説明

ロボットのアーム連結装置

【課題】ゴムホースによることなく、アーム間の回転を吸収可能な空気通路を構成する。
【解決手段】手首部に設けられたモータの回転をフランジに伝えるシャフト13に給気用環状溝23、排気用環状溝24を形成し、シャフト13に嵌合されたスリーブ17に両環状溝23,24に連通する中継路19,20を形成してこれら中継路25,26に手首部に設けられた給気用管路15と排気用管路16を接続する。また、シャフト13に両環状溝23,24に連通する中継路25,26を形成してこれら中継路25,26にフランジ8に設けられた給気用接続管29と排気用接続管30を接続する。Oリング溝36,38については、外側の隅角部Aの曲率半径を大きくして応力集中を緩和し、且つ隅角部A側に補填リング42,43を嵌める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットのアーム連結装置に係り、特に、空気通路を備えものに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットは、複数のアームを回転関節によって順次回転可能に連結して構成され、アーム先端にはエンドエフェクタが取り付けられる。エンドエフェクタとしては、一般にハンドが用いられるが、ハンドがエアシリンダなどの空圧アクチュエータを駆動源とする場合、その空圧アクチュエータに圧縮空気を供給するための配管を施す必要がある。この配管のうち、アームの連結部分については、従来、ゴムホースを用いてアームの回転を吸収するようにしていた。
【0003】
本発明とは直接の関係はないが、特許文献1には、Oリングによって封止する封止装置において、圧力によりOリング溝に発生する応力が集中する側の隅角部の円弧状の半径を大きくし、応力が集中しない反対側の隅角部の円弧状の半径を、Oリグ溝の両側の隅角部の円弧状の半径を互いに等しくした場合のOリングの充填率とほぼ同等の充填率となるように小さくすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−3788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のゴムホースによりアームの回転を吸収する構成では、ゴムホースの捻りや曲げが繰り返し加わるので、耐久性に劣る。しかも、アームの回転角度が大きくなるに従い、ゴムホースが絡まり易くなったり、或はゴムホースの捩れや曲げの程度が大きくなったりするので、アームの回転角度をあまり大きくすることができない。更には、アームの回転角度が小さくても、その回転に伴うゴムホースの捻りや曲げは避けられないので、耐久性確保のためには、ゴムホースの捻られる部分の長さを長くしたり、曲げられる部分の半径を大きくしたりする必要があり、ロボットの小型化の障害になる。
そこで、本発明は、ゴムホースによることなく、アーム相互間の回転を吸収可能な空気通路を構成することができるロボットのアーム連結装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、2つのアームを回転可能に連結するロボットのアーム連結装置において、一方のアームに設けられ他方のアームに回転を伝達するシャフトの外周面と、このシャフトの外周に回転可能に嵌合されるスリーブの内周面のうちの一方の周面に環状溝を形成し、スリーブに環状溝内に開口するように形成された中継路に一方のアーム側に設けられた空気通路を接続し、シャフトに環状溝内に開口するように形成された中継路に他方のアーム側に設けられた空気通路を接続するので、一方のアーム側の空気通路と他方のアーム側の空気通路との間を、ゴムホースを用いることなく、アームの回転を吸収できる状態にして接続することができる。このため、捻りや曲げ、或は絡まりを生ずる部分がなく、耐久性が大きく向上すると共に、アームの回転角に制約を受けることがなく、また、ロボットの小型化に寄与し得る。
【0007】
加えて、他方のアームに回転を伝達するシャフトには、環状溝の両側に位置してOリング溝を形成しているため、各Oリング溝の溝幅方向両側の円弧状をなす底部隅角部には応力が集中するが、特に、所定値以上の応力が作用する側の底部隅角部の曲率半径を大きくしたので、応力集中を緩和することができ、シャフトの早期疲労を防止できる。この場合、Oリング溝の溝幅を拡大し、所定値以上の応力が作用する側の底部隅角部の曲率半径を、Oリング溝の溝幅を拡大した寸法に定め、且つ、Oリング溝内の曲率半径を大きくした底部隅角部の側に、Oリング溝の溝幅の拡大寸法と同等の幅を有した補填リングを嵌め込んだので、Oリングの充填率を適性に維持できることは勿論、OリングがOリング溝内で異常に大きく横方向にずれ動いたり、Oリングの潰れ度合いに偏りが生じたりすることを極力防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態を示し、(a)は回転関節部分の断面図、(b)は要部の拡大断面図
【図2】空圧アクチュエータに接続する配管構成を示すロボットアームの先端部分の断面図
【図3】本実施形態のOリング溝を通常のOリング溝と比較して示す断面図
【図4】産業用ロボットの斜視図
【図5】実験結果および実験対象品を示す図
【図6】本実施形態のOリング溝の効果を説明するためのもので、(a−1)および(a−2)は本実施形態のOリング溝を示す断面図、(b−1)および(b−2)は通常のOリング溝を示す断面図、(c−1)および(c−2)は本実施形態と逆位置に補填リングを配置したOリング溝を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図4には、産業用ロボット1が示されている。この産業用ロボット1は、例えば6軸の垂直多関節型のもので、ベース2と、このベース2に水平方向に旋回可能に支持されたショルダ部3と、このショルダ部3に上下方向に旋回可能に支持された下アーム4と、この下アーム4に上下方向に旋回可能に支持された第1の上アーム5と、この第1の上アーム5の先端部に捻り回転可能に支持された第2の上アーム6と、この第2の上アーム6に上下方向に回転可能に支持された手首部7と、この手首部7に捻り回転可能に支持されたフランジ(エンドエフェクタ取付部)8とから構成されている。そして、アーム先端たるフランジ8には、ハンドなどのエンドエフェクタ(図示せず)が取り付けられるようになっている。
ベース2、ショルダ部3、下アーム4、第1の上アーム5、第2の上アーム6、手首部7、フランジ8は、ロボットのアームとして機能し、ベース2を除く各アームは、下段のアームに対し回転関節によって順次回転可能に連結されている。
【0010】
上述のアームとアームとを連結する回転関節は、例えば前段のアームにシャフトを回転可能に設け、このシャフトに後段のアームを連結するという周知構造のもので、後段のアームがシャフトと一体的に回転するように構成される。図2は、前段のアームである手首部7に、後段のアームであるフランジ8を回転可能に連結する回転関節9を示す。この図2において、手首部7のフレームを構成するハウジング10の先端部内側には、減速装置11が固定されている。
【0011】
減速装置11の図示しない入力軸には、モータ12の回転軸が連結されている。また、減速装置11の図示しない出力軸には、シャフト13が連結され、このシャフト13に、前記フランジ8が連結されている。従って、モータ12が起動すると、その回転が減速装置11により減速されてシャフト13に伝達され、フランジ8が捻り回転する。
【0012】
フランジ8の先端部には、エンドエフェクタとしての例えばハンド(図示せず)を駆動する空圧アクチュエータ14が配設されている。この空圧アクチュエータ14には、作動用の圧縮空気が供給される。また、空圧アクチュエータ14に供給された圧縮空気は作動後、空圧アクチュエータ14から吐出される。本実施形態では、手首部7のハウジング10内に、圧縮空気を空圧アクチュエータ14に供給するための給気用管路(空気通路)15と、空圧アクチュエータ14から吐出された空気を所定の廃棄場所まで導くための排気用管路(空気通路)16が配設されている。これら給気用管路15と排気用管路16とは、2系統の通路により空圧アクチュエータ14の2つの空気出入口(図示せず)にそれぞれ接続される。
【0013】
ここで、給気用管路15および排気用管路16と空圧アクチュエータ14との間を接続する通路構成につき説明する。これら給気用管路15および排気用管路16と空圧アクチュエータ14との間を接続する通路は、手首部7に対するフランジ8の回転を吸収しなければならないため、当該通路の一部は回転関節9のシャフト13を利用して形成されている。即ち、図1にも示すように、シャフト13の外側には、スリーブ17が設けられている。このスリーブ17は、嵌合孔18を有した円筒状をなしており、嵌合孔18内にシャフト13が回転可能に嵌合(収納)されている。
【0014】
上記スリーブ17には、軸方向に位置を異ならせて2つの中継路、つまり給気入口側中継路19および排気出口側中継路20が形成されている。これら給気入口側中継路19および排気出口側中継路20は、スリーブ17を内外方向に貫通して形成されており、その両端開口のうち、スリーブ17の外周面における一端開口には、それぞれ前記給気用管路15および排気用管路16が管継手21,22を介して接続されている。ここで、給気用管路15および排気用管路16が手首部7のハウジング10に固定されていることにより、手首部7に対するスリーブ17の回転が拘束される。
【0015】
シャフト13の外周面には、軸方向に隔てて2本の環状溝、つまり給気用環状溝23および排気用環状溝24がシャフト13の外周面を一周するように形成されている。これら給気用環状溝23および排気用環状溝24の軸方向の形成位置は、それぞれスリーブ17の給気入口側中継路19および排気出口側中継路20の形成位置に一致しており、従って、給気入口側中継路19は給気用環状溝23内に開口して当該給気用環状溝23と常時連通し、排気出口用中継路20は排気用環状溝24内に開口して当該排気用環状溝24に常時連通した状態に維持される。
【0016】
シャフト13の中には、2本の中継路、つまり給気出口側中継路25および排気入口側中継路26がL形に形成されている。これら給気出口側中継路25および排気入口側中継路26の一端開口は、それぞれ給気用環状溝23および排気用環状溝24内に開口されている。また、これら給気出口側中継路25および排気入口側中継路26の他端開口は、それぞれシャフト13の外面、例えばフランジ8側の一端面において開口されている。そして、これら給気出口側中継路25および排気入口側中継路26の他端開口には、それぞれ管継手27,28を介して給気用接続管(空気通路)29および排気用接続管(空気通路)30が接続されている。
【0017】
フランジ8のフレームを構成するハウジング31内側には、流路切換手段としてのソレノイドバルブ32が配設されている。このソレノイドバルブ32は、図示はしないが、例えば4つのポート(図示せず)を備えている。上記のシャフト13の給気出口側中継路25および排気入口側中継路26に接続された給気用接続管29および排気用接続管30の先端部は、フランジ8のハウジング31に形成された開口33を通して当該ハウジング31内に導入され、ソレノイドバルブ32の4つのポートのうち所定の2つのポートに接続されている。ソレノイドバルブ32の残る2つのポートには、それぞれゴムホース34,35が接続されている。これら2本のゴムホース34,35は、フランジ8のハウジング31に形成された開口36から外方に導出され、空圧アクチュエータ14の2つの出入口(図示せず)にそれぞれ接続されている。
【0018】
なお、手首部7内の給気用管路15および排気用管路16は、図示はしないが、一端部がいずれかのアーム、例えばベース2内まで、回転関節のシャフトに形成された上述のような空気通路を介して延長され、ベース2から外方に導出される。そして、給気用管路15の一端部は、圧縮空気供給源であるコンプレッサに接続され、排気用管路16の一端部は、所定の排気場所まで延長されるようになっている。
【0019】
従って、圧縮空気供給源から供給される圧縮空気は、給気用管路15、スリーブ17の給気入口側中継路19、シャフト13の給気用環状溝23および給気出口側中継路25、給気用接続管29、ソレノイドバルブ32、ゴムホース34を順に通って空圧アクチュエータ14に供給され、この圧縮空気の供給によって空圧アクチュエータ14が所定の動作を行う。一方、空圧アクチュエータ14の動作に伴って当該空圧アクチュエータ14から吐出される空気は、ゴムホース35、ソレノイドバルブ32、排気用接続管30、シャフト13の排気入口側中継路26および排気用環状溝24、スリーブ17の排気出口側中継路20、排気用管路16を通って所定の排気場所に導かれ、当該排気場所で排出される。
【0020】
さて、図1にも示すように、シャフト13の外周面には、給気用環状溝23および排気用環状溝24の両側に位置するようにして第1のOリング溝36、第2のOリング溝37および第3のOリング溝38が形成されている。なお、中央の第2のOリング溝37は、給気用環状溝23および排気用環状溝24の片側のOリング溝を兼用している。これら第1のOリング溝36、第2のOリング溝37および第3のOリング溝38内には、それぞれOリング39〜41が嵌め込まれており、このOリング39〜41によってシャフト13とスリーブ17との間が密閉され、スリーブ17とシャフト13との間の僅かな隙間を通じて空気が給気用環状溝23および排気用環状溝24に対して出入りすることが防止される。
【0021】
さて、シャフト13は、減速装置11の出力トルクをフランジ8に伝達する機能を有する。また、シャフト13は、トルク伝達機能の他、フランジ8を片持ち支持する機能を有する。このとき、シャフト13には、フランジ8の重量の他、空圧アクチュエータ14およびエンドエフェクタの重量が作用し、更に、エンドエフェクタがハンドである場合、当該ハンドがワークを把持したとき、そのワークの重量も加わる。このため、シャフト13には、捻りトルクの他、曲げモーメントが作用する。
このうち、捻りモーメントは、シャフト13の軸方向各部に同等に作用する。曲げモーメントについては、シャフト13に作用する曲げモーメントは、軸方向中央部で最も小く、軸方向両端で最も大きくなる。
【0022】
一方、第1のOリング溝36、第2のOリング溝37および第3のOリング溝38は、給気用環状溝23および排気用環状溝24よりも深く且つ幅広で、しかも、底部の両側の円弧面状をなす隅角部の曲率半径も、比較的小さい。このため、第1のOリング溝36、第2のOリング溝37および第3のOリング溝38のうち、外側の第1のOリング溝36および第3のOリング溝38の底部両側の隅角部A,B、特には、第1のOリング溝36についてはフランジ8側である外側の隅角部A、第3のOリング溝38については減速装置11側である外側の隅角部Aにより大きな所定値以上の応力が集中するようになる。
【0023】
そこで、この応力集中、特に外側の隅角部Aの応力集中を緩和するために、本実施形態では、図3(a)に示すように、第1のOリング溝36および第3のOリング溝38の底部両側の隅角部A,Bのうち、外側の隅角部Aの曲率半径Rを、内側の隅角部Bの曲率半径rよりも大きく設定している。なお、図3(a)では、第3のOリング溝38を示している。
【0024】
この場合、隅角部Aの曲率半径の寸法Rだけ第1のOリング溝36および第3のOリング溝38の溝幅Wを通常のOリング溝の溝幅よりも広くした。即ち、図3(b)は、例えば、JIS(日本工業規格) B 2406に従ってシャフトSに形成した溝幅Wjの標準の(通常の)Oリング溝Mjを示している。このOリング溝Mj内にOリングNjを嵌め込み、そして、シャフトSをスリーブTに嵌合すると、OリングNjは図示の通り潰されて溝幅方向にやや偏平に拡がった形状となる。この偏平に拡がったOリングNjを、その一方の側部がOリング溝Mjの一方の内側面に接するように片側にずらす。この状態でOリングNjの他方の側部とOリング溝Mjの他方の内側面との間に生じた隙間の幅寸法をgとする。
【0025】
本実施形態における第1のOリング溝36および第3のOリング溝38の溝幅Wは、上記と同様に、第1のOリング溝36および第3のOリング溝38内にOリング39および41を嵌め込み、そして、シャフト13をスリーブ17に嵌合したとき、潰されて溝幅方向にやや偏平に拡がったOリング39,41を、その一方の側部が第1のOリング溝36および第3のOリング溝38の一方の内側面に接するように片側にずらし、このときOリング39,41の他方の側部と第1のOリング溝36および第3のOリング溝38の他方の内側面との間に生じた隙間の幅寸法が、標準のOリング溝Mjにおける同様の隙間g(所定寸法)を超えるような寸法Gとなるように、通常のOリング溝Mjの溝幅Wjよりも拡大された寸法に定める。
【0026】
本実施形態では、上記の寸法Gは、(g+R)に定めている。そして、外側の隅角部Aの曲率半径を、所定寸法gを超えて拡大した寸法、即ちRと定めている。
溝幅が広げられた第1のOリング溝36および第3のOリング溝38内には、外側の隅角部A側に位置して補填リング42および43が嵌合されている。これら補填リング42,43は、幅寸法が標準のOリング溝Mjよりも拡大された寸法Rと同等の幅を有し、且つ内周側の両隅角部のうち、第1のOリング溝36および第3のOリング溝38の隅角部A側の隅角部は、曲率半径Rの円弧面に形成されている。なお、補填リング42,43は、例えばプラスチック製で、伸縮性があってもなくても良いが、伸縮性のない場合には、切れ目を設けたり、2分割形としたりして第1のOリング溝35および第3のOリング溝37内に嵌め込み得るようにする。
【0027】
本実施形態における第1のOリング溝36および第3のOリング溝38の応力緩和効果を確認するために、発明者は図5(b),(c),(d)に示す寸法の実施例品と比較例品1,2とについて、FEM解析による隅角部A,Bの応力計算を行い、その結果を併せて図5(a)に示した。
【0028】
JIS(日本工業規格) B 2406によれば、Oリング溝の底部の両側の隅角部の曲率半径は共に0.8mmである。比較例品1は、Oリング溝の底部の両隅角部A,Bの曲率半径を上記JIS B 2406に従って形成したもの(図5(c)参照)、比較例品2は前述の特許文献1によるものであり(図5(d)参照)、実施例品は、内側の隅角部Bの曲率半径を0.8mm、外側の隅角部Aの曲率半径を2.5mmとしたものである(図5(b)参照)。このように隅角部Aの曲率半径は2.5mmであるから、第1のOリング溝36および第3のOリング溝38の幅Wは、比較例品1の溝幅よりも2.5mmだけ広くした。従って、曲率半径を大きくした側に嵌め込まれる補填リング42,43の幅は、2.5mmに定められている。Oリング溝の溝幅は比較例品1,2が共に4.7mm、実施例品が7.2mmである。Oリング溝の径は、底面での直径寸法で示すと30mmである。
【0029】
FEM解析による隅角部A,Bの応力計算では、シャフト13の片端に14500Nのラジアル荷重を加えて隅角部A,Bの応力解析を行った。この応力解析の結果を示す図5(a)のように、実施例品は、応力集中の大なる隅角部A側の応力が比較例品1,2に比べて小さく、応力集中の緩和効果が高いことが理解される。なお、実施例品の隅角部Bの応力が比較例品1,2に比べて大きくなっているが、この程度の応力は実用上問題のない範囲である。
【0030】
このように本実施形態によれば、シャフト13に給気用環状溝23および排気用環状溝24を形成し、シャフト13に回転可能に嵌合されたスリーブ17に給気用環状溝23および排気用環状溝24と常時連通状態を維持する給気入口側中継路19および排気出口側中継路20を形成すると共に、シャフト13に給気用環状溝23および排気用環状溝24と常時連通状態を維持する給気出口側中継路25および排気入口側中継路26を形成して、給気入口側中継路19および排気出口側中継路20に手首部7に設けられた給気用管路15および排気用管路16を接続すると共に、給気出口側中継路25および排気入口側中継路26にフランジ8に設けられた給気用接続管29および排気用接続管30を接続したので、手首部7側の管路とフランジ8側の管路とを、ゴムホースを使用することなく、手首部7に対するフランジ8の回転を吸収できる状態にして接続することができる。このため、捻りや曲げ、或は絡まりを生ずる部分がなく、耐久性が向上すると共に、フランジ8の回転角に制約を受けることがない。また、手首部7からフランジ8にかけての部分の小型化、ひいてはロボットの小型化に寄与することができる。
【0031】
ところで、Oリング溝は高い加工精度が要求され、この高加工精度のもとでOリングが空気を外部に逃がさないというシール機能を効果的に発揮する。この場合、スリーブ17の内周面にOリング溝を加工するよりも、本実施形態のようにシャフト13の外周面にOリング溝を加工した方が、Oリング溝の加工精度を高くすることができる。なぜならば、スリーブ17の内周面へのOリング溝の加工はスリーブ17内にカッターを入れて行う内側加工となる。この内側加工は、そもそも加工自体難しくなり、加工精度の測定も測定装置を入れ難く、測定し難い。これに対し、シャフト13の外周面にOリング溝を加工する外側加工であれば、作業量としては内側加工と同じであっても、内側加工に比べて加工自体し易く、測定もシャフト13を測定装置に合わせることができて容易である。そのため、同じ作業量で比較した場合、スリーブ17への内側加工よりも、シャフト13への外側加工の方がOリング溝を精度良く加工できる。
【0032】
ところが、本実施形態のように、Oリング溝をシャフト13に形成すると、シャフト13に形成した第1のOリング溝36、第2のOリング溝37および第3のOリング溝38のうち、第1のOリング溝36および第3のOリング溝38の底部の両隅角部A,B、特に外側の隅角部Aに所定値(図5の例では、例えば300MPa)以上の応力が集中する。
しかしながら、本実施形態では、この第1のOリング溝36および第3のOリング溝38の外側の隅角部Aの曲率半径を大きくしたので、応力集中を緩和でき、早期の疲労を防止することができる。
【0033】
しかも、隅角部Aの曲率半径寸法分だけ第1のOリング溝36および第3のOリング溝38の溝幅を広くし、そして、第1のOリング溝36および第3のOリング溝38内の曲率半径を大きくした隅角部Aの側に、溝幅を広くした分だけの幅を有した補填リング42,43を収容したので、Oリング39,41の充填率は通常のOリング溝の場合と同様に適正値に維持でき、寿命に悪影響を及ぼすことを防止できる。
【0034】
即ち、本実施形態では、第1のOリング溝36および第3のOリング溝38の溝幅は拡大されているが、その拡大された幅を持った補填リング42,43が第1のOリング溝36および第3のOリング溝38内に嵌め込まれている。このため、第1のOリング溝36および第3のOリング溝38内に圧縮空気が侵入する等してOリング39,41が溝幅方向にずれ動く場合、異常に長い距離ずれ動くことが防止され、Oリング39,41の早期摩耗を防止できる。
【0035】
また、図6(a−1),(a−2)は本実施形態のOリング溝で隅角部A側に補填リングを嵌めたもの、同図(b−1),(b−2)は底部隅各部の曲率半径をJIS B 2406に従って形成したOリング溝、同図(c−1),(c−2)はOリング溝は本実施形態と同様で、補填リングを本実施形態と反対側に収容したものを示している。そして、図6の上段の図(a−1),(b−1),(c−1)は通常の状態のOリングを示し、図6の下段の図(a−2),(b−2),(c−2)は図示左側から高圧空気がOリング溝内に侵入してきた場合のOリングを示す。
【0036】
図6(a−1),(b−1),(c−1)を比較して理解されるように、通常の状態では、隅角部Aの曲率半径の大小には関係なく、Oリングの潰れ形態は変わらず、正常の状態を維持できる。しかし、高圧空気がOリング溝内に侵入すると、図6(a−1),(b−1),(c−1)に示すように、Oリングはその圧力を受けて高圧空気の侵入側とは反対側に移動する。この場合、本実施形態では、Oリングの潰れ形態はJIS B 2406のOリング溝と同じで、特に問題は生じない。
【0037】
しかし、補填リングを隅角部Aとは反対側に収容したものでは、Oリングは曲率半径の大きな隅角部Aに接するので、その分潰れ体積が少なくなり、その少なくなった分が横方向に拡がって軸受との接触面積が増大する。このようになると、Oリングとスリーブとの摺動抵抗が大きくなり、トルク損失を招くと共に、Oリングの摩耗が促進されて寿命が短くなる。このことについて、本実施形態では、特に、スリーブとの接触面積が増大することはなく、摩耗防止、長寿命化に寄与することができる。
【0038】
なお、本発明は上記し且つ図面に示す実施形態に限定されるものではなく、以下のような変更或は拡張が可能である。
減速装置11をフランジ8側に固定し、シャフト13を手首部7に連結してモータ12の起動により減速装置11がシャフト13に対して回転することによってフランジ8が回転するように構成しても良い。
給気用環状溝23および排気用環状溝24は加工精度を特に必要としないので、スリーブ17の内周面に形成しても良い。また、給気用環状溝23および排気用環状溝24の一方をシャフト13の外周面に形成し、他方をスリーブ17の内周面に形成しても良い。
空圧アクチュエータ14から吐出される空気を、そのまま大気中に排出するようにすれば、排気側の空気通路を構成する部分は設けなくとも良い。
【符号の説明】
【0039】
図面中、1は産業用ロボット、7は手首部、8はフランジ、9は回転関節、11は減速装置、12はモータ、13はシャフト、14は空圧アクチュエータ、15は給気用管路(空気通路)、16は排気用管路(空気通路)、19は給気入口側中継路、20は排気出口側中継路、23は給気用環状溝,24は排気用環状溝、25は給気出口側中継路、26は排気入口側中継路、29は給気用接続管(空気通路)、30は排気用接続管(空気通路)、32はソレノイドバルブ、36は第1のOリング溝、37は第2のOリング溝、38は第3のOリング溝、39〜41はOリング、42,43は補填リングを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのアームを回転可能に連結するロボットのアーム連結装置において、
前記2つのアームのうち一方のアームに設けられ他方のアームに回転を伝達するシャフトと、
嵌合孔を有し当該嵌合孔内に前記シャフトを相対回転可能に収容したスリーブと、
前記シャフトの外周面および前記スリーブの内周面のうちの少なくとも一方に、当該周面を一周するように形成された環状溝と、
前記シャフトの外周面に、前記環状溝の両側に位置して当該外周面を一周するように形成されたOリング溝と、
前記Oリング溝内に嵌め込まれ、前記シャフトと前記スリーブとの間を封止するOリングと、
前記スリーブに、一端が前記環状溝内に開口するように形成され、他端が前記スリーブの外面において開口して前記一方のアーム側に設けられた空気通路に接続される中継路と、
前記シャフトに、一端が前記環状溝内に開口するように形成され、他端が前記シャフトの外面において開口して前記他方のアーム側に設けられた空気通路に接続される中継路と
を備え、
前記Oリングを前記Oリング溝内に嵌め込んで前記シャフトを前記スリーブ内に嵌合した状態で、前記Oリングを前記Oリング溝の一方の内側面に接するまで当該一方の内側面側に寄せたとき、前記Oリングと他方の内側面との間に生ずる隙間が所定寸法を超えるように前記Oリング溝の溝幅を拡大し、
前記Oリング溝の内底部の溝幅方向両側に存する円弧状の底部隅角部のうち、所定値以上の応力が作用する側の底部隅角部の曲率半径を、前記Oリング溝の溝幅が前記所定寸法を超えて拡大された寸法に定めて反対側の底部隅角部の曲率半径よりも大きな曲率半径にし、
前記Oリング溝内の溝幅方向両側のうち、底部隅角部の曲率半径が大きくされた側に、前記Oリング溝の溝幅が前記所定寸法を超えて拡大された寸法と同等の幅寸法を有した補填リングを嵌め込んだことを特徴とするロボットのアーム連結装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−31364(P2011−31364A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182455(P2009−182455)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【Fターム(参考)】