説明

ロボット装置

【課題】可動部の静止保持状態を維持したまま即座にモータの出力値を低減させることができるロボット装置を提供する。
【解決手段】ロボット装置1は、モータによってアーム部6を関節部5を介して可動させるロボット本体2と、モータの出力値を制御するECU4と、を備えている。ECU4は、アーム部6が静止保持状態のとき、発生している関節出力指標値に基づいてモータの出力値を制御する。よって、ロボット装置1では、静止保持状態でモータの出力値を低減する際に、アーム部6が動き出すまで少しずつ該出力値を低減させる必要がなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のロボット装置としては、モータによって可動部を関節部を介して可動させるロボット本体と、モータの出力値を制御する出力制御部と、を備えたものが知られている。このようなロボット装置においては、例えば特許文献1に記載されているように、可動部が静止保持状態のとき、モータの出力値(以下、単に「出力値」ともいう)が同じ静止保持状態であっても異なる(大小する)場合があることから、可動部が動き出すまで少しずつ出力値を低減させ、消費電力を低減することが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−011121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記ロボット装置では、前述のように、可動部が実際に動き出すまで出力値が低減されるため、結果的には、静止保持状態が維持されないことになる。また、上記ロボット装置では、動き出しの際の可動部の移動量を小さくしようとすると、出力値の低減量を小さくする必要があることから、出力値の低減に時間がかかってしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、可動部の静止保持状態を維持したまま即座にモータの出力値を低減させることができるロボット装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係るロボット装置は、モータによって可動部を関節部を介して可動させるロボット本体と、モータの出力値を制御する出力制御部と、を備え、出力制御部は、可動部が静止保持状態のとき、発生している関節出力指標値に基づいて出力値を制御することを特徴とする。
【0007】
このロボット装置では、可動部が静止保持状態のときにおいて、発生している関節出力指標値に基づいて出力値を制御する。よって、静止保持状態でモータの出力値を低減する際に、可動部が動き出すまで少しずつ出力値を低減させる必要がなくなる。よって、可動部の静止保持状態を維持したまま即座に出力値を低減させることができる。
【0008】
また、出力制御部は、可動部が静止保持状態のとき、関節部に負荷されている負荷力の方向と直前の可動部の可動方向とが不一致である場合に、静止保持状態を維持したまま出力値を低減させることが好ましい。これにより、可動部が静止保持状態のときにて出力値を好適に低減させることができる。これは、関節部の負荷力の方向に逆らう方向に可動部が動いた後に該可動部が静止保持されたときには、関節部の負荷力の方向に沿って可動部が動いた後に該可動部が静止保持されたときに比べ、関節部に作用する摩擦等の影響からモータの出力値が余計に大きくなることが見出されるためである。
【0009】
このとき、出力制御部は、関節部に設けられた弾性要素の変位方向に基づいて、負荷力の方向を求めることが好ましい。この場合、負荷力の方向を求める際の演算処理(例えば、運動学計算や力学計算)を低減することができる。
【0010】
また、出力制御部は、ロボット本体における質量特性及びリンクパラメータと、ロボット本体に作用する外力とに少なくとも基づいて、負荷力の方向を求めることが好ましい。この場合、関節部に弾性要素が設けられていなくても、負荷力の方向を求めることができる。
【0011】
ここで、可動部は、関節部が有する軸回りに回転するよう可動するものであって、負荷力の方向は、関節部の軸回りに発生している負荷トルクの方向である場合がある。
【0012】
また、出力制御部は、予め記憶された関節部出力特性に基づいて、静止保持状態を維持したまま低減可能な出力値を算出することが好ましい。この場合、低減可能な出力値を、例えばモータの減速機以外の摩擦要因等をも考慮して算出することができる。
【0013】
このとき、関節部出力特性は、関節出力指標値と静止保持状態を維持したまま低減可能な出力値との間の特性である場合がある。
【0014】
また、出力制御部は、モータの減速機における伝達効率に基づいて、静止保持状態を維持したまま低減可能な出力値を算出することが好ましい。この場合、低減可能な出力値を、予め試験を行わずに算出することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、可動部の静止保持状態を維持したまま即座にモータの出力値を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るロボット装置を示すブロック図である。
【図2】図1のロボット装置のロボット本体を示す概略側面図である。
【図3】図2のロボット本体の単関節モデルを示す概略斜視図である。
【図4】図1のロボット装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】(a)は可動方向が逆方向の場合における減速機の摩擦特性モデルを示す図であり、(b)は可動方向が順方向の場合における減速機の摩擦特性モデルを示す図である。
【図6】可動方向が逆方向及び順方向の場合における関節出力の特性を示す線図である。
【図7】関節部出力特性を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係るロボット装置を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態のロボット装置1は、例えば工業、医療福祉、農業及び安全システム等の種々な分野に適用されるマニュピレータであり、図1に示すように、ロボット本体2、検出部3及びECU(出力制御部)4を備えている。
【0019】
図2は、図1のロボット装置のロボット本体を示す概略側面図である。図2に示すように、ロボット本体2は、複数(少なくとも1つ)の関節部5によりアーム部(可動部)6がリンクされてなるリンク構造とされ、ここでは、7自由度リンク構造とされている。このロボット本体2では、モータ(図3参照)7によってアーム部6が関節部5を介して可動される。
【0020】
アーム部6の先端には、ハンド部8が設けられている。また、関節部5のうちの一部は、安全かつ安定した作業遂行を行うべく受動柔軟関節とされており、その内部には、軸G(図3参照)回り回転方向に沿って伸縮する弾性要素が設けられている。弾性要素としては、例えば機械ばね等が用いられている。
【0021】
図3は、図2のロボット本体の単関節モデルを示す概略斜視図である。図3に示すように、関節部5では、モータ7が減速機9を介してアーム部6に接続されており、軸G回りに回転するようアーム部6が可動される。ここでの減速機9としては、ハーモニックドライブやウォームギア等の高減速比を有するものが用いられている。
【0022】
この関節部5における図3に示す一例では、モータ7に電流を供給することで軸G回りにモータ出力トルクPが発生し、且つ、アーム部6に作用する自重及び外力を含む力Rが発生することによって、負荷トルクQが発生している。このような負荷トルクQが関節部5に発生している場合において、以下、負荷トルクQの軸G回り回転方向と反対方向にアーム部6を軸G回りに回転させる可動方向を「逆方向A1」と称し、負荷トルクQの軸G回り回転方向に沿ってアーム部6を軸G回りに回転させる可動方向を「順方向A2」と称することとする。
【0023】
ちなみに、図3中においては、説明の便宜上、単関節モデルを用いて関節部5を説明したが、関節部5の構成は上記構成に限定されるものでは勿論ない。また、図中では、減速機9がモータ7と別体に構成されているが、減速機9及びモータ7が互いに一体で構成されていてもよい。
【0024】
図1に戻り、検出部3は、ロボット本体2に関する各種パラメータを検出するセンサであって、ロボット本体2に内臓されている。この検出部3は、出力指標値検出部31、弾性要素変位検出部32、外力検出部33及び可動量検出部34を含んで構成されている。
【0025】
出力指標値検出部31は、関節出力指標値を検出する。関節出力指標値は、関節部5にて発生している出力(関節出力)に関する指標値である。関節出力指標値としては、例えば、モータ7に供給される電流値(供給電流)、モータ出力トルクP(関節トルク)等が挙げられる。ここでは、関節出力指標値は、関節部5で発生しているモータ出力トルクPの値とされている。なお、関節出力指標値は、限定されるものではなく、関節出力に係る指標値であれば、その他の関節出力でもよい。
【0026】
弾性要素変位検出部32は、関節部5に設けられた弾性要素の軸G回り回転方向の変位を検出する。外力検出部33は、ロボット本体2に作用する外力を検出するものであり、ここでは、アーム部6が作業対象物に対して加える力を検出する力覚センサが用いられている。可動量検出部34は、アーム部6の可動量を検出するセンサであり、ここでは、関節部5におけるアーム部6の角度θ(いわゆる関節角度θ,図3参照)を可動量として検出する。
【0027】
ECU4は、例えばCPU、ROM、及びRAM等から構成され、ロボット本体2に搭載されている。このECU4は、ロボット本体2を制御対象として該ロボット本体2の動作を制御する。ここでのECU4は、目標姿勢設定部41、静止保持状態判断部42、負荷トルク方向算出部43、可動方向算出部44、モータ出力値低減可否判断部45及びモータ出力値低減量算出部46を有しており、モータ7の出力値を少なくとも制御する。モータ7の出力値としては、例えばモータ7に供給される電流値、又はモータ出力トルクPが挙げられる。
【0028】
次に、上述したロボット装置1における動作に関し、図4に示すフローチャートを参照しつつ、目標姿勢に対してロボット本体2が制御される場合を例示して説明する。
【0029】
まず、例えば外部からの入力で目標姿勢設定部41により目標姿勢が設定され、ロボット本体2が目標姿勢を取るよう目標指令値がモータ7に出力される(S1)。そして、可動量検出部34で検出された可動量に基づいて、静止保持状態判断部42によりアーム部6が静止保持状態(姿勢保持状態)であるかが判断される(S2)。
【0030】
具体的には、関節角度θが一定域に収束しているとき、静止保持状態と判断され、未だ収束していないとき、静止保持状態でないと判断される。なお、このとき、出力指標値検出部31で検出された関節出力指標値(ここでは、モータ出力トルクP)が一定域に収束しているか否かがさらに判別されて静止保持状態が判断される場合もある。この場合、モータ7への制御指令値が一定域に収束しているか否かがさらに判別されて静止保持状態が判断されてもよい。
【0031】
続いて、アーム部6が静止保持状態のとき、関節部5の負荷トルク(負荷力)Qの方向(以下、「負荷トルク方向」という)が求められる(S3)。具体的には、弾性要素変位検出部32で検出された変位方向がそのまま負荷トルク方向として求められる。
【0032】
或いは、負荷トルク方向算出部43により、ロボット本体2における質量特性及びリンクパラメータ、外力検出部33で検出された外力、及び可動量検出部34で検出された可動量に基づいて、ロボットの順運動学計算及び静力学計算が適用されて負荷トルク方向が算出される。
【0033】
続いて、可動方向算出部44において、可動量検出部34で検出された可動量に基づき過去履歴(例えば、関節角度θ及び目標指令値等の過去の履歴)が適用され、アーム部6の軸G回りの可動方向(以下、単に「可動方向」という)が算出される(S4)。そして、モータ出力値低減可否判断部45により、負荷トルク方向と可動方向とが不一致であるか否かが判断される(S5)。
【0034】
ここで、負荷トルク方向と可動方向とが不一致の場合(つまり、可動方向が、逆方向A1の場合)には、以下に示す理由から、モータ7の出力値を意図的に低減させる制御を行うことができる。
【0035】
図5は、図1のロボット装置における減速機の摩擦特性モデル(斜面モデル)を示す図である。図5に示すように、減速機9のトルク伝達に関しては、斜面モデルを用いてモデル化することが可能である。図中において、tanγ=1/u(u:減速比)である。
【0036】
図5(a)に示すように、可動方向が逆方向A1の場合、モータ出力トルクP1によって動摩擦係数μが負荷トルク方向と逆方向に働くため、斜面51に対して押し上げる方向v1に物体(関節部)50が動作する。よって、斜面51に対しての摩擦力は、方向v1に逆らう方向に働き、力の釣り合いは、斜面水平方向及び斜面鉛直方向のそれぞれにおいて下式(1),(2)で表せる。なお、ここでの動摩擦係数μは、減速機9内の摩擦係数である。
P1・cosγ−Qsinγ=μ・Pn …(1)
P1・sinγ+Qcosγ=Pn …(2)
P1:可動方向が逆方向A1の場合のモータ出力トルク
Q:負荷トルク
Pn:斜面からの反力
【0037】
そして、上式(1),(2)に基づき下式(3)が導かれ、この下式(3)がtanρ=μとして整理されて、下式(4)が求められる。
P1(cosγ−μsinγ)=Q(sinγ+μcosγ) …(3)
P1=(tanγ+tanρ)/(1−tanρtanγ)・Q
=tan(γ+ρ)Q …(4)
【0038】
ここで、負荷トルクQは、減速機9の出力側のものである点に留意すると、減速比u倍する必要があることから、下式(5)が求められる。これにより、可動方向が逆方向A1の場合の一般的な伝達効率である伝達効率ηは、減速比と摩擦係数とを用いて表現できることがわかる。なお、この伝達効率ηは、通常、製品カタログ値と等価なものである。
Q=tanγ/tan(γ+ρ)・P1=ηP1
P1=Q/η …(5)
【0039】
他方、図5(b)に示すように、可動方向が順方向A2の場合、負荷トルクQによって物体50が逆駆動されてモータ出力トルクP2とは逆方向に動くため、斜面51に対して滑っていく方向v2に動作する。よって、力の釣り合いは、斜面水平方向及び斜面鉛直方向のそれぞれにおいて下式(6),(7)で表せる。
P2・cosγ−Qsinγ=−μ・Pn …(6)
P2・sinγ+Qcosγ=Pn …(7)
P2:可動方向が順方向A2の場合のモータ出力トルク
【0040】
そして、上式(6),(7)に基づき上式(3),(4)と同様にして下式(8)が求められ、この下式(8)の基づき上式(5)と同様にして下式(9)が求められる。この伝達効率ηは、減速機9が増速機として作用する場合(減速機9が低速側の負荷によって逆駆動される場合)の伝達効率である。従って、可動方向が順方向A2の場合、負荷トルクQよりも小さいモータ出力トルクPで静止保持できることがわかる。
P2=tan(γ−ρ)Q …(8)
P2=tan(γ−ρ)/tanγ・Q=ηQ …(9)
【0041】
上式(5),(9)の結果、図6に示すように、可動方向が逆方向A1の場合と可動方向が順方向A2の場合とでは、モータ出力トルクP1,P2が変化している。つまり、可動方向が逆方向A1の場合で例えば関節角度θaのときには、低減量ΔP(=P1−P2)だけ小さくしても、理論上、関節角度θaを保持できるのである。
【0042】
そこで、本実施形態では、負荷トルク方向と可動方向とが一致する場合(つまり、可動方向が順方向A2の場合:上記S5でNo)、出力値が低減不能であるとして、そのまま処理が終了される。一方、負荷トルク方向と可動方向とが不一致の場合(つまり、可動方向が逆方向A1の場合:上記S5でYes)、出力値が低減可能であるとして、モータ出力値低減量算出部46により、出力指標値検出部31で検出された関節出力指標値に基づき該出力値の低減量が算出される(S6)。
【0043】
具体的には、減速機9における伝達効率に基づいて、静止保持状態を維持したまま低減可能な出力値である出力値低減量が算出される。より具体的には、上式(5),(9)から得られた下式(10)にモータ出力トルクP1が適用されて低減量ΔPが求められ、この低減量ΔPに対応する出力値が出力値低減量として算出される。
ΔP=(1−ηη)P1 …(10)
【0044】
ここで、伝達効率η,ηは、モータ7の回転数、潤滑剤温度、及び減速機9以外の摩擦要因等で変動する。そこで、次のようにして出力値低減量が算出される場合もある。
【0045】
すなわち、まず、任意の外力条件下における各関節部5それぞれについて、関節部出力特性が予め実測されてデータベース化され、ECU4に記憶される。関節部出力特性は、図7に例示するように、可動方向が逆方向A1の場合の関節出力と、同じ条件で可動方向が順方向A2の場合の関節出力との差分(ΔPに相当)に関する特性である。
【0046】
この関節部出力特性は、可動量に依存しないものであり、例えば図6に示す特性に基づいて変換され算出されている。具体的には、各関節部5毎に、可動方向が逆方向A1及び順方向A2の場合のそれぞれにて、関節部5を静的に動作させた際のモータ出力トルクPが実測され、関節出力の特性(図6参照)が求められる。そして、求められた関節出力の特性に基づいて、関節部出力特性(図7参照)が得られる。
【0047】
この実測の際には、負荷や関節角度θの条件は任意であるが、その関節部5に作用されることが想定される最小負荷から最大負荷までを実測範囲に含む実測条件とすることが好ましい(後述の近似式を用いる場合には、この限りではない)。また、モータ出力トルクP1,P2を同条件とする前提において、負荷条件等が互いに異なる複数の実測条件でかかる実測を複数回行って、関節出力の特性を求めてもよい。
【0048】
その結果、関節出力指標値として検出されたモータ出力トルクP1に近似式Fに適用され、静止保持状態を維持したまま低減可能な出力値としての出力値低減量が算出されることとなる。
【0049】
なお、近似式Fは、線図上において実測値55の下側に沿うように位置し且つ複数の直線が連続されてなるような近似直線とされている。また、近似式Fは、原点付近で近似式作成誤差や検出誤差の悪影響が大きいため、原点を通らないようになっている。ちなみに、近似式Fは、1つの直線で構成されてもよいし、2次曲線で構成されてもよい。また、原点付近に不感帯を設けてもよい。ちなみに、出力値低減量の算出方法は、限定されるものではなく、近似式Fを用いる方法でなくても、関節部出力特性の実測値55を下回るような出力値低減量を算出可能な方法であればよい。
【0050】
そして最後に、算出された出力値低減量に対応する出力低減指令値がモータ7に出力され、モータ7の出力値が出力値低減量だけ低減されるよう制御される(S7)。
【0051】
以上、本実施形態では、アーム部6が静止保持状態であることが判断され、静止保持状態である場合、直前の可動方向が負荷トルク方向に対して逆方向A1/順方向A2のどちらかであるかが判断される。そして、逆方向A1であった場合、そのときに発生している出力指標値から、静止姿勢状態のままで低減可能な出力値である出力値低減量が算出され、モータ7の出力値が低減される制御が行われる。
【0052】
以上、本実施形態によれば、上述したように、アーム部6が静止保持状態のときにおいて、発生している出力指標値に基づき出力値が制御されることから、従来技術のようにアーム部6が動き出すまで徐々に出力値を低下させる処理を行うことが不要になる。よって、一度静止保持した姿勢からアーム部6を不必要に動かすことなく即座に出力値の低減処理を行うことが可能となる。その結果、例えば、静止保持状態において出力値が低減可能であると判断された場合、例えば静止保持状態の待機又は静止保持状態で行う作業を、常に少ない出力値で行うことができる。
【0053】
従って、ロボット装置1の省電力化、及びバッテリの小型化や可動時間の長時間化を実現することができる。また、モータ7の容量はモータ出力トルクP×時間であることから、同じタスク内容を実行する場合でも、モータ7をより小型化することができる。さらに、モータ7や制御基板の発熱を抑制することができ、ひいては、電気部品の長寿命化が可能となる。
【0054】
また、本実施形態では、上述したように、静止保持状態のときに負荷トルク方向と直前の可動方向とが不一致である場合、関節部5に作用する摩擦等の影響(上記減速機9の摩擦特性の影響)でモータ7の出力値が余計に大きくなることから、静止保持状態が維持されたまま出力値が低減されている。よって、静止保持状態における好適な省電力制御を実現することができる。さらには、関節部5に自重以外の影響による負荷トルクQが作用している場合でも、出力値が低減可能か否かを精度よく判断することが可能となる。
【0055】
また、本実施形態では、上述したように、関節部5に設けられた弾性要素の変位方向に基づき負荷トルク方向が求められることから、負荷トルク方向を求める際の演算処理を低減することができる。通常、自由度が多くなればなる程に計算量が増加するため、自由度が多い本実施形態のロボット装置1では、演算処理を低減するという上記効果は特に効果的なものである。また、負荷トルク方向を求めるに際して、自重以外の外力の影響を考慮することも不要となる。
【0056】
さらに、関節部5として、受動柔軟関節を用いその内部の機械ばねを弾性要素として利用していることから、別途に弾性要素を追加搭載することも不要にできる。なお、関節部5として、受動柔軟関節を用いない場合もあり、この場合、ばね、ひずみゲージ又は感圧センサ等が負荷トルク方向に沿って変位するよう関節部5に設けられる。
【0057】
また、本実施形態では、上述したように、ロボット本体2における質量特性、リンクパラメータ、及び外力検出部33で検出された外力に少なくとも基づいて、負荷トルク方向を求めることも可能となっている。よって、関節部5に弾性要素が設けられていない場合でも、負荷トルク方向を求めることができる。その結果、関節部5に弾性要素を搭載しないロボット装置1にも本実施形態を適用可能となる。
【0058】
また、本実施形態では、上述したように、予め記憶された関節部出力特性に基づいて出力値低減量が算出されているため、環境や使用状況等の要因による減速機9の伝達効率変動を考慮して出力値低減量を算出できるだけでなく、減速機9以外の摩擦要因をも考慮して出力値低減量を算出できる。
【0059】
さらに、この関節部出力特性にあっては、関節部5自体の特性に関するものであることから、負荷トルクQが変化しても(タスク内容が変わっても)、同じデータベースをそのまま適用させて出力値低減量を算出することができる。つまり、負荷トルクQが変化した場合、かかる変化の都度に最低出力値を記憶するための事前試験をやり直す必要もない。そのため、本実施形態は、負荷トルクQが毎回変化するようなロボット装置(例えば、福祉又は介護を行うロボット装置、及び家庭内用ロボット装置等)に適用される場合に特に有用なものである。
【0060】
なお、上記のように、関節部出力特性における近似式Fは、線図上において実測値55の下側に沿うように位置しており、出力値低減量が低めに(安全余裕を有して)算出されることになる。これにより、検出誤差等によって静止保持状態が容易に解除されるのを防止することができる。
【0061】
また、本実施形態では、上述したように、モータ7の減速機9における伝達効率に基づいて出力値低減量を算出することもできるため、事前試験を行わずに出力値低減量を算出することができる。
【0062】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明に係るロボット装置は、実施形態に係る上記ロボット装置1に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0063】
例えば、上記実施形態の関節部5は、軸G回りにアーム部6が回転するよう構成された回転式のものであるが、関節部は、レールを有しこのレールに沿ってアーム部が往復運動するよう構成されたスライド式のものであってもよい。この場合、負荷力の方向は、関節部のレールに沿った方向となる。
【0064】
また、上記実施形態の上記S3では、負荷トルク方向が、弾性要素の変位方向から求められ、又は、ロボットの順運動学計算及び静力学計算が適用されて算出されているが、本発明は、これらの何れか一方のみによって負荷トルク方向が求められる構成とされていてもよい。
【0065】
また、上記実施形態の上記S6では、出力値低減量が、減速機9における伝達効率に基づいて算出され、又は、予め記憶された関節部出力特性に基づいて算出されているが、本発明は、これらの何れか一方のみによって出力値低減量が求められる構成とされてもよい。
【0066】
また、上記モータ7としては、種々のものを適用することができ、電磁力により回転力を生み出すものだけでなく、リニアモータや超音波モータを用いてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…ロボット装置、2ロボット本体、4…ECU(出力制御部)、5…関節部、6…アーム部(可動部)、7…モータ、9…減速機、G…軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータによって可動部を関節部を介して可動させるロボット本体と、
前記モータの出力値を制御する出力制御部と、を備え、
前記出力制御部は、前記可動部が静止保持状態のとき、発生している関節出力指標値に基づいて前記出力値を制御することを特徴とするロボット装置。
【請求項2】
前記出力制御部は、前記可動部が静止保持状態のとき、前記関節部に負荷されている負荷力の方向と直前の前記可動部の可動方向とが不一致である場合に、前記静止保持状態を維持したまま前記出力値を低減させることを特徴とする請求項1記載のロボット装置。
【請求項3】
前記出力制御部は、前記関節部に設けられた弾性要素の変位方向に基づいて、前記負荷力の方向を求めることを特徴とする請求項2記載のロボット装置。
【請求項4】
前記出力制御部は、前記ロボット本体における質量特性及びリンクパラメータと、前記ロボット本体に作用する外力とに少なくとも基づいて、前記負荷力の方向を求めることを特徴とする請求項2記載のロボット装置。
【請求項5】
前記可動部は、前記関節部が有する軸回りに回転するよう可動するものであって、
前記負荷力の方向は、前記関節部の前記軸回りに発生している負荷トルクの方向であることを特徴とする請求項2〜4の何れか一項記載のロボット装置。
【請求項6】
前記出力制御部は、予め記憶された関節部出力特性に基づいて、前記静止保持状態を維持したまま低減可能な前記出力値を算出することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項記載のロボット装置。
【請求項7】
前記関節部出力特性は、前記関節出力指標値と前記静止保持状態を維持したまま低減可能な前記出力値との間の特性であることを特徴とする請求項6記載のロボット装置。
【請求項8】
前記出力制御部は、前記モータの減速機における伝達効率に基づいて、前記静止保持状態を維持したまま低減可能な前記出力値を算出することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項記載のロボット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−20367(P2012−20367A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159681(P2010−159681)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハーモニックドライブ
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】