説明

ロッド状多孔質シリカ粒子

【課題】アスペクト比を0.1〜1未満に制御したロッド状多孔質シリカ粒子の工業的な製造技術を提供すると共に、シリカ純成分からなる単分散性に優れた新規なロッド状多孔質シリカ粒子を提供し、それを用いた生体に安全な生体内埋入材料や珪素徐放性薬剤を提供する。
【解決手段】透過型及び走査型顕微鏡観察により、ハニカム状に規則配列したメソ孔径3nm以上の一次元チャンネル状細孔が貫通する方向の粒子の長さが0.5μm以下で、この粒子伸張方向に垂直な粒子断面の長さとの比をアスペクト比とする時、アスペクト比が0.1〜1未満のロッド状の形態を有する粒子であって、水分散系における粒度分布ピーク(体積基準)の最大値が10μm以下の範囲に認められる緩い集合体を形成している、シリカ骨格中のSi元素が他金属で置換されていないロッド状シリカ多孔質粒子。上記ロッド状多孔質シリカ粒子を含有する生体内埋入材料及び珪素徐放性薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単分散性に優れたロッド状多孔質シリカ粒子に関し、更にはその製造方法及び生体内埋入材料や珪素徐放性薬剤等への応用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1992年に多孔体MCM−41の合成法がNature誌上に発表されて以来、メソポーラス材料への関心が高まり、4級アンモニウム塩等のイオン系界面活性剤を使用した研究が数多く報告されている。その後、無毒性で、生分解性を有し、除去が容易であり、更には、安価なオリゴマー或はポリマー系の非イオン系界面活性剤をテンプレートとしてメソポーラス材料が合成可能なことが報告された(非特許文献1)。
【0003】
一方、メソポーラス材料の創製当初から、メソ細孔の規則構造のみならず、ミクロンからミリメートルサイズのマクロ形態まで制御した高次規則構造を有する多孔質材料の開発が注目されている(非特許文献2)。特に、最近ではメソポーラスシリカの吸着現象がマクロ形態に著しく依存し、形態制御が重要な研究課題となっている。
【0004】
本発明者等は、先に、ロッド状粒子が連鎖した繊維状多孔質シリカ粒子の揮発性有機化合物(VOC)に対するガス吸着現象において、長いメソチャンネル孔がマイクロ孔によって連結した二元細孔構造に起因して、高いVOC吸着能と易脱着能を発揮することを明らかにした(非特許文献3)。また、溶液中での吸着現象においては、繊維状粒子の基本構成単位であるロッド状粒子の方が、吸着質との接触面積が大きいことにより、繊維状粒子と比較すると吸着速度が速く、例えば分子量の大きな酵素等の吸着においては大きなメソ細孔を持ち、粒子径の小さいロッド状粒子ほど顕著な吸着効果が認められている(非特許文献4)。
【0005】
他方、メソポーラスシリカの用途開発を可能とするには、効率的な量産化プロセスの確立が必須の課題であり、アルカリ珪酸塩等の安価なシリカ源を出発原料とすることは極めて重要なことと考えられる(非特許文献5)。
【0006】
しかし、安価なシリカ源であるアルカリ珪酸塩と非イオン性の界面活性剤とを用いる合成手法はよく知られているものの、両化合物を同時に使用し、他物質を添加することなく、細孔径とともにマクロ形態をも制御した報告例は極めて少ない(非特許文献6および非特許文献7)。
その理由は、細孔径の制御とともにマクロ形態を制御する効率的な方法を見いだすことが大変に難しい点にある。実際、例えば、特許文献1には、珪酸ナトリウムと非イオン性界面活性剤の酸性溶液を原料とするメソポーラスシリカの合成方法が報告されているが、マクロ形態の制御方法並びに最終生成物の粒子形状等に関しては全く記載されておらず、得られた生成物のメソ構造の規則性も極めて低いことがX線回折パターンから推定される。
【0007】
また、これまでにロッド状に形態制御されたメソポーラスシリカに関しての報告は数例あるが、発明者の知る限り、発明者等による特許文献2に対応する以外は、シリカ源としてアルコキシシラン等の有機シリカを使用した例に限られている。しかも、アルコキシシランを使用する場合には、ロッド状粒子のアスペクト比は1以上が一般的であり(非特許文献8)、さらに単分散性を向上させアスペクト比を1未満にするためには有機化合物等の他物質の添加が不可欠と考えられる。
【0008】
例えば、酵素吸着に効果的な機能を発揮する大きなメソ孔を持つ小粒子状メソポーラスシリカは、アルコキシシランを用い、さらにフッ化物やアルカン類を添加した複雑な反応工程を経由して合成されている(非特許文献9)。
【0009】
本発明者らは、このような背景において、メソポーラス材料の開発には、低コスト原料を使用した効率的な合成手法によるマクロ形態の制御と高いメソ構造の規則性が重要なポイントであるとの考えのもとに検討を進め、その過程で得られた知見から新しい技術提案を行ってきている。
例えば、アルカリ珪酸塩と非イオン系界面活性剤としてトリブロック共重合体を使用してのロッド状並びに繊維状多孔質シリカ粒子(特許文献2)や球状シリカ多孔体(特許文献3及び4)の合成方法を提案している。
【0010】
前者のロッド状並びに繊維状多孔質シリカ粒子の合成方法では、珪酸ソーダとトリブロック共重合体(商品名 Pluronic P123)を塩酸酸性溶液中において反応させ、攪拌の有無によって、ロッド状並びに繊維状のシリカメソ多孔体を選択的に合成している。
【0011】
また、特許文献5の薄板状多孔質シリカ粒子の製造方法においては、シリカ骨格のSiを他金属で交換することによって、ロッドの長さ0.2μm程度で、アスペクト比は0.2以下であることが明らかにされているが、純粋なシリカ成分から成るアスペクト比0.1〜1未満のロッド状シリカ粒子を得ることはできない。
【0012】
更に、ごく最近、新規物質として酸性溶液中において薄板状多孔質粒子が論文発表され、発明者の製造方法と同様、Siを他金属、具体的にはZrで置換することによってプレート状シリカが得られることが報告されている(非特許文献10)。
【0013】
一方、メソポーラスシリカの生体組織内埋入材料や珪素徐放性薬剤としての用途に関しては、ドラッグデリバリー担体(非特許文献11、12)、遺伝子導入剤(非特許文献13)、免疫賦活剤(非特許文献14)の用途が有望視されている。またSiは骨組織形成や結合組織形成に必須元素でもあるため、生体内で珪素を徐放する薬剤として利用可能と考えられる。
【0014】
しかしながら、メソポーラスシリカを含め、一般にシリカ素材を生体埋入材料や薬剤として利用する際には、細胞内に取り込まれて細胞を破壊する細胞毒性が問題点となる可能性がある(非特許文献15、16)。
この細胞毒性は主に粒子径と粒子濃度に依存する。すなわち、細胞毒性は粒子が小さい程高くなるため、粒子径を小さくした場合は粒子の濃度を低くする必要がある。そのため、メソポーラスシリカが生体材料や薬剤として効果を発揮するには、細孔特性の最適化と同時に、粒子径に応じた細胞毒性を示さない粒子濃度範囲を特定する必要がある。メソポーラスシリカを生体埋入材料や硅素徐放性薬剤として応用する場合、細胞の大きさや生体との親和性及び安全性を考慮すると、粒子径20μm以下で細胞毒性を示さないことが重要な課題と考えられる。
【0015】
ところで、先に述べた、本発明者らの特許文献2に記載のロッド状粒子においては、個々の粒子の形態は明確であり、吸着剤、触媒坦体等の用途には適用可能であるが、粒度分布ピーク値が約20μmの大きな凝集体として得られ易く、生体埋入材料や薬剤として利用する際には、さらなる分散化を可能とする新製造方法の開発あるいは解砕等の2次的処理が必要となる。しかも、個々の粒子の長さは0.5〜5μmの範囲にあり、アスペクト比が1.1〜15で特長づけられる細長い粒子で、粒子形態の上からも生体埋入材料として適切とは言えない。
また、特許文献5の薄板状多孔質シリカ粒子はロッドの長さ(粒子の厚さ)約0.2μmで、アスペクト比は0.2以下のプレート状粒子であり、形態上問題はないが、シリカ骨格のSiをZr等の他金属で交換することが不可欠で生体材料とするには安全面から大きな問題が生じる。
【0016】
このように、安価なアルカリ珪酸塩をシリカ源として、細胞毒性を持たない小さな多孔質シリカ材料を合成可能とすることは、生体組織内埋入材料や珪素徐放性薬剤として、多孔質材料の利用分野を図るために克服すべき重要な課題であるが、その報告例は高価なアルコキシシラン等の有機シリコンを原料としたものに比べ極めて少なく、更に、非イオン性界面活性剤と組み合わせたマクロ形態制御に関する報告は極めて限られている。
【0017】
しかも、添加物として有機化合物を使用しない単純な反応系では、長さ0.5μm以下、アスペクト比が1未満で、且つ高いメソ構造の規則性を有し、水分散系における粒度分布ピーク(体積基準)の最大値が10μm以下に認められるシリカ純成分から成るロッド状多孔質シリカ粒子並びにその製造方法はこれまで全く報告されていない。
さらに、使用する非イオン性界面活性剤の持つ高温での脱水和挙動に起因してロッド状多孔質シリカ粒子は7nm以上のメソ細孔と同時にマイクロ孔が存在し、熟成温度が150℃未満の場合、600℃の加熱処理後もマイクロ孔容積の全細孔容積(メソ孔とマイクロ孔の両細孔に起因する細孔容積)に占める割合は10%以上である。他方、熟成温度150℃以上ではマイクロ孔を有しないメソ孔だけが存在するロッド状粒子が得られるだけである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2001−261326号公報
【特許文献2】特許第4099811号明細書
【特許文献3】特開2004−182492号公報
【特許文献4】特開2004−143026号公報
【特許文献5】特開2006−151799号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Bagshaw, S.A.; Prouzet, E.; Pinnavaia, T.J.Science 1995, 269, 1242.
【非特許文献2】1) Ciesla, U.; Schuth,F. Microporous Mesoporous Mater. 1999, 27, 131. 2) Stein, A.Adv. Mater. 2003, 15, 763.
【非特許文献3】3) Kosuge, K. Kubo, S. Kikukawa, N. Takemori, M. Langmuir, 2007, 23, 3095.
【非特許文献4】Fan, J. Lei, J. Wang, L. Yu, C. Tu, B. Zhao, D. Chem. Comm., 2003, 2140.
【非特許文献5】1) Sierra, L.; Guth, J-L. Microporous Mesoporous Mater. 1999, 28, 243. 2) Kim, S.S.; Pauly, T.R.; PinnavaiaT.J. Chem. Commun.2000, 835. 3) Kim, S.S.; Pauly, T.R.; Pinnavaia T.J. Chem. Commun.2000, 1661.
【非特許文献6】Boissiere, C.; Larbot, A.; van der Lee, A.; Kooyman, P.J.; Prouzet,E. Chem. Mater. 2000, 12, 2902.
【非特許文献7】Sun, Q.; Kooyman, P.J.; Grossmann, J.G.; Bomans, P.H.H.;Frederik, P.M.; Magusin,P.C.M.M.; Beelen, T.P.M.;van Santen, R.A.; Sommerdijk, N.A.J.M.Adv. Mater. 2003, 15, 1097.
【非特許文献8】Sayari, A; Han,B-H.; Yang, Y. J.Am. Chem. Soc., 2004, 126, 14348.
【非特許文献9】Sun, J. M.; Zhang, H.; Tian, R. J.; Ma, D.; Bao, X. H.; Su, D. S.; Zou, H.F. Chem. Commun. 2006, 1322.
【非特許文献10】Chen,S-Y.; Tang, C-Y.; Chuang, W-T.; Lee, J-J.; Tsai, Y-L.; Chan, J.C.C.; Lin, C-Y.; Liu, Y-C.; Cheng, S., Chem. Mater. 2008, 20, 3906.
【非特許文献11】Vallhov, H.; Gabrielsson, S.; Stromme, M.; Scheynius, A.; Garcia-Bennett,A.E; Nano Letters 2007, 7, 3576.
【非特許文献12】Blumen, S.R.; Cheng, K.; Ramos-Nino, M.E.; Taatjes, D.J.; Weiss, D.J.; Landry, C.C.; Mossman, R.T.; Am J Respir Cell Mol Biol 2007, 36, 333.
【非特許文献13】Radu, D. R.; Lai, C.-Y.; Jeftinija, K.; Rowe, E. W.; Jeftinija, S.; Lin, V. S.-Y.; J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 13216.
【非特許文献14】Mercuri, L.P.;Carvalho, L. V.; Lima, F.A.; Quayle C et al., Small 2006, 2, 254.
【非特許文献15】Di Pasqua, A.J.; Sharma, K.K.; Shi, Y-L.; Toms, B.B.; Ouellette, W.; Dabrowiak, J.C.; Asefa, T.; J. Inorganic Biochem. 2008, 102, 14416.
【非特許文献16】Hudson,S.P.; Padera, R.F.; Langer, R.; Kohane, D.S.; Biomaterials 2008, 29, 4045.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上述したように、本発明者らによる特許文献2のロッド状多孔質シリカ粒子の製造方法においては、比較的低温で生成させるため、ロッド状形態を保持したまま、単分散性を向上させ且つ細孔径の拡張を図るには限界があった。そして、上記特許文献5の薄板状多孔質シリカ粒子の製造方法においては、ロッド状粒子の長さは約0.2μmで、アスペクト比も0.2以下であるが、シリケート骨格中のSiをZr等の金属元素による置換を必要とし、純粋なロッド状多孔質シリカ粒子を製造することはできない等の課題があった。
本発明は、これら従来の問題点を解消し、安価なアルカリ珪酸塩をシリカ源とし、無毒性あるいは低毒性の非イオン性界面活性剤をテンプレートとするとの本発明者によりこれまでに開発された技術知識を踏まえ、アスペクト比を0.1〜1未満に制御したロッド状多孔質シリカ粒子の工業的な製造技術を提供すると共に、シリカ純成分からなる単分散性に優れた新規なロッド状多孔質シリカ粒子を提供し、それを用いた生体に安全な生体内埋入材料や珪素徐放性薬剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を進め、アルカリ珪酸塩溶液とトリブロック共重合体との酸性水溶液反応系で、酸の混合割合と、攪拌と熟成工程の2段階の反応温度を同時に制御すること、あるいは予め金属塩を添加後水熱条件下において熟成を行うことで分散化の程度をより高められ、アスペクト比1未満で、長さ0.5μm以下に制御したシリカ純成分から成る単分散性に優れたロッド状形態を有するシリカ多孔質粒子が得られること見出し、更には、10μm以下に粒度分布ピークを有する小粒子にも係わらず、メソポーラスシリカを生体埋入材料や薬剤として利用する際の問題点となる細胞毒性がほとんどなく、生体に安全な生体内埋入材料や珪素徐放性薬剤として利用できることを知見した。本発明は、このような知見を踏まえて完成されたものである。
【0022】
すなわち、この出願は以下の発明を提供するものである。
〈1〉透過型及び走査型顕微鏡観察により、ハニカム状に規則配列したメソ孔径3nm以上の一次元チャンネル状細孔が貫通する方向の粒子の長さが0.5μm以下で、この粒子伸張方向に垂直な粒子断面の長さとの比をアスペクト比とする時、アスペクト比が0.1〜1未満のロッド状の形態を有する粒子であって、水分散系における粒度分布ピーク(体積基準)の最大値が10μm以下の範囲に認められる緩い集合体を形成している、シリカ骨格中のSi元素が他金属で置換されていないことを特徴とするロッド状シリカ多孔質粒子。
〈2〉回折角0.5乃至5度(CuKα)に細孔の規則配列構造を示す複数のX線回折ピークを有することを特徴とする〈1〉に記載のロッド状シリカ多孔質粒子。
〈3〉〈1〉又は〈2〉に記載のロッド状シリカ多孔質粒子を2〜300μg/mL含有することを特徴とする懸濁液または分散液。
〈4〉酸性水溶液及び非イオン性界面活性剤の混合液に、アルカリ珪酸塩水溶液を45℃から60℃未満の温度条件下で攪拌しながら混合し、反応溶液に白濁が認められない反応時間内に撹拌を停止した後、50℃から200℃の範囲の温度で熟成して得られる固体生成物を、分離・洗浄、乾燥後、非イオン性界面活性剤を除去することを特徴とする〈1〉又は〈2〉に記載のロッド状シリカ多孔質粒子の製造方法。
〈5〉酸性水溶液及び非イオン性界面活性剤の混合液に、アルカリ珪酸塩水溶液を45℃から60℃未満の温度条件下で攪拌しながら混合し、反応溶液に白濁が認められない反応時間内に撹拌を停止し、10分から120分間熟成後、分離・洗浄して得られた固体生成物を、湿潤状態のまま、あるいは乾燥してから、水溶液中で50℃から200℃の範囲の温度で熟成した後に、固体生成物を分離・洗浄、乾燥後、非イオン性界面活性剤を除去することを特徴とする〈1〉又は〈2〉に記載のロッド状シリカ多孔質粒子の製造方法。
〈6〉酸性水溶液及び非イオン性界面活性剤の混合液に、アルカリ珪酸塩水溶液を45℃から60℃未満の温度条件下で攪拌しながら混合し、反応溶液に白濁が認められない反応時間内に撹拌を停止し、10分から120分間熟成後、分離・洗浄して得られた固体生成物を、湿潤状態のまま、あるいは乾燥してから、金属塩を溶解した水溶液中で50℃から200℃の範囲の温度で熟成した後に、固体生成物を分離・洗浄、乾燥後、非イオン性界面活性剤を除去することを特徴とする〈1〉又は〈2〉に記載のロッド状シリカ多孔質粒子の製造方法。
〈7〉非イオン性界面活性剤をアルカリ珪酸塩中のSiO2 1モル当たり0.01乃至0.10の量で用いること特徴とする〈4〉乃至〈6〉の何れかに記載の製造方法。
〈8〉酸をアルカリ珪酸塩中のSiO2 1モル当たり5乃至20モルの量で用いることを特徴とする〈4〉乃至〈7〉の何れかに記載の製造方法。
〈9〉水をアルカリ珪酸塩中のSiO2 1モル当たり100乃至400モルの量で用いることを特徴とする〈4〉乃至〈8〉の何れかに記載の製造方法。
〈10〉金属塩をアルカリ珪酸塩中のSiO2 1モル当たり0.01乃至1モルの量で用いることを特徴とする〈4〉乃至〈9〉の何れかに記載の製造方法。
〈11〉〈1〉又は〈2〉に記載のロッド状多孔質シリカ粒子を含有する生体内埋入材料。
〈12〉〈1〉又は〈2〉に記載のロッド状多孔質シリカ粒子を含有する珪素徐放性薬剤。
〈13〉〈3〉に記載の懸濁液又は溶媒液を含有する生体内埋入材料。
〈14〉〈3〉に記載の懸濁液または粒子溶媒混合系を含有する珪素徐放性薬剤。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るロッド状多孔質シリカ粒子は、高比表面積、細孔径の均一性、単分散性等の特徴を併せ持つことから、生体埋入材料や珪素を徐放させるための珪素徐放性薬剤として利用する際の問題点となる細胞毒性がほとんどないため、これらの用途に利用できる。
また、本発明方法によれば、細孔構造の制御剤として非イオン性界面活性剤を使用し、アルカリ珪酸塩水溶液と酸性水溶液を混合する極めて単純な反応系において、その他の有機化合物を添加することなく、反応物質の混合割合、攪拌並びに熟成反応温度、さらには攪拌並びに熟成反応時間を変化させることにより、ロッド状多孔体の前駆体となる界面活性剤を含んだロッド状有機無機メソ構造体を作製し、最終的に有機物を取除くことにより、長さ0.5μm以下、アスペクト比0.1〜1未満で、シリカ純成分の単分散性に優れたロッド状多孔質シリカ粒子を得ることができる。
しかも、本発明の製造方法によれば、ロッド状多孔質シリカ粒子の前駆体である界面活性剤を含んだロッド状有機無機メソ構造体を10分から数時間という極めて短時間で作製でき、酸性溶液中で生成した上記界面活性剤を含んだロッド状有機無機メソ構造体を、酸性溶液中でそのまま熟成したり、あるいは酸性溶液から分離・洗浄後熟成を行うことができる。
また、本発明の製造方法によれば、ロッド状のマクロ形態ばかりでなく、ハニカム状規則構造を有する7nm以上の開口径の1次元メソチャンネルだけでなく、メソチャンネルとマイクロ孔が共存するシリカ純成分のロッド状多孔質シリカ粒子を得ることができる。
更に、本発明の製造方法は、安価な原料を使用し、ほとんどの反応時間が静置もしくは攪拌条件による熟成工程であることから工業規模への応用も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のロッド状多孔質シリカ粒子1個の概念図。
【図2】本発明のロッド状多孔質シリカ粒子のTEM像。
【図3】比較例1のロッド状多孔質シリカ粒子のSEM像。
【図4】(a)比較例2−1のロッド状多孔質シリカ粒子のSEM像。(b)比較例2−2のロッド状多孔質シリカ粒子のSEM像。
【図5】実施例1−1のロッド状多孔質シリカ粒子のFE−SEM像。
【図6】実施例2−1のロッド状多孔質シリカ粒子のFE−SEM像。
【図7】実施例3−4のロッド状多孔質シリカ粒子のFE−SEM像。
【図8】実施例2−1及び比較例3のロッド状多孔質シリカ粒子の粒度分布曲線。
【図9】実施例2−1、実施例3−1、実施例3−4及び実施例3−5のロッド状多孔質シリカ粒子の粒度分布曲線。
【図10】(a)、(b):実施例3−5のロッド状多孔質シリカ粒子のTEM像。
【図11】実施例2−1、実施例3−1、及び実施例3−5のロッド状多孔質シリカ粒子のX線回折パターン。
【図12】実施例2−1、実施例3−1、及び実施例3−5のロッド状多孔質シリカ粒子の窒素吸着等温線。
【図13】実施例2−1、実施例3−1、及び実施例3−5のロッド状多孔質シリカ粒子のBJH細孔分布曲線。
【図14】実施例2−1、実施例3−1、及び実施例3−5のロッド状多孔質シリカ粒子の窒素吸着等温線から得られるt−プロット。
【図15】実施例3−4のロッド状多孔質シリカ粒子を含有する細胞培養液中でNIH3T3細胞を72時間培養した後の細胞数の変化を表すグラフ。
【図16】実施例3−5のロッド状多孔質シリカ粒子を含有する細胞培養液中でNIH3T3細胞を72時間培養した後の細胞数の変化を表すグラフ。
【図17】実施例3−4及び実施例3−5のロッド状多孔質シリカ粒子を含有する細胞培養液中でNIH3T3細胞を72時間培養した後の細胞培養液の珪素濃度の変化を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のロッド状シリカ多孔質粒子は、透過型及び走査型顕微鏡観察により、ハニカム状に規則配列したメソ孔径3nm以上の一次元チャンネル状細孔が貫通する方向の粒子の長さが0.5μm以下で、この粒子伸張方向に垂直な粒子断面の長さとの比をアスペクト比とする時、アスペクト比が0.1〜1未満のロッド状の形態を有する粒子であって、水分散系における粒度分布ピーク(体積基準)の最大値が10μm以下の範囲に認められる緩い集合体を形成している、シリカ骨格中のSi元素が他金属で置換されていないことを特徴とする。
【0026】
本発明のロッド状シリカ多孔質粒子は、模式的には図1に示される。図1において、Lは、ハニカム状に規則配列したメソ孔径3nm以上の一次元チャンネル状細孔が貫通する方向の粒子の長さ(ロッド状粒子の長さ)であり、Wは粒子伸張方向に垂直な粒子断面の長さ(ロッド状粒子の幅)であり、アスペクト比はL/Wで表される。
したがって、本発明のロッド状シリカ多孔質粒子は、図1でいう、メソ孔径が3nm以上、好ましくは4〜20nm、Lが0.5μm以下、好ましくは0.15〜0.45μmであり、アスペクト比(L/W)が0.1〜1未満、好ましくは0.15〜0.5の粒子を意味する。
Lが0.5μmを超えると、一次元メソチャンネルが長く細孔内における物質移動が抑制されることが予想され、アスペクト比が0.1未満であると、極端に薄い異形の粒子となり単分散化が難しくなり、1以上であると、合成条件の調整が難しく長短混合の不均質な粒子群が形成され易くなるので好ましくない。
【0027】
また、本発明のロッド状シリカ多孔質粒子は、水分散系における粒度分布ピーク(体積基準)の最大値が10μm以下の範囲に認められる緩い集合体を形成していることを特徴としている。また、シリカ骨格中のSi元素が他金属で置換されていないことを特徴とする。
ここで、水分散系における粒度分布ピーク(体積基準)の最大値とは、レーザー回折散乱原理に基づく粒子計測法により測定された値を意味し、本発明においては、この値が10μm以下の範囲に認められるので、単分散性に優れたロッド状多孔質シリカ粒子が得られる。
【0028】
ここで単分散性に優れた粒子とは、図2のTEM像に示すように、独立に存在する図1の模式図に示すような個々の粒子とその緩い凝集体から構成されている。なお、「緩い集合体」とは、個々の粒子中にはチャンネル状の1次元メソ細孔がハニカム状に規則配列しており、例えば外界から分子あるいはイオン等が、それぞれの粒子の細孔に等しい確率で接触可能な状態にある粒子群のことを意味する。
【0029】
更に、本発明のロッド状シリカ多孔質粒子は、シリカ骨格中のSi元素が他金属で置換されていないことが重要である。その骨格が他の金属で置換されると、金属の種類によっては不測の細胞毒性の発現といった問題を生じるからである。
【0030】
以下、本発明のロッド状シリカ多孔質粒子を更に具体的に説明する。
本発明のロッド状多孔質シリカ粒子は、図5(実施例1−1、図6(実施例2−1)および図7(実施例3−4)の電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)写真に示す通り、ミクロンサイズのロッド状形態を有し、アスペクト比が揃っていることがわかる。
図8は本発明の実施例2−1と比較例(特許文献2)のロッド状多孔質シリカ粒子の粒度分布を比較したものである。本発明では熟成工程をより高温で行うことが先願(特許文献2)との大きな差異であり、攪拌温度が同じでも粒度分布は熟成温度によって著しく異なり、凝集の程度が顕著に緩和されていることがわかる。
【0031】
図9は本発明の実施例2−1、3−1、3−4及び3−5のロッド状多孔質シリカ粒子の粒度分布の特徴を示している。図8より、特許文献2の粒度分布のピーク値(体積基準)20μmに対し、本願のロッド状多孔質シリカ粒子は10μm以下に粒度分布の最大ピークが存在していることが分かる。高温での熟成により凝集の程度が顕著に改善され、金属塩の添加によってさらに単分散化が促進されることが明瞭である。
【0032】
図10は、本発明の実施例3−5のロッド状多孔質シリカ粒子について、伸張方向並びにその断面の構造を示す高分解能電子顕微鏡(TEM)写真である。本発明のロッド状多孔質シリカ粒子には、ロッド状粒子中を貫通して延びる均一径の1次元メソチャンネル(図10a)が、ハニカム状に規則配列していることを示している(図10b)。
【0033】
さらに、本発明の実施例2−1、実施例3−1、及び実施例3−5のロッド状多孔質シリカ粒子は、図11のXRD回折パターンに示すように、回折角2θ=0.5乃至5.0度にメソ孔の規則配列を示す複数のピークを有し、図10のTEM像に認められるメソチャンネルがハニカム状に積層していることに対応している。
【0034】
また、図12は、本発明の実施例2−1、実施例3−1、及び実施例3−5のロッド状多孔質シリカ粒子の吸着等温線であり、メソ構造の高い規則性に基づく典型的なIV型の吸着等温線と、シリンダー状細孔の特長であるHI型のヒステリシスが認められ、その細孔径分布は図13に示すようにシャープで、メソ孔の均一性を裏付けている。また、図14はt−plotであり、直線Mと縦軸との切片が正値であることからマイクロ孔の存在が明らかで、その切片の値からマイクロ孔容量を算出した。なお、150℃で熟成したロッド状粒子では、直線M’は極めて原点に近い点を通過することからマイクロ孔がほとんど存在しないことが分かる。また、本願の全細孔容量はメソ孔とマイクロ孔との総和であり、t−プロットの直線N(N’)と縦軸との切片に対応する吸着量から求められる。
【0035】
つぎに、本発明のロッド状多孔質シリカ粒子の製造方法について説明する。
本発明のロッド状多孔質シリカ粒子の製造方法では、まず、酸性水溶液及び非イオン性界面活性剤の混合液に、アルカリ珪酸塩水溶液を45℃から60℃未満、好ましくは45℃〜55℃の温度条件下で攪拌しながら混合し、一定時間経過しても反応溶液からの粒子の析出による白濁が認められない間に、攪拌を停止する。この撹拌工程に続く熟成工程には2通りの方法がある。
【0036】
第一の方法は、撹拌を停止した後、反応容器をそのまま昇温したり、一定温度に保った恒温反応装置に移し、静置あるいは攪拌しながら、50℃から200℃の一定温度、好ましくは60℃から150℃で一定時間熟成することを特徴とするものである。
【0037】
第二の方法は、撹拌を停止した後、そのままあるいはゆっくりと撹拌した状態で10分から120分間、好ましくは20分から90分間熟成し、生成したロッド状有機無機ナノ複合体を一旦酸溶液から分離・洗浄した後、一定温度に保った恒温反応装置で静置あるいは攪拌しながら、さらに50℃から200℃、好ましくは60℃から150℃の一定温度で一定時間熟成することに特徴がある。
【0038】
もっとも両方法とも熟成工程が終了したら、生成固体を分離・洗浄し、乾燥後、非イオン性界面活性剤を除去する点では共通している。
【0039】
前記方法において、攪拌温度を45℃から60℃未満とするのは、45℃以下では最終生成物中にはアスペクト比が1以上のロッド状粒子が形成され易く、60℃以上では非イオン性系面活性剤中の親水基部分の脱水和が起こりやすくなる為、均質な形態を持つロッド状粒子の生成が阻害され、さらにはメソ構造の高い規則性が損なわれてしまうためである。
【0040】
また、熟成温度を、50℃から200℃の範囲とするのは、50℃以下では長時間熟成してもその効果が得られず、200℃以上では150℃と比較してメソ構造の規則性並びに単分散性に顕著な差異が見出せないためである。さらに、60℃から150℃の範囲での熟成時間は、熟成温度が高い程短くて良く、150℃の場合には1時間でも充分であり、低い場合には数十時間熟成を行っても良い。
また、上記の攪拌工程後の熟成工程で、熟成時間を10分から120分とするのは、熟成時間が10分以下ではロッド状粒子の生成量が過少となり反応効率が低くなり、120分以上では生成量に著しい差異が認められないためである。
【0041】
さらに、攪拌と熟成工程の2段階での本製造方法において、単分散性に優れ、アスペクト比が0.1〜1未満のロッド状有機無機メソ構造体が形成される重要な条件として、熟成温度の制御に加え塩の共存効果について説明する。
【0042】
塩類が全く共存しない反応条件として、シリカ源として珪酸アルカリの代わりにテトラエチルオルトシリケート(TEOS)を使用した場合、本発明に基づく短時間での反応では、長さを0.5μm以下に制御し、しかも均質な形態を有するロッド状粒子を作製する条件を見いだすことは難しい。
攪拌反応を30℃から60℃未満で行った場合、熟成温度によらず本法の特長を有するロッド状多孔質シリカの作製は困難で、例えば、45℃で攪拌し、熟成を100℃で行った場合、NaCl無添加の場合にはアスペクト比1以上の長いロッド状粒子が生成するが(図4a)、NaClを添加すると、形態は著しく変化し、長いロッド状粒子の他に小粒子の凝集体が認められる(図4b)。
【0043】
一方、珪酸ソーダをシリカ源とする場合、本願実施例に示す通り、45℃以上で撹拌した場合、熟成温度を高くしてもアスペクト比1以上のロッド状粒子は形成されない。TEOS等の有機シリコン系シリカ源は珪酸アルカリ等の水溶性シリカ源と比較すると、加水分解速度が遅く、その結晶化速度の制御が難しく、さらに反応溶液を均質化するためにアルコール類等他物質の添加、あるいは長時間の攪拌反応を必要とし、粒子の凝集が起こり易いといった課題がある。
【0044】
このことは、短いロッド状粒子の形成を誘導するには、塩類の共存下において、攪拌をある一定温度以上で行うことが重要であることを示している。塩類が共存しない場合、メソ孔径の大きなロッド状粒子を作製するため、熟成を高温で行うと、アスペクト比は1以上の細長い粒子が形成し易くなる。特に、塩類中の陽イオンの存在が形態制御に重要な効果を発揮することが示唆され、珪酸アルカリ溶液は原料中にアルカリ金属イオンを含むことから、短いロッド状粒子を製造するために最適なシリカ原料と言える。共存する陽イオンは界面活性剤の臨界ミセル濃度を下げ、また水溶液を均質化する効果とイオン強度の増大によるシリカ縮合を促進することなどから、短いロッド状有機無機メソ構造体の形成に有用な役割を果たすものと考えられる。
【0045】
これらの実験事実は、ロッド状形態を形成し易い反応(原料物質混合)条件において有機無機メソ構造体を形成させる際に、ロッド状ミセルを取り囲むシリカ成分の縮合速度を速め、個々のロッド状有機無機メソ構造体内のシリカ骨格構造の形成を著しく促進することで、構造体間の凝集を抑制することが、単分散性の良好なロッド状粒子を作製するための重要なポイントであることを示している。
【0046】
このような本発明の製造方法で0.5μm以下のロッド状の形状を呈すると同時に、メソ細孔がハニカム状に規則配列したロッド状多孔質粒子の生成機構は以下のように推定される。
アルカリ珪酸塩は強酸性水溶液下でシリカ溶存種がプラスに帯電し[I+]、一方、強酸に溶解した非イオン性界面活性剤[N0]においても、界面活性剤表面の親水基部分がプロトン[H+]に覆われることでプラスの電荷を帯び、プラスに帯電したシリカ、界面活性剤の両表面間に陰イオン[X-]が介在することで、電気的に安定な有機無機メソ構造体[N0+][X-+]を形成すると推定される。
【0047】
更に、溶液中にはアルカリ珪酸塩と酸との反応により発生したアルカリイオン(M+)が存在し、このイオンにより表面が帯電したシリカ間同士の電荷は相殺されるため、徐々にゲル化が進行しシリカ骨格中に非イオン性界面活性剤を包含した有機無機メソ構造体が生成する。
すなわち、この有機無機メソ構造体がロッド状構造体を形成し易い反応条件となるよう、特に非イオン性界面活性剤[N0]を選択することで、ミクロンオーダーのロッド状形態を有する粒子に成長すると推定され、この時有機無機メソ構造体[N0+][X-+]の構造を維持したまま、ロッド長を短くするためには、形成される温度をできるだけ高くすることが効果的と推定される。さらに、この構造体が集合して1個のロッド状粒子として生成した段階で、より高温で熟成し、1個の粒子内におけるシリカの縮合が速やかに進行し、その結果目的とする単分散性に優れたロッド状粒子が得られる易くなると考えられる。
【0048】
すなわち、ロッド状有機無機メソ構造体相互の凝集と、メソチャンネル方向への成長を抑制しながら、メソ構造の規則性を向上させることで、ロッド状多孔質シリカ粒子前駆体が形成され、有機成分を焼成或は溶媒抽出等の処理により除去することで得られる最終生成物は、図1に示すようにアスペクト比0.1〜1未満のロッド状を呈すると同時に、1次元チャンネルが六方晶系に規則配列したメソ孔を併せ持ち、2つの異なるスケールで秩序構造を有していることになる。
【0049】
また、熟成温度が高い程、非イオン性の界面活性剤の疎水部が大きくなると共に、ロッド状多孔質シリカ粒子の前駆体であるロッド状有機無機メソ構造体を形成するシリカ相の脱水縮合がより迅速に進行し、シリカ相が収縮すると、内部のミセル相はより広い空間を誘起することになり、大きなメソ孔を持ったロッド状シリカが得られることになる。なお、ロッド状有機無機メソ構造体を構成する界面活性剤の親水基はシリカ骨格内に侵入しており、その除去に伴いマイクロ孔が形成され、生成多孔体のメソ孔はマイクロ孔で連結されていることになる。この時、熟成温度を高くすると親水基が疎水性を帯びる傾向があり、150℃で熟成するとマイクロ孔がほとんど存在しないロッド状多孔質シリカ粒子が得られる。
【0050】
上記の通り大きな細孔径を有するロッド状粒子を作製するには、反応温度、特に熟成温度が高い程効果的である。一方、反応溶液は強い酸性溶液であり、高温での熟成をより容易に実施することも重要である。このためにはロッド状形態を損なうことなく、中性領域で高温での熟成を行うことができればより製造条件が緩和されることになる。これらの諸課題を解決し当該多孔質粒子を作製するためには、60℃以下の低温で生成する短いロッド状有機無機メソ構造体を、酸性溶液中から、例えば濾過、遠心分離等により分離・洗浄後、水溶液中において水熱条件下で熟成を施すことによって可能である。さらに、熟成工程において、シリカと同型置換しない無機塩あるいは有機化合物等を添加することも極めて効果的である。この熟成工程には、洗浄して得られる生成物を湿潤状態のまま供しても、あるいは乾燥してからでも使用することができる。
特に、水溶液中での水熱処理において無機塩等を添加することは、粒子の単分散性の向上に著しい効果を発揮することが明らかで、メソ孔径や細孔容量等の細孔特性の制御にも有効である。
【0051】
さらに、後述の実施例について示した表1から明らかなように、本製造方法は、特に酸濃度と熟成温度を制御することにより、アスペクト比及び細孔特性を効果的に制御できることも大きな特徴である。
そして、既に指摘した通り、本発明の製造方法は、広い範囲の均一細孔径を有し、且つ0.5μm以下のロッド状を呈する多孔質シリカ粒子を作製するための効率的な方法である。すなわち、有機化合物等の細孔拡張剤を用いることなく単純な反応系で、アスペクト比0.1〜1未満のロッド状多孔質シリカ粒子が合成でき、3.5nm以上の均一細孔径を持ったロッド状多孔質シリカ粒子が提供できることが顕著な特徴である。
【0052】
また、本発明の製造法においては、熟成時間は生成物のマクロ形態並びにメソ孔の大きさやメソ構造の規則性等の細孔特性に影響し、熟成時間が長いほどメソ構造の規則性は高くなると推定されるが、本願のロッド状粒子の形態が保持される条件であれば、特に熟成時間に制約はない。
【0053】
本発明の製造法における反応温度については前記の通り、攪拌工程においては45℃乃至60℃未満の範囲、好ましくは45℃以上55℃以下の範囲である。また、熟成温度は、50℃から200℃の範囲、好ましくは60℃から150℃の範囲である。
【0054】
本発明の製造法においては、初期段階における撹拌反応でロッド状多孔質シリカ粒子前駆体が生成する条件を満たすように、界面活性剤、酸、シリカ等の反応物質の混合割合、さらには撹拌温度と時間、および熟成温度と時間を制御することによってロッド状粒子の長さ、アスペクト比等の形態並びに細孔特性の制御が可能である。特に、高温状態において非イオン性界面活性剤の親水部が疎水的になることを利用して、100℃以上で熟成すると8nm以上の細孔径を有し、規則性の高いメソ構造を有するロッド状多孔質シリカ粒子が作製できる。
【0055】
本発明においては、上記原料の添加順序は極めて重要であり、ロッド状形態を形成させるためには、アルカリ珪酸塩水溶液を、酸に溶解した非イオン性界面活性剤溶液に添加しなければならない。また、本発明の製造方法では、界面活性剤の除去方法としては加熱処理ばかりでなくエタノール、エタノール・塩酸系による抽出法も適用できる。
【0056】
[原料]
本発明で使用される、シリカ原料、非イオン性界面活性剤、及び酸について更に説明する。
本発明で使用されるシリカ原料としては、アルカリ珪酸塩を使用することが可能で、比較的廉価であるナトリウム珪酸塩が好ましい。ナトリウム珪酸塩としてはNa2O・mSiO2式中、mは1乃至5の数、特に1.5乃至4.5の数である組成を有するナトリウム珪酸塩水溶液を使用することが好ましい。
【0057】
非イオン性界面活性剤としては、ポリエチレンオキシド(PEO)を含む高分子界面活性剤が使用でき、特にPEOを含むトリブロック共重合体が好ましく、さらにはポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシド(PEO−PPO−PEO)の使用が最適である。本発明で使用される、トリブロック共重合体の重合比、平均分子量並びに疎水基の重量割合が重要であり、その平均分子量は約4800以上で、疎水基の重量割合が、重量60%以上であることが望ましい。
【0058】
酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸等いずれも使用することができ、特にロッド状粒子の生成において最も効果的である塩酸が好ましい。また、酸類として種々の廃酸を利用できる可能性もありコスト低減に有用と考えられる。
本発明のロッド状多孔質シリカ粒子の製造方法では、出発原料の混合モル比は、SiO2:非イオン性界面活性剤:Na2O:酸:水=1:0.01〜0.1:0.25〜1:5〜20:100〜400であるのが好ましい。
【0059】
金属塩としては、均質な透明水溶液が形成され、シリカ骨格中のSiと置換することのない金属元素を含むものであれば制約はなく、例えば、NaCl、KCl、及びMgCl、AlCl、NiCl等の無水塩やその水和物等を使用できる。金属塩の添加は特に単分散性の向上を目的とするもので、その添加量はSiO 1モルに対し、金属元素0.01モル以上であって、単分散性の向上が認められれば上限を規定する必要はないが、1モル以下で充分である。なお、ロッド状粒子の単分散化に、熟成工程における金属塩等の添加が極めて効果的であることを明らかにしたことは、本発明において極めて特徴的なことである。
【0060】
更に、出発原料の混合方式を詳細に記述すると、本願ロッド状粒子合成においては、予め45℃から60℃未満の温度範囲に調整した2種類の水溶液、(1)所定の濃度の酸に溶解した非イオン性界面活性剤溶液に、(2)水に希釈したアルカリ珪酸塩水溶液を、攪拌下で添加する。この混合溶液の撹拌を、反応溶液に固体生成物による白濁が認められない数秒から10分間以内に攪拌を停止し、攪拌温度以上で静置あるいは攪拌下で熟成を行う。熟成の方法として、(A)攪拌混合溶液をそのまま30分以上好ましくは1時間以上、さらに好ましくは3時間以上から24時間熟成するか、あるいは(B)前記(A)同様白濁が認められない数秒から10分間以内に攪拌を停止し、そのまま10分から120分間、好ましくは20分から90分間熟成し、析出した生成物を酸性反応溶液から分離・洗浄して得られる湿潤状態の固体生成物、あるいはその乾燥物を水溶液中で攪拌温度以上において上記と同様に熟成を行う。さらに、(C)(A)、(B)とも熟成時に金属塩を添加する場合、(A)では攪拌停止後攪拌混合溶液に直接添加し、(B)では湿潤状態の固体生成物、あるいはその乾燥物の熟成時に金属塩を添加する。
【0061】
いずれの場合も、多孔質粒子とするためには、最後に有機成分を除去してロッド状多孔質シリカ粒子を作製するため、熟成反応後懸濁液から固体生成物を分離し、室温〜70℃で乾燥させる。乾燥後界面活性剤を除去し多孔化する方法として、加熱処理により除去する場合には、最終的には400℃以上で2時間以上、好ましくは500℃以上で30分以上加熱処理する。なお、界面活性剤を溶媒抽出で取り除くことも可能であり、エタノール単独の場合にはソックスレー抽出、あるいはエタノールと酸との混合水溶液による溶解法等が適用できる。
【0062】
[用途]
本発明の生体内埋入材料の例としては、ドラッグデリバリー担体、遺伝子導入剤、免疫賦活剤、生体吸収性高分子への添加剤をあげることができるがこれらに限定されるものでもない。これらの用途では、例えばロッド状多孔質シリカ粒子は薬剤、遺伝子、免疫賦活分子を体内に送達するためのキャリアーや吸収性高分子の強度補強の用途に使用できる。
【0063】
本発明の珪素徐放性薬剤の例としては、免疫賦活剤、骨ペースト及びその添加剤、骨セメント及びその添加剤、金属製生体材料のコーティング層への添加剤、経口投与剤、注射剤をあげることができるがこれらに限定されるものでもない。これらの用途では、ロッド状多孔質シリカ粒子は珪素を長期間徐放することで、細胞増殖を促したり、免疫反応等の生体反応を誘起させる目的に使用できる。
【0064】
本発明のロッド状多孔質シリカ粒子は液体媒体中に分散懸濁させることにより、懸濁液または分散液(粒子溶媒混合系)を得ることができる。液体媒体中に分散させることにより、液体媒体中に含まれるロッド状多孔質シリカ粒子を、効果的に人や動物に投与できるようにすることができる。このようにしてロッド状多孔質シリカ粒子を液体媒体中で分散状態に保つ結果、本発明の懸濁液または分散液(粒子溶媒混合系)は、経口投与剤、非経口投与剤、添付剤、軟膏、坐剤等として用いて生体に直接投与することが可能となり、又、用いた結果、高い生体適合性を得ることができるようになる。
【0065】
液体媒体中に、ロッド状多孔質シリカ粒子を分散懸濁させるために添加する前記ロッド状多孔質シリカ粒子の添加量は、必要とされるロッド状多孔質シリカ粒子の全体量を算出し、算出結果を投与量とすることとなる。
この計算された投与量に基づいて、液体の粘度を考慮して定められる微粒子沈降速度を、意図する範囲のものになるように、液体媒体量を適宜定めればよい。
【0066】
懸濁液または分散液中の粒子と液体溶媒の混合比は、投与等の治療行為を可能にさせるロッド状多孔質シリカ粒子を含有させた懸濁液または分散液(粒子溶媒混合系)の粘性の観点から規定される。すなわち、懸濁液または粒子溶媒混合系の全体の粘度は、室温で、2秒間以上、好ましくは10秒以上にわたり、3000Pa s以下、好ましくは300Pa s以下に保つことができるようにする。これ以下の場合には格別問題はない。懸濁液の粘性は限りなく水に近い場合であっても特に問題無く使用可能であるため、粘性の下限の値は、20℃の水の粘性値に相当する1.00mPa sである。
【0067】
粘度の上限を3000Pasとしたことは以下の事柄を考慮したことによる。すなわち粘度3000Pasは分子量4万のポリアミドMXD6-Gの260℃における溶融粘度に相当し、仮に、これ以上粘度が高い状態の液体とは、事実上流動性を失い、加圧しても注射器やカテーテルを通過することができなくなる状態、または軟膏のように手で変形することができなくなる状態である。このことから明らかなように、懸濁液または粒子溶媒混合系の粘度が3000Pasを超えるような場合には、注射器やカテーテルを使用して体内に投与したり、添付剤、軟膏として使用することのできない状態を意味する。
【0068】
このようにして得られる、ロッド状多孔質シリカ粒子が分散懸濁状態にある、本発明の懸濁液または分散液(粒子溶媒混合系)では、ロッド状多孔質シリカ粒子は、少なくとも、2秒間以上、好ましくは10秒以上の時間にわたり、懸濁状態が保たれることが必要である。
このためには、懸濁液または分散液中に、ロッド状シリカ多孔質粒子を2〜300μg/mL含有させておくことが好ましい。
人や動物等に投与する場合には、分散懸濁状態で投与することが必要であり、投与する際に、特定の時間、懸濁状態が保たれることにより、ロッド状多孔質シリカ粒子を前記のように人や動物に投与することが可能となる。
例えば、ロッド状多孔質シリカ粒子の分散懸濁液組成物は、内服用容器(コップ)や注射器などの容器に注入したり、充填することにより利用される。これらの容器又は注射器では最大でも8cm程度の深さ又は高さを有するものである。ロッド状多孔質シリカ粒子は、粒子沈降速度が4cm/s以下、好ましくは0.8 cm/s以下となるように、調節される。その結果、前記容器内では2秒以上、好ましくは10秒以上の時間にわたって、分散懸濁状態が保持される。この程度の時間が確保されると、人や動物に投与するために必要な時間が保持される。
【0069】
懸濁液または分散液(粒子溶媒混合系)をつくるための溶媒としては、水、生理食塩水、食塩濃度2.5重量%以下の食塩水、リンゲル液、精製水、注射用水、蒸留水、生理的塩類溶液、プロピレングリコール、エタノール、これらの水を含有するプロピレングリコール、又はこれらの水を含有するエタノールから選ばれた水溶性溶媒、乃至はトリグリセロイド、サフラワー油、大豆油,ごま油,菜種油,落花生油から選ばれた非水溶性溶媒又はポリエチレングリコール(マクロゴール)を挙げることができる。
【0070】
ロッド状多孔質シリカ粒子が細胞毒性を示さずに生体内埋入材料として使用できることは、ロッド状多孔質シリカ粒子含有及び非含有の細胞培養液中で例えばマウス由来線維芽細胞様細胞NIH3T3を3日間培養し、ロッド状多孔質シリカ粒子含有培養液中の細胞数が、ロッド状多孔質シリカ粒子非含有細胞培養液中の細胞数を統計的有意に下回らないことで確認することができる。
【0071】
ロッド状多孔質シリカ粒子が細胞毒性を示さずに珪素徐放性薬剤として使用できることは、ロッド状多孔質シリカ粒子含有及び非含有の細胞培養液中で例えばマウス由来線維芽細胞様細胞NIH3T3を3日間培養し、ロッド状多孔質シリカ粒子含有培養液を遠心分離した後の上澄みを誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)などで化学分析して珪素含有量が増加すること、及びロッド状多孔質シリカ粒子含有培養液中の細胞数が、ロッド状多孔質シリカ粒子非含有細胞培養液中の細胞数を統計的有意に上回ることによって確認することができる。
【実施例】
【0072】
次に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されない。
尚、実施例で行った各試験方法は次の方法により行った。
(測定法)
(1)形態と粒子サイズ:日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡JSM5300を使用し、加速電圧10kV、WD10mmで観察した。さらに、日立製電界放射型走査電子顕微鏡S−4700Fを使用して形態観察を行い、画像データからアスペクト比を求めた。
(2)比表面積・細孔容積・細孔径分布:日本ベル製BELSORP MINIを使用し、液体窒素温度で測定した窒素吸着等温線からBET比表面積を求め、細孔容積はt-プロットより全細孔容積(メソ孔容量とマイクロ孔容量との和)とマイクロ孔容積を分離して算出し、細孔径分布はBJH法により解析した。
(3)X線回折:リガク製ロータフレックスRU−300を使用し、CuKα線源、加速電圧40kV、80mAで測定した。
(4)透過電子顕微鏡観察(TEM):HITACHI製高分解能電子顕微鏡HF−2000を使用し、加速電圧200kVで観察した。
(5)粒度分布:ベックマンコールター社製LS 13 320を使用し、水に懸濁したサンプルを超音波洗浄機で1時間分散させ測定し、体積基準の粒度分布曲線を求めた。
【0073】
(実施例1)
塩酸に溶解したトリブロック共重合体Pluronic P123 (PEO20PPO70PEO20)溶液を35℃以上の所定温度で攪拌し完全に溶解した後、この酸性溶液に、予め水を加えて希釈し前記45℃以上の所定温度に保持した別容器の市販のJIS3号珪酸ナトリウム(SiO:23.6%、NaO:7.59%)を撹拌しながら添加する。本実施例では熟成前に白色析出物の晶出が全く認められないことが重要であり、撹拌時間はいずれも30秒であり、攪拌を停止後、テフロン(登録商標)容器に移した後密閉式ステンレス製圧力容器に封じて予め所定温度に制御した乾燥器中で6時間熟成を行った。
本実施例の混合溶液のモル比はSiO:Pluronic P123:NaO:HCl:HO=1:0.017:0.312:5−12:190−202である。HOには全ての原料由来の水が含まれている。反応後固体生成物を濾別し、洗浄後、65℃で十分乾燥させる。最終的に600℃の電気炉中で1時間焼成を行うことで有機成分を除去しロッド状多孔質シリカ粒子を得る。
表1に、本実施例の合成条件と、得られたロッド状多孔質シリカ粒子のアスペクト比等の形状に関するパラメータ並びにBET比表面積、全細孔容積、マイクロ孔容積、及びメソ孔径等の細孔特性を示す。熟成温度が高くなるに従い細孔径は大きくなり、100℃以上では8nm以上の細孔径を有するロッド状多孔質シリカ粒子が得られる。なお、攪拌温度を50℃とし、熟成も同一温度で行うと、比較例1(図3)で示すように、ロッド状粒子は作製し難いが、熟成をより高温で行うことにより、本実施例に記載の通り、本願のロッド状多孔質シリカ粒子を作製することができる。図5は実施例1−1のロッド状多孔質シリカ粒子であり、ミクロンサイズのロッド状形態を有し、個々の粒子の形態は明瞭であり、アスペクト比1以下のロッド状粒子が緩く凝集して10μm程度の集合体として存在することを示している。
【0074】
(実施例2)
塩酸に溶解したトリブロック共重合体Pluronic P123 (PEO20PPO70PEO20)溶液を35℃以上の所定温度で攪拌し完全に溶解した後、この酸性溶液に、予め水を加えて希釈し前記35℃以上の所定温度に保持した別容器の市販のJIS3号珪酸ナトリウム(SiO:23.6%、NaO:7.59%)を撹拌しながら添加する。本実施例では熟成前に白色析出物の晶出が全く認められないことが重要であり、撹拌時間はいずれも30秒であり、攪拌を停止後、攪拌時と同一温度で1時間熟成して得られたロッド状多孔質シリカ粒子前駆体をろ過・洗浄後、湿潤状態のまま実施例1と同様密閉式反応容器に移し、水を添加して、恒温槽中100℃あるいは150℃で6時間水熱処理を行った。水熱処理に際し、水の添加量は、乾燥状態の前駆体1gに換算して約24gである。反応溶液の混合モル比はSiO:Pluronic P123:NaO:HCl:HO=1:0.017:0.312:8−11:190−200である。尚、HOには全ての原料由来の水が含まれている。水熱処理後、固体生成物を濾別し、洗浄後、65℃で乾燥させる。最終的に600℃の電気炉中で1時間焼成を行うことで有機成分を除去しロッド状多孔質シリカ粒子を得る。
表1に、本実施例の合成条件と、得られたロッド状多孔質シリカ粒子のアスペクト比等の形状に関するパラメータ並びにBET比表面積、全細孔容積、マイクロ孔容積、及びメソ孔径等の細孔特性を示す。
図6は実施例2−1のFE−SEM像であり、個々の粒子の形態は明瞭であり、アスペクト比1以下のロッド状粒子が緩く凝集しているが、図8(図9)の粒度分布から凝集の程度が弱まり、粒径約5μmに粒度分布のピークが認められる。図8の比較例3の粒度分布から、本願の水熱条件下の熟成工程が単分散性の向上に有効であることが明瞭である。
【0075】
(実施例3)
塩酸に溶解したトリブロック共重合体Pluronic P123 (PEO20PPO70PEO20)溶液を35℃以上の所定温度で攪拌し完全に溶解した後、この酸性溶液に、予め水を加えて希釈し前記35℃以上の所定温度に保持した別容器の市販のJIS3号珪酸ナトリウム(SiO:23.6%、NaO:7.59%)を撹拌しながら添加する。本実施例では熟成前に白色析出物の晶出が全く認められないことが重要であり、撹拌時間はいずれも30秒であり、攪拌を停止後、攪拌時と同一温度で1時間熟成して得られたロッド状多孔質シリカ粒子前駆体をろ過・洗浄後、湿潤状態のまま実施例1と同様密閉式反応容器に移し、金属塩を溶解した水溶液を添加して、恒温槽中100℃あるいは150℃で6時間水熱処理を行った。水熱処理に際し、水の添加量は、乾燥状態の前駆体1gに換算して約24gである。本実施例では、金属塩として、NaCl、MgCl・6HO、AlCl・6HO及びNiCl・6HOを使用し、その添加量はSiO 1モルに対し、NaClは0.17モル、他は0.085モルで、反応溶液の混合モル比はSiO:Pluronic P123:NaO:HCl:HO=1:0.017:0.312:8−11:190−200である。尚、HOには全ての原料由来の水が含まれている。水熱処理後、固体生成物を濾別し、洗浄後、65℃で乾燥させる。最終的に600℃の電気炉中で1時間焼成を行うことで有機成分を除去しロッド状多孔質シリカ粒子を得る。
表1に、本実施例の合成条件と、得られたロッド状多孔質シリカ粒子のアスペクト比等の形状に関するパラメータ並びにBET比表面積、全細孔容積、マイクロ孔容積、及びメソ孔径等の細孔特性を示す。
図7は実施例3−4のFE−SEM像であり、個々の粒子の形態は明瞭であり、アスペクト比1以下のロッド状粒子が緩く凝集しているが、図9の粒度分布から凝集の程度が弱まり、粒径約5μmに粒度分布のピークが認められる。図8の比較例3、また実施例2−1の粒度分布から、本願の金属塩を添加した水熱条件下の熟成工程が単分散性の向上に極めて有効であることが明瞭である。
【0076】
【表1】

【0077】
(実施例5)
線維芽細胞様細胞NIH3T3を1×104個含む細胞培養液1mLを24ウェルプレートの各ウェルに注ぎ、6時間予備培養を行った。細胞培養液はDMEM培地にL-グルタミン(0.3 mg・mL-1)と牛血清10%を添加して作製した。予備培養後、同細胞培養液をロッド状多孔質シリカ粒子0, 5, 20, 50, 100 and 300 μg/ml含有の細胞培養液と交換した。なお、使用したロッド状多孔質シリカ粒子は実施例3−4、実施例3−5である。その後NIH3T3細胞を5%炭酸ガス雰囲気下で72時間培養し、CCK-8 キット(同人化学, Japan)を用いたWST-8法で細胞数を測定した。WST-8は細胞内脱水素酵素により還元され、水溶性のホルマザンを生成する。このホルマザンの450 nmの吸光度を測定すれば、その吸光度が細胞数の指標になる。
また72時間後の細胞培養液(1ml)を回収して遠心分離して、ロッド状多孔質シリカ粒子を沈降させた後、上澄み0.5mLを回収して超純水で5mL に希釈し、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)で珪素含有量を測定した。各ロッド状多孔質シリカ粒子に対して細胞数は1元配置分散分析で検定し、有意差が検出された場合は、Tukey's のpost hoc 多重比較テストで群間の有意差を検定した。実験はN=8で実施し、すべての統計分析は有意水準5%で行った。
【0078】
図14、15に実施例3−4、実施例3−5のロッド状多孔質シリカ粒子とともにNIH3T3細胞を72時間培養後の細胞数評価結果を示す。すべてのロッド状多孔質シリカ粒子とも、細胞培養液中の含有量が300 μg/mlのときに、0 μg/mlと比較して細胞数が統計的有意に少なかったが、5, 20, 50, 100μg/mlの濃度では0 μg/mlと比較して統計的に有意差が無いかあるいは、統計的有意に細胞数が多かった。また、細胞培養液中に溶出した珪素をICPで検出することができ、溶出珪素量はロッド状多孔質シリカ粒子濃度の増加とともに増加した(図17)。
【0079】
ロッド状多孔質シリカ粒子の含有量が5, 20, 50, 100μg/mlの濃度では0 μg/mlと比較して細胞数が統計的有意に下回らないということは、この範囲でロッド状多孔質シリカ粒子の細胞毒性が無いことを意味しており、ロッド状多孔質シリカ粒子を生体内埋入物として使用できることが示された。また、実施例3−4の場合は含有量5, 20, 50, 100μg/mlで、実施例3−5の場合は含有量100μg/mlで、細胞数が含有量0 μg/mlに比較して有意に高かったということは、この範囲でロッド状多孔質シリカ粒子から徐放された珪素が、細胞増殖を促進させたことを意味しており、ロッド状多孔質シリカ粒子が細胞毒性を示さずに珪素徐放剤として使用できることが示された。
【0080】
(比較例1)
2Nの塩酸に溶解したトリブロック共重合体Pluronic P123 (PEO20PPO70PEO20)溶液を50℃で攪拌し完全に溶解した後、この酸性溶液に、予め水を加えて希釈し50℃に保持した別容器の市販のJIS3号珪酸ナトリウム(SiO:23.6%、NaO:7.59%)を添加して混合し、30秒後に攪拌を停止した。この混合溶液をそのまま恒温水槽に静置し、50℃で300分間熟成を行った。反応溶液のモル比はSiO:Pluronic P123:NaO:HCl:HO=1:0.017:0.312:5.88:202である。尚、HOには全ての原料由来の水が含まれている。反応後固体生成物を濾別し、洗浄後、65℃で十分乾燥させる。最終的に600℃の電気炉中で1時間焼成を行うことで有機成分を除去しロッド状多孔質シリカ粒子を得る。
SEM像(図3)から、本比較例で得られた生成物は、小粒子が強く凝集し、目的の単分散ロッド状粒子を得ることができないことが分かる。さらに、表2に示す通り、本比較例の吸着等温線にはメソ構造に起因する明瞭なステップは認められず、細孔特性パラメータはいずれもかなり小さく、特に、合成温度が50℃であるにも係わらずメソ孔径が小さく極めて構造規則性が低いことが明瞭である。
【0081】
(比較例2)
2Nの塩酸に溶解したトリブロック共重合体Pluronic P123 (PEO20PPO70PEO20)溶液を45℃で攪拌し完全に溶解した後、この酸性溶液に、予め水を加えて希釈し45℃に保持した別容器のテトラエチルオルトシリケート(TEOS)を添加して混合し、30秒後に攪拌を停止した。攪拌を停止後、密閉型容器を用いて100℃で6時間熟成を行った。この反応溶液のモル比はTEOS:Pluronic P123:HCl:HO=1:0.017:5.85:201である。
また、2Nの塩酸に溶解したトリブロック共重合体Pluronic P123溶液を45℃で攪拌し完全に溶解してから、食塩NaClを添加して、上記と同様な合成を行い、NaClの添加効果を検討した。この反応溶液のモル比はTEOS:Pluronic P123:HCl:HO:NaCl=1:0.017:5.85:201:1.49である。
なお、いずれの場合も、反応後固体生成物を濾別し、洗浄後、65℃で十分乾燥させ、最終的に600℃の電気炉中で1時間焼成を行うことで有機成分を除去し粉末粒子を得る。
図4(a)と(b)は、表2中それぞれ比較例2−1及び比較例2−2のSEM像である。TEOSの場合、攪拌と熟成反応を一定温度で行い、45℃では粒子形態は不均質であり目的とする粒子は形成されない。さらに、45℃で攪拌し、熟成を100℃で行うと、NaCl無添加の場合にはアスペクト比1以上の長いロッド状粒子が生成するが(図4a)、NaClを添加すると、形態は著しく変化し、長いロッド状粒子の他に小粒子の凝集体が認められる(図4b)。塩の添加はロッド状粒子の形態に大きく影響し、特に珪酸ソーダはアスペクト比の小さいロッド状粒子の合成に適したシリカ原料であることを示唆している。
本比較例の吸着等温線にメソ構造に起因する明瞭なステップは認められず、表1の実施例1、2及び3と比較すると、表2に示した細孔特性パラメータはいずれも小さいことが分かる。
【0082】
(比較例3)
2Nの塩酸に溶解したトリブロック共重合体Pluronic P123 (PEO20PPO70PEO20)溶液を38℃あるいは45℃で攪拌し完全に溶解した後、この酸性溶液に、予め水を加えて希釈しそれぞれの温度に保持した別容器の市販のJIS3号珪酸ナトリウム(SiO:23.6%、NaO:7.59%)を添加して混合し、30秒後に攪拌を停止した。この混合溶液をそのまま恒温水槽に静置し6時間熟成を行った。反応溶液のモル比はSiO:Pluronic P123:NaO:HCl:HO=1:0.017:0.312:5.88:202である。尚、HOには全ての原料由来の水が含まれている。反応後固体生成物を濾別し、洗浄後、65℃で十分乾燥させる。最終的に600℃の電気炉中で1時間焼成を行うことで有機成分を除去しロッド状多孔質シリカ粒子を得る。
本比較例は、特許文献2のロッド状粒子に相当するもので、図8に示した粒度分布から、本願のロッド状粒子と比較して、より強く凝集し目的の単分散ロッド状粒子を得ることができないことが分かる。
【0083】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過型及び走査型顕微鏡観察により、ハニカム状に規則配列したメソ孔径3nm以上の一次元チャンネル状細孔が貫通する方向の粒子の長さが0.5μm以下で、この粒子伸張方向に垂直な粒子断面の長さとの比をアスペクト比とする時、アスペクト比が0.1〜1未満のロッド状の形態を有する粒子であって、水分散系における粒度分布ピーク(体積基準)の最大値が10μm以下の範囲に認められる緩い集合体を形成している、シリカ骨格中のSi元素が他金属で置換されていないことを特長とするロッド状シリカ多孔質粒子。
【請求項2】
回折角0.5乃至5度(CuKα)に細孔の規則配列構造を示す複数のX線回折ピークを有することを特徴とする請求項1に記載のロッド状シリカ多孔質粒子。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のロッド状シリカ多孔質粒子を2〜300μg/mL含有することを特徴とする懸濁液または分散液。
【請求項4】
酸性水溶液及び非イオン性界面活性剤の混合液に、アルカリ珪酸塩水溶液を45℃から60℃未満の温度条件下で攪拌しながら混合し、反応溶液に白濁が認められない反応時間内に撹拌を停止した後、50℃から200℃の範囲の温度で熟成して得られる固体生成物を、分離・洗浄、乾燥後、非イオン性界面活性剤を除去することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のロッド状シリカ多孔質粒子の製造方法。
【請求項5】
酸性水溶液及び非イオン性界面活性剤の混合液に、アルカリ珪酸塩水溶液を45℃から60℃未満の温度条件下で攪拌しながら混合し、反応溶液に白濁が認められない反応時間内に撹拌を停止し、10分から120分間熟成後、分離・洗浄して得られた固体生成物を、湿潤状態のまま、あるいは乾燥してから、水溶液中で50℃から200℃の範囲の温度で熟成した後に、固体生成物を分離・洗浄、乾燥後、非イオン性界面活性剤を除去することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のロッド状シリカ多孔質粒子の製造方法。
【請求項6】
酸性水溶液及び非イオン性界面活性剤の混合液に、アルカリ珪酸塩水溶液を45℃から60℃未満の温度条件下で攪拌しながら混合し、反応溶液に白濁が認められない反応時間内に撹拌を停止し、10分から120分間熟成後、分離・洗浄して得られた固体生成物を、湿潤状態のまま、あるいは乾燥してから、金属塩を溶解した水溶液中で50℃から200℃の範囲の温度で熟成した後に、固体生成物を分離・洗浄、乾燥後、非イオン性界面活性剤を除去することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のロッド状シリカ多孔質粒子の製造方法。
【請求項7】
非イオン性界面活性剤をアルカリ珪酸塩中のSiO2 1モル当たり0.01乃至0.10の量で用いること特徴とする請求項4乃至請求項6の何れかに記載の製造方法。
【請求項8】
酸をアルカリ珪酸塩中のSiO2 1モル当たり5乃至20モルの量で用いることを特徴とする請求項4乃至請求項7の何れかに記載の製造方法。
【請求項9】
水をアルカリ珪酸塩中のSiO2 1モル当たり100乃至400モルの量で用いることを特徴とする請求項4乃至請求項8の何れかに記載の製造方法。
【請求項10】
金属塩をアルカリ珪酸塩中のSiO2 1モル当たり0.01乃至1モルの量で用いることを特徴とする請求項4乃至請求項9の何れかに記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のロッド状多孔質シリカ粒子を含有する生体内埋入材料。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のロッド状多孔質シリカ粒子を含有する珪素徐放性薬剤。
【請求項13】
請求項3に記載の懸濁液又は分散液を含有する生体内埋入材料。
【請求項14】
請求項3に記載の懸濁液または分散液を含有する珪素徐放性薬剤。

【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−228986(P2010−228986A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79589(P2009−79589)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省試験研究調査委託費(環境技術開発等推進費に係るもの)「外場援用システム触媒による持続発展可能なVOC排出抑制技術に関する研究」 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】