説明

ロボットハンド

【課題】動物(典型的にはヒト)の手を模していながら、作業を器用に行うことのできるロボットハンドを提供する。
【解決手段】ロボットハンド10は、4本の指(人差し指12、中指14、薬指16、及び、小指18)と第5の指(親指20)を備える。4本の指の夫々は、直動関節18hによって、手のひら22に接続されている。4本の指の夫々は、DIP関節、PIP関節、及びMP関節に相当する3つの回転関節(第1関節18b、18d、及び18e)を有している。ロボットハンド10は、ヒトの手を模していながら、ヒトの手が有していない直動関節18hを有している。直動関節18hは、指の姿勢を保持したまま指全体を並行移動することができる。ロボットハンド10は、直動関節18hを備えることによって、回転関節のみで構成されているロボットハンドよりも作業を器用に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物(典型的にはヒト)の手を模して人工的に造られたロボットハンドに関する。
【背景技術】
【0002】
手のひらと、手のひらに連結されている複数の指を有するロボットハンドが知られている。例えば、特許文献1には、ヒトの手を模した、5本の指を備えるロボットハンドが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−123149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
動物(典型的にはヒト)の関節は、全て回転関節であるため、動物の手の構造を模したロボットハンドを作る場合、ロボットハンドの指も回転関節で構成するのが常識であった。特許文献1に開示されたロボットハンドも、回転関節のみからなる5本の指を備えている。
ヒトの骨格はかなり柔軟に動くため、ヒトの手は器用に作業を行うことができる。例えば、バイオリンの演奏では、指先を弦に押し当てたまま、フレットの上で指先を滑らせることができる(チョーキングと呼ばれている動作)。
他方、ロボットハンドは各部材が剛体であるため、ヒトの手の構造を模して製作しても、従来のロボットハンドでは、前述のチョーキング動作など、ヒトと同じように器用に作業を行うことは困難であった。
作業を限定するのであれば、ヒトの手を模することなく、その作業に適した構造を有するロボットハンドを作ればよい。例えば、バイオリンの演奏だけを行うロボットハンドであれば、夫々の弦の直上に、直交3方向(弦の伸びる1方向と、弦に直交する2方向)に直動する指を備えたロボットハンドを作成すればよい。しかしそれでは、ロボットハンドが実行することのできる作業を限定することになる。
動物(典型的にはヒト)の手を模していながら、器用に作業を行うことのできるロボットハンドが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
様々な作業において指の動きを仔細に観察すると、指先が並行移動することが多いことが判明した。そこで本発明は、動物の手の構造を模したロボットハンドの指の関節に直動関節を採用する。すなわち、本発明のロボットハンドは、少なくとも1本の指が直動関節と回転関節を備えている。
自由度という観点からみれば、回転関節も直動関節も同じ1自由度である。しかしながら、指先を並行移動するには直動関節が有利である。1自由度で指先を並行移動させることができるとともに、広い範囲に亘って並行移動させることができるからである。別言すれば、指先を並行移動させるという観点からみると、直動関節は、回転関節に比べて広い可動範囲を確保できる。また。直動関節を採用することで、ヒトの手の形状を模しているような外見を与えることができる。
【0006】
さらに作業中の指の動きを仔細に観察すると、指先が並行移動する方向は、手のひらに対して遠ざかる、或いは、近づく方向が多いことが判明した。例えば、前述したチョーキング動作が典型的な例である。そこで、指に備える直動関節は、手のひらと指を連結する関節であり、指の延設方向に伸縮する関節であることが好ましい。指の付け根に直動関節を配置することによって、回転関節群によって連結されている指全体を伸縮させることができる。指先の姿勢を維持したまま、指先を伸縮することができる。
【0007】
ヒトの手の外見を模すために、ロボットハンドは、ひとつの直動関節と3つの回転関節を有する4本の指と、複数の回転関節のみを有している第5の指を備えていることが好ましい。
4本の指は、いわゆる人差し指、中指、薬指、小指に相当する。3つの回転関節は、近位から、中手指節関節(MP関節)、近位指節間関節(PIP関節)、遠位指節間関節(DIP関節)に対応する。直動関節は、前述したように、手のひらと指を連結する関節である。別言すれば、直動関節は、中手指節関節よりも近位の関節である。
第5の指は親指に対応する。第5の指が有する回転関節の数は、2つ或いは3つが好ましい。第5の指が2つの回転関節を備える場合には、それらは、中手指節関節(MP関節)と指節間関節(IP関節)に対応する。
直動関節は、外見上は「関節」に見えないため、上記の5本の指を有するロボットハンドは、外見的にはヒトの手と同じ構造を有しているように見える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、動物(典型的にはヒト)の手を模していながら、器用に作業を行うことのできるロボットハンドを実現できる。
【実施例】
【0009】
図1に、ロボットハンド10のスケルトン図を示す。図2に、ロボットハンド10の模式的平面図を示す。図1のスケルトン図は、図2の模式的平面図に対応している。
ロボットハンド10は、手のひら22と、5本の指(人差し指12、中指14、薬指16、小指18、及び親指20)を備えている。人差し指12、中指14、薬指16、小指18は、同じ構造を有している。以下では、小指18の構造を説明し、人差し指12、中指14、薬指16の説明は省略する。
小指18は、4つのリンク(遠位から、第1リンク18a、第2リンク18c、第3リンク18e、及び第4リンク18g)と、4つの関節(遠位から、第1関節18b、第2関節18d、第3関節18f、及び第4関節18h)から構成されている。第1リンク18aが指先のリンクである。第4リンク18gが、指の根元リンクである。第1関節18b、第2関節18d、第3関節18fは、回転関節である。図1、図2において、関節の上に描かれている破線が回転軸を表している。第1関節18b、第2関節18d、第3関節18fは、それぞれ、ヒトの指の遠位指節間関節(DIP関節)、近位指節間関節(PIP関節)、中手指節関節(MP関節)に対応する。第4関節18hは、直動関節である。
第4リンク18gが、第4関節18hを介して、手のひら22の小指基部22aに連結されている。第4リンク18gは、第4関節18h(直動関節)によって、指の延設方向(図1の矢印が示す方向)に沿って伸縮する。すなわち、小指18の全体が、第4関節18h(直動関節)によって、指の延設方向(図1、2の矢印が示す方向)に沿って伸縮する。
なお、図1と2に示すように、第4関節18hの根元側(手のひら22の側)は、手のひら22に固定されている。
【0010】
図2に示すように、手のひら22の内部に第4アクチュエータ118hが内蔵されている。第4アクチュエータはモータであり、その回転軸にボールネジ119が連結されている。小指の第4リンク18gが、ボールネジ119に係合している。第4アクチュエータによってボールネジ119を回転させると、第4リンク18gが指の延設方向(図1、2の矢印が示す方向)に移動する。すなわち、小指18の全体が指の延設方向に沿って伸縮する。
【0011】
第3リンク18eに、第3アクチュエータ118fが内蔵されている。第3アクチュエータ118fが、第3関節18fを駆動する。すなわち、第3関節18fが、第4リンク18gに対して第3リンク18eを回転させる。第2リンク18cに、第2アクチュエータ118dが内蔵されている。第2アクチュエータ118dが、第2関節18dを駆動する。すなわち、第2関節18dが、第3リンク18eに対して第2リンク18cを回転させる。第1リンク18aに、第1アクチュエータ118bが内蔵されている。第1アクチュエータ118bが、第1関節18bを駆動する。すなわち、第1関節18bが、第2リンク18cに対して第1リンク18aを回転させる。
【0012】
第5の指である親指20について説明する。
親指20は、2つのリンク(遠位から、第1リンク20aと第2リンク20c)と、2つの関節(遠位から、第1関節20bと第2関節20d)から構成されている。第1リンク20aが指先のリンクである。第2リンク20cが、指の根元リンクである。第1関節20bと第2関節20dはともに回転関節である。図1、図2において、関節の上に描かれている破線が回転軸を表している。親指20の第1関節20bと第2関節20dは、それぞれ、指節間関節(IP関節)と中手指節関節(MP関節)に相当する。親指20は、回転関節のみを有しており、直動関節を有していない。
第2リンク20cが、第2関節20dを介して、手のひら22の親指基部22bに連結されている。第2リンク20dの遠位端に、第1関節20bを介して第1リンク20aが連結されている。
親指第1関節20bは、第1アクチュエータ120bによって駆動される。すなわち、親指第1関節20bが、第2リンク20cに対して第1リンク20aを回転させる。親指第2関節20dは、第2アクチュエータ120dによって駆動される。すなわち、親指第2関節20dが、手のひら22に対して第2リンク20cを回転させる。
【0013】
直動関節である第4関節の効果を、図3を参照して説明する。図3は、ロボットハンド10を使ってバイオリンを演奏するときの模式図である。図3は、ロボットハンド10がバイオリンのネック90を掴んでいる様子を示す模式的断面図である。符号90a〜90dは、弦を示している。図3では、ロボットハンド10をスケルトンで表している。図3では、人差し指12、中指14、及び薬指16の図示を省略している。
図3は、小指18が弦90cを押さえている様子を示している。小指18の第1リンク18aの先端が、弦90cをネック90に押し当てている。小指18の第4関節18hを駆動すると、小指18全体が、図の左右方向(図の矢印の方向)に移動する。その結果、小指18の先端リンク18aは、弦90cを押さえたまま、フレットの上を矢印の方向に移動する。すなわち、弦90cをチョーキングする。このとき、小指18の3つの回転関節(第1関節18b、第2関節18d、及び、第3関節18f)を駆動する必要がない。別言すれば、3つの回転関節によって定まる小指18の姿勢を変化することなく、チョーキング動作を実行できる。
このように、指の付け根に直動関節を備えることで、従来のロボットハンドでは実現が難しい作業を器用に実行することができる。
【0014】
ロボットハンド10は、4本の指(人差し指12、中指14、薬指16、及び小指18)と第5の指(親指20)を有している。4本の指のそれぞれは、直動関節(第4関節18hなど)によって手のひら22に連結されている。4本の指のそれぞれは、遠位指節間関節(DIP関節)、近位指節間関節(PIP関節)、及び中手指節関節(MP関節)に対応する3つの回転関節(第1関節18b、第2関節18d、及び第3関節18f)を備えている。直動関節である第4関節18hは、3つの回転関節よりも近位側に配置されている。ロボットハンド10は、ヒトの指の遠位指節間関節(DIP関節)、近位指節間関節(PIP関節)、及び中手指節関節(MP関節)に対応する3つの回転関節に加えて、ヒトの指が備えていない直動関節を備えている。ロボットハンド10は、図1、2から明らかなように、ヒトの指が備えていない直動関節を備えているにも関わらずに外見はヒトの手の構造にそっくりである。外見はヒトの手に似ているが、ヒトの手が有していない直動関節を有することによって、作業を器用に実行することができる。
【0015】
実施例のロボットハンド10は、親指20が2つの回転関節(第1関節20bと第2関節20d)を備える。親指は3つの回転関節を備えていてもよい。親指の第3の関節は、ヒトにおいて手のひらを屈曲させる関節に相当する位置に配置されることが好ましい。
実施例のロボットハンド10では、4本の指(人差し指12、中指14、薬指16、及び小指18)が等しい長さを有している。夫々の指の長さが異なっていてもよい。
【0016】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、ロボットハンドのスケルトン図を示す。
【図2】図2は、ロボットハンドの模式的平面図を示す。
【図3】図3は、チョーキング動作を説明する図である。
【符号の説明】
【0018】
10:ロボットハンド
12:人差し指
14:中指
16:薬指
18:小指
20:親指
18b、18d、18f:回転関節
18h:直動関節

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手のひらと、
手のひらから伸びる複数の指と、を備えており、
少なくとも1本の指が、直動関節と回転関節を備えていることを特徴とするロボットハンド。
【請求項2】
直動関節は、手のひらと指を連結しているとともに、指の延設方向に伸縮する関節であることを特徴とする請求項1に記載のロボットハンド。
【請求項3】
ひとつの直動関節と3つの回転関節を有する4本の指と、複数の回転関節のみを有している第5の指を備えていることを特徴とする請求項2に記載のロボットハンド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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