説明

ロータリーキルン

【課題】 高純度であり、微粒かつ粒度分布の狭いセラミック粉末を得ることのできるロータリーキルンを提供する。
【解決手段】 炉1を貫通した第1炉芯管3が回転自在に設けられており、前記第1炉芯管3の一端を被処理物供給口15とし、他端を被処理物送出口17としてなり、前記第1炉芯管3内に、第2炉心管4が前記第1炉心管3の軸心からずらした位置に挿入されており、かつ前記第2炉心管4は内部に発熱体4Aを有しており、前記第1炉心管3と前記第2炉心管4の間に被処理物13を通過させるようにしてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉芯管内を移動する被処理物を均一に加熱することのできるロータリーキルンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のロータリーキルンとしては、例えば、図5に示すように、炉101を貫通する炉芯管103が傾斜状態で回転せしめられ、炉芯管103の入口側105に供給された被処理物107を自然落下を利用して攪拌しながら出口側109へ移動させるようになっており、例えば、セラミック粉末の乾燥、焼成、反応等に用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−263494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に開示されたロータリーキルンを、例えば、チタン酸バリウムに代表されるような複合酸化物からなる微粒のセラミック粉末の合成に適用した場合、合成されるセラミック粉末が微粒であるために高い表面エネルギーを有することから、炉芯管103の内面に沿って這い上がりやすく、また、自重によって落下し難いために炉芯管103の内壁に付着したままとなりすい。このため加熱されるセラミック粉末の中で、炉心管103に付着した状態で加熱されるセラミック粉末と炉心管103の軸心付近に滞留した状態で加熱されるセラミック粉末との間で受ける熱量が異なることに起因して粒径差が生じやすくなり、微粒かつ粒度分布の狭いセラミック粉末を得ることが難しいといった課題があった。
【0005】
従って、本発明は、微粒かつ粒度分布の狭いセラミック粉末を得ることのできるロータリーキルンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のロータリーキルンは、炉を貫通した第1炉芯管が回転自在に設けられており、前記第1炉芯管の一端を被処理物供給口とし、他端を被処理物送出口としてなり、前記第1炉芯管内に、第2炉心管が前記第1炉心管の軸心からずらした位置に挿入されており、かつ前記第2炉心管は内部に発熱体を有しており、前記第1炉心管と前記第2炉心管の間に被処理物を通過させるようにしてなることを特徴とする。
【0007】
上記ロータリーキルンでは、前記第1炉心管の外周面に設けられたリング部材と、該リング部材の外周面と当接し、前記第1炉心管を回転させるローラ部とを有し、前記リング部材の外周面上には凹部または凸部が設けられていることが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、微粒かつ粒度分布の狭いセラミック粉末を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)本実施形態のロータリーキルンの概略の構成を示す縦断面図であり、(b)は、(a)のA−A線断面図である。
【図2】炉芯管が回転したときの被処理物の動きを示す模式図であり、(a)は炉芯管を長手方向に対して垂直な方向から見たときの模式図であり、(b)は炉芯管を長手方向に見たときの模式図である。
【図3】(a)は、本発明の他の実施形態のロータリーキルンを示す縦断面図であり、(b)は、(a)のA−A線断面図である。
【図4】リング部材の他の例を示すもので、(a)はリング部材の一部に凹みを設ける構造、(b)はリング部材20の周面上に切り立った段差Sを形成した構造。
【図5】従来のロータリーキルンの概略の構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。本発明を適用するロータリーキルンは、図1(a)(b)に示すように、加熱源を有する炉1が支持体2に取り付けられ、この炉1を貫通して第1炉芯管3が設けられている。第1炉芯管3は、対をなすローラ部5、5’および7、7’で支持され、第1炉芯管3の被処理物供給口15から被処理物送出口17にかけて低くなるように設置面に対して所定の角度(θ)に傾斜された状態となっており、ローラ部5、5’を回転駆動部9により同じ方向へ回転駆動させることにより第1炉芯管3が回転する構成となっている。
【0011】
図2(a)は、炉芯管が回転したときの被処理物の動きを、炉芯管を長手方向に垂直な方向から見たときの模式図であり、(b)は、炉芯管が回転したときの被処理物の動きを、炉芯管を長手方向に見たときの模式図である。図2(a)(b)に基づき第1炉芯管3が回転しているときの第1炉芯管3の内部における被処理物13の動きを説明すると、まず、aの位置にあった被処理物13は第1炉芯管3の内壁に接触した状態で第1炉芯管3の長手方向の中心軸Ctに垂直なE−E’に沿って進みbの位置まで這い上がる。次に、bの位置の被処理物13は重力によって第1炉芯管3の内壁に沿って落下するが、E−E’に沿って落下するのではなく、重力が作用する方向に、cの位置に向かって落下する。
【0012】
次に、cの位置の被処理物13は第1炉芯管3の内壁に接触した状態で第1炉芯管3の長手方向の中心軸Ctに垂直なF−F’に沿って進みdの位置まで這い上がり、次に、dの位置の被処理物13は重力によって第1炉芯管3の内壁に沿ってeの位置まで落下する。
【0013】
このように第1炉芯管3の内部に供給された被処理物13は、aの位置からcの位置への移動を再びcの位置からeの位置において繰り返すことによって加熱されていき、最終的に被処理物送出口17にて回収されるという行程を辿る。
【0014】
被処理物13が微粒のセラミック粉末である場合、比重が小さいことに加え、微粒であるが故に表面エネルギーが大きいことから、セラミック粉末は自重によって落下することなく第1炉芯管3の内壁に付着しやすくなっている。第1炉芯管3の内壁に付着したセラミック粉末は、例えば、図2(a)のE−E’またはF−F’に沿って周回することになり、進行方向へ進まず滞留することになる。第1炉芯管3内での滞留時間が異なってくると、加熱されるセラミック粉末は組成や粒径および結晶性に大きな変動を生じることになる。
【0015】
また、被処理物13が、微粒のセラミック粉末を合成するための素原料から出発するものである場合、素原料である化合物中に水分や官能基を含んでいることから、素原料の一部が付着し易くなっている。このような化合物を含む被処理物13を熱処理すると、熱処理の初期段階において第1炉芯管3の内壁に付着して加熱された場合と内壁に直接接する時間が少なく第1炉芯管3の内壁に接した被処理物13を介して加熱される被処理物13とでは、合成時の熱量差により中間生成物の出来映えにも部分的に差を生じることになる

【0016】
本実施形態のロータリーキルンは、第1炉芯管3内の軸心からずらした位置に第2炉心管4が挿入され、この第2炉心管4の内部には発熱体4Aが組み込まれており、この場合、フィーダ11から被処理物13である素原料粉体は第1炉芯管3の一方の開口である被処理物供給口15に供給し、他端の被処理物送出口17から熱処理された被処理物13が送出されるが、本実施形態のロータリーキルンでは被処理物13は第1炉心管3と第2炉心管4との間を通過するようになっている。
【0017】
本実施形態のロータリーキルンによれば、図1(a)に示しているように、第1炉芯管3内の軸心からずらした位置に発熱体4Aを有する第2炉心管4が挿入されていることから、第1炉心管3内で加熱される被処理物13が少量であっても発熱している第1炉芯管3および第2炉心管4の両方に絶えず接触させることができる。このため第1炉心管3の内壁に付着して加熱された被処理物13と内壁に直接接する時間が少なく炉芯管3の内壁に接した被処理物13を介して加熱される被処理物13との間における合成時の熱量差を低減することができるために、微粒かつ粒度分布の狭いセラミック粉末を得ることができる。
【0018】
図3は、本発明の他の実施形態を示すもので、(a)は第1炉心管3を取り巻くようにリング部材を有しているロータリーキルンを示す縦断面図であり、(b)は(a)のA−A線断面図である。この実施形態のロータリーキルンは、第1炉心管3を取り巻くようにリング部材20が取り付けられており、また、このリング部材20には外周面に段差Sが設けられている。
【0019】
本実施形態のロータリーキルンでは、第1炉心管3が回転すると、これに取り付けられたリング部材20も同時に回転するが、リング部材20の外周面に段差Sが設けられているために、リング部材20に設けられた段差Sの部分がローラ部5、5’に当たったときに、一定の周期で第1炉心管3に振動を与えることが可能になる。このため第1炉芯管3の内部において加熱されている被処理物13が内壁から離れやすくなるため、ロータリーキルンに投入した被処理物13のほぼ全てを一定の滞留時間で炉芯管3内を移動させることができる。その結果、セラミック粉末の合成においては反応性に差の少ない中間生成物を得ることが可能になり、また、セラミック粉末の仮焼においては組成や粒径および結晶性をより均一なものとすることができる。
【0020】
なお、リング部材20に設けられる段差Sとしては、図3(b)に示すような凸状の段差Sの他に第1炉心管3の回転中に一定の周期で衝撃を与えることができる構造であれば、図4(a)に示すようなリング部材20の一部に凹みを設ける構造や、図4(b)に示すようなリング部材20の周面上に切り立った段差Sを形成した構造でもよい。さらには、単位時間当たりの衝撃回数を増加させることができるという点で、このような段差Sがリング状部材20の外周面において等間隔に複数形成されていることが好ましい。
【0021】
本実施形態のロータリーキルンを構成する第1炉芯管3および第2炉心管4は、被処理物13との反応を抑えることができるとともに耐熱性を有する材質が好適であるが、例えば、チタン酸バリウムやチタン酸鉛などの複合酸化物からなる誘電体材料を被処理物13とする場合、高純度のアルミナまたはジルコニアが好ましい。
【0022】
また、第1炉心管3に取り付けられているリング部材20は、例えば、金属製の鋼材をリング状に加工したものを適用することができ、この場合、リング部材20と第1の炉心管3との熱膨張係数差による締め付けを緩和するという理由から、第1の炉心管3には耐熱性のゴム板などの弾性部材を介して取り付けられるのがよい。
【0023】
また、第2炉心管4の内部に組み込まれている発熱体4Aとしては、精密な温度制御が可能な点で炭化ケイ素製や合金製などの抵抗発熱体が好適なものとして適用できる。
【0024】
また、本実施形態のロータリーキルンでは、段差Sを有するリング部材20が第1炉芯管3の被処理物供給口15側および被処理物送出口17側に取り付けられていることが望ましい。これにより第1炉芯管3の被処理物供給口15側および被処理物送出口17側の両側において炉芯管3の周囲から振動を同時に伝達でき、これにより第1炉芯管3の被処理物供給口15側および被処理物送出口17側の両側において、ロータリーキルンに投入した被処理物13をさらに効率良く移動させることができる。
【実施例】
【0025】
比表面積が30m/gの高純度酸化チタンと、比表面積が12m/gの高純度炭酸バリウムを、チタン酸バリウムのバリウムとチタンとのモル比(Ba/Ti)が1.00になるように秤量し、直径が0.1mmジルコニアボールを用いてビーズミルを用いて粉砕してスラリーを調製した。次に、調製したスラリーをフィルタープレスにて脱水乾燥し、その後、オーブン中にて温度約200℃の温度で約30分間の乾燥を行い、その乾燥させた素原料の粉末をアトマイザーにて乾式解砕し、粒径が100〜300μmの顆粒とした。
【0026】
次に、得られた顆粒を、図1および図3に示す構造に改造したロータリーキルンを用いて仮焼を行った。仮焼に用いたロータリーキルンを構成する第1炉心管および第2炉芯管は、材質がアルミナで、内径が138mm、外径が148mm、長さが1900mmであり、傾斜角θを2°とし、1.2rpmの条件で回転させた。このときロータリーキルンの最高温度の設定は1000℃とした。また、リング部材としては図3(b)に示した凸状タイプのものを採用した。
【0027】
仮焼後に得られた粉末の特性は以下の方法で行った。仮焼粉末の平均粒径は、湿式分散方式の粒度測定装置(機種名:マイクロトラック)を用いて求めた。このときd50(累積の粒径で50%)の値を平均粒径とした。また、同じ測定装置でのd99(累積の粒径で99%)を測定し、d50の値との比(d99/d50)を粒度のばらつきの指標とした。また、仮焼粉末の比表面積は、マウンテック社製比表面積計を用いて測定した。また、仮焼粉末であるチタン酸バリウム粉末の結晶性については、X線回折データから格子定数比(c/a)を求めて評価した。仮焼粉末の純度はICP(Inductively Coupled Plasma)分析により求めた。
【0028】
比較例として、図5の構成のロータリーキルンを用いた場合について、同じ温度条件にて仮焼粉末を調製し、同様の評価を行った。
【0029】
【表1】

【0030】
表1の結果から、ロータリーキルンを図1および図3の構成とした場合には、第1炉芯管に発熱体を有する第2炉心管を取り付けない構成のロータリーキルンを用いた場合に比較して、平均粒径が小さくかつ粒度のばらつきが小さく、純度の高いチタン酸バリウム粉末が得られた。また、これらの本発明のロータリーキルンにより得られたチタン酸バリウ
ム粉末は、比較例としたロータリーキルンを用いて作製した試料に比較して比表面積が大きくかつ格子定数比(c/a)が大きく高い結晶性を示すものであった。
【符号の説明】
【0031】
1:炉
3:第1炉芯管
4:第2炉心管
4A:発熱体
5、5’、7、7’:ローラ部
9:回転駆動部
11:フィーダ
13:被処理物
15:被処理物供給口
17:被処理物送出口
20:リング部材
S:段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉を貫通した第1炉芯管が回転自在に設けられており、前記第1炉芯管の一端を被処理物供給口とし、他端を被処理物送出口としてなり、前記第1炉芯管内に、第2炉心管が前記第1炉心管の軸心からずらした位置に挿入されており、かつ前記第2炉心管は内部に発熱体を有しており、前記第1炉心管と前記第2炉心管の間に被処理物を通過させるようにしてなることを特徴とするロータリーキルン。
【請求項2】
前記第1炉心管の外周面に設けられたリング部材と、該リング部材の外周面と当接し、前記第1炉心管を回転させるローラ部とを有し、前記リング部材の外周面上には凹部または凸部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のロータリーキルン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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