説明

ロボット用ロックシステム及びそのロック方法

【課題】システムに通電していない状態で、関節部分を自由に固定、及び解放できるロックシステム及びそのロック方法を提供すること。
【解決手段】本発明にかかるロックシステムは、モータが通電していない際に、モータにより駆動する駆動軸の回転を固定する。少なくとも2以上の方向から駆動軸を挟む2以上の固定パッドと、固定パッドを、内部の空気圧を変化させることにより、駆動軸の中心方向に移動させるシリンダー部と、シリンダー部に空気を挿入する第1の挿入口と、排出する排出口とを有し、固定パッドは、駆動軸側とは反対側の端部がばねの一端と接続され、ばねの他端はシリンダー部と接続され、シリンダー部は、シリンダー内の空気圧を上げることで、固定パッドを駆動軸の中心方向に押し出し、シリンダー内部の空気圧を下げることで、ばねの弾性力により、固定パッドを駆動軸側とは反対の方向に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロボット用ロックシステム及びそのロック方法に関し、特に回転軸をロックするロボット用ロックシステム及びそのロック方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多関節ロボットや車輪式ロボットにおいて、メンテナンスをする際は電源をOFFにするため、各軸のモータがフリー状態になり、各関節や車輪が自由に動いてしまう。部位によっては、関節を固定した状態でメンテナンスをしたい場合があり、状態を保持する作業者が別に必要になる。
【0003】
電機システム上、モータを駆動するための電源が供給されない限りモータは電気的にフリーになる。これにより、システムの関節部分は自由に動いてしまう。また、メカニカルに拘束した場合、ロボットはある一定の姿勢のままの状態となるため、当該システムをメンテナンスする際は不自由である。言い換えれば、システムをメンテナンスする際、システムに通電していない状態で、関節部分を自由に固定、及び解放することが必要になる。
【0004】
ところで、電力を使用せず、可動する部位を固定するための技術が、特許文献1乃至4に記載されている。
【0005】
特許文献1に記載の技術は、シャフト型リニアモータのブレーキ装置に関する技術である。特許文献1に記載の技術は、シャフトを上下方向からブレーキシューで挟むものである。このブレーキ装置は、上下のクランプアームの中間を連結軸で枢着させ、連結軸より先端側の各クランプアームに円弧状のライニング材を設けてブレーキシューを構成する。クランプアームの連結軸より後端側には、各クランプアームの間をばねで接続する。そして、励磁コイルに通電していない際は、ブレーキシューをばねの弾性力により閉じる。
【0006】
特許文献2に記載の技術は、マニュピュレータにおいて、モータブレーキで制動可能な軸が停止する時間を割り出し、停止する時間帯はモータブレーキで停止し、これにより省電力化を図るものである。
【0007】
特許文献3に記載の技術は、モータの回転軸をロックするものである。特許文献1に記載の技術は、ロータに凹部を設け、所定の信号により、当該凹部にピンを差し込むことによりロータの回転を停止させるものである。ピンは、通常は固定されているが、所定の信号により固定機構が火薬で破壊され、回転中心方向に向けてばねにより突出する。
【0008】
特許文献4に記載の技術は、空気圧により稼働するシステムにおいて、空気の漏れを検出した際に、可動軸の回転を停止させるものである。特許文献4に記載の技術は、システムにおいて、空気漏れがあることを検出すると、回転軸のギアにロックレバーを嵌入し、回転軸の回転を止める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−226824号公報
【特許文献2】特開2000−308990号公報
【特許文献3】特開平11−318052号公報
【特許文献4】特開平6−31680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載技術は、励磁コイルに通電していない際は常にブレーキをかけている状態であり、ブレーキを解放するためには励磁コイルに通電しなければならず、可動部分を自由に固定及び解放することができない。
【0011】
特許文献2に記載の技術は、モータに通電していない際に、関節を固定した状態で停止させるものであり、関節の固定、及び解放を自由に行うことができない。
【0012】
特許文献3に記載の技術は、モータの故障時に回転軸をロックするものであり、ピンを固定している固定機構を、火薬を用いて破壊し、それによりピンを突出させるものであって、回転軸の解放、及び固定を繰り返し行うことができない。
【0013】
特許文献4に記載の技術は、回転軸のギアにロックレバーを挿入することにより回転を停止するものであるが、ロックレバーを回転軸とは逆の方向に移動させる方法については開示されていない。
【0014】
本発明にかかるロックシステム及びそのロック方法は、システムに通電していない状態で、関節部分を自由に固定、及び解放できるロックシステム及びそのロック方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明にかかるロックシステムは、モータが通電していない際に、モータにより駆動する駆動軸の回転を固定するロックシステムである。少なくとも2以上の方向から駆動軸を挟む2以上の固定パッドと、固定パッドを、内部の空気圧を変化させることにより、駆動軸の中心方向に移動させるシリンダー部と、シリンダー部に空気を挿入する第1の挿入口と、シリンダー部から空気を排出する排出口とを有し、固定パッドは、駆動軸側とは反対側の端部がばねの一端と接続され、ばねの他端はシリンダー部と接続され、シリンダー部は、シリンダー内の空気圧を上げることで、固定パッドを駆動軸の中心方向に押し出し、シリンダー内部の空気圧を下げることで、ばねの弾性力により、固定パッドを駆動軸側とは反対の方向に移動させる。
【0016】
本発明によれば、駆動軸の固定と解放をくり返し行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、システムに通電していない状態で、関節部分を自由に固定、及び解放できるロックシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態1にかかるロックシステム1を示す図である。
【図2】実施の形態1にかかるロックシステム1の一部を示す図である。
【図3】実施の形態1にかかるロックシステム1が組み込まれたシステム5の全体図である。
【図4】実施の形態1にかかるシステム5の詳細を示す図である。
【図5】実施の形態1にかかるシステム5の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略及び簡略化がなされている。また、様々な処理を行う機能ブロックとして図面に記載される各要素は、ハードウェア的には、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、その他の回路で構成することができ、ソフトウェア的には、メモリにロードされたプログラムなどによって実現される。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではない。また、以下の図面に示す各装置の構成は、例えば記憶装置に読み込まれたプログラムをコンピュータ(PC(personal computer)や携帯端末装置等)上で実行することにより実現される。また、これらのプログラムは、CD−ROM(Read Only Memoryや光ディスク等の情報記憶媒体に記憶され、もしくはインターネット等のネットワークを介して配布され、コンピュータにインストールされることになる。
【0020】
本実施の形態にかかるロックシステム1は、モータ10により駆動する駆動軸11において、モータ11が通電していない際に、駆動軸11の回転を固定及び解放する。ここで、モータ10は、駆動軸11と接続されている。駆動軸11は、モータ10の反対側にギア12を有し、ギア11は、外部の可動部と接続されている。
【0021】
本実施の形態にかかるロックシステム1は、少なくとも2以上の方向から駆動軸11を挟む2以上の固定パッドと、内部の空気圧を変化させることにより、固定パッドを駆動軸11の中心方向に移動させるシリンダー部と、シリンダー部に空気を挿入する第1の挿入口としての挿入口19と、シリンダー部から空気を排出する排出口としての圧縮空気抜きねじ20と、それぞれの固定パッドに接続された2以上のばねとを有する。
【0022】
図1は、本実施の形態にかかるロックシステム1を示す図である。モータ10は、駆動軸11と接続され、駆動軸11は、出力側にギア12を有している。ロックシステム1は、駆動軸11を固定する固定パッド13及び固定パッド14とを有し、固定パッド13及び固定パッド14はそれぞれ、シリンダー部15とシリンダー部16に支持されている。空気管17及び空気管18は、空気挿入口19から圧縮空気を供給され、シリンダー部15及びシリンダー部16の内部の空気圧を上昇させる。また、シリンダー部15及びシリンダー部16は、圧縮空気抜きねじ20から、空気を排出し、それにより内部に空気圧を低下させる。
【0023】
空気挿入口19は、外部と接続され、圧縮空気をロックシステム1内部に取り込む。圧縮空気を取り込んだ後、又は取り込まない場合は、キャップ27により密閉される。
【0024】
固定パッド13と固定パッド14は、ばね21及びばね22の一端と接続され、ばね21及びばね22の他端はシリンダー部15及びシリンダー部16と接続されている。
【0025】
シリンダー部15及びシリンダー部16は、空気管17及び空気管18と接続され、空気管17と空気管18から供給される圧縮空気により、内部の空気圧を上昇させ、それにより、固定パッド13及び固定パッド14を駆動軸11の中心方向に押し出す。
【0026】
シリンダー部15及びシリンダー部16は、空気管17及び空気管18を介して、圧縮空気抜きねじ20から圧縮空気を排出し、それにより内部の空気圧を下降させ、ばね21及びばね22の弾性力により固定パッド13及び固定パッド14を駆動軸11の中心方向とは反対の方向に移動させる。
【0027】
図2(a)及び(b)は、ロックシステム1の一部を示す図である。図2(a)は固定パッド13及び固定パッド14が通常時の位置にあるときの状態を示し、図2(b)は固定パッド13及び固定パッド14が駆動軸11を固定している際の状態を示す図である。
【0028】
図2(a)に示すように、シリンダー部15及びシリンダー部16の内部の空気圧が低い際は、固定パッド13及び固定パッド14は、ばね21及びばね22の弾性力により、駆動軸11とは離れた位置に維持される。
【0029】
図2(b)に示すように、シリンダー部15及びシリンダー部16の内部の空気圧が高い際は、固定パッド13及び固定パッド14は、シリンダー部15及びシリンダー部16の空気圧により、駆動軸11の中心方向に押し出され、駆動軸11を上下方向から挟むことにより固定する。また、固定パッド13及び固定パッド14は、シリンダー部15及びシリンダー部16の空気圧により駆動軸11方向に押し出されている。そのため、シリンダー部15及びシリンダー部16の内部の空気圧を調整することにより、ロックシステム1の固定の強度を調整することができる。
【0030】
本実施の形態にかかるロックシステム1は、空気管17及び空気管18から供給される圧縮空気により、シリンダー内の空気圧を上げることで、固定パッドを駆動軸の中心方向に押し出し、シリンダー内部の空気圧を下げることで、ばねの弾性力により、固定パッドを駆動軸側とは反対の方向に移動させる。これにより、モータが通電していなくても、駆動軸を自由に固定又は解放することができる。なお、固定パッド、ばね、シリンダーの接続方法については、図1及び記載のものは一例であり、ばねの弾性力が固定パッドを移動させるものであれば、他の形状でも構わない。
【0031】
ロックシステム1について、更に詳細に説明する。ロックシステム1は、更に、第2の挿入口としての空気挿入口25と、逆流防止弁23及び逆流防止弁24と、空気挿入口30とを有している。ロックシステム1が組み込まれたシステム5は、複数ある関節部分それぞれにロックシステム1を設けている。
【0032】
逆流防止弁23は、空気挿入口19及び空気挿入口25から供給された圧縮空気が空気挿入口19に逆流して漏れることを防ぐ。
【0033】
逆流防止弁24は、空気挿入口25から供給された圧縮空気が逆流防止弁24に逆流して漏れることを防ぐ。
【0034】
空気挿入口25は、空気管26と接続されている。空気管26は、複数のロックシステム1の空気挿入口25及び空気挿入口30と接続されている。
【0035】
空気挿入口30から空気管26を介して圧縮空気を複数のロックシステム1に供給することにより、一度にすべてのロックシステム1のシリンダー部の内部の空気圧を上げることができ、それにより、一度にシステム内のすべての関節部を固定することができる。
【0036】
図3は、ロックシステム1が組み込まれたシステム5の全体図である。システム5は、複数あるロックシステム1全てに圧縮空気を提供できる空気挿入口30と、空気挿入口30から圧縮空気が逆流することを防ぐ逆流防止弁32と、それぞれのロックシステム1に圧縮空気を提供する空気挿入口19a〜19lを有している。
【0037】
図4及び図5は、システム5の詳細を示す図である。システム5は、ロックシステム1〜4を有し、空気管26a及び26bにより接続されている。ロックシステム1〜4は、それぞれ逆流防止弁24a〜24c及び空気挿入口19a〜19cを有している。図4では、空気挿入口30からシステム5内のすべてのロックシステム1〜4に圧縮空気を提供しているところを示している。空気挿入口30から圧縮空気をロックシステム1〜4に供給することにより、一度にシステム5の関節部分のすべてを固定することができる。
【0038】
図5では、ロックシステム3の空気挿入口19cから圧縮空気を供給し、ロックシステム3の設けられた関節部分を固定している。ロックシステム3は、逆流防止弁24cを有しているため、空気管26bから圧縮空気が逆流することにより、他のロックシステムの関節部分を固定することがない。これにより、図5に示すように、システム5内の関節部分を選択して、その部分のみを固定することが可能である。また、逆に、すべての関節部分を固定した後、一部の関節部分のみ圧縮空気抜きねじ20を緩めることにより内部の空気圧を低下させることにより、ロックシステム1の駆動軸11の固定する強度を緩めて関節部分を解放することも可能である。
【0039】
本実施の形態にかかるロックシステムは、圧縮空気を空気挿入口から取り入れることにより、システムの関節部分を一度に固定することができる。また、それぞれロックシステムに設けられた空気抜きねじにより、ロックシステム内の空気を抜き、当該ロックシステムが設けられた関節部分を解放することができる。また、システム内の複数のロックシステムは、空気管により接続されているが、逆流防止弁により、圧縮空気が他のロックシステムに流れ込まないようになっているため、システム内の一部のロックシステムのみを固定又は解放することができる。
【0040】
本実施の形態にかかるロックシステムは、モータに電気を通電することなく関節を固定及び解放することができるため、システムのメンテナンスの際により有効である。また、複数の関節部分を一度に固定したり、一部の関節部分のみを固定又は解放できるため、多関節の人型ロボットのようなシステムにおいても、姿勢を固定し、一部の関節のみ解放して、再度固定してメンテナンスを行うなどすることができる。
【0041】
なお、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0042】
1 ロックシステム
2 ロックシステム
3 ロックシステム
4 ロックシステム
5 システム
10 モータ
11 駆動軸
12 ギア
13 固定パッド
14 固定パッド
15 シリンダー部
16 シリンダー部
17 空気管
18 空気管
19、19a〜19d 空気挿入口
20 圧縮空気抜きねじ
21 ばね
22 ばね
23 逆流防止弁
24、24a〜24d 逆流防止弁
25 空気挿入口
26、26a〜26b 空気管
27 キャップ
30 空気挿入口
32 逆流防止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータが通電していない際に、前記モータにより駆動する駆動軸の回転を固定するロックシステムであって、
少なくとも2以上の方向から前記駆動軸を挟む2以上の固定パッドと、
前記固定パッドを、内部の空気圧を変化させることにより、前記駆動軸の中心方向に移動させるシリンダー部と、
前記シリンダー部に空気を挿入する第1の挿入口と、
前記シリンダー部から空気を排出する排出口とを有し、
前記固定パッドは、前記駆動軸側とは反対側の端部が前記ばねの一端と接続され、
前記ばねの他端は前記シリンダー部と接続され、
前記シリンダー部は、シリンダー内の空気圧を上げることで、前記固定パッドを前記駆動軸の中心方向に押し出し、シリンダー内部の空気圧を下げることで、ばねの弾性力により、前記固定パッドを前記駆動軸側とは反対の方向に移動させるロックシステム。
【請求項2】
複数の前記ロックシステムを有し、
当該複数の前記ロックシステムは、更に第2の挿入口と、空気管とを有し、
前記空気管は、前記第2の挿入口及び前記システム組み込まれた複数の前記ロックシステムのシリンダー部を接続し、
前記第2の挿入口から、システムに組み込まれた複数の前記ロックシステムの前記複数のシリンダー部に前記空気管を介して空気を挿入可能に構成される請求項1記載のロックシステム。
【請求項3】
前記シリンダー部は、更に、前記第1及び第2の挿入口へ空気の逆流を防止する逆流防止弁を有する請求項1または2記載のロックシステム。
【請求項4】
前記ロックシステムは、前記シリンダー内部の空気圧を変化させることにより、前記駆動軸の固定の強度を調整する請求項1乃至3のいずれか1項記載のロックシステム。
【請求項5】
モータが通電していない際に、前記モータにより駆動する駆動軸の回転を固定するロック方法であって、
少なくとも2以上の方向から前記駆動軸を挟む2以上の固定パッドを、当該固定パッドに接続されたシリンダー部の内部空気圧を高くすることにより、前記駆動軸の中心方向に移動させて前記駆動軸を固定し、
前記シリンダー部の内部空気圧を下げることにより、前記駆動軸の中心方向とは反対の方向にばねの弾性力により前記固定パッドを移動させて前記駆動軸を解放するロック方法。
【請求項6】
第2の挿入口から空気管を介して複数の前記ロックシステムに空気を挿入し、前記複数の前記ロックシステムの前記シリンダー部に空気を挿入する請求項5記載のロック方法。
【請求項7】
前記シリンダー部は、更に、逆流防止弁により、前記第1及び第2の挿入口へ空気の逆流を防止する請求項5または6記載のロック方法。
【請求項8】
前記ロック方法は、前記シリンダー内部の空気圧を変化させることにより、前記駆動軸の固定の強度を調整する請求項5乃至7のいずれか1項記載のロック方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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