説明

レール破断検知方法及びレール破断検知システム

【課題】環流電気経路中のレール破断の発生を確実に検知して、列車運行の安全性を確保すること。
【解決手段】レール破断検知システム1の各軌道回路において、送信部50は、自軌道回路の識別情報である軌道回路IDを軌道回路信号に含めて送信し、受信部20は、送信部50により送信された軌道回路信号を受信する。受信部20は、受信信号の中から、自軌道回路及び環流電気経路内の他軌道回路に割り当てられた周波数の信号を抽出する。そして、抽出した信号の信号レベルを検出して、処理部30に出力する。処理部30は、受信部20から出力される他軌道回路の周波数の信号の信号レベルが所定の許容レベルを超過している場合は、当該信号に対して復調処理を行って軌道回路IDを取得し、取得した軌道回路IDの他軌道回路に異常が発生しているものと推定する。そして、通信部40は、当該軌道回路IDの他軌道回路に異常推定信号を送信することで、レール破断の発生可能性を通知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レール破断検知方法及びレール破断検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
軌道回路は、当該軌道回路内に列車が進入した際に、車両の車輪及び車軸でなる輪軸によって左右のレール間が短絡されることにより、当該軌道回路の送端側から送出された信号の軌道回路の受信側での受電レベルが低下することを利用して、当該軌道回路内に列車が在線していることを検知する装置である。受電レベルの低下の検出には、軌道リレーを用いるものが知られている。
【0003】
また、軌道回路は、送電機器の故障や停電、電線の断線、レール破断等の事象が発生した場合であってもフェールセーフ性が確保されるように設計されている。すなわち、上述した事象が発生した場合は、信号の伝送路が開放状態となるため、軌道回路の受信側で検出される受電レベルが低下し、在線ありと判断される。そして、この場合は、信号機に停止信号を現示させる制御がなされるため、当該軌道回路内への列車の進入が抑止され、安全側の制御が実現される。
【0004】
列車運行の保安に関連する技術として、例えば特許文献1には、三線式軌道回路においてレール破断を検知するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−53134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、レール破断等の事象が発生すると、前述したように信号の伝送路が開放状態となり、軌道回路の受信側で検出される受電レベルが低下する。しかしながら、1つの軌道回路内で形成される送信側と受信側間の電気経路以外の他の電気経路(以下、「迂回路」という。)が存在すると、当該電気経路を信号が流れてしまい、受信側で検出される受電レベルが十分に低下しない場合がある。換言すると、レール破断が発生した部分以外の電気的な導通部分が存在する場合は、当該導通部分を迂回して信号が流れてしまい、受電レベルが下がりきらない場合がある。
【0007】
例えば、2箇所のクロスボンドと、併設する2組の線路とによって形成される環状の電気経路(以下、「環流電気経路」という。)が迂回路の一例である。軌道回路の境界箇所には、レール絶縁をはさんで2組設けられることにより軌道回路の境界を電気的に保ちながら、帰線電流だけを隣接する軌道回路に流すインピーダンスボンドが設置されている。そして、一部のインピーダンスボンドには、電車電流の帰線回路抵抗を少なくし、併設する線路の電位差をなくすことを目的として、併設する線路間をインピーダンスボンドを介して接続するクロスボンドが構成されている。
【0008】
このクロスボンド2箇所と、併設する2組の線路とによって、環流電気経路が形成される。環流電気経路によって、当該環流電気経路を構成する各軌道回路では、受電側での受電レベルが十分に低下しないおそれがある。このため、クロスボンドを設ける場合には、一般に、少なくとも2軌道回路以上は離す方が良いとされている。しかしながら、当該環流電気経路での信号の減衰が少ない場合などは、単純にクロスボンドを2軌道回路以上離して設けさえすれば軌道リレーの安全・確実な動作を保証できるとは言えない。例えば、車両の軽量化等による短絡不良防止のために共振コンデンサを設置して、レール間電圧向上対策を施した箇所がそれである。受電レベルが下がりきらない事態が生ずれば、在線なしと判断されるため、当該区間への列車進入が許可される。この場合、当該区間に列車が進入すると脱線事故等が発生するおそれがあり、極めて危険である。
【0009】
本発明は上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、環流電気経路中のレール破断の発生を確実に検知して、列車運行の安全性を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するための第1の形態は、
レールを通じて送信部(例えば、図1及び図4の送信部50)から送信された軌道回路信号を受信部(例えば、図1及び図4の受信部20)で受信し、当該信号の受信状態に基づいて列車を検知する軌道回路(例えば、図1の軌道回路A1〜B2)が線路に沿って構成された併設する2本の線路(例えば、図1のA線路及びB線路)が、それぞれのインピーダンスボンド(例えば、図1のインピーダンスボンド901A〜923B)を介して2箇所で電気的に接続されることで形成される環流電気経路中のレール破断の発生を検知するレール破断検知方法であって、
前記環流電気経路中の各軌道回路は、
前記送信部が当該軌道回路の識別情報(例えば、図5の軌道回路ID311)を前記軌道回路信号に含めて送信し、
前記受信部により受信された信号の中から、他軌道回路の軌道回路信号を抽出する他回路信号抽出ステップ(例えば、図1及び図4の受信部20)と、
前記抽出された他軌道回路の軌道回路信号の信号レベルに基づいて、当該他軌道回路のレールの破断可能性を推定する推定ステップ(例えば、図6のステップA1)と、
前記抽出された他軌道回路の軌道回路信号に含まれる識別情報に基づいて当該他軌道回路を特定する特定ステップ(例えば、図6のステップA3)と、
前記推定ステップにおいて破断可能性有りと推定された場合に、前記特定ステップにおいて特定した他軌道回路に破断発生推定信号を通知する通知ステップ(例えば、図6のステップA7)と、
他軌道回路から当該軌道回路に向けて前記破断発生推定信号が通知されたことを取得する通知取得ステップ(例えば、図6のステップA11)と、
前記通知取得ステップの取得結果を用いて当該軌道回路におけるレール破断の発生を判定する破断判定ステップ(例えば、図6及び図7のステップA17〜A53)と、
を実行して、
前記環流電気経路中の各軌道回路それぞれにおけるレール破断の発生を検知するレール破断検知方法である。
【0011】
また、他の形態として、
レールを通じて送信部から送信された軌道回路信号を受信部で受信し、当該信号の受信状態に基づいて列車を検知する軌道回路が線路に沿って構成された併設する2本の線路が、それぞれのインピーダンスボンドを介して2箇所で電気的に接続されることで形成される環流電気経路中のレール破断の発生を検知するレール破断検知システム(例えば、図1のレール破断検知システム1)であって、
前記環流電気経路中の各軌道回路は、
前記送信部が当該軌道回路の識別情報を前記軌道回路信号に含めて送信し、
前記受信部により受信された信号の中から、他軌道回路の軌道回路信号を抽出する他回路信号抽出部(例えば、図1及び図4の受信部20)と、
前記抽出された他軌道回路の軌道回路信号の信号レベルに基づいて、当該他軌道回路のレールの破断可能性を推定する推定部(例えば、図1及び図4の処理部30)と、
前記抽出された他軌道回路の軌道回路信号に含まれる識別情報に基づいて当該他軌道回路を特定する特定部(例えば、図1及び図4の処理部30)と、
前記推定部により破断可能性有りと推定された場合に、前記特定部により特定された他軌道回路に破断発生推定信号を通知する通知部(例えば、図1及び図4の処理部30、通信部40)と、
他軌道回路から当該軌道回路に向けて前記破断発生推定信号が通知されたことを取得する通知取得部(例えば、図1及び図4の処理部30、通信部40)と、
前記通知取得部の取得結果を用いて当該軌道回路におけるレール破断の発生を判定する破断判定部(例えば、図1及び図4の処理部30)と、
を有し、
前記環流電気経路中の各軌道回路それぞれにおけるレール破断の発生を当該各軌道回路それぞれにおいて検知するレール破断検知システムを構成してもよい。
【0012】
この第1の形態等によれば、環流電気経路において、各軌道回路の送信部は、当該軌道回路の識別情報を軌道回路信号に含めて送信する。そして、受信部により受信された信号の中から、他軌道回路の軌道回路信号を抽出し、その信号レベルに基づいて、当該他軌道回路のレールの破断可能性を推定する。また、各軌道回路は、抽出された他軌道回路の軌道回路信号に含まれる識別情報に基づいて当該他軌道回路を特定し、破断可能性有りと推定された場合に、当該他軌道回路に破断発生推定信号を通知する。そして、他軌道回路から当該軌道回路に向けて破断発生推定信号が通知されたことを取得し、その取得結果を用いて当該軌道回路におけるレール破断の発生を判定する。
【0013】
環流電気経路に含まれる他軌道回路のレールに破断が発生すると、当該他軌道回路の軌道回路信号が環流電気経路を迂回して、自軌道回路に流入する。そのため、自軌道回路の受信部が受信した信号の中から他軌道回路の信号を抽出した結果、その信号レベルが高ければ、当該他軌道回路のレールに破断が発生していると推定することができる。この場合は、他軌道回路に破断発生推定信号を通知することで、当該他軌道回路にレールの破断可能性を知らしめることができる。他方、他軌道回路から破断発生推定信号の通知を受けたならば、自軌道回路はレールが破断している可能性があると判断して、自軌道回路のレール破断の有無を検査することが適切である。このように環流電気経路内の軌道回路が相互にレール破断の監視及び連絡を行うことで、環流電気経路中のレール破断を確実に検出して、列車運行の安全性を確保することができる。
【0014】
また、第2の形態として、第1の形態のレール破断検知方法であって、
前記環流電気経路中の各軌道回路は、
当該軌道回路の軌道回路信号の受信状態に基づいて当該軌道回路の信号機(例えば、図1の信号機A1−2〜B2−2)を制御する制御リレー部(例えば、図1及び図4の信号制御リレー部60)を備えており、
前記破断判定ステップにおいてレール破断の発生と判定された場合に、前記制御リレー部による前記信号機の制御状態に基づいて、当該軌道回路によるレール破断の検知が正常に機能しているか否かを診断する診断ステップ(例えば、図6のステップA19〜A23)を更に実行する、
レール破断検知方法を構成してもよい。
【0015】
この第2の形態によれば、環流電気経路中の各軌道回路は、当該軌道回路の軌道回路信号の受信状態に基づいて当該軌道回路の信号機を制御する制御リレー部を備えている。そして、レール破断の発生有りと判定された場合に、制御リレー部による信号機の制御状態に基づいて、当該軌道回路によるレール破断の検知が正常に機能しているか否かを診断する。
【0016】
レール破断が発生したと判定した場合に、信号機を停止現示とするように制御リレー部が動作しているのであれば、軌道回路によるレール破断の検知が正常に機能していると判断することができる。しかし、レール破断が発生したと判定したにも関わらず、信号機を停止現示とするように制御リレーが動作していないのであれば、軌道回路によるレール破断の検知が正常に機能していないと考えられる。この場合は、例えば所定の報知信号を発信したり、異常を報せるランプを点灯させる等して、軌道回路の検査を促す構成を有すると好適である。
【0017】
また、第3の形態として、第2の形態のレール破断検知方法であって、
前記環流電気経路中の各軌道回路は、
前記破断判定ステップにおいてレール破断の発生と判定され、且つ、前記制御リレー部が前記信号機を停止現示に制御していない場合に、前記信号機を停止現示に制御する現示制御ステップ(例えば、図7のステップA39、A47)を更に実行する、
レール破断検知方法を構成してもよい。
【0018】
この第3の形態によれば、レール破断の発生と判定され、且つ、制御リレー部が信号機を停止現示に制御していない場合に、信号機が停止現示に制御されるため、レール破断が発生した区間への列車の進入が抑止され、安全側の制御が実現される。
【0019】
また、第4の形態として、第1〜第3の何れかの形態のレール破断検知方法であって、
前記環流電気経路中の各軌道回路は、
前記受信部により受信された信号の中から、当該軌道回路の軌道回路信号を抽出する自回路信号抽出ステップ(例えば、図4の受信部20)と、
前記自回路信号抽出ステップにおいて抽出された軌道回路信号の信号レベルを履歴的に記憶する記憶ステップ(例えば、図4の処理部30;自回路信号レベル履歴情報37)と、
前記記憶ステップで記憶された信号レベルが所定の急低下条件を満たす変化をした後、継続して未回復状態にあることを検出する急低下検出ステップ(例えば、図7のステップA45)と、
を更に実行し、
前記破断判定ステップにおいて、前記通知検出ステップで検出した破断発生推定信号の通知元の他軌道回路が同一線路の当該軌道回路に隣接する他軌道回路の場合に、前記急低下検出ステップの検出があるときには当該軌道回路におけるレール破断の発生有りと判定し、検出が無いときには絶縁橋絡の発生有りと判定する(例えば、図7のステップA49、A53)、
レール破断検知方法を構成してもよい。
【0020】
この第4の形態によれば、環流電気経路中の各軌道回路は、受信部により受信された信号の中から、当該軌道回路の軌道回路信号を抽出し、その信号レベルを履歴的に記憶する。そして、記憶された信号レベルが所定の急低下条件を満たす変化をした後、継続して未回復状態にある旨の検出がなされ、且つ、破断発生推定信号の通知元の他軌道回路が同一線路の当該軌道回路に隣接する他軌道回路の場合に、当該軌道回路におけるレール破断の発生有りと判定し、検出が無いときには絶縁橋絡の発生有りと判定する。
【0021】
同一線路の当該軌道回路に隣接する他軌道回路から破断発生推定信号の通知を受けたのであれば、当該他軌道回路に自軌道回路の軌道回路信号が流入していることになり、自軌道回路のレールが破断しているか、自軌道回路と当該他軌道回路との境界に設けられた軌条絶縁が破壊される等して絶縁橋絡が発生していることが考えられる。レールが破断すると、その破断箇所で電気抵抗が高くなるため、自軌道回路内を信号が流れにくくなり、自軌道回路の軌道回路信号の信号レベルが低下する。しかも、破断箇所が修繕されるまでは信号レベルは低下したままであり、元の信号レベルに回復することはないため、信号レベルの低下及び未回復を検出することで、レール破断を検知することができる。一方、信号レベルの低下及び未回復が検出されない場合は、絶縁橋絡が発生して自軌道回路の軌道回路信号が流出していると判断することが妥当である。
【0022】
また、第5の形態として、第1〜第4の何れかの形態のレール破断検知方法であって、
前記破断判定ステップにおいて、前記通知検出ステップで検出した破断発生推定信号の通知元の他軌道回路が併設線路の他軌道回路又は同一線路の当該軌道回路に隣接しない他軌道回路の場合に、当該軌道回路におけるレール破断の発生有りと判定する(例えば、図7のステップA37;Yes、A41)、
レール破断検知方法を構成してもよい。
【0023】
この第5の形態によれば、破断発生推定信号の通知元の他軌道回路が併設線路の他軌道回路又は同一線路の当該軌道回路に隣接しない他軌道回路の場合に、当該軌道回路におけるレール破断の発生有りと判定する。併設線路の軌道回路から破断発生推定信号の通知を受けたのであれば、電気的に接続されたインピーダンスボンドを介して併設線路の軌道回路に自軌道回路の軌道回路信号が流入していることになるため、自軌道回路のレール破断が発生したものと判断することができる。また、同一線路の当該軌道回路に隣接しない他軌道回路から破断発生推定信号の通知を受けたのであれば、自軌道回路の軌道回路信号が環流電気経路を流れて当該他軌道回路に流入していることになるため、自軌道回路のレール破断が発生したものと判断することができる。
【0024】
また、第7の形態として、
レールを通じて送信部から送信された軌道回路信号を受信部で受信し、当該信号の受信状態に基づいて列車を検知する軌道回路が線路に沿って構成された併設する2本の線路が、それぞれのインピーダンスボンドを介して2箇所で電気的に接続されることで形成される環流電気経路中のレール破断の発生を検知するレール破断検知システムであって、
前記環流電気経路中の各軌道回路は、
前記送信部が当該軌道回路の識別情報を前記軌道回路信号に含めて送信し、
前記受信部により受信された信号の中から、他軌道回路の軌道回路信号を抽出する他回路信号抽出部を有し、
前記各軌道回路の前記他回路信号抽出部により抽出された軌道回路信号の信号レベルに基づいて、前記環流電気経路中の各軌道回路それぞれにおけるレール破断の発生を検知する制御装置(例えば、図8の集中制御装置100)を備えたレール破断検知システムを構成することも可能である。
【0025】
この第7の形態によれば、軌道回路のレール破断の検知の役割を、環流電気経路中の各軌道回路それぞれのレール破断の発生を検知するように構成された制御装置に担わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施形態におけるレール破断検知システムの概略構成図。
【図2】レール破断検知の原理の説明図。
【図3】信号レベルの時間変化の一例を示す図。
【図4】軌道回路の構成を示すブロック図。
【図5】環流電気経路情報のデータ構成例を示す図。
【図6】処理部が実行する処理の流れを示すフローチャート。
【図7】処理部が実行する処理の流れを示すフローチャート。
【図8】第2実施形態におけるレール破断検知システムの概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明に好適な実施形態の一例を説明する。但し、本発明を適用可能な実施形態がこれらに限定されるわけではない。
【0028】
1.第1実施形態
1−1.システム構成
図1は、第1実施形態におけるレール破断検知システム1の概略構成を示す図である。図面左方向を列車の進行方向とするA線路には軌道回路A1,A2,・・・が敷設されており、図面右方向を列車の進行方向とするB線路には軌道回路B1,B2,・・・が敷設されている。
【0029】
軌道回路は、2本のレールが列車の輪軸によって電気的に短絡されることを利用して在線検知を行う装置である。本実施形態では、軌道回路は閉電路式の軌道回路であり、1つの軌道回路及び1つの信号機を組み合わせた閉そく装置によって、1つの閉そく区間が構成されている。図1では、A線路の軌道回路A1,A2によって隣接する2つの閉そく区間が構成され、B線路の軌道回路B1,B2によって隣接する2つの閉そく区間が構成されている。
【0030】
軌道回路境界箇所には、左右レールの軌条絶縁間に2組のインピーダンスボンドが設置されている。インピーダンスボンドは、軌道回路境界を電気的に保ちながら、帰線電流だけを隣接する軌道回路に流すための装置である。図1では、A線路において、軌道回路A2と図面向かって右側に隣接する軌道回路との境界にインピーダンスボンド923Aが、軌道回路A2と軌道回路A1との境界にインピーダンスボンド912Aが、軌道回路A1と図面向かって左側に隣接する軌道回路との境界にインピーダンスボンド901Aが設置されている。同様に、B線路についても、軌道回路B1からB2の方向に向かって、インピーダンスボンド901B,912B及び923Bが順に設置されている。
【0031】
また、本実施形態では、A線路及びB線路の2本の線路が、それぞれのインピーダンスボンドの中性点を結ぶクロスボンド81,82によって電気的に接続されている。クロスボンドは、帰線電流の帰線回路抵抗を少なくし、併設線路の電位差をなくすことを目的として、併設線路の軌道間に接続されるボンドである。クロスボンドを2箇所以上設ける場合は、少なくとも2軌道回路以上離す方が良いとされている。そのため、本実施形態では、クロスボンドの配置間隔を2軌道回路としており、図1では、A線路のインピーダンスボンド901A及びB線路のインピーダンスボンド901Bを結ぶクロスボンド81と、A線路のインピーダンスボンド923A及びB線路のインピーダンスボンド923Bを結ぶクロスボンド82とが形成されている。本実施形態では、軌道回路A1,A2,B1,B2と、クロスボンド81,82とを備えた構成を、レール破断検知システム1という。
【0032】
レール破断検知システム1においては、軌道回路A1→A2→クロスボンド82→軌道回路B2→B1→クロスボンド81→軌道回路A1(勿論、逆方向でも良い)でなる環状の電気経路が構成される。この環状の電気経路のことを、本実施形態では「環流電気経路」という。軌道回路A1、A2、B2及びB1の左右のレールの一方に破断が発生すると、他方のレールを迂回して環流電気経路を軌道回路信号が流れてしまい、軌道回路の受信側での信号レベルが十分に低下しないことにより、軌道回路の軌道リレーが不正に動作する或いは動作しない場合がある。そのため、環流電気経路内の各軌道回路のレール破断の発生を確実に検知することが必要となる。
【0033】
本実施形態では、各軌道回路A1,A2,B1,B2は、それぞれ、レールでなる軌道と、当該軌道の一端に設けられたインピーダンスボンドの2次コイルに接続されて、送信部50から当該軌道に送信された信号を受信する受信部20と、軌道回路を統括的に制御してレール破断検知に係る各種処理を行う処理部30と、他の軌道回路や中央情報管理装置と通信を行う通信部40と、当該軌道の他端に設けられたインピーダンスボンドの2次コイルに接続されて当該軌道に軌道回路信号を送信する送信部50と、受信部20で受信される軌道回路信号の受信レベルに基づいて自軌道回路へ進入する列車に向けた信号機を制御する信号制御リレー部60とを備えて構成されている。
【0034】
本実施形態では、説明の便宜上、受信部20と、処理部30と、通信部40と、送信部50と、信号制御リレー部60とで軌道回路の制御装置10が構成されるものとして説明するが、それぞれが単独の装置として構成されてもよいし、受信部20と処理部30と通信部40とを一体的な装置として構成する等してもよいのは勿論である。図1では、軌道回路A1,A2,B1及びB2それぞれについて、制御装置A1−10,A2−10,B1−10,B2−10が構成されている。
【0035】
尚、図1において、制御装置10は、軌道回路との対応関係を分かり易く図示・説明するために、対応する軌道回路と一対一の関係となるよう実線囲みで示したが、実際に配置される際には、一点鎖線で囲って示したように、インピーダンスボンドを介して隣接する一方の軌道回路側の送信部と、他方の軌道回路側の処理部、通信部、受信部及び信号制御リレー部とが当該インピーダンスボンド近傍に設置される。
【0036】
本実施形態において、各軌道回路の送信部50は、各軌道回路に固有に割り当てられた識別コードである軌道回路ID(IDentification)を搬送するように所定の変調方式で変調した軌道回路信号をレールに送信する。変調方式としては、種々の方式を適用することが可能であるが、例えばデジタル変調の一種であるMSK(Minimum Shift Keying)変調を適用することができる。また、送信部50は、交流の軌道回路信号を発信するように構成されている。各軌道回路には軌道回路信号の周波数が割り当てられており、送信部50は、自軌道回路に割り当てられた周波数で軌道回路信号を送信する。本実施形態では、各軌道回路にはf1〜f3の3種類の何れかの周波数が割り当てられている。
【0037】
各軌道回路の周波数の割り当ては、次のようになっている。すなわち、同一の線路の隣接する軌道回路には異なる周波数が割り当てられる。また、環流電気経路において、クロスボンドによって接続される異なる線路の軌道回路同士(図1の例では、軌道回路A1とB1、軌道回路A2とB2)には、異なる周波数が割り当てられるように周波数が定められる。例えば、図1のクロスボンド81及び82で囲まれる環流電気経路において、軌道回路A1には軌道回路ID「A001」と周波数「f1」が、軌道回路A2には軌道回路ID「A002」と周波数「f2」が、軌道回路B1には軌道回路ID「B001」と周波数「f2」が、軌道回路B2には軌道回路ID「B002」と周波数「f1」がそれぞれ割り当てられている。
【0038】
信号制御リレー部60は、受信部20で検出される自軌道回路の軌道回路信号の受信レベルに基づいて、「扛上」又は「落下」する軌道リレー(以下、単に「リレー」ともいう。)を備えた回路部である。軌道リレーは、当該軌道回路へ進入する列車に向けた信号機2と接続されている。受信部20における受信信号の信号レベルが所定の落下判定信号レベルを超えている間は、信号制御リレー部60のリレーが扛上している。しかし、受信部20で受信される自軌道回路の信号の信号レベルが落下判定信号レベル以下となると、信号制御リレー部60のリレーが落下し、リレーに接続された信号機が停止現示となるように制御される。
【0039】
信号機2は、対応する閉そく区間(軌道回路)の入口に設置され、列車に対して当該閉そく区間への進入許否を示す信号を現示する。軌道回路A1には信号機A1−2が、軌道回路A2には信号機A2−2が、軌道回路B1には信号機B1−2が、軌道回路B2には信号機B2−2がそれぞれ接続されている。
【0040】
1−2.原理
図2は、本実施形態におけるレール破断検知の原理の説明図である。図2には、自軌道回路のリレーの状態と、他軌道回路からの異常推定信号の受信有無との対応関係を定めたテーブルを示しており、このテーブルを参照しながら、環流電気経路中のレール破断の検知の原理について説明する。尚、図2のテーブルにおいて、早急検査の欄には、本実施形態において異常を判断したことにより、早急な検査が必要なケースに「要」を示している。
【0041】
各軌道回路は、それぞれが、受信部20の受信信号レベルに基づいて、環流電気経路中のレール破断を検知する。具体的には、受信部20は、受信信号の中から周波数f1〜f3の信号をそれぞれ抽出し、抽出した信号の信号レベルを検出する。各周波数の信号の抽出は、例えば受信信号をフィルタに通過させることで実現する。
【0042】
自軌道回路の周波数以外の周波数の受信信号の信号レベルが所定の許容レベルを超過している場合は、自軌道回路を流れる信号に他軌道回路の信号が流入していることになり、且つ、当該他軌道回路のレール破断が発生している可能性が推定される。そこで、この場合は、受信信号に対して所定の復調処理を行うことで、当該他軌道回路を特定する。前述したように、各軌道回路の送信部40は、各軌道回路に固有に割り当てられた軌道回路IDを軌道回路信号に含めて発信している。従って、受信信号に対して復調処理を行って軌道回路IDを取得することで、レールの破断可能性のある軌道回路を特定することができる。そして、当該他軌道回路にレールの破断可能性を通知するため、当該他軌道回路に対して異常推定信号を送信する。
【0043】
一方、各軌道回路は、(A)異常推定信号の受信有無、(B)受信した異常推定信号の発信元の軌道回路の相対配置区分、(C)自軌道回路のリレー状態、といった複数の要素に基づいて、自軌道回路のレール破断の有無を判定する。そして、上述した判定結果に応じて、自信号機の制御や中央情報管理装置への検査要求等を行い、列車運行の安全性を確保する。
【0044】
ここで、軌道回路の相対配置区分とは、異常推定信号を受信した軌道回路と、異常推定信号の発信元の軌道回路との相対的な配置関係を示し、互いの軌道回路が同じ線路に配置されている場合には「同一線路」と称し、併設する線路に配置されている場合には「併設線路」と称する。また、同一線路の軌道回路のうち、隣接する軌道回路を「隣接軌道回路」と称し、隣接していない軌道回路を「非隣接軌道回路」と称する。
【0045】
(1)他の軌道回路から異常推定信号を受信していない場合
他の軌道回路から異常推定信号を受信していない場合は、自軌道回路にレール破断等の異常が発生している可能性は低いため、自軌道回路のリレーの状態に基づいて次のような判断を行う。すなわち、レールが破断したり、自軌道回路が故障していないのならば、自軌道回路を信号が正常に流れるため、自軌道回路の軌道回路信号の信号レベルは所定の落下判定信号レベルを超過し、信号制御リレー部60のリレーは扛上している。そのため、リレーが扛上していれば、レール破断なしと判断する。この場合、軌道回路によるレール破断の検知が正常に機能していると診断することができる。
【0046】
一方、自軌道回路の周波数の信号の信号レベルが落下判定信号レベル以下となると、信号制御リレー部60のリレーが落下する。従って、リレーが落下している場合は、自軌道回路に列車が在線しているか、自軌道回路にレール破断が発生したか、自軌道回路に故障が発生したものと判断する。
【0047】
尚、(1)の判断がなされた場合は、従来の軌道回路の回路動作に対する対処法と同様に、他系統の情報等と併せて人間(管理者等)が自軌道回路の検査有無を判断し、必要に応じて自軌道回路の検査を行う。
【0048】
(2)同一線路の隣接軌道回路から異常推定信号を受信した場合
同一線路の隣接軌道回路から異常推定信号を受信した場合は、隣接軌道回路に自軌道回路の軌道回路信号が流入しているものと考えられる。この場合は、自軌道回路のレールが破断して当該隣接軌道回路に信号が流入しているか、自軌道回路と当該隣接軌道回路との境界に設けられた軌条絶縁が破壊される等して絶縁橋絡が発生していることが考えられる。そこで、自軌道回路のリレーの状態に応じて次のように判断する。
【0049】
リレーが扛上している場合は、隣接する軌道回路から異常推定信号を受信してから過去一定時間内に受信レベルが一定レベル以上低下し、その後、信号レベルが未回復状態にあるか否かを判定する。隣接する軌道回路の隣接境界から異常推定信号を受信しているので、自軌道回路のレールが破断しているか、軌道回路境界の絶縁橋絡が発生していること等が考えられるが、当該条件を満たす場合は、絶縁橋絡の発生よりも、自軌道回路のレールが破断している可能性の方が高いと推定できる。レールに破断が生じて当該箇所に電流が流れない(あるいは、流れにくくなった)場合、迂回路が存在してリレーが落下しないとしても、受信レベルはある程度低下し、その状態が維持されると考えられるためである。
【0050】
また、この場合は、リレーが扛上しているため、自閉そく区間への列車の進入が許可されることになるが、レールが破断している可能性が高いため、自閉そく区間に列車の進入を許可するのは危険である。そこで、この場合は、自信号機に停止信号を現示させ、停止現示を維持させるように制御する。
【0051】
一方、上述した条件を満たさない場合は、レール破断の発生よりも、絶縁橋絡が発生している可能性の方が高いと推定できる。上述した条件が満たされていないためレール破断が発生したとは考えにくいが、隣接軌道回路からの異常推定信号を受信しているため、絶縁橋絡の疑いが高いからである。この場合は、今後不正に軌道回路のリレーが落下して列車遅延を引き起こす可能性があるので、該当する故障検知の情報を指令等に上げ、調査を促す必要がある。
【0052】
一方、リレーが落下している場合は、自閉そく区間に列車が在線していることも考えられる。しかし、隣接軌道回路によって自軌道回路のレールの破断可能性が推定されていることから、自軌道回路のレールに破断が発生していると判断する。この場合は、リレーが落下していることにより信号機は停止現示とされるため、自閉そく区間への列車の進入は抑止される。
【0053】
(2)の判断がなされた場合、列車をそのまま運行させることは事故につながるおそれがあり危険であるため、検査員に早急に自軌道回路のレールの検査を行わせることが適切である。そこで、この場合は、自軌道回路の検査の要求信号を中央情報管理装置に送信し、検査員に自軌道回路の早急検査を促す。
【0054】
(3)併設線路の軌道回路又は同一線路の非隣接軌道回路から異常推定信号を受信した場合
併設線路の軌道回路又は同一線路の非隣接軌道回路から異常推定信号を受信した場合は、これらの軌道回路に自軌道回路の信号が流入していることになり、自軌道回路が正常に動作していない可能性が高い。具体的には、自軌道回路のレールが破断し、クロスボンドを通じて自軌道回路の軌道回路信号が環流電気経路を流れることで、併設線路の軌道回路に自軌道回路の軌道回路信号が流入していることが考えられる。そこで、この場合は、リレーの状態に依らずに、自軌道回路にレール破断が発生したものと判断する。
【0055】
リレーが落下している場合は、自信号機が停止現示とされるため、自閉そく区間への列車の進入は抑止される。一方、リレーが扛上している場合は、自閉そく区間への列車の進入が許可される。しかし、自軌道回路にレール破断が発生している可能性が高いため、列車を自閉そく区間に進入させるのは危険である。従って、この場合は、自信号機に停止信号を現示させるように制御する。
【0056】
(3)の判断がなされた場合は、(2)の判断がなされた場合と同様に、自軌道回路の早急検査を検査員に促すため、検査の要求信号を中央情報管理装置に送信する。
【0057】
ここで、具体例を挙げて、軌道回路の異常検知の原理について説明する。図3は、自軌道回路の信号の受信レベルの時間変化の一例を示す図である。図3において、横軸は時間、縦軸は受信レベルをそれぞれ示している。また、リレーの落下判定信号レベルを「θ」で示している。
【0058】
列車が自閉そく区間に在線していない間は、自軌道回路の信号レベルは落下判定信号レベル「θ」を超えており、リレーが扛上している。その後、時刻「t1」に自閉そく区間に列車が進入すると、列車の輪軸によって自軌道回路が短絡されることで信号レベルが低下し、落下判定信号レベル「θ」よりも低下してリレーが落下する。そして、時刻「t2」に列車が自閉そく区間を通過すると、信号レベルは再び元のレベルまで復帰し、リレーは扛上する。この場合は、上述した(1)の判断により、レール破断なしと判断することができる。
【0059】
その後、同様に、時刻「t3」に自閉そく区間に列車が進入し、時刻「t4」に列車が自閉そく区間を通過したことにより、時刻「t3」〜「t4」までの期間は、信号レベルが落下判定信号レベル「θ」よりも低下してリレーが落下し、時刻「t4」の後はリレーが扛上する。この場合も、上述した(1)の判断により、レールの破断なしと判断する。
【0060】
その後、時刻「t5」に自軌道回路にレール破断が発生したものとする。この場合、レール破断によって自軌道回路を流れる軌道回路信号の信号レベルが低下する。仮に、信号レベルが落下判定信号レベル「θ」よりも低くなれば、リレーは落下した状態となり、その状態が維持される。そのため、上述した(1)の判断により、レール破断が発生したと判断することができる。しかし、レール破断の程度によっては、信号レベルが必ずしも落下判定信号レベル「θ」よりも低くなるとは限らず、図3に示すように信号レベルが僅かに低下するものの、落下判定信号レベル「θ」よりも高い状態が維持される場合がある。
【0061】
この場合は、同一線路の隣接軌道回路によって、自軌道回路のレール破断の可能性が推定され、隣接軌道回路が、自軌道回路に異常発生推定信号を送信する。そして、自軌道回路が、時刻「t6」に隣接軌道回路から異常推定信号を受信したとすると、時刻「t6」から遡って過去一定時間「Δt」の間に信号レベルの低下があり、その後、信号レベルが未回復の状態となっているか否かを判定する。図3を見ると、過去一定時間「Δt」に含まれる時刻「t5」において信号レベルの低下があり、その後、時刻「t6」まで信号レベルが未回復であるため、上述した(2)の判断により、レール破断が発生していると判断する。このような判断により、信号レベルが落下判定信号レベルよりも低くならない場合であっても、自軌道回路のレール破断を確実に検知することができる。
【0062】
1−3.機能構成
図4は、レール破断検知システム1に含まれる軌道回路の制御装置10としての機能構成を示すブロック図である。制御装置10は、受信部20と、処理部30と、通信部40と、送信部50と、信号制御リレー部60とを備えて構成される。
【0063】
受信部20は、自軌道回路を流れる信号を受信する受信回路であり、例えば受信信号の中から周波数f1〜f3の帯域の信号を濾波する帯域通過フィルタと、帯域通過フィルタを通過した信号をデジタル信号に変換するA/D変換部とを備えて構成されている。本実施形態では、このデジタル信号を復調する処理を処理部30が行うこととして説明するが、デジタル信号を復調する復調部を受信部20が備える構成としてもよいのは勿論である。また、受信部20は、受信信号の信号レベルを判定する信号レベル判定部を備え、判定した自軌道回路の周波数の軌道回路信号の信号レベルを信号制御リレー部60に出力する。
【0064】
処理部30は、軌道回路を統括的に制御する処理回路であり、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサで構成され、制御処理プログラムに従って図6及び図7で示される制御処理を実行する。受信部20でA/D変換された受信信号を復調する処理も処理部30が実行する。処理部30は記憶部を備えており、記憶部には、制御処理プログラムの他、例えば、環流電気経路情報31と、リレー状態33と、異常推定信号受信情報35と、自回路信号レベル履歴情報37とが記憶される。
【0065】
図5は、環流電気経路情報31のデータ構成例を示す図である。環流電気経路情報31は、レール破断検知システム1に含まれる各軌道回路、すなわち環流電気経路を構成する各軌道回路に関する情報であり、当該軌道回路に割り当てられた軌道回路ID311及び周波数313と、当該軌道回路が設けられている線路の種別315と、当該軌道回路の自他識別317とが対応付けて記憶されている。自他識別317には、当該軌道回路が自軌道回路である場合は「自」、他軌道回路である場合は「他」が記憶される。
【0066】
リレー状態33は、信号制御リレー部60の現在の軌道リレーの状態であり、「扛上」、「落下」の何れかが記憶される。
【0067】
異常推定信号受信情報35は、他軌道回路から受信した異常推定信号に関する情報であり、異常推定信号の受信の有無と、受信有りの場合は当該異常推定信号の発信元の軌道回路の軌道回路IDが記憶される。
【0068】
自回路信号レベル履歴情報37は、受信部20で検出される自軌道回路の信号レベルを時系列に記録した、信号レベルの履歴情報である。処理部30は、受信部20で検出された自軌道回路の信号レベルを随時、自回路信号レベル履歴情報37に記録する処理を行う。
【0069】
通信部40は、処理部30の制御に従って、他軌道回路や中央情報管理装置等の外部装置との間で有線通信又は無線通信を行う通信装置である。この機能は、例えば、有線通信用のモジュールや、IEEE802.11による無線LANやスペクトラム拡散方式による無線通信等の無線通信モジュール等により実現される。
【0070】
送信部50は、自軌道回路に割り当てられた周波数313の信号を搬送波として、自軌道回路の軌道回路ID311を所定の変調方式で変調した軌道回路信号を、所定の信号レベルで自軌道回路の軌道に送信する送信回路である。
【0071】
信号制御リレー部60は、自軌道回路を流れる軌道回路信号の受信部20で検出される信号レベルに応じて動作する軌道リレーを備えた回路部である。信号制御リレー部60は、自信号機と接続されている。
【0072】
1−4.処理の流れ
図6及び図7は、軌道回路の処理部30が行う制御処理の流れを示すフローチャートである。先ず、処理部30は、受信部20から出力される信号レベルに基づいて、自軌道回路の周波数以外の周波数の受信信号レベルが所定の許容レベルを超過したか否かを判定する(ステップA1)。超過したと判定した場合は(ステップA1;Yes)、受信信号の復調処理を行って(ステップA3)、当該受信信号に含まれる軌道回路IDを取得することで、発信元の軌道回路を特定する。
【0073】
次いで、処理部30は、記憶部の環流電気経路情報31を参照し、当該信号の発信元の軌道回路の軌道回路ID311がレール破断検知システム1に含まれる軌道回路として既知であるか否かを判定する(ステップA5)。そして、既知であると判定した場合は(ステップA5;Yes)、通信部40を介して当該発信元回路に異常推定信号を送信する(ステップA7)
【0074】
また、発信元回路の軌道回路ID311が不明であると判定した場合は(ステップA5;No)、環流電気経路を構成しない環流電気経路外の軌道回路からの信号を受信したと判定して、処理部30は、軌道回路検査「要」と判定し、通信部40を介して軌道回路の検査要求を中央情報管理装置に送信する検査要求報知処理を行う(ステップA9)。
【0075】
ステップA7又はA9の処理の後、又は、ステップA1において受信信号レベルが許容レベル以下であると判定した場合(ステップA1;No)、処理部30は、他の軌道回路から異常推定信号を受信したか否かを判定する(ステップA11)。そして、受信したと判定した場合は(ステップA11;Yes)、記憶部の異常推定信号受信情報35を更新する(ステップA13)。
【0076】
その後、処理部30は、信号制御リレー部60のリレーの状態に基づいて、記憶部のリレー状態33を更新する(ステップA15)。そして、処理部30は、異常推定信号受信情報35を参照して異常推定信号が「受信あり」であるか否かを判定し(ステップA17)、「受信なし」であると判定した場合は(ステップA17;No)、リレー状態33が落下であるか否かを判定する(ステップA19)。
【0077】
リレー状態33が落下であると判定した場合は(ステップA19;Yes)、処理部30は、在線判定を行う(ステップA21)。具体的には、軌道回路の信号現示等に基づいて在線の有無を判断する。
【0078】
処理部30は、ステップA21において在線なしであると判定した場合は(ステップA23;No)、自軌道回路にレール破断が発生したか、又は、自軌道回路が故障したものと判定して、通信部40を介して中央情報管理装置に異常を報知する異常報知処理を行う(ステップA25)。そして、処理部30は、自信号機の現示を停止現示に維持させて(ステップA27)、そのまま待機する。すなわち、自軌道回路が検査されてリセットされるまで状態を維持する。
【0079】
また、ステップA19においてリレー状態33が落下ではなく「扛上」であると判定した場合(ステップA19;No)、又は、ステップA23において在線ありであると判定した場合は(ステップA23;Yes)、処理部30は、ステップA1に戻る。
【0080】
一方、ステップA17において異常推定信号の「受信あり」であると判定した場合は(ステップA17;Yes)、処理部30は、軌道回路の検査「要」と判定し、通信部40を介して中央情報管理装置に検査要求信号を送信する検査要求報知処理を行う(ステップA29)。
【0081】
そして、処理部30は、リレー状態33が「落下」であるか否かを判定し(ステップA31)、「落下」であると判定した場合は(ステップA31;Yes)、自軌道回路にレール破断が発生したと判定して、通信部40を介して中央情報管理装置に異常を報知する異常報知処理を行う(ステップA33)。そして、処理部30は、自信号機の現示を停止現示に維持させて(ステップA35)、そのまま待機する。すなわち、自軌道回路が検査されてリセットされるまで状態を維持する。
【0082】
また、リレー状態33が落下ではなく「扛上」であると判定した場合は(ステップA31;No)、処理部30は、受信した異常推定信号の発信元が併設線路の軌道回路又は同一線路の非隣接軌道回路であるか否かを判定する(ステップA37)。そして、併設線路の軌道回路又は同一線路の非隣接軌道回路であると判定した場合は(ステップA37;Yes)、自信号機の現示を停止現示とするように制御する(ステップA39)。
【0083】
そして、処理部30は、自軌道回路にレール破断が発生したと判定して、通信部40を介して中央情報管理装置に異常を報知する異常報知処理を行う(ステップA41)。そして、処理部30は、自信号機の現示を停止現示に維持させて(ステップA43)、そのまま待機する。すなわち、自軌道回路が検査されてリセットされるまで状態を維持する。
【0084】
また、ステップA37において、受信した異常推定信号の発信元が併設線路の軌道回路でも同一線路の非隣接軌道回路でもなく、同一線路の隣接軌道回路であると判定した場合は(ステップA37;No)、処理部30は、受信レベルの低下が発生したか否かを判定する(ステップA45)。そして、発生したと判定した場合は(ステップA45;Yes)、自信号機を停止現示とするように制御する(ステップA47)。
【0085】
そして、処理部30は、自軌道回路のレール破断の可能性ありと判定し、通信部40を介して中央情報管理装置に異常を報知する異常報知処理を行う(ステップA49)。そして、処理部30は、自信号機の停止現示を維持させて(ステップA51)、そのまま待機する。すなわち、自軌道回路が検査されてリセットされるまで状態を維持する。
【0086】
また、ステップA45において受信レベルの低下が発生しなかったと判定した場合は(ステップA45;No)、処理部30は、自軌道回路と隣接軌道回路との間に絶縁橋絡が発生したものと判定し、通信部40を介して中央情報管理装置に異常を報知する異常報知処理を行う(ステップA53)。そして、処理部30は、ステップA1に戻る。
【0087】
1−5.作用効果
レール破断検知システム1では、併設するA線路及びB線路それぞれに線路に沿って軌道回路が連続的に設けられており、軌道回路の境界部分に設けられたインピーダンスボンドがクロスボンドによって2箇所で電気的に接続されることで、環流電気経路が構成されている。環流電気経路内の各軌道回路は、送信部50が、自軌道回路の識別情報である軌道回路IDを軌道回路信号に含めて軌道に送信しており、受信部20は、送信部50により送信された軌道回路信号を受信する。
【0088】
受信部20は、受信信号の中から、自軌道回路に割り当てられた周波数の信号及び環流電気経路内の他軌道回路に割り当てられた周波数の信号を抽出する。そして、抽出した信号の信号レベルを検出して、処理部30に出力する。処理部30は、受信部20から出力される他軌道回路の周波数の信号の受信レベルが所定の許容レベルを超過している場合は、当該信号に対して復調処理を行って軌道回路IDを取得し、レールの異常発生可能性のある他軌道回路を特定する。そして、処理部30は、特定した他軌道回路に異常推定信号を送信する。
【0089】
一方、自軌道回路は、他軌道回路からの異常推定信号の有無、異常推定信号の発信元の軌道回路の相対配置区分、及び、自軌道回路の軌道リレーの状態に基づいて、自軌道回路のレール破断の有無を判定する。具体的には、他軌道回路から異常推定信号を受信していない場合は、自軌道回路の信号制御リレー部60のリレーの状態に基づいて、レール破断の有無を判定する。すなわち、リレーが扛上している場合は、自軌道回路に異常なし、リレーが落下している場合は、在線、レール破断、自軌道回路の故障の何れかであると判定する。
【0090】
また、異常推定信号を受信した軌道回路が同一線路の隣接軌道回路の場合は、自軌道回路のリレーが落下していれば、レール破断と判定する。リレーが扛上している場合は、過去一定期間内に自軌道回路の軌道回路信号の信号レベルが低下した後、未回復状態である場合に、レール破断の可能性ありと判断し、自信号機に停止信号を現示させるように制御する。また、上述した条件を検出しなかった場合は、自軌道回路と隣接軌道回路との間の絶縁橋絡の可能性ありと判断する。そして、この場合は、今後不正に自軌道回路のリレーが落下して列車遅延を引き起こすことのないよう、中央情報管理装置に絶縁橋絡の検知を通知するなどして、検査員に調査を促す。
【0091】
また、異常推定信号を受信した軌道回路が併設線路の軌道回路又は同一線路の非隣接軌道回路である場合は、自軌道回路のリレーの状態に関わらず、レール破断と判定する。そして、リレーが扛上している場合は、自信号機に停止信号を現示させた後、その状態を維持させるように制御し、リレーが落下している場合は、自信号機の停止現示を維持させるように制御する。
【0092】
このように、自軌道回路の受信側で検出される信号のうち、自軌道回路の周波数の信号ばかりでなく、他軌道回路の周波数の信号の信号レベルを監視することで、他軌道回路のレールの破断可能性を適切に推定することができる。また、レールの破断可能性を推定した場合は、受信信号に対して復調処理を行って軌道回路IDを取得することで、破断可能性のある他軌道回路を特定する。そして、当該他軌道回路に異常推定信号を送信することで、当該他軌道回路にレールの破断可能性を知らしめることができる。
【0093】
他方、他軌道回路から異常推定信号を受信した場合は、軌道回路は、自軌道回路のレールに異常が発生している可能性があることを知ることができ、自軌道回路の周波数の信号の信号レベルを詳細に調べることで、自軌道回路のレール破断発生の有無を把握することができる。そして、レールが破断していると判断した場合であって、自軌道回路のリレーが落下していない場合は、自信号機に停止信号を現示させて自閉そく区間への列車の進入を抑止することで、フェールセーフの原則を守ることができる。また、この場合は、中央情報管理装置に検査要求を通知することで、検査員による早急なレールの検査を促すことができる。
【0094】
2.第2実施形態
図8は、第2実施形態におけるレール破断検知システム3の概略構成図である。第1実施形態で説明したレール破断検知システム1は、環流電気経路に含まれる各軌道回路が、それぞれの軌道回路のレール破断を検知するが、第2実施形態のレール破断検知システム3では、集中制御装置100が、環流電気経路に含まれる各軌道回路の異常を検知する。
【0095】
集中制御装置100は、集中制御装置及び各軌道回路を統括的に制御し、各軌道回路のレール破断の発生を検知する処理を行う処理部110と、中央情報管理装置等の他の外部装置と通信を行うための通信部120とを備えている。また、集中制御装置100には、環流電気経路に含まれる各軌道回路それぞれについて、当該軌道回路の受信部20と、送信部50と、信号制御リレー部60とが設置されている。
【0096】
集中制御装置100の処理部110は、各軌道回路の受信部20から入力した信号に対して信号処理を行って周波数f1〜f3の信号を抽出し、各周波数の信号の信号レベルを検出する。そして、処理部110は、第1実施形態で説明した原理に従って、各軌道回路のレール破断の発生を検知する。尚、各軌道回路の受信部20が受信信号に対して信号処理を行い、各周波数の信号の信号レベルを検出して処理部110に出力するように構成してもよいし、処理部110が受信部20から受信信号を入力し、信号処理を行って各周波数の信号の信号レベルを検出するように構成してもよい。
【0097】
各軌道回路の信号制御リレー部60は、受信部20の他に、処理部110とも接続されている。処理部110は、軌道回路のレール破断を検知すると、当該軌道回路の信号制御リレー部60に制御信号を出力して、リレーを落下させて信号を停止現示とし、停止現示を維持するように制御する。すなわち、軌道リレーが落下した状態を維持するように制御する。そして、処理部110は、レール破断発生を表示するなどして、検査員による当該軌道回路の検査を促す。
【0098】
このようなレール破断検知システム3は、例えば駅構内の軌道回路のレール破断の検知に適用することが好適である。駅構内では、発着番線が多く、線路が複雑に入り組んでいることから、軌道回路の配置も複雑であり、信号の迂回路が形成され易い。そのため、駅構内でレール破断が発生すると、同一線路の隣接軌道回路や併設線路の軌道回路を迂回して軌道回路信号が流れてしまい、軌道回路で検出される信号レベルが十分に低下しない場合がある。そこで、駅構内に設置された軌道回路や信号機、転てつ機などの鉄道保安設備の集中制御を行う集中制御装置に、各軌道回路のレール破断の検知の役割を担わせ、集中制御装置が主体となって安全側の制御を行うことが好適である。
【0099】
3.他の適用例
3−1.適用システム
上述した実施形態では、2本の線路がクロスボンドで接続されることにより構成される環流電気経路に着目し、当該環流電気経路内の軌道回路のレール破断の発生を検知するシステムを例に挙げて説明した。しかし、これ以外にも、2本の線路がインピーダンスボンドを介して2箇所で電気的に接続されることで環流電気経路が形成される形態であれば本発明を適用可能である。
【0100】
例えば、変電所設備の近傍の区間においては、上述した環流電気経路が形成される場合がある。架線に直流電力が印加される直流変電所近傍の区間がその一例である。直流変電所は、電力会社から供給される交流特別高圧又は高圧を変圧器で降圧し、整流器で直流変換して架線に直流電力を印加する。この際、接地側の電圧としてインピーダンスボンドを介した基線電圧を基準として架線に直流電力を印加する。併設線路それぞれに設けられた複数箇所のインピーダンスボンドが電気的に接続されることになるため、環流電気経路を構成する場合がある。このような区間についても本発明を適用することで、軌道回路の不正な動作を防止し、列車運行の安全性を確保することができる。
【0101】
また、上述した実施形態では、クロスボンドの配置間隔を2軌道回路とした場合における環流電気経路中のレール破断の発生の検知を一例として説明したが、クロスボンドの配置間隔を3軌道回路以上とした場合における環流電気経路中のレール破断の発生の検知についても同様である。
【0102】
3−2.軌道回路IDの抽出
上述した実施形態では、各軌道回路において、軌道回路信号を復調する処理を処理部30が行うものとして説明したが、軌道回路信号を復調する復調部を受信部20に設け、受信部20が他軌道回路の軌道回路IDを抽出する構成としてもよい。
【0103】
また、送信部50に受信機能を設けるとともに復調部を設け、送信部50が軌道回路IDを抽出する構成とすることも可能である。この場合、送信部50は、自軌道回路IDを含む軌道回路信号を自軌道回路の軌道に送信するとともに、自軌道回路を流れる信号を受信・復調して、他軌道回路の軌道回路IDを抽出する。これにより、受信部20の機能の一部を送信部50に担わせることができる。
【0104】
他には、受信部20がインピーダンスボンドの2次コイル部分で受信した信号ではなく、環流電気経路中の他の部分で検出される信号から軌道回路IDを抽出する構成とすることも可能である。例えば、インピーダンスボンドの中性点やクロスボンドに、軌道回路信号を検出するためのセンサ(例えば電流センサ)を接続する。そして、当該センサにより検出された信号を復調して、他軌道回路の軌道回路IDを抽出する。
【符号の説明】
【0105】
1、3 レール破断検知システム
2 信号機
10 軌道回路制御装置
20 受信部
30 処理部
40 通信部
50 送信部
60 信号制御リレー部
A,B 線路
A1,A2,B1,B2 軌道回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールを通じて送信部から送信された軌道回路信号を受信部で受信し、当該信号の受信状態に基づいて列車を検知する軌道回路が線路に沿って構成された併設する2本の線路が、それぞれのインピーダンスボンドを介して2箇所で電気的に接続されることで形成される環流電気経路中のレール破断の発生を検知するレール破断検知方法であって、
前記環流電気経路中の各軌道回路は、
前記送信部が当該軌道回路の識別情報を前記軌道回路信号に含めて送信し、
前記受信部により受信された信号の中から、他軌道回路の軌道回路信号を抽出する他回路信号抽出ステップと、
前記抽出された他軌道回路の軌道回路信号の信号レベルに基づいて、当該他軌道回路のレールの破断可能性を推定する推定ステップと、
前記抽出された他軌道回路の軌道回路信号に含まれる識別情報に基づいて当該他軌道回路を特定する特定ステップと、
前記推定ステップにおいて破断可能性有りと推定された場合に、前記特定ステップにおいて特定した他軌道回路に破断発生推定信号を通知する通知ステップと、
他軌道回路から当該軌道回路に向けて前記破断発生推定信号が通知されたことを取得する通知取得ステップと、
前記通知取得ステップの取得結果を用いて当該軌道回路におけるレール破断の発生を判定する破断判定ステップと、
を実行して、
前記環流電気経路中の各軌道回路それぞれにおけるレール破断の発生を検知するレール破断検知方法。
【請求項2】
前記環流電気経路中の各軌道回路は、
当該軌道回路の軌道回路信号の受信状態に基づいて当該軌道回路の信号機を制御する制御リレー部を備えており、
前記破断判定ステップにおいてレール破断の発生と判定された場合に、前記制御リレー部による前記信号機の制御状態に基づいて、当該軌道回路によるレール破断の検知が正常に機能しているか否かを診断する診断ステップを更に実行する、
請求項1に記載のレール破断検知方法。
【請求項3】
前記環流電気経路中の各軌道回路は、
前記破断判定ステップにおいてレール破断の発生と判定され、且つ、前記制御リレー部が前記信号機を停止現示に制御していない場合に、前記信号機を停止現示に制御する現示制御ステップを更に実行する、
請求項2に記載のレール破断検知方法。
【請求項4】
前記環流電気経路中の各軌道回路は、
前記受信部により受信された信号の中から、当該軌道回路の軌道回路信号を抽出する自回路信号抽出ステップと、
前記自回路信号抽出ステップにおいて抽出された軌道回路信号の信号レベルを履歴的に記憶する記憶ステップと、
前記記憶ステップで記憶された信号レベルが所定の急低下条件を満たす変化をした後、継続して未回復状態にあることを検出する急低下検出ステップと、
を更に実行し、
前記破断判定ステップにおいて、前記通知検出ステップで検出した破断発生推定信号の通知元の他軌道回路が同一線路の当該軌道回路に隣接する他軌道回路の場合に、前記急低下検出ステップの検出があるときには当該軌道回路におけるレール破断の発生有りと判定し、検出が無いときには絶縁橋絡の発生有りと判定する、
請求項1〜3の何れか一項に記載のレール破断検知方法。
【請求項5】
前記破断判定ステップにおいて、前記通知検出ステップで検出した破断発生推定信号の通知元の他軌道回路が併設線路の他軌道回路又は同一線路の当該軌道回路に隣接しない他軌道回路の場合に、当該軌道回路におけるレール破断の発生有りと判定する、
請求項1〜4の何れか一項に記載のレール破断検知方法。
【請求項6】
レールを通じて送信部から送信された軌道回路信号を受信部で受信し、当該信号の受信状態に基づいて列車を検知する軌道回路が線路に沿って構成された併設する2本の線路が、それぞれのインピーダンスボンドを介して2箇所で電気的に接続されることで形成される環流電気経路中のレール破断の発生を検知するレール破断検知システムであって、
前記環流電気経路中の各軌道回路は、
前記送信部が当該軌道回路の識別情報を前記軌道回路信号に含めて送信し、
前記受信部により受信された信号の中から、他軌道回路の軌道回路信号を抽出する他回路信号抽出部と、
前記抽出された他軌道回路の軌道回路信号の信号レベルに基づいて、当該他軌道回路のレールの破断可能性を推定する推定部と、
前記抽出された他軌道回路の軌道回路信号に含まれる識別情報に基づいて当該他軌道回路を特定する特定部と、
前記推定部により破断可能性有りと推定された場合に、前記特定部により特定された他軌道回路に破断発生推定信号を通知する通知部と、
他軌道回路から当該軌道回路に向けて前記破断発生推定信号が通知されたことを取得する通知取得部と、
前記通知取得部の取得結果を用いて当該軌道回路におけるレール破断の発生を判定する破断判定部と、
を有し、
前記環流電気経路中の各軌道回路それぞれにおけるレール破断の発生を当該各軌道回路それぞれにおいて検知するレール破断検知システム。
【請求項7】
レールを通じて送信部から送信された軌道回路信号を受信部で受信し、当該信号の受信状態に基づいて列車を検知する軌道回路が線路に沿って構成された併設する2本の線路が、それぞれのインピーダンスボンドを介して2箇所で電気的に接続されることで形成される環流電気経路中のレール破断の発生を検知するレール破断検知システムであって、
前記環流電気経路中の各軌道回路は、
前記送信部が当該軌道回路の識別情報を前記軌道回路信号に含めて送信し、
前記受信部により受信された信号の中から、他軌道回路の軌道回路信号を抽出する他回路信号抽出部を有し、
前記各軌道回路の前記他回路信号抽出部により抽出された軌道回路信号の信号レベルに基づいて、前記環流電気経路中の各軌道回路それぞれにおけるレール破断の発生を検知する制御装置を備えたレール破断検知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−57005(P2011−57005A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206693(P2009−206693)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】