説明

ロボットの回転規制装置

【課題】ワイヤによってリンクの回転動作範囲を規制するロボットの回転規制装置において、ワイヤをロボットの内部に収納でき、また、リンクの回転動作範囲をリンク毎に所望の角度に設定することができるようにする。
【解決手段】ワイヤ27の両端部を、一のリンクのフレーム9と、当該フレーム9の内側に位置され他のリンクが連結される回転軸13とに連結し、他のリンクの回転に伴ってワイヤ27が回転軸13に巻き取られて伸び切ることにより他のリンクの回転動作範囲を規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転リンクの許容された範囲を超える回転を強制的に停止させるロボットの回転規制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、多関節型ロボットでは、回転関節によって連結された複数のアーム(リンク)を備えており、各アームは、回転関節を中心にして回転(旋回)するようになっている。各アームには予め可動範囲が設定されており、通常は、駆動源であるモータの回転数制御によって可動範囲内での回転動作に規制されるのであるが、何らかの原因、例えば作業者がアームを強制的に可動範囲を超えて回転させようとしたような場合、その回転を機械的に阻止するために、特許文献1に見られるように回転規制装置が設けられている。
【0003】
特許文献1の回転規制装置は、支持体に回転可能に設けられた第1回転軸に第1アームを取り付け、第1アームの先端部に回転可能に設けられた第2回転軸に第2アームを取り付けてなる水平多関節型ロボットにおいて、支持体から第1回転軸の側面、第1アームの側面、第2回転軸の側面を経て第2アームの側面の所定箇所まで延在するワイヤを設けて当該ワイヤの両端部を支持体と第2アームとに固定すると共に、第1アームおよび第2アームの側面にワイヤをスライド可能にガイドする第1ガイド部材および第2ガイド部材を設け、ワイヤが伸び切った状態を第1アームおよび第2アームの動作規制位置に設定するという構成のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−178686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のものでは、ロボットの外面にワイヤを沿わせるので、ロボットの作業中にワイヤが他部材に引っ掛ったり、或いは、ロボットの掃除をするような場合に、ワイヤが邪魔になったりするという問題を生ずる。
また、特許文献1のものでは、支持体に対する第1アームの回転角と第1アームに対する第2アームの回転角との和が所定角度を超えると、ワイヤが伸び切って第1アームおよび第2アームの回転が強制的に停止される構成であるため、第1アームおよび第2アームの個々のアーム毎に回転角を所望の角度に規制することができない。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、ワイヤによってリンクの回転動作範囲を規制するロボットの回転規制装置において、ワイヤをロボットの内部に収納でき、また、リンクの回転動作範囲をリンク毎に所望の角度に設定することができるロボットの回転規制装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明によれば、ワイヤの両端部を、一のリンクの外殻と、当該一のリンクの外殻の内側に位置する巻き胴とに連結し、回転リンクの回転に伴ってワイヤが巻き胴に巻き取られて伸び切ることにより回転リンクの回転動作範囲を規制する構成であるので、ワイヤをロボットの内側に収容することができる。しかも、回転リンクを複数有するロボットであっても、回転リンク毎に、それぞれを所望の回転動作範囲に規制することができる。
【0008】
また、連結軸の中心が、巻き胴の回転中心に対し、当該巻き胴の半径rにワイヤの太さdの半分d/2を加えた長さだけオフセットされているので、ワイヤが巻き胴に巻きつけられて伸び切った状態になったとき、リング状連結部材への連結部分が巻き胴の外周面から浮き上がらず、接触した状態となる。このため、ワイヤの長さを管理することで、回転リンクの回転動作範囲を所望の角度に設定し易くなる。
【0009】
請求項2の発明によれば、ワイヤを、当該ワイヤの太さと同一外径以下のリング状連結部材に連結するので、リング状連結部材の外径寸法がワイヤの太さよりも大きく、そのために巻き胴の外周面にリング状連結部材を逃がすための凹部を形成しなければならない場合とは異なり、巻き胴に形成された凹部の角部にワイヤが当たって摺り切れ易くなるといったワイヤの寿命を縮めるような事態は生じない。従って、ワイヤの寿命についての信頼性を高めることができ、ワイヤがリンクの外殻内に収容されて外部から見えないことについて生じる問題、例えばワイヤの点検のためのロボットの分解の高頻度化といった問題を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態を示す要部の縦断面図
【図2】ワイヤの巻き戻しと巻取り過程を示す概略図
【図3】回転規制装置を示すもので、(a)はワイヤの両端を連結する支持片の正面図、(b)は支持片にワイヤを連結した状態の断面図
【図4】回転規制装置の分解斜視図
【図5】細線の撚りを解いた状態で示すワイヤの端部の斜視図
【図6】ワイヤの端部へのローラの固着構成を示すもので、(a)はローラの径方向の断面、(b)はローラの幅方向の断面図
【図7】巻き胴の回転動作範囲とワイヤの長さとの関係を説明するためのもので、(a)はワイヤが伸び切った第1の規制位置で示す図、(b)は基準位置で示す図
【図8】本発明の効果を説明するための図で、(a)は本発明におけるワイヤの巻き胴への連結構成を示す断面図、(b)はローラが径大であった場合のワイヤの巻き胴への連結構成を示す断面図
【図9】ロボットの斜視図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しながら説明する。図9には、産業用ロボット1が示されている。この産業用ロボット1は、例えば6軸の垂直多関節型ロボットからなるもので、ベース2と、このベース2に回転関節によって水平方向に回転可能に連結されたショルダ3と、このショルダ3に回転関節によって上下方向に回転可能に連結された下アーム4と、この下アーム4に回転関節によって上下方向に回転可能に連結された第1の上アーム5と、この第1の上アーム5の先端部に回転関節によって捻り回転可能に連結された第2の上アーム6と、この第2の上アーム6に回転関節によって上下方向に回転可能に連結された手首アーム7と、この手首アーム7に回転関節によって捻り回転可能に連結されたフランジ8とから構成されている。
【0012】
上記ベース2、ショルダ3、下アーム4、第1の上アーム5、第2の上アーム6、手首アーム7、フランジ8は、特許請求の範囲におけるリンクに相当する。また、回転関節によって連結された2つのリンクの関係において、ベース2側のリンクは特許請求の範囲における一のリンクに相当し、フランジ8側のリンクは特許請求の範囲における他のリンクに相当し且つ一のリンクに対して回転する回転リンクに相当する。つまり、ベース2とショルダ3との関係において、ベース2は一のリンクに相当し、ショルダ3は他のリンクに相当し、且つベース2に対して回転する回転リンクに相当する。以下、同様に、ショルダ3と下アーム4とにおいて、前者は一のリンク、後者は他のリンクで且つ回転リンクに相当し、下アーム4と第1の上アーム5とにおいて、前者は一のリンク、後者は他のリンクで且つ回転リンクに相当し、第1の上アーム5と第2の上アーム6とにおいて、前者は一のリンク、後者は他のリンクで且つ回転リンクに相当し、第2の上アーム6と手首アーム7とにおいて、前者は一のリンク、後者は他のリンクで且つ回転リンクに相当し、手首アーム7とフランジ8とにおいて、前者は一のリンク、後者は他のリンクで且つ回転リンクに相当するものである。
【0013】
図1には、フランジ8を手首アーム7に回転可能に連結する回転関節の構成が示されている。なお、他の回転関節も図1の回転関節と同様の構成となっている。図1に示すように、手首アーム7の主体を構成するフレーム9は筒形をなしている。このフレーム9には、内部に後述する波動歯車減速装置(減速装置)10およびサーボモータ(駆動モータ)11などを組み込むための開口部(図示せず)が形成されており、この開口部はカバーによって塞がれている。そして、これらフレーム9とカバーとによって手首アーム7の外殻が構成されている。
【0014】
手首アーム7のフレーム9の先端部分の内側には、クロスローラベアリング12が配設されている。このクロスローラベアリング12は、内輪13と、外輪14と、この内輪13および外輪14間に回転自在に保持された複数のころ15とから構成されている。外輪14は、前記ころ15の組み込みのために軸方向に第1の外輪部14aと第2の外輪部14bとに分割されており、これら第1の外輪部14aと第2の外輪部14bとはねじ16により相互に連結されている。そして、この外輪14はねじ17により手首アーム7のフレーム9に固定されている。
【0015】
このようなクロスローラベアリング12の内輪13は、回転関節の回転軸として機能し、外輪14が手首アーム7のフレーム9に固定されることにより、当該手首アーム7に対して回転可能となっている。そして、この内輪13に継手軸18が宛がわれ、フランジ8がこの継手軸18と共に19によって内輪13に固定されている。これにより、フランジ8が回転関節によって手首アーム7に回転可能に連結された状態となる。
【0016】
サーボモータ11は内輪13ひいてはフランジ8を回転駆動するもので、このサーボモータ11の回転は波動歯車減速装置10により減速されて内輪13に伝達される。波動歯車減速装置10はハーモニックドライブ(登録商標)と呼ばれる周知構成のもので、主要構成品として、内歯20aを有する環状のサーキュラスプライン20と、外歯21aを有する弾性変形可能な有底円筒状のフレクスプライン21と、弾性変形可能なウェーブジェネレータ22と、楕円状カム23とを有して構成されている。そして、フレクスプライン21は、サーキュラスプライン20の内側に配設されて、外歯21aを内歯20aに噛合させている。なお、外歯21aの数は内歯20aの数より例えば2つ少ない。
【0017】
ウェーブジェネレータ22は、フレクスプライン21の内側に嵌合されている。このウェーブジェネレータ22の内側に弾性変形可能に構成されたボールベアリング24が装着され、このボールベアリング24の内側に前記楕円状カム23が嵌着されている。楕円状カム23は、その中心部にボス部23aを有している。
【0018】
以上の波動歯車減速装置10において、楕円状カム23が入力部で、フレクスプライン21が出力部となっており、楕円状カム23のボス部23aにフレーム9に固定されたサーボモータ11の回転軸11aが連結され、フレクスプライン21がクロスローラベアリング12の内輪13に連結されている。そして、サーボモータ11が回転すると、その回転が波動歯車減速装置10により減速されて内輪13に伝達され、フランジ8が回転する。
【0019】
フランジ8は、手首アーム7に対し、図2(f)に示す基準位置から時計回り方向にα度回転した図2(a)の第1の規制位置と、図2(f)に示す基準位置から反時計回り方向にα度回転した図2(k)の第2の規制位置との間で回転可能になっている。本実施形態では、上記α度は(360+δ)度に定められている。なお、αは(360+δ)に限られない。δについては後述する。そして、フランジ8は、通常は第1の規制位置と第2の規制位置との間の所定の角度範囲おいて回転されるが、何らかの原因で第1の規制位置或いは第2の規制位置を超えて回転しようとすると、その回転は回転規制装置26によって強制的に停止されるようになっている。
【0020】
この回転規制装置26は図3および図4に示されている。これら図3および図4のように、回転規制装置26は、ワイヤ27を主体とするもので、このワイヤ27は、手首アーム7のフレーム9の内側であって前記継手軸18の外側に位置する空間A内に配設されており、一端部が手首アーム7のフレーム9に回転可能に連結され、他端部が継手軸18に回転可能に連結されている。
【0021】
このワイヤ27のフレーム9および継手軸18への連結構成を説明する。まず、ワイヤ27は、複数本の例えばカーボンファイバー(細線)27aを撚り合わせた撚り線からなる。このワイヤ27の両端部には、それぞれ中心孔28a,29aを有したローラ(リング状連結部材)28,29が固着されている。なお、カーボンファイバー27aは、曲げられると真直ぐになろうとする弾発力を有する。
【0022】
ワイヤ27の両端部のローラ28,29への固着は次のようにして行われる。即ち、ローラ28,29の両端部において、図5に示すように、複数本のカーボンファイバー27aの撚りを解いて2組に分ける。この場合、カーボンファイバー27aの総本数が偶数(2n;nは1以上の自然数)のとき、n本ずつの2組に分ける。カーボンファイバー27aの総本数が奇数(2n+1)のとき、n本とn+1本の2組に分ける。ただし、必ずしもこのように正確に2分する必要はない。
【0023】
一方、ローラ28,29は、図6に示すように、外径Dがワイヤ27の太さ(直径d)と同一寸法で、外周に溝28b,29bを有している。溝28b,29bは、カーボンファイバー27aの総数の半数以上、本実施形態では、カーボンファイバー27aの総本数が偶数(2n)のとき、n本のカーボンファイバー27aを収容できる断面積を有する大きさに形成され、カーボンファイバー27aの総本数が奇数(2n+1)のとき、n+1本のカーボンファイバー27aを収容できる断面積を有した大きさに形成されている。
【0024】
そして、2組に分けられたカーボンファイバー27aの両端部を、図6(a)に示すように、それぞれローラ28,29の径方向両側から溝28b,29b内に収容して当該溝28b,29bをほぼ半周させ、先端を切り揃えて互いに付き合わせた状態で溝28b,29b内に接着剤を注入することにより、カーボンファイバー27aをローラ28,29に固着する。この場合、溝28b,29b内のカーボンファイバー27aは、ローラ28,29の外周面から外側に出ないようにする。
【0025】
このようにしてワイヤ27の両端部にローラ28,29が固着されている。そして、各ローラ28,29の中心孔28b,29bには、段付きねじ(連結軸)30,31が通される。段付きねじ30,31は、軸部30a,31aの一端に径大な頭部30b、31b、他端に径小なねじ部30c,31cを形成してなる。なお、軸部30a,31aの長さ寸法は、ローラ28,29の長さ寸法より若干大きく定められている。また、頭部30b,31bの外形寸法は、ローラ28,29の外形D以下に定められている。
【0026】
フレーム9の円筒状の内周面および継手軸18の円筒状の外周面には、それぞれ支持片32,33が突設されており、各支持片32,33にはねじ孔32a,33aが形成されている。この場合、フレーム9の支持片32のねじ孔32aおよび継手軸18の支持片33のねじ孔33aは、その中心がフレーム9の内周面および継手軸18の外周面からワイヤ27の太さdの1/2だけ離れた位置となるように形成されている。
【0027】
そして、段付きねじ30,31は、軸部30a,31aがローラ28,29の中心孔28a,29aに通され嵌合された状態で、ねじ部32c,33cが支持片32,33のねじ孔32a,33aに螺着されている。これにより、ローラ28,29を軸部32a,33aで回転可能に支持した状態で段付きねじ32,33がそれぞれフレーム9および継手軸18に固定され、ローラ28,29がフレーム9および継手軸18に回転可能に取り付けられた状態となる。
【0028】
このワイヤ27の取り付け状態において、当該ワイヤ27の他端部の段付きねじ33は、図3に示すように、継手軸18の回転中心Oに対し、当該継手軸18の半径rにワイヤ27の太さdの半分d/2を加えた長さだけオフセットされた状態となる。
【0029】
このようにして両端部がフレーム9および継手軸18に連結されたワイヤ27は、継手軸18によりフランジ8が時計回り方向および反時計回り方向に回転されると、継手軸18を巻き胴としてその外周面に巻かれ或いはその外周面から巻き戻されるようになる。そして、フランジ8が基準位置から時計回り方向にα度および反時計回り方向にα度だけ回転して第1の規制位置および第2の規制位置に至ると、ワイヤ27は継手軸18に巻き取られて伸び切った状態となり、フランジ8がそれ以上時計回り方向および反時計回り方向に回転しようとすると、その回転がワイヤ27によって強制的に停止される。なお、伸るとは、弾性的に伸びるという意味ではなく、ぴんと張って緊張した状態を伸び切った状態という。
【0030】
以下にワイヤ27によるフランジ8の強制停止過程を図2により説明する。以下の説明では、継手軸18を巻き胴18と称して説明する。今、フランジ8、従って巻き胴18が図2(a)に示す第1の規制位置にあるものとする。この第1の規制位置では、ワイヤ27は巻き胴18に巻き取られて伸び切った状態にある。この図2(a)の位置から、フランジ8が反時計回り方向に回転してゆくと、ワイヤ27は図2(b)〜(f)に示すように次第に巻き胴18から巻き戻されてゆく。このとき、ワイヤ27は真直ぐになろうとする弾発力を有しているため、巻き胴18の外周面から離れるように緩み、やがてフレーム9の内周面に接しつつ巻き戻されてゆくようになる。
【0031】
反時計回り方向に回転するフランジ8が図2(f)に示す基準位置に至ると、以後、ワイヤ27は、図2(g)〜(k)に示すように、巻き胴18に次第に巻き取られてゆくようになる。このときも、ワイヤ27は真直ぐになろうとする弾発力を有しているため、フレーム9の内周面や巻き胴18の外周面に接しつつ巻き取られてゆく。
そして、図2(k)に示すように、フランジ8が第2の規制位置に至ると、ワイヤ27は巻き胴18に巻き取られて伸び切った状態となる。その後、更に、フランジ8が反時計回り方向に回転しようとすると、伸び切った状態にあるワイヤ27によってその第2の規制位置を超える回転が強制的に阻止され、巻き胴18ひいてはフランジ8は第2の規制位置を超えることなく、そこで停止する。
【0032】
フランジ8ひいては巻き胴18が図2(k)の第2の規制位置から図2(f)の基準位置を経て図2(a)の第1の規制位置まで時計回り方向に回転する場合も、上述したと同様にして巻き胴18から巻き戻され且つ巻き取られてゆく。そして、基準位置からα度だけ回転すると、ワイヤ27が巻き胴18に完全に巻き取られて伸び切った状態となり、フランジ8がそれ以上時計回り方向に回転しようすると、その回転が強制的に阻止されフランジ8が第1の規制位置を超えることなく、当該第1の規制位置で停止する。
【0033】
ここで、図2(f)に示す基準位置から図2(a)に示す第1の規制位置までの回転角度αおよび図2(f)に示す基準位置から図2(k)に示す第2の規制位置までの回転角度αと、ワイヤ27の長さLとの関係を、図7(a),(b)に示す角度θ,β,δ(いずれも度)および長さR,S,lを用いて説明する。なお、図7の(a)は第1の基準位置、(b)は基準位置での状態で示す。ここで、Rは巻き胴18の半径rとワイヤ27の太さdの半分d/2の和、つまり巻き胴18に巻き取られたときのワイヤ27の中心線の半径、Sは巻き胴18の回転中心とローラ28,29の回転中心とが一直線に並んだときの両ローラ28,29の回転中心間の距離、lは第1の規制位置および第2の規制位置においてローラ28の回転中心から半径Rの円に接線を引いたとき、当該ロ接線のーラ28の回転中心と半径Rの円の接点との間の長さである。
【0034】
図7(a)から明らかなように、ワイヤ27の全長(両端部のローラ28,29の回転中心間の長さ)Lは、次の(1)式で表わされる。
L=l+2πR・θ/360…(1)
従って、θ=(L−l)・360/2πR…(2)
【0035】
次に、SとRとβの関係は次の(3)式で示される。
cosβ=R/(R+S)…(3)
従って、βは次の(4)式で示される。
β=cos-1(R/(R+S))…(4)
また、tanβ=l/R…(5)、従って、lは次の(6)式で表わされる。
l=R・tanβ…(6)
また、θ+(β−δ)=360…(7)、であるから、δは次の(8)式で表わされる。
【0036】
δ=θ+β−360…(8)
そして、前記回転角αは、次の(9)式で表わされる。
α=360+δ…(9)
上記(9)式に(8)式を代入すると、α=θ+β…(10)、となる。この(10)式に(2)式と(4)式を代入することによってαとLとSとの関係を示す次の(11)式が求められる。
α=(L−l)・360/2πR+cos-1(R/(R+S))…(11)
【0037】
RとSは既知であるから、αが決まれば、Lを求めることができる。なお、δはワイヤ27が巻き胴18の外周に一周以上巻かれないようにするために、βよりも小さい角度に定めることが好ましい。これは、ワイヤ27が一周以上巻かれると、ワイヤ27がローラ28の上に巻かれるようになってαが不安定となるので、これを避けるためである。
【0038】
このように本実施形態によれば、ワイヤ27を巻き胴18に巻き取らせることによってフランジ8が許容された所定の回転動作範囲を超えないように当該フランジ8の回転を規制することができる。しかも、ワイヤ27をフレーム9の内部に収容して外部に露出しないようにすることができるので、ワイヤ27がロボットの動作中に周辺の他の部材に引っ掛かったり、掃除をする際に作業の邪魔になったりするおそれがない。
【0039】
また、フレーム9と継手軸18との間には、ワイヤ27を収容できる程度のスペースがあれば良いので、回転規制装置26を配設するためにフレーム9を径大にして空間Aを広げたりする必要がなく、ロボットの大型化を回避できる。
【0040】
その上、ワイヤ27の他端部に固着されているローラ29の回転中心が巻き胴18の回転中心Oから当該巻き胴18の半径rにワイヤ27の太さdの1/2を加えた寸法だけオフセットされているので、ワイヤ27が巻き胴18に巻き取られたとき、当該ワイヤ27が特にローラ29との固着部分において巻き胴18の外周面から浮き上がることがない。このため、ワイヤ27の長さLを定めることによってフランジ8の回転動作範囲を所望する角度に精度良く定めることができる。
【0041】
更に、本実施形態の回転規制装置26を、他の回転関節にも設けることにより、ショルダ3、下アーム4、第1の上アーム5、第2の上アーム7、手首アーム7といったフランジ8以外の他の回転アームをそれぞれ別々に所定の回転動作範囲に規制することができる。
その上、ローラ29の直径Dがワイヤ27の太さdよりも大きな寸法であると、図8(b)に示すように、巻き胴18の外周面にローラ29の逃げ用凹部34を設けねばならず、ワイヤ27が伸び切る際に、この凹部34の角34aに当たって摺れ切れ易くなるという不具合を生ずることが考えられる。しかしながら、本実施形態では、図8(a)に示すように、そのような凹部34を巻き胴18の外周面に形成する必要がないので、ワイヤ27が長寿命となる。ただし、本発明(請求項1)は、ローラ28,29の直径Dがワイヤ27の太さdを超えることを否定するものではない。
また、本実施形態では、ワイヤ27が真直ぐになろうとする弾発力を有しているので、巻き胴18から巻き戻されて緩んだ状態になっても、絡まったり、フレーム9の内周面に接したり、回転する巻き胴18に接したりする機会が極力少なくなる。このため、ワイヤ27が摩耗し難く、長寿命となる。
【0042】
このように、ワイヤ27が早期に摺り切れたりすることがなく、ワイヤ27の寿命に対する信頼性が向上することは、ワイヤ27がフレーム9の内側に収容されて外部から見えないことにより、カバーを取り外してフレーム9の内部を点検する回数を減少できるといった使用上の利便性を高めることができる。
【0043】
なお、本発明は上記し且つ図面に示す実施形態に限定されるものではなく、以下のような拡張或は変更が可能である。
ワイヤ27の一端部はフレーム9に限られず、フレーム9と一体の部材つまりフレーム9に固定された部材、例えばカバーに連結しても良い。また、ワイヤ27の他端部は継手軸18に限られず、内輪13と一体に回転する部材、例えばフランジ8であっても良く、内輪13に連結しても良い。
【0044】
ワイヤ27によるフランジ8の許容された回転動作範囲2αは、2回転+2δ度を超えても、2回転+2δ度未満でも、或いは2回転以下でも、1回転以下であっても良い。
ローラ28,29の外径は、ワイヤ27の太さd未満であっても良い。
ワイヤ27は撚り線に限られず、1本の線からなるものであっても良い。また、ワイヤ27の材質はグラスファイバに限られない。更に、ワイヤはそのような自己弾発力を有するものに限られず、柔軟な紐であっても良い。
本発明は水平多関節型ロボットに適用しても良い。
【符号の説明】
【0045】
図面中、2はベース(リンク)、3はショルダ(リンク)、4は下アーム(リンク)、5は第1の上アーム(リンク)、6は第2の上アーム(リンク)、7は手首(リンク、一のリンク)、8はフランジ(リンク、他のリンク、回転リンク)、9はフレーム(外殻)、12はクロスローラベアリング、13は内輪(回転軸)、14は外輪、18は継手軸(回転軸と一体の部材、巻き胴)、26は回転規制装置、27はワイヤ、27aは細線、28,29はローラ(リング状連結部材)、28a,29aは中央孔、28b,29bは溝、30,31は段付きねじ(連結軸)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリンクを関節により連結して構成されたロボットであって、前記複数のリンクのうち、少なくとも一のリンクに他のリンクを連結する関節を回転関節として当該他のリンクを前記一のリンクに対して回転する回転リンクとしたロボットにおいて、
前記一のリンクの外殻と、
前記一のリンクの外殻の内側に回転可能に支持され、前記回転リンクを取り付けた前記回転関節の回転軸と、
前記一のリンクの前記外殻の内側に配設され、一端部を前記外殻または当該外殻と一体の部材に連結し、他端部を前記回転軸または当該回転軸と一体の部材に連結し、前記回転リンクの回転に伴い、前記回転軸または当該回転軸と一体の部材を巻き胴として当該巻き胴の外周に巻取られて伸び切ることにより前記回転リンクの回転動作範囲を規制するワイヤとを具備し、
前記ワイヤの前記他端部は、当該他端部に取り付けられ中心孔を有したリング状連結部材を有し、
前記ワイヤは、前記巻き胴に固定された連結軸に前記リング状連結部材の前記中心孔を嵌合させることにより回転可能に前記巻取り胴に連結され、
前記連結軸の中心は、前記巻き胴の回転中心に対し、当該巻き胴の半径rに前記ワイヤの太さdの半分d/2を加えた長さだけオフセットされていることを特徴とするロボットの回転規制装置。
【請求項2】
前記ワイヤは、複数本の細線を撚り合わせた撚り線からなり、
前記リング状連結部材は、外径が前記ワイヤの太さと同一寸法以下の寸法で、外周に、前記ワイヤを構成する前記複数本の細線の半数以上の細線を収容可能な断面積の溝を有し、
前記ワイヤの前記他端部は、前記ワイヤを構成する複数本の前記細線を2組に分け、各組の細線を前記リング状連結部材の直径方向両側から前記溝内に収容して当該2組の細線を前記リング状連結部材に固着したことを特徴とする請求項1記載のロボットの回転規制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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