説明

ロボットの位置情報復元装置および位置情報復元方法

【課題】モータ交換等により無効となったセンサ信号による位置情報を容易に有効化する。
【解決手段】モータ駆動により支持部材31に対して回動可能な可動部材32を有するロボット1において、支持部材31と可動部材32との位置関係を表す視覚マーク30を設け、モータ交換の前後において、それぞれカメラ4により視覚マーク30を撮影するとともに、カメラ4からの画像信号に基づいてモータ交換の前後の視覚マーク30の位置関係が同一の位置関係となるようにサーボモータMを制御する。これらモータ制御後のセンサ信号に対応した軸角度θref-n,θref-n’に基づいて、モータ交換後のセンサ信号による軸角度θnを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットの関節軸における基準位置に基づく位置情報を復元するロボットの位置情報復元装置および位置情報復元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ駆動により回動される関節軸を有するロボットにおいては、一般に、モータ駆動量に応じたセンサ信号を出力するセンサが設けられ、関節軸を基準位置に位置合わせした上で、センサ信号と関節軸の軸角度との対応関係が定められる。この位置合わせは一般に、ロボットを所定の姿勢(形態)にすることで各関節軸が所定の状態になることを利用するものが多く、ロボットを所定の姿勢(形態)にするためにロボットの機構構造に合わせた治具を用いる方法などが様々知られている。それらの例として、関節軸を構成する一対の構造体にそれぞれピン孔を設け、各ピン孔の両方に貫通するピンを挿入して基準位置を規定する方法(例えば特許文献1参照)や、関節軸を構成する一方の構造体にV溝を設けるとともに、他方の構造体にV溝に対応して近接センサを設け、近接センサからの信号により基準位置を特定する方法(例えば特許文献2参照)などがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−278787号公報
【特許文献2】特開2005−177962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種のロボットにおいて、モータやモータに連結された減速機等が保守点検等により着脱または交換されると、基準位置に基づくセンサ信号による位置情報が無効となる。したがって、センサ信号による位置情報を有効とするためには、再度、位置合わせ等の作業が必要となる。しかしながら、上記特許文献1記載の方法では、ピン孔部の加工精度不足や関節部の組み付け誤差等によりピン孔の相対位置がずれることがあり、位置合わせ作業が容易でなく、また位置合わせの精度低下を招き易い。また、上記特許文献2記載の方法では、近接センサを関節軸の運動方向に対して精度よく設置する必要があるため、位置合わせ作業に手間と時間を要する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、関節軸を介して互いに相対移動可能に接続された第1の部材及び第2の部材と、第1の部材に対し第2の部材を相対移動させるモータと、モータの駆動量に応じたセンサ信号を出力するセンサとを有するロボットに設けられ、関節軸の基準位置を基準としてセンサ信号と第1の部材に対する第2の部材の相対移動量との対応関係が定められた後に、この対応関係に影響を及ぼす部品の着脱または交換が行われたことによって無効となった、基準位置に基づくセンサ信号による位置情報を有効化するロボットの位置情報復元装置であって、第1の部材および第2の部材には、互いの位置関係を表す第1マークおよび第2マークがそれぞれ設けられ、第1マークおよび第2マークを含む領域の画像信号を取得する撮像手段と、部品の着脱または交換が行われる前の第1時点に撮像手段により得られた画像信号に基づいて、第1時点における第1マークと第2マークとの第1の位置関係を演算するとともに、部品の着脱または交換が行われた後の第2時点に撮像手段により得られた画像信号に基づいて、第2時点における第1マークと第2マークとの第2の位置関係を演算するマーク位置演算手段と、マーク位置演算手段により演算された第1の位置関係が所定の位置関係となるように第1時点においてモータを制御するとともに、マーク位置演算手段により演算された第2の位置関係が所定の位置関係となるように第2時点においてモータを制御するモータ制御手段と、第1時点におけるモータ制御手段による制御後にセンサが出力した第1のセンサ信号と、第2時点におけるモータ制御手段による制御後にセンサが出力した第2のセンサ信号とに基づき、第2時点後にセンサが出力するセンサ信号による位置情報を補正する補正手段とを備えることを特徴とする。
また、本発明によるロボットの位置情報復元装置は、第1マークおよび第2マークを含む領域の画像信号を取得する撮像手段と、部品の着脱または交換が行われる前の第1時点に撮像手段により得られた画像信号に基づいて、第1時点における第1マークと第2マークとの第1の位置関係を演算するとともに、部品の着脱または交換が行われた後の第2時点に撮像手段により得られた画像信号に基づいて、第2時点における第1マークと第2マークとの第2の位置関係を演算するマーク位置演算手段と、マーク位置演算手段により演算された第1の位置関係と第2の位置関係とに基づき、第1時点と第2時点との間の第1の部材に対する第2の部材の位置変化量を演算するとともに、この位置変化量と、第1時点にセンサが出力した第1のセンサ信号と、第2時点にセンサが出力した第2のセンサ信号とに基づき、第2時点後にセンサが出力するセンサ信号による位置情報を補正する補正手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
本発明は、関節軸を介して互いに相対移動可能に接続された第1の部材及び第2の部材と、第1の部材に対し第2の部材を相対移動させるモータと、モータの駆動量に応じたセンサ信号を出力するセンサとを有するロボットを備え、関節軸の基準位置を基準としてセンサ信号と第1の部材に対する第2の部材の相対移動量との対応関係が定められた後に、この対応関係に影響を及ぼす部品の着脱または交換が行われたことによって無効となった、基準位置に基づくセンサ信号による位置情報を有効化するロボットの位置情報復元方法であって、第1の部材および第2の部材には、互いの位置関係を表す第1マークおよび第2マークがそれぞれ設けられ、部品の着脱または交換が行われる前の第1時点において、第1のマークおよび第2のマークを含む領域をカメラにより撮影する第1の撮影手順と、第1の撮影手順により取得された画像信号に基づいて、第1時点における第1マークと第2マークとの第1の位置関係を演算し、この位置関係が所定の位置関係となるようにモータを制御する第1のモータ制御手順と、部品の着脱または交換が行われた後の第2時点において、第1のマークおよび第2のマークを含む領域をカメラにより撮影する第2の撮影手順と、第2の撮影手順により取得された画像信号に基づいて、第1時点における第1マークと第2マークとの第2の位置関係を演算し、この位置関係が所定の位置関係となるようにモータを制御する第2のモータ制御手順と、第1のモータ制御手順によりモータを制御した後にセンサが出力した第1のセンサ信号と、第2のモータ制御手順によりモータを制御した後にセンサが出力した第2のセンサ信号とに基づき、第2時点後にセンサが出力するセンサ信号による位置情報を補正する補正手順とを含むことを特徴とする。
また、本発明によるロボットの位置情報復元方法は、部品の着脱または交換が行われる前の第1時点において、第1マークおよび第2マークを含む領域をカメラにより撮影する第1の撮影手順と、第1の撮影手順により取得された画像信号に基づいて、第1時点における第1マークと第2マークとの第1の位置関係を演算する第1の演算手順と、部品の着脱または交換が行われた後の第2時点において、第1マークおよび第2マークを含む領域をカメラにより撮影する第2の撮影手順と、第2の撮影手順により取得された画像信号に基づいて、第2時点における第1マークと第2マークとの第2の位置関係を演算する第2の演算手順と、第1の撮影手順により演算された第1の位置関係と、第2の演算手順により演算された第2の位置関係とに基づき、第1時点と第2時点との間の第1の部材に対する第2の部材の相対移動量を演算し、この相対移動量と、第1時点においてセンサが出力した第1のセンサ信号と、第2時点においてセンサが出力した第2のセンサ信号とに基づき、第2時点後にセンサが出力するセンサ信号による位置情報を補正する補正手順とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、モータ交換等の前後における、第1の部材と第2の部材との位置関係を表す第1マークおよび第2マークの画像信号に基づいて、基準位置に基づくセンサ信号による位置情報を補正するので、モータ交換等により無効となったセンサ信号による位置情報を容易に有効とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態に係る位置情報復元装置が適用される産業用ロボットの一例を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る位置情報復元装置を有するロボットシステムの全体構成を示す図である。
【図3】図2のロボット制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図2の画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【図5】(a),(b)はそれぞれ関節部に設けられた視覚マークの一例を示す図である。
【図6】図5の変形例を示す図である。
【図7】カメラの校正を説明する図である。
【図8】ロボット制御装置の第1処理部で実行される第1の処理の一例を示すフローチャートである。
【図9】(a),(b)は第1の処理の具体的手法を説明する図である。
【図10】ロボット制御装置の第2処理部で実行される第2の処理の一例を示すフローチャートである。
【図11】第2の処理の具体的手法を説明する図である。
【図12】本発明の第1の実施の形態に係る位置情報復元方法の手順を示す図である。
【図13】図5,6の比較例を示す図である。
【図14】本発明の第2の実施の形態に係る位置情報復元方法の手順を示す図である。
【図15】第2の実施の形態に係る位置情報復元方法によるモータ交換前の撮影動作を示す図である。
【図16】第2の実施の形態に係る位置情報復元方法によるモータ交換後の撮影動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
−第1の実施の形態−
以下、図1〜図13を参照して本発明の第1の実施の形態について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係る位置情報復元装置が適用される産業用ロボット1の一例を示す図である。図1のロボット1は、回転可能な6つの関節軸を有する多関節ロボットであり、各関節軸の回転方向はそれぞれ矢印J1〜J6で示されている。ロボット1の関節軸はモータの駆動により回転され、ロボット1の関節軸の回転量を適宜調整することで、アーム先端部ATを任意の位置と姿勢に位置決めできる。
【0010】
図2は、本実施の形態に係る位置情報復元装置を有するロボットシステムの全体構成を示す図である。図では一部のみ示すが、各関節軸を形成するロボット機構部3には、それぞれサーボモータMが設けられている。各サーボモータMには、モータ駆動量に応じたセンサ信号を出力するパルスコーダPCが、それぞれモータ回転角のフィードバック用として一体に設けられている。サーボモータMの出力軸は、減速機を介してあるいは減速機を介さずに各関節軸に連結されている。関節軸は直動軸でもよく、その場合には、ボールねじあるいはプーリーとタイミングベルト等によってサーボモータMの回転運動が直線運動に変換される。
【0011】
このような産業用ロボット1においては、ロボット機構部3が組み立てられた後、機構キャリブレーションと称する作業が行われ、次式(I)に示すような各関節軸における回転角(軸角度)θ1〜θ6とアーム先端部ATの位置および姿勢との対応関係が定められる。
(J1,J2,・・,J6)=(θ1,θ2,・・,θ6)
←→(X,Y,Z,W,P,R) (I)
なお、上式において、X,Y,Zは、アーム先端部ATの直交三軸座標系におけるX座標、Y座標、Z座標であり、W,P,RはそれぞれX軸、Y軸、Z軸方向周りの回転角度である。
【0012】
機構キャリブレーションは、一例として各関節軸を予め定めた基準位置の姿勢にセットして行われ、基準位置を基準としてパルスコーダPCの信号(センサ信号)と軸角度θ1〜θ6との対応関係が定められる。このとき、軸角度θ1〜θ6のゼロ点(θ=0)が定義され、J1〜J6は、ゼロ点を基準にして表される。ゼロ点は、例えば基準位置において定義され、この基準位置におけるセンサ信号、つまりゼロ点に対応したセンサ信号が基準信号としてメモリに記憶される。
【0013】
上述の機構キャリブレーションが既に完了している状態で、保守作業等によりサーボモータMや減速機が取り外されると、ゼロ点を基準としたセンサ信号による位置情報が変化し、位置情報が無効となる。また、サーボモータMが交換されると、パルスコーダPCも同時に交換されるため、この場合にも、ゼロ点を基準としたセンサ信号による位置情報が無効となる。本実施の形態では、このゼロ点基準の位置情報が無効な状態から後述するようにして有効な状態に復帰させる。
【0014】
図2に示すように、本実施の形態に係る位置情報復元装置では、ロボット1から離れた位置にカメラ4が設置されている。カメラ4は例えばCCD等の撮像素子を有する電子カメラであり、撮像により2次元画像を受光面(CCDアレイ面上)で検出する機能を持つ周知の受光デバイスである。カメラ4はカメラスタンドにより支持され、カメラ4により、ロボット1の関節部に設けられた視覚マーク30(図5)が撮影される。なお、作業者がカメラ4を手持ちで保持してもよい。
【0015】
カメラ4からの信号は画像処理装置2に出力され、画像処理装置2からの信号に基づき、ロボット制御装置5は、サーボモータMを制御する。図3は、ロボット制御装置5の構成を示すブロック図である。ロボット制御装置5は、メインCPU11に接続されたバス17に、RAM,ROM,不揮発性メモリ等からなるメモリ12、教示操作盤用インターフェイス13、外部装置用の入出力インターフェイス16、サーボ制御部15及び通信インターフェイス14が並列に接続されている。CPU11は、第1処理部5a、第2処理部5bおよび補正部5cを有し、これら各部で後述の処理が実行される。
【0016】
教示操作盤用インターフェイス13に接続される教示操作盤18は、通常のディスプレイ機能付きのものであり、作業者は、この教示操作盤18のマニュアル操作を通じて、ロボット1の動作プログラムの作成、修正、登録、あるいは各種パラメータの設定等を実行する他、後述の制御プログラムの開始指令等を入力する。メモリ12の不揮発性メモリには、この制御プログラムを含む各種制御プログラムが格納される。
【0017】
サーボ制御部15は、サーボ制御器#1〜#n(nはロボット1の総軸数であり、ここではn=6)を備え、ロボット制御のための演算処理によって作成された移動指令を受け、各軸に付属したパルスコーダPCから受け取るフィードバック信号と併せてサーボアンプA1〜Anに駆動指令を出力する。各サーボアンプA1〜Anは、各駆動指令に基づいて各関節軸のサーボモータMに電流を供給し、それらを駆動する。通信インターフェイス14は、画像処理装置2(図2)に接続されており、この通信インターフェイス14を介してカメラによる撮像の開始指令や画像処理の開始指令などが画像処理装置2に出力され、また画像処理装置2による処理結果が入力される。
【0018】
画像処理装置2は、図4に示した周知のブロック構成を有する。すなわち、画像処理装置2は、マイクロプロセッサからなるCPU20を有し、CPU20には、バスライン30を介してROM21、画像処理プロセッサ22、カメラインターフェイス23、モニタインターフェイス24、入出力機器(I/O)25、フレームメモリ(画像メモリ)26、不揮発性メモリ27、RAM28及び通信インターフェイス29が各々接続されている。なお、画像処理装置2をロボット制御装置5内に設けることもできる。
【0019】
カメラインターフェイス23には、カメラ4が接続される。カメラインターフェイス23を介して撮影指令が送られたときに、カメラ4に設定された電子シャッタ機能により撮影が実行され、カメラインターフェイス23を介して画像信号がグレイスケール信号の形でフレームメモリ26に格納される。モニタインターフェイス24にはモニタとしてCRT,LCD等のディスプレイが接続され、カメラが撮影中の画像、フレームメモリ26に格納された過去の画像、画像処理プロセッサ22による処理を受けた画像等が必要に応じて表示される。
【0020】
図5は、関節部に設けられた視覚マーク30の一例を示す図である。なお、図5(a)では、関節部の回転軸方向から見てマーク30を付した例を、図5(b)では、関節部の回転軸の側方から見てマーク30を付した例をそれぞれ示している。関節部では、支持部材31に対して可動部材32が回転可能に支持されている。
【0021】
視覚マーク30は、ドット形状をなす5つのドットマークからなり、これらドットマークP1〜P5は十字形状に配設されている。すなわち、中央のドットマークP3を挟んで図の横方向両側にそれぞれドットマークP2,P4が等間隔に並設され、さらに中央のドットマークP3を挟んで図の縦方向両側にそれぞれドットマークP1,P5が配設されている。ドットマークP2〜P5は支持部材31に、ドットマークP1は可動部材32にそれぞれ設けられ、可動部材32の回転によりドットマークP1が矢印方向に移動し、視覚マーク30の形状、すなわちドットマークP1とドットマークP2〜P5との位置関係が変化する。
【0022】
図5では、横方向および縦方向に配置されたドットマークP1〜P5により視覚マーク30を構成したが、視覚マーク30を構成する個々の形状を画像処理によって検出できるのであれば、視覚マーク30の構成は上述したものに限らない。図6は、視覚マーク30の他の例を示す図である。図6(a)では、支持部材側のドットマークの配置が図5のものと異なっている。図6(b)では、ドットマークの一部をバー形状のマークに置き換えている。図6(c)では、ドットマークの代わりにバー形状のマークを用いている。以上の視覚マーク30は、シール状のものを貼り付けるようにしてもよく、各部材31,32の表面に丸穴等により視覚マーク30を加工してもよい。
【0023】
視覚マーク30を撮影するカメラ4は、予め校正されたものを用いる。校正とは、カメラ内の撮像素子上の画像座標系とカメラ4の外部座標系との関係を既知のものとすることを言う。図7は、校正の一例を説明する図であり、カメラ光軸が撮像素子41の中心を通り、レンズ42に歪がないことを前提としたカメラモデルを用いている。この場合、撮像素子41の有効画素数N、それに対応する撮像素子41のサイズS、レンズ42の焦点距離fが既知情報として用いられる。
【0024】
ここで、撮像素子41の中心を画像座標系の原点とし、外部空間座標においてカメラ光軸からXだけ離れた位置にある対象物43が、画像座標系において第p画素目に写ったとすると、次式(II)の関係が成り立つ。
X=D・S・p/(f・N) (II)
上式(II)のDは、レンズ中心から対象物までのカメラ光軸に沿った距離である。これにより画像座標系上で捕らえられた対象物43について、画像座標系上の座標値に基づき、実際の対象物43とカメラ4の光学中心(レンズ中心)とを結ぶ視線の方向、すなわち角度φを求めることができる。
【0025】
カメラ4は、レンズが視覚マーク30に対向して配置される。したがって、対象物43を図5のドットマークP1〜P5に置き換えれば、レンズ中心から個々のドットマークP1〜P5に向かう視線を求めることができ、後述するように所定の条件を加味すればこの視線に基づきレンズ中心からドットマークP1〜P5までの距離を求めることができる。この場合、支持部材31と可動部材32とが図5(b)や図6に示すような関係にあれば、支持部材31と可動部材32との間に段差がなく、視覚マーク30を構成する個々の形状はほぼ同一面上にあると見なせる。一方、例えば図5(a)に示すような関係にあれば、支持部材31と固定部材32との間に紙面垂直方向に段差がある場合があり、この場合にはドットマークP1〜P5の距離の算出に当たり、段差が考慮される。
【0026】
なお、視覚マーク30の撮影は、例えば1msec以下の露光時間で行う。このような露光時間で撮影すれば、作業者が手にもったカメラ4で撮影する場合にも、手ぶれの影響のない静止画像の取得が可能である。
【0027】
第1の実施の形態では、サーボモータMや減速機の着脱または交換等(以下ではモータ交換で代表する)により無効となった、基準位置(ゼロ点)に関するセンサ信号による位置情報を有効化するために、モータ交換の前後にそれぞれ視覚マーク30を含む関節部の撮影を行う。この場合、まず、ロボット機構部3が組み立てられた後に、機構キャリブレーションが実行され、第n軸(Jn)の軸角度θnのゼロ点が設定される。なお、ゼロ点とは、θn=0となる位置である。
【0028】
次に、モータ交換前の第1時点(例えば機構キャリブレーションの直後)において、手動によりロボット制御装置5および画像処理装置2を介してカメラ4に撮影指令を出力して視覚マーク30の撮影を行う。この際、手動によりサーボモータMを駆動して図5の縦列のドットマークP1,P3,P5をほぼ直線上に位置させ、撮影領域の中心部に全てのドットマークP1〜P5が含まれるようにした後に、視覚マーク30を撮影する。この場合、視覚マーク30に向けてカメラ4をセットして視覚マーク30の撮影を1回行った後に、カメラ4の位置または姿勢を変更して同一の視覚マーク30を再度撮影する。すなわち、視覚マーク30を2回撮影する。以上の機構キャリブレーションと第1時点における撮影作業は、例えばロボット1を製造するメーカにおいて、ロボット機構部3を製造する際に行われる。
【0029】
その後、モータ交換後の第2時点において、第1時点と同様にして手動によりカメラ4に撮影指令を出力して視覚マーク30の撮影を行う。この場合も、手動によりサーボモータMを駆動して図5の縦列のドットマークP1,P3,P5をほぼ直線上に位置させ、撮影領域の中心部に全てのドットマークP1〜P5が含まれるようにした後に、視覚マーク30を撮影する。モータ交換後はモータ交換前と異なり、視覚マーク30の撮影を1回のみ行う。以上の第2時点における撮影作業は、ロボット1が一般ユーザに使用されて、例えば保守などのためのモータや減速機の交換等、ゼロ点に関するセンサ信号が無効となるような作業が行われた後に実行される。
【0030】
図8は、第1時点における2回の撮影後に、ロボット制御装置5の第1処理部5a(図3)で実行される第1の処理を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えばモータ交換前に、カメラ4による2回目の撮影が行われた直後に自動的に開始される。
【0031】
ステップS1では、カメラ4によって1回目に撮影された視覚マーク30の画像信号を読み込み、画像上から視覚マーク30を検出する。より詳細には、ステップS1ではロボット制御装置5から通信インターフェイス14を介して画像処理装置2に対して所定の指令が出力され、画像処理装置2によって視覚マーク30の検出が行われる。その検出結果は通信インターフェイス14を介してロボット制御装置5側に送られる。ステップS2では、この検出結果に基づき、視覚マーク30の位置を計測する。具体的には、レンズ中心から視覚マーク30までの視線の方向および距離を算出する。この点について、図9(a)に示すような関節部の撮影が行われたものとして説明する。なお、図9(b)は視覚マーク30とレンズ中心との位置関係を示す図9(a)の矢視v図である。
【0032】
図9(b)において、支持部材31側のドットマークP2〜P5は同一面上に位置しており、ドットマークP5はドットマークP3の影に隠れ、ドットマークP2とドットマークP3およびドットマークP3とドットマークP4はそれぞれ既知の距離Aだけ離れている。一方、可動部材32側のドットマークP1はドットマークP2〜P5よりも未知の距離Δdだけ異なる高さに位置している。視覚マーク30の撮影は、図の縦方向のドットマークP1,P3,P5が直線上に並ぶように可動部材32を回転した後に行われるが、可動部材32の回転方向においてドットマークP1は正確に位置設定されるわけではなく、ドットマークP1はドットマークP3から軸回転方向に未知の距離Δxだけ離れている。またレンズ中心Qは図9(a)において、P2、P3、P4を通り紙面に垂直な平面内におおむね位置するものとする。
【0033】
カメラ4は予め校正された状態になっており、ステップS2では、上式(II)の関係からレンズ中心Qから各ドットマークP1〜P4への視線L1〜L4の方向を算出する。これにより図9(b)の視線L2とL3とのなす角度Θ1、視線L3とL4とのなす角度Θ2、および視線L1とL3とのなす角度Φをそれぞれ算出する。
【0034】
さらに、算出された角度Θ1,Θ2を用いて、レンズ中心からドットマークP2,P3,P4までの距離c1,b,c2をそれぞれ算出する。この場合、角度Θ1,Θ2と各距離c1,b,c2との間には次式(III),(IV),(V)が成立する。
=b+c1−2b・c1・cosΘ1 (III)
=b+c2−2b・c2・cosΘ2 (IV)
c1・sinΘ1=c2・sinΘ2 (V)
【0035】
上式(III),(IV),(V)を連立させて解くことにより、c1,b,c2をそれぞれ算出する。これにより、レンズ中心QとドットマークP2〜P4の相対位置を特定でき、レンズ中心QからP1に向かう視線L1とP2〜P4の相対関係を把握できる。この場合、P1に関しては視線L1の方向が求められるだけであり、この段階ではP1の位置を表す値(Δd、Δx)までは特定できない。
【0036】
ステップS3では、カメラ2によって2回目に撮影された視覚マーク30の画像信号を読み込み、画像上から視覚マーク30を検出する。その詳細はステップS1と同様である。ステップS4では、この検出結果に基づき視覚マーク30の位置を計測する。具体的には、ステップS2と同様にして、レンズ中心から視覚マーク30までの視線を算出し、とくにレンズ中心からドットマークP1に向かう視線L1とP2、P3、P4の相対関係を把握する。ステップS5では、ステップS2で求められた視線L1と、ステップS4で求められた視線L1との交点をP1として算出し、P2,P3,P4に対するP1の位置を特定する(ステレオ視の原理)。すなわち、図9(b)のΔdとΔxの値を算出する。
【0037】
ステップS6では、Δxの絶対値が予め定めた許容値Tより小さいか否かを判定する。許容値Tは、P3に対するP1の軸回転方向への最大ずれ量を規定する値であり、例えばほぼ0に近い値が設定されている。ステップS6が否定されるとステップS9に進む。
【0038】
ステップS9では、サーボモータMに制御信号を出力し、関節軸を−Δx/Rだけ回転させる。ここで、Rは関節軸の中心からドットマークP1までの距離(回転半径)であり、設計値や実測値を用いることができる。実測値としては、例えば上述のステレオ視の原理でΔxが求められることを利用し、関節軸の角度がθ1であるときのΔx1、θ2であるときのΔx2をそれぞれ求め、R=(Δx1−Δx2)/(θ1−θ2)によりRを求めればよい。
【0039】
ステップS9で関節軸を−Δx/Rだけ回転すると、ドットマークP2〜P4に対するドットマークP1の位置関係が変化し、P3に対するP1の軸回転方向のずれ量Δxが減少する。そこで、ステップS10では、モニタに制御信号を出力して、視覚マーク30を撮影することを促すようなメッセージを作業者に対して表示し、第1の処理を終了する。これにより、作業者はカメラ4により視覚マーク30の撮影を再度行い、第1の処理が再び実行される。
【0040】
一方、ステップS6で、Δxの絶対値がTより小さいと判定されると、視覚マーク30の縦列が正確に直線上に揃ったとみなし、ステップS7に進む。ステップS7では、このときのセンサ信号による軸角度θをθref-nとしてメモリに記憶する。なお、nは第n番目の関節軸であることを表す添え字である。次いで、ステップS8で、ステップS5で算出されたΔdを、第n番目の関節軸の視覚マーク30の段差Δd-nとしてメモリに記憶し、第1の処理を終了する。
【0041】
図10は、第2時点における視覚マーク30の撮影後に、ロボット制御装置5の第2処理部5b(図3)で実行される第2の処理を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えばモータ交換後に、カメラ4による撮影が行われた直後に自動的に開始される。
【0042】
ステップS11では、第2ステップにおいてカメラ4により撮影された視覚マーク30の画像信号を読み込み、画像上から視覚マーク30を検出する。より詳細には、ステップS11ではロボット制御装置5から通信インターフェイス14を介して画像処理装置2に対して所定の指令が出力され、画像処理装置2によって視覚マーク30の検出が行われる。その検出結果は通信インターフェイス14を介してロボット制御装置5側に送られる。
【0043】
ステップS12では、この検出結果に基づき、視覚マーク30の位置を計測する。すなわち、上述のステップS2と同様にしてレンズ中心から視覚マーク30までの視線の方向および距離を算出する。より具体的には、図11に示すように、ドットマークP3における法線とQからP3に向かう視線L3とのなす角度α、および視線L3とQからP1に向かう視線L1とのなす角度Φをそれぞれ算出するとともに、QからP3までの距離bを算出する。距離bは、上述のステップS2でc1、b、c2を算出したのと同様の処理を行うことによって得られる。なお、ステップS12ではステップS2と同様に、レンズ中心Qは図9(a)において、P2、P3、P4を通り紙面に垂直な平面内におおむね位置するものとする。
【0044】
ステップS13では、上述の処理(ステップS8)によりメモリに記憶されたΔdと、ステップS12で求めた角度α、Φ、距離bを用いて、次式(VI)によりP3に対するP1の軸回転方向のずれ量Δx(図11)を算出する。
Δx=bsinα−(bcosα+Δd)tan(α−Φ) (VI)
【0045】
次いで、ステップS14で、ステップS6と同様、Δxの絶対値が予め定めた許容値Tより小さいか否かを判定する。ステップS14が否定されるとステップS16に進む。ステップS16では、ステップS9と同様、サーボモータMに制御信号を出力し、関節軸を−Δx/Rだけ回転させる。次いで、ステップS17でモニタに制御信号を出力し、カメラ4による再撮影を促すようなメッセージを作業者に対して表示し、第2の処理を終了する。これにより、作業者は視覚マーク30の撮影を再度行い、第2の処理が再び実行される。
【0046】
一方、ステップS14で、Δxの絶対値がTより小さいと判定されると、視覚マーク30の縦列(P1,P3,P5)が正確に直線上に揃ったとみなし、ステップS15に進む。ステップS15では、このときのセンサ信号による軸角度θをθref-n’としてメモリに記憶し、第2の処理を終了する。
【0047】
第2の処理が終了すると、以降、ロボット制御装置5の補正部5c(図3)は、メモリに記憶された軸角度θref-n,θref-n’を用いて、次式(VII)によりセンサ信号による第n軸の軸角度θnを補正する。
θn−(θref-n’−θref-n)→θn (VII)
【0048】
上式(VII)は、軸角度θnの基準値を(θref-n’−θref-n)だけずらすことを意味する。これによりゼロ点が有効な状態となり、ロボット機構部はθn=0のときに、モータ交換前と同じ姿勢をとるようになる。すなわち基準位置に基づくセンサ信号による軸角度θnが復元されたことになる。
【0049】
第1の実施の形態に係る位置情報復元方法をまとめると次のようになる。まず、図12に示すように、手順1aとして機構キャリブレーションを実行し、関節軸のゼロ点を基準としたセンサ信号と軸角度θnとの対応関係を定める。次に、手順2aとして、モータ交換等が行われる前の第1時点において、視覚マーク30の縦列(P1,P3,P5)がほぼ直線上に位置するように、手動でサーボモータMに駆動指令を出力して関節軸を回転させた後、この視覚マーク30を含む領域を、カメラ4により撮影する(第1の撮影手順)。さらに、手順3aとして、カメラ4からの画像信号に基づいて第1時点におけるドットマークP1〜P5の位置関係を算出し、ドットマークP1,P3,P5が許容値T内で精度よく直線上に位置するようにサーボモータMを制御し、視覚マーク30の位置を調整する(第1のモータ制御手順)。このときのセンサ信号よる軸角度θref-nはメモリに記憶される。
【0050】
その後、モータ交換等が行われると、手順4aとして、モータ交換後の第2時点において、視覚マーク30の縦列(P1,P3,P5)がほぼ直線上に位置するように、手動でサーボモータMに駆動指令を出力して関節軸を回転させた後、この視覚マーク30を含む領域をカメラ4により撮影する(第2の撮影手順)。次いで、手順5aとして、カメラ4からの画像信号に基づいて第2時点におけるドットマークP1〜P5の位置関係を算出し、ドットマークP1,P3,P5が許容値T内で精度よく直線上に位置するようにサーボモータMを制御し、視覚マーク30の位置を調整する(第2のモータ制御手順)。最後に、手順6aとして、このときのセンサ信号による軸角度θref-n’と、モータ交換前にメモリに記憶された軸角度θref-nとに基づき、センサ信号による軸角度θnを補正する(補正手順)。
【0051】
第1の実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)モータ交換の前後において、それぞれカメラ4により視覚マーク30を撮影するとともに、カメラ4からの画像信号に基づいてモータ交換の前後の視覚マーク30の位置関係が同一の位置関係となるようにサーボモータMを制御した。そして、これらモータ制御後のセンサ信号に対応した軸角度θref-n,θref-n’に基づいて、モータ交換後のセンサ信号による軸角度θnを補正するようにした。これにより関節軸の基準位置への手間のかかる位置合わせ作業が不要となり、モータ交換により無効となったゼロ点からのセンサ信号による位置情報を容易に有効とすることができる。
【0052】
すなわち、本実施の形態では、カメラ4からの画像信号を用いて視覚マーク30を位置合わせするので、関節部にピンを挿入して位置合わせしたり、V溝と近接センサを設けて位置合わせする場合に比べ、作業の手間が少なく、位置合わせ作業が容易である。また、図13に示すように、支持部材31と可動部材32にそれぞれけがき線33a,33bを形成し、両方のけがき線33a,33bが一致するように目視によって位置合わせする手法では、作業者がけがき線33a,33bを見る方向によっては位置合わせの誤差が発生しやすく、作業者の技量によっても位置合わせの精度が左右される。これに対し、本実施の形態では、作業者の技量に左右されることなく、精度よく視覚マーク30を位置合わせすることができる。
【0053】
(2)視覚マーク30の位置合わせは、モータ交換の前後において同一の位置で行うのであれば、任意の位置で行うことができる。このため関節軸を、ゼロ点を設定した基準位置に回動させなくても位置合わせが可能となり、位置合わせの自由度が向上する。
(3)モータ交換前にカメラ4の位置または姿勢を変化させて、同一の視覚マーク30を複数回撮影するので、支持部材31と可動部材32との間に段差があるような場合にも、視覚マーク30を精度よく位置合わせすることができる。
(4)モータ交換後の撮影は1回で済むので、センサ信号による位置情報を有効とするためにユーザ側で行う作業は少なく、ユーザの負担を軽減できる。
【0054】
−第2の実施の形態−
図14〜図16を参照して本発明の第2の実施の形態について説明する。第1の実施では、モータ交換等の前後において、カメラ4からの画像信号に基づき視覚マーク30を位置合わせし、この位置合わせ後のセンサ信号に基づいてセンサ信号による位置情報を補正するようにしたが、第2の実施の形態では、視覚マーク30を位置合わせすることなく、モータ交換等の前後の視覚マーク30の位置に基づいてセンサ信号による位置情報を補正する。なお、第1の実施の形態と同一の箇所には同一の符号を付し、以下では、第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0055】
図14は、第2の実施の形態に係る位置情報復元方法の手順を示す図である。第2の実施の形態では、まず、手順1bとして、第1の実施の形態と同様に機構キャリブレーションを実行する。次いで、モータ交換前の第1時点において、手順2bとして、視覚マーク30の縦列(P1,P3,P5)がほぼ直線上に位置するように、手動でサーボモータMに駆動指令を出力して関節軸を回転させた後、カメラ4により関節部の視覚マーク30を含む領域を撮影する(第1の撮影手順)。
【0056】
この場合、図15に示すように視覚マーク30の位置を固定したまま、カメラ4を第1の姿勢として視覚マーク30を撮影し、さらにカメラ4を第2の姿勢として視覚マーク30を撮影する。すなわち、第1の実施の形態の手順2a(図12)と同様、カメラ4の位置または姿勢を変更して、視覚マーク30の撮影を複数回(2回)行う。次いで、手順3bとして、このときの画像信号に基づいて、第1の実施の形態と同様に、第1時点における視覚マーク30の位置関係、すなわちドットマークP3,P5に対するドットマークP1の軸回転方向のずれ量Δx1およびP3とP1との段差Δd(図15におけるP3とP1の紙面に垂直な方向の高低差)を演算する(第1の演算手順)。演算されたΔx1とΔd、およびセンサ信号による軸角度θ1はメモリに記憶される。
【0057】
その後、モータ交換等が行われると、手順4bとして、モータ交換後の第2時点において、視覚マーク30の縦列(P1,P3,P5)がほぼ直線上に位置するように、手動でサーボモータMに駆動指令を出力して関節軸を回転させた後、図16に示すように、視覚マーク30を含む領域をカメラ4により撮影する(第2の撮影手順)。次いで、手順5bとして、このときの画像信号に基づき、第1時点でメモリに記憶されたΔdを用いて、第2時点における視覚マーク30の位置関係、すなわちドットマークP3,P5に対するドットマークP1の軸回転軸方向のずれ量Δx2を演算する(第2の演算手順)。このときのセンサ信号による軸角度はθ2である。
【0058】
最後に手順6bとして、演算されたΔx2と、センサ信号による軸角度θ2と、第1時点においてメモリに記憶されたΔx1およびθ1と、関節軸の中心からドットマークP1までの距離Rとを用いて、次式(VIII)によりセンサ信号による軸角度θnを補正する(補正手順)。
θn−(θ2−θ1)+(Δx2−Δx1)/R→θn (VIII)
【0059】
以上の手順のうち、手順3bにおける視覚マーク30の位置関係の演算はロボット制御装置5の第1処理部5aで、手順5bにおける視覚マーク30の位置関係の演算は第2処理部5bで、軸角度θnの補正は補正部5cでそれぞれ実行される。この場合、第1処理部5aと第2処理部5bでは、図8,10に関して説明したのと同様の処理を行えばよく、この点についての具体的な説明は省略する。
【0060】
第2の実施の形態によれば、モータ交換等の前後において、それぞれカメラ4により視覚マーク30を撮影するとともに、カメラ4からの画像信号に基づいて実際の軸角度θの変化量(Δx2−Δx1)/Rを算出し、この変化量とセンサ信号による軸角度の変化量(θ2−θ1)とに基づき、モータ交換後のセンサ信号による軸角度θnを補正するようにした。これによりモータ交換等により無効となったゼロ点からのセンサ信号による位置情報を容易に有効とすることができる。また、第1の実施の形態と異なり、サーボモータMを制御して視覚マーク30の位置合わせをする必要がないので、位置情報の復元作業が容易である。
【0061】
なお、上記実施の形態では、ドットマークP1〜P5により支持部材31と可動部材32の位置関係を表すようにしたが、カメラ4により識別可能なのであれば、互いの位置関係を表す第1マーク(P2〜P5)および第2マークP1の形状はいかなるものでもよい。撮像手段として、CCDを介して画像信号を取得するのではなく、CMOSを介して画像信号を取得するようにしてもよい。上記実施の形態では、第1処理部5aでの処理(ステップS1〜ステップS5)によりモータ交換前の視覚マーク30の位置関係(第1の位置関係)を演算し、第2処理部5bでの処理(ステップS11〜ステップS13)により処理によりモータ交換後の視覚マーク30の位置関係(第2の位置関係)を演算するようにしたが、マーク位置演算手段の構成は上述したものに限らない。
【0062】
第1の実施の形態では、モータ交換の前後における視覚マーク4の撮影後に、ドットマークP1,P3,P5の縦列が揃うようにサーボモータMを制御するようにしたが(ステップS9、ステップS16)、視覚マーク30が他の所定の位置関係となるようにサーボモータ30を制御してもよく、モータ制御手段としての第1処理部5aおよび第2処理部5bの構成は上述したものに限らない。モータ交換前の第1時点におけるモータ制御後のセンサ信号による軸角度θref-nと、モータ交換後の第2時点におけるモータ制御後のセンサ信号による軸角度θref-n’とに基づいて、第2時点後の軸角度θnを補正するようにしたが、第1時点におけるモータ制御後のセンサ信号(第1のセンサ信号)と第2時点におけるモータ制御後のセンサ信号(第2のセンサ信号)とに基づいて軸角度θnを補正するのであれば、補正手段としての補正部5cの構成は上述したものに限らない。
【0063】
第2の実施の形態において、モータ交換前の第1時点における視覚マーク30の位置関係(図15)と、モータ交換後の第2時点における視覚マーク30の位置関係(図16)とに基づき、第1時点と第2時点との間の軸角度θnの変化量(支持部材31に対する可動部材32の相対移動量)を演算するとともに、この変化量と、第1時点におけるセンサ信号(第1のセンサ信号)と、第2時点におけるセンサ信号(第2のセンサ信号)とに基づき軸角度θnを補正するのであれば、補正手段としての補正部5cの構成は上述したものに限らない。
【0064】
上記第1および第2の実施の形態では、機構キャリブレーションによりセンサ信号と関節軸の軸角度θnとの対応関係を定めた後に、サーボモータMや減速機の着脱や交換等によって無効となった基準位置に基づくθnを、第1時点におけるモータ制御後のセンサ信号と第2時点におけるモータ制御後のセンサ信号とに基づいて補正することにより、あるいは、θnの変化量と第1時点におけるセンサ信号と第2時点におけるセンサ信号とに基づいて補正することにより有効化するようにしたが、センサ信号と軸角度θnとの対応関係に影響を及ぼす他の部品の着脱や交換が行われた場合にも、同様にしてθnを補正することで、θnを有効化できる。基準位置に基づくセンサ信号による位置情報として軸角度θnを有効化するようにしたが、他の位置情報を有効化してもよい。
【0065】
上記実施の形態では、視覚マーク30の位置関係を把握するために、モータ交換前の第1時点において、視覚マーク30を異なるカメラ位置または姿勢で2回撮影するようにしたが、Δdが予め既知の場合には、第1時点における撮影を1回だけ行うようにしてもよい。視覚マーク30の位置関係の算出精度を高めるために、視覚マーク30を3回以上撮影してもよい。
【0066】
サーボモータMにより支持部材31に対し可動部材32を相対移動させるようにしたが、他のモータを用いてもよい。モータ駆動量に応じたセンサ信号を出力するのであれば、パルスコーダPC以外のセンサを用いることもできる。モータ駆動により関節軸を介して互いに相対移動可能な支持部材31(第1の部材)と可動部材32(第2の部材)とを有するロボットであれば、他のロボットにも本願発明を同様に適用できる。すなわち、本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施の形態の位置情報復元装置に限定されない。
【符号の説明】
【0067】
1 ロボット
2 画像処理装置
4 カメラ
5 ロボット制御装置
5a 第1処理部
5b 第2処理部
5c 補正部
30 視覚マーク
31 支持部材
32 可動部材
P1〜P5 ドットマーク
M サーボモータ
PC パルスコーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節軸を介して互いに相対移動可能に接続された第1の部材及び第2の部材と、前記第1の部材に対し前記第2の部材を相対移動させるモータと、前記モータの駆動量に応じたセンサ信号を出力するセンサとを有するロボットに設けられ、前記関節軸の基準位置を基準として前記センサ信号と前記第1の部材に対する前記第2の部材の相対移動量との対応関係が定められた後に、この対応関係に影響を及ぼす部品の着脱または交換が行われたことによって無効となった、前記基準位置に基づくセンサ信号による位置情報を有効化するロボットの位置情報復元装置であって、
前記第1の部材および前記第2の部材には、互いの位置関係を表す第1マークおよび第2マークがそれぞれ設けられ、
前記第1マークおよび前記第2マークを含む領域の画像信号を取得する撮像手段と、
前記部品の着脱または交換が行われる前の第1時点に前記撮像手段により得られた画像信号に基づいて、前記第1時点における前記第1マークと前記第2マークとの第1の位置関係を演算するとともに、前記部品の着脱または交換が行われた後の第2時点に前記撮像手段により得られた画像信号に基づいて、前記第2時点における前記第1マークと前記第2マークとの第2の位置関係を演算するマーク位置演算手段と、
前記マーク位置演算手段により演算された前記第1の位置関係が所定の位置関係となるように前記第1時点において前記モータを制御するとともに、前記マーク位置演算手段により演算された前記第2の位置関係が前記所定の位置関係となるように前記第2時点において前記モータを制御するモータ制御手段と、
前記第1時点における前記モータ制御手段による制御後に前記センサが出力した第1のセンサ信号と、前記第2時点における前記モータ制御手段による制御後に前記センサが出力した第2のセンサ信号とに基づき、前記第2時点後に前記センサが出力するセンサ信号による位置情報を補正する補正手段とを備えることを特徴とするロボットの位置情報復元装置。
【請求項2】
関節軸を介して互いに相対移動可能に接続された第1の部材及び第2の部材と、前記第1の部材に対し前記第2の部材を相対移動させるモータと、前記モータの駆動量に応じたセンサ信号を出力するセンサとを有するロボットに設けられ、前記関節軸の基準位置を基準として前記センサ信号と前記第1の部材に対する前記第2の部材の相対移動量との対応関係が定められた後に、この対応関係に影響を及ぼす部品の着脱または交換が行われたことによって無効となった、前記基準位置に基づくセンサ信号による位置情報を有効化するロボットの位置情報復元装置であって、
前記第1の部材および前記第2の部材には、互いの位置関係を表す第1マークおよび第2マークがそれぞれ設けられ、
前記第1マークおよび前記第2マークを含む領域の画像信号を取得する撮像手段と、
前記部品の着脱または交換が行われる前の第1時点に前記撮像手段により得られた画像信号に基づいて、前記第1時点における前記第1マークと前記第2マークとの第1の位置関係を演算するとともに、前記部品の着脱または交換が行われた後の第2時点に前記撮像手段により得られた画像信号に基づいて、前記第2時点における前記第1マークと前記第2マークとの第2の位置関係を演算するマーク位置演算手段と、
前記マーク位置演算手段により演算された前記第1の位置関係と前記第2の位置関係とに基づき、前記第1時点と前記第2時点との間の前記第1の部材に対する前記第2の部材の位置変化量を演算するとともに、この位置変化量と、前記第1時点に前記センサが出力した第1のセンサ信号と、前記第2時点に前記センサが出力した第2のセンサ信号とに基づき、前記第2時点後に前記センサが出力するセンサ信号による位置情報を補正する補正手段とを備えることを特徴とするロボットの位置情報復元装置。
【請求項3】
関節軸を介して互いに相対移動可能に接続された第1の部材及び第2の部材と、前記第1の部材に対し前記第2の部材を相対移動させるモータと、前記モータの駆動量に応じたセンサ信号を出力するセンサとを有するロボットを備え、前記関節軸の基準位置を基準として前記センサ信号と前記第1の部材に対する前記第2の部材の相対移動量との対応関係が定められた後に、この対応関係に影響を及ぼす部品の着脱または交換が行われたことによって無効となった、前記基準位置に基づくセンサ信号による位置情報を有効化するロボットの位置情報復元方法であって、
前記第1の部材および前記第2の部材には、互いの位置関係を表す第1マークおよび第2マークがそれぞれ設けられ、
前記部品の着脱または交換が行われる前の第1時点において、前記第1のマークおよび前記第2のマークを含む領域をカメラにより撮影する第1の撮影手順と、
前記第1の撮影手順により取得された画像信号に基づいて、前記第1時点における前記第1マークと前記第2マークとの第1の位置関係を演算し、この位置関係が所定の位置関係となるように前記モータを制御する第1のモータ制御手順と、
前記部品の着脱または交換が行われた後の第2時点において、前記第1のマークおよび前記第2のマークを含む領域を前記カメラにより撮影する第2の撮影手順と、
前記第2の撮影手順により取得された画像信号に基づいて、前記第1時点における前記第1マークと前記第2マークとの第2の位置関係を演算し、この位置関係が前記所定の位置関係となるように前記モータを制御する第2のモータ制御手順と、
前記第1のモータ制御手順により前記モータを制御した後に前記センサが出力した第1のセンサ信号と、前記第2のモータ制御手順により前記モータを制御した後に前記センサが出力した第2のセンサ信号とに基づき、前記第2時点後に前記センサが出力するセンサ信号による位置情報を補正する補正手順とを含むことを特徴とするロボットの位置情報復元方法。
【請求項4】
関節軸を介して互いに相対移動可能に接続された第1の部材及び第2の部材と、前記第1の部材に対し前記第2の部材を相対移動させるモータと、前記モータの駆動量に応じたセンサ信号を出力するセンサとを有するロボットを備え、前記関節軸の基準位置を基準として前記センサ信号と前記第1の部材に対する前記第2の部材の相対移動量との対応関係が定められた後に、この対応関係に影響を及ぼす部品の着脱または交換が行われたことによって無効となった、前記基準位置に基づくセンサ信号による位置情報を有効化するロボットの位置情報復元方法であって、
前記第1の部材および前記第2の部材には、互いの位置関係を表す第1マークおよび第2マークがそれぞれ設けられ、
前記部品の着脱または交換が行われる前の第1時点において、前記第1マークおよび前記第2マークを含む領域をカメラにより撮影する第1の撮影手順と、
前記第1の撮影手順により取得された画像信号に基づいて、前記第1時点における前記第1マークと前記第2マークとの第1の位置関係を演算する第1の演算手順と、
前記部品の着脱または交換が行われた後の第2時点において、前記第1マークおよび前記第2マークを含む領域を前記カメラにより撮影する第2の撮影手順と、
前記第2の撮影手順により取得された画像信号に基づいて、前記第2時点における前記第1マークと前記第2マークとの第2の位置関係を演算する第2の演算手順と、
前記第1の撮影手順により演算された第1の位置関係と、前記第2の演算手順により演算された第2の位置関係とに基づき、前記第1時点と前記第2時点との間の前記第1の部材に対する前記第2の部材の相対移動量を演算し、この相対移動量と、前記第1時点において前記センサが出力した第1のセンサ信号と、前記第2時点において前記センサが出力した第2のセンサ信号とに基づき、前記第2時点後に前記センサが出力するセンサ信号による位置情報を補正する補正手順とを含むことを特徴とするロボットの位置情報復元方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載のロボットの位置情報復元方法において、
前記第1の撮影手順では、前記カメラを複数の異なる位置または姿勢にして、前記第1マークおよび前記第2マークを含む領域を複数回撮影することを特徴とするロボットの位置情報復元方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−251365(P2011−251365A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126148(P2010−126148)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【特許番号】特許第4819957号(P4819957)
【特許公報発行日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】