説明

ロボットの干渉回避方法及びロボットシステム

【課題】ロボットと障害物との干渉を確実に回避しつつ、所定の作業を確実に行う。
【解決手段】この干渉回避方法は、開始位置での干渉チェックを行うステップと、干渉があればロボット2が存在すべき領域を決定するステップと、ロボット2の各部位を代表する対象点がロボット2の存在すべき領域内にあるかをチェックするステップと、領域の内側にある部分は、領域の境界から離れかつ境界に近いほど大きい移動ベクトルを与え、外側にある部分は、領域内に向かいかつ領域内にある時よりも大きい移動ベクトルをそれぞれ与えるステップと、移動ベクトルを合成した合成ベクトルを用いてロボット2の回避位置・姿勢を求めるステップとを繰返し行い、干渉しない経路を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットの干渉回避方法、及びこの干渉回避方法を採用可能なロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ロボットの干渉回避技術は数々研究開発されていて、これら干渉回避技術ははロボットの移動経路探索に使われていることが多かった。
ロボットの経路探索とは、初期位置と目標位置との間の経路において、ロボットとワーク等との干渉があった場合に、干渉回避位置・姿勢を探索し、干渉しない経路を作成する方法である。
たとえば、特開平5−250023号(特許文献1)は、コンフィギュレーション空間法を用いて、ロボットのジョイント座標空間上で障害物と干渉しないで移動できる自由空間を求めてから、その空間で移動コストが小さくなる滑らかな経路を探索することを開示する。
【0003】
また、特許2740277号(特許文献2)は、障害物を考慮しないで関節角空間で直線経路を仮に設定し、その経路が障害物と干渉する部分については経路を補正することにより、ロボットの経路を自動生成するものが示されている。さらに、障害物を考慮せずワールド空間で初期位置と目標位置とを結ぶ仮の経路を設定し、目標位置へ向かう引力ベクトルと障害物からの反力ベクトルおよびジョイント角の制限によって定まる反力ベクトルとの合成ベクトルを生成し、その合成ベクトルの方向に順次移動経路を生成する方法を開示する。
【特許文献1】特開平5−250023号公報
【特許文献2】特許2740277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,特許文献2に開示された探索方法は、いずれもロボットが経由する経路上で干渉のある区間を修正して干渉のない経路を生成するものとなっている。つまり、これらに用いられている干渉回避方法は、いずれも干渉しない位置から干渉しない位置の区間を修正して作成するため、初期位置及び目標位置で干渉しないことが前提となっている。
ロボットを障害物から大きく離した位置に初期位置や目標位置を設定する場合は、各位置で干渉が発生する可能性は少ない。しかしながら、溶接ロボットなど実作業を行うロボットでは、初期位置及び目標位置を、障害物などの周囲環境を考慮せずに単純に動作パターンを付加することで作成することがよくあり、その場合、初期位置及び目標位置で干渉が発生し、上述した経路探索法では経路を作成できないことがある。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、ロボットに対し任意の位置・姿勢が与えられ且つその位置・姿勢に干渉がある場合であっても、かかる干渉状態を回避した位置・姿勢を生成するロボットの干渉回避方法、及びこの干渉回避方法を採用可能なロボットシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明のロボットの干渉回避方法は、所定のポジションに位置するロボットと障害物との干渉を回避する干渉回避方法であって、前記ロボットが存在すべき領域である存在領域を設定する領域設定ステップと、前記ロボット上に対象点を設定し、前記存在領域内に位置する対象点に対しては、存在領域の境界から離れる方向で且つ存在領域の境界に近いほど大きなスカラー量を有する移動ベクトルを設定し、前記存在領域外に位置する対象点に対しては、存在領域内に向かう方向で且つ前記対象点が存在領域内にある時よりもさらに大きなスカラー量を有する移動ベクトルを設定するベクトル設定ステップと、設定された移動ベクトルを基に、前記ロボットの干渉状態を回避する干渉回避ステップと、を含むことを特徴とする。
【0007】
これらのステップを実行することで、例えば、所定のポジションすなわち初期位置や目標位置で、ロボットと障害物とが干渉していたとしても、ロボット上に設定された各部位(対象点)は、存在領域内に戻ろうとする移動ベクトルに従った回避姿勢動作を行うこととなり、干渉位置・姿勢から干渉しない位置・姿勢を生成することが可能となる。
好ましくは、前記存在領域を、ロボットの先端に備えられたツールが存在すべき領域とした際に、前記領域設定ステップでは、前記ツールの先端点に対向する障害物の面を境界として備える空間を前記存在領域として設定し、前記ベクトル設定ステップでは、前記ツール上に対象点を設定するとよい。
【0008】
こうすることで、ツールが本来位置すべき空間である存在領域を確実に設定することができ、且つ実際に作業を行うツールが障害物と干渉することを確実に回避できる。
好ましくは、前記干渉回避ステップは、前記移動ベクトルの合成ベクトルを基に前記ロボットの干渉状態を回避するとよい。
さらに好ましくは、上述したロボットの干渉回避方法が備える各ステップを順次繰り返し実行することで、干渉のないロボットの位置・姿勢を求めるとよい。
本発明のロボットシステムは、ロボットと該ロボットを制御する制御装置とを備えるロボットシステムであって、前記制御装置は、所定のポジションに位置するロボットと障害物との干渉を回避する干渉回避装置を備えていて、前記干渉回避装置は、前記ロボットが存在すべき領域である存在領域を設定する領域設定部と、前記ロボット上に対象点を設定し、前記存在領域内に位置する対象点に対しては、存在領域の境界から離れる方向で且つ存在領域の境界に近いほど大きなスカラー量を有する移動ベクトルを設定し、前記存在領域外に位置する対象点に対しては、存在領域内に向かう方向で且つ前記対象点が存在領域内にある時よりもさらに大きなスカラー量を有する移動ベクトルを設定するベクトル設定部と、設定された移動ベクトルを基に、前記ロボットの干渉状態を回避する干渉回避部と、を有していることを特徴とする。
【0009】
このロボットシステムによると、所定のポジションに位置するロボットと障害物との干渉を確実に回避しつつ、所定の作業を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るロボットの干渉回避方法によれば、所定のポジションに位置するロボットと障害物とが干渉していたとしても、ロボット上に設定された各部位(対象点)は、存在領域内に戻ろうとする移動ベクトルに従った回避姿勢動作を行うこととなり、干渉位置・姿勢から干渉しない位置・姿勢を生成することが可能となる。
また、本発明に係るロボットシステムによると、所定のポジションに位置するロボットと障害物との干渉を確実に回避しつつ、所定の作業を確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を、図を基に説明する。
なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。さらに、以下においては、垂直多関節型の6軸ロボットについて説明するが、本発明は、このような型式又は軸数のロボットに限定して適用されるものではない。
図1及び図2を参照して、本実施形態に係るロボットシステムの全体構成について説明する。図1は、このロボットシステム1の斜視図、図2は、ロボット2のスケルトン図である。
【0012】
図1に示すように、このロボットシステム1は、垂直多関節型の6軸を備えたロボット2と、ロボット2自体を移動させるスライダ3とを含む。
図1及び図2に示すように、このロボット2は、据付ベースに近い第1軸212から順に、第2軸210、第3軸208、第4軸206、第5軸204及び第6軸202までの回転軸を備える。据付ベースに近い第1軸212をロボット原点と呼ぶこともある。また、このロボット2は、据付ベースに近い第1リンク211から順に、第2リンク209、第3リンク207、第4リンク205、第5リンク203及び第6リンク201まで備える。各リンクは剛性部材からなる。
【0013】
ロボットシステム1の作業対象であるワーク300は、たとえば図2に示すような中空の四角柱であって、少なくとも第6リンク201がその内部に進入する。ワーク300は、第6リンク201の反対側に底部を備える。ロボット2は、第6リンク201の先端に設けられた溶接トーチ(ツール214)により、たとえば四角柱の内部の隅を溶接する。
このロボットシステム1には、ロボット2を制御する制御部が接続されていると共に、ロボット2のオフライン教示データを作成する作成装置が備えられている。本実施形態の場合、この作成装置内に、ロボット2の干渉状態を回避する教示データを作成する干渉回避装置400が備えられている。この干渉回避装置400は、所定のポジションに位置するロボット2と障害物との干渉を回避する機能を有し、ロボット2すなわちツール214の初期位置、目標位置又は溶接動作中にロボット2とワーク300とが干渉すると、この干渉を確実に回避するオフライン教示データを作成する。
【0014】
図3には、干渉回避装置400の構成ブロックが記載されている。
図3に示すように、干渉回避装置400は、ロボット2が存在すべき領域である存在領域を設定する領域設定部410を有している。さらに、ロボット2と障害物(ワーク300)とが干渉する時に、ロボット2の各部位(対象点)に対して、存在領域に位置する部位には、存在領域の境界から離れる方向で且つ存在領域の境界に近いほど大きなスカラー量を有する移動ベクトルを設定し、存在領域外に位置する部位には、存在領域内に向かう方向で且つロボット2の部位が存在領域内にある時よりもさらに大きなスカラー量を有する移動ベクトルを設定するベクトル設定部420を有している。加えて、移動ベクトルの合成ベクトルを基に、ロボット2の干渉状態を回避する教示データを作成する干渉回避部430と、を有している。
【0015】
これらの領域設定部410、ベクトル設定部420、干渉回避部430は、コンピュータで実行されるプログラムにより実現される。以下、各部の働きと各部で実行される処理手順について説明する。
図4には、干渉回避装置で実行される処理のフローチャートが示されている。ロボットと障害物(ここではワーク300)が干渉している場合には、以下のように処理される。
まず、ステップ1(以下、ステップをSと記載する)において、与えられた任意の位置でのロボット2の位置・姿勢、この場合、ロボット2の初期位置・姿勢(開始位置・姿勢)を設定する。
【0016】
次に、S2で、開始位置で干渉チェックを行う。干渉があればS3へ進む。干渉がない場合は、この干渉回避処理を終了する。
S3では、ロボット2の存在領域を決定する。この処理は、領域設定部410で行われる。
S4では、ロボット2の各部が存在領域内にあるかをチェックする。
S5では、存在領域の内側にある部分は、存在領域の境界から離れかつ境界に近いほど大きい移動ベクトル(回避方向に向かうベクトル)を与え、外側にある部分は、存在領域内に向かい且つ存在領域内にある時よりも大きい移動ベクトルをそれぞれ与える。S4の処理及びS5の処理は、ベクトル設定部420で行われる。
【0017】
S6では、S5で求めた移動ベクトルを用いてロボットの回避位置・姿勢の変化量を求め、存在領域内の部分が存在領域外に出ないように変化量を調整し、この変化量分だけ動かしたロボットの位置・姿勢を回避位置・姿勢として求める。
S7では、S6で求めた位置を開始位置・姿勢として、S2へ戻る。S6の処理は、干渉回避部430で行われる。
すなわち、任意の位置が与えられた時、まずS1を行い、S2で位置・姿勢生成の終了判定を行い、終了しない場合はS3〜S7を行った後、S2に戻り再び終了判定を行い、以後、終了判定で終了とみなされるまでS2〜S7を繰り返す。
【0018】
次に、各ステップに関して詳細に説明する。
まず、S1においては、与えられた任意のロボット2の位置・姿勢を、この干渉回避処理を開始する開始位置・姿勢に設定する。本実施形態においては、図5に示すようなロボット2の位置・姿勢を与え、開始位置・姿勢として設定する。なお、図5(A)及び図5(B)に示すように、このロボット2の第5リンク203、第6リンク201がワーク300に干渉しているとする。
次に、S2においては、S1で設定された開始位置・姿勢で、ロボット2がワーク300に干渉していないか否かをチェックする。このS2において干渉があると判定された場合、処理はS3に移る。本実施形態においては、図5に示す位置において、上述したように、第5リンク203及び第6リンク201とワーク300(障害物)とが干渉しているので、処理はS3へ移される。
【0019】
S3においては、ロボット2が存在すべき領域(存在領域)を決定する。この存在領域は、オペレータが適宜設定できるものであって、作業の効率や次の作業への移行のしやすさなどを鑑み、任意に設定できる。しかしながら、本実施形態では、存在領域を、ロボット2の先端に取り付けられたツール214が存在すべき領域とし、ツール214の先端点に対向する障害物(ワーク300)の面を境界とする空間を存在領域としている。
存在領域の設定方法のひとつとして、たとえば、図6(A)に示すようなロボット2の位置・姿勢であるときに、図6(B)に示すように、先端点から全方位的(3次元空間に広がるように)に探査ベクトルを生成し、各方向にて先端点からその方向沿いに探査してゆき、この探査ベクトルが最初に当たる面(ワーク300の内面)を境界とする領域(紙面の上下面、右側面、紙面の表裏面の5面で囲まれる空間)を、ロボット2の存在領域とする。
【0020】
なお、存在領域のロボット2側は、ワーク300の開口部300Aまでである。これは、存在領域とは、ロボット2の先端に取り付けられたツール214により作業するために、ロボット2が存在すべき空間であるので、ワーク300から離れる「開口部300Aより外側の空間」を存在領域として規定する必要がないためである。
さらに、図6に示すようなワーク300が一面だけが開口された中空四角柱ではなく、障害物であるワーク310が図7に示すような両底面が開口されている場合、以下のようにして、ロボット2が存在すべき領域が設定される。
【0021】
図7(A)に示すようなロボット2の位置・姿勢であるときに、図7(B)に示すように、先端点から全方位的(3次元空間に広がるように)に探査ベクトルを生成し、各方向にて先端点からその方向沿いに探査していった時、この探査ベクトルが最初に当たる面(ワーク310の内面)を境界とする領域(紙面の上下面、紙面の表裏面の4面で囲まれる空間)が、ロボット2の存在領域である。なお、存在領域のロボット2側及び反ロボット2側は開口部310Aまでとする。これも、存在領域とは、ツール214により作業するためにロボット2が存在すべき領域であるので、ワーク310から離れる「開口部310Aの外側の空間」は存在領域として規定する必要がないためである。
【0022】
また、ワークが一部の支柱により支えられた平行な上下2枚の平板である場合も同様に考えるとよい。
上述したのはツール214が障害物であるワーク300に包囲されている場合であったが、以下において、ツール214が障害物であるワーク300に包囲されていない場合における存在領域の規定方法について説明する。
この場合であっても、基本的には、存在領域はオペレータが適宜設定できるものであって、作業の効率や次の作業への移行のしやすさなどを鑑み、任意に設定できる。しかしながら、本実施の形態では、以下の方法で存在領域を設定している。
【0023】
たとえば、図8(A)に示すようなロボット2の位置・姿勢であるときに(ロボット2がワーク320の外面から干渉しているときに)、図8(B)に示すように、干渉していない先端点から全方位的(3次元空間に広がるように)に探査ベクトルを生成し、各方向にて先端点からその方向沿いに探査していった時、この探査ベクトルが当たる面(ワーク300の外面)を境界とすると共に、現時点でツール214が内包されるような空間を設定して、それを存在領域330としている(図8(B)の実線)。
次に、S4においては、ロボット2の各部位に設定された対象点が、S3で設定した存在領域の内外のいずれにあるかを判定する。
【0024】
すなわち、図9に示すように、第5リンク203,第6リンク201及びツール214上に対象点をいくつか設定して、この対象点が存在領域の内外にあるかどうかを1つずつ判定する。図9には、対象点501〜対象点508の8個の対象点が設定されている。なお、上面から見た場合、対象点503,対象点504、並びに対象点505,対象点506は、紙面左右方向に近いため、重なって描かれている。
ここで、この対象点の選び方について説明する。
本実施形態においては、図9に示すように、第5リンク203及び第6リンク201がワーク300に干渉している。そのため、第5リンク203の干渉している部位には対象点508、第6リンク201の干渉部位に対象点505が設定される。加えて、ツール214には尖った先端点があり、ここに対象点501が設定される。また、第6リンク201の下部の尖った部位に対象点506が設定される。これら対象点501,505,506,508を補間するように、対象点502,503,504,507が設定され、全部で8個の対象点が設けられている。なお、対象点の設定方法は、上述したものに限定されるものではなく、たとえばオペレータにより適宜設定されるものであっても構わない。
【0025】
本実施形態においては、干渉しているのが第5リンク203及び第6リンク201のみであるので、第5リンク203、第6リンク201、ツール214が存在領域にあるか否かを判定している。しかしながら、他のリンクを判定対象に加えても本実施形態に係る干渉回避方法は適用が可能である。また、実際には、対象点の数は、ロボット2の各部位が干渉回避計算を行う上で、適切な程度の数を取るようにする。
S5においては、複数の対象点について、存在領域内にある場合は、存在領域の境界から離れる方向を備えると共にその境界に近いほど大きくなるスカラー量を備えた移動ベクトルを与え、存在領域外にある場合には、存在領域内側に向かう方向を備え、かつ存在領域内にある場合よりも大きくなるようなスカラー量を備えた移動ベクトルを与える。このように、干渉を回避する方向のベクトルであって、上述したスカラー量を与えることにより、存在領域外の部分を存在領域内に入れることを優先し、かつ、障害物に近づいている部分を障害物から離すことが可能となる。
【0026】
移動ベクトルの与え方に関するひとつの手法として、たとえば、存在領域内にある場合は、障害物であるワーク300の内側に+電荷を帯電させて、対象点にも+電荷を帯電させたときに発生する反力ベクトルを移動ベクトルとして与えるやり方がある。反力ベクトルは、その方向が+電荷どうしであるので互いに反発する向きで与えられ、そのスカラー量は距離の2乗に反比例する。なお、存在領域外にある場合の移動ベクトルの方向は、障害物であるワーク300の内側に+電荷を帯電させて、対象点を−電荷を帯電させたときに発生する引力ベクトルの方向に一致させる。このとき、移動ベクトルのスカラー量は、存在領域内にある場合よりも大きいスカラー量(少なくとも存在領域内での移動ベクトルの最大スカラー量より大きな値)とする。
【0027】
別のやり方として、障害物であるワーク300を構成する面の法線ベクトルを、移動ベクトルの方向と一致させる手法もある。
図10には、S5の処理にて移動ベクトルが設定された様子が示されている。
次に、S6において、S5の対象点の移動ベクトルを合成した合成ベクトルを生成して、この合成ベクトルを用いて、ロボット2自体の回避位置・姿勢の変化量を求める。このとき、存在領域内にある対象点が存在領域外に出ないように変化量を調整することも好ましい。この変化量から求めた、位置・姿勢を回避位置・姿勢とする。この回避位置・姿勢を用いて、ロボット2の座標逆変換を行い、各軸の回転角度を算出する。
【0028】
S7においては、S6にて求めた回避位置・姿勢を、新しい開始位置・姿勢とする。その後、処理はS2へ戻る。以降、S2〜S7を、干渉位置・姿勢でなくなるまで繰り返す。
以上の説明では、ロボット2の初期位置・姿勢に関して説明を行ったが、目標位置・姿勢であっても同様な処理を行えばよい。
図11には、以上述べた干渉回避処理を行った結果が示されている。
図11(A)には、図10に示す干渉状況を回避するための合成ベクトル(詳しくは、合成ベクトルによる平行移動方向と回転方向)が示されている。この合成ベクトルに基づいて、ロボット2の先端部を移動させた結果が、図11(B)に示されていて、これが回避位置・姿勢である。
【0029】
このように、本実施形態の干渉回避方法を用いることで、存在領域外の部分を存在領域内に入れることを優先し、かつ、障害物により近づいている部分を障害物から離すことが可能となり、確実にロボット2と障害物との干渉を回避することができる。
上述した実施形態において、開始位置を固定して開始姿勢だけを変えて、または、開始姿勢を固定して開始位置だけ変えて、回避位置や回避姿勢を生成するなど、目的に応じて、S6の変化量を変更することも可能である。このようにすると、所望の干渉回避位置や干渉回避姿勢を実現することも可能である。つまり、ロボットのコンフィギュレーション空間で干渉しない位置・姿勢を探索するよりも、実空間への変化量を直接操作して、所望の姿勢(位置)を直接的に得ることができる。
【0030】
さらに、干渉の定義を、実際にロボット2がワーク300に接触したこととするのではなく、接触手前(例えば、障害物から10mm手前)で干渉と疑似的に定義することで、ロボット2のニアミスも回避することができる。
また、上述したロボットの干渉回避方法を、オンラインで用いることで干渉のないロボット制御をリアルタイムで行うこともできる。
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係るロボットシステムの全体構成図である。
【図2】ロボットのスケルトン図である。
【図3】干渉回避装置の制御ブロック図である。
【図4】干渉回避装置で実行される処理のフローチャートである。
【図5】干渉状態にあるロボットの位置及び姿勢を示す図である。
【図6】領域設定部で設定される存在領域に関する図(その1)である。
【図7】領域設定部で設定される存在領域に関する図(その2)である。
【図8】領域設定部で設定される存在領域に関する図(その3)である。
【図9】対象点を示す図である。
【図10】ベクトル設定部で設定された移動ベクトルを示した図である。
【図11】干渉状態が回避される状況を示した図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ロボットシステム
2 ロボット
3 スライダ
212 第1軸
210 第2軸
208 第3軸
206 第4軸
204 第5軸
202 第6軸
211 第1リンク
209 第2リンク
207 第3リンク
205 第4リンク
203 第5リンク
201 第6リンク
300 ワーク
400 干渉回避装置
410 領域設定部
420 ベクトル設定部
430 干渉回避部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のポジションに位置するロボットと障害物との干渉を回避する干渉回避方法であって、
前記ロボットが存在すべき領域である存在領域を設定する領域設定ステップと、
前記ロボット上に対象点を設定し、前記存在領域内に位置する対象点に対しては、存在領域の境界から離れる方向で且つ存在領域の境界に近いほど大きなスカラー量を有する移動ベクトルを設定し、前記存在領域外に位置する対象点に対しては、存在領域内に向かう方向で且つ前記対象点が存在領域内にある時よりもさらに大きなスカラー量を有する移動ベクトルを設定するベクトル設定ステップと、
設定された移動ベクトルを基に、前記ロボットの干渉状態を回避する干渉回避ステップと、
を含むことを特徴とするロボットの干渉回避方法。
【請求項2】
前記存在領域を、ロボットの先端に備えられたツールが存在すべき領域とした際に、
前記領域設定ステップでは、前記ツールの先端点に対向する障害物の面を境界として備える空間を前記存在領域として設定し、
前記ベクトル設定ステップでは、前記ツール上に対象点を設定することを特徴とする請求項1に記載のロボットの干渉回避方法。
【請求項3】
前記干渉回避ステップは、前記移動ベクトルの合成ベクトルを基に前記ロボットの干渉状態を回避することを特徴とする請求項1又は2に記載のロボットの干渉回避方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載されたロボットの干渉回避方法が備える各ステップを順次繰り返し実行することで、干渉のないロボットの位置・姿勢を求めることを特徴とするロボットの干渉回避方法。
【請求項5】
ロボットと該ロボットを制御する制御装置とを備えるロボットシステムであって、
前記制御装置は、所定のポジションに位置するロボットと障害物との干渉を回避する干渉回避装置を備えていて、
前記干渉回避装置は、前記ロボットが存在すべき領域である存在領域を設定する領域設定部と、前記ロボット上に対象点を設定し、前記存在領域内に位置する対象点に対しては、存在領域の境界から離れる方向で且つ存在領域の境界に近いほど大きなスカラー量を有する移動ベクトルを設定し、前記存在領域外に位置する対象点に対しては、存在領域内に向かう方向で且つ前記対象点が存在領域内にある時よりもさらに大きなスカラー量を有する移動ベクトルを設定するベクトル設定部と、設定された移動ベクトルを基に、前記ロボットの干渉状態を回避する干渉回避部と、を有していることを特徴とするロボットシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−52093(P2010−52093A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219705(P2008−219705)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】