説明

ロサルタンカルボン酸を含有する薬学組成物及びその製造方法

本発明は、ロサルタンカルボン酸を含有する薬学組成物及びその製造方法に関する。本発明は、溶出率及び溶出速度が向上し、媒質のpHによる溶出偏差が減少したロサルタンカルボン酸を含有する薬学組成物及びその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶出速度及び溶出偏差が改善されたロサルタンカルボン酸{losartan carboxylic acid、2‐ブチル‐4‐クロロ‐1‐[(2’‐(1H‐テトラゾール‐5‐イル)[1,1’‐ビフェニル]‐4‐イル)メチル]‐1H‐イミダゾール‐5‐カルボン酸}を含有する薬学組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記化学式1で表されるロサルタンカルボン酸(2‐ブチル‐4‐クロロ‐1‐[(2’‐(1H‐テトラゾール‐5‐イル)[1,1’‐ビフェニル]‐4‐イル)メチル]‐1H‐イミダゾール‐5‐カルボン酸)は、アンジオテンシンII受容体拮抗作用を有するため、高血圧の治療に使用することができる。
【0003】
【化1】

【0004】
このようなロサルタンカルボン酸は、ロサルタンに比べてアンジオテンシンII受容体拮抗作用が約10〜40倍強く、半減期が長いため、高血圧治療剤として有用であると知られている(非特許文献1及び2を参照)。また、ロサルタンの場合、吸収されてから代謝されてロサルタンカルボン酸に変換され、アンジオテンシンII受容体拮抗作用が増加するようになるが、個体間の代謝能力の差によって個体間に薬効の偏差が生ずることがある。しかし、ロサルタンカルボン酸を投与する場合は、このような代謝偏差を根本的に減らせるという長所がある。また、ロサルタンカルボン酸の場合、代謝過程が要らず、薬効発現が相対的に速い。
【0005】
このように、ロサルタンカルボン酸の有用性は周知のことであるが、ロサルタンカルボン酸の製剤学的特性に対しては未だ大した研究が行われていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Hypertens、1993 Feb 1(2):155‐62
【非特許文献2】J.Chromatogr、1992 Jan 17(2):295‐301
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、様々な長所を有するロサルタンカルボン酸を含有する薬学組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を達成するため、本発明は下記化学式1で表されるロサルタンカルボン酸及び水溶性高分子が均一に分散して含まれた固体分散体(solid dispersion)を含む薬学組成物を提供する。
【化2】

【0009】
本発明者等は、様々な評価を繰り返したところ、pHの低い媒質ではロサルタンカルボン酸の溶出速度が遅くて溶出率が低く、また、ロサルタンカルボン酸が水と接触すると凝集し、溶出率が低下して溶出偏差などを引き起こすという問題点を見出した。このようなロサルタンカルボン酸の短所は、ロサルタンカルボン酸と水溶性高分子との固体分散体を製造することで解消することができた。すなわち、本発明は、ロサルタンカルボン酸と水溶性高分子との固体分散体を製造することで、低いpHでのロサルタンカルボン酸の溶出率を改善し、溶出速度を向上できるという点に基づく。このような低いpHにおける溶出率の改善を通じ、食べ物などによるpH変動による吸収偏差を低減でき、また個体間の吸収偏差を低減させることができると考えられる。
【0010】
このような水溶性高分子としては、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレン共重合体、ポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコール共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン‐ビニルアセテート共重合体、ポリビニルアルコール、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリビニルアセテート、ポリアルケンオキサイド、ポリアルケングリコール、ジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタクリレート共重合体、アルギン酸ナトリウム、ゼラチンなどを単独または混合して使用することができる。
【0011】
本発明によれば、前記水溶性高分子が、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレン共重合体及びポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコール共重合体からなる群より選択されたいずれか1つ以上を含むことが望ましい。これら水溶性高分子のうち、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキサイド(PEO)またはポリオキシエチレン(POE)を使用する場合、他の高分子に比べて溶出率が向上するだけでなく、初期溶出速度を画期的に改善することができる。
【0012】
この場合、平均分子量が6000、4000、1500などのポリエチレングリコールを単独または混合して使用してよいが、これに限定されることはない。また、薬学組成物の性状安定性、製造容易性などを考慮すると、平均分子量6000のポリエチレングリコールが最も望ましい。
【0013】
本発明によれば、前記水溶性高分子が、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレン共重合体及びポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコール共重合体からなる群より選択されたいずれか1つ以上のポリエチレングリコール系高分子と、ポリエチレングリコール系高分子以外の他の高分子との混合物であることがより望ましい。固体分散体を形成する水溶性高分子としてポリエチレングリコール系高分子と他の高分子とを混合して使用することで、最適の溶出速度と溶出率を達成することができる。前記他の高分子としては、ポビドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースが望ましく、ポビドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースがより望ましい。
【0014】
また、本発明によれば、前記固体分散体または薬学組成物が、シリカ、クロスポビドン、またはこれらの混合物を含むことがより望ましい。シリカまたはクロスポビドンは、ロサルタンカルボン酸の凝集を抑制して溶出速度と溶出率を改善するだけでなく、溶出偏差も低減させる。また、このような凝集防止剤は、ロサルタンカルボン酸を含有する薬学組成物の性状安定性にも役立つ。
【0015】
前記凝集防止剤は、固体分散体に含まれても、固体分散体を形成した後に混合されてもよいが、凝集防止剤の効果を最大に発揮するためにはロサルタンカルボン酸と水溶性高分子との固体分散体に含まれることが望ましい。
【0016】
本発明の固体分散体及び/または薬学組成物は、上記の成分の他にも経口投与用剤形(例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、ペレット)に製造するための通常の賦形剤、着香剤、着色剤、潤沢剤、充填剤などの添加剤をさらに含むことができる。
【0017】
本発明による固体分散体は、ロサルタンカルボン酸、水溶性高分子などの構成成分を一緒に溶解させた後、乾燥させて製造するか、または、構成成分を一緒に溶融させた後、冷却させて製造することができる。また、本発明の固体分散体は、このような溶解及び溶融を同時に施して製造することもできる。
【0018】
また、本発明は、ロサルタンカルボン酸及び水溶性高分子が溶解した溶液を製造する段階(S1)、及び(S1)段階で得られた溶液を乾燥して固体分散体を製造する段階(S2)を含むことを特徴とする、溶出速度及び溶出率が改善されたロサルタンカルボン酸を含有する薬学組成物の製造方法を提供する。
【0019】
前記溶液を製造するための溶媒としては、水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトンなどを1種以上使用することができるが、これに限定されることはない。
【0020】
前記乾燥は、熱風を用いる通常の乾燥方法を用いることができる。乾燥過程中の混合の均一性を維持するため、乾燥に伴って撹拌、振とうなどの混合をすることが望ましく、大量生産の面では噴霧乾燥方式が望ましい。噴霧乾燥(spray drying)のために、流動層造粒機、噴霧乾燥機、C/F顆粒機などを使用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、溶出速度及び溶出率が改善され、pHによる溶出偏差が減少したロサルタンカルボン酸を含有する薬学組成物及びその製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明によって吸収速度及び吸収率が改善されたロサルタンカルボン酸を含有する組成物の生体吸収を評価した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の理解を助けるために実施例を挙げて詳しく説明する。しかし、本発明による実施例は多くの他の形態に変形でき、本発明の範囲が下記の実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業界で通常の知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供される。
【0024】
<比較例1及び実施例1ないし4の製造>
下記表1の成分及び含量の比率に従ってロサルタンカルボン酸及びその他の添加剤を単純混合し、カプセルに充填して比較例1及び実施例1ないし4を製造した。
【0025】
【表1】

【0026】
表1において、HPMCはヒドロキシプロピルメチルセルロースを意味し、HPCはヒドロキシプロピルセルロースを意味する。また、Aerosil(R)はフュームドシリカ(Fumed silica)の商品名であり、Kollidon CL‐SF(R)は微粒子クロスポビドン(crospovidone)の商品名である。
【0027】
<比較例1の溶出評価>
製造した比較例1を用いてpH 1.2緩衝液(塩化ナトリウム2.0gに塩酸7.0mlを入れ、精製水を加えて1リットルにする)、pH 4.0緩衝液(0.05mol/L酢酸液と0.05mol/L酢酸ナトリウム液との混合液(41:9)を製造し、pH 4.0に調節する)、pH 6.8緩衝液(0.2mol/Lリン酸二水素カリウム試液250mlに、0.2mol/L水酸化ナトリウム試液118ml及び水を入れて1リットルにする)及び精製水で溶出実験を行った。溶出実験ではパドル法を用いた。溶出媒質の量は900mlであって、パドルの回転速度は50rpmであった。時間(分)による溶出率(%)を下記表2に示した。
【0028】
【表2】

【0029】
表2に示されたように、ロサルタンカルボン酸はpH 1.2緩衝液で相対的に低い溶出速度及び溶出率を見せた。これは食べ物の摂取によって胃内のpHが変わるか、または個体毎に胃内のpHが異なる場合、胃におけるロサルタンカルボン酸の吸収が変わり得ることを意味する。したがって、ロサルタンカルボン酸のpH 1.2緩衝液における溶出速度と溶出率を調節する必要がある。したがって、以後の溶出実験では溶出媒質としてpH 1.2緩衝液を主に使用した。
【0030】
また、比較例1の溶出実験中、ロサルタンカルボン酸が少し凝集する現象が現れた。ロサルタンカルボン酸は、精製水または緩衝液と接触するときにゲル化したが、このようなゲル化現象は溶出偏差を引き起こし、溶出速度及び溶出率を低下させ得るため、適切に調節されなければならない。
【0031】
<実施例1ないし4の溶出評価>
比較例1と同様の方式で、実施例1ないし4のpH 1.2緩衝液における溶出を評価した。その結果を下記表3に示した。
【0032】
【表3】

【0033】
表3に示されたように、親水性高分子を単純混合して添加することで、pH 1.2緩衝液における溶出速度及び溶出率をある程度改善することができ、親水性高分子の中でもポリエチレングリコールの溶出速度及び溶出率の改善効果が最も優れた。
【0034】
また、凝集防止剤としてフュームドシリカであるAerosil(R)または微粒子クロスポビドンであるKOLLIDON CL‐SF(R)を添加することで、ロサルタンカルボン酸が溶出媒質で凝集する現象を防止することができ、このような凝集防止効果もロサルタンカルボン酸の溶出速度及び溶出率の改善に役立つと考えられる。
【0035】
<実施例5ないし10の製造>
下記表4の成分及び含量の比率によってロサルタンカルボン酸と水溶性高分子とを含む固体分散体を製造した。
【0036】
水溶性高分子(ポリエチレングリコール、ポビドン、HPMC及びHPC)総量の1重量部に該当する精製水に水溶性高分子を溶かした後、精製水の1重量部に該当するエタノールを加えた。その後、この溶液にロサルタンカルボン酸を完全に溶解させた後、乳糖、微結晶セルロース、及びAerosil(R)またはKollidon CL‐SF(R)を添加して均一に混合し、それを約40℃で乾燥した。乾燥後、澱粉グリコール酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムを混合し、カプセルに充填した。
【0037】
【表4】

【0038】
<実施例5ないし10の溶出評価>
比較例1と同様の方式で、実施例5ないし10のpH 1.2緩衝液における溶出を評価した。その結果を表5に示した。
【0039】
【表5】

【0040】
表5に示されたように、固体分散体を製造したとき、全体的に溶出率が改善され、特に実施例9の場合、溶出が始まってから30分ほどでロサルタンカルボン酸の約90%が放出され、他の実施例に比べて溶出速度が速くなったことが分かる。前記溶出結果から、ポリエチレングリコールは初期溶出速度及び全体的な溶出率を高め、ポリエチレングリコールと共に使用された他の水溶性高分子は、溶出後半の溶出率を高めると推測できるが、本発明がこのような予測に限定されることはない。
【0041】
<実施例9の溶出媒質別溶出評価>
比較例1と同様の方式で、実施例9の様々な溶出媒質における溶出を評価した。その結果を表6に示した。
【0042】
【表6】

【0043】
表6に示されたように、実施例9はいずれの溶出媒質でも短時間で溶出が完了し、比較例1に比べて溶出率が改善されたことが分かる。このような改善によって、ロサルタンカルボン酸を投薬したときの吸収速度が速くなり、より効率的に薬効が伝達されると期待される。また、pHによる溶出速度及び溶出率の偏差が減少することで、食べ物などの影響による個体内及び個体間の吸収偏差が相当減少すると予想される。
【0044】
<実施例9の生体吸収評価>
実施例9と同様に、1錠当たり20mgのロサルタンカルボン酸を含む錠剤を製造し、それを用いて吸収評価実験を行った。被実験数は6人であり、ロサルタンカルボン酸を含有する錠剤を水240mLと共に空腹時に投薬した。ロサルタンカルボン酸の血中濃度はLC/MS/MSを用いて測定し、その結果は図1に示した。
【0045】
図1に示したように、本発明によるロサルタンカルボン酸を含有する組成物は良好な吸収を見せた。実施例9の組成物の平均Cmaxは374.2ng/ml、平均Tmaxは1.8時間、AUC(last)は約2209.4であった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表されるロサルタンカルボン酸及び水溶性高分子の固体分散体を含む薬学組成物。
【化1】

【請求項2】
前記水溶性高分子が、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレン共重合体、ポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコール共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン‐ビニルアセテート共重合体、ポリビニルアルコール、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリビニルアセテート、ポリアルケンオキサイド、ポリアルケングリコール、ジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタクリレート共重合体、アルギン酸ナトリウム及びゼラチンからなる群より選択されたいずれか1つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子が、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレン共重合体及びポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコール共重合体からなる群より選択されたいずれか1つ以上を含むことを特徴とする請求項2に記載の薬学組成物。
【請求項4】
前記水溶性高分子が、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレン共重合体及びポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコール共重合体からなる群より選択されたいずれか1つ以上のポリエチレングリコール系水溶性高分子と、ポリエチレングリコール系水溶性高分子以外の他の水溶性高分子との混合物であることを特徴とする請求項3に記載の薬学組成物。
【請求項5】
前記固体分散体が、シリカ、クロスポビドン、またはこれらの混合物を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項4のうちいずれか1項に記載の薬学組成物。
【請求項6】
前記薬学組成物が、シリカ、クロスポビドン、またはこれらの混合物を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項4のうちいずれか1項に記載の薬学組成物。


【図1】
image rotate


【公表番号】特表2012−530778(P2012−530778A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517397(P2012−517397)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【国際出願番号】PCT/KR2010/004152
【国際公開番号】WO2010/151080
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(511310579)ジン ヤン ファーム カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】