する時には、エリア選択信号Ca1,Ca2をいずれもHレベルに設定し、受信アンテナ65a,66aの組(B)を選択する時には、エリア選択信号Ca1をLレベル、エリア選択信号Ca2をHレベルに設定し、受信アンテナ66a,67aの組(C)を選択する時には、エリア選択信号Ca1,Ca2をいずれもLレベルに設定すればよい。なお、各スイッチWa1〜Wa2では、各エリア選択信号Ca1,Ca2の信号レベルに応じて、Hレベル時に図中上側に位置する端子が選択され、Lレベル時に図中下側に位置する端子が選択されるものとする。
【0125】
【表1】


【0126】次に、第6実施例について説明する。本実施例の受信器では、図16に示した第5実施例の受信器のように受信アンテナとミキサとの間にスイッチを設ける代わりに、前置増幅器とローパスフィルタとの間にスイッチを設けたものである。
【0127】即ち、図20に示すように、本実施例の受信器では、1列に配列された3つの受信アンテナ54a〜58a毎に、その受信信号を処理するミキサ54b〜58b、及び前置増幅器54c〜58cを設けると共に、両脇に配置された受信アンテナ54a,58aからの信号を処理する各前置増幅器54c,58cからのビート信号のいずれか一方を選択して出力するスイッチWbを設け、スイッチWbの出力をローパスフィルタ55d,後置増幅器55eにより処理してビート信号B1として出力し、まん中に配置された受信アンテナ56aからの信号を処理する前置増幅器56cの出力を、ローパスフィルタ56d,後置増幅器56eにより処理してビート信号B2として出力するように構成されている。
【0128】なお、スイッチWbは、第5実施例にてスイッチWaを制御するために用いものと同じたエリア選択信号Caにより制御すればよい。このように、本実施例の受信器によれば、受信信号がローカル信号と混合された後の回路部分にスイッチWbを配置しており、高周波回路部分に使用されるスイッチWaと比べて、スイッチWbでの信号の漏れが少ないので、検出感度を劣化させることなく、装置構成を小型化することができる。
【0129】なお、第5実施例の場合と同様に、4つ以上の受信アンテナを用いる場合に適用してもよい。次に、第7実施例について説明する。本実施例の受信器は、2つの受信アンテナ74a,76aと、受信アンテナ74a,76aからの受信信号のいずれか一方を選択して出力するスイッチWx1と、スイッチWx1から出力される信号を処理するミキサ75b,前置増幅器75cと、前置増幅器75cからの出力を2系統に分配するスイッチWx2と、スイッチWx2により分配された一方の信号を処理しビート信号B1として出力するローパスフィルタ74d,後置増幅器74eと、スイッチWx2により分配された他方の信号を処理しビート信号B2として出力するローパスフィルタ76d,後置増幅器76eと、スイッチWx1,Wx2の切換を制御する多重/分離信号を出力する多重/分離信号生成回路90とにより構成されている。
【0130】多重/分離信号は、検出すべきビート信号の2倍以上、即ち0〜100KHzの範囲のビート信号を扱う場合は、200KHz以上で、スイッチWx1,Wx2の切換を行い、しかも、スイッチWx1,Wx2を同期させ、受信アンテナ74aからの受信信号に基づく信号をローパスフィルタ74dに供給し、受信アンテナ76aからの受信信号に基づく信号をローパスフィルタ76dに供給するようにされている。
【0131】つまり、受信信号は、時分割多重化されてミキサ75bに供給され、ローカル信号と混合された後、再分離される。なお、分離された信号を処理するローパスフィルタ74d,76dは、AD変換時に、高周波成分がエリアジングを引き起こさないように帯域制限するアンチ・エリアジング・フィルタとして使用されるだけでなく、スイッチWx2から出力される櫛歯状をした波形の信号を、本来の連続した波形の信号に再生するために使用される。
【0132】以上説明したように、本実施例の受信器によれば、各受信アンテナからの受信信号がミキサを時分割で共用してビート信号を生成するようにされているので、ミキサの数を、当該受信器が同時に出力すべきビート信号の数より少なくすることができ、装置を小型化できる。
【0133】なお、本実施例では、2つの受信信号を多重化しているが、3つ以上の受信信号を多重化するように構成してもよい。次に、第8実施例について説明する。本実施例は、第7実施例において、受信アンテナ74aの代わりに、受信アンテナ76aの両脇に一列に配設される二つの受信アンテナ75a,77aと、この受信アンテナ75a,77aからの受信信号のいずれか一方をスイッチWx1に供給するスイッチWaとを設けただけで、それ以外は、第7実施例と全く同様の構成をしている。
【0134】別の見方をすると、図16に示した第5実施例において、ミキサ55b,56b、前置増幅器55c,56cの部分に第7実施例における受信信号を多重化してミキシングする技術を適用した構成となっている。従って、本実施例によれば、広い方位検出範囲を有する受信器を、きわめて小型に構成することができ、延いては高性能なレーダ装置を小型に構成することができる。
【0135】なお、受信信号を多重化してミキシングする技術は、図18や図19に示す受信器のミキサ68b,69b(及び前置増幅器68c,69c)の部分に適用してよいことはもちろん、図20に示す受信器のミキサ54b〜58b(及び前置増幅器54c〜58c)の部分に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第1実施例のレーダ装置の全体構成を表すブロック図である。
【図2】 三角波発生器の出力波形図である。
【図3】 障害物検出処理を表すフローチャートである。
【図4】 障害物検出処理の概要を表す機能ブロック図である。
【図5】 ビート信号に含まれる各周波数成分の振幅及び位相を表すグラフである。
【図6】 位相差△φと方位θの関係を表すグラフである。
【図7】 ビート周波数成分の振幅差に基づき方位θを算出する場合における方位算出ブロックの構成を表す機能ブロック図である。
【図8】 第2実施例のレーダ装置の全体構成を表すブロック図である。
【図9】 第2実施例における障害物検出処理の概要を表す機能ブロック図である。
【図10】 第3実施例のレーダ装置の全体構成を表すブロック図である。
【図11】 第3実施例における位相差校正処理を表すフローチャートである。
【図12】 第3実施例における位相差校正処理の実行タイミングを表す説明図である。
【図13】 第4実施例のレーダ装置の全体構成を表すブロック図である。
【図14】 第4実施例における位相差校正処理を表すフローチャートである。
【図15】 第4実施例における位相差校正処理の実行タイミングを表す説明図である。
【図16】 第5実施例のレーダ装置の受信部の構成を表すブロック図である。
【図17】 エリア選択信号の切換タイミングを表す説明図である。
【図18】 第5実施例においてアンテナを4つにした場合の構成を表すブロック図である。
【図19】 第5実施例においてアンテナを4つにした場合の他の構成を表すブロック図である。
【図20】 第6実施例のレーダ装置の受信部の構成を表すブロック図である。
【図21】 第7実施例のレーダ装置の受信部の構成を表すブロック図である。
【図22】 第8実施例のレーダ装置の受信部の構成を表すブロック図である。
【図23】 一対のアンテナからの受信信号の位相差に基づき方位が算出される原理を表す説明図である。
【符号の説明】
2,4…レーダ装置 10,30…送受信部 12,32…送信器
12a,32a…変調器 12b,32b…電圧制御発振器
12c,12d,32c,32d…電力分配器
12e,32e…送信アンテナ 14,16,34,36…受信器
14a,16a,34a,36b…受信アンテナ
14b,16b,34b,36b…ミキサ
14c,16c,34c,36c…前置増幅器
14d,16d,34d,34g,36d,36g…ローパスフィルタ
14e,16e,34e,34h,36e,36h…後置増幅器
34f,36f…スイッチ 20,40…信号処理部
22…三角波発生器 42…方形波発生器
24a,24b,44a〜44d…A/D変換器
26,46…マイクロコンピュータ 28,48…演算処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 所定周波数の送信信号を発生し、該送信信号をレーダ波として送信する送信手段と、物標により反射される上記レーダ波を少なくとも2つのアンテナにて受信する受信手段と、該受信手段からの出力信号に基づき、上記物標の方位を検出する信号処理手段と、を備えたレーダ装置において、上記送信手段は、連続波を送信し、上記受信手段は、上記アンテナからの受信信号に上記送信信号を混合してビート信号を発生する混合手段を備え、上記信号処理手段は、上記ビート信号をフーリエ変換する解析手段と、該解析手段の解析結果から、周波数スペクトルのピークを検出し、その周波数を特定するピーク検出手段と、上記解析手段の解析結果から、上記ピークとなる周波数成分の位相あるいは振幅の少なくとも一方を検出値として特定する検出値特定手段と、上記解析手段,ピーク検出手段,検出値特定手段が上記ビート信号毎に特定する上記検出値の差に基づき、物標の方位を算出する方位算出手段と、を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】 上記送信手段は、複数の周波数成分を含んだ送信信号を発生し、上記受信手段は、ビート信号を上記送信信号の周波数成分毎に分離する分離手段を備え、上記解析手段,ピーク検出手段,検出値特定手段は、上記ビート信号毎、且つ上記送信信号の周波数成分毎に上記検出値を特定し、上記方位算出手段は、上記送信信号の同一周波数成分について上記ビート信号毎に特定される検出値の差に基づき、物標の方位を算出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】 上記送信手段は、上昇部及び下降部からなる三角波状の変調信号により周波数変調された送信信号を発生し、上記受信手段は、ビート信号を上記送信信号の上昇部及び下降部毎に分離する分離手段を備え、上記解析手段,ピーク検出手段,検出値特定手段は、上記ビート信号毎、且つ上記送信信号の上昇部及び下降部毎に上記検出値を特定し、上記方位算出手段は、上記送信信号の上昇部或は下降部のいずれか一方について上記ビート信号毎に特定される検出値の差に基づき、物標の方位を算出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】 上記受信手段は、一列に並んだ少なくとも3つのアンテナを有すると共に、上記混合手段は該アンテナからの受信信号毎にビート信号を生成し、更に、該混合手段が生成するビート信号の中から、任意の隣接する2つのアンテナからの受信信号に基づく一対のビート信号を選択して出力するビート信号選択手段を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項5】 上記受信手段は、一列に並んだ少なくとも3つのアンテナを有すると共に、該アンテナからの受信信号の中から、任意の隣接する2つのアンテナから得られる一対の受信信号を選択して出力する受信信号選択手段を備え、上記混合手段は、上記受信信号選択手段の出力毎にビート信号を生成することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項6】 上記混合手段は、複数の受信信号を時分割で多重化する信号多重化手段と、該信号多重化手段により多重化された受信信号に上記送信信号を混合するミキサと、信号多重化手段と同期して動作し、上記ミキサの出力を分離する信号分離手段と、該信号分離手段により分離された信号毎に、該信号の断続的な波形を連続的な波形に再生することによりビート信号を生成する信号再生手段と、を備え、上記混合手段は、複数の受信信号で上記ミキサを共用することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項7】 上記受信手段は、上記信号処理手段に供給するビート信号毎に、該ビート信号の周波数帯域を制限する帯域制限手段を有し、更に、上記受信手段に、上記帯域制限手段毎に、該帯域制限手段に対応するビート信号或は所定の基準信号のいずれかを供給する信号切換手段と、を設けると共に、上記信号処理手段に、該信号切換手段により上記帯域制限手段に上記基準信号が供給されている時に、上記信号処理手段にて求められる上記検出値を校正値として記憶する校正値記憶手段を設け、上記方位算出手段は、上記ビート信号毎に特定される検出値を、上記校正値記憶手段が記憶する校正値により校正し、該校正された検出値を用いて物標の方位を算出することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項8】 請求項7に記載のレーダ装置において、上記混合手段が出力するビート信号のいずれか一つを、上記基準信号として用いることを特徴とするレーダ装置。
【請求項9】 請求項7に記載のレーダ装置において、上記ビート信号とほぼ等しい周波数成分を有する信号を生成する信号生成手段を設け、該信号生成手段が生成する信号を上記基準信号として用いることを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図15】
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【図17】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図12】
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【図23】
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【図8】
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【図9】
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【図16】
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【図18】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【図21】
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【図13】
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【図19】
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【図20】
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【図22】
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【公開番号】特開平9−152478
【公開日】平成9年(1997)6月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−192307
【出願日】平成8年(1996)7月22日
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)